(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969979
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】組積造構造物の補強方法および補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
E04G23/02 E
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-213998(P2017-213998)
(22)【出願日】2017年11月6日
(65)【公開番号】特開2019-85756(P2019-85756A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 靖夫
【審査官】
前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−006947(JP,A)
【文献】
特開2011−021422(JP,A)
【文献】
特開2010−265729(JP,A)
【文献】
特開2006−022640(JP,A)
【文献】
特開2017−106266(JP,A)
【文献】
米国特許第04706428(US,A)
【文献】
特開昭54−010514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する方法であって、
組積造構造物の内部に、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔を設けるステップと、
棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に、目地の表面から縦孔に通じる横溝を設けるステップと、
縦孔に棒状材を挿通配置する一方で、横溝に定着板を挿通配置するステップと、
棒状材の下端を横溝内の定着板に定着するステップとを備えることを特徴とする組積造構造物の補強方法。
【請求項2】
棒状材は緊張材として機能するものであり、この棒状材の下端を固定端、上端を緊張端として棒状材に緊張力を付与して組積造構造物に上下方向の圧縮力を作用させるステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の組積造構造物の補強方法。
【請求項3】
棒状材の下端には、雄ねじ部が設けられており、定着板には、この雄ねじ部が螺合可能な雌ねじ孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の組積造構造物の補強方法。
【請求項4】
縦孔に棒状材を挿通した後、横溝に定着板を挿通して定着板の奥端を棒状材に当接させて雌ねじ孔から棒状材まで距離を確認し、その後、棒状材を上昇させてから、確認した距離に応じて定着板を横溝の奥側に挿入し、その後、棒状材を下降させて下端の雄ねじ部を定着板の雌ねじ孔に入れて螺合することを特徴とする請求項3に記載の組積造構造物の補強方法。
【請求項5】
横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の組積造構造物の補強方法。
【請求項6】
組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する構造であって、
組積造構造物の内部に設けられ、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔と、
棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に設けられ、目地の表面から縦孔に通じる横溝と、
縦孔に挿通配置される棒状材と、横溝に挿通配置される定着板とを備え、
棒状材の下端は、横溝内の定着板に定着していることを特徴とする組積造構造物の補強構造。
【請求項7】
横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けたことを特徴とする請求項6に記載の組積造構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組積造構造物の補強方法および補強構造に関し、例えばレンガ壁などの既設の組積造構造物に対してPC鋼棒などを設けることにより耐震補強する組積造構造物の補強方法および補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、幕末期以降に建造されたレンガ造りの歴史的建造物を文化資産として保存活用するために、歴史的な価値を損なわずに耐震補強する技術が求められている。こうした技術として、例えば特許文献1、2に示すような組積造のレンガ壁の補強技術が知られている。また、このような技術に関連して、本特許出願人は特願2017−083688号に示される技術を既に提案している。
【0003】
上記の特許文献1、2に示されるレンガ壁の補強方法は、レンガ壁の上端と下端との間を鉛直方向に貫通する貫通孔を形成した後、この貫通孔内にPC鋼棒を通し、プレストレスをかけてレンガ壁に圧縮力を作用させて耐力を向上させる方法である。この方法では、PC鋼棒の上下端をレンガ壁に定着する必要がある。PC鋼棒の上端については、レンガ壁の頂部に設けた定着板に定着すればよいが、PC鋼棒の下端については、下記の(1)や(2)の方法がある。
【0004】
(1)レンガ壁の基礎の下を掘削して、PC鋼棒の下端部に定着板をつけて基礎の下に定着する。
(2)レンガ壁の下側部分に横孔をあけ、この横孔からレンガ壁内に定着板を設置するとともにグラウト等を充填してPC鋼棒の下端部を定着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−281033号公報
【特許文献2】特開2010−281034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の(1)の方法では、掘削量が多くなるため施工コストが増大するおそれがある。また、(2)の方法では、レンガ壁に比較的大きな横孔が空くため、レンガ壁の外観に大きな影響を与えるおそれがある。
【0007】
このため、既設のレンガ壁内に定着部材を設ける工程を有する補強方法において、掘削量が少なくて済み、レンガ壁の外観に与える影響を小さく抑えることのできる技術が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、外観に与える影響を小さく抑えることのできる組積造構造物の補強方法および補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る組積造構造物の補強方法は、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する方法であって、組積造構造物の内部に、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔を設けるステップと、棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に、目地の表面から縦孔に通じる横溝を設けるステップと、縦孔に棒状材を挿通配置する一方で、横溝に定着板を挿通配置するステップと、棒状材の下端を横溝内の定着板に定着するステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法は、上述した発明において、棒状材は緊張材として機能するものであり、この棒状材の下端を固定端、上端を緊張端として棒状材に緊張力を付与して組積造構造物に上下方向の圧縮力を作用させるステップをさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法は、上述した発明において、棒状材の下端には、雄ねじ部が設けられており、定着板には、この雄ねじ部が螺合可能な雌ねじ孔が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法は、上述した発明において、縦孔に棒状材を挿通した後、横溝に定着板を挿通して定着板の奥端を棒状材に当接させて雌ねじ孔から棒状材まで距離を確認し、その後、棒状材を上昇させてから、確認した距離に応じて定着板を横溝の奥側に挿入し、その後、棒状材を下降させて下端の雄ねじ部を定着板の雌ねじ孔に入れて螺合することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法は、上述した発明において、横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る組積造構造物の補強構造は、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する構造であって、組積造構造物の内部に設けられ、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔と、棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に設けられ、目地の表面から縦孔に通じる横溝と、縦孔に挿通配置される棒状材と、横溝に挿通配置される定着板とを備え、棒状材の下端は、横溝内の定着板に定着していることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強構造は、上述した発明において、横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る組積造構造物の補強方法によれば、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する方法であって、組積造構造物の内部に、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔を設けるステップと、棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に、目地の表面から縦孔に通じる横溝を設けるステップと、縦孔に棒状材を挿通配置する一方で、横溝に定着板を挿通配置するステップと、棒状材の下端を横溝内の定着板に定着するステップとを備えるので、掘削量が少なくて済み、組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強方法を提供することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、棒状材は緊張材として機能するものであり、この棒状材の下端を固定端、上端を緊張端として棒状材に緊張力を付与して組積造構造物に上下方向の圧縮力を作用させるステップをさらに備えるので、組積造構造物に圧縮力を作用させる場合において、掘削量が少なくて済み、組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強方法を提供することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、棒状材の下端には、雄ねじ部が設けられており、定着板には、この雄ねじ部が螺合可能な雌ねじ孔が設けられているので、緊張材の下端の雄ねじ部を定着板の雌ねじ孔に螺合することで、緊張材の下端を定着板に容易かつ確実に固定することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、縦孔に棒状材を挿通した後、横溝に定着板を挿通して定着板の奥端を棒状材に当接させて雌ねじ孔から棒状材まで距離を確認し、その後、棒状材を上昇させてから、確認した距離に応じて定着板を横溝の奥側に挿入し、その後、棒状材を下降させて下端の雄ねじ部を定着板の雌ねじ孔に入れて螺合するので、緊張材の下端の雄ねじ部と定着板の雌ねじ孔の位置合わせを容易に行うことができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けるので、定着板間の組積材が定着板と一体に挙動可能となり、定着部分の剛性、耐力を向上することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る組積造構造物の補強構造によれば、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する構造であって、組積造構造物の内部に設けられ、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔と、棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に設けられ、目地の表面から縦孔に通じる横溝と、縦孔に挿通配置される棒状材と、横溝に挿通配置される定着板とを備え、棒状材の下端は、横溝内の定着板に定着しているので、掘削量が少なくて済み、組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強構造を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強構造によれば、横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けたので、定着板間の組積材が定着板と一体に挙動可能となり、定着部分の剛性、耐力を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を示すステップ1のレンガ壁の図であり、(1)はA−A断面図、(2)はB−B断面図、(3)は正面図、(4)は側断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を示すステップ2のレンガ壁の図であり、(1)はA−A断面図、(2)は正面図、(3)は側断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を示すステップ3のレンガ壁の図であり、(1)はA−A断面図、(2)は正面図、(3)は側断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を示すステップ4のレンガ壁の図であり、(1)はA−A断面図、(2)は正面図、(3)は側断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を示すステップ5のレンガ壁の図であり、(1)はA−A断面図、(2)は正面図、(3)は側断面図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の他の実施の形態を示すレンガ壁の図であり、(1)は正面図、(2)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態においては、棒状材がPC鋼棒(緊張材)である場合を例にとり説明するが、本発明はこれに限るものではなく、棒状材が鉄筋などの補強材であってもよい。
【0025】
また、本実施の形態では、補強対象の組積造構造物として、
図1に示すようなレンガ壁10を例にとり説明する。このレンガ壁10は、組積材としてのレンガ12を積み上げて形成した壁体であり、図示しない地中に設けたコンクリート基礎上に構築されている。レンガ12は、粘土や頁岩と泥を焼き固めて、または圧縮して作られた直方体状の建築材である。上下および左右に隣り合うレンガ12間には、モルタルやグラウトなどからなる目地14が設けられている。
【0026】
本実施の形態の補強方法は、ステップ1〜5の施工手順で行われる。以下、各ステップの施工内容について説明する。
【0027】
(ステップ1)
まず、
図1に示すように、PC鋼棒(緊張材)を鉛直方向に通すための縦孔16をレンガ壁10の内部に穿孔する。この縦孔16はレンガ壁10の上端18から下部に向けて鉛直方向に延びる円形断面の孔であり、孔の径はPC鋼棒の径よりも若干大径に設定する。なお、特に図示しないが、縦孔16は、壁の長さ方向に沿って間隔をあけて複数形成するものとする。
【0028】
(ステップ2)
次に、
図2に示すように、定着板を設置したい位置(PC鋼棒の下端を定着する高さ位置)の横方向の目地14を水平に削って、レンガ壁10の壁面から内部の縦孔16に通じる横溝20を形成する。本実施の形態の横溝20は、レンガ壁10の正面視で横に細長く内部奥側に向けて水平に延びる溝であり、溝の高さは目地14の高さ以下である。また、この横溝20は、平面視で略長方形状であり、横溝20の奥端は縦孔16よりも奥側に位置する。
【0029】
横溝20は、いかなる方法で形成してもよく、例えばドリルで並べて孔をあけて形成してもよいし、チェーンソーのような切削機械で形成してもよい。厚い定着板が必要な場合は、目地14だけでなく上下のレンガ12も削って形成してもよい。
【0030】
(ステップ3)
次に、
図3に示すように、レンガ壁10の上端18から縦孔16にPC鋼棒22を仮挿入して所定位置に配置する。ここで、PC鋼棒22の下端24は、外周面にねじ山が形成された雄ねじ部26となっており、その下端は凸形状に尖って、後述する定着板28の雌ねじ孔30に入りやすくなっている。
【0031】
続いて、レンガ壁10の壁面から横溝20に定着板28を挿入して、内部のPC鋼棒22に当たるまで押し入れる。
【0032】
ここで、定着板28の先端側には、PC鋼棒定着用の雌ねじ孔30が貫通形成されている。また、定着板28の先端側の左右方向中央部分には、手前側に窪んだ凹部32が形成されており、PC鋼棒22が入り込めるようになっている。この凹部32で縦孔16に配置されたPC鋼棒22の位置を探ることができる。
【0033】
また、定着板28の手前側端部には、定着板28の挿入を補助するための挿入補助棒34が着脱自在に設けられている。挿入補助棒34の構成例としては、例えば、挿入補助棒34の端部に雄ねじ部を設けるとともに、定着板28の手前側端部に雌ねじ孔を設け、この雌ねじ孔に挿入補助棒34の雄ねじ部をねじ込んで使用し、使用後に定着板28から取り外せるようにしてもよいし、あるいは、挿入補助棒34自体をプラスチックなどの切断可能な材料で構成して、使用後に定着板28から取り外せるようにしてもよい。
【0034】
さて、
図3に示すように、挿入補助棒34を把持して定着板28を奥側に押し込むと、凹部32にPC鋼棒22の棒体部分が入り込んで当接した状態で動きが止まる。この状態で、PC鋼棒22の雄ねじ部26と雌ねじ孔30の間の水平距離aを測定しておく。
【0035】
(ステップ4)
次に、
図4に示すように、仮挿入していたPC鋼棒22を少し持ち上げて凹部32から外した後、定着板28を距離a(
図3を参照)だけ奥側に押し込む。これにより、定着板28の雌ねじ孔30の位置がPC鋼棒22の略直下の位置になる。このような手順により、PC鋼棒22の下端24の雄ねじ部26と定着板28の雌ねじ孔30の位置合わせを容易に行うことができる。
【0036】
(ステップ5)
次に、
図5に示すように、PC鋼棒22を下げて下端24の雄ねじ部26を定着板28の雌ねじ孔30に挿入し、PC鋼棒22を回してねじ込み固定する。この場合、雄ねじ部26の下端は尖っているので、雌ねじ孔30にスムーズに案内されて挿入される。また、このような構成を採用することで、PC鋼棒22の下端24を定着板28に容易かつ確実に固定することができる。
【0037】
続いて、挿入補助棒34を定着板28から取り外す。その後、縦孔16および横溝20にグラウト等を注入して、縦孔16とPC鋼棒22の間の隙間、横溝20と定着板28の間の隙間に充填する。この場合、必要に応じて、横溝20内の定着板28の上下で別々に注入作業を行ってもよい。また、注入がスムーズに行われるように、定着板28にはエア抜き用の孔をあけておいてもよい。
【0038】
その後、PC鋼棒22の下端24を固定端、上端を緊張端としてPC鋼棒22に緊張力を付与して、PC鋼棒22の上端をレンガ壁10の上端18に設けた図示しない定着板等に定着する。これにより、レンガ壁10の上端18と下部の定着板28との間に上下方向の圧縮力を作用させてレンガ壁10を補強することができ、本実施の形態に係る組積造構造物の補強構造100を得ることができる。
【0039】
この補強方法によれば、PC鋼棒22の下端24の定着部を定着部の真横から施工するため、レンガ壁10の下の地盤掘削を要しない。このため掘削量は殆ど生じない。また、PC鋼棒22の下端24の定着部を形成するために上下レンガ間の横方向の目地14に細長い横溝20を設ける方法であり、従来のようにコア抜きにより大きな横孔をあける方法ではないため、壁面の改変箇所を目立たなくすることができる。このため、レンガ壁10の外観に与える影響は少ないか、または影響は殆どない。したがって、本実施の形態によれば、レンガ壁10の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強方法を提供することができる。
【0040】
上記の実施の形態においては、PC鋼棒22の下端24の位置のレンガ壁10内部に1枚の定着板28を設ける場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、
図6に示すように、定着力を大きくするために、レンガ12を上下から挟むように2枚以上の定着板28を設けてもよい。こうすることで、定着板28間のレンガ12が定着板28と一体となって挙動できるようになるため、より剛性、耐力の大きい定着が可能となる。
【0041】
また、上記の実施の形態においては、棒状材が緊張材として機能するPC鋼棒の場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、棒状材が鉄筋などの補強用の鋼材であってもよい。この場合、PC鋼棒22の場合と同様に、鉄筋の下端をねじ切りして雄ねじ部を形成しておく。そして、この鉄筋を縦孔16に挿入して雄ねじ部を定着板28の雌ねじ孔30に螺合することによって、鉄筋の下端を定着板28に定着してレンガ壁10を補強する。ただし鉄筋に緊張力は付与しない。この方法によれば、定着耐力を増加させる効果があるため、定着長を短くすることができる。
【0042】
以上説明したように、本発明に係る組積造構造物の補強方法によれば、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する方法であって、組積造構造物の内部に、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔を設けるステップと、棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に、目地の表面から縦孔に通じる横溝を設けるステップと、縦孔に棒状材を挿通配置する一方で、横溝に定着板を挿通配置するステップと、棒状材の下端を横溝内の定着板に定着するステップとを備えるので、掘削量が少なくて済み、組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強方法を提供することができる。
【0043】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、棒状材は緊張材として機能するものであり、この棒状材の下端を固定端、上端を緊張端として棒状材に緊張力を付与して組積造構造物に上下方向の圧縮力を作用させるステップをさらに備えるので、組積造構造物に圧縮力を作用させる場合において、掘削量が少なくて済み、組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強方法を提供することができる。
【0044】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、棒状材の下端には、雄ねじ部が設けられており、定着板には、この雄ねじ部が螺合可能な雌ねじ孔が設けられているので、緊張材の下端の雄ねじ部を定着板の雌ねじ孔に螺合することで、緊張材の下端を定着板に容易かつ確実に固定することができる。
【0045】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、縦孔に棒状材を挿通した後、横溝に定着板を挿通して定着板の奥端を棒状材に当接させて雌ねじ孔から棒状材まで距離を確認し、その後、棒状材を上昇させてから、確認した距離に応じて定着板を横溝の奥側に挿入し、その後、棒状材を下降させて下端の雄ねじ部を定着板の雌ねじ孔に入れて螺合するので、緊張材の下端の雄ねじ部と定着板の雌ねじ孔の位置合わせを容易に行うことができる。
【0046】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強方法によれば、横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けるので、定着板間の組積材が定着板と一体に挙動可能となり、定着部分の剛性、耐力を向上することができる。
【0047】
また、本発明に係る組積造構造物の補強構造によれば、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する構造であって、組積造構造物の内部に設けられ、緊張材または補強材として機能する棒状材を鉛直方向に挿通配置するための縦孔と、棒状材の下端に対応する高さ位置近傍であって棒状材の下端よりも上における組積造構造物の横方向の目地に設けられ、目地の表面から縦孔に通じる横溝と、縦孔に挿通配置される棒状材と、横溝に挿通配置される定着板とを備え、棒状材の下端は、横溝内の定着板に定着しているので、掘削量が少なくて済み、組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えることのできる補強構造を提供することができる。
【0048】
また、本発明に係る他の組積造構造物の補強構造によれば、横溝を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材の上下の目地に設けるとともに、定着板を、1個または上下に隣接する2個以上の組積材を上下の目地から挟む態様で2枚以上設けたので、定着板間の組積材が定着板と一体に挙動可能となり、定着部分の剛性、耐力を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明に係る組積造構造物の補強方法および補強構造は、例えばレンガ壁などの既設の組積造構造物に対してPC鋼棒などでプレストレスを導入することにより耐震補強したり、また、既設の組積造構造物に鉄筋を挿入して補強する際に、定着耐力を増加させ定着長を短くするのに有用であり、特に、既設の組積造構造物の外観に与える影響を小さく抑えて耐震補強するのに適している。
【符号の説明】
【0050】
10 レンガ壁(組積造構造物)
12 レンガ(組積材)
14 目地
16 縦孔
18 上端
20 横溝
22 PC鋼棒(緊張材、棒状材)
24 下端
26 雄ねじ部
28 定着板
30 雌ねじ孔
32 凹部
34 挿入補助棒
100 組積造構造物の補強構造