特許第6970005号(P6970005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970005エスカレーター点検装置、エスカレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970005
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】エスカレーター点検装置、エスカレーター
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   B66B31/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-245485(P2017-245485)
(22)【出願日】2017年12月21日
(65)【公開番号】特開2019-112163(P2019-112163A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2020年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−101664(JP,A)
【文献】 特開2016−204120(JP,A)
【文献】 特開2011−098803(JP,A)
【文献】 特開2012−192995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレーターから発する音に基づき、エスカレーターの異常部位を特定するエスカレーター点検装置であって、
エスカレーターの固定位置に設置され、運行動作時に周期的に発生する、前記エスカレーターの踏段に備えられるローラと前記エスカレーターのレールとの接触音を集音する集音装置と、
前記集音装置で集音される、前記接触音の周期から外れた異常音に基づき、いずれの踏段が異常であるかを特定する特定部と、
前記特定部によって特定される異常踏段の情報を通知する異常通知部と、
前記エスカレーターの運行方向を切り替える運行方向操作部と、を有し、
前記集音装置は、前記エスカレーターを一方向に運行動作させたときに発せられる音を集音し、前記運行方向操作部により逆方向に切り替えられた後に発せられる音を集音し、
前記特定部は、前記一方向に運行動作しているときに異常音が集音される場合、前記踏段の、前記一方向に進行する際の前輪側のローラが異常であると特定し、前記逆方向に運行動作しているときに異常音が集音される場合、前記踏段の前記前輪側のローラとは異なるローラが異常であると特定する、
エスカレーター点検装置。
【請求項2】
エスカレーターから発する音に基づき、エスカレーターの異常部位を特定するエスカレーター点検装置であって、
エスカレーターの固定位置に設置され、運行動作時に周期的に発生する、前記エスカレーターの踏段に備えられるローラと前記エスカレーターのレールとの接触音を集音する集音装置と、
前記集音装置で集音される、前記接触音の周期から外れた異常音に基づき、いずれの踏段が異常であるかを特定する特定部と、
前記特定部によって特定される異常踏段の情報を通知する異常通知部と、を有し、
前記集音装置は、前記エスカレーターの進行方向左右の音を識別可能に集音し、
前記特定部は、前記集音装置で集音される異常音の進行方向左右の音量差に従い、前記踏段の左右いずれのローラが異常であるかを特定する、
エスカレーター点検装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエスカレーター点検装置であって、
前記集音装置は複数であり、前記踏段の進行方向においてそれぞれ異なる固定位置に設置されており、
前記特定部は、前記各集音装置で集音される異常音が、同じ踏段で発せられる音であるかを、前記各集音装置で集音される前記異常音の時間差に基づき判定し、同じ踏段である場合、当該踏段が異常であると特定する、
エスカレーター点検装置。
【請求項4】
踏段を循環移動させることで、前記踏段に搭乗した利用者を搬送するエスカレーターであって、
前記エスカレーターの固定位置に設置され、運行動作時に周期的に発生する、前記エスカレーターの踏段に備えられるローラと前記エスカレーターのレールとの接触音を集音する集音装置と、
前記集音装置で集音される、前記接触音の周期から外れた異常音に基づき、いずれの踏段が異常であるかを特定する特定部と、
前記特定部によって特定される異常踏段の情報を通知する異常通知部と、
前記エスカレーターの運行方向を切り替える運行方向操作部と、を有し、
前記集音装置は、前記エスカレーターを一方向に運行動作させたときに発せられる音を集音し、前記運行方向操作部により逆方向に切り替えられた後に発せられる音を集音し、
前記特定部は、前記一方向に運行動作しているときに異常音が集音される場合、前記踏段の、前記一方向に進行する際の前輪側のローラが異常であると特定し、前記逆方向に運行動作しているときに異常音が集音される場合、前記踏段の前記前輪側のローラとは異なるローラが異常であると特定する、
エスカレーター。
【請求項5】
踏段を循環移動させることで、前記踏段に搭乗した利用者を搬送するエスカレーターであって、
前記エスカレーターの固定位置に設置され、運行動作時に周期的に発生する、前記エスカレーターの踏段に備えられるローラと前記エスカレーターのレールとの接触音を集音する集音装置と、
前記集音装置で集音される、前記接触音の周期から外れた異常音に基づき、いずれの踏段が異常であるかを特定する特定部と、
前記特定部によって特定される異常踏段の情報を通知する異常通知部と、を有し、
前記集音装置は、前記エスカレーターの進行方向左右の音を識別可能に集音し、
前記特定部は、前記集音装置で集音される異常音の進行方向左右の音量差に従い、前記踏段の左右いずれのローラが異常であるかを特定する、
エスカレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターの踏段の状態を点検する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターは、無端状に連結された多数の踏段を、トラス内部に配設されたガイドレールに沿って循環移動させることで、踏段に搭乗した利用者を搬送するものである。このようなコンベアは、故障すると復旧に時間がかかる場合が多く、一旦故障してしまうと利用者に迷惑をかける。
【0003】
このため、故障に至る前に何らかの異常が現われた段階で、その異常を早期に発見し、保守作業によって異常を解消して故障を回避できるようにすることが望まれている。
【0004】
従来技術として、特定の踏段に集音器を取付け、エスカレーターを1周以上通常稼働させ、正常時の稼働音を事前に測定ておき、点検時には、測定した稼働音との差を取ることで、異常の有無を判定する技術が開示されている。またこの技術によると、音を周波数解析することにより、異常原因を推定し、さらに点検用の踏段走行位置と測定データを同期することで、異常音が発生している位置が、エスカレーター全体のいずれであるか特定する技術が示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−192995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
循環移動する踏段の異常を検出するためには、保守点検者は、エスカレーターを構成する全ての踏段を各々目視により点検し、判断する必要がある。よって全ての踏段の点検を行うには時間がかかる。また、異常発生時に、対象とする踏段を特定するのにも時間を要し、他の保守作業の作業時間を圧迫する。
【0007】
特許文献1に係る技術は、踏段に取付けた集音器で稼働音を集音するため、エスカレーターを構成する固定機器の稼働音の測定は可能である。しかしながら、踏段と共に移動する他の踏段の稼働音については、測定することができない。すなわち、他の踏段を点検対象とする場合、その異常を検出することが困難である。
【0008】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたもので、個別に視認すること無く、異常発生した踏段を特定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の代表的なエスカレーター点検装置は、エスカレーターから発する音に基づき、エスカレーターの異常部位を特定するエスカレーター点検装置であって、エスカレーターの固定位置に設置され、運行動作時に周期的に発生する、前記エスカレーターの踏段に備えられるローラと前記エスカレーターのレールとの接触音を集音する集音装置と、前記集音装置で集音される、前記接触音の周期から外れた異常音に基づき、いずれの踏段が異常であるかを特定する特定部と、前記特定部によって特定される異常踏段の情報を通知する異常通知部と、前記エスカレーターの運行方向を切り替える運行方向操作部と、を有し、前記集音装置は、前記エスカレーターを一方向に運行動作させたときに発せられる音を集音し、前記運行方向操作部により逆方向に切り替えられた後に発せられる音を集音し、前記特定部は、前記一方向に運行動作しているときに異常音が集音される場合、前記踏段の、前記一方向に進行する際の前輪側のローラが異常であると特定し、前記逆方向に運行動作しているときに異常音が集音される場合、前記踏段の前記前輪側のローラとは異なるローラが異常であると特定する
【発明の効果】
【0010】
個別に視認すること無く、異常発生した踏段を特定することが可能となるため、作業の効率化を図ることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るエスカレーター、およびエスカレーター点検装置の全体構成例を示す図である。
図2】実施形態に係る制御盤の一部のハードウェア構成例を示す図である。
図3】踏段をガイドするレールの配置例を示す図であり、音の発する箇所を例示した図である。
図4】エスカレーター上昇運行時に集音した波形の一例を示す図である。
図5】エスカレーター下降運行時に集音した波形の一例を示す図である。
図6】実施形態に係る制御盤の構成の一例を示すブロック図である。
図7】実施形態の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の態様について説明する。点検対象となるエスカレーターは、踏段を循環移動させることで、踏段に搭乗した利用者を搬送する装置であり、本実施形態では、特に階段状の昇降装置であるものとして説明する。尚、エスカレーターは、階段状の昇降装置以外にも、水平型エスカレーター(いわゆる動く歩道)や、水平型エスカレーターに傾斜を持たせたオートスロープなども含み、これらの装置にも本実施形態の態様を適用させることができる。
【0013】
エスカレーター点検装置は、エスカレーターの異常部位を特定する装置やシステムであり、実施形態では、エスカレーターを稼働させながら、固定位置に複数設置された集音装置で、踏段の稼働音を集音し、集音した音声データに基づき、踏段の異常有無を判定する。踏段に異常がある場合、実施形態のエスカレーター点検装置は、異常発生している踏段を特定し、踏段の前輪で異常となっているのか、もしくは後輪で異常となっているのかを特定する。実施形態のエスカレーター点検装置は、特定した踏段や前輪/後輪のいずれで異常となっているかを通知する。
【0014】
図1は、点検対象となるエスカレーターの概略構造、およびエスカレーター点検装置の全体構成を示した図である。尚、図1に示すX軸、Y軸、Z軸の座標系は、図3に示す座標系と共通である。
【0015】
エスカレーター100は、上階部梁1と下階部梁2とに締結されて上下階の間に架設されたトラス3によって支持されている。上階部梁1側の上部トラス5内には、エスカレーターの駆動装置6および制御盤20が設置されている。駆動装置6は、制御盤20によって動作制御され、駆動チェーン8を介して駆動スプロケット9を駆動する。また、下階部梁2側の下部トラス4内には、駆動スプロケット9と対をなす従動スプロケット10が設置されており、これら駆動スプロケット9と従動スプロケット10との間に踏段チェーン11が巻き掛けられている。そして、この踏段チェーン11には多数の踏段12が連結されている。この構成により、駆動装置6で駆動スプロケット9を回転させることで、踏段チェーン11が駆動スプロケット9と従動スプロケット10との間を周回し、多数の踏段12が後述のガイドレールに沿って上階側乗降口と下階側乗降口との間で循環移動する。
【0016】
踏段12は、それぞれ前輪22、後輪23のローラを有している。前輪22は、エスカレーター100が上昇運行で稼働している際の踏段12の前方部に位置しており、左側(Y軸方向紙面奥側)および右側(Y軸方向紙面手前側)の一対のローラ対で構成されている。後輪23は、エスカレーター100が上昇運行で稼働している際の踏段12の後方部に位置しており、左右一対のローラで構成されている。尚、エスカレーター100の上昇運行時と下降運行時とでは、踏段12の進行方向が逆転するため、上昇運行時の前輪が下降運行時の後輪となり、上昇運行時の後輪が下降運行時の前輪となるが、「前輪22」、「後輪23」の名称や符号は、このまま固定とする。
【0017】
また、循環移動する踏段12の左右両側には、デッキボード13および欄干パネル14からなる欄干15が立設されており、欄干パネル14の外周に、手摺ベルト16が装着されている。手摺ベルト16は、踏段12上に搭乗している利用者が把持する手摺であり、例えば駆動装置6の駆動力が伝達されることで、踏段12の移動と同期して欄干パネル14の周囲を周回する。
【0018】
本実施形態のエスカレーター点検装置500は、上部トラス5内に一対の上部集音装置17A、17Bを有し、下部トラス4内に一対の下部集音装置18A、18Bを有する。上部集音装置17Aは、上部トラス5内の左側に設置されたマイクであり、上部トラス5内で発せされる音を左側から集音する。上部集音装置17Bは、上部トラス5内の右側に設置されたマイクであり、上部トラス5内で発せされる音を右側から集音する。下部集音装置18A、18Bも、下部トラス4内の左右両側に設置された一対のマイクであり、下部トラス4内で発生られる音を、下部集音装置18Aが左側から集音し、下部集音装置18Bが右側から集音する。尚、以降の説明において、上部集音装置17A、17Bを、特に区別する必要のない場合や総称する場合には上部集音装置17と称し、下部集音装置18A、18Bを、特に区別する必要のない場合や総称する場合には下部集音装置18と称する。
【0019】
制御盤20は、上部集音装置17、下部集音装置18と配線されており、各集音装置で集音された音の電気信号を入力する。また制御盤20は、ルータなどの通信機器51A、および広域通信網50を介して、管制センター600との間でデータ通信を行うことができる。制御盤20は、保守点検者が携帯している携帯端末300と接続する端子を有し、携帯端末300との間でもデータ通信を行うことができる。
【0020】
携帯端末300は、例えばスマートフォンや、タブレット型、ノート型のコンピュータである。携帯端末300は、制御盤20が収集したエスカレーター100の稼働情報や通知メッセージを受信し、これらの情報を表示することで、保守点検者に対しエスカレーター100の状態やアラート情報などを通知する。
【0021】
管制センター600は、各顧客施設内のエスカレーターや不図示のエレベーターを統括的に遠隔監視し、制御する施設であり、遠隔監視装置400を含んでいる。遠隔監視装置400は、ルータなどの通信機器51Bを介して広域通信網50と接続しており、エスカレーター100の稼働情報や通知メッセージを制御盤20から受信し、これらの情報を蓄積したり、表示したりする。エスカレーター100で異常が発生した場合、遠隔監視装置400は、管制センター600内のオペレーターなどにアラート情報を通知する。この通知を受けたオペレーターは、エスカレーター100の近隣営業所などに連絡し、修理や点検の対応を促す。
【0022】
図2は、制御盤20のハードウェア構成の一部を示す図である。制御盤20は、コントローラ201、運行制御部220を有する。コントローラ201は、制御盤20の内部で動作する各ハードウェアを制御する。コントローラ201は、以下の構成を有する。
【0023】
CPU202(CPU:Central Processing Unit)は、ROM204(ROM:Read only memory)やストレージ205(HDD:Hard Disk Drive)に記憶されているプログラムを、RAM203(RAM:Random access memory)に展開し、演算実行する処理装置である。CPU202は、プログラムを演算実行することで、コントローラ201内部の各ハードウェアを統括的に制御する。RAM203は、揮発性メモリであり、CPU202が処理する際のワークメモリである。RAM203は、CPU202がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。
【0024】
ROM204は不揮発性メモリであり、動作制御用のファームウェアを記憶している。ストレージ205は、CPU202が演算実行するプログラムや、制御データを不揮発的に記憶する補助記憶装置であり、例えばハードディスクドライブである。本実施形態では、ストレージ205には、以降で説明する各機能を提供するプログラムが事前に導入されている。またストレージ205は、上部集音装置17、下部集音装置18で集音された音データを、一時的もしくは永続的に記憶する。
【0025】
ネットワークI/F206は、外部機器との間で行われるデータ通信の制御を担うインターフェイスボードであり、本実施形態では、主に管制センター600内の遠隔監視装置400とのデータ通信を制御する。
【0026】
入出力I/F207は、運行制御部220と接続しており、運行制御部220との間で制御信号などの入出力を行うための端子を有するインターフェイスである。音声入力I/F208は、上部集音装置17、下部集音装置18とケーブル接続するマイク端子を有するインターフェイスであり、上部集音装置17、下部集音装置18で集音される音の電気信号を入力する。端末接続I/F209は、携帯端末300と接続する、たとえばUSB(Universal Serial Bus)規格に準拠した端子を有するインターフェイスである。制御盤20は、この端子を介して携帯端末300と接続し、双方でのデータ送受信を行う。
【0027】
運行制御部220は、入出力I/F207を介してコントローラ201と接続しており、コントローラ201からの指示信号に従い、もしくは不図示のスイッチの操作に従い、駆動装置6の運行動作を制御する装置である。運行制御部220は、コントローラ201からの指示信号やスイッチ操作に従い、停止、上昇運行、下降運行の動作を切り替え制御し、運行速度なども調整することができる。尚、運行制御部220の内部構成は、従前のものと同様である。
【0028】
以下、各図を参照しつつ異常踏段を特定する手法について説明する。
【0029】
図3Aは、エスカレーター100の踏段12に取り付けられた前輪22と後輪23をガイドするガイドレールの配置例を示す図である。また図3B図3Cは、エスカレーター100の運行動作時に周期的に生ずる接触音(正常音)の発生箇所を破線枠で示したものであり、図3Bは昇降運行時、図3Cは下降運行時の発生箇所を示している。
【0030】
ガイドレールは、下部側から、下部側前輪レール24、下部側後輪レール25、前輪押えレール26、前後輪共用直線レール27を有する。またガイドレールは、上部側後輪レール28、後輪押えレール29、上部側前輪レール30、返り前輪直線レール31、返り後輪直線レール32を有する。
【0031】
踏段12の上昇運行時において、前輪22は、下部側に位置する前輪押えレール26、および上部側に位置する上部側前輪レール30(上部トラス5への入込み部)に進入する際に、レールと接触して接触音を発する。すなわち、上昇運行時においては、図3Bに示す破線枠の箇所で、前輪22による接触音が周期的に発生する。
【0032】
一方、踏段12の下降運行時において、後輪23は、前後輪共用直線レール27と下部側後輪レール25とのレール切り替わりの箇所(下部トラス4への入込み部)、および返り後輪直線レール32と上部側後輪レール28とのレール切り替わり箇所で音を発する。すなわち、下降運行時においては、図3Cに示す破線枠の箇所で、後輪23による接触音が周期的に発生する。
【0033】
図4は、エスカレーター100を上昇運行させたときの集音波形を例示したものである。図4Aは、正常時における下部集音装置18での集音波形を示しており、図4Bは、正常時における上部集音装置17での集音波形を示している。また図4Cは、後輪23で異常が発生したときの下部集音装置18での集音波形であり、図4Dは後輪23で異常が発生したときの上部集音装置17での集音波形である。
【0034】
エスカレーター100の上昇運行時において、下部集音装置18では、主に踏段12の前輪22が前輪押えレール26へ入込む接触音33が周期的に集音される(図4A参照。また図3B参照)。上部集音装置17では、踏段12の前輪22が上部トラス5内に入り込む接触音34が周期的に集音される(図4B参照。また図3B参照)。
【0035】
ここで、一つの踏段12の後輪23に異常が発生している場合、エスカレーター100の上昇運行時において、下部集音装置18は、異常が発生した踏段12の前輪22が前輪押えレール26へ入り込んだ後に、後輪23による異常音35を集音する(図4C参照)。また、上部集音装置17は、異常が発生した踏段12の前輪側が上部トラス5内へ入り込んだ後に、後輪23による異常音35を集音する(図4D参照)。
【0036】
このように、後輪23に異常が発生している場合、上昇運行時に、異常が生じている踏段12の周期音を集音した後に、後輪23による異常音を集音する。このことから、以下の手法により異常踏段を特定することができる。
(特定手法A) 基準となる踏段12を決め、例えば下部集音装置18が基準踏段の接触音を集音してから、当該下部集音装置18で異常音を集音するまでの間、周期的に発生する接触音の発生回数をカウントする。このカウント数によって、基準踏段から何段目で異常音が発生しているかを一意に特定することができる。
(特定手法B) 運行速度を一定とした状態で、例えば下部集音装置18が基準踏段の音を集音した際に時間計測を開始し、当該下部集音装置18が異常音を集音するまでの経過時間を計時する。そして、基準踏段から異常踏段までの間の距離(=運行速度×経過時間)を求め、この距離を踏段12の1段分の進行方向長さで除算することで、異常が発生した踏段12(基準踏段から何段目で異常音が発生しているか)を一意に特定することができる。
【0037】
エスカレーター点検装置500は、これら特定手法A、Bを用いることで、接触音の周期から外れた異常音に基づき、いずれの踏段が異常であるかを特定する。
【0038】
また、雑音(ノイズ)などの影響を除去するため、エスカレーター点検装置500は、下部集音装置18と上部集音装置17とで集音される異常音の時間差に基づき、これらが同じ踏段で異常音を集音しているかを判定する。同じ踏段であると判定した場合、エスカレーター点検装置500は、当該踏段が異常であると特定する。これにより、特定精度を高めることができる。
【0039】
エスカレーター100の上昇運行時において、後輪23で異常が発生している場合は、上記のとおり異常音を検出することができる。しかしながら、上昇運行時において、前輪22に異常が発生している場合は、前輪押えレール26や上部トラス5内へ入り込んで出力される接触音(正常な周期音)と異常音とが重なり、検出が困難になる。よって本実施形態では、上昇運行時のみならず、下降運行時についても集音する。
【0040】
図5は、エスカレーター100を下降運行させたときの集音波形を例示したものであり、図5Aは、正常時における下部集音装置18での集音波形を示しており、図5Bは、正常時における上部集音装置17での集音波形を示している。また図5Cは、前輪22の異常発生時における下部集音装置18での集音波形を示しており、図5Dは、前輪22の異常発生時における上部集音装置17での集音波形を示している。
【0041】
エスカレーター100の下降運行時において、下部集音装置18は、踏段12の後輪23が下部トラス4内に入り込む接触音36を周期的に集音し、上部集音装置17は、後輪23が後輪押えレール29に入り込む接触音37を周期的に集音する(図5A図5B図3Cも参照)。
【0042】
一つの踏段12の前輪22に異常が発生している場合、下部集音装置18は、異常が発生している踏段12の後輪23による接触音36を集音した後に、前輪22による異常音38を集音する。上部集音装置17は、異常が発生している踏段12の後輪23による接触音37を集音した後に、前輪22による異常音38を集音する。
【0043】
このように、下降運行時の音を集音することで、前輪22に異常が発生している場合は、これを特定することができる。また、上記の特定手法Aまたは特定手法Bを適用することで、異常となっている踏段を一意に特定することができる。
【0044】
上記のように、後輪23の異常音は、上昇運行させることで集音することができ、前輪22に異常音は、下降運行させることで集音することができる。保守点検者は、点検の際に、運行方向を一方向から逆方向に切り替え、両方向で運行させて集音する。これにより、エスカレーター点検装置500は、前輪22/後輪23のいずれのローラで異常が発生しているのかを特定することができる。
【0045】
上記に加え、さらに、左右の集音装置でそれぞれ集音した異常音の音量差により、左右いずれのローラで異常となっているのかを識別することができる。すなわち、上部集音装置17Aで集音した異常音が、上部集音装置17Bで集音した異常音よりも大きい場合、エスカレーター点検装置500は、左側のローラが異常であるとみなす。また上部集音装置17Bの集音の方が大きい場合、エスカレーター点検装置500は、右側のローラが異常であるとみなす。下部集音装置18A、下部集音装置18Bについても同様である。
【0046】
図6は、実施形態の制御盤20の構成例を示すブロック図である。制御盤20は、初期化部251、運行方向操作部252、集音部253、変換部254、特定部255、異常通知部256、記憶部260を有する。運行方向操作部252は、上記図2を用いて説明したコントローラ201、および運行制御部220により実現される。運行方向操作部252以外のブロックは、コントローラ201により実現される。すなわち、図6に示す各ブロックは、CPU202が、ストレージ205やROM204に事前に記憶されているプログラムをRAM203に展開し、演算実行することで、各ハードウェアと協働して実現される。
【0047】
図7は、本実施形態の異常箇所を特定する際の動作例を示すフローチャートであり、図6に示す各ブロックの機能例や動作例を示す図である。
【0048】
初期化部251は、エスカレーター100の踏段12の総数、行程情報、基準踏段の情報を取得する(S001)。行程情報は、駆動装置6や駆動スプロケット9の回転数などの数値情報であり、エスカレーター100の運行速度そのものや、運行速度を導出することができる情報である。基準踏段は、上記のとおり基準となる踏段であり、事前に規定されている踏段を基準踏段としてもよい。または、点検の際に基準踏段を決め、基準踏段と識別できるようにマーキングしてもよい。初期化部251は、基準踏段の識別番号や、踏段12の総数、行程情報を、携帯端末300を介して保守点検者から取得し、記憶部260に記憶させる。尚、これらの値が事前に記憶部260に記憶されていてもよい。この場合、ステップS001の動作は不要となる。
【0049】
運行方向操作部252は、保守点検者による不図示の切り替えスイッチの操作、もしくは保守点検者から携帯端末300を介して得た指示電文に従い、エスカレーター100が上昇もしくは下降運行するように運行方向を制御する(S002)。尚、ここでは上昇運行となるように制御されるものとする。
【0050】
集音部253は、上部集音装置17A、17Bおよび下部集音装置18A、18Bの電源をオン制御して各集音装置からの集音を開始する。本例では、集音部253は、エスカレーター100の1周以上の集音を行う(S003)。これと並行して、変換部254は、得られた音の波形信号をサンプリングし、量子化処理、符号化処理を行い、デジタルデータに変換する。変換部254は、変換後のデジタルデータを記憶部260に記憶する。このようにして、上昇運行時の1周以上の音データを得ることができる。また、上部側および下部側のそれぞれ左右の音声データを得ることができる。
【0051】
特定部255は、上記の特定手法Aまたは特定手法Bを用いて、上部側、下部側で得られた音声データから、後輪異常となっている踏段12を特定する(S004)。特定部255は、基準踏段と異常音を発している踏段との位置関係(基準踏段から何段目が異常踏段かなど)を特定する。また特定部255は、ノイズ等による誤判定を防止するため、上部の集音データと下部の集音データとでマッチング処理を行い、異常踏段の発する異常音が双方で一致するかを判定する。この上部の集音データと下部の集音データとのマッチングには、踏段総数、行程情報、各集音装置で検出した異常音の時間差などが用いられる。すなわち特定部255は、接触音発生箇所(図3参照)の双方間の距離、および行程情報により導出される運行速度から得られる時間が、集音された異常音の時間差と合致するかを判定することで、マッチング処理を行う。
【0052】
次いで特定部255は、左右それぞれの集音データを取得し、異常音の音量差により、左右いずれのローラが異常であるかを特定する(S005)。
【0053】
運行方向操作部252は、保守点検者による不図示の切り替えスイッチの操作、もしくは携帯端末300を介して得た保守点検者からの指示に従い、エスカレーター100が今度は下降運行となるように切り替え制御する(S006)。そして集音部253、変換部254、および特定部255は、上記ステップS003〜S005と同様処理を行い、前輪異常となっている踏段12を特定し、左右いずれのローラが異常であるかを特定する(ステップS007、S008、S009)。
【0054】
異常通知部256は、特定部255によって特定された、異常の発生した踏段に関する情報、異常発生部位(前輪左右、後輪左右)を出力する(S010)。この出力先は、携帯端末300とするが、制御盤20に付属の不図示の表示部や、広域通信網50を介して管制センター600の遠隔監視装置400に出力されてもよい。この出力を入力した携帯端末300や遠隔監視装置400は、異常の発生した踏段の識別番号、異常発生部位(前輪左右、後輪左右)を表示する。異常通知部256は、基準踏段から何段目先の踏段(または何段目後の踏段)が異常であるかの情報を表示してもよい。
【0055】
本実施形態の態様により、従来の手作業や目視確認による点検に比べ、点検時間を大幅に低減させることができる。
【0056】
本実施形態では、下部トラス4、上部トラス5の2箇所に集音装置を設けたが、いずれか1か所に1つの集音装置を固定で設置する構成でもよい。本実施形態のように、2箇所に集音装置を設置することで、ノイズなどによる誤検知の発生を低減させることができる。また設置位置は下部トラス4内、上部トラス5内に限られない。踏段の異常音を集音可能な位置であれば、下部トラス4、上部トラス5以外の2箇所以上に複数設置してもよい。
【0057】
また、本実施形態では、左右のローラのいずれが異常となっているかを特定するため、下部トラス4内の進行方向左右、上部トラス5内の進行方向左右にそれぞれ集音装置を設けたが、ここまでの特定は不要である場合、左右に設ける必要はない。また、左右の両方に集音装置を設ける構成に代えて、左右の音の差を識別可能な、指向性を有する集音マイクを用いてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、保守点検者が現場に向かい、エスカレーター100に対して保守作業を行いつつ、上記の踏段点検を行うものとして説明したが、管制センター600内のシステム(例えば遠隔監視装置400)が、遠隔制御して実施してもよい。例えば遠隔監視装置400が、利用者のいない深夜などに、図7に示すフローチャートの実行指示を行い、エスカレーター100の制御盤20が、自律的に図7に示すフローチャートを実行する。特定結果については、遠隔監視装置400が受信する。この実装により、定期的に遠隔で踏段の異常点検を行うことができる。
【0059】
図7に示す動作の一部を、携帯端末300や遠隔監視装置400で行ってもよい。特に、特定部255や異常通知部256の動作(S004、S005、S008、S009、S010)については、携帯端末300や遠隔監視装置400で行うことも可能である。また、制御盤20の機能の一部もしくは全てを、ASICなどの集積回路で実現してもよい。
【0060】
以上に詳説したように、本実施形態によって、エスカレーターを稼働させながら異常発生した踏段と踏段構成部位を特定することが可能であるため、作業の効率化を図ることができる。
【0061】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0062】
12:踏段
17、17A、17B:上部集音装置
18、18A、18B:下部集音装置
20:制御盤
22:前輪
23:後輪
100:エスカレーター
251:初期化部
252:運行方向操作部
253:集音部
254:変換部
255:特定部
256:異常通知部
260:記憶部
300:携帯端末
400:遠隔監視装置
500:エスカレーター点検装置
600:管制センター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7