(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造やステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0018】
実施の形態1.
まず、
図1〜12を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
【0019】
1.車両制御システムの構成例
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両制御システム100の構成例を示すブロック図である。本実施形態の車両制御システム100は、車両1(
図4参照)に搭載されており、車両1の自動運転を制御する自動運転システムである。より詳細には、車両1は、その運転モードとして、手動運転モードと自動運転モードとを有している。手動運転モードでは、運転者が車両1の運転の主体となって車両1の操作が行われる。自動運転モードでは、車両制御システム100が車両1の運転の主体となる。
【0020】
車両制御システム100は、GPS(Global Positioning System)受信器10、地図データベース20、周辺状況センサ30、車両状態センサ40、通信装置50、走行装置60、及び制御装置70を備えている。
【0021】
GPS受信器10は、複数のGPS衛星から送信される信号を受信し、受信信号に基づいて車両1の位置及び方位を算出する。GPS受信器10は、算出した情報を制御装置70に送る。
【0022】
地図データベース20には、地図上の各レーンの境界位置を示す情報があらかじめ記録されている。各レーンの境界位置は、点群あるいは線群で表される。この地図データベース20は、所定の記憶装置に格納されている。
【0023】
周辺状況センサ30は、車両1の周囲の状況を検出する。周辺状況センサ30としては、ライダー(LIDAR: Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダー、カメラなどが例示される。ライダーは、光を利用して車両1の周囲の物標を検出する。レーダーは、電波を利用して車両1の周囲の物標を検出する。カメラは、車両1の周囲の状況を撮像する。周辺状況センサ30は、検出した情報を制御装置70に送る。
【0024】
車両状態センサ40は、車両1の走行状態を検出する。車両状態センサ40としては、車速センサ、舵角センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサなどが例示される。車速センサは、車両1の速度を検出する。舵角センサは、車両1の操舵角を検出する。ヨーレートセンサは、車両1のヨーレートを検出する。横加速度センサは、車両1に作用する横加速度を検出する。車両状態センサ40は、検出した情報を制御装置70に送る。
【0025】
通信装置50は、V2X通信(車車間通信、及び路車間通信)を行う。具体的には、通信装置50は、他の車両との間でV2V通信(車車間通信)を行う。また、通信装置50は、周囲のインフラとの間でV2I通信(路車間通信)を行う。V2X通信を通して、通信装置50は、車両1の周囲の環境に関する情報を取得することができる。通信装置50は、取得した情報を制御装置70に送る。
【0026】
走行装置60は、操舵装置、駆動装置、制動装置、トランスミッション等を含んでいる。操舵装置は、車輪を転舵する装置であり、運転者による操舵に用いられるステアリングホイールを含んでいる。駆動装置は、駆動力を発生させる動力源であり、運転者による駆動力の調整に用いられるアクセルペダルを含んでいる。駆動装置としては、エンジンや電動機が例示される。制動装置は、制動力を発生させる装置であり、運転者による制動力の調整に用いられるブレーキペダルを含んでいる。
【0027】
制御装置70は、車両1の自動運転を制御する。典型的には、制御装置70は、プロセッサ、記憶装置、及び入出力インターフェースを備えるマイクロコンピュータである。制御装置70は、ECU(Electronic Control Unit)とも呼ばれる。制御装置70は、入出力インターフェースを通して各種情報を受け取る。そして、制御装置70は、受け取った情報に基づいて自動運転を制御する。また、車両1には、HMI(Human Machine Interface)ユニット90が備えられている。HMIユニット90は、運転者と制御装置70との間で情報の出力及び入力をするためのインターフェースである。HMIユニット90は、入力装置、表示装置、スピーカ、及びマイクを備えている。入力装置としては、タッチパネル、キーボード、スイッチ、ボタンが例示される。
【0028】
より詳細には、制御装置70は、機能ブロックとして、情報取得部71、自動運転制御部72、運転モード切替部73、情報通知部74、及び運転操作監視部75を備えている。これら機能ブロックは、制御装置70のプロセッサが記憶装置に格納された制御プログラムを実行することにより実現される。制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されていてもよい。
【0029】
情報取得部71は、情報取得処理を行う。自動運転制御部72は、自動運転制御処理を行う。車両1では、運転者は、HMIユニット90を用いて自動運転モード及び手動運転モードを択一的に選択可能となっている。運転モード切替部73は、運転者によるHMIユニット90の操作結果に応じて運転モードを切り替える。
【0030】
情報通知部74は、自動運転制御部72から通知される自動運転制御の状態を、HMIユニット90を介して運転者に伝える。運転者への通知は、例えば、文字情報、画像、音声又は効果音によって行われる。また、車両1では、運転者は、自動運転制御部72の判断に基づいて自動運転モードから手動運転モードへの切り替え(運転者への車両1の操作の受け渡し)が行われる際に、後述の警報処理による警報の感度をHMIユニット90を用いて調整可能となっている。警報処理は情報通知部74によって実行される。
【0031】
運転操作監視部75は、ステアリングホイール、アクセルペダル及びブレーキペダルの操作状態を監視し、運転者がこれらの器具を操作しているか否かを監視する。具体的には、運転操作監視部75は、例えば、ステアリングホイールに関しては、操舵角、操舵トルク、ステアリングホイールに触れているか否かを監視し、また、アクセルペダル及びブレーキペダルに関しては、各ペダルの踏み込み量を監視する。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態1に係る情報取得処理を説明するためのブロック図である。情報取得処理において、情報取得部71は、自動運転制御に必要な情報を取得する。なお、情報取得処理は、一定サイクル毎に繰り返し実行される。
【0033】
より詳細には、情報取得部71は、GPS受信器10から、車両1の現在位置及び方位を示す位置方位情報81を取得する。
【0034】
また、情報取得部71は、地図データベース20から走行車線(レーン)に関する情報を読み出し、レーン情報82を生成する。レーン情報82は、地図上の各レーンの配置(位置、形状、傾き)を含んでいる。情報取得部71は、レーン情報82に基づいて、レーンの合流、分岐、交差等を把握することができる。また、情報取得部71は、レーン情報82に基づいて、レーン曲率、レーン幅等を算出することができる。
【0035】
また、情報取得部71は、周辺状況センサ30によって検出された情報に基づいて、周辺状況情報83を生成する。周辺状況情報83は、車両1の周囲の物標に関する物標情報を含んでいる。物標としては、白線、路側物、周辺車両などが例示される。
【0036】
また、情報取得部71は、車両状態センサ40によって検出された情報に基づいて、車両状態情報84を生成する。車両状態情報84は、車両1の速度、操舵角、ヨーレート、横加速度などの情報を含む。
【0037】
また、情報取得部71は、通信装置50による通信を通して、配信情報85を受け取る。配信情報85は、インフラや周辺車両から配信される情報である。配信情報85としては、工事区間情報、事故情報などが例示される。
【0038】
以上に例示された位置方位情報81、レーン情報82、周辺状況情報83、車両状態情報84、及び配信情報85はすべて、車両1の運転環境を示している。そのような車両1の運転環境を示す情報は、以下「運転環境情報80」と呼ばれる。すなわち、運転環境情報80は、位置方位情報81、レーン情報82、周辺状況情報83、車両状態情報84、及び配信情報85を含んでいる。以上のように、制御装置70の情報取得部71は、運転環境情報80を取得する機能を有しているといえる。
【0039】
2.パス追従制御
図3は、本発明の実施の形態1に係る自動運転制御処理を説明するためのブロック図である。制御装置70(自動運転制御部72)は、自動運転モードの選択中に、上記の運転環境情報80に基づいて自動運転制御を行う。本実施形態で行われる自動運転制御は、「パス追従制御(Path-Following Control)」である。パス追従制御では、自動運転制御部72は、車両1の目標パスTPを算出し、目標パスTPに追従するように車両1の走行を制御する。車両1の走行は、走行装置60を適宜作動させることにより制御可能である。
【0040】
2−1.パス追従制御の概要
自動運転制御部72は、目標パスTPの算出に必要な情報を定期的に取得する。この情報は、上記の運転環境情報80の一部であり、例えば、位置方位情報81、レーン情報82、周辺状況情報83、及び配信情報85を含む。目標パスTPは、この情報に基づいて定期的に更新される。
【0041】
自動運転制御部72は、車両1を最新の目標パスTPに追従させるために、車両1と目標パスTPとの間の偏差を減少させる制御が行われる。そのために、例えば、横偏差Ed、方位角差θd、目標パスTPの曲率、等のパラメータが考慮される。横偏差Edは、目標パスTPと車両1の重心との間の距離である。したがって、車両1の重心が目標パスTP上にある場合には、横偏差Edはゼロとなる。方位角差θdは、車両1と目標パスTPとの間の方位角の差である。
【0042】
より詳細には、自動運転制御部72は、横偏差Ed、方位角差θd、目標パスTPの曲率等のパラメータに基づき、車両1と目標パスTPとの間の偏差を減少させるための車両制御量を算出する。そして、自動運転制御部72は、算出した車両制御量に従って走行装置60を作動させる。
【0043】
例えば、走行装置60は、車両1の車輪を転舵するためのパワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置を含んでいる。EPS装置のモータを駆動制御することによって、車輪を転舵することができる。自動運転制御部72は、車両1を目標パスTPに追従させるために必要な目標舵角を算出する。また、自動運転制御部72は、車両状態情報84から実舵角を取得する。そして、自動運転制御部72は、実舵角と目標舵角の差に応じたモータ電流指令値を算出し、そのモータ電流指令値に従ってモータを駆動する。このようにしてパス追従制御が実現される。
【0044】
2−2.車両操作を運転者に受け渡す際の課題
パス追従制御(自動運転モード)の実行中には、自動運転制御部72の判断に基づいて自動運転モードから手動運転モードへの切り替え(車両操作の受け渡し)が行われることがある。このような車両操作の受け渡しが要求される状況の一例は、次の通りである。すなわち、車両制御システム100のハードウェア上の制約に起因するシステム限界を迎えることがあり、その結果、通常時に目標パスTPに収束する車両挙動と比べて、車両挙動が走行車線内で目標パスTPを中心に大きくふらつくことがある。このような場合には、パス追従制御の継続が困難になるので、運転の主体を自動運転制御部72から運転者に適切に受け渡すことが必要になる。そして、そのためには、実際にはパス追従制御の継続によって車両挙動のふらつきを収束させられるような場合においてパス追従制御を中断すべきとの不要な判断がなされないように、パス追従制御の継続可否を適切に判断することが要求される。
【0045】
2−3.実施の形態1に係るシステム限界判定処理
本実施形態では、自動運転制御部72は、パス追従制御の継続可否の判断のために、以下に説明するシステム限界判定処理を行う。
【0046】
2−3−1.システム限界時の車両のふらつき挙動の定義
図4は、システム限界時の車両1のふらつき挙動の定義を説明するための図である。
図4には、システム限界時の車両1のふらつき挙動(車両1の走行軌跡を示す破線)が正弦波によって表されている。パス追従制御の実行中に車両制御システム100のハードウェア上の制約に起因するシステム限界を迎えた場合、車両1は目標パスTPに追従しようとしているため、車両1は目標パスTPを繰り返し跨ぎながらふらつくような挙動を示すことになる。このため、システム限界時の車両1のふらつき挙動(以下、「ふらつき挙動限界」とも称する)を正弦波によって定義することは妥当であるといえる。
【0047】
2−3−2.パス追従制御における横偏差Edの許容限界正弦波
図5は、システム限界時の横偏差、及び横偏差速度の時間波形を表した図である。横偏差Edは、既述したように、目標パスTPと車両1の重心との間の距離(目標パスTPに対する追従誤差)である。このため、システム限界時のふらつき挙動を
図4に示すように正弦波で定義すると、システム限界時の横偏差Edの時間波形も、
図5に示すように正弦波となる。
【0048】
より詳細には、システム限界時の横偏差Edの正弦波のことを「許容限界正弦波」と称する。許容限界正弦波の関数(正弦関数)は、次の(1)式のように表される。
Ed=A
LMT・sin(2πf
LMT・t) ・・・(1)
【0049】
上記(1)式において、A
LMTは、許容限界正弦波の振幅(最大振幅)であり、システム限界時に取り得る横偏差Edの許容上限値である。f
LMTは、許容限界正弦波の周波数であり、パス追従制御中の車両1の走行軌跡の周波数の許容上限値である。(1)式中の振幅A
LMT及び周波数f
LMTは、それぞれ、システム限界内でパス追従制御を行う際の横偏差Edの「許容上限横偏差」及び「許容上限周波数」に相当するといえる。また、tは時間である。
【0050】
また、目標パスTPに対する横偏差Edの時間微分値を「横偏差速度ΔEd」と称する。システム限界時の横偏差Edを許容限界正弦波で表すと、システム限界時の横偏差速度ΔEdは、
図5に示すように余弦波(許容限界余弦波)で表される。この余弦波の関数、すなわち、許容限界正弦波の関数を時間微分して得られる余弦関数は、次の(2)式のように表される。なお、(2)式中の
ΔEdは、後述の
図6の横軸Xに対応している。
ΔEd=dEd/dt=A
LMT・2πf
LMT・cos(2πf
LMT・t) ・・・(2)
【0051】
振幅A
LMT及び周波数f
LMTが定まれば、(1)式で表される許容限界正弦波の関数が特定され、これに付随して、(2)式で表される許容限界余弦波の関数(余弦関数)も特定される。振幅A
LMT及び周波数f
LMTの具体的な設定例については、
図10〜12を参照して後述する。
【0052】
2−3−3.システム限界判定処理の概要
上述のように、システム限界時のふらつき挙動が正弦波で定義されると、振幅A及び周波数fを適切に設定することで許容限界正弦波の関数を特定でき、また、許容限界余弦波の関数を特定できる。
【0053】
図6は、システム限界判定処理に用いられる楕円について説明するための図である。時間tを媒介変数とし、許容限界余弦波の関数の値をX軸とし、許容限界正弦波の関数の値をY軸としたとき、これらの許容限界正弦波及び許容限界余弦波に対応するシステム限界は、XY平面上に
図6に示すように楕円で表現することができる。
【0054】
なお、
図6中の点PAのX座標は、上記余弦関数の最大値(=A
LMT×2πf
LMT(正の最大振幅値))であり、点PBのX座標は、余弦関数の最小値(=−A
LMT×2πf
LMT(負の最大振幅値))である。点PCのY座標は、上記正弦関数の最大値(=A
LMT(正の最大振幅値))であり、点PDのY座標は、上記正弦関数の最小値(=−A
LMT(負の最大振幅値))である。
【0055】
本実施形態のシステム限界判定処理では、システム限界時のふらつき挙動を基準として現在の車両挙動を評価するために、上記楕円が用いられる。具体的には、車両1の現在の横偏差速度ΔEd及び横偏差EdをそれぞれX座標及びY座標とする座標点Pが楕円内に収まっているか否かが判定される。
【0056】
車両1の現在の座標点Pが楕円内に収まっている場合には、現在の車両挙動は、システム限界時のふらつき挙動よりも安定している(換言すると、システム限界時のふらつき挙動と比べて目標パスTPへの追従性が良好である)といえる。したがって、車両1がシステム限界時のふらつき挙動よりも安定した挙動を維持している間は、車両1の座標点Pは、
図6中に例示される軌跡のように、楕円内で原点を中心に回転するような軌跡を描く。
【0057】
図7は、
図6中の座標点P1の横偏差Ed及び横偏差速度ΔEdが生じている時の車両1の挙動を、システム限界時のふらつき挙動と比較して表した図である。座標点P1は、
図6に示すように楕円内に収まっている。このため、この座標点P1に対応する車両挙動は、
図7に示すように、システム限界時のふらつき挙動と比べて、振幅A(横偏差Ed)及び周波数fの何れも小さな正弦波状のふらつき挙動(すなわち、安定したふらつき挙動)となる。
【0058】
一方、車両1の現在の座標点Pが楕円内から外れた場合には、現在の車両挙動は、システム限界時のふらつき挙動と比べてふらつきが大きくなる(より詳細には、正弦波の振幅A(横偏差Ed)及び周波数fの少なくとも一方が大きくなる)。したがって、この場合には、システム限界時のふらつき挙動と比べて目標パスTPへの追従性が悪いといえる。
【0059】
図8は、
図6中の座標点P2の横偏差Ed及び横偏差速度ΔEdが生じている時の車両1の挙動を、システム限界時のふらつき挙動と比較して表した図である。座標点P2は、
図6に示すように楕円内から正に外れようとしている時の座標点Pに相当する。このため、この座標点P2に対応する車両1の挙動は、システム限界を迎えている時のふらつき挙動に相当する。そして、
図8に示すように、座標点P2が得られる時の車両1は、ふらつき挙動限界に到達しており、何らの対処がされないとその後に走行車線を逸脱することになる。
【0060】
なお、
図7、8において、システム限界時のふらつき挙動を表す曲線は、これらの図において例示される車両1のふらつき挙動の例がシステム限界時のふらつき挙動と比べてふらつきが小さいことを示すことを意図して図示されたものである。つまり、システム限界時のふらつき挙動を表す曲線自体が
図7、8に示すように走行車線上に目標パスTPとともに描かれてシステム限界の判定に用いられるわけではない。
【0061】
2−4.運転者への車両操作の受け渡しに関する警報処理
自動運転制御部72は、システム限界判定処理を実行して座標点Pが楕円内に収まっていると判定した場合には、パス追従制御を継続可能と判定する。一方、自動運転制御部72は、座標点Pが楕円内から外れたと判定した場合には、パス追従制御の継続不可と判定し、後述の所定の確定条件の成立を条件として警報処理を実行する。この警報処理は、運転者に車両1の操作を促すための処理である。
【0062】
2−5.システム限界判定処理及び警報処理のルーチン
図9は、本発明の実施の形態1に係るシステム限界判定処理及び警報処理のルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、運転者によるHMIユニット90の操作に基づいて制御装置70が運転者からの自動運転モード(パス追従制御)の実行要求を受け付けた時に起動され、パス追従制御が終了されるまで所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、パス追従制御は、運転者がHMIユニット90を操作してパス追従制御の実行要求を取り消した場合、又は自動運転制御部72による上記警報処理の実行後に、運転者への車両1の操作の受け渡しが行われた場合に終了される。
【0063】
図9に示すルーチンでは、自動運転制御部72(制御装置70)は、まず、目標パスTP及び目標車速を取得する(ステップS100)。目標パスTPは、既述したように、例えば、位置方位情報81、レーン情報82、周辺状況情報83、及び配信情報85に基づいて算出される。なお、目標パスTPの算出方法としては、様々なものが提案されている。本実施形態における目標パスTPの算出方法は、特に限定されない。
【0064】
目標車速としては、基本的には、運転者がHMIユニット90を利用して設定した値が用いられる。ただし、自動運転制御部72は、前方を走行する車両と自車両1との間隔に応じて、あるいは、標識若しくは地図情報に基づいて、目標車速を運転者による設定値から修正することがある。なお、車両制御システム100と異なり、車両1の操舵のみが自動化され、加速及び制動については自動化されていないシステムでは、車速センサにより取得される実車速が目標車速に代わりに用いられる。
【0065】
次に、自動運転制御部72は、システム限界時のふらつき挙動に対応する横偏差Edの許容限界正弦波の関数を設定する(ステップS102)。より詳細には、自動運転制御部72は、最新の振幅A
LMT及び周波数f
LMTを取得することによって、(1)式によって表される正弦関数を設定する。これにより、車両1を将来走行させたい軌跡(すなわち、目標パスTP)に対してどこまでのふらつきを許容するかが決定される。また、システム限界の判定後に警報処理を受けた運転者が車両操作を受け継いで現在の状況に対処するためには、ある時間が必要である。取得される振幅A
LMT及び周波数f
LMTの値は、そのような時間の確保に必要な余裕を持ってシステム限界の判定を行えるように決定されている。
【0066】
振幅A
LMT及び周波数f
LMTは、一例として、次のように決定することができる。すなわち、振幅A
LMT及び周波数f
LMTのそれぞれのベース値が、車両1のハードウェア特性(運動力学的特性)及び制御特性(自動運転時の追従特性)を考慮して、事前に決定されている。そのうえで、振幅A
LMT及び周波数f
LMTの最終値は、次の
図10〜
図12に示す関係に従って、目標パスTPの曲率、車速及び警報感度を考慮して決定される。
【0067】
図10(A)、(B)は、振幅A
LMT及び周波数f
LMTのそれぞれの補正量と目標パスTPの曲率との関係の一例を表した図である。振幅A
LMT及び周波数f
LMTのベース値は、目標パスTPの曲率のベース値に対応するように設定されている。
図10(A)、(B)に示す例では、曲率がベース値よりも高い場合には、曲率が高いほど、振幅A
LMT及び周波数f
LMTの正の補正量が大きくなっている。また、曲率がベース値よりも低い場合には、曲率が低いほど、振幅A
LMT及び周波数f
LMTの負の補正量が負側に大きくなっている。
【0068】
図10に示す設定例によれば、目標パスTPの曲率が高い場合には、それが低い場合と比べて、振幅A
LMTを大きく、かつ、周波数f
LMTを高くすることができる。なお、曲率に応じた補正量の変化の特性は、
図10に示す例に限られない。また、上記の例に代え、振幅A
LMT及び周波数f
LMTは、目標パスTPの曲率に応じて変更されずに、曲率に関係なくベース値が用いられてもよい。
【0069】
図11(A)、(B)は、振幅A
LMT及び周波数f
LMTのそれぞれの補正量と自車両1の車速との関係の一例を表した図である。ここでいう車速は、ステップS100において取得された目標車速である。なお、車両制御システム100と異なり、車両1の操舵のみが自動化され、加速及び制動については自動化されていないシステムでは、車速センサにより取得される実車速が上記車速として用いられる。
【0070】
図11(A)に示す例では、振幅A
LMTは、車速によらずに一定とされている。ただし、振幅A
LMTは、必ずしも車速によらずに一定とされなくてもよく、車速に応じて適宜変更されてもよい。例えば、振幅A
LMTは、車速が高い場合には、それが低い場合と比べて小さくされてもよい。また、振幅A
LMTは、走行車線の幅が狭い場合には、それが広い場合と比べて小さくされてもよい。
【0071】
一方、周波数f
LMTのベース値は、車速のベース値に対応するように設定されている。そして、
図11(B)に示す例では、車速がベース値よりも高い場合には、車速が高いほど、周波数f
LMTの正の補正量が大きくなっている。また、車速がベース値よりも低い場合には、車速が低いほど、周波数f
LMTの負の補正量が負側に大きくなっている。
図11(B)に示す設定例によれば、車速が高い場合には、それが低い場合と比べて、周波数f
LMTを高くすることができる。なお、車速に応じた補正量の変化の特性は、
図11(B)に示す例に限られない。また、上記の例に代え、周波数f
LMTは、車速に応じて変更されずに、車速に関係なくベース値が用いられてもよい。
【0072】
図12(A)、(B)は、振幅A
LMT及び周波数f
LMTのそれぞれの補正量と警報感度との関係の一例を表した図である。運転者により要求される警報感度が相対的に高いということは、車両1のふらつき挙動が相対的に小さな状態でシステム限界の到来を判定して警報が実行されることを意味する。
【0073】
振幅A
LMT及び周波数f
LMTのベース値は、中レベルの警報感度の値に対応するように設定されている。
図12(A)、(B)に示す例では、警報感度が低レベルの場合には、振幅A
LMT及び周波数f
LMTの正の補正量が用いられる。また、警報感度が高レベルの場合には、振幅A
LMT及び周波数f
LMTの負の補正量が用いられる。
【0074】
図12に示す設定例によれば、警報感度が高い場合には、それが低い場合と比べて、振幅A
LMTを低く、かつ、周波数f
LMTを低くすることができる。
【0075】
次に、自動運転制御部72は、現在の横偏差Ed及び横偏差速度ΔEdを算出する(ステップS104)。現在の横偏差Edは、ステップS100において取得された目標パスTPと最新の位置方位情報81とに基づいて算出できる。また、現在の横偏差速度ΔEdは、周期的に算出される横偏差Edの今回値と横偏差Edの前回値との差分を用いて算出される。なお、上記の方法に代え、横偏差速度ΔEdは、目標パスTPとの方位角差θdに現在の車速を掛け合わせることによって算出することもできる。
【0076】
次に、自動運転制御部72は、パス追従制御の継続可否の判断のためにシステム限界判定処理を実行する(ステップS106)。このシステム限界判定処理で用いられる楕円(
図6参照)は、ステップS102において設定された許容限界正弦波の関数と、これを時間微分して得られる余弦関数とを用いて特定される。
【0077】
ステップS106において車両1の現在の横偏差速度ΔEd及び横偏差EdをそれぞれX座標及びY座標とする座標点Pが楕円内に収まっていると判定した場合には、車両1の挙動は、システム限界時のふらつき挙動と比べて安定しており、システム限界に達していないと判断できる。このため、この場合には、自動運転制御部72は、パス追従制御を継続可能と判定し、今回の起動時の本ルーチンの処理を速やかに終了させる。
【0078】
一方、ステップS106において車両1の現在の座標点Pが楕円内から外れたと判定した場合には、車両1がふらつき挙動限界に到達した、すなわち、システム限界が到来したと判断できる。この場合には、自動運転制御部72は、パス追従制御の継続不可と判定し、ステップS108の処理に進む。
【0079】
ステップS108では、自動運転制御部72は、ステップS106の処理によるシステム限界が到来したとの判定を確定するための所定の確定条件が成立するか否かを判定する。ステップS106の処理を実行するだけでなく、当該確定条件の成立をもってシステム限界の判定を確定するようにすることで、システム限界の到来を判定すべき状況をより適切に特定できる。
【0080】
上記確定条件としては、次のような具体例が挙げられる。その1つは、パス追従制御中であること(より詳細には、運転者によるHMIユニット90の操作に基づくパス追従制御の起動中若しくは終了中でないこと)である。付け加えると、パス追従制御の起動中(パス追従制御なしからパス追従制御ありへの遷移期間中)には、車両1の位置を目標パスTPに収束させるために車両1が素早く移動させられる可能性がある。このため、パス追従制御の起動中には判定結果が確定しないようにすることで、許容限界正弦波の周波数f
LMTとして低い周波数値が用いられた場合に不用意にシステム限界と判定されないようにできる。また、パス追従制御の終了中(パス追従制御ありからパス追従制御なしへの遷移期間中)であれば、システム限界判定に伴って運転者への車両1の操作の受け渡しが完了する前にパス追従制御が終了されることになるので、この場合にも、判定結果の確定は行われない。
【0081】
また、上記確定条件の他の具体例は、ステアリングホイールの操作がないこと(ステアリングホイールから手を放しているとき)である。運転者がステアリングホイールを握っている場合は、運転者による操舵に起因する目標パスTPに対する追従誤差(横偏差Ed)が発生する。
図9に示す処理の例では、この場合には確定は行われない。より詳細には、運転者による操舵により隣接レーンの方向に車両1が移動する場合には、レーン変更の可能性があるので、確定は行われない。ただし、運転者がステアリングホイールを握っているときであっても、操舵方向に隣接レーンが存在しない場合には、確定が行われてもよい。
【0082】
さらに、上記確定条件の他の具体例は、車両制御システム100に異常が生じていないこと、ブレーキペダルの操作がないこと、アクセルペダルの操作がないこと、及び車速が所定範囲内にあることのうち、何れか1つもしくは複数が成立することである。付け加えると、車両制御システム100に何らかの異常が生じていることが、別途行われる所定の異常判定処理によって検出された場合には、車両1を目標パスTPに追従させることがそもそも難しいことがある。このため、この場合には確定は行われない。また、ブレーキペダル又はアクセルペダルの操作がなされた場合には、ステアリングホイールの操作がなされた場合と同様に、運転者の操作に起因する目標パスTPに対する追従誤差(横偏差Ed)が発生するため、確定は行われない。さらに、車速が所定範囲から低速側に外れる場合(例えば、車両1が停止しようとしている時、又は微低速時)には、追従誤差を素早く修正することが困難となるため、確定しなくてもよい。また、車速が所定範囲から高速側に外れる場合にも、確定しなくてもよい。
【0083】
なお、ステップS108の処理では、システム限界の判定結果がハンチングすることを防止するために、所定時間を経過しない場合には判定結果を確定させないようにしてもよいし、又は、確定後に判定結果を所定時間保持するようにしてもよい。また、ステップS108の処理による確定条件の成立の有無の判断は、
図9に示す例に代え、ステップS100よりも先に実行されてもよい。したがって、確定条件が成立した場合に、ステップS100〜S106及びS110の処理が実行されてもよい。
【0084】
自動運転制御部72は、ステップS108の判定結果が否定的である場合には、今回の起動時の本ルーチンの処理を速やかに終了させる。すなわち、この場合には、パス追従制御の継続不可と判定された場合であっても、当該判定は確定されない。
【0085】
一方、ステップS108の判定結果が肯定的である場合には、自動運転制御部72は、パス追従制御が継続不可であるとの判定を確定し、次いで、情報通知部74は、運転者に車両1の操作を促すために警報処理を実行する(ステップS110)。警報処理は、例えば、HMIユニット90を利用して文字情報、画像、音声又は効果音を運転者に通知することによって行うことができる。
【0086】
3.実施の形態1の効果
以上説明したように、本実施形態のシステム限界判定処理では、横偏差Edの許容限界正弦波の関数とこれを時間微分して得られる横偏差速度ΔEdの許容限界余弦波の関数とを基にXY平面上に表わされる楕円が、車両1のふらつき挙動がシステム限界内に収まっていることを判断するための境界として用いられる。そして、現在の横偏差Ed及び横偏差速度ΔEdによって特定される座標点Pが楕円内に収まっている場合には、ふらつき挙動がシステム限界内にある(つまり、システム限界内において車両1のふらつき挙動が安定した状態で制御されている)ため、パス追従制御を継続可能と判定される。一方、座標点Pが楕円から外れている場合には、ふらつき挙動がシステム限界を超えることになるため、パス追従制御が継続不可と判定される。
【0087】
より詳細には、目標パスTPからの車両1の横偏差Edを許容限界正弦波によって定義するということは、システム限界時における目標パスTPを基準とする車両1のふらつき挙動を正弦波によって定義することと等しいといえる。このため、例えば横偏差Ed及び横偏差速度ΔEdが共に増加するように座標点Pが移動している場合であっても、座標点Pが楕円内に収まっている限り、車両挙動がふらつき挙動の許容限界内にあることを理由として車両1が正弦波状の走行軌跡を辿って横偏差Edが将来的に減少に転じると判断できるようになる。つまり、このシステム限界判定処理によれば、システム限界を迎えた時の車両1のふらつき挙動と、ふらつき(横偏差Ed)が収束する挙動(目標パスTPに正常に追従する際の挙動)とをより正確に判別できるようになる。換言すると、パス追従制御によって実際にはふらつきが収束するはずの挙動が、システム限界を迎えていると誤判定することを抑制できる。
【0088】
そのうえで、本実施形態の車両制御システム100によれば、座標点Pが楕円から外れている場合には、パス追従制御を継続不可と判断され、運転者に車両1の操作を促すための警報処理が実行される。既述したように、許容限界正弦波の決定のために取得される振幅A
LMT及び周波数f
LMTの値は、運転者が車両操作を受け継いで現在の状況に対処するための時間の確保に必要な余裕を持ってシステム限界の判定を行えるように決定されている。このため、本実施形態によれば、運転者への車両操作の受け渡し時に上記時間が確保されるので、システム限界(車両操作を受け渡すべき状況)の判定及び警報を適切に行えるようになる。
【0089】
(振幅A
LMT及び周波数f
LMTの設定に関する効果)
また、本実施形態のシステム限界判定処理によれば、目標パスTPの曲率及び警報感度に応じて振幅A
LMTが変更され、また、目標パスTPの曲率、車速及び警報感度に応じて周波数f
LMTが変更される。これにより、目標パスTPの曲率及び車速を考慮して、振幅A
LMT及び周波数f
LMTを車両挙動のシステム限界を適切に判定できるようになる。また、運転者による警報感度の要求を良好に満たせるように振幅A
LMT及び周波数f
LMTを適切に設定できるようになる。
【0090】
より詳細には、目標パスTPの曲率が高い場合には、それが低い場合(すなわち、走行車線が直線に近い場合)と比べて、車両1は、より大きな横偏差Edを伴いつつ目標パスTPに追従するような挙動を示す。
図10(A)に示す設定の利用により、曲率が高い場合には振幅A
LMT(許容上限横偏差)を大きくすることで、システム限界内の挙動の振幅をより大きく確保できる。また、曲率が高い場合には、それが低い場合と比べて、目標パスTPへの収束のために高い変化速度で(つまり、高い周波数fで)車両挙動が制御されることがある。この点に関し、
図10(B)に示す設定の利用により、曲率が高い場合には許容上限周波数f
LMTを高くすることで、システム限界内の挙動の周波数fをより高い値まで許容できる。このため、
図10に示す設定によれば、車両挙動のシステム限界を曲率に応じて適切に判定できる。
【0091】
また、
図11(A)に示す設定によれば、振幅A
LMTは、車速によらずに一定とされる。一般的には、車両が高い速度で走行する場合には、走行車線は直線に近くなる(その曲率が小さくなる)といえる。このため、高速走行時には、パス追従制御の実行中に生じる横偏差Edは小さくなることが多いといえる。したがって、車速に関しては、振幅A
LMTは固定値とするのが妥当であるといえる。一方、車速が高くなると、ある角度で目標パスTPから離れる際に目標パスTPに垂直な方向への速度成分が大きくなる。このため、目標パスTPに追従する際の車両挙動の周波数fが高くなる。
図11(B)に示す設定の利用により、車速が高い場合には許容上限周波数f
LMTを高くすることで、システム限界内の挙動の周波数fをより高い値まで許容できる。このため、車両挙動のシステム限界を車速に応じて適切に判定できる。
【0092】
また、
図12に示す設定例によれば、警報感度が高い場合には、それが低い場合と比べて、振幅A
LMTを低く、かつ、周波数f
LMTを低くすることができる。これにより、運転者により要求される警報感度が高い場合に、車両1のふらつき挙動が相対的に小さな状態でシステム限界の到来を判定して警報を相対的に早く実行できるようになる。
【0093】
実施の形態2.
次に、
図13を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態2に係る車両制御システムの構成の一例として、上述の車両制御システム100の構成が用いられているものとする。
【0094】
1.実施の形態2の概要
本実施形態は、パス追従制御の継続可否判断のためのシステム限界判定処理において、実施の形態1と相違している。具体的には、本実施形態のシステム限界判定処理では、車両1の挙動がシステム限界内か否かを判断するために、
図6に示すような楕円に代えて、許容限界正弦波の傾きの関数に相当する上記余弦関数の最大値(=A
LMT×2πf
LMT)及び最小値(=−A
LMT×2πf
LMT)によって規定される速度範囲R
ΔEdが用いられる。
【0095】
そのうえで、本実施形態のシステム限界判定処理によれば、車両1が目標パスTPと交差する時(すなわち、横偏差Edがゼロである時)の車両1の横偏差速度ΔEdが速度範囲R
ΔEd内に収まっているか否かが判定される。そして、車両1が目標パスTPと交差する時の横偏差速度ΔEdが速度範囲R
ΔEd内に収まっている場合には、車両1の挙動がシステム限界内にあると判断され、パス追従制御が継続される。一方、車両1が目標パスTPと交差する時の横偏差速度ΔEdが速度範囲R
ΔEdから外れている場合には、車両1の挙動がシステム限界を超えているためにパス追従制御の継続が不可と判定され、運転者に車両操作を受け渡すための警報処理が実行される。
【0096】
1−1.システム限界判定処理及び警報処理のルーチン
図13は、本発明の実施の形態2に係るシステム限界判定処理及び警報処理のルーチンを示すフローチャートである。
図13に示すルーチン中のステップS100〜S104、S108及びS110の処理については、実施の形態1において既述した通りである。
【0097】
図13に示すルーチンでは、自動運転制御部72は、ステップS104において現在の横偏差Ed及び横偏差速度ΔEdを算出した後に、ステップS200に進む。ステップS200では、自動運転制御部72は、車両1が目標パスTPと交差する時が到来し、かつ、ステップS104において算出した現在(最新の)横偏差速度ΔEdが速度範囲R
ΔEd内に収まっているか否かを判定する。
【0098】
上記判定に用いられる速度範囲R
ΔEdは、ステップS102において設定された最新の許容限界正弦波の関数を微分して得られる余弦関数の振幅と等しい最大値(=A
LMT×2πf
LMT)と、この最大値の符号を反転させた値である最小値(=−A
LMT×2πf
LMT)とによって特定される。例えば、振幅A
LMT(許容上限横偏差)が1で許容上限周波数f
LMTが0.5である許容限界正弦波(1×sin(2×π×0.5)t)の例では、当該許容限界正弦波の傾きの最大値に相当する余弦関数の最大値は、1π(=1×(2×π×0.5))となる。
【0099】
自動運転制御部72は、ステップS200において車両1が目標パスTPと交差する時の横偏差速度ΔEdが速度範囲R
ΔEd内に収まっていると判定した場合、つまり、車両1の挙動がシステム限界内にあるためにパス追従制御を継続可と判断できる場合には、今回の起動時の本ルーチンの処理を速やかに終了させる。
【0100】
一方、自動運転制御部72は、ステップS200において車両1が目標パスTPと交差する時の横偏差速度ΔEdが速度範囲R
ΔEd内から外れたと判定した場合、つまり、車両1のふらつき挙動のシステム限界が到来したと判断できる場合には、パス追従制御の継続不可と判定し、警報処理(ステップS108)を実行する。
【0101】
2.実施の形態2の効果
以上説明したように、本実施形態の車両制御システム100によれば、許容限界正弦波の傾きの関数に相当する余弦関数の最大値と最小値とにより規定される速度範囲R
ΔEdが、車両1のふらつき挙動がシステム限界内に収まっていることを判断するための境界(閾値)として用いられる。
【0102】
実施の形態1及び2のように車両1のふらつき挙動を目標パスTPを基準とする正弦波で定義した場合、システム限界の判定において最も厳しい条件(システム限界を判定するうえで最も注目すべき条件)は、横偏差速度ΔEdの絶対値が最も大きくなる時(
図6の楕円上の座標点PA、PB)に得られるといえる。換言すると、横偏差速度ΔEdの絶対値が最も大きくなる時は、許容限界正弦波で考えた場合には、車両1の走行軌跡が目標パスTPと交差する時(横偏差Edがゼロの時)に相当する。そして、この時に最も厳しい条件が得られる理由は、走行軌跡が目標パスTPと交差する時に高い横偏差速度ΔEdが生じた場合(つまり、目標パスTPに垂直な方向への車両1の速度成分が大きい場合)には、その大きな速度成分を車両1が維持してふらつき挙動限界を超えてしまう懸念が高いためである。換言すると、車両1が定速でふらつくと仮定した場合、目標パスTPと交差する時の横偏差速度ΔEdの絶対値が余弦関数の最大値よりも低ければ、その後の走行軌跡が正弦波を辿る際に横偏差Edが許容限界正弦波を超えて大きくなることはない(つまり、システム限界を超えない)といえる。
【0103】
したがって、本実施形態のシステム限界判定処理によれば、車両1が定速でふらつくとの仮定の下では、上記余弦関数の最大値及び最小値の2点を利用して車両1が目標パスTPと交差する時の横偏差速度ΔEdを速度範囲R
ΔEdと比較するだけでシステム限界の簡易的な判定が可能となる。このため、実施の形態1のシステム限界判定処理と比べて、制御装置70の計算負荷が低く抑えられるので、計算資源の節約を図りつつシステム限界判定を行える。
【0104】
そして、本実施形態のシステム限界判定処理は、上述のように、車両1のふらつき挙動を目標パスTPを基準とする正弦波で定義するという前提の下で、システム限界の判定における最も厳しい条件に着目して行われる。このように、本判定処理によっても、車両1が正弦波状のふらつき挙動を示すことが考慮された判定が行われるため、このシステム限界判定処理によっても、システム限界を迎えた時の車両1のふらつき挙動と、ふらつき(横偏差Ed)が収束する挙動(目標パスTPに正常に追従する際の挙動)とを適切に判別できるといえる。また、本実施形態によっても、運転者への車両操作の受け渡し時に上述の時間が確保されるので、システム限界(車両操作を受け渡すべき状況)の判定及び警報を適切に行えるようになる。
【0105】
他の実施の形態.
(パス追従制御の他の例)
上述した実施の形態1及び2においては、車両の操舵、加速及び制動を自動的に行う自動運転システムである車両制御システム100を例に挙げた。しかしながら、本発明の対象となる車両制御システムは、目標パスに追従するように車両の走行を制御するパス追従制御を行われる限り、車両の加速及び制動のうちの少なくとも一方については自動的に行われないシステムであってもよい。すなわち、車両の操舵、加速及び制動のうちの少なくとも操舵を自動的に行うものであればよい。
【0106】
また、本発明に係るパス追従制御は、目標パスに追従するように車両の走行が制御される限り、必ずしも自動運転システムによって実行される必要はない。すなわち、パス追従制御は、運転者が主体的に行う操舵を車両制御システムがアシストするために実行されてもよい。
【0107】
また、以上説明した各実施の形態に記載の例、及び他の各変形例は、明示した組み合わせ以外にも可能な範囲内で適宜組み合わせてもよいし、また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形してもよい。