【文献】
MA, L.J., et al.,hypothetical protein RO3G_04512 [Rhizopus delemar RA 99-880].,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online],2015年03月23日,Accession No. EIE79807,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/EIE79807
【文献】
HONG, S.H., et al.,Biotechnology and Bioengineering,2001年,Vol.74, No.2,pp.89-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0006】
一態様において、本発明は、以下:
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド、
からなる群より選択される少なくとも1種のポリペプチドの発現が強化された、変異糸状菌を提供する。
【0007】
別の一態様において、本発明は、上記変異糸状菌を培養することを含む、C4ジカルボン酸の製造方法を提供する。
【0008】
さらなる一態様において、本発明は、宿主糸状菌において、以下:
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド、
からなる群より選択される少なくとも1種のポリペプチドの発現を強化することを含む、変異糸状菌の製造方法を提供する。
【0009】
さらなる一態様において、本発明は、糸状菌において、以下:
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド、
からなる群より選択される少なくとも1種のポリペプチドの発現を強化することを含む、糸状菌におけるC4ジカルボン酸生産能の向上方法を提供する。
【0010】
本発明は、C4ジカルボン酸生産能の向上した変異糸状菌、及び該変異糸状菌を用いたC4ジカルボン酸の製造方法に関する。
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、所与のアミノ酸配列からなるリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現が強化された糸状菌が、そのC4ジカルボン酸生産能を向上させることを見出した。
【0012】
本発明によれば、C4ジカルボン酸生産能が向上した変異糸状菌、及びその製造方法が提供される。本発明の変異糸状菌は、C4ジカルボン酸の生物学的生産のために有用である。本発明の変異糸状菌を用いたC4ジカルボン酸の製造方法によれば、効率の良いC4ジカルボン酸生産が可能になる。本発明の上記及び他の特徴及び利点は、以下の本明細書の記載からより明らかになるであろう。
【0013】
(1.定義)
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman−Pearson法(Science,1985,227:1435−1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETY Ver.12のホモロジー解析プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0015】
本明細書における「1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列」とは、1個以上30個以下、好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列をいう。また本明細書における「1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列」とは、1個以上90個以下、好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、さらにより好ましくは1個以上9個以下のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列をいう。本明細書において、アミノ酸又はヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端及び両末端へのアミノ酸又はヌクレオチドの付加が含まれる。
【0016】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0017】
本明細書において、制御領域と遺伝子との「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0018】
本明細書において、微生物の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該微生物の野生型に存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該微生物に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、微生物に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された微生物と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0019】
本明細書において、微生物の「C4ジカルボン酸生産能」は、該微生物の培養培地におけるC4ジカルボン酸の生産速度として表され、より詳細には、該微生物の培養開始後一定時間経過時までに該微生物により生産されたC4ジカルボン酸の培地体積あたりの質量を培養時間で割った値(g/L/h)で表される。微生物のC4ジカルボン酸の生産量は、該微生物の培養物から細胞を除いた培養上清中のC4ジカルボン酸の量として算出することができる。培養上清中のC4ジカルボン酸の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により測定することができる。より具体的な測定手順は、後述の参考例1に例示する。
【0020】
本明細書において、変異体における「C4ジカルボン酸生産能の向上」とは、該変異体のC4ジカルボン酸生産能が、宿主又はコントロールと比較して向上されたことをいう。変異体におけるC4ジカルボン酸生産能の向上率は、以下の式で計算される。
向上率(%)
=(変異体のC4ジカルボン酸生産能/宿主又はコントロールのC4ジカルボン酸生産能)×100−100
ここで、変異体とは、宿主細胞に対して所与の形質が変化するような改変を加えた細胞をいい、宿主とは、該変異体の宿主(親細胞又は親生物体)をいう。コントロールとしては、該変異体と同じ改変を加えた宿主細胞と異なる種の細胞又は生物体、あるいは該改変を加えなかった宿主細胞又は生物体(例えば、空ベクターもしくはコントロール配列を導入した宿主細胞や生物体など)が挙げられる。好ましくは、変異体におけるC4ジカルボン酸生産能の向上率は、該変異体によるC4ジカルボン酸の生産速度が最大となる時点における、各細胞又は生物体のC4ジカルボン酸生産能に基づいて計算される。本明細書において、「C4ジカルボン酸生産能がX%以上向上した変異体」とは、上記式で計算されるC4ジカルボン酸生産能の向上率がX%以上である変異体をいい、また変異体における「C4ジカルボン酸生産能のX%以上の向上」とは、上記式で計算される該変異体のC4ジカルボン酸生産能の向上率がX%以上であることを意味する。
【0021】
本発明により製造されるC4ジカルボン酸の例としては、フマル酸、リンゴ酸、及びコハク酸が挙げられ、好ましくはフマル酸及びリンゴ酸、より好ましくはフマル酸が挙げられる。
【0022】
本明細書において、「リンゴ酸酵素活性」とは、リンゴ酸を脱炭酸してピルビン酸とCO
2を生成する活性をいい、好ましくは、下記に示す、NAD
+又はNADP
+の還元と共役してリンゴ酸を酸化的に脱炭酸し、ピルビン酸とCO
2、及びNADH又はNADPHを生成する反応を触媒する活性である。
L-malate + NAD(P)
+ ⇔ pyruvate + CO
2 + NAD(P)H
リンゴ酸酵素活性は、公知の方法(例えば、W.Tang et al.,Mol.Biotechnol.,2010,45:121−128に記載の方法)により測定することができる。
【0023】
本明細書において、「リンゴ酸酵素」(malic enzyme、ME)とは、上述したリンゴ酸酵素活性を有する酵素であり、その例としては、EC1.1.1.38(NAD
+のみを利用することが出来るNAD−ME)、EC1.1.1.39(NAD
+とNADP
+の両方を利用することが出来るNAD(P)−ME)又はEC1.1.1.40(NADP
+のみを利用することが出来るNADP−ME)に分類される、NAD−リンゴ酸酵素及びNADP−リンゴ酸酵素が挙げられる。
【0024】
(2.変異糸状菌及びその製造方法)
(2.1.変異糸状菌)
一態様において、本発明は、リンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現が強化された変異糸状菌を提供する。
【0025】
一実施形態において、本発明の変異糸状菌において発現強化されるリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの例としては、以下が挙げられる:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド。
【0026】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、リゾプス属菌起源のリンゴ酸酵素である。配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、RO3G_04512として登録されており、配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなる遺伝子にコードされる。
【0027】
本発明の変異糸状菌において発現強化されるリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドとしては、上記に列挙したポリペプチド(a)〜(c)からなる群より選択されるいずれか1種又はいずれか2種以上が挙げられる。
【0028】
(2.2.変異糸状菌の製造)
本発明の変異糸状菌は、糸状菌を改変し、上記リンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現を強化することによって製造することができる。したがって、さらなる態様において、本発明は、宿主糸状菌において、上記リンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現を強化することを含む、変異糸状菌の製造方法を提供する。
【0029】
本発明の変異糸状菌の宿主糸状菌としては、細区分真菌類(Eumycota)及び卵菌(Oomycota)に属する全ての糸状形の菌が包含される(Hawksworth et al.,In,Ainsworth and Bisby’s Dictionary of The Fungi,8th edition,1995,CAB International,bUniversity,Press,Cambridge,UKにより定義されるもの)。
【0030】
本発明の変異糸状菌の宿主糸状菌の好ましい例としては、Acremonium属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Bjerkandera属、Ceriporiopsis属、Chrysosporium属、Coprinus属、Coriolus属、Cryptococcus属、Filibasidium属、Fusarium属、Humicola属、Magnaporthe属、Mucor属、Myceliophthora属、Neocallimastix属、Neurospora属、Paecilomyces属、Parasitella属、Penicillium属、Phanerochaete属、Phlebia属、Piromyces属、Pleurotus属、Rhizopus属、Schizophyllum属、Talaromyces属、Thermoascus属、Thielavia属、Tolypocladium属、Trametes属、及びTrichoderma属の糸状菌が挙げられる。このうち、C4ジカルボン酸の生産性の観点からは、Rhizopus delemar、Rhizopus arrhizus、Rhizopus chinensis、Rhizopus nigricans、Rhizopus tonkinensis、Rhizopus tritici、Rhizopus oryzae等のRhizopus属菌が好ましく、Rhizopus delemar及びRhizopus oryzaeがより好ましく、Rhizopus delemarがさらに好ましい。
【0031】
一実施形態において、本発明の変異糸状菌の宿主糸状菌は、Rhizopus属菌の変異株であってもよく、該変異株の例としては、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子欠失(Δadh)株(特願2016−000184、その全体が本明細書において参考として援用される)、ピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子欠失(Δpdc)株(PCT/JP2017/003647、その全体が本明細書において参考として援用される)などが挙げられる。
【0032】
宿主糸状菌においてリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現を強化する手段としては、宿主細胞に対して該ポリペプチドをコードする遺伝子を外部から発現可能に導入するか、又は宿主ゲノム上の該ポリペプチドをコードする遺伝子の制御領域を改変することによって、宿主内での該遺伝子の転写量を向上させる方法などが挙げられる。
【0033】
好ましい実施形態において、本発明によるリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現の強化は、該ポリペプチドをコードする遺伝子を含有するDNA断片又はベクターを、宿主糸状菌に導入することによって行われる。該DNA断片又はベクターに含まれるリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が発現することによって、目的のリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現量が増加する。
【0034】
好ましい実施形態において、発現強化されるべきリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子としては、以下が挙げられる:
(a')配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;ならびに、
(c')配列番号1で示されるヌクレオチド配列に対して1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【0035】
本発明による変異糸状菌の製造方法において、上記に挙げたポリヌクレオチド(a')〜(c')は、いずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
上記に挙げたポリヌクレオチドは、1本鎖もしくは2本鎖の形態であり得、又はDNAであってもRNAであってもよい。該DNAは、cDNA、化学合成DNA等の人工DNAであり得る。
【0037】
当該ポリヌクレオチド(a')〜(c')は、遺伝子工学的又は化学的に合成することができる。例えば、配列番号1で示されるポリヌクレオチドは、リゾプス属菌、例えばRhizopus delemar、Rhizopus oryzae等から単離することにより調製することができる。あるいは、配列番号1で示されるヌクレオチド配列を基に、化学合成することができる。配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号1で示されるヌクレオチド配列に対して1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに対して、紫外線照射や部位特異的変異導入のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入することによって作製することができる。
【0038】
ヌクレオチド配列に対してヌクレオチドの欠失、置換、付加、又は挿入等の変異を導入する手法としては、例えば、エチルメタンスルホネート、N−メチル−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸等の化学的変異原又は紫外線、X線、ガンマ線、イオンビーム等の物理的変異原による突然変異誘発、部位特異的変異導入法、Dieffenbachら(Cold Spring Harbar Laboratory Press,New York,581−621,1995)に記載の方法、などが挙げられる。部位特異的変異導入の手法としては、Splicing overlap extension(SOE)PCR(Horton et al.,Gene 77,61−68,1989)を利用した方法、ODA法(Hashimoto−Gotoh et al.,Gene,152,271−276,1995)、Kunkel法(Kunkel,T.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1985,82,488)等が挙げられる。あるいは、Site−Directed Mutagenesis System Mutan−SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer
TM Site−Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD−Plus−Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販の部位特異的変異導入用キットを利用することもできる。
【0039】
好ましくは、宿主糸状菌に導入されるポリヌクレオチドを含有するベクターは、発現ベクターである。また好ましくは、該ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを宿主に導入することができ、かつ宿主内で該ポリヌクレオチドを発現することができる発現ベクターである。好ましくは、該ベクターは、該ポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む。該ベクターは、プラスミド等の染色体外で自立増殖及び複製可能なベクターであってもよく、又は染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
【0040】
具体的なベクターの例としては、例えば、pBluescript II SK(−)(Stratagene)、pUC18、pUC18/19、pUC118/119等のpUC系ベクター(タカラバイオ)、pET系ベクター(タカラバイオ)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア)、pCold系ベクター(タカラバイオ)、pHY300PLK(タカラバイオ)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,1986,Plasmid 15(2):93−103)、pBR322(タカラバイオ)、pRS403(Stratagene)、pMW218/219(ニッポンジーン)、pRI909/910等のpRI系ベクター(タカラバイオ)、pPTR1/2(タカラバイオ)、pBI系ベクター(クロンテック)、IN3系ベクター(インプランタイノベーションズ)、pDJB2(D.J.Ballance et al.,Gene,36,321−331,1985)、pAB4−1(van Hartingsveldt W et al.,Mol Gen Genet,206,71−75,1987)、pLeu4(M.I.G.Roncero et al.,Gene,84,335−343,1989)、pPyr225(C.D.Skory et al.,Mol Genet Genomics,268,397−406,2002)、pFG1(Gruber,F.et al.,Curr Genet,18,447−451,1990)などが挙げられる。
【0041】
宿主糸状菌に導入されるポリヌクレオチドを含有するDNA断片の例としては、PCR増幅DNA断片及び制限酵素切断DNA断片が挙げられる。好ましくは、該DNA断片は、該ポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む発現カセットであり得る。
【0042】
当該ベクター又はDNA断片に含まれる制御領域は、該ベクター又はDNA断片が導入された宿主内で、導入されたポリヌクレオチドを発現させるための配列であり、例えば、プロモーターやターミネーター等の発現調節領域、複製開始点などが挙げられる。該制御領域の種類は、ベクター又はDNA断片を導入する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。必要に応じて、該ベクター又はDNA断片はさらに、抗生物質耐性遺伝子、アミノ酸合成関連遺伝子等の選択マーカーを有していてもよい。
【0043】
好ましくは、当該ベクター又はDNA断片に含まれる制御領域は、宿主ゲノムに本来備わるポリヌクレオチド(a')〜(c')の制御領域と比較して、より高い転写活性を有する制御領域(いわゆる強制御領域)である。リゾプス属菌についての当該強制御領域の例としては、これらに限定されないが、ldhAプロモーター(米国特許第6268189号)、pgk1プロモーター(国際公開第2001/73083号)、pgk2プロモーター(国際公開第2001/72967号)、pdcAプロモーター及びamyAプロモーター(Archives of Microbiology,2006,186:41−50)、tef及び18SrRNAプロモーター(米国特許出願公開第2010/112651号)、adh1プロモーター(国際公開第2017/022583号)などが挙げられる(本段落において引用された文献は、その全体が本明細書において参考として援用される)。強制御領域のさらなる例としては、これらに限定されないが、rRNAオペロンの制御領域、リボソームタンパク質をコードする遺伝子の制御領域などが挙げられる。
【0044】
当該ベクター又はDNA断片に含まれる目的のポリヌクレオチド及び制御領域は、宿主の核に導入されてもよいが、宿主ゲノムに導入されてもよい。あるいは、当該ベクター又はDNA断片に含まれる目的のポリヌクレオチドを、宿主ゲノムに直接導入して、該ゲノム上の高発現プロモーターと作動可能に連結させてもよい。ポリヌクレオチドをゲノムに導入する手段としては、相同組換え法が挙げられる。
【0045】
宿主糸状菌へのベクター又はDNA断片の導入には、一般的な形質転換法、例えばエレクトロポレーション法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム法等を用いることができる。
【0046】
ベクター又はDNA断片を宿主ゲノムに導入する手段の例としては、これに限定されるものではないが、人工DNA切断酵素(artificial DNA nucleases又はProgrammable nuclease)を用いたゲノム編集が挙げられる。ゲノム編集技術としては、TALEN(transcription activator−like effector nuclease)、ZFN(zinc−finger nuclease)、又はCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)−Cas9システム、CRISPR−Cpf1、Homing endonuclease、compact designer TALENなどが挙げられる。これらの技術に基づくゲノム編集のためのキットは市販されており、例えばLife technologies社、Cellectis社、Transposagen Biopharmaceuticals社などから購入することができる。
【0047】
目的のベクター又はDNA断片が導入された変異体は、選択マーカーを利用して選択することができる。例えば、選択マーカーが抗生物質耐性遺伝子である場合、該抗生物質添加培地で細胞を培養することで、目的のベクター又はDNA断片が導入された変異体を選択することができる。また例えば、選択マーカーがアミノ酸合成関連遺伝子、塩基合成関連遺伝子等の栄養要求性関連遺伝子である場合、該栄養要求性の宿主に遺伝子導入した後、該栄養要求性の有無を指標に、目的のベクター又はDNA断片が導入された変異体を選択することができる。あるいは、PCR等によって変異体のDNA配列を調べることで目的のベクター又はDNA断片の導入を確認することもできる。
【0048】
別の好ましい実施形態において、本発明によるリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドの発現の強化は、宿主糸状菌のゲノム上における該ポリペプチドをコードする遺伝子の制御領域を改変し、該遺伝子の転写量を向上させることによって行われる。本実施形態で転写量向上の標的とする遺伝子としては、上述したポリヌクレオチド(a')〜(c')のいずれか1種又はいずれか2種以上が挙げられる。
【0049】
目的の遺伝子の転写量を向上させるためのゲノム改変の手順としては、例えば、宿主ゲノム上の目的の遺伝子の制御領域に対し、上述した強制御領域を置換するか又は挿入して、該強制御領域を目的の遺伝子と作動可能に連結させることが挙げられる。ゲノム領域の置換又は挿入の手段としては、相同組換え法が挙げられ、さらに上述したゲノム編集技術を組み合わせてもよい。
【0050】
以上の手順で得られた本発明の変異糸状菌は、その宿主(親糸状菌)と比較して、リンゴ酸酵素活性が向上している。好ましくは、本発明の変異糸状菌のリンゴ酸酵素活性は、宿主に対して1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上である。
【0051】
(2.3.C4ジカルボン酸生産能の向上)
本発明の変異糸状菌は、その宿主と比較して、C4ジカルボン酸生産能が向上している。好ましくは、本発明の変異糸状菌のC4ジカルボン酸生産能は、宿主に対して10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上向上している。
【0052】
(3.C4ジカルボン酸の製造)
本発明の変異糸状菌は、C4ジカルボン酸生産能が向上している。したがって、さらなる態様において、本発明は、上記本発明の変異糸状菌を培養することを含むC4ジカルボン酸の製造方法を提供する。該本発明の製造方法により製造されるC4ジカルボン酸としては、フマル酸、リンゴ酸、及びコハク酸が挙げられ、好ましくはフマル酸及びリンゴ酸、より好ましくはフマル酸が挙げられる。
【0053】
変異糸状菌を培養するための培地及び培養条件は、該変異糸状菌の宿主の種類に応じて適宜選択することができる。一般的には、該変異糸状菌の宿主に対して通常用いられる培地及び培養条件を採用することができる。
【0054】
例えば、培養温度は、10℃〜50℃、好ましくは25℃〜45℃であればよい。培養期間は、目的のC4ジカルボン酸が充分に産生される期間であれば特に限定されないが、例えば1〜240時間、好ましくは12〜120時間、好ましくは24〜72時間であり得る。攪拌又は通気下で培養することが好ましい。
【0055】
糸状菌培養のための培地としては、通常用いられるものを使用すればよい。好ましくは、該培地は液体培地であり、また合成培地、天然培地、及び合成培地に天然成分を添加した半合成培地のいずれであってもよい。市販のPDB培地(ポテトデキストロース培地;ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー製等)、PDA培地(ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー製等)、LB培地(Luria−Bertani培地;日本製薬社製(商標名「ダイゴ」)等)、NB培地(Nutrient Broth;ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー製等)、SB培地(Sabouraud培地;OXOID社製等)、SD培地(Synthetic Dropout Broth;例えばClontech)なども使用可能である。当該培地には、炭素源、窒素源、無機塩等が含まれるのが一般的であるが、各成分組成は適宜選択可能である。
【0056】
以下に、糸状菌培養のための好ましい培地組成について詳述する。以下に記載する培地中の各成分の濃度は、初発(培地調製時又は培養開始時)の濃度を表す。
【0057】
当該培地中の炭素源の例としては、グルコース、マルトース、でんぷん加水分解物、フルクトース、キシロース、スクロース等が挙げられ、このうち、グルコース及びフルクトースが好ましい。これらの糖類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。該培地中の炭素源の濃度は、好ましくは1%(w/v)以上、より好ましくは5%(w/v)以上、さらにより好ましくは7.5%(w/v)以上であって、かつ好ましくは40%(w/v)以下、より好ましくは30%(w/v)以下である。あるいは、当該培地中の炭素源の濃度は、好ましくは1〜40%(w/v)、より好ましくは5〜30%(w/v)、さらにより好ましくは7.5〜30%(w/v)である。
【0058】
当該培地中の窒素源の例としては、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等の含窒素化合物が挙げられる。該培地中の窒素源の濃度は、好ましくは0.001〜0.5%(w/v)、より好ましくは0.001〜0.2%(w/v)である。
【0059】
当該培地には、硫酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩などを含有することができる。硫酸塩の例としては、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。マグネシウム塩の例としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。亜鉛塩の例としては、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。該培地中の硫酸塩の濃度は、好ましくは0.001〜0.5%(w/v)、より好ましくは0.001〜0.2%(w/v)である。該培地中のマグネシウム塩の濃度は、好ましくは0.001〜0.5%(w/v)、より好ましくは0.01〜0.1%(w/v)である。該培地中の亜鉛塩の濃度は、好ましくは0.001〜0.05%(w/v)、より好ましくは0.005〜0.05%(w/v)である。
【0060】
当該培地のpH(25℃)は、好ましくは3〜7、より好ましくは3.5〜6である。培地のpHは、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、アンモニア等の塩基、又は硫酸、塩酸等の酸を用いて調整することができる。
【0061】
当該培地の好ましい例としては、7.5〜30%炭素源、0.001〜0.2%硫酸アンモニウム、0.01〜0.6%リン酸2水素カリウム、0.01〜0.1%硫酸マグネシウム・7水和物、0.005〜0.05%硫酸亜鉛・7水和物、及び3.75〜20%炭酸カルシウム(いずれも濃度は%(w/v))を含有する液体培地が挙げられる。
【0062】
糸状菌を用いてより効率的にC4ジカルボン酸を生産するには、以下に示すような工程で生産を行ってもよい。すなわち、糸状菌の胞子懸濁液を調製し(工程A)、それを培養液で培養して胞子を発芽させ菌糸体を調製し(工程B1)、好適にはさらに当該菌糸体を増殖させ(工程B2)、次いで調製した菌糸体を培養してC4ジカルボン酸を生産させること(工程C)により、効率よくC4ジカルボン酸を製造することができる。ただし、本発明における変異糸状菌の培養工程は、以下の工程に限定されない。
【0063】
<工程A:胞子懸濁液の調製>
変異糸状菌の胞子を、例えば、無機寒天培地(組成例:2%グルコース、0.1%硫酸アンモニウム、0.06%リン酸2水素カリウム、0.025%硫酸マグネシウム・7水和物、0.009%硫酸亜鉛・7水和物、1.5%寒天、いずれも濃度は%(w/v))、PDA培地、等の培地に接種し、10〜40℃、好ましくは27〜30℃にて、7〜10日間静置培養を行なうことにより胞子を形成させ、次いで生理食塩水などに懸濁することで、胞子懸濁液を調製することができる。胞子懸濁液には菌糸体が含まれていても、含まれていなくてもよい。
【0064】
<工程B1:菌糸体の調製>
工程Aで得られた胞子懸濁液を、培養液に接種して培養し、胞子を発芽させて菌糸体を得る。培養液に接種する糸状菌の胞子数は、1×10
2〜1×10
8個−胞子/mL−培養液、好ましくは1×10
2〜5×10
4個−胞子/mL−培養液、より好ましくは5×10
2〜1×10
4個−胞子/mL−培養液、さらに好ましくは1×10
3〜1×10
4個−胞子/mL−培養液である。培養液には、市販の培地、例えば、PDB培地、LB培地、NB培地、SB培地、SD培地等が利用できる。該培養液には、発芽率と菌体生育の観点から、炭素源としてグルコース、キシロースなどの単糖、シュークロース、ラクトース、マルトースなどのオリゴ糖、又はデンプン等の多糖;グリセリン、クエン酸などの生体成分;窒素源として硫酸アンモニウム、尿素、アミノ酸等;その他無機物としてナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、リン酸等の各種塩類、を適宜添加することができる。単糖、オリゴ糖、多糖及びグリセリンの好ましい濃度は0.1〜30%(w/v)、クエン酸の好ましい濃度は0.01〜10%(w/v)、硫酸アンモニウム、尿素及びアミノ酸の好ましい濃度は0.01〜1%(w/v)、無機物の好ましい濃度は0.0001〜0.5%(w/v)である。当該培養液に胞子懸濁液を接種し、好ましくは80〜250rpm、より好ましくは100〜170rpmで攪拌しながら、25〜42.5℃の培養温度制御下で、好ましくは24〜120時間、より好ましくは48〜72時間培養する。培養に供する培養液の量は、培養容器にあわせて適宜調整すればよいが、例えば、200mL容バッフル付フラスコの場合は50〜100mL程度、500mL容バッフル付フラスコの場合は100〜300mL程度であればよい。この培養により、接種した胞子は発芽し、菌糸体へと成長する。
【0065】
<工程B2:菌糸体の増殖>
C4ジカルボン酸生産能向上の観点から、工程B1で得られた菌糸体をさらに培養して増殖させる工程(工程B2)を行うことが好ましい。工程B2で使用する増殖用の培養液は特に限定されないが、通常使用されるグルコースを含む無機培養液であればよく、例えば、7.5〜30%グルコース、0.001〜0.2%硫酸アンモニウム、0.01〜0.6%リン酸2水素カリウム、0.01〜0.1%硫酸マグネシウム・7水和物、0.005〜0.05%硫酸亜鉛・7水和物、及び3.75〜20%炭酸カルシウム(いずれも濃度は%(w/v))を含有する培養液等が挙げられる。当該培養液の量は、培養容器にあわせて適宜調整すればよいが、例えば、500mL容三角フラスコの場合は50〜300mL、好ましくは100〜200mLであればよい。この培養液に、工程B1で培養した菌体を、湿重量として1〜6g−菌体/100mL−培養液、好ましくは3〜4g−菌体/100mL−培養液となるよう接種し、100〜300rpm、好ましくは170〜230rpmで攪拌しながら、25〜42.5℃の培養温度制御下で、12〜120時間、好ましくは24〜72時間培養する。
【0066】
<工程C:C4ジカルボン酸生産>
上記の手順(工程B1又はB2)で得られた糸状菌の菌糸体を培養して、当該菌にC4ジカルボン酸を生産させる。該培養の条件は、上述した通常の糸状菌の培養条件に従えばよい。培地の量は、200mL容三角フラスコの場合は20〜80mL程度、500mL容三角フラスコの場合は50〜200mL程度、30Lジャーファーメンターの場合は10L〜15L程度とすることができるが、培養容器にあわせて適宜調整すればよい。培地に対する工程B1又はB2で得られた菌体の接種量は、好ましくは湿重量として5g〜90g−菌体/100mL−培地、より好ましくは5g〜50g−菌体/100mL−培地であり得る。好適には、培養は、100〜300rpm、好ましくは150〜230rpmで攪拌しながら、25〜45℃の温度下で、2時間〜240時間、好ましくは12時間〜120時間行われる。ジャーファーメンターを用いる場合は、通気は好ましくは0.05〜2vvm、より好ましくは0.1〜1.5vvmにて行う。
【0067】
以上の手順で本発明の変異糸状菌を培養し、C4ジカルボン酸を生産させる。培養後、培養物からC4ジカルボン酸を回収する。必要に応じて、回収したC4ジカルボン酸をさらに精製してもよい。培養物からC4ジカルボン酸を回収又は精製する方法は、特に限定されず、公知の回収又は精製方法に従って行えばよい。例えば、傾斜法、ろ過、遠心分離などにより培養物から細胞等を除去し、残った培養物を、必要に応じて濃縮した後、晶析法、イオン交換法、溶剤抽出法等の方法、又はこれらの組み合わせにかけることで、該培養物中のC4ジカルボン酸を回収又は精製することができる。
【0068】
培養物から分離された本発明の変異糸状菌は、C4ジカルボン酸生産に再利用することができる。例えば、培養物から分離した本発明の変異糸状菌に、上述した培地を新たに加え、再び上記条件で培養してC4ジカルボン酸を生産させ、次いで生産されたC4ジカルボン酸を培地から回収することができる。さらにこの過程を繰り返すことができる。本発明の製造方法において、変異糸状菌の培養及びC4ジカルボン酸の回収は、回分式、半回分式及び連続式のいずれの方法で行ってもよい。
【0069】
(4.例示的実施形態)
本発明の例示的実施形態として、以下の物質、製造方法、用途、方法等をさらに本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0070】
〔1〕以下からなる群より選択される少なくとも1種のポリペプチドの発現が強化された、変異糸状菌:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド。
【0071】
〔2〕好ましくは、以下からなる群より選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドを含有するDNA断片又はベクターを導入された、〔1〕記載の変異糸状菌:
(a')配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;ならびに、
(c')配列番号1で示されるヌクレオチド配列に対して1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【0072】
〔3〕好ましくは、前記DNA断片又はベクターが、前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された制御領域をさらに含有する、〔2〕記載の変異糸状菌。
【0073】
〔4〕好ましくは、前記DNA断片又はベクターが、核内もしくはゲノムに導入されている、〔2〕又は〔3〕記載の変異糸状菌。
【0074】
〔5〕好ましくは、ゲノム上の前記ポリペプチドをコードする遺伝子の制御領域が、該遺伝子の転写量を向上させるように改変されており、該遺伝子が、以下からなる群より選択される少なくとも1種である、〔1〕記載の変異糸状菌:
(a')配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;ならびに、
(c')配列番号1で示されるヌクレオチド配列に対して1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【0075】
〔6〕好ましくは、前記制御領域に対して強制御領域が置換又は挿入されている、〔5〕記載の変異糸状菌。
【0076】
〔7〕好ましくは、前記糸状菌がリゾプス属菌である、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項記載の変異糸状菌。
【0077】
〔8〕前記リゾプス属菌が、
好ましくは、リゾプス・デレマー又はリゾプス・オリゼであり、
より好ましくはリゾプス・デレマーである、
〔7〕記載の変異糸状菌。
【0078】
〔9〕好ましくは、前記リゾプス属菌がΔadh又はΔpdc株である、〔7〕又は〔8〕記載の変異糸状菌。
【0079】
〔10〕C4ジカルボン酸生産能が、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上向上している、〔1〕〜〔9〕のいずれか1項記載の変異糸状菌。
【0080】
〔11〕前記C4ジカルボン酸が、
好ましくは、フマル酸、リンゴ酸又はコハク酸であり、
より好ましくはフマル酸又はリンゴ酸であり、
さらに好ましくはフマル酸である、
〔10〕記載の変異糸状菌。
【0081】
〔12〕〔1〕〜〔11〕のいずれか1項記載の変異糸状菌を培養することを含む、C4ジカルボン酸の製造方法。
【0082】
〔13〕前記培養物からC4ジカルボン酸を回収することをさらに含む、〔12〕記載の製造方法。
【0083】
〔14〕前記C4ジカルボン酸が、
好ましくは、フマル酸、リンゴ酸又はコハク酸であり、
より好ましくはフマル酸又はリンゴ酸であり、
さらに好ましくはフマル酸である、
〔12〕又は〔13〕記載の製造方法。
【0084】
〔15〕宿主糸状菌において、以下からなる群より選択される少なくとも1種のポリペプチドの発現を強化することを含む、変異糸状菌の製造方法:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド。
【0085】
〔16〕糸状菌において、以下からなる群より選択される少なくとも1種のポリペプチドの発現を強化することを含む、糸状菌におけるC4ジカルボン酸生産能の向上方法:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド;ならびに、
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチド。
【0086】
〔17〕好ましくは、前記発現の強化が、以下からなる群より選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドを含有するDNA断片又はベクターを導入することを含む、〔15〕又は〔16〕記載の方法:
(a')配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;ならびに、
(c')配列番号1で示されるヌクレオチド配列に対して1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【0087】
〔18〕好ましくは、前記DNA断片又はベクターが、前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された制御領域をさらに含有する、〔17〕記載の方法。
【0088】
〔19〕好ましくは、前記DNA断片又はベクターの導入が、該DNA断片又はベクターを核内もしくはゲノムに導入することを含む、〔17〕又は〔18〕記載の方法。
【0089】
〔20〕好ましくは、ゲノム上の前記ポリペプチドをコードする遺伝子の制御領域を、該遺伝子の転写量を向上させるように改変することを含み、該遺伝子が、以下からなる群より選択される少なくとも1種である、〔15〕又は〔16〕記載の方法:
(a')配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;ならびに、
(c')配列番号1で示されるヌクレオチド配列に対して1個又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列からなり、かつリンゴ酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【0090】
〔21〕好ましくは、前記制御領域の改変が、該制御領域に対して強制御領域を置換又は挿入することを含む、〔20〕記載の方法。
【0091】
〔22〕好ましくは、前記糸状菌がリゾプス属菌である、〔15〕〜〔21〕のいずれか1項記載の方法。
【0092】
〔23〕前記リゾプス属菌が、
好ましくは、リゾプス・デレマー又はリゾプス・オリゼであり、
より好ましくはリゾプス・デレマーである、
〔22〕記載の方法。
【0093】
〔24〕好ましくは、前記リゾプス属菌がΔadh又はΔpdc株である、〔22〕又は〔23〕記載の方法。
【0094】
〔25〕前記ポリペプチドの発現を強化した糸状菌のC4ジカルボン酸生産能が、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上向上している、〔15〕〜〔24〕のいずれか1項記載の方法。
【0095】
〔26〕前記C4ジカルボン酸が、
好ましくは、フマル酸、リンゴ酸又はコハク酸であり、
より好ましくはフマル酸又はリンゴ酸であり、
さらに好ましくはフマル酸である、
〔25〕記載の方法。
【実施例】
【0096】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0097】
実施例1 変異糸状菌の作製
本実施例で用いたPCRプライマーを表1−1及び表1−2に示す。
【0098】
【表1-1】
【0099】
【表1-2】
【0100】
(1)ゲノム抽出
PDA培地にRhizopus delemar JCM(Japan Collection of Microorganisms/理研)5557株(以降、5557株と表記)の胞子を植菌後、30℃で5日間培養を行った。培養後、菌体を3mL用メタルコーン(安井器械)とともに3mL破砕チューブに入れ、直ちに液体窒素中で10分間以上凍結させた。その後、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて1700rpmで10秒間菌体の破砕を行った。破砕後の容器にTE Buffer(pH8.0)(ニッポンジーン)を400μL加え転倒混和し、250μLを1.5mLチューブに移した。該菌体溶液から、“Genとるくん(酵母用)”(タカラバイオ)を用いて、プロトコールに従いゲノム抽出を行った。得られたゲノム溶液50μLに対し、RNaseA(ロシュ)を1μL添加し、37℃で1時間反応させた。反応後、等量のフェノール/クロロホルムを加え、タッピングにより混和した後、4℃、14500rpmで5分間遠心し、上清を新しい1.5mLチューブに移した。再度フェノール/クロロホルム処理を繰り返し、次いでエタノール沈殿を行い、5557株の精製ゲノム溶液を得た。
【0101】
(2)cDNAの作製
(i)total RNA抽出
5557株の菌体6g−湿重量を、液体培地40mL(0.1g/L(NH
4)
2SO
4、0.6g/L KH
2PO
4、0.25g/L MgSO
4・7H
2O、0.09g/L ZnSO
4・7H
2O、50g/L 炭酸カルシウム、100g/Lグルコース)に植菌し、35℃、170rpmで8時間培養した。培養液中から菌体をろ過、回収し、0.85%生理食塩水100mLで2回洗浄を行った。洗浄後、吸引濾過により余分な水分を取り除いた後、0.3gを量りとり3mL用メタルコーン(安井器械)とともに3mL破砕チューブに入れ、直ちに液体窒素に投入し、凍結させた。得られた凍結菌体を、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて1700rpmで10秒間破砕した。破砕後の菌体にRLT bufferを500μL添加し、転倒混和後、450μLをRNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)に供し、total RNA抽出を行った。得られたRNA溶液40μLに1μLのDNaseI(TaKaRa)及び5μLの10×DNaseI buffer(USB Corporation)を添加し、RNase free waterで50μLにフィルアップした後、37℃で30分以上反応させて溶液中の残存DNAを除去した。DNaseIをさらに1μL追加し、37℃で30分間反応させた後にフェノール/クロロホルム抽出を行い、次いでエタノール沈殿を行った。沈殿を50μLの滅菌水に溶解し、Qubit(Life Technologies)を用いてRNA溶液の濃度及び純度を測定した。また、該RNA溶液を適宜希釈し、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent)及びRNA6000 Pico Kit(Agilent)を用いて抽出したRNAの検定を行った。RNAの分解度指標である「RNA Integrity Number(RIN値)」が6.0以上であることを確認し、得られたRNA溶液をtotal RNAとして取得した。
【0102】
(ii)cDNA合成
cDNA合成は、SuperScriptIII First−Strand Synthesis SuperMix for qRT−PCR(Invitrogen)を用いて行った。すなわち、(i)で得られたRNA溶液1μgをDEPC水で8μLにフィルアップした後、10μLの2×RT Reaxtion Mixと、2μLのRT Enzyme Mixを添加し、穏やかに混ぜ、25℃で10分間、50℃で30分間、85℃で5分間反応させた。反応後の溶液に1μLのRNaseHを加え37℃で20分間反応させ、これをcDNA溶液とした。
【0103】
(3)リンゴ酸酵素RdME1遺伝子含有プラスミドベクターの作製
(i)pUC18へのtrpC遺伝子領域の導入
上記(1)で得られた5557株のゲノムDNAを鋳型に、trpC遺伝子(配列番号3)を含むDNA断片を、プライマーoJK162(配列番号12)及びoJK163(配列番号13)を用いたPCRにて合成した。次に、プラスミドpUC18を鋳型に、プライマーoJK164(配列番号14)及びoJK165(配列番号15)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。以上の2断片をIn−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて連結しプラスミドpUC18−trpCを構築した。
【0104】
(ii)ADH1プロモーター、ターミネーターのクローニング
上記(1)で得られた5557株のゲノムDNAを鋳型に、ADH1のプロモーター配列(配列番号4)を含むDNA断片とターミネーター配列(配列番号5)を含むDNA断片とを、それぞれプライマーoJK202(配列番号16)及びoJK204(配列番号17)、ならびにoJK205(配列番号18)及びoJK216(配列番号19)を用いたPCRにて増幅した。次に、(i)で得られたプラスミドpUC18−trpCを鋳型に、プライマーoJK210(配列番号20)及びoJK211(配列番号21)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。以上の3断片を(i)と同様の手順で連結してプラスミドpUC18−trpC−Padh−Tadhを構築した。得られたプラスミドには、trpC遺伝子領域の下流にADH1プロモーター及びターミネーターが順に配置されている。さらにADH1ターミネーターの下流にはNot I制限酵素認識配列が配置されている。
【0105】
さらに、pUC18−trpC−Padh−Tadhから、trpC遺伝子領域を除いたプラスミドベクターを作製した。すなわち、上記で構築したpUC18−trpC−Padh−Tadhを鋳型に、プライマーtrpC−lost−F(配列番号22)及びtrpC−lost−R(配列番号23)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。本断片を(i)と同様の手順で連結してプラスミドpUC18−Padh−Tadhを構築した。
【0106】
(iii)プラスミドベクター作製
リンゴ酸酵素をコードする遺伝子(以下、RdME1と称する、配列番号1)を、プライマーNK−141(配列番号24)及びNK−163(配列番号25)を用いたPCRにて、(2)で作製したcDNAライブラリーから増幅した。次に、(ii)で得られたプラスミドpUC18−trpC−Padh−Tadhを鋳型に、プライマーNK−011(配列番号26)及びNK−012(配列番号27)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。上記2断片を(i)と同様の手順で連結してプラスミドpUC18−trpC−Padh−RdME1−Tadhを構築した。得られたプラスミドには、ADHプロモーターとターミネーターの間にRdME1遺伝子が挿入されている。
【0107】
(4)trpC knock−in用プラスミドの作製
pdc1遺伝子ローカスにてpdc1遺伝子ORFを除き、trpC遺伝子領域をknock−inするためのプラスミドptrpC−knock−inを作製した。すなわち、pUC18を鋳型にプライマーpUC18−Pae1−F3(配列番号28)及びpUC18−Hind3−R3(配列番号29)にて増幅したpUC18ベクター断片と、JCM5557株のゲノムを鋳型にプライマーPDC1−upstr−F(配列番号30)及びPDC1−upstr−R(配列番号31)にて増幅したpdc遺伝子のプロモーター部位断片と、JCM5557株のゲノムを鋳型にプライマーtrpCpro−R(配列番号32)及びtrpCter−F(配列番号33)にて増幅したtrpC遺伝子領域断片と、JCM5557株のゲノムを鋳型にプライマーPDC1−downstr−F(配列番号34)及びPDC1−downstr−R(配列番号35)にて増幅したpdc遺伝子のターミネーター部位断片を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて連結し、プラスミドptrpC−knock−inを構築した。
【0108】
(5)RdME1遺伝子導入用コンストラクトの作製
(i)trpC knock−in用プラスミドとの連結
(4)で作製したプラスミドptrpC−knock−inを鋳型に、プライマーoJK899(配列番号36)及びoJK900(配列番号37)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。次に、(3)(iii)で得られたプラスミドpUC18−trpC−Padh−RdME1−Tadhを鋳型に、プライマーoJK901(配列番号38)及びNK−195(配列番号39)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。上記2断片を(i)と同様の手順で連結してプラスミドpUC18−Ppdc−trpC−Padh−RdME1−Tpdcを構築した。得られたプラスミドは、trpC knock−in用配列を含み、またADHプロモーターとPDCターミネーターの間に配列番号1で示されるRdME1遺伝子が挿入されている。
【0109】
(ii)一本鎖DNAの調製
(i)で作製したプラスミドpUC18−Ppdc−trpC−Padh−RdME1−Tpdcを鋳型にプライマーoJK902(配列番号40)及びoJK903(配列番号41、5’末端がリン酸化されている)を用いてDNA断片をPCR増幅し、またプラスミドptrpC−knock−inを鋳型にプライマーPDC1−upstr−F2(配列番号42)及びPDC1−downstr−R−P(配列番号43、5’末端がリン酸化されている)を用いてDNA断片をPCR増幅し、鋳型をDpn1(TOYOBO)処理にて分解した後、生成物をフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール処理、及びエタノール沈殿処理にて精製した。精製物を、さらにLambda Exonuclease(NEW ENGLAND BioLabs)を用いて処理した後、上記と同様に精製し、一本鎖DNAを得た。Lambda Exonuclease処理は、37℃、オーバーナイトで行った。
【0110】
(6)pdc1遺伝子破壊用TALENの作製
(i)TALEN発現ベクターの作製
Transposagen Biopharmaceuticals社に依頼し、Custom XTN TALEN(Transposagen Biopharmaceuticals社が提供するTALENの商品名)を作製した。これは、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)をコードする遺伝子(pdc遺伝子;配列番号6)を標的とするTALENのためのキットであり、2つのポリヌクレオチドLeftTALEN−pdc(配列番号7)及びRightTALEN−pdc(配列番号8)を含み、これらはpdc遺伝子を含む領域(配列番号9)に結合する。LeftTALEN−pdcは、pdc遺伝子のセンス鎖中の5’−TGCCTGCTATTAAAATCG−3’(配列番号10)の配列を標的とするTALENをコードし、RightTALEN−pdcは、アンチセンス鎖中の5’−TTGATTTCCTTAAGACGG−3’(配列番号11)の配列を標的とするTALENをコードする。
【0111】
上記LeftTALEN−pdcをコードするポリヌクレオチドを、上記(3)で作製した発現ベクターpUC18−Padh−Tadhに挿入し、adhプロモーターとadhターミネーターの制御下でTALENを発現するベクターを作製した。すなわち、pUC18−Padh−Tadhを鋳型に、プライマーadhpro−R(配列番号44)及びadhter−F(配列番号45)を用いたPCRにてベクター断片を増幅した。続いてLeftTALEN−pdcを鋳型に、プライマーadhpro−TALEN−F(配列番号46)及びTALEN−adhter−R(配列番号47)を用いたPCRにてLeftTALEN−pdc断片を増幅した。上記2断片には、15塩基ずつオーバーラップする領域が存在する。これら2断片をIn−Fusion HD cloning kit(clontech社)にて連結し、LeftTALEN−pdcを含むベクターpadh−LeftTALEN−pdcを得た。
【0112】
同様に、上記RightTALEN−pdcをコードするポリヌクレオチドをpUC18−Padh−Tadhに挿入し、adhプロモーターとadhターミネーターの制御下でTALENを発現するベクターpadh−RightTALEN−pdcを作製した。pUC18−Padh−Tadh断片の増幅には、プライマーadhpro−R(配列番号44)及びadhter−F(配列番号45)を用いた。RightTALEN−pdc断片の増幅には、プライマーadhpro−TALEN−F(配列番号46)及びTALEN−adhter−R(配列番号47)を用いた。
【0113】
(ii)エキソヌクレアーゼ発現ベクターの作製
細胞内でTALENとともにエキソヌクレアーゼを発現させることにより、TALENによる標的DNAの破壊が促進される(Scientific Reports,2013,3:1253,DOI:10.1038/srep01253、Nat Methods,2012,9:973−975)ため、TALEN発現ベクターと共に導入するエキソヌクレアーゼ発現ベクターを作製した。
【0114】
Rhizopus oryzae NRBC5384株の精製ゲノム溶液を鋳型に、プライマーadhpro−exo1−F(配列番号48)及びexo1−adhter−R(配列番号49)を用いてエキソヌクレアーゼ遺伝子断片を、またpUC18−Padh−Tadhを鋳型に、プライマーadhpro−R(配列番号44)及びadhter−F(配列番号45)を用いたPCRにてベクター断片をそれぞれ増幅した。増幅した上記2断片を、In−Fusion HD cloning kit(clontech社)にて連結し、プラスミドpadh−exo1を作製した。
【0115】
(7)宿主への遺伝子導入
(i)トリプトファン栄養要求性株の作製
遺伝子導入の宿主細胞として用いたトリプトファン栄養要求性株は、5557株へのイオンビーム照射による変異導入株の中から選抜し取得した。イオンビーム照射は、独立行政法人日本原子力研究開発機構・高崎量子応用研究所のイオン照射施設(TIARA)において行った。照射は、AVFサイクロトロンを用いて
12C
5+を加速し、220MeVのエネルギーで100〜1250Gray照射した。照射した菌体より胞子を回収し、その中から、トリプトファン栄養要求性を示すRhizopus delemar 02T6株(以降、02T6株と表記)を取得した。02T6株は、trpC遺伝子コーディング領域(配列番号3)全長2298bp中の2093番目が一塩基欠損している。
【0116】
(ii)DNA−金粒子混合液の作製
上記(6)で作製したpadh−LeftTALEN−pdc、padh−RightTALEN−pdc、padh−exo1、及び上記(5)で作製した一本鎖DNAを混合したDNA溶液(1μg/μL)10μLを、金粒子溶液(60mg/mL、INBIO GOLD社、粒子径1μm)100μLに加えた。さらに0.1Mスペルミジンを40μL加え、ボルテックスでよく攪拌した。2.5MのCaCl
2を100μL加え、ボルテックスで1分間攪拌した後、6000rpmで30秒間遠心し、上清を除いた。得られた沈殿に70%EtOHを200μL加え、30秒間ボルテックスで攪拌した後、6000rpmで30秒間遠心し、上清を除いた。得られた沈殿を100μLの100%EtOHで再懸濁した。
【0117】
(iii)遺伝子導入
次に、(i)で作製した02T6株の胞子に対し、(ii)で作製したDNA−金粒子溶液を用い、GDS−80(ネッパジーン)にて遺伝子導入を行った。遺伝子導入後の胞子は、無機寒天培地(20g/Lグルコース、1g/L硫酸アンモニウム、0.6g/Lリン酸2水素カリウム、0.25g/L硫酸マグネシウム・7水和物、0.09g/L硫酸亜鉛・7水和物、15g/L寒天)上で、30℃の条件で1週間程静置培養した。
【0118】
(iv)遺伝子導入株の選択
培養した菌体から胞子を回収し、pH3に調製した無機寒天培地(20g/Lグルコース、1g/L硫酸アンモニウム、0.6g/Lリン酸2水素カリウム、0.25g/L硫酸マグネシウム・7水和物、0.09g/L硫酸亜鉛・7水和物、15g/L寒天)を用いて菌株を単離した。生育した菌株の菌糸を爪楊枝にて一部かき取り、10mM Tris−HCl(pH8.5)に懸濁し、95℃で10分間インキュベートした。その後、10mM Tris−HCl(pH8.5)で適宜希釈し、コロニーPCR用のゲノムテンプレート溶液とした。コロニーPCRは、上記ゲノムテンプレート溶液、プライマーNK−069(配列番号50)とNK−118(配列番号51)、及びKOD FX Neo(TOYOBO)を用いて行った。上記プライマーでコロニーPCRを行った場合、pdc1遺伝子ローカスにtrpC遺伝子断片のknock−inが起こっていれば、DNA断片が増幅する。コロニーPCRによりDNA増幅断片が得られた菌株を、pdc1遺伝子欠失株Δpdc株として取得した。プラスミドpUC18−Ppdc−trpC−Padh−RdME1−Tpdcを用いて遺伝子導入を行った菌株をΔpdc::ME1株とし、プラスミドptrpC−knock−inを用いて遺伝子導入を行った菌株をΔpdc::trpC株とした。残りの菌体を植菌耳で掻き取り、胞子回収溶液(8.5g/L塩化ナトリウム、0.5g/Lポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)中で激しく混和した。混和後の胞子懸濁液を3GP100円筒ロート型ガラスろ過器(柴田化学)にてろ過し、これを胞子液とした。胞子液中の胞子数は、TC20 Automated Cell Counter(バイオラッド)を用いて測定した。
【0119】
実施例2 変異株のリンゴ酸酵素活性測定
(1)菌株の培養
(i)菌糸体の調製
500mL用バッフル付三角フラスコ(旭硝子)に、ソルビタンモノラウレート(レオドールSP−L10(花王))を最終濃度で0.5%(v/v)添加した200mLのSD/−Trp培地(Clontech)を供し、実施例1で調製したΔpdc::ME1株及びΔpdc::trpC株の胞子液を1×10
3個−胞子/mL−培地となるようにそれぞれ接種後、27℃にて3日間、170rpmで攪拌培養した。得られた培養物を予め滅菌処理したメッシュ網目250μmのステンレスふるい(アズワン)を用いてろ過し、菌体をフィルター上に回収した。
【0120】
(ii)菌糸体の増殖
500mL容三角フラスコに供した無機培養液100mL(0.1g/L(NH
4)
2SO
4、0.6g/L KH
2PO
4、0.25g/L MgSO
4・7H
2O、0.09g/L ZnSO
4・7H
2O、50g/L炭酸カルシウム、100g/Lグルコース)に、(i)で回収した湿菌体5.0〜8.0gを接種し、27℃で約40時間、220rpmにて攪拌培養した。得られた培養物を、予め滅菌処理したステンレススクリーンフィルターホルダー(MILLIPORE)を用いてろ過し、フィルター上に菌体を回収した。さらにこのフィルターホルダー上で、200mLの生理食塩水で菌体を洗浄した。洗浄に用いた生理食塩水は吸引ろ過して除去した。
【0121】
(2)菌体破砕液の調製
上記(1)で得られた湿菌体6.0gを、200mL容三角フラスコに供した無機培養液40mL(0.0175g/L(NH
4)
2SO
4、0.06g/L KH
2PO
4、0.375g/L MgSO
4・7H
2O、0.135g/L ZnSO
4・7H
2O、50g/L炭酸カルシウム、100g/Lグルコース)に植菌し、35℃、170rpmで24時間攪拌培養した。得られた培養物を、予め滅菌処理したステンレススクリーンフィルターホルダー(MILLIPORE)を用いてろ過し、フィルター上に菌体を回収した。さらにこのフィルターホルダー上で、200mLの生理食塩水で菌体を洗浄し、生理食塩水を吸引ろ過して除去し、菌体を1.0gずつ−80℃にて凍結した。凍結菌体をマルチビーズショッカー及びメタルコーン(安井器械)を用いて破砕した。ここに50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)1mLを加えて再度破砕し、15000rpm・4℃にて5分間遠心分離した後、上清をAmiconUltra−0.5(3kDa、ミリポア)を用いて濃縮及び洗浄し。菌体破砕液を得た。
【0122】
(3)リンゴ酸酵素活性測定
上記(2)で得られた菌体破砕液を5μL添加した96穴アッセイプレート(イワキ)に、185μLの反応液(終濃度50mM Tris−HCl pH8.0、2.5mM MnCl
2、0.2mM NAD
+)を加え、200mM リンゴ酸を10μL添加することで反応を開始した。30℃における340nmの吸光度変化(NADHの吸光係数=6200 M
-1cm
-1)の傾きを基準として活性値(mU/菌体湿重量g)を算出した。このとき、活性単位(U)は1分間に消費されたリンゴ酸の量(μmol/min)と定義した。測定結果を表2に示す。参照株であるΔpdc::trpC株と比較して、Δpdc::ME1株ではリンゴ酸酵素活性が約3倍に向上した。
【0123】
【表2】
【0124】
実施例3 Δpdc::ME1株のC4ジカルボン酸生産能
(1)菌株の培養
実施例2(1)と同様の条件で菌糸体を調製し増殖させた。
【0125】
(2)形質転換株のC4ジカルボン酸生産性評価
上記(1)で得られたΔpdc::ME1株及びΔpdc::trpC株の湿菌体6.0gを、200mL容三角フラスコに供した無機培養液40mL(0.0175g/L(NH
4)
2SO
4、0.06g/L KH
2PO
4、0.375g/L MgSO
4・7H
2O、0.135g/L ZnSO
4・7H
2O、50g/L炭酸カルシウム、100g/Lグルコース)に植菌し、35℃、170rpmで攪拌培養した。培養8時間後に、菌体を含まない培養上清を回収し、後述する参考例1に記載の手順にてC4ジカルボン酸(フマル酸)の定量を行った。求めたC4ジカルボン酸の量に基づいて、下記式に従いΔpdc::ME1株におけるC4ジカルボン酸生産能向上率を算出した。
向上率(%)
=(Δpdc::ME1株における生産速度/Δpdc::trpC株における生産速度)×100−100
結果を表3に示す。RdME1遺伝子を導入されていないΔpdc::trpC株と比較して、Δpdc::ME1株では、40%のフマル酸生産能の向上が観察された。
【0126】
【表3】
【0127】
参考例1 C4ジカルボン酸の定量
培養上清中のC4ジカルボン酸の定量は、HPLCにより行った。HPLC分析に供する培養上清は、予め37mM硫酸にて適宜希釈した後、DISMIC−13cp(0.20μmセルロースアセテート膜、ADVANTEC)又はアクロプレップ96フィルタープレート(0.2μmGHP膜、日本ポール)を用いて不溶物の除去を行なった。
HPLCの装置は、LaChrom Elite(日立ハイテクノロジーズ)を用いた。分析カラムには、ICSep ICE−ION−300 Guard Column Cartride(4.0mmI.D.×2.0cm、TRANSGENOMIC)を接続した有機酸分析用ポリマーカラムICSep ICE−ION−300(7.8mm I.D.×30cm、TRANSGENOMC)を用い、溶離液は10mM硫酸、流速0.5mL/分、カラム温度50℃の条件にて溶出を行なった。C4ジカルボン酸の検出には、UV検出器(検出波長210nm)を用いた。濃度検量線は、標準試料〔フマル酸(販売元コード063−00655、和光純薬工業)〕を用いて作成し、濃度検量線に基づいて培養上清中のC4ジカルボン酸の定量を行なった。
【0128】
定量した培地中のC4ジカルボン酸量から、該培地の初発C4ジカルボン酸量を引いた値を、C4ジカルボン酸生産量とした。培養開始後8時間時点での培地あたりのC4ジカルボン酸量を培養時間で割った値を、該細胞のC4ジカルボン酸の生産速度として算出した。