(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態では、レーダ装置1によって測定される対象物を人間や動物などの生体とし、測定部位Aを当該生体の胸部とする。以下では、生体の呼吸に伴う胸部の皮膚表面の微細な動き(変動)を検出する場合について説明する。
【0011】
〔レーダ装置の構成〕
図1に示すように、レーダ装置1は、ドップラセンサの一種である電波センサ2と、検出部3とを備えている。
【0012】
電波センサ2は、第1アンテナユニット21と、第2アンテナユニット22と、レーダ部23とを備えている。
第1アンテナユニット21は、生体の測定部位Aに対して所定周波数の電波(第1電波)を送信する第1送信アンテナ部21Tと、生体で反射された反射波を受信する第1受信アンテナ部21Rとを有する。第1送信アンテナ部21Tおよび第1受信アンテナ部21Rは、それぞれ1以上のアンテナ素子を含んで構成される。
同様に、第2アンテナユニット22は、生体の測定部位Aに対して所定周波数の電波(第2電波)を送信する第2送信アンテナ部22Tと、生体で反射された反射波を受信する第2受信アンテナ部22Rとを有する。第2送信アンテナ部22Tおよび第2受信アンテナ部22Rは、それぞれ1以上のアンテナ素子を含んで構成される。
なお、第1送信アンテナ部21Tから送信される電波と、第2送信アンテナ部22Tから送信される電波とは、周波数および位相が同一である。
【0013】
以下、第1送信アンテナ部21Tおよび第2送信アンテナ部22Tを、単に送信アンテナ部21T,22Tと称し、第1受信アンテナ部21Rおよび第2受信アンテナ部22Rを単に受信アンテナ部21R,22Rと称する場合がある。
【0014】
また、第1アンテナユニット21および第2アンテナユニット22は、生体に対してそれぞれ異なる位置に配置される。これらの第1アンテナユニット21および第2アンテナユニット22の配置については、後述にて詳細に説明する。
【0015】
レーダ部23は、送信アンテナ部21T,22Tに対して電波の送信信号を出力すると共に、受信アンテナ部21R,22Rから電波の受信信号を入力され、送信信号と受信信号との間の周波数の差に応じた2つのドップラ信号(I信号およびQ信号)を出力する。
【0016】
具体的には、レーダ部23は、
図2に示すように、発振器231、分配器232,233、移相器234およびミキサ235,236を含んで構成される。このレーダ部23において、発振器231は、所定周波数(例えば24GHz)の送信信号を発振する。発振器231が出力する送信信号は、分配器232を介して、送信アンテナ部21T,22Tに供給される。これにより、送信アンテナ部21T,22Tから電波(例えばマイクロ波)が送信される。
【0017】
また、レーダ部23において、受信アンテナ部21R,22Rから入力された受信信号は、分配器233によって分配され、一方がミキサ235に供給され、他方が移相器234によりπ/2(90°)シフトされ、ミキサ236に供給される。そして、発振器231からの送信信号は、分配器232を介してミキサ235,236に供給され、それぞれのミキサ235,236から2つのドップラ信号の出力が得られる。2つのドップラ信号は、基準となるI信号と、I信号から90°シフトされたQ信号とであり、各出力ポートから検出部3に出力される。
【0018】
なお、I信号およびQ信号は、それぞれ測定部位Aの変動速度に比例した周波数を有しており、測定部位Aの変動状態(接近または離反)により位相状態が変化する。具体的には、測定部位Aが近づいてくる間、I信号はQ信号よりπ/2進んでおり、測定部位Aが遠ざかっていく間、I信号はQ信号よりπ/2遅れる。
【0019】
検出部3は、信号処理部31と、データ処理部32とを有する。
信号処理部31は、レーダ部23から得られたI信号およびQ信号をそれぞれ信号処理することにより、生体の呼吸成分に対応する呼吸信号VI,VQを得る。信号処理部31の具体的構成は特に限定されない。例えば、信号処理部31は、レーダ部23から得られたドップラ信号から呼吸に相当する周波数成分(例えば0.1Hz〜0.5Hz)を抽出するバンドパスフィルタ、および、抽出されたアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換器などを備える。
【0020】
データ処理部32は、例えば演算部および記憶部を備えて構成され、演算部が記憶部に記憶された解析プログラムを読み込み実行することにより、信号処理部31から入力される呼吸信号VI,VQの解析処理を行う。ここで、呼吸信号VI,VQは、生体の呼吸に伴う測定部位Aの変動速度に比例した周波数を有しており、呼吸信号VI,VQの位相差は、生体の呼吸に伴う測定部位Aの変動の方向(接近方向または離間方向)に対応している。このため、データ処理部32は、呼吸信号VI,VQを解析処理することにより、測定部位Aの変動を検出することができ、ひいては、生体の呼吸数などの解析情報を演算することができる。
なお、データ処理部32による解析処理の具体的手法については、公知技術を利用できるため、詳細な説明を省略する。
【0021】
データ処理部32から出力される解析情報は、不図示の表示部などに表示される。
また、レーダ装置1が、車両などの乗物に搭載され、当該車両の運転者の呼吸数を計測する装置である場合、データ処理部32から出力される解析情報は、車両のコントロールユニットなどに入力されてもよい。この場合、車両のコントロールユニットは、入力される解析情報に基づいて運転者の体調を判断することができ、その結果、運転者の体調に基づいた車両制御を行うことができる。
【0022】
〔電波の挙動〕
一般に、送信点から受信点に至る電波経路が複数存在する場合において、経路長差が変動することによって電波の受信強さが変動することを、フェージング現象という。
例えば2本の電波経路の経路長差が波長λの整数倍であるとき、各径路を伝搬する電波同士の位相が一致する(同位相になる)ため、強め合う干渉が生じ、電波の受信強さが強まる。一方、2本の電波経路の経路長差が波長λの1/2の奇数倍であるとき、各径路を伝搬する電波同士の位相が逆になるため、弱め合う干渉が生じ、電波の受信強さが弱まる。したがって、経路長差が変動することにより、電波の受信強さは強まったり、弱まったりし、フェージング現象を生じる。
このようなフェージング現象は、一般には好ましくない現象とされており、フェージング現象の影響を避けるための技術が開発されている。
【0023】
これに対して、本実施形態では、2つの送信アンテナ部21T,22Tが互いに異なる方向から測定部位Aに電波を送信することにより、測定部位Aの付近においてフェージング現象の強め合う干渉を意図的に生じさせている。すなわち、送信アンテナ部21T,22Tは、それぞれが送信した電波が生体の測定部位Aの付近で重なり合い、互いに強め合う干渉を生じるように配置されている(
図3参照)。なお、
図3では、強め合う干渉が生じているエリアEを破線で囲って示している。
【0024】
本実施形態では、2つの送信アンテナ部21T,22Tから同位相の電波が送信されているため、これらの電波に強め合う干渉を生じさせる条件としては、第1送信アンテナ部21Tから測定部位Aまでの距離L1と、第2送信アンテナ部22Tから測定部位Aまでの距離L2とが等しいことが好ましい(
図4参照)。あるいは、第1送信アンテナ部21Tから送信される電波と第2送信アンテナ部22Tから送信される電波とが測定部位Aの付近で同位相であればよいため、距離L1と距離L2との差が電波の波長λの整数倍に調整されていてもよい。
このような条件を満たすように送信アンテナ部21T,22Tを配置するためには、受信信号の強さを観測しながら、第1アンテナユニット21および第2アンテナユニット22の少なくとも一方の配置を調整してもよい。
【0025】
また、本実施形態において、第1送信アンテナ部21Tによる電波の送信方向(第1送信方向)が基線Bに対して成す角度をθ1とし、第
2送信アンテナ部2
2Tによる電波の送信方向(第2送信方向)が基線Bに対して成す角度をθ2とする。なお、基線Bは、測定部位Aの面に対して略垂直な線とする。
この場合、角度θ1,θ2は、0°<θ1<90°,0°<θ2<90°の範囲で任意に調整可能である。ただし、角度θ1,θ2がより大きい方が、「強め合う干渉」が生じるエリアをより大きくすることができる。
なお、送信アンテナ部21T,22Tの角度θ1,θ2は、互いに同じでもよいし、異なってもよい。
【0026】
以上の条件を満たす送信アンテナ部21T,22Tから送信される各電波は、測定部位Aの付近で互いに重なり合い、強め合う干渉を生じた状態になったまま測定部位Aで反射され、受信アンテナ部21R,22Rに受信される。すなわち、受信アンテナ部21R,22Rは、上述の強め合う干渉を受けた受信信号を出力し、レーダ部23は、当該受信信号に基づくドップラ信号(I信号およびQ信号)を出力する。
【0027】
ここで、本発明の実施例として第1送信方向の角度θ1および第2送信方向の角度θ2がそれぞれ60°である場合のレーダ装置1を用い、測定部位Aの変動を測定するためのドップラ信号を取得した(
図5参照)。
また、本発明の比較例として、第1送信方向の角度θ1と、第2送信方向の角度θ2がそれぞれ0°である場合(互いに平行である場合)のレーダ装置1を用い、測定部位Aの変動を測定するためのドップラ信号を取得した(
図6参照)。
なお、実施例および比較例において、測定部位Aは、呼吸中の生体である。また、
図5および
図6では、横軸が時間であり、縦軸が信号出力であり、測定中のI信号およびQ信号の各波形を示している。通常、I信号およびQ信号間の位相は90°ずれているが、
図5および
図6では、測定中の測定部位Aの変動の影響により、グラフ上の位相のずれが視認し難くなっている。
【0028】
実施例(
図5)と、比較例(
図6)とを比較すると、得られたドップラ信号に明確な違いがあることがわかる。
実施例(
図5)において、受信アンテナ部21R,22Rの各受信信号が上述の強め合う干渉を受けており、これらの受信信号が1つにまとめられることで、外乱(生体の体動による電波の逸れ等)の影響が低減され、レーダ部23から出力されるI信号およびQ信号のそれぞれに呼吸の特徴量が明確に表れている。
一方、比較例(
図6)では、受信アンテナ部21R,22Rの各受信信号において上述の強め合う干渉が生じておらず、レーダ部23から出力されるI信号およびQ信号のそれぞれは、呼吸がないときに得られる信号との差異が小さい。
しがたって、実施例は、比較例よりも、生体の呼吸を高精度に測定できることが明らかである。
【0029】
なお、本実施形態において、測定部位Aは、生体の胸部などであり、生体の呼吸に伴う微細な変動を生じる部位であるため、厳密には、生体が呼吸している間、上述で調整した距離L1と距離L2との差は変動している。ただし、生体の呼吸に伴う測定部位Aの変動量は、本実施形態で使用する電波の波長λの幅に対して十分に小さいため、強め合う干渉に対する影響は無視できる程度である。
【0030】
〔本実施形態の効果〕
本実施形態のレーダ装置1では、外乱などによって測定部位Aで反射された反射波の受信量が減少した場合であっても、受信信号において測定部位Aの変動に伴う特徴量が高められていることにより、レーダ部23は、測定部位Aの変動状態に応じたドップラ信号を安定して出力することができる。これにより、検出部3は、測定部位Aの変動を高精度に検出することができる。特に、本実施形態のレーダ装置1は、生体の呼吸の有無を確認する場合に有用である。
【0031】
また、本実施形態のレーダ装置1では、第1アンテナユニット21および第2アンテナユニット22が、それぞれ、送信アンテナ部21T,22Tおよび受信アンテナ部21R,22Rを有している。このような構成によれば、強め合う干渉を生じた状態のまま測定部位Aで反射された電波を好適に受信することができる。
【0032】
〔変形例〕
本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれるものである。
【0033】
前記実施形態のレーダ装置1は、第1アンテナユニット21および第2アンテナユニット22を備えているが、本発明はこれに限られない。例えば、送信アンテナ部21T,22Tおよび受信アンテナ部21R,22Rは、ユニット化されず、それぞれ個別に配置されてもよい。
また、前記実施形態のレーダ装置1は、2つの受信アンテナ部21R,22Rを有しているが、いずれか一方の受信アンテナ部21R,22Rを有するように構成されてもよい。このような変形例において、いずれか一方の受信アンテナ部21R,22Rは、測定部位Aで反射された電波(第1電波および第2電波が重なった電波)を受信可能に配置されればよい。
例えば、
図7に示すように、変形例のレーダ装置における電波センサ2Aは、2つの送信アンテナ部21T,22Tと、1つの受信アンテナ部21Rとを備えている。この変形例において、送信アンテナ部21T,22Tは、測定部位Aの付近で強め合う干渉が生じるように電波を送信し、受信アンテナ部21Rは、当該測定部位Aで反射された電波を受信する。このような変形例でも、前記実施形態と同様の効果を奏する。
また、
図7に示す変形例では、送信アンテナ部21T,22Tから測定部位Aまでの各距離L1,L2を調整する際、送信アンテナ部21T,22Tの角度θ1,θ2をそれぞれ変えてもよい。
【0034】
前記実施形態では、第1アンテナユニット21および第2アンテナユニット22が1つのレーダ部23に接続されているが、本発明はこれに限られない。例えば、レーダ装置1は、第1アンテナユニット21に接続されるレーダ部23と、第2アンテナユニット22に接続される他のレーダ部23とを、それぞれ有していてもよい。このような変形例では、2つのレーダ部23のそれぞれからドップラ信号(I信号およびQ信号)が出力されるため、信号処理部31は、計4つの信号をそれぞれ処理できるように構成されることが好ましい。また、2つのレーダ部23から出力されるドップラ信号は、重畳処理されてもよいし、選択的に利用されてもよい。
【0035】
前記実施形態では、2つの送信アンテナ部21T,22Tから同位相の電波が送信されているが、本発明はこれに限られない。例えば、2つの送信アンテナ部21T,22Tから逆位相の電波が送信されてもよい。このような変形例では、電波に強め合う干渉を生じさせる条件として、距離L1と距離L2との差が電波の波長λの1/2の奇数倍の整数倍に調整されていてもよい。
【0036】
前記実施形態では、レーダ装置1の測定対象を人間や動物などの生体とし、この生体の呼吸に伴う胸部の皮膚表面の微細な動き(変動)を検出する場合について説明しているが、本発明はこれに限られない。例えば、前記実施形態において、信号処理部31は、レーダ部23から得られたドップラ信号から呼吸に相当する周波数成分を抽出するだけでなく、心拍に相当する周波数成分を抽出してもよい。
また、本発明は、測定対象が生体であることに限定されず、様々な測定対象の変動(例えば振動状態や変位)を検出するレーダ装置に利用可能である。