特許第6970170号(P6970170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970170クロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970170
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】クロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/033 20060101AFI20211111BHJP
   G01R 13/20 20060101ALI20211111BHJP
   H03L 7/08 20060101ALI20211111BHJP
   H03L 7/10 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   H04L7/033
   G01R13/20 N
   H03L7/08 107
   H03L7/10
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-226818(P2019-226818)
(22)【出願日】2019年12月16日
(65)【公開番号】特開2021-97305(P2021-97305A)
(43)【公開日】2021年6月24日
【審査請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 創
(72)【発明者】
【氏名】岸田 桂輔
【審査官】 吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−289248(JP,A)
【文献】 特開昭61−118024(JP,A)
【文献】 特開平06−120818(JP,A)
【文献】 特開平06−037630(JP,A)
【文献】 特開平06−061852(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0033580(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1734577(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/033
G01R 13/20
H03L 7/08
H03L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生回路であって、
入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力手段(9)と、
前記入力信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御手段(5e2)と、
前記入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御手段(5e、5e3)と、
を有することを特徴とするクロック再生回路。
【請求項2】
前記入力手段は、入力する信号に関連付けて該信号を識別する識別情報をさらに入力可能であり、
前記格納制御手段は、前記ロック時電圧を前記識別情報に対応して格納させることを特徴とする請求項1に記載のクロック再生回路。
【請求項3】
前記格納手段は、伝送レート欄に対応して位相制御値欄が設けられたテーブル形式の記憶手段で構成され、
前記格納制御手段は、前記位相制御値欄に前記ロック時電圧を格納させるとともに、前記伝送レート欄に、前記ロック時電圧に対応する前記入力信号の伝送レートを、設定により格納させることを特徴とする請求項1または2に記載のクロック再生回路。
【請求項4】
前記位相補正値の更新が必要か否かを判定し、更新が必要であると判定された前記位相補正値については、該位相補正値に対応する前記入力信号を再度入力したときの前記掃引制御で得られる新たなロック時電圧に更新する更新制御手段(5e4)をさらに有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のクロック再生回路。
【請求項5】
前記入力信号は、PRBSパターンを有するNRZ信号、及びPAM信号であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のクロック再生回路。
【請求項6】
入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生回路(3)を含み、被測定対象物(50)が出力する被測定信号を前記入力信号として前記クロック再生回路により再生される前記クロック信号に基づいて前記被測定信号の波形観測を行う波形観測装置であって、
前記クロック再生回路は、
入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力手段(9)と、
前記入力信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御手段(5e2)と、
前記入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御手段(5e、5e3)と、
を有することを特徴とする波形観測装置。
【請求項7】
入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生方法であって、
入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力ステップ(S1)と、
前記入力信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御ステップ(S7)と、
前記入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御ステップ(S8)と、
を含むことを特徴とするクロック再生方法。
【請求項8】
入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生方法を用い、被測定対象物(50)が出力する被測定信号を前記入力信号として前記クロック再生方法により再生される前記クロック信号に基づいて前記被測定信号の波形観測を行う波形観測方法であって、
前記クロック再生方法は、
入力する前記被測定信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力ステップ(S1)と、
前記被測定信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御ステップ(S7)と、
前記被測定信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御ステップ(S8)と、
を含むことを特徴とする波形観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号から該入力信号の波形観測に用いるクロック信号を再生する機能を有するクロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光トランシーバや光インターフェースなどの光デバイス(若しくは、光モジュール)の検査段階で使用する測定系として、図8に示すように、サンプリングオシロスコープ60を用いたシステム構成が知られている。
【0003】
図8において、被試験対象物(Device Under Test:DUT)70は、例えば光トランシーバであり、評価ボード70Aに装着(接続)して用いられる。図8に示すシステム構成において、信号発生装置(Pulse Pattern Generator:PPG)65は、DUT70に対してデータ信号を送出するとともに、サンプリングオシロスコープ60に対してクロック信号を送出する。DUT70は、PPG65からのデータ信号を入力し、そのデータ信号を光信号でサンプリングオシロスコープ60へ出力する。サンプリングオシロスコープ60は、PPG65から入力するクロック信号に基づきトリガ生成部62でトリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じたサンプリングタイミングでサンプラー61がデータ信号をサンプリングして波形観測を行うようになっている。
【0004】
上記システム構成において、DUT70が送出するデータ信号がPPG65のクロック信号と同期しないものがある。具体的な例を挙げると、これまでは100GHzまではPPG65(ホスト側)とDUT70(受信側)が同期していたものが、近年、400GHz(PAM4信号)を扱う状況に至ってホスト側と受信側とが同期しない事態が生じ、クロックリカバリーが必要になっていた。
【0005】
クロックリカバリー機能を有する従来のクロック再生装置としては、位相比較器が入力信号と再生クロック信号の位相差を検出すると、分解能が異なる2つの補正値のいずれかによりディジタル制御発振器で発振される再生クロックの位相をシフトさせることで、再生クロック信号の位相を入力信号の位相に合わせる閉ループ制御技術が特許文献1に提案されている(段落0008〜0011、図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−205298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、光デバイスの検査段階(図8参照)においては、それぞれ伝送レートが異なる信号を受け渡す多種類の光デバイスが波形観測対象(DUT70)として用いられるのが一般的である。
【0008】
このため、サンプリングオシロスコープ60と併用するクロックリカバリー回路についても、伝送レートが異なるDUT70を繋ぎかえて(交換して)、該DUT70からの入力信号の伝送レートに対応するクロック信号を再生できることが望まれている。
【0009】
また、光デバイスの生産現場では、生産性向上の観点から、サンプリングオシロスコープ60による光デバイス1個当たりの波形観測時間をできる限り短縮することが求められている。
【0010】
上述した要求に対し、特許文献1に記載の従来のクロック再生回路は、既知の伝送レートの信号を入力してそのレートに対応した周波数のクロック信号を再生することが前提であって、伝送レートが異なるDUT70を交換して、交換後のDUT70が個々に出力するそれぞれ異なる伝送レートの信号を選択的に入力し、その都度、その信号の伝送レートに対応した周波数を有するクロック信号を再生することはできなかった。
【0011】
一方で、任意の伝送レートを有する信号を入力し、該入力信号の伝送レートに合致する周波数を有するクロック信号の再生を可能にする従来のクロック再生回路としては、例えば、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器と、入力信号とクロック信号との位相差信号を検出し、該位相差信号に応じた電圧をVCOに入力する位相比較器とを有するPLL(Phase−Locked Loop)を備え、PLLがロック状態となるまで、所定の電圧範囲内から網羅的に制御電圧(位相補正値)を順次設定(掃引制御)し、該設定された位相補正値に基づいて、位相比較器に入力するクロック信号の位相を順次シフトさせる動作を繰り返してクロック信号を入力信号に同期させるものがあった。
【0012】
しかしながら、この従来のクロック再生回路では、任意の伝送レートを有する信号の入力に際して、その信号が初めて入力された信号であるかどうかに拘わらず、毎回、同様の変動パターンで制御電圧の掃引制御を繰り返し実施するため、任意の伝送レートを有する信号を入力したときのロック時間が長くならざるを得なかった。
【0013】
結局、従来のクロック再生回路では、入力信号を出力する光デバイスなどの被測定対象物の1個当たりの波形観測に時間がネックとなり、被測定対象物の生産スループットの向上には繋げることができなかった。
【0014】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、任意の伝送レートを有する信号が入力されたときのロック時間を短縮し、該信号の波形観測時間も短くすることが可能なクロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るクロック再生回路は、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生回路であって、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力手段(9)と、前記入力信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御手段(5e2)と、前記入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御手段(5e、5e3)と、を有することを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明の請求項1に係るクロック再生回路は、任意の伝送レートの信号を入力すると、位相補正値(制御電圧)の掃引を経て該信号に対応するロック時電圧が格納され、当該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始される。このため、任意の伝送レートの信号の2回目以降の入力時には、毎回、ロック時間の大幅な短縮が可能となり、該信号の波形観測も短い時間で行えるようになる。
【0017】
また、本発明の請求項2に係るクロック再生回路において、前記入力手段は、入力する信号に関連付けて該信号を識別する識別情報をさらに入力可能であり、前記格納制御手段は、前記ロック時電圧を前記識別情報に対応して格納させる構成としてもよい。
【0018】
この構成により、本発明の請求項2に係るクロック再生回路は、ロック時電圧の格納手段への格納、格納手段からの読出しを、識別情報をキーに円滑に行うことができ、ロック時間の短縮にも貢献する。
【0019】
また、本発明の請求項3に係るクロック再生回路において、前記格納手段は、伝送レート欄に対応して位相制御値欄が設けられたテーブル形式の記憶手段で構成され、前記格納制御手段は、前記位相制御値欄に前記ロック時電圧を格納させるとともに、前記伝送レート欄に、前記ロック時電圧に対応する前記入力信号の伝送レートを、設定により格納させる構成としてもよい。
【0020】
この構成により、請求項3に係るクロック再生回路は、任意の伝送レートを有する信号の初回入力時に取得したロック時電圧を、テーブルを用いて容易に管理できる。また、規格レートに対応してロック時電圧を格納した位相補正制御テーブルが既に存在する場合、ロック時電圧に対応して伝送レートを設定した後は、該ロック時電圧対伝送レートの情報を位相補正制御テーブルに容易に移行できるようになる。
【0021】
また、本発明の請求項4に係るクロック再生回路は、前記位相補正値の更新が必要か否かを判定し、更新が必要であると判定された前記位相補正値については、該位相補正値に対応する前記入力信号を再度入力したときの前記掃引制御で得られる新たなロック時電圧に更新する更新制御手段(5e4)をさらに有する構成であってもよい。
【0022】
この構成により、請求項4に係るクロック再生回路は、使用環境での温度変化や経年変化によって、保存中の伝送レートに対するロック時電圧の関係が、ロックし難い関係に陥ることを回避することができる。
【0023】
また、本発明の請求項5に係るクロック再生回路において、前記入力信号は、PRBSパターンを有するNRZ信号、及びPAM信号であってもよい。この構成により、請求項5に係るクロック再生回路は、PRBSパターンを有するNRZ信号、及びPAM信号を入力信号として短時間でロックを確立することができる。
【0024】
また、本発明の請求項6に係る波形観測装置は、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生回路(3)を含み、被測定対象物(50)が出力する被測定信号を前記入力信号として前記クロック再生回路により再生される前記クロック信号に基づいて前記被測定信号の波形観測を行う波形観測装置であって、前記クロック再生回路は、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力手段(9)と、前記入力信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御手段(5e2)と、前記入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御手段(5e、5e3)と、を有することを特徴とする。
【0025】
この構成により、請求項6に係る波形観測装置は、被測定対象物から任意の伝送レートの被測定信号を入力すると、クロック再生回路では、位相補正値(制御電圧)の掃引制御を経て該被測定信号に対応するPLL回路部のロック時電圧が格納され、当該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始されるために、任意の伝送レートの被測定信号の2回目以降の入力時には、毎回、ロック時間の大幅な短縮が可能となる。これにより、任意の伝送レートの被測定信号を一度入力すれば、その後の入力時には被測定対象物1個当たりの波形観測時間を短縮し、該被測定対象物の生産スループットを向上させることが可能となる。
【0026】
また、本発明の請求項7に係るクロック再生方法は、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生方法であって、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力ステップ(S1)と、前記入力信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御ステップ(S7)と、前記入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御ステップ(S8)と、を含む構成を有している。
【0027】
この構成により、本発明の請求項7に係るクロック再生方法は、任意の伝送レートの信号を入力すると、そのときのロック時電圧が格納され、該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始されるため、任意の伝送レートの信号の2回目以降の入力時のロック時間の大幅な短縮が可能となり、該信号の波形観測も短い時間で行えるようになる。
【0028】
また、本発明の請求項8係る波形観測方法は、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力する電圧制御発振器(3a)と、入力信号と前記クロック信号との位相差信号に応じた電圧を前記入力電圧として前記電圧制御発振器に送出する位相比較手段(3c)を有するPLL回路部(3e)を備え、前記位相比較手段に入力する前記クロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、前記PLL回路部がロックするまで実施して前記クロック信号を前記入力信号に同期させるクロック再生方法を用い、被測定対象物(50)が出力する被測定信号を前記入力信号として前記クロック再生方法により再生される前記クロック信号に基づいて前記被測定信号の波形観測を行う波形観測方法であって、前記クロック再生方法は、入力する前記被測定信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力ステップ(S1)と、前記被測定信号に対して前記任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、前記位相補正値の掃引制御に基づく前記位相シフト制御により前記PLL回路部がロックしたときのロック時電圧を格納手段(6a)に格納させる格納制御ステップ(S7)と、前記被測定信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、前記位相シフト制御に用いる前記位相補正値として、前記格納手段に格納されている前記ロック時電圧を設定する位相補正制御ステップ(S8)と、を含む構成を有している。
【0029】
この構成により、本発明の請求項8に係る波形観測方法は、被測定対象物から任意の伝送レートの被測定信号を入力すると、クロック再生回路では、位相補正値(制御電圧)の掃引制御を経て該被測定信号に対応するPLL回路部のロック時電圧が格納され、当該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始されるために、任意の伝送レートの被測定信号の2回目以降の入力時には、毎回、ロック時間の大幅な短縮が可能となる。これにより、任意の伝送レートの被測定信号を一度入力すれば、その後の入力時には被測定対象物1個当たりの波形観測時間を短縮し、該被測定対象物の生産スループットを向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、任意の伝送レートを有する信号が入力されたときのロック時間を短縮し、該信号の波形観測へと迅速に移行可能なクロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープの全体構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープのクロックリカバリー回路の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープのクロックリカバリー回路での位相補正値の第2の掃引制御によるロック時間短縮効果を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープの制御部の機能構成を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープに実装される位相補正値格納手段の構成例を示す図であり、(a)は取得した位相補正値を格納するテーブルの構成を示し、(b)は設定された位相補正値を格納するテーブルの構成を示している。
図6】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープのクロック再生処理動作を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープにおける位相補正値格納手段の更新処理手順を示すフローチャートである。
図8】光デバイスの波形を観測するための従来のサンプリングオシロスコープの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るクロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0033】
まず、本発明の一実施形態に係るサンプリングオシロスコープ1の構成について図1図5を参照して説明する。サンプリングオシロスコープ1は、本発明に係る波形観測装置の一例であり、本発明に係るクロック再生回路としてのクロックリカバリー回路3を含む構成を有している。
【0034】
図1に示すように、本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ1は、光電変換器(O/E)2、クロックリカバリー回路3、波形観測部4、制御部5、記憶部6、操作部7、表示部8を備えている。
【0035】
サンプリングオシロスコープ1は、DUT50を接続し、該DUT50が出力するデータ信号を入力し、入力したデータ信号から該データ信号に同期するクロック信号を生成するとともに、生成したクロック信号に基づいてデータ信号の観測を行うものである。
【0036】
DUT50としては、光信号を受け渡す機能を有する光トランシーバ等の各種光デバイスが用いられる。DUT50は、それぞれの規格が割り振られた複数の伝送レートのうちのいずれかの伝送レート(規格レート)を有する光信号、あるいは任意の伝送レートを有する光信号を受け渡すことができる多種類のものが用意される。サンプリングオシロスコープ1は、各規格レートの光信号、あるいは任意の伝送レートの光信号をそれぞれ受け渡すことが可能な多種類のDUT50を選択的に接続(交換)して、該DUT50が出力する光信号(被測定信号)の観測を行うようになっている。
【0037】
図1に示すサンプリングオシロスコープ1の構成において、O/E2は、例えば光検出器としてのフォトダイオードを備え、DUT50が被測定信号(データ信号)として出力する光信号を電気信号に変換するものである。O/E2は、DUT50の仕様が電気信号の入力に基づいて光信号を出力するものである場合に必要なものであって、DUT50が光信号の入力に基づいて電気信号を出力する仕様のものである場合には不要である。
【0038】
クロックリカバリー(CR)回路3は、O/E2で電気信号に変換されたデータ信号(Data)を入力し、該データ信号に同期したクロック信号(Clock)を再生して出力するものである。クロックリカバリー回路3は、例えば、図2に示すように、電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)3a、位相シフト回路(Phase Shifter:PS)3b、位相比較器(Phase Detector:PD)3c、ローパスフィルタ(Low-pass filter:LPF)3dを有している。
【0039】
VCO3aは、入力電圧に応じた発振周波数の信号を出力するものである。本実施形態において、VCO3aは、DUT50から入力するデータ信号の位相と当該VCO3aが出力したクロック信号との位相誤差信号に対応する電圧を、位相比較器3cからLPF3dを介して入力し、該入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を再出力する。
【0040】
位相シフト回路3bは、外部制御電圧入力用の端子3b1を有し、該端子3b1に対して制御部5から位相補正値として入力される直流制御電圧(DC入力)に基づいて、VCO3aからのクロック信号の位相をシフトさせ、該位相シフトされたクロック信号を位相比較器3cに入力するものである。
【0041】
位相比較器3cは、DUT50からO/E2を介して入力されるデータ信号の位相と、位相シフト回路3bから位相シフト後に出力されるクロック信号の位相を比較し、両者の位相誤差信号を出力する。
【0042】
LPF3dは、位相比較器3cが出力する位相誤差信号を、規定の周波数以下の周波数だけを通し且つ平滑化するように濾波し、VCO3aに対する上記入力電圧として出力する。VCO3aは、LPF3dからの入力電圧に応じた周波数を有するクロック信号を再出力するようになっている。
【0043】
このように、クロックリカバリー回路3は、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力するVCO3aと、入力するデータ信号(入力信号)とVCO3aが出力したクロック信号との位相差信号を検出し、該位相差信号に応じた電圧を入力電圧としてVCO3aに送出する位相比較器3cと、上記位相差信号に応じた電圧を生成するLPF3dと、を有するPLL回路部3eを備えている。そして、クロックリカバリー回路3では、位相比較器3cに入力するクロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値(DC入力値)の掃引制御を、PLL回路部3eがロックするまで繰り返し実施してクロック信号を入力信号に同期させるようになっている。
【0044】
位相シフト回路3bでのクロック信号の位相シフトに関する制御は、制御部5により行われる。この制御において、制御部5は、クロックリカバリー回路3にデータ信号が入力されると、位相シフト回路3bに対して端子3b1から入力する位相補正値(DC入力値)の掃引制御を、PLL回路部3eのロックが検出されるまで繰り返し実施する。より詳しくは、制御部5は、データ信号が入力されると、例えば、図3に示すように、DC入力値を、予め設定された掃引電圧範囲V0〜V1(例えば、5V範囲)を、PLL回路部3eがロックするまで、所定の電圧幅V11(例えば、0.1V)で順次変動させて設定する制御を、毎回、同様のルーチンで繰り返し実施するようになっている。ここでの掃引制御によるDC入力値の順次変動設定は、既存装置で実施される「位相補正値を網羅的に設定する」ことに相当し、本実施形態での以下の説明においては第1の掃引制御ということがある。本実施形態において、第1の掃引制御は、DUT50から入力するデータ信号に関連して規格レートが入力されていない場合、あるいは伝送レートが規格外(任意の伝送レート)のデータ信号が入力された場合に実施されるようになっている。
【0045】
本実施形態ではまた、DC入力値の掃引制御について以下に述べる第2の掃引制御もサポートしている。より詳しくは、本実施形態のサンプリングオシロスコープ1は、DUT50からクロックリカバリー回路3に入力するデータ信号(被測定信号)に対して任意の伝送レートであることが関連付けられている場合には、該データ信号を取り込んで位相補正値に関する第1の掃引制御を実施し、当該第1の掃引制御に基づく位相シフト制御によりPLL回路部3eがロックしたときの電圧であるロック時電圧を、後述する取得位相補正値管理テーブル6aに位相補正値(入力DC値)として格納しておく。その後、クロックリカバリー回路3に対して、再入力に係る信号であることが関連付けられたデータ信号(任意の伝送レートのデータ信号)が入力された場合には、取得位相補正値管理テーブル6aに格納しておいたロック時電圧を位相シフト回路3bにダイレクトに設定する機能を有している。
【0046】
また、本実施形態のサンプリングオシロスコープ1では、DUT50からクロックリカバリー回路3に入力するデータ信号(被測定信号)の伝送レートが判明している場合には、伝送レートを入力してクロック再生処理を開始させ、該伝送レート(規格レート)に関する位相補正値が後述の位相補正制御テーブル6bに格納されている場合は、上述した網羅的な設定によらず、位相補正制御テーブル6bを用い、当該規格レートに対応する位相補正値(入力DC値)を位相シフト回路3bにダイレクトに設定する機能を有している。上述した、位相補正値格納手段(取得位相補正値管理テーブル6a、位相補正制御テーブル6b)からダイレクトに位相補正値を設定する掃引制御を、以下では、第2の掃引制御ということがある。
【0047】
第2の掃引制御を実現すべく、サンプリングオシロスコープ1の記憶部6には、取得位相補正値管理テーブル6a(図5(a)参照)、及び位相補正制御テーブル6b(図5(b)参照)が格納されている。取得位相補正値管理テーブル6a、位相補正制御テーブル6bの詳しい構成については後で詳述する。
【0048】
波形観測部4は、O/E2が出力するデータ信号と、クロックリカバリー回路3が出力するクロック信号(PLL回路部3eのロック時に出力される)を入力とし、該クロック信号に基づきデータ信号を観測する信号処理機能を有する。
【0049】
本実施形態において、波形観測部4は、トリガ生成部41、サンプラー42、信号波形処理部43を有している。トリガ生成部41は、クロックリカバリー回路3が出力するクロック信号に基づき、サンプラー42が動作するサンプリングタイミングとして用いられるストローブ信号を生成する。サンプラー42は、トリガ生成部41にて生成されるストローブ信号をサンプリングタイミングとして例えば数百kHzでスイッチング動作し、O/E2にて電気信号に変換された被測定信号(入力データ信号)をサンプリングする。信号波形処理部43は、サンプラー42からのサンプルデータに基づいて入力データ信号の波形を検出する処理を行う。
【0050】
制御部5は、クロックリカバリー回路3でのクロック再生処理に係る動作制御、波形観測部4におけるデータ信号のサンプリング処理に係る動作制御等、サンプリングオシロスコープ1全体の動作を制御するものである。
【0051】
制御部5は、図4に示すように、CPU5a、外部インターフェース(I/F)部5fを備えている。CPU5aは、例えば、記憶部6に記憶されているプログラムを実行することで設定制御部5b、測定制御部5c、表示制御部5d、位相補正制御部5e、などの各機能部を実現する。
【0052】
設定制御部5bは、DUT50の測定(波形観測)のためのシミュレーション・パラメータの設定等の各種の設定処理を行うものである。
【0053】
測定制御部5cは、信号波形処理部43でのサンプルデータに基づく被測定信号の波形の検出処理等、被測定信号の測定(観測)に係る各部の制御を行う。
【0054】
表示制御部5dは、信号波形処理部43での被測定信号の波形の検出処理に基づいて、被測定信号の波形を表示部8に表示させるための表示制御を行う。表示制御部5dはまた、サンプリングオシロスコープ1に対してDUT50からデータ信号(被測定信号)を入力する際のUI画面を表示部8に表示させるための表示制御を行う。UI画面としては、入力する信号(被測定信号)に関連付けて、規定の伝送レート、若しくは任意の伝送レートであること、並びに再入力に係る信号であることを入力可能な画面構成を有する入力画面が挙げられる。
【0055】
位相補正制御部5eは、位相シフト回路3bに対して端子3b1を通してDC入力値を設定し、VCO3aから出力されるクロック信号の位相を、該設定された入力DC値に基づいて位相シフトさせる制御を行うものである。この位相シフトの制御に係る制御電圧(DC入力値)の掃引に関して、位相補正制御部5eは、上述したように、第1の掃引制御、及び第2の制御を適用可能な構成となっている。
【0056】
図4に示すように、位相補正制御部5eは、ロック判定部5e1、位相補正値格納制御部5e2、取得位相補正値設定制御部5e3、更新制御部5e4を有している。ロック判定部5e1は、PLL回路部3eがロックしたことを判定するものである。
【0057】
位相補正値格納制御部5e2は、入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、位相補正値の掃引制御に基づく位相シフト制御によりPLL回路部3eがロックしたときのロック時電圧を取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる制御を行う。
【0058】
取得位相補正値設定制御部5e3は、入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、位相シフト制御に用いる位相補正値として、取得位相補正値管理テーブル6aに格納されているロック時電圧を設定する制御を行う。
【0059】
更新制御部5e4は、位相補正値格納手段(取得位相補正値管理テーブル6a、位相補正制御テーブル6b)に格納された位相補正値を対象として、位相補正値の更新が必要か否かを判定し、更新が必要であると判定された位相補正値については、該位相補正値に対応する入力信号を再度入力したときの掃引制御で得られる新たなロック時電圧に更新する更新制御を行う。
【0060】
外部I/F部5fは、ネットワーク10を介して外部機器にアクセスする際のインターフェース機能を有し、本実施形態では、サンプリングオシロスコープ1と外部の制御装置11(図1参照)間でネットワーク10を介して信号を送受する際のインターフェース機能も提供している。本実施形態において、サンプリングオシロスコープ1は、自装置の制御部5による制御による動作の他、ネットワーク10を介して外部の制御装置11からの指令で動作するシステム構成とすることもできる。この場合のシステム動作は、制御装置11の制御部(図示せず)に制御部5と同等の機能部を設けた構成とすることで実現可能である。
【0061】
記憶部6は、CPU5aが設定制御部5b、測定制御部5c、表示制御部5d、位相補正制御部5eなどの各機能部を実現するために必要なプログラムに加えて、位相補正制御部5eがクロック再生処理時にDC入力値の掃引制御(第2の掃引制御)に用いる取得位相補正値管理テーブル6a及び位相補正制御テーブル6bを記憶している。
【0062】
取得位相補正値管理テーブル6aは、図5(a)に示すように、任意の伝送レートの被測定信号を識別する識別情報の登録欄と、伝送レートの登録欄(伝送レート欄)と、位相補正値の登録欄(位相補正値欄)が設けられたテーブル形式の記憶手段で構成されている。この例の取得位相補正値管理テーブル6aでは、識別情報の登録欄には、当該識別情報として、任意の伝送レートの信号としての入力順(1、2等)が格納されている。位相補正値登録欄には、識別番号により識別される被測定信号(任意の伝送レートを有する)を入力して位相補正値の掃引制御を実施したときのPLL回路部3eのロック時電圧(V51、V52等)が格納されている。また、伝送レート欄は、この例では、空欄となっている。伝送レート欄には、上述した位相補正値の掃引制御によってロック時電圧が得られた入力信号(ロック時電圧に対応する入力信号)の伝送レートを格納することができる。伝送レート欄には、例えば、任意の伝送レートが判明した段階で、操作部7での入力操作により設定することができるようになっている。
【0063】
なお、取得位相補正値管理テーブル6aは、後述の位相補正制御テーブル6bと同形式のテーブル構造であるため、伝送レート欄に伝送レートが書き込まれた後に、当該伝送レート伝送レートとロック時電圧の対応関係を取得位相補正値管理テーブル6aに書き込む作業(移行登録)が容易となる。
【0064】
位相補正制御テーブル6bは、例えば、図5(b)に示すように、DUT50が出力可能な被測定信号の伝送レートの規格A1、A2、A3、A4、・・・にそれぞれ対応付けて、伝送レートTr1、Tr2、Tr3、Tr4、・・・と、位相補正値V21、V22、V23、V24、・・・とが格納されたデータ内容を有している。ここで位相補正値(DC入力値)V21、V22、V23、V24、・・・は、それぞれ、例えば、0.1V(ボルト)、0.2V、0.3V、0.4V、・・・となっている。
【0065】
位相補正制御テーブル6bにおいて、規格A1、A2、A3、A4、・・・が割り振られる信号種別としては、それぞれ異なる信号パターンを有するNRZ(Non Return to Zero)信号、PAM(パルス振幅変調:Pulse-Amplitude Modulation)4及びPAM8等がある。上記信号パターンについては、NRZ信号の評価用としては、例えば、PRBS7(パターン長:27 −1)、PRBS9(パターン長:29 −1)、PRBS10(パターン長:210−1)、PRBS11(パターン長:211−1)、PRBS15(パターン長:215−1)、PRBS20(パターン長:220−1)等の擬似ランダム(PRBS(Pseudo Random Binary Sequence:PRBS)パターンが挙げられる。また、PAM評価用としては、PRBS13Q、PRQS10、SSPR等のパターンがある。
【0066】
また、位相補正制御テーブル6bにおいて、上記各規格に対応する伝送レートTr1、Tr2、Tr3、Tr4、・・・としては、例えば、イーサネット(登録商標)の規格である100GbE(Gigabit Ethernet:ギガビットイーサネット)、200GBe、400GBeなどが挙げられる。また、他の規格レートとしては、例えば、25.5Gbaud〜28.2Gbaudの伝送レート範囲内の任意の伝送レートが挙げられる。
【0067】
また、位相補正制御テーブル6bにおいて、位相補正値V21、V22、V23、V24、・・・は、上述した各規格レートのデータ信号が入力されたときに、該データ信号とVCO3aから出力されるクロック信号の位相差がなくなるとき、つまり、PLL回路部3eのロック時のDC入力値(ロック時電圧)に相当する。これらロック時電圧は、実際の波形観測に倣って事前に実施される模擬測定試験により取得することができる。
【0068】
すなわち、模擬測定試験においては、クロックリカバリー回路3に各規格レートの模擬データ信号を順番に入力しつつ、規格レートごとにDC入力値に関する第1の掃引制御を実施し、それぞれ、PLL回路部3eがロックしたときのDC入力値をプロットする。そして、このプロットしたDC入力値を保存しておき、後述するテーブル設定モードにおいて、保存しておいたDC入力値を各規格に対応付けて登録することで位相補正制御テーブル6b(図5(b)参照)を設定(生成)することができる。
【0069】
なお、位相補正制御テーブル6bは、伝送レート(規格レート)ごとに複数のロック時電圧(位相補正値)が登録されたものであってもよい。このような形式の位相補正制御テーブル6bは、DUT50として、例えば、複数の任意の伝送レートの信号を出力することが可能な誤り率測定装置や移動無線通信装置等の機器を用い、該機器から選択的に出力される信号の波形観測を行う場合におけるロック時間短縮に有用である。
【0070】
このように、位相補正制御テーブル6bは、クロックリカバリー回路3に対してDUT50から入力するデータ信号(NRZ信号、PAM4信号、PAM8信号等)の規格ごとに、当該規格のデータ信号(被測定信号)が入力されたときのロック時電圧を登録したものである。上述した第1の掃引制御に係る電圧範囲をV0〜V1とした場合(図3参照)、位相補正制御テーブル6bに登録されているロック時電圧V21、V22、V23、V24、・・・は、当該V0〜V1の電圧範囲内の電圧値である。
【0071】
操作部7は、例えばスイッチやボタンなどの操作パネルで構成される。操作パネルはタッチパネル機能を有するものであってもよい。操作部7は、DUT50の波形観測前に実施されるクロック再生処理の開始や停止の指示、その後におけるDUT50の波形観測の開始や停止の指示、表示部8に所望の表示を行うために必要な各種情報の設定を含め、DUT50の波形測定に必要な各種設定を選択的に実行可能な構成となっている。
【0072】
特に、本実施形態において、操作部7は、表示部8での上述した入力画面の表示中、該入力画面に表示される複数の規格の中から所望の規格を選択するための選択操作を受付け、制御部5に対して、ここで選択された規格に対応する伝送レートを入力することが可能な構成となっている。また、操作部7は、上述した入力画面の表示中に、これからサンプリングオシロスコープ1に入力する信号(DUT50からの被測定信号:クロックリカバリー回路3に対する入力信号)に関連付けて、当該信号が任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることの選択操作を受付けて、その旨を制御部5に入力することが可能な構成となっている。このように、操作部7は、表示部8及び表示制御部5dとともに、伝送レート入力手段9(図4参照)を構成している。伝送レート入力手段9は、本発明の入力手段に相当する。
【0073】
表示部8は、液晶パネルなどの表示器で構成され、クロック再生処理を含むDUT50の波形測定に係る種々の情報を表示するものである。本実施形態において、表示部8は、表示制御部5dの制御により上述した伝送レート入力手段9を構成する入力画面を表示するようになっている。
【0074】
次に、上述した構成を有するサンプリングオシロスコープ1の動作について説明する。このサンプリングオシロスコープ1は、テーブル設定モード、位相補正制御モード、及び波形観測モードを有する。テーブル設定モードに設定されると、表示制御部5dにより、被測定信号の規格及び伝送レートを設定するためのUI画面が表示部8に表示される。ユーザは、該UI画面上で、上述した模擬測定試験で取得しておいたDC入力値を例えば、操作部7から入力することで位相補正制御テーブル6bの設定を行うことができる。
【0075】
位相補正制御モードが設定されると、まず、表示制御部5dにより、被測定信号の伝送レートを入力するためのUI画面が表示部8に表示される。ユーザは、操作部7での所定の選択操作によって、該UI画面上の所望の規格を選択することで、該選択された規格に対応する伝送レートをこれから入力する被測定信号に関連付けて入力することができる。ここで表示されるUI画面は、入力する被測定信号に関連付けて、規格レートの他、任意の伝送レートであること、及び再入力する信号であることも入力可能な伝送レート入力手段9(図4参照)に相当する構成となっている。
【0076】
さらに位相補正制御モードでは、上述したように、入力する信号に関連付けて、伝送レート(規格レート)、任意の伝送レートであること、再入力に係る信号でことを選択的に入力せしめた後、DUT50からの被測定信号(データ信号)の入力に合わせて、ユーザが例えば操作部7で所定の位相補正制御開始操作を行うことで、該被測定信号の波形観測処理を行うことができる。
【0077】
波形観測処理においては、サンプリングオシロスコープ1のクロックリカバリー回路3において、入力する被測定信号からクロック信号が再生され、該クロック信号が被測定信号の波形観測処理のために波形観測部4に供給される。
【0078】
クロックリカバリー回路3でのクロック信号再生処理では、被測定信号の入力を受けてDC入力値に関する第1の掃引制御、若しくは第2の掃引制御が適宜実施される。このうちの第2の掃引制御により、クロックリカバリー回路3では、入力する被測定信号に同期(シンボル同期)したクロック信号を短時間で再生することができ、ロック時間を短縮することが可能になる。シンボル同期は、サンプリングオシロスコープ1において、DUT50から入力するデータ信号を、波形観測部4の信号波形処理部43での信号処理を経て、アイパターンの最も開いた瞬間の波形を表示部8に表示可能な同期状態である。
【0079】
本実施形態では、第2の掃引制御については、任意の伝送レートを有する被測定信号を入力して取得位相補正値管理テーブル6aに当該被測定信号に基づくPLL回路部3eのロック時電圧を格納し、該任意の伝送レートを有する被測定信号が再入力されたときには、取得位相補正値管理テーブル6aからロック時電圧を読み出して位相シフト回路3bにダイレクトに設定する制御機能を有している。このため、任意の伝送レートを有する被測定信号の2回目以降の入力に際してロック時間を大幅に短縮できる。
【0080】
位相補正制御モードでの任意の伝送レートを有する被測定信号の再入力時のクロック信号の再生時間が短縮されるのに合わせて、位相補正制御モードの後、該任意の伝送レートを有する被測定信号を対象とする波形観測モードへの迅速な移行が可能になる。波形観測モードでは、波形観測部4で、DUT50から入力するデータ信号を該データ信号に同期するクロック信号を用いて信号処理し、該処理後の信号の波形を表示部8に表示する処理が行われる。
【0081】
以下、本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ1のクロック再生処理動作について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。なお、図6においては、位相補正制御テーブル6bが予め設定されているものとして説明する。
【0082】
このクロック再生処理が開始されるとまず、表示部8に上述したUI画面(入力画面)が表示され、被測定信号の入力に合わせて、該被測定信号についての伝送レートの入力を受付ける他、任意の伝送レートであること、あるいは再入力に係る信号であることの入力を受付ける処理を行う(ステップS1)。
【0083】
上述した各種入力を受付けた後、DUT50から入力される被測定信号(入力信号)が取り込まれると(ステップS2)、位相補正値格納制御部5e2が、該入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられているか否かを判定する(ステップS3)。
【0084】
ここで入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられていた場合(ステップS3でYES)、位相補正値格納制御部5e2は、該入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられているか否かを判定する(ステップS4)。
【0085】
上記判定の結果、入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられていない場合(ステップS4でNO)、引き続き位相補正値格納制御部5e2は、上述した第1の掃引制御を実施する(ステップS5)。第1の掃引制御において、位相補正値格納制御部5e2は、位相シフト回路3bに対して各位相補正値を上昇あるいは下降方向に網羅的に順次設定し、VCO3aから出力されるクロック信号の位相を順次設定された位相補正値に基づきシフトさせて位相比較器3cに入力させるように位相シフト回路3bを制御する。
【0086】
ステップS5で第1の掃引制御を実施しながら、位相補正値格納制御部5e2は、PLL回路部3eがロックしたか否かを判定するロック確認処理を行う(ステップS6)。ここで位相補正値格納制御部5e2は、位相比較器3cが送出する位相誤差信号が位相誤差のない値になったか否かを監視し、該位相誤差のない値になったときにPLL回路部3eがロックしたもの(ロックが確認されたもの)と判定し(ステップS6でYES)、処理をステップS7に進める。
【0087】
ステップS7において、位相補正値格納制御部5e2は、PLL回路部3eがロックしたときの電圧(ロック時電圧)を取得し、該ロック時電圧を取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる(ステップS7)。なお、ステップS7の処理について、位相補正値格納制御部5e2は、ステップS1において、入力信号に対して該入力信号の識別情報の入力を受付けている場合には、上記ロック時電圧を当該識別情報に対応付けて取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる。識別情報としては、例えば、入力信号の入力順を示す情報を適用することができる。
【0088】
ステップS7でのロック時電圧の格納処理に続いて、位相補正制御部5eでは、位相シフト回路3bに設定する位相補正値を当該ロック時電圧に固定し、入力信号に同期したクロック信号をクロックリカバリー回路3から波形観測部4へと継続して出力させるように制御する(ステップS10)。
【0089】
その後、サンプリングオシロスコープ1は、ユーザの波形観測モード設定操作により波形観測モードに移行し、波形観測部4において、クロックリカバリー回路3から供給されるクロック信号を用いて、クロックリカバリー回路3の前段で分岐されたデータ信号の波形観測処理(ステップS11)を実行可能となる。
【0090】
一方、ステップS3で入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられていない場合、すなわち規格レートが関連付けられている場合(ステップS3NO)、位相補正制御部5eは、その規格レートに対応して位相補正制御テーブル6bに格納されている位相補正値(DC入力値)を読み出して位相シフト回路3bに設定し、上述した第2の掃引制御を実施する(ステップS8)。第2の掃引制御において、位相補正制御部5eは、その設定されたDC入力値を基点に、VCO3aから出力されるクロック信号の位相をシフトさせて位相シフト回路3bに入力させるように位相シフト回路3bを制御する。
【0091】
また、ステップS4で入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられていると判定された場合(ステップS4でYES)にも、取得位相補正値設定制御部5e3は、ステップ8に移行する。ここで取得位相補正値設定制御部5e3は、取得位相補正値管理テーブル6aに格納されているロック時電圧を読み出し、該ロック時電圧を位相補正値(DC入力値)として位相シフト回路3bに設定し、上述した第2の掃引制御を実施する。
【0092】
引き続き位相補正制御部5eは、PLL回路部3eがロックしたか否かを判定するロック確認処理を行う(ステップS9)。そして、PLL回路部3eのロックが確認されると(ステップS9でYES)、位相補正制御部5eは、ステップS10に移行し、位相シフト回路3bに設定する位相補正値を固定し、入力信号に同期したクロック信号をクロックリカバリー回路3から波形観測部4へと継続して出力させるように制御する。以後、サンプリングオシロスコープ1では、波形観測部4において、クロックリカバリー回路3から供給されるクロック信号を用いて、クロックリカバリー回路3の前段で分岐されたデータ信号の波形観測処理(ステップS11)を実行可能となる。
【0093】
なお、ステップS3、ステップS8経由でステップS9に到達した場合のロック確認処理については以下の対応可能である。すなわち、この場合のロック確認処理を可能にすべく、記憶部6には、取得位相補正値管理テーブル6a、位相補正制御テーブル6bの他、位相補正制御テーブル6bに登録されている伝送レート(規格レート)にそれぞれ対応するクロック信号の数(所定期間内の数)が期待値として事前に記憶されている。
【0094】
ステップS8において、位相補正制御部5eに実装されているロック判定部5e1は、VCO3aから出力されるクロック信号をロック確認用クロック信号として取込んで計数し、所定期間内におけるロック確認用クロック信号の計数値が上記期待値に一致した場合にはロックが確立したと判定し、不一致の場合にはロックが確立していないと判定することができる。
【0095】
図6に示す一連のクロック再生処理によれば、DUT50から出力される任意の伝送レートを有する被測定信号の初回の入力に際しては、ステップS5において、第1の掃引制御が実施される。第1の掃引制御では、例えば、図3に示すように、DC入力値を、例えば電圧範囲V0〜V1内で、電圧幅V11ごとに変動させて網羅的に設定する制御が行われるため、ロック時電圧値が見つかるまでに時間t1がかかることもあった。
【0096】
これに対して、DUT50から入力される被測定信号に関連付けて伝送レートが入力されている場合、及び被測定信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合には、ステップS8で第2の掃引制御が実施される。第2の掃引制御では、選択された伝送レートに対応するロック時電圧が位相補正制御テーブル6bから読み出されて、あるいは、再入力に係る信号であることに加えて当該被測定信号の識別情報が合わせ関連付けられている場合には該識別情報に対応して取得位相補正値管理テーブル6aに格納されているロック時電圧が読み出されて位相シフト回路3bにダイレクトに設定されるため、第1の掃引制御に係るDC入力値の網羅的な設定制御が不要となる。
【0097】
ここで例えば、任意の伝送レートを有する被測定信号を入力したときのPLL回路部3eのロック時電圧が例えば図3におけるV21であるものとしたとき、この被測定信号を再入力に係る信号であることを関連付けてDUT50から再入力した際の図6に示すリカバリークロック再生処理においては、ステップS9で、取得位相補正値管理テーブル6aから当該ロック時電圧V21が位相シフト回路3bにダイレクトに設定される。このとき、PLL回路部3eがロックするまでの時間t2は理想的には0(零)となり、第1の掃引制御によりロック時電圧値が見つかるまでの時間(例えば、t1)と比べて大幅に短縮できる。
【0098】
次に、本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ1における位相補正値格納手段(取得位相補正値管理テーブル6a、位相補正制御テーブル6b)の更新処理動作について図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0099】
更新処理が開始されると、位相補正制御部5eに実装されている更新制御部5e4は、位相補正値格納手段に格納されている位相補正制御値(ロック時電圧)中に更新を必要とするものが存在するか否かを判定する(ステップS21)。ここで、更新を必要とする位相補正制御値が存在しない場合(ステップS21でNO)、ステップS21の処理を繰り返す。
【0100】
これに対し、更新を必要とする位相補正制御値が存在する場合(ステップS21でYES)、更新制御部5e4は、その更新を必要とすると判定された位相補正制御値を取得する元となった、すなわち位相補正値に対応する入力信号(被測定信号)を再度入力させ、クロックリカバリー回路3において、第1の掃引制御による位相シフト制御を実行させる(ステップS22)。
【0101】
上記位相シフト制御を行いながら、更新制御部5e4は、ロック確認処理を実施する(ステップS23)。ここでPLL回路部3eがロックしたことが確認されると(ステップS23でYES)、更新制御部5e4は、再入力した入力信号に対応して、位相補正値格納手段に格納されているロック時電圧を、ステップS23でロック確認したときのロック時電圧で上書きし(ステップS24)、一連の更新処理を終了する。
【0102】
図7に示す更新処理は、例えば、サンプリングオシロスコープ1の使用環境での温度変化や経年変化によって、保存中の伝送レートに対するロック時電圧の関係が、ロックし難い関係に変化している場合のロック時電圧の更新処理に適用することができる。この場合、ステップS21の更新条件の判定に閾値(閾値温度、閾値期間等)を設定し、この閾値を超えた場合に、該当する入力信号を取り込んで位相補正値の掃引制御を行ってロック時電圧を取得し、該取得したロック時電圧を用いて、過去の伝送レート対ロック時電圧(ロックする外部電圧)に関する情報を上書きするようにしてもよい。
【0103】
この他、図7に示す更新処理は、サンプリングオシロスコープ1のハードウェアの個体差でロックする外部電圧が実機ごとに異なる場合に、個体差に合わせて、設定済の外部電圧を更新する際にも適用可能である。この場合も、設定済の外部電圧に対応する入力信号を使って外部電圧を掃引してロックする点を探索し、その探索結果で過去の情報を上書きすることで個体差の吸収が可能になる。
【0104】
なお、上記実施形態では、位相補正値格納手段に格納する位相補正値の取得、並びに取得した位相補正値を位相シフト回路3bへとダイレクトに設定する制御機能をサンプリングオシロスコープ1の制御部5に設けた構成例を挙げているが、これに限らず、当該制御機能を外部の制御装置11に実装し、該制御装置11からネットワーク10を介してサンプリングオシロスコープ1の位相補正制御を実施させる構成としてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、サンプリングオシロスコープ1がクロックリカバリー回路3を含む構成を例示しているが、クロックリカバリー回路3をサンプリングオシロスコープ1の外部に配置した構成であってもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、主として光デバイスからの信号を処理する場合の例を主体に説明してきたが、本発明は、誤り率測定装置など、被測定信号を送出可能な種々のデバイスあるいはモジュールからの信号を入力し、該入力信号からのクロック再生処理並びに波形観測処理を行えるものである。
【0107】
上述したように、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な伝送レート入力手段9と、入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、位相補正値の掃引制御に基づく位相シフト制御によりPLL回路部3eがロックしたときのロック時電圧を取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる位相補正値格納制御部5e2と、入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、位相シフト制御に用いる位相補正値として、位相補正値格納制御部5e2に格納されているロック時電圧を設定する取得位相補正値設定制御部5e3と、を有する。
【0108】
この構成により、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、任意の伝送レートの信号を入力すると、位相補正値(制御電圧)の掃引を経て該信号に対応するロック時電圧が格納され、当該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始される。このため、任意の伝送レートの信号の2回目以降の入力時には、毎回、ロック時間の大幅な短縮が可能となり、該信号の波形観測も短い時間で行えるようになる。
【0109】
また、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3において、伝送レート入力手段9は、入力する信号に関連付けて該信号を識別する識別情報を入力可能であり、位相補正値格納制御部5e2は、上記ロック時電圧を識別情報に対応して格納させる構成を有する。この構成により、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、ロック時電圧の格納、読出しを、識別情報(例えば、入力順番)をキーに円滑に行うことができ、ロック時間の短縮にも貢献する。
【0110】
また、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3において、取得位相補正値管理テーブル6aは、伝送レート欄に対応して位相制御値欄が設けられたテーブル形式の記憶手段で構成され、位相補正値格納制御部5e2は、位相制御値欄にロック時電圧を格納させるとともに、伝送レート欄に、ロック時電圧に対応する入力信号の伝送レートを、設定により格納させる構成を有している。
【0111】
この構成により、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、任意の伝送レートを有する信号の初回入力時に取得したロック時電圧を、取得位相補正値管理テーブル6aを用いて容易に管理できる。また、規格レートに対応してロック時電圧を格納した位相補正制御テーブル6bが既に存在する場合、ロック時電圧に対応して伝送レートを設定した後は、該ロック時電圧対伝送レートの情報を位相補正制御テーブル6bに容易に移行可能となる。
【0112】
また、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、位相補正値の更新が必要か否かを判定し、更新が必要であると判定された位相補正値については、該位相補正値に対応する入力信号を再度入力したときの掃引制御で得られる新たなロック時電圧に更新する更新制御部5e4をさらに有する構成である。
【0113】
この構成により、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、使用環境での温度変化や経年変化によって、保存中の伝送レートに対するロック時電圧の関係が、ロックし難い関係に陥ることを回避することができる。
【0114】
また、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3において、入力信号は、PRBSパターンを有するNRZ信号、及びPAM信号である。この構成により、本実施形態に係るクロックリカバリー回路3は、PRBSパターンを有するNRZ信号、及びPAM信号を入力信号として短時間でロックを確立することができる。
【0115】
また、本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ1は、上述したクロックリカバリー回路3を含み、DUT50が出力する被測定信号を入力信号としてクロックリカバリー回路3により再生されるクロック信号に基づいて被測定信号の波形観測を行うものであって、クロックリカバリー回路3は、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な伝送レート入力手段9と、入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、位相補正値の掃引制御に基づく位相シフト制御によりPLL回路部3eがロックしたときのロック時電圧を取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる位相補正値格納制御部5e2と、入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、位相シフト制御に用いる位相補正値として、位相補正値格納制御部5e2に格納されているロック時電圧を設定する取得位相補正値設定制御部5e3と、を有する構成である。
【0116】
この構成により、本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ1は、DUT50から任意の伝送レートの被測定信号を入力すると、クロックリカバリー回路3では、位相補正値(制御電圧)の掃引制御を経て該被測定信号に対応するPLL回路部3eのロック時電圧が格納され、当該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始されるために、任意の伝送レートの被測定信号の2回目以降の入力時には、毎回、ロック時間の大幅な短縮が可能となる。これにより、任意の伝送レートの被測定信号を一度入力すれば、その後の入力時にはDUT50の1個当たりの波形観測時間を短縮し、該DUT50の生産スループット向上が果たせる。
【0117】
また、本実施形態に係るクロック再生方法は、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力ステップ(S1)と、入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、位相補正値の掃引制御に基づく位相シフト制御によりPLL回路部3eがロックしたときのロック時電圧を取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる格納制御ステップ(S7)と、入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、位相シフト制御に用いる位相補正値として、取得位相補正値管理テーブル6aに格納されているロック時電圧を設定する位相補正制御ステップ(S8)と、を含む構成である。
【0118】
この構成により、本実施形態に係るクロック再生方法は、任意の伝送レートの信号を入力すると、そのときのロック時電圧が格納され、該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始されるため、任意の伝送レートの信号の2回目以降の入力時のロック時間の大幅な短縮が可能となり、該信号の波形観測も短い時間で行えるようになる。
【0119】
また、本実施形態に係る波形観測方法は、入力電圧に応じた発振周波数を有するクロック信号を出力するVCO3aと、入力信号とクロック信号との位相差信号に応じた電圧を入力電圧としてVCO3aに送出する位相比較器3cを有するPLL回路部3eを備え、位相比較器に入力するクロック信号の位相を順次シフトさせる位相シフト制御に用いる位相補正値の掃引制御を、PLL回路部3eがロックするまで実施してクロック信号を入力信号に同期させるクロック再生方法を用い、DUT50が出力する被測定信号を入力信号としてクロック再生方法により再生されるクロック信号に基づいて被測定信号の波形観測を行う波形観測方法であって、クロック再生方法は、入力する信号に関連付けて、任意の伝送レートであること、及び再入力に係る信号であることを入力可能な入力ステップ(S1)と、入力信号に対して任意の伝送レートであることが関連付けられている場合、位相補正値の掃引制御に基づく位相シフト制御によりPLL回路部3eがロックしたときのロック時電圧を取得位相補正値管理テーブル6aに格納させる格納制御ステップ(S7)と、入力信号に対して再入力に係る信号であることが関連付けられている場合、位相シフト制御に用いる位相補正値として、取得位相補正値管理テーブル6aに格納されているロック時電圧を設定する位相補正制御ステップ(S8)と、を含む構成である。
【0120】
この構成により、本実施形態に係る波形観測方法は、DUT50から任意の伝送レートの被測定信号を入力すると、クロックリカバリー回路3では、位相補正値(制御電圧)の掃引制御を経て該被測定信号に対応するPLL回路部3eのロック時電圧が格納され、当該信号を再入力したときには、格納済みのロック時電圧を制御電圧として用いた位相シフト制御が開始されるために、任意の伝送レートの被測定信号の2回目以降の入力時には、毎回、ロック時間の大幅な短縮が可能となる。これにより、任意の伝送レートの被測定信号を一度入力すれば、その後の入力時にはDUT50の1個当たりの波形観測時間を短縮し、該DUT50の生産スループットを向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上のように、本発明に係るクロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法、及び波形観測方法は、任意の伝送レートを有する信号が入力されたときのロック時間を短縮し、該信号の波形観測へと迅速に移行可能であるという効果を奏し、被測定対象物から任意の伝送レートの被測定信号入力し、該被測定信号からクロック信号を再生して当該被測定信号の波形観測を行うために用いるクロック再生回路、波形観測装置、クロック再生方法及び波形観測方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0122】
1 サンプリングオシロスコープ(波形観測装置)
3 クロックリカバリー回路(クロック再生回路)
3a 電圧制御発振器(VCO)
3b 位相シフト回路
3c 位相比較器(Phase Detector:PD)(位相比較手段)
3e PLL(Phase−Locked Loop)回路部
5 制御部
5e 位相補正制御部(位相補正制御手段)
5e2 位相補正値格納制御部(格納制御手段)
5e3 取得位相補正値設定制御部(位相補正制御手段)
5e4 更新制御部(更新制御手段)
6a 取得位相補正値管理テーブル(格納手段)
9 伝送レート入力手段(入力手段)
50 被測定対象物(DUT)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8