特許第6970182号(P6970182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970182アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970182
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/54 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   C01B39/54
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-509240(P2019-509240)
(86)(22)【出願日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2018010149
(87)【国際公開番号】WO2018180527
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2020年10月19日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/008312
(32)【優先日】2018年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-71567(P2017-71567)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】清水 克哉
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0292331(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103449475(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0114089(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0100095(US,A1)
【文献】 特表2014−506227(JP,A)
【文献】 特開2012−062228(JP,A)
【文献】 VILASECA, M. et al.,AlPO4-18 synthesized from colloidal precursors and its use for the preparation of thin films,Applied Surface Science,2004年,Vol.226,p.1-6,特にAbstract, 2. Experimental
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/54
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性のリン源とアルカリ源を混合することによって、pHが6以上9以下の混合液を調製する工程と、
前記混合液にアルミニウム源を添加して混合することによって、原料溶液を調製する工程と、
前記原料溶液を水熱合成することによって、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜を合成する工程と、
を備えるアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項2】
前記原料溶液を調製する工程では、前記混合液を、前記アルミニウム源と前記混合液中のリン源との反応を抑制可能な温度以下にする、
請求項1に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項3】
前記原料溶液を調製する工程では、前記混合液を40℃以下にする、
請求項2に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項4】
前記原料溶液を調製する工程では、前記混合液を25℃以下にする、
請求項2に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項5】
前記原料溶液を調製する工程では、前記混合液を10℃以下にする、
請求項2に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項6】
前記原料溶液を調製する工程では、前記混合液を5℃以下にする、
請求項2に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項7】
前記混合液を調製する工程では、前記アルカリ源として有機アミン系の構造規定剤を用いる、
請求項1乃至6のいずれかに記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項8】
前記アルミニウム源は、アルミニウムアルコキシドまたはアルミナゾルである、
請求項7に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項9】
前記アルミノフォスフェート系ゼオライト膜は、AlPO型又はSAPO型のゼオライトによって構成される、
請求項1乃至8のいずれかに記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項10】
前記アルミノフォスフェート系ゼオライト膜は、酸素8員環からなる細孔を有するゼオライトによって構成される、
請求項9に記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【請求項11】
前記原料溶液におけるHOのT原子に対するモル比は、30以上である、
請求項1乃至10のいずれかに記載のアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸着剤、分離剤、触媒、触媒用担体などに用いられるアルミノフォスフェート系ゼオライトが知られている。
【0003】
アルミノフォスフェート系ゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO)の中心に位置する原子(T原子)がアルミニウム(Al)とリン(P)とからなるAlPO型のゼオライト、T原子がAlとPとケイ素(Si)とからなるSAPO型のゼオライト、T原子がAlとPとマグネシウム(Mg)とからなるMAPO型のゼオライト、T原子がAlとPと亜鉛(Zn)とからなるZnAPO型のゼオライトなどが挙げられる。
【0004】
非特許文献1には、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト結晶の合成手法が開示されている。具体的には、リン酸水溶液(酸性)にAlアルコキシドを投入した後に、ケイ素源であるコロイダルシリカと構造規定剤であるN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサンとを投入して混合した原料溶液を水熱合成することによって、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト結晶が合成される。
【0005】
非特許文献2には、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜の合成手法が開示されている。具体的には、構造規定剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液(アルカリ性)にアルミニウムアルコキシドを投入した後に、リン酸水溶液を滴下して混合した原料溶液を水熱合成することによって、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜が合成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Procedia Engineering 121(2015),p.967−974,「Synthesis of NH3−SCR Catalyst SAPO−56 with Different Aluminum Sources」
【非特許文献2】Applied Surface Science 226(2004),p.1−6,「AlPO4―18 synthesized from colloidal precursors and its use for the preparation of thin films」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の手法では、リン酸水溶液にアルミニウムアルコキシドを投入した時点で、溶解性の低いリン酸アルミニウムが生成される。このため、特許文献1の原料溶液は、多孔質な支持体上に付着させた結晶を成長させることで成膜する手法の原料溶液としては適さない。
【0008】
また、特許文献2の手法では、アルミニウムアルコキシドを溶解したテトラエチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液にリン酸を投入した時点で、溶解性の低いリン酸アルミニウムが生成されるため、成膜用の原料溶液として適さない。
【0009】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、成膜性を向上可能なアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法は、酸性のリン源とアルカリ源を混合することによって、pHが6以上9以下の混合液を調製する工程と、調製した混合液にアルミニウム源を添加して混合することによって、原料溶液を調製する工程と、原料溶液を水熱合成することによって、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜を合成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成膜性を向上可能なアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の製造方法)
本実施形態に係るアルミノフォスフェート系ゼオライト膜の製造方法について説明する。
【0013】
アルミノフォスフェート系ゼオライト膜は、アルミノフォスフェート系ゼオライトによって構成される膜である。アルミノフォスフェート系ゼオライト膜は、吸着膜、分離膜、メンブレンリアクターなどに用いることができる。
【0014】
アルミノフォスフェート系ゼオライトを構成する酸素四面体のT原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0015】
ゼオライトの骨格構造は、国際ゼオライト学会によって定義されており、幾何構造を定義する構造コード(例えば、ERI、AFX、AEIなど)によって示される。
【0016】
なお、本実施形態では、ゼオライトが、酸素8員環以下の環からなる細孔のみを有することが想定されている。酸素8員環とは、単に8員環とも称され、細孔を形成する骨格を構成する酸素原子の数が8個であって、酸素原子がT原子と結合して環状構造をなす部分のことである。
【0017】
1.混合液の調製
リン源とアルカリ源を混合することによって混合液を調製する。
【0018】
リン源は、酸性である。リン源は酸性であればよく、そのpHは特に制限されないが、例えばpH1以上pH5以下とすることができる。酸性のリン源としては、リン酸(HPO)などを用いることができる。リン酸の濃度は特に制限されないが、例えば30質量%以上90質量%以下とすることができる。
【0019】
アルカリ源は、アルカリ性である。アルカリ源は、アルカリ性であればよく、そのpHは特に制限されないが、例えばpHが9以上14以下とすることができる。アルカリ源としては、有機アミン系の構造規定剤が好適である。有機アミン系の構造規定剤としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、水酸化物やハロゲン化物などの第4級アンモニウム塩などが挙げられる。具体的には、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられ、これらを単一又は組み合わせて用いることができる。なお、構造規定剤が中性の場合は、アルカリ源として構造規定剤以外の化合物を用いればよい。
【0020】
混合液は、略中性である。本実施形態において、略中性とは、混合液のpHが6以上9以下であることを意味する。混合液のpHは、6以上8.5以下が好ましい。
【0021】
混合液は、リン源とアルカリ源を溶媒に溶解しながら十分に混合することによって調製される。溶媒としては、純水が好適である。溶媒の温度は特に制限されないが、リン源とアルカリ源との中和熱によって混合液が加熱されうるため、溶媒を低温(例えば、10℃以下)にしておくことが好ましい。
【0022】
混合液を調製する際、混合液を略中性に保つために必要であれば、リン源とアルカリ源の少なくとも一方は全量混合しなくてもよい。すなわち、全量のリン源と全量のアルカリ源とを混合すると混合液が略中性にならない場合には、混合液が略中性になるようにリン源及びアルカリ源の少なくとも一方の混合量を調整することが好ましい。残りのリン源及びアルカリ源は、後述するアルミニウム源の添加後に混合すればよい。
【0023】
2.原料溶液の調製
混合液にアルミニウム源を添加して混合することによって原料溶液を調製する。この際、上述のとおり、混合液中のリン源とアルカリ源とを前述のように略中性にするため、リン源とアルミニウム源とが反応して溶解性の低いリン酸アルミニウムが生成されることを抑制できる。酸性のアルミニウム源の場合は、pHを7以下に、中性ならびに塩基性のアルミニウム源の場合は、pHを7以上に調整しておくことで中和反応によるリン酸アルミニウムの生成をより抑制することができる。その結果、原料溶液中に生成したリン酸アルミニウムが浮遊してしまうことや原料溶液のゲル化を抑制できるため、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の成膜性を向上させることができる。
【0024】
溶媒となる純水とT原子のモル比(HO/T原子比)は30以上が好ましく、50以上が更に好ましい。これによって、原料溶液中での核生成を抑制するとともに、リン源とアルミニウム源とが反応してリン酸アルミニウムが生成されることをより抑制できる。
【0025】
混合液は、予め低温にしておくことが好ましい。アルミニウム源を添加する際の混合液の温度は、添加されるアルミニウム源が混合液中のリン源との反応を抑制可能な温度以下であることが好ましい。具体的に、混合液の温度は、40℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、10℃以下が特に好ましく、5℃以下が更に好ましい。これによって、リン源とアルミニウム源とが反応してリン酸アルミニウムが生成されることをより抑制できる。
【0026】
なお、混合液を冷却設備で所望温度まで冷却してもよいが、上述した混合液の溶媒として氷水を用いた場合には、氷が溶けきるまでの間、混合液を約0℃に保つことができるため簡便である。
【0027】
アルミニウム源は、混合溶液に溶解・分散しやすいことが好ましい。具体的に、アルミニウム源としては、アルミニウムアルコキシド、アルミナゾル、又は混合溶液100g当たりにおける溶解度が、20g以上のアルミニウム塩が好ましく、30g以上がより好ましい。アルミニウム源としては、アルミニウムアルコキシドやアルミナゾルが最も好適である。アルミニウムアルコキシドとしては、例えばアルミニウムイソプロポキシドなどが挙げられるが、これに限られるものではない。また、アルミナゾルとしては、例えば無定形アルミナ、γアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミナなどのゾルが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0028】
また、上述のとおり、混合液を略中性にするためにリン源及びアルカリ源の一部を残してあった場合には、その残りをアルミニウム源が完全に溶解した後の原料溶液に混合すればよい。
【0029】
3.アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の合成
アルミノフォスフェート系ゼオライト膜を成膜する対象である支持体を準備する。支持体としては、モノリス型多孔質体、円筒型多孔質体、平板型多孔質体などを用いることができる。
【0030】
まず、所望の骨格構造を有するゼオライトまたはゼオライト種結晶を、支持体の表面に付着させる。
【0031】
次に、種結晶が付着した支持体を、耐圧容器内で調製した原料溶液に浸漬する。
【0032】
次に、耐圧容器を乾燥器に入れて、120〜200℃で5〜100時間ほど加熱処理(水熱合成)することによって、支持体の表面にアルミノフォスフェート系ゼオライト膜を成膜する。そして、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜が成膜された支持体を原料溶液から引き揚げる。残留した原料溶液のpHは特に制限されないが、5以上10以下であることが好ましい。
【0033】
次に、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜が成膜された支持体を洗浄して、80〜100℃で乾燥する。
【0034】
次に、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜が成膜された支持体を電気炉に入れて、大気中にて400〜700℃で5〜100時間ほど加熱することによって、構造規定剤を燃焼除去する。
【0035】
以上のようにして、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜が成膜された支持体を作製することができる。
【実施例】
【0036】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜を作製した。
【0038】
まず、リン源である85%リン酸と構造規定剤であるN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサンとを0℃の純水(氷水)に溶解させながら混合することによって、pH7.3、温度0℃の混合液を調製した。
【0039】
次に、アルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシドを混合液に添加し、冷水中で冷やしながら超音波分散及び攪拌でアルミニウムイソプロポキシドを完全に溶解させることによって、組成が1Al:2.1P:2.8SDA:1340HOの原料溶液を調製した。SDAは、構造規定剤である。
【0040】
次に、AlPO型のERI結晶を種付けしたモノリス型多孔質支持体の入った耐圧容器に原料溶液を投入して、160℃で40時間水熱合成することによって、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜を成膜した。
【0041】
次に、水熱合成後、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜のN透過量を測定したところ、0.005nmol/m・s・Pa以下であった。これにより、実施例1に係るERI膜は、十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0042】
次に、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜を450℃で50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜内の細孔を貫通させた。
【0043】
そして、支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO/CH(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO/CHのPerm.比は504であった。また、0.3MPaGでN/CH(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、N/CHのPerm.比は8.6であった。これにより、実施例1に係るERI膜は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0044】
(実施例2)
実施例2では、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜を作製した。
【0045】
まず、リン源である85%リン酸と構造規定剤であるN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサンとを0℃の純水(氷水)に溶解させながら混合することによって、pH8.4、温度0℃の混合液を調製した。
【0046】
次に、アルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシドを混合液に添加し、冷水中で冷やしながら超音波分散及び攪拌でアルミニウムイソプロポキシドを完全に溶解させた後、さらにケイ素源としてコロイダルシリカを加えることによって、組成が0.75SiO2:1Al:1.25P:1.7SDA:305HOの原料溶液を調製した。
【0047】
次に、SAPO型のAFX結晶を種付けしたモノリス型多孔質支持体の入った耐圧容器に原料溶液を投入して、170℃で50時間水熱合成することによって、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜を成膜した。
【0048】
次に、水熱合成後、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜のN透過量を測定したところ、0.6nmol/m・s・Pa以下であった。これにより、実施例2に係るAFX膜は、十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0049】
次に、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜内の細孔を貫通させた。
【0050】
そして、支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.2MPaGでCO/CH(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO/CHのPerm.比は159であった。また、0.3MPaGでN/CH(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、N/CHのPerm.比は6.3であった。これにより、実施例2に係るAFX膜は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜を作製した。
【0052】
まず、リン源である85%リン酸と構造規定剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシドとを4℃の純水に溶解させながら混合した後に冷却することによって、pH6.2、温度4℃の混合液を調製した。
【0053】
次に、アルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシドを混合液に添加し、冷水中で冷やしながら超音波分散及び攪拌でアルミニウムイソプロポキシドを完全に溶解させた後、リン酸を追加することによって、組成が1Al:3.16P:6.3SDA:850HOの原料溶液を調製した。
【0054】
次に、AlPO型のAEI結晶を種付けしたモノリス型多孔質支持体の入った耐圧容器に原料溶液を投入して、175℃で30時間水熱合成することによって、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜を成膜した。
【0055】
次に、水熱合成後、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜のN透過量を測定したところ、0.04nmol/m・s・Pa以下であった。これにより、実施例3に係るAEI膜は、十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0056】
次に、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜を550℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜内の細孔を貫通させた。
【0057】
そして、支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.2MPaGでCO/CH(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO/CHのPerm.比は289であった。また、0.3MPaGでN/CH(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、N/CHのPerm.比は9.4であった。これにより、実施例3に係るAEI膜は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0058】
(比較例1)
比較例1では、リン源である85%リン酸とアルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシドとを混合した後、構造規定剤であるN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサンを室温で添加した以外は、実施例1と同じ工程で原料溶液を調製した。比較例1の原料溶液の組成は、実施例1と同じであった。
【0059】
次に、AlPO型のERI結晶を種付けしたモノリス型多孔質支持体の入った耐圧容器に原料溶液を投入して、170℃で30時間、40時間、及び45時間水熱合成することによって、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜の成膜を試みた。
【0060】
次に、水熱合成後、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、AlPO型のERI構造を有するゼオライト膜のN透過量を測定したところ、いずれの合成時間で成膜したものも、N透過量は500〜5000nmol/m・s・Paの範囲内であった。このことから、緻密なAlPO型のERI構造を有するゼオライト膜を成膜できていないことが分かった。
【0061】
(比較例2)
比較例2では、リン源である85%リン酸とアルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシドとを混合した後、構造規定剤であるN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサンとコロイダルシリカとを室温で添加した以外は、実施例2と同じ工程で原料溶液を調製した。比較例2の原料溶液の組成は、実施例2と同じであった。
【0062】
次に、SAPO型のAFX結晶を種付けしたモノリス型多孔質支持体の入った耐圧容器に原料溶液を投入して、170℃で30時間、40時間、及び50時間水熱合成することによって、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜の成膜を試みた。
【0063】
次に、水熱合成後、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、SAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜のN透過量を測定したところ、いずれの合成時間で成膜したものも、N透過量は3000〜10000nmol/m・s・Paの範囲内であった。このことから、緻密なSAPO型のAFX構造を有するゼオライト膜を成膜できていないことが分かった。
【0064】
(比較例3)
比較例3では、構造規定剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液とアルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシドとを混合して溶解した後、リン源である85%リン酸を室温で添加した以外は、実施例3と同じ工程で原料溶液を調製した。リン源を添加する際に、一部ゲル化する様子が見られた。比較例3の原料溶液の組成は、実施例3と同じであった。
【0065】
次に、AlPO型のAEI結晶を種付けしたモノリス型多孔質支持体の入った耐圧容器に原料溶液を投入して、175℃で30時間水熱合成することによって、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜の成膜を試みた。
【0066】
次に、水熱合成後、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、AlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜のN透過量を測定したところ、608nmol/m・s・Paの範囲内であった。このことから、緻密なAlPO型のAEI構造を有するゼオライト膜を成膜できていないことが分かった。
【0067】
(考察)
以上のとおり、酸性のリン源とアルカリ源とを中和させた混合液にアルミニウム源を添加して原料溶液とした実施例1〜3では、リン源とアルミニウム源とが反応して溶解性の低いリン酸アルミニウムが生成されることを抑制できたため、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の成膜性を向上させることができた。その結果、緻密かつ分離性能の高いアルミノフォスフェート系ゼオライト膜が得られた。
【0068】
一方、酸性のリン源とアルミニウム源を混合した後にアルカリ源を混合して原料溶液とした比較例1〜2では、リン源とアルミニウム源とが先に反応してリン酸アルミニウムが生成されてしまったため、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の成膜性が低下した。同様に、アルカリ性の構造規定剤とアルミニウム源を混合した後に酸性のリン源を混合して原料溶液とした比較例3では、中和時に原料溶液の一部がゲル化してしまった。その結果、比較例1〜3では、緻密なアルミノフォスフェート系ゼオライト膜を得ることができなかった。
【0069】
以上より、酸性のリン源とアルカリ源とを中和させた混合液にアルミニウム源を添加して原料溶液を調製することによって、アルミノフォスフェート系ゼオライト膜の成膜性を向上させられることが確認された。