特許第6970185号(P6970185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970185供給原料炭化水素を石油化学製品へ転換するためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970185
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】供給原料炭化水素を石油化学製品へ転換するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/18 20060101AFI20211111BHJP
   C10G 9/00 20060101ALI20211111BHJP
   C10G 69/04 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C10G11/18
   C10G9/00
   C10G69/04
【請求項の数】23
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-510432(P2019-510432)
(86)(22)【出願日】2017年8月23日
(65)【公表番号】特表2019-528358(P2019-528358A)
(43)【公表日】2019年10月10日
(86)【国際出願番号】US2017048130
(87)【国際公開番号】WO2018039300
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年8月20日
(31)【優先権主張番号】62/378,988
(32)【優先日】2016年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】316017181
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Saudi Arabian Oil Company
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】アル−ガムディ,サミール エー
(72)【発明者】
【氏名】アル−サイード,エッサム
(72)【発明者】
【氏名】アバ,イブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ブーレン,アブデンヌア
(72)【発明者】
【氏名】バレステロス,アルベルト ロザノ
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/000850(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/000847(WO,A1)
【文献】 特開2002−329187(JP,A)
【文献】 米国特許第03862898(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給原料炭化水素を処理する方法であって、
前記供給原料炭化水素を低沸点炭化水素留分と高沸点炭化水素留分とからなる2つの流れに分離することと、
接触分解流出物を形成するように、高過酷度流動接触分解反応器ユニットにおいて前記高沸点炭化水素留分を分解することと、
蒸気分解流出物を形成するように、蒸気分解装置ユニットにおいて前記低沸点炭化水素留分を分解することと、
2つ以上の石油化学製品を形成するように、前記接触分解流出物または前記蒸気分解流出物の一方または両方を分離することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記供給原料炭化水素が、原油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記石油化学製品のうちの1つが、メタン、エテン、プロペン、ブテン、またはブタジエンのうちの1つ以上を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットにおいて前記重質粗留分が分解される前に、前記高沸点炭化水素留分を水素処理することをさらに含み、前記水素化処理が、前記高沸点炭化水素留分中の硫黄、金属、芳香族化合物、および窒素のうちの1つ以上の含有量を減少させることを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットに導入される前に、前記高沸点炭化水素留分を水素と合流させることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記高沸点炭化水素留分と合流する水素の少なくとも一部が、再循環されるように石油化学製品である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
供給原料炭化水素が、フラッシングにより、前記低沸点炭化水素留分と前記高沸点炭化水素留分とに分離される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記低沸点炭化水素留分の含有物が、400℃以下の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分の含有物が、少なくとも180℃の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分の含有物の前記沸点が、前記低沸点炭化水素留分の含有物の前記沸点よりも高い、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分解された前記高沸点炭化水素留分が、
少なくとも17重量百万分率の金属、
少なくとも135重量百万分率の硫黄、および
少なくとも50重量百万分率の窒素
のうちの1つ以上を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記接触分解流出物と前記蒸気分解流出物とを合流させることをさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1の分離器を用いて前記接触分解流出物からナフサを分離することと、
前記ナフサと前記蒸気分解流出物とを合流させることと、
をさらに含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
供給原料炭化水素を処理するための方法であって、
供給原料炭化水素を低沸点炭化水素留分流と高沸点炭化水素留分流とからなる2つの流れに分離する供給原料炭化水素分離器に、前記供給原料炭化水素流を導入することと、
前記高沸点炭化水素留分流を分解して接触分解流出物流を形成する高過酷度流動接触分解反応器ユニットに、前記高沸点炭化水素留分流を通すことと、
前記低沸点炭化水素留分流を分解して蒸気分解流出物流を形成する蒸気分解装置ユニットに、前記低沸点炭化水素留分流を通すことと、
2つ以上の石油化学製品流を形成するように、前記接触分解流出物流または前記蒸気分解流出物流の一方または両方を分離することと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記供給原料炭化水素流が、原油を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記石油化学製品流のうちの1つがブテンを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記高沸点炭化水素留分を、前記流動接触分解反応器ユニットの上流に位置する水素化処理ユニットに通すことをさらに含み、硫黄含有量、金属含有量、芳香族化合物、または窒素含有量のうちの1つ以上が、前記高沸点炭化水素留分が前記流動接触分解反応器ユニットに導入される前に、前記水素処理ユニット中の前記重質粗留分において減少する、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットの上流に位置する水素化処理ユニットに導入される前に、前記高沸点炭化水素留分流を水素流と合流させることをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記高沸点炭化水素留分流と合流させる前記水素流中の水素の少なくとも一部が、それが再循環されるように石油化学製品流からのものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記供給原料炭化水素が、フラッシングにより、前記低沸点炭化水素留分流と前記高沸点炭化水素留分とに分離される、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記低沸点炭化水素留分流の含有物が、400℃以下の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分流の含有物が、少なくとも280℃の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分流の含有物の前記沸点が、前記低沸点炭化水素留分流の含有物の前記沸点よりも高い、請求項12〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
分解される前記高沸点炭化水素留分流が、
少なくとも17重量百万分率の金属、
少なくとも135重量百万分率の硫黄、および
少なくとも50重量百万分率の窒素
のうちの1つ以上を含む、請求項12〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記接触分解流出物流と前記蒸気分解流出物流とを合流させることをさらに含む、請求項12〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
第1の分離器を用いて前記接触分解流出物からナフサを分離して、ナフサ流を形成することと、
前記ナフサ流と前記蒸気分解流出物流とを合流させることと、
をさらに含む、請求項12〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットが少なくとも500℃の温度で作動する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が組み込まれる、2016年8月24日に出願された米国仮特許出願第62/378,988号に対する利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、石油化学製品の製造に関し、より詳細には、供給原料炭化水素から石油化学製品を直接製造するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、および芳香族化合物、例えばベンゼン、トルエン、およびキシレンは、石油化学産業の大部分の基礎的な中間体である。それらは主に、石油ガスおよび留出物、例えばナフサ、灯油、または軽油の熱分解(「蒸気熱分解」または「蒸気分解」と呼ばれることもある)によって得られる。しかしながら、これらの塩基性中間体化合物の需要が増加するにつれて、石油ガスおよび留出物を供給原料として利用する伝統的な熱分解プロセスを超える他の製造源を考慮しなければならない。
【0004】
これらの中間体化合物はまた、軽油または残留物などの重質供給原料を転換する精製流動接触分解(FCC)プロセスによって製造されてもよい。例えば、プロピレン製造のための重要な供給源は、FCCユニットからの精製プロピレンである。しかしながら、軽油または残留物などの留出物供給原料は、通常限定され、精製装置内のいくつかの高価でエネルギー集約的な処理ステップから生じる。
【発明の概要】
【0005】
したがって、軽質オレフィンなどのこれらの中間体石油化学製品の需要が高まるにつれて、比較的低コストで大量に入手可能な他の種類の供給原料からこれらの中間体化合物を製造するプロセスが必要とされている。本開示は、これらの中間体化合物を製造するためのプロセスおよびシステムに関し、時には原油などの供給原料炭化水素の直接転換による「システム生成物」として本開示において言及される。例えば、原油供給原料からの転換は、他の供給原材料よりも一般に安価であり、より広く入手可能であるため、これらの中間体化合物を製造する際の他の供給原料と比較して有益であり得る。
【0006】
1つ以上の実施形態によれば、供給原料炭化水素は、供給原料炭化水素を低沸点炭化水素留分と高沸点炭化水素留分とに分離することと、高過酷度流動接触分解反応器ユニットにおいて高沸点炭化水素留分を分解し、接触分解流出物を形成することと、蒸気分解装置ユニットにおいて低沸点炭化水素留分を分解して、蒸気分解流出物を形成することと、接触分解流出物または蒸気分解流出物の一方または両方を分離して、2つ以上の石油化学製品を形成することとを含み得る方法によって処理されてもよい。1つ以上の実施形態において、供給原料炭化水素は、原油を含んでもよく、石油化学製品のうちの1つは、1つ以上の軽質オレフィンを含んでもよい。
【0007】
別の実施形態によれば、供給原料炭化水素は、供給原料炭化水素を低沸点炭化水素留分流と高沸点炭化水素留分流とに分離する供給原料炭化水素分離器に供給原料炭化水素流を導入することと、高沸点炭化水素留分流を分解して接触分解流出物流を形成する高過酷度流動接触分解反応器ユニットに高沸点炭化水素留分流を通すことと、低沸点炭化水素留分流を分解して蒸気分解流出物流を形成する蒸気分解装置ユニットに低沸点炭化水素留分流を通すことと、接触分解流出物流または蒸気分解流出物流の一方または両方を分離して、2つ以上の石油化学製品流を形成することとを含む方法によって処理されてもよい。
【0008】
本開示に記載された技術のさらなる特徴および利点は、以下の詳細な説明に記載され、部分的には、明細書の記載から当業者に容易に明らかになるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、ならびに添付の図面を含む、本開示に記載される技術を実施することによって認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示の特定の実施形態の以下の詳細な説明は、同様の構造が同様の参照番号で示されている以下の図面と併せて読むと、最もよく理解することができる。
【0010】
図1】本開示に記載の1つ以上の実施形態による、原油転換システムの実施形態の一般化された概略図を示す図である。
図2】本開示に記載の1つ以上の実施形態による、原油転換システムの別の実施形態の一般化された概略図を示す図である。
図3】本開示に記載の1つ以上の実施形態による、原油転換システムの別の実施形態の一般化された概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1〜3の簡略化した概略図および記載を説明するために、ある特定の化学処理操作の当業者に採用され得、よく知られている多数のバルブ、温度センサ、電子コントローラなどは含まれていない。さらに、例えば空気供給、触媒ホッパー、および煙道ガス処理などの精製装置のような従来の化学処理操作にしばしば含まれる付随する構成要素は描写されていない。これらの構成要素は、開示された本実施形態の趣旨および範囲内にあることを理解されたい。しかしながら、本開示に記載されているものなどの動作構成要素は、本開示に記載された実施形態に追加されてもよい。
【0012】
図面中の矢印はプロセス流を指すことにさらに留意されたい。しかしながら、矢印は、等価的に、2つ以上のシステム構成要素間でプロセス蒸気を移送するのに役立つ移送ラインを指すことができる。加えて、システム構成要素に接続する矢印は、各々の所定のシステム構成要素の流入口または流出口を定義する。矢印の方向は、矢印によって示される物理的移送線内に含まれる流れの材料の主な移動方向に概ね対応する。さらに、2つ以上のシステム構成要素を接続しない矢印は、描写されたシステムから流出する生成物流または描写されたシステムに流入するシステム流入口流を示す。生成物流は、付随する化学処理システムでさらに処理されてもよく、または最終産物として市販されてもよい。システム流入口流は、付随する化学処理システムから移送される流であってもよいか、または未処理の供給原料流であってもよい。いくつかの矢印は、システムに再循環されて戻されるシステム構成要素の流出物流である再循環流を表し得る。しかしながら、いくつかの実施形態において、任意の代表的な再循環流は、同じ材料のシステム流入口流で置き換えられてもよく、再循環流の一部がシステム生成物としてシステムから流出してもよいことを理解されたい。
【0013】
加えて、図面の矢印は、あるシステム構成要素から別のシステム構成要素に流れを搬送するプロセスステップを概略的に示し得る。例えば、あるシステム構成要素から別のシステム構成要素を指し示す矢印は、あるシステム構成要素から「流出する」または「除去される」プロセス流の含有物を含み得る別のシステム構成要素にシステム構成要素流出物を「通す」こと、およびその生成物流の含有物を別のシステム構成要素に「導入する」ことを表す。
【0014】
図1〜3の概略的な流れ図において2つ以上のラインが交差するとき、2つ以上のプロセス流が「混合」または「合流」されることを理解されたい。混合または組み合わせは、両方の流れを同様の反応器、分離装置、または他のシステム構成要素に直接導入することによって混合することを含んでもよい。例えば、2つの流れが、分離ユニットまたは反応器に流入する前に直接合流するように示される場合、いくつかの実施形態では、流れは、等価的に分離ユニットまたは反応器に導入され、反応器で混合され得る。
【0015】
ここで、様々な実施形態をより詳細に参照し、そのいくつかの実施形態が添付の図面に示される。可能な限り、図面全体を通して同じまたは類似の部分を指すために同じ参照番号が使用される。
【0016】
石油化学製品、例えば軽質オレフィンに原油などの供給原料炭化水素を処理するためのシステムおよび方法の様々な実施形態が本開示に記載されている。一般に、供給原料炭化水素の処理は、原油を低沸点炭化水素留分と高沸点炭化水素留分とに分離することと、次いで、高過酷度流動接触分解(HS−FCC)反応において高沸点炭化水素留分を処理することと、流れ分解反応において低沸点炭化水素留分を処理することとを含んでもよい。HS−FCC反応および蒸気分解反応の生成物は、所望の石油化学製品流にさらに分離されてもよい。例えば、原油を供給原料炭化水素として利用してもよく、炭化水素油、ガソリン、混合ブテン、ブタジエン、プロペン、エチレン、メタン、水素、混合C、ナフサ、および液体石油ガスのうちの1つ以上に直接処理してもよい。
【0017】
本開示において使用される場合、「反応器」は、任意に1つ以上の触媒の存在下で1つ以上の反応物間で1つ以上の化学反応が起こり得る容器を指す。例えば、反応器は、バッチ反応器、連続撹拌タンク反応器(CSTR)、またはプラグフロー反応器として動作するように構成されたタンクまたは管状反応器を含むことができる。反応器の例としては、固定床反応器、および流動床反応器などの充填床反応器が挙げられる。1つ以上の「反応ゾーン」を反応器に配置することができる。本開示において使用される場合、「反応ゾーン」は、反応器内で特定の反応が起こる領域を指す。例えば、複数の触媒床を有する充填床反応器は、複数の反応ゾーンを有することができ、各反応ゾーンは、各触媒床の面積によって画定される。
【0018】
本開示において使用される場合、「分離ユニット」は、プロセス流中で互いに混合される1つ以上の化学物質を少なくとも部分的に分離する任意の分離装置を指す。例えば、分離ユニットは、異なる化学種を互いに選択的に分離して、1つ以上の化学留分を形成することができる。分離ユニットの例としては、蒸留カラム、フラッシュドラム、ノックアウトドラム、ノックアウトポット、遠心分離機、濾過装置、トラップ、スクラバー、膨張装置、膜、溶媒抽出装置が挙げられるが、これらに限定されない。本開示に記載された分離プロセスは、1つの一貫性のある化学的成分の全てを別の化学的構成成分の全てから完全に分離することはできないことを理解されたい。本開示に記載された分離プロセスは、異なる化学成分を互いに「少なくとも部分的に」分離し、明示していないとしても、分離は部分的な分離のみを含み得ることを理解されたい。本開示で使用される場合、1つ以上の化学構成成分をプロセス流から「分離して」新しいプロセス流を形成することができる。一般に、プロセス流は、分離ユニットに流入し、所望の組成の2つ以上のプロセス流に分割、または分離されてもよい。さらに、いくつかの分離プロセスでは、「低沸点留分」(「軽質留分」と呼ばれることもある)および「高沸点留分」(「重質留分」と呼ばれることもある)が分離ユニットから流出してもよく、平均して、低沸点留分流の含有物は、高沸点留分流よりも低い沸点を有する。「中間沸点留分」などの他の流れは、低沸点留分と高沸点留分との間に入り得る。
【0019】
「流出物」は、一般に、特定の反応または分離後に分離ユニット、反応器、または反応ゾーンなどのシステム構成要素から流出する流れを指し、一般に、分離ユニット、反応器、または反応ゾーンに流入した流れとは異なる組成(少なくとも比例して)を有することを理解されたい。
【0020】
本開示において使用される、「触媒」は、特定の化学反応の速度を増加させる任意の物質を指す。本開示に記載された触媒は、限定されるものではないが、分解(芳香族分解を含む)、脱金属化、脱芳香族化、脱硫、および脱窒素などの様々な反応を促進するために利用されてもよい。本開示において使用される場合、「分解」とは、一般に、炭素−炭素結合を有する分子が、炭素−炭素結合うちの1つ以上の切断によって2つ以上の分子に切断されるか、または芳香族などの環状部分を含む化合物から、環状部分を含まないもしくは分解前よりも少ない環状部分を含有する化合物に転換される化学反応を指す。
【0021】
流れは、流れの成分について命名し得、流れを命名する成分は、流れの主要な成分(例えば、流れの含有物の50重量パーセント(重量%)から、70重量%から、90重量%から、95重量%から、99重量%から、99.5重量%から、またはさらには99.9重量%から流れの含有物の100重量%までを含む)であってもよいことをさらに理解されたい。流れの成分は、その成分を含む流れがそのシステム構成要素から別の構成要素へ通るとして開示されるとき、あるシステム構成要素から別のシステム構成要素に通るものとして開示されることも理解されたい。例えば、第1のシステム構成要素から第2のシステム構成要素へと通る開示された「水素流」は、第1のシステム構成要素から第2のシステム構成要素へと通る「水素」を等価的に開示すると理解されたい。
【0022】
ここで図1を参照すると、炭化水素転換システム100が概略的に示されている。炭化水素転換システム100は、一般に、供給原料炭化水素流101を受け取り、供給原料炭化水素流101を直接処理して1つ以上の石油化学製品流を形成する。本明細書および実施例は、供給原料油炭化水素流101の材料として原油を特定し得るが、図1図3の実施形態に関して説明した炭化水素転換システム100、200、300は、それぞれ原油、真空残留物、タールサンド、ビチューメン、常圧残油、および減圧ガス油を含むがこれらに限定されない広範囲の供給原料炭化水素(供給原料炭化水素流101)の転換に適用可能であることを理解されたい。供給原料炭化水素が原油である場合、これは22度〜40度の米国石油協会(API)比重度を有し得る。例えば、利用される供給原料炭化水素は、アラブ重質原油であってもよい。アラブ重質原油の1つの特定の等級の例示的な特性を表1に示す。加えて、以下の実施例は、追加の例示的な原油供給原料(水素化処理および非水素化処理の両方)を含む。本開示で使用される場合、「供給原料炭化水素」は、前処理されていない未処理炭化水素(原油など)を指してもよく、または供給原料炭化水素流101中の炭化水素転換システム100に導入される前にある程度の処理を受けた炭化水素を指してもよいことを理解されたい。
【表1】
【0023】
さらに図1を参照すると、供給原料炭化水素流101の含有物を低沸点炭化水素留分流103と高沸点炭化水素留分流104とに分離する供給原料炭化水素分離器102に供給原料炭化水素流101を導入してもよい。1つ以上の実施形態では、供給原料炭化水素流101は、フラッシュドラム(ブレイクポット、ノックアウトドラム、ノックアウトポット、コンプレッササクションドラム、またはコンプレッサ入口ドラムと呼ばれることもある)などの気液分離器であってもよい。供給原料炭化水素分離器102として気液分離器を利用するこのような実施形態では、低沸点炭化水素留分流103が蒸気として供給原料炭化水素分離器102を流出して、高沸点炭化水素留分流104が液体として供給原料炭化水素分離器102を流出する。気液分離器は、供給原料炭化水素流101を低沸点炭化水素留分流103と高沸点炭化水素留分流104とに分離するのに好適な温度、例えば180摂氏度(℃)〜400℃で動作し得る。例えば、低沸点炭化水素留分流103の含有物は、少なくとも約180℃かつ400℃以下、350℃以下、300℃以下、250℃以下、または200℃以下の沸点を有してもよい。高沸点炭化水素留分流104の含有物は、400℃以下かつ少なくとも180℃、少なくとも200℃、少なくとも250℃、少なくとも300℃、またはさらには少なくとも350℃の沸点を有してもよい。
【0024】
低沸点炭化水素留分流103および高沸点炭化水素留分流104への供給原料炭化水素流101の分離後、低沸点炭化水素留分流103を蒸気分解装置ユニット148に通してもよい。蒸気分解装置ユニット148は、対流ゾーン150および熱分解ゾーン151を含んでもよい。低沸点炭化水素留分流103は、蒸気105と共に対流ゾーン150に通してもよい。対流ゾーン150では、低沸点炭化水素留分流103を、400℃〜650℃などの所望の温度に予熱してもよい。次いで、対流ゾーン150に存在する低沸点炭化水素留分流103の含有物を熱分解ゾーン151に通し、ここで蒸気分解してもよい。蒸気分解流出物流107は、蒸気分解装置ユニット148を流出して、熱交換器108を通過してもよく、ここで、水または熱分解炭化水素油などのプロセス流体109は、蒸気分解流出物流107を冷却して、冷却された蒸気分解流出物流110を形成する。蒸気分解流出物流107および冷却された蒸気分解流出物流110は、1つ以上のシステム生成物流に含まれる1つ以上の石油化学製品に分離し得る分解された炭化水素系材料の混合物を含み得る。例えば、蒸気分解流出物流107および冷却された蒸気分解流出物流110は、炭化水素油、ガソリン、混合ブテン、ブタジエン、プロペン、エチレン、メタン、および水素のうちの1つ以上を含んでもよく、流れ分解からの水とさらに混合されてもよい。
【0025】
1つ以上の実施形態によれば、熱分解ゾーン151は、700℃〜900℃の温度で動作し得る。熱分解ゾーン151は、0.05秒〜2秒の滞留時間で動作し得る。蒸気105対低沸点炭化水素留分流103の質量比は、約0.3:1〜約2:1であってもよい。
【0026】
高沸点炭化水素留分流104は、供給原料炭化水素分離器102を流出して、水素流153と合流して、混合流123を形成してもよい。水素流153は、供給水素流122などのシステムの外部の供給源から供給されてもよく、または精製水素流121などのシステム再循環流から供給されてもよい。別の実施形態では、水素流153は、供給水素流122から部分的に供給され、精製水素流121から部分的に供給されるような供給源の組み合わせからであってもよい。水素流153からの成分対混合流123中に存在する高沸点炭化水素留分流104の成分の容積比は、400:1〜1500:1であってもよく、高沸点炭化水素留分流104の含有物に依存し得る。
【0027】
次いで、混合流123を水素化処理ユニット124に導入し得る。水素化処理ユニット124は、金属、窒素、硫黄、および芳香族部分の含有量を少なくとも部分的に減少させ得る。例えば、水素化処理ユニット124を流出する水素処理流出物流125は、金属、窒素、硫黄、および芳香族部分のうちの1つ以上の含有量が少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、またはさらには少なくとも75%減少し得る。例えば、水素化脱金属(HDM)触媒は、プロセス流から1つ以上の金属の一部を除去し、水素化脱窒素(HDN)触媒はプロセス流中に存在する窒素の一部を除去し、水素化脱硫(HDS)触媒は、プロセス流中に存在する硫黄の一部を除去することができる。加えて、水素化脱芳香族(HDA)触媒は、その芳香族部分を飽和および分解することにより、プロセス流中の芳香族部分の量を低下させ得る。特定の触媒が、特定の化学成分または部分が特定の機能性を有すると言われる場合、その機能性が必ずしも特定の化学成分または部分の除去または分解に限定されないことを理解されたい。例えば、本開示においてHDN触媒として特定された触媒は、HDA機能性、HDS機能性、またはそれらの両方をさらに提供してもよい。
【0028】
1つ以上の実施形態によれば、水素化処理ユニット124は、直列に配置された複数の触媒床を含み得る。例えば、水素化処理ユニット124は、直列に配置された水素化分解触媒、水素化脱金属触媒、水素化脱硫触媒、および水素化脱窒素触媒のうちの1つ以上を含み得る。水素化処理ユニット124の触媒は、ポーラスアルミナまたはゼオライト担体上に担持されたモリブデン、ニッケル、コバルト、およびタングステンなどの1つ以上のIUPACグループ6、グループ9、またはグループ10の金属触媒を含み得る。この開示で使用されるように、水素化処理ユニット124は、混合流123中の金属、窒素、硫黄、および芳香族部分の含有量を少なくとも部分的に減少させる働きをし、水素化処理ユニット124における触媒として利用される材料に限定すべきではない。一実施形態によれば、硫黄、窒素、および金属含有量を低減するために利用される1つ以上の触媒は、反応物流を水素化または分解するために利用される触媒の上流に位置してもよい。1つ以上の実施形態によれば、水素化処理ユニット124は、300℃〜450℃の温度で、30バール〜180バールの圧力で動作し得る。水素化処理ユニット124は、0.3/時間〜10/時間の液体時間空間速度で動作し得る。
【0029】
1つ以上の実施形態によれば、水素化処理ユニット124に流入する流れの含有物は、比較的多量の金属(例えば、バナジウム、ニッケル、またはその両方)、硫黄、および窒素のうちの1つ以上を有し得る。例えば、水素化処理ユニットに流入する流れの含有物は、17重量百万分率を超える金属、135重量百万分率を超える硫黄、および50重量百万分率を超える窒素のうちの1つ以上を含み得る。水素化処理ユニット124を流出する流れの含有物は、比較的少量の金属(例えば、バナジウム、ニッケル、またはその両方)、硫黄、および窒素のうちの1つ以上を有し得る。例えば、水素化処理ユニットを流出する流れの含有物は、17重量百万分率以下の金属、135重量百万分率以下の硫黄、および50重量百万分率以下の窒素のうちの1つ以上を含み得る。
【0030】
水素化処理された流出物流125は、水素化処理ユニット124を流出して、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149に通されてもよい。高過酷度流動接触分解反応器ユニット149は、触媒/供給混合ゾーン126、下流流反応ゾーン127、分離ゾーン128、および触媒再生ゾーン130を含んでもよい。水素処理された流出物流125は、触媒/供給混合ゾーン126に導入され、ここで触媒再生ゾーン130から通った再生触媒流129からの再生触媒と混合される。水素処理された流出物流125は、水素処理された流出物流125の含有物を分解する反応ゾーン127中の再生触媒との接触によって反応する。反応ゾーン127における分解反応後、反応ゾーン127の含有物は、分離ゾーン128に通され、ここで反応ゾーン127の分解生成物は使用済み触媒から分離され、使用済み触媒流131において、触媒再生ゾーン130に通され、ここで例えば、使用済み触媒からコークスを除去することによって再生される。
【0031】
高過酷度流動接触分解反応器ユニット149は、高過酷度流動接触分解反応器ユニットの1つの特定の実施形態の単純化された概略図であり、高過酷度流動接触分解反応器ユニットの他の構成は、炭化水素転換システム100に導入するのに好適であり得ることを理解されたい。しかしながら、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149は、一般に、例えば少なくとも500℃の高温で反応物に接触する流動触媒を組み込むことによって定義され得る。1つ以上の実施形態によれば、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149の反応ゾーン127は、530℃〜700℃の温度で動作し得、水素化処理された流出物流125の含有物に対する触媒の重量比は、10重量%〜40重量%である。反応ゾーン127における混合物の滞留時間は、0.2〜2秒であってもよい。種々の流動接触分解触媒が、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149の反応に好適であり得る。例えば、いくつかの好適な流動接触分解触媒としては、ゼオライト、シリカ−アルミナ、一酸化炭素焼成助剤添加剤、ボトム分解添加剤、軽質オレフィン製造添加剤、およびFCCプロセスで使用される他の触媒添加剤が挙げられ得るが、これらに限定されない。高過酷度流動接触分解反応器ユニット149に使用するのに好適な分解ゼオライトの例としては、Y、REY、USY、およびRE−USYゼオライトが挙げられる。ナフサ分解からの軽質オレフィンの製造を高めるために、ZSM−5ゼオライト結晶または他のペンタシル型触媒構造を使用し得る。
【0032】
接触分解流出物流132は、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149の分離ゾーン128流出して、蒸気分解装置ユニット148によって処理された冷却された蒸気分解流出物流110と合流してもよい。冷却された蒸気分解流出物流110および接触分解流出物流132を含有する合流した流れは、分離ユニット111によってシステム生成物流に分離されてもよい。例えば、分離ユニット111は、冷却された蒸気分解流出物流110の含有物と接触分解流出物流132とを、炭化水素油流112、ガソリン流113、混合ブテン流114、ブタジエン流115、プロペン流116、エチレン流117、メタン流118、および水素流119のうちの1つに分離する蒸留塔であってもよい。冷却された蒸気分解流出物流110は、図1に示すように分離ユニット111に導入される前に接触分解流出物流132と混合されてもよく、あるいは分離ユニット111および接触分解流出物流132は、分離ユニット111に個別に導入されてもよい。この開示で使用されるように、システム生成物流(炭化水素油流112、ガソリン流113、混合ブテン流114、ブタジエン流115、プロペン流116、エチレン流117、およびメタン流118など)は、下流の化学処理において中間体として使用されることがある石油化学製品と呼ばれてもよい。
【0033】
図1に示すように、水素流119は、水素精製ユニット120によって処理され、精製水素流121として炭化水素転換システム100に再循環されて戻されてもよい。精製水素流121には、供給水素流122からの追加の供給水素が補充されてもよい。あるいは、水素流119または精製水素流121の全てもしくは少なくとも一部は、システム生成物としてシステムを流出するか、または熱発生のために燃焼されてもよい。
【0034】
ここで図2を参照すると、いくつかの態様において、炭化水素転化システム100と同様または同一である炭化水素転化システム200が図示されているが、接触分解流出物流132は、その成分のいずれかが分離ユニット111に導入される前に分解反応器分離器133において分離される。接触分解流出物流132は、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149から蒸留塔であってもよい分解反応器133に通してもよい。分解反応器分離器133は、接触分解流出物流132の含有物を、軽質サイクル油流134、ナフサ蒸気135、エチレン流136、プロピレン流137、および液化石油ガス(混合C4を含む)流138のうちの1つ以上に分離されてもよい。ナフサ流135は、ナフサ分離器139において、低沸点ナフサ流140と高沸点ナフサ流141とにさらに分離されてもよい。ナフサ流135の全てまたは一部は、水素化処理された流出物流125が高過酷度流動接触分解反応器ユニット149に導入される前に、ナフサ流135を水素処理された流出物流125と合流させるナフサ再循環流142を介して、炭化水素転化システム200に再循環されて戻されてもよい。この開示で使用されるように、システム生成物流(軽/重サイクル油流134、ナフサ蒸気135、エチレン流136、プロピレン流137、液化石油ガス流138、ナフサ分離器139、および低沸点ナフサ流140)は、時には下流の化学処理における中間体として使用される石油化学製品と呼ばれてもよい。
【0035】
液化石油ガス流138は、分解反応器分離器133を流出して、冷却された蒸気分解流出物流110と合流してもよい。冷却された蒸気分解流出物流110および液化石油ガス流138を含有する合流された流れは、分離ユニット111によってシステム生成物流に分離され得る。例えば、図1の実施形態と同様に、分離ユニット111は、冷却された蒸気分解流出物流110および液化石油ガス流138の含有物を炭化水素油流112、ガソリン流113、混合ブテン流114、ブタジエン流115、プロペン流116、エチレン流117、メタン流118、および水素流119のうちの1つ以上に分離する蒸留塔であってもよい。冷却された蒸気分解流出物流110は、図2に示されるように分離ユニット111に導入される前に液化石油ガス流138と混合されてもよく、あるいは冷却された蒸気分解流出物流110および液化石油ガス流138は、分離ユニット111に個別に導入されてもよい。別の実施形態では、液化石油ガス流138の少なくとも一部は、システム生成物として炭化水素転換システム200を流出してもよい。
【0036】
ここで図3を参照すると、いくつかの態様では、炭化水素転化システム100または200と同様または同一である炭化水素転換システム300が示されているが、高沸点炭化水素留分流104の含有物を、水素化処理反応器(図1および図2の実施形態に示された水素化処理ユニット124など)において中間処理を行わずに、重過酷度流動接触分解反応器ユニット149に通してもよい。このような実施形態では、ナフサ再循環流142は、高過酷度流動接触分解反応器ユニット149へのその導入前に、高沸点炭化水素留分流104と合流してもよい。加えて、このような実施形態では、水素が水素処理反応器の水素化処理反応にもはや必要とされないので、水素は、高沸点炭化水素留分流104に導入されないことがある。
【0037】
高沸点炭化水素留分流104が水素処理されて窒素、硫黄、芳香族化合物、金属、およびこれらの組み合わせを減少しない実施形態では、高沸点炭化水素留分流104は、17重量百万分率を超える金属、135重量百万分率を超える硫黄、および50重量百万分率を超える窒素のうちの1つ以上を有する組成物を含む高過酷度流動接触分解反応器ユニット149に導入されてもよい。
【0038】
さらに、水素化処理反応器を含まない図3の実施形態は、図1に示す分離スキームに関連して好適であり得、接触分解流出物流132の含有物は、分離ユニット111において冷却された水蒸気分解流出物流110の含有物と共に分離されることを理解されたい。
【0039】
図1図3を参照して開示された実施形態によれば、蒸気分解装置ユニットなどの分解ユニットに導入する前に、供給原料炭化水素流101を2つ以上の流れに分離しない従来の転換システムを超える多くの利点が存在し得る。すなわち、供給原料炭化水素全体を蒸気分解装置に注入する従来の分解ユニットは、図1図3の転化システムと比較して、ある点では不十分である場合がある。例えば、供給原料炭化水素流101を蒸気分解ユニットに導入する前に分離することによって、より多量の軽質留分システム生成物を製造し得る。現在説明されている実施形態によれば、低沸点炭化水素留分流103を蒸気分解装置ユニット148に導入するだけで、水素、メタン、エチレン、プロペン、ブタジエン、および混合ブテンなどの低沸点生成物の量を増加させ得ると同時に炭化水素油などの高沸点生成物の量を減らすことができる。同時に、高沸点炭化水素留分流104を高過酷度流動接触分解反応器ユニット149を介して、軽質サイクル油、ナフサ、混合C、エチレン、およびプロピレンなどの他の有益なシステム生成物に転換することができる。別の実施形態によれば、蒸気分解装置ユニット148におけるコーキングは、高沸点炭化水素留分流104中に存在する材料の排除によって低減され得る。理論に拘泥するものではないが、蒸気分解装置ユニットへの芳香族性の高い供給物は、高沸点生成物および増加したコーキングをもたらし得ると考えられる。したがって、芳香族性の高い材料が蒸気分解装置ユニット148に導入されず、その代わりに原料炭化水素分離器102によって高沸点炭化水素留分流104の少なくとも一部に分離されるとき、コーキングを減少させることができ、蒸気分解装置ユニット148によって大量の低沸点生成物を製造することができると考えられる。
【0040】
別の実施形態によれば、資本コストは、図1図3の炭化水素転換システム100、200、300の設計によって低減し得る。供給原料炭化水素流101は、供給原料炭化水素分離器102によって分留されるので、システムの分解炉の全てが高沸点炭化水素留分流104に含有される材料を取り扱うように設計される必要はない。低沸点炭化水素留分流103に含有されるような低沸点材料を処理するように設計されたシステム構成要素は、高沸点炭化水素留分流104に含有されるような高沸点材料を処理するように設計されたシステム構成要素よりも安価である。例えば、蒸気分解装置ユニット148の対流ゾーン150は、高沸点炭化水素留分流104の材料を処理するように設計された等価の対流ゾーンよりも簡単で安価に設計することができる。
【0041】
別の実施形態によれば、蒸気分解装置ユニット148の対流ゾーン150と熱分解ゾーン151との間で、気固分離装置および気液分離装置などのシステム構成要素を利用する必要はなくてもよい。いくつかの従来の蒸気分解装置ユニットでは、対流ゾーンと熱分解ゾーンとの間に気液分離装置を位置する必要があり得る。この気液分離装置を使用して、対流ゾーン中に存在する高沸点成分、例えば任意の真空残留物を除去し得る。しかしながら、図1図3の炭化水素転化システム100、200、300のいくつかの実施形態では、気液分離装置は、必要でなくてもよく、または高沸点炭化水素留分流104中に存在するものなどの高沸点材料に遭遇しないので、あまり複雑でなくてもよい。加えて、記載されたいくつかの実施形態では、比較的重い供給物の処理によって引き起こされる、蒸気分解装置ユニット148は、より頻繁に(すなわち断続的な停止なしで)動作することができ得る。このより高い動作周波数は、時にはオンストリームファクタの増加と呼ばれることもある。
【実施例】
【0042】
供給原料炭化水素の転換のための方法およびシステムの様々な実施形態は、以下の実施例によってさらに明らかになるであろう。これらの実施例は本質的に例示的なものであり、本開示の主題を限定するものと理解されるべきではない。
【0043】
比較例A
生成物収率は、水素化処理されたアラブ軽質原油を供給原料として利用する蒸気分解装置パイロットプラントでの実験によって決定された。表2Aは、水素化処理前後の供給原料として利用されるアラブ軽質原油を示す。水素処理されたアラブ原油を540℃で予め切断して、供給原料から高沸点留分を除去して、対流ゾーンと熱分解ゾーンとの間の従来の蒸気分解装置ユニットで利用される気液分離装置の効果をシミュレートした。試験には840℃のコイル流出口温度の分解過酷度を使用した。比較例Aの生成物収率を表2Bに示す。
【表2A】
【表2B】
【0044】
実施例1
表2Aの原油供給原料を2つの留分に分離し、続いて蒸気分解装置ユニットおよび高過酷度流動接触分解反応器ユニットでそれぞれ処理した、図1および2に示す反応器システムについて生成物収率をコンピュータモデル化した。高過酷度流動接触分解反応をHS−FCC ASPENシミュレーションを使用してコンピュータモデル化し、蒸気分解反応をSPYROでモデル化した。このモデルは、アラブ軽質原油が345℃(HS−FCC反応器で処理された)超および345℃(蒸気分解装置で処理された)未満の沸点を有する留分に分離されることに基づいた。このモデルは、HS−FCC反応器に供給される留分を、水素化処理して、HS−FCC反応器におけるその分解前に窒素、硫黄、および金属の一部を除去することで構成された。水素化処理後の供給物の組成は、パイロットプラントで実験的に決定され、比較例Aに関して表2Aに示されたものと同じであった。モデルは、nC、nC、およびnCを再循環させて蒸気分解セクションで消滅させた。SPYROシミュレーションは、840℃のコイル流出口温度、253.852メガパスカル(MPa)の流入口圧力、0.7の蒸気対油比、0.233秒の滞留時間、および187.712メートル/秒(m/s)の流出口速度で構成された。表3は、実施例1の統合された分解スキームの生成物収率を示し、表4は、蒸気分解装置で分解された低沸点留分の生成物収率を示し、表5は、HS−FCCで分解された高沸点留分の生成物収率を示す。
【表3】
【表4】
【表5】
【0045】
実施例2
原油供給原料を2つの留分に分離し、続いて蒸気分解装置ユニットおよび高過酷度流動接触分解反応器ユニットでそれぞれ、水素化処理を利用することなく処理した、図3に示す反応器システムについて生成物収率をモデル化した。統合されたシステムは、600℃および約30の触媒対油比のベンチスケールダウン流動接触分解ユニットを使用して観測された高過酷度流動接触分解反応データ、ならびに実施例1に開示されたのと同じプロセスパラメータを利用するSPYROのモデルによって作成された蒸気分解反応データを用いてASPENでモデル化された。このモデルは、軽質アラブ原油が350℃(HS−FCC反応器で処理された)超および350℃(蒸気分解装置で処理された)未満の沸点を有する留分に分離されることに基づいた。モデルが実施された供給原料は、水素化処理を行わない表2Aのアラビア軽質原油であった。このモデルは、nC、nC、およびnCを再循環して、840℃のコイル流出口温度および0.5の蒸気対油比の分解過酷度を有する蒸気分解セクションで消滅させた。表6は、蒸気分解装置中で分解された低沸点留分の生成物収率を示し、表7は、HS−FCC中で分解されたより高沸点留分の生成物収率を示す。
【表6】
【表7】
【0046】
以下の特許請求の範囲のうちの1つ以上は、用語「where」を移行句として利用することに留意されたい。本技術を定義する目的のために、この用語は、構造の一連の特性の列挙を導入するために使用される非限定型の移行句として、特許請求の範囲に導入され、より一般的に使用される非限定型の前提事項用語「comprising」と同様に解釈されるべきであることに留意されたい。
【0047】
特性に割り当てられた任意の2つの定量値は、その特性の範囲を構成することができ、所与の特性の全ての記載された定量値から形成される範囲の全ての組み合わせが、本開示において企図されることを理解されたい。
【0048】
本開示の主題を詳細に、かつ特定の実施形態を参照して説明したが、本開示に記載された様々な詳細は、本明細書に付随する各図面に特定の要素が示されている場合であっても、これらの詳細が記載された様々な実施形態の必須構成要素であることを暗示するものと取られるべきではないことに留意されたい。むしろ、本明細書に添付された特許請求の範囲は、本開示の幅および本開示に記載の様々な実施形態の対応する範囲の単なる表現として解釈されるべきである。さらに、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、変更および変形が可能であることは明らかであろう。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
供給原料炭化水素を処理する方法であって、
前記供給原料炭化水素を低沸点炭化水素留分と高沸点炭化水素留分とに分離することと、
接触分解流出物を形成するように、高過酷度流動接触分解反応器ユニットにおいて前記高沸点炭化水素留分を分解することと、
蒸気分解流出物を形成するように、蒸気分解装置ユニットにおいて前記低沸点炭化水素留分を分解することと、
2つ以上の石油化学製品を形成するように、前記接触分解流出物または前記蒸気分解流出物の一方または両方を分離することと、
を含む、方法。
実施形態2
前記供給原料炭化水素が、原油を含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
前記石油化学製品のうちの1つが、メタン、エテン、プロペン、ブテン、またはブタジエンのうちの1つ以上を含む、実施形態1または2に記載の方法。
実施形態4
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットにおいて前記重質粗留分が分解される前に、前記高沸点炭化水素留分を水素処理することをさらに含み、前記水素化処理が、前記高沸点炭化水素留分中の硫黄、金属、芳香族化合物、および窒素のうちの1つ以上の含有量を減少させることを含む、実施形態1〜3のいずれか一項に記載の方法。
実施形態5
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットに導入される前に、前記高沸点炭化水素留分を水素と合流させることをさらに含む、実施形態4に記載の方法。
実施形態6
前記高沸点炭化水素留分と合流する水素の少なくとも一部が、再循環されるように石油化学製品である、実施形態5に記載の方法。
実施形態7
供給原料炭化水素が、フラッシングにより、前記低沸点炭化水素留分と前記高沸点炭化水素留分とに分離される、実施形態1〜6のいずれか一項に記載の方法。
実施形態8
前記低沸点炭化水素留分の含有物が、400℃以下の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分の含有物が、少なくとも180℃の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分の含有物の前記沸点が、前記低沸点炭化水素留分の含有物の前記沸点よりも高い、実施形態1〜7のいずれか一項に記載の方法。
実施形態9
分解された前記高沸点炭化水素留分が、
少なくとも17重量百万分率の金属、
少なくとも135重量百万分率の硫黄、および
少なくとも50重量百万分率の窒素
のうちの1つ以上を含む、実施形態1〜8のいずれか一項に記載の方法。
実施形態10
前記接触分解流出物と前記蒸気分解流出物とを合流させることをさらに含む、実施形態1〜9のいずれか一項に記載の方法。
実施形態11
第1の分離器を用いて前記接触分解流出物からナフサを分離することと、
前記ナフサと前記蒸気分解流出物とを合流させることと、
をさらに含む、実施形態1〜10のいずれか一項に記載の方法。
実施形態12
供給原料炭化水素を処理するための方法であって、
供給原料炭化水素を低沸点炭化水素留分流と高沸点炭化水素留分流とに分離する供給原料炭化水素分離器に、前記供給原料炭化水素流を導入することと、
前記高沸点炭化水素留分流を分解して接触分解流出物流を形成する高過酷度流動接触分解反応器ユニットに、前記高沸点炭化水素留分流を通すことと、
前記低沸点炭化水素留分流を分解して蒸気分解流出物流を形成する蒸気分解装置ユニットに、前記低沸点炭化水素留分流を通すことと、
2つ以上の石油化学製品流を形成するように、前記接触分解流出物流または前記蒸気分解流出物流の一方または両方を分離することと、
を含む、方法。
実施形態13
前記供給原料炭化水素流が、原油を含む、実施形態12に記載の方法。
実施形態14
前記石油化学製品流のうちの1つがブテンを含む、実施形態12または13に記載の方法。
実施形態15
前記高沸点炭化水素留分を、前記流動接触分解反応器ユニットの上流に位置する水素化処理ユニットに通すことをさらに含み、硫黄含有量、金属含有量、芳香族化合物、または窒素含有量のうちの1つ以上が、前記高沸点炭化水素留分が前記流動接触分解反応器ユニットに導入される前に、前記水素処理ユニット中の前記重質粗留分において減少する、実施形態12〜14のいずれか一項に記載の方法。
実施形態16
前記高過酷度流動接触分解反応器ユニットの上流に位置する水素化処理ユニットに導入される前に、前記高沸点炭化水素留分流を水素流と合流させることをさらに含む、実施形態15に記載の方法。
実施形態17
前記高沸点炭化水素留分流と合流させる前記水素流中の水素の少なくとも一部が、それが再循環されるように石油化学製品流からのものである、実施形態16に記載の方法。
実施形態18
前記供給原料炭化水素が、フラッシングにより、前記低沸点炭化水素留分流と前記高沸点炭化水素留分とに分離される、実施形態12〜17のいずれか一項に記載の方法。
実施形態19
前記低沸点炭化水素留分流の含有物が、400℃以下の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分流の含有物が、少なくとも280℃の沸点を有し、前記高沸点炭化水素留分流の含有物の前記沸点が、前記低沸点炭化水素留分流の含有物の前記沸点よりも高い、実施形態12〜18のいずれか一項に記載の方法。
実施形態20
分解される前記高沸点炭化水素留分流が、
少なくとも17重量百万分率の金属、
少なくとも135重量百万分率の硫黄、および
少なくとも50重量百万分率の窒素
のうちの1つ以上を含む、実施形態12〜19のいずれか一項に記載の方法。
実施形態21
前記接触分解流出物流と前記蒸気分解流出物流とを合流させることをさらに含む、実施形態12〜20のいずれか一項に記載の方法。
実施形態22
第1の分離器を用いて前記接触分解流出物からナフサを分離して、ナフサ流を形成することと、
前記ナフサ流と前記蒸気分解流出物流とを合流させることと、
をさらに含む、実施形態12〜21のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3