特許第6970199号(P6970199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970199ステンレス鋼部品のための表面CTS防食処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970199
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼部品のための表面CTS防食処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20211111BHJP
   C23F 1/40 20060101ALI20211111BHJP
   C23G 1/19 20060101ALI20211111BHJP
   C23C 22/40 20060101ALI20211111BHJP
   C25D 9/10 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C23C28/04
   C23F1/40
   C23G1/19
   C23C22/40
   C25D9/10
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-530532(P2019-530532)
(86)(22)【出願日】2017年8月16日
(65)【公表番号】特表2019-529719(P2019-529719A)
(43)【公表日】2019年10月17日
(86)【国際出願番号】CN2017097656
(87)【国際公開番号】WO2018033096
(87)【国際公開日】20180222
【審査請求日】2019年8月16日
(31)【優先権主張番号】201610673582.9
(32)【優先日】2016年8月16日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519055205
【氏名又は名称】シェンジェン・キャンダーテック・インコーポレーテッド・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チャオ
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−307282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼表面の防食方法であって:
(1)水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液を用いてステンレス鋼表面を同時に化学的脱脂及びアルカリエッチングした後、水で洗浄する工程;
(2)前記工程(1)で処理した前記ステンレス鋼表面を、酸化溶液で酸化した後、水で洗浄する工程;
(3)前記工程(2)で処理した前記ステンレス鋼表面を、カソードとして電解液に浸漬して電解した後、水で洗浄する工程;
(4)前記工程(3)で処理した前記ステンレス鋼表面を、温度50〜60℃及び湿度60〜70%に配置して硬化させる工程
を含
ここで、工程(1)において、アルカリエッチング活性剤はエトキシ変性ポリトリシロキサンである、
防食方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、前記水酸化ナトリウム溶液及び前記アルカリエッチング活性剤含有溶液は、80〜85℃であり;
記水酸化ナトリウム溶液の濃度は6.5〜8%であり;
記アルカリエッチング活性剤含有溶液の濃度は0.3〜0.5%であり
記化学的脱脂及びアルカリ処理によるエッチングは、10〜15分間実施され;
記水での洗浄は、80〜85℃の温度の水を用いて3〜5分間実施することを特徴とする、請求項1に記載の防食方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、前記酸化溶液は、200〜300g/LのCrO3及び100〜150g/LのNa2MoO4を含有し;
記酸化溶液の温度は75〜90℃であり;
記酸化溶液のpHは、2SO4溶液を酸化溶液に添加することによって0.4〜1.5に調節され;記H2SO4溶液の濃度は98%であり;
化処理は15〜35分間実施し;
前記工程(2)における前記水での洗浄は、25〜40℃の水を用いて3〜5分間実施し;前記水のpHは>3である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の防食方法。
【請求項4】
前記工程(3)において、前記電解液は、100〜150g/LのCrO3、100〜150g/LのNa2MoO4、200〜250g/LのH3PO4、50〜60g/LのNa2SiO3を含有することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防食方法。
【請求項5】
前記工程(3)において、前記電解液の温度は40〜52℃であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防食方法。
【請求項6】
前記工程(3)において、前記電解液のpHは、H2SO4溶液を前記電解液に添加することによって0.5〜1.5に調節され;前記H2SO4溶液の濃度は98%であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防食方法。
【請求項7】
前記工程(3)において、前記電解は、40A/m2の初期電流強度で10〜25分間電解すること、及びその後、15〜30分の間に5A/m2まで徐々に低下される電流強度で電解することを含み、
初期電流強度は40A/m2であり、その後、前記電流強度は式i=3+A/t(式中、iは電流強度、単位はA/m2であり、tは時間、単位は分であり、Aは20〜30のパラメータである)に従って5A/m2まで徐々に低下される
ことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防食方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、前記電解の時間は25〜55分であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防食方法。
【請求項9】
前記工程(3)において、前記水での洗浄は、25〜40℃の水を用いて3〜5分間実施され;前記水のpHは>3であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防食方法。
【請求項10】
前記工程(4)において、配置することによる硬化処理の時間は3〜4時間であることを特徴とする、請求項1から請求項のいずれかに記載の防食方法。
【請求項11】
前記方法によって処理されるステンレス鋼は:ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、ステンレス鋼トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、ステンレス鋼締着具及びステンレス鋼コネクタからなる群から選択される、請求項1から請求項のいずれかに記載の防食方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の防食方法のステンレス鋼の処理における使用であって、ステンレス鋼は:ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、ステンレス鋼トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、ステンレス鋼締着具及びステンレス鋼コネクタからなる群から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製、石油化学、化学工業及び石油製品加工装置の分野に関し、特に、石油精製、石油化学、石油加工、化学工業等の高腐食産業環境で使用されるステンレス鋼製コンポーネントの表面防食処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製、石油化学、化学工業及び海水処理の分野では、石油精製装置の有機酸及び塩化物イオン、化学工業装置の脂肪酸、海水処理装置のCl-等の高腐食媒体環境が存在する。特に、石油精製業においては、原油の品質により、腐食現象が激しく悪化する。材料の品質は、腐食しやすい場所での使用にとって、ますます重要になっている。低品質の材料は容易に腐食し、したがって、交換及び修理のためのシャットダウンが必要である。一方、高品質の材料は高コストである。欠陥の存在はボトルネックとなり、腐食環境での製造、加工及び開発を制限する。
【0003】
現在、金属の腐食を防止する方法は多数存在する。方法は、主に:1.金属材料本来の耐食性を改善すること;2.非金属材料又は非金属保護層をコーティング又はめっきすること;3.腐食性媒体を処理すること;4.電気化学的保護を適用することを含む。
【0004】
更に、金属表面上に金属保護層を形成することによる表面処理方法は、コンポーネントの金属表面上に、腐食速度を遅くするための保護層として不活性金属又は合金をめっきすること(保護層として使用する金属は、通常、亜鉛、スズ、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、カドミウム、チタン、鉛、金、銀、パラジウム、及び様々な種類の合金などである);又は金属若しくは合金の層を、電着によって金属表面上にめっきすること;又は保護しようとする金属若しくは製品を溶融金属に浸漬することによって、金属表面上の保護金属層を形成する;又は粉末状金属をスプレーガンに入れ、粉末状金属を高温で溶融し、それを、保護しようとする金属の表面上に噴霧することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の方法の欠点は:コーティングされた金属と保護金属との間の融合が十分ではなく、そのためコーティングが硬く、容易に剥がれ落ちること;及び製造方法が複雑で困難であり、大規模生産に適さないか若しくは加工の要件を満足しないこと、又は耐食性が実際の状況の要件を満足しないことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題について、本発明は、特に、優れた防食効果、単純なプロセス、低い装置要件を有する、耐食のためのステンレス鋼の表面処理方法を示し、当該方法は、大規模工業用途に好適であり、高腐食環境下で使用できる。
【0007】
この方法によって処理されるステンレス鋼コンポーネントとしては、ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、並びに種々の締着具及びコネクタが挙げられるが、これらに限定されない。この方法で処理されたステンレス鋼の最大耐孔食性指数PREN値は、40〜58で、1.5〜2.3倍に増えている。塩化物イオン、スルフィド、有機酸等に対する処理済みステンレス鋼の耐食性は、通常の未処理304、316L、及び317Lステンレス鋼の耐食性よりも1グレード高くなり、AL−6XN及び904L合金の耐食性に等しくなる。更に、この方法で処理したステンレス鋼コンポーネントの総厚は700〜900nmであり、処理済み材料の表面は、はめ込み式(inlaid manner)に基材を組み合わせ、その熱膨張係数は等しく、材料と基材との間に明白な接合界面は存在せず、かかる表面は、高温で長時間基材から剥がれ落ちないと予想される。この方法の前処理及び後処理は、常温常圧下で実施され、工業化及び大型のステンレス鋼製装置への適用が容易である。
【0008】
上記目的を達成するための技術的解決策は以下のとおりである:
【0009】
本発明は、次の工程を含む、ステンレス鋼表面の防食方法を提供する:
【0010】
(1)水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液を用いてステンレス鋼表面を化学的脱脂及びアルカリエッチングした後、水で洗浄する工程;
【0011】
(2)工程(1)で処理したステンレス鋼表面を、酸化溶液で酸化した後、水で洗浄する工程;
【0012】
(3)工程(2)で処理したステンレス鋼表面を、カソードとして電解液に浸漬して電解した後、水で洗浄する工程;
【0013】
(4)工程(3)で処理したステンレス鋼表面を、硬化のために、温度50〜60℃及び湿度60〜70%に配置する工程。
【0014】
好ましくは、工程(1)において、水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液の温度は、80〜85℃である。
【0015】
好ましくは、水酸化ナトリウム溶液の濃度は、6.5〜8%である;
【0016】
好ましくは、アルカリエッチング活性剤含有溶液の濃度は、0.3〜0.5%である。
【0017】
好ましくは、アルカリエッチング活性剤は、エトキシ変性ポリトリシロキサンである。
【0018】
好ましくは、化学的脱脂及びアルカリ処理によるエッチングは、10〜15分間実施する。
【0019】
好ましくは、水での洗浄は、80〜85℃の温度の水を用いて3〜5間実施する。
【0020】
好ましくは、工程(2)において、酸化溶液は200〜300g/LのCrO3及び100〜150g/LのNa2MoO4を含有する。
【0021】
好ましくは、酸化溶液の温度は75〜90℃である。
【0022】
好ましくは、酸化溶液のpHは0.4〜1.5であり;好ましくは、酸化溶液のpHは、H2SO4溶液を酸化溶液に添加することによって0.4〜1.5に調節され;好ましくは、H2SO4溶液の濃度は98%である。
【0023】
好ましくは、酸化処理は15〜35分間実施する。
【0024】
好ましくは、工程(2)における水での洗浄は、25〜40℃の水を用いて3〜5分間周期的に実施し;好ましくは、水のpHは>3である。
【0025】
好ましくは、工程(3)において、電解液は、100〜150g/LのCrO3、100〜150g/LのNa2MoO4、200〜250g/LのH3PO4、50〜60g/LのNa2SiO3を含有する。
【0026】
好ましくは、電解液の温度は40〜52℃である;
【0027】
好ましくは、電解液のpHは0.5〜1.5であり;好ましくは、電解液のpHは、H2SO4溶液を電解液に添加することによって0.5〜1.5に調節され;好ましくは、H2SO4溶液の濃度は98%である;
【0028】
好ましくは、電解を実施するための電流は直流であり;好ましくは、電流の強度は40〜5A/m2であり;好ましくは、初期電流強度は40A/m2であり、その後、電流強度は式i=3+A/t(式中、iは電流強度、tは時間、Aは20〜30のパラメータである)に従って5A/m2まで徐々に低下され;好ましくは、電解の時間は25〜55分である。
【0029】
好ましくは、電解は、40A/m2の初期電流強度で10〜25分間電解すること、及びその後、15〜30分の間に5A/m2まで徐々に低下される電流強度で電解することを含む。
【0030】
好ましくは、水での洗浄は、25〜40℃の水を用いて3〜5分間周期的に実施し;好ましくは、水のpHは>3である。
【0031】
好ましくは、工程(4)において、配置することによる硬化処理の時間は、3〜4時間である。
【0032】
本発明の方法によって処理されるステンレス鋼としては、ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、並びに種々の締着具及びコネクタが挙げられる。
【0033】
本発明は、ステンレス鋼の処理における本発明の方法の使用も提供し、好ましくは、ステンレス鋼としては:ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、並びに種々の締着具及びコネクタが挙げられる。
【0034】
本発明は、本発明の方法によって得られるステンレス鋼を更に提供する。
【0035】
本発明の目的、技術的特徴、及び有益な効果をより詳細に説明するため、本発明のナノ結晶性材料を、304ステンレス鋼と組み合わせて、以下に更に記載する。
【0036】
図1に示すように、本発明のナノ結晶性材料で処理した後、304ステンレス鋼基材は暗色を示し、これは未処理の304ステンレス鋼基材の色と比べて大きな差異である(図1の左側は304ステンレス鋼基材であり、図1の右側は本発明によるナノ結晶性材料で処理した304ステンレス鋼基材である)。ナノ結晶性材料を金属顕微鏡で観察した結果、図2に示すように、ナノ結晶性材料は元の304ステンレス鋼の表面粒界を被覆していることがわかる。これにより、卓越した粒界耐食性が得られる。
【0037】
本発明の方法で製造した304ステンレス鋼基材をベースとするナノ結晶性材料では、304ステンレス鋼表面上に形成されたナノ結晶性材料は、はめ込み式に304ステンレス鋼基材と組み合わされていることがわかる。304ステンレス鋼基材材料は、表面上に浅部から深部へとハニカム基材構造を形成し、ハニカム基材構造の空隙に、硬化したナノ結晶性材料が充填されている。ステンレス鋼基材とナノ結晶性材料との間に接合界面は存在しないことから、ナノ結晶性材料及びステンレス鋼基材の熱膨張は明白な欠陥層を生じないであろう。接触媒体の温度が大きく変動したとき、このようなはめ込み式は、ナノ結晶性材料とステンレス鋼基材の間のフィルム層が剥がれ落ちるのを防止するであろう。ナノ結晶性材料の接着は、コーティング及びめっき材料の接着よりもはるかに大きい。図3に示すように、空白領域は304ステンレス鋼基材であり、本発明のナノ結晶性材料は、表面が密で内部層は希薄となることによって基材と組み合わされている。
【0038】
基材とナノ結晶性材料を組み合わせた生成物の層をX線光電子分光法で分析した結果、層は、最外面層から最内層へと向かって、修復変態層、両性水酸化物層、酸化物層及び基材層であることが確認された。層間に明白な交点はない。具体的な組成と深さの傾向を図4に示す。ここで、修復変態層の厚さは1〜100nmであり、この層は、耐孔食の変態層がMo元素を含有することを主な特徴とし、修復層において、三価クロムは表面結晶質骨格であり、六価クロムは充填剤であり、いずれも層元素の安定性を維持し、共に耐食性を増大する。両性水酸化物層の厚さは200〜500nmであり、この層は主に酸化クロム及び水酸化クロム層から構成される。酸化物層の厚さは500〜900nmであり、この層は主に酸化クロム及びクロム元素層で構成され、この層の鉄元素層の含有量は、基材と等しい含有量まで急速に上昇する。基材層の厚さは≧900nmであり、この層は、304ステンレス鋼基材の通常の組成である。図2からわかるように、基材層とナノ結晶性材料の表面上の3つの層との間に明白な界面はなく、結合強度は強力である。
【0039】
本発明によるナノ結晶性材料とステンレス鋼基材との間の結合能力の試験は、以下のように実施する:本発明のステンレス鋼をベースとするナノ結晶性材料を含む試験シートを、予め設定した高温まで加熱し、その後冷水に入れてクエンチした。試験は数回繰り返して実施し、ナノ結晶性材料とステンレス鋼基材との間の結合層の接着を観察した。ステンレス鋼をベースとするナノ結晶性材を用いた試験シートの熱衝撃試験を、GB/T5270−2005/ISO2819:1980の規格に従って実施した。試験温度を、100℃、300℃、500℃、800℃及び1000℃まで連続的に上昇した結果、試験シートの表面に亀裂及び剥離は観察されなかった。表面の色は800℃及び1000℃の高温で少し変化したが、X線光電子分光法で試験したとき、ナノ結晶性材料の表面の組成は変化していなかった。1000℃の高温で30%変形するまで伸張したとき、ナノ結晶性材料は、基材材料と同じ伸張比を有した。
【0040】
本発明において、本発明の方法で処理した一般的に使用されるステンレス鋼(0Cr13、304、316L、317L)を、X線光電子分光法元素分析により多重分析した。元素の組成は表1に示すとおりであった:
【0041】
【表1】
【0042】
次の耐孔食性指数の計算
PREN=1×Cr+3.3×Mo+20×N、
により、本発明の方法によって処理した種々のステンレス鋼表面のPREN値は、かなり増大しており、40〜58である。
【0043】
本発明の方法で処理した304ステンレス鋼を、X線光電子分光法で多重分析し、その元素の組成を表2に示す:
【0044】
【表2】
【0045】
次の耐孔食性指数の計算
PREN=1×Cr+3.3×Mo+20×N
により、本発明の方法で処理した304ステンレス鋼のPREN値は、47.58である。
【0046】
ステンレス鋼基材の違いに基づき、本発明の方法による具体的なプロセスは、以下のとおりである:
【0047】
プロセス経路は:高温アルカリによる脱脂及びアルカリによるエッチング;水洗浄;酸化;水洗浄;電解;緻密化;硬化。
【0048】
高温水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液を使用して、化学的脱脂及びアルカリエッチングを実施した。溶液の温度は80〜85℃に制御し、時間は10〜15分であり、洗浄には80〜85℃の温水を3〜5分間使用する。高温水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液の量は、ステンレス鋼表面全体を浸漬する量である。
【0049】
酸化溶液は、200〜300g/LのCrO3及び100〜150g/LのNa2MoO4を含有する。75〜90℃で、H2SO4溶液を添加することによって、酸化溶液のpHを0.4〜1.5に調節し、酸化の時間は15〜35分であり、その後酸化溶液を洗浄した。
【0050】
電解液の組成は、100〜150g/LのCrO3、100〜150g/LのNa2MoO4、200〜250g/LのH3PO4、50〜60g/LのNa2SiO3を含有する。電解液のpHは、H2SO4溶液を添加することによって0.5〜1.5に調節し、温度は40〜52℃に制御する。ステンレス鋼片をカソードとして使用する。電解は、初期強度40A/m2で10〜25分間実施し、その後徐々に低下する電流強度で15〜30分間実施する。電解工程において、電流は直流であり、初期電流強度は40A/m2であり、その後、電流強度は式i=3+A/t(式中、iは電流強度、tは時間、Aは20〜30のパラメータである)に従って徐々に低下される。電解が終わった後、表面上の電解液を洗浄する。
【0051】
洗浄したフィルム層を、温度50〜60℃及び湿度60〜70%で3〜4時間硬化して、処理を最終的に完了する。
【0052】
本発明の方法で処理したステンレス鋼の孔食効果は、非常に明白であり、耐孔食性指数PRENは40〜58で、これは多数の優れたステンレス鋼合金よりも高い。本発明の方法で処理したステンレス鋼の表面とステンレス鋼基材との間に明白な接合界面はなく、処理済み材料の表面は、はめ込み式に基材と組み合わされており、したがって、明白な欠陥は存在しない。
【0053】
本発明において、電解中の電流強度の制御は重要である。短時間かつ大きな電流の場合、ステンレス鋼表面のハニカム孔内のクロム及びケイ素元素が不十分となり、その結果、中間層の孔、原子空間充填率の不足、及び耐食性の低下を招く。したがって、電流強度、電解の時間及び温度並びに電流強度(電気分解の後半で徐々に低下する)は、処理後のステンレス鋼の原子空間充填率に影響すると考えられる。
【0054】
本発明の方法では、硬化の温度及び湿度は非常に重要である。温度が高すぎると、フィルムはエージングされ、割れる。温度が低すぎると、フィルムが柔らかくなり、洗浄及び摩擦プロセスの間に、特に充填された金属及び金属酸化物結晶質が、基材から容易に剥がれ落ちる。
【0055】
以下に、本発明の代表的実施形態を、添付図面を参照して詳細に記載する:
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】図の左側は304ステンレス鋼基材であり、図の右側は本発明の方法で処理した304ステンレス鋼基材である。
図2】本発明の方法で処理したステンレス鋼表面である。
図3】本発明の方法で処理したステンレス鋼及び304ステンレス鋼基材の元素分布図である。
図4】X線光電子分光法によって分析した、本発明の方法で処理したステンレス鋼の材料組成物層の傾向図である。
図5】本発明の方法で処理した304ステンレス鋼基材から製造したステンレス鋼製フィルターハンガーである。
図6】304ステンレス鋼製のフィルターハンガー(40日間配置後)である。
図7】本発明の方法で処理した304ステンレス鋼から製造したステンレス鋼製フィルターハンガー(40日間配置後)である。
図8】本発明の方法で処理した304ステンレス鋼から製造したステンレス鋼製フィルターハンガー(酸性水ストリッパー還流ポンプ内に3カ月間配置後)である。
図9】通常の304ステンレス鋼製のフィルターハンガー(酸性水ストリッパー還流ポンプ内に40日間配置後)である。
図10】通常の304ステンレス鋼製充填物(1247日間運転後)である。
図11】本発明の方法で処理した304ステンレス鋼製充填物(1247日間運転後)である。
図12】317Lステンレス鋼製充填物(3年間運転後)である。
図13】本発明の方法で処理した317Lステンレス鋼製充填物の隣接領域及び317Lステンレス鋼製充填物(3年間運転後)である。
図14】本発明の方法で処理した317Lステンレス鋼製充填物(3年間運転後)である。
図15】15分間電解した後の式i=40−2.33t(式中、iは電流強度、t間(分)である)による電流と時間の関係である。
図16】15分間電解した後の電流と時間の関係であり、図中、0〜5分の電流は40A/m2であり;5〜10分の電流は20A/m2であり;10〜15分の電流は15A/m2である。
図17】15分間電解した後の式i=30+30/t(式中、iは電流強度、tは時間(分)である)による電流と時間の関係である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明を更に、具体的な実施形態と共に詳細に記載するが、実施例は本発明を例示する目的のみで示しており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0058】
以下の実施例における実験法は、特記のない限り、従来方法である。以下の実施例で使用する原材料、試薬材料等は、特記のない限り、市販製品である。
【0059】
実施例1:本発明による方法の電流制御に関する試験
【0060】
本発明の方法では、電解中の電流の変化は、処理済みステンレス鋼表面の原子空間充填率に大きな影響を及ぼす。標準的な塩化第二鉄腐食試験から、処理済みステンレス鋼表面の原子空間充填率は腐食結果に大きな影響を有することがわかる。処理済みステンレス鋼表面の摩擦係数の変化及び耐食性の変化は、電解電流を様々に変化することよって観察された。結果は、摩擦係数が小さいほど耐食性に優れることを示した。
【0061】
図15図17に示すように、X軸(水平軸)は時間(分)であり、Y軸(垂直軸)は電流強度(A/m2)である:
【0062】
スキーム1:図15に示すように、本発明の方法の電流強度はi=40−2.33t(iは電流強度、tは時間である)であった;
【0063】
スキーム2:図16に示すように、本発明の方法の電流強度は:0〜5分の電流は40A/m2であり;5〜10分の電流は20A/m2であり;10〜15分の電流は5A/m2であった;
【0064】
スキーム3(電流を、本発明の方法に従って制御した):図17に示すように、本発明の方法の電流強度はi=3+A/t(iは電流強度A/m2、tは時間、A(パラメータ)は20〜30である);
【0065】
結果を表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
結論:電流変化の方法が異なると、ステンレス鋼ナノ表面に異なる原子空間充填率が得られる。表からわかるように、摩擦係数μが小さいほど、ナノ表面フィルム層が平滑であり、ナノ結晶表面の原子空間充填率は高く、これは優れた耐食性をもたらす。
【0068】
実施例2:本発明の方法の表面硬化試験
【0069】
ステンレス鋼表面の硬化は、耐食性に大きな影響を及ぼす。現在、ステンレス鋼表面の硬化は、通常、室温で乾燥する。
【0070】
本発明において、発明者は、処理済みステンレス鋼表面の耐食効果を、異なる温度、湿度及び時間における流動腐食防止効果によって評価し、最も好適な表面硬化条件を選定した。
【0071】
標準的な塩化第二鉄の腐食試験を、恒温恒湿条件下、流動腐食環境において実施した。本発明の方法で処理した304基材の耐表面腐食性を表4〜表6に示した。
【0072】
【表4】
【0073】
表4から、硬化温度は、ナノフィルム層の硬度に影響を及ぼすという結論が導き出される。硬化温度が低いとき、ナノフィルム層は容易に剥がれ落ち、硬化の温度が高いとき、ナノフィルム層の表面に亀裂が生じた。流動塩化第二鉄腐食試験の結果から、硬化に好適な温度は、流動条件下での耐食性を大幅に改良し得ることがわかった。好適な温度は50〜60℃であった。
【0074】
【表5】
【0075】
表5から、硬化湿度は、温度と同様に、ナノフィルム層の硬度に影響を及ぼすという結論が導き出される。硬化湿度が低いと、ナノフィルム層の表面に亀裂が生じ、湿度が高いと、ナノフィルム層は柔らかく、容易に剥がれ落ちた。流動塩化第二鉄腐食試験の結果から、硬化に好適な湿度は、流動条件下での耐食性を改良し得ることがわかった。好適な湿度は60〜70%であった。
【0076】
【表6】
【0077】
表6から、比較データから、硬化時間が長いほど硬化効果に優れたという結論が導き出される。時間が長いほど、ナノフィルム層の安定性が高かった。ただし、プロセスの時間を考慮すると、適切な時間は3〜4時間であった。
【0078】
実施例3:本発明の方法によるステンレス鋼表面(304基材)の処理
【0079】
(1)濃度7%の水酸化ナトリウム溶液及び0.5%のHDW−1005アルカリエッチング剤含有溶液を使用して、ステンレス鋼表面(304基材)の化学的脱脂及びアルカリエッチングを行った。全溶液の総量を用いて、ステンレス鋼表面全体を浸漬した。溶液の温度は80℃に制御し、時間は15分であった;その後、温度80℃の水を使用して3分間洗浄した;
【0080】
(2)酸化溶液は、300g/LのCrO3、140g/LのNa2MoO4を含有した。78℃で、酸化溶液のpHを、98%H2SO4溶液を添加することによって1.3に調節する。酸化時間は15分で、水を使用して、室温で、酸化後3分間洗浄した。
【0081】
(3)電解液の組成は、100g/LのCrO3、100g/LのNa2MoO4、200g/LのH3PO4、55g/LのNa2SiO3を含有した。酸化溶液のpHは、98%H2SO4溶液を添加することによって1.3に調節し、温度は、40℃に制御した。ステンレス鋼片(304基材)をカソードとして使用し、ステンレス鋼の表面積に基づき、電気分解を、電流強度40A/m2で10分、その後、式i=3+30/t(iは電流強度A/m2、tは時間である)に従って徐々に低下する電流強度で15分間実施し、その後、ステンレス鋼片の表面上の電解液を室温で水洗浄した。
【0082】
(4)ステンレス鋼片(304基材)を温度55℃及び湿度60%の環境に、硬化のため3時間置き、その後、ステンレス鋼表面(304基材)をベースとするナノ結晶性材料を得た。
【0083】
本発明の方法で処理した後、ステンレス鋼表面(304基材)は、0.83%の炭素、32.81%の酸素、44.28%のクロム、14.17%の鉄、1.0%のモリブデン、3.06%のニッケル、2.73%のケイ素、1.11%のカルシウムを含有し、残部は不純物元素であった。
【0084】
実施例4:
【0085】
Ningxia Coal Industry Group Co., Ltd.の酸性水ストリッピング装置還流システムは激しく腐食しており、特に、上部還流管、戻り管、回収タンク及び塔頂部の凝縮器は激しい腐食及び重度の漏れを有していた。還流システム内の装置の交換周期は短く、これは装置の酸性水処理に影響を及ぼした。
【0086】
【表7】
【0087】
酸性水ストリッピング装置還流システムの還流中のCl-含有量及び流量が高いことから、フィルターハンガー片に生じる洗浄及び腐食は高速であった。304ステンレス鋼製フィルターハンガーを試験した結果、1週間配置後、裸眼で見える腐食が存在することが明らかとなった。40日間配置後に、304ステンレス鋼製フィルターメッシュは完全に腐食し、全骨格構造も完全に腐食している。
【0088】
本発明の方法によって304ステンレス鋼を処理した後、フィルターハンガーを試験した。結果は、1週間配置後に、いかなる腐食もないことを示した。40日間配置後、ステンレス鋼製フィルターハンガーは脆化し、フィルターメッシュは手で破断できたが、骨格構造全体及びフィルターメッシュは無傷のままであった。骨格構造全体は、3カ月間配置後にまだ無傷のままであった。
【0089】
実施例5:
【0090】
中国石油化工股▲フン▼有限公司(China Petroleum & Chemical Corporation)の子会社は、原油分解再構成プロジェクトの常圧及び減圧蒸留デバイスで、高硫黄及び高酸原油を原油として設計した。304フィルター及びナノ表面層を含有する304フィルターを、充填減圧塔の第3セクションの底部に配置した。具体的な温度を表8に示した:
【0091】
【表8】
【0092】
1247日間運転後、304基材は腐食し、薄くなり、重度に脆化したことが目視によりわかる。一方、本発明の方法で処理した後、ステンレス鋼304は、特に腐食を示さなかった。
【0093】
実施例6:
【0094】
中国海洋石油集団有限公司(China National Offshore Oil Corporation)の子会社は、常圧及び減圧蒸留デバイスで、高硫黄及び高酸原油を原油として設計した。減圧塔の第5セクションの温度は400℃、硫黄分は0.35%、酸価は2.65〜3.09であった。フィルター基材は317Lであった。3年間運転後、目視により、317L基材は明白な腐食を有したが、本発明の方法で処理した317L基材は明白な腐食がなく、無傷の表面フィルム及び眼に見える光沢を有した。
図1
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