【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題について、本発明は、特に、優れた防食効果、単純なプロセス、低い装置要件を有する、耐食のためのステンレス鋼の表面処理方法を示し、当該方法は、大規模工業用途に好適であり、高腐食環境下で使用できる。
【0007】
この方法によって処理されるステンレス鋼コンポーネントとしては、ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、並びに種々の締着具及びコネクタが挙げられるが、これらに限定されない。この方法で処理されたステンレス鋼の最大耐孔食性指数PREN値は、40〜58で、1.5〜2.3倍に増えている。塩化物イオン、スルフィド、有機酸等に対する処理済みステンレス鋼の耐食性は、通常の未処理304、316L、及び317Lステンレス鋼の耐食性よりも1グレード高くなり、AL−6XN及び904L合金の耐食性に等しくなる。更に、この方法で処理したステンレス鋼コンポーネントの総厚は700〜900nmであり、処理済み材料の表面は、はめ込み式(inlaid manner)に基材を組み合わせ、その熱膨張係数は等しく、材料と基材との間に明白な接合界面は存在せず、かかる表面は、高温で長時間基材から剥がれ落ちないと予想される。この方法の前処理及び後処理は、常温常圧下で実施され、工業化及び大型のステンレス鋼製装置への適用が容易である。
【0008】
上記目的を達成するための技術的解決策は以下のとおりである:
【0009】
本発明は、次の工程を含む、ステンレス鋼表面の防食方法を提供する:
【0010】
(1)水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液を用いてステンレス鋼表面を化学的脱脂及びアルカリエッチングした後、水で洗浄する工程;
【0011】
(2)工程(1)で処理したステンレス鋼表面を、酸化溶液で酸化した後、水で洗浄する工程;
【0012】
(3)工程(2)で処理したステンレス鋼表面を、カソードとして電解液に浸漬して電解した後、水で洗浄する工程;
【0013】
(4)工程(3)で処理したステンレス鋼表面を、硬化のために、温度50〜60℃及び湿度60〜70%に配置する工程。
【0014】
好ましくは、工程(1)において、水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液の温度は、80〜85℃である。
【0015】
好ましくは、水酸化ナトリウム溶液の濃度は、6.5〜8%である;
【0016】
好ましくは、アルカリエッチング活性剤含有溶液の濃度は、0.3〜0.5%である。
【0017】
好ましくは、アルカリエッチング活性剤は、エトキシ変性ポリトリシロキサンである。
【0018】
好ましくは、化学的脱脂及びアルカリ処理によるエッチングは、10〜15分間実施する。
【0019】
好ましくは、水での洗浄は、80〜85℃の温度の水を用いて3〜5間実施する。
【0020】
好ましくは、工程(2)において、酸化溶液は200〜300g/LのCrO
3及び100〜150g/LのNa
2MoO
4を含有する。
【0021】
好ましくは、酸化溶液の温度は75〜90℃である。
【0022】
好ましくは、酸化溶液のpHは0.4〜1.5であり;好ましくは、酸化溶液のpHは、H
2SO
4溶液を酸化溶液に添加することによって0.4〜1.5に調節され;好ましくは、H
2SO
4溶液の濃度は98%である。
【0023】
好ましくは、酸化処理は15〜35分間実施する。
【0024】
好ましくは、工程(2)における水での洗浄は、25〜40℃の水を用いて3〜5分間周期的に実施し;好ましくは、水のpHは>3である。
【0025】
好ましくは、工程(3)において、電解液は、100〜150g/LのCrO
3、100〜150g/LのNa
2MoO
4、200〜250g/LのH
3PO
4、50〜60g/LのNa
2SiO
3を含有する。
【0026】
好ましくは、電解液の温度は40〜52℃である;
【0027】
好ましくは、電解液のpHは0.5〜1.5であり;好ましくは、電解液のpHは、H
2SO
4溶液を電解液に添加することによって0.5〜1.5に調節され;好ましくは、H
2SO
4溶液の濃度は98%である;
【0028】
好ましくは、電解を実施するための電流は直流であり;好ましくは、電流の強度は40〜5A/m
2であり;好ましくは、初期電流強度は40A/m
2であり、その後、電流強度は式i=3+A/t(式中、iは電流強度、tは時間、Aは20〜30のパラメータである)に従って5A/m
2まで徐々に低下され;好ましくは、電解の時間は25〜55分である。
【0029】
好ましくは、電解は、40A/m
2の初期電流強度で10〜25分間電解すること、及びその後、15〜30分の間に5A/m
2まで徐々に低下される電流強度で電解することを含む。
【0030】
好ましくは、水での洗浄は、25〜40℃の水を用いて3〜5分間周期的に実施し;好ましくは、水のpHは>3である。
【0031】
好ましくは、工程(4)において、配置することによる硬化処理の時間は、3〜4時間である。
【0032】
本発明の方法によって処理されるステンレス鋼としては、ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、並びに種々の締着具及びコネクタが挙げられる。
【0033】
本発明は、ステンレス鋼の処理における本発明の方法の使用も提供し、好ましくは、ステンレス鋼としては:ステンレス鋼板波形充填物、ステンレス鋼ワイヤメッシュ充填物、ステンレス鋼ルーズ充填物、トレープレート、ステンレス鋼フロート弁、並びに種々の締着具及びコネクタが挙げられる。
【0034】
本発明は、本発明の方法によって得られるステンレス鋼を更に提供する。
【0035】
本発明の目的、技術的特徴、及び有益な効果をより詳細に説明するため、本発明のナノ結晶性材料を、304ステンレス鋼と組み合わせて、以下に更に記載する。
【0036】
図1に示すように、本発明のナノ結晶性材料で処理した後、304ステンレス鋼基材は暗色を示し、これは未処理の304ステンレス鋼基材の色と比べて大きな差異である(
図1の左側は304ステンレス鋼基材であり、
図1の右側は本発明によるナノ結晶性材料で処理した304ステンレス鋼基材である)。ナノ結晶性材料を金属顕微鏡で観察した結果、
図2に示すように、ナノ結晶性材料は元の304ステンレス鋼の表面粒界を被覆していることがわかる。これにより、卓越した粒界耐食性が得られる。
【0037】
本発明の方法で製造した304ステンレス鋼基材をベースとするナノ結晶性材料では、304ステンレス鋼表面上に形成されたナノ結晶性材料は、はめ込み式に304ステンレス鋼基材と組み合わされていることがわかる。304ステンレス鋼基材材料は、表面上に浅部から深部へとハニカム基材構造を形成し、ハニカム基材構造の空隙に、硬化したナノ結晶性材料が充填されている。ステンレス鋼基材とナノ結晶性材料との間に接合界面は存在しないことから、ナノ結晶性材料及びステンレス鋼基材の熱膨張は明白な欠陥層を生じないであろう。接触媒体の温度が大きく変動したとき、このようなはめ込み式は、ナノ結晶性材料とステンレス鋼基材の間のフィルム層が剥がれ落ちるのを防止するであろう。ナノ結晶性材料の接着は、コーティング及びめっき材料の接着よりもはるかに大きい。
図3に示すように、空白領域は304ステンレス鋼基材であり、本発明のナノ結晶性材料は、表面が密で内部層は希薄となることによって基材と組み合わされている。
【0038】
基材とナノ結晶性材料を組み合わせた生成物の層をX線光電子分光法で分析した結果、層は、最外面層から最内層へと向かって、修復変態層、両性水酸化物層、酸化物層及び基材層であることが確認された。層間に明白な交点はない。具体的な組成と深さの傾向を
図4に示す。ここで、修復変態層の厚さは1〜100nmであり、この層は、耐孔食の変態層がMo元素を含有することを主な特徴とし、修復層において、三価クロムは表面結晶質骨格であり、六価クロムは充填剤であり、いずれも層元素の安定性を維持し、共に耐食性を増大する。両性水酸化物層の厚さは200〜500nmであり、この層は主に酸化クロム及び水酸化クロム層から構成される。酸化物層の厚さは500〜900nmであり、この層は主に酸化クロム及びクロム元素層で構成され、この層の鉄元素層の含有量は、基材と等しい含有量まで急速に上昇する。基材層の厚さは≧900nmであり、この層は、304ステンレス鋼基材の通常の組成である。
図2からわかるように、基材層とナノ結晶性材料の表面上の3つの層との間に明白な界面はなく、結合強度は強力である。
【0039】
本発明によるナノ結晶性材料とステンレス鋼基材との間の結合能力の試験は、以下のように実施する:本発明のステンレス鋼をベースとするナノ結晶性材料を含む試験シートを、予め設定した高温まで加熱し、その後冷水に入れてクエンチした。試験は数回繰り返して実施し、ナノ結晶性材料とステンレス鋼基材との間の結合層の接着を観察した。ステンレス鋼をベースとするナノ結晶性材を用いた試験シートの熱衝撃試験を、GB/T5270−2005/ISO2819:1980の規格に従って実施した。試験温度を、100℃、300℃、500℃、800℃及び1000℃まで連続的に上昇した結果、試験シートの表面に亀裂及び剥離は観察されなかった。表面の色は800℃及び1000℃の高温で少し変化したが、X線光電子分光法で試験したとき、ナノ結晶性材料の表面の組成は変化していなかった。1000℃の高温で30%変形するまで伸張したとき、ナノ結晶性材料は、基材材料と同じ伸張比を有した。
【0040】
本発明において、本発明の方法で処理した一般的に使用されるステンレス鋼(0Cr13、304、316L、317L)を、X線光電子分光法元素分析により多重分析した。元素の組成は表1に示すとおりであった:
【0041】
【表1】
【0042】
次の耐孔食性指数の計算
PREN=1×Cr+3.3×Mo+20×N、
により、本発明の方法によって処理した種々のステンレス鋼表面のPREN値は、かなり増大しており、40〜58である。
【0043】
本発明の方法で処理した304ステンレス鋼を、X線光電子分光法で多重分析し、その元素の組成を表2に示す:
【0044】
【表2】
【0045】
次の耐孔食性指数の計算
PREN=1×Cr+3.3×Mo+20×N
により、本発明の方法で処理した304ステンレス鋼のPREN値は、47.58である。
【0046】
ステンレス鋼基材の違いに基づき、本発明の方法による具体的なプロセスは、以下のとおりである:
【0047】
プロセス経路は:高温アルカリによる脱脂及びアルカリによるエッチング;水洗浄;酸化;水洗浄;電解;緻密化;硬化。
【0048】
高温水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液を使用して、化学的脱脂及びアルカリエッチングを実施した。溶液の温度は80〜85℃に制御し、時間は10〜15分であり、洗浄には80〜85℃の温水を3〜5分間使用する。高温水酸化ナトリウム溶液及びアルカリエッチング活性剤含有溶液の量は、ステンレス鋼表面全体を浸漬する量である。
【0049】
酸化溶液は、200〜300g/LのCrO
3及び100〜150g/LのNa
2MoO
4を含有する。75〜90℃で、H
2SO
4溶液を添加することによって、酸化溶液のpHを0.4〜1.5に調節し、酸化の時間は15〜35分であり、その後酸化溶液を洗浄した。
【0050】
電解液の組成は、100〜150g/LのCrO
3、100〜150g/LのNa
2MoO
4、200〜250g/LのH
3PO
4、50〜60g/LのNa
2SiO
3を含有する。電解液のpHは、H
2SO
4溶液を添加することによって0.5〜1.5に調節し、温度は40〜52℃に制御する。ステンレス鋼片をカソードとして使用する。電解は、初期強度40A/m
2で10〜25分間実施し、その後徐々に低下する電流強度で15〜30分間実施する。電解工程において、電流は直流であり、初期電流強度は40A/m
2であり、その後、電流強度は式i=3+A/t(式中、iは電流強度、tは時間、Aは20〜30のパラメータである)に従って徐々に低下される。電解が終わった後、表面上の電解液を洗浄する。
【0051】
洗浄したフィルム層を、温度50〜60℃及び湿度60〜70%で3〜4時間硬化して、処理を最終的に完了する。
【0052】
本発明の方法で処理したステンレス鋼の孔食効果は、非常に明白であり、耐孔食性指数PRENは40〜58で、これは多数の優れたステンレス鋼合金よりも高い。本発明の方法で処理したステンレス鋼の表面とステンレス鋼基材との間に明白な接合界面はなく、処理済み材料の表面は、はめ込み式に基材と組み合わされており、したがって、明白な欠陥は存在しない。
【0053】
本発明において、電解中の電流強度の制御は重要である。短時間かつ大きな電流の場合、ステンレス鋼表面のハニカム孔内のクロム及びケイ素元素が不十分となり、その結果、中間層の孔、原子空間充填率の不足、及び耐食性の低下を招く。したがって、電流強度、電解の時間及び温度並びに電流強度(電気分解の後半で徐々に低下する)は、処理後のステンレス鋼の原子空間充填率に影響すると考えられる。
【0054】
本発明の方法では、硬化の温度及び湿度は非常に重要である。温度が高すぎると、フィルムはエージングされ、割れる。温度が低すぎると、フィルムが柔らかくなり、洗浄及び摩擦プロセスの間に、特に充填された金属及び金属酸化物結晶質が、基材から容易に剥がれ落ちる。
【0055】
以下に、本発明の代表的実施形態を、添付図面を参照して詳細に記載する: