特許第6970385号(P6970385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970385セメント系固化材スラリーおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970385
(24)【登録日】2021年11月2日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】セメント系固化材スラリーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20211111BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20211111BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20211111BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20211111BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20211111BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20211111BHJP
   B28C 7/12 20060101ALI20211111BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20211111BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20211111BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C04B28/04
   C04B18/14 A
   C04B22/14 B
   C04B18/08 Z
   C04B14/28
   C04B24/26 E
   B28C7/12
   C09K17/10 P
   C09K17/02 P
   C09K17/06 P
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-63325(P2018-63325)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-172516(P2019-172516A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】神谷雄三
(72)【発明者】
【氏名】清田正人
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−319484(JP,A)
【文献】 特開2001−131547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B40/00−40/06
B28C 1/00− 9/04
C09K17/00−17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントクリンカー30〜86質量%、高炉スラグ10〜50質量%、および石膏(無水石膏換算)4〜20質量%を含むセメント系固化材の水固化材比50%〜300%のスラリーにおいて、練り上がり温度30℃以上で、開き目が2mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の3.5質量%以下であり、または/および、開き目が1mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の5.0質量%以下であることを特徴とするセメント系固化材スラリー。
【請求項2】
セメント系固化材が、少量混合成分として石灰石または/およびフライアッシュを含有する請求項1に記載するセメント系固化材スラリー。
【請求項3】
ポルトランドセメントクリンカー30〜86質量%、高炉スラグ10〜50質量%、および石膏(無水石膏換算)4〜20質量%を含むセメント系固化材に練り混ぜ水を加えて水固化材比50%〜300%のスラリーにする製造方法において、温度30〜40℃の上記セメント系固化材および練り混ぜ水を用い、該セメント系固化材の材料に応じて水固化材比および混練方法の何れか又は両方を調整することによって、練り上がり温度30℃以上で、練り混ぜ後のスラリーを開き目が2mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物の割合がスラリー全体の3.5質量%以下であり、または/および、スラリーを開き目が1mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物の割合がスラリー全体の5.0質量%以下であるスラリーにすることを特徴とするセメント系固化材スラリーの製造方法。
【請求項4】
練り混ぜ水に分散剤を添加して用いる請求項3に記載するセメント系固化材スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深層から表層の地盤改良に広く用いられるセメント系固化材について、そのスラリーの製造方法に関する。とくに、高温環境下でも当該スラリーの流動性が良好で、当該スラリー中に生成するダマが少なく、施工機械の配管経路や噴出ノズルでの閉塞がなく、施工性に優れたセメント系固化材スラリーとその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
セメント系固化材を用いた地盤改良において、深層から表層の地盤改良には、セメント系固化材と水を練り混ぜてセメント系固化材スラリーにし、これを深層や表層の土と混合する工法が広く採用されている。例えば、このスラリーを掘削機械先端部までポンプ圧送し、該スラリーと土壌を撹拌翼によって混合撹拌して固化処理土を形成する方法が従来から実施されている。このような地盤改良に用いるセメント系固化材には、軟弱地盤、有機質土、火山灰質粘性土などでの固化を促進するために、一般に石膏が添加されている。石膏は、セメント中のアルミネート相と反応してエトリンガイトを生成することによって、軟弱土、高有機質土、火山灰質粘性土を効果的に固化する作用がある。このため、一般にセメント系固化材にはセメントおよび高炉スラグと共に石膏が配合されている。
【0003】
一方、セメント系固化材スラリーを用いた地盤改良工法において、水とセメント系固化材の質量比率(以下、水固化材比と云う)が50%以上〜150%以下の範囲のスラリーは、夏場の高温環境下での施工において、セメント中のアルミネート相と石膏の反応によって生成するエトリンガイトが多くなり、スラリーの流動性が低下し、さらには、スラリー中に塊状物を生成することがある。このため、圧送経路のフィルターや掘削機先端部の噴射ノズルを閉塞させるトラブルを生じることがある。
【0004】
このため現場では、水固化材比を高くしてスラリー濃度を下げる対策を行っている。しかし、水固化材比を高くすると、目標強度を達成するためのセメント系固化材の添加量が増加し、材料コストや建設コストの上昇を招くことになる。また、所要の改良体強度を得るためのセメント系固化材の添加量が多くなる土質においては、水固化材比を高めると、所要の改良体強度を得ることが困難になる場合がある。
【0005】
一方、セメントやセメント系固化材のスラリーについて、このような流動性の低下を避けるために、スラリーを混練するミキサーの排出口などに篩を設置して生成した塊状物を取り除く方法も考えられるが、施工に支障を来すような大量の塊状物が生成する場合においては、この篩に多量の塊状物が堆積し、これを掃除するのに手間がかかる問題がある。
【0006】
これらの課題を解決するために、例えば、以下の対策が試みられている。
(1) 特開2004−231479号(特許文献1)では、セメント系固化材組成物中の三酸化硫黄含有量を6〜15質量%、塩素含有量を0.1〜2.0質量%の範囲で調整することによって、スラリー温度が高温時でも流動性が低下せずに良好な施工性が得られることを提案している。
(2)特開2001−131547号(特許文献2)では、セメント系固化材を構成するポルトランドセメントの化学成分に着目し、水溶性アルカリ量(NaO換算)を0.35重量%未満、かつ、半水石膏量を3重量%未満にすることによって、スラリー中の塊状物が生成し難くなることを提案している。
(3)特開2010−159347号(特許文献3)では、消石灰を含む土壌固化材をスラリーにしたときの流動性低下を防ぐために、消石灰の粒子径30μm以上の粒子を5〜40体積%の範囲にし、より好ましくは10〜30体積%にすることを提案している。
しかし、これらの方法は何れも、実際の施工現場における施工条件(想定される温度、設計の水固化材比、混練条件など)に応じてセメント系固化材スラリーを製造する場合、粘度や塊状物の有無を予め判断することは困難であった。
【0007】
また、特開2005−233792号(特許文献4)には、土質安定処理土の品質管理を、迅速に精度よく行うために、Pロートの排出口直径を最適化することおよび投入口の遮蔽蓋を設けた簡易粘度測定器が記載されているが、本測定器を用いてセメント系固化材スラリーの粘性を推定することはできるが、該スラリー中に生成する塊状物の多寡を把握するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−231479号公報
【特許文献2】特開2001−131547号公報
【特許文献3】特開2010−159347号公報
【特許文献4】特開2005−233792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の上記技術は、実際の現場において、環境温度、スラリー温度、練混ぜ水の温度、練混ぜ条件、水固化材比などの施工条件下で製造するセメント系固化材スラリーについて、スラリー中に生成する塊状物の多寡によってスラリーの流動性が大きく影響されることが十分に認識されておらず、この塊状物の生成を抑制してスラリーの流動性を制御することができない。
【0010】
本発明のセメント系固化材スラリーは、夏期高温条件下で該スラリーを使用する地盤改良の施工条件に応じ、高温環境下での該スラリーの良好な流動性を維持するため、練り上がり温度30℃以上において、所定の開き目の網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物の割合が一定量以下になるようにしたものである。後述の実施例に示すように、網篩上に残る塊状物の割合とスラリーの流動性は密接な関係が認められる。本発明のセメント系固化材スラリーは、所定の網篩上に残る塊状物の割合を測定し、さらにそれを制御することによって、該スラリーが良好な流動性を有するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決したセメント系固化材スラリーとその製造方法に関する。
〔1〕ポルトランドセメントクリンカー30〜86質量%、高炉スラグ10〜50質量%、および石膏(無水石膏換算)4〜20質量%を含むセメント系固化材の水固化材比50%〜300%のスラリーにおいて、練り上がり温度30℃以上、開き目が2mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の3.5質量%以下であり、または/および、開き目が1mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の5.0質量%以下であることを特徴とするセメント系固化材スラリー。
〔2〕セメント系固化材が、少量混合成分として石灰石または/およびフライアッシュを含有する上記[1]に記載するセメント系固化材スラリー。
〔3〕ポルトランドセメントクリンカー30〜86質量%、高炉スラグ10〜50質量%、および石膏(無水石膏換算)4〜20質量%を含むセメント系固化材に練り混ぜ水を加えて水固化材比50%〜300%のスラリーにする製造方法において、温度30〜40℃の上記セメント系固化材および練り混ぜ水を用い、該セメント系固化材の材料に応じて水固化材比および混練方法の何れか又は両方を調整することによって、練り上がり温度30℃以上で、練り混ぜ後のスラリーを開き目が2mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物の割合がスラリー全体の3.5質量%以下であり、または/および、スラリーを開き目が1mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物の割合がスラリー全体の5.0質量%以下であるスラリーにすることを特徴とするセメント系固化材スラリーの製造方法。
〔4〕練り混ぜ水に分散剤を添加して用いる上記[3]に記載するセメント系固化材スラリーの製造方法。
【0012】
〔セメント系固化材スラリー〕
本発明のセメント系固化材スラリーは、ポルトランドセメントクリンカー30〜86質量%、高炉スラグ10〜50質量%、石膏(無水石膏換算)4〜20質量%を含むセメント系固化材の水固化材比50%〜300%のスラリーにおいて、練り上がり温度30℃以上で、以下の(イ)または/および(ロ)の特徴を有るスラリーである。
(イ)開き目が2mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の3.5質量%以下である。
(ロ)開き目が1mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の5.0質量%以下である。
【0013】
セメント系固化材スラリーにおいて、後述の実施例に示すように、練り上がり温度30℃以上において、(A)開き目が2mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の3.5質量%より多いと、あるいは、(B)開き目が1mmの網篩を通過させたときの該網篩上に残る塊状物がスラリー全体の5.0質量%より多いと、流下試験のスラリー流下時間が長くなり、スラリーの流動性が低下する。一方、該スラリーが上記(イ)または上記(ロ)の何れかの状態、あるいは上記(イ)と上記(ロ)の両方の状態であれば、良好な流動性を有し、上記(イ)と上記(ロ)の両方の状態であればさらに流動性が良い。
【0014】
具体的には、セメント系固化材スラリーの練り上がり温度30℃以上において、セメント系固化材スラリーを、開き目2mmの網篩を通過させたときに、該網篩上に残る塊状物の質量がスラリー全体質量の3.5質量%以下であるときは、練り上がり直後および練り上がりから15分経過後の何れもスラリーの粘性が低く、良好な流動性を有する。
【0015】
一方、該網篩上に残る塊状物の割合が3.5質量%を超えて5.0質量%以下の範囲では、練り上がり直後のスラリーの流動性は良好であるが、練り上がりから15分経過後は流動性が低下する。さらに塊状物の割合が5.0質量%を超えると、練り上がり直後からスラリーの流動性が不良である。
【0016】
また、セメント系固化材スラリーを、開き目1mmの網篩を通過させたときに、該網篩上に残る塊状物の割合がスラリー全体質量の5.0質量%以下であるときは、練り上がり直後および練り上がりから15分経過後の何れもスラリーの粘性が低く、良好な流動性を有する。一方、網篩上に残る塊状物の割合が5.0質量%を超えて6.0質量%以下の範囲では、練り上がり直後のスラリーの流動性は良好であるが、練り上がりから15分経過後はスラリーの流動性が低下する。さらにさらに塊状物の割合が6.0質量%を超えると、練り上がり直後からスラリーの流動性が不良である。
【0017】
なお、上記塊状物の残留割合の測定に用いる網篩は、規格(JIS Z 8801-1:試験用ふるい 第1部金属製網ふるい)に規定される、公称目開き1mmおよび2mmのものである。材質は、ステンレス製や真鍮製のものが好ましいが、これに限定はされない。
【0018】
〔セメント系固化材〕
本発明のセメント系固化材の構成材料は、ポルトランドセメント又は混合セメント、高炉スラグ微粉末、石膏の混合物、または、ポルトランドセメントクリンカー、高炉スラグ、石膏の混合粉砕物からなる。また、セメント系固化材には、少量混合成分としてフライアッシュ、改質石炭灰、石灰石微粉末、シリカフューム、石粉、消石灰などを用いることができる。これらの少量混合成分は、セメント系固化材を混合または混合粉砕にて製造する際に添加することができる。
【0019】
本発明のセメント系固化材は、必須成分のポルトランドセメントクリンカー、石膏、および高炉スラグの合計量を100質量%としたとき、ポルトランドセメントクリンカーが30〜86質量%、高炉スラグが10〜50質量%、石膏(無水石膏換算)が4〜20質量%であり、好ましくは、ポルトランドセメントクリンカーが35〜70質量%、高炉スラグが12〜45質量%、石膏(無水石膏換算)が6〜15質量%である。なお、高炉セメントを用いるときは、高炉スラグ量は上記範囲より少なくて良い。
【0020】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、または高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメントなどの混合セメントを用いることができる。混合粉砕ではこれらのクリンカーが用いられる。
【0021】
石膏は、無水石膏、二水石膏、半水石膏のいずれかまたは両方が用いられる。また、石膏の産出源としては、天然無水石膏、排煙脱硫石膏、フッ酸石膏などが用いられる。フライアッシュは規格(JIS A 6201:コンクリート用フライアッシュのII種)に適合するものが用いられる。
【0022】
セメント系固化材のブレーン比表面積は、2500〜6000cm/gであることが好ましく、さらに3000〜5000cm/gであることが好ましい。ブレーン比表面積が2500cm/g以下の場合には、スラリーにした場合にブリーディングによる固液分離が生じ改良体強度のばらつきや強度不足が生じる原因となる。ブレーン比表面積が6000cm/g以上の場合には、水固化材比が100%より低い領域で練り混ぜた場合に流動性が低下する。セメント系固化材に添加される高炉スラグ微粉末は、ブレーン比表面積が3000〜6000cm/gのものが好ましい。混合粉砕をする場合には、未粉砕の高炉スラグを用いることができる。
【0023】
本発明のセメント系固化材は、セメント、高炉スラグ微粉末、石膏、および少量成分を混合して得ることができる。混合装置としてはV型混合機、プローシアミキサー、ヘンシェル混合機、リボン型混合機など一般の混合装置を用いることができる。また、混合粉砕する場合には、セメントまたはセメントクリンカー、高炉スラグ微粉末または高炉スラグ未粉砕物、石膏および少量混合成分を粉砕機に投入し粉砕することにより、セメント系固化材を得ることができる。粉砕機としては、ボールミル、縦型ミル、振動ミルなどを用いることができる。
【0024】
本発明のセメント系固化材には、さらにセメント系固化材スラリーを練り混ぜるときに発生する粉塵発生を低減するために、ジエチレングルコール、有機短繊維を混合時に少量添加しても良い。有機短繊維としては、パルプなどの天然繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維などを用いることができる。また、この有機繊維はセメント系固化材スラリーの流動性を阻害しない観点から、繊維長は1mm〜6mmのものが好ましく、添加量はセメント系固化材に対して0.01質量%〜0.2質量%が好ましい。
【0025】
本発明のセメント系固化材は、早期硬化性が要求される場合には、アルミナセメント、カルシウムアルミネート系速硬材などを添加することができる。具体的には、例えば、速硬材は、C12などのカルシウムアルミネート粉砕物と無水石膏の混合物、超速硬セメント、アルミナセメントなどを用いることができる。カルシウムアルミネート粉砕物と無水石膏の混合物からなる速硬材は、カルシウムアルミネート粉砕物と無水石膏が概ね40:60〜60:40質量比で含まれている。市販品としては、例えば三菱マテリアル社製のコーカエーススーパー(商品名)などを用いることできる。
【0026】
〔製造方法〕
本発明のセメント系固化材スラリーは、上記セメント系固化材に練り混ぜ水を加えてスラリーにすることによって製造される。この製造方法において、温度30〜40℃のセメント系固化材および練り混ぜ水を用い、セメント系固化材の材料に応じて水固化材比および混練方法の何れか又は両方を、所定開き目の網篩を通過させたときの該網篩に残る塊状物の割合が上記(イ)または上記(ロ)の範囲になるように選定することによって製造することができる。
【0027】
セメント系固化材スラリーの製造には、現場においては容量が50〜1000Lのバッチ式の撹拌混合ミキサー、連続練りミキサー(プツマイスター社製)などを用いることができる。また、ラボスターラ、ハンドミキサなどを用いてスラリーを製造してもよい。
【0028】
セメント系固化材スラリーの製造時に分散剤を添加することができる。この分散剤は、スラリー中におけるセメント系固化材の粒子の分散性を高め、これによってスラリーの流動性を改善することができる。分散剤の種類としては、ポリカルボン酸系、リグニンスルフォン酸系、ナフタレンスルフォン酸系、メラミンスルフォン酸系があげられる。セメント系固化材に対する添加量は0.01〜1.0質量%の範囲であり、練り混ぜ水に混ぜて使用すればよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のセメント系固化材スラリーは、深層から表層の地盤改良に広く用いられるセメント系固化材を用いた地盤改良において、高温環境下でも該スラリーの流動性が良好である。具体的には、夏場に想定される練り上がり温度30℃〜40℃の条件において、水固化材比60%のスラリーでは、マーシュファンネル粘度計における流下時間が、練り上がり15分後で100秒以下であって、流動性が良好である。なお、セメントスラリーの流動性は、欧州規格(EN445:Grout for prestressing tendons. Test methods)に規定されるマーシュファンネルコーンを用いた流動性試験において、流下時間が100秒以下であれば流動性が良好と判定される。
【0030】
本発明のセメント系固化材スラリーは、水固化材比が比較的低い範囲、具体的には50%〜150%の範囲で良好な効果を発揮し、水固化材比が150%〜300%の範囲では高温環境下での優位性は減少するものの、有効に使用することができる。
【0031】
本発明のセメント系固化材スラリーは、スラリー中にダマが発生しないので、施工機械の配管経路や噴出ノズルでの閉塞がなく、施工性に優れている。さらに、改良土の強度発現性も良好であり、所要の流動性を確保できるため改良体の強度が均一である。
【0032】
また、本発明の製造方法は、所定温度の練り混ぜ水を用い、セメント系固化材の材料に応じて水固化材比および混練方法の何れか又は両方を調整することによって、所定の網篩に通じたときに、該網篩に残る塊状物の割合が上記(イ)または上記(ロ)の範囲になるようにすればよいので、特別な薬剤や装置等を用いる必要がなく、容易に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、質量に関する%は質量%である。
実施例等において、ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末および石膏を混合してセメント系固化材を作製したが、混合粉砕により作製しても良い。実施例等において使用した網篩は規格(JIS Z 8801-1:試験用ふるい 第1部 金属製網ふるい)に規定されている、公称目開き1mmおよび2mmのステンレス製ないし真鍮製のものである。
【0034】
篩残分は、練り上がったセメント系固化材スラリーを上記網篩に注ぎ、篩上に残留した凝集・固結物の質量を測定し、固化材スラリー全体の質量(ここでは1600g)に対する比率を求めた。固化材スラリーの流下時間は、マーシュファンネル粘度計(以下、粘度計と略記)を使用し、受け側の容器(500mL)が満杯になるまでの時間を測定した。
【0035】
〔実施例1〕
表1に示すセメント系固化材1000gおよび水600gを混練した(水固化材比=60%)。混練方法は、温度を30〜40℃に調整したセメント系固化材および水をホバートミキサーに投入し、毎分70回転の回転数で30秒間混練した後、容器底の付着物をかき落とし、その後さらに毎分70回転の回転数で30秒間混練して固化材スラリーを作製した。この固化材スラリーの練上り温度を測定した後に、開き目1mmまたは2mmの篩に通し、篩上に残った篩残分を測定した。さらに、粘度計の流出口を指で塞ぎながら、篩を通過した固化材スラリーを粘度計本体に注ぎ込み、塞いでいた指を離し、受け側の容器が満杯になるまでの時間を測定した。この結果を表2に示した。なお、固化材スラリーが粘度計本体で閉塞した場合、または流下時間が180秒以上となった場合は測定不能とした。
【0036】
実験の結果、開き目が1mmの網篩を通過させたときに、該網篩上に残る塊状物の質量がスラリー全体質量の5.0%以下であった場合は、練り上がり直後および練り上がりから15分経過後ともに粘性が低く、塊状物の増加は認められなかった。塊状物が5.0%を超え6.0%以下の場合には、練り上がり直後の流動性は良好であったものの、練り上がりから15分経過後は流動性が低下した。さらに塊状物が6.0%を超えた場合は、練り上がり直後から流動性が不良であり、塊状物も増加した。
【0037】
開き目が2mmの網篩を通過させたときに、該網篩上に残る塊状物の質量がスラリー全体質量の3.5%以下であった場合は、練り上がり直後および練り上がりから15分経過後ともに粘性が低く、塊状物の増加は認められなかった。塊状物が3.5%を超え5.0%以下の場合は、練り上がり直後の流動性は良好であったものの、練り上がりから15分経過後は流動性が低下した。さらに塊状物が5.0%を超えた場合は、練り上がり直後から流動性が不良であり、塊状物も増加した。
【0038】
試料A1〜試料A5に示すように、練り混ぜ水の温度を低めることで固化材スラリーの練り上がり温度が低下し、流動性が改善する傾向がある。さらに、練り混ぜ水の温度を34.0℃より低めることで、練り上がり15分後の流下時間が100秒以下になり、流動性が改善されていることが分かる。また、試料A2、試料B2、試料C1の比較により、ブレーン比表面積が4050cm/gのセメント系固化材(記号A)を使用すれば、練り上がり15分後の流下時間が100秒以下となり、流動性が改善されていることが分かる。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】
【0041】
〔実施例2〕
表1に示すセメント系固化材1000gを用い、水量を500g、600g、700g、800gに変えて混練した(水固化材比=50%、60%、70%、80%)。混練方法は実施例1と同様にして固化材スラリーを作製した。作製したセメント系固化材スラリーについて、実施例1と同様の評価試験を実施した。
【0042】
この試験結果を表3に示した。試料A2、試料B2、試料C1は、実施例1の試料と同一である。表3に示すように、開き目1mmの篩、および開き目2mmの篩を通過させたときの、篩上残分と流下時間の傾向は実施例1と同様であった。
試料例C1、試料C2の比較により、ブレーン比表面積が4460cm/gのセメント系固化材(記号C)を用いた場合には、水固化材比を70%に高めることで、練上がり15分後の流下時間が100秒以下になり、流動性を改善することができる。
また、試料B2、試料B6〜試料B8の比較により、ブレーン比表面積が4890cm/gのセメント系固化材(記号B)を用いた場合には、水固化材比を80%に高めることで、練上がり15分後の流下時間が100秒以下となり、流動性を改善することができる。ただし、前述したとおり、水固化材比を高めることは、改良体強度の低下を招く可能性があるので、注意が必要である。
【0043】
【表3】
【0044】
〔実施例3〕
表1に示すセメント系固化材1000gを用い、これに水600gを混練した(水固化材比=60%)。混練方法は、実施例1のホバートミキサーによる練り混ぜ方法、およびラボスターラー(HEIDON社製、型式:BL−1200)を用いた方法によった。
ホバートミキサーによる練り混ぜ方法
温度を30〜40℃に調整したセメント系固化材および水を投入し、毎分70回転の回転数で30秒間混練した後、容器底の付着物をかき落とし、その後さらに毎分70回転の回転数で30秒間混練して固化材スラリーを作製した。
ラボスターラーによる練り混ぜ方法
温度を30〜40℃に調整したセメント系固化材および水を投入し、所定の回転数で60秒間混練して固化材スラリーを作製した。ラボスターラーは、撹拌回転数が可変になっており、毎分300回転、600回転、750回転の3水準で、混合時間は60秒として、固化材スラリーを作製した。
【0045】
これらの固化材スラリーの練上り温度を測定した後に、実施例1と同様にして流動性を測定した。この試験結果を表4に示した。表4に示すように、ホバートミキサーを用いた試料A1よりもラボスターラーを用いた試料A9、A10、A11は流動性が良い。この理由はホバートミキサーに比べてラボスターラーは高速回転であり、スラリーに強力な剪断力が作用することによって粘性が低まると考えられる。また、スラリー中の塊状物が破壊されることによって塊状物の量(開き目1mm篩残分、開き目2mm篩残分)が減少するものと考えられる。これより、施工現場で使用するミキサーの混合性能によりスラリーの粘性や塊状物の程度が異なる。従って、現場で使用するミキサーに応じて、室内試験練りで使用するミキサーを選定すれば良い。すなわち、ミキサーの混練性能が高い場合には、練り混ぜ水の温度を下げることや、水固化材比を増加させることなく、スラリーの流動性を下げることが可能になる。
【0046】
【表4】
【0047】
〔実施例4〕
表1に示すセメント系固化材1000gを用い、これに水600gに所定量の分散剤を添加して混練した(水固化材比=60%)。分散剤は、ジオスパーK(フローリック社製、ポリカルボン酸系)を用いた。分散剤添加量は、セメント系固化材の質量に対して、0.8、1.5、2.2質量%とし、分散剤は練り混ぜ水に混合して添加した。混練方法は、実施例1と同様であり、ホバートミキサーに、温度を30〜40℃に調整したセメント系固化材および分散剤を添加した水を投入し、毎分70回転のミキサーの回転数で30秒間混練した後、容器底の付着物をかき落とし、その後さらに毎分70回転のミキサーの回転数で30秒間混練して固化材スラリーを作製した。
この固化材スラリーの練上り温度を測定した後に、開き目1mmまたは2mmの篩に通し、篩上に残った篩残分を測定した。また実施例1と同様にして流動性を測定した。この結果を表5に示した。試料A1は実施例1(表1)と同一である。
表5の試料A12〜試料A14に示すように、分散剤を添加すれば練上がり直後の篩残分が少なくなり、従って流下時間も短く、流動性が向上していることが分かる。
【0048】
【表5】