(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融塩浴とした内部での溶融塩の電気分解による溶融金属の生成に用いる溶融塩電解槽を、電気分解の開始に先立ち乾燥する方法であって、溶融塩を供給する前の電解槽内部を加熱するとともに減圧吸引し、
溶融塩電解槽の外壁の少なくとも一部が通気性材料からなり、
溶融塩電解槽の周囲を、一箇所以上の吸気口を有する槽囲繞ケースで覆った状態で、前記吸気口を用いて電解槽内部を減圧吸引することにより、電解槽内部の気体が、溶融塩電解槽の通気性材料の外壁部分を通過するとともに前記吸気口を経て吸引される、溶融塩電解槽の乾燥方法。
【背景技術】
【0002】
たとえば、クロール法による金属チタンの製造に際し、副次的に生成される塩化マグネシウムは、溶融塩電解槽を用いて、電気分解により金属マグネシウムと塩素ガスとに分解され、それぞれ四塩化チタンの還元およびチタン鉱石の塩素化に用いられて再利用されることがある。
【0003】
この種の電気分解では一般に、電解槽内部で塩化マグネシウム等の溶融塩を貯留させて溶融塩浴とし、電解槽内部の貯留室から電解室へ溶融塩を流して、ここで電極への通電に基き、溶融塩化マグネシウム等の溶融金属と塩素等のガスとに分解する。電解室で生成された溶融金属は電解槽内部で貯留室へとさらに循環して、溶融塩との密度差によって溶融塩浴の液面上に浮上した後に回収され、また、ガスは溶融塩電解槽に設けられたガス排出通路を経て電解槽外部に排出される。
【0004】
ところで、電解槽内部に水分が存在し、それが溶融塩浴に混入した場合、電極の消耗に起因する溶融塩電解槽の短命化や、電気分解の開始初期の電流効率の低下といった問題が生じる。これはすなわち、電極への通電により、溶融塩浴中の水の電気分解が起こり、これにより発生する酸素が黒鉛電極と反応して電極の酸化を促進させ、電極を早期に消耗させる。また、溶融塩浴中の水分が、溶融塩の電気分解により生成した金属マグネシウム等と反応して、その溶融金属の酸化物、たとえば酸化マグネシウムを形成し、さらにこれが塩素ガス等と反応し、再び塩化マグネシウム等に戻るという余分な反応に電流が消費されることによる。
【0005】
このような問題に対処するため、電気分解の開始に先立って電解槽内部の水分を極力減らすための溶融塩電解槽の乾燥方法が、たとえば特許文献1、2等で提案されている。
特許文献1には、溶融塩電解槽に溶融塩を供給する前に、加熱した大気等のガスを電解槽内部に送り込むとともに電解槽外部へ排出し、電解槽内部を100℃以上に保持するガス加熱乾燥法と、溶融塩電解槽に溶融塩を供給した後に、通電を行わずに溶融塩を溶融状態に保持する浴保持乾燥法が記載されている。
【0006】
なお、特許文献2には、上記の浴保持乾燥法に関し、浴保持乾燥の開始から48時間以内の乾燥初期に、その48時間以内における槽内浴塩の平均温度上昇率が0.75〜2.5℃/hrとなるように槽内浴塩を昇温することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、溶融塩を供給する前に電解槽内部を乾燥するに当り、特許文献1に記載のガス加熱乾燥法では、電解槽内部に送り込んだ加熱ガスを、単純に自然排出することとしているので、特に溶融塩電解槽の外壁を構成する煉瓦の目地等に水が残留し、水分を溶融塩電解槽の全体から十分に取り除くことができなかった。その結果として、電極の消耗や電流効率の低下を、所期したほどに抑制することができない。
【0009】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、溶融塩を供給する前の電解槽内部をより有効に乾燥させて、溶融塩の電気分解に際する電極の消耗や電流効率の低下を効果的に抑制することのできる溶融塩電解槽の乾燥方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の溶融塩電解槽の乾燥方法は、溶融塩浴とした内部での溶融塩の電気分解による溶融金属の生成に用いる溶融塩電解槽を、電気分解の開始に先立ち乾燥する方法であって、溶融塩を供給する前の電解槽内部を加熱するとともに減圧吸引することにある。
【0011】
ここで好ましくは、減圧吸引により電解槽内部の気圧を、−500Pa〜−100Paに保持する。
また好ましくは、減圧吸引時の吸気速度を、7.5×10
1L/min・m
3〜1.3×10
2L/min・m
3とする。
【0012】
この発明の溶融塩電解槽の乾燥方法では、溶融塩電解槽の外壁の少なくとも一部が通気性材料からなるものであり、溶融塩電解槽の周囲を、一箇所以上の吸気口を有する槽囲繞ケースで覆った状態で、前記吸気口を用いて電解槽内部を減圧吸引することにより、電解槽内部の気体が、溶融塩電解槽の通気性材料の外壁部分を通過するとともに前記吸気口を経て吸引されることが好ましい。
【0013】
この発明の溶融塩電解槽の乾燥方法では、電解槽内部の加熱を、電解槽内部への乾燥高温ガスの供給により行うことが好ましい。
あるいは、電解槽内部の加熱を、電解槽内部に配置した電気加熱ヒーターもしくは浸管バーナーの発熱により行うことが好ましい。
あるいは、溶融塩電解槽が、電解槽内部に延びるべく配置されて電解槽内部に位置する部分が密閉された溶融塩浴の加熱及び/又は冷却用の温度調整管を有し、電解槽内部の加熱を、温度調整管への高温ガスの供給により行うことが好ましい。
【0014】
電解槽内部の加熱時の昇温速度は、4℃/hr〜8℃/hrとすることが好ましい。
電解槽内部の加熱時の保持温度は、420℃以上かつ450℃以下とすることが好適である。
【0015】
電解槽内部の保温及び減圧時間は、48時間以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明の溶融塩電解槽の乾燥方法によれば、溶融塩を供給する前の電解槽内部を加熱するとともに減圧吸引することにより、電解槽内部の全体で、加熱により気化した水蒸気が、電解槽内部の吸引される気体とともに電解槽外部へ効果的に排出されることになるので、電解槽内部の水分を十分に減らして該内部をより有効に乾燥させることができる。その結果として、溶融塩の電気分解を開始した後の、電極の早期の消耗や開始初期の電流効率の低下を一層抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に示すところにおいて、図中1は、たとえば主としてAl
2O
3等の耐火煉瓦その他の適切な材料からなる容器形状を有し、その内部に供給される溶融塩が貯留してなる溶融塩浴で、溶融塩を電気分解するとともに、該電気分解により溶融金属を生成する溶融塩電解槽を示す。
【0019】
この溶融塩電解槽1は、電解槽内部の上方側開口を覆蓋する図示しない蓋部材に近接させて設けた隔壁2により、電解槽内部が、
図1の右側に位置して陽極3a及び陰極3bを有する電極3が配置される電解室1aと、
図1の左側に位置し、電解室1aでの電気分解により得られた溶融金属が流れ込んで該溶融金属が溶融塩との密度差により上方側に溜まる貯留室1bとに区画されている。なお、電解室1aの陽極3a及び陰極3bのあいだには、一以上、好ましくは二以上、特に好ましくは三以上の複極が装入されていることが、電気分解の回数を多くすることができるため、生産性を高くすることができる点で好ましい。
【0020】
また、図示の溶融塩電解槽1は、貯留室1b側に、電解槽内部に延びるべく配置された温度調整管4を有する。温度調整管4は、溶融金属や溶融塩が所期した温度になるように溶融塩浴を加熱及び/又は冷却するため、内部に気体その他の流体が流されて当該流体と溶融塩浴との間で熱エネルギーの交換を行う熱交換器等として機能する。それゆえ、かかる温度調整管4は、溶融塩浴に浸漬される電解槽内部に位置する部分が密閉されている。
ここでは、温度調整管4は、
図1に示すように、互いに離隔して位置して溶融塩浴の深さ方向に延びる二本以上の主管4aと、電気分解の実施に際して溶融塩浴の内部に位置し、それらの主管4aの相互を連通させる一本以上の枝管4bとを有するものとしている。
【0021】
このような構成を有する溶融塩電解槽1は、たとえば、クロール法で金属チタンを製造する際にそれに付随して生成される塩化マグネシウム(MgCl
2)等の電気分解に用いることができる。
具体的には、陽極3a及び陰極3bに接続した図示しない整流器等からの電極3への通電により、電解槽内部の底部近傍を通って貯留室1bから電解室1aに流入した溶融塩としての塩化マグネシウムは、溶融金属としての金属マグネシウム(Mg)と、ガスとしての塩素ガス(Cl
2)とに電気分解される。電解室1aで生成された金属マグネシウムは、隔壁2に設けられた溶融金属流路を通って貯留室1bに流入し、その後、塩化マグネシウムに対する比重の小さい金属マグネシウムは、貯留室1bの浅い箇所に浮上してそこに溜まることになり、これを図示しないポンプ等により回収することができる。一方、塩素ガスは、図示しないガス排出通路から電解槽外部へ排出される。
【0022】
これにより得られた金属マグネシウムは、金属チタンを製造するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、同法におけるチタン鉱石の塩素化にそれぞれ用いることができる。
【0023】
ところで、溶融塩浴に水分が含まれると、溶融塩を電気分解する際に、それとともに水が電気分解されて酸素が発生する。陽極3aの材質は耐塩素性を有する黒鉛とすることが一般的であるところ、水の電気分解による酸素はこの黒鉛電極と反応して、黒鉛電極の酸化による消耗を促進させ、寿命を短くする。また、溶融塩浴中の水が、電気分解により生成した金属マグネシウムと反応すると酸化マグネシウムが生成されるが、この酸化マグネシウムの一部は塩素ガスと反応して、再び元の塩化マグネシウムに戻り、また、一部の酸化マグネシウムはスラッジとなって回収不可能となる。これらの理由から、このような水との反応は電流効率を低下させる。
【0024】
したがって、陽極3aの早期の消耗を防止するとともに電流効率の低下を抑制するため、溶融塩の電気分解の開始前に、溶融塩電解槽1の内部の水分を可能な限り除去することが重要となる。
そこで、この発明の実施形態では、溶融塩電解槽1を用いて電気分解を開始するに先立って、溶融塩電解槽1を乾燥することとし、具体的には、溶融塩電解槽1に溶融塩を供給する前に、溶融塩電解槽1をある程度密閉して、電解槽内部を加熱するとともに減圧吸引する。
【0025】
このことによれば、電解槽内部が比較的高温になるように加熱することにより、電解槽内部に存在する水分の気化を促進させることができるだけでなく、電解槽内部の気圧が低下するように、減圧ポンプ等を用いて吸引することにより、水蒸気等が電解槽内部から外部へ容易かつ確実に排出されるので、溶融塩電解槽1を有効に乾燥することができる。
【0026】
この加熱及び減圧吸引について詳細に述べると、はじめに、
図1〜3に例示するように、たとえば、平面視で矩形状をなす溶融塩電解槽1の四辺の側面を、その全周にわたって鉄製等の槽囲繞ケース5で覆う。この槽囲繞ケース5は、溶融塩電解槽1の側面の外壁1cに倣って該外壁1cよりも若干大きい平面視矩形状の囲い形状を有し、槽囲繞ケース5の各側面には、内外面に貫通する複数箇所の吸気口5aが形成されている。なお図示の例では、槽囲繞ケース5の各側面には、深さ方向の異なる二段の深さ位置に二箇所ずつ、計四箇所の吸気口5aが設けられている。
また図示は省略するが、溶融塩電解槽1の上方側開口は、半密閉の蓋部材を取り付け、必要に応じて蓋部材の隙間を断熱ブランケット等で埋めることにより、電解槽内部を、吸引時に減圧される程度に気密にする。
【0027】
次いで、槽囲繞ケース5の各吸気口5aを、ケーブルにより、たとえば一個の減圧ポンプ6に接続する。ここでは、各吸気口5aと減圧ポンプ6との間に、吸引した気体中の水分を捕集する水分トラップ7を設けている。この水分トラップ7としては公知のものを用いることができる。
【0028】
そしてその後、電解槽内部を加熱しながら、減圧ポンプ6で電解槽内部の気体を吸引し、電解槽内部を減圧する。ここでは、溶融塩電解槽1の外壁1cの主要部分が、煉瓦等の通気性材料からなることにより、減圧ポンプ6で減圧吸引すると、電解槽内部の気体が、溶融塩電解槽1の外壁1cの通気性材料からなる部分から吸気口5aを経て吸引されることになる。なお、溶融塩電解槽1の外壁1cは、煉瓦の他、モルタル、黒鉛、窒化珪素等のセラミックスにより構成されることもある。
【0029】
この際の加熱は、種々の方法により行うことができるが、好ましくは、電解槽内部への乾燥高温ガスの供給、電解槽内部に配置した電気加熱ヒーターもしくは浸管バーナーの発熱、温度調整管4への高温ガスの供給により行う。それにより、減圧ポンプ6等による減圧吸引で、乾燥した気体が溶融塩電解槽1の煉瓦製等の外壁1cを通過して、そこに存在する水分が効果的に除去される。その結果として、大気中での燃焼により生じた燃焼ガスを電解槽内部に送り込むことによる水分混入のおそれを取り除くことができる。
【0030】
上記の乾燥高温ガスは、たとえば、予め水分が除去された気体を、熱交換器を用いて加熱すること等により得ることができ、これを、ダクト等を介して電解槽内部に送り込む。乾燥高温ガスは、たとえば、乾燥エアー、乾燥CO
2又は窒素やアルゴン等とすることができる。
【0031】
電気加熱ヒーターは、電気エネルギーを直接・間接的に熱エネルギーに変換し、対象物の加熱や冷却を行うヒーターであり、熱エネルギーへの変換に、通電、電磁誘導、高周波電界、電磁波、光(放射)を利用したもの等がある。このような電気加熱ヒーターを電解槽内部に配置して発熱させることにより、外気からの水分の混入を抑制することができる。
また浸管バーナーとしては、密閉された管内で、燃焼用空気や燃料ガスを燃焼させ、それにより発生した熱を、管外壁を介して管外部へ伝えるもの等があり、これによっても、燃焼時の水分の、電解槽内部への混入を防止することができる。
【0032】
溶融塩電解槽1の乾燥のための加熱に、温度調整管4を用いるには、温度調整管4の内部に高温ガスを供給する。この高温ガスは、乾燥したのもの又は水分が含まれているもののいずれであってもよい。温度調整管4の電解槽内部に位置する部分は密閉されており、そこに供給する高温ガスに水分が含まれていても、電解槽内部の温度調整管4の外側に当該水分が移動することはないからである。したがって、温度調整管4に供給する高温ガスは大気とすることも可能である。
【0033】
溶融塩電解槽1を乾燥する際に、減圧吸引を行うことにより、電解槽内部の気圧は、−500Pa〜−100Paに保持されることが好適である。電解槽内部の気圧が低すぎると、電解槽の蓋部材の僅かな隙間から大気を巻き込むため、大気中の水分が混入しやすくなるおそれがあり、この一方で、電解槽内部の気圧が高すぎると、蓋部材の隙間から電解槽の外へ熱風が吹きだす恐れが生じることが懸念されるからである。
【0034】
また、減圧ポンプ6等による減圧吸引時の吸気速度は、7.5×10
1L/min・m
3[電解槽の内容積]〜1.3×10
2L/min・m
3[電解槽の内容積]とすることが好ましい。ここでいう「減圧吸引時の吸気速度」は、減圧ポンプ6の吸気能力を、溶融塩電解槽1の内容積で除した値を意味する。この吸気速度が速すぎると、電解槽の蓋部材の僅かな隙間から大気を巻き込んだり、乾燥が不十分なモルタル目地材を吸引してしまう可能性があり、また遅すぎると、減圧状態を保てなくなる懸念がある。
【0035】
電解槽内部を加熱する際に、電解槽内部の一時間当たりの上昇温度である昇温速度は、好ましくは4℃/hr〜8℃/hrとする。昇温速度が速すぎると、入熱過剰となって温度が局所的に上昇することによる外壁1cの煉瓦や目地材、陰極3b等の損傷ないし変形のおそれがある。一方、昇温速度が遅すぎると、乾燥に多くの時間が必要になる。
昇温速度は、電解槽内部に常時設置した熱電対によって監視している電解槽内部の温度を、3時間おきに記録し、それらの各記録温度を時間間隔で除して、その平均を算出することにより求める。
【0036】
また、電解槽内部を加熱する際は、所定の最高温度に到達した後にその最高温度で所定の時間にわたって保持することが、水分除去の観点より好ましいが、そのときの保持温度(最高温度)は、100℃以上かつ500℃未満、さらには420℃以上かつ450℃以下とすることが好適である。保持温度が100℃未満では、電解槽内部の水分が有効に気化しないことが懸念される。保持温度を420℃未満とすると、溶融塩電解槽の外壁を構成する煉瓦層内で、気化した水分の一部が、露点以下の温度となることで再凝縮し、煉瓦層内に残留する可能性が否めず、この一方で、450℃を超えると、溶融塩電解槽1を設置した工場等における磁力の影響と相俟って、鉄製等の陰極3bが湾曲する懸念がある。
【0037】
そして、上記の保持温度等の所定の温度に保持するとともに減圧吸引する保温・減圧時間は、好ましくは48時間以上、より好ましくは60時間以上とする。これにより、水分除去をより一層確実に行うことができる。
【0038】
なお、陽極3aとして黒鉛電極を用いる場合、上述した乾燥時の加熱及び減圧吸引は、その黒鉛電極を溶融塩電解槽1から取り外した状態で行うことができる。これはすなわち、黒鉛電極を取り付けたまま加熱及び減圧吸引を行うと、通常の黒鉛では400℃以上から酸化消耗が多少起こるからである。ただし、耐酸化処理を施した黒鉛電極を使用する場合は、その黒鉛電極を取り付けた後に乾燥を行っても問題ない。また、陰極3bについては溶融塩電解槽1に取り付けた後に乾燥を行っても問題ない。
【0039】
乾燥を行った後、陽極3a等の残りの電解槽部材を溶融塩電解槽に取り付けたうえで、溶融塩を投入する前に、溶融塩電解槽の予熱処理を行う。予熱処理を行う理由は、浴入れ時の冷却による溶融塩の固化防止や、急加熱による電解槽部材の割れ防止を図るためである。
【0040】
予熱処理を行ったあとは、直ちに、溶融塩を電解槽内に投入する。塩化マグネシウムを含有する溶融塩を投入する場合、塩化マグネシウムの他、溶融塩の電気伝導度の向上および溶融塩の融点調節、溶融塩の密度調節のために、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムを含有する。また、塩化マグネシウムを含有する溶融塩は、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムの他に、マグネシウムのフッ化物、水酸化物、炭酸塩や硝酸塩等のマグネシウム塩、酸化マグネシウム、金属マグネシウム、カルシウムのフッ化物、ナトリウムのフッ化物、カリウムのフッ化物、リチウムのフッ化物、塩化リチウム、塩化カリウムなどが含まれていてもよい。
【実施例】
【0041】
次にこの発明の乾燥方法を行った溶融塩電解槽を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0042】
後述のいずれの比較例および実施例においても、まず、耐火煉瓦およびモルタルにより構築した溶融塩電解槽の電解室側に鉄製の陰極を設置後、蓋部材をセットした。その後、各乾燥条件において電解槽の乾燥を行った。
乾燥後は、黒鉛製の陽極および複極を電解室に設置し、熱量を調節しながら、電解槽内の部材の予熱処理を行った。予熱処理では、90時間かけて、槽内温度380℃まで昇温し、その後、380℃で48時間保持した。
【0043】
予熱処理が完了後、直ちに、溶融塩を電解槽内に投入した。この溶融塩の浴組成については、MgCl
2、CaCl
2、NaCl、MgF
2がそれぞれ質量比で20%、30%、49%、1%からなる溶融塩であり、溶融塩の温度は670℃前後に調節した。
【0044】
溶融塩を投入してから45時間後に、以下に示す条件で、溶融塩の電気分解を行った。
溶融塩の電気分解を継続している間は、金属マグネシウムの生成量に対応した塩化マグネシウムを補給するために、補給溶融塩として、クロール法による副生物の塩化マグネシウムを、電解槽に供給し、溶融塩中の塩化マグネシウムの含有量が15〜20質量%となるように調節した。
【0045】
溶融塩の電気分解を開始してから7日間の平均電流効率を測定した。また、溶融塩の電気分解を開始してから3か月後に、電気分解を一時停止し、陽極の減肉量を測定した。その結果を、表1に示す。なお電流効率は、以下の式により算出し、表1の「平均電流効率」は、比較例1の電流効率を100とし、比較例2及び実施例1〜3の電流効率を比較例1の電流効率に対する相対値で示したものである。
電流効率=電解槽から回収したMg質量/理論生成Mg質量
【0046】
【表1】
【0047】
比較例1では、貯留室側の蓋に設けた穴箇所に、電解槽内部に延びるべく配置された先端開口バーナー管を取り付けて、燃焼排ガスを電解槽内部に直接送り込む方法で、減圧吸引せずに乾燥を行った。
このとき、電解槽の昇温速度が4〜8℃/hrの範囲を逸脱しないようにし、且つ、保持温度が440℃前後となるように、電解槽内部に送り込む燃焼排ガス量を調節しながら54時間保持した。なお、電解槽内部に導入した排ガスは加熱により気化した水蒸気と共に、電解槽の蓋上に設けたダクトから排出させた。
【0048】
比較例2では、貯留室側の蓋に設けた穴箇所に、電解槽内部に延びるべく配置された浸管バーナーを取り付けて、電解槽内部を間接加熱する方法で、減圧吸引せずに乾燥を行った。
このとき、電解槽の昇温速度が4〜8℃/hrの範囲を逸脱しないようにし、且つ、保持温度が440℃前後となるように浸管バーナーを調節しながら54時間保持した。なお、加熱により気化した水蒸気は、電解槽の蓋上に設けたダクトから排出させた。
【0049】
実施例1では、貯留室側の蓋に設けた穴箇所に、電解槽内部に延びるべく配置された浸管バーナーを取り付けて、電解槽内部を間接加熱する方法で、槽囲繞ケースの各吸気口を減圧ポンプに接続し、電解槽内部の気圧が−280Paとなるように減圧吸引しながら、乾燥を行った。このとき電解槽の昇温速度が4〜8℃/hrの範囲を逸脱しないようにし、且つ、保持温度が440℃前後となるように浸管バーナーを調節しながら54時間温度保持した。
【0050】
実施例2では、貯留室側の蓋に設けた穴箇所に、電解槽内部に延びるべく配置された先端開口の配管から加熱された乾燥エアーを電解槽内部に直接送り込む方法で、槽囲繞ケースの各吸気口を減圧ポンプに接続し、電解槽内部の気圧が−280Paとなるように減圧吸引しながら、乾燥を行った。このとき電解槽の昇温速度が4〜8℃/hrの範囲を逸脱しないようにし、且つ、保持温度が440℃前後となるように乾燥エアー量を調節しながら54時間温度保持した。
【0051】
実施例3では、貯留室側の蓋に設けた穴箇所に、電解槽内部に延びるべく配置された浸管バーナーを取り付けて、電解槽内部を間接加熱する方法で、槽囲繞ケースの各吸気口を減圧ポンプに接続し、電解槽内部の気圧が−400Paとなるように減圧吸引しながら、乾燥を行った。このとき電解槽の昇温速度が4〜8℃/hrの範囲を逸脱しないようにし、且つ、保持温度が440℃前後となるように浸管バーナーを調節しながら54時間温度保持した。
【0052】
表1に示すところから、減圧吸引を行った実施例1〜3はいずれも、比較例1及び2に比して、3か月後の陽極減肉量が大きく低減されるとともに、平均電流効率が有意に向上したことが解かる。それにより、実施例1〜3では、電解槽内部の水分が十分に減るほどにその内部を有効に乾燥できたと推測される。