(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970691
(24)【登録日】2021年11月2日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】TRPV4拮抗薬
(51)【国際特許分類】
C07D 413/14 20060101AFI20211111BHJP
A61K 31/497 20060101ALI20211111BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20211111BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20211111BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20211111BHJP
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A61P 25/00 20060101ALI20211111BHJP
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A61P 19/02 20060101ALI20211111BHJP
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A61P 1/10 20060101ALI20211111BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
C07D413/14CSP
A61K31/497
A61P43/00 111
A61K9/20
A61P9/10
A61P9/00
A61P7/10
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A61P1/18
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A61P37/06
A61P19/02
A61P1/04
A61P1/12
A61P1/10
A61P1/00
【請求項の数】21
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-560587(P2018-560587)
(86)(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公表番号】特表2019-520327(P2019-520327A)
(43)【公表日】2019年7月18日
(86)【国際出願番号】IB2017052936
(87)【国際公開番号】WO2017199199
(87)【国際公開日】20171123
【審査請求日】2020年5月12日
(31)【優先権主張番号】62/338,625
(32)【優先日】2016年5月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/404,823
(32)【優先日】2016年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/404,855
(32)【優先日】2016年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/482,292
(32)【優先日】2017年4月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513110104
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、(ナンバー2)、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY (NO.2) LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】カール、エイ.ブルックス
(72)【発明者】
【氏名】パトリック、シュトイ
(72)【発明者】
【氏名】グォセン、イェ
【審査官】
三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−518214(JP,A)
【文献】
特表2014−523420(JP,A)
【文献】
特表2010−517967(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/095377(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/136947(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 413/14
A61K 31/497
A61P 43/00
A61K 9/20
A61P 9/10
A61P 9/00
A61P 7/10
A61P 27/02
A61P 25/00
A61P 31/04
A61P 9/12
A61P 29/00
A61P 19/00
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A61P 11/00
A61P 11/02
A61P 11/06
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A61P 15/00
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A61P 37/06
A61P 19/02
A61P 1/04
A61P 1/12
A61P 1/10
A61P 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリルである化合物またはその薬学的に許容可能な塩:
【化1】
【請求項2】
1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリルである、請求項1に記載の化合物:
【化2】
【請求項3】
1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリルの薬学的に許容可能な塩である、請求項1に記載の化合物:
【化3】
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物と、薬学的に許容可能な担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項5】
薬学的に許容可能な担体と、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物とを含有する医薬組成物を製造するための方法であって、前記化合物を薬学的に許容可能な担体と会合させることを含んでなる、方法。
【請求項6】
TRPV4拮抗薬である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
組成物が錠剤形態である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項8】
静脈内投与される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項9】
アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、咳、急性咳、亜急性咳、慢性咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態の処置において使用するための医薬組成物であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物を含んでなる、医薬組成物。
【請求項10】
経口投与される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
静脈内投与される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
吸入投与される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
疾患が鬱血性心不全である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
疾患が急性肺損傷である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項15】
治療において使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項16】
アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、咳、急性咳、亜急性咳、慢性咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態の処置またはその重篤度の軽減において使用するための薬剤の製造における、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項17】
アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、咳、急性咳、亜急性咳、慢性咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態の処置において使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項18】
鬱血性心不全の処置において使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項19】
急性肺損傷の処置において使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項20】
鬱血性心不全の処置またはその重篤度の軽減において使用するための薬剤の製造における、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項21】
急性肺損傷の処置またはその重篤度の軽減において使用するための薬剤の製造における、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TRPV4拮抗薬として有用な新規化合物、具体的には、化合物1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル、その薬学的に許容可能な塩および前記化合物を含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
TRPV4は、カチオンチャネルの一過性受容器電位(TRP)スーパーファミリーのメンバーであり、熱により活性化され、生理的温度で自発的活動性を示す(Guler et al. 2002. J Neurosci 22: 6408-6414)。その多モード活性化特性と一致して、TRPV4は、ホスホリパーゼA2活性化、アラキドン酸およびエポキシエイコサトリエン酸の生成を伴う機構を介した(Vriens et al. 2004. Proc Natl Acad Sci U S A 101: 396-401)低張性および物理的な細胞ストレス/圧力(Strotmann et al. 2000. Nat Cell Biol 2: 695-702)によっても活性化される。加えて、提案されている他の機構の中でも、チロシンキナーゼ活性、ならびにタンパク質キナーゼAおよびCもまたTRPV4を調節し得る(Wegierski et al., 2009. J Biol Chem. 284: 2923-33; Fan et al., 2009. J Biol Chem 284: 27884-91)。
【0003】
心不全は、駆出率の低下および/または左心室拡張によって示される、血液を末梢循環に送り込む左心室の能力の低下をもたらす。これによって左心室拡張末期圧が上昇し、肺血圧の上昇が起こる。これにより、循環系水環境と肺胞気腔を分離する働きをする中隔壁が危険にさらされる。鬱血性心不全患者に見られるように、肺動脈圧が上昇すると肺循環から肺胞腔内へ体液が流入し、その結果、肺水腫/鬱血が起こる。
【0004】
TRPV4は、肺で発現され(Delany et al. 2001. Physiol. Genomics 4: 165-174)、その発現レベルは、鬱血性心不全患者ではアップレギュレートされている(Thorneloe et al., 2012. Sci Transl Med 4: 159ra148)。TRPV4は、単離内皮細胞および無傷の肺におけるCa
2+流入を仲介することが示されている(Jian et al. 2009. Am J Respir Cell Mol Biol 38: 386-92)。内皮細胞は、酸素/二酸化炭素交換を仲介する毛細血管の形成に関与しており、肺の中隔壁に寄与している。TRPV4チャネルが活性化すると、培養内皮細胞の収縮およびin vivoでは心血管虚脱が起こるが(Willette et al., 2008. J Pharmacol Exp Ther 325: 466-74)、少なくとも一部は中隔壁で濾過が促進されるためであり、肺水腫および出血が引き起こされる(Alvarez et al., 2006. Circ Res 99: 988-95)。実際、中隔壁での濾過は血管圧および/または気道内圧の上昇に応答して増大し、この応答はTRPV4チャネルの活性に依存している(Jian et al., 2008. Am J Respir Cell Mol Biol 38:386-92)。これらの所見と一致して、TRPV4拮抗薬は心不全モデルで肺水腫を防ぎ、消散させる(Thorneloe et al., 2012)。全体的に見るとこのことは、急性および/または慢性心不全に関連する肺鬱血の処置においてTRPV4機能を抑制することの臨床的有用性を示唆している。
【0005】
肺水腫/鬱血、感染症、炎症、肺リモデリングおよび/または気道反応性の変化を含む症状を呈する、肺が基になっている病状においてTRPV4機能を阻害することのさらなる有用性が示唆されている。TRPV4と慢性閉塞性肺疾患(COPD)との遺伝的関連が最近確認されており(Zhu et al., 2009. Hum Mol Genetics, 18: 2053-62)、同時に気腫が生じる、または生じないCOPDの処置におけるTRPV4調節の潜在的有効性が示唆されている。TRPV4活性の増強は、人工呼吸器誘発性肺損傷の主要な要因でもあり(Hamanaka et al., 2007. Am J Physiol 293: L923-32)、TRPV4の活性化が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺線維症(Rahaman et al., 2014. J Clin Invest 124: 5225-38)、咳(Bonvini et al., 2016 J Allergy Clin Immunol 138: 249-61)および喘息(Liedtke & Simon, 2004. Am J Physiol 287: 269-71)に関与する病状の基礎にある可能性があることが示唆されている。副鼻腔炎ならびにアレルギー性および非アレルギー性鼻炎の処置におけるTRPV4遮断薬の潜在的臨床的有用性もまた支持されている(Bhargave et al., 2008. Am J Rhinol 22:7-12)。
【0006】
TRPV4は、急性肺損傷(ALI)に関与することが示されている。TRPV4の化学的活性化は肺胞中隔血液関門を破壊し、肺水腫をもたらす可能性がある(Alvarez et al, Circ Res. 2006 Oct 27;99(9):988-95)。動物モデルでは、TRPV4拮抗作用は、化学薬剤および生物学的毒素、例えば、HCl、塩素ガス、および血小板活性化因子によって誘導される肺傷害を減弱する(Balakrishna et al., 2014. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 307: L158-72; Morty et al., 2014. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 307: L817-21; Yin et al., 2016. Am J Respir Cell Mol Biol 54: 370-83)。加えて、TRPV4は、ヒトにおいてALIを引き起こすまた増悪させることが知られるプロセスに必要である(Hamanaka et al, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2007 Oct;293(4):L923-32)。全体的に見るとこのことは、ARDSおよびALIの処置においてTRPV4機能を阻害することの臨床利益を示唆する。
【0007】
さらに、TRPV4は、近年、TRPV4拮抗薬が有意な臨床利益をもたらす可能性がある他のいくつかの生理学的/病態生理学的プロセスに関連付けられた。これらには、様々な態様の疼痛(Todaka et al., 2004. J Biol Chem 279: 35133-35138; Grant et al., 2007. J Physiol 578: 715-733; Alessandri-Haber et al., 2006. J Neurosci 26: 3864-3874)、遺伝性運動ニューロン障害(Auer-Grumbach et al., 2009. Nat Genet. PMID: 20037588; Deng et al., 2009. Nat Genet PMID: 20037587; Landoure et al., 2009. Nat Genet. PMID: 20037586)、心血管疾患(Earley et al., 2005. Circ Res 97: 1270-9; Yang et al., 2006. Am. J Physiol. 290:L1267-L1276)、骨関連障害[骨関節炎(Muramatsu et al., 2007. J. Biol. Chem. 282: 32158-67)、遺伝性機能獲得型突然変異(Krakow et al., 2009. Am J Hum Genet 84: 307-15; Rock et al., 2008 Nat Genet 40: 999-1003)および破骨細胞分化(Masuyama et al. 2008. Cell Metab 8: 257-65)を含む]、掻痒(Akiyama et al., 2016. J Invest Dermatol 136: 154-60; Chen et al., 2016. J Biol Chem 291: 10252-62))、脳卒中および脳浮腫に関連する障害(Li et al., 2013. Front Cell Neurosci 7: 17; Jie et al., 2015. Front Cell Neurosci 9: 141)、炎症性腸障害(Vergnolle, 2014. Biochem Pharmacol 89: 157-61)、緑内障および網膜症を含む様々な眼の疾患(Monaghan et al., 2015. PloS One 10: e0128359; Jo et al., 2016. Proc Natl Acad Sci U S A 113: 3885-90)、ならびに肥満および糖尿病を含む代謝症候群(Ye et al., 2012. Cell 151: 96-110; Duan et al., 2015. Mol Genet Genomics 290: 1357-65)が含まれる。
【0008】
国際出願日2012年6月15日である国際出願第PCT/US2012/042622号(国際公開番号WO2013/012500および国際公開日2013年1月24)には、TRPV4拮抗薬活性を有するとして示され、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害、心臓関連機能不全、肺関連機能不全、疼痛、運動ニューロン障害、腎機能障害、骨関節炎、クローン病、大腸炎、過敏性腸症候群(IBS)、セリアック病およびラクトース不耐症を含む様々な疾患の処置において有用であるとして示される、置換アザスピロ[4.5]デカン−7−イル化合物群が記載されている。WO2013/012500は、いずれの7−ヒドロキシ置換アザスピロ[4.5]デカン−7−イル化合物も一般的または具体的に開示または特許請求していない。WO2013/012500は、1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリルを一般的に包含していないか、または具体的に開示していない。
【0009】
置換アザスピロ[4.5]デカン−7−イルTRPV4拮抗薬に7−メチル置換基が好ましいことは、Stoy, Discovery and Optimization of Spirocarbamate TRPV4 Antagonists, Medicinal Chemistry Gordon Research Conference, August 2015により示されている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、新規化合物:1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(以下、「化合物A」)およびその薬学的に許容可能な塩に関する。本化合物は、以下の構造により示される。
【化1】
【0011】
別の態様では、本発明は、治療において使用するための化合物Aを提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、化合物AのTRPV4拮抗薬としての使用を提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、TRPV4の不均衡に関連する病態を処置するための化合物Aの使用を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態を処置する方法であって、それを必要とする対象、好適にはヒト対象に治療上有効な量の化合物Aを投与することを含んでなる方法を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態の処置において使用するための化合物Aを提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態の処置のための薬剤の製造における化合物Aの使用を提供する。
【0017】
別の態様では、TRPV4拮抗薬は、単独で、または1以上の他の治療薬、例えば、エンドセリン受容体拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(angiotension II receptor antagonists)、バソペプチダーゼ阻害剤、バソプレシン受容体調節薬、利尿薬、ジゴキシン、β遮断薬、アルドステロン拮抗薬、変力薬(iontropes)、NSAIDS、一酸化窒素供与体、カルシウムチャネル調節薬、ムスカリン拮抗薬、ステロイド系抗炎症薬、気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン拮抗薬、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤、二重非選択的βアドレナリン受容体およびα1アドレナリン受容体拮抗薬、5型ホスホジエステラーゼ阻害剤、およびレニン阻害剤からなる群から選択される薬剤とともに投与してもよい。
【0018】
本発明のその他の態様および利点を、以下の好ましい実施態様の詳細な説明においてさらに説明する。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、新規化合物1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(化合物A)およびその薬学的に許容可能な塩、その調製方法、この化合物を有効成分として含んでなる医薬製剤、およびTRPV4の過剰生産に関連する病態を化合物Aもしくはその薬学的に許容可能な塩、またはその医薬製剤で処置するための方法を対象とする。
【0020】
WO2013/012500は、いずれの7−ヒドロキシ置換アザスピロ[4.5]デカン−7−イル化合物も一般的にまたは具体的に開示または特許請求していない。WO2013/012500は、1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリルを一般的にまたは具体的に開示または特許請求していない。
【0021】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な」とは、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に見合って、過度な毒性、刺激作用、またはその他の問題もしくは合併症無く、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに好適な化合物、材料組成物、および投与形を意味する。
【0022】
当業者ならば、化合物Aの薬学的に許容可能な塩が調製され得ることを認識するであろう。実際に、本発明の特定の実施形態では、化合物Aの薬学的に許容可能な塩は、個々の遊離または塩を形成していない化合物よりも好ましい場合がある。よって、本発明は、化合物Aの薬学的に許容可能な塩をさらに対象とする。本発明は、遊離または塩を形成していない化合物Aをさらに対象とする。
【0023】
本発明の化合物の薬学的に許容可能な塩は、当業者により容易に調製される。
【0024】
化合物A、およびその薬学的に許容可能な塩は、固体または液体形態で存在してよい。固体状態では、それは結晶または非結晶形態、またはそれらの混合物として存在してよい。当業者ならば、薬学的に許容可能な溶媒和物は結晶化の際に結晶格子に溶媒分子が組み込まれた結晶性化合物から形成され得ることを認識するであろう。溶媒和物は、限定されるものではないが、エタノール、イソプロパノール、DMSO、酢酸、エタノールアミン、もしくは酢酸エチルなどの非水性溶媒含んでもよく、またはそれらは結晶格子に組み込まれる溶媒として水を含んでもよい。結晶格子に組み込まれる溶媒が水である溶媒和物は一般に「水和物」と呼ばれる。水和物には、化学量論的水和物ならびに変動量の水を含有する組成物が含まれる。
【0025】
当業者ならば、化合物A、およびその薬学的に許容可能な塩が、その様々な溶媒和物を含む結晶形態で存在してよく、多形(すなわち、異なる結晶構造で存在する能力)を示してもよいことをさらに認識するであろう。これらの異なる結晶形態は一般に「多形体」として知られる。多形体は同じ化学組成を有するが、充填、幾何学的配置、および結晶固体状態の他の記述的特性が異なる。従って、多形体は、形状、密度、硬度、変形性、安定性、および溶解特性などの異なる物理特性を持ち得る。多形体は一般に、異なる融点、IRスペクトル、およびX線粉末回折パターンを示し、同定に使用することができる。当業者ならば、例えば、その化合物の製造に使用される反応条件または試薬を変更または調整することによって、異なる多形体が製造できることを認識するであろう。例えば、温度、圧力、または溶媒を変化させると多形体が得られる。加えて、ある多形体は特定の条件下で別の多形体に自発的に変換し得る。
【0026】
生物活性
上述のように、化合物A、およびその薬学的に許容可能な塩はTRPV4拮抗薬であり、TRPV4の過剰生産に関連する病態の処置において有用であり得る。好適には、病態は、脳浮腫、アテローム性動脈硬化症、腸管浮腫、術後腹腔内浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、過活動膀胱、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害および骨関節炎から選択される。
【0027】
化合物Aの生物活性は、TRPV4拮抗薬としての候補化合物の活性を決定するための任意の好適なアッセイ、ならびに組織およびin vivoモデルを用いて決定することができる。
【0028】
化合物Aの生物活性は、以下の試験によって実証される。
【0029】
リガンド依存性アッセイ:
HEK293 MSRII細胞で発現されるヒトTRPV4のFLIPRアッセイ
TRPV4チャネル活性化は、カルシウムを含む二価および一価陽イオンの流入を生じる。結果として生じる細胞内カルシウムの変化を、カルシウム特異的蛍光色素Fluo−4(MDS Analytical Technologies)を用いてモニタリングした。終濃度1%の、ヒトTRPV4遺伝子を発現するBacMamウイルスを形質導入したHEK293 MSRII細胞(マクロファージスカベンジャー受容体クラスIIを安定発現するヒト胚腎臓293細胞)を、384ウェルポリDリシンコーティングプレート(DMEM/F12を15mM HEPES、10%FBS、1%ペニシリン−ストレプトマイシンおよび1%L−グルタミンともに含有する50μL培養培地中、15,000細胞/ウェル)に播種した。細胞を37℃および5%CO
2で24〜72時間インキュベートした。次に、培養培地を、Tecanプレートウォッシャーを用いて吸引し、20μL/ウェルの色素添加バッファー:HBSS、500μMブリリアントブラック(MDS Analytical Technologies)、および2μM Fluo−4 AMに置き換えた。次に、色素添加プレートを暗所、室温で1〜1.5時間インキュベートした。HBSS(1.5mM塩化カルシウム、1.5mM塩化マグネシウムおよび10mM HEPES含有、pH7.4)+0.01% Chapsに希釈した10μLの試験化合物を、プレートの各ウェルに加え、暗所、室温で10分間インキュベートした後、10μLのアゴニスト(N−((S)−1−(((R)−1−((2−シアノフェニル)スルホニル)−3−オキソアゼパン−4−イル)アミノ)−4−メチル−1−オキソペンタン−2−イル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボキサミド、Thorneloe et al, Sci. Transl. Med. (2012), 4, 159ra148)(以下、アゴニスト化合物)をアゴニストEC
80に相当する終濃度に相当するように加えた。カルシウムシグナルをFLIPR
TETRA(MDS Analytical Technologies)またはFLIPR384(MDS Analytical Technologies)を用いて測定し、試験化合物によるアゴニスト化合物誘導性のカルシウムシグナルの阻害を判定した。
【0030】
化合物Aは、一般に上記の
リガンド依存性アッセイに従って試験した場合、6.3nMの活性を示した。
【0031】
使用方法
化合物A、およびその薬学的に許容可能な塩は、TRPV4拮抗薬として、アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫に関連する障害、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、ならびに鼓腸から選択される病態の処置または予防において有用であり得る。よって、別の態様では、本発明は、このような病態を処置する方法を対象とする。
【0032】
ある実施形態では、本発明は、鬱血性心不全の処置において使用するための化合物Aを提供する。
【0033】
ある実施形態では、本発明は、急性肺損傷の処置において使用するための化合物Aを提供する。
【0034】
ある実施形態では、本発明は、鬱血性心不全の処置のための薬剤の製造における化合物Aの使用を提供する。
【0035】
ある実施形態では、本発明は、急性肺損傷の処置のための薬剤の製造における化合物Aの使用を提供する。
【0036】
慢性咳は、世界で有病率が高く、覚醒時に1時間に10〜50回の咳という典型的な咳率を伴い、患者の生活の質に影響が大きい。慢性咳は慢性疼痛と同様に求心性の感覚信号に対する過度の脊髄および皮質応答を含むニューロン過敏の状態を表すと仮定される。in vivoにおけるTRPV4チャネルの活性化は、ATPの放出を引き起こし、ATPのP2X3チャネルへの結合を介して肺からの求心感覚信号を誘発し、咳を生じる(Bonvini, JACI, 2016)。ATPレベルは、咳を伴う疾患、例えば、COPDを有する患者の呼気を増加させる(Basoglu, Chest, 2015)。最近、P2X3拮抗薬が、第2相臨床試験で慢性咳の軽減および生活の質スコアの改善に高レベルの有効性を示した(Abdulqawi, Lancet, 2015)。これらの臨床データは、前臨床モデルからのデータとともに、咳の発生におけるTRPV4受容体の役割を示唆する。TRPV4受容体は、気道平滑筋細胞(McAlexander, JPET, 2014)、気道上皮細胞(Delany, Physiol Genomics, 2001)、および気道特異的求心ニューロンからのAd線維を含む肺の感覚ニューロン(Bonvini, JACI, 2016)で発現される。考え合わせると、これらのデータは、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳におけるTRPV4拮抗薬の潜在的な治療上の役割を示唆する。
【0037】
・Abdulqawi R, et al. Lancet. 2015 Mar 28; 385(9974):1198-1205.
・Basoglu OK, et al., Chest. 2015 Aug;148(2):430-5.
・Bonvini SJ, et al., J Allergy Clin Immunol. 2016 Jul;138(1):249-261.e12.
・Delany NS, et al., Physiol Genomics. 2001 Jan 19;4(3):165-74.
・McAlexander MA, et al., J Pharmacol Exp Ther. 2014 Apr;349(1):118-25.
【0038】
化合物Aを、咳が誘導されるin vivo前臨床モデル、例えば、上記のBonvini et al.に引用されているモルモットモデルにおいて咳を処置するその能力に関して試験する。化合物Aの有効性は、ヒトの急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳を処置するその能力に関して、Abdulqawi et al.に引用されているように他覚的な咳の監視および特定の生活の質の評価法を用いて試験する。
【0039】
本発明の処置の方法は、安全かつ有効な量の化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩を、それを必要とする哺乳動物、好適にはヒトを投与することを含んでなる。
【0040】
本明細書で使用する場合、病態に関して「処置する」およびその派生語は、(1)その病態またはその病態の生物学的発現の1以上の状態を改善すること、(2)(a)その病態につながるもしくはその病態の原因である生物学的カスケードの1以上の点、もしくは(b)その病態の生物学的発現の1以上に干渉すること、(3)その病態に関連する症状もしくは影響の1以上を緩和すること、または(4)その病態もしくはその病態の生物学的発現の1以上の進行を緩徐化することを意味する。
【0041】
用語「処置する」およびその派生語は、治療的療法を意味する。治療的療法は、症状を緩和するため、または疾患の初期徴候においてもしくはその進行を処置するために適当であるものである。
【0042】
当業者ならば、「予防」が絶対的な用語ではないことを認識するであろう。医学では、「予防」は、病態もしくはその生物学的発現の尤度もしくは重篤度を実質的に低減するため、またはそのような病態もしくはその生物学的発現の発生を遅延させるための薬物の予防的投与を意味すると理解される。
【0043】
本明細書で使用する場合、化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩に関して「安全かつ有効な量」とは、患者の病態を処置するのに十分であるが、健全な医学的判断の範囲内で重篤な副作用を回避する(妥当な利益/リスク比で)のに十分な化合物の量を意味する。化合物の安全かつ有効な量は、選択された特定の投与経路;処置される病態;処置される病態の重篤度;処置される患者の齢、大きさ、体重および健康状態;処置される患者の病歴;処置期間;併用治療の性質;所望の治療効果などの因子によって異なるが、やはり当業者により慣例的に決定可能である。
【0044】
本明細書で使用する場合、「患者」、およびその派生語は、ヒトまたはその他の哺乳動物、好適にはヒトを意味する。
【0045】
本発明の方法において処置される対象は一般に、そのような処置を必要とする哺乳動物、好ましくは、そのような処置を必要とするヒトである。
【0046】
さらなる態様において、本発明は、アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、または鼓腸の処置において使用するための化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。好適には、本発明は、鬱血性心不全の処置において使用するための式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。好適には、本発明は、急性肺損傷の処置において使用するための化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。好適には、本発明は、脳浮腫の処置において使用するための化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。好適には、本発明は、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳の処置において使用するための化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0047】
別の態様では、本発明は、アテローム性動脈硬化症、血管原性浮腫、術後腹腔内浮腫、眼の浮腫、脳浮腫、局部および全身性浮腫に関連する障害、体液貯留、敗血症、高血圧症、炎症、骨関連障害および鬱血性心不全、肺障害、慢性閉塞性肺障害、人工呼吸器誘発性肺損傷、高地誘発性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、急性肺損傷、肺線維症、副鼻腔炎/鼻炎、喘息、急性咳、亜急性咳および慢性咳を含む咳、肺高血圧症、過活動膀胱、膀胱炎、疼痛、運動ニューロン障害、遺伝性機能獲得性障害、心血管疾患、腎機能障害、脳卒中、緑内障、網膜症、子宮内膜症、早期陣痛、皮膚炎、掻痒症、肝疾患における掻痒症、糖尿病、代謝障害、肥満、片頭痛、膵炎、腫瘍抑制、免疫抑制、骨関節炎、クローン病、大腸炎、下痢、腸の不規則性(過敏性/反応低下)、便失禁、過敏性腸症候群(IBS)、便秘、腸の疼痛および痙攣、セリアック病、ラクトース不耐症、または鼓腸の処置のための薬剤の製造における化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。好適には、本発明は、鬱血性心不全の処置のための薬剤の製造における式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。好適には、本発明は、急性肺損傷の処置のための薬剤の製造における化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。好適には、本発明は、脳浮腫の処置のための薬剤の製造における化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。
【0048】
化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩は、全身投与と局所投与の両方を含むいずれの好適な投与経路によって投与されてもよい。全身投与には、経口投与、非経口投与、経皮投与、直腸投与、および吸入による投与が含まれる。非経口投与は、経腸、経皮または吸入によるもの以外の投与経路を意味し、一般に注射または注入による。非経口投与は、静脈内、筋肉内、および皮下注射または注入を含む。吸入は、口腔を経て吸入される場合であれ鼻道を経て吸入される場合であれ、患者の肺への投与を意味する。局所投与は、皮膚への適用ならびに眼内、耳内、腟内、および鼻腔内投与を含む。好適には、投与は経口である。好適には、投与は静脈内である。好適には、投与は吸入による。
【0049】
化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩は1回で投与されても、または投与計画に従って複数の用量が所与の期間様々な時間間隔で投与されてもよい。例えば、用量は、1日1回、2回、3回または4回投与されてよい。用量は、所望の治療効果が達成されるまでまたは所望の治療効果を維持するために無期限に投与されてよい。化合物の好適な投与計画は、吸収、分布、および半減期などのその化合物の特性によって異なり、当業者により決定可能である。加えて、本発明の化合物に関して、投与計画が実施される期間を含む好適な投与計画は、当業者の知識および専門技術の範囲内にある、処置される病態、処置される病態の重篤度、処置される患者の齢および健康状態、処置される患者の病歴、併用治療の性質、所望の治療効果などの因子によって異なる。さらに、当業者には、好適な投与計画は投与計画に対する個々の患者の応答が得られればまたは個々の患者が変更を必要とする場合には経時的に調整する必要がある場合があることが理解されるであろう。
【0050】
典型的な一日用量は、選択された特定の投与経路に応じて変更可能である。経口投与のための典型的な用量は、一人当たり一用量当たり1mg〜1000mgの範囲である。好ましい用量は、一人当たり1日1回または1日2回、1〜500mgである。
【0051】
加えて、化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩は、プロドラッグとして投与されてよい。本明細書で使用する場合、本発明の化合物の「プロドラッグ」は、患者に投与した際にin vivoで本発明の化合物を最終的に放出する化合物の機能的誘導体である。プロドラッグとしての本発明の化合物の投与は、当業者が以下のうち1以上のことを行うことを可能とし得る:(a)in vivoにおいて本化合物の発現を改変すること;(b)in vivoにおいて本化合物の作用期間を改変すること;(c)in vivoにおいて本化合物の輸送または分布を改変すること;(d)in vivoにおいて本化合物の溶解度を改変すること;および(e)本化合物に伴う副作用またはその他の問題を克服すること。プロドラッグを調製するために使用される典型的な機能的誘導体には、in vivoで化学的または酵素的に切断される化合物の修飾が含まれる。リン酸塩、アミド、エーテル、エステル、チオエステル、炭酸塩、およびカルバミン酸塩の調製を含むこのような修飾は、当業者に周知である。
【0052】
組成物
化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩は、必ずしも必要ではないが通常、患者に投与する前に医薬組成物として処方される。よって、別の態様では、本発明は、化合物Aと1以上の薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなる医薬組成物を対象とする。
【0053】
本発明の医薬組成物は、バルク形態で調製および包装されてよく、安全かつ有効な量の化合物Aが抽出された後、散剤またはシロップ剤などで患者に与えることができる。あるいは、本発明の医薬組成物は、単位投与形で調製および包装されてもよく、各物理的に別個の単位が安全かつ有効な量の化合物Aを含有する。単位投与形で調製される場合、本発明の医薬組成物は一般に、1mg〜1000mgの化合物Aを含有する。加えて、本発明の医薬組成物は、場合により、1以上の付加的な薬学上有効な化合物をさらに含んでなってよい。
【0054】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な賦形剤」は、医薬組成物に形態または稠度を与える上で含まれる薬学的に許容可能な材料、組成物またはビヒクルを意味する。各賦形剤は、患者に投与された際に本発明の化合物の有効性を実質的に低下させる相互作用および薬学上許容可能でない医薬組成物を生じる相互作用が回避されるように、混合された際に医薬組成物の他の成分と適合しなければならない。加えて、各賦形剤は、当然のことながら、それを医薬上許容可能とするのに十分高い純度でなければならない。
【0055】
化合物Aおよび医薬上許容可能な賦形剤または賦形剤(複数)は一般に、所望の投与経路により患者に投与するために適合した投与形に処方される。例えば、投与形としては、(1)錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、トローチ剤、散剤、シロップ剤、エリキシル剤、懸濁液、溶液、エマルション、サシェ剤、およびカシェ剤などの経口投与に適合したもの;(2)無菌溶液、懸濁液、および再構成用散剤などの非経口投与に適合したもの;(3)経皮パッチなどの経皮投与に適合したもの;(4)坐剤などの直腸投与に適合したもの;(5)ドライパウダー、エアロゾル、懸濁液、および溶液などの吸入に適合したもの;ならびに(6)クリーム、軟膏、ローション、溶液、ペースト、スプレー、フォーム、およびゲルなどの局所投与が含まれる。
【0056】
好適な薬学的に許容可能な賦形剤は、選択された特定の投与形によって異なる。加えて、好適な薬学的に許容可能な賦形剤は、それらが組成物中で働き得る特定の機能のために選択されてもよい。例えば、ある特定の薬学的に許容可能な賦形剤は、均一な投与形の生産を容易にするそれらの能力のために選択され得る。ある特定の薬学的に許容可能な賦形剤は、安定な投与形の生産を容易にするそれらの能力のために選択され得る。ある特定の薬学的に許容可能な賦形剤は、患者に投与された際にある器官または身体の部分から別の器官または身体の部分への化合物Aの運搬または輸送を容易にするそれらの能力のために選択され得る。ある特定の薬学的に許容可能な賦形剤は、患者のコンプライアンスを増進するそれらの能力のために選択され得る。
【0057】
好適な薬学的に許容可能な賦形剤としては、以下の種類の賦形剤:希釈剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動促進剤、造粒剤、コーティング剤、湿潤剤、溶媒、補助溶媒、沈殿防止剤、乳化剤、甘味剤、香味剤、矯味剤、着色剤、固化防止剤、湿潤(hemectants)、キレート剤、可塑剤、増粘剤、抗酸化剤、保存剤、安定剤、界面活性剤、および緩衝剤が含まれる。当業者ならば、ある特定の薬学的に許容可能な賦形剤は2つ以上の機能を果たす場合があること、ならびにどれほどの量の賦形剤が処方物中に存在するか、および他のどんな成分が処方物中に存在するかによって別の機能を果たす場合があることを認識するであろう。
【0058】
当業者は、本明細書での使用に適当な量の好適な薬学的に許容可能な賦形剤を選択できるだけの当技術分野での知識および技量を持っている。加えて、薬学的に許容可能な賦形剤を説明し、好適な薬学的に許容可能な賦形剤の選択に有用であり得る、当技術分野に利用可能ないくつかの情報源がある。例としては、
Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Company)、
The Handbook of Pharmaceutical Additives (Gower Publishing Limited)、および
The Handbook of Pharmaceutical Excipients (the American Pharmaceutical Association and the Pharmaceutical Press)が挙げられる。
【0059】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の技術および方法を用いて調製される。当技術分野で慣用される方法のいくつかは、
Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Company)に記載されている。
【0060】
一つの態様において、本発明は、安全かつ有効な量の化合物Aと希釈剤または増量剤を含んでなる錠剤またはカプセル剤などの固体経口投与形を対象とする。好適な希釈剤および増量剤としては、ラクトース、スクロース、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン(例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、およびアルファー化デンプン)、セルロースおよびその誘導体(例えば、微晶質セルロース)、硫酸カルシウム、および第二リン酸カルシウムが含まれる。経口固体投与形は、結合剤をさらに含んでなり得る。好適な結合剤としては、デンプン(例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、およびアルファー化デンプン)、ゼラチン、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、トラガカントガム、グアーガム、ポビドン、ならびにセルロースおよびその誘導体(例えば、微晶質セルロース)が含まれる。経口固体投与形は、崩壊剤をさらに含んでなり得る。好適な崩壊剤としては、クロスポビドン、グリコール酸ナトリウムデンプン、クロスカルメロース、アルギン酸、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムが含まれる。経口固体投与形は、滑沢剤をさらに含んでなり得る。好適な滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびタルクが含まれる。
【0061】
本発明には、薬学的に許容可能な担体と化合物Aを含有する医薬組成物を調製するための方法が含まれ、その方法は、化合物Aを薬学的に許容可能な担体と会合させることを含んでなる。
【0062】
化合物A、またはその薬学的に許容可能な塩は、単独で、または1以上の他の治療薬とともに投与されてよく、前記薬剤は、エンドセリン受容体拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(angiotension II receptor antagonists)、バソペプチダーゼ阻害剤、バソプレシン受容体調節薬、利尿薬、ジゴキシン、β遮断薬、アルドステロン拮抗薬、変力薬(iontropes)、NSAIDS、一酸化窒素供与体、カルシウムチャネル調節薬、ムスカリン拮抗薬、ステロイド系抗炎症薬、気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン拮抗薬、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤、二重非選択的βアドレナリン受容体およびα1アドレナリン受容体拮抗薬、5型ホスホジエステラーゼ阻害剤、およびレニン阻害剤からなる群から選択される。
【0063】
本発明はまた、0.5〜1,000mgの化合物Aまたはその薬学的に許容可能な塩と、0.5〜1,000mgの薬学的に許容可能な賦形剤とを含んでなる医薬組成物を提供する。
【実施例】
【0064】
以下の例は本発明を例示する。これらの例は、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の化合物、組成物、および方法を調製および使用するために当業者に指針を提供する。本発明の特定の実施形態が記載されるが、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく種々の変更および改変が行えることを認識するであろう。
【0065】
以下の略号および用語は全体を通じて示された意味を有した。
【0066】
【表1】
【0067】
例1
1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(化合物A)の調製
【化2】
【化3】
【化4】
【0068】
ステージ1:1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−オン
乾燥エチレングリコール(2L)中、シクロヘキサン−1,3−ジオン(500g、4459mmol)、4Åモレキュラーシーブス(500g、4459mmol)、およびp−トルエンスルホン酸(254g、1338mmol)の溶液を窒素下、室温で4時間撹拌した。この反応混合物を飽和NaHCO
3溶液(1L)で希釈して塩基性pHに調整し、この塩基性混合物を酢酸エチル(3×1L)で抽出した。合わせた有機抽出液をブライン溶液(500ml)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して標題化合物(280g、1732mmol、収率38.8%)を黄色の液体として得た。LCMS (m/z) 157.1 (M+H
+)。
【0069】
ステージ2:1,6,9−トリオキサジスピロ[2.1.4.3]ドデカン
窒素下、20℃で、ジメチルスルホキシド(1.5L)中、1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−オン(280g、1793mmol)の溶液をヨウ化トリメチルスルホキソニウム(395g、1793mmol)およびカリウムtert−ブトキシド(221g、1972mmol)で処理し、この反応混合物を16時間撹拌した後、水で希釈し、酢酸エチル(3×2L)で抽出した。合わせた有機抽出液をブライン(2×500ml)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(15%酢酸エチル/石油エーテル)により精製し、標題化合物(170g、962mmol、収率53.6%)を無色の油状物として得た。GCMS(m/z)141.2,170.2。
【0070】
ステージ3:7−(アミノメチル)−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−オール
1,6,9−トリオキサジスピロ[2.1.4.3]ドデカン(125g、734mmol)およびMeOH中7Nアンモニア(2.96L、20.7mol)の混合物を室温で72時間撹拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮して粗固体を得、これをペンタンで摩砕し、真空下で乾燥させ、標題化合物(100g、486mmol、収率66.2%)を灰白色固体として得た。GCMS(m/z)187.2。
【0071】
ステージ4:3−(((7−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)アミノ)−4−ニトロベンゾニトリル
アセトニトリル(1L)中、7−(アミノメチル)−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−オール(100g、534mmol)、3−フルオロ−4−ニトロベンゾニトリル(89g、534mmol)、および炭酸カリウム(148g、1068mmol)の混合物を室温、窒素下で18時間撹拌した。この反応混合物を飽和NH
4Cl(1.5L)で希釈し、酢酸エチル(2×2L)で抽出した。合わせた有機抽出液をブライン(2×200ml)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。粗材料を2%MeOH/CH
2Cl
2(200ml)で摩砕し、濾過し、ジエチルエーテル(300ml)で洗浄し、標題化合物(120g、356mmol、収率66.7%)を橙色固体として得た。LCMS(m/z)334.0(M+H
+)。
【0072】
ステージ5:4−アミノ−3−(((7−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)アミノ)ベンゾニトリル
窒素下、エタノール(1500ml)および水(500ml)中、3−(((7−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)アミノ)−4−ニトロベンゾニトリル(120g、360mmol)および塩化アンモニウム(193g、3600mmol)の溶液を鉄(201g、3600mmol)で処理した。この反応混合物を室温で2時間撹拌した後、85℃で6時間加熱した後、室温に冷却し、減圧下で濃縮してエタノールを除去した。残った水性混合物をCH
2Cl
2(2×1500ml)で抽出した。合わせた有機抽出液を飽和NaHCO
3(1000ml)、ブライン(150ml)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、標題化合物(110g、312mmol、収率87%)を淡黄色泡沫として得た。LCMS(m/z)304.0(M+H
+)。
【0073】
ステージ6:1−((7−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル
4−アミノ−3−(((7−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−l)メチル)アミノ)ベンゾニトリル(110g、312mmol)およびオルトギ酸トリメチル(34.5ml、312mmol)の溶液をギ酸(11.96ml、312mmol)で処理し、80℃で4時間撹拌した後、減圧下で濃縮した。残渣を酢酸エチル(1.5L)で希釈し、飽和NaHCO
3溶液(1L)、水(100ml)、およびブライン(100ml)で洗浄した。有機層を減圧下で濃縮した。この材料をアセトン(100ml)、ジエチルエーテル(3×300ml)、およびヘキサンで摩砕し、乾燥させ、標題化合物(80g、254mmol、収率81%)を灰白色固体として得た。LCMS(m/z)314.0(M+H
+)。
【0074】
ステージ7:1−((1−ヒドロキシ−3−オキソシクロヘキシル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル
アセトン(600ml)および水(200ml)中、1−((7−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(60g、191mmol)の溶液を1N HCl水溶液(94ml、94mmol)で処理し、室温で24時間撹拌した。この反応混合物を酢酸エチルおよび水で希釈し、層を分離した。有機層を水(500ml)で洗浄した。合わせた水性抽出液を酢酸エチル(3×800ml)で洗浄した。合わせた有機抽出液をブラインで洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた材料をジエチルエーテル(550ml)で摩砕し、乾燥させた後、CH
2Cl
2(500ml)中に懸濁させ、16時間撹拌した。固体を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0−4%MeOH/CH
2Cl
2)により精製し、標題化合物(30g、109mmol、収率57%)を灰白色固体として得た。LCMS(m/z)270.2(M+H
+)。
【0075】
ステージ8:(+/−)1−(((3S,5R)−5−ヒドロキシ−1−オキサスピロ[2.5]オクタン−5−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(シス鏡像異性体のラセミ混合物)
窒素下、ジメチルスルホキシド(200ml)中、1−((1−ヒドロキシ−3−オキソシクロヘキシル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(30g、111mmol)およびヨウ化トリメチルスルホキソニウム(27.0g、123mmol)の溶液をカリウムtert−ブトキシド(13.75g、123mmol)で処理し、室温で1時間撹拌した。この反応混合物を氷水(500ml)に注ぎ、酢酸エチル(6×550ml)で抽出した。合わせた有機抽出液を水(2×100ml)およびブライン(100ml)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣を2:8 MeCN:ジエチルエーテル(2×100ml)で摩砕し、固体を濾取し、ジエチルエーテルですすぎ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0−3% MeOH/CH
2Cl
2)により精製し、標題化合物(12.5g、43.2mmol、収率38.8%)を白色固体として得た。LCMS(m/z)284.3(M+H
+)。
【0076】
ステージ9:1−(((3S,5R)−5−ヒドロキシ−1−オキサスピロ[2.5]オクタン−5−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル
(+/−)1−(((3S,5R)−5−ヒドロキシ−1−オキサスピロ[2.5]オクタン−5−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(シス鏡像異性体のラセミ混合物)(45g、159mmol)を1:1 CH
2Cl
2:EtOH(900ml)に溶かし、鏡像異性体を、無勾配条件(補助溶媒35%IPA、流速60グラム/分)下でキラルパックICカラム(30×250mm、5μm)を用いるキラル超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)により分割し、標題化合物(14.08g、47.22mmol、29.7%、>99%ee)を淡橙色固体として得た。LCMS(m/z)284.1(M+H
+)。
【0077】
ステージ10:1−(((5S,7R)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル
カルバミン酸エチル(15.47g、174mmol)、リチウムtert−ブトキシド(ヘキサン中1M)(17.37ml、17.37mmol)、およびN−メチル−2−ピロリドン(174ml)の混合物を室温で5分間撹拌した後、1−(((3S,5R)−5−ヒドロキシ−1−オキサスピロ[2.5]オクタン−5−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(9.84g、34.7mmol)を加えた。この混合物を75℃で15時間撹拌した後、室温に冷却し、400ml水に注いだ(混合物の加温が見られた)。得られた薄橙色の懸濁液を一晩撹拌し、固体を濾取し、標題化合物(6.745g、17.57mmol、収率50.6%)を淡橙色固体として得た。LCMS(m/z)327.0(M+H
+)。
【0078】
ステージ11:2−ブロモ−5−シクロプロピルピラジン
2−ブロモ−5−シクロプロピルピラジンは、CombiPhos Catalysts(CS2504)から注文するか、または下記の調製法を用いて合成した。トルエン(600ml)中、2,5−ジブロモピラジン(60g、252mmol)の溶液を撹拌し、窒素で10分間脱気した後、水(80ml)中、K
2CO
3(87g、631mmol)の溶液を加えた。この混合物をさらに5分間脱気した後、シクロプロピルボロン酸(28.2g、328mmol)、酢酸パラジウム(II)(2.83g、12.61mmol)、およびPdCl
2(dppf)−CH
2Cl
2付加物(10.30g、12.61mmol)を加え、この反応混合物を80℃で一晩撹拌した。反応混合物をセライトで濾過し、濾液を酢酸エチル(400ml)で希釈し、水(2×200ml)およびブラインで洗浄した。有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(3% 酢酸エチル/ヘキサン)により精製して黄色油状物を得、これを1:9 CH
2Cl
2:ペンタン(50ml)に溶かし、−20℃に冷却した。沈澱が形成し、得られた懸濁液を10分間撹拌した後、溶媒をデカントし、固体を乾燥させた。CH
2Cl
2:ペンタン法を繰り返し、得られた固体を真空下で乾燥させ、標題化合物(18.35g、88mmol、収率34.9%)を白色結晶性固体として得た。GCMS(m/z)197.0/199.0。
【0079】
ステージ12:1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル
1,4−ジオキサン(138ml)中、1−(((5S,7R)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(6.736g、20.64mmol)、2−ブロモ−5−シクロプロピルピラジン(6.16g、31.0mmol)、および三塩基性リン酸カリウム(8.76g、41.3mmol)の混合物をN
1,N
2−ジメチルエタン−1,2−ジアミン(1.819g、20.64mmol)およびヨウ化銅(I)(1.965g、10.32mmol)で処理し、95℃で16時間撹拌した。次に、この混合物を室温に冷却し、CH
2Cl
2(200ml)、水(150ml)およびMeOH中7N NH
3(10ml;銅不純物を除去するため)で希釈した。層を分離し、水層をCH
2Cl
2(2×50ml)で抽出した。合わせたCH
2Cl
2抽出液を水およびMeOH中7N NH
3の8:2混合物(3×50ml)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(0−10% メタノール/ジクロロメタン)により精製し、淡橙色固体を得た。この固体を60mlのEtOH中、50℃で30分間、次いで室温で一晩撹拌した後、濾取して白色固体を得た。この固体を40mlのMeCN中、50℃で30分間、次いで室温で1時間撹拌した後、濾取し、標題化合物(3.395g、7.26mmol、収率35.2%)を白色結晶性固体として得た。LCMS (m/z) 445.3 (M+H
+)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ ppm: 9.12 (d, J = 1.5 Hz, 1 H), 8.39 (s, 1 H), 8.37 (d, J = 1.5 Hz, 1 H), 8.32 (d, J = 1.2 Hz, 1 H), 7.81 (d, J = 8.4 Hz, 1 H), 7.56 (dd, J = 8.4, 1.2 Hz, 1 H), 4.66 (s, 1 H), 4.26 (d, J = 14.6 Hz, 1 H), 4.22 (d, J = 14.6 Hz, 1 H), 3.92 (d, J = 10.2 Hz, 1 H), 3.82 (d, J = 10.2 Hz, 1 H), 2.12 - 2.21 (m, 1 H), 1.78 - 2.04 (m, 4 H), 1.35 - 1.64 (m, 4 H), 0.96 - 1.02 (m, 2 H), 0.86 - 0.91 (m, 2 H)。
【0080】
例2−カプセル剤組成物
本発明を投与するための経口投与形は、標準的な2ピースゼラチン硬カプセルに成分を以下の表1に示される割合で充填することによって調製される。
【0081】
【表2】
【0082】
例3−注射用非経口組成物
本発明を投与するための注射用形態は、1.7重量%の1−(((5S,7R)−3−(5−シクロプロピルピラジン−2−イル)−7−ヒドロキシ−2−オキソ−1−オキサ−3−アザスピロ[4.5]デカン−7−イル)メチル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−カルボニトリル(化合物A)を水中10容量%のプロピレングリコール中で撹拌することによって製造される。
【0083】
例4 錠剤組成物
表2に示されるように、スクロース、硫酸カルシウム二水和物および化合物Aを混合し、10%ゼラチン溶液を用い、示された割合で造粒する。湿潤顆粒を篩に掛け、乾燥させ、デンプン、タルクおよびステアリン酸と混合し、篩に掛け、打錠する。
【0084】
【表3】
【0085】
本発明の好ましい実施形態は上記により例示されるが、本発明は本明細書に開示される厳密な説明に限定されず、以下の特許請求の範囲に入る総ての改変に権利が留保されると理解されるべきである。