特許第6970917号(P6970917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970917
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20211111BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20211111BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20211111BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20211111BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20211111BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20211111BHJP
   C01F 11/46 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C02F1/58 M
   C02F1/58 Q
   C02F1/62 C
   C02F1/62 E
   C02F1/62 Z
   C02F1/28 B
   C02F1/58 K
   C22B3/44 101A
   C02F1/70 A
   C22B3/46
   C01F11/46 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-250886(P2017-250886)
(22)【出願日】2017年12月27日
(65)【公開番号】特開2019-115884(P2019-115884A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2020年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】原口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−191119(JP,A)
【文献】 特開昭62−197192(JP,A)
【文献】 特開2005−270860(JP,A)
【文献】 特開2007−196177(JP,A)
【文献】 特開2000−117265(JP,A)
【文献】 特開2017−159222(JP,A)
【文献】 特開2017−047336(JP,A)
【文献】 中国特許第101830583(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28、52−64、70
C01F 1/00−17/00
C22B 1/00−61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素および重金属を含有し、該重金属として銅と共に亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含有する強酸性の硫酸性廃液から低フッ素量の石膏を回収して重金属を除去してする処理方法であって、上記廃水にアルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に銅を含む重金属還元澱物を生成させて分離するアルミニウム溶解工程、重金属還元澱物の分離後に、pH4以下の液性下でカルシウム化合物を添加して石膏を生成させて分離する石膏回収工程、石膏分離後に、第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を共沈させて分離する重金属共沈工程、重金属共沈澱物を分離した後に、アルカリを添加し、pH5.5〜9.5に調整して澱物量を抑制しつつアルミニウムおよびフッ素を含む澱物を生成させて分離するアルミニウムおよびフッ素除去工程、アルミニウムとフッ素の除去後に、さらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8に調整して、亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含む重金属水酸化物の中和澱物を生成させて分離する中和工程を有することを特徴とする廃液の処理方法。
【請求項2】
アルミニウムおよびフッ素除去工程において、液性をpH5.5〜7.0に調整して澱物量を抑制すると共にヒ素および亜鉛の澱物化を抑制してフッ素とアルミニウムを沈澱させる請求項1に記載する廃液の処理方法。
【請求項3】
フッ素および重金属を含有する強酸性廃液が非鉄金属製錬所の廃水である請求項1または請求項2に記載する廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、非鉄金属製錬所廃水のように、硫酸、フッ素、塩素に加えて、銅、ヒ素、および亜鉛などの重金属を含有する酸性廃水から、フッ素量の少ない石膏を回収し、さらに残液から該重金属を低コストで十分に除去する廃水の処理方法である。
【0002】
非鉄金属製錬所の廃水には硫酸、フッ素、塩素に加えて、銅、ヒ素、および亜鉛などの重金属が多く含まれており、この廃水を系外に放出には、排水規制に適合するよう、これらの重金属を十分に除去する必要がある。また、一般に該廃水は硫酸イオンを含む強酸性廃水であるのでカルシウム化合物を添加して中和処理されていることが多いが、この中和処理によって生じる石膏を回収して再利用することが期待されている。
【0003】
非鉄金属製錬所廃水などの処理方法として以下の方法が知られている。
(イ)銅製錬で発生する廃酸に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む1次スラリーと1次清澄液とに分離する1次硫化工程と、1次清澄液に中和剤を混合して硫酸を石膏とし、固液分離して石膏終液を得る石膏製造工程と、石膏終液に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む2次スラリーと2次清澄液とに分離する2次硫化工程とを備え、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返し、廃酸と混合する廃酸の処理方法(特許文献1:特許第6206287号公報)。
【0004】
(ロ)非鉄製錬において発生する排ガスから得た廃酸に、Caを含むアルカリ剤を加えて該廃酸を中和し、この中和処理で生じた石膏に含まれるフッ素を水または硫酸を用いて洗浄する廃酸石膏の製造方法(特許文献2:特開2017−105651号公報)。
(ハ)フッ素を含む廃硫酸に該廃硫酸に含まれるフッ素量の0.5倍以上のアルミニウムを添加した後にアルカリ剤でpH5.6以下に中和する廃硫酸の処理方法(特許文献3:特公昭53−34119号公報)。
(ニ)フッ素、セレン又はこれらの化合物のいずれか1種以上を含む廃水にアルミニウム塩を添加して凝集フロックを形成させた後に沈殿分離を行い、分離した上澄水に液体キレート剤を加えて反応させ、さらに該反応液にアルミニウム塩を添加して固形物を凝集させた後に固液分離する廃水の処理方法(特許文献4:特開9−192675号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6206287号公報
【特許文献2】特開2017−105651号公報
【特許文献3】特公昭59−34644号公報
【特許文献4】特開9−192675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の処理方法では、硫化剤によって溶存重金属を硫化物として沈殿除去しているが、非鉄金属製錬所廃水のように強酸性の溶液に硫化剤を添加すると有害な硫化水素ガスが発生するために危険であり、安全面に問題がある。また、揮散した硫化水素分の硫化剤は重金属の沈殿除去に寄与しないため反応効率が低い。さらに、この処理方法は、1次硫化工程で石膏を製造しているが、この硫化処理では廃水中のフッ素は除去されないため、多量のフッ素が石膏に混入する欠点がある。
【0007】
特許文献2の処理方法は、フッ素が混入した石膏を水もしくは硫酸で洗浄する方法であるが、この実施例では石膏10gに対して50mLの洗浄液を必要とし、洗浄液が大量の廃水として排出されてしまう。この廃水の増大は環境面および経済面の何れにおいても不利である。またフッ素量の多い石膏を洗浄するため、洗い漏らし、撹拌や洗浄不十分などの場合には、石膏からフッ素が十分に低減されない。洗浄を安定させるためには石膏への溶液の添加量を増やして固形分濃度を下げればよいが、そうするとやはり洗浄液や廃水量が多くなり、さらに新たなフッ素を含む洗浄水の廃水処理が必要になる。
【0008】
特許文献3の処理方法では、フッ素を含む廃硫酸にアルミニウムを添加してフッ素を液中にとどめ、これにカルシウム化合物を添加して石膏を生成させた後に固液分離しているが、石膏を分離した濾液には多量のアルミニウムとフッ素と重金属が溶存しており、液中のアルミニウムとフッ素と重金属の処理が問題になる。
【0009】
特許文献4の処理方法は、廃水にアルミニウム塩を添加して、pH6〜8に調整することによって、水酸化アルミニウムを析出させ、廃水中のSS成分である石膏、フッ化カルシウム(CaF)を上記水酸化アルミニウムのフロックに取り込ませると共にフッ素イオンの一部を該水酸化アルミニウムに吸着させて除去する方法であるが、澱物が石膏とフッ素含有沈殿物の混合物となってしまっているため澱物を資源として有効利用することが難しい。さらに、廃液に含まれる銅やヒ素を十分に除去することができない。
【0010】
本発明は、従来の処理方法における上記問題を解決したものであり、廃液に含まれるフッ素および重金属の除去効果に優れ処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した、廃液の処理方法である。
〔1〕フッ素および重金属を含有し、該重金属として銅と共に亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含有する強酸性の硫酸性廃液から低フッ素量の石膏を回収して重金属を除去してする処理方法であって、上記廃水にアルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に銅を含む重金属還元澱物を生成させて分離するアルミニウム溶解工程、重金属還元澱物の分離後に、pH4以下の液性下でカルシウム化合物を添加して石膏を生成させて分離する石膏回収工程、石膏分離後に、第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を共沈させて分離する重金属共沈工程、重金属共沈澱物を分離した後に、アルカリを添加し、pH5.5〜9.5に調整して澱物量を抑制しつつアルミニウムおよびフッ素を含む澱物を生成させて分離するアルミニウムおよびフッ素除去工程、アルミニウムとフッ素の除去後に、さらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8に調整して、亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含む重金属水酸化物の中和澱物を生成させて分離する中和工程を有することを特徴とする廃液の処理方法。
〔2〕アルミニウムおよびフッ素除去工程において、液性をpH5.5〜7.0に調整して澱物量を抑制すると共にヒ素および亜鉛の澱物化を抑制してフッ素とアルミニウムを沈澱させる上記[1]に記載する廃液の処理方法。
〔3〕フッ素および重金属を含有する強酸性廃液が非鉄金属製錬所の廃水である上記[1]または上記[2]に記載する廃液の処理方法。
【0012】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の処理方法を具体的に説明する。
本発明の処理方法は、フッ素および重金属を含有し、該重金属として銅と共に亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含有する強酸性の硫酸性廃液から低フッ素量の石膏を回収して重金属を除去してする処理方法であって、上記廃水にアルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に銅を含む重金属還元澱物を生成させて分離するアルミニウム溶解工程、重金属還元澱物の分離後に、pH4以下の液性下でカルシウム化合物を添加して石膏を生成させて分離する石膏回収工程、石膏分離後に、第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を共沈させて分離する重金属共沈工程、重金属共沈澱物を分離した後に、アルカリを添加し、pH5.5〜9.5に調整して澱物量を抑制しつつアルミニウムおよびフッ素を含む澱物を生成させて分離するアルミニウムおよびフッ素除去工程、アルミニウムとフッ素の除去後に、さらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8に調整して、亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含む重金属水酸化物の中和澱物を生成させて分離する中和工程を有することを特徴とする廃液の処理方法である。
本発明の処理方法の概略を図1の工程図に示す
【0013】
本発明の処理対象であるフッ素および重金属を含有する酸性廃液は、例えば、銅製錬など非鉄金属の硫化鉱物等を製錬する工程で発生する廃水である。一般に、非鉄製錬所の廃水は銅、ヒ素、および亜鉛などの重金属を含み、さらに硫酸およびフッ素を含有するpH0.8〜2.0の強酸性廃水である。
【0014】
〔アルミニウム溶解工程〕
本発明の処理方法は、フッ素および重金属を含有する酸性廃液に、アルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に重金属の還元澱物を生成させて分離するアルミニウム添加工程を有する。
【0015】
アルミニウムを溶解させることによって、液中にアルミニウムイオン(Al3+)が供給され、次式に示すように、このアルミニウムイオンが液中のフッ素イオン(F)と錯体化したフルオロアルミン酸イオン(AlF2+、AlF、AlF)を形成するので、フッ素が液中に安定に溶存するようになる。
【0016】
Al3+(aq)+F(aq)→AlF2+(aq)
AlF2+(aq)+F(aq)→AlF(aq)
AlF(aq)+F(aq)→AlF(aq)
【0017】
液中のフッ素イオンがアルミニウムイオンとフルオロアルミン酸イオンを形成して安定に溶存することによって、次工程でカルシウム化合物が添加されても、フッ化カルシウム(CaF)の生成が抑制され、生成した石膏にフッ化カルシウムが混入するのを避けることができ、フッ素量の少ない石膏を得ることができる。
【0018】
さらに、アルミニウムが溶解する際に、次式に示すように、還元反応を生じる。例えば、アルミニウムは銅よりもイオン化傾向が大きいので、アルミニウムの溶解によって液中の銅イオン(Cu2+)は還元されて析出し、あるいは還元した銅がヒ酸イオン(AsO3−)と反応してヒ化銅の沈殿を生じる。なお、亜鉛のイオン化傾向はアルミニウムに近いので、亜鉛の大部分は液中に溶存して残る。
【0019】
2Al(s)+3Cu2+(aq)→2Al3+(aq)+3Cu(s)
Al(s)+3Cu(s)+AsO3−(aq)+6H→Al3+(aq)+Cu3As(s)+6HO
【0020】
アルミニウムの溶解量は、液中のフッ素量に対して、モル比で、Al/F=0.4以上〜0.8以下の範囲が好ましい。アルミニウムの溶解量がAl/F=0.3モルではフッ素の錯イオン化が不十分であるので、石膏を生成させたときに石膏中のフッ素量が多くなり、Al/F=0.4モル以上であれば石膏中のフッ素量を大幅に低減することができる。具体的には、実施例1に示すように、Al/F=0.3モルでは石膏中のフッ素量が0.3質量%以上になる。一方、Al/F=0.4モルでは石膏中のフッ素量を0.2質量%以下にすることができる。
【0021】
アルミニウム溶解工程の液性はpH4.0以下が好ましい。実施例1に示すように、pH4.1以上になると、液中のヒ素が石膏に吸着してヒ素含有量が急激に多くなるので好ましくない。
【0022】
このように、廃液にアルミニウムを溶解させて還元反応を生じさせることによって液中の銅やヒ素を還元澱物として析出させ、固液分離して除去することができる。この還元反応は酸化還元電位が+400mV(vs.SHE)以下であれば良好に進行する。
【0023】
また、廃水に微細な重金属を含有する懸濁粒子等が存在している場合、これらの懸濁粒子等を還元澱物に取り込ませて凝集分離することができる。処理工程の初期に重金属を除去することによって、後段の澱物に重金属が混入するのを防止し、また後段処理における中和剤の添加量を従来プロセスよりも低減することができる。還元澱物の主成分は銅やヒ化銅であるので、これを回収して銅熔錬の原料として用いることができる。
【0024】
〔石膏回収工程〕
アルミニウムを溶解して生じた還元澱物を固液分離した濾液について、次式に示すように、カルシウム化合物を添加して石膏を生成させ、固液分離して石膏を回収する。石膏の生成によって液中の硫酸イオンが除去される。カルシウム化合物は炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、あるいはこれらを主成分として含む石灰類を用いることができる。
HSO(aq)+CaCO(s)+HO →CaSO・2HO(s)+CO(g)
【0025】
上記濾液に含まれるフッ素イオンはアルミニウムイオンと錯イオンを形成して安定に溶存しているので、炭酸カルシウム等を添加してもフッ化カルシウム(CaF)が生成し難く、石膏へのフッ素の混入を避けることができるので、フッ素含有量の少ない石膏を得ることができる。また、廃水中に微細な重金属を含有する懸濁粒子等が存在していたとしても前工程で凝集分離されているので、重金属含有量の少ない石膏を回収することができる。石膏の生成はpH4.0以下が好ましい。pH4.0を上回ると重金属類が水酸化物として沈殿したり、石膏に共沈してしまうため好ましくない。
【0026】
〔重金属共沈工程〕
石膏を分離した残液に第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を吸着させて共沈させる。石膏を分離した残液には、溶解させたアルミニウムと共にフッ素が多く残留している。この残液に水酸化カルシウムなどのアルカリを添加し、pH5.0以上の液性に調整してアルミニウムやフッ素を含む澱物を生成させて分離することができるが、液中にヒ素やモリブデンなどの重金属が大量に含まれていると、これらの重金属がアルミニウムやフッ素を含む澱物に過剰に混入して回収したフッ素の品位を大幅に低下させ、またこれらの重金属の分離回収も難しくなると云う問題がある。
【0027】
そこで本発明の処理方法は、アルミニウムとフッ素の除去に先立ち、液中からヒ素等の重金属を選択的に除去する重金属共沈工程を有する。石膏を分離した残液に塩化第二鉄などの第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄を沈澱させると、液中のヒ素やモリブデンなどの重金属は該水酸化第二鉄澱物に共沈するので、この澱物を固液分離してヒ素やモリブデンなどの重金属を除去することができる。また、この重金属共沈澱物にはとくにヒ素や鉄が高濃度に濃縮しているので、ヒ素化合物や鉄化合物の原料として利用することができる。
【0028】
石膏分離後の残液に亜鉛、カドミウム、ニッケルなどが溶存しているときは、これらの一部も上記水酸化第二鉄澱物に吸着されるので、該澱物と共に除去される。
【0029】
重金属共沈工程の液性はpH3.0〜4.0の範囲が好ましい。pH4.0を上回ると、ヒ素などの他にフッ素も沈澱し始めるので、ヒ素等を選択的に沈澱させることができなくなる。一方、pH3.0未満ではヒ素等の重金属除去が不十分である。
なお、石膏生成工程のpHは4.0以下が好ましく、第二鉄化合物を加えた場合は必然的にpHが低下するため、pHの低下が著しい場合は水酸化カルシウム等のアルカリを添加してpH3.0〜4.0の範囲に調整するとよい。
【0030】
〔アルミニウムおよびフッ素除去工程〕
重金属共沈物を固液分離した残液には、溶解させたアルミニウムや廃水に当初から含まれているフッ素、および重金属共沈物を分離した後にも残留するカドミウム,亜鉛などが溶存している。従来、このような液中の亜鉛やカドミウムなどを除去する方法として、水酸化カルシウムなどの中和剤を添加して液性をpH9.5〜pH11.8のアルカリ域にして、水酸化物澱物を生成させることが知られている。しかし、中和剤を添加して液性を一段でpH9.5〜pH11.8の範囲に調整すると、上記水酸化物の生成に加えて、次式に示すように、フリーデル氏塩〔Friedel’s salt:CaAl(OH)Cl・2HO〕、クゼル氏塩〔Kuzel’s salt :CaAl(OH)12Cl(SO)・5HO〕、エトリンガイト〔Ettringite:CaAl(OH)12(SO)・26HO〕などの層状複水酸化物が生成し、アルミニウムに加えて大量の塩素や水酸基、水和水を含む澱物が生じ、汚泥生成量が増大する。
【0031】
2Ca(OH)+Al3++2OH+Cl+2HO → CaAl(OH)Cl・2HO
4Ca(OH)+2Al3++4OH+Cl+SO2−+5HO → CaAl(OH)12Cl(SO)・5HO
6Ca(OH)+2Al3++Cl+3SO2−+26HO → CaAl(OH)12(SO)・26HO
【0032】
廃水処理汚泥は一般には熔錬工程に繰り返して処理されるか、または最終処分場に埋め立て処分される。含水率の高い廃水処理汚泥が多量に投入されると、熔錬工程では燃料使用量が増大し、埋立処分では埋立量の増大によって最終処分場の不足を招くので、汚泥生成量の増大は避ける必要がある。
【0033】
本発明の処理方法は、層状複水酸化物の生成を抑制して汚泥生成量の増大を回避するため、液性を一段でpH9.5〜pH11.8に調整するのではなく、これよりpHをやや低く、pH5.5〜9.5、好ましくはpH5.5〜6.5の範囲に調整してアルミニウムを選択的に澱物化する。pH5.5〜9.5の液性下では層状複水酸化物が生成し難く、一方、液中のアルミニウムの殆ど全てが水酸化物を生成して沈澱するので、上記pHに調整することによって汚泥生成量の過剰な増大を避けてアルミニウム澱物を生成させることができ、これを固液分離することによって効率よくアルミニウムを除去することができる。中和剤には,水酸化カルシウム,酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどを用いることができる。
【0034】
また、液中のフッ素は、中和剤としてカルシウム化合物を用いると、液中のフッ素と反応してフッ化カルシウム(CaF2)が生成し、フッ素化合物が形成されるので、アルミニウムと共にフッ素を液中から効率的に除去することができる。また生成したフッ化カルシウムは濾過性が良く、固液分離性を格段に改善することができる。なお、中和剤として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いたときに生成するフッ化ナトリウムやフッ化カリウムは溶解しやすいが、液中のフッ素イオンは水酸化アルミニウム澱物に吸着するので、アルミニウムと共にフッ素を液中から除去することができる。固液分離して回収したこれらの澱物の主な成分はアルミニウムやフッ素であるので、アルミニウム資源あるいはフッ素資源として利用することができる。
【0035】
アルミニウムおよびフッ素除去工程において、液中に残留するヒ素や亜鉛の共沈を抑制してアルミニウムおよびフッ素を選択的に澱物化するには、pH5.5〜7.0の範囲に調整するのが好ましい。例えば、液中のフッ素は水酸化カルシウムと反応してフッ化カルシウム澱物を生成し、pH4.0〜pH5.5の範囲で急激に液中のフッ素濃度が低下し、pH7付近でほぼ濃度ゼロになる。一方、液中のヒ素や亜鉛はpH4.0〜7.0の範囲ではフッ化カルシウム澱物に吸着されるので、液中の濃度は緩やかに低下するが、pH7.0を超えてアルカリ域になると、一部は水酸化物やカルシウム塩を形成し始めるので、液中の亜鉛濃度およびヒ素濃度の低下割合が次第に大きくなる。従って、亜鉛やヒ素の澱物生成を抑制してアルミニウムおよびフッ素の澱物化を進めるにはpH5.5〜7.0の範囲に制御するのが好ましい。このpH域で生成したアルミニウムおよびフッ素澱物は亜鉛やヒ素の混入が少ないので、アルミニウム資源やフッ素資源、例えばセメントの焼成原料として利用することができる。
【0036】
〔中和工程〕
アルミニウムおよびフッ素を含む澱物を分離した残液に亜鉛、カドミウム、ニッケルなどが残留しているときには、この残液にさらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8の範囲に調整して、水酸化亜鉛、水酸化カドミウム、水酸化ニッケルなどの重金属水酸化物の中和澱物を生成させ、これを固液分離して除去する。pH11.8を上回ると水酸化亜鉛が再溶解するので好ましくない。pH9.5〜11.8の範囲に調整することによって、液中に残留する亜鉛、カドミウム、ニッケルなどは水酸化物を生成して沈澱するので、この中和澱物を固液分離して除去することができる。
【0037】
上記一連の処理工程によって、フッ素量および重金属量の少ない石膏が回収され、廃水のフッ素量および重金属量は排水規制に適合するまで低減されるので、系外に放出することができる。なお、中和澱物除去工程の液性はpH9.5〜11.8であるので、放流するには、排水基準値のpH5.8以上〜8.6以下に適合させるため、酸を加えて逆中和すると良い。回収した石膏や澱物はセメント原料として有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の処理方法は、廃水にアルミニウムを溶解させることによって、フッ素の安定溶存と重金属澱物の生成が同時に進行するので、効率よく処理を進めることができ、フッ素を液中に安定に溶存させた状態で石膏を生成させるので、石膏にフッ素が混入せず、フッ素量の極めて少ない石膏を得ることができる。また、石膏を硫酸など大量の薬剤で洗浄する必要がない。このため排水量を削減することができる。さらに、本発明の処理方法は硫化剤を使用しないので硫化水素が発生せず、作業環境が安全である。
【0039】
本発明の処理方法は、石膏回収後に、ヒ素やモリブデンなどの重金属を水酸化第二鉄澱物に吸着させて分離するので、これらの除去効果が高く、除去操作の負担も少ない。
【0040】
本発明の処理方法では、アルミニウム除去の際に、液性を一段でpH9.5〜pH11.8に調整して水酸化物を生成させるのではなく、これよりpHがやや低いpH5.5〜9.5の範囲に調整してアルミニウムを選択的に澱物化するので、層状複水酸化物が生成せず、汚泥生成量が増大しない。従って、汚泥処理の負担が大幅に軽減される。具体的には、汚泥の熔錬処理では燃料使用量の増大を避けることができ、埋立処分では埋立量を抑制して最終処分場の延命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の処理方法の概略を示す工程図。
図2】実施例2のフッ素濃度とヒ素濃度の変化を示すグラフ。
図3】実施例3の澱物生成量とアルミニウム濃度の変化を示すグラフ。
図4】実施例4のフッ素濃度とヒ素濃度と亜鉛濃度の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。濃度はJIS K 0102:2013 工場排水試験方法に基づいて測定した。
【0043】
〔実施例1:アルミニウムの溶解〕
銅製錬所廃液(フッ素濃度2.9g/L 、ヒ素濃度6.2g/L、銅濃度1.5g/L 、pH1.1)1Lに金属アルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、純度99.5%以上、厚さ20μm、幅2mm、長さ4mm)を加えて30分撹拌した後に、生成した澱物を固液分離した。この濾液に炭酸カルシウムを加えて石膏を生成させ、固液分離して回収した石膏に含まれるフッ素、ヒ素、銅の各含有量を測定した。廃液に含まれるフッ素含有量に対するアルミニウムの添加量(Al/Fモル比)およびpHを変えて実施した結果を表1〜3に示す。
表1〜3に示すように、Al/Fモル比が0.3では、石膏中のフッ素含有量が0.3質量%以上であり、石膏のフッ素含有量が多い。一方、Al/Fモル比が0.4では、石膏中のフッ素量は0.2質量%以下であり、フッ素含有量が大幅に低減されている。ただし、pH4.1以上になると、石膏に混入するヒ素の量が急激に多くなる。従って、アルミニウムの溶解は、Al/Fモル比0.4以上、pH4以下が好ましい。この条件でアルミニウムを溶解させることによって、石膏に混入するフッ素含有量を低減することができ、さらに廃液中に含まれる重金属類が水酸化物として沈殿したり石膏に共沈しないため、ヒ素および銅を殆ど含まない石膏を得ることができる。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
〔実施例2:重金属共沈〕
実施例1と同様の銅製錬所廃液に、Al/Fモル比0.4、pH4の条件で金属アルミニウム粉を加えて澱物を生成させて固液分離し、この濾液に炭酸カルシウムを加えて石膏を生成させた。この石膏を固液分離した残液に、塩化第二鉄と水酸化カルシウムを添加して水酸化第二鉄澱物を生成させた。該澱物にヒ素を吸着させて固液分離した。
塩化第二鉄の添加量はFe=4000mg/Lで固定し、水酸化カルシウムを逐次添加してpHを調整した。各pHにおける溶液中の残留ヒ素濃度と残留フッ素濃度を図2示す。
図2に示すように、ヒ素はpH3.0以上において十分に共沈除去されていることが確認される。一方、pH4.0を超えると、フッ素濃度が急激に低下し、フッ素も共沈されることが分かる。この結果から、ヒ素などを選択的に除去するには、pH3.0〜4.0の範囲が最適であることが分かる。
【0048】
〔実施例3:澱物量の抑制〕
実施例2の水酸化第二鉄澱物を分離した残液(pH4.0)に、水酸化カルシウムを逐次添加してアルミニウム澱物とフッ素澱物(フッ化カルシウム)を生成させた。水酸化カルシウムの添加量に伴うpHの変化に対応した澱物生成量とアルミニウム濃度の変化を図3に示す。図3に示すように、pH5.5以上になるとアルミニウムのほぼ全量が澱物になることが確認できる。一方、pH7.0までは澱物量が増加し、pH9.5を超過すると、澱物の量が再び急激に増加する。これはフリーデル氏塩の生成によると考えられる。この結果から、澱物量を増大させずにアルミニウムを確実に澱物化するには、pH5.5〜9.5の範囲が適切であり、pH5.5〜7.0の範囲が好ましいことが分かる。
【0049】
〔実施例4:フッ素の選択的澱物化〕
実施例3と同様に、水酸化第二鉄澱物を分離した残液(pH4.0)に、水酸化カルシウムを逐次添加してアルミニウム澱物とフッ素澱物(フッ化カルシウム)を生成させた。水酸化カルシウムの添加量に伴うpHの変化に対応した液中の残留フッ素濃度と残留ヒ素濃度の変化を図4に示す。図4に示すように、液中のフッ素はpH4.0〜pH5.5の範囲で急激に濃度が低下し、pH5.5付近では約0.1g/Lに減少し、pH7付近でほぼ濃度ゼロになる。一方、液中のヒ素や亜鉛はpH4.0〜7.0の範囲では液中の濃度は緩やかに低下するが、pH7.0を超えてアルカリ域になると濃度低下の割合が次第に大きくなる。この結果から、亜鉛やヒ素の混入を避けてフッ素澱物を生成させるには、pH4.0〜7.0の範囲に制御するのが好ましい。
【0050】
〔実施例5〕
銅製錬所の廃水を用い、この原廃水をウォーターバスで40℃に加温し、モル比でF/Al=0.5、Al濃度として2.0g/Lになるように金属アルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、純度99.5%以上、厚さ20μm、幅2mm、長さ4mm)の裁断物を添加して30分撹拌した。撹拌後、添加した金属アルミニウムが全量溶解して黒色の還元澱物が析出沈殿したことを確認し、これを濾過して処理水Aと還元澱物を得た〔アルミニウム溶解工程〕。
この処理水Aをウォーターバスで55℃に加温して炭酸カルシウムを添加して2時間撹拌し、石膏を生成させた。2時間後のpHはpH2.10であった。石膏スラリーを濾過して石膏と処理水Bを回収し、石膏の表面を純水でよく洗浄した〔石膏回収工程〕。
石膏を分離した処理水Bをウォーターバスで40℃に加温し、第二鉄Fe(III)濃度が4.0g/Lになるように、塩化鉄(FeCl)を添加し、pH調整剤として水酸化カルシウムを添加して1時間撹拌して重金属を共沈させた。撹拌後のpHは3.91であった。重金属共沈スラリーを濾過して処理水Cと重金属共沈澱物を得た〔重金属共沈工程〕。
処理水Cをウォーターバスで40℃に加温し、pH調整剤として水酸化カルシウムを添加して1時間撹拌して澱物を生成させた。撹拌後のpHは6.0であった。生成した澱物を含むスラリーを濾過して処理水Dと澱物を回収した。この澱物の表面を純水でよく洗浄してアルミニウムフッ素澱物を得た。
処理水Cを常温下で、pH調整剤として水酸化カルシウムを添加して1時間撹拌し、中和澱物を生成させた。撹拌後のpHは11.81であった。この澱物を含むスラリーを濾過して中和処理水Eとアルカリ中和澱物を得た〔中和工程〕。
この結果を表4に示す。表4に示すように、回収した石膏中のフッ素は0.05質量%であり、格段に少ない。また、処理水Cに含まれるヒ素の量は少なく、重金属が共沈して分離されたことが確認された。さらに、処理水Dに含まれるアルミニウムとフッ素の量は大幅に少なく、アルミニウムおよびフッ素を澱物として有効に回収できる。また、中和工程後の処理水Eに含まれる重金属量は排水規制以下であり、排水処理の負担が少ない。また、澱物量(kg-dray/m)は還元澱物4.9kg、共沈澱物14.3kg、アルミニウムおよびフッ素澱物11.1kg、中和澱物2.4kg(合計27.8kg)であり、比較例1の澱物量より大幅に少ない。
【0051】
【表4】
【0052】
〔比較例1〕
実施例3と同じ組成の原廃水をウォーターバスで55℃に加温し、炭酸カルシウムを添加して2時間撹拌して石膏を生成させた。2時間撹拌後のpHはpH1.81であった。石膏を含むスラリーを濾過して、石膏と処理水B2を回収し、石膏の表面を純水でよく洗浄した〔石膏回収工程〕。次いで、処理水B2に常温下でpH調整剤として水酸化カルシウムを添加して1時間撹拌した。1時間後のpHは11.81であった〔中和工程〕。この中和処理で生じた澱物を含むスラリーを濾過して中和澱物(澱物量41.6kg)と処理水D2を回収した。回収した石膏に含まれるフッ素量は1.52質量%であり、実施例3で回収した石膏に含まれるフッ素量より格段に多く、澱物量も実施例3より多い。

図1
図2
図3
図4