【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した、廃液の処理方法である。
〔1〕フッ素および重金属を含有
し、該重金属として銅と共に亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含有する強酸性の硫酸性廃液から低フッ素量の石膏を回収して重金属を除去してする処理方法であって、上記廃水にアルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に
銅を含む重金属還元澱物を生成させて分離するアルミニウム溶解工程、重金属還元澱物の分離後に、pH4以下の液性下でカルシウム化合物を添加して石膏を生成させて分離する石膏回収工程、石膏分離後に、第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を共沈させて分離する重金属共沈工程、重金属共沈澱物を分離した後に、アルカリを添加し、pH5.5〜9.5に調整して澱物量を抑制しつつアルミニウムおよびフッ素を含む澱物を生成させて分離するアルミニウムおよびフッ素除去工程、アルミニウムとフッ素の除去後に、さらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8に調整して、
亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含む重金属水酸化物の中和澱物を生成させて分離する中和工程を有することを特徴とする廃液の処理方法。
〔2〕アルミニウムおよびフッ素除去工程において、液性をpH5.5〜7.0に調整して澱物量を抑制すると共にヒ素および亜鉛の澱物化を抑制してフッ素とアルミニウムを沈澱させる上記[1]に記載する廃液の処理方法。
〔3〕フッ素および重金属を含有する強酸性廃液が非鉄金属製錬所の廃水である上記[1]または上記[2]に記載する廃液の処理方法。
【0012】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の処理方法を具体的に説明する。
本発明の処理方法は、フッ素および重金属を含有
し、該重金属として銅と共に亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含有する強酸性の硫酸性廃液から低フッ素量の石膏を回収して重金属を除去してする処理方法であって、上記廃水にアルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に
銅を含む重金属還元澱物を生成させて分離するアルミニウム溶解工程、重金属還元澱物の分離後に、pH4以下の液性下でカルシウム化合物を添加して石膏を生成させて分離する石膏回収工程、石膏分離後に、第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を共沈させて分離する重金属共沈工程、重金属共沈澱物を分離した後に、アルカリを添加し、pH5.5〜9.5に調整して澱物量を抑制しつつアルミニウムおよびフッ素を含む澱物を生成させて分離するアルミニウムおよびフッ素除去工程、アルミニウムとフッ素の除去後に、さらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8に調整して、
亜鉛、カドミウム、ニッケルのいずれかを含む重金属水酸化物の中和澱物を生成させて分離する中和工程を有することを特徴とする廃液の処理方法である。
本発明の処理方法の概略を
図1の工程図に示す
【0013】
本発明の処理対象であるフッ素および重金属を含有する酸性廃液は、例えば、銅製錬など非鉄金属の硫化鉱物等を製錬する工程で発生する廃水である。一般に、非鉄製錬所の廃水は銅、ヒ素、および亜鉛などの重金属を含み、さらに硫酸およびフッ素を含有するpH0.8〜2.0の強酸性廃水である。
【0014】
〔アルミニウム溶解工程〕
本発明の処理方法は、フッ素および重金属を含有する酸性廃液に、アルミニウムを溶解して液中のフッ素をフルオロアルミン酸イオンにして安定に溶存させると共に重金属の還元澱物を生成させて分離するアルミニウム添加工程を有する。
【0015】
アルミニウムを溶解させることによって、液中にアルミニウムイオン(Al
3+)が供給され、次式に示すように、このアルミニウムイオンが液中のフッ素イオン(F
−)と錯体化したフルオロアルミン酸イオン(AlF
2+、AlF
2+、AlF
30)を形成するので、フッ素が液中に安定に溶存するようになる。
【0016】
Al
3+(aq)+F
−(aq)→AlF
2+(aq)
AlF
2+(aq)+F
−(aq)→AlF
2+(aq)
AlF
2+(aq)+F
−(aq)→AlF
30(aq)
【0017】
液中のフッ素イオンがアルミニウムイオンとフルオロアルミン酸イオンを形成して安定に溶存することによって、次工程でカルシウム化合物が添加されても、フッ化カルシウム(CaF
2)の生成が抑制され、生成した石膏にフッ化カルシウムが混入するのを避けることができ、フッ素量の少ない石膏を得ることができる。
【0018】
さらに、アルミニウムが溶解する際に、次式に示すように、還元反応を生じる。例えば、アルミニウムは銅よりもイオン化傾向が大きいので、アルミニウムの溶解によって液中の銅イオン(Cu
2+)は還元されて析出し、あるいは還元した銅がヒ酸イオン(AsO
33−)と反応してヒ化銅の沈殿を生じる。なお、亜鉛のイオン化傾向はアルミニウムに近いので、亜鉛の大部分は液中に溶存して残る。
【0019】
2Al(s)+3Cu
2+(aq)→2Al
3+(aq)+3Cu(s)
Al(s)+3Cu(s)+AsO
33−(aq)+6H
+→Al
3+(aq)+Cu
3As(s)+6H
2O
【0020】
アルミニウムの溶解量は、液中のフッ素量に対して、モル比で、Al/F=0.4以上〜0.8以下の範囲が好ましい。アルミニウムの溶解量がAl/F=0.3モルではフッ素の錯イオン化が不十分であるので、石膏を生成させたときに石膏中のフッ素量が多くなり、Al/F=0.4モル以上であれば石膏中のフッ素量を大幅に低減することができる。具体的には、実施例1に示すように、Al/F=0.3モルでは石膏中のフッ素量が0.3質量%以上になる。一方、Al/F=0.4モルでは石膏中のフッ素量を0.2質量%以下にすることができる。
【0021】
アルミニウム溶解工程の液性はpH4.0以下が好ましい。実施例1に示すように、pH4.1以上になると、液中のヒ素が石膏に吸着してヒ素含有量が急激に多くなるので好ましくない。
【0022】
このように、廃液にアルミニウムを溶解させて還元反応を生じさせることによって液中の銅やヒ素を還元澱物として析出させ、固液分離して除去することができる。この還元反応は酸化還元電位が+400mV(vs.SHE)以下であれば良好に進行する。
【0023】
また、廃水に微細な重金属を含有する懸濁粒子等が存在している場合、これらの懸濁粒子等を還元澱物に取り込ませて凝集分離することができる。処理工程の初期に重金属を除去することによって、後段の澱物に重金属が混入するのを防止し、また後段処理における中和剤の添加量を従来プロセスよりも低減することができる。還元澱物の主成分は銅やヒ化銅であるので、これを回収して銅熔錬の原料として用いることができる。
【0024】
〔石膏回収工程〕
アルミニウムを溶解して生じた還元澱物を固液分離した濾液について、次式に示すように、カルシウム化合物を添加して石膏を生成させ、固液分離して石膏を回収する。石膏の生成によって液中の硫酸イオンが除去される。カルシウム化合物は炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、あるいはこれらを主成分として含む石灰類を用いることができる。
H
2SO
4(aq)+CaCO
3(s)+H
2O →CaSO
4・2H
2O(s)+CO
2(g)
【0025】
上記濾液に含まれるフッ素イオンはアルミニウムイオンと錯イオンを形成して安定に溶存しているので、炭酸カルシウム等を添加してもフッ化カルシウム(CaF
2)が生成し難く、石膏へのフッ素の混入を避けることができるので、フッ素含有量の少ない石膏を得ることができる。また、廃水中に微細な重金属を含有する懸濁粒子等が存在していたとしても前工程で凝集分離されているので、重金属含有量の少ない石膏を回収することができる。石膏の生成はpH4.0以下が好ましい。pH4.0を上回ると重金属類が水酸化物として沈殿したり、石膏に共沈してしまうため好ましくない。
【0026】
〔重金属共沈工程〕
石膏を分離した残液に第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄澱物を生成させ、該澱物に液中の重金属を吸着させて共沈させる。石膏を分離した残液には、溶解させたアルミニウムと共にフッ素が多く残留している。この残液に水酸化カルシウムなどのアルカリを添加し、pH5.0以上の液性に調整してアルミニウムやフッ素を含む澱物を生成させて分離することができるが、液中にヒ素やモリブデンなどの重金属が大量に含まれていると、これらの重金属がアルミニウムやフッ素を含む澱物に過剰に混入して回収したフッ素の品位を大幅に低下させ、またこれらの重金属の分離回収も難しくなると云う問題がある。
【0027】
そこで本発明の処理方法は、アルミニウムとフッ素の除去に先立ち、液中からヒ素等の重金属を選択的に除去する重金属共沈工程を有する。石膏を分離した残液に塩化第二鉄などの第二鉄化合物を添加して水酸化第二鉄を沈澱させると、液中のヒ素やモリブデンなどの重金属は該水酸化第二鉄澱物に共沈するので、この澱物を固液分離してヒ素やモリブデンなどの重金属を除去することができる。また、この重金属共沈澱物にはとくにヒ素や鉄が高濃度に濃縮しているので、ヒ素化合物や鉄化合物の原料として利用することができる。
【0028】
石膏分離後の残液に亜鉛、カドミウム、ニッケルなどが溶存しているときは、これらの一部も上記水酸化第二鉄澱物に吸着されるので、該澱物と共に除去される。
【0029】
重金属共沈工程の液性はpH3.0〜4.0の範囲が好ましい。pH4.0を上回ると、ヒ素などの他にフッ素も沈澱し始めるので、ヒ素等を選択的に沈澱させることができなくなる。一方、pH3.0未満ではヒ素等の重金属除去が不十分である。
なお、石膏生成工程のpHは4.0以下が好ましく、第二鉄化合物を加えた場合は必然的にpHが低下するため、pHの低下が著しい場合は水酸化カルシウム等のアルカリを添加してpH3.0〜4.0の範囲に調整するとよい。
【0030】
〔アルミニウムおよびフッ素除去工程〕
重金属共沈物を固液分離した残液には、溶解させたアルミニウムや廃水に当初から含まれているフッ素、および重金属共沈物を分離した後にも残留するカドミウム,亜鉛などが溶存している。従来、このような液中の亜鉛やカドミウムなどを除去する方法として、水酸化カルシウムなどの中和剤を添加して液性をpH9.5〜pH11.8のアルカリ域にして、水酸化物澱物を生成させることが知られている。しかし、中和剤を添加して液性を一段でpH9.5〜pH11.8の範囲に調整すると、上記水酸化物の生成に加えて、次式に示すように、フリーデル氏塩〔Friedel’s salt:Ca
2Al(OH)
6Cl・2H
2O〕、クゼル氏塩〔Kuzel’s salt :Ca
4Al
2(OH)
12Cl(SO
4)・5H
2O〕、エトリンガイト〔Ettringite:Ca
6Al
2(OH)
12(SO
4)
3・26H
2O〕などの層状複水酸化物が生成し、アルミニウムに加えて大量の塩素や水酸基、水和水を含む澱物が生じ、汚泥生成量が増大する。
【0031】
2Ca(OH)
2+Al
3++2OH
−+Cl
−+2H
2O → Ca
2Al(OH)
6Cl・2H
2O
4Ca(OH)
2+2Al
3++4OH
−+Cl
−+SO
42−+5H
2O → Ca
4Al
2(OH)
12Cl(SO
4)・5H
2O
6Ca(OH)
2+2Al
3++Cl
−+3SO
42−+26H
2O → Ca
6Al
2(OH)
12(SO
4)
3・26H
2O
【0032】
廃水処理汚泥は一般には熔錬工程に繰り返して処理されるか、または最終処分場に埋め立て処分される。含水率の高い廃水処理汚泥が多量に投入されると、熔錬工程では燃料使用量が増大し、埋立処分では埋立量の増大によって最終処分場の不足を招くので、汚泥生成量の増大は避ける必要がある。
【0033】
本発明の処理方法は、層状複水酸化物の生成を抑制して汚泥生成量の増大を回避するため、液性を一段でpH9.5〜pH11.8に調整するのではなく、これよりpHをやや低く、pH5.5〜9.5、好ましくはpH5.5〜6.5の範囲に調整してアルミニウムを選択的に澱物化する。pH5.5〜9.5の液性下では層状複水酸化物が生成し難く、一方、液中のアルミニウムの殆ど全てが水酸化物を生成して沈澱するので、上記pHに調整することによって汚泥生成量の過剰な増大を避けてアルミニウム澱物を生成させることができ、これを固液分離することによって効率よくアルミニウムを除去することができる。中和剤には,水酸化カルシウム,酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどを用いることができる。
【0034】
また、液中のフッ素は、中和剤としてカルシウム化合物を用いると、液中のフッ素と反応してフッ化カルシウム(CaF2)が生成し、フッ素化合物が形成されるので、アルミニウムと共にフッ素を液中から効率的に除去することができる。また生成したフッ化カルシウムは濾過性が良く、固液分離性を格段に改善することができる。なお、中和剤として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いたときに生成するフッ化ナトリウムやフッ化カリウムは溶解しやすいが、液中のフッ素イオンは水酸化アルミニウム澱物に吸着するので、アルミニウムと共にフッ素を液中から除去することができる。固液分離して回収したこれらの澱物の主な成分はアルミニウムやフッ素であるので、アルミニウム資源あるいはフッ素資源として利用することができる。
【0035】
アルミニウムおよびフッ素除去工程において、液中に残留するヒ素や亜鉛の共沈を抑制してアルミニウムおよびフッ素を選択的に澱物化するには、pH5.5〜7.0の範囲に調整するのが好ましい。例えば、液中のフッ素は水酸化カルシウムと反応してフッ化カルシウム澱物を生成し、pH4.0〜pH5.5の範囲で急激に液中のフッ素濃度が低下し、pH7付近でほぼ濃度ゼロになる。一方、液中のヒ素や亜鉛はpH4.0〜7.0の範囲ではフッ化カルシウム澱物に吸着されるので、液中の濃度は緩やかに低下するが、pH7.0を超えてアルカリ域になると、一部は水酸化物やカルシウム塩を形成し始めるので、液中の亜鉛濃度およびヒ素濃度の低下割合が次第に大きくなる。従って、亜鉛やヒ素の澱物生成を抑制してアルミニウムおよびフッ素の澱物化を進めるにはpH5.5〜7.0の範囲に制御するのが好ましい。このpH域で生成したアルミニウムおよびフッ素澱物は亜鉛やヒ素の混入が少ないので、アルミニウム資源やフッ素資源、例えばセメントの焼成原料として利用することができる。
【0036】
〔中和工程〕
アルミニウムおよびフッ素を含む澱物を分離した残液に亜鉛、カドミウム、ニッケルなどが残留しているときには、この残液にさらにアルカリを添加してpH9.5〜11.8の範囲に調整して、水酸化亜鉛、水酸化カドミウム、水酸化ニッケルなどの重金属水酸化物の中和澱物を生成させ、これを固液分離して除去する。pH11.8を上回ると水酸化亜鉛が再溶解するので好ましくない。pH9.5〜11.8の範囲に調整することによって、液中に残留する亜鉛、カドミウム、ニッケルなどは水酸化物を生成して沈澱するので、この中和澱物を固液分離して除去することができる。
【0037】
上記一連の処理工程によって、フッ素量および重金属量の少ない石膏が回収され、廃水のフッ素量および重金属量は排水規制に適合するまで低減されるので、系外に放出することができる。なお、中和澱物除去工程の液性はpH9.5〜11.8であるので、放流するには、排水基準値のpH5.8以上〜8.6以下に適合させるため、酸を加えて逆中和すると良い。回収した石膏や澱物はセメント原料として有効に利用することができる。