(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
放射線治療では標的となる腫瘍細胞に対して放射線を照射することによって治療を行う。放射線を用いる治療の中ではX線が最も広く利用されているが、標的への線量集中性が高い陽子線や炭素線に代表される粒子線(荷電粒子ビーム)を利用した治療への需要が高まっている。
【0003】
放射線治療では、過度の照射や照射量の不足は腫瘍以外の正常組織への副作用や腫瘍の再発につながる可能性がある。そのため、粒子線治療装置においても、腫瘍領域に対してできるだけ正確に、かつできるだけ集中するように、指定した線量だけ放射線を照射することが求められる。
【0004】
粒子線治療では、線量を集中させる方法として、スキャニング法の利用が広がりつつある。これは細い粒子ビームを二組の走査電磁石により偏向させ、平面内の任意の位置に導くことで腫瘍内部を塗りつぶすように照射し、腫瘍領域にのみ高い線量を付与するという方法である。
【0005】
スキャニング法を実現するためには、実際の照射前に治療計画装置を用いて計画を作成する過程が極めて重要となる。治療計画装置は、CT画像等から得られる患者体内の情報を基に、患者体内での線量分布を数値計算によりシミュレートする装置である。操作者は治療計画装置の計算結果を参照しながら、粒子線を照射する方向やビームエネルギー,照射位置,照射量等の照射条件を決定する。以下に、その一般的な過程を述べる。
【0006】
操作者は、はじめに放射線を照射すべき標的領域を入力する。主としてCT画像を用い、画像の各スライスに標的となる領域を入力する。入力したデータは、操作者が治療計画装置に登録することで3次元の領域データとして治療計画装置上のメモリに保存される。必要があれば、重要臓器の位置も同様に入力し登録する。
【0007】
次に、操作者は、登録した各々の領域について目標とすべき線量値となる処方線量を設定する。設定は先に登録された標的領域、および重要臓器に対して行う。例えば、標的領域であれば腫瘍を壊死させるのに十分な線量が指定される。多くの場合、標的領域に照射されるべき線量値を指定する。一方、重要臓器に関しては、耐えうる最大の線量値として許容線量を定める。操作者に指定された線量分布を実現するためのビーム照射位置や照射量は、治療計画装置により決定される。通常は、初めに照射位置を決定し、その後、操作者の入力した線量分布条件を満たすように照射量を決定する。
【0008】
照射量を効率よく決定する方法として、非特許文献1に記載のように、関心領域(標的、危険臓器)内に配置した線量評価点iにおける線量d
iと処方線量pからのずれを数値化した目的関数F
d(式(1)参照)を用いる方法が広く採用されている。
【0009】
【数1】
【0010】
この目的関数は、線量制約の達成度を表す目的関数(線量制約項)であり、線量分布が処方線量を満たすほど小さな値となるように定義されている。これを最小にするようなスポット照射量を反復計算により探索することで、最適とされる照射量を算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
スキャニング法の利点を活かした治療法として、強度変調陽子線治療(IMPT:Intensity Modulated Proton Therapy)がある。このIMPTは、照射方向毎に不均一な線量分布を形成し、全照射方向からの線量分布を足し合わせることにより、線量を低く抑えるべき臓器(重要臓器)への照射を極力抑制しながら、腫瘍領域に所望の線量分布を形成することを可能とするものである。
【0014】
しかしながら、IMPTでは、複数の照射方向から不均一な線量分布を形成し足し合わせることで所望の線量分布を形成するため、治療時の不確かさの影響を受けやすいという課題を有している。
【0015】
具体的には、非特許文献2や非特許文献3に記載されているように、治療時の不確かさには、患者の位置決めの不確かさ(位置決め誤差)や、CT値を水等価厚に変換する際の不確かさ(飛程誤差)などの不確かさが存在する。これらの不確かさが生じた場合、重要臓器の線量増加や、照射位置付近に存在する骨等の高密度物質による標的の線量低下の発生により、患者体内での線量分布が悪化することが懸念される。
【0016】
従って、IMPTの治療計画を作成する場合には、所望の線量分布を満たしているかだけでなく、治療時の不確かさに対するプランのロバスト性も同時に考慮して治療計画を作成することが望まれる。
【0017】
治療時の不確かさの影響を治療計画作成時に考慮する方法として、目的関数に線量分布のロバスト性を表す項(以下、ロバスト項)を追加する方法が提案されている(非特許文献3参照)。この例として、ワーストケース最適化法が挙げられる。
【0018】
ワーストケース最適化法では、誤差の発生条件を予め仮定しておき、複数の誤差発生条件下での線量分布を計算し、誤差発生条件下での線量評価点iにおける線量値と処方線量pの乖離を計算し、その最大値の総和をロバスト項F
Rとして定義する。ロバスト項は次式(2)で定義される。
【0019】
【数2】
【0020】
ここで、d
icは誤差発生条件cでの線量評価点iの線量値を表し、wはロバスト項の重要度を表す。
【0021】
このロバスト項と式(1)の線量制約項を足し合わせた式を目的関数と設定し、目的関数が最小になるよう最適化することで治療時の不確かさの線量分布への影響を抑制した治療計画の作成が可能となる。また、ロバスト項の重要度wに大きな値を設定するほど、線量分布のロバスト性を重視した分布が導かれる。
【0022】
IMPTの治療計画を作成する場合、最適化計算に用いる目的関数の線量制約項とロバスト項の重み付けのバランスが重要となる。線量制約項を重視した場合、線量分布は処方した分布に近づくが、治療時の不確かさに弱い線量分布が導かれる可能性がある。従って、IMPTの治療計画を作成する場合、最適化計算の結果得られた照射スポットを用いて線量計算を実施し、複数の誤差発生条件において、DVH(Dose Volume Histogram)・線量分布を計算しロバスト性を評価する必要がある(特許文献1参照)。
【0023】
従来の治療計画装置の治療計画の作成フローを
図1に示す。
図1に示すように、開始後、操作者は、治療計画装置に対してロバスト項のウエイトを設定する(ステップS101)。次いで、照射量の最適化計算の実行を指示する(ステップS102)。その後、計算,表示された線量分布計算結果およびロバスト性を評価する(ステップS103)。次いで、ステップS103で評価された線量分布が目標通りか否かを判定する(ステップS104)。目標通りであると判定されたときは処理を終了し、目標通りでないと判定されたときはステップS101に処理を戻し、再度ロバスト項のウエイトの設定からやり直す。
【0024】
このように、従来の治療計画装置では、ロバスト性が所望の条件を満たしていなければ、試行錯誤的にロバスト項のウエイトを変更しては再度ロバスト性を評価し、適切な線量制約項とロバスト項のバランスを得るまで、これを繰り返す必要があった。そのため、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した治療計画を簡便に作成することが難しかった。
【0025】
本発明は、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した治療計画を従来より簡便に作成することができる治療計画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
【0027】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、放射線治療の治療計画を作成する治療計画装置であって、標的に照射される放射線の線量分布のロバスト性に関連するパラメータ
として、処方線量からのずれを数値化した目的関数中のロバスト項の重要度を変更・入力する入力部と、
前記入力部により指定された数だけ
前記パラメータを変化させて線量分布を予め演算
する演算部と、
前記演算部において指定された数だけ、前記パラメータを変化させて演算された線量分布を記憶する記憶部と、前記演算部で演算された前記DVHおよび前記DVHバンドを表示する表示部と、を備え
、前記演算部は、前記記憶部に記憶された前記入力部で入力されたパラメータが最も近い線量分布から入力されたパラメータでの線量分布を補間演算し、補間演算によって求めた線量分布からDVHおよび誤差が発生する条件下におけるDVHであるDVHバンドを演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した治療計画を従来より簡便に作成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の治療計画装置と、この治療計画装置を用いた治療計画の計画方法の実施例を、図面を用いて説明する。
【0031】
<実施例1>
本発明の治療計画装置およびこの治療計画装置を用いた治療計画の計画方法の実施例1を、
図2乃至
図11を用いて説明する。
図2に、本実施例の治療計画装置201の全体構成を示す。
【0032】
本実施例の治療計画装置201は、スキャニング照射法による粒子線治療の治療計画を立案する装置である。
図2に示すように、治療計画装置201は、入力装置(入力部)202と、表示装置(表示部)203と、メモリ204と、演算処理装置(演算部)205と、データ格納装置(記憶部)206と、通信装置207と、を備えている。治療計画装置201は、ネットワークを介してデータサーバ208と接続されている。具体的には、治療計画装置201内の通信装置207が、ネットワークを介してデータサーバ208に接続されており、通信装置207の制御に基づいてデータの授受を行う。
【0033】
入力装置202は、治療計画を作成する際に、操作者が各種情報や各種処理の実行,設定変更,終了を入力するための装置であり、例えばキーボードやマウスである。
【0034】
表示装置203は、治療計画を作成する際に必要な各種情報や各種処理の実行,設定変更,終了を入力する際に、操作者に情報などを提供するための表示装置である。
【0035】
メモリ204は、後述する演算処理装置205における各種の演算処理の際に用いる情報を一時的に記憶する記憶装置である。
【0036】
演算処理装置205は、最適化計算によりスポットの照射量を算出する主演算部205Aと、データ格納装置206に保存されたデータからDVHおよびそのときの不確かさ発生時のDVHであるDVHバンドを算出するDVHバンド算出部205Bとを含む。演算処理装置205は、入力装置202や表示装置203、メモリ204、データ格納装置206、通信装置207に接続されている。
【0037】
詳しくは後述するが、本実施例の演算処理装置205は、DVHバンド算出部205Bによって、ロバスト性に関連するパラメータ(本実施例では、処方線量からのずれを数値化した目的関数中のロバスト項の重要度)を変化させた線量分布からなるプラン候補データを指定された数だけ演算する。また、スライダーバー801B(
図8参照)上のスライダー801A(
図8参照)で指定されたパラメータが最も近いプラン候補データから、入力されたパラメータでの線量分布を補間により求める。そして補完により求めた線量分布からDVHおよび不確かさ発生時のDVHであるDVHバンドを演算して、表示装置203に出力する。
【0038】
また、演算処理装置205は、主演算部205Aによって、線量分布を演算する際に、補間によって間接的に求めたDVHに基づいて線量分布を演算する。
【0039】
また、演算処理装置205は、入力装置202が操作されてあるDVHバンドが選択されたときは、DVHバンド算出部205Bによって、そのDVHバンドの発生条件や、DVHとの差分値を表示装置203上に表示するよう演算処理および制御する。
【0040】
また、演算処理装置205は、DVHバンド算出部205Bによって、DVHの規格化処理を行う。例えば、最も誤差が発生したときのDVHハンドが選択されたときは、そのDVHバンドをDVHとして表示するよう規格化処理し、表示装置203上に表示するよう演算処理および制御を行う。
【0041】
データ格納装置206は、治療計画装置201内の各装置の処理に用いられる各種の情報を記憶する記憶装置である。本実施例のデータ格納装置206では、指定された数だけ演算処理装置205において演算されたデータ候補プランを記憶する。
【0042】
次に、
図3乃至
図11を参照して、本実施例に係る治療計画装置201を用いた治療計画の計画方法について治療計画装置201内の各装置の機能・動作を絡めて説明する。
【0043】
まず、治療計画を作成する場合の操作者の処理フローと治療計画装置201の処理フローを
図3および
図4を参照して以下説明する。治療計画を作成する場合の操作者の処理フローを
図3に示し、治療計画装置201の処理フローを
図4に示す。
【0044】
本実施例の治療計画装置201では、線量制約と線量分布のロバスト性のバランスを調整しながら治療計画を簡便に作成するため、治療計画作成の処理フローは、大きく3つのステップから構成される。
【0045】
一つ目のステップは、ロバスト項の重要度を変化させた複数のプラン候補のデータベースを作成するステップである。操作者がプラン候補データの作成を指示する(ステップS301)と、治療計画装置201はプラン候補データベースの作成を開始する(ステップS401)。
【0046】
ステップS401におけるプラン候補データの作成が完了すると、操作者は表示装置203に表示されたDVHやDVHバンドを確認しながら、ロバスト項と線量制約項のバランスを調整するステップへ移る。本ステップでは、治療計画装置201はデータベースに登録したプラン候補を基に、任意のロバスト項と線量制約項のバランスでのDVHおよびDVHバンドを算出し、表示装置に出力する(ステップS402)。
【0047】
操作者は、ステップS402で表示されたDVHおよびDVHバンドを確認しながら、操作者が所望するロバスト項と線量制約項のバランスを変更して(ステップS302)、DVHおよびDVHバンドは目標通りか否かを判定する(ステップS303)。目標通りであると判定したら処理をステップS304に進め、目標通りでないと判定したら処理をステップS301に戻す。ロバスト項と線量制約項のバランス決定後、操作者は最終的なプランの作成指示を出す(ステップS304)。
【0048】
最後のステップでは、治療計画装置201は、操作者が決定した線量分布、乃至ロバスト項の重要度に基づいて、最終的なプランとなる治療計画を作成する(ステップS403)。
【0049】
以下で、各ステップの処理の詳細を示す。
【0050】
まず初めに、上述のステップS301,S401のプラン候補データベースの作成フローの詳細について説明する。プラン候補データベースを作成するまでの操作者の手順の流れを
図5に、プラン候補データを作成する際の治療計画装置201の処理フローを
図6に示す。
【0051】
まず、操作者である医療従事者(技師や医師)は、治療計画を作成する患者の治療計画用CT画像に関するデータ(以下、CTデータ)を選択する(ステップS501)。選択されるCTデータは、ボクセルと呼ばれる小さな領域ごとにCT値が記録された3次元のデータである。治療計画装置201は、このCTデータを利用して治療計画を立案する。操作者は、入力装置202から患者情報(患者ID)を入力すると、治療計画装置201は患者IDに相当する患者の治療計画情報の作成を開始する。
【0052】
治療計画装置201では、まず、入力装置202は、入力された患者IDを演算処理装置205に出力する。演算処理装置205は、入力された患者IDに基づいて、データサーバ208から対象となる患者のCTデータを読み込む。すなわち、治療計画装置201は、通信装置207に接続されたネットワークを通じて、データサーバ208から患者IDに対応する患者のCTデータを受け取り、メモリ204に記憶させる。治療計画装置201は、受け取ったCTデータに基づいて治療計画用のCT画像を作成し、表示装置203に表示させる(ステップS601)。表示装置203は、患者の患部を含む領域を複数の層に分割した各スライス(各層)での画像を表示する。
【0053】
操作者は、表示装置203に表示されたCT画像を確認しながら、入力装置202を用いて、CT画像のスライス毎に、標的として指定すべき領域(標的領域)を入力する。この標的領域とは、例えば、操作者が患者のガン患部であると判断した領域を含む、粒子線を照射すべきと判断した領域である。
【0054】
全てのスライスに対する標的領域の入力が終了すると、操作者は入力装置202から入力終了信号を入力する(ステップS502)。治療計画装置201はこの入力終了信号を受け取ると、全てのスライスでの標的領域の情報を、メモリ204に記憶して登録する。メモリ204に登録される情報は、操作者が入力した標的領域を示す3次元の位置情報である。照射線量を極力抑えるべき重要臓器が標的領域の近傍に存在する場合や、他に評価や制御が必要となる領域がある場合、操作者は表示装置203に表示された画像情報に基づいて、これらの重要臓器等の位置情報も入力装置202から入力する。この重要臓器等の位置情報は、標的領域の情報と同様、メモリ204に記憶して登録される。
図7に、CTデータに基づいて生成された、患部を含む任意のスライス(層)701において、入力された標的領域702および重要臓器703等の領域を表示装置203の表示した一例を示す。
【0055】
次に、操作者は、照射方向を始めとした照射パラメータおよび処方線量を指定する(ステップS503)。複数方向からの照射を行う場合には、複数の角度を選択する。操作者は、これに加えて登録された各領域への処方線量を設定する。
【0056】
処方線量は、
図7に示すような標的領域702であれば、その領域内が受けるべき線量の最小値、最大値を入力することも多いが、ここでは標的領域702に照射すべき線量値を一つ指定する。一方、重要臓器703に対しては許容線量を設定することが多い。この例では、重要臓器703に許容線量を指定する。
【0057】
続いて、操作者はロバスト性を考慮するための治療計画立案上の不確かさの想定値を設定する(ステップS504)。本ステップで設定する治療計画立案上の不確かさには、CT画像のアーチファクトやCT値―水等加厚変換テーブルの誤差に起因する飛程誤差、患者を位置決めする際に生じるセットアップ誤差などが含まれる。操作者は入力装置202を用いて、想定される不確かさの大きさをmm単位もしくは%で入力する。以上のように設定した照射方向や処方線量、治療計画立案上の不確かさの想定値は、治療計画装置201のメモリ204に保存される(ステップS602)。
【0058】
処方線量登録後、操作者は作成するプラン候補データベースのプラン数を設定する(ステップS505)。ここで設定したプラン数に応じて、プラン候補データベースが作成される(ステップS603〜S607)。
【0059】
プラン数の設定後、操作者が計算指示を行う(ステップS506)と、治療計画装置201は、プラン候補データベースの作成を開始する。
【0060】
プラン候補データベースの作成を開始すると、まず、治療計画装置201のDVHバンド算出部205Bは、ロバスト項の重要度wを自動で設定し(ステップS603)、目的関数を設定する(ステップS604)。上述したように、ロバスト性を考慮するための目的関数は線量制約項(式(1))とロバスト項(式(2))の和で表される。
【0061】
次いで、治療計画装置201は、DVHバンド算出部205Bにおいて、作成するプラン候補ごとに、目的関数のロバスト項の重要度wを変化させて、照射量の最適化計算を実行する(ステップS605)。
【0062】
最適化計算終了後、DVHバンド算出部205Bは、最適化計算結果をプラン候補データとしてデータ格納装置206に保存する(ステップS606)。ここで保存されるデータには、ロバスト項の重要度、ロバスト項および線量制御項の目的関数値、スポット照射量、目的関数の計算に用いた線量評価点情報(線量値および座標値)が含まれる。また、線量ボクセルを保存データの中に含めたい場合は、最適化計算実施後算出されたスポット照射量に基づいて線量計算を実施する必要がある。
【0063】
次いで、治療計画装置201は、指定されたプラン候補データ数の演算が終了したか否かを判定し(ステップS607)、終了したと判定されたときは処理を終了し、終了していないと判定されたときは処理をステップS603に戻す。
【0064】
次に、DVHおよびDVHバンドが目標通りか否かを判定するステップS302、S303およびS402の詳細を説明する。
【0065】
ステップS402では、治療計画装置201のDVHバンド算出部205Bは、操作者が指示したロバスト項の重要度に従って変化するDVHと先のステップS504,S602で設定された不確かさの想定値に基づいてDVHバンド(誤差発生条件下で計算したDVH)とをステップS401で作成した候補プランデータベースを用いて算出し、表示装置203に表示する。表示装置203にDVH802A,802BおよびDVHバンド803A,803Bが表示された状態の一例を
図8に示す。
【0066】
図8に示す画面では、操作者が入力装置202を用いてスライダーバー801B上のスライダー801Aを操作することで、ロバスト項の重要度の設定値を変化させることが出来る。それに伴って表示される標的のDVH802AおよびDVHバンド803Aや、危険臓器(OAR:Organ At Risk)のDVH802BおよびDVHバンド803Bが変化する。従って、操作者はDVH802A,802BおよびDVHバンド803A,803Bの変化を見ながら、スライダーバー801B上のスライダー801Aを操作することで、適切なロバスト項と線量制約項のバランスを簡便に決定することが可能となる。
【0067】
本実施例では、治療計画装置201が、スライダーバー801B上のスライダー801Aで指定されたロバスト項の重要度に対する、DVHおよびDVHバンドを算出、表示するための流れを
図9に示すフローを用いて以下説明する。
図9にフロー図を示す。
【0068】
操作者がスライダー801Aを移動させて任意のロバスト項の重要度を指定した場合、治療計画装置201のDVHバンド算出部205Bは、まず指定値近傍のロバスト項の重要度を持つプラン候補を、データ格納装置206に格納されているプラン候補データ群から探索し、メモリ204に記憶する(ステップS901)。
【0069】
続いて、治療計画装置201のDVHバンド算出部205Bは、DVHバンドを算出する。DVHバンドを算出する方法として、プラン候補データとして保存されている線量ボクセルデータを用いる方法と、関心領域内に配置された線量評価点の線量値データを用いる方法とがある。本実施例では、関心領域内に配置した線量評価点の線量値データを元にDVHバンドを算出する場合を例として説明する。
【0070】
まず、治療計画装置201のDVHバンド算出部205Bは、ステップS901で探索したプラン候補データから、関心領域内に配置された線量評価点の線量値データおよび、線量制約項とロバスト制約項の目的関数値を呼び出す(ステップS902)。
【0071】
次いで、呼び出したプラン候補と操作者が設定したロバスト項の重要度との目的関数空間上の距離を用いて、各線量評価点での線量値データを補間することで、設定された任意のロバスト項の重要度に対する線量評価点での線量値データ(補間線量値データ)を取得する(ステップS903)。
【0072】
次いて、線量評価点を関心領域毎に分別し、関心領域に所属している線量評価点の補間線量値データからヒストグラムを作成し、このヒストグラムを高線量側から累積することでDVHを作成する。この処理を全ての誤差発生条件に対して実行することで、DVHバンドを作成する(ステップS904)。
【0073】
DVHバンドを作成した後は、作成したDVHおよびDVHバンドを表示装置203に表示する(ステップS905)。ここで、表示するDVHバンドは、誤差発生条件毎に計算したDVHを全て表示しても良いし、全ての誤差発生条件で計算したDVHの各線量値の最大体積値と最小体積値を抽出し作成した2本の線(DVH)を表示しても良い。
【0074】
また、
図11に示すように、本実施例の治療計画装置201では、演算処理装置205のDVHバンド算出部205Bによって、入力装置202を用いてDVHバンド803A,803B上にポインタ1101を移動させることで、各計算条件に対応した誤差発生条件や、指定された誤差発生条件と誤差無しの条件とのDVHの差分値をダイアログ1102上に表示させることが可能となる。
図11に各DVHバンドに対応したダイアログを表示した状態を示す。
【0075】
また、操作者がロバスト項の重要度の調整だけで、納得いくDVH802A,802Bが得られない場合は、規格化処理によりDVH802A,802Bを再スケールする。更に、この再スケールでは、DVHバンド(誤差発生時のDVH)をDVHとして用いることが可能である。
【0076】
このような規格化処理を実施する場合、操作者は、入力装置202を用いて、
図8や
図11中の規格化情報設定部804で対象とするDVH(誤差無しのDVHもしくはワーストケースのDVH)を選択し、規格化方法(D
95を処方線量の何%にするか等)を選択する。ここで、ワーストケースのDVHが選択された場合、治療計画装置201のDVHバンド算出部205Bは、規格化条件から最も離れている誤差発生条件下でのDVHをDVHバンドの中から探索する。例えば、
図8に表示されている標的のDVHバンドに対して「D
95を処方線量の95%にする」との規格化条件を設定した場合、DVHのスケール量を算出するDVHとして、DVHバンド下端のDVHを選択する。そして、選択したDVHを用いてスケール量を算出し、DVH、DVHバンドおよび線量分布を再スケールし、表示装置203上に表示する。
【0077】
次に、上述のステップS304,S403における最終的な治療計画の作成フローの詳細について説明する。
【0078】
まず、操作者が入力装置202によりロバスト項と線量制約項のバランスを決定した後、治療計画装置201はDVH計算に用いた線量評価点データをメモリ204に保存する。データ保存後、最終的な治療計画を作成するステップS403に移行する。
【0079】
ステップS402の処理によって表示されるDVHやDVHバンドは、データ格納装置206に保存されたプラン候補データベースの線量分布データから補間により算出されたものであり、各スポットの照射量が実際に算出されているわけではない。このため、実際に照射量を算出するステップS403の処理を行うことが望ましい。
【0080】
そこで、操作者が最終計算の実行を指示すると、治療計画装置201の演算処理装置205の主演算部205Aは、表示装置203上に表示されているDVHおよびDVHバンドを実現するスポットの照射量を最適化計算により算出する。
【0081】
スポット照射量を算出するための目的関数の定義方法は、ステップS402のDVHバンドを計算する際に用いた、線量評価点iでの線量値を用いて、目的関数を新たに定義する方法である。
図10に処理フローを示す。
【0082】
まず、主演算部205Aは、メモリ204に保存されている補間線量値データを呼び出し(ステップS1001)、呼び出された線量値を各線量評価点での目標線量として設定する(ステップS1002)。
【0083】
続いて、主演算部205Aは、最適化計算に使用する目的関数を設定する(ステップS1003)。ロバスト性を考慮して最適化された線量分布では、照射方向毎の線量分布には、危険臓器の手前に高線量域を形成しない点や線量分布の勾配が緩やかである点等の特徴を持つ。そのため、照射方向毎の分布の特徴を失わないよう、次式(3)で目的関数を定義する。
【0085】
ここで、P
iは線量評価点iの補間線量値を表わし、d
i,fおよびP
i,fは照射方向fにおける線量評価点iの線量値と補間線量値を表わす。
【0086】
主演算部205Aは、この式(3)を目的関数として最適化計算を実施する(ステップS1004)。これにより、各線量評価点の線量を補間線量値に近付けることが出来、ステップS402で操作者が所望した線量分布を得るためのスポット照射量を算出することが出来る。
【0087】
最適化計算によりスポット照射量が定まると、主演算部205Aは、最終的に得られたスポット位置と各スポットへの照射量を用いて、線量分布を計算する(ステップS1005)。計算結果は、表示装置203に表示される(ステップS1006)。操作者は、指定した線量が標的領域に過不足なく与えられているのかを表示装置203上で確認することが出来る。
【0088】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0089】
上述したように、強度変調陽子線治療の治療計画を作成する場合は、治療計画立案時の不確かさへの線量分布のロバスト性と、処方として設定した線量制約の達成度のバランスが重要となる。ここで、従来は、ロバスト性が所望の条件を満たしていなければ、試行錯誤的にロバスト項の重要度を変更しては再度ロバスト性を評価していた。このため、適切な線量制約の達成度とロバスト性のバランスを得るまで繰り返し線量分布の演算を行う必要があり、ロバスト性を考慮した治療計画の作成が容易でなかった。
【0090】
これに対し、上述した本発明の実施例1の陽子線治療の治療計画を作成する治療計画装置201では、ロバスト項の重要度wを変化させて最適化計算を実施し、得られた線量分布を求めておく。操作者がロバスト項の重要度wを変更・設定すると、設定されたロバスト項の重要度wに最も近いパラメータを用いて計算した線量分布を探索し、設定された重要度wにおける線量分布を補間により求める。その上で、求めた線量分布からDVH802A,802BおよびDVHバンド803A,803Bを求め、表示装置203上に表示するものである。
【0091】
これにより、操作者は、ロバスト項の重要度wを変更しながらDVH802A,802BやDVHバンド803A,803Bを確認することができる。また予め求めた線量分布等から補間演算により速やかに新たに選択したロバスト項の重要度wにおける802A,802BやDVHバンド803A,803Bが表示されるため、適切な線量制約の達成度とロバスト性のバランスを得る際の試行錯誤が従来に比べて非常に容易になり、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した治療計画の作成が従来に比べて容易となる。
【0092】
また、演算処理装置205は、補間演算されたDVH802A,802Bに基づいて線量分布を演算することで、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した状態で、より高い精度での線量分布の算出が可能となる。
【0093】
更に、表示装置203は、選択されたDVHバンド803A,803Bの発生条件をダイアログ1102上に表示することにより、表示された情報を操作者が確認することで、線量分布が悪化し易い誤差発生条件を確認することが可能となる。これにより、悪化し易い条件が飛程誤差の影響かセットアップエラーによる影響か確認することが出来るため、これをプラン決定時の判断および治療時の対応に取り入れることが可能となり、ロバスト性がより考慮された治療計画の作成が可能となる。例えば、セットアップエラーで治療計画の線量分布が悪化し易い計画が作成された場合は、治療時に、対応するセットアップエラーの方向の位置決めを慎重に実施する等の対応を取ることが可能となる。
【0094】
また、演算処理装置205は、操作者の指示に基づいてDVH802A,802Bを規格化処理し、表示装置203は、規格化処理されたDVH802A,802Bとその時のDVHバンド803A,803Bとを表示することで、操作者が納得のいくDVH802A,802Bとその時のDVHバンド803A,803Bをより容易に得ることが可能となる。
【0095】
更に、演算処理装置205は、DVHバンド803A,803BをDVH802A,802Bとする規格化処理を行うことにより、より容易に操作者が納得のいくDVH802A,802Bやその時のDVHバンド803A,803Bを得ることができる。
【0096】
また、演算処理装置205において指定された数だけ演算された、ロバスト項の重要度wを変化させた線量分布を記憶するデータ格納装置206を更に備えたことで、補間演算の処理速度の向上を図ることができ、速やかな治療計画の作成に寄与することができる。
【0097】
更に、表示装置203には、ロバスト項の重要度wを調整するためのスライダーバー801Bが表示され、入力装置202を操作してスライダーバー801B上のスライダー801を移動させることでロバスト項の重要度wの変更・入力を行うことにより、操作者が直感的にロバスト項の重要度wを変更,入力することができ、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した治療計画をより簡便に作成することができる。
【0098】
また、上述した本発明の実施例1の陽子線治療の治療計画を作成する治療計画装置201では、表示装置203表示されたロバスト項の重要度wを調整するためのスライダーバー801B上のスライダー801を移動させることでロバスト項の重要度wの変更・入力を行い、設定された重要度wにおける線量分布を求めて、求めた線量分布からDVH802A,802BおよびDVHバンド803A,803Bを求め、表示装置203上に表示する。
【0099】
これにより、操作者は、直感的にロバスト項の重要度wを変更しながらDVH802A,802BやDVHバンド803A,803Bを確認することができ、同様に、適切な線量制約の達成度とロバスト性のバランスを得る際の試行錯誤が従来に比べて非常に容易になり、治療時の不確かさに対するロバスト性を考慮した治療計画の作成が従来に比べて容易になる。
【0100】
<実施例2>
本発明の実施例2の治療計画装置およびこの治療計画装置を用いた治療計画の計画方法を
図12を用いて説明する。
図2乃至
図11と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。
【0101】
本実施例の治療計画装置は、表示装置203上に規格化情報設定部804が表示されず、演算処理装置205の規格化処理の機能が省略されたものである。
【0102】
本実施例の主演算部205Aでは、スポット照射量を算出するための目的関数の定義方法として二つの方法がある。
【0103】
一つ目の方法は、ステップS402のDVHバンドを計算する際に用いた、線量評価点iでの線量値を用いて目的関数を新たに定義する、実施例1で説明した方法である。
【0104】
二つ目の方法は、式(2)を用いる方法である。この式(2)を用いる方法の場合、ステップS402でDVHバンドを表示する際に用いたプラン候補のウエイトと目的関数値から、ロバスト項のウエイトの値を推測する必要がある。
【0105】
その他の構成・動作は前述した実施例1の治療計画装置およびこの治療計画装置を用いた治療計画の計画方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0106】
本発明の実施例2の治療計画装置およびこの治療計画装置を用いた治療計画の計画方法においても、前述した実施例1の治療計画装置とほぼ同様な効果が得られる。
【0107】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0108】
例えば、上述の実施例1,2では、治療計画装置を強度変調陽子線治療に適応した例を説明したが、本発明は、ロバスト性を考慮した治療計画を作成することが必要な、強度変調放射線治療(X線治療、および炭素イオン等の重粒子線を用いる粒子線治療)に対しても好適に適用することができる。また、強度を偏重させない粒子線やX線による治療システムによる治療計画の作成にも本発明の治療計画装置は適用することができる。
【0109】
また、ロバスト性に関連するパラメータとして、上述の実施例では、処方線量からのずれを数値化した目的関数中のロバスト項の重要度を用いる場合について説明したが、ロバスト性に関連するパラメータには、ロバスト項の重要度の他に、ロバスト項の目的関数値などがある。
【0110】
更に、スキャニング照射法には、ある照射位置(スポット)に規定量のビームを照射後、一度ビームを停止し、次の照射すべき照射位置に移動した後に再び照射を開始するスポットスキャニング方式と、照射位置の移動中にもビームの照射を停止しないラスター方式とがある。上述の実施例では、スポットスキャニング方式を前提として説明したが、本発明の治療計画装置は、ラスター方式や他の照射方式を用いる治療の治療計画を作成する場合にも適応可能である。