特許第6971076号(P6971076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971076
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20211111BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20211111BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20211111BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20211111BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20211111BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20211111BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20211111BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B60W20/10ZHV
   B60K6/48
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60K6/547
   F02D29/02 321B
   B60L50/16
   B60L15/20 J
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-145082(P2017-145082)
(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公開番号】特開2019-25986(P2019-25986A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】特許業務法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 啓
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 剛史
(72)【発明者】
【氏名】芦田 耕一
【審査官】 今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−094978(JP,A)
【文献】 特開平11−093729(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/192151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、駆動用モータと、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達すると共に前記駆動用モータの駆動力を前記駆動輪に伝達する駆動力伝達手段と、
走行状態に応じて前記駆動力伝達手段により前記エンジンの駆動力割合と前記駆動用モータの駆動力割合を制御する駆動力制御部、
とを具えたハイブリッド車両において、
前記エンジンの停止運転領域と空燃比がリーンとなるリーン燃焼運転領域と空燃比がストイキ近傍となるストイキ燃焼運転領域に切換可能な運転領域切換手段を設け、
該運転領域切換手段が、要求駆動力に対応して前記エンジンの運転領域を停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを判断したときに、
前記駆動力制御部は、前記エンジンが停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを禁止するとともに、前記エンジンの駆動力と前記駆動用モータの駆動力とを合わせたトータル駆動力が要求駆動力となるように前記駆動用モータの駆動力割合を増減
前記運転領域切換手段が、要求駆動力に対応して前記エンジンの運転領域をリーン燃焼運転領域への切換えを判断したときに、
前記駆動力制御部は、前記駆動用モータによる駆動力を停止するとともに、前記エンジンの運転領域をリーン燃焼運転領域で始動する、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
エンジンと、駆動用モータと、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達すると共に前記駆動用モータの駆動力を前記駆動輪に伝達する駆動力伝達手段と、
走行状態に応じて前記駆動力伝達手段により前記エンジンの駆動力割合と前記駆動用モータの駆動力割合を制御する駆動力制御部、
とを具えたハイブリッド車両において、
前記エンジンの停止運転領域と空燃比がリーンとなるリーン燃焼運転領域と空燃比がストイキ近傍となるストイキ燃焼運転領域に切換可能な運転領域切換手段を設け、
該運転領域切換手段が、要求駆動力に対応して前記エンジンの運転領域を停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを判断したときに、
前記駆動力制御部は、前記エンジンが停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを禁止するとともに、前記エンジンの駆動力と前記駆動用モータの駆動力とを合わせたトータル駆動力が要求駆動力となるように前記駆動用モータの駆動力割合を増減し、
前記運転領域切換手段が、要求駆動力に対応して前記エンジンの運転領域をリーン燃焼運転領域への切換えを判断したときに、
前記駆動力制御部は、前記駆動用モータによる負の駆動力を増加するとともに、前記エンジンの運転領域をリーン燃焼運転領域で始動する、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電気モータとを動力源として走行可能なハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンがリーン運転領域からストイキ運転領域へ移行するときに、移行時のショックを抑制するために、駆動用モータによりトルクアシストするかエンジン負荷を増加するために発電する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−068802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンのリーン運転領域からストイキ運転領域へ移行するときのショックの抑制はできるが、ストイキ運転領域への移行時にリッチスパイク燃料が必要となり、燃費が悪化するという問題があった。
本発明の目的は、エンジンの停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域へ移行するときのショックを抑制するとともに、燃費を向上するハイブリッド車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両においては、エンジンと、駆動用モータと、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達すると共に前記駆動用モータの駆動力を前記駆動輪に伝達する駆動力伝達手段と、走行状態に応じて前記駆動力伝達手段により前記エンジンの駆動力割合と前記駆動用モータの駆動力割合を制御する駆動力制御部、とを具えたハイブリッド車両において、前記エンジンの停止運転領域と空燃比がリーンとなるリーン燃焼運転領域と空燃比がストイキ近傍となるストイキ燃焼運転領域に切換可能な運転領域切換手段を設け、該運転領域切換手段が、要求駆動力に対応して前記エンジンの運転領域を停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを判断したときに、前記駆動力制御部は、前記エンジンが停止運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを禁止するとともに、前記エンジンの駆動力と前記駆動用モータの駆動力とを合わせたトータル駆動力が要求駆動力となるように前記駆動用モータの駆動力割合を増減前記運転領域切換手段が、要求駆動力に対応して前記エンジンの運転領域をリーン燃焼運転領域への切換えを判断したときに、前記駆動力制御部は、前記駆動用モータによる駆動力を停止するとともに、前記エンジンの運転領域をリーン燃焼運転領域で始動することとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、エンジンの停止運転領域であるFC運転領域あるいはリーン燃焼運転領域からストイキ燃焼運転領域へ移行するときのショックを抑制するとともに、燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
図3図2のドライバ要求トルク演算部にてドライバ要求トルク演算に用いられるドライバ要求トルクマップの一例を示す図である。
図4図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられる通常モードマップを示す図である。
図5図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
図6】実施例1が適用されるエンジンの運転領域特性図である。
図7】実施例1のエンジンおよび駆動用モータの駆動力制御処理を表すタイムチャートである。
図8】比較例のエンジンおよび駆動用モータの駆動力制御処理を表すタイムチャートである。
図9】実施例2のエンジンおよび駆動用モータの駆動力制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
図1は、実施例1の後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、内燃機関であるエンジンEと、第1クラッチCL1と、駆動用モータとして機能するモータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、駆動力伝達手段として機能する自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0009】
エンジンEは、ガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、図示しないスロットルバルブのバルブ開度等が制御される。エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。また、エンジンEは、モータSSGを有する。このモータSSGは、ベルトを用いてエンジンEのクランクシャフトと接続され、エンジン始動用のスタータモータとして機能し、かつ、必要に応じて発電するオルタネータとして動作する。
第1クラッチCL1は、エンジンEと駆動用モータとしてのモータジェネレータMGとの間に介装され、ダイヤフラムスプリング等の付勢力によって常時締結可能な乾式クラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップしながらトルク伝達を行うスリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0010】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、AT油圧コントロールユニット8により作り出された制御油圧により、スリップしながらトルク伝達を行うスリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0011】
自動変速機ATは、前進7速後退1速等の有段階の変速比を車速VSPやアクセル開度(運転者のアクセルペダル操作)APO等に応じて自動的に切り替える変速機である。第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。なお、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる多板クラッチを用いている。
【0012】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。
【0013】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0014】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、AT油圧コントロールユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、SSGコントローラSSGCUと、を有する。エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、SSGコントローラSSGCUとは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0015】
エンジンコントローラ1は、要求駆動力に基づく統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令に基づき、停止運転領域であるFC運転領域と空燃比がリーンとなるリーン燃焼運転領域と空燃比がストイキ近傍となるストイキ燃焼運転領域に切換る運転領域切換手段1aを備えている。
また、エンジンコントローラ1は、気筒判別センサ32からの判別気筒、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図示しないスロットルバルブのスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータへ出力する。アクセル開度APO、エンジン回転数Ne、現在の運転領域、切換目標運転領域、判別気筒等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
SSGコントローラSSGCUは、統合コントローラ10からの指令信号に基づいてモータSSGをスタータモータ機能及びオルタネータ機能として動作させる指令を出力する。
【0016】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点を制御する指令をインバータ3へ出力する。このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視する。監視されたバッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0017】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報、及び統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令を入力し、第1クラッチ油圧ユニット6に第1クラッチCL1の締結・開放制御指令を出力する。第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0018】
ATコントローラ7は、アクセルペダル開度センサ16、車速センサ17、第2クラッチ油圧センサ18、セレクトレバー27の操作位置に応じたレンジ信号を出力するインヒビタスイッチ28の各種センサ信号と、統合コントローラ10からの制御指令とを入力し、AT油圧コントロールユニット8に制御指令を出力する。アクセル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチ信号は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。また、インヒビタスイッチ信号はコンビネーションメータ(不図示)内に設けられたメータ内表示器29に送られ、現在のレンジ位置が表示される。
【0019】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力する。そして、ブレーキ踏み込み制動時、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力の不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補う回生協調ブレーキ制御を行う。
【0020】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるためのコントローラであり、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ25と、前後加速度を検出するGセンサ26と、第1クラッチ温度センサ30と、インバータ温度センサ31と、CAN通信線11を介して得られた情報が入力される。
【0021】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令による駆動用モータであるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、SSGコントローラSSGCUへの制御指令によるスタータモータ機能もしくはオルタネータ機能を発揮させるモータ制御と、を行う。
【0022】
図2は、実施例1の統合コントローラ10内の制御構成を表す制御ブロック図である。統合コントローラ10は、例えば10msecの制御周期で各種演算を実行する。統合コントローラ10は、ドライバ要求トルク演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、駆動力制御部10aを備える動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0023】
ドライバ要求トルク演算部100では、図3に示すドライバ要求トルクマップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、要求駆動力であるドライバ要求トルクTddを演算する。
【0024】
次に、モードマップについて説明する。図4は実施例1の通常モードマップである。通常モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。このモードマップは、アクセルペダル開度APOと車速VSPによって定まる運転点の位置に応じたモードを目標モードとして出力する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下、もしくは他のアイドリングストップ禁止要求がある場合は、強制的に「HEV走行モード」を目標モードとする。
【0025】
図4の通常モードマップにおいて、WSC→EV切換線及びHEV→EV切換線は、アクセルペダル開度APO軸で見たとき、所定開度APO2に設定されている。また、HEV→EV切換線は、車速VSP軸で見たとき、所定車速VSP2に設定されている。HEV→WSC切換線は、所定アクセルペダル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数と一致する下限車速VSP1よりも小さな回転数となる車速領域に設定されている。また、所定アクセルペダル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。なお、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように設定されている。
【0026】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクTeとモータジェネレータトルクTmgで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクTeは、エンジン回転数Neが上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数Neを引き上げてより大きなトルクを出力させる。よって、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図4に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0027】
目標充放電演算部300では、図5に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力を演算する。
動作点指令部400では、アクセル開度APOと、ドライバ要求トルクTddと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力とから、これらの動作点到達目標として、動作点指令部400が備える駆動力制御部10aにより、駆動輪RR、RLへ伝達される駆動力のエンジンEの駆動力割合と駆動用モータであるモータジェネレータMGの駆動力割合を制御し、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと、さらに目標第2クラッチ伝達トルク容量と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算し、指令を行う。
また、駆動力制御部10aは、エンジンEの駆動力割合と駆動用モータであるモータジェネレータMGの駆動力割合を制御するとともに、エンジンコントローラ1より、CAN通信線11を介して得られた情報である切換えられる予定の運転領域情報がストイキ運転領域であるときには、エンジンコントロール1の運転モード切換手段1aへストイキ運転領域禁止指令を出力するとともに、駆動用モータであるモータジェネレータMGにより、要求駆動力であるドライバ要求トルクTddへの過不足を調整演算して、モータジェネレータMGへの目標モータジェネレータトルクの演算および出力を行う。詳細は、後述する。
【0028】
また、動作点指令部400は、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部を有する。エンジン始動制御部は、第2クラッチCL2をドライバ要求トルクTddに応じた第2クラッチ伝達トルク容量に設定してスリップ制御状態とする。また、モータジェネレータMGを回転数制御とし、目標モータジェネレータ回転数を駆動輪回転数相当値に所定スリップ量を加算した値とする。エンジン始動制御部は、この状態で、SSGコントローラSSGCUにスタータモータとして機能する指令を出力すると共に、第1クラッチCL1を開放する。これにより、第1クラッチCL1の発熱を抑制したエンジンクランキングを行う。尚、モード遷移の詳細については後述する。そして、モータSSGによるクランキング後、第1クラッチCL1へ締結指令を出力する。これにより、エンジン始動を行う。
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。シフトマップには、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいてあらかじめ目標変速段が設定されている。
【0029】
次に、運転領域切換手段1aが、要求駆動力に基づく統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令に基づき、判断した切換予定の運転領域情報がストイキ運転領域であるときのエンジンEおよび駆動用モータであるモータジェネレータMGの駆動力制御処理について説明する。図6は実施例1に適用されるエンジンの運転領域特性図である。
【0030】
縦軸は、エンジン駆動力であるエンジントルク、横軸はエンジン回転を表している。縦軸のエンジントルクが負である破線で囲まれた領域が、エンジンEの停止運転領域であるFC(フューエルカット)運転領域を示し、エンジントルクが正の領域には、一点鎖線で囲まれた比較的トルクが小さい低トルクのストイキ運転領域と破線で囲まれたトルクが大きい高トルクのストイキ運転領域、その中心部分には実線で囲まれたリーン運転領域を示している。
すなわち、エンジンEへの要求駆動力であるエンジントルクに対応して、FC運転領域、低トルクのストイキ運転領域、高トルクのストイキ運転領域が存在している。
【0031】
図7は、実施例1のエンジンおよび駆動用モータの駆動力制御処理を表すタイムチャートである。
上のタイムチャートは、横軸は時間で、破線で示す車速VSP、一点鎖線で示すエンジン回転数Ne、アクセル開度APOの変化を示している。
下のタイムチャートは、左の縦軸はエンジン駆動力であるエンジントルクとモータジェネレータMGの駆動力であるトルク、右の縦軸はエンジンEの運転領域とモータジェネレータMGの運転領域を表している。
横軸は、時間であり、破線で示すエンジン駆動力であるエンジントルクおよび運転領域、実線で示すモータジェネレータMGの駆動力であるトルクおよび運転領域、一点鎖線で示すエンジンE+モータジェネレータMGのトータル駆動力すなわちトータルトルクの変化を示している。
【0032】
時刻t0からt1までは、アクセル開度APOは、閉じており、車両としてはコースト状態で、減速している。
また、エンジンEはFC運転領域(停止運転領域)であり、モータジェネレータMGも発電領域であり、それぞれ負の駆動力すなわち負のトルクを発生させている。
なお、エンジン回転Neは、一定回転である。
時刻t1で、アクセルが踏み込まれ、アクセル開度が低開度で開かれドライブ状態になる。ここで、アクセル開度すなわち要求駆動力であるドライバ要求トルクTddを発生させるため、エンジンコントローラ1の運転領域切換手段1aが、エンジンEのストイキ運転領域への移行を判断したときには、統合コントローラ10の駆動力制御部10aにより、燃料のリッチスパイクを避けるため、ストイキ運転領域移行禁止でFC運転領域維持のエンジン運転領域指令が出され、エンジンEはFC運転領域を維持する。
また、統合コントローラ10の駆動力制御部10aは、エンジンE停止により、不足する駆動力を加算して、要求駆動力に対応するモータジェネレータMGへ正の駆動力すなわち正のトルクを指令する。
これにより、合成されたトータル駆動力であるトータルトルクは、一点鎖線に示すようになり、エンジンEのみでみると、ストイキ運転領域のトルクとなる。
【0033】
時刻t2でさらに、アクセルが踏み込まれ、アクセル開度がより高開度で開かれ、要求駆動力であるドライバ要求トルクTddが増加する。
ここで、増加したドライバ要求トルクTddを満足するため、統合コントローラ10の駆動力制御部10aが、エンジンEの駆動力であるエンジントルクを増加させて対応すると、ストイキ運転領域に移行すると判断し、エンジンはFC運転領域を維持したまま、モータジェネレータMGの正の駆動力すなわち正のトルクの増加を指令する。
【0034】
時刻t3で、統合コントローラ10の駆動力制御部10aが、増加したドライバ要求トルクTddを満足するため、エンジンEのリーン運転領域で達成可能と判断し、モータジェネレータMGを停止し、エンジンEをリーン運転領域で正の駆動力すなわち正のトルクを発生させるようにエンジンEの始動を指令する。
これにより、合成されたトータル駆動力であるトータルトルクは、一点鎖線に示すようになり、ドライバ要求トルクTddを満足するエンジンEのリーン運転領域でのみのトルクとなる。
【0035】
図8は、比較例のエンジンおよび駆動用モータの駆動力制御処理を表すタイムチャートである。
【0036】
実施例1と同様に、時刻t0からt1までは、アクセル開度APOは、閉じており、車両としてはコースト状態で、減速している。
また、エンジンEはFC運転領域(停止運転領域)であり、モータジェネレータMGも発電運転領域であり、それぞれ負の駆動力(負のトルク)を発生させている。
なお、エンジン回転Neは、一定回転である。
時刻t1で、アクセルが踏み込まれ、アクセル開度が低開度で開かれドライブ状態になる。ここで、アクセル開度すなわち要求駆動力であるドライバ要求トルクTddを発生させるため、エンジンコントローラ1の運転領域切換手段1aが、エンジンEのストイキ運転領域への移行を判断したときには、モータジェネレータMGを停止運転領域とし、燃料のリッチスパイクおよびストイキ運転領域移行へのエンジン運転領域指令が出され、モータジェネレータMGは停止し、エンジンEはストイキ運転領域へ移行する。
このため、比較例では、エンジンEのストイキ運転領域への移行に際し、燃料のリッチスパイクが行われることになり、ショックの発生および燃費の悪化を生じることになる。
【0037】
以上説明したように、実施例1にあっては下記の作用効果が得られる。
(1)エンジンEと、駆動用モータであるモータジェネレータMGと、エンジンEの駆動力を駆動輪RR、RLに伝達すると共にモータジェネレータMGの駆動力を駆動輪に伝達する駆動力伝達手段である自動変速機ATと、走行状態に応じて自動変速機ATによりエンジンEの駆動力割合とモータジェネレータMG駆動力割合を制御する駆動力制御部10a、とを具えたハイブリッド車両において、
エンジンEの停止運転領域であるFC運転領域と空燃比がリーンとなるリーン燃焼運転領域と空燃比がストイキ近傍となるストイキ燃焼運転領域に切換可能な運転領域切換手段1aを設け、運転領域切換手段1aが、要求駆動力に対応してエンジンEの運転領域をFC運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを判断したときに、駆動力制御部10aは、エンジンEのFC運転領域からストイキ燃焼運転領域への切換えを禁止するとともに、エンジンEのFC運転領域を維持し、エンジンEの負の駆動力とモータジェネレータMGの正の駆動力とを合わせたトータル駆動力が要求駆動力となるようにモータジェネレータMGの駆動力割合を増加する。
よって、エンジンは停止運転領域であるFC運転領域を維持し、ストイキ燃焼運転領域へ移行するときのショックを抑制し、運転性を向上するとともに、燃費を向上することができる。
【0038】
(2)運転領域切換手段1aが、要求駆動力に対応してエンジンEの運転領域をリーン燃焼運転領域への切換えを判断したときに、駆動力出力制御手段10aは、モータジェネレータMGによる駆動力を停止するとともに、エンジンEの運転領域をリーン燃焼運転領域で始動する。
よって、エンジンEの運転領域をリーン燃焼運転領域で行い、モータジェネレータMGを停止することにより、バッテリ4のエネルギマネージメントを最適ができ、バッテリ4の充電状態の消費を抑制することができるとともに、燃費を向上することができる。
【0039】
図9は、実施例2のエンジンおよび駆動用モータの駆動力制御処理を表すタイムチャートである。
【0040】
図7と同様に、上のタイムチャートは、横軸は時間で、破線で示す車速VSP、一点鎖線で示すエンジン回転数Ne、アクセル開度APOの変化を示している。
下のタイムチャートは、左の縦軸はエンジン駆動力であるエンジントルクとモータジェネレータMGの駆動力であるトルク、右の縦軸はエンジンEの運転領域とモータジェネレータMGの運転領域を表している。
横軸は、時間であり、破線で示すエンジン駆動力であるエンジントルクおよび運転領域、実線で示すモータジェネレータMGの駆動力であるトルクおよび運転領域、一点鎖線で示すエンジンE+モータジェネレータMGのトータル駆動力すなわちトータルトルクの変化を示している。
【0041】
時刻t0からt1までは、アクセル開度APOは、閉じており、車両としてはコースト状態で、減速している。
また、エンジンEはFC運転領域(停止運転領域)であり、モータジェネレータMGも発電運転領域であり、それぞれ負の駆動力(負のトルク)を発生させている。
なお、エンジン回転Neは、一定回転である。
時刻t1で、アクセルが踏み込まれ、アクセル開度が低開度で開かれドライブ状態になる。ここで、アクセル開度すなわち要求駆動力であるドライバ要求トルクTddを発生させるため、エンジンコントローラ1の運転領域切換手段1aが、エンジンEのストイキ運転領域への移行を判断したときには、統合コントローラ10の駆動力制御部10aにより、燃料のリッチスパイクを避けるため、ストイキ運転領域移行禁止でリーン運転領域への移行のエンジン運転領域指令が出され、エンジンEはリーン運転領域へ移行する。
また、統合コントローラ10の駆動力制御部10aは、エンジンEのリーン運転領域への移行により、エンジンEの増加する駆動力(トルク)を減算して、要求駆動力に対応するモータジェネレータMGへ負の駆動力すなわち負のトルク(発電量)増加を指令する。
これにより、合成されたトータル駆動力であるトータルトルクは、一点鎖線に示すようになり、エンジンEのみでみると、ストイキ運転領域のトルクとなる。
【0042】
時刻t2でさらに、アクセルが踏み込まれ、アクセル開度がより高開度で開かれ、要求駆動力であるドライバ要求トルクTddが増加する。
ここで、増加したドライバ要求トルクTddを満足するため、統合コントローラ10の駆動力制御部10aが、エンジンEのリーン運転領域での駆動力であるエンジントルクを増加させてエンジンEのみで対応可能と判断し、エンジンはリーン運転領域を維持したまま、エンジントルクを増加させ、モータジェネレータMGの停止を指令する。
【0043】
以上説明したように、第2実施例にあっても第1実施例と同様の作用効果が得られる。
【0044】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であっても良い。例えば、実施例では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
また、エンジンEのリーン運転領域から低トルクのストイキ運転領域への切換え時に、エンジンEをFC運転領域に移行させるとともに、モータジェネレータMGによる正の駆動力(正のトルク)を増加させてもよいし、エンジンEのリーン運転領域を維持させるとともに、モータジェネレータMGによる負の駆動力すなわち負のトルク(発電)を発生させてもよい。
さらに、エンジンEのリーン運転領域から高トルクのストイキ運転領域への切換え時に、エンジンEのリーン運転領域を維持させるとともに、モータジェネレータMGによる正の駆動力(正のトルク)を増加させてもよい
【符号の説明】
【0045】
1 エンジンコントローラ
1a 運転領域切換手段
2 モータコントローラ
10 統合コントローラ
10a 駆動力制御部
AT 自動変速機(駆動力伝達手段)
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ
E エンジン
MG モータジェネレータ(駆動用モータ)
RR,RL 駆動輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9