特許第6971081号(P6971081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971081
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】締めつけなくずれない靴下及び繊維製品
(51)【国際特許分類】
   A41B 11/00 20060101AFI20211111BHJP
   A41D 13/06 20060101ALI20211111BHJP
   A41D 27/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   A41B11/00 D
   A41D13/06
   A41D27/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-154993(P2017-154993)
(22)【出願日】2017年8月10日
(65)【公開番号】特開2019-31767(P2019-31767A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2020年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】596040149
【氏名又は名称】株式会社鈴木靴下
(74)【代理人】
【識別番号】100126815
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 岳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和夫
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−219503(JP,A)
【文献】 実開平07−042777(JP,U)
【文献】 実開平04−127202(JP,U)
【文献】 特表2008−539844(JP,A)
【文献】 韓国公開実用新案第20−2009−0006924(KR,U)
【文献】 特開2005−240222(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105192897(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00−11/14
A41D 13/06
A41D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状構造を備えた繊維製品において、
該筒状構造には締め付け力の異なる少なくとも4つの環状領域を備え、
これら環状領域の一つである第一の環状領域の締め付け圧力をP1、
該第一の環状領域に隣接する第二の環状領域の締め付け圧力をP2、
該第二の環状領域に隣接する第三の環状領域の締め付け圧力をP3、
該第三の環状領域に隣接する第四の環状領域の締め付け圧力をP4、
とした場合に、これら締め付け圧力がP1>P2、P2<P3、P3>P4なる関係を満足するように設定されており、
該第一の環状領域の締め付け圧力P1及び該第三の環状領域の締め付け圧力P3のいずれも10hPa未満に設定されており、
かつ、該第一の環状領域及び該第三の環状領域の幅が20mm以上50mm未満である
ことを特徴とする、繊維製品。
【請求項2】
前記P1、前記P2、前記P3、前記P4に関して、P1=P3、P2=P4なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記第二の環状領域及び前記第四の環状領域の幅が10mm以上50mm未満である
ことを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項4】
前記第一の環状領域及び前記第三の環状領域を構成する編み組織は、前記第二の環状領域及び前記第四の環状領域を構成する編み組織の編糸の少なくとも一部をこれよりも強い弾性力を備えた編糸と置換して編製されている
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項5】
前記第一の環状領域及び前記第三の環状領域を構成する編み組織は、前記第二の環状領域及び前記第四の環状領域を構成する編み組織の編糸に弾性力を備えた編糸を加えて編製されている
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の繊維製品である
ことを特徴とする靴下。
【請求項7】
前記すくなくとも4つの環状領域の中で前記第一の環状領域がもっとも前記筒状構造の開口部近くに設けられているとした際に、
前記第一の環状領域の幅をW1、
前記第三の環状領域の幅をW3、
とした場合に、これら幅がW1<W3なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、請求項6に記載の靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状構造を備えた繊維製品に関し、具体的には靴下、袖付手袋、レッグウォーマー、アームウォーマー等に関するものである。より具体的には、装用時の締め付けが極めて少ないにも関わらず、ずれが発生しにくい靴下、袖付手袋、レッグウォーマー、アームウォーマー等の繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、手軽な防寒具の一つとして靴下が利用されており、近年では、厚手の靴下をいわゆる室内履き(ルームスリッパ)のように利用することも広く行なわれている。また、靴下に限らず、レッグウォーマー、アームウォーマーのような筒構造を備えた繊維製品も多く上市されている。以下、このような筒構造を備えた繊維製品を靴下等という。近年の省エネ意識の高まりから室内の暖房温度を低めに設定することもしばしば行われる状況下、このような靴下等は、今後ますます活用される機会が増えると予想される。
【0003】
ところで、靴下等は装用部によくフィットし、ずれを発生することなく、また過剰な締め付けを装用者に感じさせないことが好ましい。例えば靴下では、装用時にふくらはぎ部分を覆っていた筒状部がずれ落ちてしまうと保温効果が失われるし、筒状部がずれ落ちたことで足首や爪先側にたるみが生じると装用者に不快感を与えてしまう。また袖付手袋、レッグウォーマーやアームウォーマーの場合でも、ずれによって保温効果が失われたり不快感を与えてしまうことは共通である。
【0004】
靴下等のずれの発生を防ぐために開口部にいわゆる口ゴムを設けて強い締め付け力を発生させることが行なわれるが、強い締め付け力は装用者に不快感を与えるのみならず、血行障害の原因となり、また、装用終了後には皮膚に締め付けの跡形が残るといった不都合が発生する。この不都合は、皮膚の弱い装用者で顕在化しやすく、特に高齢者では顕著となりやすい。例えば、容易に血行障害状態に陥って靴下等を装用することでますます冷えを強く感じたり、強い締め付けのあった部分で内出血を発生して老人性紫斑を発生したりするのである。
【0005】
なお、靴下等のずれの発生を防ぐために靴下等の皮膚に触れる面に滑り止め加工を施すことも行なわれる。例えば、ウレタンやシリコン樹脂を繊維製品表面に塗布することで皮膚との摩擦を大きくして保持力強くし、ずれの発生を防止するのであるが、皮膚の弱い装用者にとってこのような対策は皮膚のかぶれ等の障害を将来する懸念が強いものであり好ましいものではないことはいうまでもない。
【0006】
このような問題点に鑑みて従来より様々な靴下が提案されている。例えば、特開2014−047435公開特許公報には、開口部に口ゴムを備えない靴下が開示されている。該靴下は、アンクレット型と呼ばれる足首くらいまでの長さの靴下に特に好適とされ、開口部と踵付近と足の中央部付近に対応する部分の3箇所に環状締め付け部を備えることを特徴としている。また、該環状締め付け部はゴム糸を挿入することなく、他の部分を構成する編み糸よりも強い弾性力を備えた編み糸により編製して他の部分よりも強い締め付け力を得ている。この構成により、足の部分で発生した靴下を脱がせようとする力が踵付近の環状締め付け部の働きでこれより上の部分に伝播しにくくなり、開口部の締め付け力がさほど大きくなくともこの部分が足部分に引かれてずれ落ちることが抑制される。
【0007】
なお、靴下の締め付け圧を場所によって変化させる試みは上記以外にも多く行なわれてきており、代表的には特開2005−240222公開特許公報に開示された靴下を挙げることが出来る。この靴下は、爪先部分から開口部にかけて締め付け力が強から弱に段階的に変化するようにされており、それぞれの箇所での締め付け力を限定することで、足の浮腫み抑制の効果が得られる靴下としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−047435 公開特許公報
【特許文献2】特開2005−240222 公開特許公報
【0009】
上記説明したように、装用時の締め付けを少なくしつつずれが発生しにくい靴下が提案されているものの、高齢者に代表される皮膚の弱い装用者にとって十分満足できるものではなかった。すなわち、口ゴムを使用しないことで開口部の締め付け力を抑制した靴下であったとしても、皮膚の弱い装用者にとっては皮膚障害の原因になり得る締め付け力であったり、あるいは、皮膚障害の原因にならない程度の非常に小さい締め付け力の靴下では装用時のずれが無視できないほど発生してしまうといった問題があった。また、靴下に限らず、袖付手袋、レッグウォーマーやアームウォーマー等においても程度の差こそあれ、実質的に同じ問題が発生していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題を解決した靴下等を提供することである。つまり、高齢者のような皮膚の弱い装用者であっても皮膚障害を発生せず、しかも、装用時のずれも抑制可能な靴下等を提供することを本発明が解決しようとする課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するため、本発明においては
筒状構造を備えた繊維製品において、
該筒状構造には締め付け力の異なる少なくとも4つの環状領域を備え、
これら環状領域の一つである第一の環状領域の締め付け圧力をP1、
該第一の環状領域に隣接する第二の環状領域の締め付け圧力をP2、
該第二の環状領域に隣接する第三の環状領域の締め付け圧力をP3、
該第三の環状領域に隣接する第四の環状領域の締め付け圧力をP4、
とした場合に、これら締め付け圧力がP1>P2、P2<P3、P3>P4なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、繊維製品としている。
【0012】
筒状構造とは、本発明に係る繊維製品が靴下の場合、足を挿入する開口部からおおむね踵に対応する位置までを指し、装用時には足首から脹脛を覆う部分である。一方、足首よりも爪先側に対応する部分は以下袋状構造と呼ぶ。もっとも、アンクレット型と呼ばれる足首くらいまでの長さの靴下の場合には、袋状構造と踵部が大部分を占めることになるが、短くとも踵部から開口部に到る部分は筒状構造である。
手袋の場合にも、いわゆる袖付手袋と呼ばれる手首から下腕を覆う部分を備えるものは本発明における繊維製品の一であり、袖部分が筒状構造である。 また、レッグウォーマーやアームウォーマーの場合には、これら全体が両端部に開口部を備えた筒状構造であり、これら以外の身体に装用して使用する繊維製品についても同様である。
【0013】
環状領域とは、筒状構造をその軸に垂直な平面で複数の領域に分割したと考えた場合のそれぞれの領域を指し、要は筒状構造を輪切りにしたものであるから環状構造はある幅を備えた環状の領域である。本発明においては、各々の環状構造はそれぞれ固有の種類の糸で固有の寸法に編製されており、結果としてそれぞれが異なる締め付け圧力を備えている。
【0014】
締め付け圧力とは、繊維製品を装用した際に、筒状構造の備えるそれぞれの環状領域が装用者の皮膚を締め付ける力を単位面積当たりの値で示したものである。例えば繊維製品が靴下の場合には、締め付け圧力が弱すぎると靴下のずれ落ちが発生しやすい一方、締め付け圧力が強すぎると血行不良等の原因となりやすいため、浮腫みの対策として使用される医療用の弾性ストッキング等を例外とすれば、13〜25hPa程度が好ましく、強くとも40hPa未満とすべきといわれている。なお、本発明は主に皮膚の弱い装用者へ適合するため、13hPa未満の締め付け圧力とすることが実用上は好ましいが、必ずしもこれに限られるものではない。
【0015】
本発明においては少なくとも4つの隣接する環状領域を備えて、これらの締め付け圧力をP1〜P4とした場合に、P1>P2、P2<P3、P3>P4なる関係を満足することを特徴の一つとしているが、これは要するに筒状構造に締め付け圧力が強・弱・強・弱と変化する部分が設けられていると考えればよい。もちろん、ここで「強」や「弱」の表示は相対的なものであるので、この表示で「強」にあたるP1が同じく「弱」にあたるP4よりも弱い(つまり、P1<P4)ということもありえるが、大まかには締め付け圧力の強い領域と弱い(またはほとんど無い)領域が交互に設けられるということである。
【0016】
さて、筒状領域に締め付け圧力が強い部分と弱い部分を交互に設けることの利点は次のようである。すなわち、繊維製品の締め付け圧力が強すぎると装用者に不快感を感じさせるほか血行不良や内出血の原因になる一方、これが弱すぎるとずれが発生して保温効果が失われたり、ずれに伴って発生する大きなたわみが不快感を生じさせることになる。高齢者など皮膚の弱い装用者では、許容できる締め付け圧力が低くなるため、快適な装用感とずれを生じさせない保持力を両立できる締め付け圧力範囲が狭くなり、快適に使用できる繊維製品の実現が困難である。
【0017】
一方、口ゴムを備えた靴下のように、筒状構造全体の締め付け圧力を高くするのではなく開口部付近のみの締め付け圧力を高くすると、確かに開口部以外の部分の締め付け圧力は十分に低く出来るものの、開口部以外の筒状構造には保持力が無いのでこれらが徐々にずれ下がり、開口部を引っ張ることになる。この力に対抗するために、開口部の締め付け圧力は強くせざるを得ず、開口部直下に当たる部分の皮膚に限ればむしろ状態は悪化することになる。つまり、内出血を発生したり、かゆみ・かぶれを生じたり、あるいは、装用終了後に皮膚に締め付けの痕跡が長く残ることになる。なお、口ゴムを備えない靴下も市場で流通しているが、筒状構造の開口部付近の編糸を弾性の強いものとするなどして締付圧力を強化し、これによってずれの発生を抑制しているに過ぎないため、本質的には同じ問題を抱えている。
【0018】
そこで、締め付け圧力が強い環状領域と締め付け圧力が弱い環状領域を交互に設けることにすると、個々の締め付け圧力が弱い環状領域で発生しようとするずれが隣接する締め付け圧力が強い環状領域に支えられることになるので、ずれが発生しても伝播しない。つまり、個々の環状領域の幅は筒状領域全体と比較して相当に小さいので、環状領域内で生じるずれも小さく、このため大きなたるみとなることもないので装用者に不快感を与えることが無い。また、締め付け圧力が強い環状領域が支えなければならない締め付け圧力が弱い環状領域は小さい領域に過ぎないので、締め付け圧力が強い環状領域といえどもここに必要な締め付け圧力は小さなもので十分であり、開口部に口ゴムを備えた靴下の例のような問題が顕在化することも無い。
【0019】
さらに、締め付け圧力が強い環状領域が装用者の皮膚を締め付けて収縮しようとすると、隣接する締め付け圧力が弱い環状領域を引っ張ることになるので、これによって締め付け圧力が弱い領域の締め付け圧力が僅かに強くなり、逆に締め付け圧力が強い環状領域の締め付け圧力を僅かに弱くすることになる。つまり、締め付け圧力が強い環状領域の余剰な圧力が隣接する締め付け圧力が弱い環状領域に分散する働きが得られるので、皮膚に対する影響はますます小さくなる。なお、筒状構造の開口部付近のみに締め付け圧力が強い領域が設けられているような従来の構成では、隣接する締め付け圧力の低い領域のたるみが大きく、締め付け圧力が強い領域が収縮しようとしたときにこれを分散しようとする作用はほとんど得られない。この作用を得るには、締め付け圧力の強い環状領域と締め付け圧力の弱い環状領域が交互に設けられることが必要なのである。
【0020】
上記議論から明らかな通り、締め付け圧力が弱い環状領域は繊維製品の装用者への保持機能を担っておらず、従って締め付け圧力は必ずしも必要ない。つまり、締め付け圧力が弱い環状領域に対応するP2やP4は0hPaであってもかまわない。具体的には、この環状領域を実質的に弾性を備えない編糸によって編製するなどしてもかまわないということである。
【0021】
なお、上記では4つの環状領域の締め付け圧力をP1〜P4としているが、このことはこれら締め付け圧力がすべて異なっていることを示唆するものではない。つまり、P1〜P4がP1>P2、P2<P3、P3>P4なる関係を満足している限り、P1とP3が等しい、または、P2とP4が等しくても本発明上なんら問題は無い。むしろ、多くの種類の締め付け圧力の環状領域を構成するには、編糸の種類や編組織の種類を多く切り替える必要があるので製造の手間やコストの観点で好ましいものではなく、筒状構造を2種類の締め付け圧の環状領域で構成することは好ましい実施例の一つである。
【0022】
ところで、上記では締め付け圧力が強い環状領域と締め付け圧力が低い環状領域はそれぞれ2つ、計4つの環状領域を筒状構造に備える繊維製品について説明したが、本発明においてはより多くの環状領域を備えてもかまわない。むしろ、筒状構造全体にわたって、多くの環状領域を備える方が繊維製品をより広い面積で装用者に保持することになり、より低い締め付け圧力を実現できる点で好ましい。
【0023】
また、筒状構造以外の構造を備える繊維製品、例えば靴下のように筒状構造に袋状構造が連続して設けられる繊維製品では、筒状構造の開口部(足を差し入れる部分)から第一の環状領域、第二の環状領域、第三の環状領域、第四の環状領域が順に設けられる場合と、逆に開口部から第四の環状領域、第三の環状領域、第二の環状領域、第一の環状領域が順に設けられる場合を想定可能である。これらの違いは、開口部に近い部分に締め付け圧力がP1である環状領域が設けられるか、それとも、開口部に近い部分に締め付け圧力がP4である環状領域が設けられるかの違いと考えても良い。
【0024】
本発明は、これらのいずれの場合をもその技術的範囲に含むものである。本発明の作用効果上、締め付け圧力が強い環状領域と締め付け圧力が弱い環状領域が交互に設けられることが最も重要な技術的特徴であり、これら領域のいずれが開口部近くに設けられるかという点は本質的差異を産むものではないからである。なお、アームウォーマーやレッグウォーマの場合は筒状構造のみからなる繊維製品として製造されることが多いが、筒状構造の両端の開口部が区別可能である場合は上記靴下を例とした説明と同様、4つの環状領域の順序が反転していたとしても本発明に属することは言うまでも無い。
【0025】
(2)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記P1、前記P2、前記P3、前記P4に関して、P1=P3、P2=P4なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、(1)に記載の繊維製品としている。
【0026】
すでに説明したとおり、本発明においては筒状構造に締め付け圧力の強い環状領域と締め付け圧力の弱い環状領域が交互に設けられることを特徴としているが、あまりに多くの種類の締め付け圧力の環状領域を一つの繊維製品中で構成することは、製造の手間やコストの観点で好ましいものではない。そこで、筒状構造を2種類の締め付け圧の環状領域で構成することが好ましい。具体的には、少なくとも4つの環状領域のうち、第一の環状領域の締め付け圧力P1とこれと第二の環状領域を挟んで隣接する第三の環状領域の締め付け圧力P3を等しく設定し、第二の環状領域の締め付け圧力P2とこれと第三の環状領域を挟んで隣接する第四の環状領域の締め付け圧力P4を等しく設定すると良い。これによって、本発明を安価に提供することが可能になる。
【0027】
(3)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第一の環状領域の締め付け圧力P1及び前記第三の環状領域の締め付け圧力P3のいずれも25hPa未満に設定されている
ことを特徴とする、(1)または(2)のいずれかに記載の繊維製品としている。
【0028】
これまでの説明では締め付け圧力が強い環状領域という表現を用いてきているが、これはあくまでも締め付け圧力が低い環状領域に対する相対的な概念にすぎず、締め付け圧力の絶対値は低いことが好ましい。具体的には、強い締め付け圧力の環状領域に相当する第一の環状領域の締め付け圧力P1や第二の環状領域の締め付け圧力P2のいずれもが25hPa未満に設定されていることが好ましい。
【0029】
一般的に、医療用途で使用される弾性ストッキングを除けば、浮腫み対策を企図した場合であっても締め付け圧力は13〜25hPa程度が好ましいといわれており、本発明においても最大の締め付け圧力は25hPa未満とすることが好ましい。なお、このような締め付け圧力であっても、弱い締め付け圧力の環状領域と交互に設けられることによる圧力の分散効果により、全体がこのような締め付け圧力とされた繊維製品と比較して装用感は優れたものとなる。
【0030】
上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第一の環状領域の締め付け圧力P1及び前記第三の環状領域の締め付け圧力P3のいずれも10hPa未満に設定されている
ことを特徴とする、(3)に記載の繊維製品としている。
【0031】
本発明は高齢者等の皮膚の弱い装用者が使用する際に快適な装用感が得られることを企図したものであるので、装用時に繊維製品がずれを生じて不快感を生じるようなことが無い限り、締め付け圧力は低ければ低いほど良いといえる。具体的には締め付け圧力を強くとも10hPa未満に設定することが出来、これは本発明の好ましい構成例である。締め付け圧力が低いと、一般的には繊維製品のずれが発生しやすくなるが、本発明では締め付け力が強い環状領域と締め付け力が弱い環状領域を交互に配したことによって、ずれが伝播して大きなたるみを生じにくくなっており、最大の締め付け圧力を低く設定してもずれの少ない快適な装用感を得られる繊維製品とすることができるのである。
【0032】
(4)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第一の環状領域及び前記第三の環状領域の幅が10mm以上50mm未満である
ことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維製品としている。
【0033】
本発明は、筒状構造に締め付け圧力が強い環状領域と締め付け圧力が弱い環状領域が交互に設けられていることによって特有の効果を得ているが、ここで、締め付け圧力が強い環状領域の幅が余りに狭いと、装用者の皮膚を線状に締め付けることになってしまう。こうなると、比較的低い締め付け圧力であっても皮膚への食い込みが生じ、これによって締め付け圧力が強い環状領域の見かけ上の幅が狭くなってますます締め付けが強くなるという悪循環に陥りかねない。この為、締め付け圧力の強い環状領域の幅は10mm以上とすることが好ましい。
【0034】
また、締め付け圧力の強い環状領域の幅が余りに広いと、この領域では締め付け圧力の分散効果が働かず、装用者の皮膚にとっては単純に締め付け圧力が強い繊維製品を装用していることほぼ同じ状況となってしまう。この為、締め付け圧力の強い環状領域の幅は50mm未満とすることが好ましい。
【0035】
以上のとおり、締め付け圧力の強い環状領域の幅を10mm以上50mm未満とすることが、装用者に皮膚に障害を与えにくくかつずれも生じにくいという本発明の特徴を実現する上で好ましい要件である。
【0036】
上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第一の環状領域及び前記第三の環状領域の幅が15mm以上30mm未満である
ことを特徴とする、(1)〜(3)に記載の繊維製品としている。
【0037】
本発明は繊維製品であるので、筒状構造に設けられた環状領域の寸法も比較的大きな誤差を含み得る。製造時の寸法ばらつきのみならず、例えば、弾性による伸縮や装用者の体格(脹脛や下腕の太さ等)、洗濯等による収縮によっても、環状領域の幅は変化しえる。それゆえ、締め付け圧力の強い領域の幅に少し余裕を見て、15mm以上30mm未満とすることがより好ましい。
【0038】
(5)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第の環状領域及び前記第の環状領域の幅が10mm以上50mm未満である
ことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維製品としている。
【0039】
本発明は、筒状構造に締め付け圧力が強い環状領域と締め付け圧力が弱い環状領域が交互に設けられていることによって特有の効果を得ているが、ここで、締め付け圧力が弱い環状領域の幅が余りに狭いと、締め付け圧力の強い環状領域の圧力を分散する作用が得られず、繊維製品の筒状構造全体の締め付け圧力が強い場合と同様になってしまう。この為、締め付け圧力の弱い環状領域の幅は10mm以上とすることが好ましい。
【0040】
また、締め付け圧力の弱い環状領域の幅が余り広いと、この領域で生じるずれがたるみを生じることになり、装用感が悪化すると共に、締め付け圧力の強い環状領域でたるみの生じた繊維製品の保持力が不足して更なるずれが発生する状況となってしまう。この為、締め付け圧力の弱い環状領域の幅は50mm未満とすることが好ましい。
【0041】
以上のとおり、締め付け圧力の弱い環状領域の幅を10mm以上50mm未満とすることが、装用者に皮膚に障害を与えにくくかつずれも生じにくいという本発明の特徴を実現する上で好ましい要件である。
【0042】
上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第の環状領域及び前記第の環状領域の幅が15mm以上30mm未満である
ことを特徴とする、(4)に記載の繊維製品としている。
【0043】
すでに説明した通り、本発明は繊維製品であるので、筒状構造に設けられた環状領域の寸法も比較的大きな誤差を含み得る。この為、締め付け圧力の弱い領域の幅に少し余裕を見て、15mm以上30mm未満とすることがより好ましい。
【0044】
(6)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第一の環状領域及び前記第三の環状領域を構成する編み組織は、前記第の環状領域及び前記第の環状領域を構成する編み組織の編糸の少なくとも一部をこれよりも強い弾性力を備えた編糸と置換して編製されている
ことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維製品としている。
【0045】
本発明に係る繊維製品は、その筒状構造に少なくとも締め付け圧の強い環状領域と締め付け圧の弱い環状領域に対応する2種類の編み組織を含むことになる。この為、本発明に係る繊維製品は通常のものと比較して複雑な構造であるが、これを実現するために、環状領域ごとに一部の編糸を置換することが好ましい。
【0046】
具体的にどのような種類の編糸を使用すべきであるかについては特に問わないが、一例としては次のようにすることが出来る。すなわち、繊維製品は装用者が装用した状態で他人の目に触れるものであるから、保温性といった機能のみならず外観上の美観を備えることも装用者の満足上重要である。そこで、繊維製品の表側に露出する編糸と裏側に露出する編糸の種類を変えることが好ましい。
【0047】
例えば靴下の例では、表側に露出する編糸として綿糸、絹糸、麻糸、レーヨン糸、ナイロン糸、ポリエステル糸、ウール糸、アクリル糸などを使用することが出来、中でも、絹糸、ウール糸やアクリル糸などは特有の艶を備えており美しい外観の靴下が得られる。しかし、これら表側に露出する編糸で締め付け圧の異なる環状領域を編製することは不可能ではないが好ましくない。なぜなら、編糸を切り替えて締め付け圧の強い環状領域と締め付け圧の弱い環状領域を構成すると、それぞれの領域の違いが色合いや風合いの違いとして視認されてしまうからである。また、締め付け圧を発生する弾性糸は必ずしも風合い等の外観上の観点で優れているわけではない。
【0048】
一方で、繊維製品の裏側に露出する編糸は、これを環状領域毎に切り替えたとしても外観への影響はない為、これを切り替えて環状領域を構成することは本発明にとって好都合である。具体的には、締め付け圧力が弱い環状領域ではナイロン糸またはポリエステル糸を使用し、締め付け圧力が強い環状領域では弾性ポリウレタン糸(スパンデックスともいわれる)を使用することが出来る。このように筒状構造を裏糸を適宜切り替えつつ編製することで、本発明に係る繊維製品を製造することが出来る。
【0049】
なお、本発明を構成する糸の種類は上記の組み合わせに限られないことはいうまでもないことである。例えば、裏糸を非弾性糸と弾性糸で切り替えることによって締め付け圧力の強い環状領域と締め付け圧力の低い環状領域を構成するのではなく、弾性の弱い(デニール数の小さい)弾性糸と弾性の強い(デニール数の大きい)弾性糸を切り替えることによって構成することもできる。このようにすると、締め付け圧力の弱い環状領域もある程度の締め付け圧力を有することになるが、装用者の状態や繊維製品の使用目的によっては適切な機能のものが得られる場合がある。これに限らず、芯線が弾性に富む弾性ポリウレタン糸で鞘糸が摩擦に強いナイロン糸で構成されたカバリング糸を使用するなど、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0050】
(7)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記第一の環状領域及び前記第三の環状領域を構成する編み組織は、前記第の環状領域及び前記第の環状領域を構成する編み組織の編糸に弾性力を備えた編糸を加えて編製されている
ことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維製品としている。
【0051】
本発明に係る繊維製品の締め付け圧の強い環状領域と締め付け圧の弱い環状領域を、異なる編糸を使用することで構成できることはすでに説明したとおりであるが、同様の効果を異なる構成で得ることも可能である。すなわち、基本として締め付け圧の弱い環状領域を編製するようにし、締め付け圧の強い環状領域を編製する際には編糸に弾性力を備えた編糸を加えることとすれば良い。このようにすると、締め付け圧の強い環状領域が締め付け圧の弱い環状領域と比較して多くの糸によって編製されることになるので、当然ながら編組織は密度が高い厚みのあるものとなる。しかしながら、本発明で実現しなければならない締め付け圧は一般の繊維製品と比較して非常に低いものであり、当然に必要となる弾性糸も細い(デニール数の小さい)ため、編組織の厚み変化も僅かであって実用上の問題はほとんど生じない。
【0052】
(8)上記課題を解決するため、本発明においては、
(1)〜(7)に記載されている繊維製品である
ことを特徴とする、靴下としている。
【0053】
本発明に係る繊維製品は、筒状構造を備えて、ここに締め付け圧の強い環状領域と締め付け圧の弱い環状領域を交互に設けることにより、高齢者等の皮膚の弱い装用者に皮膚障害を起こさせることがなく、かつ、ずれが発生して不快感を感じさせることも無いという利点があり、この利点は筒状構造を備えた繊維製品であれば広く享受できるものである。この点で、本発明は靴下、袖付手袋、レッグウォーマー、アームウォーマーなどに広く適用できるものであるが、中でも靴下は筒状構造の一端が開口部で他端には袋状構造が設けられるという非対称な構造であり、また通常は筒状構造が上下方向を向く状態で装用されるために重力の影響でずれが生じ易いため、本発明の利益が特に大きく感じられる繊維製品である。
【0054】
従って、(1)〜(7)のいずれかの特徴を備えた靴下は本発明の好ましい形態の一つである。
【0055】
上記課題を解決するため、本発明においては、
(1)〜(7)に記載されている繊維製品である
ことを特徴とする、袖付手袋としている。
【0056】
靴下と同様、袖付手袋も一端に開口部が設けられ他端は手袋部であるという非対称な構造であり、また、筒状構造が上下方向を向く状態で装用されることが多いので、重力の影響もあってずれが生じ易いので本発明の利益が特に大きく感じられる繊維製品である。
【0057】
従って、(1)〜(7)のいずれかの特徴を備えた袖付手袋は本発明の好ましい形態の一つである。
【0058】
(9)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記すくなくとも4つの環状領域の中で前記第一の環状領域がもっとも前記筒状構造の開口部近くに設けられているとした際に、
前記第一の環状領域の幅をW1、
前記第三の環状領域の幅をW3、
とした場合に、これら幅がW1<W3なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、(8)に記載の靴下としている。
【0059】
靴下を装用した場合、足首付近は装用部が細く、脹脛付近は装用部が太くなることが通常である。同じ径の筒状構造であっても、装用部の太さが太ければ筒状構造がそれだけ引き伸ばされることになるので、脹脛付近の締め付け圧が高めになる。そこで、筒状構造の開口部付近、つまり、靴下の足を差し入れる部分に近い側の締め付け圧が強い環状領域の幅を狭く設定し、これよりも足首に近い側の締め付け圧が強い環状領域の幅を広めに設定することで、靴下を装用した際の締め付けが軽減され、装用感が向上する。ここで、環状領域は4つに限らず、さらに多くの環状領域を設けた場合であっても、靴下の開口部から足首側に向けて順次締め付け圧が強い環状領域の幅を広くしていけばよいことはいうまでもない。
【0060】
もっとも、先に説明したとおり締め付け圧力が高い環状領域の幅は10mm以上50mm未満程度が好ましい為、開口部近くの締め付け圧が強い環状領域の幅を10mm程度とし、足首近くの開口部近くの締め付け圧が強い環状領域の幅が50mmとなるように順次幅を変えていくのが良い。
【0061】
(10)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記すくなくとも4つの環状領域の中で前記第一の環状領域がもっとも前記筒状構造の開口部近くに設けられているとした際に、
前記締め付け圧力がP1<P3なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、(8)に記載の靴下としている。
【0062】
(9)に説明したとおり、靴下の場合は装用部の太さの関係で脹脛付近の締め付け圧が高めになる。これに対し、筒状構造の開口部付近、つまり、靴下の足を差し入れる部分に近い側の締め付け圧が強い環状領域の締め付け圧力を低く設定し、これよりも足首に近い側の締め付け圧力を強めに設定することで、靴下を装用した際の締め付けが軽減され、装用感が向上する。この例でも、環状領域は4つに限らず、さらに多くの環状領域を設けた場合であっても、靴下の開口部から足首側に向けて順次締め付け圧を高めていけばよいことはいうまでもない。
【0063】
なお、締め付け圧力の設定方法は特に問わないが、例えば締め付け圧力の強い領域を構成する編組織に使用する弾性糸の太さを変えることによって行なうことが出来る。例えば、靴下の開口部に近い締め付け圧力の強い環状領域から順に20デニール、30デニール、40デニールと弾性糸の太さを変えていくとよい。
【0064】
(11)上記課題を解決するため、本発明においては、
前記すくなくとも4つの環状領域の中で前記第一の環状領域がもっとも前記筒状構造の開口部近くに設けられているとした際に、
前記締め付け圧力がP1>P3なる関係を満足するように設定されている
ことを特徴とする、(8)に記載の靴下としている。
【0065】
(10)に説明したとおり、靴下の場合は装用部の太さの関係で筒状構造の開口部付近の締付圧力を低く設定し、足首に近い側の締付圧力を強めに設定することで、装用感が向上することが多い。しかしながら、足首部は踵骨腱を始めとする大きな腱が集中している箇所であり、腱鞘炎を患う患者が少なくない。このような患者では、足首付近を締め付けることで痛みを感じさせたり症状を悪化させる懸念もあり、(10)の場合とは逆に、足首に近い側の締付圧力を弱めに設定した靴下とすることで快適に装用できるようになる。本発明は人体に装用して使用する繊維製品であるので、装用者に応じた特有の設計が特有の効果を奏する場合があるのである。
【発明の効果】
【0066】
(1)筒状構造を備えた繊維製品の該筒状構造に締め付け力の異なる少なくとも4つの第1〜第4の環状領域を備え、これら環状領域の締め付け圧力P1〜P4をP1>P2、P2<P3、P3>P4なる関係を満足するように設定したので、締め付け圧力が弱い環状領域(第2及び第4の環状領域)で発生しようとするずれが隣接する締め付け圧力が強い環状領域(第1及び第3の環状領域)に支えられ、またずれが発生しても伝播しない。また、締め付け圧力が弱い環状領域で発生する僅かなずれは小さなものであるために大きなたるみとなることもなく、装用者に不快感を与えることが無い。また、締め付け圧力が強い環状領域に必要な締め付け圧力も小さなもので十分であるため、高齢者のような皮膚の弱い装用者の皮膚障害がなく、かつ、ずれによる不快感の発生もない繊維製品を提供できるという効果を奏する。
【0067】
環状領域の数を増やし、筒状構造全体にわたって締め付け圧力が強い環状領域と締め付け圧力が低い環状領域を交互に設けることとすれば、繊維製品をより広い面積で装用者に保持することになり、より低い締め付け圧力を実現できるという効果を奏する。
【0068】
(2)P1=P3、P2=P4なる関係を満足することとしたので、筒状領域に構成しなければならない環状領域の種類が締め付け圧力の強い環状領域1種と締め付け圧力の弱い環状領域1種の2種類のみとなる。これによって、製造の手間やコストの増大が抑制され、安価に本発明に掛かる繊維製品を供給できるという効果を奏する。
【0069】
また、環状領域の締め付け圧力の最大値を25hPa未満に設定したので、高齢者等の皮膚の弱い装用者が使用しても不快感や皮膚障害を発生する恐れが少ない、安全な繊維製品を提供できるという効果を奏する。
【0070】
また、環状領域の締め付け圧力の最大値を10hPa未満に設定したので、高齢者等の皮膚の弱い装用者が使用しても不快感や皮膚障害を発生する恐れがより少ない、ますます安全な繊維製品を提供できるという効果を奏する。
【0071】
(4)締め付け圧力が強い環状領域の幅を10mm以上50mm未満としたので、締め付け圧力が強い環状領域が装用者の皮膚に食い込むことなく、かつ、装用者の皮膚を広い範囲にわたって過度に締め付けてしまうこともない、快適に装用できる繊維製品を提供できるという効果を奏する。
【0072】
また、締め付け圧力が強い環状領域の幅を15mm以上30mm未満としたので、製造上の寸法ばらつきや弾性による伸縮、装用者の体格(脹脛や下腕の太さ等)、洗濯等による収縮によらず、安定して前記に記載の効果が得られる。
【0073】
(5)締め付け圧力が弱い環状領域の幅を10mm以上50mm未満としたので、締め付け圧力の強い環状領域の圧力を分散し、また、大きなたるみを生じて不快感を発生することも無い、快適に装用できる繊維製品を提供できるという効果を奏する。
【0074】
また、締め付け圧力が弱い環状領域の幅を15mm以上30mm未満としたので、製造上の寸法ばらつきや弾性による伸縮、装用者の体格(脹脛や下腕の太さ等)、洗濯等による収縮によらず、安定して前記に記載の効果が得られる。
【0075】
(6)締め付け圧力が弱い環状領域を構成する編糸の少なくとも一部をこれよりも強い弾性力を備えた編糸と置換して編製することで締め付け圧力が強い環状領域を構成することとしたので、本発明に係る繊維製品を製造することが可能になる。
【0076】
(7)締め付け圧力が弱い環状領域を構成する編糸に、さらに弾性力を備えた編糸を加えて編製することで締め付け圧力が強い環状領域を構成することとしたので、本発明に係る繊維製品を製造することが可能になる。
【0077】
(8)本発明に係る繊維製品である靴下としたので、そもそも装用時にずれ落ちやすい繊維製品であるにも関わらず、弱い締め付け圧にもかかわらずずれ落ちなどの不都合が発生しにくいという効果が得られる。
【0078】
また、本発明に掛かる繊維製品である袖付手袋としたので、靴下の場合と同様、装用時にずれを生じやすい繊維製品であるにも関わらず、弱い締め付け圧でずれなどの不都合が発生しにくいという効果が得られる。
【0079】
(9)締め付け圧力が強い環状領域の幅が、開口部から足首側に向けて順次広くなるように設定したので、脹脛部など装用部の太さが異なる部分であっても締め付けが軽減され、装用感が向上するという効果が得られる。
【0080】
(10)環状領域の締め付け圧力が、開口部から足首側に向けて順次強くなるように設定したので、脹脛部など装用部の太さが異なる部分であっても締め付けが軽減され、装用感が向上するという効果が得られる。
【0081】
(11)環状領域の締め付け圧力が、開口部から足首側に向けて順次弱くなるように設定したので、踵付近の締め付け圧を弱くすることが好ましい装用者に適した靴下が得られるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】本発明の実施例を示した説明図である。
図2】本発明の別の実施例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下、図面を用いて本発明に掛かる繊維製品について詳細に説明する。
【実施例1】
【0084】
図1は、本発明の一実施例である繊維製品である靴下の説明図である。靴下(1)は、装用者が足に装用して使用するものであるから、実際には靴下(1)の筒状構造(2)の一端には開口部(6)が設けられて装用者の足が挿入可能とされている。また、靴下(1)の袋状構造(3)の一端には爪先部(7)が設けられ、筒状構造(2)と袋状構造(3)は踵部(4)を挟んで結合されており、このような基本的な構造においては本発明に係る繊維製品である靴下と市場に一般に流通している靴下とでは全く共通である。
【0085】
さて、本発明に係る靴下(1)は、筒状構造(2)部分の開口部(6)に近い部分から順に、第一の環状領域(5a)、第二の環状領域(5b)、第三の環状領域(5c)、第四の環状領域(5d)を設けている。なお、実際には筒状構造(2)の長さや、それぞれの環状領域の幅に応じてさらに多くの環状領域を設けることがあるが、簡単のためこれらについての説明は省略する。
【0086】
第一の環状領域(5a)及び第三の環状領域(5c)は、表面側をウール繊維を主とした編糸とし、裏面側を太さ20デニールのスパンデックス繊維を芯糸とするカバーリング糸とした添糸編組織によって構成した。また、第二の環状領域(5b)及び第四の環状領域(5d)は、表面側を先と同じウール繊維を主とした編糸とし、裏面側をナイロン繊維を主とした編糸とした添糸編組織によって構成した。また、これら環状領域の幅はいずれもほぼ同じく約2cmに設定している。なお、図に表れている通り、環状領域は筒状構造の全体にわたって反復して設けているが、これらについては単純な繰り返しであるので説明は省略する。
【0087】
靴下(1)の袋状構造(3)や踵部(4)についても、従来技術に係る靴下と同様の構成としているので詳細の説明は省略する。
【0088】
本実施形態に係る繊維製品である靴下では、装用時に視認される表面側は特有の艶のある風合いを備えるウール繊維を主とした編糸で構成されるため、通常の靴下と同じく美しい外観を備える。
【0089】
次に、第一の環状領域(5a)及び第三の環状領域(5c)は弾性に富むスパンデックス繊維を芯糸とする編糸を裏糸とした編組織であるので、これら領域(及び、反復して設けられる環状領域)は装用時に一定の締め付け圧力を有する。しかし、スパンデックス繊維の太さは20デニールと極めて細いものを選択しているため、絶対値としての締め付け圧力は10hPaよりもかなり小さなものである(なお、一般的な靴下では180デニール程度のスパンデックス糸を用いる)。
【0090】
また、第二の環状領域(5b)及び第四の環状領域(5d)にはいわゆる弾性糸を使用しない編組織としているので、この領域の装用時の締め付け圧力はきわめて弱く、ほとんどゼロに近い。
【0091】
従って、第一の環状領域(5a)から第四の環状領域(5d)の締付圧力をそれぞれP1からP4とすると、P1=P3>P2=P4なる関係が成り立つ。この関係は、(1)に記載したP1>P2、P2<P3、P3>P4なる関係を満足するものである。
【0092】
このようにすることで、第2の環状領域(5b)や第4の環状領域(5d)で生じた小さなずれはそれぞれ第1の環状領域や第3の環状領域で支えられて、さらに伝播することが無い。このため、ずれが集積して大きなたるみとなり、装用者に不快感を感じさせる事態には至らない。さらに、第2の環状領域や第4の環状領域は幅の小さな僅かな領域であり、これら部分で発生しようとするずれは小さな保持力で阻止可能であり、第一の環状領域(5a)及び第三の環状領域(5c)の締め付け圧を通常よりもはるかに小さなものとしてもずれを防止することが出来る。
【0093】
また、仮に第一の環状領域(5a)及び第三の環状領域(5c)の締め付け圧が装用者にとって過多であり、皮膚への食い込みが始まろうとしても、これらに挟まれた第二の環状領域(5b)が両側から引っ張られる形となって締め付け圧を分散することとなり、装用者の皮膚への締付を緩和する働きをする。なお、実際には環状領域の幅を約2cmとしているため、そもそも皮膚への食い込みはほとんど発生しない。
【0094】
以上の通り、本発明に係る繊維製品である靴下は、高齢者等の皮膚の弱い装用者が装用しても内出血を発生したり、かゆみ・かぶれを生じたり、あるいは、装用終了後に皮膚に締め付けの痕跡が長く残るといった不都合を発生しにくく、しかも、ずれが生じてたるみが発生して保温機能を喪失したり不快感を感じることも無いというすぐれた効果を奏するものである。
【実施例2】
【0095】
図2は、本発明の別の一実施例である繊維製品である靴下の説明図である。符号は実施例1の場合と共通としているので説明を省略する。
【0096】
本実施例では、第一の環状領域(5a)の幅と比べて第三の環状領域(5c)の幅が広く設定されていることが特徴である。実際には、反復される環状領域のうち、締め付け圧が強い環状領域の幅が開口部(6)から踵部(4)に向かうにつれて徐々に広く設定される。具体的には、もっとも開口部に近い締め付け圧が強い環状領域の幅を約15mmとし、最も踵部に近い締め付け圧が強い環状領域の幅を30mmとし、これらの間の締め付け圧が強い環状領域の幅は徐々に変化するように設定している。
【0097】
一般に、脹脛付近は足首付近と比較すると周長が大きいことが多く、この為、靴下を装用した際の筒状構造の伸びは脹脛付近の方が足首付近よりも大きくなる。第一の環状領域等の締め付け圧が強い環状領域の締め付け力は、弾性糸の弾性力によって発生するものであるから、実際の締め付け圧力は脹脛付近が足首付近よりも大きくなることになる。これによって、装用者が脹脛部分に圧迫感を感じる場合がある。
【0098】
そこで、脹脛付近の締め付け圧が強い環状領域の幅を狭く設定することにより、脹脛部分に働く締め付け力を小さくして圧迫感を感じることを防止するのである。
【実施例3】
【0099】
実施例3は、外観上は実施例と同じ図1のように現れる。符号は実施例1の場合と共通としているので説明を省略する。
【0100】
本実施例は、第一の環状領域(5a)の裏糸に使用するスパンデックス繊維を20デニールの太さとし、次の締め付け圧が強い環状領域(第三の環状領域(5c))の裏糸に使用するスパンデックス繊維を30デニールの太さとし、次の締め付け圧が強い環状領域の裏糸に使用するスパンデックス繊維を40デニールの太さとしというように、開口部(6)から踵部(4)に向かうにつれて徐々に太い(デニール数の大きい)弾性糸を使用している。なお、使用する弾性糸の太さは、最小10デニール、最大70デニールとしている。
【0101】
このようにすることで、脹脛付近の方が同じ伸びに対して発生する締め付け力は大きくなる。しかし、実施例2で説明したとおり、一般に、脹脛付近は足首付近と比較すると周長が大きいことが多いので実際にはこのようにすることで脹脛部分に働く締め付け力を小さくして圧迫感を感じることを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したとおり、本発明は高齢者のような皮膚の弱い装用者であっても皮膚障害を発生せず、しかも、装用時のずれも抑制可能な靴下等を提供可能とするものであり、産業上の価値は頗る高い。
【符号の説明】
【0103】
1 靴下
2 筒状構造
3 袋状構造
4 踵部
5a 第一の環状領域
5b 第二の環状領域
5c 第三の環状領域
5d 第四の環状領域
6 開口部
7 爪先部
図1
図2