特許第6971092号(P6971092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971092エンジン始動制御装置及びエンジン始動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971092
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】エンジン始動制御装置及びエンジン始動方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20211111BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20211111BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20211111BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20211111BHJP
   F02D 45/00 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
   F02D9/02 305B
   F02N11/08 L
   F02D41/06
   F02D29/02 321B
   !F02D45/00 395
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-165942(P2017-165942)
(22)【出願日】2017年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-44622(P2019-44622A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】天野 良彦
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−226540(JP,A)
【文献】 特開2011−137400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/00 − 45/00
F02N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ電力によるエンジン始動時にスロットルバルブの開度をエンジンの回転数がアイドリングにおける目標回転数に早期に安定するように設定された始動目標開度に調整するエンジン始動制御装置であって、
クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量が大きいほど、前記スロットルバルブが前記始動目標開度になる動作完了のタイミングを遅くすることを特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項2】
クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から一定期間におけるバッテリ電圧の最小値との差分を前記バッテリ電圧の降下量とすることを特徴とする請求項1記載のエンジン始動制御装置。
【請求項3】
クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から下降した前記バッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値との差分を前記バッテリ電圧の降下量とすることを特徴とする請求項1記載のエンジン始動制御装置。
【請求項4】
クランキング開始前のバッテリ電圧に応じて、前記バッテリ電圧の降下量の値と前記スロットルバルブを前記始動目標開度とするタイミングの変化量との関係を変更することを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載のエンジン始動制御装置。
【請求項5】
バッテリ電力によるエンジン始動時にスロットルバルブの開度をエンジンの回転数がアイドリングにおける目標回転数に早期に安定するように設定された始動目標開度に調整するエンジン始動方法であって、
クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量が大きいほど、前記スロットルバルブが前記始動目標開度になる動作完了のタイミングを遅くすることを特徴とするエンジン始動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動制御装置及びエンジン始動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されているように、自動二輪車等にはスロットルバルブが備えられており、スロットルバルブの開度を調整することによってエンジンへの吸気量が調整される。このようなエンジンを停止状態から始動する場合には、エンジンの回転数を短時間で安定させるために、早期にエンジン回転数を上昇させることが好ましい。このため、エンジン始動時には、アイドリング時に求められる吸気量よりも多くの空気がエンジンに供給されるよう、スロットルバルブの開度が大きく(始動目標開度)設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/091014号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの回転数を早期に安定させるためには、できる限り早期にスロットルバルブの開度を始動目標開度とすることが好ましい。このため、イグニッションスイッチがオン状態となった時点でスロットルバルブの開度を始動目標開度とすることが考えられる。
【0005】
しかしながら、イグニッションスイッチがオン状態となった時点でスロットルバルブを始動目標開度とすると、クランキングの開始時点においてスロットルバルブが始動目標開度となっている。このため、クランキング開始時に多くの空気がエンジンの気筒に流入することになり、気筒内に流入した空気の圧縮に要するクランクシャフトのトルクが増加することなる。このとき、バッテリが劣化していると、例えばバッテリの充電レベルが高い状態であっても、バッテリ電圧の急激な降下が生じ、気筒内に流入した空気の圧縮に要するトルクが得られない恐れがある。このような場合には、エンジンの始動性が悪化あるいはエンジンが始動できない可能性がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、エンジン始動時にスロットルバルブの開度をエンジン始動に適した始動目標開度に調整するエンジン始動制御装置及びエンジン始動方法において、劣化したバッテリであっても、より確実にエンジンを始動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、バッテリ電力によるエンジン始動時にスロットルバルブの開度をエンジン始動に適した始動目標開度に調整するエンジン始動制御装置であって、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に応じて上記スロットルバルブを上記始動目標開度とするタイミングを変更するという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から一定期間におけるバッテリ電圧の最小値との差分を上記バッテリ電圧の降下量とするという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1の発明において、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から下降した上記バッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値との差分を上記バッテリ電圧の降下量とするという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、クランキング開始前のバッテリ電圧に応じて、上記バッテリ電圧の降下量の値と上記スロットルバルブを上記始動目標開度とするタイミングの変化量との関係を変更するという構成を採用する。
【0012】
第5の発明は、上記第1〜第4いずれかの発明において、上記降下量が大きいほど、上記スロットルバルブを上記始動目標開度とするタイミングを遅くするという構成を採用する。
【0013】
第6の発明は、バッテリ電力によるエンジン始動時にスロットルバルブの開度をエンジン始動に適した始動目標開度に調整するエンジン始動方法であって、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に応じて上記スロットルバルブを上記始動目標開度とするタイミングを変更するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に応じて、スロットルバルブを始動目標開度とするタイミングを変更する。このように、本発明においては、従来、固定されていたスロットルバルブを始動目標開度とするタイミングが、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量によって可変とされている。このため、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に基づいて、気筒における圧縮負けが生じない範囲で、可能な限り早期にスロットルバルブを始動目標開度にすることができる。したがって、本発明によれば、エンジン始動時にスロットルバルブの開度をエンジン始動に適した始動目標開度に調整するエンジン始動制御装置及びエンジン始動方法において、劣化したバッテリであっても、より確実にエンジンを始動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のエンジン始動制御装置としての機能を含むエンジン制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】インジェクタにおける燃料の噴射タイミングと、イグニッションコイルによる点火タイミングと、スロットルバルブの開度と、イグニッションスイッチのオンオフ状態と、スタータスイッチのオンオフ状態とを示すタイミングチャートである。
図3】エンジン始動時におけるバッテリ電圧の時系列的変化を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態のエンジン始動制御装置としての機能を含むエンジン制御システムが備えるECUのエンジン始動時の処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係るエンジン始動制御装置及びエンジン始動方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
図1は、本実施形態のエンジン始動制御装置としての機能を含むエンジン制御システム1の概略構成を示すブロック図である。エンジン制御システム1は、自動二輪等に搭載されたエンジン20の回転数を制御するためのシステムである。本実施形態におけるエンジン20は、3つの気筒(第1気筒21、第2気筒22及び第3気筒23)を有するレシプロエンジンである。このようなエンジン20は、気筒ごとに、燃料を噴射するインジェクタと、燃料を含む混合気に着火するためのイグニッションコイルとを備えている。なお、以下の説明において、必要に応じて、第1気筒21に設置されたインジェクタ及びイグニッションコイルを第1インジェクタ21a及び第1イグニッションコイル21bと称し、第2気筒22に設置されたインジェクタ及びイグニッションコイルを第2インジェクタ22a及び第2イグニッションコイル22bと称し、第3気筒23に設置されたインジェクタ及びイグニッションコイルを第3インジェクタ23a及び第3イグニッションコイル23bと称する。また、第1インジェクタ21a、第2インジェクタ22a及び第3インジェクタ23aは、例えば各気筒の燃焼室に接続されるポートに配置されており、第1イグニッションコイル21b、第2イグニッションコイル22b及び第3イグニッションコイル23bは各気筒の燃焼室に配置されている。
【0018】
なお、第1気筒21、第2気筒22及び第3気筒23は、それぞれが気筒内に空気を取り込む吸気行程と、空気を圧縮する圧縮行程と、空気と燃料とを燃焼させる爆発行程と、燃焼ガスを気筒から排気する排気行程とを順に行う。各気筒における同一行程は、異なるクランク角で開始される。例えば、第1気筒21の吸気行程と、第2気筒22の吸気行程と、第3気筒23の吸気行程とは、時系列的に異なるタイミング(すなわち異なるクランク角)で開始される。
【0019】
また、第1インジェクタ21a、第2インジェクタ22a及び第3インジェクタ23aに対しては、燃料ポンプ30が接続されている。燃料ポンプ30は、燃料を昇圧すると共に、第1インジェクタ21a、第2インジェクタ22a及び第3インジェクタ23aに昇圧した燃料を供給する。
【0020】
また、エンジン20に対しては、温度センサ24とクランク角センサ25とが設置されている。温度センサ24は、エンジン20の冷却水の温度を計測し、この計測結果を示す信号を出力する。クランク角センサ25は、エンジン20のクランクシャフトに固定されると共にクランクシャフトと共に回転されるロータの歯の通過を示すパルス信号を出力する。このようなパルス信号のパルス間隔は、エンジン20の回転数を示す。つまり、クランク角センサ25は、エンジン20の回転数を含む信号を出力する。
【0021】
また、本実施形態において、ロータは、等間隔で周方向に配列された複数歯を有しているが、周方向の1箇所に欠歯領域(歯が設けられていない領域)を有している。この欠歯領域は、クランクシャフトが、第1気筒21が吸気行程の初期段階となるクランク角である場合に、クランク角センサ25の計測範囲に位置するように配置されている。つまり、クランク角センサ25から出力されるパルス信号では、第1気筒21が吸気行程の初期段階となるクランク角となったときに、略等間隔のパルスが欠損することになる。このクランク角センサ25から出力されるパルス信号においてパルスが欠損するクランク角を、本実施形態においては基準角としている。
【0022】
本実施形態のエンジン制御システム1は、図1に示すように、スロットルバルブ2と、バルブ駆動モータ3と、セルモータ4と、リレー5と、スタータスイッチ6と、イグニッションスイッチ7と、バッテリ8と、エンジン始動制御装置9とを備えている。
【0023】
スロットルバルブ2は、エンジン20の吸気量を調整するためのバルブである。このスロットルバルブ2は、姿勢変更可能な円板状の弁体を備えており、弁体の流れ方向に対する傾斜角度を変更することによって、空気の通過量(すなわちエンジン20の吸気量)を調整する。バルブ駆動モータ3は、例えば3相ブラシレスモータであり、出力軸が不図示の減速機を介してスロットルバルブ2の弁体と結合されている。このバルブ駆動モータ3は、エンジン始動制御装置9の後述するスロットルバルブコントローラ9bから入力される3相駆動信号に応じて回転される。
【0024】
セルモータ4は、バッテリ8から供給される直流電力によって回転動力を生成する直流モータであり、エンジン20のクランクシャフトに接続されている。このセルモータ4は、リレー5及びイグニッションスイッチ7を介してバッテリ8と接続されており、イグニッションスイッチ7がオン状態で、さらにリレー5が通電可能とされた場合に、バッテリ8と電気的に接続される。このようなセルモータ4は、バッテリ8と接続された場合に、バッテリ8から供給される直流電力を回転動力に変換してエンジン20のクランクシャフトに伝達することにより、いわゆるクランキングを行う。
【0025】
リレー5は、セルモータ4とイグニッションスイッチ7との間に配置されており、スタータスイッチ6が押下されている間、イグニッションスイッチ7を介してバッテリ8とセルモータ4とを電気的に接続する。スタータスイッチ6は、例えば自動二輪車のハンドル部分に設置されており、乗員により押下されている間、リレー5を通電可能とするスイッチである。イグニッションスイッチ7は、例えば不図示のキーを挿入しかつ回動させることによって接続されるスイッチである。このイグニッションスイッチ7がオン状態となることによって、バッテリ8の電力がエンジン始動制御装置9の後述のECU9a及びスロットルバルブコントローラ9bに供給される。また、イグニッションスイッチ7がオン状態となることによって、リレー5を介してセルモータ4にバッテリ8の電力を供給可能な状態となる。バッテリ8は、イグニッションスイッチ7を介してエンジン始動制御装置9に接続されている。また、バッテリ8は、イグニッションスイッチ7及びリレー5を介してセルモータ4に接続されている。
【0026】
エンジン始動制御装置9は、ECU(Engine Control Unit)9aと、ECU9aの制御の下にバッテリ電力から3相駆動信号を生成してバルブ駆動モータ3に供給するスロットルバルブコントローラ9bとを備えている。ECU9aは、エンジン20の運転状態を統括的に制御するものであり、演算処理を行うMPU(Micro-processing unit)や各種データやプログラム等を記憶するメモリ等を備えている。また、図1に示すように、ECU9aは、バッテリ8の電圧(バッテリ電圧)を検出するためのバッテリ電圧検出回路9a1を備えている。
【0027】
このようなECU9aは、例えば、温度センサ24やクランク角センサ25等からの入力に基づいて、スロットルバルブ2の開度を算出し、算出したスロットルバルブ2の開度を示す制御信号をスロットルバルブコントローラ9bに入力する。また、ECU9aは、温度センサ24やクランク角センサ25等からの入力に基づいて、第1インジェクタ21a 第1イグニッションコイル21b 第2インジェクタ22a 第2イグニッションコイル22b 第3インジェクタ23a 第3イグニッションコイル23bの制御も行う。なお、ECU9aは、エンジン始動制御のみならず、始動後におけるエンジン20の動作の制御も行う。
【0028】
また、ECU9aは、エンジン20を停止状態から始動する制御(エンジン始動制御)において、スロットルバルブ2の開度を制御する。本実施形態においてECU9aは、エンジン始動制御にて、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に応じてスロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングを設定する。この始動目標開度は、エンジン20の回転数がアイドリングにおける目標回転数に早期に安定するように設定された開度であり、実験やシミュレーションによって予め求められた上でメモリに記憶されている。なお、始動目標開度は、始動前のエンジン20の温度(冷却水の温度)によって変更することが好ましい。このため、本実施形態においては、冷却水の温度と始動目標開度との関係を示すテーブル(目標開度テーブル)がECU9aのメモリに記憶されている。
【0029】
また、ECU9aは、エンジン20がアイドリング可能となるスロットルバルブ2の最小開度(制御ゼロ開度)を記憶している。なお、この制御ゼロ開度は、アイドリングが可能な程度にエンジン20が吸気可能な開度であり、スロットルバルブ2が機械的に全閉となる開度とは異なる。このような制御ゼロ開度は、エンジン20の制御上においてゼロとされる開度であり、実験やシミュレーションによって予め求められた上でメモリに記憶されている。すなわち、制御ゼロ開度をゼロとして、スロットルバルブ2の開度の目標値や検出値が定められる。
【0030】
さらに、ECU9aは、スロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングを決定するための第1バッテリ電圧降下量V1と第2バッテリ電圧降下量V2とを記憶している。これらの第1バッテリ電圧降下量V1及び第2バッテリ電圧降下量V2は、実験やシミュレーションによって予め求められた上でメモリに記憶されている。第1バッテリ電圧降下量V1は、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量がこれ以下であることによってクランキング時にセルモータ4に十分な電力が供給可能であることを示す閾値である。ここで、「セルモータ4に十分な電力が供給可能」とは、低温等が原因でエンジンフリクションが増大しかつクランキング開始時にスロットルバルブ2が始動目標開度である場合であっても、クランクシャフトを回動させるトルクを発生可能な電力がセルモータ4に対して供給されることを意味する。つまり、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量が第1バッテリ電圧降下量V1以下である状態でバッテリ電圧がセルモータ4に印加されることによって、低温等が原因でエンジンフリクションが増大しかつクランキング開始時にスロットルバルブ2が始動目標開度である場合であっても、クランクシャフトを回動させるトルクをセルモータ4で生成することができる。
【0031】
第2バッテリ電圧降下量V2は、第1バッテリ電圧降下量V1よりも大きく、バッテリ電圧がこれを上回ることによってクランキング時にセルモータ4に最小限の電力しか供給できない可能性があることを示す閾値である。ここで、「セルモータ4に最小限の電力しか供給できない」とは、クランキング開始時にスロットルバルブ2が制御ゼロ開度でないとクランクシャフトを回動させるトルクが得られない電力しかセルモータ4に供給できないことを意味する。つまり、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量が第2バッテリ電圧降下量V2を上回る状態でバッテリ電圧がセルモータ4に印加された場合には、スロットルバルブ2が制御ゼロ開度でないとクランクシャフトを回動させるトルクをセルモータ4が生成できない恐れがある。
【0032】
本実施形態においては、ECU9aは、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量をバッテリ電圧検出回路9a1によって検出し、この検出したバッテリ電圧の降下量に基づいてスロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングを変更する。例えば、ECU9aは、バッテリ電圧の降下量が第1バッテリ電圧降下量V1以下である場合には、スロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングをクランキング開始直後とする。また、例えば、ECU9aは、バッテリ電圧の降下量が第1バッテリ電圧降下量V1より大きくかつ第2バッテリ電圧降下量V2以下である場合には、スロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングをクランク角センサ25によって初回欠歯が検知されたタイミングとする。また、例えば、ECU9aは、バッテリ電圧の降下量が第2バッテリ電圧降下量V2よりも大きい場合には、スロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングを完爆(混合気への着火)後とする。つまり、ECU9aは、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量が大きいほど、スロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングを遅らせる。
【0033】
また、ECU9aは、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から下降したバッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値との差分をバッテリ電圧の降下量とする。
【0034】
続いて、図2のタイミグチャート、図3のグラフ及び図4のフローチャートを参照して、本実施形態のエンジン制御システム1によるエンジン始動方法について説明する。なお、図2は、各インジェクタ(第1インジェクタ21a、第2インジェクタ22a及び第3インジェクタ23a)における燃料の噴射タイミングと、各イグニッションコイル(第1イグニッションコイル21b、第2イグニッションコイル22b及び第3イグニッションコイル23b)による点火タイミングと、スロットルバルブ2の開度と、イグニッションスイッチ7のオンオフ状態と、スタータスイッチ6のオンオフ状態とを示すタイミングチャートである。図3は、エンジン始動時におけるバッテリ電圧の時系列的変化を示すグラフである。また、図4は、エンジン始動時のECU9aの処理フローを示すフローチャートである。
【0035】
乗員によってイグニッションスイッチ7がオン状態とされると、バッテリ8とエンジン始動制御装置9とが通電され、ECU9a及びスロットルバルブコントローラ9bにバッテリ8より給電される。ECU9aは、バッテリ8より給電されることで起動されると、図4に示すように、エンジン20が停止中であるか否かの判断を行う(ステップS1)。ここでは、ECU9aは、クランク角センサ25から入力される信号に基づいて、エンジン20が停止中であるか否かの判断を行う。なお、ステップS1においてエンジン20が停止中でないと判断された場合、ECU9aは、エンジン20の始動制御を終了する。
【0036】
そして、ECU9aは、エンジン20が停止中であると判定した場合には、スロットルバルブ2の開度を制御ゼロ開度に調整する処理(ステップS2)を行う。なお、ステップS2では、ECU9aは、スロットルバルブ2の開度を制御ゼロ開度にすることを示す制御信号を出力する。このようにECU9aから出力された制御ゼロ開度とすることを示す制御信号は、スロットルバルブコントローラ9bに入力される。スロットルバルブコントローラ9bは、スロットルバルブ2の開度を制御ゼロ開度とするための駆動信号をバッテリ8の電力から生成し、バルブ駆動モータ3に供給する。この結果、図2に示すように、スロットルバルブ2の開度が制御ゼロ開度TH0となる。
【0037】
続いて、乗員によってスタータスイッチ6がオン状態とされると、バッテリ8からセルモータ4に電力が供給され、セルモータ4によってエンジン20のクランクシャフトが回転されるクランキングが開始される。クランキングが開始され、セルモータ4によってエンジン20のクランクシャフトが回転されると、クランク角センサ25からパルス信号がECU9aに入力される。そして、ECU9aは、クランク角センサ25から入力されるパルス信号により、クランキング中であるか否かの判断を行う(ステップS3)。
【0038】
ECU9aは、ステップS3においてクランキング中でないと判断した場合には、検出されたバッテリ電圧を高バッテリ電圧値Vmaxとして取得する(ステップS4)。つまり、ECU9aは、クランキング開始前のバッテリ電圧を高バッテリ電圧値Vmaxとして取得する。
【0039】
また、ECU9aは、ステップS3においてクランキング中であると判断した場合には、検出されたバッテリ電圧を低バッテリ電圧値Vminとして取得する(ステップS5)。さらに、ECU9aは、バッテリ電圧が上昇したか否かの判断を行い(ステップS6)、バッテリ電圧が上昇するまで低バッテリ電圧値Vminの更新を行う(ステップS7)。つまり、ECU9aは、クランキング開始から下降したバッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値を低バッテリ電圧値Vminとする。
【0040】
ECU9aは、ステップS6で、バッテリ電圧が上昇したと判断した場合には、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量Vdの算出を行う(ステップS8)。ここで、ECU9aは、高バッテリ電圧値Vmaxと低バッテリ電圧値Vminとの差分を降下量Vdとして算出する。つまり、図3に示すように、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から下降したバッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値との差分が降下量Vdとなる。
【0041】
続いて、ECU9aは、降下量Vdが第1バッテリ電圧降下量V1以下であるか否かを判断する(ステップS9)。ECU9aは、降下量Vdが第1バッテリ電圧降下量V1以下であると判断すると、スロットルバルブ2の始動目標開度を設定する(ステップS10)。ここでは、ECU9aは、エンジン20の冷却水温度と始動目標開度との関係を規定した目標開度テーブルと、温度センサ24から入力される計測結果とに基づいて、始動目標開度を設定する。そして、始動目標開度が設定されると、ECU9aは、スロットルバルブ2の開度を始動目標開度にすることを示す制御信号を出力する(ステップS11)。このようにECU9aから出力された始動目標開度とすることを示す制御信号は、スロットルバルブコントローラ9bに入力される。スロットルバルブコントローラ9bは、スロットルバルブ2の開度を始動目標開度とするための駆動信号をバッテリ8の電力から生成し、バルブ駆動モータ3に供給する。この結果、スロットルバルブ2の開度が始動目標開度THMとなる。つまり、本実施形態においてECU9aは、図2のスロットルバルブ開度(a)に示すように、降下量Vdが第1バッテリ電圧降下量V1以下であるには、クランキングを開始した直後に、スロットルバルブ2の開度を始動目標開度THMとする。
【0042】
ECU9aは、ステップS9において降下量Vdが第1バッテリ電圧降下量V1より大きいと判断した場合には、降下量Vdが第2バッテリ電圧降下量V2よりも大きいか否かを判断する(ステップS12)。ECU9aは、降下量Vdが第2バッテリ電圧降下量V2よりも大きくないと判断すると、クランク角センサ25によって初回欠歯が検出されるまで待機する(ステップS13)。ECU9aは、クランク角センサ25から入力されるパルス信号にパルスの欠損がありかつこれがステップS3以降初回であった場合に、初回欠歯が検出されたと判断する。そして、ECU9aは、初回欠歯が検出されたと判断すると、ステップS10に移行する。つまり、本実施形態においてECU9aは、図2のスロットルバルブ開度(b)に示すように、降下量Vdが第1バッテリ電圧降下量V1より大きく第2バッテリ電圧降下量V2以下である場合には、クランキングを開始して初回欠歯が検出されるまで、スロットルバルブ2の開度を始動目標開度THMとするのを待つ。
【0043】
ECU9aは、ステップS11が完了すると、クランク角センサ25によって2回目の欠歯が検出されるまで待機する(ステップS14)。クランク角センサ25から入力されるパルス信号にパルスの欠損がありかつこれがステップS3以降の2回目であった場合に、2回目の欠歯が検出されたと判断する。そして、ECU9aは、2回目の欠歯が検出されたと判断すると、各気筒の行程を確定する(ステップS15)。ECU9aは、例えば不図示の吸気圧センサからの入力に基づいて、各気筒の行程を確定する。そして、2回目欠歯の検出以降は、ECU9aは、エンジン回転数やアクセル開度等に基づいて、所定のタイミングで繰り返し、インジェクタから燃料を噴射及びイグニッションコイルへの給電を行う。また、エンジン20は、いずれかの気筒において完爆(混合気への着火)した後は、上述のインジェクタから燃料を噴射及びイグニッションコイルへの給電により、連続的に動作を継続する。
【0044】
また、ECU9aは、ステップS12において降下量Vdが第2バッテリ電圧降下量V2よりも大きいと判断した場合には、クランク角センサ25によって2回目欠歯が検出されるまで待機する(ステップS16)。さらに、ECU9aは、いずれかの気筒にて混合気に着火された状態である完爆となるまで待機する(ステップS17)。ここでは、ECU9aは、クランク角センサ25から入力されるパルス信号のパルス間隔に基づいて完爆したか否かを判断する。
【0045】
ECU9aは、ステップS17で完爆したと判断した場合には、各気筒の行程を確定し(ステップS18)、その後、スロットルバルブ2の始動目標開度THMを設定し(ステップS19)、スロットルバルブ2の開度を始動目標開度THMにすることを示す制御信号を出力する(ステップS20)。なお、ステップS18は上述のステップS15と同一の処理であり、ステップS19は上述のステップS10と同一の処理であり、ステップS20は上述のステップS11と同一の処理である。つまり、本実施形態においてECU9aは、図2のスロットルバルブ開度(c)に示すように、降下量Vdが第2バッテリ電圧降下量V2よりも大きい場合には、いずれかの気筒で完爆するまで、スロットルバルブ2の開度を始動目標開度THMとするのを待つ。
【0046】
なお、エンジン20の設計の際、気筒数が多いほど、全てのクランク角(360°)においていずれかの気筒を吸気行程としやすいため、スロットルバルブ2を始動目標開度とすることによって、素早く多くの空気をいずれかの気筒に供給することができる。この場合、クランキング開始直後の圧縮負けが生じる可能性のある期間を経過して直ぐに、多くの空気を気筒に供給することができ、より早期にエンジン回転数を安定させることが可能となる。
【0047】
以上のような本実施形態のエンジン始動制御装置9を備えるエンジン制御システム1によれば、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に応じて、スロットルバルブ2を始動目標開度THMとするタイミングを変更する。このように、本実施形態のエンジン始動制御装置9を備えるエンジン制御システム1においては、従来、固定されていたスロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングが、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量によって可変とされている。このため、クランキング開始によるバッテリ電圧の降下量に基づいて、気筒における圧縮負けが生じない範囲で、可能な限り早期にスロットルバルブを始動目標開度にすることができる。したがって、本実施形態のエンジン始動制御装置9を備えるエンジン制御システム1によれば、劣化したバッテリ8であっても、より確実にエンジン20を始動させることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態のエンジン始動制御装置9を備えるエンジン制御システム1においては、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から下降したバッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値との差分をバッテリ電圧の降下量Vdとしている。このため、クランキング開始からの電圧降下の最初のボトムピーク値に基づいて降下量Vdを求めることができ、短時間で降下量Vdを求めることができる。
【0049】
また、本実施形態のエンジン始動制御装置9を備えるエンジン制御システム1においては、降下量Vdが大きいほど、スロットルバルブ2を始動目標開度THMとするタイミングを遅くする。エンジン始動時にセルモータ4が発生する必要があるトルクは、エンジン回転数の上昇に伴って減少する。このため、降下量Vdが大きいすなわちバッテリ8の劣化が進行しているほどスロットルバルブ2を始動目標開度THMとするタイミングを遅くすることによって、より確実に気筒における圧縮負けを防止することができる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から下降したバッテリ電圧が上昇に転じるまでの間に取得されたバッテリ電圧の最小値との差分をバッテリ電圧の降下量Vdとする構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、クランキング開始前のバッテリ電圧と、クランキング開始から一定期間におけるバッテリ電圧の最小値との差分をバッテリ電圧の降下量Vdとしても良い。このような場合には、一定期間中にバッテリ電圧の値に複数のボトムピークが発生したとしても、最も小さい値に基づいてバッテリ電圧の降下量Vdを求めることができる。
【0052】
また、クランキング開始前のバッテリ8の充電量によって、同様の劣化状態であっても、降下量Vdが異なる可能性がある。このため、上記実施形態において、クランキング開始前のバッテリ電圧に応じて、バッテリ電圧の降下量Vdの値とスロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングの変化量との関係を変更するようにしても良い。つまり、クランキング開始前のバッテリ電圧に応じて、第1バッテリ電圧降下量V1と第2バッテリ電圧降下量V2を変更するようにしても良い。これによって、バッテリ8の充電レベルも考慮としてスロットルバルブ2を始動目標開度とするタイミングを最適化することができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、エンジン20が3つの気筒(第1気筒21、第2気筒22及び第3気筒23)を備える構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、単気筒や3気筒以外の複数気筒のエンジンを始動するために適用することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1……エンジン制御システム、2……スロットルバルブ、3……バルブ駆動モータ、4……セルモータ、5……リレー、6……スタータスイッチ、7……イグニッションスイッチ、8……バッテリ、9……エンジン始動制御装置、9a……ECU、9b……スロットルバルブコントローラ、……20……エンジン、21……第1気筒、22……第2気筒、23……第3気筒、24……温度センサ、25……クランク角センサ、30……燃料ポンプ
図1
図2
図3
図4