(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示に係るゲル電解質は、少なくともマトリクス材および電解液により構成されるゲル状体であり、かつ、架橋可能な反応基を含むものであって、当該反応基を架橋反応させて硬化することにより、電気化学デバイスが備える電解質として用いられるものである。電解液は、イオン性物質および電解液溶媒から少なくとも構成されるが、本開示に係るゲル電解質においては、当該ゲル電解質(ゲル状体)に含まれる反応基の質量が、電解液溶媒の質量に対して0.03質量%以上6.5質量%以下の範囲であるとともに、反応基が未反応の状態におけるゲル電解質(ゲル状体)は、そのせん断弾性率が1MPa以上の強度を有している。
【0024】
以下、本開示に係るゲル電解質の代表的な構成例について具体的に説明する。なお、本開示に係るゲル電解質は、前記の通り未反応の反応基を含んでいるため、この反応基の架橋反応が進行することで、ゲル電解質の硬化度が上昇する。以下の説明では、このように、架橋反応の進行により硬化度が上昇したゲル電解質を「硬質ゲル電解質」と称する。また、単に「ゲル電解質」と称する場合、硬化度が上昇する前のゲル電解質を意味するものとする。
【0025】
[ゲル電解質(ゲル状体)の組成]
前記の通り、本開示に係るゲル電解質は、マトリクス材および電解液を主成分とするゲル状体であるが、このゲル状体には、未反応の反応基が含まれている。この反応基は、マトリクス材が有するものであってもよいし電解液が有するものであってもよいし、マトリクス材および電解液の双方が反応基を有してもよいし、マトリクス材および電解液以外の成分が反応基を有してもよい。後述するように、ゲル状体(ゲル電解質)には、マトリクス材および電解液以外の成分が含有されてもよい。代表的な他の成分としては反応基を有する後硬化剤が挙げられる。
【0026】
ゲル状体を構成するマトリクス材としては、電解液を含んだ状態でゲル状体を形成することができるものであれば特に限定されない。マトリクス材は、水素結合等の非共有結合により三次元構造を形成する物理ゲルであってもよいし、共有結合により三次元構造を形成する化学ゲルであってもよい。本開示では、ゲル状体が架橋反応可能な反応基を有していればよいので、マトリクス材が未反応の反応基を有してもよい。
【0027】
すなわち、本開示においては、例えば、マトリクス材が物理ゲルを形成する化合物(便宜上、物理ゲル化合物とする)であって、当該マトリクス材に電解液を添加することで非共有結合によりゲル状体(ゲル電解質)が形成され、このゲル状体が未反応の反応基を有している構成を挙げることができる。あるいは、本開示においては、マトリクス材が化学ゲルを形成する化合物(便宜上、化学ゲル化合物とする)であって、マトリクス材が有する反応基の一部を先に架橋させることにより、半硬化状態のゲル状体(ゲル電解質)が形成され、この半硬化状態のゲル状体では、未反応の反応基が残存している構成であってもよい。
【0028】
このとき、ゲル状体が有する(あるいは残存する)反応基の質量比は、前記の通り、電解液溶媒の質量に対して0.03質量%以上6.5質量%以下の範囲であればよい(後述するゲル電解質の第一条件)。反応基は、前記の通り、マトリクス材および電解液の少なくとも一方が有するものであってもよいし、他の成分が有するものであってもよい。それゆえ、反応基の質量比は、後述する実施例で例示するように、反応基を有する成分の1分子の分子量に対する反応基の分子量の比(分子量比)を用いて算出することができる。
【0029】
ここで、未反応の反応基を有するゲル電解質は、硬化が十分に進行していない状態であるといえるが、この状態を便宜上「未硬化状態」と称する。また、未硬化状態のゲル電解質において反応基の架橋反応が進行して硬度が上昇し、硬質ゲル電解質となれば、この状態を便宜上「硬化状態」と称する。なお、前述した「半硬化状態」とは、マトリクス材が化学ゲル化合物である場合に、当該化合物が有する全ての反応基のうち一部が反応した状態を意味する。
【0030】
したがって、化学ゲル化合物が有する全ての反応基のほとんどが未反応の状態では、当該化学ゲル化合物はゲルを形成していない。また、化学ゲル化合物の一部の反応基を架橋反応させた状態が「半硬化状態」であり、当該化学ゲル化合物はゲル化している。この半硬化状態の化学ゲル化合物は、電解液溶媒の質量に対して0.03〜6.5質量%の範囲内で反応基が残存しているので、本開示に係るゲル電解質(ゲル状体)に相当する。それゆえ、半硬化状態の化学ゲル化合物(すなわちゲル電解質)は「未硬化状態」であるということができる。そして、半硬化状態の化学ゲル化合物に残存する反応基の架橋反応が進行して硬度が上昇すれば、当該化学ゲル化合物は、硬化状態の硬質ゲル電解質となる。
【0031】
マトリクス材の具体的な構成については特に限定されない。一般的には、マトリクス材は高分子材料を挙げることができる。本開示に係るゲル電解質の用途、すなわち、本開示に係るゲル電解質を用いて作製(製造)される電気化学デバイスの種類等に応じて、好適なマトリクス材を適宜選択することができる。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しているが、この場合には、マトリクス材としては、ポリマー系、無機物系、または低分子系を好適に用いることができる。
【0032】
ポリマー系としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PDVF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PDVF−HFP)等のフッ化物系ポリマー;ポリアクリロニトリル(PAN)等のアクリル系樹脂またはメタクリル系樹脂;等を挙げることができるが特に限定されない。また、無機物系としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、シリカ/アルミナ混合粒子、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化ジルコニウム粒子等を挙げることができるが特に限定されない。低分子系としては、例えば、脂肪酸エステル誘導体、シクロヘキサン誘導体、アミノ酸誘導体、環状ペプチド誘導体、アルキルヒドラジド誘導体等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0033】
これらマトリクス材は、1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜選択して組み合わせて用いてもよい。例えばポリマー系のマトリクス材を複数種類併用してもよいし、ポリマー系および無機物系のマトリクス材をそれぞれ1種類以上併用してもよい。あるいは、ポリマー系、無機物系、および低分子系をそれぞれ1種類以上選択して併用してもよい。
【0034】
前記の通り、ゲル状体には、反応基を有する後硬化剤が含有されてもよい。この後硬化剤は、反応基が未反応の状態では、マトリクス材とは別の成分と見なすことができるが、反応基による架橋反応が十分に進行すればマトリクス材の一部を構成することになる。それゆえ、ゲル状体の組成等にもよるが、後硬化剤はマトリクス材の一部として取り扱うことができる。
【0035】
後硬化剤の具体的な構成については特に限定されず、本開示に係るゲル電解質の組成または用途(電気化学デバイス)の種類等に応じて、好適な反応性化合物を選択することができる。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しており、マトリクス材として前述したポリマー系または無機物系を例示しているが、この場合には、後硬化剤としては、アクリレート系またはオキセタン系の反応性化合物を挙げることができる。
【0036】
アクリレート系化合物としては、具体的には、例えば、四官能ポリエーテルアクリレート、二官能ポリエーテルアクリレート、その他のAO付加アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等を挙げることができるが、特に限定されない。また、オキセタン系化合物としては、メチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体等を挙げることができるが、特に限定されない。これら後硬化剤は1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0037】
なお、マトリクス材が、例えば、前述したように、未反応の反応基を有する化学ゲル化合物である場合には、先に一部の反応基を架橋させて半硬化状態のゲル状体(ゲル電解質)を形成するために、後硬化剤と同種または別種の硬化剤を用いることがあり得る。この場合、半硬化状態を実現するために先に用いられる硬化剤を、後硬化剤に対比させて「前硬化剤」と称するものとする。
【0038】
ゲル電解質が含有する反応基は、架橋することでゲル電解質の硬化度を上昇させる。この反応基の具体的な種類は特に限定されず、ゲル電解質の組成または用途(電気化学デバイス)の種類等に応じて、好適な反応基を選択することができる。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しており、マトリクス材として前述したポリマー系または無機物系を例示している。この場合には、次に例示するような反応基を好適に用いることができる。
【0039】
具体的な反応基としては、(メタ)アクリル基(アクリル基およびメタアクリル基)、アリル基等の二重結合性官能基;エポキシ基、オキセタン基等のオキシラン系官能基;チオール基;アミノ基およびカルボキシ基(アミド結合)、ヒドロキシ基およびカルボキシ基(エステル結合)等の縮合反応系の官能基の組合せ;イソシアネート基およびヒドロキシ基(ウレタン結合)、イソシアネート基およびアミノ基(ウレア結合)等のイソシアネート系反応の官能基の組合せ;等が挙げられる。これら官能基(または官能基の組合せ)は、ゲル電解質(ゲル状体)に1種類のみ含まれてもよいし、2種類以上含まれてもよい。また、マトリクス材が、未反応の反応基を有する化学ゲル化合物である場合には、当該化合物がこれら官能基(またはその組合せ)の少なくとも1種類を有する構成であってもよい。
【0040】
ゲル電解質を構成する電解液は、電気化学デバイスにおいて電気化学反応を呈することが可能なものであればよい。電解液のより具体的な構成については、マトリクス材と同様に具体的に限定されず、ゲル電解質の組成または用途(電気化学デバイス)の種類、電解液とともにゲル電解質を構成するマトリクス材の種類等に応じて、好適な組成の電解液を好適に用いることができる。
【0041】
本開示における電解液は、前記の通り、イオン性物質および電解液溶媒から少なくとも構成される組成物であればよい。なお、電解液溶媒とは、本実施の形態では、電気化学デバイスの電解液を構成する溶媒を意味する。また、イオン性物質としては、様々な塩を用いることができる。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しているので、本実施の形態では、イオン性物質として、リチウム塩を挙げることができる。
【0042】
リチウム塩としては、代表的には、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6 )、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO
4 )、四ホウ酸リチウム(LiBF
4 )等が挙げられるが、特に限定されない。
【0043】
電気化学デバイスがリチウムイオン電池である場合には、電解液溶媒としては、例えば、カーボネート系溶媒、イオン液体、ニトリル系溶媒、エーテル系溶媒等を挙げることができるが特に限定されない。
【0044】
代表的な電解液溶媒としては、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートの混合溶媒を挙げることができる。環状カーボネートとしては、代表的には、エチレンカーボネート(EC)またはプロピレンカーボネート(PC)が挙げられ、鎖状カーボネートとしては、代表的には、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられるが特に限定されない。
【0045】
また、他の代表的な電解液溶媒としては、イオン液体を挙げることができる。具体的には、例えば、1,2−エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1,2−エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(略称:EMImFSI)、N−メチルプロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、N−メチルプロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、シエチルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、ジアリルジメチルアンモニウム(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジアリルジメチルアンモニウム(フルオロスルホニル)イミド等が挙げられるが、特に限定されない。
【0046】
硬化度が上昇する前のゲル電解質には、マトリクス材および電解液以外に他の成分(その他の成分)が含有されてもよい。その他の成分としては、前述した後硬化剤が挙げられるが、これ以外には、例えば、各種添加剤を挙げることができる。具体的な添加剤としては、例えば、マトリクス材に含まれる未架橋の反応基の架橋反応を促進するために用いられる、開始剤を挙げることができる。例えば、後述する実施例では、開始剤として、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を用いている。
【0047】
[ゲル電解質および硬質ゲル電解質の構成]
本開示に係るゲル電解質においては、当該ゲル電解質(ゲル状体)に含まれる反応基の質量が、電解液溶媒の質量に対して0.03〜6.5質量%の範囲内であればよい。また、本開示に係るゲル電解質においては、そのせん断弾性率が1MPa以上であればよい。すなわち、本開示に係るゲル電解質は、未反応の反応基の質量比を所定範囲内に限定するという「第一条件」と、反応基が未反応の状態におけるせん断弾性率の下限を所定値に限定するという「第二条件」との双方を満たすものとなっている。
【0048】
ゲル電解質の第一条件である反応基の電解液溶媒に対する質量比は、前記の通り、反応基を有する成分の1分子の分子量に対する反応基の分子量の比(分子量比)を用いて算出すればよい。例えば、後述する実施例では、ゲル電解質は、後硬化剤が反応基を有しているが、後硬化剤の分子量に対する反応基の分子量の比を算出し、この分子量比に基づいて、後硬化剤の配合量から反応基の質量を算出している。この反応基の質量が、ゲル電解質に含有される電解液溶媒の質量に対して0.03〜6.5質量%の範囲内に入っていればよい。
【0049】
ゲル電解質が第一条件を満たすことによって、未硬化状態のゲル電解質には、適量の未反応の反応基が含まれることになる。それゆえ、反応基の架橋反応が進行して硬質ゲル電解質になっても、当該硬質ゲル電解質は十分な量の電解液を保持することができる。また、架橋反応の進行に伴ってマトリクス材から電解液の一部を漏出させることも可能になる。それゆえ、未硬化状態のゲル電解質を用いて電気化学デバイスを作製してから、架橋反応を進行させれば、電気化学デバイスが備える電極の接触面に漏出した電解液を良好に接触させることができる。これにより、電気化学デバイスにおいて良好な電気化学反応の実現が可能になる。
【0050】
ゲル電解質の第二条件である未硬化状態のゲル電解質のせん断弾性率は、公知の測定方法または評価方法によりゲル電解質のせん断弾性率を測定または評価すればよい。後述する実施例では、各実施例または比較例で得られた未硬化状態のゲル電解質について、株式会社島津製作所製卓上形精密万能試験機(製品名:オートグラフAGS−X)を用い、5mmφの押込治具を装着し、0.05N予備負荷をかけた後に、0.05mm/分の速度で押込み試験を実施し、当該押込み試験の結果から下記式(1)により、せん断弾性率を測定している(単位:MPa)。
【0051】
せん断弾性率(G)=0.36Fg[(D−h)/h]
3/2/R
2 ・・・ (1)
ただし、上記式(1)におけるFは押込み試験の荷重(試験力)であり、gは重力加速度であり、Dはゲル電解質(ゲル状体)の厚さ(膜厚)であり、hは荷重による厚さ(膜厚)変化であり、Rは押込み試験の球状圧子の球半径である。また、上記式(1)によるせん断弾性率の算出では、参考文献1:D J Taylor and A M Kragh, “Determination of the rigidity modulus of thin soft coatings by indentation measurements” Journal of Physics D: Applied Physics, United Kingdom, IOP Publishing, January 1970, Volume 3, Number 1, 29 を参考とした。
【0052】
ゲル電解質が第二条件を満たすことによって、また、未硬化状態であってもゲル電解質のせん断弾性率が1MPa以上であるので、当該ゲル電解質は良好な強度を有していることになる。それゆえ、ゲル電解質において良好な取扱性を実現することができるので、電気化学デバイスの作製の非効率化を抑制することができる。さらに、前記の通り、未硬化状態のゲル電解質を用いて電気化学デバイスを作製してから、架橋反応を進行させればよいので、電気化学デバイスの製造過程において注液工程が不要となる。それゆえ、注液が不十分になるおそれ、あるいは、注液が不十分になることに由来する性能低下等のおそれを回避することができる。
【0053】
ここで、ゲル電解質の第一条件である反応基の質量比の下限は、電解液溶媒の質量に対して0.03質量%以上であればよいが、0.04質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。反応基の質量が電解液溶媒の質量の0.03質量%未満であれば、ゲル電解質に含まれる反応基の量が適量よりも少なくなり、硬化状態の硬質ゲル電解質において良好な強度が実現できなくなり、短絡等が発生しやすくなる恐れがある。また、架橋反応の進行に伴う電解液の漏出量が少なくなって、電気化学デバイスの電極の接触面に電解液を良好に接触できなくなり、電気化学デバイスにおいて十分な性能を実現できないおそれもある。
【0054】
また、反応基の質量比の上限は、電解液溶媒の質量に対して6.5質量%以下であればよいが、6.3質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましい。反応基の質量が電解液溶媒の質量の6.5質量%を超えれば、ゲル電解質に含まれる反応基の量が過剰になり、硬質ゲル電解質のイオン伝導度が低下し、電気化学デバイスにおいて十分な性能を実現することができなくなるおそれがある。また、架橋反応の進行に伴う電解液の漏出量が多くなって、硬化状態(硬質ゲル電解質)において十分な量の電解液を保持することができないおそれもある。
【0055】
ゲル電解質の第二条件である、未硬化状態のせん断弾性率は、その下限が1MPa以上であればよいが、2MPa以上であることが好ましく、5MPa以上であることがより好ましい。せん断弾性率が1MPa未満であれば、未硬化状態のゲル電解質の強度が低下するため、その取扱性も低下し、電気化学デバイスの作製(製造)が非効率化するおそれがある。なお、せん断弾性率の上限は特に限定されず、硬化状態となった硬質ゲル電解質において十分な電解液を保持できればよい。
【0056】
本開示に係るゲル電解質においては、前述した第一条件および第二条件に加えて、第三条件として、電解液溶媒の質量が、当該ゲル電解質(ゲル状体)の全質量に対して20質量%以上80質量%以下の範囲である第三条件、および、マトリクス材の質量が、当該ゲル電解質(ゲル状体)の全質量に対して1.0質量%以上10質量%以下の範囲である第四条件のいずれか一方を満たすことが好ましく、第三条件および第四条件の双方を満たすことがより好ましい。
【0057】
ゲル電解質が第三条件を満たすことによって、ゲル電解質および硬質ゲル電解質のいずれにおいても、より適切な量の電解液が保持されていることになる。それゆえ、電気化学デバイスにおいて良好なイオン伝導度を実現でき、電気化学デバイスの性能をより向上させることができる。ただし、ゲル電解質が第三条件を満たさない場合であっても、第一条件および第二条件の双方を満たすことによって、十分に実用性のある電気化学デバイスを製造することができる。
【0058】
また、ゲル電解質が第四条件を満たすことによって、ゲル電解質および硬質ゲル電解質のいずれにおいても、より適切な量のマトリクス材を含有していることになる。それゆえ、硬質ゲル電解質において良好な強度を実現できるとともに、電気化学デバイスの性能をより向上させることができる。ただし、ゲル電解質が第四条件を満たさない場合であっても、第一条件および第二条件の双方を満たすことによって、十分に実用性のある電気化学デバイスを製造することができる。
【0059】
ゲル電解質の具体的な形状は特に限定されず、電気化学デバイスの種類または用途等の諸条件に応じて好適な形状を形成することができる。特に、本開示においては、ゲル電解質はゲル状であるため、所望の形状に容易に形成することができる。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しているので、ゲル電解質の形状としてはシート形状を挙げることができる。
【0060】
ゲル電解質がシート形状である場合、その厚さ(ゲル電解質の膜厚)は特に限定されないが、一般的には、5μm以上100μm以下の範囲を挙げることができる。シート状のゲル電解質の厚さがこの範囲から外れると、リチウムイオン電池(あるいは他の電気化学デバイス)の種類、寸法、具体的形状等の諸条件によるが、十分な電池性能(あるいは他の電気化学デバイスの性能)が発揮できないおそれがある。
【0061】
硬質ゲル電解質は、ゲル電解質の反応基の架橋反応を進行させて硬度を上昇させたものであるが、硬質ゲル電解質の具体的な構成は特に限定されない。ただし、硬質ゲル電解質においては、イオン伝導度が0.8mS/cm以上であるという第一条件、または、せん断弾性率が6MPa以上であるという第二条件のいずれか一方を満たすことが好ましく、第一条件および第二条件の双方を満たすことがより好ましい。
【0062】
硬質ゲル電解質におけるイオン伝導度が0.8mS/cm以上、好ましくは1.0mS以上であれば、良好な電気化学反応の実現が可能になるので、電気化学デバイスにおいて十分な性能を発揮することができる。これに対して、イオン伝導度が0.8mS/cm未満であれば、電気化学デバイスの種類にもよるが、良好な電気化学反応が実現できない可能性があるので、十分な性能を発揮できないおそれがある。
【0063】
また、硬質ゲル電解質におけるせん断弾性率が6MPa以上であれば、電気化学デバイスにおける電解質層を良好に保持できるので、十分な性能を発揮することができる。これに対して、硬質ゲル電解質のせん断弾性率が6MPa未満であれば、電気化学デバイスの種類にもよるが、電解質層を良好に保持できない可能性があるので、十分な性能を発揮できないおそれがある。
【0064】
なお、前述したように、未硬化状態のゲル電解質において反応基の架橋反応を進行させて硬度を上昇させれば、硬化状態の硬質ゲル電解質となるが、この硬化状態の目安としては、硬質ゲル電解質のせん断弾性率6MPaを挙げることができる。もちろん、公知の計測方法によりゲル電解質の硬度を測定し、この硬度の数値または硬度上昇の比率等を基準に、硬化状態を判断してもよいが、本開示においては、未硬化のゲル電解質および硬質ゲル電解質の強度をせん断弾性率で評価しているため、硬度の上昇したゲル電解質のせん断弾性率が6MPa以上であれば、硬質ゲル電解質になったと判断することができる。
【0065】
[ゲル電解質の製造方法]
本開示に係るゲル電解質の製造方法は特に限定されないが、代表的な製造方法として、2種類の希釈溶剤を用いる第一の方法、1種類の希釈溶剤を用いる第二の方法、並びに、希釈溶剤を用いない第三の方法を挙げることができる。この希釈溶剤は、電解液溶媒とは異なる成分であって、ゲル状体(ゲル電解質)に含まれる反応基が架橋反応する前に除去される成分である。したがって、本開示に係るゲル電解質には、マトリクス材および電解液以外の他の成分として希釈溶剤が含有されてもよい。
【0066】
なお、前述した未硬化状態のゲル電解質における第三条件および第四条件、すなわち、ゲル電解質における電解液溶媒の質量範囲およびゲル電解質におけるマトリクス材の質量範囲は、希釈溶剤を除くゲル電解質の全質量に対して規定されている。これは、前記の通り、希釈溶剤が、反応基の架橋反応の前に除去されるためであり、言い換えれば、硬化状態にある硬質ゲル電解質には、希釈溶剤は実質的に含まれていないためである。
【0067】
希釈溶剤の具体的な種類は特に限定されず、電気化学デバイスの種類、マトリクス材の種類、電解液の成分等の諸条件に応じて適宜選択することができる。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しているので、希釈溶剤としては、次に例示する溶媒を好適に用いることができる。
【0068】
具体的には、ゲル電解質に含有可能な希釈溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;1,2−ジメトキシエタン(DME)等のエーテル系溶媒;アセトニトリル(ACN)等のニトリル系溶媒;N−メチルピロリドン(NMP)等のピロリドン系溶媒;γ-ブチロラクトン(GBL)等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート系溶媒;等を挙げることができる。これら溶媒は、本開示における希釈溶剤として1種類を用いてもよいし、2種類以上を適宜選択して用いてもよい。また、これら溶媒を2種類以上用いる場合、それぞれの溶媒を異なる希釈目的で用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合した混合溶媒として用いてもよい。
【0069】
本開示に係るゲル電解質の代表的な製造方法のうち、2種類の希釈溶剤を用いる第一の方法について説明する。
【0070】
第一の方法では、まず、マトリクス材および第一の希釈溶剤を混合することで、電解液を含有しないゲル状体(非電解質ゲル状体)を形成する(非電解質ゲル状体形成工程)。マトリクス材および第一の希釈溶剤を混合する方法は特に限定されないが、代表的には、マトリクス材および第一の希釈溶剤を加熱することにより第一の希釈溶剤にマトリクス材を溶解させる方法が挙げられる。溶解後には、例えば室温まで冷却することで非電解質ゲル状体が得られる。なお、この第一の希釈溶剤は非電解質ゲル状体を形成するために用いられるの、ゲル用希釈溶剤と称することができる。
【0071】
次に第一の方法では、第二の希釈溶剤に電解質成分(リチウム塩等のイオン性物質)、電解液溶媒およびその他の成分(後硬化剤、開始剤等)を溶解させ、電解液等の希釈溶液を調製する。説明の便宜上、この希釈溶液を置換溶液と称する(置換溶液調製工程)。置換溶液の調製方法は特に限定されず、公知のミキサー等を用いればよい。そして、この置換溶液を非電解質ゲル状体に添加する(置換溶液添加工程)。置換溶液の添加方法は特に限定されず、非電解質ゲル状体上への置換溶液の塗布または蓄積等を挙げることができる。添加された置換溶液は非電解質ゲル状体に吸収されるので、希釈溶剤含有ゲル状体が得られる。
【0072】
第一の方法では、その後、希釈溶剤含有ゲル状体から希釈溶剤を除去する(希釈溶剤除去工程)。希釈溶剤の除去方法は特に限定されないが、例えば、減圧条件下あるいは高温条件下で希釈溶剤を蒸発させて留去すればよい。この工程では、ゲル用希釈溶剤および置換用希釈溶剤のいずれも除去されるが、最初に形成される非電解質ゲル状体に注目すれば、非電解質ゲル状体が含有するゲル用希釈溶剤が電解液に置換されることになる。本開示に係るゲル電解質は、希釈溶剤含有ゲル状体であってもよいし、希釈溶剤を除去したゲル状体であってもよい。すなわち、希釈溶剤の除去は、電気化学デバイスを作製(製造)する直前に行ってもよいし、予め希釈溶剤を除去してもよい。
【0073】
次に、本開示に係るゲル電解質の代表的な製造方法のうち、1種類の希釈溶剤を用いる第二の方法について説明する。
【0074】
第二の方法では、前記第一の方法と同様に、マトリクス材および希釈溶剤を混合することで、マトリクス材の希釈溶液を調製する。説明の便宜上、このマトリクス材の希釈溶液を「A液」と称する(A液調製工程)。次に、A液と同種の希釈溶剤に、電解質成分(リチウム塩等のイオン性物質)、電解液溶媒およびその他の成分(後硬化剤、開始剤等)を溶解させ、電解液等の希釈溶液を調製する。説明の便宜上、この電解液等の希釈溶液を「B液」と称する(B液調製工程)。
【0075】
次に第二の方法では、調製したA液およびB液を混合し、得られる混合液を所定形状に成形する(混合成形工程)。混合液の成形方法は特に限定されず、得ようとするゲル電解質の形状に応じた成形型または支持体等を用いればよい。例えば、後述する実施例では、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン電池を例示しているので、リチウムイオン電池の正極を支持体として、この正極の表面に混合液を塗工している。これにより、希釈溶剤含有ゲル状体が形成される。その後、第一の方法と同様に、希釈溶剤含有ゲル状体から希釈溶剤を除去する(希釈溶剤除去工程)。
【0076】
次に、本開示に係るゲル電解質の代表的な製造方法のうち、希釈溶剤を用いない第三二の方法について説明する。第三の方法では、マトリクス材または電解質等を溶解する希釈溶剤を用いない代わりに、電解液溶媒を用いる。
【0077】
第三の方法では、マトリクス材および電解液溶媒を混合することで、マトリクス材の電解液溶媒溶液を調製する。説明の便宜上、このマトリクス材の溶液を第二の方法と同様に「A液」と称する(A液調製工程)。次に、A液と同種または異種の電解液溶媒に、電解質成分(リチウム塩等のイオン性物質)およびその他の成分(後硬化剤、開始剤等)を溶解させ、電解液等の電解液溶媒溶液を調製する。説明の便宜上、この電解液等の溶液を第二の方法と同様に「B液」と称する(B液調製工程)。そして、調製したA液およびB液を混合し、得られる混合液を所定形状に成形する(混合成形工程)。これにより、電解液等を含有するゲル状体、すなわちゲル電解質が得られる。
【0078】
これら第一の方法、第二の方法、および第三の方法は、それぞれ製造上の独自の利点を有するため、いずれかの方法が特に好ましいとは断定できない。例えば、第一の方法では、前記の通り、希釈溶剤を用いて置換溶液を調製し、この置換溶液を用いて非電解質ゲル状体の液体成分を電解液に置き換える。それゆえ、置換溶液の組成を適宜変更することにより、得られるゲル電解質について、さまざまなバリエーションを容易に製造することができる。
【0079】
また、第二の方法では、リチウムイオン電池を製造する際には、正極または負極を支持体として、この正極または負極に混合液を塗工することができる。それゆえ、第一の方法に比較してリチウムイオン電池の製造工程の増加を回避できるので、リチウムイオン電池の製造方法を簡素化することができる。さらに、第三の方法では、希釈溶剤を使用せずに電解液溶媒を用いている。これにより、混合液を所定形状に成形するだけでゲル電解質が得られるので、第一の方法または第二の方法と比較して、希釈溶剤を除去する工程が不要となる。それゆえ、電気化学デバイスの製造方法を簡素化することができる。
【0080】
[電気化学デバイス]
次に、前記構成のゲル電解質を用いて製造される本開示に係る電気化学デバイスの代表例について具体的に説明する。本開示に係る電気化学デバイスは、電気化学反応を利用したもの(化学エネルギーと電気エネルギーとを変換可能とするもの)であればよく特に限定されないが、代表的な構成としては、一対の電極と、これらの間に位置する電解質と、を備える構成を挙げることができる。
【0081】
電気化学デバイスが備える一対の電極の具体的な構成は特に限定されないが、代表的には、一対の電極は、それぞれ正極および負極として構成される。これら正極および負極の具体的な構成は特に限定されないが、電解質に含まれる電解液との接触面積を増加させるために、例えば、その接触面(電解質に対向する面)が多孔質状であることが好ましい。このような多孔質状の接触面は、正極のみが有してもよいし、負極のみが有してもよいし、正極および負極の双方が有してもよい。なお、一対の電極(正極、負極)のより具体的な構成は特に限定されず、電気化学デバイスの種類または用途等に応じて、さまざまな材質、形状、寸法等のものを好適に用いることができる。
【0082】
多孔質状の接触面の形成方法は特に限定されないが、代表的には、電極材料(活物質)の粉末(または粒子)を電極基材の表面に層状に形成する方法が挙げられる。このような粉末材料を層状に形成する方法としては、電極材料(活物質)の粉末を有機ビヒクル(溶媒および/またはバインダー樹脂等)に混合してペースト化し、これを電極基材の表面に塗布して乾燥、硬化、または焼成等する方法が挙げられる。
【0083】
電気化学デバイスが備える電解質は、一対の電極の間に介在しているが、本開示においては、この電解質は、前述したように、未硬化状態のゲル電解質の硬化度を上昇させた、硬化状態の硬質ゲル電解質であればよい。
【0084】
また、本開示に係る電気化学デバイスの代表的な構成は、前記の通り、一対の電極および硬質ゲル電解質を備えている構成であるが、本開示における電気化学デバイスの構成はこれに限定されず、一対の電極およびゲル電解質または硬質ゲル電解質以外の構成要素または部材を備えていてもよい。このような他の構成要素または他の部材の具体的な構成は特に限定されず、電気化学デバイスの具体的な種類に応じたさまざまな構成要素または部品を用いることができる。
【0085】
本開示に係る電気化学デバイスのより具体的な構成としては、例えば、リチウムイオン電池、色素増感太陽電池、電気二重層キャパシタ、ゲルアクチュエータ等を挙げることができる。本開示における電気化学デバイスの代表的な例であるリチウムイオン電池の具体的な構成について、
図1を参照して具体的に説明する。
【0086】
図1に示すように、電気化学デバイスの一種であるリチウムイオン電池10は、一対の電極として正極12および負極13を備えるとともに、正極12および負極13の間に硬質ゲル電解質14が保持された構成を有している。なお、正極12、硬質ゲル電解質14および負極13が積層されて構成される構造体(正極12および負極13に硬質ゲル電解質14が保持される構造体)を、便宜上、積層構造体11と称する。リチウムイオン電池10は、この積層構造体11を封止材15で封止した構成となっている。
【0087】
正極12は、
図1に示すように、正極基材21の表面(負極13に対する対向面であり、硬質ゲル電解質14に接する面である)に正極活物質層22が形成された構成を有している。同様に、負極13は、負極基材31の表面(正極12に対する対向面であり、硬質ゲル電解質14に接する面である)に負極活物質層32が形成された構成を有している。
【0088】
正極基材21および負極基材31は、正極活物質層22および負極活物質層32の電気化学反応により生じる電子を集電する集電体として機能する。正極基材21および負極基材31の具体的な構成は特に限定されず、公知の金属板または金属箔を用いればよい。後述する実施例では、正極基材21としてアルミニウム箔を用いている。また、負極基材31としては代表的には銅箔が用いられる。
【0089】
正極活物質層22に用いられる正極活物質としては、代表的には、遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられるが特に限定されない。後述する実施例では、正極活物質として、三元系のリチウム塩であるLi−Ni−Co−Mn酸化物(NCM)を用いている。負極活物質層32に用いられる負極活物質としては、代表的には、リチウム金属箔または炭素材料が用いられる。後述する実施例では、負極活物質としてリチウム金属箔を用いている。また、正極活物質層22は正極活物質のみで構成されてもよいし、負極活物質層32は負極活物質のみで構成されてもよいが、他の成分を含む層として構成されてもよい。
【0090】
例えば、正極活物質層22および負極活物質層32が、活物質を含む塗布液により塗布して形成される場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の公知のバインダ樹脂、並びに、カーボンブラック等の公知の導電助剤が含まれてもよい。また、塗布液には、活物質、バインダ樹脂、導電助剤以外に溶媒(分散媒)が含まれていればよい。また、正極活物質層22または負極活物質層32との接触頻度を向上させる観点から、塗布液には、硬化度を上昇させる前のゲル電解質、あるいは、硬質ゲル電解質14と同程度に硬化度を上昇させたゲル電解質(硬質ゲル電解質成分)を含んでいてもよい。
【0091】
正極活物質層22は、正極12において負極13に対向する対向面を構成するとともに、硬質ゲル電解質14に対する接触面を構成する。同様に、負極活物質層32は、負極13において正極12に対向する対向面を構成するとともに、硬質ゲル電解質14に対する接触面を構成する。それゆえ、前述したように、正極活物質層22および負極活物質層32の少なくともいずれか一方は多孔質状に形成されていることが好ましい。
【0092】
これら活物質層22および32を多孔質状に形成する方法は特に限定されず、公知のさまざまな手法を用いることができる。代表的には、前記の通り、活物質を含むペーストを塗布して乾燥する手法を挙げることができる。また、活物質層22および32のいずれか一方は、多孔質状でなくてもよい。後述する実施例では、正極活物質層22は多孔質状に形成されるが、負極活物質層32はリチウム箔のみで形成される。
【0093】
なお、リチウム箔は負極活物質とともに集電体(負極基材31)を兼ねるので、後述する実施例では、負極13はリチウム箔のみで構成されている。したがって、正極12および負極13の少なくともは、
図1に例示するように、活物質層22および32とこれを支持する基材21および31で構成されている必要はない。
【0094】
硬質ゲル電解質14は、前述したように、未硬化状態のゲル電解質に含まれる反応基を反応させ、架橋反応を進行させてゲル電解質の硬化度を上昇させることにより形成される。
【0095】
封止材15は、正極12、負極13および硬質ゲル電解質14により構成される積層構造体11を封止できるものであれば特に限定されない。封止材15としては、電気化学デバイスがリチウムイオン電池10であれば、代表的には、公知の積層フィルム、または、公知の金属缶等が挙げられる。積層フィルムとしては、代表的には、アルミニウム箔またはステンレス箔等の金属箔にポリプロピレン(PP)等の樹脂フィルムを積層したものが挙げられるが特に限定されない。また、電気化学デバイスが色素増感太陽電池であれば、封止材15としては例えば熱可塑性のアイオノマー樹脂等の公知のシール剤が挙げられる。
【0096】
なお、
図1に示すリチウムイオン電池10は、セパレータを備えていない。これは、正極12および負極13に保持される硬質ゲル電解質14がセパレータと同様に機能することができるためである。また、リチウムイオン電池10は、別途セパレータを備えてもよいし、正極12、負極13および硬質ゲル電解質14以外の部材等を備えてもよい。
【0097】
このように本開示によれば、未硬化状態のゲル電解質には、適量の反応基が含まれることになる。それゆえ、反応基の架橋反応が十分に進行したゲル電解質(硬質ゲル電解質)になっても、当該硬質ゲル電解質は十分な量の電解液を保持することができる。また、架橋反応の進行に伴ってマトリクス材から電解液の一部を漏出させることも可能になる。それゆえ、硬化が十分に進行していない状態(未硬化状態)のゲル電解質を用いて電気化学デバイスを作製してから、架橋反応を進行させれば、当該電気化学デバイスが備える電極の接触面に、漏出した電解液を良好に接触させることができる。これにより、電気化学デバイスにおいて良好な電気化学反応の実現が可能になる。
【0098】
また、未硬化状態であってもゲル電解質のせん断弾性率が1MPa以上であるので、当該ゲル電解質は良好な強度を有していることになる。それゆえ、ゲル電解質において良好な取扱性を実現することができるので、電気化学デバイスの作製の非効率化を抑制することができる。しかも、前記の通り、未硬化状態のゲル電解質を用いて電気化学デバイスを作製してから、架橋反応を進行させればよいので、電気化学デバイスの製造過程において注液工程が不要となる。それゆえ、注液が不十分になるおそれ、あるいは、注液が不十分になることに由来する性能低下等のおそれを回避することができる。
【0099】
その結果、本開示によれば、電気化学デバイスの製造の効率化を図ることが可能になるとともに、得られる電気化学デバイスにおいて良好なデバイス性能を実現することができる。
【実施例】
【0100】
本開示について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例における各種合成反応や物性等の測定・評価は次に示すようにして行った。
【0101】
(ゲル電解質のせん断弾性率の測定)
各実施例または各比較例で得られたゲル電解質のせん断弾性率は、株式会社島津製作所製卓上形精密万能試験機(製品名:オートグラフAGS−X)を用い、5mmφの押込治具を装着し、0.05N予備負荷をかけた後に、0.05mm/分の速度で押込み試験を実施し、当該押込み試験の結果から、前記の参考文献1を参考として下記式(1)により、せん断弾性率を測定した(単位:MPa)。
【0102】
せん断弾性率(G)=0.36Fg[(D−h)/h]
3/2/R
2 ・・・ (1)
(F:押込み試験の荷重(試験力)、g:重力加速度、D:ゲル電解質(ゲル状体)の厚さ(膜厚)、h:荷重による厚さ(膜厚)変化、R:押込み試験の球状圧子の球半径)
(ゲル電解質のイオン伝導度の測定)
各実施例または各比較例で得られたゲル電解質について、その厚さ(膜厚)を測定した。また、当該ゲル電解質をステンレス箔で挟持したものを80℃の恒温槽で12時間静置して架橋反応を進行させて室温に戻し、ゲル電解質を硬質ゲル電解質とした。これをイオン伝導度測定用のサンプルとして、このサンプルについて、バイオロジック社(Bio-Logic SAS)製インピーダンスアナライザー(製品名:SP−150)を用いて、周波数1MHz〜0.1Hzの条件で電気化学インピーダンス(EIS)測定することにより、当該ゲル電解質のバルク抵抗値を得た。ゲル電解質の膜厚をバルク抵抗値で除算することにより、30℃におけるイオン伝導度を算出した(単位:mS/cm)。
【0103】
(電気化学デバイスの電池性能評価)
各実施例または各比較例において得られた評価用コインセル(本開示に係る電気化学デバイス)について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、製品名:TOSCAT3100)を用いて、25℃の条件下で、0.1C時間率で充電を実行するとともに、0.1Cから1C時間率の条件で放電を実行し、0.1C放電容量に対する1C放電容量の容量保持率(Q1C/Q0.1C)について評価した。
【0104】
容量保磁率が90%以上であれば「○」(良好)と評価し、容量保磁率が70%以上であれば「△」(普通)と評価し、容量保磁率が70%未満であれば「×」(不適)と評価した。
【0105】
(電気化学デバイスの素子安定性評価)
各実施例または各比較例においては合計10個の評価用コインセル(本開示に係る電気化学デバイス)を作製し、これら評価用コインセルについて、東洋システム株式会社製充放電試験装置(製品名:TOSCAT3100)を用いて、25℃の条件下で1C時間率で充電を実行するとともに、1C時間率の条件で100回放電を実行することで、素子安定性試験を行った。作製した10個の評価用コインセルのうち短絡の発生が1個以下であれば「○」(良好)と評価し、短絡の発生が5個未満であれば「△」(普通)と評価し、短絡の発生が5個以上であれば「×」(不適)と評価した。
【0106】
(実施例1)
以下の作業は露点−50℃以下の乾燥空気雰囲気下で実施した。表1に示すように、マトリクス材であるポリフッ化ビニリデン(PVDF、株式会社クレハ製、製品名:KFポリマー#7200)1.8質量部を、ゲル用希釈溶剤であるアセトン(和光純薬株式会社製)33質量部に対して80℃で加熱溶解し、室温下で静置することでPVDF/アセトンゲル(非電解質ゲル状体)を作製した。
【0107】
また、表1に示すように、リチウム塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI,キシダ化学株式会社製、リチウムバッテリーグレード(LBG))を10質量部、イオン液体系の電解液溶媒である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMImFSI,第一工業製薬株式会社製、製品名:エレクセルIL−110)を49質量部、後硬化剤である四官能ポリエーテルアクリレート(第一工業製薬株式会社製、製品名:エレクセルTA−210)を1.3質量部、アゾ系の開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬株式会社製、製品名;V−65)を0.49質量部、および置換用希釈溶剤であるアセトニトリル(ACN)を3.8質量部配合して混合し、置換溶液を調製した。
【0108】
この置換溶液をPVDF/アセトンゲル上に添加し、常温・真空条件下でアセトン(ゲル用希釈溶剤)およびアセトニトリル(置換用希釈溶剤)を留去することにより、実施例1に係るゲル電解質を作製(製造)した。
【0109】
ここで、実施例1に係るゲル電解質においては、架橋可能な反応基は、後硬化剤である四官能ポリエーテルアクリレート(製品名:エレクセルTA−210)に含まれているアクリレート基である。使用した四官能ポリエーテルアクリレートは、重量平均分子量が11000であり、1分子に含まれる4つのアクリレート基の分子量が220であるので、当該四官能ポリエーテルアクリレート1gに含まれるアクリレート基の質量は0.02gである。
【0110】
前記の通り、本実施例1では、後硬化剤である四官能ポリエーテルアクリレートの配合量は1.3質量部である。それゆえ、実施例1に係るゲル電解質に含まれる反応基(アクリレート基)の質量は、0.025質量部となる。また、前記の通り、本実施例1では、電解液溶媒であるEMImFSIの配合量は49質量部である。それゆえ、表1に示すように、実施例1に係るゲル電解質においては、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.050質量%となり、0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている。
【0111】
また、表1に示すように、実施例1に係るゲル電解質においては、全質量に対する電解液溶媒の質量比は78質量%であり、20〜80質量%の範囲内に入っており、全質量に対するマトリクス材の質量比は2.9質量%であり、1.0〜10質量%の範囲内に入っている。
【0112】
正極活物質であるLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を100g、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ株式会社製、製品名:デンカブラックHS−100)を7.8g、バインダ樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF、株式会社クレハ製、重量平均分子量Mw:約30万)を3.3g、分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を38.4g秤量し、それぞれを遊星型ミキサーで混合し、固形分51%の正極活物質層の塗工液を調製した。この塗工液を塗工装置で厚み15μmのアルミニウム箔(正極基材)上にコーティングし、130℃で乾燥した後にロールプレス処理を行い、2.3mg/cm
2 の正極活物質層を有する正極を得た。
【0113】
この正極と、実施例1に係るゲル電解質と、負極であるリチウム箔とを重ね合わせて積層体を形成した。この積層体を直径14mmの円形状に打ち抜いて、コインセル治具内に密閉して封止することにより、封止体を作製した。この封止体を80℃の恒温槽内に12時間静置することで、ゲル電解質に含まれる反応基の架橋反応を十分に進行させた(ゲル電解質を硬化させて硬質ゲル電解質とした)後、室温に戻した。このようにして、実施例1に係る電気化学デバイスである評価用コインセル(リチウムイオン電池)を作製(製造)した。
【0114】
得られた実施例1に係るゲル電解質について、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表1に示す。
【0115】
(実施例2,3)
電解液溶媒の配合量および後硬化剤の配合量を表1に示すように変化させた以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2に係るゲル電解質または実施例3に係るゲル電解質を作製するとともに、実施例2に係る電気化学デバイスまたは実施例3に係る電気化学デバイスである評価用コインセルを作製した。
【0116】
なお、表1に示すように、実施例2に係るゲル電解質または実施例3に係るゲル電解質においては、いずれも、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.03〜6.5質量%の範囲内に入っており、全質量に対する電解液溶媒の質量比は20〜80質量%の範囲内に入っており、全質量に対するマトリクス材の質量比は1.0〜10質量%の範囲内に入っている。
【0117】
得られた実施例2または3に係るゲル電解質について、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
(実施例4)
以下の作業は、実施例1〜3と同様に、露点−50℃以下の乾燥空気雰囲気下で実施した。表2に示すように、マトリクス材であるフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP、株式会社クレハ製、製品名:KFポリマー#8500,表2では便宜上「PVDF−HFP[1]」と表記)2.9質量部を、希釈溶剤であるジメチルエーテル(DME,和光純薬株式会社製)29.5質量部に対して80℃で加熱溶解した。これにより、PVDF−HFPのDME希釈溶液であるA液を調製した。
【0120】
また、表2に示すように、リチウム塩であるLiFSI(実施例1参照)を9.3質量部、イオン液体系の電解液溶媒であるEMImFSI(実施例1参照)を28質量部、後硬化剤である四官能ポリエーテルアクリレート(実施例1参照)を0.90質量部、開始剤であるアゾ系開始剤(実施例1参照)を0.12質量部、および希釈溶剤であるDMEを29.5質量部配合して混合し、電解液等のDME希釈用液であるB液を調製した。
【0121】
得られたA液およびB液を混合し、この混合溶液を前述した正極の表面に塗工し、常温・真空条件下でDME(希釈溶剤)を留去することにより、実施例4に係るゲル電解質および正極の積層体を作製(製造)した。
【0122】
なお、表2に示すように、実施例4に係るゲル電解質においては、後硬化剤としては、実施例1〜3と同様に四官能ポリエーテルアクリレートを配合しており、実施例1と同様に反応基の質量比が導き出される。表2に示すように、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている(0.063質量%)。また、表2に示すように、実施例4に係るゲル電解質においては、全質量に対する電解液溶媒の質量比は20〜80質量%の範囲内に入っており(68質量%)、全質量に対するマトリクス材の質量比は1.0〜10質量%の範囲内に入っている(7.0質量%)。
【0123】
また、このゲル電解質/正極の積層体を直径14mmの円形状に打ち抜き、得られた打抜き体のゲル電解質側に、負極である直径14mmのリチウム箔を貼り合わせ、2極式セル(トムセル)にセットした。このようにして、実施例4に係る電気化学デバイスである評価用コインセル(リチウムイオン電池)を作製(製造)した。
【0124】
得られた実施例4に係るゲル電解質(ゲル電解質/正極の積層体)について、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表2に示す。
【0125】
(実施例5〜13)
電解液溶媒の配合量および後硬化剤の配合量を表2に示すように変化させるか(実施例5および6)、後硬化剤として二官能ポリエーテルアクリレート(第一工業製薬株式会社製、製品名:MP−150)を用いて電解液溶媒の配合量を適宜表2または3に示すように変化させるか(実施例7〜9)、後硬化剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(第一工業製薬株式会社製、製品名:エレクセルEG2500)を用いて電解液溶媒の配合量を表3に示すように変化させるか(実施例10)、あるいは、後硬化剤としてメチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体(第一工業製薬株式会社製、製品名:エレクセルACG−127)を用いて、電解液溶媒の配合量を表3に示すように変化させる(実施例11〜13)以外は、実施例4と同様にして、実施例5〜13に係るゲル電解質を作製した。また、これらゲル電解質を用いて、実施例5〜13に係る電気化学デバイスである評価用コインセルを作製した。
【0126】
ここで、実施例7〜9に係るゲル電解質においては、架橋可能な反応基は、後硬化剤である二官能ポリエーテルアクリレート(製品名:MP−150)に含まれているアクリレート基である。使用した二官能ポリエーテルアクリレートは、重量平均分子量が11000であり、1分子に含まれる2つのアクリレート基の分子量が110であるので、当該二官能ポリエーテルアクリレート1gに含まれるアクリレート基の質量は0.010gである。
【0127】
例えば、実施例7では、表2に示すように、後硬化剤である二官能ポリエーテルアクリレートの配合量は1.4質量部である。それゆえ、実施例7に係るゲル電解質に含まれる反応基(アクリレート基)の質量は、0.0138質量部となる。また、実施例7では、表2に示すように、電解液溶媒であるEMImFSIの配合量は28質量部である。それゆえ、表2に示すように、実施例7に係るゲル電解質においては、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.050質量%となり、0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている。
【0128】
同様に、表2または表3に示すように、実施例8または実施例9に係るゲル電解質においても、後硬化剤として実施例7と同じ二官能ポリエーテルアクリレートを配合しており、実施例7と同様に反応基の質量比が導き出される。表2に示すように、これら実施例8および実施例9では、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.44質量%(実施例8)または2.5質量%(実施例9)であり、いずれも0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている。
【0129】
また、実施例10に係るゲル電解質においては、架橋可能な反応基は、後硬化剤であるポリエチレングリコールジアクリレート(製品名:エレクセルEG2500)に含まれているアクリレート基である。使用したポリエチレングリコールジアクリレートは、重量平均分子量2500であり、1分子に含まれるアクリレート基の分子量が83であるので、当該ポリエチレングリコールジアクリレート1gに含まれるアクリレート基の質量は0.033gである。
【0130】
実施例10では、表3に示すように、後硬化剤であるポリエチレングリコールジアクリレートの配合量は6.7質量部である。それゆえ、実施例10に係るゲル電解質に含まれる反応基(アクリレート基)の質量は、0.221質量部となる。また、実施例10では、表3に示すように、電解液溶媒であるEMImFSIの配合量は28質量部である。それゆえ、実施例10に係るゲル電解質においては、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は1.0質量%となり、0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている。
【0131】
また、実施例11〜13に係るゲル電解質においては、架橋可能な反応基は、後硬化剤であるメチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体(製品名:エレクセルACG−127)に含まれるオキセタン部である。使用したメチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体は、重量平均分子量が30万であり、1つのオキセタン部の分子量が56であるので、当該メチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体1gに含まれるオキセタン部の質量は0.13gである。
【0132】
例えば、実施例11では、表3に示すように、後硬化剤であるメチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体の配合量は0.12質量部である。それゆえ、実施例11に係るゲル電解質に含まれる反応基(オキセタン部)の質量は、0.015質量部となる。また、実施例11では、表3に示すように、電解液溶媒であるEMImFSIの配合量は29質量部である。それゆえ、表2に示すように、実施例11に係るゲル電解質においては、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.050質量%となり、0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている。
【0133】
同様に、表3に示すように、実施例12または実施例13に係るゲル電解質においても、後硬化剤として実施例11と同じメチルメタクリレート−オキセタニルメタクリレート共重合体を配合しており、実施例11と同様に反応基の質量比が導き出される。表3に示すように、これら実施例11および実施例12では、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は、1.2質量%(実施例12)、または5.6質量%(実施例13)であり、いずれも0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている。
【0134】
なお、表2に示すように、実施例5および6に係るゲル電解質においては、後硬化剤としては、実施例1〜4と同様に四官能ポリエーテルアクリレートを配合しており、実施例1と同様に反応基の質量比が導き出される。表2に示すように、これら実施例5および6においても、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は、0.03〜6.5質量%の範囲内に入っている(実施例1参照)。
【0135】
さらに、表2または表3に示すように、実施例5〜13に係るゲル電解質においては、いずれも、全質量に対する電解液溶媒の質量比は20〜80質量%の範囲内に入っており、全質量に対するマトリクス材の質量比は1.0〜10質量%の範囲内に入っている。
【0136】
得られた実施例5〜13に係るゲル電解質それぞれについて、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルそれぞれについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表2または表3に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
(実施例14〜16)
表4に示すように、マトリクス材として、実施例4〜13とは異なる種類のPVDF−HFP(株式会社クレハ製、製品名:KFポリマー#9300,表4では便宜上「PVDF−HFP[2]」と表記)を用いるか(実施例14)、マトリクス材として無機粒子であるシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:アエロジル200,表4では「シリカ」と表記)を用いるか(実施例15)、または、マトリクス材として無機粒子であるシリカ/アルミナ混合粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:アエロジルCOK84,表4では「シリカ/アルミナ」と表記)を用いて(実施例16)、電解液溶媒および後硬化剤の配合量を変化させた以外は、実施例4と同様にして、実施例14〜16に係るゲル電解質を作製した。また、これらゲル電解質を用いて、実施例14〜16に係る電気化学デバイスである評価用コインセルを作製した。
【0140】
なお、表4に示すように、実施例14〜16に係るゲル電解質においては、いずれも、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.03〜6.5質量%の範囲内に入っており、全質量に対する電解液溶媒の質量比は20〜80質量%の範囲内に入っており、全質量に対するマトリクス材の質量比は1.0〜10質量%の範囲内に入っている。
【0141】
得られた実施例14〜16に係るゲル電解質それぞれについて、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルそれぞれについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表4に示す。
【0142】
【表4】
【0143】
(実施例17)
以下の作業は、実施例1〜16と同様に、露点−50℃以下の乾燥空気雰囲気下で実施した。表5に示すように、マトリクス材として実施例14と同じPVDF−HFP[2](株式会社クレハ製、製品名:KFポリマー#9300)1.0質量部を、カーボネート系の電解液溶媒であるジメチルカーボネート(DMC,キシダ化学株式会社製、LBG)55質量部およびエチレンカーボネート(EC,キシダ化学株式会社製、LBG)5.3質量部の混合物(混合電解液溶媒)39.5質量部に対して80℃で加熱溶解した。これにより、PVDF−HFPのDMC希釈溶液であるA液を調製した。
【0144】
また、表5に示すように、リチウム塩であるリチウムヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6 ,キシダ化学株式会社製、LBG)を14質量部、前記のDMCおよびECの混合電解液溶媒を39.5質量部、後硬化剤である四官能ポリエーテルアクリレート(実施例1参照)を0.90質量部、開始剤であるアゾ系開始剤(実施例1参照)を0.30質量部配合して混合し、B液を調製した。なお、表5に示すように、本実施例では、希釈溶剤は用いていない。
【0145】
得られたA液およびB液を混合し、この混合溶液を前述した正極の表面に塗工することにより、実施例17に係るゲル電解質および正極の積層体を作製(製造)した。
【0146】
なお、表5に示すように、実施例17に係るゲル電解質においては、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比0.03〜6.5質量%の範囲内に入っており(0.013質量%)、全質量に対する電解液溶媒の質量比は20〜80質量%の範囲内に入っており(79質量%)、全質量に対するマトリクス材の質量比は1.0〜10質量%の範囲内に入っている(1.0質量%)。
【0147】
また、このゲル電解質/正極の積層体を直径14mmの円形状に打ち抜き、得られた打抜き体のゲル電解質側に、負極である直径14mmのリチウム箔を貼り合わせ、2極式セル(トムセル)にセットした。このようにして、実施例17に係る電気化学デバイスである評価用コインセル(リチウムイオン電池)を作製(製造)した。
【0148】
得られた実施例17に係るゲル電解質(ゲル電解質/正極の積層体)について、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表5に示す。
【0149】
(実施例18〜20)
表5に示すように、A液の調製に用いるカーボネート系電解液溶媒を、エチルメチルカーボネート(EMC,キシダ化学株式会社製、LBG,実施例18)、ジエチルカーボネート(DEC,キシダ化学株式会社製、LBG,実施例19)、またはプロピレンカーボネート(PC,キシダ化学株式会社製、LBG,実施例20)に変更し、PCを用いる場合には、PCおよびECの配合量を変化させた(実施例20)以外は、実施例17と同様にして、実施例18〜20に係るゲル電解質を作製した。また、これらゲル電解質を用いて、実施例18〜20に係る電気化学デバイスである評価用コインセルを作製した。
【0150】
なお、表5に示すように、実施例18〜20に係るゲル電解質においては、いずれも、電解液溶媒の質量に対する反応基の質量比は0.03〜6.5質量%の範囲内に入っており、全質量に対する電解液溶媒の質量比は20〜80質量%の範囲内に入っており、全質量に対するマトリクス材の質量比は1.0〜10質量%の範囲内に入っている。
【0151】
得られた実施例18〜20に係るゲル電解質それぞれについて、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルそれぞれについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表5に示す。
【0152】
【表5】
【0153】
(実施例21〜26)
表6に示すように、ゲル電解質における電解液溶媒に対する反応基の質量比が0.03〜6.5質量%の範囲内に入るものの、ゲル電解質における全質量に対する電解液溶媒の質量比を20質量%未満にしたり(実施例21)、80質量%を超えたり(実施例22)、イオン伝導度を0.8mS/cm未満としたり(実施例23)、ゲル電解質における全質量に対するマトリクス材の質量比を1.0質量%未満にあったり(実施例24)、10質量%を超えたり(実施例25)、ゲル電解質の膜厚を100μm以上にしたりするとともに、各成分の配合量を変化させた以外は、前述した実施例4と同様(実施例21,23〜26)または実施例17と同様(実施例22、ただし電解液溶媒はEC1種類のみ使用)にして、実施例21〜26に係るゲル電解質を作製した。また、これらゲル電解質を用いて、実施例21〜26に係る電気化学デバイスである評価用コインセルを作製した。
【0154】
得られた実施例21〜26に係るゲル電解質それぞれについて、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルそれぞれについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表6に示す。
【0155】
【表6】
【0156】
(比較例1,2)
表7に示すように、ゲル電解質における電解液溶媒に対する反応基の質量比を0.03質量%未満にしたり(比較例1)6.5質量%を超えたり(比較例2)するとともに、各成分の配合量を変化させた以外は、前述した実施例4と同様にして、比較例1に係るゲル電解質または比較例2に係るゲル電解質を作製するとともに、比較例1に係る電気化学デバイスまたは比較例2に係る電気化学デバイスである評価用コインセルを作製した。
【0157】
得られた比較例1または2に係るゲル電解質について、前記の通り、せん断弾性率、膜厚、およびイオン伝導度を測定または評価するとともに、得られた評価用コインセルについて電池性能および素子安定性(短絡)を評価した。その結果を表7に示す。
【0158】
【表7】
【0159】
(実施例および比較例の対比)
実施例1〜26と比較例1,2との対比から明らかなように、本開示に係るゲル電解質においては、第一条件および第二条件を満たすことによって、良好な性能を有する電気化学デバイス(リチウムイオン電池)を製造することができる。これに対して、特に第一条件を満たさない場合には、電気化学デバイスの性能が十分に得られないことがわかる。
【0160】
また、実施例4〜13および実施例17〜20と実施例21〜26との対比から明らかなように、本開示に係るゲル電解質においては、第一条件および第二条件に加えて、第三条件および第四条件の少なくとも一方を満たすことで、より一層良好な性能を有する電気化学デバイス(リチウムイオン電池)を製造することができる。
【0161】
さらに、実施例1〜3、実施例4〜16、および実施例17〜20の対比から明らかなように、本開示に係るゲル電解質においては、第一の方法、第二の方法、または第三の方法のいずれにおいて製造されたゲル電解質であっても、良好な性能の電気化学デバイス(リチウムイオン電池)を製造することができる。
【0162】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。