特許第6971117号(P6971117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971117硬化性組成物用キット、コンクリート構造物の補修材料及び補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971117
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】硬化性組成物用キット、コンクリート構造物の補修材料及び補修方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20211111BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20211111BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20211111BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20211111BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C04B28/26
   C04B24/26 G
   C04B18/14 A
   C04B14/10 B
   E04G23/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-196695(P2017-196695)
(22)【出願日】2017年10月10日
(65)【公開番号】特開2019-6661(P2019-6661A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-121228(P2017-121228)
(32)【優先日】2017年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】横山 祐三
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌紀
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−033108(JP,A)
【文献】 特開2008−254939(JP,A)
【文献】 特開2003−267772(JP,A)
【文献】 特開平09−175813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1キットと第2キットとにより構成される硬化性組成物用キット。
第1キット:メタカオリン粉体を含む組成物であって、該組成物中に含まれる全アルミニウムに対する酸素配位数5のアルミニウムの割合が10重量%以上である組成物。
第2キット:アルカリ金属珪酸塩の水溶液組成物。
【請求項2】
前記メタカオリン粉体が、12m2/g以上の比表面積を有する請求項1に記載の硬化性組成物用キット。
【請求項3】
前記第1キットに、さらに高炉スラグ粉体が含まれる請求項1〜2のいずれか1項に記載の硬化性組成物用キット。
【請求項4】
前記第2キットに、さらにポリマーエマルションが含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性組成物用キット。
【請求項5】
前記アルカリ金属珪酸塩は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム及び珪酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性組成物用キット。
【請求項6】
第1キットと第2キットとの反応物を含む硬化性組成物と、
少なくとも1方向の引張強度が1kN/50mm以上であり、マルチフィラメントを組み合わせた多軸のメッシュシートとを含むコンクリート構造物の補修材料。
第1キット:メタカオリン粉体を含む組成物であって、該組成物中に含まれる全アルミニウムに対する酸素配位数5のアルミニウムの割合が10重量%以上である組成物。
第2キット:アルカリ金属珪酸塩の水溶液組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の補修材料を用いて補修する補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硬化性組成物用キット、コンクリート構造物の補修材料及び補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から大量に生産されているポルトランドセメントは、その主原料は石灰石であることから、焼成して酸化カルシウムに分解される際、二酸化炭素を排出する。このため、ポルトランドセメントを使用しないコンクリートを製造する技術として、ジオポリマー法が注目されている。
ジオポリマー法は、ケイ酸の縮重合体をバインダとして利用し、粉末同士を接合する技術である。このジオポリマー法に利用されるジオポリマー組成物としては、フィラー、アルカリ溶液及び骨材で構成されるものが提案されている(例えば、特許文献1)。フィラーは、ケイ素とアルミニウムとを豊富に含有するものが使用され、例えば、カオリン、粘土、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ、もみ殻灰等のポゾラン活性物質と称されるものが挙げられる。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムと、水ガラス(Na2SiO3)又はケイ酸カリウム(K2SiO3)との水溶液が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−239446号公報
【特許文献2】特開平9-175813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の組成物を用いた場合には、必要な強度を発現させるためには養生期間を長期化したり、高温高湿での養生を必要とする。特に、後者は高温高湿に保つための設備とエネルギーが必要となる。
また、特許文献2には、0.5kWh/kg〜30kWh/kgの機械的エネルギーを作用させて得られるカオリン中に含有するアルミニウムの少なくとも一部が酸素配位数5のアルミニウムであるカオリンを用いれば、反応性が高く常温でも硬化することが記載されている。しかし、単に、酸化配位数5のアルミニウムであるカオリンを用いるだけでは常温において硬化が不十分で初期強度発現が不十分である。また、屋外コンクリート構造物及びトンネル等の地下水が湧出するような水が多い環境で使用する場合には硬化後の耐水性が十分ではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて、常温硬化及び短期養生で初期強度を発現し、耐水付着力、耐燃焼性に優れた硬化性組成物キット、コンクリート構造物の補修材料及び補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は以下の発明を含む。
(1)第1キットと第2キットとにより構成される硬化性組成物用キット。
第1キット:メタカオリン粉体を含む組成物であって、該組成物中に含まれる全アルミニウムに対する酸素配位数5のアルミニウムの割合が10重量%以上である組成物、
第2キット:アルカリ金属珪酸塩の水溶液組成物。
(2)前記メタカオリン粉体が、12m2/g以上の比表面積を有する上記に記載の硬化性組成物用キット。
(3)前記第1キットに、さらに高炉スラグ粉体が含まれる上記に記載の硬化性組成物用キット。
(4)前記第2キットに、さらにポリマーエマルションが含まれる上記に記載の硬化性組成物用キット。
(5)前記アルカリ金属珪酸塩は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム及び珪酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上である上記に記載の硬化性組成物用キット。
(6)第1キットと第2キットとの反応物を含む硬化性組成物と、
少なくとも1方向の引張強度が1kN/50mm以上であり、マルチフィラメントを組み合わせた多軸のメッシュシートとを含むコンクリート構造物の補修材料。
第1キット:メタカオリン粉体を含む組成物であって、該組成物中に含まれる全アルミニウムに対する酸素配位数5のアルミニウムの割合が10重量%以上である組成物。
第2キット:アルカリ金属珪酸塩の水溶液組成物。
(7)上記に記載の補修材料を用いて補修する補修方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、常温硬化及び短期養生で初期強度を発現し、耐水付着力、耐燃焼性に優れた硬化性組成物用キット、コンクリート構造物の補修材料及び補修方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(硬化性組成物用キット)
本願の硬化性組成物用キットは、主として、第1キットである、メタカオリン粉体を含む組成物であって、その組成物中に含まれるアルミニウムに対する酸素配位数5のアルミニウムの割合が10重量%以上の組成物と、第2キットである珪酸塩の水溶液組成物とにより構成される。
第1キットと第2キットとは、混合すると一定期間の間に硬化が促進するため、貯蔵安定性を保つために、それぞれを分離して保管及び輸送することが好ましい。分離して保管及び輸送することにより、施工時に必要な量だけ第1キットと第2キットとを混合して用いることができる。また、各キットを混合せずに保存することで、各キットを構成する成分の性質の劣化を抑制できるため、長期間の保存安定性を維持することができる。
【0009】
(第1キット)
第1キットとは、メタカオリン粉体を含む組成物のことである。
第1キットは、メタカオリン粉体に加えて、さらに、高炉スラグ及び/又はポゾラン活性物質等を含んでいてもよい。
第1キットは、その組成物中に酸素配位数5のアルミニウムを含む。酸素配位数5のアルミニウムは、組成物に含まれる全アルミニウムに対して、10重量%以上であり、20重量%以上であることが好ましい。酸素配位数5のアルミニウムは反応性に富むため、第1キット中のメタカオリン粉体及び/又は高炉スラグ等と、後述する第2キット中のアルカリ金属珪酸塩の水溶液組成物との常温での反応性を十分に確保でき、補修用材料とコンクリート構造物との接着強度を高めることができる。
【0010】
第1キットは、組成物中に含まれるアルミニウムをAl23換算した場合に、アルミナ含有量が30重量%以上であることが好ましく、35重量%以上がさらに好ましい。また、組成物中に含まれる珪素をSiO2換算した場合に、シリカ含有量が40重量%以上で
あることが好ましく、45重量%以上がさらに好ましい。なかでも、第1キットは、組成物中に含まれるアルミニウムをAl23換算した場合に、アルミナ含有量が30重量%以上であり、かつ珪素をSiO2換算した場合に、シリカ含有量が40重量%以上であるも
のが好ましい。
このようなアルミニウム及び珪素を含むために、例えば、第1キット中に、メタカオリンが、30重量%〜100重量%で含有されるものが好ましく、40重量%〜80重量%で含有されるものがより好ましく、40重量%〜60重量%で含有されるものがさらに好ましい。
【0011】
メタカオリンは、カオリンを約500℃〜900℃で焼成して結晶水を一部除去したものであり、非晶性で、ポゾラン活性を有する物質である。第1キット中のメタカオリンは、粉体であり、粉体とは、粉又は粒子が集まった集合体のことである。メタカオリン粉体の数平均粒子径(D50)は、0.1μm〜20μmであり、好ましくは、0.5μm〜15μmである。当該粉体はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置にて測定することが可能である。メタカオリン粉体は、より活性化させるために、粉体の比表面積を12m2/g以上とするものが好ましい。なお、粉体の比表面積は、例えば、BET法により算出した値を意味する。より活性化させる方法としては限定されないが、粉砕分級、機械的エネルギーの作用、溶射処理等の方法を用いることができる。
【0012】
粉砕分級する方法としては公知の任意の方法が採用できる。粉砕は、ジェットミル、ロールミル、ボールミル等を用いる方法が挙げられる。また、分級は、篩、比重、風力、湿式沈降等を用いる方法が挙げられる。これらの手段は任意に併用することができる。
機械的エネルギーを作用させる方法としては、ボール媒体ミル、媒体撹拌型ミル、ローラミル等を用いる方法が挙げられる。作用させる機械的エネルギーは、適度に活性化しつつ、負荷を最小限とするために、0.5kwh/kg〜30kwh/kgが好ましい。このような範囲とすることにより、原料のメタカオリンによっては結晶構造の変性が十分となり、メタカオリン粉体の常温での反応性を向上させることができる。また、メタカオリン粉体中のスピネル及びムライト等の鉱物が再結晶化することを抑制して、第1キットに含まれる全アルミニウムに対する酸素配位数5のアルミニウムの割合を10重量%以上とすることができ、常温での反応性を維持又は向上させることができる。
溶射処理する方法としては、セラミックコーティングに適用される溶射技術が応用される。溶射技術は、例えば、プラズマ溶射法、高エネルギーガス溶射法、アーク溶射法等が挙げられる。好ましくは、材料粉末を2000℃〜16000℃の温度で溶融し、30m/秒〜800m/秒の速度で噴霧し、比表面積が12m2/g〜100m2/gの粉末とすることが好ましい。
【0013】
高炉スラグは、高炉で銑鉄を生成する際に生じるものであり、ポゾラン活性を有し、CaO、SiO2、Al23、MgOを主成分として含む。高炉スラグは、例えば、カルシウムを、酸化カルシウム(CaO)換算で20重量%〜60重量%含有するものが挙げられる。第1キットが高炉スラグを含むことにより、硬化性組成物をより強靭に硬化させることができる。また、水が多い場所で使用する場合に、耐水性を向上させることができる。
第1キット中に、高炉スラグが、0重量%〜70重量%で含有されるものが好ましく、40重量%〜60重量%で含有されるものがより好ましい。なお、高炉スラグは、塊状又は粉末状のものをそのまま用いることができる。
後述する第2キットの水溶液組成物100重量部に対する高炉スラグの第1キット組成物中の含有率は、20重量部〜150重量部であることが好ましく、30重量部〜100重量部であることがより好ましい。高炉スラグ粉体がこの割合で含有される場合には、硬化物の耐水付着力を向上させることができる。
【0014】
ポゾラン活性物質とは、それ自体に水硬性はほとんど有さないが、水の存在下で、水酸化カルシウムと常温で反応して、不溶性の化合物を生成して硬化する物質のことである。ポゾラン活性物質としては、例えば、粘土、堆積物、鉱物、シリカ系粒子、炭灰、高炉スラグ等が挙げられる。具体的には、カオリン、活性白土、酸性白土等の粘土;珪藻土等の堆積物;タルク等の鉱物;シリカダスト、シリカフューム、アエロジル等のシリカ系粒子;フライアッシュ、ホワイトカーボン、もみ殻灰等の炭灰等が挙げられる。
【0015】
ポゾラン活性物質は、通常、塊又は粉末状であるが、塊状又は粉末状のものをそのまま用いてもよい。また、活性化させるために、粉砕分級、機械的エネルギーの作用、溶射処理等の方法を用いて、その状態を変化させたものを用いてもよい。粉砕分級する方法、機械的エネルギーを作用させる方法及び溶射処理する方法は、上記と同様の方法を利用することができる。なかでも、材料粉末を2000℃〜16000℃の温度で溶融し、30m/秒〜800m/秒の速度で噴霧し、比表面積が0.1m2/g〜100m2/gの粉末とすることが好ましい。微細で比表面積の大きいものは、反応性が高く、また吸着能が大きいため、金属に対する安定化効果を発揮することができる。例えば、その粒径は、50μm以下が挙げられ、好ましくは20μm以下、特に好ましくは5nm〜10μmである。
【0016】
ポゾラン活性物質は、珪素をSiO2換算した場合のシリカ含有量が、ポゾラン活性物質の全質量に対して40重量%以上であるもの、又はアルミニウムをAl23換算した場合のアルミナ含有量が、ポゾラン活性物質の全質量に対して30重量%以上であるものが好ましい。
第1キット中におけるポゾラン活性物質の含有率は、0重量%〜70重量%であることが好ましく、40重量%〜60重量%であることがより好ましい。
【0017】
ポゾラン活性物質は、電気伝導率差0.4mS/cm以上であるものが好ましく、0.5mS/cm以上、0.6mS/cm以上又は0.7mS/cm以上であるものがより好ましく、0.8mS/cm以上、1.0mS/cm以上、1.2mS/cm以上であるものがさらに好ましい。このような電気伝導率差とすることにより、珪酸塩水溶液との反応性を十分に確保することができる。電気伝導率差は、アルカリ物質により誘発されるポゾラン活性物質の反応性に関連する指標であり、ポゾラン活性物質について『Cement Concrete Research, Vol.19, pp.63−68, 1989』に従い、40±1℃の条件で、Ca(OH)2飽和水溶液200mlの電気伝導率を測定し、続いてメタカオリン5gを投入し、攪拌して2分後の電気伝導率を測定する。そして、投入前の電気伝導率と投入後の電気伝導率との差を算出し、電気伝導率差とした。
【0018】
(第2キット)
第2キットとは、アルカリ金属珪酸塩を含む組成物のことである。第1キットと第2キットはそれぞれを使用時に混ぜ合わせることで、以下に述べる硬化性樹脂組成物が得られ、反応が開始する。
アルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム及び珪酸リチウムからなる群から選択される1種以上が挙げられる。なかでも、価格及び入手の容易さの観点から、珪酸ナトリウムが好ましい。
アルカリ金属珪酸塩の硬化は、第1キットと混合した際、脱水反応を誘起し、Si−O結合を形成することによって行なわれる。また、アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属を、二価以上の金属と置き換えることによってSi−O−金属−O−Siの結合を形成して硬化を促進することが可能である。
【0019】
アルカリ金属珪酸塩は、通常、その取り扱いの容易さから水溶液の形態のものを用いることが好ましい。例えば、市販されている、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物を用いることができる。特に、JIS規格(K1408)の1〜3号珪酸ソーダ、4号珪酸ソーダ、メタ珪酸ナトリウム1種、2種を用いて調整することが容易である。
アルカリ金属珪酸塩である珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムは、一般にM2O・nSiO2の分子式で表され、nが0.5〜4.0の範囲にある組成物及びこれらの混合物を意味する。nは0.7〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましい。nは、上述したアルカリ金属珪酸塩と、アルカリ金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を混合することにより任意に調整することができる。アルカリ金属の水酸化物は固形物、水溶液のいずれも用いることができる。
第2キットは、例えば、10重量%〜60重量%のアルカリ金属珪酸塩の水溶液、15重量%〜50重量%の水溶液又は20重量%〜40重量%の水溶液であることが好ましく、20重量%〜40重量%の水溶液であることがより好ましく、30重量%の水溶液であることがさらに好ましい。
【0020】
第2キットの水溶液組成物中には、さらに、ポリマーエマルション(ラテックス)を含んでいてもよい。ポリマーエマルションとしては、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム又はこれらの混合物等が挙げられる。なかでも、スチレンブタジエンゴムが好ましい。第2キット中におけるポリマーエマルションの含有率は、0重量%〜50重量%であることが好ましく、4重量%〜20重量%であることがより好ましい。また、ポリマーエマルションは、第1キットと第2キットとを混合した硬化性組成物の乾燥固形分の全重量に対して、固形分重量として2重量%〜10重量%含まれることが好ましい。これにより、硬化性組成物の硬化物の接着強度を向上させ、硬化物の乾燥収縮を抑制することができる。
【0021】
(硬化性組成物)
硬化性組成物は、第1キットと第2キットとを反応させて得られる反応物を含む。なお、硬化性組成物は、この反応物以外に、第1キット及び第2キットをそれぞれ構成する成分が含まれていてもよい。この場合の第1キットと第2キットとの割合は、例えば、第2キットに含まれるアルカリ金属珪酸塩の水溶液の濃度によって変動するが、例えば、重量比で70〜20:30〜80であることが好ましく、65〜25:35〜75であることがより好ましい。この場合の第2キットは、例えば、10重量%〜60重量%のアルカリ金属珪酸塩の水溶液、15重量%〜50重量%の水溶液又は20重量%〜40重量%の水溶液であることが好ましく、20重量%〜40重量%の水溶液であることがより好ましく、30重量%の水溶液であることがさらに好ましい。
第1キットと第2キットとを混合して反応させることにより、硬化性組成物を、常温で迅速に硬化させることができる。硬化性組成物が硬化して得られる硬化物は、耐水付着力を向上させることができるとともに、初期及び長期にわたる高い強度を発現/維持させることができる。そして、この初期強度発現は、常温硬化及び短期養生で実現することができる。さらに、このような硬化性組成物を用いることにより、耐燃焼性に優れたコンクリート構造物の剥落防止用の補修材料を提供することができる。
その理由として、第1キット中に5配位のメタカオリンが10重量%以上含まれていることから、第1キットと第2キットとの反応性が高くなるからである。
【0022】
(その他の成分)
本発明の硬化性組成物は、上記成分に加えて、当該分野で公知の添加剤を含んでいてもよい。例えば、第1キットには、硬化促進剤、フィラー、改質剤、硬化遅延剤が含まれていてもよい。また、第2キットには、界面活性剤等が含まれていてもよい。これらの添加剤は、第1キットと第2キットとを混合して得られた硬化性組成物中に、添加してもよい。硬化促進剤、フィラー、改質剤、硬化遅延剤、界面活性剤等としては、公知のものを利用することができる。
【0023】
硬化促進剤とは硬化を促進する物質のことである。硬化促進剤は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の硬化を促進するための成分である。硬化促進剤は、上述したように、脱水反応を促進させるために、pH中性付近に調整するものが好ましい。また、Si−O−金属−O−Siの結合を形成して硬化を促進するために、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物中のアルカリ金属を二価以上の金属と置き換えることができるものが好ましい。硬化促進剤としては、有機酸エステル、ジアルデヒド、無機酸エステル、有機酸金属塩、無機酸金属塩、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、有機酸エステル、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される1種以上の化合物を用いることがより好ましい。
【0024】
有機酸エステルは、水溶液中で酸を発生させることによりSi−O結合の形成を促進することができるという利点がある。有機酸エステルとしては、例えば、炭酸エステル、酢酸エステル等が挙げられる。なかでも、トリアセチンが好ましい。
ジアルデヒドとしては、例えば、マロンジアルデヒド等が挙げられる。
無機酸エステルとしては、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸等のエステル、例えば、燐酸トリメチル等が挙げられる。
有機酸金属塩としては、蟻酸、酢酸、マロン酸、炭酸等のアルカリ金属、アルカリ土類金属塩、例えば、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
無機酸金属塩としては、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸等のアルカリ金属、アルカリ土類金属塩、例えば、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
金属酸化物及び金属水酸化物は、金属イオンが溶け出すことにより、Si−O−金属−O−Si結合を形成し、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物を硬化させることができる。金属酸化物及び金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0025】
硬化促進剤として、硬化性組成物中での硬化剤の沈降を防止するという観点及びガラス繊維に含浸させやすいという観点においては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
【0026】
フィラーとは、硬化性組成物に添加することで液中の固形分を増加させ、硬化物を緻密にする物質のことである。フィラーとしては、有機フィラー(例えば、セルロース等)及び無機フィラー(例えば、カーボン、鉱物質微粉末、合成された無機質結晶粉末、炭酸カルシウム等)等が挙げられる。鉱物質微粉末としては、硬砂岩粉末、ケイ砂粉末、ゼオライト、ジルコニア、シリカの粉末等が挙げられる。
改質剤とは、硬化性組成物を硬化させた硬化物の表面を改質して緻密化し、表面強度を向上させる物質のことである。改質剤としては珪酸塩水溶液と反応することができる各種金属塩が挙げられ、例えば軽焼酸化マグネシウム、亜鉛華等が挙げられる。
【0027】
硬化遅延剤としてはショ糖、酒石酸ナトリウム、クエン酸、金属キレート剤等が挙げられる。
界面活性剤とは、硬化性組成物の分散安定化に寄与する物質のことである。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性及び非イオン性のいずれでもよい。なかでも、非イオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、モノメチルアミン塩酸塩が挙げられる。非イオン性界面活性剤としてはソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエンチレンアルキルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリン酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
【0028】
これらの添加剤は、硬化性組成物の意図する作用を損なわない範囲において、任意の含有量で用いることができる。通常、硬化性組成物の全重量に対して10重量%以下で配合されていることが好ましい。
【0029】
〔補修材料〕
本発明のコンクリート構造物の補修材料は、上述した硬化性組成物と、メッシュシートとを含む。メッシュシートは、単層であってもよいが、少なくとも1層のメッシュシートを含む積層体であることが好ましい。
【0030】
(メッシュシート又は積層体)
メッシュシートは、少なくとも1層が、マルチフィラメントを組み合わせた多軸のメッシュシートであることが好ましい。マルチフィラメントは、長繊維を利用して構成されたものが好ましい。さらに他のメッシュシートと組み合わせて積層体とする場合には、必ずしもマルチフィラメントを組み合わせた多軸のメッシュシートでなくてもよい。
メッシュシートは、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等によって形成されたものが挙げられる。なかでも、ビニロンメッシュシート又はガラスメッシュシートからなることが好ましい。ガラス繊維は、ガラスヤーン又はロービングを用いることが好ましい。ガラスヤーンは、ガラス繊維に撚りをかけて合撚糸としたものであり、ロービングは、ガラス繊維を集束したものである。多軸メッシュの織り方は、平織り、綾織り、絡み織り、組布等が挙げられる。また多軸メッシュの織り方の方向は、直交する二軸、もしくは、それ以上の多軸織物であってもよい。
【0031】
メッシュシートの厚みは、0.1mm〜5mmであるものが好ましく、0.3mm〜3mmであるものがより好ましい。メッシュシートは、目間隔5mm〜25mmでメッシュ状に組み合わせた二軸織物又は多軸織物であることが好ましい。
メッシュシートは、50g/m2以上の目付量であることが好ましく、60g/m2以上であることがより好ましく、75g/m2以上であることがさらに好ましい。このような目付量の範囲とすることにより、引張強度を向上させて、コンクリート片剥落時に破断を生じさせることなく、補修材料の十分な耐力を確保することができる。
【0032】
メッシュシートは、少なくとも1方向の引張強度が1kN/50mm以上であるものが好ましく、マルチフィラメントを組み合わせた多軸の、少なくとも1方向の引張強度が1kN/50mm以上であるものがより好ましく、マルチフィラメントを組み合わせた多軸の、少なくとも1方向の引張強度が1kN/50mm以上、かつ目間隔5mm〜25mmで組み合わせた二軸又は三軸メッシュシートであることがさらに好ましい。また、1000kN/50mm以下、500kN/50mm以下、300kN/50mmが好ましい。
なお、マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせた積層体の式(1)で表される値Xは2.0以上であることが好ましく、2.5以上、2.8以上又は3.0以上であることがより好ましい。
X=A×B (1)
ここで、Aはメッシュシート又はシート状部材の1方向の引張強度kN/50mmを表し、Bはメッシュシート又はシート状部材の軸数を表す。Aは、マルチフィラメントの50mm当たりの本数を変えることにより任意の値をとることができる。Bは、2〜4の範囲を有するものが挙げられる。なかでも、Aは、1kN/50mm以上であることが好ましく、50kN/50mm以上であることがより好ましく、150kN/50mm以上であることがさらに好ましく、Bは2〜3であるものが好ましい。
このような構成により、メッシュシートが、コンクリート構造物から落下するコンクリート片を受け止める耐力層としての機能を満たすことができる。
【0033】
補修材料は、メッシュシートの他に、例えば、シート状部材を含むことが好ましい。このシート状部材としては、例えば、織布、不織布等が挙げられる。材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。なかでも、ポリプロピレン不織布又はガラス不織布で構成されることが好ましく、特に、長繊維不織布であることがより好ましい。ガラス不織布は、硬化性組成物との相溶性に優れるため、硬化性組成物が浸透しやすく、硬化性組成物を硬化させたときに補修材料をコンクリート構造物に強固に固着させることができる。好適なガラス不織布として、チョップドストランドマット、ガラスペーパー、フェルト等が挙げられる。
ポリプロピレン不織布を用いる場合は、硬化性組成物との相溶性を高めるため、繊維表面に表面処理を行うことが好ましい。
メッシュシート又は積層体の全厚みは0.1mm〜1.0mmであることが好ましく、0.15mm〜0.5mmであることがより好ましい。このような厚みの範囲とすることにより、メッシュシートの補強層としての機能を果たすことができるとともに、硬化性組成物の含有量を抑えることができ、経済的に有利である。
【0034】
メッシュシートが積層体として用いられる場合、積層体を予め一体化させておいてもよい。予め一体化させておくことにより、硬化性組成物を、メッシュシートを含む積層体に含有させる際の各シートのズレを防ぐことができる。
一体化の方法は、機械的な繊維交絡、化学的な接着等を利用することができ、例えば、縮絨、ニードルパンチ、ケミカルボンド、サーマルボンド、水流交絡等が挙げられる。
積層体は、例えば、2層構造、3層構造、4層以上であってもよく、積層数は特に限定されない。
【0035】
硬化性組成物をメッシュシート又は積層体へ含有させる方法は、硬化性組成物を、メッシュシート又は積層体へ含ませる、例えば、塗布、噴霧、浸漬、圧入、減圧注入等種々の方法を利用して含ませることが挙げられる。この際の作業性を上げるため、また補修材料へのゴミの付着、補修材料同士の付着を防止するため、硬化性組成物含有後のメッシュシート又は積層体の表裏面を樹脂製の保護フィルムでカバーしてもよい。この保護フィルムはコンクリート構造物に貼り付ける際に除去される。
【0036】
硬化性組成物のメッシュシートへの含有のタイミングとして、コンクリート構造物への貼付前に、現場にて含有させてもよいし、コンクリート構造物への貼付と含浸を同時に行ってもよい。また、硬化性組成物の基材への含有は、コンクリート構造物の表面に硬化性組成物を塗布等し、その上に上述した基材(シート状部材又は積層体)を貼り付けることにより行ってもよいし、上述した基材をコンクリート構造物に接触させながら、硬化性組成物を塗布等することにより行ってもよいし、これらを1回以上行ってもよい。
【0037】
メッシュシート又は積層体への硬化性組成物の含有量は特に限定するものではなく、メッシュシート又は積層体の全体にわたって均一に硬化性組成物が保持され、硬化性組成物の硬化によってメッシュシート又は積層体の全体が強固に一体化させることができるように調整することが好ましい。例えば、メッシュシート又は積層体:硬化性組成物の重量比は、1:4〜1:20程度であることが好ましく、1:4〜1:15であることがより好ましい。
【0038】
〔補修方法〕
コンクリートの補修は、上述したメッシュシート又は積層体に硬化性組成物を含有させることにより得られた補修材料をコンクリート構造物に貼り付け、硬化性組成物を硬化させることにより行うことができる。
補修材料をコンクリート構造物に貼り付ける方法としては、公知の方法によって行うことができる。例えば、貼り付けの際には、適度に押圧することが好ましい。また、補修材料とコンクリート構造物の表面の間に入り込んだ気泡を取り除くことが好ましい。これにより、補修材料とコンクリート構造物の表面との密着性を高めることができる。気泡除去の方法としては、ローラー、へら等を使って気泡を補修材料の外側に追い出すことが好ましい。
【0039】
また、コンクリート構造物への補修材料の貼り付けと、メッシュシート又は積層体への硬化性組成物の含有とを同時に行う方法としては、特に限定されないが、例えば、A)コ
ンクリート構造物へメッシュシート又は積層体を粘着テープ等で仮固定しその表面から硬化性組成物をローラー、ヘラ、コテ、ハケ等を用いて塗りこみ含有させる方法、B)コンクリート構造物表面に硬化組成物をローラー、ヘラ、コテ、ハケ等を用いて塗り、その上にメッシュシート又は積層体を貼り合せてローラー、ヘラ等でしごいて含有させる方法、C)Bの方法の後さらにメッシュシート又は積層体の上から硬化組成物をローラー、ヘラ、コテ、ハケ等を用いて塗りこみ含有させる方法等が挙げられる。
【0040】
メッシュシート又は積層体に含有された硬化性組成物の硬化は、コンクリート構造物に補修材料を密着させた状態で、その状態を維持することによって行うことができる。例えば、組成物の硬化時間は10分〜180分が挙げられ、20分〜120分とすることができる。硬化時間は、組成物の組成比率、周辺温度等によって調整することができる。組成物の硬化が完了すると、コンクリート構造物に補修材料が強固に固着されて、コンクリート構造物の補修が完了する。硬化のために補修材料を加熱してもよいが、周辺温度で維持してもよい。
以下、本発明の硬化性樹脂組成物及びコンクリート構造物の補修材料を、実施例を挙げてより詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(メタカオリン粉体の調製)
第1キットに含まれる組成物中の全アルミニウムに対して、酸素配位数5のアルミニウムの割合が10重量%以上、比表面積が12m2/g以上であるメタカオリン粉体A、B
、Cの作成、
第1キットに含まれる組成物中の全アルミニウムに対して、酸素配位数5のアルミニウムの在割合が10重量%以上で、比表面積が12m2/g以下であるメタカオリン粉体D、E、Fの作成、
第1キットに含まれる組成物中の全アルミニウムに対して、酸素配位数5のアルミニウムの在割合が10重量%未満で、比表面積が12m2/g以上であるメタカオリン粉体G、Hの作成を以下の方法で行った。
第1キットに含まれる組成物中の全アルミニウムに対して、酸素配位数5のアルミニウムの在割合が10重量%未満で、比表面積が12m2/g未満であるメタカオリン粉体I、Jの作成を以下の方法で行った。
【0042】
(メタカオリン粉体A、Bの作成)
メタカオリン粉体(イメリス社製、Polestar450)2kgと、粉砕助剤としてトリエタ
ノールアミン25%及びエタノール75%の混合物10gとを、ウルトラファインミルAT−20(三菱重工業社製、10mmφジルコニアボール充填率85%)にて20kWh/kgのエネルギーで処理し、メタカオリン粉体Aを作成した。
次いで、30kWh/kgのエネルギーとする以外、同様に処理し、メタカオリン粉体
Bを作成した。
(メタカオリン粉体Cの作成)
メタカオリン粉体を、BASF社製:SP-33にした以外はメタカオリン粉体Aと同様に
してメタカオリン粉体Cを作成した。
【0043】
(メタカオリン粉体Dの作成)
粉砕処理をしなかった以外はメタカオリン粉体Aと同様にしてメタカオリン粉体Dを作成した。
(メタカオリン粉体Eの作成)
1.5kWh/kgのエネルギーで処理した以外はメタカオリン粉体Aと同様にしてメタカオリン粉体Eを作成した。
(メタカオリン粉体Fの作成)
粉砕処理をしなかった以外はメタカオリン粉体Cと同様にしてメタカオリン粉体Fを作成した。
【0044】
(メタカオリン粉体G、Hの作成)
50kWh/kgのエネルギーで処理した以外はメタカオリン粉体Aと同様にしてメタカオリン粉体Gを作成した。
また、70kWh/kgのエネルギーで処理した以外はメタカオリン粉体Aと同様にしてメタカオリン粉体Hを作成した。
【0045】
(メタカオリン粉体Iの作成)
メタカオリン粉体を、ASHAPURA MINECHEM LIMITED (アシャプラ)社製:METAX RXにした以外はメタカオリン粉体Aと同様にしてメタカオリン粉体Iを作成した。
【0046】
(メタカオリン粉体Jの作成)
砕処理をしなかった以外はメタカオリン粉体Iと同様にしてメタカオリン粉体Jを作成した。
【0047】
(酸素配位数5のアルミニウムの存在割合の測定)
各メタカオリン粉体中のアルミニウムの酸素配位数スペクトルの測定を、27Al MAS NMRにて測定した。固体用4mmプローブ用ローターに試料を充填し、試料回転数15kHz、待ち時間2秒でDD/MAS法で測定した。スペクトルには酸素配位数4、5、6のピークが現れた。酸素配位数5のアルミニウムの存在割合はローレンツ関数でフィッティングし、面積比(酸素配位数4、5、6の全面積に対する酸素配位数5の面積)で算出した。
(比表面積の測定)
各メタカオリン粉体の比表面積を、窒素吸着量測定装置(カンタクリーム社製:autosorb-1)にて各相対圧における窒素吸着量を測定し、BET法により求めた。
各結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
実施例1〜3
メタカオリン粉体A、B、Cを表2に示す割合で含む組成物を調製して第1キットを得た。
また、固形分27重量%、SiO2/Na2O(モル比)=1.6に調整された珪酸ナトリウム水溶液、ラテックス(日本ゼオン株式会社製 商品名:LX407 F43、スチレンブタジエンゴム(固形分50%))を表2に示す割合で24時間撹拌して、水溶液組成物を調製して第2キットを得た。これにより、硬化性組成物用キットを構成した。
その後、第1キットと第2キットとを表2に示す割合で混合して、硬化性組成物を調製した。
【0049】
また、ビニロン製マルチフィラメントからなる目間隔10mmのメッシュシート(厚み:1mm、目付量:100g/m2、引張強度150kN/50mm)に、ガラス不織布(目付量25g/m2、厚み0.2mm)をコンクリート貼付面側に1枚積層し、反対側の最表面層にポリプロピレン不織布(目付量30g/m2、厚み0.2mm)を1枚積層することにより、3層のシート状部材を積層した繊維シート積層体を作製した。
作製したシート積層体300mm×300mmに、100gの硬化性組成物を含浸させることにより、コンクリート構造物の補修材料を作製した。
これを300mm×300mm×厚み60mmのコンクリート平板(JIS A 5371)に貼り合せ、23℃50%RHの部屋に3日間静置し、硬化させ、評価サンプルを得た。
【0050】
実施例4〜7
メタカオリン粉体A、D、E、Fと高炉スラグ粉体とを表3に示す割合で混合し、第1キットを得た。
また、第2キットを、表3に示す成分を各比率で混合することにより得た。
その後、実施例1等と同様に硬化性組成物を得た。
また、実施例1等と同様にして評価サンプルを得た。
【0051】
比較例1〜5
メタカオリン粉体G、H、I、Jと高炉スラグ粉体とを表4、5に示す割合で混合し、第1キットを得た。
実施例1と同様に、第2キットを得、硬化性組成物、繊維シート積層体、コンクリート構造物の補修材料を作成し、実施例1と同様に評価サンプルを得た。
【0052】
<付着力評価>
・水浸漬前(初期)
得られた実施例及び比較例のサンプルに対して、40mm×40mmの鋼製付着子を2液エポキシ接着剤(商品名:ボンドE−250、コニシ社製)で取り付け、質量1kgのおもりをのせて23℃50%RH雰囲気下で24時間静置し、硬化させた。その後、コンクリートカッターで鋼製付着子の周りに平板に達するまで切り込みを入れた。簡易型単軸引張試験器(テクノスター R−10000ND)を用いて、JSCE−E545に準拠した付着強度試験を行った。
・水浸漬10日後
実施例及び比較例で得られたサンプルを、23℃の水にサンプル全体が完全に浸る状態にして10日間静置し、その後、水からサンプルを取り出して23℃50%RH雰囲気下で16時間静置した。その後は初期と同様の方法により鋼製付着子の取付・硬化、切り込みを行い、付着強度試験を行った。
【0053】
<耐燃焼性能評価>
NEXCO試験方法 試験法738−2011「トンネル補修材料の延焼性試験方法」に基づき行った。
これらの結果を表2〜5に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0054】
表2及び3の結果から、実施例1〜7に示したように、第1キットの成分に対して、第2キットの成分を組み合わせて用いることにより、常温でも初期強度に優れ、かつ耐水性、耐燃焼性に優れた補修材料を得ることができることが確認された。
一方、表4、5の結果から、比較例1〜5では、第1キット中の配位数5のAlの含有率が10重量%より少ないため、水浸漬10日後の付着力が低いことが確認された。