特許第6971130号(P6971130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971130
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】触感計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   A61B5/00 101N
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-221174(P2017-221174)
(22)【出願日】2017年11月16日
(65)【公開番号】特開2019-88673(P2019-88673A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】能勢 柚
(72)【発明者】
【氏名】山岸 敦
【審査官】 樋口 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−170177(JP,A)
【文献】 特開2004−077346(JP,A)
【文献】 特開2017−133967(JP,A)
【文献】 Loeb, G. E., and J. A. Fishel,The Role of Fingerprints in Vibrotactile Discrimination,White paper for DoD Physics of Biology,2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00−5/01
G01B5/00−7/34
G01B17/00−21/32
G01N29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手指の指紋ピッチに対応する線幅でその延在方向に交わる方向に沿って対象面に線として接触させて用いられる接触部と、
前記接触部に連接しており前記接触部から得られる振動を伝搬する振動伝搬部と、
前記振動伝搬部に設けられ前記振動を検知する振動センサと、
を備え
前記接触部は、曲率半径1mm以上20mm以下で凸の弧状に湾曲しており、70GPa以上300GPa以下のヤング率を有し、0.5mm以下の線幅を有する、
触感計測装置。
【請求項2】
前記振動伝搬部に接続される把持部を更に備え、
前記接触部は、前記把持部へ向かう方向に対して交差する方向に延在している、
請求項1に記載の触感計測装置。
【請求項3】
前記把持部は、前記振動伝搬部における前記接触部が設けられている端部とは異なる端部に設けられており、
前記振動センサは、前記接触部と前記把持部との間に設けられている、
請求項2に記載の触感計測装置。
【請求項4】
前記振動伝搬部は、前記把持部よりも前記接触部に近い位置で屈曲するL字形状を有する、
請求項2又は3に記載の触感計測装置。
【請求項5】
前記接触部は、一以上のループをなす一本の線状体の一部である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の触感計測装置。
【請求項6】
前記振動伝搬部は、平板状に形成されており、
前記振動センサは、前記振動伝搬部の幅広面に沿って設けられる圧電フィルムである、
請求項1から5のいずれか一項に記載の触感計測装置。
【請求項7】
計測時における対象面への前記接触部の押し付け力を検出する第一検出部と、
計測時における摺動速度を検出する第二検出部と、
を更に備える請求項1から6のいずれか一項に記載の触感計測装置。
【請求項8】
計測時における対象面の前記接触部との接触箇所を撮像する撮像部
を更に備える請求項1から7のいずれか一項に記載の触感計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触感計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や洗顔料、シャンプー、洗剤、柔軟剤といった製品の効果を検証するために、それら製品を適用した人の肌や髪、物品(食器など)の感触を評価することが行われている。人の肌や髪そのものの状態を評価するために触感評価が行われる場合もある。このような触感評価では専門家による官能評価が用いられるのが一般的である。
しかしながら、官能評価では、評価者間の差や、評価時における評価者の身体的及び精神的な状況の差などにより評価結果が左右され易いため、定量的な評価が難しいという側面がある。
【0003】
そこで、触感を定量的に評価する手法が提案されている。例えば、特許文献1には、人が毛髪に対し得る感覚を客観的に評価することができる毛髪特性測定用センサが開示されている。このセンサは、櫛型形状部を有する支持体と、支持体が毛髪を梳かす際に生じる振動を電気信号に変換するポリフッ化ビニリデンを圧電変換材とする検出手段と、検出手段の発生する信号を出力する出力手段と、を有している。
特許文献2には、皮膚性状検出センサを用いた皮膚触感評価方法が開示されている。この方法では、ピン状の接触子の先端部で測定対象(皮膚触感モデル)を押圧したときの接触圧が測定されると共に、接触子の共振振動数の変化値が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−201812号公報
【特許文献2】特開2012−130580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の各手法には改善の余地が残る。
例えば、特許文献1の手法は、毛髪に特化した評価手法であるため、人の肌や物品の表面のような幅広面を評価対象とすることはできない。
また、特許文献2の手法は、少なくともピン状の接触子を共振振動させる必要があるため、据置型装置を用いており、評価対象が制限されてしまう。
本発明は、任意の対象面の触感を評価することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
本発明は、手指の指紋ピッチに対応する線幅でその延在方向に交わる方向に沿って対象面に線として接触させて用いられる接触部と、前記接触部に連接しており前記接触部から得られる振動を伝搬する振動伝搬部と、前記振動伝搬部に設けられ前記振動を検知する振動センサと、を備える触感計測装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記触感計測装置によれば、任意の対象面の触感を評価する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る触感計測装置の利用例を示す概念図である。
図2】本実施形態に係る触感計測装置の構成を概念的に示す図である。
図3】指紋の構造を概念的に示す図である。
図4】変形例に係る触感計測装置の構成を示す図である。
図5】実施例に係る触感計測装置を示す上方斜視図である。
図6】実施例に係る触感計測装置を示す下方斜視図である。
図7図7(a)は、官能評価スコア「1」の被験者の測定結果(振動振幅)を示すグラフであり、図7(b)は、官能評価スコア「4」の被験者の測定結果を示すグラフである。
図8図8(a)は、官能評価スコア「1」の被験者の測定結果(周波数)を示すグラフであり、図8(b)は、官能評価スコア「4」の被験者の測定結果(周波数)を示すグラフである。
図9】触感計測装置を用いて計測された振動情報及び官能評価スコアの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態の例(以降、本実施形態と表記する)について説明する。なお、以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0010】
まず、本実施形態に係る触感計測装置(以下、本装置と表記する)1の概要について図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る触感計測装置1の利用例を示す概念図である。図2は、本実施形態に係る触感計測装置1の構成を概念的に示す図である。
本装置1は、接触部15、振動伝搬部20、及び振動センサ25を少なくとも備えている。
【0011】
接触部15は、手指の指紋ピッチに対応する線幅でその延在方向に交わる方向に沿って対象面に線として接触させて用いられる。接触部15は、計測時に対象面に接触させることが可能な部位である。
ここで「対象面」とは、触感計測の対象とされる面(表面)を意味し、人肌の表面や物体の表面などが例示される。対象面は平面であってもよいし曲面であってもよく、接触部15を接触させて摺動させることができれば、その形状や材質などは何ら制限されない。
【0012】
「接触部15の延在方向に交わる方向に沿って対象面に線として接触させて用いられる」とは、計測時に接触部15の延在方向が対象面に交わるように接触部15が設けられているわけではなく、線状の接触部15の延在方向がおおよそ対象面に沿わせて接触させることができる方向に設けられており、かつ線状の接触部15はその延在方向とは平行をとらない方向に動くことを意味する。つまり、接触部15は、対象面に平行となり得る方向に線状に延在していてもよいし、曲率半径が少なくとも接触部15の線幅(太さ)よりも大きくなるような凸の弧状に湾曲した線状で延在していてもよい。後者の場合、接触部15又は対象面の柔軟性により、接触部15が計測時に対象面に線接触可能となっていてもよい。このように「線として接触させて」には、対象面に完全に線で接触させることのみならず、おおよそ線(限りなく点に近い線状)で接触することも含む。
【0013】
「手指の指紋ピッチに対応する線幅」とは、手指の平均的な指紋ピッチの寸法レベル(例えば、1mm未満)の幅又は太さを意味する。手指の指紋ピッチは、0.2mm以上0.6mm以下程度であるため、接触部15の線幅(手指の指紋ピッチに対応する線幅)は0.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以下である。接触部15の線幅の下限は、対象面に接触させて対象面に沿って摺動可能な硬さを実現できれば、素材等に応じて適宜決めることができ、例えば、0.1mmに決めることができる。
【0014】
図3は、指紋の構造を概念的に示す図である。図3に示されるように、指紋は丘状の凸部とそれら凸部間に存在する凹部との並びで形成されている。指紋ピッチとは、隣接する凸部間の距離である。
そして、人の触覚には指紋が重要な役割を果たしており、指紋の凹凸が物体表面を触ることで生じる振動を増幅し、人はその振動に基づいて触感を得ることが知られている。接触部15の線幅をこのような手指の指紋ピッチに対応する線幅とすることで、指紋の凹凸が対象面に沿って摺動した際に生じる振動と近似する振動を接触部15で生じさせることができる。即ち、触感を得るときに手指で受ける振動と近似する振動を取得することができ、ひいては、その振動に基づいて触感を高精度に評価することができる。
【0015】
振動伝搬部20は、接触部15に連接しており接触部15から得られる振動を伝搬する。具体的には、振動伝搬部20は、対象面に接触させた状態で対象面に沿って接触部15を摺動させた際に接触部15に生じる振動を伝搬する。
振動伝搬部20の形状及び材質は、接触部15から得られる振動を少なくとも振動センサ25で検知できるように伝搬することができれば何ら限定されない。図1及び図2の例では、振動伝搬部20は振動センサ25のみならず把持部30にも振動を伝搬するよう構成されているが、振動伝搬部20は把持部30には振動を伝搬不可能に構成されていてもよい。
また、図1及び図2の例では、振動伝搬部20と接触部15とは間接的に連なっている。具体的には、接触部15は線状体である接触子10の一部であり、接触子10と振動伝搬部20の一端部とが直接接続されている。但し、振動伝搬部20と接触部15とは直接的に連なっていてもよい。例えば、振動伝搬部20の一端部が接触部15とされてもよい。
【0016】
振動センサ25は、振動伝搬部20に設けられ振動伝搬部20により伝搬される振動を検知する。振動センサ25の位置については振動を検知することができれば限定されない。振動センサ25は振動伝搬部20の表面に設けられてもよいし、内部(露出しない位置)に設けられてもよい。
また、振動センサ25は、振動を検知可能であれば、その具体的構成は限定されない。振動センサ25は、例えば、圧電体、ひずみゲージ、加速度センサ、電磁誘導効果を用いたセンサなどで実現可能である。
【0017】
振動センサ25は、検出領域の広いシート状又はフィルム状であることが好ましい。図1及び図2の例では、振動伝搬部20が平板状に形成されており、振動センサ25は、圧電フィルムで実現され、振動伝搬部20の幅広面(上面)に沿って設けられている。このようにすることで、振動伝搬部20を伝搬する振動の検出感度を向上させることができる。
【0018】
このように本装置1は、手指の指紋ピッチに対応する線幅で線状に延在する接触部15をその延在方向に沿って対象面に接触させて摺動させ、そのときに接触部15から得られる振動を振動伝搬部20を介して振動センサ25が検知する。これにより、人が対象面から触感を得るときに生じる振動と近似する振動を検知することができるため、対象面の触感を高精度に評価することができる。
【0019】
以下、上述した本装置1をより詳細に説明する。
図1に示されるように、触感計測を行うにあたり、ユーザ(計測者)は、把持部30を把持しながら接触部15を対象面(図1では腕表面)に接触させて、接触部15の延在方向と交差する方向かつ接触部15から把持部30に向かう方向に本装置1を摺動させる。
このとき、本装置1は、上述したとおり、接触部15で得られる振動を振動センサ25で検知して、その検知信号を出力する。この出力された振動検知信号に基づいて触感に関わる情報が取得される。
【0020】
振動伝搬部20の先端部には接触子10が接続されている。本実施形態では、接触子10は、半円状をなす一本の線状体で形成されており、その二つの端部が振動伝搬部20の先端部の端面に連結されている。但し、接触子10の線状体は、凸の弧状に湾曲している箇所を含めば、楕円や複数曲率を有する形状を有していてもよい。また、接触子10と振動伝搬部20との連結構造は、接触部15で得られた振動が振動伝搬部20に伝搬可能であれば何ら制限されない。
【0021】
接触部15は、線状体である接触子10の一部であり、接触子10における凸の弧状に湾曲している箇所の一部である。接触部15は手指の腹を模した曲率で湾曲した箇所に設けられることが好ましい。ここで、接触部15とされる湾曲部には、人が手指で対象面の感触を探る場合に対象面と接触しているおおよその指幅に対応する曲率半径の湾曲を含むことが好ましい。例えば、接触部15とされる湾曲部には、曲率半径1mm以上20mm以下の湾曲を含むことが好ましく、曲率半径2mm以上15mm以下の湾曲を含むことがより好ましい。指紋は手指の腹に沿って湾曲しているため、これにより接触部15を手指の指紋形状に近い形状とすることができる。このように対象面に接触する接触部15を手指の腹を模した曲率の凸の弧状とすることで、触感を得るときに手指で受ける振動と近似する振動を得ることができる。
【0022】
本実施形態では、接触部15の延在方向はおおむね図2の紙面と直交する方向である。接触部15は、振動伝搬部20の基端部に設けられている把持部30へ向かう方向に対して交差する方向に延在しているということもできる。これにより、ユーザは腕の長さ方向に摺動操作を行うことができるため、安定操作が可能となり、ひいては適切な振動情報を得ることができる。
【0023】
また、接触部15が接触子10における振動伝搬部20との連結端よりも把持部30から遠い位置にくるように形成されている。これにより、ユーザは、対象面に接触部15を接触させた状態で把持部30を接触部15から離れる方向に移動させることで接触部15を対象面に沿って安定して摺動させることができる。
【0024】
接触子10における線状体の太さは全体的に均一とされてもよいし、局所的に異なる太さとされてもよい。前者の場合、接触子10の線状体の太さが全体的に手指の指紋ピッチに対応する太さとされ、後者の場合、接触部15を含む一部の箇所のみ手指の指紋ピッチに対応する太さとされ、残りの箇所がより太くされればよい。後者によれば、接触子10の線状体における接触部15以外の箇所の太さを接触子10の素材等に応じて或る程度任意に決めることができるため、接触子10の素材選択の幅を拡げることができる。
【0025】
接触子10における少なくとも接触部15が設けられている箇所の素材には、計測対象物の凹凸に沿うように入り込むことが望ましいため、計測時における対象面への押し付け力に耐えうる曲げ強度を有する材料が選ばれることが好ましい。例えば、接触部15は、70GPa以上300GPa以下のヤング率を有することが好ましい。これにより、触感を得るときに手指で受ける振動と近似する振動を得ることができる。
【0026】
振動伝搬部20の基端部(接触子10が設けられている端部とは異なる端部)には把持部30が設けられている。本実施形態では、把持部30は、ユーザにより把持され易いように振動伝搬部20よりも厚い部材となっているが、把持部30の形態はこのような例に限定されない。振動伝搬部20と把持部30とは区別不能に形成されていてもよい。また、把持部30は、振動伝搬部20の端部に設けられていなくてもよく、振動伝搬部20の任意の場所から分岐する(突出)するように設けられていてもよい。
更に、本実施形態では把持部30も振動伝搬部20の一部となっており、把持部30にも振動が伝搬され得る。これにより、ユーザは、把持部30を介して振動を感じながら、触感計測を行うことができる。
【0027】
振動伝搬部20は、把持部30を手に持ったときに接触部15を対象面に接触させて摺動させ易くする形状を備えていることが好ましい。本実施形態では、振動伝搬部20は、平板状に形成されており、把持部30よりも接触部15に近い位置で屈曲するL字形状を有している。屈曲部は、振動伝搬部20における先端部から1cm以上20cm以下、好ましくは1.5cm以上5cm以下離れ、把持部30の検出部側先端から1cm以上15cm以下、好ましくは2cm以上10cm以下離れた位置に略直角に設けられる。
これにより、振動伝搬部20における屈曲部から把持部30側を対象面に対して平行にして接触部15を摺動させることができるため、安定操作が可能となる。更に、ユーザにとってL字形状により接触部15と対象面との接触箇所を視認し易くなるため、操作性が向上する。但し、本実施形態では、図2に示されるように、振動伝搬部20は略直角に一箇所で屈曲しているが、屈曲角度及び屈曲部の数はそのような例に限定されない。
【0028】
振動伝搬部20の形状及び材質は、接触部15で得られる振動を少なくとも振動センサ25まで伝搬するのに十分な強度を持つことができれば、特に限定されない。例えば、振動伝搬部20の形状及び材質は、ヤング率が1GPa以上300GPa以下、屈曲部から把持部30までの長さが5mm以上100mm以下、厚さが0.05mm以上5mm以下、曲げ弾性率が1GPa以上400GPa以下とされることが好ましい。より好ましくは、ヤング率が2GPa以上250GPa以下、屈曲部から把持部30までの長さが15mm以上70mm以下、厚さが0.1mm以上3mm以下、曲げ弾性率が2GPa以上300GPa以下である。
【0029】
振動センサ25は、振動伝搬部20における屈曲部よりも把持部30側寄りの幅広面(上面)上に設けられている。本実施形態では、振動センサ25は、振動伝搬部20の幅広面に沿って設けられた圧電フィルムである。このように、振動センサ25を幅広のフィルム状(シート状)とすることで、振動感度を向上させることができる。
【0030】
また、振動センサ25は、振動伝搬部20における接触部15と把持部30との間に設けられている。これにより、接触部15から振動伝搬部20を伝搬してきた振動は振動センサ25で検知されると共に、把持部30にまで到達しユーザに感じさせることができる。結果、ユーザは把持部30を持つ指で感触を得ながら、触感計測を行うことができる。
【0031】
振動センサ25の位置は図2等に示される位置に限定されない。例えば、振動センサ25は、振動伝搬部20の下面に設けられていてもよいし、屈曲部よりも接触子10側寄りに設けられていてもよい。また、振動センサ25の具体的構成についても限定されない。振動センサ25は、圧電フィルムでなくてもよく、ひずみゲージ、加速度センサ、電磁誘導効果を用いたセンサなどで実現可能である。振動センサ25は検知された振動を電気信号に変換し、その電気信号(振動検知信号)を出力する。
【0032】
更に、本装置1は、計測時における対象面への接触部15の押し付け力を検出する第一検出部33と、計測時における摺動速度を検出する第二検出部35と、計測時における対象面の接触部15との接触箇所を撮像する撮像部37とを備える。
【0033】
本実施形態では、第一検出部33は、振動伝搬部20における屈曲部よりも把持部30側寄りの下面(振動センサ25が設けられている幅広面の厚み方向反対側の幅広面)に設けられた歪みセンサである。振動伝搬部20は、平板状でありかつ柔軟性を有しているため、計測時における対象面への接触部15の押し付け力に応じて歪む。第一検出部33は、振動伝搬部20の歪みの大きさを当該押し付け力として検出し、その検出された歪みを電気信号に変換してその電気信号(押し付け力信号)を出力する。
第一検出部33により検出される押し付け力はこのような振動伝搬部20の歪み以外を用いても検出可能である。例えば、第一検出部33は把持部30にかかる荷重を当該押し付け力として検出してもよい。また、第一検出部33の設置位置は検出すべき情報に応じて任意の位置に設けられれば良い。
接触部15で得られる振動は、このような押し付け力の違いに影響され得る。触感計測時に第一検出部33により押し付け力を検出することにより、その数値をユーザに提示するなどして計測ごとの条件を合わせることができる。
【0034】
本実施形態では、第二検出部35は、把持部30に設けられた慣性(加速度に角速度を加えてよい)センサである。第二検出部35は、計測時の本装置1の摺動速度を検出し、検出された速度を電気信号に変換し、その電気信号(摺動速度信号)を出力する。
本装置1の摺動速度は慣性センサ以外でも検出され得る。例えば、モーションキャプチャ技術が利用可能である。一例として、本装置1の任意の箇所にマーカを付しておき、計測時に本装置1の動きを撮像することで、その画像中のマーカの動きの解析から摺動速度を算出することもできる。本装置1の摺動速度の検出手法は何ら制限されない。
接触部15で得られる信号は、計測時の摺動速度の違いにも影響され得る。触感計測時に第二検出部35により摺動速度を検出することにより、その数値をユーザに提示するなどして計測ごとの条件を合わせることができる。
【0035】
撮像部37は、把持部30の下方に設けられており、接触部15を撮像可能な画角及び向きに設定されている。撮像部37は、動画を撮像してもよいし、静止画を所定の周期で撮像してもよい。撮像部37は撮像信号を出力する。撮像部37により撮像された映像をリアルタイム又は計測後に表示させることで、計測時における接触部15と対象面との状態を確認することができる。
【0036】
本実施形態では、本装置1は、第一検出部33、第二検出部35及び撮像部37のすべてを備えたが、それらのいずれか一つ又はいずれか二つを備えるようにしてもよい。いずれか一つ又はいずれか二つの検出信号を用いたとしても、計測時の条件合わせが可能である。
振動センサ25、第一検出部33及び第二検出部35から出力される振動検知信号、押し付け力信号及び摺動速度信号は、AD変換器(図示せず)や各種フィルタなどを介して、汎用又は専用のコンピュータ(情報処理装置)(図示せず)に取り込まれる。
【0037】
当該コンピュータは、振動検知信号から得られる振動情報、押し付け力信号から得られる押し付け力情報、摺動速度信号から得られる摺動速度情報を数値データ(時系列データ)やグラフデータ等として記憶又は出力することができる。コンピュータは、振動情報、押し付け力情報及び摺動速度情報をリアルタイムに表示することもできるし、データとして記憶しておくこと或いは他のコンピュータ等に出力することもできる。
【0038】
実施例として後述するように、このように得られる振動情報を用いることで、「すべすべ感」、「さらさら感」、「滑らかさ」、「しっとり感」といった、対象面を触ることで人が感じる触感の違いを評価できることが見出されている。
そのため、当該コンピュータは、触感の違いを明確化するべく、振動情報を処理して、振動の統計情報や周波数情報を抽出し出力してもよい。振動の統計情報としては、例えば、振幅値(振動の大きさ)の平均、標準偏差、又は分散が算出されてもよい。また、周波数情報は、振動情報(振動の時系列データ)に既知の周波数解析を適用することにより算出可能である。
【0039】
当該コンピュータは、本装置1とは別に扱われてもよいし、本装置1の一部として扱われてもよい。後者の例として、本装置1がCPU(Central Processing Unit)のような情報処理部(情報処理回路)を備えていてもよい。
このように本装置1で得られる振動検知信号によれば、「すべすべ感」、「さらさら感」、「滑らかさ」、「しっとり感」といった対象面の触感を定量的に評価することができる。
【0040】
[変形例]
上述の触感計測装置1は、図1及び図2に示されるような構成に限定されず、本実施形態の概要として述べた内容を逸脱しない範囲で各種変更可能である。
図4は、変形例に係る触感計測装置40の構成を示す図である。以下、変形例に係る触感計測装置40について、上述の触感計測装置1と相違する点を中心に説明する。
【0041】
変形例では、接触子10が振動伝搬部20と別に設けられておらず、振動伝搬部20の先端部が接触部45とされている。具体的には、振動伝搬部20は先端側寄りで屈曲しており、振動伝搬部20の先端部が凸の弧状に湾曲しており、その湾曲部が接触部45とされている。また、接触部45の太さ(厚み)は、振動伝搬部20における屈曲部よりも把持部30寄りの箇所よりも薄くされており、手指の指紋ピッチに対応する太さとされている。接触部15が手指の腹と近似するような柔軟性を持つように、振動伝搬部20における屈曲部から接触部15までの間の厚みが他の箇所よりも薄くされてもよい。なお、図4の例では、振動伝搬部20の屈曲角度は90度よりも大きくなっている。
【0042】
このような構成でも接触部15を対象面に接触させて摺動させることで、人が対象面から触感を得るときに生じる振動と近似する振動を検知することができ、ひいては、対象面の触感を高精度に評価することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げ、上述の内容を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例の内容にのみ限定されるものではない。本発明者らは、上述の触感計測装置1の試作機として、触感計測装置50を製作し、触感計測装置50を用いて上述の効果を検証した。
【0044】
まずは、触感計測装置50の構成について図5及び図6を用いて説明する。
図5は、実施例に係る触感計測装置50を示す上方斜視図であり、図6は、実施例に係る触感計測装置50を示す下方斜視図である。
触感計測装置50は、平板状の振動伝搬部20の基端部に把持部30が設けられており、振動伝搬部20の先端部に接触子10が設けられている点において、上述の触感計測装置1と同様である。なお、振動伝搬部20は、厚さ1mmのポリスチレン板により形成された。
【0045】
実施例において接触子10は、太さ0.2mmのピアノ線(硬鋼線)(株式会社TETTRA社製)により形成されており、そのピアノ線が螺旋状に直径約7mmの一つのループ13をなしている。そして、このループ13をなすピアノ線の一部が接触部15とされている。
このように、接触部15は、一以上のループをなす一本の線状体の一部とされてもよい。ここでの「一ループ」とは、回転軸又は螺旋軸回りに180度以上360度以下の範囲で延在している環状体を意味する。これによれば、ループ13がサスペンション機能を実現し、対象面に対して接触部15を程よい押し付け力で接触させることができるため、振動感度を向上させることができる。
また、接触部15は、0.2mmの太さ(線幅)を持ち、曲率半径約5mmで湾曲している。これにより、接触部15の形状を対象面に振れている状態の指紋の形状に近似させることができるため、人が対象面から触感を得るときに生じる振動と近似する振動を得ることができる。
【0046】
接触子10は、振動伝搬部20の屈曲部よりも先端側の面に接着されたプラスチック素材(ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)素材)の2本の管53を介して振動伝搬部20に固定されている。二つの管53はそれぞれ0.25mmの内径を有しており、接触子10(ピアノ線)の二つの端部がそれぞれ管53に挿嵌され嵌合固定されている。
このように線状体の接触子10を管53を介して振動伝搬部20に接続することで、接触子10を振動伝搬部20にしっかりと固定できるだけでなく、接触子10が損傷した場合に容易に接触子10を取り換えることができる。
接触子10をしっかりと固定しかつ振動を適切に伝達するために、管53の長さは5mm以上3cm以下とされることが好ましい。
【0047】
振動センサ25は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルムを受感材として用いた圧電フィルムにより実現され、振動伝搬部20における屈曲部よりも把持部30側の上面に装着された。振動センサ25に接続された出力線(電気信号線)は、データロガー(株式会社キーエンス社製)に入力され、データロガーとパーソナルコンピュータ(PC)が接続された。データロガーで計測及び記録されたデータはPCに送られ処理された。
【0048】
また、触感計測装置50は、第一検出部33としてひずみセンサ55を備えており、ひずみセンサ55は、振動伝搬部20における屈曲部よりも把持部30側の下面に装着された。ひずみセンサ55に接続される出力線(電気信号線)についてもデータロガーに入力された。
一方で、触感計測装置50には、触感計測装置1と異なり、第二検出部35及び撮像部37は設けられなかった。
【0049】
このような触感計測装置50を用いて次のような試験が行われた。
(試験例1)
触感計測装置50を用いて、肌状態の異なる20代の2名の被験者の小鼻の肌感触が計測された。計測は、被験者の頭部を固定した状態で触感計測装置50の接触部15で小鼻を50回程度、上から下へ片道でなぞる方法により行われた。
触感計測装置50により計測された情報はPCのモニタ上にリアルタイムに表示され、計測者は、ひずみセンサ55で検知されそのモニタに表示された力覚(押し付け力)波形を確認して押し付け力を一定としながら触感計測装置50を操作した。
【0050】
一方で、専門パネルが各被験者の小鼻を指で触れ、角栓に着目した「肌の滑らかさ」に関する官能評価を行った。専門パネルによる評価においても、触感計測装置50と同様に、被験者の小鼻の上から下へ片道でなぞる方法が採られた。官能評価の結果は、5「ざらざらしている」、4「ややざらざら」、3「ざらざらが少ない肌を実感できる」、2「ざらざらを感じない」、1「滑らかな肌を実感できる」の5段階のスコアで示された。
官能評価の結果、被験者の一人が官能評価スコア「1」(滑らかな肌を実感できる)と評価され、他の一人が官能評価スコア「4」(ややざらざら)と評価された。
【0051】
図7(a)は、官能評価スコア「1」の被験者の測定結果(振動振幅)を示すグラフであり、図7(b)は、官能評価スコア「4」の被験者の測定結果を示すグラフである。
図7(a)及び図7(b)には、約50回のなぞりのうち肌状態に変化をきたしていない初期7回の結果が示されている。振動センサ25から出力される電気信号のサンプリング周期は1000Hzに設定され、ひずみセンサ55から出力される電気信号のサンプリング周期は100Hzに設定された。
各グラフの右側の縦軸は、振動センサ25から得られた振動のみなし数値を示し、左側の縦軸は、ひずみセンサ55から得られた歪み情報をグラム単位に変換した押し付け力(力覚)を示し、横軸は時間を示している。
【0052】
図8(a)は、官能評価スコア「1」の被験者の測定結果(周波数)を示すグラフであり、図8(b)は、官能評価スコア「4」の被験者の測定結果(周波数)を示すグラフである。
図7(a)及び図7(b)によれば、肌が滑らかでなくなるほど大きい振動振幅が現れ振動振幅のばらつきが大きくなることが視認できる。また、図8(a)及び図8(b)においても、肌が滑らかでなくなるほど高い周波数のパワーが大きくなり周波数のばらつきも大きくなることが視認できる。
このような結果から、触感計測装置50で肌表面を計測した情報、具体的には振動振幅及び周波数分布によって、肌の触感の違いを評価できることが確認された。
【0053】
(試験例2)
触感計測装置50を用いて、1名の被験者の小鼻の肌感触が計測された。試験例2では、被験者に3週間洗顔料を連用しながら、その被験者の、洗顔料の使用直前、連用2日後、及び連用21日後において触感計測装置50を用いて計測が行われた。この計測と同時に、当該被験者の、洗顔料の使用直前、連用2日後、連用7日後・連用14日後、及び連用21日後において、専門パネルが角栓に着目した「肌の滑らかさ」に関する官能評価を行った。官能評価の結果は上述の試験例1と同様に5段階スコアで示された。
【0054】
図9は、触感計測装置50を用いて計測された振動情報及び官能評価スコアの変化を示すグラフである。
図9の棒グラフは、触感計測装置50により計測された振動情報から得られた3摺動における振動振幅の積算値の平均を示す。図9の折れ線グラフは、触感の官能評価スコアを評価時ごとに示す。
図9によれば、触感の官能評価スコアが洗顔料の連用期間に応じて低下、即ち滑らかさが増していることから、振動振幅の平均積算値が洗顔料の連用期間に応じて低下していることとの相関を示している。
このような結果から、同一被験者に対する洗顔料の連用による肌の触感の変化についても、触感計測装置50で肌表面を計測した情報によっての違いを評価できることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1、40、50 触感計測装置(本装置)
10 接触子
13 ループ
15、45 接触部
20 振動伝搬部
25 振動センサ
30 把持部
33 第一検出部
35 第二検出部
37 撮像部
55 ひずみセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9