特許第6971200号(P6971200)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971200
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】衝突物保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/36 20110101AFI20211111BHJP
【FI】
   B60R21/36 320
   B60R21/36 353
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-107107(P2018-107107)
(22)【出願日】2018年6月4日
(65)【公開番号】特開2019-209825(P2019-209825A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 英俊
(72)【発明者】
【氏名】岡村 憲有
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 真輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真人
(72)【発明者】
【氏名】元吉 真広
【審査官】 田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第3321139(EP,A1)
【文献】 特開2009−101793(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0230940(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0140174(US,A1)
【文献】 特開2004−136813(JP,A)
【文献】 特開2001−315599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突物の衝突を検知または予知したときに、エアバッグを膨張展開させる衝突物保護装置であって、
前記エアバッグは、
車両のフードの前縁部に沿って車幅方向に膨張展開する第一袋体と、
前記フードの上面に膨張展開する第二袋体と、を備え、
前記第二袋体は前記第一袋体の車両後方側に連続し、
前記第一袋体の内部空間と前記第二袋体の内部空間とは、ベント機構を介して連通しており、
前記第一袋体の内部圧力が所定の圧力に達すると、前記ベント機構が開くように構成されていることを特徴とする衝突物保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝突物保護装置であって、
前記第二袋体の車両後方側に連続し、前記フードの上面に膨張展開する第三袋体を備え、
前記第二袋体の内部空間と前記第三袋体の内部空間とは、他のベント機構を介して連通しており、
前記第二袋体の内部圧力が所定の圧力に達すると、前記他のベント機構が開くように構成されていることを特徴とする衝突物保護装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の衝突物保護装置であって、
前記第一袋体は、
前記フードの前縁部に配置された前端部と、
前記前端部から上方に向けて膨張展開する縦袋部と、
前記前端部から車両後方に向けて膨張展開する横袋部と、を有することを特徴とする衝突物保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が衝突物に衝突したときに、衝突物に加えられる衝撃力を吸収緩和して衝突物を保護する衝突物保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される衝突物保護装置としては、車両への衝突物の衝突を検知または予知したときに、フロントグリルの上部にエアバッグを膨張展開させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−178211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が歩行者に衝突したときに、歩行者の傷害を効果的に防ぐためには、エアバッグによって歩行者を確実に拘束し、車両と歩行者との速度差を早期になくすことで、歩行者の挙動を抑えることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、車両に衝突物が衝突したときに、衝突物の挙動を抑えて、衝突物の傷害を効果的に防ぐことができる衝突物保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、衝突物保護装置であって、衝突物の衝突を検知または予知したときに、エアバッグを膨張展開させる。前記エアバッグは、車両のフードの前縁部に沿って車幅方向に膨張展開する第一袋体と、前記フードの上面に膨張展開する第二袋体と、を備えている。前記第二袋体は前記第一袋体の車両後方側に連続し、前記第一袋体の内部空間と前記第二袋体の内部空間とは、ベント機構を介して連通している。前記第一袋体の内部圧力が所定の圧力に達すると、前記ベント機構が開くように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の衝突物保護装置では、衝突時に車両と衝突物との速度差を早期になくして、衝突物の挙動を抑えることができるため、衝突物の傷害を効果的に防ぐことができる。また、第一袋体の形状を安定させるとともに、第一袋体の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る衝突物保護装置を示した斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る衝突物保護装置を示した側面図である。
図3】本発明の実施形態に係る衝突物保護装置において衝突直後の側面図である。
図4】本発明の実施形態に係る衝突物保護装置において衝突後の側面図である。
図5】本発明の実施形態に係る衝突物保護装置において衝突後の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、自動車である車両が走行中に歩行者に衝突したときに、衝突物である歩行者に加えられる衝撃力を吸収緩和するための衝突物保護装置について説明する。
【0010】
衝突物保護装置1は、図2に示すように、車両2の前部に膨張展開するエアバッグ10と、エアバッグ10にガスを送り込むインフレータ50と、衝突判定装置(図示せず)と、を備えている。
【0011】
衝突判定装置は、車両2に搭載されたセンサやレーダからの信号に基づいて、車両2と衝突物との衝突を検知または予知するECU(Electronic Control Unit)によって構成されている。
衝突判定装置が車両2への歩行者Hの衝突を検知または予知したときには、車両2がフード2bを上昇させるとともに、インフレータ50が作動する。なお、衝突判定装置は、既存の装置を用いて構成されており、その構成は限定されるものではない。
【0012】
エアバッグ10は、図1に示すように、フード2bの前縁部に展開する第一袋体20と、フード2bの上面に展開する第二袋体30および第三袋体40と、を備えている。
【0013】
本実施形態のエアバッグ10は、通常時はフード2bの下方のエンジンルーム内に収容されている。衝突判定装置が車両2への歩行者Hの衝突を検知または予知すると、図2に示すように、フード2bが上昇し、フード2bとフロントグリル2aとの隙間からエアバッグ10が車両2の外部に膨張展開する。
【0014】
第一袋体20は、図1に示すように、車幅方向に膨張展開する筒状の袋体であり、フード2bの上面の前縁部に沿って膨張展開する。
本実施形態の第一袋体20は、フード2bの前縁部に配置された前端部21と、前端部21から上方に向けて膨張展開する縦袋部22と、前端部21から車両後方に向けて膨張展開する横袋部23と、を有している。前端部21の下部は、車体に固定されている。
第一袋体20は、縦袋部22の内部空間と横袋部23の内部空間とが前端部21の内部空間を通じて連通している一体の袋体である。
【0015】
第一袋体20は、図2に示すように、インフレータ50からガスが送り込まれることで膨張展開する。そして、膨張展開したときの第一袋体20は、前端部21を固定点として上方および車両後方に向けて二方向に膨張展開することで、側面視でV形状となっている。このように、第一袋体20が膨張展開したときには、第一袋体20の後側上部に窪み部が形成される。
【0016】
第一袋体20には、第一ベント機構24が設けられている。第一ベント機構24は、第一袋体20の内部圧力が所定の第一圧力に達すると開いて、第一袋体20内のガスが排出される。
なお、第一ベント機構24の構成は限定されるものではない。例えば、第一袋体20の壁部に開口部を形成し、第一袋体20の内部圧力が所定の第一圧力に達したときに、その圧力で開口部の蓋が取れて開口するように構成することができる。
【0017】
第二袋体30は、図1に示すように、第一袋体20の後部に連続した袋体であり、フード2bの上面に沿って車両後方に向けて膨張展開する。第二袋体30は、フード2bの上面において前後方向の略中間部を覆うように構成されている。
図2に示すように、第一袋体20の横袋部23の内部空間と第二袋体30の内部空間とは、第一ベント機構24を介して連通している。
【0018】
また、第二袋体30には、第二ベント機構34が設けられている。第二ベント機構34は、第二袋体30の内部圧力が所定の第二圧力に達すると開いて、第二袋体30内のガスが排出される。第二ベント機構34が開くときの第二圧力は、第一ベント機構24が開くときの第一圧力よりも小さく設定されている。なお、第二ベント機構34の構成は、第一ベント機構24と同様に限定されるものではない。
【0019】
第三袋体40は、図1に示すように、第二袋体30の後部に連続した袋体であり、フード2bの上面に沿って車両後方に向けて膨張展開する。第三袋体40は、フード2bの上面において前後方向の後部を覆うように構成されている。
図2に示すように、第二袋体30の内部空間と第三袋体40の内部空間とは、第二ベント機構34を介して連通している。
【0020】
次に、本実施形態の衝突物保護装置1においてエアバッグ10が膨張展開する過程を説明する。
図3に示すように、衝突判定装置(図示せず)が車両2への歩行者Hの衝突を検知または予知したときには、車両2のフード2bが上昇するとともに、インフレータ50が作動する。
【0021】
インフレータ50から第一袋体20の前端部21にガスが送り込まれると、前端部21を固定点として、上方に向けて縦袋部22が膨張展開するとともに、車両後方に向けて横袋部23が膨張展開する。
【0022】
図4に示すように、インフレータ50から第一袋体20にガスが送り込まれるとともに、第一袋体20に歩行者Hが衝突して、第一袋体20が押し込まれると、第一袋体20の内部圧力が所定の第一圧力に達する。これにより、第一ベント機構24が開いて、第一袋体20から第二袋体30にガスが送り込まれ、第二袋体30がフード2bの上面に膨張展開する。
【0023】
また、図5に示すように、第一袋体20から第二袋体30にガスが送り込まれるとともに、第二袋体30に歩行者Hが衝突して、第二袋体30が押し込まれると、第二袋体30の内部圧力が所定の第二圧力に達する。これにより、第二ベント機構34が開いて、第二袋体30から第三袋体40にガスが送り込まれ、第三袋体40がフード2bの上面に膨張展開する。
【0024】
本実施形態の衝突物保護装置1は、図2に示すように、歩行者Hの衝突を検知または予知したときに、エアバッグ10を膨張展開させるものである。エアバッグ10は、車両2のフード2bの前縁部に沿って車幅方向に膨張展開する第一袋体20と、車両2のフード2bの上面に膨張展開する第二袋体30と、を備えている。第二袋体30は第一袋体20の車両後方側に連続している。第一袋体20の内部空間と第二袋体30の内部空間とは、第一ベント機構24を介して連通している。第一袋体20の内部圧力が所定の第一圧力に達すると、第一ベント機構24が開くように構成されている。
【0025】
本実施形態の衝突物保護装置1は、第一袋体20が膨張展開したときに、第一袋体20の内部圧力が所定の第一圧力に達するまで第一ベント機構24が開かないため、第一袋体20の内部圧力を早期に高めることができる。そして、図3に示すように、高圧の第一袋体20によって、歩行者Hの腰部を確実に拘束することができる。
このように、衝突物保護装置1は、衝突時に歩行者Hの重心位置である腰部を拘束することで、車両2と歩行者Hとの速度差を早期になくすことができるため、歩行者Hの挙動を抑えることができる。つまり、歩行者Hの脚部が大きく跳ね上がらないように、歩行者Hの挙動をコントロールすることができる。
また、歩行者Hの重心位置である腰部を拘束することで、歩行者Hの頭部が車両2のピラーやフロントガラスに衝突するのを防ぐことができる。
したがって、衝突物保護装置1によれば、エアバッグ10によって歩行者Hを確実に保護することができ、歩行者Hの傷害を効果的に防ぐことができる。
【0026】
また、本実施形態の衝突物保護装置1では、図4に示すように、第一袋体20の内部圧力が所定の第一圧力に達すると、第一ベント機構24が開いて、第一袋体20から第二袋体30にガスが送り込まれる。これにより、第二袋体30がフード2bの上面に膨張展開するため、フード2b側に倒れ込んだ歩行者Hの上半身を第二袋体30によって保護することができる。
【0027】
本実施形態の第一袋体20は、図3に示すように、フード2bの前縁部に配置された前端部21と、前端部21から上方に向け膨張展開する縦袋部22と、前端部21から車両後方に向けて膨張展開する横袋部23と、を有している。
【0028】
この構成では、歩行者Hの腰部に縦袋部22が当たると、縦袋部22が後方に向けて押し込まれる。また、縦袋部22の表面に張力が作用することで、縦袋部22の形状を安定させることができる。これにより、第一袋体20によって歩行者Hの腰部を確実に拘束することができる。
また、第一袋体20の強度を高めることができるため、第一袋体20によってフード2bの変形を防ぐことができる。
【0029】
また、本実施形態の第一袋体20は、図2に示すように、側面視でV形状であるため、袋体が側面視で四角形である場合に比べて、小型のインフレータ50によって、第一袋体20の内部圧力を早期に高めることができる。
また、横袋部23がフード2bからの反力を受けることで、第一袋体20の形状を安定させることができるため、歩行者Hの腰部を確実に拘束することができる。
【0030】
また、第一袋体20は、上方および車両後方に向けて膨張展開するため、歩行者Hが車両2に衝突した後でも、第一袋体20を膨張展開させることができる。したがって、衝突判定装置が歩行者Hを認識し難い状況でも歩行者Hを確実に保護することができる。
【0031】
本実施形態の衝突物保護装置1は、図5に示すように、第二袋体30の車両後方側に連続し、フード2bの上面に膨張展開する第三袋体40を備えている。第二袋体30の内部空間と第三袋体40の内部空間とは、第二ベント機構34を介して連通している。第二袋体30の内部圧力が所定の第二圧力に達すると、第二ベント機構34が開くように構成されている。
【0032】
本実施形態の衝突物保護装置1では、第二袋体30の内部圧力が所定の第二圧力に達すると、第二ベント機構34が開いて、第二袋体30から第三袋体40にガスが送り込まれる。これにより、第三袋体40がフード2bの上面の後部に膨張展開するため、フード2b側に倒れ込んだ歩行者Hの頭部を第三袋体40によって確実に保護することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
本実施形態の衝突物保護装置1では、図2に示すように、第一袋体20が縦袋部22および横袋部23を有しているが、第一袋体20の形状は限定されるものではない。例えば、第一袋体20の内部空間に車幅方向に並設された複数の隔壁を設け、第一袋体20の内部空間を各隔壁によって複数の空間に区画してもよい。
【0034】
本実施形態の衝突物保護装置1では、第一袋体20の縦袋部22と横袋部23とが一体に形成されているが、縦袋部22と横袋部23とを別体に構成してもよい。この構成では、縦袋部22の前端部と横袋部23の前端部とをフード2bの前縁部に重ねて配置する。
【0035】
本実施形態の衝突物保護装置1では、フロントグリル2aとフード2bとの隙間からエアバッグ10が車両2の外部に膨張展開しているが、エアバッグ10を収容する場所は限定されるものではない。例えば、フロントグリル2a内にエアバッグ10を収容し、フロントグリル2aに設けた蓋体を押し開けて、エアバッグ10が膨張展開するように構成してもよい。
【0036】
本実施形態の衝突物保護装置1では、第三袋体40が設けられているが、第二袋体30によって歩行者Hの頭部を保護することができるのであれば、第三袋体40を設けなくてもよい。
【0037】
また、フロントグリル2aの前面に膨張展開する下部袋体を設けてもよい。この場合には、歩行者Hの脚部が車両2の下部に巻き込まれるのを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0038】
1 衝突物保護装置
2 車両
2a フロントグリル
2b フード
10 エアバッグ
20 第一袋体
21 前端部
22 縦袋部
23 横袋部
24 第一ベント機構
30 第二袋体
34 第二ベント機構
40 第三袋体
50 インフレータ
H 歩行者
図1
図2
図3
図4
図5