(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記袋体ユニットは、前記複数の袋体のうち、車体の前側に位置する前記袋体から前記連通路を介して後方の前記袋体および左右の前記起立袋体にガスが流れることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
前記連通路には、車体の前側に位置する前記袋体側から左右の前記起立袋体側へのガスの流れのみを許容する一方向弁が備わることを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ装置。
左右の前記起立袋体は、展開時に左右の前記フェンダーに当接する当接部をそれぞれ備えており、前記各当接部が左右の前記フェンダーに当接する反力で起立姿勢を保持することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
前記袋体ユニットは、前記複数の袋体のうち、隣接する前記袋体同士の間に谷間部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
前記ボンネットの前端部には、前記ボンネット上方へ上昇し保護対象者の衝突により変形可能なポップアップフード部が併設されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。以下では同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。方向を説明する際は、運転者からみた前後左右上下に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態に係るエアバッグ装置20を備える自動車Vは、車体の前部にエンジンルームの上面を覆うボンネット1を備えており、その前端部においてボンネット1上方へ上昇するポップアップフード部10を備えている。ポップアップフード部10は、後記するエアバッグ装置20とともに、歩行者等(自転車等に乗った人物を含む)の保護対象者(以下、単に「歩行者」という)の衝突による衝撃を吸収するものである。
【0012】
ポップアップフード部10は、金属製であり、例えば鉄板をプレス加工して得られる。ポップアップフード部10は、車体左右方向に延在する板状を呈している。ポップアップフード部10は、歩行者が衝突したときの衝撃の入力で変形可能である。
なお、ポップアップフード部10は、歩行者が衝突したときの衝撃の入力で変形して歩行者の衝撃を吸収できるものであればよく、塑性変形する材料や弾性変形する材料、また、両者の材料を組み合わせて構成してもよい。
【0013】
ポップアップフード部10は、支持ロッド11および支持ロッド11を駆動する図示しない駆動源を備えたリフトアップ機構により、ボンネット1上方へ所定量上昇する。ポップアップフード部10は、所定量上昇した位置で図示しないロック機構により固定される。駆動源としては、電動モータやバネ力を利用した弾発装置、さらに、ガス発生剤を反応させてガスを噴出するいわゆるパイロタイプの装置を用いることができる。駆動源は、後記する衝突検出装置30により、歩行者の衝突を検出した場合、もしくは歩行者の衝突を予測した場合に、作動信号を受けて作動する。なお、歩行者の衝突が回避された場合には、ポップアップフード部10を上昇した位置から初期位置に戻すことができるように構成してもよい。
【0014】
エアバッグ装置20は、
図2に示すように、ポップアップフード部10の下方に備わる。エアバッグ装置20は、インフレータ21と、エアバッグとして展開する袋体ユニット22とを備えている。袋体ユニット22は、エアバッグ装置20内に折り畳まれて収納されている。なお、各図において、エアバッグ装置20は、模式的に示している。
【0015】
インフレータ21は、袋体ユニット22にガスを噴出する部材である。インフレータ21は、ガス発生剤を用いたパイロタイプである。インフレータ21は、
図3に示すように、車体の左右方向に間隔を空けて複数備わる。具体的に、インフレータ21は、車体の左右方向の中央部に配置される中央インフレータ21aと、車体の左側に配置される左インフレータ21bと、車体の右側に配置される右インフレータ21cと、から構成されている。各インフレータ21a〜21cは、後記する衝突検出装置30の指令により点火されてガスを噴出する。
なお、エアバッグ装置20には、各インフレータ21a〜21cに対して、ガス噴出順や噴出量を制御するための図示しない制御手段が備わる。制御手段には衝突検出装置30を構成している制御ユニット32(
図1参照)が接続されており、制御ユニット32から送られてくる信号に基づいて各インフレータ21a〜21cの点火を制御する。衝突検出装置30の詳細については後記する。
【0016】
なお、インフレータ21としては、パイロタイプに代えて、高圧の膨張用ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)やその他のタイプのものを用いてもよい。
【0017】
袋体ユニット22は、
図1に示すように、ボンネット1の略全体を覆うように展開可能である。袋体ユニット22は、
図2に示すように、上昇した前記ポップアップフード部10によってボンネット1の前端部に形成された開口部5を通じてボンネット1上に展開する。この場合、袋体ユニット22は、ポップアップフード部10の後下縁部12およびその近傍部分に案内されてポップアップフード部10の後方に連続するように展開する。つまり、ポップアップフード部10と袋体ユニット22とがひとつの連続した衝撃吸収ユニットとして機能するように構成されている。
【0018】
袋体ユニット22は、
図3に示すように、前後左右に分割された複数の袋体から構成されており、左右対称構造とされている。具体的に、袋体ユニット22は、主としてボンネット1上に展開される袋体23a〜23iと、主として左右のフェンダー3a,3b上に起立して展開される左右の起立袋体23j,23kと、を備えている。袋体23a〜23iおよび左右の起立袋体23j,23kは、シート状部材25によって相互に連結されている。
【0019】
袋体23a,23d〜23iおよび左右の起立袋体23j,23kは、膨張状態で回転楕円体形状をそれぞれ呈している。また、前端中央部の袋体23aに隣接する袋体23b,23cは、膨張状態で小径の球形状を呈している。
隣接する袋体同士の間には、略ひし形形状の谷間部25aや略三角形状の谷間部25bが形成されている。谷間部25a,25bには、歩行者Hの頭や肩、あるいは腰や手の肘などの関節部分を収容するようにして保持することができる。
【0020】
袋体23aは、ボンネット1の前端中央部に配置され、平面視で長軸を左右方向に向けて配置されている。袋体23aには、エアバッグ装置20に備わる中央インフレータ21aからガスが流入する。袋体23aの左側には袋体23bが配置され、袋体23a右側には袋体23cが配置されている。
【0021】
前端左側の袋体23bには、エアバッグ装置20に備わる左インフレータ21bからガスが流入する。また、前端右側の袋体23cには、エアバッグ装置20に備わる右インフレータ21cからガスが流入する。
【0022】
前端中央部の袋体23aの左右後方には袋体23d,23eが配置され、また、袋体23d,23eの後方には袋体23f,23gが配置されている。袋体23d,23eおよび袋体23f,23gは、平面視で長軸を左右方向に向けてそれぞれ配置されている。そして、袋体23f,23gのさらに後方には、袋体23h,23iが配置されている。袋体23hは、平面視で長軸を左斜め後方に向けて配置されている。また、袋体23iは、平面視で長軸を右斜め後方に向けて配置されている。袋体23h,23iには、ガスを排出することが可能な排出弁28,28が設けられている。
【0023】
袋体23a〜23iおよび左右の起立袋体23j,23kは、連通路26を介して連通した構造となっている。
【0024】
左側の起立袋体23jには、その右側部の前側から後側に間隔を空けて袋体23b,23d,23fがそれぞれ連通して接続されている。起立袋体23jの各接続部には、連通路26および一方向弁27が設けられている。一方向弁27は、袋体23b,23d,23f側から起立袋体23j側へのガスの流れのみを許容する弁である。
【0025】
右側の起立袋体23kには、その左側部の前側から後側に間隔を空けて袋体23c,23e,23gがそれぞれ連通して接続されている。起立袋体23kの各接続部には、連通路26および一方向弁27が設けられている。一方向弁27は、袋体23c,23e,23g側から起立袋体23k側へのガスの流れのみを許容する弁である。
【0026】
次に、衝突検出装置30について説明する。衝突検出装置30は、
図1に示すように、フロントウインドウW越しに前方へ向けられた検出装置としてのカメラ31と、エンジンルーム内等の適所に配置された制御手段としての制御ユニット32とを備えている。
【0027】
カメラ31は、赤外線カメラであるが、一般的な撮影を行う公知のカメラであってもよい。カメラ31は、ボンネット1越しに車体前方を撮影することで車体前方の状況を検出する。また、カメラ31は、運転者の運転操作を支援する先進運転支援システムに用いられるカメラを利用してもよい。先進運転支援システムは、安全でより良い運転のために車両システムを自動化、適応、強化するために開発されたシステムである。
【0028】
制御ユニット32は、カメラ31からの撮像データを入力し、走行中等の自動車Vに対してボンネット1の前端部に近づいて衝突する可能性のある歩行者が存在するか否かを予測する。この場合、制御ユニット32は、例えば、所定の時刻毎にボンネット1の前方における遠近2位置にいる歩行者の大きさ(面積)の変化を計算して、ボンネット1の前端部に衝突する可能性のある歩行者が存在するか否かを予測する。
【0029】
制御ユニット32は、ボンネット1の前端部に衝突する可能性のある歩行者が存在すると予測した場合に、歩行者がボンネット1の前端部の左右方向のどの位置に衝突するのかを計算し、衝突位置を予測する。これとともに、制御ユニット32は、ポップアップフード部10のリフトアップ機構の電動モータに駆動信号を送り、電動モータを駆動する。これにより、電動モータの駆動で支持ロッド11が上昇し、ポップアップフード部10がボンネット1の前端部上方へ上昇して固定される。
【0030】
次に、制御ユニット32は、ポップアップフード部10が上昇したこと、つまり、袋体ユニット22を展開させるための開口部5がエアバッグ装置20の上方に開口したことを検出し、インフレータ21に点火信号を送信する。この場合、制御ユニット32は、予測した衝突位置に対応するインフレータ21に点火信号を送信する。例えば、予測した衝突位置がボンネット1の中央部である場合には、対応する中央インフレータ21aに点火信号を送信し、追って左インフレータ21bおよび右インフレータ21cに点火信号を送信する。また、予測した衝突位置がボンネット1の左側である場合には、対応する左インフレータ21bに点火信号を送信し、追って中央インフレータ21aおよび右インフレータ21cに点火信号を送信する。また、予測した衝突位置がボンネット1の右側である場合には、対応する右インフレータ21cに点火信号を送信し、追って中央インフレータ21aおよび左インフレータ21bに点火信号を送信する。
【0031】
なお、予測した衝突位置がボンネット1の左側である場合に、先に左インフレータ21bおよび中央インフレータ21aに点火信号を送信し、追って右インフレータ21cに点火信号を送信するようにしてもよい。同様に、予測した衝突位置がボンネット1の右側である場合に、先に右インフレータ21cおよび中央インフレータ21aに点火信号を送信し、追って左インフレータ21bに点火信号を送信するようにしてもよい。
また、予測した衝突位置がボンネット1の中央部である場合に、中央インフレータ21a、左インフレータ21bおよび右インフレータ21cに同時に点火信号を送信してもよい。
【0032】
なお、車体前端のバンパー等に衝突を検出するセンサーを配置し、このセンサーからの信号に基づいて制御ユニット32が実際の衝突位置を検出するように構成してもよい。
【0033】
次に、歩行者Hが車体の前端部に衝突したときの作用について説明する。
初めに、イグニッションONなどで自動車Vが走行可能状態にされると、衝突検出装置30のカメラ31が車体の前方の撮影を開始し、制御ユニット32がカメラ31の撮像データを入力する。制御ユニット32は、入力した撮像データに基づいて、ボンネット1の前端部に衝突する可能性のある歩行者Hが存在するか否かの予測を開始する。
【0034】
制御ユニット32は、ボンネット1の前端部に衝突する可能性のある歩行者が存在すると予測した場合に、ボンネット1の左右方向のどの位置に歩行者Hが衝突するのかを予測する。これとともに、制御ユニット32からポップアップフード部10のリフトアップ機構に駆動信号が送られ、ポップアップフード部10が上昇する。つまり、衝突検出装置30によって衝突の事前にポップアップフード部10を上昇させることができる。
【0035】
そして、ポップアップフード部10の上昇により開口部5が形成されると、開口部5を通じてエアバッグ装置20の袋体ユニット22がボンネット1上に展開される。この場合、3つのインフレータ21a〜21cのうち、制御ユニット32によって予測された歩行者Hの衝突位置に近いインフレータ21に対して制御ユニット32から点火信号が送られる。例えば、制御ユニット32が、歩行者Hの衝突位置をボンネット1の中央部であると予測した場合には、前端中央部の袋体23aを一番に展開すべく、中央インフレータ21aに点火信号が送信される。また、例えば、歩行者Hの衝突位置がボンネット1の左側であると予測した場合には、前端左側の袋体23bを一番に展開すべく左インフレータ21bに点火信号が送信される。また、歩行者Hの衝突位置がボンネット1の右側であると予測した場合には、前端右側の袋体23cを一番に展開すべく右インフレータ21cに点火信号が送信される。以下では、歩行者Hの衝突位置がボンネット1の中央部であると予測した場合を例にとって説明する。
【0036】
制御ユニット32が衝突位置を予測した後、車体の前端部に歩行者Hが衝突すると、上昇したポップアップフード部10に対して歩行者Hが当たり、ポップアップフード部10が変形する(
図4参照、歩行者Hは不図示)。つまり、衝突した歩行者Hをポップアップフード部10で受けることができ、歩行者Hの衝撃をポップアップフード部10の変形によって好適に吸収することができる。この場合、ポップアップフード部10は、車体のボンネット1の前端部から上昇するので、歩行者Hの重心に近い腰を受けることができる。これにより、歩行者Hが衝突したときの衝撃をポップアップフード部10で効果的に吸収することができる。
【0037】
その後、ポップアップフード部10で衝撃が吸収された歩行者Hは、ポップアップフード部10の後部に連続して展開した袋体ユニット22上に移動する(
図5参照)。この場合、歩行者Hは、ポップアップフード部10から袋体ユニット22の前端中央部に展開した袋体23a上に移動して該袋体23aで衝撃を吸収されながら、後方の袋体23d〜23i上に移動する。その移動の過程で、前端中央部の袋体23aが歩行者Hの荷重で潰れると、袋体23a内のガスが連通路26,26を介して左右に隣接する小径球状の袋体23b,23cに押し出される(逃げる)とともに、左右斜め後方に隣接する回転楕円形状の袋体23d,23eに押し出される(逃げる)。
【0038】
また、歩行者Hの荷重によって前端中央部の袋体23aが潰れると、中央インフレータ21aから継続して噴出されるガスが、袋体23aから各連通路26を介して左右に隣接する袋体23b,23cおよび左右斜め後方に隣接する袋体23d,23eに流れる。したがって、袋体23aに隣接する袋体23b〜23eの内圧を事前に高めることができる。これにより、歩行者Hの荷重移動に対応して衝撃を好適に吸収することができる。なお、左右に隣接する袋体23b,23cは、他の袋体23d等に比べて容積が小さいので、内圧が迅速に高まる。これにより、前端中央部の袋体23aから左右のいずれかに歩行者Hが移動したときの衝撃を好適に吸収することができる。
【0039】
その後、制御ユニット32から左右インフレータ21b,21cに点火信号が送られる。これにより、左右インフレータ21b,21cから前端左右の袋体23b,23cにガスが噴出される。制御ユニット32による左右インフレータ21b,21cへの点火信号の送出は、中央の袋体23aが歩行者Hの荷重で潰れ始める前のタイミングでもよいし、潰れ始めのタイミングを予測して行ってもよいし、されに、ある程度潰れてからのタイミングを予測して行ってもよい。
【0040】
前端左右の袋体23b,23cに噴出されたガスは、側方の連通路26を介して左右の起立袋体23j,23kに流れる。このとき、左右に隣接する袋体23b,23cのうち、例えば、右側の袋体23cに歩行者Hの荷重が移動したとすると、該袋体23cが歩行者Hの荷重で潰れ、袋体23c内のガスが歩行者Hの荷重で押し出されるようにして右側の起立袋体23kに流れる。また、歩行者Hの荷重によって右側の袋体23cが潰れた後も、右インフレータ21cから継続して噴出されるガスが、袋体23cから連通路26を介して右側の起立袋体23kに流れ、右側の起立袋体23kが膨らみ続ける。なお、左側の起立袋体23jには、前端左の袋体23bに噴出されたガスが連通路26を介して流れ込む。これにより左側の起立袋体23jが膨らむ。
【0041】
一方、前端中央部の袋体23aから左右斜め後方の袋体23d,23eに流れたガスは、各連通路26を介して後方の袋体23f,23gに流れるとともに、さらに後方の袋体23h,23iに流れる。また、左斜め後方の袋体23dおよび後方の袋体23fに流れたガスの一部は、各連通路26を介して左側の起立袋体23jに流れる。また、右斜め後方の袋体23eおよび後方の袋体23gに流れたガスの一部は、各連通路26を介して右側の起立袋体23kに流れる。これにより、左右の起立袋体23j,23kが膨らむ。
【0042】
この場合、例えば、右斜め後方の袋体23d,23eに歩行者Hの荷重が移動したとすると、該袋体23d,23eが歩行者Hの荷重で潰れ、袋体23d,23e内のガスが歩行者Hの荷重で押し出されるようにして後方の袋体23f,23gや左右の起立袋体23j,23kに流れる。これにより、後方の袋体23f,23gや左右の起立袋体23j,23kが迅速に膨らむ。同様に、後方の袋体23f,23gに歩行者Hの荷重が移動したとすると、該袋体23f,23gが歩行者Hの荷重で潰れ、袋体23f,23g内のガスが歩行者Hの荷重で押し出されるようにしてさらに後方の袋体23h,23iや左右の起立袋体23j,23kに流れる。これにより、後方の袋体23h,23iが迅速に膨らむとともに左右の起立袋体23j,23kが迅速に膨らむ。後方の袋体23h,23iが膨らむことで、フロントウインドウWへの歩行者Hの飛び出しが規制される。後方の袋体23h,23iに流れたガスは、その後、排出弁28,28から排出される。
なお、左右の袋体23d,23e間、左右の袋体23f,23g間および左右の袋体23h,23i間のそれぞれにおいて、連通路26を介してガスの流通が可能である。
【0043】
袋体ユニット22上に歩行者Hが移動すると、
図4に示すように、歩行者Hの荷重を受けた袋体ユニット22の反力でボンネット1が凹状に変形する。このように袋体ユニット22が凹状に変形すると、その形状に倣って袋体ユニット22も凹状に変形する。これにより、袋体ユニット22の底面側には、図中矢印X1方向の力が作用し、左右の起立袋体23j,23kが袋体ユニット22上に移動した歩行者Hを左右両側から包むように図中矢印X2方向に傾く。これにより、衝突後に袋体ユニット22上を歩行者Hが左右に移動しても、左右の起立袋体23j,23kが壁になってボンネット1の左右から地面に歩行者Hが脱落するという二次衝突を回避することができる。したがって、歩行者Hを好適に保護することができる。
【0044】
以上説明した本実施形態のエアバッグ装置20では、歩行者Hの体格や体重が異なってもこれに対応して前後左右に分割された複数の袋体23a〜23kに歩行者Hの荷重を分散することができる。したがって、歩行者Hの衝撃を複数の袋体23a〜23kで効果的に吸収することができる。この場合、展開時に歩行者Hの荷重を受けた袋体が潰れると、これに隣接する袋体に連通路26を通じてガスが逃げるので、隣接する袋体の内圧を高めることができる。これにより、歩行者Hの荷重移動に追従して隣接する袋体で歩行者Hを好適に受けることができ、歩行者Hの衝撃を効果的に吸収することができる。
【0045】
また、ボンネット1上からフェンダー3a,3b越えて歩行者Hが路面に脱落するのを左右の起立袋体23j,23kによって防止できる。この場合、起立袋体23j,23kに向けて歩行者Hの荷重移動が生じた場合には、これに追従して隣接する袋体から連通路26を通じて当該起立袋体23j,23kにガスが逃げ、当該起立袋体23j,23kの内圧が高まる。これにより、歩行者Hの衝撃を当該起立袋体23j,23kで好適に吸収することができ、加えて、路面に歩行者Hが脱落するという二次衝突を防止できる。
【0046】
なお、荷重移動に追従して逃げるガスにより、隣接する袋体の内圧が高まるので、効率よく袋体を膨らませて歩行者Hの衝撃を吸収できる。
また、袋体ユニット22が複数の袋体で構成されるので、ボンネット1上という広範囲に展開する袋体ユニット22でありながら、複数の袋体で構成されないものに比べて容積を小さくすることができる。また、容積が小さくなるとともに、荷重移動に追従して逃げるガスにより隣接する袋体の内圧が高まるので、インフレータ21の容量低減が可能であり、設置スペースの削減およびコストの低減が可能である。
【0047】
また、袋体ユニット22は、複数の袋体のうち、車体の前側に位置する袋体23a等から連通路26を介して後方の袋体23d,23e等および左右の起立袋体23j,23kにガスが流れる。したがって、歩行者Hの衝突位置に近い側となる車体の前側に位置する袋体23a等から袋体ユニット22を展開することができるので、歩行者Hの衝撃を好適に吸収することができる。
【0048】
また、車体の前側に位置する袋体23a等から連通路26を介して後方の袋体23d,23e等および左右の起立袋体23j,23kにガスが流れるので、歩行者Hの荷重移動に追従して隣接する袋体や起立袋体23j,23kの内圧を好適に高めることができる。したがって、歩行者Hの衝撃を好適に吸収することができる。
なお、車体の前側に位置する袋体23a等が歩行者Hの荷重で潰れると、インフレータ21a等から継続して噴出されるガスは、連通路26を通じて隣接する袋体や起立袋体23j,23kに流れるため、隣接する袋体や起立袋体23j,23kの内圧が迅速に高まる。これにより、歩行者Hの衝撃を好適に吸収することができる。
【0049】
また、連通路26に一方向弁27が備わるので、車体の前側に位置する袋体23a側(袋体23b,23c側)にガスが逆戻りせず、左右の起立袋体23j,23kの内圧が高い状態のままで保持される。これにより、歩行者Hの荷重移動による衝撃を隣接する袋体で好適に吸収することができる。また、起立袋体23j,23kの内圧が高い状態のままで保持されるので、歩行者Hの衝撃を左右の起立袋体23j,23kで好適に吸収することができ、ボンネット1上から歩行者Hが路面に脱落するという二次衝突をより好適に防止できる。
【0050】
また、左右の起立袋体23j,23kは、当接部を備えているので、起立袋体23j,23kを迅速かつ的確に起立させることができる。また、起立袋体23j,23kの起立姿勢が保持されるので、歩行者Hの衝撃を起立袋体23j,23kで好適に吸収することができ、ボンネット1上から歩行者Hが路面に脱落するという二次衝突をより好適に防止できる。
【0051】
また、袋体ユニット22は、谷間部25a,25bを備えているので、歩行者Hの頭や肩、あるいは腰や手の肘などの関節部分を谷間部25a,25bに収容するようにして保持することができる。これにより、歩行者Hを袋体ユニット22上に保持し易い。
【0052】
また、衝突検出装置30を備えているので、歩行者Hの衝突を予測してインフレータ21を作動させ、事前に袋体ユニット22をボンネット1上に展開させることができる。これにより、歩行者Hの衝撃をより確実に吸収することができる。
【0053】
また、インフレータ21は、車体の左右方向に間隔を空けて複数配置されているので、衝突位置に近い位置から先行して袋体ユニット22を展開させることができる。これにより、歩行者Hの衝撃を衝突位置に近い位置の袋体23a等で効果的に吸収することができる。
【0054】
また、ポップアップフード部10を備えるので、ポップアップフード部10により歩行者Hの衝撃を一次的に吸収しておいてから、袋体ユニット22により歩行者Hの衝撃を二次的に吸収することができる。したがって、歩行者Hの衝撃をより効果的に吸収することができる。
また、ポップアップフード部10は、車体の前端部から上方に上昇するので、車体に衝突した歩行者Hの重心の近傍位置となる腰を受けることができ、歩行者Hの衝撃を効果的に吸収することができる。
なお、歩行者Hの腰のあたりにポップアップフード部10が当たると、歩行者Hの衝撃が好適に吸収され、歩行者Hがポップアップフード部10で押されて前方に移動する状態となる。これにより、車体と歩行者Hとの相対速度が近づく状態となり、歩行者Hが後方に跳ね飛ばされ難くなる。
【0055】
(第2実施形態)
図6を参照して第2実施形態のエアバッグ装置について説明する。本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、ポップアップフード部10が水平面(不図示)に対する板面の傾斜角度を変更可能に設けられている点である。
【0056】
ポップアップフード部10は、支持ロッド11を駆動する図示しない駆動源を備えたリフトアップ機構により、ボンネット1上方へ所定量上昇する。その際、ポップアップフード部10は、図示しないリンク機構等によって、前傾する。つまり、ポップアップフード部10は、上昇して固定される過程で板面が前方に向くように回動する。なお、袋体ユニット22は、形成された開口部5を通じて展開可能である。
【0057】
本実施形態によれば、ポップアップフード部10の板面の傾斜角度を変更可能であるので、車種に合わせて歩行者Hの衝撃を効果的に吸収可能な傾斜角度、例えば、衝突してくる歩行者Hに板面が対峙するように設定することができる。
なお、ポップアップフード部10は、上昇して固定される過程で前傾とともに車体の前方へ移動するように(突出するように)構成してもよい。このように構成することによって、ポップアップフード部10に対する衝突位置を車体の前方にずらすことができるので、より効果的に歩行者Hの衝撃を吸収可能である。
【0058】
(第3実施形態)
図7を参照して第3実施形態のエアバッグ装置について説明する。本実施形態が前記第1,第2実施形態と異なるところは、ポップアップフード部10がフロントグリルFGと一体に設けられている点である。
【0059】
ポップアップフード部10は、フロントグリルFGの上端部に連続して一体に設けられている。ポップアップフード部10は、支持ロッド11を駆動する図示しない駆動源を備えたリフトアップ機構により、フロントグリルFGとともに前方へ回動しながら前傾し、ボンネット1上方へ所定量上昇する。そして、ポップアップフード部10は、板面が前方に向く状態に固定される。なお、袋体ユニット22は、形成された開口部5を通じて展開可能である。
【0060】
本実施形態によれば、ポップアップフード部10がフロントグリルFGと一体に回動して上昇するので、衝突してくる歩行者Hに板面が対峙するとともに、車体の前方へ移動させる(突出させる)ことができる。これにより、ポップアップフード部10に対する衝突位置を車体の前方にずらすことができるので、より効果的に歩行者Hの衝撃を吸収可能である。
【0061】
(第4実施形態)
図8を参照して第4実施形態のエアバッグ装置について説明する。本実施形態では、ボンネット1側も移動させることで開口部5を形成するように構成した点が異なる。
【0062】
ボンネット1は、図示しないボンネット移動機構によって前部側が下降するとともに後部側が上昇し、さらに、全体が後方に移動して後部側がフロントウインドウWの下部に被さるように構成されている。
【0063】
ポップアップフード部10は、前部を支点として、主として後部14が上昇するように構成されている。開口部5は、前記したボンネット1の移動およびポップアップフード部10の移動によって、ボンネット1とポップアップフード部10との間に形成される。この場合にも、袋体ユニット22は、ポップアップフード部10の後下縁部12およびその近傍部分に案内されてポップアップフード部10の後方に連続するように展開する。
なお、袋体ユニット22の後端部には、フロントウインドウWの一部を覆う延在部22aが備わる。延在部22aは、袋状を呈しており、インフレータ21から送られてくるガスによって膨らむようになっている。
【0064】
本実施形態によれば、ポップアップフード部10とボンネット1との相対的な動きによって開口部5を形成することができ、より迅速に袋体ユニット22を展開させることができる。また、ボンネット1は、前部側が下降するとともに後部側が上昇して前傾姿勢となるので、この上に展開する袋体ユニット22も前傾姿勢となる。したがって、歩行者Hが後方に移動し難くなり、袋体ユニット22上により好適に歩行者Hを保護することができる。
【0065】
(第5実施形態)
図9を参照して第5実施形態のエアバッグ装置について説明する。本実施形態が前記第1〜第4実施形態と異なるところは、左右の起立袋体23j,23kに当接部23j1,23k1を設けた点である。
【0066】
当接部23j1,23k1は、左右の起立袋体23j,23kの下部に一体に設けられている。当接部23j1,23k1は、左右のフェンダー3a,3bに当接可能であり、左右のフェンダー3a,3bの少なくとも一部を覆うように下方へ延在している。
【0067】
このような当接部23j1,23k1は、左右の起立袋体23j,23kがガスによって膨らむことで、左右のフェンダー3a,3bにそれぞれ当接する。左右のフェンダー3a,3bに当接部23j1,23k1が当接すると、その反力で左右の起立袋体23j,23kが袋体ユニット22上に移動した歩行者Hを左右両側から包むように図中矢印X2方向に倒れ込む状態となる。
【0068】
本実施形態によれば、衝突後に袋体ユニット22上を歩行者Hが左右に移動しても、左右の起立袋体23j,23kが壁になってボンネット1の左右から地面に歩行者Hが脱落するという二次衝突をより確実に回避することができる。したがって、歩行者Hを好適に保護することができる。
【0069】
(第6実施形態)
図10を参照して第6実施形態のエアバッグ装置について説明する。本実施形態は前記第5実施形態の変形例である。
【0070】
左側の起立袋体23jは、内側袋体23j2と、外側袋体23j3と、下テザー(つなぎ)部材23j4と、上テザー部材23j5とを備えて構成されている。また、右側の起立袋体23kは、内側袋体23k2と、外側袋体23k3と、下テザー部材23k4と、上テザー部材23k5とを備えて構成されている。左側の起立袋体23jと右側の起立袋体23kとは、左右対称であるため、以下では左側の起立袋体23jについて詳細に説明し、適宜右側の起立袋体23kについて説明する。
【0071】
左側の起立袋体23jにおいて、内側袋体23j2および外側袋体23j3は、左側のフェンダー3a上においていずれも前後方向に延在しており、断面楕円形状を呈している。内側袋体23j2には、前端左側の袋体23b、袋体23d,23f(
図3参照)から各連通路26を介してガスが流れ込む。なお、右側の内側袋体23k2には、前端左側の袋体23c、袋体23e,23g(
図3参照)から各連通路26を介してガスが流れ込む。
【0072】
左側の起立袋体23jにおいて、内側袋体23j2と外側袋体23j3とは、連通路26aを介して接続されており、内側袋体23j2から連通路26aを介して外側袋体23j3にガスが流れ込む。
【0073】
外側袋体23j3の下部は、内側袋体23j2に比べて下方へ延在しており、左側のフェンダー3aの側面に位置している。なお、外側袋体23k3の下部は、左側のフェンダー3bの側面に位置している。
下テザー部材23j4は、内側袋体23j2と外側袋体23j3との下端部同士を連結している。下テザー部材23j4は、左側のフェンダー3aの少なくとも一部を覆うように延在している。なお、右側の起立袋体23kにおいて、下テザー部材23k4は、右側のフェンダー3bの少なくとも一部を覆うように延在している。下テザー部材23j4および下テザー部材23k4は、左右のフェンダー3a,3bに当接する当接部を構成している。
上テザー部材23j5は、内側袋体23j2と外側袋体23j3との上端部同士を連結している。なお、右側の起立袋体23kにおいて、上テザー部材23k5は、内側袋体23k2と外側袋体23k3との上端部同士を連結している。
【0074】
左側の起立袋体23jにガスが流れ込んで膨らむと、外側袋体23j3の下端部が下テザー部材23j4を介して左側のフェンダー3aに当接する。また、右側の起立袋体23kにガスが流れ込んで膨らむと、外側袋体23k3の下端部が下テザー部材23k4を介して右側のフェンダー3bに当接する。このような当接が生じると、その反力で左右の起立袋体23j,23kが袋体ユニット22上に移動した歩行者Hを左右両側から包むように図中矢印X2方向に倒れ込む。
【0075】
本実施形態によっても、衝突後に袋体ユニット22上を歩行者Hが左右に移動した場合に、左右の起立袋体23j,23kが壁になってボンネット1の左右から地面に歩行者Hが脱落するという二次衝突をより確実に回避することができる。これにより、歩行者Hを好適に保護することができる。
【0076】
以上、本実施形態の車体側部構造について、図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0077】
例えば、袋体ユニット22は、必ずしも左右対称構造でなくてもよい。また、袋体の数や大きさも任意に設定することができ、左右で異なる構成としてもよい。
【0078】
また、インフレータ21の数は、3つのものに限られることはなく、2つ以下や4つ以上設置してもよい。また、インフレータ21を複数設ける場合には、インフレータ21毎にガスの噴出量を異ならせてもよい。
【0079】
また、一方向弁27は、適宜の連通路26に配置することができる。これにより、歩行者Hの荷重移動による衝撃を隣接する袋体(例えば23b,23c等)で好適に吸収することができる。
また、左右の起立袋体23j,23kに所定の内圧でガスを外部に放出するガス排出弁を設けてもよい。
【0080】
また、検出装置としてカメラ31を用いたが、これに限られることはなく、レーダー装置を用いて歩行者Hを検出するようにしてもよい。
【0081】
また、本発明は、ハイブリッド自動車や、電気自動車、燃料電池自動車等、エネルギーストレージを備える車両に広く適用できる。