(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971212
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 3/36 20060101AFI20211111BHJP
E02F 3/38 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
E02F3/36 Z
E02F3/38 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-182862(P2018-182862)
(22)【出願日】2018年9月27日
(65)【公開番号】特開2020-51154(P2020-51154A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2020年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 香織
(72)【発明者】
【氏名】多田 茂也
【審査官】
松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−193543(JP,A)
【文献】
特開平04−005340(JP,A)
【文献】
特開2008−274662(JP,A)
【文献】
特開2006−274589(JP,A)
【文献】
特開2018−044292(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0292242(US,A1)
【文献】
特開2003−138760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/36
E02F 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な車体と、前記車体に俯仰の動作が可能に取り付けられたブームと、前記ブームの先端側に回動可能に連結されたミドルアームと、前記ミドルアームの先端側に第1支軸を介して回動可能に連結されたアームと、前記アームの先端側に第2支軸を介して回動可能に取り付けられた作業具と、前記ブームと前記ミドルアームとの間に取り付けられたミドルアームシリンダと、前記ミドルアームと前記アームとの間に取り付けられたアームシリンダと、前記アームと前記作業具との間に取り付けられた作業具シリンダと、を備えた作業機械において、
前記アームが屈曲部を介して鈍角に連続する2つの直線状の延出部分を有していると共に、前記作業具シリンダが前記屈曲部よりも先端側に位置する前記直線状の延出部分に沿って配置されており、
前記ブームが俯くよう動作し、前記ミドルアームの先端側が前記車体に近づく方向に回動し、前記アームが前記第1支軸を介して前記車体に近づく方向に回動した状態で、前記屈曲部よりも後端側に位置する前記直線状の延出部分と前記作業具との両方を地面に接地させたとき、前記屈曲部が前記第1支軸と前記第2支軸を結ぶ直線に対して上方側に位置することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記作業具シリンダの一端部を支持するシリンダブラケットが前記屈曲部に近接して設けられていることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記アームが、前記ミドルアームに前記第1支軸を介して回動可能に連結された下アームと、前記下アームに脱着可能なピンを介して連結された上アームとに分割されており、前記上アームに前記2つの直線状の延出部分と前記屈曲部が設けられていることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記屈曲部の曲げ角度が25±5度の範囲に設定されていることを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に係り、特に、低層構造物の解体作業に好適な作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の代表例としての油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、下部走行体の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体とにより車体が構成され、車体を構成する上部旋回体の前側にフロント装置が上下方向へ回動可能に設けられている。そして、例えば高層建築物等の地上高さが大きな構造物を解体する場合には、上部旋回体の前側に解体作業用のフロント装置が取り付けられた油圧ショベルとして用いられる。
【0003】
通常、解体作業用のフロント装置は、マルチブームと呼ばれる複数のブームを有しており、該マルチブームは、上部旋回体の前部に回動可能に取り付けられた下ブームと、下ブームの先端側に取り付けられた継ぎブームと、継ぎブームの先端側に取り付けられた上ブームとにより構成されている(例えば、特許文献1参照)。そして、上ブームの先端側にミドルアームが回動可能に連結され、ミドルアームの先端側にアームが回動可能に連結され、アームの先端側に圧砕機等の作業具が取り付けられる構成となっている。また、下ブームと上部旋回体との間にブームシリンダが取り付けられ、該ブームシリンダの伸縮によりフロント装置を俯仰動させる構成となっている。
【0004】
このような構成のフロント装置を備えた油圧ショベルによって構造物等を解体する場合、フロント装置が3つのリンク(マルチブームとミドルアームおよびアーム)を有する多関節構造となっているため、低層構造物の解体においても、作業半径が大きくなって広い範囲を効率良く解体することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−256626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アームの先端側に取り付けられる圧砕機等の作業具は、開口幅に制限があり、掴める壁の厚さにも制限がある。したがって、水平に広がっている床などを上方から掴むことが困難となるため、床などを水平方向(横方向)から掴めるようにすると作業効率が向上する。しかし、特許文献1などに開示された従来の油圧ショベルでは、車体の運転席に近い範囲を作業する場合、アームの先端側に取り付けられた圧砕機等の作業具を水平な姿勢にし難くなるため、低層構造物の床や柱などを横方向から掴んで破砕するという作業ができず、低層解体時の作業効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、低層解体時の作業効率を高めることができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の作業機械は、自走可能な車体と、前記車体に俯仰の動作が可能に取り付けられたブームと、前記ブームの先端側に回動可能に連結されたミドルアームと、前記ミドルアームの先端側に第1支軸を介して回動可能に連結されたアームと、前記アームの先端側に第2支軸を介して回動可能に取り付けられた作業具と、前記ブームと前記ミドルアームとの間に取り付けられたミドルアームシリンダと、前記ミドルアームと前記アームとの間に取り付けられたアームシリンダと、前記アームと前記作業具との間に取り付けられた作業具シリンダと、を備えた作業機械において、前記アームが屈曲部を介して鈍角に連続する2つの直線状の延出部分を有していると共に、前記作業具シリンダが前記屈曲部よりも先端側に位置する前記直線状の延出部分に沿って配置されており、
前記ブームが俯くよう動作し、前記ミドルアームの先端側が前記車体に近づく方向に回動し、前記アームが前記第1支軸を介して前記車体に近づく方向に回動した状態で、前記屈曲部よりも後端側に位置する前記直線状の延出部分と前記作業具との両方を地面に接地させたとき、前記屈曲部が前記第1支軸と前記第2支軸を結ぶ直線に対して上方側に位置することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の作業機械によれば、低い作業高さでも圧砕機等の作業具を水平姿勢にすることができるため、低層解体時の作業効率を高めることができる。前述した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】
図1の油圧ショベルに備えられるアームの側面図である。
【
図3】
図1の油圧ショベルに備えられるフロント装置の作業姿勢を示す説明図である。
【
図4】比較例に係る油圧ショベルに備えられるフロント装置の作業姿勢を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を
図1〜
図5を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る作業機械の一例であるマルチブーム式の油圧ショベル1を示す側面図である。
図1に示すように、この油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載されて該下部走行体2と共に車体を構成する上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に俯仰の動作が可能に設けられた後述のフロント装置4とにより大略構成され、例えば建築物等の地上高さが12〜18m程度の低層構造物を解体するのに好適に用いられるものである。
【0013】
上部旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム5と、旋回フレーム5の前部左側に配設されて運転室を画成するキャブ6と、旋回フレーム5の後端側に配設されたカウンタウエイト7と、カウンタウエイト7の前側に配置されて図示せぬエンジン、油圧ポンプ等の搭載機器を収容する建屋カバー8とにより大略構成されている。
【0014】
フロント装置4は、下ブーム9、複数の継ぎブーム10、上ブーム11からなるマルチブームと、上ブーム11の先端側に回動可能に連結されたミドルアーム12と、ミドルアーム12の先端側に回動可能に連結されたアーム13と、アーム13の先端側に回動可能に連結された作業具14とにより大略構成されている。
【0015】
下ブーム9の基端側は上部旋回体3の前部右側の旋回フレーム5に回動可能に連結されており、下ブーム9の先端側には複数段の継ぎブーム10がピン結合されている。上ブーム11は継ぎブーム10の先端側にピン結合され、この上ブーム11の先端側に支軸15を介してミドルアーム12の基端側が回動可能に連結されている。そして、下ブーム9と上部旋回体3との間に図示せぬブームシリンダが取り付けられており、このブームシリンダの伸縮により、マルチブーム(下ブーム9、継ぎブーム10、上ブーム11)は上下方向に回動(俯仰動)する。
【0016】
ミドルアーム12の基端側と上ブーム11との間にはミドルアームシリンダ16が取り付けられており、ミドルアーム12はミドルアームシリンダ16の伸縮により支軸15を中心に回動する。
【0017】
ミドルアーム12の先端側には第1支軸17を介してアーム13の基端側が回動可能に連結されており、アーム13の先端側には第2支軸18を介して作業具14が回動可能に取り付けられている。そして、ミドルアーム12とアーム13の基端側との間にアームシリンダ19が取り付けられており、アーム13はアームシリンダ19の伸縮により第1支軸17を中心に回動する。
【0018】
アーム13の先端側と作業具14との間には作業具シリンダ20が取り付けられており、作業具14は作業具シリンダ20の伸縮により第2支軸18を中心に回動する。作業具14は油圧ショベル1の作業内容に適した機能を有するアタッチメントであり、低層構造物の解体作業の場合は、アーム13の先端側に圧砕機やブレーカ等の作業具14が選択的に取り付けられる。
【0019】
このようなマルチブーム式の油圧ショベル1において、本発明の特徴的構成は、アーム13の形状を工夫したことにある。以下、アーム13の具体的構成と作用効果について詳細に説明する。
【0020】
図2はアーム13の側面図であり、このアーム13は、第1支軸17が設けられる基端側直線状部13aと、第2支軸18が設けられる先端側直線状部13bと、これら基端側直線状部13aと先端側直線状部13bを鈍角に繋ぐ屈曲部13cとを有し、全体的にくの字状に形成されている。屈曲部13cによる先端側直線状部13bの曲げ角度θ、すなわち、基端側直線状部13aの軸線方向に沿う仮想線に対して下向きに屈曲する先端側直線状部13bの曲げ角度θは約(25±5)度に設定されている。作業具シリンダ20は先端側直線状部13bの長手方向に沿って配設されており、作業具シリンダ20のロッド側は作業具14に支持されている。また、作業具シリンダ20のボトム側は、屈曲部13cと先端側直線状部13bの接続箇所に設けられたシリンダブラケット21に支持されている。
【0021】
図2に示すように、第1支軸17と第2支軸18を結ぶ仮想線を直線Lとすると、アーム13の基端側直線状部13aと作業具14との両方を地面Eに接地させたとき、アーム13は、屈曲部13cが直線Lの上方側に位置する山形形状に保持される。これにより、作業具シリンダ20が地面Eと先端側直線状部13bとの間にできる空間内に配置されるため、アーム13全体を安定した姿勢で地面E上に載置することができ、作業具シリンダ20の損傷も防止される。
【0022】
図3は、このような形状のアーム13を備えたフロント装置4の作業姿勢を示す説明図である。
図3に示すように、本実施形態に係る油圧ショベル1を用いて低層構造物の解体作業を行う場合、作業具14により車体の運転席(キャブ6)に近い範囲を作業するとき、アーム13の先端側直線状部13bが先端側直線状部13bの軸線方向に対して所定の曲げ角度θ(25±5度)だけ前方に屈曲した姿勢となる。その結果、先端側直線状部13bに取り付けられた圧砕機などの作業具14を水平な姿勢に保てる範囲が広くなるため、低層構造物の床や柱などを作業具14で横方向から掴んで破砕することができ、低層解体時の作業効率を著しく高めることができる。
【0023】
また、本実施形態に係る油圧ショベル1では、ミドルアーム12を回動して中層部の解体作業を行う場合でも、作業具14を水平な姿勢にすることができ、中層構造物の床や柱を横方向から掴んで破砕する等の作業も容易に行うことができる。さらに、フロント装置4を折り畳んで最小姿勢に格納するとき、アーム13の基端側直線状部13aと作業具14との両方を地面Eに設置させて水平姿勢に保つことができるため、フロント装置4のメンテナンス性を高めることができる。
【0024】
図4は、本実施形態に係る油圧ショベル1の比較例として、従来の直線状アームを備えたフロント装置の作業姿勢を示す説明図である。
【0025】
図4に示すように、比較例に係る油圧ショベル100の場合、フロント装置101のアーム102が屈曲部を持たないストレート形状となっているため、アーム102の先端側に取り付けられた作業具103を用いて低層構造物の解体作業を行う場合、車体の運転席から遠い位置であれば作業具103を水平な姿勢に保てるが、車体の運転席に近い範囲では作業具103を水平な姿勢にすることが困難となる。その結果、車体の運転席に近い範囲になると、低層構造物の床や柱などを作業具14で横方向から掴んで破砕することができなくなり、低層解体時の作業効率が悪いものとなる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態に係る油圧ショベル1は、フロント装置4の構成部材であるアーム13が、屈曲部13cを介して鈍角に連続する基端側直線状部13aと先端側直線状部13bとを有していると共に、作業具シリンダ20が先端側直線状部13bの長手方向に沿って配設されて全体的にくの字状に形成されているため、車体の運転席(キャブ6)に近い範囲で低層構造物の解体作業を行うとき、アーム13の先端側直線状部13bが先端側直線状部13bの軸線方向に対して所定の曲げ角度θ(25±5度)だけ前方に屈曲した姿勢となる。その結果、先端側直線状部13bに取り付けられた圧砕機などの作業具14を水平な姿勢に保てる範囲が広くなるため、低層構造物の床や柱などを作業具14で横方向から掴んで破砕することができ、低層解体時の作業効率を著しく高めることができる。
【0027】
また、本実施形態に係る油圧ショベル1は、基端側直線状部13aと作業具14との両方を地面Eに接地させたとき、ミドルアーム12寄りの第1支軸17と作業具14寄りの第2支軸18を結ぶ直線Lに対して屈曲部13cが上方側に位置する山形形状に保持されると共に、作業具シリンダ20が地面Eと先端側直線状部13bとの間にできる空間内に配置されるため、フロント装置4の格納姿勢時にアーム13を水平な姿勢で接地させることができ、フロント装置4のメンテナンス性を高めることができる。
【0028】
なお、アーム13の屈曲部13cによる先端側直線状部13bの曲げ角度θが小さ過ぎると、車体の運転席に近い範囲で作業具103を水平な姿勢にし難くなり、その反対に上記角度θが大き過ぎると、中層部解体時に作業具14を垂直な姿勢にすることが困難となるため、作業具14を垂直姿勢にして中層構造物の壁などを上方から掴む作業ができなくなる。このような理由から、本実施形態に係る油圧ショベル1では、屈曲部13cによる先端側直線状部13bの曲げ角度θを約(25±5)度の範囲に設定しているため、中層部から低層部に亘る広い範囲での作業効率を高めることができる。
【0029】
図5は、アーム13の変形例を示す側面図である。
図5(a)に示すように、変形例に係るアーム13は、ミドルアーム12に第1支軸17を介して回動可能に連結される下アーム13dと、基端側直線状部13aと先端側直線状部13bおよび屈曲部13cを有する上アームとからなり、これら下アーム13dと上アームは脱着ピン22を介して連結されている。そして、
図5(b)に示すように、脱着ピン22を取り外すことにより、アーム13を下アーム13dと上アームとに分割できるようになっている。
【0030】
このように構成された変形例に係るアーム13では、基端側直線状部13aと先端側直線状部13bの寸法比を異ならせたり、屈曲部13cの曲げ角度θを異ならせる等、予め形状が異なる数種類の上アームを準備しておくことにより、解体構造物の高さや作業内容等に応じた最適な上アームを下アーム13dに連結してアーム13を構成することができる。
【0031】
なお、上記した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 フロント装置
9 下ブーム
10 継ぎブーム
11 上ブーム
12 ミドルアーム
13 アーム
13a 基端側直線状部(直線状の延出部分)
13b 先端側直線状部(直線状の延出部分)
13c 屈曲部
13d 下アーム
14 作業具
15 支軸
16 ミドルアームシリンダ
17 第1支軸
18 第2支軸
19 アームシリンダ
20 作業具シリンダ
21 シリンダブラケット
L 直線
E 地面