特許第6971221号(P6971221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971221組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971221
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20211111BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C12P21/08
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-505597(P2018-505597)
(86)(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公表番号】特表2018-521676(P2018-521676A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016068651
(87)【国際公開番号】WO2017021493
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】P1500363
(32)【優先日】2015年8月4日
(33)【優先権主張国】HU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】310008859
【氏名又は名称】リヒター ゲデオン ニュイルヴァーノシャン ミューコェデー レースヴェーニュタールシャシャーグ
【氏名又は名称原語表記】Richter Gedeon Nyrt.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】プーティクス、アーコシュ
(72)【発明者】
【氏名】シャライ、デーネシュ
(72)【発明者】
【氏名】ナジ、ガーシュパール
(72)【発明者】
【氏名】パルタ、ラースロー
(72)【発明者】
【氏名】シュライハー、アーロン
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0276631(US,A1)
【文献】 特表2012−503487(JP,A)
【文献】 特表2013−524824(JP,A)
【文献】 GRAMER, M.J., et al.,"Modulation of antibody galactosylation through feeding of uridine, manganese chloride, and galactose.",BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,2011年,Vol.108, No.7,pp.1591-1602
【文献】 GRAINGER, R.K., et al.,"CHO cell line specific prediction and control of recombinant monoclonal antibody N-glycosylation.",BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,2013年,Vol.110, No.11,pp.2970-2983
【文献】 LIU, B., et al.,"The availability of glucose to CHO cells afffects the intracellular lipid-linked oligosaccharide distribution, site occupancy and the N-glycosylation profile of a monoclonal antibody.",JOURNAL OF BIOTECHNOLOGY,2014年,Vol.170,pp.17-27
【文献】 VISSER, J., et al.,"Physicochemical and functional comparability between the proposed biosimilar rituximab GP2013 and originator rituximab.",BIODRUGS,2013年,Vol.27,pp.495-507
【文献】 CHARTRAIN, M., et al.,"Development and production of commercial therapeutic monoclonal antibodies in mammalian cell expression systems: an overview of the current upstream technologies.",CURRENT PHARMACEUTICAL BIOTECHNOLOGY,2008年,Vol.9,pp.447-467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−44/00
C12N 15/00−15/90
C12N 1/00− 7/08
C12Q 1/00− 3/00
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞にて生産される組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させる方法において、
a)前記組換えタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子で形質転換された哺乳動物細胞を細胞培養培地中、第1のpHで第1の期間、培養する工程であって、前記細胞培養培地はガラクトースを含まない、第1の期間、生細胞密度が4.5〜6.0×10細胞/mlになるまで培養する工程と、
b)前記哺乳動物細胞を前記細胞培養培地中、前記第1のpHとは異なり、前記第1のpHよりも0.05〜0.3pH単位だけ小さい第2のpHで第2の期間、培養する工程と、
c)下記の成分
(i)1つまたは複数のヌクレオシドであって、前記ヌクレオシドはウリジンである、ヌクレオシド、
(ii)1つまたは複数の遷移金属塩であって、前記遷移金属塩はマンガン塩である、遷移金属塩、および
(iii)1つまたは複数の糖であって、前記糖はガラクトースである、糖
を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と
を備え、工程(a)、(b)および(c)における前記培養物のオスモル濃度は400mOsm/kgよりも低い、方法。
【請求項2】
哺乳動物細胞にて組換えタンパク質を生産するための方法において、
a)前記組換えタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子で形質転換された哺乳動物細胞を細胞培養培地中、第1のpHで第1の期間、生細胞密度が4.5〜6.0×10細胞/mlになるまで培養する工程であって、前記細胞培養培地はガラクトースを含まない、第1の期間、培養する工程と、
b)前記哺乳動物細胞を前記細胞培養培地中、前記第1のpHとは異なり、前記第1のpHよりも0.05〜0.3pH単位だけ小さい第2のpHで第2の期間、培養する工程と、
c)下記の成分
(i)1つまたは複数のヌクレオシドであって、前記ヌクレオシドはウリジンである、ヌクレオシド、
(ii)1つまたは複数の遷移金属塩であって、前記遷移金属塩はマンガン塩である、遷移金属塩、および
(iii)1つまたは複数の糖であって、前記糖はガラクトースである、糖
を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と、
d)前記組換えタンパク質を含んでなる細胞培養液を回収する工程と、
e)前記組換えタンパク質を得る工程と
を備え、工程(a)、(b)および(c)における前記培養物のオスモル濃度は400mOsm/kgよりも低い、方法。
【請求項3】
前記組換えタンパク質は大規模で生産される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物細胞はチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えタンパク質はFc含有タンパク質である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物内のウリジンの濃度は1〜20mmol/Lである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属塩は塩化マンガン(II)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物内の塩化マンガン(II)の濃度は0.002mmol/L〜0.1mmol/Lである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物内のガラクトースの濃度は5mmol/L〜100mmol/Lである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
チャイニーズハムスター卵巣細胞においてリツキシマブのバイオシミラー抗体を生産するための方法において、
a)前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする1つまたは複数の組換え核酸分子で形質転換されたチャイニーズハムスター卵巣細胞を細胞培養培地中、pH7.15で第1の期間、生細胞密度が4.5〜6.0×10細胞/mlになるまで培養する工程と、
b)前記チャイニーズハムスター卵巣細胞を細胞培養培地中、pH7.00で第2の期間、培養する工程と、
c)下記の成分
(i)1〜20mmol/Lのウリジン、
(ii)0.002mmol/L〜0.1mmol/Lの塩化マンガン(II)、および
(iii)5mmol/L〜100mmol/Lのガラクトース
を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と、
d)前記リツキシマブを含んでなる細胞培養液を回収する工程と、
e)前記リツキシマブを得る工程と
を備え、工程(a)、(b)および(c)における前記培養物のオスモル濃度は400mOsm/kgよりも低い、方法。
【請求項11】
チャイニーズハムスター卵巣細胞によって生産される治療用抗体のその基準抗体に対するバイオシミラリティーを改善するための方法において、
a)前記治療用抗体の軽鎖および重鎖をコードする1つまたは複数の組換え核酸分子で形質転換されたチャイニーズハムスター卵巣細胞を細胞培養培地中、pH7.15で第1の期間、生細胞密度が4.5〜6.0×10細胞/mlになるまで培養する工程と、
b)前記チャイニーズハムスター卵巣細胞を前記細胞培養培地中、pH7.00で第2の期間、培養する工程と、
c)下記の成分
(i)ウリジン、
(ii)塩化マンガン(II)、および
(iii)ガラクトース
を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と
を備え、工程(a)、(b)および(c)における前記培養物のオスモル濃度は400mOsm/kgよりも低い、方法。
【請求項12】
前記細胞は前記第2のpHで6〜7日間培養される、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記温度は工程(a)、(b)および(c)の間、一定に保持される、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物はL−バリン、L−システイン、L−フェニルアラニンおよびL−セリンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸をさらに含有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(c)の供給は2回以上実施される、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(c)の供給は、前記成分(i)および前記成分(iii)が添加されていない組成物の供給工程によって開始される、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(a)および(b)における前記培養培地はウリジンおよびガラクトースを含有しない、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(c)の前記組成物はチミジン、フルクトース、マンノース、スクロースおよびN−アセチルマンノサミンの1つまたは複数を含有しない、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞にて生産される組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させる方法であって、その細胞の培養中に、細胞培養物のpHを変化させ、ヌクレオシド、遷移金属塩および/または糖を含んでなる組成物を供給する、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去20年において、炎症性疾患およびがんなどの様々な疾患を処置するための治療用抗体の使用がますます重要になってきており、最初のバイオシミラー抗体産物は既に市販されている。
【0003】
哺乳動物血清に由来する天然に存在する抗体はそれらの定常領域でグリコシル化され、このグリコシル化は、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)および補体依存性細胞障害(CDC)などの抗体のエフェクター機能にとって重要である。また、真核細胞において産生される組換えモノクローナル抗体は、特定のグリコシル化パターンを示す。バイオシミラー治療用抗体の開発において、バイオシミラー抗体がグリコシル化の点において先発医薬品(originator product)に匹敵することも配慮されなければならない。
【0004】
いくつかの研究では、組換え抗体のガラクトース含有量が、補体依存性細胞障害(CDC)アッセイにおいて測定される抗体の生物活性に影響を及ぼすことが明らかとなっている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。糖タンパク質の活性および有効性に対するガラクトシル化の役割を鑑みると、糖タンパク質組成物中のガラクトシル化レベルをモニタリングおよび制御することは重要である。
【0005】
先行技術は、糖タンパク質組成物のガラクトシル化プロファイルを調節する種々の方法を開示している。
非特許文献4は、抗体ガラクトシル化が、抗体を産生する細胞にウリジン、塩化マンガンおよびガラクトースを供給することによって調節され得ることを開示している。同様に、特許文献1は、マンガンおよび/またはガラクトース含有細胞培養補充物を使用してガラクトシル化を制御する方法を提供している。
【0006】
さらに、特許文献2は、pCO制御によってガラクトシル化を制御する方法を記載している。
非特許文献5においては、pHおよび溶存酸素張力を包含する単一のおよび組み合わせた化学的および機械的ストレスパラメーターのグリコシル化に対する効果が調査されている。
【0007】
特許文献3は、細胞培養プロセス中に温度を低下させ、pCOレベルを特定の範囲に維持することによって、組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させる方法を開示している。
【0008】
非特許文献6は、組換えタンパク質のガラクトシル化に対する細胞培養培地中のアスパラギンおよびアンモニウム濃度の影響について報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/149197号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2511293号明細書
【特許文献3】国際公開第2014/170866号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ガザーノ−サントロら(Gazzano−Santoro et al.)、「ジャーナル・オブ・イミュノロジカル・メソッズ(J. Immunol. Meth.)」、1997年、第202巻、p.163
【非特許文献2】ボイドら(Boyd et al.)、「モレキュラー・イミュノロジー(Mol. Immunol.)」、1995年、第32巻、p.1311−1318
【非特許文献3】ジェフェリス(Jefferis)、「ネイチャー・レビューズ・ドラッグ・ディスカバリー(Nature Reviews Drug Discovery)」、2009年、第8巻、p.226−234
【非特許文献4】グラマーら(Gramer et al.)、「バイオテクノロジー・アンド・バイオエンジニアリング(Biotechnol. Bioeng.)」、2011年、第108巻、第7号、p.1591−1602
【非特許文献5】イヴァルソンら(Ivarsson et al.)、「ジャーナル・オブ・バイオテクノロジー(J. Biotechnol.)」、2014年、第188巻、p.88−96
【非特許文献6】マクラケンら(McCracken et al.)、「バイオテクノロジー・プログレス(Biotechnol. Prog.)」、2014年、第30巻、第3号、p.547−553
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特に、バイオシミラーのガラクトースレベルが基準産物のガラクトースレベルに匹敵することが必要なバイオシミラー産物の開発において、タンパク質ガラクトシル化の正確な制御を可能にする細胞培養プロセスが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、pH降下と哺乳動物細胞へのウリジン、塩化マンガンおよびガラクトースの供給との組み合わせが、pHを下げることなく、ウリジン、塩化マンガンおよびガラクトースを供給した場合よりも組換え産生抗体のガラクトシル化を大幅に増加させることを見出した。
【0013】
したがって、本発明は、哺乳動物細胞にて生産される組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させる方法であって、
a)組換えタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子で形質転換された哺乳動物細胞を細胞培養培地中、第1のpHで第1の期間、培養する工程と;
b)この哺乳動物細胞をこの細胞培養培地中、第1のpHとは異なる第2のpHで第2の期間、培養する工程と;
c)下記の成分:
(i)1つまたは複数のヌクレオシド;
(ii)1つまたは複数の遷移金属塩;および
(iii)1つまたは複数の糖
の2つ以上を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と
を備える、方法に関する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、哺乳動物細胞にて組換えタンパク質を生産するための方法であって、
a)組換えタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子で形質転換された哺乳動物細胞を細胞培養培地中、第1のpHで第1の期間、培養する工程と;
b)この哺乳動物細胞をこの細胞培養培地中、第1のpHとは異なる第2のpHで第2の期間、培養する工程と;
c)下記の成分:
(i)1つまたは複数のヌクレオシド;
(ii)1つまたは複数の遷移金属塩;および
(iii)1つまたは複数の糖
の2つ以上を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と;
d)組換えタンパク質を含んでなる細胞培養液を回収する工程と;
e)組換えタンパク質を得る工程と
を備える、方法に関する。
【0015】
好適には、組換えタンパク質は大規模で生産される。
また好適には、哺乳動物細胞はチャイニーズハムスター卵巣細胞である。
好適な実施形態において、組換えタンパク質はFc含有タンパク質である。
【0016】
好適には、第2のpHは第1のpHよりも低く、より好適には、第2のpHは、第1のpHよりも0.05〜0.3pH単位低い。
好適には、ヌクレオシドはウリジンであり、より好適には、組成物内のウリジンの濃度は1〜20mmol/L(mM)である。
【0017】
好適には、遷移金属塩は塩化マンガン(II)であり、より好適には、組成物内の塩化マンガン(II)の濃度は0.002mmol/L〜0.1mmol/Lである。
好適には、糖はガラクトースであり、より好適には、組成物内のガラクトースの濃度は5mmol/L〜100mmol/Lである。
【0018】
さらに別の実施形態において、本発明は、チャイニーズハムスター卵巣細胞においてリツキシマブのバイオシミラー抗体を生産するための方法であって、
a)抗体の軽鎖および重鎖をコードする1つまたは複数の組換え核酸分子で形質転換されたチャイニーズハムスター卵巣細胞を細胞培養培地中、pH7.15で第1の期間、培養する工程と;
b)このチャイニーズハムスター卵巣細胞を細胞培養培地中、pH7.00で第2の期間、培養する工程と;
c)下記の成分:
(i)1〜20mmol/Lのウリジン;
(ii)0.002mmol/L〜0.1mmol/Lの塩化マンガン(II);および
(iii)5mmol/L〜100mmol/Lのガラクトース
を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と;
d)リツキシマブを含んでなる細胞培養液を回収する工程と;
e)リツキシマブを得る工程と
を備える方法に関する。
【0019】
さらに別の実施形態において、本発明は、チャイニーズハムスター卵巣細胞によって生産される治療用抗体のその基準抗体に対するバイオシミラリティーを改善するための方法であって、
a)治療用抗体の軽鎖および重鎖をコードする1つまたは複数の組換え核酸分子で形質転換されたチャイニーズハムスター卵巣細胞を細胞培養培地中、pH7.15で第1の期間、培養する工程と;
b)このチャイニーズハムスター卵巣細胞をこの細胞培養培地中、pH7.00で第2の期間、培養する工程と;
c)下記の成分:
(i)ウリジン;
(ii)塩化マンガン(II);および
(iii)ガラクトース
を含んでなる組成物を(b)の培養物に対して供給する工程と
を備える、方法に関する。
【0020】
好適な実施形態において、生細胞密度が4.5〜6.0×10細胞/mlになるまで、細胞は第1のpHで培養される。
別の好適な実施形態において、細胞は、第2のpHで6〜7日間培養される。
【0021】
好適には、温度は、工程(a)、(b)および(c)の間、一定に保持される。
また好適には、組成物は、L−バリン、L−システイン、L−フェニルアラニンおよびL−セリンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸をさらに含有する。
【0022】
好適には、工程(c)の供給は、2回以上実施される。
また好適には、工程(c)の供給は、成分(i)および(iii)が添加されていない組成物の供給工程によって開始される。
【0023】
好適には、工程(a)および(b)における培養培地は、ウリジンおよびガラクトースを含有しない。
また好適には、工程(c)の組成物は、チミジン、フルクトース、マンノース、スクロースおよびN−アセチルマンノサミンの1つまたは複数を含有しない。
【0024】
好適には、工程(a)、(b)および(c)における培養物のオスモル濃度は、400mOsm/kgよりも低い。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は特定の実施形態に関して記載されるが、この記載は限定的な意味で解釈されるものではない。
本発明の例示的な実施形態を詳細に記載する前に、本発明の理解にとって重要な定義を示す。この明細書および添付した特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「1つの(a)」および「1つの(an)」は、文脈が明確に他を指示しない限り、それぞれの複数も包含する。本発明の文脈において、「約」および「およそ」という用語は、該当する特徴の技術的効果を依然として保証すると当業者が理解する精度の区間を示す。この用語は、典型的には、±20%、好適には±15%、より好適には±10%、さらにより好適には±5%の示した数値からの偏差を示す。「含む」という用語は、限定的ではないことを理解されたい。本発明の目的において、「からなる」という用語は、「含む」という用語の好適な実施形態であると考えられる。これ以降において、群が特定の数以上の実施形態を含むと定義される場合、これはまた、好適にはこれらの実施形態のみからなる群も包含することを意味する。さらに、本明細書中および特許請求の範囲中の「第1の」、「第2の」、「第3の」、または「(a)」、「(b)」、「(c)」、「(d)」などの用語は、類似要素を識別するために使用され、必ずしも連続的または時系列的な順序を記載するためではない。そのように使用される用語は適切な状況下では交換可能であり、本明細書に記載された本発明の実施形態は、本明細書に記載または説明されている以外の順序で操作可能であることを理解されたい。「第1の」、「第2の」、「第3の」、または「(a)」、「(b)」、「(c)」、「(d)」、「i」、「ii」などの用語が方法または使用またはアッセイの複数の工程に関する場合、それらの工程間の時間または時間的間隔の一貫性はなく、すなわち、それらの工程は同時に行なわれ得るか、または、本明細書の上記または下記に述べられた本願において特段の指示がない限り、このような工程間に秒、分、時間、日、週、月または年の時間間隔があり得る。
【0026】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコル、試薬などが変化し得るので、それらに限定されないことを理解されたい。また本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載するためのものであり、添付した特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではないことも理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0027】
上記で論じたように、本発明は、細胞培養物pHの変化、好適には降下と、ヌクレオシド、遷移金属塩および糖を含んでなる、好適にはウリジン、塩化マンガン(II)およびガラクトースを含んでなる組成物を細胞培養物に対して供給することとが、組換えタンパク質、好適には組換え抗体のガラクトース含有量を増加させるという知見に基づいている。
【0028】
「ガラクトース含有量の増加」という用語は、細胞培養物のpHを変化させ、好適には降下させる場合であって、ヌクレオシド、遷移金属塩および糖を含んでなる組成物、好適にはウリジン、塩化マンガンおよびガラクトースを含んでなる組成物がその細胞培養物に対して供給された場合に、組換えタンパク質中のガラクトシル化アイソフォームG1F、G1’FおよびG2Fの1つまたは全部のパーセンテージが、一定pHで維持され上記で定義した組成物が供給されていない細胞培養物によって生産される同じ組換えタンパク質中のこれらのアイソフォームのパーセンテージに比べて、より高いことを意味することを意図する。G1F、G1’FおよびG2Fのパーセンテージにおけるこの増加は、G0およびG0Fなどの非ガラクトシル化グリコフォームの減少を伴う。
【0029】
G0F、G1F、G1’FおよびG2Fのグリコフォームは以下の構造を有する。
【0030】
【化1】
上記の式中、GnはN−アセチルグルコサミンであり、Fucはフコースであり、Mはマンノースであり、Galはガラクトースである。これらのグリカン構造は、IgG1組換え抗体の場合にFc領域のCγ2ドメインのアスパラギン301に位置され得るN−グリコシル化部位に対して連結される。
【0031】
本発明の方法によって生産される組換えタンパク質中のG1F、G1’FおよびG2Fアイソフォームのパーセンテージの合計が、一定pHで維持され上記で定義した組成物が供給されていない細胞培養物によって生産される同じ組換えタンパク質中のG1F、G1’FおよびG2Fアイソフォームのパーセンテージの合計と比べて、1%、2%または3%以上、好適には4%、5%、6%または7%以上、より好適には8%、9%または10%以上、最適には11%または12%以上増加される場合、ガラクトース含有量は増加される。
【0032】
また、本発明の方法によって生産される組換えタンパク質中のG0Fアイソフォームのパーセンテージが、一定pHで維持され、上記で定義した組成物が供給されていない細胞培養物によって生産される同じ組換えタンパク質中のG0Fアイソフォームのパーセンテージと比べて、1%、2%または3%以上、好適には4%、5%または6%以上、より好適には7%、8%または9%以上、最適には10%以上減少される場合、ガラクトース含有量は増加される。
【0033】
ガラクトース含有量は、細胞培養培地への細胞の接種の8〜14日後に決定される。好適な実施形態において、ガラクトース含有量は、細胞培養培地への細胞の接種の9〜10日後に決定される。
【0034】
組換えタンパク質の異なるグリカンアイソフォーム、特にガラクトシル化アイソフォームG1F、G1’FおよびG2Fの相対比、ならびにその結果のガラクトース含有量は、当技術分野で公知の任意の方法によって決定され得る。好適には、組換えタンパク質が脱グリコシル化され、蛍光誘導体化剤で処置された後に、レーザー誘起蛍光法(CE−LIF)検出を使用するキャピラリー電気泳動が使用される。それぞれのグリカンアイソフォームの相対含有量は蛍光検出によって決定され、対応するピークの面積%値を使用して計算される。例示的な方法は、以下の本明細書の実施例の項に記載されている。
【0035】
「細胞培養培地への細胞の接種」という用語は、細胞の成長および増殖に適した条件下で細胞を細胞培養培地と接触させる工程を指す。
「組換えタンパク質」という用語は、哺乳動物の宿主細胞に導入された組換え核酸分子に遺伝子が担持されている、組換えタンパク質をコードする遺伝子の転写および翻訳の結果として哺乳動物細胞培養物によって生産され得る、任意のタンパク質を指す。その組換えタンパク質は、使用される哺乳動物細胞中に天然には産生される可能性がないか、または、その組換えタンパク質は、使用される哺乳動物細胞中に天然に産生されるが、より低レベルであり得る。好適には、その組換えタンパク質は、哺乳動物宿主細胞によって天然には産生されない。
【0036】
特に、「組換えタンパク質」という用語は、治療用タンパク質、例えば、サイトカイン、成長因子、凝固因子、およびガラクトース含有量がタンパク質の生物学的機能に影響を及ぼす抗体などを包含する。好適には、組換えタンパク質は、Fc含有タンパク質、例えば、抗体またはIgG抗体のFc部分と別のタンパク質の一部または全部との融合タンパク質などである。
【0037】
IgG抗体のFc部分と別のタンパク質の一部または全部との融合タンパク質の例としては、エタネルセプト(TNF受容体との融合)、アフリベルセプト(VEGF受容体1および2の細胞外ドメインとの融合)、アバタセプト(CTLA−4の細胞外ドメインとの融合)ならびにベラタセプト(CTLA−4の細胞外ドメインとの融合)が挙げられる。
【0038】
より好適には、組換えタンパク質は組換え抗体である。「組換え抗体」という用語は、哺乳動物の宿主細胞に導入された組換え核酸分子に遺伝子が担持されている、組換え抗体をコードする遺伝子の転写および翻訳の結果として哺乳動物細胞培養によって産生され得る任意の抗体を指す。その組換え抗体は、使用される哺乳動物細胞中に天然には産生される可能性がないか、またはその組換え抗体は、使用される哺乳動物細胞中に天然に産生されるが、より低いレベルであり得る。好適には、その組換え抗体は、その生産に使用される哺乳動物宿主細胞によって天然には産生されない。
【0039】
「免疫グロブリン」および「抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。本免疫グロブリンは、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)または所望の抗原結合活性を示すそのフラグメントであり得る。天然に存在する抗体は、種々の構造を有する分子である。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合によって連結されている2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成されている、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端にかけて、それぞれの重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変ドメイン(VH)、続いて3つまたは4つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3および任意選択でCH4)を有する。同様に、N末端からC末端にかけて、それぞれの軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変ドメイン(VL)、続いて定常軽鎖(CL)ドメイン有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのうちの1つに割り当てられ得る。
【0040】
「抗体フラグメント」は、完全長抗体の一部分、一般に、その抗原結合領域または可変領域を含んでなる。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvフラグメント;単鎖抗体分子;ダイアボディ;直鎖抗体;および抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0041】
好適には、本免疫グロブリンはモノクローナル抗体である。本明細書で使用される場合の「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質の抗体の群から得られる抗体を指し、すなわち、その群を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る天然に存在する変異を除いて同一である。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に包含する従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は抗原上の単一決定基に対し向けられる。「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均質な群から得られる抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるものではない。
【0042】
本免疫グロブリンは、マウスのクラスIgG1、IgG2a、IgG2b、IgM、IgA、IgDもしくはIgE、ヒトのクラスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgAl、IgA2、IgDもしくはIgE、またはそれらの組み合わせもしくはフラグメントであり得る。
【0043】
本免疫グロブリンは、限定するものではないが、以下の抗原を包含するタンパク質の任意の1つまたは組み合わせを認識することができる:CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD20、CD22、CD23、CD25、CD33、CD40、CD44、CD52、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)、CD147、CD152、IL−1a、IL−1β、IL−1、IL−2、IL−3、IL−7、IL−4、IL−5、IL−8、IL−10、IL−12、IL−23、IL−2受容体、IL−4受容体、IL−6受容体、IL−12受容体、IL−13受容体、IL−18受容体サブユニット、PDGF−β、およびそれらの類似体、PLGF、VEGF、TGF、TGF−β2、TGF−p1、EGF受容体、PLGF受容体、VEGF受容体、血小板受容体gpIIb/IIIa、トロンボポエチン(thrombopoeitin)受容体、アポトーシス受容体PD−1、肝細胞成長因子、破骨細胞分化抑制因子リガンド、インターフェロンガンマ、Bリンパ球刺激因子BLyS、T細胞活性化レギュレーターCTLA−4、C5補体、IgE、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、PEM抗原、ErbB2/HER−2、患者の血清中に高レベルで存在する腫瘍関連エピトープ、がん関連エピトープまたはタンパク質(乳がん、結腸がん、扁平上皮細胞がん、前立腺がん、膵がん、肺がんおよび/もしくは腎臓がん細胞、ならびに/またはメラノーマ、神経膠腫もしくは神経芽腫細胞で発現される)、腫瘍の壊死核、インテグリンα4β7、インテグリンVLA−4、B2インテグリン、α4β1およびα4β7インテグリン、TRAIL受容体1、2、3および4、RANK、RANKリガンド(RANKL)、TNF−α、接着分子VAP−1、上皮細胞接着分子(EpCAM)、細胞間接着分子−3(ICAM−3)、ロイコインテグリンアドヘシン(leukointegrin adhesin)、血小板糖タンパク質gp IIb/IIIa、心筋ミオシン重鎖、副甲状腺ホルモン、スクレロスチン、MHC I、がん胎児抗原(CEA)、アルファ−フェトプロテイン(AFP)、腫瘍壊死因子(TNF)、Fc−y−1受容体、HLA−DR 10ベータ、HLA−DR抗原、L−セレクチン、およびIFN−γ。
【0044】
本免疫グロブリンは、例えば、アフェリモマブ、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アルシツモマブ、ベリムマブ、カナキヌマブ、セツキシマブ、デノスマブ、トラスツズマブ、イムシロマブ(imciromab)、カプロマブ、インフリキシマブ、イピリムマブ、アブシキシマブ、リツキシマブ、バシリキシマブ、パリビズマブ、ナタリズマブ、ニボルマブ、ノフェツモマブ、オマリズマブ、ダクリズマブ、イブリツモマブ、ムロモナブ−CD3、エドレコロマブ、ゲムツズマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ、エクリズマブ、ウステキヌマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オビヌツズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、ロモソズマブ、トシリズマブ、トシツモマブ、クレノリキシマブ、ケリキシマブ、ガリキシマブ、フォラビルマブ(foravirumab)、レキサツムマブ、ベバシズマブおよびベドリズマブであり得る。
【0045】
本発明の免疫グロブリンは、好適には、IgG分子、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4分子などである。より好適には、本免疫グロブリンはIgG1である。さらにより好適には、本免疫グロブリンは、少なくともFc部分がヒトであるIgG1である。本免疫グロブリンは、IgG1のFc部分がヒトであり、可変領域がマウス起源であるマウス−ヒトキメラIgG1であり得る。最適には、キメラ免疫グロブリンは、リツキシマブまたはインフリキシマブである。
【0046】
リツキシマブは、例えば国際公開第94/11026号に詳細に記載されているキメラ抗CD20抗体である。
インフリキシマブは、例えば国際公開第92/16553号に詳細に記載されているキメラ抗TNFα抗体である。
【0047】
本免疫グロブリンは、可変ドメインのCDRがマウス由来であり、可変ドメインのフレームワーク領域がヒト由来である、マウス前駆体のヒト化IgG1形態であり得る。最適には、そのヒト化抗体は、トラスツズマブまたはベバシズマブである。
【0048】
トラスツズマブは、例えば国際公開第92/22653号に詳細に記載されているヒト化抗HER2抗体である。
ベバシズマブは、例えば国際公開第98/45331号に詳細に記載されているヒト化抗VEGF抗体である。
【0049】
本免疫グロブリンは、完全ヒトIgG1抗体、すなわち、全部分がヒト起源に由来する抗体であり得る。最適には、そのヒト抗体は、アダリムマブまたはデノスマブである。
アダリムマブは、例えば国際公開第97/29131号に詳細に記載されているヒト抗TNFα抗体である。
【0050】
デノスマブは、例えば国際公開第03/002713号に詳細に記載されているヒト抗RANKL抗体である。
一実施形態において、その抗体はリツキシマブまたはベバシズマブであり得る。
【0051】
本明細書のモノクローナル抗体は、詳細には、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一または相同であり、一方、鎖の残りが、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列、ならびに所望の生物活性を示す限りこのような抗体のフラグメント中の対応する配列と同一または相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を包含する。
【0052】
さらに、本明細書のモノクローナル抗体は、「ヒト化」抗体も包含する。このような抗体は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」によって得られ、動物免疫グロブリン由来の最小限の配列のみを含有する。その分子の大部分は、ヒトアミノ酸配列から構成される。ヒトレシピエント抗体の超可変領域由来の残基は、所望の結合特性を有する非ヒトドナー抗体の超可変領域由来の残基により置き換えられる。
【0053】
最後に、本明細書のモノクローナル抗体はまた、最初にヒト抗体ライブラリーのスクリーニングによって得られ得る完全ヒト抗体も包含する。
本発明の方法において、組換えタンパク質は哺乳動物細胞において生産される。本発明の組換え抗体の発現に適した哺乳動物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(DHFR選択可能マーカーと共に使用されるdhfr陰性CHO細胞を含む)、NS0ミエローマ細胞、COS細胞、SP2細胞、サル腎臓CV1、ヒト胚腎臓株293;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(TM4)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76)、ヒト子宮頚がん細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDC)、バッファローラット肝細胞(BRL 3 A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝細胞(Hep G2)、マウス乳腺腫瘍細胞(MMT 060562)、TRI細胞、MRC 5細胞およびFS4細胞を包含する。好適には、宿主細胞はげっ歯類に由来する。より好適には、その哺乳動物細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、さらにより好適には、その細胞はCHO−K1細胞であり、最適には、その細胞は、無血清培地中での成長に適したCHO−K1細胞(CHO−S)であり、かつ/またはインビトロジェン社(Invitrogen)から入手することができる(カタログ番号R−800−07)。
【0054】
その哺乳動物細胞は、哺乳動物宿主細胞における組換えタンパク質の安定した生産を可能にする発現ベクターなどの1つ以上の組換え核酸分子で形質転換された、すなわち、遺伝的に改変された。
【0055】
組換え抗体の生産において、哺乳動物細胞は、抗体の重鎖および軽鎖の両方をコードする1つの組換え核酸分子で形質転換され得るか、1つが抗体の軽鎖をコードし、他の1つが抗体の重鎖をコードする2つの組換え核酸分子で形質転換され得る。一実施形態において、組換え抗体は、抗体の重鎖および軽鎖の両方をコードする1つの組換え核酸分子から生産される。より好適な実施形態において、組換え抗体は1つの組換え核酸分子から生産され、重鎖および軽鎖の発現は、同じであっても異なっていてもよい個別のプロモーターによって制御される。最適な実施形態において、組換え抗体は1つの組換え核酸分子から生産され、重鎖および軽鎖の発現は同じ個別のプロモーターによって制御される。
【0056】
「培地」、「細胞培養培地」および「培養培地」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、哺乳動物細胞を成長させるために必要な栄養源を含有する溶液を指す。典型的には、細胞培養培地は、最小限の成長および/または生存のために細胞により必要とされる必須アミノ酸および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質および微量元素を提供する。好適には、培地は、そのすべての成分およびそれらの濃度が既知であるという点において化学的に定義されている。また好適には、培地は血清および加水分解物を含まず、動物由来のいかなる成分も含有しない。より好適な実施形態において、培地は血清および加水分解物を含まず、HEPESおよびPluronic(登録商標)F−68を含有する以外、動物由来のいかなる成分も含有しない。特に好適な実施形態において、本発明の方法の工程(a)および(b)、すなわち供給前の工程において使用される培地は、組換えインスリン、脂質、クエン酸第二鉄およびPEG20000が補充されたPowerCHO−2 CD(カタログ番号BE12−771Qでロンザ社(Lonza)から購入可能)である。最適な実施形態において、PowerCHO−2 CD培地は、組換えインスリン、脂質、クエン酸第二鉄およびPEG20000、ならびに過剰量のL−チロシン、L−フェニルアラニンおよびL−グルタミンが補充される。過剰量のL−チロシン、L−フェニルアラニンおよびL−グルタミンは、8mmol/LのL−グルタミン、1.2mmol/LのL−チロシンおよび2mmol/LのL−フェニルアラニンを含んでなる。
【0057】
好適には、追加量のウリジン、塩化マンガンおよびガラクトースは細胞培養培地に添加されないが、1つまたは複数のこれらの成分は基本細胞培養培地中に存在し得る。それにもかかわらず、細胞培養培地は、使用される既知組成の培地中にそれらが存在する場合、これらの化合物のいずれかまたは全部を含有し得る。より好適には、細胞培養培地はガラクトースを含まない。
【0058】
細胞培養培地は、好適には、滅菌濾過、より好適には0.1ミクロンの孔径を有するフィルタを使用する滅菌濾過に供される。
「第1のpH」とも呼ばれる、本発明の方法の工程a)における細胞培養培地のpHは、好適にはNaCOまたはHPOを添加することによって、第1の期間の間、pH7.15〜7.25の間の範囲に維持される。第1の期間は、細胞培養培地への哺乳動物細胞の接種後、60〜80時間、好適には63〜79時間、より好適には66〜78時間、最適には70時間である。
【0059】
第1の期間の後、細胞培養培地のpHは第2のpHに変化し、好適には低下する。より好適には、第2のpHは、第1のpHよりも0.05〜0.3pH単位低く、さらにより好適には、第2のpHは、第1のpHよりも0.15〜0.25pH単位低い。最適には、第2のpHはpH7.00である。pHは、適切な酸またはCOガスを添加することによって、好適にはHPOを添加することによって低下し得る。pHは、4.0〜7.0×10の生細胞密度に達したときに変化する。細胞が第2のpHで培養される第2の期間は、約6〜11日、または約6〜8日、好適には約7日である。したがって、本発明の方法における全培養期間は、細胞培養培地への哺乳動物細胞の接種後8〜14日である。好適には、本発明の方法における全培養期間は、細胞培養培地への哺乳動物細胞の接種後9〜10日である。
【0060】
本発明の方法において、細胞には、工程(c)において、2つ以上の以下の成分:(i)1つまたは複数のヌクレオシド、(ii)1つまたは複数の遷移金属塩、および(iii)1つまたは複数の糖(これ以降、成分(i)〜(iii)とも呼ばれる)を含んでなる組成物が供給され、特にウリジン、塩化マンガンおよびガラクトースを含んでなる組成物が供給される。
【0061】
「供給」という用語は、組成物が工程(a)または(b)の細胞培養物に対して添加され、培地または細胞は供給中に取り出されないことを意味する。供給は、典型的には、連続的に起こるのではなく、定義された時点で起こる。本発明の方法において、組成物は、以下でさらに詳述されるように、定義された時点で供給される。
【0062】
供給される組成物は、例えば水または適切な緩衝液中に、成分(i)〜(iii)のみを含んでなり得るか、または成分(i)〜(iii)をさらに含有する細胞培養培地をベースとし得る。好適には、方法の工程(c)において供給される組成物は、成分(i)〜(iii)をさらに含有する細胞培養培地をベースとする。この細胞培養培地は、細胞の初期培養において、すなわち、接種後および供給前(工程(a)および(b))に使用される細胞培養培地と同じであっても異なっていてもよい。好適には、供給に使用される細胞培養培地は、細胞の初期培養(すなわち、工程(a)および(b))において使用されるものとは異なる。より好適には、供給に使用される細胞培養培地は、シグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich)製のExCell(登録商標)である。別の好適な実施形態において、供給に使用される細胞培養培地は、シグマアルドリッチ社製のカスタマイズされた無塩(SF)ExCell(登録商標)である。
【0063】
成分(i)〜(iii)に加えて、供給に使用される細胞培養培地はまた、基本細胞培養培地に加えてアミノ酸および他の補充物などの他の成分も含有し得る。好適には、供給に使用される細胞培養培地は、1つまたは複数のL−バリン、L−システイン、L−フェニルアラニン、L−セリンおよびBD Rechargeなどの既知組成の補充物をさらに含有する。より好適には、供給に使用される細胞培養培地は、成分(i)〜(iii)に加えて、L−バリン、L−システイン、L−フェニルアラニン、L−セリンおよび既知組成の補充物を含んでなる。最適には、供給に使用される細胞培養培地は、ExCell(登録商標)またはカスタマイズされた無塩SF ExCell(登録商標)であり、成分(i)〜(iii)に加えて、L−バリン、L−システイン、L−フェニルアラニン、L−セリンおよび既知組成の補充物を含んでなる。供給に使用される細胞培養培地中のL−バリンの濃度は34mmol/Lであり、供給に使用される細胞培養培地中のL−システインの濃度は8.3mmol/Lであり、供給に使用される細胞培養培地中のL−フェニルアラニンの濃度は4.5mmol/Lであり、供給に使用される細胞培養培地中のL−セリンの濃度は38mmol/Lである。
【0064】
供給に使用される細胞培養培地は、好適には滅菌濾過、より好適には0.2または0.1ミクロンの孔径を有するフィルタを使用する滅菌濾過に供される。
別の実施形態において、供給に使用される組成物は、チミジン、フルクトース、マンノース、スクロースおよびN−アセチルマンノサミンを含有しない。
【0065】
供給に使用される組成物は、1つまたは複数のヌクレオシドを含んでなる。ヌクレオシドは、窒素塩基と、リボースおよびデオキシリボース(desoxyribose)などの5個の炭素原子を含んでなる糖とから構成される。ヌクレオシドの例は、シチジン、ウリジン、アデノシン、グアノシン、チミジンおよびイノシンを包含する。好適には、ヌクレオシドはウリジンである。
【0066】
供給に使用される組成物内の1つまたは複数のヌクレオシドの濃度は1〜20mmol/L、好適には1.5〜15mmol/L、より好適には2〜12mmol/L、さらにより好適には2.5〜10mmol/Lであり、最適には3mmol/Lである。供給に使用される組成物内のウリジンの濃度は1〜20mmol/L、好適には1.5〜15mmol/L、より好適には2〜12mmol/L、さらにより好適には2.5〜10mmol/Lであり、最適には3mmol/Lである。
【0067】
供給に使用される組成物は、1つまたは複数の遷移金属塩をさらに含んでなる。遷移金属塩は、遷移金属と対イオンとの塩である。遷移金属は、Fe、Co、Cr、Mn、Mo、Ni、Cu、Znを包含し、適切な対イオンは、塩化物(Cl)、硫酸塩(SO2−)およびリン酸塩(PO3−)を包含する。好適には、遷移金属塩はマンガン塩であり、最適には、塩化マンガン(II)である。
【0068】
供給に使用される組成物内の1つまたは複数の遷移金属塩の濃度は、0.002mmol/L〜0.1mmol/L、好適には0.005mmol/L〜0.09mmol/L、より好適には0.008mmol/L〜0.08mmol/L、さらにより好適には0.01mmol/L〜0.07mmol/Lであり、最適には0.06mmol/Lである。供給に使用される組成物内の塩化マンガン(II)の濃度は、0.002mmol/L〜0.1mmol/L、好適には0.005mmol/L〜0.09mmol/L、より好適には0.008mmol/L〜0.08mmol/L、さらにより好適には0.01mmol/L〜0.07mmol/Lであり、最適には0.06mmol/Lである。
【0069】
供給に使用される組成物は、1つまたは複数の糖をさらに含んでなる。糖は短鎖炭水化物であり、グルコース、フルクトース、スクロース、ガラクトース、マルトースおよびラクトースを包含する。好適には、この糖はガラクトースである。
【0070】
供給に使用される組成物内の1つまたは複数の糖の濃度は、5mmol/L〜100mmol/L、好適には7.5mmol/L〜75mmol/L、より好適には10mmol/L〜60mmol/L、さらにより好適には12.5mmol/L〜50mmol/Lであり、最適には15mmol/Lである。供給に使用される組成物内のガラクトースの濃度は、5mmol/L〜100mmol/L、好適には7.5mmol/L〜75mmol/L、より好適には10mmol/L〜60mmol/L、さらにより好適には12.5mmol/L〜50mmol/Lであり、最適には15mmol/Lである。
【0071】
一実施形態において、供給に使用される組成物内の1つまたは複数のヌクレオシドの濃度は1〜20mmol/Lであり、供給に使用される組成物内の1つまたは複数の遷移金属塩の濃度は0.002mmol/L〜0.1mmol/Lであり、供給に使用される組成物内の1つまたは複数の糖の濃度は5mmol/L〜100mmol/Lである。好適な実施形態において、供給に使用される組成物内の1つまたは複数のヌクレオシドの濃度は3mmol/Lであり、供給に使用される組成物内の1つまたは複数の遷移金属塩の濃度は0.06mmol/Lであり、供給に使用される組成物内の1つまたは複数の糖の濃度は15mmol/Lである。
【0072】
一実施形態において、供給に使用される組成物内のウリジンの濃度は1〜20mmol/Lであり、供給に使用される組成物内の塩化マンガン(II)の濃度は0.002mmol/L〜0.1mmol/Lであり、供給に使用される組成物内のガラクトースの濃度は5mmol/L〜100mmol/Lである。好適な実施形態において、供給に使用される組成物内のウリジンの濃度は3mmol/Lであり、供給に使用される組成物内の塩化マンガン(II)の濃度は0.06mmol/Lであり、供給に使用される組成物内のガラクトースの濃度は15mmol/Lである。
【0073】
本細胞培養物には、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物が1回以上、好適には2回以上供給され、より好適には2回供給される。成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の供給は、好適には、細胞培養培地への細胞の接種の4〜6日後に起こり、より好適には、細胞培養培地への細胞の接種の5日後に起こる。成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の供給が2回実施される場合、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の第1の供給は細胞培養培地の接種の4〜6日後、好適には5日後に実施され、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の第2の供給は、細胞培養培地の接種の6〜8日後、好適には7日後に実施される。より好適には、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の第1の供給は、接種の5日後に実施され、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の第2の供給は、接種の7日後に実施される。
【0074】
第1の供給工程において、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物は、8.5〜10.5倍、好適には9.0〜10.0倍、最適には9.3倍に希釈される。第2の供給工程において、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物は、9.5〜11.5倍、好適には10.0〜11.0倍、最適には10.3倍に希釈される。
【0075】
好適には、成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物の供給の1つまたは複数の工程は、成分(i)〜(iii)は添加されていない以外は成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物と同一である組成物の供給工程によって開始される。成分(i)〜(iii)は添加されていない以外は成分(i)〜(iii)を含んでなる組成物と同一である組成物の供給は、細胞培養培地の接種の2〜4日後、好適には3日後に行なわれる。
【0076】
したがって、本発明の方法は、好適には、以下の供給工程
c1)成分(i)〜(iii)が添加されていない組成物を接種後3日目に供給する工程、
c2)成分(i)〜(iii)が添加された組成物を接種後5日目に供給する工程、および、
c3)成分(i)〜(iii)が添加された組成物を接種後7日目に供給する工程
を含んでなる。
【0077】
本発明の方法において、細胞培養物、すなわち哺乳動物細胞を含んでなる細胞培養培地の温度は、好適には、全培養プロセスの間、一定に保持されるが、これは、温度がそのプロセスにおいて積極的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされないこと、また常に同じ設定温度が使用されることを意味している。それにもかかわらず、温度のわずかな変動が培養プロセスの間に起こり得る。好適には、培養プロセスの間の温度は36℃〜38℃に設定され、より好適には、温度は37℃に設定される。
【0078】
本発明のプロセスにおいて、オスモル濃度は、好適には、全プロセス、すなわち、特許請求の範囲で定義された、工程(a)〜(c)を通じて400mOsm/kgよりも低い。好適には、オスモル濃度は250〜400mOsm/kgの範囲、より好適には300〜380mOsm/kgの範囲、最適には330〜370mOsm/kgの範囲である。本明細書で使用される「オスモル濃度」という用語は、溶媒1キログラム当たりの溶質のオスモルとして定義され、イオン化分子または非イオン化分子を包含し得る。低オスモル濃度、例えば400mOsm/kgよりも低いオスモル濃度は、低塩濃度の培地を使用することにより維持され得る。特に、供給に使用される組成物は低塩濃度を含有するか、または供給工程c)において使用される遷移金属塩以外の塩を全く含有しない。
【0079】
本発明のプロセスにおいて、細胞は好気条件下、すなわち、50±40%の溶存酸素レベルで培養される。二酸化炭素のレベルは、任意選択で、混合速度または通気の強度を調整することによって、0〜90mmHgの間の範囲内に維持される。
【0080】
本発明のプロセスは、グルコースの限定なく実施される。したがって、グルコースは、5〜35mmol/Lの範囲、好適には10〜25mmol/Lの範囲のグルコースレベルを保持するように細胞培養物に対して添加される。
【0081】
細胞培養物の起泡が生じる場合、本発明のプロセスの間の任意の時点で、消泡剤が培養物に対して添加され得る。
組換えタンパク質が本発明の方法によって生産された後、産物が回収される。哺乳動物細胞から発現される組換えタンパク質、特に抗体は、典型的には培養プロセスの間に細胞培養液へと分泌されるので、培養プロセスの終了時の産物回収は、組換えタンパク質を含んでなる細胞培養液を細胞から分離することによって起こる。細胞分離方法は、細胞破壊を最小限にするために穏やかにし、細胞破壊片の増加を回避し、免疫グロブリン産物の品質に影響する可能性があるプロテアーゼおよび他の分子の放出を回避する。通常、組換えタンパク質を含んでなる細胞培養液の回収は、遠心分離および/または濾過を含んでなり、それにより組換えタンパク質は上清および濾液中に、それぞれ存在する。エクスパンデットベッドカラムクロマトグラフィーは、遠心分離法/濾過法を回避する代替方法である。
【0082】
組換えタンパク質を含んでなる細胞培養液を回収した後、組換えタンパク質は細胞培養液から精製されなければならない。組換えタンパク質、特に組換え抗体の精製は、通常、例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーなどの一連のクロマトグラフィー工程によって達成される。さらに、精製プロセスは、1つまたは複数の超濾過、ナノ濾過または透析濾過工程を含んでなり得る。PCT/EP2015/054862に記載されている特に適切な1つの方法は、フロースルーモード(flow−through mode)の陰イオン交換クロマトグラフィー、プロテインA樹脂のアフィニティークロマトグラフィー、およびバインド−アンド−エルート(bind−and−elute)モードの陽イオン交換クロマトグラフィーの工程を含んでなる。
【0083】
本発明のプロセスは、500または1.000リットル以上、好適には5.000または8.000リットル以上、最適には10.000または20.000リットルの培養物容量を意味する、大規模での組換えタンパク質の生産に適している。
【0084】
本発明のプロセスは、バイオシミラー治療用抗体の、その基準産物(すなわち市販の治療用抗体)に対するバイオシミラリティーを改善する。バイオシミラー治療用抗体は、先発医薬品(original product)に対する特許保護が期限切れした後に市販され、先発医薬品と同じアミノ酸配列を有するが、翻訳後修飾がわずかに相違し得る治療用抗体である。それにもかかわらず、バイオシミラー治療用抗体は、先発医薬品と同一の生理学的な効果を示す。市販の抗体のバイオシミラーについての販売許可申請が提出される場合、バイオシミラー抗体の構造が基準産物に匹敵することが示されなければならない。グリコシル化タンパク質のバイオシミラリティーを評価するための重要な1つのパラメーターは、抗体のエフェクター機能に影響を及ぼし得るグリコシル化パターンである。
【0085】
本発明の方法を使用することによって、バイオシミラー抗体のグリコシル化パターン、特にガラクトースレベルは基準産物に匹敵する。それによって、pH降下に供されておらず、ウリジン、塩化マンガン(II)およびガラクトースを含んでなる組成物が供給されなかった治療用抗体のグリコシル化パターンおよびバイオシミラリティーと比べて、本バイオシミラー抗体はバイオシミラリティーが改善される。
【0086】
以下の実施例および図面は説明目的で提供される。したがって、実施例および図面は限定として解釈されないことを理解されたい。当業者には、明らかに、本明細書に詳説された原理のさらなる変更を想定することができよう。
【0087】
実施例
本発明の方法は、以下の非限定的な実施例を参照することによって支持され、例示される。
【0088】
以下のテーブルに提示した選択実験は、異なる規模の流加培養において増殖したCHO細胞で組換え発現された、マウス−ヒトキメラ抗CD20、IgG1抗体のリツキシマブを用いて実施された。実施例において、この抗体はモデル抗体とも呼ばれる。
【0089】
しかし、本発明の方法は、特異抗体にも、免疫グロブリンの発現に使用される特定の宿主細胞にも依存しない。タンパク質ガラクトシル化プロファイルおよび回収における最大収率の観点において最適化された発現モードおよび選択した培養条件についても同じことが言える。
【0090】
1. 方法
1.1 細胞培養
細胞
無血清培地における成長に適合され、その優れた成長(撹拌培養において凝集が少ないことを包含する)およびトランスフェクション効率によってもともと選択された、一般のCHO K1細胞株の市販の懸濁液選択性サブクローンに由来する、チャイニーズハムスター卵巣細胞株S(CHO−S)は、インビトロジェン社(カタログ番号:R−800−07、Lot.1335750)から購入された。CHO−S細胞は、無血清の、既知組成のPowerCHO−2培地(ロンザ インコーポレイテッド社製、米国所在)における成長に適合された。
【0091】
流加培養法
モデル抗体が発現するように遺伝子操作されたCHO細胞は、最初に、基本培地PowerCHO−2(ロンザ社製)において成長させた。最初の操作容量(接種培地プラス基本培地の容量)に対する供給物の比が、15%で、3倍濃縮された(3×)ExCell供給物(37g/L;SAFC)での培養の(接種後)3日目から1日おきに、ショット−ワイズモードで培養物に添加された。
【0092】
実施例において利用された培地および追加補充物の供給者およびカタログ番号は、以下に要約される。
【0093】
【表1】
培養温度は37℃に維持された。pHは、0.5mol/LのNaC0またはHP0を添加することによってpH7.05からpH7.15の間の範囲で保持された。溶存酸素(DO)設定点は40%であった。関連代謝産物は毎日測定された。グルコースレベルは約20mmol/Lで維持された。細胞は、9〜10日間培養された。
【0094】
実験は、主として、1、5、10または100Lの実験室規模から回収された培養液を用いて実施された。これらの例において使用された生産規模および最大培養容量は、1000Lであった。他に指定がない限り、この規模は通常、培養容量を指す。
【0095】
1.2 精製
プロテインAクロマトグラフィー
品質分析のために、得られたモデル抗体は、プロテインAクロマトグラフィーを使用して、発酵ブロスからアフィニティー精製された。この捕捉はFc担持分子に対する優れた選択率を提供し、それによって、単一工程において99.5%を超える夾雑物が除去される。
【0096】
1.3 分析
生細胞密度および生存率
生細胞密度および細胞生存率は、トリパンブルー染色法を使用して、Countess(商標)自動細胞カウンター(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad)所在、2008)によって決定された。
【0097】
グルコース
グルコース濃度は、Accu−Chek血糖計(ロシュ社(Roche)、ドイツ、マンハイム(Mannheim)所在)を用いて測定された。
【0098】
pCO2
溶存二酸化炭素含有量(pCO2)は、ABL80血液ガスアナライザー(ラジオメーター社(Radiometer)、デンマーク、ブレンスホイ(Bronshoj)所在)を用いて決定された。
【0099】
pH測定
in situ pHメーター再較正のためのアトライン(At−line)pH測定は、S47 SevenMulti pHメーター(メトラートレド社(Mettler Toledo)、スイス、チューリッヒ(Zurich)所在)を用いて実施された。
【0100】
オスモル濃度
試料のオスモル濃度は、Advanced Model 2020マルチサンプル浸透圧計(アドバンスト インストルメント社(Advanced Instruments)、米国マサチューセッツ州ノーウッド(Norwood)所在)を用いて決定された。
【0101】
力価
(インプロセス)試料のタンパク質力価は、プロテインAアフィニティーHPLCによって決定された。
【0102】
グリコシル化プロファイル
グリカンフォームの移動時間補正面積%で表したグリカン集団の相対比の決定は、レーザー誘起蛍光法検出を使用するキャピラリー電気泳動(CE−LIF)によって実施された。タンパク質試料(200μg)は、PNGase−Fと共に37℃で3時間インキュベーションすることによって脱グリコシル化された。タンパク質の沈澱は、冷却されたエタノールを使用して実施され、続いて乾燥させた。蛍光性誘導体化剤9−アミノピレン−1,4,6−トリスルホン酸(APTS)およびシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用する還元的アミノ化に続いて、55℃で90分間加熱を行った。試料がクエンチされ、488nm固体レーザーを装備したCE−LIFシステムを使用して電気泳動が行われた。グリカンの相対的含有量は、蛍光検出によって決定された。放出されたグリカンの量は、対応するピークの面積%値を使用して計算された。モデル抗体の4つの主要グリカン(G0F、G1F、G1’F、G2F)は、放出および安定性試験について評価された。合格基準は以下のとおりであった:G0F:40〜56面積%;G1F:28〜38面積%;G1’F:9〜13面積%、およびG2F:5〜12面積%。
【0103】
分離パラメーターは以下を包含していた。
・50μΜの内径(I.D.)のキャピラリー直径
・キャピラリーの長さ:全長(Lt)=50.2cm
・検出器までの長さ(Ld)=40.2cm
・ニュートラルキャピラリー
・PEOゲル
・20分のラン時間
・キャピラリー温度20℃
・試料保存温度10℃
生物活性
モデル抗体の生物活性は、補体依存性細胞障害(CDC)アッセイを使用して決定された。CDC法の基本原理は、モデル抗体が、標的細胞の表面上で発現されるその抗原に対して特異的に結合するということである。こうして形成された抗原−抗体複合体は補体系を活性化し、その結果、細胞は用量依存的に死滅する。生存細胞は、AlamarBlue(登録商標)試薬を添加することによって検出される。CDCのアッセイの評価は、試料と基準の両方の希釈系列について得られたシグモイド用量−応答曲線の比較に基づく。
【0104】
2. 結果
2.1 オスモル濃度の最適化
細胞の栄養要求性による供給組成物の最適化のために、CHO細胞によって生産されるモデル抗体のタンパク質グリコフォーム/ガラクトシル化に対する供給組成物のオスモル濃度の影響は、1L流加発酵実験において分析された。
【0105】
モデル抗体を発現するように遺伝子操作されたCHO細胞は、まず、基本培地(PowerCHO−2、ロンザ インコーポレイテッド社、米国所在)で成長した。(接種後の)3日目から2日毎に、15%の3×濃縮ExCell供給物(37g/L;SAFC)がショット−ワイズモードで培養物に添加された。
【0106】
テーブル1は、それぞれの実験中の培地補充を示す。
【0107】
【表2】
培養温度は37℃に維持された。pHは、0.5mol/LのNaC0またはHP0を添加することによってpH7.05からpH7.15の間の範囲で保持された。溶存酸素(DO)設定点は40%であった。関連代謝産物は毎日測定された。グルコースレベルは約20mmol/Lで維持された。細胞は、9〜10日間培養された。
【0108】
グリコシル化パターンは、培養の3日目(接種後)から発酵ブロスの試料から毎日分析された。品質分析のために、得られた抗体は、プロテインAを使用して、発酵ブロスからアフィニティー精製された。細胞生存率、力価およびオスモル濃度は、培養の接種後3日目から毎日評価された。
【0109】
得られた抗体の生物活性は、補体依存性細胞障害(CDC)アッセイを使用して決定された。
一定のpH、DO、撹拌速度および温度で代謝産物をモニタリングし、適切な栄養レベルを確認しながら、オスモル濃度は培養中に一貫して増加し、培養の後期に650mOsm/kgまで達したが、一方、生細胞密度は着実に減少した。
【0110】
テーブル2は、オスモル濃度の増加がグリコシル化パターンを有意に低下させた、流加バッチ実験からの試料のいくつかの結果を示すが、これは、400mOsm/kgよりも高いオスモル濃度がタンパク質グリコシル化にマイナスの影響を及ぼし得ることを意味する。培養物に塩が蓄積することにより、非ガラクトシル化形態(G0F)の量は増加しており、その一方でガラクトシル化形態の量は減少していた。同様に、CDCアッセイによるそれぞれの抗体試料の生物活性は、発酵ブロスのオスモル濃度の増加とともに減少していた。
【0111】
【表3】
3倍濃縮された塩含有ExCell供給物が細胞培養物の高オスモル濃度の一因となったので、本来のExCell供給組成物は、本来の培地と比べて66%少ないリン酸ナトリウムを含有するように変更された。
【0112】
流加発酵ランAおよびBからの培養10日後(接種後)の抗体グリコシル化パターンをテーブル3に示す。
【0113】
【表4】
400mOsm/kg未満のオスモル濃度は、流加発酵ランBで使用したカスタマイズされた塩非含有のExCell供給物によって、塩含有ExCell供給物を用いて実施された流加発酵ランAと比べて、抗体グリコシル化パターンにプラスの影響(例えば、非グリコシル化グリコフォームの減少、ガラクトシル化グリコフォームの増加、およびCDC活性の増加)を及ぼした。
【0114】
2.2 培養pHの変更と組み合わせたUMGの供給物補充によるガラクトシル化の最適化
マイクロスケールでベンチトップバイオリアクターの特性を模したハイスループットダウンスケール発酵プラットフォームである、TAPバイオシステムズ社(TAP Biosystems、英国所在)のAMBR(Advanced Microscale Bioreactor)システムを使用してUMG供給とpHシフト適用の様々な時点でのわずかなpHシフトとの後に、得られた抗体のガラクトシル化パターンが調査された。
【0115】
方法
モデル抗体を発現するように遺伝子操作されたCHO細胞は、基本培地(PowerCHO−2、ロンザ インコーポレイテッド社、米国所在)で9日間培養された。(接種後)3日目から1日おきに、実験B(実施例2.1、テーブル1、ただしプロリンを除く)に従って補充された15%(3×)SF ExCell供給物(37g/L;SAFC)が培養物にショット−ワイズモードで添加された。UMG補充物(3mmol/Lのウリジン、0.06mmol/Lの塩化マンガン(II)および15mmol/Lのガラクトース)は、培養の(接種後)5日目および7日目に、カスタマイズされたSF ExCell供給物と共に添加された。
【0116】
培養pHは、培養の(接種後)3日目まで、0.5mol/LのNaC0またはHPOを添加することによってpH7.15で保持された。pH7.00へのシフトは、接種後65〜78時間の間の様々な時点で、4.0〜7.0×10細胞/mLの間の生細胞密度で、HPOの添加により実施された。
【0117】
生産された抗体のガラクトシル化パターンは、粗精製タンパク質からキャピラリー電気泳動により分析された。
得られた抗体試料のガラクトシル化パターンに対する培養pHの効果がテーブル4に要約される。
【0118】
【表5】
培養(接種後)の3日目のpH7.15からpH7.00へのわずかなシフトは、培養中pH7.15が一定に保持されていた対照と比べて、抗体のグリコシル化に既に影響を及ぼしていた。非ガラクトシル化グリコフォーム(G0F)のパーセンテージを低下し得、ガラクトシル化グリコフォームG1F、G1’FおよびG2FのパーセンテージはこのpHシフト後に増加した。抗体ガラクトシル化に対するわずかなpHシフトのこのプラスの効果は、それぞれの試料においてNaClの培地補充物によって調整された場合、400mOsm/kgを超えるオスモル濃度で観察される可能性もある。それにもかかわらず、400mOsm/kgを超えるオスモル濃度では、それぞれの抗体のグリコシル化パターンが有意に低かった。
【0119】
テーブル5は、それぞれ(接種後の)培養の8日および9日目、ならびにpHシフトが適用された時点における、得られた抗体試料のG0F、G1F、G1’FおよびG2Fガラクトシル化のパーセント分布(percental distribution)を示す。
【0120】
【表6】
培養8日目のガラクトシル化パターンの分析は、pH7.15が発酵中一定に保持された対照試料と比べて、非グリコシル化グリコフォームG0Fのパーセント量の減少を示す。pHシフトおよびUMG供給の組み合わせは、得られた抗体のガラクトシル化グリコフォーム(G1F、G1’FおよびG2F)のパーセント量の増加をもたらした。
【0121】
テーブル6から分かるように、UMG単独の供給は、UMGを添加しない対照と比べて、(接種後)培養の7日目に抗体ガラクトシル化に対してプラスの影響を及ぼした。しかし、非ガラクトシル化グリコフォームのパーセント量の有意な減少、および得られた抗体のガラクトシル化グリコフォームのパーセント量の有意な増加は、両方の特徴(わずかなpHシフト+UMGの供給補充)が組み合わされた時のみ達成された。
【0122】
【表7】
まとめると、得られた抗体試料のグリコシル化パターンの分析は、pH7.15からpH7.00へのわずかなpHシフトと、培養の(接種後)5日目および7日目のUMGによる補充とを含んでなる改善された供給方策が抗体ガラクトシル化の増加をもたらすことを示した。