(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971244
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】進化した電池のための熱スイッチ機能付きナノ多孔質BNNT複合材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20211111BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20211111BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20211111BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/434
H01M50/446
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-540472(P2018-540472)
(86)(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公表番号】特表2019-509588(P2019-509588A)
(43)【公表日】2019年4月4日
(86)【国際出願番号】US2017016250
(87)【国際公開番号】WO2017136574
(87)【国際公開日】20170810
【審査請求日】2020年1月8日
(31)【優先権主張番号】62/290,182
(32)【優先日】2016年2月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/427,506
(32)【優先日】2016年11月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516318891
【氏名又は名称】ビイエヌエヌティ・エルエルシイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ダシャティンスキ,トーマス・ジイ
(72)【発明者】
【氏名】フヴァード,ゲイリー・エス
(72)【発明者】
【氏名】ホイットニー,アール・ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーダン,ケヴィン・シイ
(72)【発明者】
【氏名】ペドラゾリ,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,マイケル・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴンス,ジョナサン・シイ
【審査官】
藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−529933(JP,A)
【文献】
特開2009−256534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40 − 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンチャネルを提供する多孔質スキャフォールドと前記多孔質スキャフォールド上の熱応答性ポリマーコーティングとを備え、前記多孔質スキャフォールドは窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドを含む、イオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項2】
前記ポリマーコーティングは、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、エポキシ、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイソプレン、シリコーンエラストマー、ポリ乳酸、ポリエステル、セルロース、レーヨン及びポリイミドの少なくとも1種を含む、請求項1に記載のイオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項3】
前記窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドは、織BNNTマット、不織BNNTマット、BNNTシート、BNNTバッキーペーパー及びBNNT薄膜の少なくとも1種を含む、請求項1に記載のイオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項4】
前記ポリマーコーティングは、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、エポキシ、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイソプレン、シリコーンエラストマー、ポリ乳酸、ポリエステル、セルロース、レーヨン及びポリイミドの少なくとも1種を含む、請求項3に記載のイオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項5】
前記ポリマーコーティングは窒化ホウ素ナノチューブでドープされる、請求項3に記載のイオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項6】
前記ポリマーコーティングは、塩ナノ粒子レジストでドープされる、請求項3に記載のイオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項7】
前記ポリマーコーティングは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化イットリウム、シリケート、金属酸化物及びセラミック酸化物の少なくとも一種でドープされる、請求項3に記載のイオン電池熱応答性複合材セパレータ膜。
【請求項8】
アノードと、イオンチャネルを提供する多孔質スキャフォールド及び前記多孔質スキャフォールド上の熱応答性ポリマーコーティングを備え、前記多孔質スキャフォールドは窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドを含むイオン電池熱応答性複合材電極セパレータ膜と、カソードとを備えるイオン電池。
【請求項9】
前記窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドは、織BNNTマット、不織BNNTマット、BNNTシート、BNNTバッキーペーパー及びBNNT薄膜の少なくとも1種を含む、請求項8に記載のイオン電池。
【請求項10】
前記ポリマーコーティングは、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、エポキシ、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイソプレン、シリコーンエラストマー、ポリ乳酸、ポリエステル、セルロース、レーヨン及びポリイミドの少なくとも1種を含む、請求項9に記載のイオン電池。
【請求項11】
前記ポリマーコーティングは窒化ホウ素ナノチューブでドープされる、請求項9に記載のイオン電池。
【請求項12】
前記ポリマーコーティングは、塩ナノ粒子レジストでドープされる、請求項9に記載のイオン電池。
【請求項13】
前記ポリマーコーティングは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化イットリウム、シリケート、金属酸化物及びセラミック酸化物の少なくとも一種でドープされる、請求項9に記載のイオン電池。
【請求項14】
イオンチャネルを提供し、窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドを含む多孔質スキャフォールドと、前記多孔質スキャフォールド上の熱応答性ポリマーコーティングとを備える熱応答性複合材電極セパレータ膜をイオン電池内のアノードとカソードとの間に位置決めすることを含む、イオン電池における熱暴走を最小限に抑える方法。
【請求項15】
前記窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドは、織BNNTマット、不織BNNTマット、BNNTシート、BNNTバッキーペーパー及びBNNT薄膜の少なくとも1種を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールド上の前記ポリマーコーティングは、前記熱応答性複合材電極セパレータ膜の温度が上昇すると膨張して、コーティングを施した窒化ホウ素ナノチューブの平均細孔径を縮小させ、イオン電流を減少させる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマーコーティングは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化イットリウム、シリケート、金属酸化物及びセラミック酸化物の少なくとも一種でドープされる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリマーコーティングは、窒化ホウ素ナノチューブでドープされる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマーコーティングは、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、エポキシ、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイソプレン、シリコーンエラストマー、ポリ乳酸、ポリエステル、セルロース、レーヨン及びポリイミドの少なくとも1種を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2016年2月2日に出願の米国仮特許出願第62/290182号及び2016年11月29日に出願の米国仮特許出願第62/427506号の利益を主張するものである。これらの出願の内容は参照により本願に明示的に援用される。
【0002】
[政府からの助成に関する陳述]
なし
【0003】
本発明は、イオン流を立体的に阻害することで熱暴走を防止する可逆的且つ局所的な熱応答性スイッチ機構を生みだすための、多孔質スキャフォールド及びポリマーコーティング、例えばポリマー材料及び、実施形態によっては、化学修飾ドーパント用の支持体としての窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)ナノ多孔質スキャフォールドを備えるイオン電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0004】
より進化した電池に必要なレベルまで電荷密度を引き上げるため、電池テクノロジーにはさらなる発展が求められている。全てのタイプのイオンフロー電池はイオン基板分離膜を備える。概して、イオンフロー電池内のこの分離膜は典型的には多孔質の電界紡糸された又は押出成形されたオレフィンポリマー系シートであり、低kの誘電体膜である。オレフィン膜では、その高い多孔度及び非極性の静電位からカソード材料とアノード材料との間でのセル分極が可能である。誘電率による擬似容量、電極材料とセパレータとの間で分極及びセパレータ膜の分極もまた、研究中のエネルギー蓄積機構であることに留意されたい。しかしながら、これらの機構により電池系の放電率は不規則となる。また、オレフィン系のセパレータ膜は十分な構造的完全性を維持することで厚さ>15μmで短絡を防止し、極端なレドックスイオン電池環境での劣化に対する化学的安定性を得る。その化学組成によりカチオン及び電子は立体障害を受けることなく自由に流れ、電解質溶媒の濡れ性は十分なものとなってイオン移動度は上昇する。オレフィンセパレータの欠点は均質なナノスケール多孔性を欠くこと及び恒久的なシャットダウン機構であり、構造的完全性は、厚さ>15μmのフィルムにとって有益な不透過性マイクロスケールポリマー構造によりもたらされる。
【0005】
一部の電池セパレータ膜では、より高い溶融温度の材料に閉じ込めた低溶融温度バリアから成る3層膜不可逆的安全機構を取り入れている。しかしながら、単層膜複合材には、多層膜フィルムは剥離及び亀裂を起こしやすいことを含め、多層膜フィルムにはない利点がある。シャットダウン機能により、放電に起因する局所的な過熱中、閉じ込められた低溶融温度材料は固体の高温ラミネート膜内の細孔を塞ぐ。これが起きると、電池の作動領域において膜間イオン輸送が恒久的且つ立体的に阻害され、放電率は熱の発生を大幅に低下させるのに十分なだけ低下する。この不可逆的な安全機構により、高放電率イオン電池の寿命は制限される。例えば、幾つかの例では3層膜ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)及び単層膜PEを使用することで、PEの低い溶融温度を利用してモルホロジーを変化させてイオン流が流れないようにするPP:PE:PP又はPEセパレータ膜を形成する。PE及びPPの融点はそれぞれ135℃及び166℃であるが、160℃より高い融点を有するグレードのPEを選択する。シャットダウン安全機構がないと、電池は熱暴走を起こし、発火してしまう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、イオン電池用の熱応答性複合材電極セパレータ膜の実施形態について述べる。イオン電池用の熱応答性複合材電極セパレータ膜の実施形態は、イオンチャネルを提供する多孔質スキャフォールドと、閾値温度に達すると膨張して平均細孔径を縮小させることでイオン流を局所的に減少させ、局所温度を低下させることで電池の熱破壊を防止するポリマーコーティングとを含み得る。様々な材料(例えば、コーティング可能な構造の非導電性で化学的に安定な材料、例えば織又は不織マット、シート、バッキーペーパー、薄膜等)を使用してイオンチャネルを提供する多孔質スキャフォールドを構成し得るが、本明細書に記載の実施形態では概して窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)スキャフォールドを使用することでBNNT独特の性質を利用する。BNNTはイオンチャネルを提供する多孔質スキャフォールドとして使用するのに極めて適した材料であるが、これはBNNTが非導電性で化学的に安定であり、またコーティング可能な多様な構造体、例えば織又は不織マット、シート、バッキーペーパー、薄膜に形成し得るからである。複合材電極セパレータ膜はBNNTスキャフォールドとこのBNNTスキャフォールド上のポリマーコーティングとを有し得る。窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールドはポリマー材料、場合によってはポリマー材料内のセラミック又はガラス材料を支持して調節可能な多孔性(例えば、多孔質レベル及び細孔径分布)、組成、濡れ性、絶縁耐力、耐薬品性及び機械的強度を有する複合材セパレータ膜を構成する。BNNTポリマー複合材膜はイオン系電池の性能を最適にし、<5μmの調節可能な厚さを有するセパレータ膜を提供するが、厚さは実施形態によってはこれより厚くなり得る。セパレータ厚さがより薄くなり、多孔度がナノスケールへと移行することで、電池の電荷密度が改善される。ナノスケール構造により、熱応力下にあるイオン基板及び溶媒マトリックス近傍でのナノスケールでの可逆的且つ局所的な切り換えが可能となる。ナノスケール構造へと最小化することで、熱暴走点に近い温度では熱膨張により多孔度が可変的に低下し、温度が上昇するにつれてイオン流に対する立体障害が大きくなる。したがって、BNNT/ポリマー複合材膜は熱応答性の複合材スイッチ(TRCS)として機能する。言い換えると、BNNT含有電池セパレータは、セパレータ膜の細孔(イオンチャネル)を狭めて過酷な温度での電流を制限することでTRCSとして作動する。
【0007】
BNNT/ポリマー複合材TRCS膜の実施形態は向上した1つ以上の機能を特徴とし得る。薄い電池セパレータ膜においてBNNTスキャフォールドに結合したPEの熱安定性は、以下のレドックス安定性ドーパント:酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化イットリウム、シリケート、他の金属酸化物又はセラミック酸化物の1種以上を添加して熱暴走温度より低くポリマーの融点を上昇させて高温機能性を得ること、またイオン溶媒での濡れ性を向上させることで調節できる(例えば、本明細書で記載するように、それより上ではポリマーが膨張する特定の温度閾値を選択する)。特に、酸化アルミニウム(AlOx)でのドープによりイオン伝導性は改善され、セパレータの濡れ性は2倍上昇する。ポリマー材料にAlOxをドープすることで、ポリマーの融点を選択したイオン電池テクノロジーの熱暴走温度未満まで上昇させるドープ比でもって安全な温度を維持しつつも、電池内のセパレータ膜の乱用耐性は向上し、放電率は最大となる。同様に、BNNTでドープすることで、熱安定性及び機械的性質(弾性係数の上昇を含む)はポリ(メチルメタクリレート)電池セパレータにおいて向上し得て、BNNT/ポリマー複合材膜の実施形態はBNNTドープポリ(メチルメタクリレート)又は他のBNNTドープポリマーを含み得る。一部の実施形態において、ポリマーでコーティングしたBNNTスキャフォールド表面の細孔径及び全体としての多孔性は、犠牲塩ナノ粒子レジストの組み込み、延伸、他の機械的伸長工程により増大させ得て、またカレンダ加工、圧延、延伸等での緻密化により低下させ得る。実施形態における犠牲塩ナノ粒子レジストにより、特定の製造スキームにおいて望ましい電流制限及び機械的特性が得られ、有利である。
【0008】
ポリマーコーティングにBNNTナノフィラーを添加するとBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の機械的強度及び剛性が上昇し、また応用電池の製造レジームが容易となる。その結果、セパレータ膜の質量及び体積が低下し、強度、性能及び安全性は改善される。膜ポリマーにBNNTを添加すると熱伝導性は強化され、イオン基板に対して垂直な受動的冷却により熱暴走条件のリスクは低下する又はなくなる。
【0009】
当業者ならばポリマーコーティングの性質が特定の実施形態によって変化し得ることがわかるが、一部の実施形態において、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜実施形態においてBNNTスキャフォールドが支持しているポリマーコーティングは、好ましくは、以下の特性:熱膨張係数>20μm/m−K、作業温度>100℃、熱伝導性>0.20W/m−K、熱変形耐性>75℃及び融点>120℃を有する。これらの特性は、マトリックスの組成を最適化することで達成し得て、マトリックスは、例えば、ポリマー/BNNT、BNNT/ポリマー、BNNT/ポリマー/セラミック、BNNT/ポリマー/ガラス、BNNT/ポリマー/ガラス/セラミック、BNNT/ポリマー/金属酸化物等のマトリックスであり得る。電流が増加し、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜において局所加熱が起きると、BNNTスキャフォールド上のポリマーコーティングが膨張して細孔径は縮小する。結果的に多孔性は低下し、イオン流は減少し、局所イオン流が熱的に安定する。イオン電流は立体障害を受け、局所温度は電池の熱暴走温度に近づかない(すなわち、電池は過熱を起こさない)。イオン電流が減少し、ポリマーコーティングの温度が低下すると、ポリマーは損傷を受けることなく収縮し、それに伴って電池の可能出力となる電流量が回復し、比例積分微分(PID)制御器と同様に機能し、電池の放電安全性が最大となる。このタイプの可変電流制限スイッチ機構は、持続時間が短く、大電流が求められる電池に特に有用であり、サイクル安定性が劇的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】合成したままのBNNT材料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図2】ある実施形態における、(A)ポリマーをコーティングしたBNNT、また(B)加熱による、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜におけるポリマーの膨張を示す。
【
図3】アノード膜とカソード膜との間のBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の実施形態を示す。
【
図4】イオン電池内のBNNT/ポリマー複合材熱応答性電極セパレータ膜の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書では、イオン電池においてセパレータ膜として機能し得る、熱応答性複合材電極セパレータ膜とも称されるTRCS膜、例えばBNNT/ポリマー複合材TRCS膜のための、熱応答性ポリマーコーティングを備えた、イオンチャネルを提供する多孔質スキャフォールドの実施形態について説明する。概して、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜の実施形態はBNNTスキャフォールドとポリマーコーティングとを含む。BNNT/ポリマー複合材TRCS膜には多数の利点:調節可能な多孔性(多孔性レベル及び細孔径分布)、組成、濡れ性並びにより優れた電子的絶縁性、酸化/還元耐性及び機械的強度がある。結果として、イオン電池内でBNNT/ポリマー複合材TRCS膜を使用することでイオン電池の性能を最適化し得て、調節可能なセパレータ厚さは10マイクロメートル未満、実施形態によっては<5μmである。セパレータ厚さ約5μmでナノスケール多孔度へと移行することで、電池の電荷密度は有利に改善される。
【0012】
図1に示すような、TEMで必要とされるようなレース状の炭素サポートグリッド12上に堆積させた窒化ホウ素ナノチューブ11は、ポリマーコーティング材料及び任意のドーパント用のスキャフォールドとして利用し得て、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜を形成する。BNNT/ポリマー複合材TRCS膜のナノスケール構造により、ナノスケールでの可逆的且つ局所的な切り換えが、熱応力を受けた電池イオン基板近傍で起きる。BNNT/ポリマー複合材TRCS膜のこの可逆的且つ局所的なスイッチ能力はイオン電池テクノロジーでは新規な特徴であり、多数の有利な利点がある。ナノスケール構造であるため、あるイオン電池系にとっての熱暴走点に近い温度では熱膨張により多孔度が低下して、熱応答性複合材スイッチ(TRCS)として機能する。幾つかの実施形態において、好ましいスイッチ機能は、熱膨張係数>20μm/m−K、作動温度>100℃、熱伝導率>0.20W/m−K、熱変形耐性>75℃及び融点>120℃の時に起きる。しかしながら、当業者ならば、スイッチ機能に関する望ましいパラメータを特定の実施形態に応じて求めることができ、またこれらのパラメータはその特定の実施形態に応じて変化し得ることを理解されたい。
【0013】
多種多様な熱応答性ポリマーをTRCS膜の実施形態、例えばBNNT/ポリマー複合材TRCS膜で使用し得る。概して、熱応答性ポリマーは約20μm/mK〜約200μm/mKの範囲の線形熱膨張係数を有するが、特定の実施形態では200μm/mKを超える線形熱膨張係数のポリマーが適当な場合もある。所望の温度作動範囲及び平均細孔径は、特定の実施形態において、好ましい線形熱膨張係数に影響し得ることを理解されたい。加えて、一部の実施形態では、スイッチ温度閾値で又はその前後での線形熱膨張係数が高いポリマーが好ましい場合もある。実施形態によっては単一のポリマーを特徴とし得て、他の実施形態では複数のポリマーを特徴とし得る。ポリ−;セルロースアセテート、エチレン/プロピレンコポリマー、全てのアミド変種、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、カーボネート、エーテルエーテルケトン、エーテルスルホン、エポキシ、ポリウレタン、エチレン又はプロピレン(超高分子量、高分子量、低分子量、超低分子量(10炭素単位〜100個台の炭素単位の高分子量炭化水素により同定され、パラフィンワックスを含む)、エチレンテレフタレート、メチルメタクリレート、メチルペンテン、フェニレンオキシド、スチレン、スルホン、テトラフルオロエチレン、ビニルクロリド、フッ化ビニリデン、ゴム、シリコーンエラストマー、乳酸、エステル、セルロース及びレーヨンは、TRCS膜、例えばBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の実施形態で使用し得るポリマー例である。一部の実施形態において、ポリマーはドーパント及びポリマーブレンドを含み得る。
【0014】
図2は、(A)ある実施形態における、ポリマー20でコーティングしたBNNT21及び、(B)BNNT/ポリマー複合材TRCS膜における、加熱により膨張したポリマー22を示す。BNNT/ポリマー複合材TRCS膜にはイオンチャネル23が存在する。
図2に示すように、1種以上のポリマー20をBNNTスキャフォールド21上にコーティングし得る。ポリマーコーティング20が、電池セパレータを流れる過剰なイオン電流からの過剰な熱を感じると、ポリマーが膨張して膨張ポリマー22を形成し、複合材シートのイオンチャネル23直径及び関連する平均多孔度が制限される。その結果、イオン電流及び熱が可変的に局所的に阻害され、制御放電率が最大化される。
【0015】
ポリマー/BNNT複合材を含む多孔質窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)スキャフォールド21には、電気的に絶縁性で結晶化度が高く熱伝導性のBNNTにより与えられる前例のない機械的、受動的冷却及び耐薬品特性を有する。BNNTの高い熱伝導性により熱伝導性は強化され、BNNTの剛性により膜のヤング率は向上する。加えて、ポリマーコーティングの熱安定性は、AlOx及び一部の実施形態におけるバインダの添加によりさらに強化できる。ポリマーコーティングにAlOx、あるいは当該分野で公知のようなシリケート、セラミック又は金属酸化物をドープすることでもイオン伝導性は改善され、セパレータの濡れ性は上昇する。さらに、ドープにより電池におけるセパレータ膜の乱用耐性は向上し、安全温度を維持しながらも放電が最大化される。したがって、実施形態は、ポリマー/BNNT、BNNT/ポリマー、BNNT/ポリマー/セラミック、BNNT/ポリマー/ガラス、BNNT/ポリマー/ガラス/セラミック、BNNT/ポリマー/金属酸化物等のマトリックスを含み得て、セラミック、ガラス及び/又は金属酸化物がポリマーコーティングに埋め込まれる。
【0016】
図3は、イオン電池におけるBNNT/ポリマー複合材TRCS膜32の実施形態を示す。
図3に示すように、複合材膜又は電池セパレータ膜32は、イオン電池のアノード31膜とカソード33膜との間に位置決めし得る。
図3において、3つの膜(アノード31、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜32及びカソード33)は折り畳まれてよりコンパクトな系を形成している。一部の実施形態において、膜は、
図3に図示するように畳むのではなく螺旋形状に巻き得る。当業者ならばわかるように、イオン電池を形成する膜については複数の形状があり、本開示は特定の形状に限定されない。向上した熱伝導特性を有する電池セパレータ膜を有する利点は明らかである。電池の真ん中で発生した熱が端まで伝わり放出され、熱暴走状況になるのが防止されるからである。
【0017】
図4はイオン電池の一部の実施形態の断面図であり、
図3に示すI−Iで切り取ったものである。
図4に示す断面は、本明細書に記載の熱応答性複合材基板セパレータ膜を特徴とするイオン電池の例である。この電池は、アノード41、熱応答性BNNT/ポリマー複合材基板セパレータ膜46及びカソード43を有する。BNNT/ポリマー複合材電極セパレータ膜46は窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールド42を含み、窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールド45上にはポリマーコーティングが施されている。ポリマーコーティング45が施された窒化ホウ素ナノチューブスキャフォールド42全体にイオンチャネル44が存在している。BNNT/ポリマー複合材電極セパレータ膜46の局所温度がポリマーコーティングの融点に近づくと、ポリマーコーティングが膨張し、BNNT/ポリマー複合材電極セパレータ膜46の平均イオンチャネル44の直径及び関連する平均多孔度が低下する。ポリマーが膨張するとイオン電流及び熱の発生が局所的に減少する。局所温度が低下すると、ポリマーコーティングが収縮し、平均イオンチャネル44がそのより大きい値へと戻る。BNNTスキャフォールド42上のポリマーコーティングは、本明細書に記載されるように1種以上のポリマーから形成し得て、また所望の性能特性を達成するために1種以上のドーパントを含み得ることを理解されたい。
【0018】
当業者ならばわかるように、BNNTを含めたナノフィラーのポリマー複合材への組み込み、あるいはポリマーのBNNT膜及びマットへの同様の組み込みには複数の方法がある。様々な方法を用いて、進化した電池セパレータとしての応用に向けて、熱スイッチ機能を有するナノ多孔質BNNT複合材を製造し得る。以下、多数の方法について述べるが、新規なBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の実施形態の形成には他の方法もあることを理解されたい。
【0019】
概して、本明細書に記載の方法は、スキャフォールドがBNNT材料である実施形態に関し、したがってBNNT出発原料を必要とし、例えばBNNT,LLC(ニューポートニュース、バージニア州)から入手可能なBNNT材料である。いずれのBNNT材料もBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の実施形態用として考えられるが、一部のBNNT材料には追加の利点がある。最適な結晶化度、高いアスペクト比(ナノチューブ長さ/ナノチューブ直径)の壁が殆どないこと、低い不純物含有量、ホウ素、ボレート、金属及び酸化物で定義される高品質及び高純度のBNNTが当該分野で公知である。例えば、米国特許出願第14/529485号及び第15/305994号、国際特許出願PCT/US2016/023432及び米国仮特許出願第62/427506号には様々なBNNT材料が記載されており、参照により全て援用される。精製BNNT、特に>90%窒化ホウ素を有し、平均チューブ径が1.5〜6ナノメートルであり1〜10個の同軸ナノチューブから成るBNNTがBNNT/ポリマー複合材TRCS膜での使用によく適している。典型的には壁数が10個台、直径が10ナノメートル台、低レベルの結晶化度及びアスペクト比のより低品質のBNNT材料も使用し得る。しかしながら、BNNT合成法によっては、BNNT材料は望ましくない性質を有し得る。例えば、一部の低品質BNNT材料は、低品質BNNT材料を合成するための化学蒸着(CVD)法で用いるLi
2O又はMgO触媒を含むことに由来する金属不純物を有することが多い。低品質のBNNT材料では単位質量あたりの表面積が比較的狭く、チューブ状ではなく粒状になることが多く、通常、金属不純物を含有する。これらの理由から、低品質BNNTは最適なBNNT/ポリマー複合材TRCS膜にとって理想的ではない場合もあるが、当業者ならばそのような材料を、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜の候補として検討し得る。高品質BNNT、例えば特定の高温法で製造されたものは概して欠陥が殆どなく、触媒不純物がなく、壁数は1〜10で分布ピークは2壁であり、壁数が大きくなるほど急激に低下する。BNNT直径は典型的には1.5〜6nmであるが、この範囲は超過し得て、長さは典型的には数百ナノメートル〜数百マイクロメートルであり、ただしこの範囲は超過し得る。高温法で製造したままの高品質BNNT材料の場合、BNNTは典型的にはバルク材料の約50%を占め、またホウ素、非晶質窒化ホウ素(a−BN)及び六方晶窒化ホウ素(h−BN)の不純物を有し得る。製造したままのBNNT材料の場合のこれらの不純物は典型的にはサイズが10nm台又はそれより小さいが、この範囲は超過し得る。
【0020】
2016年11月29日に出願され参照により全て援用される米国仮特許出願第62/427506号に開示されるような精製方法を利用してホウ素並びにa−BN及びh−BNの一部の不純物を除去し得る。精製されたBNNTは、本明細書に記載のBNNT/ポリマー複合材TRCS膜を形成するための方法において初期BNNT材料として利用し得る。概して、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜の形成方法は、以下に限定するものではないが、当該分野で公知のように、なかでも例えば濾過法によりBNNTを溶液から取り出して堆積させる、BNNT溶液を表面に噴霧する、BNNT溶液を表面上で凍結乾燥させることを含む。本明細書で開示の例示的な方法により様々な構造的及び化学的性質となり得て、結果的に、特定の実施形態の要件に合わせてBNNT/ポリマー複合材TRCS膜を最適化するのに用い得る。BNNT/ポリマー複合材TRCS膜は厚さ約10μm、実施形態によっては5μm未満に調節し得て、特定の電池要件、例えば電池の膜全体に必要とされる電圧及び電流に左右される。セパレータに関するこれらの新規で前例のない厚さにより細孔径はナノスケール(<100nm)を超越したものとなり、それでいてイオン流動性を維持している。約10μm〜約25μmである現行の電池セパレータ膜の厚さを考えると、新規なBNNT/ポリマー複合材TRCS膜を既存のイオン電池テクノロジーに取り入れることで電池系の寿命は延び、受動的熱制御が改善される。以下の方法は、イオン電池用のBNNT/ポリマー熱応答性電極セパレータ膜の合成に使用し得る方法の例である。
【0021】
方法1:この方法の実施形態は、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜の形成に使用し得る。BNNT/ポリ−;セルロースアセテート、エチレン/プロピレンコポリマー、全てのアミド変種、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、カーボネート、エーテルエーテルケトン、エーテルスルホン、エポキシ、ポリウレタン、エチレン又はプロピレン(超高分子量、高分子量、低分子量、超低分子量(10炭素単位〜100個台の炭素単位の高分子量炭化水素により同定され、パラフィンワックスを含む))、エチレンテレフタレート、メチルメタクリレート、メチルペンテン、フェニレンオキシド、スチレン、スルホン、テトラフルオロエチレン、ビニルクロリド、フッ化ビニリデン、ゴム、シリコーンエラストマー、乳酸、エステル、セルロース、レーヨン及びポリアミド酸(プレポリアミド)TRCSフィルムは、BNNT材料、好ましくは精製BNNT材料を選択したポリマー又はコポリマーブレンドの溶解度に対応した有機又は水性溶媒に分散させることで形成し得る。均一に分散させるために軽い音波処理を用い得る。例えば、取引では「マルチナイロン」として知られるポリアミドコポリマーは、メタノール及びメタノールと水との混合物に20重量%まで容易に溶けるタイプのナイロンである。マルチナイロンはduPontからElvamideの商標で販売されており、幾種類かのマルチナイロンがShakespeareから販売されている。マルチナイロンの溶液は、ポリマーをメタノールに最高約20重量%まで混合し、約50〜60℃まで加熱することで調製し得る。コポリマー溶液は、この方法で約1〜2時間で調製し得る。溶解ポリマー溶液が得られたら、溶媒組成に基づいて、約20重量%まで水を添加し得る。水又はケトンの添加によりマルチナイロン溶液の貯蔵寿命が延び、ブレード及びスロットキャスティング時の表面スキニング作用を低下させることが知られている。別の例は、様々な密度のポリエチレンをキシレン、トルエン、トリクロロベンゼン、テトラリン又は他の高沸点炭化水素に溶解させることを含む。100℃を超える高温で溶解させると(PEの密度に応じて30分〜数日になり得る)、溶液は、同様の溶媒又は滑らかで均質な表面特性を得るためのキャスティング技法に好ましい溶媒中のBNNT分散液と混合できる。
【0022】
BNNTとナイロン及びBNNTとPEの溶液を合わせ、優しくしかし完全に混合し、注ぎ、スロットキャストし、スピンコートし、スプレーコートし、濾過し、抗付着性基板又は膜上に湿式紡糸又は電界紡糸し得る。ベテランの当業者ならば、幅広いフィルムキャスティングアプリケータの知識を有する。分散したBNNT溶液と溶解ポリマー溶液(一部の実施形態においては本明細書に記載のように1種以上のドーパントを含有する)との比を調節することで、膜の機械的な後処理に最適な多孔性を維持することができる。溶媒又は共溶媒を蒸発させることでマルチナイロン/BNNT又はPE/BNNT複合材膜から除去し得る。マルチナイロン及びPEの溶融温度はポリアミド、例えばナイロン6及びナイロン6,6のものよりはるかに低い。これらのポリマーは、例えばElvamide8063の158℃及びポリエチレンの品質に応じた105℃〜200℃の溶融温度と比較して、それぞれ溶融温度220℃及び265℃を有する。マルチナイロン及びPEの溶融温度は概して電池用途では許容範囲内であるが、より高い溶融温度のポリアミド又はPE/ポリアミドコポリマー又はドープをしたポリマー溶解物が必要になる場合もある。
【0023】
ナイロン6及びナイロン6,6複合材は、マルチナイロンに関して上述した方法と同様のやり方で調製できる。ナイロン溶液を調製するために、溶媒はメタノールからギ酸(98〜100%)に変更し得る。ギ酸は水とほぼ同じ沸点及び蒸気圧曲線を有する。したがって、複合膜は、キャスト後にギ酸をゆっくりと蒸発させることで得られる。あるいは、例えばメタノールを使用した溶媒変更法をキャストフィルム複合材に行うことで、フィルム作製に必要な時間を短縮できる。そのような溶媒変更技法は当該分野で周知である。多種多様なポリマー溶解物に鑑みて、ポリマーの官能化変化形、ポリマー/ポリマー、コポリマー/ドーパント及びポリマー/ドーパントブレンド又は溶媒ブレンドを使用してBNNTスキャフォールドを表面修飾し、BNNT/ポリマー複合材TRCS膜を作り出すことができる。
【0024】
ナイロンの溶融温度(ナイロン6及びナイロン66の場合はそれぞれ220℃及び265℃)及び熱膨張係数(90μm/mK及び95μm/mK)はナイロン6からナイロン6,6の組成に左右される。ポリマー強度を上昇させ、ポリマーの熱膨張係数がイオン流チャネルを狭めるのに効果的な程度まで多孔度を低下させるために、アニーリングによりナイロン、マルチナイロン又はポリエチレン等又はドープした変化形をBNNTサポートマトリックスに結合させることを最適化することができる。
【0025】
方法2:BNNTを約5〜約75%添加した粘性BNNT/ポリマー複合材マスターバッチのダイでの熱押出成形により、さらなる熱−機械的及び機械的工程に好ましいフォームファクターが得られる。この方法の実施形態はBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の形成に使用し得る。ポリプロピレン、メチレン化ポリアクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びナイロン等の熱可塑性樹脂の押出成形と続く圧縮成形により、約50μmの厚さを有するフィルムを製造できる。これらのフィルムをさらに加工することで所望の多孔度及び厚さを、所望の特性を得るためのカレンダ加工、サイジング延伸及びロールツーロール延伸及びこれらの組み合わせでもって得ることができる。マスターバッチは犠牲塩レジストも取り込み得て、製造したシートを溶媒に供することによる溶媒和作用により犠牲塩レジストは除去される。例えば、ナノスケールの塩化ナトリウムのマスターバッチへの組み込みは、薄いシートを作製するための熱機械的処理を通して寸法的に安定する。薄いシートを水に供すると塩化ナトリウムが溶け、浸透用のイオンチャネルが開く。別の例は、BNNT/ポリマーマスターバッチへのセルロースのナノウィスカー(直径3〜30nm)を含む。機械加工後、低濃度の水酸化ナトリウムを含有する塩基性溶液は、ポリマーに影響を及ぼすことなくセルロースを溶解させ、TRCSに最適な高いアスペクト比のチャネルが開く。
【0026】
方法3:超臨界流体の急速膨張(RESS)は、高多孔度のポリマー粒子の製造に用いられる技法であり、実施形態はBNNT/ポリマー複合材TRCS膜の製造に用い得る。RESS法は、BNNT/ポリマー/塩又はセルロースナノウィスカーレジストを共堆積させて、調節可能な厚さ及び組成を有する不透過膜を形成するのに用い得る。堆積基板からの剥離後、フィルムを水又はアルカリ溶液に浸漬させると、埋没したレジスト材料が除去されてナノ多孔性となり、イオンが移動できるようになる。塩及びセルロース除去の範囲を超えて多孔度を変化させたい場合は、方法2で記載したように、TRCS及びイオンチャネルとして最適に機能するようにフィルムを延伸する又はポリマーをカレンダ加工する。追加の実施形態は、ポリマーへのガラス又はセラミック、超臨界流体における犠牲レジスト及びBNNT等、電池系の表面化学を強化する1種以上のドーパントを含み得る。この方法で製造された膜をさらに機械加工することで所望の厚さ及び多孔度パラメータを獲得し得る。
【0027】
方法4:この方法の実施形態では、BNNT系製造経路を用いることでBNNT/ポリマー複合材TRCS膜を形成する。BNNT(及び好ましくは精製BNNT)不織マット(例えば、BNNTバッキーペーパー)は、分散系濾過堆積で製造し得る。分散は、多種多様な溶媒、例えば方法1、2又は3におけるようなメタノール、クロロホルム、水/メタノール共溶媒、イソプロパノール又は溶解ポリマー溶液を利用し、次に溶媒又はポリマー/溶媒を化学的、熱的、オゾン処理及び/又は高真空により除去することで達成できる。BNNTのファンデルワールス引力及び局所極性により、得られるBNNT不織マットは一体に保持され、構造的に安定する。BNNTの表面化学は、ラジカル安定性でキャプトデイティブな特性を2つの注目すべき状況で示している。1つ目は、BNNTの局所極性が水素化酸素及びプロペンラジカルをプロパンの多段階脱水素において安定化しながらのプロパンからプロペンへの変換工程、2つ目は、負に帯電したアミンラジカル(アミドゲン)をBNNT表面に吸着させる工程においてである。アミドゲン化は、NH
2ラジカルを使用して材料の表面を官能化する又は表面に吸着させる工程である。アミドゲン化及びラジカル重合手順は記載の通りに進む。負に帯電したNH
2ラジカルをBNNT不織マットに向かって直流電場により加速させながらの高周波アンモニアプラズマ又は他のアンモニアプラズマ(直流(DC)又はマイクロ波)において。BNNTのB−N繰り返し構造にキャプトデイティブな特性があるとすると、ラジカルアミン基は安定し、化学的に安定したチューブ壁に吸着される。アミドゲン化後、アミドゲンはBNNTフィルムに結合させる選択されたポリマー(高い熱膨張係数を有する)の重合を触媒/開始する。ポリマー鎖の伝播は別のアミドゲンとの接触により終了する。したがって、アミン基及びモノマーガスの濃度をアミドゲン化及びラジカル重合ステップにおいて調節する。BNNTがキャプトデイティブな特性を有することは知られているが、これらのラジカル安定基板をモノマーガス、特にはエチレン及びプロピレンの重合に利用することは新規である。気体の化学量論、濃度、マット密度及び機械的処理により調節可能であることで、最小の厚さでもって、高い機械的強度及び多孔性を備え、TRCS機構を有するフィルムが作り出される。さらに、ポリスチレン、PMMA及びポリ(ビニルアセテート)フリーラジカルは、アミドゲン化工程又は他のラジカルイオンのB−N表面への吸着によるBNNTスキャフォールド支持ポリマー材料の形成を伴う又は伴わない、BNNT不織マットへのポリマー材料の物理蒸着に置き換え得る。将来的な技術の発展に伴って、個々のBNNTファイバーの厚さが10μm未満の織BNNTマットは、ポリマーの気相での堆積(化学蒸着)にとって最適な基板又は支持体になり得る。
【0028】
代替の実施形態は、モノマー、ジアミン及び無水物をBNNTマットに堆積させるポリイミドの物理蒸着(PVD)を含み得る。高真空チャンバ(<10
-5torr)内で堆積を行うと、コモノマーからポリアミド酸への縮合重合が23℃より高い温度で起きるが、シート合成時間を短縮するために上昇させることができる。最初の重合後、マット内のBNNTにポリアミド酸を表面コーティングする。イミド化手順を利用することで堆積したポリマーをさらに強化し、ポリアミド酸からポリイミドへとアップグレードする。イミド化手順では、時間及び100〜200℃〜300℃の3つの温度設定点の温度並びに調節可能なイミド化度での物理蒸着ポリアミド酸のイミド化を可能にするそれらの温度前後の変数を制御するクロノサーモスタット工程を必要とする。
【0029】
方法5:オレフィンの重合工程では典型的には金属触媒を使用する。方法4のアミドゲン化ステップの必要性を回避するために、方法4の第1ステップからのBNNTフィルムを、オレフィンモノマーガスでもって、酸素の入ったキャリアガスと共に処理し得る。例えば、BNNTのキャプトデイティブな特性によりエチレンガスからのポリエチレンのラジカル開始が200〜500℃の高温での脱水酸素を経て起きる。BNNTは、オレフィン重合用の貴金属触媒向けの最適な支持体にもなり得る。キャップしていない貴金属でチューブを表面処理しバッキーペーパーを形成する溶液系の方法では作業表面積が増加し、重合温度で熱的に安定する。
【0030】
BNNT/ポリマー複合材TRCS膜を合成するための具体例について開示してきたが、他の方法を用いてもBNNT/ポリマー複合材TRCS膜を形成し得ることを理解されたい。また、ポリマー材料用の多孔質スキャフォールドの形成には他の材料も使用し得ることを理解されたい。そのような材料は非導電性で、コーティング可能な構造体、例えば織又は不織マット、シート、バッキーペーパー、薄膜等において化学的に安定でなくてはならない。スキャフォールドにより、本明細書において説明したように、アノードとカソードとの間をイオンが流れるためのイオンチャネルが設けられ、ポリマーコーティングの熱膨張により平均細孔径は減少し、イオン流及び温度が局所的に制限される。
【0031】
本明細書で用いる用語は特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本アプローチを限定するものではない。本明細書においては、文脈に明らかに反しない限り、単数形は複数形も含むものとする。さらに、当然のことながら、「含む(備える)(comprise及び/又はcomprising)」という語は、本明細書において、記載の構成、整数、ステップ、操作、要素及び/又は成分の存在を指定してはいるが、1つ以上の他の構成、整数、ステップ、操作、要素、成分及び/又はこれらの群の存在又は追加を排除してはいない。
【0032】
本明細書は、その趣旨又は本質となる特徴から逸脱することなく他の特定の形態でも具体化し得る。したがって、本実施形態は全ての点において説明のためのものにすぎず限定的ではないと解釈され、本発明の範囲はこれまでの説明ではなく本願の請求項により示され、したがって請求項の意味及び均等性の範囲に入る全ての変更も本発明に含まれるものとする。