【文献】
Kun Qian et al.,"Decimeter Level Passive Tracking with WiFi",HotWireless 2016: Proceedings of the 3rd Workshop on Hot Topics in Wireless,,2016年10月07日,pp.44-48,DOI: 10.1145/2980115.2980131
【文献】
Zhiping Jiang et al.,"Communicating Is Crowdsourcing: Wi-Fi Indoor Localization with CSI-based Speed Estimation",Journal of Computer Science and Technology,2014年,Vol.29,pp.589-604,https://www.researchgate.net/publication/251566856,DOI: 10.1007/s11390-014-1452-7
【文献】
Zan Li et al.,"Fine-grained Indoor Tracking by Fusing Inertial Sensor and Physical Layer Information in WLANs",2016 IEEE International Conference on Communications (ICC),2016年05月,DOI: 10.1109/ICC.2016.7511162
【文献】
Wei Wang et al.,"Understanding and Modeling of WiFi Signal Based Human Activity Recognition",MobiCom 2015: Proceedings of the 21st Annual International Conference on Mobile Computing and Networking,2015年09月,pp.65-76,DOI: 10.1145/2789168.2790093
【文献】
Yi Wang et al.,"Robust Indoor Human Activity Recognition Using Wireless Signals",Sensors,2015年07月,Vol.15, No.7,pp.17195-17208,DOI: 10.3390/s150717195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下の詳細な説明において、関連する教示の完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細が例として記載される。しかし、本教示はそのような詳細を用いずに実施されてもよいことが当業者には明らかである。他の例において、本教示の態様を不必要に曖昧にすることを避けるために、周知の方法、手順、構成要素及び/又は回路網は、詳細を用いずに相対的に高いレベルで説明されている。
【0073】
本教示は、マルチパスが多い環境における時間反転共振/フォーカシング効果により生じする特異的性質に基づいて移動物体のリアルタイムのロケーションを追跡できる物体追跡システムである時間反転屋内追跡システム(TRITS)を開示する。本教示は、多くの多重信号経路の合算により、時間反転フォーカシング効果のエネルギー分布が定常であるがロケーションに依存しない特性を示し、これを使用して一般的な実世界の屋内環境における移動する物体の速度を推定できるという新規の発見を開示する。次に、物体の移動速度の正確な推定に基づいて、本教示は、速度推定とIMUから取得できる移動方向の推定とを組み合わせることによる物体追跡システムを開示する。
【0074】
1つの例において、物体の移動をリアルタイムで追跡する方法が開示される。方法は、少なくともプロセッサと、プロセッサと通信可能に結合されたメモリとを含む機械上で実現されてもよい。方法は、物体の移動の前に物体の初期位置を取得することと、物体の移動の影響を受けたマルチパスチャネルから少なくとも1つの無線信号を取得することと、少なくとも1つの無線信号からマルチパスチャネルの時系列のチャネル状態情報(CSI)を抽出することと、時系列のCSIに基づいて物体の移動の距離を判定することと、物体の移動の方向を推定することと、距離、方向及び初期位置に基づいて、移動の後の物体の新しい位置を判定することとを含んでもよい。移動の間、物体は、少なくとも1つの無線信号を送信する送信機、少なくとも1つの無線信号を受信する受信機、並びに方向を推定するように構成されたセンサのうちの少なくとも1つを担持してもよい。
【0075】
一実施形態において、物体の移動の距離を判定することは、時系列のCSIの各々の位相オフセットを除去することと、各々が対応するCSI対の間の類似度を示す複数の計算された類似性スコアを取得するために、時系列のCSIのうちの連続するCSIの各対に基づいて類似性スコアを計算することと、複数の計算された類似性スコアに基づいて、物体の移動に関連する空間共振減衰度を示す平均類似性スコアを計算することと、推定距離を取得するために、平均類似性スコアと基準減衰曲線とを比較することとを含む。一実施形態において、物体の移動の距離を判定することは、時系列のCSIにおける最初のCSIと最後のCSIとに基づいて、追加の類似性スコアを計算することと、追加の類似性スコアと所定の閾値とを比較することと、追加の類似性スコアが所定の閾値を上回る場合、物体の移動の距離が0であると判定することと、追加の類似性スコアが所定の閾値を上回らない場合、物体の移動の距離が推定距離であると判定することとを更に含む。類似性スコアは、CSI対のTRRS、相互相関、自己相関、2つのベクトルの内積、類似性スコア、距離スコア、位相補正、タイミング補正、タイミング補償及び位相オフセット補償のうちの少なくとも1つに基づいて計算されてもよい。
【0076】
別の実施形態において、物体の移動の距離を判定することは、サンプリング周期に従って抽出された時系列のCSIの各々の位相オフセットを除去することと、各々が最新のCSIと対応する先行のCSIとの間の類似度を示す時系列の類似性スコアを取得するために、時系列のCSIにおける最新のCSIと時系列のCSIにおける先行のCSIの各々との間の類似性スコアを計算することと、時系列の類似性スコアに基づいて曲線を判定することと、曲線上の特徴点を識別することと、曲線上の特徴点に対応する期間を推定することと、期間中の移動の速度を推定することと、速度及びサンプリング周期に基づいて物体の移動の推定距離を取得することとを含む。物体の移動の距離を判定することは、時系列のCSIにおける最初のCSIと最後のCSIとに基づいて、追加の類似性スコアを計算することと、追加の類似性スコアと所定の閾値とを比較することと、追加の類似性スコアが所定の閾値を上回る場合、物体の移動の距離が0であると判定することと、追加の類似性スコアが所定の閾値を上回らない場合、物体の移動の距離が推定距離であると判定することとを更に含んでもよい。類似性スコアは、CSI対のTRRS、相互相関、自己相関、2つのベクトルの内積、類似性スコア、距離スコア、位相補正、タイミング補正、タイミング補償及び位相オフセット補償のうちの少なくとも1つに基づいて計算されてもよい。曲線上の特徴点は、曲線上の第1の局所ピーク、曲線上の1つ以上の他の局所ピーク、曲線上の第1の局所底部、曲線上の1つ以上の他の局所底部、並びに曲線上の局所ピーク又は局所底部と所定の関係を有する点のうちの少なくとも1つに基づいて識別されてもよい。1つの例において、曲線上の特徴点は曲線上の第1の局所ピークに基づいて識別され、第1の局所ピークに対応する期間は、第1の局所ピークに対応する類似性スコアと時系列の類似性スコアの中の2つの隣接する類似性スコアとに基づいて推定される。
【0077】
一実施形態において、物体の移動の方向を推定することは、第1のセンサから物体の重力方向を取得することと、第2のセンサから物体の回転情報を取得することと、重力方向及び回転情報に基づいて座標回転速度を判定することと、第2のセンサのセンサ読取り間隔を取得することと、座標回転速度及びセンサ読取り間隔に基づいて方向変化を計算することと、方向変化及び以前に推定された方向に基づいて移動の方向を推定することとを含む。第2のセンサから物体の回転情報を取得することは、ジャイロスコープから物体の角速度を取得することを含んでもよい。
【0078】
別の実施形態において、物体の移動の方向を推定することは、第1のロケーションから第2のロケーションまでの直線の第1の移動距離を取得することと、第2のロケーションから第3のロケーションまでの直線の第2の移動距離を取得することと、第1のロケーションから第3のロケーションまでの直線の第3の移動距離を取得することと、ここで、第1の移動距離、第2の移動距離及び第3の移動距離のうちの少なくとも1つは時系列のCSIに基づいて判定され、三角法に従って第1の移動距離、第2の移動距離及び第3の移動距離に基づいて物体の移動の方向を推定することとを含む。別の実施形態において、物体の移動の方向を推定することは、複数のアンテナにおける時間ウィンドウ内の空間共振強度の複数の平均減衰曲線を取得することと、複数の平均減衰曲線に基づいて少なくとも1つのパターンを判定することと、少なくとも1つのパターンに基づいて物体の移動の方向を推定することとを含む。
【0079】
種々の実施形態において、少なくとも1つの無線信号は、インターネット、インターネットプロトコルネットワーク及び別の多重アクセスネットワークのうちの少なくとも1つであるネットワークを介して受信機により受信され、受信機は、無線PAN、IEEE802.15.1(Bluetooth(登録商標))、無線LAN、IEEE802.11(Wi−Fi)、無線MAN、IEEE802.16(WiMax)、WiBro、HiperMAN、モバイルWAN、GSM(登録商標)、GPRS、EDGE、HSCSD、iDEN、D−AMPS、IS−95、PDC、CSD、PHS、WiDEN、CDMA2000、UMTS、3GSM、CDMA、TDMA、FDMA、W−CDMA、HSDPA、FOMA、1xEV−DO、IS−856、TD−SCDMA、GAN、UMA、HSUPA、LTE、2.5G、3G、3.5G、3.9G、4G、5G、6G、7G以上、別の無線システム及び別のモバイルシステムのうちの少なくとも1つの物理層に関連付けられる。
【0080】
別の実施形態において、エレベータのリアルタイムの位置を追跡する方法が開示される。方法は、少なくともプロセッサと、プロセッサと通信可能に結合されたメモリとを含む機械上で実現されてもよい。方法は、測定部がエレベータに対して固定位置を有するようにエレベータに結合された測定部からエレベータの加速度の未加工の推定値を表す第1の出力を取得することと、エレベータと同一のロケーションにおける重力の測定値を表す第2の出力を測定部から取得することと、第1の出力及び第2の出力に基づいて、現在の時間スロットにおける垂直方向のエレベータの加速度を計算することと、先行の時間スロットにおいて計算された垂直方向のエレベータの以前の速度を取得することと、加速度及び以前の速度に基づいて、エレベータが移動しているかを判定することとを含んでもよい。一実施形態において、方法は、読取りバイアスを推定するために、ある期間の測定部の読取り値を収集することと、読取り値の平均に基づいて読取りバイアスを計算することであって、読取りバイアスは、エレベータの加速度又は速度を計算する前に測定部の各出力から減算される、計算することとにより、測定部をキャリブレーションすることを更に含む。。
【0081】
一実施形態において、エレベータが移動しているかを判定することは、加速度と第1の閾値とを比較することと、以前の速度と第2の閾値とを比較することと、加速度が第1の閾値を上回るか又は以前の速度が第2の閾値を上回る場合に、エレベータは移動していると判定し、且つ、以前の速度と第3の閾値とを比較することと、加速度が第1の閾値を上回らず且つ以前の速度が第2の閾値を上回らない場合に、エレベータは移動していないと判定し、エレベータの速度を0に設定し且つエレベータの現在の位置を推定することとを含む。方法は、以前の速度が第3の閾値を上回る場合に、エレベータに異常な落下が生じていることを示す警報を生成することと、以前の速度が第3の閾値を上回らない場合に、以前の速度及び加速度に基づいてエレベータの更新された速度を生成し、更新された速度に基づいてエレベータの更新された移動距離を生成し、且つ、エレベータの以前に推定された位置に更新された移動距離を加算することによりエレベータの更新された位置を生成することとを更に含んでもよい。
【0082】
エレベータの現在の位置を推定することは、現在の位置の推定値を最も近い階の高さに丸めることと、当該丸めることに基づく丸め誤差を判定することと、丸め誤差と第4の閾値とを比較することと、丸め誤差が第4の閾値を上回る場合に、エレベータが異常位置で停止したことを示す報告を生成することと、丸め誤差が第4の閾値を上回らない場合に、加速度が第5の閾値より小さいかを判定し、加速度が第5の閾値より小さい場合、測定部の読取りバイアスの推定値を更新することとを含んでもよい。測定部は、慣性計測装置(IMU)、加速度計及びジャイロスコープのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0083】
異なる例において、会場における物体の動きを検出するシステムが開示される。システムは、少なくとも1つの無線信号を送信するように構成された送信機と、会場における物体の動きの影響を受けうる少なくとも1つの無線信号を受信するように構成された受信機と、プロセッサと、プロセッサと通信可能に結合されたメモリとを備えてもよい。プロセッサは、少なくとも1つの無線信号から1つ以上の時系列のCSIを抽出し、会場における物体の動きの度合いを表す統計値を、1つ以上の時系列のCSIに基づいて計算し、統計値に基づいて物体の動きが会場内に存在するかを判定するように構成される。一実施形態において、統計値は、1つ以上の時系列のCSIのうちのあるCSIの実数部、当該CSIの虚数部、当該CSIのCSI振幅、当該CSI振幅の二乗、当該CSI振幅の別の関数、及び1つ以上の時系列のCSIの関数から導出されたサンプル自己相関係数、のうちの少なくとも1つに基づいて計算されてもよい。
【0084】
一実施形態において、少なくとも1つの無線信号は複数のサブキャリアを含み、統計値を計算することは、複数のサブキャリアの各々に対する時系列のCSIを計算することと、複数のサブ統計値を生成するために各時系列のCSIに基づいてサブ統計値を計算することと、複数のサブ統計値に基づいて統計値を計算することとを含む。物体の動きが会場内に存在するかは、複数のサブ統計値からの、物体の動きが存在するかに関する全ての決定を統合するための多数決と、複数のサブ統計値の統計的組み合わせと閾値との比較との少なくとも一方に基づいて判定されてもよい。
【0085】
異なる例において、エレベータの扉の状態を追跡するシステムが開示される。システムは、少なくとも1つの無線信号を送信するように構成された送信機と、扉の状態の影響を受けうる少なくとも1つの無線信号を受信するように構成された受信機と、プロセッサと、プロセッサと通信可能に結合されたメモリとを備え、送信機及び受信機の少なくとも一方はエレベータ内に位置付けられる。プロセッサは、少なくとも1つの無線信号に基づいて時系列の信号測定値を取得し、各々が対応する時間スロットに関連する複数のフィルタリング済み測定値を生成するために、外れ値及びノイズのある測定値を軽減することにより時系列の信号測定値をフィルタリングし、時間スロットに関連するフィルタリング済み測定値及び閾値に基づいて、各時間スロットにおいてエレベータの扉が閉じているか又は開いているかを判定するように構成される。一実施形態において、プロセッサは、扉が開いていることがわかっている際に受信された第1の複数の無線信号に基づいて、第1の時系列の信号測定値を取得し、扉が閉まっていることがわかっている際に受信された第2の複数の無線信号に基づいて、第2の時系列の信号測定値を取得し、扉の状態が変化する間の第1の時系列の信号測定値及び第2の時系列の信号測定値における変化パターンを判定し、変化パターンに基づいて上記閾値を計算するように更に構成される。プロセッサは、変化パターンを判定する際に実行される勾配推定及びピーク検出の少なくとも一方に基づいて上記閾値を更新するように更に構成されてもよい。例えば、時系列の信号測定値の各々は、少なくとも1つの無線信号の受信信号電力の関数に基づいてもよく、当該関数は、受信信号強度インジケータ(RSSI)、受信チャネル電力インジケータ(RCPI)、参照信号受信電力(RSRP)、参照信号受信品質(RSRQ)、信号対雑音比(SNR)及び信号対干渉雑音比(SINR)のうちの少なくとも1つに基づいて判定可能である。
【0086】
システムの2つの例示的な図を
図1A及び
図1Bに示し、システムのフローチャートを
図1Cに示す。
図1Aにおいて、会場102内で移動する物体/人間は、例えば送受信機A104及び送受信機B106である他の送受信機にチャネルサウンディング信号を継続的に送出する送受信機C103を担持する。送受信機A104及び送受信機B106は、チャネル状態情報(CSI)を推定でき、物体/人間の速度/移動距離を計算できる。送受信機C103は、角速度を推定する他のセンサ(例えば、慣性計測装置(IMU))を搭載できる。角速度を積分することにより、物体/人間の移動方向における角変化又は変化を推定できる。
図1Bにおいて、物体/人間は移動方向を推定するためのセンサ105のみを担持する。送受信機A104と送受信機B106との間の無線チャネルは物体/人間の移動の影響を受けるため、影響を受けた無線チャネルのCSI推定値に基づいて、物体/人間の速度/移動距離を推定することもできる。初期開始点が既知であると仮定した場合、距離推定値110及び方向推定値114を統合する(118)ことにより(又は場合によっては、見取り図/経路に関する情報116を更に組み合わせることにより)、移動する物体/人間のリアルタイムのロケーションを取得できる。いくつかの実験結果は、物体が移動している会場の見取り図に関する情報を組み込んだ場合、物体追跡システムの精度が1メートル以内を達成できることを示した。尚、本教示は、無線周波数(RF)信号の多いマルチパス伝搬が存在する場合、屋外環境で移動する物体の追跡に対しても同様に機能できる。
【0087】
一実施形態において、一般的な屋内環境に設置された送信機/受信機対を考慮する。送信機は、ほぼ均一な送信間隔で無線信号を継続的に送信し、受信機は対応するチャネル状態情報(CSI)を推定する。送信機の開始点(又は初期ロケーション、初期位置)を与えられた場合、開示されるTRITSの目的は、送信機のロケーションをリアルタイムで追跡することである。TRITSは、屋内における移動する物体の追跡に限定されず、屋内又は大都市圏等の散乱が多い環境に存在する十分なマルチパス成分(MPC)を分解するのに十分な広さを有する帯域幅でシステムが動作する限り、良好に機能できる。一実施形態において、開示されるシステムは、物体追跡システムを表すためにTRITSを使用できる。しかし、これはシステムが屋内のみで機能できることを意味しない。
【0088】
以下の説明において、例えば、開示されるシステムは、市販のWi−Fiプラットフォーム上でTRITSを動作でき、例えば送信機のロケーションを追跡できる。TRITSは、送信機をローカライズするために自律航法の考え方を利用する。すなわち、TRITSは、以前に判定された位置を使用して送信機の現在の位置を計算する。数学的に、これを以下のように表現できる。
x(t)=x(t−1)+Δ(t) (1)
式中、x(t)は時間tにおける送信機のロケーションを示し、Δ(t)はd(t)1(t)で表すことができる。d(t)=|Δ(t)|であり、1(t)はΔ(t)の方向を指す単位ベクトルである。従って、TRITSは、各時間スロットに対する
である2つの主要なモジュールを含む。TRITSの主要な新しい発想は、送信機の移動距離を推定するために時間反転空間共振現象を利用することである。
【0089】
本教示は、2つの移動距離推定方法及び2つの移動方向推定方法を開示する。その後、式(1)を使用して、移動する物体のロケーションをリアルタイムで追跡できる。距離推定モジュール及び方向推定モジュールを以下に説明する。
【0090】
TR共振の統計的挙動に基づく距離推定
移動距離推定の第1の方法は、時間反転共振強度(TRRS)の統計的挙動に基づく。TRRSは、後で定義されるが、2つのCSI間の類似性スコアであるとみることができる。1つの特定のロケーションにおいて収集された1つのCSIと周囲のロケーションにおいて収集されたCSIとの間のTRRS値は特定の統計的パターンを示し、すなわち、距離とTRRS値との間のマッピングが存在することがわかる。
【0091】
一実施形態において、散乱が多い環境において各々が単一の全方向性アンテナを搭載した無線送信機及び無線受信機を考慮する。送信点Tから受信点Rへのチャネルインパルス応答(CIR)は h(τ;T→R) と表される。Tは送信機の座標を示し、Rは受信機の座標を示し、τは測定されたCIRのマルチパス成分の遅延を表す。散乱が多い定常屋内環境について考え、すなわち、全てのCIRは時不変信号であると考えられる。従って、CIRは、送信機座標が固定された場合の受信機座標により判定される。TR通信システムにおいて、受信機(
図2の送受信機B202)が最初にデルタパイロットインパルス206を送信し、Tにおける送信機(送受信機A204)はR
0からTへのCIR(208)をキャプチャする。デルタパイロットインパルスを使用することは一例にすぎず、内容の全体が本明細書で援用される2016年2月11日出願の米国特許出願第15/041,677号「Handshaking Protocol for Time-Reversal System」及び2016年10月3日出願の米国特許出願第15/284,496号「Time-Reversal Communication Systems」に開示される方法を使用して、擬似ランダム系列又は一連のパルス等の他の種類のチャネルプロービング信号を使用することもできる。その後、Tにおける送信機(送受信機A204)は、
図2に示すように、キャプチャしたCIRの反転共役バージョン210を単純に送り返し、何らかの受信点R(送受信機B202)における受信信号212は以下のように表すことができる。
式中、★は畳み込み演算を示し、上付き文字
*は複素共役を示す。以下の説明において、R
0を焦点と呼ぶ。チャネル相互性が成立すると仮定した場合、すなわち順方向チャネル及び逆方向チャネルが同一であると仮定した場合、開示されるシステムは h(τ;T→R)=h(τ;R→T) を有することができ、これは既に実験的に実証されている。
【0092】
s(τ;R)を時空間の観点から調べることにより、TR共振効果の特徴を調べることができる。実際は、無線送受信機のサンプリング周波数は固定され、CIRの分解能は制限される。Bで示す広い帯域幅は、CIRプロファイルの分解能を向上し、それにより、h(τ;T→R)の成分の数が増加する。無線通信におけるサンプリング処理により、開示されるシステムはh(τ;T→R)をh(τ;T→R)に離散化できる。この場合、k∈{0,1,...,L−1}であり、LはBの帯域幅を与えられた場合のタップの最大数である。送信機座標が固定されると仮定した場合、s(τ;R)を以下のように書き換えることができる。
【0093】
TR共振効果は、特定の時間k=0に特定のロケーションR
0で発生し、この場合、全てのマルチパス成分がコヒーレントに加算される。k≠0の場合、タップはインコヒーレントに加算され、従って、受信信号の大きさははるかに小さい。その結果、受信信号のエネルギーは、k=0(時間的フォーカシング)及びR
0(空間的フォーカシング)の周辺に非常に集中し、これをTRフォーカシング/共振効果と呼ぶ。
図5に示すような一般的な屋内環境において取得されたCIR測定値を使用して、
図3は焦点周辺の空間TRRS分布を示し、
図4は焦点の時間正規化受信信号分布を示す。正規化受信エネルギーは時間領域及び空間領域の双方においてフォーカシングしたことがわかる。
【0094】
h(k;R
0)の反転共役バージョンが送信された場合、焦点R
0におけるCIRと別の点RにおけるCIRとの間のTR共振強度(TRRS)をRにおける受信信号のエネルギーの正規化バージョンと定義できる。
【0095】
焦点を始点として焦点の外側に向かう直線に沿うTRRS分布/減衰パターンは方向に依存しないことが
図3からわかる。実際、TR空間共振効果に関連する非常に興味深い現象は、焦点からの距離が短い限り、異なる焦点周辺の空間共振減衰パターンの変動は非常に小さい傾向があることである。この物理現象を「TR空間硬化効果」と呼ぶことができる。
【0096】
「TR空間硬化効果」を実証するために、「プロトタイプI」及び「プロトタイプII」である2つのTRプロトタイプを使用できる。プロトタイプIは、125MHzの帯域幅を有する5GHz ISM帯域で動作する特別に設計されたハードウェア上で実現される。マルチパス成分の最大数をL=30に設定でき、これは通常の屋内環境において総チャネルエネルギーの大部分をキャプチャするのに十分である。プロトタイプIIの場合、複数のアンテナを搭載したWi−Fi装置からチャネル周波数応答(CFR)を取得できる。各送信アンテナ/受信アンテナ対に対して、CFRは、802.11nを使用する40MHzの帯域幅において、128個のサブキャリアのうちの114個の使用可能なサブキャリア上で報告される。CFRは、離散フーリエ変換によりCIRに変換可能である。各プロトタイプに対して、受信機は、
図5に示すように5mmの測定分解能を有するチャネルプロービングテーブル502上に設置される。
【0097】
図3及び
図4に示すように、TR共振効果は時間的及び空間的に発生する。取得された空間共振減衰関数は、焦点から離れる全方向に沿ってほぼ均一に減少している。当該現象が広範囲にわたり同様に均一であり且つ異なる焦点周辺の空間共振減衰パターンが同様の減衰率を有する場合、空間共振強度における減衰を距離のメトリックとして使用することができ、2つのCIR間の時間差が固定される場合、これを速度推定に更に使用することができる。次に、特定の領域内のTR共振効果の定常性を調べることができる。
【0098】
以下の説明において、ロケーションRにおけるCIRを示すためにh(R)を使用できる。プロトタイプIを使用して、設計されたチャネルプロービングテーブル上の55個の異なるロケーションのCIRを測定できる。いずれか2つのロケーション間の距離は20cmを上回る。ロケーション毎に、当該ロケーションを始点とする10cmの線に沿う20個の等間隔のサブロケーションから0.5cmの測定分解能でCIRを測定できる。本実験では、全部で1100個のCIRを取得できる。ここで、CIRをHで示されるランダムベクトルとして処理でき、従って、h(R)をロケーションRにおけるHの現実値として処理できる。(H, H
d)が互いに距離d離間したCIRランダムベクトルの対を示すとし、ロケーション(R, R+Δ)における(H, H
d)の現実値を|Δ|=dとする(h(R), h(R+Δ))で示すことができるとする。|Δ|が十分大きい場合、タプルに含まれる2つの成分は、独立同分布(i.i.d)の2つの複素ランダムベクトルとしてモデル化される。最初に、Hの各タップの統計的特徴を調べることができる。その場合、H(l)はランダムベクトルHのl番目のタップを示す。Re(・)及びIm(・)がそれぞれ複素数の実数部及び虚数部を示すとする。その場合、互いに少なくとも5cm離間する点からのCIRを選択でき、各H(l)の実数部と虚数部との間のサンプル相関係数を計算できる。Hのいくつかの成分の経験的累積分布関数(CDF)を実数部と虚数部とを別個にして
図6に示す。∀l=0,1,...,L−1であるRe(H(l))及びIm(H(l))にコルモゴロフ−スミルノフテスト(K−Sテスト)を適用することもできる。全てのK−Sテストは、5%の有意水準の帰無仮説を棄却できない。この場合、帰無仮説は、∀l=0,1,...,L−1であるRe(H(l))及びIm(H(l))の双方の分布が正常であるということである。従って、H(l)、∀lの実数部及び虚数部はi.i.dガウスランダム変数であると仮定できる。更に、H(l)の分散は、ある一定の割合αでタップインデックスlと共に指数関数的に減衰する。第1のタップの分散に関して分散を正規化できる場合、各タップの線形フィッティングされた正規化分散をα=0.1952とするdBスケールで
図7に示す。尚、この指数関数的減衰現象は、UWBチャネルにおいて取得された従来の結果と一致する。
【0099】
次に、
図8に示すように、サンプル相関係数のメトリックを使用してHにおける異なるタップ間の関係を調べることができる。結果は、∀l≠kの場合にH(l)及びH(k)が統計的にほぼ無相関であることを示す。H(l)及びH(k)(l≠k)の双方がガウスランダム変数であるため、それらを独立ランダム変数として処理できる。時間共振減衰関数を
と定義する。TR送信方式が適用される場合、Hにおける異なるタップ間の独立性を仮定し且つ上記の仮定に基づいて、TR時間共振減衰g(・)の期待値を取得することにより理論的平均TR時間共振減衰関数
を計算できる。以下の説明において、g(k)の分子の期待値及び分母の期待値を別個に取得することにより、
を近似できる。H(l)が∀l=0, 1, ..., L−1である複素ガウスランダム変数であり且つH(l)及びH(k)がk=1, ..., L−1とする∀l≠kの場合に依存しないという仮定において、以下の式を得ることができる。
【0100】
理論的時間共振減衰関数と測定された時間共振減衰関数との比較を
図4に示す。全体的に、理論的結果は、特にkが0に近い場合に経験的データと非常にマッチする。時間共振減衰曲線の平均が|k|において厳密な単調減少関数であり、|k|が小さい場合に減衰勾配は非常に急であることがわかる。
【0101】
空間共振減衰関数の場合、これは、距離dを有する2つのCIR間の相関をキャプチャする相関関数
の二乗の大きさの線形関数にすぎない。上記の仮定を用いる場合、TRRS空間減衰関数f(d)の平均を以下のように導出できる。
【0102】
2つのCIRに対応するロケーションが非常に遠く且つCIRの長さが非常に長い場合、平均空間共振減衰関数
は(1−e
-α)/2に収束し、これは、システムが散乱の多い環境に設置され且つ十分広い帯域幅を有する場合に平均空間共振減衰関数の限界がαにより判定されることを示す。大きいαを用いると、実験設定における3cm等、2つの点が互いに十分に離間する場合に
は0に近づく。これらの条件において、時間反転送信技術は受信電力に関して2つの受信点を完全に分離できる。
【0103】
実験において、最初の3個のタップを廃棄できるため相関係数に対する仮定が成立し、相関係数
の大きさは全てのタップにわたり平均することにより取得される。測定値から取得されたTR空間共振減衰関数の結果を
図9に示す。2つの曲線は短距離d<1cmの場合に類似した形状を有し、結合ガウス近似モデルは測定されたものと非常に良好に一致する。このことは、空間共振効果に関する本教示のチャネルモデルの正当性も正当化する。
【0104】
次に、特定の領域にわたる空間共振減衰関数の定常性を検証できる。平均減衰関数からの減衰関数の現実値の偏差を定量化するために、空間減衰偏差メトリックを以下のように定義できる。
これは、各現実値と平均空間共振減衰関数との間の正規化された偏差を測定する。全部で55個の異なるロケーションを測定でき且つロケーション毎に空間減衰関数の単一の現実値を取得できるため、空間減衰変動メトリックをそれに応じて計算でき、D=2cmの場合の結果を
図10に示す。種々のDに対して、
図11に示す空間減衰偏差メトリックを計算できる。
【0105】
図11からわかるように、空間共振減衰関数の現実値の90%を超えるものが0.02より小さい偏差を有する。距離が5mmである場合、現実値の90%を超えるものが0.6%の変動レベル以内である。このことは、定義された空間共振減衰関数を特定の領域にわたる定常特徴として処理できることを示す。屋内環境はモデル化が非常に複雑であるが、多数の法則の結果であろう決定論的な挙動を空間共振減衰関数が示すことは非常に興味深い。TR送信方式により環境内に存在する多くのマルチパス成分を取得できるため、空間減衰関数を全てのランダムな要因の平均として処理できる。
【0106】
上記の結合ガウス近似モデルにおいて、2つのCIRのl番目のタップH(l)及びH
d(l)は距離dが小さい場合に非常に相関し、焦点hにおけるCIRを以下のように与えられた受信信号の理論的分散を以下のように導出できる。
焦点に非常に近接する点の場合、相関係数の大きさが1に近いため、受信信号の分散は小さい。従って、結合ガウス近似モデルにおいて、TR送信方式は焦点付近の受信信号の利得を硬化し、これをTR空間硬化効果と呼ぶことができる。
【0107】
TR空間硬化効果から、受信信号の利得又はTR空間共振減衰関数は、特に焦点からの距離dが小さい場合に非常に安定する。従って、焦点近傍の分散が小さいため、空間共振減衰の減少を距離dに少ない誤差で変換できる。送信間隔が均一でΔtが既知である場合、線形補間を使用して速度を推定できる。
図11の結果から、チャネルプロービング率が十分に高いためd=5mm以内の空間減衰を測定できる場合、非常に正確に速度を推定できることがわかる。例えばチャネルプロービング率が100Hzであり、すなわち1秒以内に100個のCIRが取得される場合であって、歩行速度が1.2m/秒である場合、2つの隣接するCIR間の距離dは1.2m/100=1.2cmであり、それに従って推定誤差の分散を予測できる。一方、一般的なLTEシステムではチャネルプロービング率は約250Hzであり、その場合、歩行速度1.2m/sに対してd=4.8mmであると変換され、高精度を期待できる。空間共振減衰関数の偏差に対処するために、チャネルプロービング率が十分に高くない場合は特に、当該効果を平均するために更に多くのCIRサンプルが必要だろう。更に、送信機が移動しない場合は空間共振減衰が小さいため、期間内のTRRSの減衰に基づいて、物体が移動しているか否かを検出する必要があるだろう。アルゴリズム1は、移動距離推定のための第1の方法を要約する。
【0108】
アルゴリズム1において、隣接するCSI間のTRRS減衰の平均がCSIバッファ内で推定され、距離に対する事前に計算されたTRRS減衰曲線を参照することにより移動距離の推定値を取得できる。特に、移動距離を推定するために、式(9)に示した線形補間を使用できる。
【0109】
最後に、新しく受信したCSIとバッファ内の最先のCSIとの間のTRRSが計算され、物体が移動しているか否かがチェックされる。非常に大きいTRRS値は、2つのCSIが非常に類似し、CSIバッファの期間内での物体の移動距離が非常に短いため、物体が移動していないものとして処理できることを示す。経験的測定値によると、TRRSが0.9より大きい場合、距離は5mm以内である可能性がある。CSIバッファの期間が0.2秒である場合、速度は0.025m/sと遅く、これはCSI測定値のノイズによる可能性があり、実際のアプリケーションでは無視するべきである。
【0110】
以下の説明において、距離推定の性能を評価できる。TR送信機及びTR受信機を一般的なオフィス環境における見通し外シナリオに設置できる。人間は送信機を担持し、2m、4m、6m、8m、10m及び12mである既知の距離を移動する。特定の既知の距離の各々に対して、実験が異なる経路で20回繰り返される。歩行速度は一定である必要がない。本教示のプロトタイプのチャネルプロービング率は100Hzに設定され、平均化ウィンドウのサイズはN=60である。結果を
図12に示す。図中、小さい円は推定距離値を表す。
【0111】
推定は全体的に非常に正確である。ある程度の分散及びバイアスが推定に存在する。誤差の分散は、特にチャネルプロービング率が十分に高くない場合又は歩行速度が速い場合に空間共振減衰関数の分散に由来する。ウィンドウのサイズが非常に大きい場合、平均化をより良好に行うことができるが、速度がウィンドウ期間中に一定である必要があり、これは実際の状況に当てはまらない。更に、ウィンドウのサイズが大きいと、現在の速度推定が遅延する可能性もある。従って、最適なウィンドウ長の選択は異なるアプリケーションのシナリオに依存する。
【0112】
速度推定アルゴリズムに必要なのはCIRのみであり、時間反転共振効果が実際に物理的に発生するわけではないため、TRベースの物体追跡は、送信機と受信機との間の正確なCIRを取得できる限り、他のプラットフォームにも適用できる。例えば3×3MIMO構成を有する802.11n Wi−Fiを用いるプロトタイプIIを使用する場合、各リンクからチャネル周波数応答(CFR)を取得できる。全体が明細書で援用される2016年12月9日出願の国際出願第PCT/US2016/066015号「Method, Apparatus, and Systems for Wireless Event Detection and Monitoring」及び2017年1月31日出願の国際出願第PCT/US2017/015909号「Methods, Devices, Servers, Apparatus, and Systems for Wireless Internet of Things Applications」に開示される方法を使用して、シンボルタイミングオフセット、搬送波周波数オフセット及びサンプリング周波数オフセット等を補償するために未加工のCFRをサニタイズできる。その後、CFRに離散時間フーリエ変換(DTFT)を実行することにより、対応するCIRを導出できる。h
i(R)がロケーションRにおけるi番目のリンクのCIRを示すとする。全部でD個の使用可能なリンクがある場合、焦点R
0と焦点近傍の点Rとの間の空間共振減衰関数は、以下のように同様に定義される。
式中、s
i(0;R)は、送信信号がh
i(R)の時間反転共役バージョンである場合の時間スロット0及びロケーションRにおけるリンクiから受信信号を表す。各リンクは自身のRFチェーンを有し且つ異なる初期RF発振器位相オフセットを有するため、異なるリンクからの受信信号を直接加算することはできない。従って、受信信号を加算する前に受信信号の絶対値を取得し、f(R
0;R
0)=1になるように当該総和を正規化できる。
【0113】
空間共振減衰関数は、システム帯域幅の影響を受ける。以下の説明において、種々の帯域幅の空間共振減衰関数を調べることができる。使用可能なサブキャリアからの全てのCFRを使用できる場合、以下のように計算される実効帯域幅Bを達成できる。
式中、Dは使用されるリンクの数であり、N
uは各リンクに対するN個のサブキャリアのうち使用可能なサブキャリアの数であり、Wは各リンクの帯域幅である。プロトタイプIIにおいて、各リンクの帯域幅はW=40MHzに設定され、各リンクの実効帯域幅は114/128*40=35.625MHzである。TR空間共振減衰関数を計算する際に異なる数のリンクを選択できるため、異なるロケーションに対するf(d)を測定でき、
図13に示すように、種々の実効帯域幅に対するf(d)の平均を計算できる。結果からわかるように、実効帯域幅が107MHzより広い場合、TR共振減衰関数の平均は互いに重なり合う。注目すべき点は、式(11)における組み合わせ方式により
は大きい距離dの場合に0.33に収束するが、プロトタイプIでは
は0.22に収束することである。
【0114】
は広い実効帯域幅の場合に同一値に収束するが、f(d)の分散は実効帯域幅が広い場合に小さく、このことは以下のように検証される。10cm×10cmの寸法を有する正方形領域のCFRを測定でき、各ロケーションに対してCFRの1つの現実値を測定できる。測定の分解能は5mmであり、すなわち、2つの隣接する点の間の最小距離は5mmである。最初に、x軸座標及びy軸座標が等しい点として焦点を選択できる。次に、各焦点に対するTR空間共振減衰関数が、当該焦点のCSIと、当該焦点と同一のy軸座標を有する点のCSIとの間で計算される。
図14は、対応する結果を示す。実効帯域幅が小さい場合、f(d)の分散は大きい。実効帯域幅が大きい場合、f(d)はより決定論的であり、ロケーションに依存しない。このことは、物体追跡に理想的である。
【0115】
TRRS減衰のリップル特性に基づく距離推定
第2の距離推定方法は、TRRS減衰のリップル特性に基づく。帯域幅Bを有するシステムの場合、
図15に示すように、2つのマルチパス成分(MPC)の到着時間の差分がサンプリング周期1/Bより大きい場合、それらは測定CIRの異なるタップに分割され、すなわち、移動距離の差分がc/Bより大きい2つのMPCを分離できる。システムの帯域幅が十分大きい場合、システムの距離分解能c/Bは非常に小さいため、有意なエネルギーを有する全てのMPCを空間領域において分離でき、すなわち有意なMPCの各々を測定CIRの単一タップで表すことができる。各MPCのエネルギーの分布が方向θにおいて均一であると仮定する。この場合、MPCの数が大きいと、異なる方向から得られるMPCのエネルギーは略同一である。従って、受信信号s(0;R)を以下のように近似できる。
【0116】
TRRS分布の理論的近似は2点間の距離のみに依存するため、距離dを有する2点間のTRRSの近似を表すために
を使用できる。上記の理論曲線と実験測定値との比較を
図16に示す。これは、式(13)を実証できる。3つの曲線のピークが同一のd値に現れることがわかるだろう。このことは、リップルが同様の形状を有することを意味し、そのため、移動距離を推定するためにそのようなリップル特性を使用できる。
【0117】
TRRS分布関数
の形状は、特定のロケーションに依存しない波番号kによってのみ判定されるため、これは空間における距離を測定するための固有のルーラとして使用できる。一実施形態において、1つの受信機がロケーションR
0から開始して一定の速度vで直線に沿って移動し、1つの送信機がR
0に対応するTR波形(すなわち、受信信号の時間反転共役バージョン)を継続的且つ定期的に送信すると考える。その場合、受信機において測定されるTRRSはη(d)のサンプリングバージョンにすぎず、これも
図17に示すようなベッセル関数様パターンを示す。
【0118】
η(d)の第1の局所ピークを例とする。対応する理論的距離d
1は約0.61λである。移動速度を推定するためには、TR受信機が点R
0から開始して第1の局所ピークに到達するまでにかかる時間
を推定するだけでよい。第1の局所ピークの形状を近似するために、二次曲線を使用できる。各CIR測定のタイムスタンプ
の知識を組み合わせることは二次曲線の頂点により推定される。従って、速度推定値を
と取得できる。注目すべきことの1つは、CIR測定速度が十分速い場合、移動速度がTRRS分布関数の測定期間内で一定であるという仮定が実際に合理的であることである。例えば
図17において、期間は約0.16秒である。
【0119】
の推定の精度を向上するために、隣接する時間スロットにおいて測定されたTRRS分布関数の複数の現実値を組み合わせることができる。i番目の測定の場合、最初に、第1の局所ピーク(t
i,j, y
i,j)近傍のデータ点を見つける。i=1, ..., N及びj=1,2,3である。
推定精度を向上するために、第1の局所谷部及び第2の局所ピーク等の異なる基準点を使用することもできる。アルゴリズム2は、移動距離推定のための第2の方法を要約する。
【0120】
アルゴリズム2において、新しく収集したCSIであるH(t)を基準として選択でき、H(t)とCSIバッファ内の以前に収集したCSIとの間のTRRSを計算できる。アルゴリズム1において上述したように、隣接するCSI間のTRRS値が何らかの閾値より大きい場合、物体は移動していないと考えられる。物体が移動したと判定される場合、TRRS値η(H(t), H(t−k+1))はkが増加するにつれて減衰し、式(13)で説明したようなパターンを示す。リップル特性に基づいて、第1の局所ピークは常に、元の開始点から約0.61λの距離に対応することがわかる。物体が第1の局所ピークに対応する位置に移動するのに要する期間がわかる場合、推定移動速度を取得できる。TRRS減衰の第1の局所ピークの位置の推定精度を向上するために、二次曲線を使用して、第1の局所ピーク近傍のTRRS分布を近似できる。その場合、物体が0.61λの距離を移動するために必要な期間
のより良好な推定値を取得できる。CSIはΔt毎に収集されるため、物体がサンプル期間t−1〜t内に移動する距離
をアルゴリズム2の10行目のように推定できる。この場合も、アルゴリズム1と同様の理由で、最新のCSIとCSIバッファ内の最古のCSIとの間のTRRS値が非常に大きい場合、距離推定値は0に設定される。
【0121】
上記の物体追跡方法において、送信機及び受信機の少なくとも一方は移動する物体/人間により担持され、方法は、
図1Aに示すように、能動的追跡であると考えられる。別の実施形態において、
図1Bに示すように、移動する物体/人間は方向推定のためのセンサを担持するだけでよく、送信機及び受信機は固定されたロケーションに存在する。マルチパスチャネルが送信機と受信機との間における散乱に依存するため、移動する物体/人間は十分広い表面積を有し、同一速度で移動する散乱体の塊であると考えられる。このように、送信機と受信機との間のマルチパスチャネルは物体/人間の移動の影響を受け、受信機において受信信号から取得されるCSIは、例えば移動速度である移動に関する何らかの特徴を反映するパターンを示す。
【0122】
一実施形態において、各散乱体は粗表面を有し、入力無線信号は均一な分布で多くの方向に再放射されると仮定できる。環境内のi番目の散乱体がある速度vで何らかの方向に向けて移動していると仮定し、
が受信機における受信電界の変化を示すとする。チャネル相互性の特性に基づいて、受信機が無線信号を送信していた場合、電磁(EM)波はi番目の散乱体と受信機との間の全く同一の経路を通る。従って、
は、到着方向において均一に分布する全ての到着EM波のベクトル総和に等しい。空洞内のEM波の統計理論によると、
のACFと同様のパターンを示す受信機における受信信号のACFを調べることにより、移動する物体の速度を受動的に推定できる。TRRSは受動的速度推定において直接使用されないが、ACFを移動経路に沿う異なる点において収集された異なるCSI間の相関の測定値として考えることもできる。
【0123】
受信信号から推定された最新のN個のCSIがNを時間ウィンドウ長とする[H(t−N+1), ... , H(t)]であると仮定した場合、ACFをCSI振幅の二乗に関する関数として定義でき、これは位相オフセットの除去を必要としない。ACFにおける期待値演算を近似するために、サンプル平均を使用できる。すなわち、隣接するCSI対の間のCSIを使用してタイムラグ1を有するACFのサンプル平均を取得し、i=t−N+3, ... , tとする{H(i), H(i−2)}の間のCSIを使用してタイムラグ2を有するACFのサンプル平均を取得する。ACF関数もリップル特性を示すことが示される。
【0124】
その後、例えば第1の局所ピーク等である移動パターンに関連するACF曲線上の特徴点を見つけることができる。第1のピークACF値及び2つの隣接するACF値を使用して、第1の局所ピークに対応する時間を推定でき、第1の局所ピークに到達するまでの時間において速度は均一であると仮定して、速度を取得できる。その後、推定速度及びサンプリング周期を使用して、移動距離を取得できる。時間ウィンドウの始端におけるCSIと終端におけるCSIとの間のACF値が閾値より大きい場合、移動距離は0であると推定されてもよい。それ以外の場合、推定距離は推定速度とサンプリング周期の積に等しくてもよい。
【0125】
方向推定
以下の説明において、TRITSの第2のモジュール、すなわち移動方向推定モジュールとして、2つの方向推定方法を導入できる。送信機の移動方向を推定するために、第1の方法は慣性計測装置(IMU)を使用し、第2の方法はTRRS減衰関数η(d)を使用する。
【0126】
一般に、重力の方向gに対して垂直なx−y平面における移動方向の変化のみが注目されるため、回転をx軸、y軸及びz軸からg上に投影できる。この場合、gはオンチップ座標系により測定される。回転は、ジャイロスコープの読取り値から取得できる。従って、時間tにおける移動方向を以下のように推定できる。
式中、ωはジャイロスコープの読取り値であり、Δtはサンプリング周期であり、gは重力センサの読取り値である。アルゴリズム3は、IMUに基づく方向推定方法を以下のように要約する。
【0127】
移動方向推定の第2の方法に対して、
図18に示すように、受信機はロケーションA1802からロケーションB1804に移動した後、ロケーションC1806に移動すると仮定する。3つのロケーションは、3つの連続するCSIに対する送信機のロケーションを表す。チャネルプロービング率が十分速いため、これら3つのロケーション間の距離d
iが十分小さく、距離とTRRS値との間の1対1マッピング関係が依然として成立すると仮定する。移動方向の角度の変化は、以下のように余弦法則により推定できる。
【0128】
互いに近接する複数のアンテナが送信機に搭載される場合、例えば
図19に示すように、送信機の回転を以下により計算できる。
式中、ΔθはAからBに移動するアンテナ1のTRRS減衰から取得され、Δdは十分小さいと仮定する。これは、チャネルプロービング率が十分高い場合に当てはまる。回転の方向は、異なるアンテナ間のTRRSを計算することにより判定できる。例えば時間tにおいてアンテナ3により測定されたCSIと時間t+1においてアンテナ1により測定されたCSIとの間のTRRSが増加する場合、回転は反時計回りである。異なるアンテナ選択からの推定値を平均することにより、Δθの推定精度を向上できる。
【0129】
TR装置に対する移動方向は、以下のように推定することもできる。
図20を参照すると、3つのアンテナ2002、2004及び2006は正三角形の頂点に位置する。本例において、送信機から受信機のi番目の受信アンテナに送出されたチャネルプロービング信号から取得されるCSIを示すためにH
iを使用でき、時間t
0に測定されたH
iと時間tに測定されたH
jとの間のTRRSを示すためにη(H
i(t
0), H
j(t))を使用できる。
図20に示すような特定の移動方向に対して、関数η(H
i(t
0), H
j(t))はt≦t
0の場合に明確なパターンを示し、これを同様に
図20に示す。アンテナ1 2004が、最初はアンテナ2及び3に近く、その後アンテナから遠くなる経路2008を通るため、η(H
2(t
0), H
1(t))及びη(H
3(t
0), H
1(t))は図示するようなパターン2010及び2012を示す。尚、アンテナのロケーション及び数は限定されず、他の幾何学的形状に配置することもできる。関数η(H
i(t
0), H
j(t))のピーク値により、移動方向に沿うアンテナiとアンテナjとの間の最小距離を判定できる。例えばη(H
2(t
0), H
1(t))が極大値γ
1,2に到達した場合、アンテナ1の現在のロケーションはアンテナ2の初期ロケーションから距離d
1,2離れた位置であり、d
1,2はロケーション/TRRSマッピングにより推定可能である。
図20に示すように、本例において、TR装置に対する移動方向を
として推定でき、式中、d
1,3及びd
1,2は、η(H
2(t
0), H
1(t))及びη(H
3(t
0), H
1(t))の最大TRRS値であるTRRS減衰値γ
1,2及びγ
1,3から取得される。1つの固有の仮説は、システムのチャネルプロービング率が十分高いため、γ
1,2及びγ
1,3が十分正確であるということである。
【0130】
一実施形態において、開示される物体追跡の処理を示すフローチャートを
図21に示す。移動する物体により担持される送信機は、少なくとも1つの無線信号を受信機へ送信する(ステップ2102)。受信信号に基づいて少なくとも1つのCSIを推定でき、CSIにおける位相オフセットを除去できる(ステップ2104)。最新のCSIと時間ウィンドウ内の以前に収集されたCSIとの間のTRRS値を計算できる(ステップ2106)。それらは、時間におけるTRRSの何らかの減衰パターンを示す(ステップ2108)。複数のそのような時間ウィンドウ内のTRRS値を平均化して、平滑化された減衰パターンを取得できる。TR共振効果の収束特性に基づいて(アルゴリズム1に従って)又はリップル特性に基づいて(アルゴリズム2に従って)、物体の移動距離を推定できる(ステップ2110)。移動する物体に装着された方向センサ(例えば、IMU)から、角速度及び重力情報を読み取ることができる(ステップ2112)。角速度を重力方向に投影でき(ステップ2114)、アルゴリズム3に従って移動方向の変化を推定できる(ステップ2116)。最後に、推定された移動距離及び方向に基づいて、移動する物体のロケーションが更新される(ステップ2118)。別の実施形態において、開示される物体追跡の別の処理を示すフローチャートを
図22に示す。図中、移動方向は、異なるアンテナにわたるTRRSの減衰パターンに基づいて推定される(ステップ2212及び2214)。
【0131】
別の実施形態において、物体に送信機を装着することなく、物体の移動速度を推定できる。物体の動きはCSI特徴に影響を与え、その場合、CSIは、固定ロケーションに位置する送信機から別の固定ロケーションに位置する受信機に送出されるチャネルサウンディング信号に基づいて取得される。CSIの時変パターンを抽出するために、CSIの自己相関関数、CSIの振幅関数、CSIの位相関数等のCSIに関する他の関数を使用できる。
【0132】
異なる種類のセンサを使用する方向推定
方向推定の精度を向上するために、他の種類のセンサ出力を使用することもできる。そのような例の1つを
図23に示す。この例は、異なるセンサの相補的な特徴を利用し、統合されたセンサ出力を使用して移動方向を判定する。加速度計から、グローバル座標及び重力の方向gがわかる(2302)。ジャイロスコープセンサ2304をgの方向に投影でき、水平進路2308を取得できる。加速度計からのグローバル座標に基づいて、磁気センサ出力2306も水平面に投影してフィルタリングすることにより、平滑化された磁気センサデータ2310を取得できる。干渉する磁気源の影響を軽減するように干渉除去アルゴリズム2312を設計できる。2種類のセンサ(ジャイロスコープ及び磁気センサ)からの処理済みデータは統合され(2314)、移動距離が推定される(2316)。
【0133】
図24Aに示すように、
として、ジャイロスコープセンサ出力ベクトルを重力の方向gに投影できる。
図24Bに示すように、磁気強度ベクトルも水平面に投影できる。
【0134】
磁気強度ベクトルを水平面に投影する目的は、磁気強度ベクトルのグローバル水平成分を取得し、それとグローバル軸とを比較して、グローバル移動方向を取得することである。
【0135】
本問題において使用可能な座標系がセンサのローカル座標系であるため、最初に、グローバル座標系の3つの軸をローカル座標系で表す必要があるだろう。次に、磁気強度ベクトルをグローバル水平面に投影する必要があるだろう。最後に、ベクトルの水平成分とグローバル軸とを比較して、進路方向を判定できる。1つの仮定は、進路方向がローカルx軸の水平成分で固定され、すなわち進路方向と物体の移動方向との間の差分が時間で変化しないということである。
【0137】
水平面における磁気強度ベクトルの投影の詳細な説明を以下に示す。
【0138】
以下の表に示すように、種々のセンサが相補的な特徴を有してもよいことがわかる。従って、方向推定の精度を向上するために異なる種類のセンサ出力を統合できる。
【0139】
センサ統合の一例を
図25A及び
図25Bに示す。例えば
図25Bに示すように、1)2つの読取り値の差分が特定の範囲内であり、2)2つの読取り値の傾向が互いに一貫している場合に、ジャイロスコープを磁気センサの読取り値に調整すると考える。アルゴリズムにおいて、t1は読取り値差分閾値(ループ開始判断)であり、t2は傾向判断閾値であり、windowは傾向判断期間長である。11行目は、2つの読取り値の間の差分を判断し、ループを開始するかを決定する。ループが開始する場合、avrgは、ループ開始以降の2つの読取り値の間の平均差分である。2つの読取り値の間の差分がavrg周辺の特定の範囲(t2)以内である場合、アルゴリズムは傾向が継続すると結論付ける。countは、現在のサンプル点が依然として傾向内である場合に累積する。countがwindowに到達した場合、進路データはコンパス読取り値に調整される。
【0140】
物体追跡システムの実現例
追跡システムの実現例の例示的な機能ブロック図を
図26に示す。追跡システムの例は、Originサブシステム、Botサブシステム、制御器サブシステム及びマッピングマシンサブシステムで構成される。
【0141】
Originサブシステム:Originサブシステムは、各Botに固有の識別子を使用してBotサブシステムと直接通信して制御し且つOriginのロケーション及び各Botのロケーションに固有のマルチパス無線シグネチャを収集する1つ以上の固定送受信機(各々が「Origin」である)。Originサブシステムは、収集したシグネチャを制御器サブシステムに送出し、制御器サブシステムはBotを追跡するためにシグネチャを処理する。
【0142】
Botサブシステム:Botサブシステムは、Originと直接通信し且つOriginの制御下にある1つ以上のモバイル送受信機タグ(各々が「Bot」である)である。Botは、Botに固有の識別子とBotのロケーション及びOriginのロケーションに固有のマルチパス無線シグネチャとを使用して追跡される。
【0143】
マッピングサブシステム:マッピングサブシステムは、3Dマッピングテーブル、モータ制御器及びモバイルコンソールで構成される。モータ制御器は3Dマッピングテーブルを動かすことができ、3Dマッピングテーブルは仮想チェックポイント(各々が「VC」である)の全領域にわたり設定速度でBotを担持する。制御器サブシステムは、VCにあるBotからマルチパス無線シグネチャを収集するために、モータ制御器及びOriginサブシステムを含むマッピング処理全体を制御する。モバイルコンソールは、マッピング処理における制御器サブシステムの遠隔制御を可能にする。
【0144】
制御器サブシステム:制御器サブシステムは、マッピング処理及び追跡処理の間にOriginサブシステム、Botサブシステム(Originサブシステムを介して)及びマッピングサブシステムを制御するコンピュータシステムである。これは、システム内で対話し且つリアルタイムのBotロケーション、履歴及びBotが動作する許可を有する領域(「ロケーションエリア特権」)を報告するためのグラフィカルユーザインタフェース(「GUI」)を含む。制御器サブシステムは更に、各Botに対するロケーションエリア特権を設定し且つ更新する。制御器サブシステムは、Windows10+オペレーティングシステムを実行する少なくとも1つのコンピュータを含んでもよく、他のコンピューティングリソース/又はプロセッサを更に含んでもよい。
【0145】
一実施形態において、上記の構成要素間の接続は以下の通りである。Originサブシステムは、全ての適用可能なFCCルール及び規則に準拠する5GHz Wi−Fiチャネルを介してBotサブシステムと無線通信する。Originサブシステム及び制御器サブシステムは、Ethernetを介して通信する。マッピングサブシステムは、2.4GHz無線LANネットワークを介して制御器サブシステムに接続される。制御器サブシステムは、1つ又は複数のVC上のBotからマルチパス無線シグネチャをオフラインで収集し、それらは後でBotをオンラインで追跡するために使用される。
【0146】
一実施形態において、上記の構成要素の機能性は以下の通りである。Botサブシステムは、Originサブシステムにより送出されたコマンドに基づいて、チャネルプローブ信号をOriginサブシステムに送信できる。プローブ信号は、CSIを推定するために必要な信号とBotサブシステムにより提供される進路/方向情報との双方をデータペイロードに含む。Originサブシステは制御器サブシステムにより制御され、Botサブシステムにコマンド信号を伝達できる。更に、これはBotサブシステムからチャネルプローブ信号を受信することができる。チャネルプローブ信号を受信した後、Originサブシステムは、現在のロケーションにおけるBotサブシステムに対するCSI及び進路情報を導出でき、それらは制御器サブシステムに提供される。制御器サブシステムはシステム全体の制御器であり、ある特定の計算機能及び通信機能を有するPCステーションであってもよい。制御器サブシステムはOriginサブシステムを制御でき、従ってBotサブシステムを制御できる。更に、動きに関して、マッピングマシンサブシステムも制御器サブシステムにより制御される。Originサブシステムにより送出されたCSI及び進路/方向情報に基づいて、制御器サブシステムは、Botサブシステムのロケーションをリアルタイムで報告できる。GUIが制御器サブシステムに含まれ、オペレータにマップ情報及び仮想チェックポイント構成を提供する。Botサブシステムの特権エリアもGUIにおいて構成される。Botサブシステムが特権エリアに入ると、GUIにおいて警報がトリガされる。
【0147】
別の実施形態において、追跡対象の複数の物体(Bot)を有する例示的な追跡システムを
図27Aに示す。BotはOriginへチャネルサウンディング信号を順番に送信する。換言すると、それらは互いに時分割し、非常の多くのBotが存在する場合、BotからOriginへの高いサウンディング率を維持することは困難である。その代わりに、システムアーキテクチャは、
図27Bに示すようにダウンリンクに基づくことができる。この場合、BotはOriginからBotに送出されたサウンディング信号に基づいてCSIを推定する。その後、各Botは自身の座標を計算し、チャネルサウンディング率と比較するとはるかに低い比率でそのような情報をOriginにフィードバックする。そのようにして、
図27Bのアーキテクチャは、理論上は無限の数のBotを同時にサポートできる。
【0148】
図27Bのアーキテクチャに対応する例示的な機能ブロック図を
図28に示す。Originサブシステムは、全ての適用可能なFCC規則に準拠するWi−Fiチャネルを介して、サウンディング信号をブロードキャストし、Botサブシステムと無線通信する。Originサブシステム及び制御器サブシステムは、Ethernetを介して通信してもよい。Originを介して、制御器サブシステムはBot座標を収集し、それらはリアルタイムでBotを追跡するために使用される。
【0149】
例示的なソフトウェア実現例を
図29のフローチャートに示す。尚、経路情報は物体追跡の前に既知であると仮定される。このことは、物体のロケーションの判定を支援できる。例えば経路上の転換点は、経路を複数の区分に分割する。物体が進路を変えて軌跡が新しい区分の方向からずれると、未加工の物体ロケーションを新しい区分上の正しい方向に「マッピング」することにより、ロケーションエラーを補正できる。
図29において使用される表記を以下に列挙する。
・d:システムから導出される現在の移動距離
・A:現在の移動角度
・D:開始点からの累積距離
・End:経路の終了距離
・Seg:経路上の転換点により判定される物体の経路区分
・O:経路上の物体のマッピングされた推定ロケーションであり、経路情報を組み込んだ後のロケーション出力を意味する
・<>:自由空間における物体の推定ロケーションであり、未加工ロケーション推定値であると考えられる
【0150】
TRマシンから導出された現在の移動距離(d)及び現在の移動角度(A)を与えられた場合、物体が移動した総距離(D+d)が経路全体の総距離と比較される(ステップ2904)。(D+d)が経路全体の長さより大きい場合、ロケーション出力Oは経路の終端に配置され、未加工ロケーション推定値<>が更新され続ける(ステップ2906)。(D+d)が経路全体の長さより小さい場合、推定された新しいロケーションは依然として経路の先行区分上にあり(ステップ2910)、ロケーション出力Oは現在の区分上の新しいロケーションに進み、未加工ロケーション推定値<>が更新され続ける(ステップ2912)。推定されたロケーションが経路の現在の区分を越える場合、累積(D+d)が更新される(ステップ2908)。経路の各区分の累積長及び(D+d)に基づいて、システムはOが新しい区分に到着したか又は依然として先行区分上かを判定する(ステップ2914)。Oが新しい区分に到着した場合、システムは移動方向が新しい区分の方向とマッチするかを評価する(ステップ2920)。方向が新しい区分とマッチする場合、Oは新しい区分上に配置され、<>が更新され、移動方向は新しい区分に補正される(ステップ2924)。その後、出力軌道の描画が更新される(ステップ2926)。方向が新しい区分とマッチしない場合、Oは最後の区分の終端に留まり、<>が更新され続ける(ステップ2922)。Oが依然として経路の現在の区分上にあることを(D+d)が示す(ステップ2914の評価がNoである)場合、システムは以下の条件を評価する。(D+d)が現在の区分の終端から閾値距離(例えば2mであるが、他の値を使用することもできる)以内であり且つ方向が先行区分ではなく新しい区分とマッチする(ステップ2916の評価がYesである)場合、Oは新しい区分の始端に設定され、<>が更新され続け、方向が補正される(ステップ2918)。上記の条件が当てはまらない場合、Oは現在の区分上を進み、<>が更新され続ける(ステップ2912)。未加工ロケーション推定値及びロケーション出力が時々チェックされ、物体のロケーションが経路から大きく逸れているかが確認される(ステップ2928)。
【0151】
キャリブレーション:環境が十分な散乱体を有さないか又は追跡装置のアンテナが人間の身体、リュックサック及び衣服等の周囲の障害物により遮られる場合、この不都合な点を補償するためにキャリブレーション手順が必要だろう。システムは最初、ほぼ一定の速度で経路を通るように担持される必要がある。装置の総移動時間は、動きの停止時間スタンプと開始時間スタンプとの間の差分を得ることにより計算可能である。実際の平均移動速度は、固定された経路の全長を合計時間で除算することにより計算される。経路は、長さが等しいN個の区分に分割され、Nは経路の全長に比例する。各区分に対して、当該区分の実際の平均移動速度と推定平均移動速度との比率としてスケーリング係数が定義される。推定移動速度は、当該区分の推定長を当該区分上で経過した時間で除算することにより計算される。各区分のスケーリング係数は、固定された経路に対応するベクトルとして保存される。キャリブレーション手順の後、推定距離は、先行のロケーション推定値により取得できる装置が位置する区分のスケーリング係数で乗算される。
【0152】
マッピングサブシステムは、全体が本明細書で援用される2015年1月26日出願の米国特許出願第14/605,611号「WIRELESS POSITIONING SYSTEMS」及び2015年7月17日出願の国際出願第PCT/US2015/041037号「WIRELESS POSITIONING SYSTEMS」に開示される方法に基づいて実現可能である。仮想チェックポイント(VC)は、関心領域に配置可能である。VCから収集されたCSIはデータベースに格納される。リアルタイムで収集されたCSIがデータベース内の何らかのCSIとマッチする場合、データベース内のマッチしたCSIに関連するロケーション情報に基づいて、Botのロケーションがわかる。VCは、Botのリアルタイムのロケーションの誤った推定を補正するのに役立つことができる。尚、Botが移動する領域/経路の地図/見取り図/経路情報は同様に、誤ったロケーション推定を補正するのに役立つことができる。例えばBotが事前に定義された経路から90°方向転換するが、Botの推定された軌道は120°の方向転換であることがわかっている場合、Botの移動軌道を実際の経路に補正し、誤った累積を回避できる。
【0153】
物体追跡の適用例:スマートエレベータ
物体追跡の1つの適用例は、エレベータ監視システムである。運行中のエレベータの状態を監視する満足できる解決策は存在しない。例えば、エレベータが良好に運行しているか、適切に動作しているか又はすぐに保守が必要かを知ることは困難である。多くのエレベータが監視カメラを搭載するが、エレベータで撮影された画像/ビデオの画像/ビデオ処理は非常に複雑であり且つ広い動作帯域幅を必要とするため、上記の問題は依然として未解決である。本教示において開示される物体追跡システムを使用することにより、スマートエレベータシステムを使用してエレベータの動作状態を監視でき、1)エレベータの粒度が細かい位置調整、2)故障によるエレベータ停止の検出等の緊急事態の検出、3)エレベータの開扉/閉扉の検出を含む機能性をサポートできる。
【0154】
スマートエレベータシステムの主要な構成要素は、以下の3つの部分を含む。スマートエレベータシステムの第1の部分はエレベータ追跡モジュールであり、これは、慣性計測装置(IMU)又は更に詳細には加速度計を使用して、エレベータの位置をリアルタイムで監視する。追跡モジュールのアルゴリズムを以下のアルゴリズム4に要約し、
図30に示す。いくつかの表記及びそれらの意味を以下に列挙する。
【0155】
最初に、加速度計がバイアスを有するため、エレベータ追跡アルゴリズムを実行する前に、10秒等のある期間の加速度計の読取り値を平均することにより初期バイアス推定値
を得る必要があるだろう(ステップ3002)。次に、加速度計の新しい未加工の読取り値から推定バイアスを減算して、現時点kにおけるエレベータの加速度計の略推定値を取得できる(ステップ3004)。期間内の加速による速度変化としてエレベータの移動統計値を定義でき(ステップ3006)、これはエレベータの移動状態の判定における重要なメトリックである。垂直方向に沿うエレベータの速度のみがエレベータの位置の推定に関わるため、時間スロットkにおけるエレベータの移動統計値は以下のように計算される。
式中、Δkは移動統計値を計算するための時間ウィンドウの長さを表し、t[i]は読取り値のi番目のサンプルと(i−1)番目のサンプルとの間の時間差であり、a[i]は推定バイアスを減算後の加速度計読取り値であり、g[i]は加速度計から取得される重力の測定値であり、
は重力の2ノルムを表す。上方向を正方向として設定でき、これは重力の反対方向であるため、m[k]にマイナス記号が更に追加される。
【0156】
m[k]が垂直方向のエレベータの速度の変化を表すため、垂直方向のエレベータの速度を導出できる。その後、先行の時間スロットk−1におけるエレベータの推定速度であるv[k−1]とm[k]の大きさを調べることにより、エレベータが移動しているか否かを判定できる(ステップ3008)。それらのいずれかが事前設定閾値を上回る場合、アルゴリズムはエレベータの状態を「移動している」に設定する。また、アルゴリズムはエレベータの推定速度を追跡する。推定速度が過剰に速い場合(ステップ3010)、アルゴリズムは警報を設定し(ステップ3020)、エレベータに異常な落下が生じている可能性があるとユーザに通知する。上記の値がいずれも事前設定閾値を上回らない場合、エレベータの加速度を積分することにより、推定速度は更新される。推定速度を積分することにより、移動距離が更新され、先行の推定位置に移動距離を加算することにより、新しい推定位置が更新される(ステップ3012)。この段階で、バイアス推定値は更新されない。エレベータの移動統計値により移動検出の遅延が生じるため、アルゴリズムは、移動検出の遅延による速度の損失を測定するΔv[k−1]を加算することにより速度推定値を補償する。
【0157】
エレベータが移動していないとシステムが検出した場合、システムは現在の推定速度を0に設定でき、定量化誤差が特定範囲内である場合に限り、位置推定値をフロアの最も近い高さに四捨五入することにより位置推定値を補正でき、Δv[k−1]を移動統計値に設定することにより更新できる(ステップ3018)。その後、アルゴリズムに従って、システムは丸め誤差をチェックできる(ステップ3016)。誤差が事前設定閾値より大きい場合、エレベータは、例えば2つの隣接するフロア間の何処かである異常位置で停止した可能性がある。誤差が許容できる場合、システムは移動統計値を再度チェックし、m[k]の振幅が十分小さい場合にバイアスの推定値を更新する(ステップ3014)。提案されるアルゴリズムを検証するための実験を一般的な16階建ての建物で行うことができる。実験結果を
図31及び
図32に示す。エレベータ追跡アルゴリズムの誤差は、0.2階分の高さ以内である。
【0158】
スマートエレベータシステムの第2の部分は、人間の動き検出器モジュールである。システムは、無線送信機(TX)及び無線受信機(RX)を搭載する。送信機は、受信機へ無線信号を継続的に送信する。エレベータ内に人間がいるかをリアルタイムで検出するために、送信機と受信機との間のチャネル状態情報(CSI)を利用できる。動き検出モジュールのアルゴリズムを以下のアルゴリズム5に要約し、
図33に示す。
【0159】
G(f;t)は、時間スロットtにおけるサブキャリアfのCSI振幅を示す(ステップ3302)。M×Nアンテナ構成を有するシステムの場合、サブキャリアの総数はF=MNLであり、Lは各アンテナ対に対するサブキャリアの数である。
図33に示すように、サブキャリアf毎に、サンプル自己相関係数の一次として動き統計値を計算できる(ステップ3304)。その場合、Tは、動き統計値を計算するための時間ウィンドウの長さである。動き統計値の物理的意味は、動き統計値が高いほど動きが強いことである。各サブキャリアにおいて、例えばサンプル自己相関係数が事前に定義された閾値より大きい場合に人間の動きを検出する(ステップ3306)ために計算される動き統計値が存在する。システムのF個のサブキャリアからの全ての決定を統合するために、多数決が適用される(ステップ3308)。使用可能なサブキャリアの総数の過半数がエレベータ内の人間の動きを検出する場合、システムは動きを検出する(ステップ3310)。過半数がエレベータ内の人間の動きを検出しない場合、動きは検出されない(ステップ3312)。別の実施形態において、(CSI振幅)^2、(CSI振幅)^4、位相オフセット除去後のCSIの実数部/虚数部等、時間スロットtにおけるサブキャリアf上のCSIの別の関数としてG(f;t)を定義できる。次数が時間ウィンドウ長Tの1/4未満である場合、別の次数を有するサンプル自己相関係数として動き統計値を定義することもできる。個々の決定の加重組み合わせ等の他の決定統合ルールを使用することもできる。
【0160】
スマートエレベータシステムの第3の部分は、エレベータ扉検出器モジュールである。当該モジュールは、受信機側の受信信号強度インジケータ(RSSI)はエレベータの扉が開いた状態とエレベータの扉が閉じた状態で異なるということを利用する。構造、エレベータの材料、並びにエレベータ内の装置の設置位置に依存して、RSSIに対するエレベータの扉の開閉の影響は場合によって異なる。従って、エレベータ扉検出器モジュールは、装置がエレベータに設置された後のトレーニング処理を必要とする。受信チャネル電力インジケータ(RCPI)、参照信号受信電力(RSRP)、参照信号受信品質(RSRQ)、信号対雑音比(SNR)及び信号対干渉雑音比(SINR)等、受信信号電力を反映するRSSI以外の値を使用することもできる。
【0161】
トレーニング手順のアルゴリズムを
図34に示す。エレベータ扉検出器モジュールは、例えばいくつかの20MHz Wi−Fiチャネルにわたる複数の受信アンテナを有する市販のWi−Fi装置である無線装置からRSSI測定値を収集する(ステップ3402)。例えば40MHz帯域幅(又は2つの20MHz Wi−Fiチャネル)で動作する3つの受信アンテナを搭載したWi−Fi装置を用いる場合、1つのRSSI測定値は7個の値を含む。すなわち、各受信アンテナ及び各20MHz Wi−Fiチャネルに対して1つずつで全部で6個のRSSI測定値と、6個のRSSI値の和である1つのRSSI値とを含む。RSSI計測行列を
で示す。r
i,jは、
により与えられるT個の時間インスタンスにわたり受信アンテナi及びWi−Fiチャネルjから取得されるRSSI測定値を表す。
【0162】
Wi−Fi装置の不安定性を考慮することにより、異常RSSI値を実際に観察でき、それらは更なる処理の前に取り除かれる必要がある。RSSI外れ値の影響を取り除くために、RSSI計測行列R内の各r
i,jベクトルに対してメジアンフィルタリングを実行し(ステップ3404)、結果として得られるRSSI計測行列をR
medと示すことができる。
【0163】
ノイズに起因するRSSI測定値における高周波数変動を更に低減するために、行列R
medのr
i,j,medと示される各メジアンフィルタリング済みRSSIベクトルr
i,jに対してローパスフィルタリングが実行され(ステップ3406)、それにより、r
i,j,lpにより与えられるRSSIベクトルを有するRSSI計測行列R
lpが得られる。
【0164】
エレベータの扉が継続的に開いているか又は閉じている場合、RSSI測定値は一定レベル周辺を維持する。一方、エレベータの扉が開くか又は閉じる場合、RSSIの突然の変化が時間インスタンスにおいて観察される。これは、扉が継続的に開いているか又は閉じている場合は時間にわたるRSSI値の勾配が0に近く、エレベータの扉が開くか又は閉じる場合にRSSI値の勾配が大きく変化することを示す。従って、エレベータ扉検出器モジュールは、R
lpの期間を複数のオーバーラップする時間ウィンドウに分割し、R
lpの各ベクトルに対する勾配をそれぞれ評価する(ステップ3408)。
【0165】
例えば受信アンテナi及びWi−Fiチャネルjに対する
で示すN個の測定値が与えられる場合、最小二乗推定を使用して、現在の時間ウィンドウにおける勾配sを以下のように推定できる。
式中、n=[0,1,2, ... , N−1]は時間インデックスベクトルである。全ての時間ウィンドウにわたる各受信アンテナ及び各Wi−Fiチャネルに対する勾配推定値が集められ、ベクトルS
i,jで構成される勾配計測行列Sが形成される。
【0166】
一般に、エレベータ開扉動作はエレベータ閉扉動作よりはるかに予測可能である。例えば人間はエレベータの扉を遮ることにより扉が閉じるのを止めることができるが、エレベータの扉が開くのを中断することは殆どできない。エレベータの扉が開く場合にRSSI値が低下するため、エレベータの扉が開く時の勾配推定値において谷部が観察される。従って、従来のピーク検出を使用するために(ステップ3410)、モジュールは実際の勾配推定値行列Sの負数としてS'=−Sを生成する。これにより、谷部がピークとして検出される。
【0167】
ピーク突出度、ピーク幅及びピーク持続性等の基準を用いて、勾配計測行列S'内の各ベクトルS'
i,jに対してピーク検出アルゴリズムが実行される(ステップ3410)。S'
i,jに対してp個のピークが検出される場合、モジュールはp個のピークから突出度が最も大きいピークを選択する。ピークのロケーションがnであると仮定した場合、モジュールはベクトルr
i,j,lpにおけるピークロケーションnの左側の複数秒の区分を選択し、当該区分内の平均RSSIをRSSI
i,j,cとして評価する。これは、エレベータの扉が閉じている時の平均RSSIである。一方、モジュールはベクトルr
i,j,lpにおけるピークロケーションnの右側の複数秒の別の区分を選択し、当該区分内の平均RSSIをRSSI
i,j,oとして評価する。これは、エレベータの扉が開いている時の平均RSSI値である。これらの値の間の差分をRSSI
i,j,dとして更に計算する。全ての受信アンテナi及びWi−Fiチャネルjに対するRSSI
i,j,d値を計算した後、モジュールは、RSSI
i,j,dが最大になる(i,j)組み合わせ、すなわち開扉状態と閉扉状態との間のマージンが最大になる(i,j)組み合わせを選択する。
【0168】
(i
max,j
max)が最大RSSI
i,j,dを生じると仮定して、0<α<1である
である場合、これはエレベータ閉扉状態に関連するRSSIがエレベータ開扉状態に関連するRSSIより低いことを意味し、モジュールはトレーニングが失敗したこと及び再トレーニングが必要であることを宣言する。
【0169】
エレベータ扉検出器モジュールは、トレーニング期間中に少なくとも1回のエレベータの開扉を必要とする。
【0170】
トレーニング段階の後、エレベータ扉検出器モジュールはリアルタイムの扉監視を実行できる。アルゴリズムを
図35に示す。各受信RSSI測定値に対して(ステップ3502)、モジュールは、i
max受信アンテナ及びj
maxWi−FiチャネルからのRSSI値を選択する。次に、モジュールはメジアンフィルタリング(ステップ3504)及びローパスフィルタリング(ステップ3506)を実行し、RSSI測定値における外れ値及び高周波数ノイズを緩和する。n番目のRSSI測定値に対するフィルタリング後のRSSI値をr'
i,j,lp[n]とする。モジュールは、r'
i,j,lp[n]とトレーニング段階で取得された閾値RSSI
thとを比較し(ステップ3508)、r'
i,j,lp[n]>RSSI
thである場合に扉が閉じていると判定し(ステップ3514)、r'
i,j,lp[n]≦RSSI
thである場合に扉が開いていると判定する(ステップ3510)。
【0171】
実際は、エレベータの開扉状態及び閉扉状態に関連するRSSIレベルは、エレベータの構造、温度又はハードウェアの問題の僅かな変化により、時間にわたり変化する場合がある。従って、モジュールは、トレーニング手順において説明した勾配推定(ステップ3516)及びピーク検出(ステップ3518)に基づいて、RSSI閾値を更新し続ける(ステップ3520)。ピークが検出される限り、モジュールはRSSI閾値を再評価する。RSSI閾値が有効である場合、モジュールはRSSI
thを更新し(ステップ3520)、それを次のエレベータ扉検出に使用する。
【0172】
必要な帯域幅
本教示で前述したように、TRベースのシステムの性能は、環境に自然に存在する多くのマルチパスを分解する能力に依存する。動作帯域幅が広いほど、時間分解能が高いため、より多くのマルチパスを分解できる。
【0173】
しかし、スペクトルは依然として独自のコストを伴う希少なリソースである。そのため、TRベースのシステムにおいて必要な帯域幅を判定する必要があり、1つのメトリックはシステムのスペクトル効率の最適化である。全体が本明細書で援用される2013年8月16日出願の米国特許第13/969,271号公報「Time-Reversal Wireless System Having Asymmetric Architecture」に開示されるような複数のアンテナ及び種々の帯域幅を用いる時間反転分割多元アクセス(TRDMA)システムの一例を考慮する。システムに対する最適な帯域幅は、ユーザ数N及びバックオフ係数Dを与えた場合に最大スペクトル効率を達成するのに必要な帯域幅として定義される。最初に、一般的な屋内環境における実際のチャネル測定に基づいて、種々の帯域幅を用いるシステムに対する等価なマルチタップチャネルモデルを確立できる。種々の帯域幅及び異なるシグネチャの種類(例えば、基本的なTRシグネチャ及びゼロ強制(ZF)シグネチャ)を用いるTRDMAシステムのスペクトル効率を評価することにより、TR通信に対する最適な帯域幅はシグネチャの種類ではなくユーザ数N及びバックオフ係数Dにより判定されることがわかる。更に詳細には、システムに対する最適な帯域幅は、Dが小さい場合はDと共に増加し、Dが大きい場合はNと共に増加する。
【0174】
スペクトル効率を調べることによりTRシステムに対する最適な帯域幅を取得できるが、準最適な帯域幅をチャネル行列のランク条件に基づいて導出することができ、これを取得することはスペクトル効率を評価するよりはるかに容易である。シミュレーション結果は理論的解析を実証し、Dが小さい場合、準最適な帯域幅は最適な帯域幅に非常に近いことを示す。
【0175】
一般的な多重アンテナ時間反転分割多元アクセスシステム(TRDMA−MAシステム)のアップリンク送信を
図36に示す。図中、N個の端末装置(TD)がM個のアンテナを備えるアクセスポイント(AP)へ信号を同時に送信する。放出された信号はマルチパスチャネルh
i(m)を伝搬してAPに到着する。h
i(m)は、i番目のTDとAPにおけるm番目のアンテナとの間のマルチパスチャネルを表す。
【0176】
マルチパスチャネルプロファイルによるシンボル間干渉(ISI)を処理するために、バックオフ係数Dがシステムにおいて使用される。ユーザ間干渉(IUI)の抑制に関して、g
i(m)は、
図36に示すようにマルチパスチャネルh
i(m)に基づいて設計された等化器である。
【0177】
TR通信の性能は本質的に、チャネルインパルス応答(CIR)内の分解された独立タップの数に依存し、これはTDの多元アクセスを可能にするために使用される。大規模MIMOシステムのように多数のアンテナを配置する代わりに、TR技術は環境に自然に存在するマルチパスを広帯域幅で取得しようとする。以下の説明において、最初に、分解された独立したマルチパスの数とシステム帯域幅との間の関係を示すことができる。次に、本教示における後の理論的解析のために、種々の帯域幅を用いるチャネルモデルが確立される。
【0178】
i番目のTDからAPにおけるm番目のアンテナへの全部でK
max個の独立したマルチパスが存在すると仮定した場合、チャネルh
i(m) (t)を以下のように表すことができる。
式中、h
i,k(m)はk番目の経路の複素チャネル利得であり、τ
kはk番目の経路の経路遅延である。一般性を失うことなく、τ
1=0であると仮定でき、その結果、チャネルの遅延スプレッドは
により与えられる。
【0179】
実際の通信システムの限定された帯域幅Wにより制限されるため、送信の実効帯域幅を限定するために通常はパルス整形フィルタが使用される。一般に、パルスの持続時間T
pは、関係T
p=1/Wによって、使用可能な帯域幅Wにより限定される。従って、限定された帯域幅Wを有するシステムに対する等価なチャネル応答を以下のように表すことができる。
式(20)から、限定された帯域幅Wにより、時間差がT
p未満である経路は混合されることがわかる。換言すると、システムにおける等価なCIRにおいて、それらの経路は1つの経路であるかのように処理される。
【0180】
解析に従って、チャネルモデルを以下のように考慮できる。
式中、Lは帯域幅Wを与えられた場合の分解された独立タップの数であり、αは環境により判定される定数である。尚、LはL=f(W)によって帯域幅により判定され、fは特定の範囲のWを与えられた場合の一対一マッピングである。これは、実験により曲線フィッティングが可能である。関数fは、後で実際の実験で調べられる。式(21)から、期待チャネル利得全体
は種々のW及びLに対して一定のままであることがわかる。更に、Lが大きいほど、時間分解能が高いため、式(21)における2つのタップに対する減衰は小さい。
【0181】
表記を簡潔にするために、最適なL
*を以下の解析で見つけることができ、対応する最適なW
*をfの逆マッピングにより取得できる。
【0182】
データ送信の前に、N個のTDは最初にインパルス信号を順番に送信する。これは実際は、システム帯域幅に依存する修正済み二乗余弦信号であってもよい。APは、i番目のTDに対する各アンテナのチャネル応答h
i(m)を推定し、完全なチャネル推定を仮定できる。
【0183】
各リンクの全てのh
i(m)を取得する際、異なる設計された等化器g
i(m)(例えば、基本的なTRシグネチャ及びZFシグネチャ)をAP側に配置できる。非対称なシステムアーキテクチャによると、これらのシグネチャ波形は
図36に示すようなアップリンク送信段階における等化器として機能する。
【0184】
APへ送信されるi番目のTDにおける情報シンボルの系列を{X
i}とする。ISIを抑制し且つシンボル率をチップ率とマッチさせるために、2つのシンボル間に(D−1)個の0を挿入することによりバックオフ係数Dが導入される。
式中、(・)
[D]はD回のアップサンプリングを示す。N個のTDのアップサンプリングされた情報シンボルは、マルチパスチャネルを介して送信され、APにおいて合計される。例えばAPのm番目のアンテナにおいて受信された信号は以下のように表される。
式中、n
mはm番目のアンテナにおける付加ガウスノイズである。
【0185】
i番目のTDに対する均等化されたシンボルは、M個のアンテナにわたり以下のように組み合わされる。
【0187】
畳み込みを内積に置き換えることにより、式(26)を以下のように書き換えることができる。
【0188】
その結果、i番目のTDの有効SINRを式(28)に示すように導出できる。
式(28)に基づいて、i番目のTDの有効SINRはN及びDのみでなく、システム帯域幅に密接に関連するLにも依存する。
【0189】
式(21)に示すチャネルモデルに基づいて、帯域幅Wとチャネルタップの数Lとの間の一対一マッピングが存在する。従って、式(28)に示すようなTRDMA−MAシステムの個別のスペクトル効率の判定において、帯域幅は重要な役割を果たす。
【0190】
TRDMA−MAシステムにおけるi番目のTDのスペクトル効率は、以下のように定義される。
これは、Dが固定された場合のSINR
iの増加関数である。N及びDを与えられた場合、スペクトル効率を最大化する最適なL
*は以下のように表される。
式中、N個のTDは均一に分布し、同一のスペクトル効率を共有すると仮定される。その後、最適な帯域幅W
*を以下のように取得できる。
式中、fは、システム帯域幅Wを分解された独立タップの数Lにマッピングする関数である。関数fは、例えば
図3における実験データに対する曲線フィッティングを用いて導出可能であり、これは異なる屋内環境で変化してもよい。
【0191】
様々な種類のシグネチャをTRDMA−MAシステムに配置でき、それにより異なるスペクトル効率値を得られるが、自由度の数を同一にするため、シグネチャ設計方法はTRDMA−MAシステムに対するL
*及び最適な帯域幅W
*に影響を与えてはならない。更に、帯域幅WとLとの間には一対一マッピングが存在するため、最適なL
*を以下のように求めることができる。
【0192】
例えば、基本的なTRシグネチャ及びZFシグネチャを有するTRDMA−MAシステムに対するL
*を調べることができる。
【0193】
i番目のTDとm番目のアンテナとの間のCIRを取得する際、基本的なTRシグネチャは、時間反転CIRの正規化された(M個のアンテナの平均チャネル利得により)複素共役として取得できる。
【0194】
式(32)に基づいて、式(28)における期待信号電力、ISI及びIUIの項を以下のように表すことができる。
【0195】
h
i(m)のタップ及び異なるリンクのCIRが互いに独立していると仮定する。その場合、式(21)のチャネルモデルに従って、以下を得ることができる。
【0196】
ユーザ数N及びバックオフ係数Dが固定された場合、P
sigは送信アンテナの数Mと共に増加することがわかる。しかし、項数は多いのに各タップの電力がはるかに小さくなるため、P
sigはLと共に減少する。他の項に関して、P
isiはLと共に増加するが、P
iuiはLと共に減少する。従って、広い帯域幅を使用する主な利点は、多くのマルチパスを分解することによりIUIを抑制することである。一方、Lが大きいと、信号電力は小さくなり、ISIは大きくなる。これらの観察に基づいて、大きいLがP
sig及びP
isiの双方に与える副作用よりIUIの減少が優勢である場合、スペクトル効率はLと共に増加する。従って、最大スペクトル効率を達成できる最適なL
*及びW
*が存在することになる。
【0197】
個別のTDのCIRに基づいて設計される基本的なTRシグネチャと異なり、ZFシグネチャは全てのTDのCIRに従って設計される。
【0199】
Q
mがフル列ランクである場合を最初に考慮してもよい。このシナリオでは、式(36)及び式(39)に基づいて、式(28)における所期の信号の期待電力、ISI及びIUIを以下のように導出できる。
式(40)から、Q
mがフル列ランクである場合、干渉P
isi及びP
iuiを完全に相殺できないことがわかる。以下に示す数値シミュレーション結果に基づいて、Q
mはフル行ランクである傾向があるため、干渉は減少する。
【0200】
Q
mがフル行ランクになると、式(36)に従って、全ての干渉を除去できる。更に詳細には、以下を得られる。
【0201】
数値シミュレーションから、式(43)は最初はLと共に増加し、その後、飽和する。従って、フル行ランクのシナリオでは、スペクトル効率は最初はLと共に増加し、その後、飽和する。
【0202】
上記の解析から、最適なL
*はQ
mのランク条件に密接に関係する。ISI及びIUIを抑制するために、L
*は、Q
mをフル行ランクにするか又はフル行ランクにする可能性が最も高いLに近い必要がある。この観察は、Q
mのランク条件のみに基づいて、L
*の近似としての準最適な
を探す動機付けとなる。以下の説明において、Q
mをフル行ランクにするためのLの十分条件を解析できる。
【0205】
式(46)によると、準最適な
は、ユーザ数N及びバックオフ係数D等のシステムパラメータのみに依存し、そのため、最適なL
*を導出するためにスペクトル効率を評価するよりはるかに容易に取得できる。最適なL
*又は準最適な
が導出されると、式(31)に従って、システムの対応する帯域幅を取得できる。式(31)における導出の一例を以下のシミュレーションに示す。
【0206】
シミュレーションにおいて、最初に、分解可能な独立したマルチパスの数Lとシステム帯域幅Wとの間の関係を実証するために、屋内環境における実験を行うことができる。その後、最適なL
*を評価し、従って基本的なTRシグネチャ及びZFシグネチャの双方を用いるTRDMA−MAシステムの最適な帯域幅を評価するために、シミュレーションを行う。
【0207】
オフィスにおけるチャネルをプロービングするために、2つのユニバーサルソフトウェア無線周辺機器(USRP)をチャネルサウンダとして使用してもよい。この場合、
図5に示すように、TXは5cmの分解能を有するチャネルプロービングテーブルに配置され、RXは廊下に設置される。周波数ホッピングを用いて4.9〜5.9GHzでスペクトルをスキャンして、100mWの送信電力を使用する10MHz〜1GHzの帯域幅のCIRを取得できる。
【0208】
測定データに基づいて、固有値解析を使用して、何らかの所定の帯域幅Wに対する分解された独立したマルチパスの数を判定する。最初に、統計的平均を使用して測定チャネルK
h,Wの共分散行列を推定できる。
式中、h
i,Wは帯域幅W及びN=100でロケーションiにおいて取得されたチャネル情報である。K
h,Wがエルミート正定値であるため、以下のようにユニタリ行列Uが存在する。
【0209】
実験結果を
図37に要約する。
図37から、帯域幅が小さい場合、チャネルエネルギーは少数の固有値に集中するが、帯域幅が増加するにつれて多数の固有値に拡散することがわかる。また、屋内環境における有意なマルチパスの数対システム帯域幅を
図38に示すことができる。単一アンテナを用いる場合、帯域幅が1GHzに増加するにつれてマルチパスの数は100個に近づくことがわかる。そのような自由度は、更に多くのアンテナを配置することにより更に拡大することができる。
【0210】
図38に基づいて、WをLにマッピングする関数fを曲線フィッティングにより取得できる。
【0211】
以下の説明において、基本的なTRシグネチャを用いるシステムを考慮する。先行の解析から、最適なL
*はD及びNの双方に密接に関係することがわかる。従って、以下の説明において、L
*に対するD及びNの効果を別個に評価できる。
【0212】
最初に、N=5に固定した場合のL
*に対するDの効果を調べることができる。システムのSNRは20dBであると仮定できる。D=20の場合の1人のユーザのスペクトル効率を
図39に示し、D=4の場合を
図40に示す。これらの図から、スペクトル効率がMと共に増加しても、MがL
*に対する効果を有さないこと(すなわち、スペクトル効率のピークが同一のL
*の周辺に表れること)がわかるだろう。スペクトル効率の曲線は、Dが大きい場合と小さい場合とで非常に区別できるように見える。更に詳細には、スペクトル効率は、Dが大きい場合に上限を有するように見え、すなわち、スペクトル効率はLが十分大きくなった後に飽和する。一方、Dが小さい場合は一意のL
*が存在する。スペクトル効率は、L>L
*の場合に減少する。
【0213】
次に、一連のDを選択することにより更に一般的な例を調べることができる。MがL
*に対する効果を有さないため、アンテナ数はM=2に固定される。基本的なTRシグネチャを用いる場合の個々のユーザのスペクトル効率を
図41に示す。
図41から、最初に、スペクトル効率がDと共に減少することを観察できる。これは、項1/Dが式(28)におけるSINRの向上を支配するためである。次に、L
*に対するDの効果がDの値に非常に依存することがわかる。D=1→5等、Dが小さい場合にL
*はDと共に増加する。一方、D≧20D等、Dが十分大きい場合にL
*はDに依存しないように見える。
【0214】
以下の説明において、L
*に対するNの効果を調べることができる。既知であるように、Dが小さい場合、L
*はMから独立し、Dにより判定される。従って、以下のシミュレーションにおいて、D=20(
図42)及びD=4(
図43)の双方の場合でM=2であり且つ種々のNを用いるシステムを考慮することができる。
図42及び
図43から、IUIがNと共に増加するため、スペクトル効率はNと共に減少することがわかる。
図42に示すように、Dが大きい場合、Nが大きいほど、最大スペクトル効率を達成するためのL
*は大きい。
図43に示すように、Dが小さい場合、L
*はNに依存しないことが更に実証される。
【0215】
基本的なTRシグネチャを用いるスペクトル効率の上述のシミュレーション結果を要約することにより、L
*がMではなくN及びDにより判定されることがわかる。更に、Dが小さい場合、L
*はNに依存せず、Dと共に増加する。一方、Dが大きい場合、L
*はNと共に増加し、Dに依存しない。異なるシグネチャ設計方法は異なるスペクトル効率を達成できるが、L
*は特定のシグネチャ設計方法に依存しない必要がある。従って、L
*に関する結論はZFシグネチャのシナリオに対しても適用可能であり、このことは以下の説明で実証される。
【0216】
前述したように、基本的なTRシナリオにおけるL
*に対するD及びNの効果に関する何らかの一般的な結論を見つけることができる。以下の説明において、同一の結論がZFシグネチャのシナリオにも適用可能であることが示される。
【0217】
最初に、N=5に固定した場合のL
*に対するDの効果を調べることができる。前述と同様に、ZFシグネチャを用いた場合のDが大きい場合と小さい場合の双方に対するスペクトル効率を評価できる。システムのSNRは20dBであると仮定できる。ZFシグネチャを用いる場合のスペクトル効率を
図44及び
図45に示す。
図44においてD=20であり、
図45においてD=2である。最初に、スペクトル効率はMと共に増加するが、L
*はMに依存しない。
図44に示すようにDが大きい場合、Lは最大スペクトル効率を達成する下限を有する。Dが小さい場合、
図45に示すように一意のL
*が存在する。
【0218】
次に、種々のDを用いた場合のZFシグネチャにおけるスペクトル効率を調べることができる。シミュレーションにおいて、M=2及びM=5に固定できる。
図46によると、Dが小さい場合、最大スペクトル効率を達成するためのL
*はDと共に増加する。Dが十分大きい場合、L
*はDに依存しない傾向がある。
【0219】
以下の説明において、L
*に対するNの効果を調べることができる。シミュレーションにおいて、M=2及びSNRを20dBに固定できる。
図48及び
図49にそれぞれ示すように、D=20及びD=2の双方の場合に種々のNを用いてスペクトル効率をシミュレーションする。
図48から、Dが十分大きい場合、L
*はNと共に増加することが示される。しかし、
図49に示すように、Dが小さい場合、L
*はNに依存しないようになる。
【0220】
ZFシグネチャに対するシミュレーション結果から、L
*に対するD及びNの効果は基本的なTRシグネチャの場合と全く同一であることがわかる。換言すると、L
*はシグネチャの種類に依存しないことが実証された。これらの結果を以下の式に要約できる。
式中、f及びgの双方は増加関数である。
【0221】
式(49)においてL
*に対する何らかの有用な結論がわかるが、L
*の正確な値を取得するためにスペクトル効率を評価する必要があり、それは計算コストが高い。上記の説明に基づいて、スペクトル効率を計算する代わりにランク評価を使用することができ、それによりL
*の準最適な近似が得られる。ランク評価はZFシグネチャの方が直感的であるが、上記の説明によると、それは他の種類のシグネチャにも適用可能である。
【0222】
式(46)に基づいて、準最適な
はD及びNのみに依存する。これを
図47に示す。
図47から、準最適な
は式(49)に関してL
*で構成されることがわかる。
図47と
図41及び
図46とを比較すると、Dが小さい場合、
はL
*の推定値として非常に正確である。
図42及び
図48に示すように、Dが大きい場合、
はL
*に対する下限になる。ZFシグネチャを用いるシステムの場合、式(43)におけるc
zfは飽和するまでLと共に増加し続けるため、スペクトル効率は
の後、しばらくの間はLと共に増加し続ける。
【0223】
L
*と比較して、準最適な
はより実用的な意味を有する。第1に、
の導出はスペクトル効率を評価することなくD及びNのみに依存する。第2に、一般的な設定であるようにDが小さい場合、
に基づくL
*の推定値は非常に正確である。
が導出されると、式(49)に従って、システムの準最適な帯域幅を計算できる。
【0224】
本開示で説明された種々のモジュール、ユニット及びそれらの機能性を実現するために、本明細書中で説明された要素(例えば、
図1〜
図49のいずれかに関して説明したシステムの構成要素)の1つ以上に対するハードウェアプラットフォームとしてコンピュータハードウェアプラットフォームを使用してもよい。そのようなコンピュータのハードウェア要素、オペレーティングシステム及びプログラミング言語は本質的に従来のものであり、当業者は、本明細書中で説明した散乱が多い環境における時間反転技術に基づく物体追跡を調べるために当該技術を適合するために、それらに十分に精通していると推測される。ユーザインタフェース要素を有するコンピュータは、パーソナルコンピュータ(PC)又は他の種類のワークステーション又は端末装置を実現するために使用されてもよいが、コンピュータは適切にプログラミングされた場合にサーバとして機能してもよい。当業者はそのようなコンピュータ機器の構造、プログラミング及び一般的な動作に精通していると考えられ、そのため、図面は自明である。
【0225】
開示されるシステムは、ユーザインタフェース要素を含むハードウェアプラットフォームの機能ブロック図を有する専用システムにより実現可能である。コンピュータは、汎用コンピュータ又は専用コンピュータであってもよい。双方は、本教示に対する専用システムを実現するために使用可能である。このコンピュータは、本明細書中で説明するように、散乱が多い環境における時間反転技術に基づく物体追跡技術の何らかの構成要素を実現するために使用されてもよい。例えば
図8のシステムは、コンピュータのハードウェア、ソフトウェアプログラム、ファームウェア又はそれらの組み合わせを介して、コンピュータ上で実現されてもよい。
【0226】
従って、上記で概要を述べた散乱が多い環境における時間反転技術に基づく物体追跡方法の態様は、プログラミングにおいて実現されてもよい。技術のプログラム態様は、通常は、一種の機械可読媒体で搬送されるか又はそれに埋め込まれる実行可能なコード及び/又は関連するデータの形態である「製品」又は「製造品」であると考えられてもよい。有形不揮発性「記憶」型媒体は、コンピュータ又はプロセッサ等のためのメモリ又は他の記憶装置、あるいはソフトウェアプログラミングに対していつでもストレージを提供してもよい種々の半導体メモリ、テープドライブ及びディスクドライブ等、その関連付けられたモジュールのうちのいずれか又は全てを含む。
【0227】
ソフトウェアの全体又は一部は、インターネット又は種々の他の電気通信ネットワーク等のネットワークを介して時々通信してもよい。そのような通信は、例えば1つのコンピュータ又はプロセッサから別のコンピュータ又はプロセッサへのソフトウェアのロードを可能にしてもよい。従って、ソフトウェア要素を担持してもよい別の種類の媒体は、有線ネットワーク、光固定ネットワーク及び種々のエアリンクを介して、ローカルデバイス間の物理インタフェースにわたり使用されるような光波、電波及び電磁波を含む。有線リンク、無線リンク又は光リンク等のそのような波を搬送する物理的要素もまた、ソフトウェアを担持する媒体であると考えられてもよい。本明細書中で使用されるように、有形「記憶」媒体に限定されない限り、コンピュータ又は機械「可読媒体」等の用語は、実行するためにプロセッサに命令を提供することに関係する何らかの媒体を示す。
【0228】
従って、機械可読媒体は、有形記憶媒体、搬送波媒体又は物理的伝送媒体を含むがそれらに限定されない多くの形態をとってもよい。不揮発性記憶媒体は、例えば、図面に示すようなシステム又はその構成要素のいずれかを実現するために使用されてもよい何らかのコンピュータ等におけるいずれかの記憶装置等の光ディスク又は磁気ディスクを含む。揮発性記憶媒体は、そのようなコンピュータプラットフォームのメインメモリ等のダイナミックメモリを含む。有形伝送媒体は、同軸ケーブル、コンピュータシステム内でバスを形成するワイヤを含む銅線及び光ファイバを含む。搬送波伝送媒体は、無線周波数(RF)データ通信及び赤外線(IR)データ通信の間に生成されるような電気信号、電磁信号、音波又は光波の形態をとってもよい。従って、コンピュータ可読媒体の一般的な形態は、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、他の何らかの磁気媒体、CD−ROM、DVD又はDVD−ROM、他の何らかの光媒体、パンチカードの紙テープ、穴のパターンを有する他の何らかの物理記憶媒体、RAM、PROM及びEPROM、FLASH−EPROM、他の何らかのメモリチップ又はカートリッジ、データ又は命令を伝送する搬送波、そのような搬送波を伝送するケーブル又はリンク、あるいはコンピュータがプログラミングコード及び/又はデータを読み出してもよい他の何らかの媒体を含んでもよい。コンピュータ可読媒体のそれらの形態の多くは、実行するために1つ以上の命令の1つ以上の系列を物理プロセッサに搬送することに関係してもよい。
【0229】
本教示は種々の変更及び/又は拡張が可能であることが当業者には認識されるだろう。例えば上述した種々の構成要素の実現はハードウェア装置において具現化されてもよいが、既存のサーバへのインストール等、ソフトウェアのみによる解決策として実現されてもよい。更に、本明細書中で開示される散乱が多い環境における時間反転技術に基づく物体追跡は、ファームウェア、ファームウェア/ソフトウェアの組み合わせ、ファームウェア/ハードウェアの組み合わせ又はハードウェア/ファームウェア/ソフトウェアの組み合わせとして実現されてもよい。
【0230】
本教示及び/又は他の例を構成すると考えられるものを上記に説明したが、種々の変更が行われてもよいこと、本明細書中で開示される主題は種々の形態及び例において実現されてもよいこと、本教示は一部のみを本明細書中で説明した多くのアプリケーションに適用されてもよいことが理解される。以下の特許請求の範囲は、本教示の真の範囲に含まれる適用、変更及び変形の全てを特許請求することを意図する。