特許第6971297号(P6971297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971297意思決定支援装置、意思決定支援プログラム及び意思決定支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971297
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】意思決定支援装置、意思決定支援プログラム及び意思決定支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/00 20120101AFI20211111BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20211111BHJP
【FI】
   G06Q10/00 300
   G06Q10/04
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-233713(P2019-233713)
(22)【出願日】2019年12月25日
(65)【公開番号】特開2021-103390(P2021-103390A)
(43)【公開日】2021年7月15日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】399041158
【氏名又は名称】西日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 将秀
【審査官】 山崎 誠也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−154120(JP,A)
【文献】 特開2016−189161(JP,A)
【文献】 特開2003−099259(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/203531(WO,A1)
【文献】 中島 一 外2名,モデル生成にもとづく制約充足の検査手法,第73回 知識ベースシステム研究会資料,社団法人人工知能学会,2006年02月28日,pp.135-140
【文献】 小島 修一、新谷 虎松,動的不完全制約充足に基づく柔軟な旅行計画支援システム,電子情報通信学会2000年情報・システムソサイエティ大会講演論文集,2000年09月07日,第75頁
【文献】 Y. Ohta, N. Yugami,Solving Incompletely Defined Constraint Satisfaction Problems with Nearest Neighbour Method,2001年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の前記目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で前記問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得するデータ取得部と、
前記第一データにより示される解を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第二データにより示される解の少なくとも一つを単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第一データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素と、前記第二データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素とのうち値が互いに異なっている数を要素とする類似度行列を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに算出し、類似度行列各々に所定の観点を基準とした場合における各観点の重要度を表す重みを含む重み付き和の式を使用して類似度行列を算出し、当該類似度行列の要素を前記第一データにより示される解との類似度として算出する類似度算出部と、
前記類似度が所定の条件を満たす前記第二データを出力するデータ出力部と、
を備える意思決定支援装置。
【請求項2】
前記データ出力部は、前記類似度を示す類似度データを更に出力する、
請求項1に記載の意思決定支援装置。
【請求項3】
前記データ出力部は、前記問題を解く場合に考慮される観点ごとの前記類似度である観点別類似度を示す観点別類似度データを更に出力する、
請求項1又は請求項2に記載の意思決定支援装置。
【請求項4】
コンピュータに、
複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の前記目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で前記問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得するデータ取得機能と、
前記第一データにより示される解を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第二データにより示される解の少なくとも一つを単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第一データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素と、前記第二データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素とのうち値が互いに異なっている数を要素とする類似度行列を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに算出し、類似度行列各々に所定の観点を基準とした場合における各観点の重要度を表す重みを含む重み付き和の式を使用して類似度行列を算出し、当該類似度行列の要素を前記第一データにより示される解との類似度として算出する類似度算出機能と、
前記類似度が所定の条件を満たす前記第二データを出力するデータ出力機能と、
を実現させる意思決定支援プログラム。
【請求項5】
コンピュータが、複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の前記目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で前記問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得するデータ取得ステップと、
コンピュータが、前記第一データにより示される解を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第二データにより示される解の少なくとも一つを単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第一データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素と、前記第二データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素とのうち値が互いに異なっている数を要素とする類似度行列を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに算出し、類似度行列各々に所定の観点を基準とした場合における各観点の重要度を表す重みを含む重み付き和の式を使用して類似度行列を算出し、当該類似度行列の要素を前記第一データにより示される解との類似度として算出する類似度算出ステップと、
コンピュータが、前記類似度が所定の条件を満たす前記第二データを出力するデータ出力ステップと、
を含む意思決定支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意思決定支援装置、意思決定支援プログラム及び意思決定支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路等のインフラの老朽化が深刻な社会問題となっている。このため、インフラを点検する工事、インフラを補修する工事等の件数が増加している。これらの工事は、当該工事現場の周辺に位置する情報通信設備、送電線、ガス管、水道管等のライフライン関連設備その他設備に影響を及ぼすことがある。したがって、これらの工事が実施される場合、ライフライン関連設備その他設備に関する知識を有する監督者を工事に立ち会わせる必要がある。
【0003】
複数の工事現場に複数の監督者を割り当てる作業は、様々な要素を考慮して実行される必要がある。これらの要素は、例えば、監督者が複数の工事現場を巡回するために移動する必要がある道程、監督者が複数の工事現場を巡回するために必要な時間、監督者が有する知識、監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性、監督者が工事を監督する場合に負う負担である。また、これらの要素は、互いに関連し合っている場合やトレードオフの関係にある場合もある。このような割り当て作業を補助する技術を開示している文献として、例えば、非特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「フィールド・アシスタント(登録商標):NTT HOME」、[令和1年12月12日検索]、インターネット<URL:https://www.ntt.co.jp/kankyo/protect/label/field_assistant.html>
【0005】
しかし、非特許文献1に開示された技術は、あくまで割り当て作業を実施する担当者の業務を補助する技術である。このため、割り当て作業の結果は、割り当て作業の担当者の知識、経験、感覚等に左右される。また、割り当て作業は、様々な要素を考慮して実施される作業であるため、その結果が好適であるか否かの判断が困難であり、判断基準も不明確であることが多い。さらに、このような割り当て作業のように、複数の要素を考慮した上で行われ、実情に即した好適な結果が得られているかを判断することが困難な作業は、実社会に多数存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数の要素を考慮した上で好適な意思決定を行うことを支援することができる意思決定支援装置、意思決定支援プログラム及び意思決定支援方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の前記目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で前記問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得するデータ取得部と、前記第一データにより示される解を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第二データにより示される解の少なくとも一つを単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第一データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素と、前記第二データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素とのうち値が互いに異なっている数を要素とする類似度行列を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに算出し、類似度行列各々に所定の観点を基準とした場合における各観点の重要度を表す重みを含む重み付き和の式を使用して類似度行列を算出し、当該類似度行列の要素を前記第一データにより示される解との類似度として算出する類似度算出部と、前記類似度が所定の条件を満たす前記第二データを出力するデータ出力部と、を備える意思決定支援装置である。
【0008】
本発明の一態様は、上述した意思決定支援装置であって、前記データ出力部は、前記類似度を示す類似度データを更に出力する、意思決定支援装置である。
【0010】
本発明の一態様は、上述した意思決定支援装置であって、前記データ出力部は、前記問題を解く場合に考慮される観点ごとの前記類似度である観点別類似度を示す観点別類似度データを更に出力する、意思決定支援装置である。
【0011】
本発明の一態様は、コンピュータに、複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の前記目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で前記問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得するデータ取得機能と、前記第一データにより示される解を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第二データにより示される解の少なくとも一つを単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第一データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素と、前記第二データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素とのうち値が互いに異なっている数を要素とする類似度行列を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに算出し、類似度行列各々に所定の観点を基準とした場合における各観点の重要度を表す重みを含む重み付き和の式を使用して類似度行列を算出し、当該類似度行列の要素を前記第一データにより示される解との類似度として算出する類似度算出機能と、前記類似度が所定の条件を満たす前記第二データを出力するデータ出力機能と、を実現させる意思決定支援プログラムである。
【0012】
本発明の一態様は、コンピュータが、複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の前記目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で前記問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得するデータ取得ステップと、コンピュータが、前記第一データにより示される解を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第二データにより示される解の少なくとも一つを単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する処理を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに実行し、前記第一データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素と、前記第二データにより示される解の隣接行列の上三角行列の要素とのうち値が互いに異なっている数を要素とする類似度行列を前記問題を解く場合に考慮される観点ごとに算出し、類似度行列各々に所定の観点を基準とした場合における各観点の重要度を表す重みを含む重み付き和の式を使用して類似度行列を算出し、当該類似度行列の要素を前記第一データにより示される解との類似度として算出する類似度算出ステップと、コンピュータが、前記類似度が所定の条件を満たす前記第二データを出力するデータ出力ステップと、を含む意思決定支援方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の要素を考慮した上で好適な意思決定を行うことを支援することができる意思決定支援装置、意思決定支援プログラム及び意思決定支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る意思決定支援システムの一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る第一データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る第二データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る第二データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る第二データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る第二データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る第二データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が各巡回経路における工事現場の順序の観点から算出した類似度行列の一例を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が監督者と巡回経路との組み合わせの観点から算出した類似度行列の一例を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が図8に示した類似度行列と図9に示した類似度行列との重み付き和を算出することにより得られた類似度行列の一例を示す図である。
図11】本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る意思決定支援システムの一例を示す図である。図1に示すように、意思決定支援システム1は、端末10と、演算装置20と、意思決定支援装置30と、出力装置40とを備える。端末10、演算装置20、意思決定支援装置30及び出力装置40は、いずれもネットワークNWに接続されている。ネットワークNWは、例えば、インターネット、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)である。
【0016】
端末10は、例えば、コンピュータ、タブレットであり、担当者が多目的最適化問題を手動で解く作業を補助するアプリケーションを使用することを可能にしている。
【0017】
多目的最適化問題は、複数の目的関数が定義され得る問題である。目的関数は、多目的最適化問題において考慮される必要がある要素を表す関数である。例えば、多目的最適化問題が複数の工事現場に複数の監督者を割り当てる問題である場合、目的関数は、各監督者が複数の工事現場を巡回するために移動する必要がある道程の合計、各監督者が複数の工事現場を巡回するために必要な時間の合計、監督者が有する知識、監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性の度合い、監督者が工事を監督する場合に負う負担の度合いとなる。ここで言う装備は、例えば、工事を監督する場合に使用される脚立等の機材である。また、多目的最適化問題の解は、出来る限り多数の目的関数を出来る限り大きくすること又は出来る限り小さくすることが好ましく、出来る限り多数の目的関数を最大にすること又は最小にすることが更に好ましい。
【0018】
上述したアプリケーションは、例えば、工事現場の場所を示すアイコン、監督者の現在位置を示すアイコン、監督者が有する知識及び経験のレベルを示す数字、文字、記号等、監督者が所持している装備を示すアイコンを地図に重ね合わせた画像をディスプレイに表示させる。この画像にアイコンで表示される工事は、電話、ファクシミリ、電子メール等により通知された工事のうち監督者による監督が必要であると事前に判断された工事のみであってもよい。監督者の現在位置を示すデータは、例えば、監督者が携帯している携帯端末に搭載されているGPS(Global Positioning System)を使用して計測されることにより生成される。また、このアプリケーションは、監督者の現在位置等が更新された場合、ディスプレイ表示させる画像を適宜更新する。上述したアプリケーションは、担当者がディスプレイに表示された画像を見ながら、複数の工事現場に複数の監督者を割り当てる作業を即時的かつ直感的に実施することを可能にする。
【0019】
端末10は、上述したアプリケーションを使用して多目的最適化問題の解が得られた後、この解を示す第一データを意思決定支援装置30に送信する。
【0020】
演算装置20は、例えば、コンピュータであり、上述したアプリケーションを使用して解かれる多目的最適化問題と同じ多目的最適化問題に数理モデルを適用して解く。
【0021】
この数理モデルの第一の例は、次の式(1)で算出される値を出来る限り小さくする数理モデルである。式(1)の第一項は、各監督者が複数の工事現場を巡回するために移動する必要がある道程Dの合計を表している。式(1)の第二項は、監督者が有する知識、監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性の度合いcsjの合計を表している。式(1)の第一項及び式(1)の第二項は、いずれも目的関数の一例である。また、式(1)の第二項は、重みαが掛けられている。式(1)に含まれているS、J及びTは、それぞれ監督者の集合、工事の集合及び工事が実施される時間帯の集合を表している。また、式(1)に含まれているs、j及びtは、それぞれS、J及びTの要素を表している。
【0022】
【数1】
【0023】
式(1)の第二項に含まれている決定変数xsjtは、次の式(2)で表されるように「0」又は「1」となる。決定変数xsjtは、監督者sが時間帯tに実施される工事jに割り当てられる場合、「1」となり、それ以外の場合、「0」となる。
【0024】
【数2】
【0025】
また、決定変数xsjtは、次の式(3)で表される制約及び次の式(4)で表される制約を受けている。式(3)は、一人の監督者に時間帯が重複する二つ以上の工事を監督させることが不可能であることを表している。式(4)は、一件の工事に割り当てられる監督者が一人であり、一件の工事が実施される時間帯が一つに決まっていることを表している。
【0026】
【数3】
【0027】
【数4】
【0028】
さらに、式(1)の第一項に含まれている道程Dは、決定変数xsj及び工事kが実施される現場と工事lが実施される現場との間の道程dklを含む次の式(5)で表される。
【0029】
【数5】
【0030】
式(2)から式(5)は、いずれも多目的最適化問題について現実に即した解を得るために目的関数に課される制約条件の一例である。
【0031】
上述した数理モデルの第二の例は、上述した式(1)で算出される値を出来る限り小さくする数理モデルである。ただし、数理モデルの第二の例は、上述した式(2)から式(5)で表される制約条件に加え、工事kを監督する場合に負う負担の度合いiを含む次の式(6)で表される制約条件の下で式(1)により算出される値を出来る限り小さくする。式(6)は、各監督者が工事を監督する場合に負う負担の度合いの合計に上限を設けている。
【0032】
【数6】
【0033】
数理モデルの第三の例は、上述した数理モデルの第二の例と同じく、各監督者が複数の工事現場を巡回するために移動する必要がある道程の合計、監督者が有する知識、監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性の度合い及び各監督者が工事を監督する場合に負う負担の度合いの合計を考慮する。
【0034】
ただし、数理モデルの第三の例は、各監督者が監督する工事が実際には高々三つであることに着目し、数理モデルの第二の例よりも短い演算時間で解を算出することを可能にしている。具体的には、数理モデルの第三の例は、監督者が巡回可能な工事の巡回経路の組み合わせ、各巡回経路上を移動するために必要な時間及び監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性の度合いを事前に算出する。そして、数理モデルの第三の例は、全ての工事現場がいずれかの巡回経路に含まれ、各巡回経路上を移動するために必要な時間が出来る限り短くなり、かつ、監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性の度合いの合計が出来る限り大きくなる解を選択する。
【0035】
数理モデルの第三の例は、次の式(7)で算出される値を出来る限り小さくする数理モデルである。式(7)の括弧内の第一項cは、巡回経路r上を移動するために必要な時間を表している。式(7)の括弧内の第二項qrsは、監督者が有する経験及び監督者が所持している装備の少なくとも一つと工事の内容との整合性の度合いを表しており、重みαが掛けられている。式(7)に含まれているRは、巡回経路の集合を表している。また、式(7)に含まれているrは、Rの要素を表している。
【0036】
【数7】
【0037】
式(7)に含まれている決定変数yrsは、次の式(8)で表されるように「0」又は「1」となる。決定変数yrsは、監督者sが巡回経路r上に含まれる工事を監督する場合、「1」となり、それ以外の場合、「0」となる。
【0038】
【数8】
【0039】
また、決定変数yrsは、次の式(9)から式(12)で表される制約を受けている。式(9)は、各工事が複数の巡回経路に含まれることが無く、かつ、各工事が複数の監督者により監督されることが無いことを表している。式(10)は、一人の監督者が巡回する巡回経路が一つであることを表している。式(11)は、監督者の合計人数が巡回経路の総数以上であることを表している。式(12)は、各監督者が巡回経路r上の工事を監督する場合に負う負担の度合いmの合計に上限を設けている。
【0040】
【数9】
【0041】
【数10】
【0042】
【数11】
【0043】
【数12】
【0044】
演算装置20は、上述した数理モデルの第一の例から数理モデルの第三の例のいずれかを適用して多目的最適化問題の解を得る。そして、演算装置20は、この解を示す第データを意思決定支援装置30に送信する。
【0045】
意思決定支援装置30は、図1に示すように、データ取得部31と、類似度算出部32と、データ出力部33とを備える。
【0046】
データ取得部31は、端末10から第一データを取得し、演算装置20から第二データを取得する。第一データは、例えば、複数の目的関数が定義され得る問題を手動で解くことにより得られた解を示すデータである。第二データは、例えば、複数の目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で問題を数理的に解くことにより得られた解を示すデータである。なお、以下の説明では、演算装置20が上述した数理モデルの第三の例を使用して解を得た場合を例に挙げて説明する。
【0047】
図2は、本発明の実施形態に係る第一データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。図2に示した画像PHは、工事現場W1から工事現場W9を地図上に描出し、各監督者の巡回経路を実線、一点鎖線又は二点鎖線で描出している。
【0048】
図2に示した画像PHは、監督者Aが工事現場W1、工事現場W2、工事現場W3の順に巡回し、監督者Bが工事現場W4、工事現場W5、工事現場W6の順に巡回し、監督者Cが工事現場W7、工事現場W8、工事現場W9の順に巡回する解Hを示している。
【0049】
図3から図7は、本発明の実施形態に係る第二データにより示される解を表示する画像の一例を示す図である。図3から図7に示した画像は、いずれも工事現場W1から工事現場W9を地図上に描出し、各監督者の巡回経路を実線、一点鎖線又は二点鎖線で描出している。
【0050】
図3に示した画像PM1は、監督者Aが工事現場W1、工事現場W2、工事現場W3の順に巡回し、監督者Bが工事現場W4、工事現場W5、工事現場W6の順に巡回し、監督者Cが工事現場W8、工事現場W7、工事現場W9の順に巡回する解M1を示している。
【0051】
同様に、図4に示した画像PM2は、監督者Aが工事現場W1、工事現場W2、工事現場W3の順に巡回し、監督者Bが工事現場W4、工事現場W5、工事現場W6の順に巡回し、監督者Cが工事現場W8、工事現場W7、工事現場W9の順に巡回する解M2を示している。図5に示した画像PM3は、監督者Aが工事現場W1、工事現場W2、工事現場W4の順に巡回し、監督者Bが工事現場W3、工事現場W5、工事現場W7の順に巡回し、監督者Cが工事現場W6、工事現場W8、工事現場W9の順に巡回する解M3を示している。
【0052】
また、図6に示した画像PM4は、監督者Aが工事現場W1、工事現場W2、工事現場W3の順に巡回し、監督者Bが工事現場W4、工事現場W5、工事現場W7の順に巡回し、監督者Cが工事現場W6、工事現場W8、工事現場W9の順に巡回する解M4を示している。図7に示した画像PM5は、監督者Aが工事現場W1、工事現場W6、工事現場W8の順に巡回し、監督者Bが工事現場W3、工事現場W5、工事現場W7の順に巡回し、監督者Cが工事現場W2、工事現場W4、工事現場W9の順に巡回する解M5を示している。
【0053】
なお、図2から図7に示した画像の少なくとも一つは、例えば、意思決定支援装置30に接続されているディスプレイに表示される。
【0054】
類似度算出部32は、第二データにより示される解の少なくとも一つに関して第一データにより示される解との類似度を算出する。類似度は、二つの解の間で定義される。例えば、類似度算出部32は、次に説明する手順で当該類似度を算出する。
【0055】
まず、類似度算出部32は、各巡回経路における工事現場の順序の観点を踏まえて、図2から図7に示した解のうちの二つの解の間の観点別類似度を算出する。この観点は、多目的最適化問題を解く場合に考慮される観点の一例である。
【0056】
類似度算出部32は、図2から図7に実線、一点鎖線又は二点鎖線で示した巡回経路を単純無向グラフに変換し、単純無向グラフを隣接行列に変換する。これらの単純無向グラフは、いずれも辺の数が各巡回経路上の工事現場の数に等しくなる。そして、類似度算出部32は、二つの解各々の隣接行列の上三角行列の要素のうち値が互いに異なっている数を類似度行列の要素とする。なぜなら、二つの単純無向グラフの全ての辺が異なる場合、互いに異なる隣接行列の上三角行列の要素の数は、一つの巡回経路に含まれている工事の数の二倍となるからである。
【0057】
図8は、本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が各巡回経路における工事現場の順序の観点から算出した類似度行列の一例を示す図である。図8に示した類似度行列Hの要素は、二つの解の間の観点別類似度を示している。この観点別類似度は、値が小さい程、二つの解が類似していることを示しており、値が大きい程、二つの解が乖離していることを示している。例えば、図8の二行目に示すように、第一データにより示される解Hは、各巡回経路における工事現場の順序の観点から検討した場合、解M1、解M2及び解M3と全く同じであり、解M4、解M5及び解M6と異なることが分かる。
【0058】
次に、類似度算出部32は、監督者と巡回経路との組み合わせの観点を踏まえて、図2から図7に示した解のうちの二つの解の間の観点別類似度を算出する。この観点は、多目的最適化問題を解く場合に考慮される観点の一例である。
【0059】
類似度算出部32は、図2から図7に示した解について、監督者と巡回経路と紐付ける隣接行列を算出する。そして、類似度算出部32は、二つの解各々の隣接行列の要素のうち値が異なっている数を類似度行列の要素とする。
【0060】
図9は、本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が監督者と巡回経路との組み合わせの観点から算出した類似度行列の一例を示す図である。図9に示した類似度行列Hの要素は、二つの解の間の観点別類似度を示している。この観点別類似度は、値が小さい程、二つの解が類似していることを示しており、値が大きい程、二つの解が乖離していることを示している。例えば、図9の二行目に示すように、第一データにより示される解Hは、監督者と巡回経路との組み合わせの観点から検討した場合、解M1及び解M2と全く同じであり、解M3、解M4、解M5及び解M6と異なることが分かる。
【0061】
そして、類似度算出部32は、図8に示した類似度行列H図9に示した類似度行列Hとの重み付き和を算出することにより類似度行列Hを算出する。例えば、類似度算出部32は、重みβを含む次の式(13)を使用して類似度行列Hを算出する。重みβは、各巡回経路における工事現場の順序の観点を基準とした場合における監督者と巡回経路との組み合わせの観点の重要度を表している。
【0062】
【数13】
【0063】
図10は、本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が図8に示した類似度行列と図9に示した類似度行列との重み付き和を算出することにより得られた類似度行列の一例を示す図である。図10に示した類似度行列Hは、重みβの値を0.67として算出されている。類似度行列Hの要素は、上述した二種類の観点別類似度の重み付き和である類似度である。
【0064】
例えば、図10の二行目に示すように、第一データにより示される解Hは、各巡回経路における工事現場の順序の観点と、監督者と巡回経路との組み合わせの観点と、これら二つの観点の相対的な重要度の違いを考慮した場合、解M1と全く同じであり、解M2、解M3、解M4、解M5及び解M6と異なることが分かる。
【0065】
データ出力部33は、類似度が所定の条件を満たす第二データを出力する。例えば、データ出力部33は、上述した解M1から解M5のうち解Hとの間の類似度が所定の閾値を超えている解を示す第二データを図1に示した出力装置40に送信する。出力装置40は、例えば、ディスプレイであり、データ出力部33から受信した第二データにより示される解を任意の態様で表示する。
【0066】
また、データ出力部33は、上述した類似度を示す類似度データ及び上述した観点別類似度を示す観点別類似度データの少なくとも一つを出力してもよい。出力装置40は、これらのデータをデータ出力部33から受信した場合、当該データにより示されている類似度や観点別類似度を任意の態様で表示する。
【0067】
次に、図11を参照しながら実施形態に係る意思決定支援装置が実行する処理の一例を説明する。図11は、本発明の実施形態に係る意思決定支援装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0068】
ステップS10において、データ取得部31は、複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得する。
【0069】
ステップS20において、類似度算出部32は、第二データにより示される解の少なくとも一つに関して第一データにより示される解との類似度を算出する。
【0070】
ステップS30において、データ出力部33は、類似度が所定の条件を満たす第二データを出力する。なお、ステップS30において、データ出力部33は、類似度データ及び観点別類似度データの少なくとも一つを更に出力してもよい。
【0071】
以上、実施形態に係る意思決定支援システム1について意思決定支援装置30を中心に説明した。意思決定支援装置30は、複数の目的関数が定義され得る問題を解くことにより得られた解を示す第一データを取得し、複数の目的関数の少なくとも二つに関する制約条件の下で問題を解くことにより得られた解を示す第二データを複数取得する。そして、意思決定支援装置30は、第二データにより示される解の少なくとも一つに関して第一データにより示される解との類似度を算出し、類似度が所定の条件を満たす第二データを出力する。
【0072】
これにより、意思決定支援装置30は、複数の要素を考慮した上で好適な意思決定を行う必要がある問題の解を得る必要がある場合に、実情に即していると思われる解に近い解を提供することができる。また、意思決定支援装置30は、このような解を提供することにより、意思決定を要求している問題を解く者が行う業務を効率化したり、当該問題を解く知識や経験を十分に習得していない者が行う業務を支援したりすることができる。
【0073】
また、意思決定支援装置30は、類似度を示す類似度データを出力する。これにより、意思決定支援装置30は、多目的最適化問題を数理的に解くことにより得られた解が多目的最適化問題を手動で解くことにより得られた解と類似している度合いをユーザに提示し、ユーザが適切な解を選択することを支援し得る。
【0074】
また、意思決定支援装置30は、観点別類似度を示す観点別類似度データを出力する。これにより、意思決定支援装置30は、多目的最適化問題を数理的に解くことにより得られた解が多目的最適化問題を手動で解くことにより得られた解と類似している度合いを観点別にユーザに提示し、ユーザが適切な解を選択することを支援し得る。
【0075】
なお、上述した実施形態では、多目的最適化問題として、複数の監督者を複数の工事に割り当てる問題を例にあげたが、これに限定されない。
【0076】
例えば、上述した多目的最適化問題として、仮想化により複数のハードウェアを統合し、複数のソフトウェアに割り当てる問題が挙げられる。この場合、目的関数は、例えば、各ハードウェアの稼働率、各ハードウェアに掛かる負荷、各ハードウェアの処理速度となる。
【0077】
或いは、上述した多目的最適化問題として、複数のテーマを有する技術開発を遂行する場合に複数の技術者を複数のテーマに割り当てる問題が挙げられる。この場合、目的関数は、例えば、各技術者が有する知識及び経験、各テーマの重要度、各テーマの納期、技術開発全体の納期となる。
【0078】
また、意思決定支援装置30が有する機能の少なくとも一部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム又はソフトウェアを実行することにより実現される。また、これらのうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等の回路部(circuitry)を含むハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働により実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の非一過性の記憶媒体を備える記憶装置に格納されていてもよいし、DVD、CD−ROM等の着脱可能な非一過性の記憶媒体に格納されており、当該記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明した。ただし、意思決定支援システム1及び意思決定支援装置30の少なくとも一方は、上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、置換、組み合わせ又は設計変更が加えられてもよい。
【0080】
なお、本明細書に記載されている内容は、将来、査読付き論文誌に投稿される予定である。
【符号の説明】
【0081】
1…意思決定支援システム、10…端末、20…演算装置、30…意思決定支援装置、31…データ取得部、32…類似度算出部、33…データ出力部、40…出力装置、NW…ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11