(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
種々の条件下で流体の流動状態を測定することができれば、流体測定装置の利便性を高めることができる。本開示は、利便性の高い流体測定装置、流体測定方法、及びプログラムの提供に関する。一実施形態によれば、利便性の高い流体測定装置、流体測定方法、及びプログラムを提供することができる。以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。まず、一実施形態に係る流体測定装置の構成について説明する。
【0010】
図1は、一実施形態に係る流体測定装置の概略構成例を示すブロック図である。
【0011】
図1は、一実施形態に係る流体測定装置が有する機能部を示すブロック図である。なお、
図1は、流路Bを流れる流体Aを模式的に示している。また、各機能部に電力を供給する電源、及び電源から各機能部に電力を供給する構成などは省略して示している。
【0012】
一実施形態に係る流体測定装置は、流れる物体(流体)の流れの状態(流動状態)を算出することができる。具体的には、流体測定装置は、流体の流量または流速を流体の流動状態として算出することができる。なお、流量は、単位時間あたりに流れる流体の体積または質量であり、流速は、単位時間あたりに流体が進む距離である。
【0013】
流体測定装置は、光のドップラー効果を利用して流体の流動状態を算出することができる。被照射物(流体及び流体が流れる流路など)に照射される光は、流体によって散乱し、周波数が流体の流動状態に応じてドップラー効果によってシフト(ドップラーシフト)する。そのため、ドップラー効果を利用すれば、流動状態を算出することができる。具体的には、流体測定装置は、測定対象の流体を含む被照射物に向けて発光部から光を照射し、当該被照射物で散乱された光を含む干渉光を受光部で受光することができる。そして、流体測定装置は、受光部の出力に基づいて、流体の流動状態を算出することができる。
【0014】
測定対象の流体は、光のドップラー効果を利用して流動状態を算出可能なものであればよい。具体的には、流体は、それ自体が光を散乱するもの、または光を散乱する物質(散乱物質)を流動させるものであればよい。流体は、例えば、水、血液、プリンター用のインク、または粉体を含む気体などであればよい。なお、散乱物質または粉体などが流体に追従して流動する場合、流体測定装置は、散乱物質または粉体などの流量または流速を、流体の流量または速度とみなすこともできる。すなわち、「流体の流量または流速」とは、「散乱物質または粉体などの流量または流速」と解釈することもできる。
【0015】
一実施形態に係る流体測定装置1は、流体測定装置1の制御を行う制御部10を備える。一実施形態に係る流体測定装置1において、センサ部60は、流路Bを流れる流体Aに関する検出を行う。そして、流体測定装置1において、制御部10は、センサ部60によって検出された結果に基づいて、流路Bを流れる流体Aの流動状態を推定することができる。
【0016】
センサ部60の位置は、流路Bを流れる流体Aの流動状態を推定できるように、流路Bに対して位置決めされればよい。センサ部60は、発光部62と、受光部64とを備えている。
【0017】
発光部62は、流路Bに向けて光を照射することができる。発光部62は、例えばレーザ光などを照射することができる。発光部62は、例えば、流体A又は流体Aに含まれる固体など、特定成分を検出可能な波長のレーザ光を、測定光として照射してよい。発光部62は、例えば、任意の数のLD(レーザダイオード:Laser Diode)により構成される。
【0018】
発光部62は、制御部10の駆動部50によって駆動されればよい。駆動部50は、任意のレーザ駆動回路などにより構成されればよい。なお、駆動部50は、流体測定装置1の外部に設けてもよいし、センサ部60に内蔵されてもよい。その結果、流体測定装置1は、設計の自由度を向上させることができる。
【0019】
受光部64は、発光部62から照射された光のうち、流体Aで散乱した光を受光することができる。また、受光部64は、発光部62から照射された光のうち、流路Bで散乱した光を受光することができる。すなわち、受光部64は、流体Aで散乱した光と流路Bで散乱した光を含む干渉光を受光することができる。受光部64は、例えば、任意の数のPD(フォトダイオード:Photo Diode)により構成される。
【0020】
受光部64によって受光された光に関する信号(光信号)は、制御部10の生成部12に送信される。生成部12については後述する。受光部64によって受光された光信号を生成部12に送信して処理する際は、各種の増幅器及び/又はフィルタなどを用いてもよいが、これらは図示を省略してある。
【0021】
なお、センサ部60は、
図1に示すような構成に限定されない。例えば、センサ部60は、発光部62及び受光部64の双方をワンパッケージにして含むものではなく、発光部62と受光部64とをそれぞれ別体として構成してもよい。その結果、流体測定装置1は、設計の自由度を向上させることができるため、利便性を向上させることができる。
【0022】
次に、流体測定装置1の制御部10について説明する。
【0023】
流体測定装置1の制御部10は、生成部12と、取得部14と、推定部16とを備えている。また、制御部10は、記憶部20と、通信部30と、表示部40と、駆動部50との少なくともいずれかを、適宜含んで構成してもよい。
【0024】
制御部10は、生成部12、取得部14、及び推定部16などの種々の機能を実行するための制御及び処理能力を提供するために、例えばCPU(Central Processing Unit)のような、少なくとも1つのプロセッサを含む。制御部10は、生成部12、取得部14、及び推定部16などの機能を、まとめて1つのプロセッサで実現してもよいし、いくつかのプロセッサで実現してもよいし、それぞれ個別のプロセッサで実現してもよい。また、プロセッサは、集積回路(IC:Integrated Circuit)またはディスクリート回路として実現されればよい。なお、プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されればよい。一実施形態において、制御部が実行する生成部12、取得部14、及び推定部16などの機能は、例えばCPU及び当該CPUで実行されるプログラムとして構成されてもよい。
【0025】
生成部12は、センサ部60の受光部64の出力に基づいて周波数スペクトルを生成し、推定部16へ出力することができる。取得部14は、記憶部20に記憶した周波数スペクトルを取得し、推定部16へ出力することができる。推定部16は、生成部12で生成した周波数スペクトルと、取得部14で取得した周波数スペクトルに基づいて、流体Aの流動状態を推定することができる。
【0026】
記憶部20は、半導体メモリ又は磁気メモリ等で構成されてよい。記憶部20は、各種情報及び実行されるプログラム等を記憶することができる。記憶部20は、取得部14及び/又は推定部16のワークメモリとして機能してもよい。また、記憶部20は、周波数スペクトルを記憶することができる。記憶部20は、生成部12が生成した周波数スペクトルを予め記憶しておいてもよいし、外部から通信などにより取得した周波数スペクトルを記憶してもよい。なお、記憶部20は、各種のメモリカードなどであってもよい。
【0027】
通信部30は、無線通信をはじめとする各種の通信機能を実現することができる。通信部30は、例えばLTE(Long Term Evolution)等の種々の通信方式による通信を実現してよい。通信部30は、例えばITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)において通信方式が標準化されたモデムを含んでよい。通信部30は、例えばアンテナを介して、例えば外部サーバ又はクラウドサーバのような外部機器と、ネットワークを介して無線通信してよい。一実施形態において、通信部30は、例えば外部サーバ又はクラウドサーバなどの外部のデータベースから、第2周波数スペクトルS2を受信してよい。また、このようにして通信部30が受信した第2周波数スペクトルS2は、記憶部20に記憶してもよい。
【0028】
表示部40は、流体Aの流動状態の測定結果などの種々の情報を各種の表示デバイスに表示させ、ユーザに通知することができる。表示デバイスは、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ、又は無機ELディスプレイ等であればよい。表示部40は、文字、図形、記号、又はグラフ等の画像を表示させてよい。また、表示部40は、操作用オブジェクト等の画像を表示させてもよい。
【0029】
また、表示部40がユーザに通知する情報は、必ずしもユーザに視覚的効果を与えるものに限定されない。例えば、表示部40は、情報をユーザに伝えることができれば、各種の情報を音としてスピーカから出力させてもよい。
【0030】
制御部10の記憶部20、通信部30、及び表示部40は、それぞれ流体測定装置1に内蔵されてもよいし、流体測定装置1の外部に設けられてもよい。また、例えば表示部40は、センサ部60に内蔵されてもよい。その結果、流体測定装置は、設計の自由度を向上させることができる。
【0031】
なお、流体Aが流れる流路Bは、各種の素材で構成されたチューブ状の部材であればよい。具体的には、流路Bは、発光部62が照射する光の少なくとも一部を透過させる素材で構成されればよい。流路Bの素材は、例えば、プラスチック、塩化ビニール、またはガラスなどであればよい。また、流路Bは、例えば、血管などの人または動物の体液が流れる体組織であってもよい。なお、流路Bは、流体Aの流動状態が適切に測定されるように、流体Aが漏れ出したりしないように構成されればよい。
【0032】
次に、一実施形態に係る流体測定における散乱光の検出について説明する。
図2は、一実施形態に係る流体測定における散乱光の検出を説明する図である。
【0033】
図2は、一実施形態に係る流体測定装置による干渉光の検出を説明する図である。なお、
図2において、流体Aは、散乱物質を含んでおり、説明の便宜のためいくつかを白の楕円で示してある。また、
図2において、散乱物質は速度Vで右方向に流動している。
【0034】
発光部62から流路Bに向けて照射される光には、入射光Le1及び入射光Le2が含まれる。入射光Le1及び入射光Le2は、発光部62から照射される際、周波数f0の光とする。なお、周波数f0の入射光Le1を、Le1(f0)と示し、周波数f0の入射光Le2を、Le2(f0)と示す。
【0035】
入射光Le1は、静止した流路Bの表面において界面反射する。すなわち、入射光Le1は、流体Aによって散乱されず、流路Bの表面によって散乱される。入射光Le1は、流路Bの表面によって散乱されて、散乱光Lr1になる。散乱光Lr1は、入射光Le1が静止している流路Bの表面によって散乱されたものである。この時、流路Bは静止しており、ドップラー効果が生じないため、入射光Le1の周波数f0は変化しない。なお、周波数f0の散乱光Lr1を、Lr1(f0)と示す。
【0036】
入射光Le2は、流路Bの表面において界面反射せずに、流路Bの表面を透過する。すなわち、入射光Le2は、流路Bの表面によって散乱されずに、流体Aによって散乱される。入射光Le2は、流体Aによって散乱されて散乱光Lr2になる。この時、入射光Le2は、流体Aによって散乱されているため、周波数f0はドップラーシフトする。なお、周波数f0が周波数Δfだけ変化した散乱光Lr2を、Lr2(f0+Δf)と示す。
【0037】
受光部64は、上述した散乱光Lr1及び散乱光Lr2を受光する。したがって、流体測定装置1は、受光部64の出力を一要素として、流体Aの流動状態を推定することができる。
【0038】
図3は、一実施形態に係る流体測定装置1の制御部10が実行する流動状態推定のフローチャートの例である。
【0039】
まず、生成部12は、受光部64からの出力に基づいて、静止している流路Bからの散乱光Lr1と、測定対象の流体Aからの乱光Lr2との干渉によって生じる干渉光のうなりの信号(ビート信号)を取得する(ステップS1)。ビート信号は、うなりの強度と時間の関係を示すものである。
【0040】
図4は、
図3のステップS1において取得されるビート信号の一例を示す図である。
図4の縦軸は信号出力の強度を表し、横軸は時間を表している。
図4に示す例において、受光部64からの信号出力は電圧値であり、信号出力Vsとして電圧の単位(V)で示してある。なお、ビート信号は、信号出力の強度の時間変化を示すものであれば、電圧に限定されない。信号出力は、例えば、電流値または抵抗値などであってもよい。
【0041】
次に、生成部12は、取得したビート信号に基づいて、測定対象の流体に基づく周波数スペクトル(第1周波数スペクトル)S1を生成する(ステップS2)。周波数スペクトルは、ビート信号に含まれる周波数fと周波数ごとの強度P(f)との関係を示したスペクトルである。生成部12は、ステップS1で取得したビート信号を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)することで、周波数スペクトルを生成することができる。
【0042】
図5は、周波数スペクトルの例を示す図である。
図5の縦軸は任意単位(arbitrary unit)の強度P(f)を表し、横軸は周波数fを表している。なお、
図5では、流体Aの流速が2mm/s、4mm/s、6mm/s、8mm/s、10mm/s、及び14mm/sの場合における周波数スペクトルを例として示している。
【0043】
周波数スペクトルにおいて、流体Aの流速が速くなるほど、高周波数側の周波数の強度が増加する。流体測定装置1は、このような周波数スペクトルの変化に基づいて、流体の流動状態を推定することができる。
【0044】
推定部16は、周波数スペクトルP(f)に対し、周波数の重み付けを行うことができる(式(1))。すなわち、各周波数fとその強度P(f)の積を算出することができる。
【数1】
推定部16は、上記式(1)を適当な周波数範囲で積分することにより、以下の積分値を算出することができる(式(2))。
【数2】
推定部16は、上記式(2)のようにして得られた積分値に比例定数Kを乗じる。そして、推定部16は、レーザ光のような光の受光強度に依存しなくなるように、受光信号の全パワー(Iの2乗)、すなわちDC成分でこれを除することで規格化することにより、以下のような値を算出することができる(式(3))。
【数3】
【0045】
推定部16は、算出した測定対象の流体の式(3)の値と、予め既知の流動状態の流体を測定して算出した式(3)の値を比較することで、測定対象の流体の流動状態を推定することができる。
【0046】
図6は、一実施形態に係る流体測定装置1が推定した流体の流量の例を示す図である。なお、
図6は、例として、血管内の血液の流量、すなわち血流量の時間変化を示している。縦軸に示している血流量は、任意単位(arbitrary unit)である。
【0047】
ここで、測定環境等によっては、周波数スペクトルに意図しないノイズが含まれる場合があった。したがって、ノイズの影響を排除せずに測定を行った場合、測定精度が低減していた。これに対し、一実施形態に係る流体測定装置1は、周波数スペクトルP(f)に含まれる流体の流動状態ごとに特徴的な成分(特徴成分)に基づいて、流体の流動状態を推定することができる。その結果、流体測定装置1は、種々のノイズの影響を低減することができるため、推定精度を向上させることができる。すなわち、流体測定装置1は、利便性を高めることができる。
【0048】
また、ドップラーシフトの原理を利用した流量計は、レーザ光の発光量のぶれがノイズとして検出されることがあった。したがって、周波数スペクトルで示される強度は、遅い流体の散乱光成分とレーザのぶれの成分との総和となる。すなわち、測定精度が軽減していた。これに対し、一実施形態に係る流体測定装置1は、ノイズの影響を低減させることができるため、推定精度を向上させることができる。
【0049】
また、FFT解析を行う際の周波数軸の上限は、サンプリングレートに依存する。このため、FFT解析の周波数の上限を超える周波数のドップラーシフト量は観測されなかった。すなわち、流体の流量または流速が大きくなるにつれて、測定精度が低減していた。これに対し、流体測定装置1は、種々の特徴成分に基づいて流体の流動状態を推定することができるため、推定精度を向上させることができる。
【0050】
また、流体の流量の大きさは、流路の断面積にも依存する。すなわち、同じ流量の流体でも、細い流路であれば速く流れ、太い流路であれば遅く流れることになる。このため、流量を測定する際、流路の断面積が不明であれば流量を測定することが困難であった。これに対し、一実施形態に係る流体測定装置1は、必ずしも流路の断面積の情報を用いることなく、流量を推定することができる。すなわち、流体測定装置1は、利便性を高めることができる。
【0051】
また、一実施形態に係る流体測定装置1は、非侵襲に測定することができ、利便性を向上させることができる。
【0052】
以下、一実施形態に係る流体測定装置1による流体測定について、さらに説明する。
【0053】
流体測定装置1の取得部14は、ステップS2において取得した第1周波数スペクトルS1との対比の対象となる、既知の流動状態の流体に基づく周波数スペクトル(第2周波数スペクトル)S2を記憶部20から取得することができる(ステップS3)。この場合、流体測定装置1は、予め既知の流動状態の流体の測定を行い、既知の流動状態と生成部12で生成した第2周波数スペクトルS2との関係を記憶部20に記憶させておけばよい。また、ステップS3において、流体測定装置1は、第2周波数スペクトルS2を、通信部30を介して例えば外部サーバ若しくはクラウドサーバのような外部機器に記憶させてもよい。この場合、取得部14は、通信部30を介して、第2周波数スペクトルS2を取得すればよい。流体測定装置1は、予め記憶部20等に第2周波数スペクトルを記憶させておくことで、実測時間を短縮することができる。すなわち、流体測定装置1は、利便性を高めることができる。
【0054】
なお、既知の流動状態は、任意の手法によって把握すればよい。既知の流動状態は、例えば、熱式又は渦電流式などの他の流量計、または設定された流量で流体を流動させることができるポンプなどを用いて把握すればよい。
【0055】
また、流体測定装置1は、周波数スペクトルとともに、周波数スペクトルを実現する各種の測定条件も含めて記憶しておいてもよい。測定条件とは、例えば、サンプリングレート、ADC変換レートなどのアルゴリズムの条件、または気温、気圧などの測定環境の条件等であればよい。また、流体測定装置1は、LDなどで構成される発光部62の強度分散、発光部62が照射する光の周波数、流路Bとセンサ部60との位置関係、流路Bの断面積、流路Bを構成する素材・材質、想定される実験環境のノイズなども適宜記録してよい。また、流体測定装置1は、流体の種類、物理・化学特性なども記録してよい。その結果、流体測定装置1は、測定条件の差異に起因する測定誤差の影響を低減することができるため、推定精度を向上させることができる。
【0056】
また、記憶した第2周波数スペクトルS2及び当該スペクトルを実現する各種の変数等は、定期的又は不定期に、通信部30等を介して外部サーバなどから情報の取得を行うことで適宜更新されてもよい。その結果、測定に適した条件を適宜選択することができるため、流体測定装置1は、利便性を向上させることができる。
【0057】
推定部16は、第1周波数スペクトルS1の特徴成分S1cと、第2周波数スペクトルS2の特徴成分S2cとを対比する(ステップS4)。取得部14は、第1周波数スペクトルS1の特徴成分S1cと対比するのに好適な特徴成分を有する第2周波数スペクトルS2を選定して取得することができる。
【0058】
推定部16は、以下の式(4)の値が最小になるときの第2周波数スペクトルS2を採用して、第1周波数スペクトルS1と対比することで、流体Aの流動状態を推定してよい。その結果、流体測定装置1は推定精度を向上させることができる。なお、以下の式(4)において、F及びfの一方は第1周波数スペクトルS1に基づく値であり、他方は第2周波数スペクトルS2に基づく値としてよい。
【数4】
【0059】
また、推定部16は、上記式(4)に周波数スペクトルの平均周波数の強度を変数として加えてもよい。平均周波数の強度は、以下の式(5)で算出すればよい。
【数5】
【0060】
推定部16は、上記式(5)に基づいて、第1周波数スペクトルS1における平均周波数の強度fと、第2周波数スペクトルS2における平均周波数の強度Fを算出することができる。そして、推定部16は、以下の式(6)のように、平均周波数の強度fと平均周波数の強度Fの平均二乗誤差を比較式に加えて、最も値が小さくなる第2周波数スペクトルS2対応する流動状態を、測定対象の流動状態として推定してもよい。その結果、流体測定装置1は推定精度を向上させることができる。
【数6】
【0061】
流体測定装置1の制御部10は、上述のように記憶した周波数スペクトルから、特徴成分を抽出することができる。その結果、流体測定装置1は、測定したい流体ごとに特徴成分を取得することができるため、利便性を高めることができる。なお、記憶部20は、抽出した特徴成分をさらに記憶してもよい。
【0062】
周波数スペクトルの特徴成分は、例えば次のようなものであればよい。
(1)周波数スペクトルにおける特定周波数の強度の値
制御部10は、測定する流体ごとに、ノイズが少ない周波数の強度を特徴成分として抽出することができる。これによれば、流体測定装置1は、測定結果のノイズを低減させることができるため、好適な測定が可能となる。ノイズが少ない周波数の強度とは、例えば、周波数fとその強度P(f)の積が最大となる周波数の強度等であればよい。
(2)周波数スペクトルにおける特定周波数の強度と、他の特定周波数の強度との比
これによれば、各周波数の強度に共通するノイズを低減することができる。すなわち、推定部16は、推定精度を向上させることができるため、好適な測定が可能となる。
(3)周波数スペクトルの強度の平均
これによれば、推定部16は、測定データを平滑化・規格化することができるため、流動状態ごとの強度の特徴を把握しやすくなる。したがって、推定部16は、第1周波数スペクトルS1と第2周波数スペクトルS2との対比が容易となる。また、角周波数の強度に共通するノイズを低減することができるため、推定部16は、推定精度を向上させることができる。
(4)周波数スペクトルの特定周波数区間において積分した強度の値
推定部16は、ノイズの少ない周波数区間を選択して演算することができる。これによれば、流体測定装置1は、測定結果のノイズを低減させることができるため、好適な測定が可能となる。また、流動状態に応じて周波数スペクトルの強度は変化するため、これらを積分した値は、流動状態に応じて変化しやすく、流動状態ごとの特徴を反映しやすくなる。すなわち、推定部16は、推定精度を向上させることができる。
(5)周波数スペクトルの特定周波数区間における強度の平均
これによれば、推定部16は、測定データを平滑化・規格化することができるため、流動状態ごとの強度の特徴を把握しやすくなる。したがって、推定部16は、第1周波数スペクトルS1と第2周波数スペクトルS2との対比が容易となる。また、推定部16は、ノイズの少ない周波数区間を選択して演算することができるため、ノイズの影響を低減して演算することができる。すなわち、推定部16は、推定精度を向上させることができる。
(6)周波数スペクトルの特定周波数区間における強度の分散
これによれば、推定部16は、ノイズの影響を低減して演算することができるため、好適な測定が可能となる。
(7)特定時刻t1から他の特定時刻t2までの区間の周波数スペクトルにおける(2)の値の変化
これによれば、推定部16は、さらに時間方向の変化に基づく推定が可能となる。すなわち、推定部16は、流動状態の推定に用いる情報が増えるため、推定精度を向上させることができる。
【0063】
以上のような特徴成分は、第1周波数スペクトルS1と第2周波数スペクトルS2とが対比可能なパラメータであればよく、上記の数値に限られない。例えば、特徴成分は、パワースペクトルにおける特定区間の形状としてもよい。
【0064】
また、生成部12は、ビート信号を細かい所定時間で区切り、それぞれの所定時間における周波数スペクトルを生成することができるため、さらに時間の経過を示した三次元の周波数スペクトルを用意してもよい。流体測定装置1は、このような三次元の周波数スペクトルから、特徴成分を抽出してもよい。これによれば、流動状態の変化に伴う特徴成分の推移の傾向から、流動状態の推定が可能となる。すなわち、パワースペクトルの特徴成分ごとの推移の傾向が必ずしも一致する必要はなく、パワースペクトルの全体の推移の傾向が同一又は類似と判断されれば、流動状態の推定が可能となる。したがって、流体測定装置1の有用性を向上可能である。また、推定に用いることができる情報量が多くなるため、流体測定装置1は推定精度を向上させることができる。
【0065】
上述のような特徴成分の抽出は、それぞれ個別に用いるのみならず、それらの2つ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。また、例えば、特徴成分は、後述のステップS4において用いることができる。
【0066】
次に、推定部16は、ステップS4の対比結果に基づいて、流体Aの流動状態を推定し(ステップS5)、
図3に示す動作を終了する。ステップS5において推定される流体Aの流動状態は、例えば、流体Aの流速及び流量の少なくとも一方としてよい。推定部16は、第1周波数スペクトルS1の特徴成分S1cと同値または近似する第2周波数スペクトルS2の特徴成分S2cに対応する流動状態を、測定対象の流動状態と推定することができる。なお、推定部16が、特徴成分S1cと特徴成分S2cが近似していると判断する範囲は、ユーザの任意で定めればよい。
【0067】
推定部16は、周波数スペクトルの特定周波数区間の曲線の形状に基づいて、流動状態を推定してもよい。
図7及び
図8は、係る推定方法を説明するための図である。なお、周波数スペクトルの曲線は、直線も含む概念とする。以下、このような手法について説明する。なお、スペクトルの形状とは、例えば各周波数の強度の最大値同士を結んだ曲線、または強度の中間値同士を結んだ曲線などである。言い換えれば、各周波数の強度の最大値の集合、または中間値の集合などである。
【0068】
推定部16は、第1周波数スペクトルS1に対して2直線近似を行うことで、流動状態を推定してもよい。まず、推定部16は、任意の低周波数側の周波数から、高周波数側の方向へ直線近似を行う(例えば
図7の区間1)。この直線近似は、近似度が劣化するまで行えばよい。ここで、近似度が劣化したか否かは、例えば、カイ2乗検定によって判断すればよい。具体的には、カイ2乗値をその自由度で除したものが、特定閾値を超えた場合、近似度が劣化したとみなすことができる。そして、推定部16は、第1区間の終点と異なる任意の高周波数側の周波数から、低周波方向へ直線近似を行う(例えば
図7の区間2)。この直線近似も、区間1と同様に近似度が劣化するまで行えばよい。そして、推定部16は、2直線の交点(
図7における点X)を特徴周波数fとして算出することができる。
【0069】
次に、推定部16は、第2周波数スペクトルS2に対しても2直線近似を行う。近似の方法は、第1周波数スペクトルS1と同様であればよく、推定部16は、第2周波数スペクトルS2において特定周波数Fを算出することができる。
【0070】
そして、推定部16は、特定周波数fと最も近い特定周波数Fに対応する流動状態を、測定対象の流動状態として推定することができる。
【0071】
推定部16は、指数関数で近似することで流動状態を算出してもよい。まず、推定部16は、第1周波数スペクトルS1及び第2周波数スペクトルS2における特定の周波数区間(例えば2kHz〜20kHz)に対して、指数関数で近似を行う(例えば
図8における区間3)。次に、推定部16は、第1周波数スペクトルS1を近似して指数関数E1を取得し、第2周波数スペクトルS2を近似して指数関数E2を取得する。
【0072】
そして、推定部16は、指数関数E1のパラメータと最も合致度の高いパラメータを有する指数関数E2に対応する流動状態を、測定対象の流動状態として推定してもよい。
【0073】
ここで、上記で例示したように抽出した特徴成分は、例えばマシンラーニング又はディープラーニングのような、AI(Artificial Intelligence)に基づく各種の学習技術を用いて、さらに流動状態との重み付けされてもよい。すなわち、流体測定装置1は、各種の学習技術を用いて、流体の流動状態を算出してもよい。
【0074】
具体的には、推定部16は、既知の流動状態と第2周波数スペクトルの特徴成分との関係を各種の学習技術に学習させることができる。そして、推定部16は、第1周波数スペクトルの特徴成分と、各種の学習技術が重み付けを行なった流動状態と特徴成分の関係に基づいて、測定対象の流体の流動状態を算出することができる。これによれば、推定部16は、第1周波数スペクトルS1と第2周波数スペクトルS2との対比の精度を向上させることができるため、流体測定装置1は、有用性を向上させることができる。
【0075】
なお、例えば、教師あり学習の場合において、学習データは上記に例示した特徴成分であり、教師データは周波数スペクトルに対応する流体の流動状態であればよい。また、流体測定装置1は、周波数スペクトルを学習データ、周波数スペクトルに対応する流動状態を教師データとして、上記の特徴成分以外の特徴成分に基づいて流動状態を推定してもよい。また、学習で得られた流動状態と特徴成分の関係は、記憶部20などに適宜記憶されればよい。
【0076】
以上説明したように、特徴成分は、周波数スペクトルにおける少なくとも1つの特定周波数に対応する強度と、前記特定周波数以外の少なくとも1つの周波数に対応する強度との比をとしてもよい。また、特徴成分は、周波数スペクトルにおける特定区間に対応する強度の平均及び分散の少なくとも一方をとしてもよい。また、特徴成分は、周波数スペクトルにおける特定区間のスペクトルの形状としてもよい。
【0077】
なお、ステップ5において推定された流体Aの流動状態に関する情報は、例えば表示部40を介して各種の表示デバイスに表示してもよい。これにより、一実施形態に係る流体測定装置1のユーザは、流体Aの流動状態に関する情報を視認することができる。
【0078】
以上説明したように、一実施形態に係る流体測定装置1によれば、流体の流動状態に係る種々の条件において、流体の流動状態を適切かつ精度よく推定することができる。また、流体測定装置1は、従来のレーザドップラー流量計に対して比較的広範な範囲の流動状態の測定が可能である。すなわち、一実施形態に係る流体測定装置1は、利便性を高めることができる。
【0079】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各機能部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能である。複数の機能部等は、1つに組み合わせられたり、分割されたりしてよい。上述した本開示に係る各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施されうる。
【0080】
また、上述した実施形態は、流体測定装置1としての実施に限定されない。例えば、上述した実施形態は、流体測定装置1において実行されるような流体測定方法、及び流体測定装置1のような装置を制御するコンピュータに実行させるプログラムとして実施してもよい。
【0081】
一実施形態に係る流体測定方法は、流体を含む被照射物に向けて光を照射するステップと、流体で散乱した散乱光を受光するステップと、散乱光に基づいて周波数スペクトルを生成するステップと、周波数スペクトルの特徴成分に基づいて流体の流動状態を推定するステップと、を備える。そして、一実施形態に係る流体測定方法は、測定対象の流体に基づいて第1周波数スペクトル、及び既知の流動状態の流体に基づいて第2周波数スペクトルを生成した後、第1周波数スペクトルの特徴成分と第2周波数スペクトルの特徴成分を対比することで、測定対象の流体の流動状態を推定することができる。
【0082】
一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、流体を含む被照射物に向けて光を照射させるステップと、流体で散乱した散乱光を受光させるステップと、散乱光に基づいて周波数スペクトルを生成させるステップと、周波数スペクトルの特徴成分に基づいて流体の流動状態を推定させるステップと、を備える。そして、一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、測定対象の流体に基づいて第1周波数スペクトル、及び既知の流動状態の流体に基づいて第2周波数スペクトルを生成させた後、第1周波数スペクトルの特徴成分と第2周波数スペクトルの特徴成分を対比させることで、測定対象の流体の流動状態を推定させることができる。