【文献】
BIOCHEMICAL PHARMACOLOGY,2010年,Vol.79, No.7,p.1036 - 1044
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記培養培地内の前記因子の濃度が、前記せん断力の下、一定期間、in vitroで模倣された病理学的状態を維持することができるが、同濃度の因子は、前記せん断力が無い場合には、前記一定期間、前記in vitroで模倣された病理学的状態を維持することができないものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明により、病理学的状態または生理学的状態を模倣するためのin vitro法が提示される。医薬品業界および生物医薬品業界により、標準的なin vitroモデルとして現在用いられている静的なモデルとは異なり、本発明の方法は、培養細胞にせん断力を適用し、様々な因子のin vivoでの病理学的な濃度または生理学的な濃度を用いて、in vivoの病理学的な状態または生理学的な状態を再現するものである。たとえば、in vitroの肝モデルにおいて、肝細胞がインスリンおよびグルコースのin vivoの生理学的な濃度(標準的な静的モデルにおいて用いられていた濃度と比較して大幅に低い)で維持できることが判明している。さらに、より高いインスリン濃度およびグルコース濃度をそのようなモデルで用いた場合、肝細胞は、脂肪性肝疾患の多くの顕著な特徴を示すことも判明している。
【0016】
本発明はまた、in vitroで病理学的な状態を模倣する方法を目的とする。当該方法には、細胞培養容器に培養培地を添加すること、当該培養培地に少なくとも1つの因子を添加すること、当該細胞培養容器内の少なくとも1つの面に少なくとも1つの細胞型をプレーティングすること、および、当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。当該せん断力はフローデバイスにより生じた培養培地の流れから生じる。当該流れは、病理学的状態において、in vivoで当該少なくとも1つの細胞型が曝される流れを模倣している。
【0017】
培養培地中の因子の濃度は、病理学的状態において見られる当該因子のin vivo濃度範囲内であっても良い。あるいは、当該培養培地の当該因子の濃度は、薬物または化合物のin vivo投与から得られる当該因子の濃度範囲内であっても良い。
【0018】
in vivo病理学的状態が模倣されていることを確認するために、病理学的状態のマーカーのレベルにおける変化を、本発明の方法と、せん断力を適用しない同方法との間で比較しても良い。せん断力の適用下での、当該培養培地中のマーカーのレベル、または当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型におけるマーカーのレベルを、せん断力を適用していない当該培養培地中のマーカーのレベル、または当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型のマーカーのレベルと比較する。たとえば、もしマーカーが病理学的状態と関連していることが知られており、および、当該状態がin vivoで存在する際にそのマーカー濃度が血清中で増加することが知られている場合、せん断力を適用した本発明の方法の培養培地における当該マーカーのレベルが、せん断力を適用しない場合の培養培地中のマーカーのレベルと比較して増加していれば、当該in vivoの病理学的状態が、本発明のin vitro法により模倣されていることが裏付けられる。
【0019】
病理学的状態、当該病理学的状態に対する効果、生理学的状態、フローデバイス、血流力学的パターン、細胞型、および細胞培養培地(本発明の方法における使用のために当該細胞培養培地に添加される因子を含有する)が以下に詳述され、次いで、本発明の様々な方法が記述される。
【0020】
本発明はまた、病理学的状態に対する効果について、薬物または化合物を検証するin vitroの方法を目的とする。当該方法には、病理学的状態を模倣すること、当該培養培地に薬物または化合物を添加すること、および、当該または当該化合物に曝された少なくとも1つのプレーティングされた細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。当該薬物または化合物の存在下での、当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型における変化は、当該薬物または化合物が、当該病理学的状態に対する効果を有することを示す。
【0021】
薬物または化合物を検証するこのin vitroの方法において、病理学的状態は、上述の病理学的状態を模倣するin vitroの方法により模倣されても良い。
【0022】
また、薬物または化合物を検証するin vitroの方法の病理学的状態は、当該病理学的状態を有する対象(複数含む)由来の初代細胞または不死化細胞をプレーティングすること、および細胞培養培地中で当該細胞を培養すること、により模倣されても良い。
【0023】
本発明はまた、in vitroで生理学的状態を模倣する方法も目的とする。当該方法には、細胞培養容器に培養培地を添加すること、当該培養培地に少なくとも1つの因子を添加すること、当該細胞培養容器内の少なくとも1つの面に少なくとも1つの細胞型をプレーティングすること、および、当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。当該せん断力は、フローデバイスにより生じた当該培養培地の流れから生じる。当該流れは、当該生理学的状態において当該少なくとも1つの細胞型が曝される流れを模倣する。
【0024】
培養培地中の因子の濃度は、生理学的状態において見られる当該因子のin vivo濃度範囲内であっても良い。あるいは、当該培養培地の当該因子の濃度は、薬物または化合物のin vivo投与から得られる当該因子の濃度範囲内であっても良い。
【0025】
in vivoの生理学的状態が模倣されていることを確認するために、生理学的状態のマーカーのレベル変化を、本発明の方法と、せん断力を適用しない同方法との間で比較しても良い。せん断力の適用下での、当該培養培地中のマーカーのレベル、または当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型におけるマーカーのレベルを、せん断力を適用していない当該培養培地中のマーカーのレベル、または当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型のマーカーのレベルと比較する。たとえば、もしマーカーが生理学的状態と関連していることが知られており、および、当該状態がin vivoで存在する際にそのマーカー濃度が血清中で増加することが知られている場合、せん断力を適用した本発明の方法の培養培地における当該マーカーのレベルが、せん断力を適用しない場合の培養培地中のマーカーのレベルと比較して増加していれば、当該in vivoの生理学的状態が、本発明のin vitro法により模倣されていることが裏付けられる。
【0026】
本発明はまた、生理学的状態に対する効果について、薬物または化合物を検証するin vitroの方法を目的とする。当該方法には、生理学的状態を模倣すること、当該培養培地に薬物または化合物を添加すること、および、当該または当該化合物に曝された少なくとも1つのプレーティングされた細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。当該薬物または化合物の存在下での、当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型における変化は、当該薬物または化合物が、当該生理学的状態に対する効果を有することを示す。
【0027】
薬物または化合物を検証するこのin vitroの方法において、生理学的状態は、上述の生理学的状態を模倣するin vitroの方法により模倣されても良い。
【0028】
また、薬物または化合物を検証するin vitroの本方法の生理学的状態は、初代細胞または不死化細胞をプレーティングすること、当該細胞を細胞培養培地中で培養することにより模倣されても良い。当該初代細胞または不死化細胞は以下に詳述される。
【0029】
本発明はまた、効果について薬物または化合物を検証するin vitroの方法に関する。当該方法には、細胞培養容器に培養培地を添加すること、少なくとも1つの細胞型を当該細胞培養容器内の少なくとも1つの面にプレーティングすること、当該培養培地に薬物または化合物を添加すること、および、当該薬物または当該化合物に曝された当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。当該培養培地当該薬物または化合物の濃度は、in vivoで当該効果を得られる当該薬物または化合物の濃度範囲内である。当該せん断力は、フローデバイスにより生じた当該培養培地の流れから生じる。当該流れは、in vivoで当該少なくとも1つの細胞型が曝される流れを模倣する。当該薬物または化合物の存在下での当該少なくとも1つのプレーティングされた細胞型における変化は、当該薬物または化合物が当該効果を有していることを示す。
【0030】
当該効果は、病理学的状態に対する効果であっても良い。あるいは、当該効果は生理学的状態に対する効果であっても良い。さらに、以下に効果について詳述する。
【0031】
本発明の任意の方法において、当該方法にはさらに、サイトカイン分泌、ケモカイン分泌、液性因子分泌、微粒子分泌、増殖因子分泌、細胞表面からのタンパク質の脱落、化合物の代謝物、免疫細胞、一酸化窒素分泌、血管拡張タンパク質、血管収縮タンパク質、miRNA、分泌タンパク質、または分泌された生物学的物質について、細胞培養培地を分析することが含まれる。当該細胞培養培地は、硝酸塩または亜硝酸塩濃度の測定により、一酸化窒素の分泌について分析されても良い。
【0032】
当該細胞培養培地が、細胞表面からのタンパク質の脱落について分析される場合、当該タンパク質には、血管細胞接着分子(VCAM)、E−セレクチン、または細胞内接着分子(ICAM)が含まれうる。
【0033】
本発明の任意の方法において、当該細胞型(複数含む)を培養する工程が当該方法にさらに含まれても良い。
【0034】
薬物または化合物が培養培地に添加される場合の本発明の任意の方法において、当該方法は、当該細胞型の内の少なくとも1つに対する当該薬物または当該化合物の効果を測定するために、当該培地が当該薬物または当該化合物を含まない一定期間、当該せん断力を適用した後に、当該細胞型の内の少なくとも1つに対する当該薬物または当該化合物を当該培地が含む一定期間、当該せん断力を適用した後で、当該細胞型の内の少なくとも1つを比較する工程をさらに含んでも良い。
【0035】
In vitro 肝モデル
薬物または化合物が、健常な肝臓に対する効果について検証される場合、因子にはインスリンおよびグルコースが含まれ、肝細胞は細胞培養容器内の面におかれ、およびせん断力は当該プレーティングされた肝細胞に間接的に適用される。
【0036】
たとえば、肝細胞は、多孔膜の第一の面にプレーティングされても良い。次いで、当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、上層および下層が規定される。下層には肝細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれる。せん断力は、容器の上層の多孔膜の第二の面に適用される。
【0037】
本発明の任意の方法において、細胞をプレーティングすることにおいては、細胞培養容器内に吊るされた多孔膜の使用が好ましい。せん断力が、プレーティングされた細胞または多孔膜の面に適用される場合(たとえば、せん断力が、プレーティングされた細胞の無い膜の面に適用される場合)、当該せん断力は、上層から下層へ細胞培養培地を灌流することができる。そのような灌流により、上層から下層への(逆もまた然り)因子の移転に好ましい影響を与える。
【0038】
本発明はまた、in vitroで肝臓の生理学的状態または病理学的状態を模倣する方法を目的とする。当該方法には、細胞培養容器に培養培地を添加すること、少なくとも1つの因子を当該培養培地に添加すること、少なくとも1つの肝臓細胞型を当該細胞培養容器内の少なくとも1つの面にプレーティングすること、および、当該少なくとも1つのプレーティングされた肝細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。せん断力は、フローデバイスにより生じた当該培養培地の流れから生じる。当該流れは、病理学的状態または生理学的状態において、当該少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型がin vivoで曝される流れを模倣する。
【0039】
本方法において、病理学的状態を模倣するための培養培地中の因子の濃度は、当該病理学的状態において見られる因子のin vivoの濃度範囲内であっても良い。あるいは、本方法において、病理学的状態を模倣するための培養培地中の因子の濃度は、薬物または化合物の投与からin vivoで得られる当該因子の濃度範囲内であっても良い。さらに、本方法において、病理学的状態を模倣するための培養培地中の因子の濃度は、当該せん断力の下、一定期間、in vitroで模倣された病理学的状態を維持することができるが、同濃度の因子は、当該せん断力が無い場合には、当該一定期間、in vitroで模倣された当該病理学的状態を維持することができないものであっても良い。
【0040】
本方法において、生理学的状態を模倣するための培養培地中の因子の濃度は、当該生理学的状態において見られる因子のin vivoの濃度範囲内であっても良い。あるいは、本方法において、生理学的状態を模倣するための培養培地中の因子の濃度は、薬物または化合物の投与からin vivoで得られる当該因子の濃度範囲内であっても良い。さらに、本方法において、生理学的状態を模倣するための培養培地中の因子の濃度は、当該せん断力の下、一定期間、in vitroで模倣された生理学的状態を維持することができるが、同濃度の因子は、当該せん断力が無い場合には、当該一定期間、in vitroで模倣された当該生理学的状態を維持することができないものであっても良い。
【0041】
本方法において、せん断力の適用が無い場合の少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型もしくは培養培地中のマーカーレベルと比較した、せん断力が適用された状態の当該少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型もしくは当該培養培地における病理学的状態または生理学的状態の当該マーカーレベルにおける変化により、当該病理学的状態または生理学的状態の模倣を裏付けられる。
【0042】
あるいは、本方法において、当該少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型には、肝細胞が含まれ、および、当該肝細胞におけるグルカゴン、インスリンまたはグルコース基質に対する反応性は、当該生理学的状態の模倣を裏付ける。グルコース基質はたとえば、グリセロール、乳酸塩、ピルビン酸塩、またはそれらの組み合わせ(たとえば、乳酸塩とピルビン酸塩の組み合わせ等)であっても良い。
【0043】
本発明はまた、病理学的状態または生理学的状態に対する効果について薬物または化合物をin vitroで検証する方法も目的とする。当該方法には、病理学的状態または生理学的状態を模倣すること、培養培地に薬物または化合物を添加すること、および、当該薬物または化合物に曝された、少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型にせん断力を適用すること、が含まれる。当該薬物または化合物の存在下での、当該少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型における変化は、当該薬物または化合物が当該病理学的状態または生理学的状態に対する効果を有していることを示す。
【0044】
薬物または化合物をin vitroで検証する本方法において、当該病理学的状態は、上述の病理学的状態または生理学的状態を模倣するin vitroの方法により模倣されても良い。
【0045】
薬物または化合物を検証するin vitroの方法の病理学的状態または生理学的状態はまた、当該病理学的状態を有する対象(複数含む)から得た初代細胞または不死化細胞をプレーティングすること、および細胞培養培地中で当該細胞を培養すること、により模倣されても良い。
【0046】
本発明はまた、in vitroで肝臓の病理学的状態または生理学的状態を模倣する方法も目的とする。当該方法には、細胞培養容器に培養培地を添加すること、当該細胞培養容器内の面に少なくとも1つの細胞外マトリクス成分を配置させること、当該少なくとも1つの細胞外マトリクス成分に肝細胞をプレーティングすること、および、当該少なくとも1つの細胞外マトリクス成分および肝細胞にせん断力を適用すること、が含まれる。当該せん断力はフローデバイスにより生じた当該培養培地の流れから生じる。当該流れは、当該肝細胞が当該病理学的状態または生理学的状態においてin vivoで曝される流れを模倣する。
【0047】
肝臓細胞が多孔膜にプレーティングされる場合の本発明の方法において、少なくとも1つの細胞外マトリクス成分が、当該多孔膜の第一の面にプレーティングされても良く、および、次いで、当該少なくとも1つの細胞外マトリクス成分に当該肝臓細胞がプレーティングされても良い。任意選択的に、非実質性肝臓細胞(たとえば、類洞内皮細胞等)が、当該多孔膜の第二の面にプレーティングされても良く、および、せん断力が、当該非実質性肝臓細胞に適用されても良い。
【0048】
細胞外マトリクスの配置を含む本発明の方法において、たとえば、少なくとも1つの細胞外マトリクス成分が、多孔膜の第一の面に配置されても良い。肝臓細胞型(たとえば、肝細胞)を、次いで、当該少なくとも1つの細胞外マトリクス成分にプレーティングする。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、上層および下層が規定される。下層には少なくとも1つの細胞外マトリクス成分および当該肝臓細胞型(たとえば、肝細胞)が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれる。せん断力は、容器の上層の多孔膜の第二の面に適用される。任意選択的に、非実質性肝臓細胞(たとえば、類洞内皮細胞)を、多孔膜の第二の面に置いても良く、および、せん断応力を、当該非実質性肝臓細胞に適用しても良い。
【0049】
また、本発明により、in vitroで肝臓の病理学的状態または生理学的状態を模倣する他の方法が提示される。当該方法には、細胞培養容器に培養培地を添加すること、および多孔膜の第一の面に肝細胞をプレーティングすること、が含まれる。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には当該肝細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれる。せん断力は、容器の上層の多孔膜の第二の面に適用され、当該せん断力はフローデバイスにより生じた当該培養培地の流れから生じるものである。当該流れは、当該病理学的状態または生理学的状態において当該肝細胞がin vivoで曝される流れを模倣する。当該フローデバイスは、当該容器の当該上層の当該培養培地中に位置づけられるために適合されたボディおよび、当該ボディを回転させるために適合されたモーターを含有する。好ましくは、当該ボディは円錐面を有する。また、好ましくは、当該フローデバイスは、当該ボディの円錐面が当該容器内に位置づけられ、当該細胞培養培地と接触するように適合される。
【0050】
本方法にはさらに、多孔膜の第二の面に非実質性肝臓細胞をプレーティングすることが含まれ、ここで、せん断応力は、当該非実質性肝臓細胞に適用される。当該非実質性肝臓細胞には、類洞内皮細胞、肝臓星細胞、クッパー細胞またはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0051】
肝臓の病理学的状態または生理学的状態を模倣するためのin vitroの方法において、当該病理学的状態または生理学的状態のマーカーレベルの変化を、せん断力の適用が無い状態での、同発明方法と比較しても良い。せん断力の適用が無い状態での培養培地または肝臓細胞におけるマーカーレベルと比較した、当該せん断力が適用された状態での当該培養培地または任意の当該肝臓細胞におけるマーカーレベルの変化は、当該病理学的状態または生理学的状態の模倣を裏付ける。たとえば、せん断力の適用が無い状態での培養培地または肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞におけるマーカーレベルと比較した、当該せん断力が適用された状態での当該培養培地または当該肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞におけるマーカーレベルの変化は、当該病理学的状態または生理学的状態の模倣を裏付ける。
【0052】
あるいは、少なくとも1つのプレーティングされた肝臓細胞型に肝細胞が含まれる場合、グルカゴン、インスリンまたはグルコース基質に対する当該肝細胞における反応性は、当該生理学的状態の模倣を裏付ける。グルコース基質は、たとえば、グリセロール、乳酸塩、ピルビン酸塩、またはそれらの組み合わせ(たとえば、乳酸塩とピルビン酸塩の組み合わせ等)であっても良い。
【0053】
病理学的状態または関連因子
病理学的状態には、限定されないが、進行性炎症、アテローム性動脈硬化、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、高血圧、高血圧性脳障害、高血圧性網膜症、脂肪性肝疾患、高血圧、心不全、脳卒中、マルファン症候群、頸動脈内膜中膜肥厚、心房細動、腎疾患、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、高脂血症、高コレステロール血症、糖尿病、アテローム性粥腫崩壊、アテローム性粥腫浸食、胸部大動脈瘤、脳動脈瘤、腹部大動脈瘤、脳動脈瘤、肺動脈疾患、肺高血圧症、末梢動脈疾患、動脈血栓症、静脈血栓症(たとえば、深部静脈血栓症)、血管再狭窄、血管石灰化、心筋梗塞、肥満、高中性脂肪血症、低αリポ蛋白血症、脂肪性肝疾患、C型肝炎、B型肝炎、肝線維症、細菌感染、ウイルス感染、肝硬変、肝線維症、およびアルコール誘導性肝疾患が含まれる。
【0054】
病理学的状態に、たとえば、萎縮、結石、分離腫、病理学的な収縮、病理学的な拡張、憩室、肥大、ポリープ、脱出、裂傷、動静脈瘻、または付属物(たとえば、左心耳等)等の解剖学的状態が含まれても良い。
【0055】
血管の病理学的状態に対し、内皮細胞、平滑筋細胞または心内膜細胞が、細胞培養容器内の面にプレーティングされても良く、および、せん断力は当該プレーティングされた内皮細胞、平滑筋細胞または心内膜細胞に適用されても良い。
【0056】
血管の病理学的状態に対し、因子には、酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、グルコース、組織増殖因子β(TGFβ)、エラスチン分解産物、エラスターゼ、ビタミンD、無機リン酸、レプチン、アディポネクチン、アペリン、アルドステロン、アンギオテンシンII、トリグリセリド、高密度リポタンパク質(HDL)、酸化高密度リポタンパク質(oxHDL)、トリグリセリド富化リポタンパク質、低密度リポタンパク質(LDL)、インスリン、脂肪酸、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0057】
トリグリセリド富化リポタンパク質には、極低密度リポタンパク質(vLDL)、vLDL残余物、カイロミクロン、またはカイロミクロン残余物が含まれても良い。
【0058】
多孔膜が用いられる場合の血管の病理学的状態に対し、心内膜細胞は、多孔膜の第一の面にプレーティングされても良い。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には当該心内膜細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれる。せん断力は、上層の多孔膜の第二の面に適用される。任意選択的に、内膜細胞が多孔膜の第二の面にプレーティングされ、およびせん断力が当該プレーティングされた内膜細胞に適用されても良い。
【0059】
当該心内膜細胞は、平滑筋細胞を含んでも良い。
【0060】
血管の病理学的状態が心房細動、または心房細胞および関連高血圧である場合、当該細胞型は、内膜細胞、平滑筋細胞、心内膜細胞またはその組み合わせを含んでも良い。好ましくは、当該細胞型は、内膜;平滑筋;内膜および平滑筋;心内膜;または心内膜および内膜である。
【0061】
たとえば心房細動または、心房細動および関連高血圧等の血管の病理学的状態に対し、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、老齢の対象、または糖尿病、高血圧もしくは加齢をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0062】
血管の病理学的状態が心房細動、または心房細動および関連高血圧である場合、流れまたは血流力学的パターンは、心洞から誘導されてもよく、または心房細動リズムから誘導されてもよい。
【0063】
血管の病理学的状態が心房細動、または心房細動および関連高血圧である場合、因子は、oxLDL、TNFα、アルドステロン、アンギオテンシンII、またはそれらの組み合わせを含んでも良い。たとえば、因子(複数含む)は、oxLDL;TNFα;oxLDLおよびTNFα;アルドステロン;アンギオテンシンII;アルドステロンおよびアンギオテンシンII;oxLDL、TNFα、およびアンギオテンシンII;oxLDL、TNFαおよびアルドステロン;または、oxLDL、TNFα、アルドステロンおよびアンギオテンシンIIを含んでも良い。
【0064】
多孔膜が用いられる場合の血管の病理学的状態に対し、平滑筋細胞が、多孔膜の第一の面にプレーティングされても良い。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には当該平滑筋細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれる。せん断力は、上層の多孔膜の第二の面に適用される。任意選択的に、内膜細胞が多孔膜の第二の面にプレーティングされても良い。
【0065】
多孔膜が用いられる場合の血管の病理学的状態に対し、内膜細胞が、多孔膜の第二の面にプレーティングされても良い。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には多孔膜の第一の面が含まれ、上層には当該内膜細胞が含まれる。せん断力は、上層の当該内膜細胞に適用される。任意選択的に、平滑筋細胞が多孔膜の第一の面にプレーティングされても良い。
【0066】
たとえばアテローム性動脈硬化症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0067】
たとえばアテローム性動脈硬化症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、または糖尿病もしくは高血圧をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0068】
たとえばアテローム性動脈硬化症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、流れ、または血流力学パターンは、アテローム易発性(atheroprone)、アテローム保護的(atheroprotective、すなわち、「健常な状態」としても本明細書に記述される)、大腿動脈由来、または、細動脈由来であっても良い。
【0069】
たとえばアテローム性動脈硬化症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、因子は、LDL、oxLDL、TNFα、HDL、トリグリセリド富化リポタンパク質、またはそれらの組み合わせを含んでも良い。たとえば、因子(複数含む)は、LDL;LDLおよびoxLDL;oxLDL;HDL;HDLおよびoxLDL;TNFα;TNFαおよびoxLDL;TNFα、oxLDL、およびHDL;または、TNFα、oxLDL、およびトリグリセリド富化リポタンパク質を含んでも良い。
【0070】
たとえば高トリグリセリド血症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0071】
たとえば高トリグリセリド血症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、または糖尿病もしくは高血圧をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0072】
たとえば高トリグリセリド血症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、流れ、または血流力学パターンは、アテローム易発性(atheroprone)、アテローム保護的(atheroprotective)、大腿動脈由来、または、細動脈由来であっても良い。
【0073】
たとえば高トリグリセリド血症等の、血管の病理学的状態が進行性炎症である場合、因子は、トリグリセリド富化リポタンパク質を含んでも良い。
【0074】
血管の病理学的状態が腹部大動脈瘤である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0075】
血管の病理学的状態が腹部大動脈瘤である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、喫煙者、腹部大動脈瘤を有する対象、または、糖尿病もしくは高血圧をモデリングするために遺伝子改変された、または腹部大動脈瘤をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0076】
血管の病理学的状態が腹部大動脈瘤である場合、流れ、または血流力学的パターンは、腹部大動脈から誘導されてもよく、または腹部大動脈内のリズムから誘導されてもよい。
【0077】
血管の病理学的状態が腹部大動脈瘤である場合、因子には、oxLDL、TNFα、グルコース、エラスチン分解産物、エラスターゼ、アンギオテンシンII、アルドステロン、インスリン、TGFβ、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。たとえば、因子(複数含む)は、oxLDL;TNFα;グルコース;エラスチン分解産物;エラスターゼ;アンギオテンシンII;アルドステロン;インスリン;TGF−β;oxLDLおよびTNFα;oxLDLおよびグルコース;oxLDLおよびエラスチン分解産物;oxLDLおよびエラスターゼ;oxLDLおよびアンギオテンシンII;oxLDLおよびアルドステロン;oxLDLおよびインスリン;oxLDLおよびTGFβ;TNFαおよびグルコース;TNFαおよびエラスチン分解産物;TNFαおよびエラスターゼ;TNFαおよびアンギオテンシンII;TNFαおよびアルドステロン;TNFαおよびインスリン;TNFαおよびTGFβ;グルコースおよびエラスチン分解産物;グルコースおよびエラスターゼ;グルコースおよびアンギオテンシンII;グルコースおよびアルドステロン;グルコースおよびインスリン;グルコースおよびTGFβ;エラスチン分解産物およびエラスターゼ;エラスチン分解産物およびアンギオテンシンII;エラスチン分解産物およびアルドステロン;エラスチン分解産物およびインスリン;エラスチン分解産物およびTGFβ;エラスチン分解産物およびアンギオテンシンII;エラスターゼおよびアルドステロン;エラスターゼおよびインスリン;エラスターゼおよびTGFβ;アンギオテンシンIIおよびアルドステロン;アンギオテンシンIIおよびインスリン;アンギオテンシンIIおよびTGFβ;アルドステロンおよびインスリン;アルドステロンおよびTGFβ;インスリンおよびTGFβ;oxLDL、TNFα、およびグルコース;oxLDL、TNFα、およびエラスチン分解産物;oxLDL、TNFα、およびエラスターゼ;oxLDL、TNFα、およびアンギオテンシンII;oxLDL、TNFαおよびアルドステロン;oxLDL、TNFα、およびインスリン ;oxLDL、TNFα、およびTGFβ;TNFα、グルコース、およびエラスチン分解産物;TNFα、グルコースおよびエラスターゼ;TNFα、グルコースおよびアンギオテンシンII;TNFα、グルコースおよびアルドステロン;TNFα、グルコースおよびインスリン;TNFα、グルコースおよびTGF−β等であっても良い。
【0078】
血管の病理学的状態が腹部大動脈瘤である場合、タバコの抽出物が培養培地に添加されても良い。
【0079】
たとえば糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、または糖尿病性網膜症等の血管の病理学的状態が糖尿病性の血管の疾患である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0080】
たとえば糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、または糖尿病性網膜症等の血管の病理学的状態が糖尿病性の血管の疾患である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、または、糖尿病をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0081】
たとえば糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、または糖尿病性網膜症等の血管の病理学的状態が糖尿病性の血管の疾患である場合、流れ、または血流力学パターンは、アテローム易発性(atheroprone)、アテローム保護的(atheroprotective)、大腿動脈由来、または、細動脈由来であっても良い。
【0082】
たとえば糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、または糖尿病性網膜症等の血管の病理学的状態が糖尿病性の血管の疾患である場合、因子は、oxLDL、TNFα、グルコース、HDL、oxHDL、トリグリセリド富化リポタンパク質、インスリン、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。たとえば、因子(複数含む)は、グルコース;グルコースおよびインスリン;グルコース、oxLDL、およびTNFα;グルコース、インスリン、oxLDL、およびTNFα;グルコース、oxLDL、TNFα、およびHDL;グルコース、oxLDL、TNFα、およびoxHDL;グルコース、oxLDL、TNFα、HDL、およびoxHDL;グルコース、インスリン、oxLDL、TNFα、およびHDL;グルコース、インスリン、oxLDL、TNFα、およびoxHDL;グルコース、インスリン、oxLDL、TNFα、HDL、およびoxHDL;グルコース、oxLDL、TNFα、およびトリグリセリド富化リポタンパク質;または、グルコース、インスリン、oxLDL、TNFα、およびトリグリセリド富化リポタンパク質を含んでも良い。
【0083】
血管の病理学的状態が、高血圧である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0084】
血管の病理学的状態が、高血圧である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、または、糖尿病もしくは高血圧をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0085】
血管の病理学的状態が、高血圧である場合、流れ、または血流力学パターンは、アテローム易発性(atheroprone)、アテローム保護的(atheroprotective)、大腿動脈由来、肺動脈由来、または、細動脈由来であっても良い。
【0086】
血管の病理学的状態が、高血圧である場合、因子には、oxLDL、TNFα、アンギオテンシンII、アルドステロン、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。たとえば、因子(複数含む)には、アンギオテンシンII;アルドステロン;アンギオテンシンIIおよびアルドステロン;またはアンギオテンシンII、アルドステロン、oxLDLおよびTNFαを含んでも良い。
【0087】
血管の病理学的状態が、動脈石灰化である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0088】
血管の病理学的状態が、動脈石灰化である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、または、糖尿病もしくは高血圧をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0089】
血管の病理学的状態が、動脈石灰化である場合、流れ、または血流力学パターンは、アテローム易発性(atheroprone)、アテローム保護的(atheroprotective)、大腿動脈由来、肺動脈由来、または、細動脈由来であっても良い。
【0090】
血管の病理学的状態が、動脈石灰化である場合、因子には、oxLDL、TNFα、ビタミンD、無機リン酸、レプチン、アディポネクチン、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。たとえば、因子(複数含む)には、oxLDL;TNFα;ビタミンD;無機リン酸;レプチン;アディポネクチン;oxLDLおよびTNFα;oxLDLおよびビタミンD;oxLDLおよび無機リン酸;oxLDLおよびレプチン;oxLDLおよびアディポネクチン;TNFαおよびビタミンD;TNFαおよび無機リン酸;TNFαおよびレプチン;TNFαおよびアディポネクチン;ビタミンDおよび無機リン酸;ビタミンDおよびレプチン;ビタミンDおよびアディポネクチン;無機リン酸およびレプチン;無機リン酸およびアディポネクチン;レプチンおよびアディポネクチン;oxLDL、TNFα、およびビタミンD;oxLDL、TNFα、および無機リン酸;oxLDL、TNFα、およびレプチン;oxLDL、TNFα、およびアディポネクチン;TNFα、ビタミンDおよび無機リン酸;TNFα、ビタミンDおよびレプチン;TNFα、ビタミンDおよびアディポネクチン等が含まれても良い。
【0091】
血管の病理学的状態が、血栓症である場合、細胞型に、内膜細胞、平滑筋細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。好ましくは、細胞型は、内膜;平滑筋;または内膜および平滑筋である。
【0092】
血管の病理学的状態が、血栓症である場合、プレーティングされた細胞型は、正常な対象、糖尿病を有する対象、高血圧の対象、または、糖尿病もしくは高血圧をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0093】
血管の病理学的状態が、血栓症である場合、流れ、または血流力学パターンは、アテローム易発性(atheroprone)、アテローム保護的(atheroprotective)、大腿動脈由来、肺動脈由来、または、細動脈由来であっても良い。
【0094】
血管の病理学的状態が、血栓症である場合、因子には、TNFα、oxLDL、グルコース、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。たとえば、因子(複数含む)には、TNFα;oxLDL;グルコース;または、oxLDLおよびグルコースが含まれても良い。
【0095】
病理学的状態が脂肪性肝疾患である場合、細胞型に、肝細胞、非実質性肝臓細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。非実質性肝臓細胞には、類洞内皮細胞、肝臓星細胞、クッパー細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0096】
病理学的状態が脂肪性肝疾患である場合、流れ、または血流力学パターンは、正常な対象、脂肪性肝疾患を有する対象、または、脂肪性肝疾患をモデリングするために遺伝子改変された動物由来であっても良い。
【0097】
病理学的状態が脂肪性肝疾患であり、多孔膜が用いられている場合、肝細胞が、多孔膜の第一の面にプレーティングされても良い。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には当該肝細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれる。せん断力は、上層の多孔膜の第二の面に適用される。任意選択的に、非実質性肝臓細胞が多孔膜の第二の面にプレーティングされ、および、せん断力が上層の非実質性肝臓細胞に適用されても良い。任意選択的に、細胞外マトリクス成分が多孔膜の第一の面に配置されても良く、および、次いで、肝細胞が当該細胞外マトリクス上にプレーティングされても良い。
【0098】
病理学的状態が脂肪性肝疾患であり、多孔膜が用いられている場合、非実質性肝臓細胞が多孔膜の第二の面にプレーティングされても良い。当該多孔膜は、当該第一の面が細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には多孔膜の第一の面が含まれ、上層には当該非実質性肝臓細胞が含まれる。せん断力は、上層の当該非実質性肝臓細胞に適用される。任意選択的に、細胞外マトリクス成分が多孔膜の第一の面に配置されても良く、および、次いで、肝細胞が当該細胞外マトリクス上にプレーティングされても良い。
【0099】
血管の病理学的状態が脂肪性肝疾患である場合、因子に、インスリン、グルコースまたはそれらの組み合わせが含まれても良い。たとえば、因子(複数含む)には、インスリン;グルコース;またはインスリンおよびグルコースが含まれても良い。
【0100】
病理学的状態が糖尿病である場合、細胞型に、膵臓β細胞、膵臓α細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良く;および、因子に、インスリン、グルコース、またはインスリンおよびグルコースが含まれても良い。
【0101】
生理学的状態
本発明の方法で模倣することが出来る生理学的状態には、本明細書に記述される病理学的状態のような、対象の任意の病理学的状態に相当する生理学的状態が含まれる。たとえば、脂肪性肝疾患に相当する病理学的状態は、健常な肝臓の状態であっても良く、およびアテローム性動脈硬化症に相当する生理学的状態は、アテローム保護的な状態であっても良い。
【0102】
フローデバイス
せん断力を、培養培地に流れを誘導することができる適切なフローデバイスを用いて適用しても良く、ここで、当該流れは、病理学的状態または生理学的状態において、培養される細胞型(複数含む)がin vivoで曝される流れを模倣する。たとえば、フローデバイスは、コーンアンドプレートデバイスまたは、並行プレートフローデバイスであっても良い。
【0103】
フローデバイスは、米国特許第7,811,782号およびAtherosclerosis−prone hemodynamics differentially regulates endothelial and smooth muscle cell phenotypes and promotes pro−inflammatory priming, American J. Physiology & Cell Physiology 293:1824-33 (2007)(Hastingsら)(それらの各内容は、参照により本明細書に援用される)に実質的に記述されるコーンアンドプレートデバイスであっても良い。そのようなデバイスの例を
図15Bに記述する。デバイス200は、電子的指令のセットを受け取るための電子的コントローラーを含有し、モーター220は、当該電子的コントローラーにより操作され、および、せん断力アプリケーターは、当該モーターにより駆動されるために当該モーターに操作可能に連結される。せん断力アプリケーターは、当該モーターに付着されるコーン(円錐、cone)230を含有しても良く、当該コーンは、当該モーターにより直接駆動されても良い。当該モーターにより、各方向(時計回りまたは反時計回り)に当該コーンが回転させられる。
【0104】
コーンアンドプレートデバイスは、細胞培養容器(たとえば、ペトリディッシュ(たとえば、75mm直径のペトリディッシュ)等)を収容する。コーンは、細胞培養容器の内部にフィットするように適合される。ゆえに、たとえば、75mm直径のペトリディッシュの使用に適合されたデバイスでは、コーンは、約71.4mmの直径を有する。多くの場合、コーンは、浅い円錐角度を有する。たとえば、コーンの表面と、ペトリディッシュ内の面の間の角度は、およそ1°である。
【0105】
デバイスのコーンがペトリディッシュ内の培養培地に浸され、モーターにより回転されると、コーンにより、当該培養培地に回転力がかかり、次いで、当該細胞培養容器内にプレーティングされた細胞にせん断力がかかり、または、当該細胞培養容器内に吊るされた多孔膜の面にせん断力がかかる。
【0106】
コーンアンドプレートデバイスはまた、細胞培養容器をしっかりと保持するためのベースを含んでも良い。デバイスはまた、ペトリディッシュ上に取り付けられ、以下に詳述される上層と下層を灌流させるために用いられる流入管および流出管を固定するクリップを含んでも良い。
【0107】
流れは、前もって測定された血流力学的パターンから誘導されても良く、電子的指示のセットへとモデル化されても良い。フローデバイスは、電子的指示のセットを受け取るための電子的コントローラーを含有する。当該モーターは、当該電子的コントローラーにより操作される。せん断力アプリケーターは、当該モーターにより駆動されるモーターに操作可能に連結される。好ましくは、せん断力アプリケーターは、当該モーターに取り付けられるコーンを含有する。
【0108】
フローデバイスは、細胞培養容器と併せて用いられる。細胞培養容器は、細胞培養培地、因子、薬物、化合物および他の化合物の、細胞培養容器の内外への流れのための、入口および出口を含んでも良い。
【0109】
フローデバイスのための入口および出口は、クリップにより細胞培養容器に固定されても良い。そのようなクリップを
図23に示す。各クリップは、3つの部分から作られている:メインボディ1および2片の薄い金属管2および3(
図23に示す)。クリップは、ネジ4により、外側から細胞培養ディッシュの側面へ固定されても良い。たとえば、2つのクリップは、
図24AおよびBに示されるように、ネジ4により、外側からディッシュの側面へ付着および締められても良い。メインボディ1は、処置されたステンレススチール金属で作られており、付着およびアクセスの目的のためにディッシュの端のあたりを曲げている。クリップ1つにつき、薄い金属管の2片(2および3)が曲げられることにより、コーンの回転を妨害することなく、効率的な培地の供給および排出のためのディッシュへのアクセスがもたらされる。メインボディ1の各側面の位置決めネジ5は、金属管2、3をメインボディに固定し、培養培地内の正しい深さまで伸長するように、所定の位置に金属管を保持する。次いで、フレキシブルな管を、培地を引き出す(たとえば、実施例のデバイスにある機械的な蠕動ポンプを介して、原料ボトルからディッシュへと)ために用いられる金属管の上にスライドさせる。
【0110】
図24Aおよび24Bにおいて、細胞培養容器に位置づけられたクリップを示す。
図24に示される構造において、吊るされる多孔膜は、細胞培養容器内(内皮細胞のみ(
図24B)、または内皮細胞および平滑筋細胞(
図24A)が多孔膜の面にプレーティングされている)に吊るされている。
【0111】
血流力学的パターン
血流力学的パターンは、病理学的状態または疾患促進状態を有する対象(複数含む)から誘導されても良い。疾患促進状態には、萎縮、結石、分離腫、病理学的な収縮、病理学的な拡張、憩室、肥大、ポリープ、脱出、裂傷、動静脈瘻、または付属物(たとえば、左心耳)が含まれても良い。
【0112】
血流力学的パターンは、動脈、細動脈、静脈、細静脈、または器官の少なくとも1部から誘導されても良い。
【0113】
血流力学パターンが動脈または細動脈の少なくとも1部から誘導される場合、動脈または細動脈には、頸動脈、胸部動脈、腹部動脈、肺動脈、大腿動脈、腎輸出動脈、腎輸入動脈、冠状動脈、上腕動脈、内乳腺動脈、脳動脈、大動脈、前毛細血管細動脈、肝動脈、前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、脳底動脈、外頸動脈、内頚動脈、脊椎動脈、鎖骨下動脈、大動脈弓、腋窩動脈、内胸動脈、鰓動脈、深部鰓動脈、橈側反回動脈、上腹壁動脈、下行大動脈、下腹壁動脈、骨間動脈、橈骨動脈、尺骨動脈、掌側手根動脈弓、背側手根動脈弓、浅掌動脈弓または深掌動脈弓、指動脈、大腿回旋動脈の下行枝、下行膝動脈、上行膝動脈、下膝動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈、深部足底動脈弓、弓状動脈、総頸動脈、肋間動脈、右胃動脈または左胃動脈、腹腔動脈、脾動脈、総肝動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、下腸間膜動脈、精巣動脈、総腸骨動脈、内腸骨動脈、外腸骨動脈、大腿回旋動脈、貫通枝、深部大腿動脈、膝窩動脈、背側中足動脈、または背側指動脈が含まれてもよい。
【0114】
血流力学的パターンが静脈または細静脈の少なくとも1部から誘導される場合、静脈または細静脈には、後毛細血管細静脈、伏在静脈、肝門脈、上大静脈、下大静脈、冠状静脈、Thesbian静脈、表在静脈、穿通枝静脈、系統的静脈、肺静脈、頚静脈、S状静脈洞、外頚静脈、内頚静脈、下甲状腺静脈、鎖骨下静脈、内胸静脈、腋窩静脈、橈側皮静脈、気管支静脈、肋間静脈、尺側皮静脈、肘正中皮静脈、胸腹壁静脈、尺骨静脈、前腕正中皮静脈、下腹壁静脈、深掌動脈弓、浅掌動脈弓、掌側指静脈、心静脈、下大静脈、肝静脈、腎静脈、腹部大静脈、精巣静脈、総腸骨静脈、貫通枝、外腸骨静脈、内腸骨静脈、外陰部静脈、深部大腿静脈、大伏在静脈、大腿静脈、副伏在静脈、上膝静脈、膝窩静脈、下膝静脈、大伏在静脈、小伏在静脈、前脛骨静脈または後脛骨静脈、深部足底静脈、足背静脈弓、または足指静脈が含まれても良い。
【0115】
血流力学的パターンが器官の少なくとも1部から誘導される場合、当該器官には、肝臓、腎臓、肺、脳、膵臓、脾臓、大腸、小腸、心臓、骨格筋、眼、舌、生殖器、または臍帯が含まれても良い。
【0116】
血流力学的パターンは、超音波データの分析から誘導されても良い。
【0117】
血流力学的パターンは、磁気共鳴映像法(MRI)データの分析から誘導されても良い。
【0118】
流れ、または血流力学的パターンは、時間変数(time−variant)であっても良い。
【0119】
流れ、または血流力学パターンは、心臓の心房室、洞リズムの間の左心耳、心房細動、または心室細動から誘導されても良い。
【0120】
流れ、または血流力学的パターンが、心臓の心房室から誘導される場合、心臓の心房室には、左心房、右心房、左心室、または右心室が含まれても良い。
【0121】
流れ、または血流力学的パターンは、病理学的状態から生じた物理的変化からもたらされたものであっても良い。
【0122】
流れ、または血流力学的パターンは対象から誘導されても良く、ここで、血液の流れ、または血流力学的パターンは、薬物投与が為されていない対象に対する流れ、または血流力学的パターンと比較し、対象への薬物投与の直接的または間接的な効果として変化する。
【0123】
流れ、または血流力学的パターンは、たとえば遺伝子改変された動物またはヒト等の動物から誘導されても良い。好ましくは、当該パターンは、ヒトから誘導される。
【0124】
細胞型
本発明の方法において用いるための細胞型には、初代細胞および不死化細胞が含まれる。初代細胞または不死化細胞には、病理学的状態または生理学的状態を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に対するリスク因子を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、薬物毒性に関連した特定の遺伝子型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、または、薬物毒性に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、が含まれても良い。
【0125】
生理学的状態に関与する本発明のin vitro方法において用いられる初代細胞または不死化細胞には、生理学的状態を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に対するリスク因子を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、薬物毒性に関連した特定の遺伝子型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、または、薬物毒性に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、が含まれる。
【0126】
病理学的状態に関与する本発明のin vitro方法において用いられる初代細胞または不死化細胞には、病理学的状態を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に対するリスク因子を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、薬物毒性に関連した特定の遺伝子型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、または、薬物毒性に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、が含まれてもよい。
【0127】
病理学的状態に関与する本発明のin vitro方法において用いられる初代細胞または不死化細胞には、病理学的状態を有していない少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に対するリスク因子を有していない少なくとも1つの対象から単離された細胞、病理学的状態に関連した一塩基多型を有していない少なくとも1つの対象から単離された細胞、薬物毒性に関連した特定の遺伝子型を有していない少なくとも1つの対象から単離された細胞、または、薬物毒性に関連した一塩基多型を有していない少なくとも1つの対象から単離された細胞が含まれてもよい。
【0128】
病理学的状態に関与する本発明のin vitro方法において用いられる初代細胞または不死化細胞には、異なる病理学的状態を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、異なる病理学的状態に対するリスク因子を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、または異なる病理学的状態に関連した一塩基多型を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞、が含まれてもよい。
【0129】
細胞が病理学的状態に対するリスク因子を有する少なくとも1つの対象から単離された細胞である場合、当該リスク因子には、限定されないが、喫煙、年齢、性別、人種、エピジェネティックなインプリンティング、前記病理学的状態に関連した特定の遺伝子型、前記病理学的状態に関連した特定の一塩基多型、糖尿病、高血圧、アテローム性動脈硬化、アテローム性粥腫崩壊、アテローム性粥腫浸食、胸部大動脈瘤、脳動脈瘤、腹部大動脈瘤、脳動脈瘤、心不全、脳卒中、マルファン症候群、頸動脈内膜中膜肥厚、心房細動、腎疾患、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺動脈疾患、肺高血圧症、高脂血症、家族性高コレステロール血症、末梢動脈疾患、動脈血栓症、静脈血栓症(たとえば、深部静脈血栓症)、血管再狭窄、血管石灰化、心筋梗塞、肥満、高中性脂肪血症、低αリポ蛋白血症、脂肪性肝疾患、C型肝炎、B型肝炎、肝線維症、細菌感染、ウイルス感染、肝硬変、肝線維症、またはアルコール誘導性肝疾患が含まれても良い。
【0130】
初代細胞には、幹細胞(たとえば、成体幹細胞、胚幹細胞、人工多分化能性幹細胞、または骨髄由来幹細胞)または幹様細胞から誘導された細胞系統を含んでも良い。幹細胞または幹様細胞から誘導された細胞系統は、内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、肝細胞、神経細胞、内分泌細胞、膵臓β細胞、膵臓α細胞、または骨格筋細胞を含んでも良い。
【0131】
初代細胞は、病理学的状態を有する対象由来の人工多分化能性幹細胞(iPSC)由来の細胞を含んでも良い。たとえば、病理学的状態を有する対象由来のiPSC由来細胞は、家族性高コレステロール血症、I型グリコーゲン蓄積症、ウィルソン症、A1抗トリプシン欠損症、Crigler−Najjar症候群、進行性家族性遺伝性胆汁うっ滞、または遺伝性1型チロシン血症を有する対象由来のiPSC由来肝細胞を含んでも良い。あるいは、病理学的状態を有する対象由来のiPSC由来細胞は、Hutchinson−Gilford早老症、Williams−Beuren症候群、ファブリー病、スザック症候群、全身性毛細血管漏出症候群、Gleich症候群、血管内乳頭内皮肥厚、鎌状赤血球症、または肝静脈閉塞症を有する対象由来のiPSC由来血管細胞(たとえば、iPSC由来平滑筋細胞、iPSC由来内皮細胞、または、iPSC由来心内膜細胞)を含んでも良い。
【0132】
本発明の方法において用いるための細胞型には、腎細胞、気道の細胞、血液脳関門の細胞、血管細胞、肝細胞、すい臓細胞、心細胞、筋細胞、脾臓細胞、消化管細胞、皮膚細胞、肝臓細胞、免疫細胞または造血細胞が含まれる。
【0133】
本方法に用いるための特定の細胞型には、星細胞、内皮細胞、糸球体有窓性内皮細胞、腎上皮有足細胞、α細胞、β細胞、Δ細胞、膵臓ポリペプチド(PP)細胞、ε細胞、グリア細胞、肝細胞、神経細胞、非実質性肝臓細胞、有足細胞、平滑筋細胞、糸球体間質細胞、周皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、白血球、単球、筋細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、T細胞、B細胞、内皮前駆細胞、幹細胞、循環幹細胞または循環造血細胞を含む。非実質性肝臓細胞には、肝臓星細胞、類洞内皮細胞、またはクッパー細胞が含まれる。好ましくは、特定の細胞型には、内皮細胞、平滑筋細胞、肝細胞、類洞内皮細胞、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0134】
本発明の方法において用いるための細胞型は、たとえば遺伝子改変動物由来の細胞等の動物細胞型であっても良い。動物細胞型は好ましくはヒト細胞型である。ヒト細胞型は、年齢、性別、人種、エピジェネティクス、疾患、国籍、1以上の一塩基多型の有無、本明細書に記述されるリスク因子、または病理学的状態もしくは生理学的状態に関連する何か他の特徴に基づき選択されてもよい。
【0135】
本発明の方法において適用されるせん断力は、少なくとも1つのプレーティングされた細胞型に、間接的に適用されても良い。
【0136】
本発明の方法において適用されるせん断力は、少なくとも1つのプレーティングされた細胞型に、直接的に適用されても良い。
【0137】
細胞型、細胞外マトリクス成分等の付加的な静文、および多孔膜は、本発明の方法において、培養培地の内にある(すなわち、培養培地で覆われている)。
【0138】
本発明の方法はさらに、薬物または化合物からもたらされる、毒性、炎症、浸透性、適合性、細胞接着、細胞再構成、細胞移動、または表現型変化に対して、少なくとも1つの細胞型を分析することを含んでも良い。
【0139】
細胞培養培地
標準的な細胞培養培地を、本発明の方法において用いても良い。
【0140】
細胞培養培地に添加される因子
細胞培養培地に添加されうる因子を、関連病理学的状態または生理学的状態と併せて、明細書に記述する。
【0141】
In Vivo因子濃度
因子の生理学的なin vivo濃度は、これらin vivo濃度の測定法が公知であるように、当分野に公知である。たとえば、健常な人およびアテローム性動脈硬化症を有するヒトにおけるHDLの各in vivo濃度は、30mg/dl超〜200mg/dl、および30mg/dl未満である(全血から測定)。因子のin vivo濃度測定法は、United States Pharmacopeiaおよび他の文献で入手可能である。
【0142】
報告されている因子のin vivo濃度範囲は、当該範囲の測定に用いられた方法、因子を得た源(たとえば、全血か血清か)、患者の医学的状態(すなわち、病理学的状態または生理学的状態を有しているかどうか)、および、正常な睡眠および摂食スケジュールに対する時刻によって変化しうる。しかしながら、当分野の当業者には、文献に報告されている、in vivo生理学的濃度範囲を外れた濃度は、当該濃度の測定を報告した当該方法を用いた、in vivoの病理学的濃度であると理解されている。同様に、文献で報告されたin vivo病理学的濃度範囲の下限値を下回る、または上限値を上回る濃度は、当該濃度の測定を報告した当該方法を用いたin vivo病理学的濃度である(in vivo生理学的濃度が下限値を下回るか、または上限値を上回るかは、因子に依る)。たとえば、HDL因子のin vivo生理学的な濃度は、範囲の上限値を上回りうるが、oxLDL因子のin vivo生理学的濃度は、範囲の下限値を下回りうると、当業者に認識されている。
【0143】
他の成分
細胞外マトリクス成分
本発明の方法に用いるための細胞外マトリクス成分は、硫酸ヘパラン、硫酸コンドロイチン、硫酸ケラタン、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、またはそれらの組み合わせを含んでも良い。コラーゲンは好ましい細胞外マトリクス成分であり、特定の病理学的状態または生理学的状態に対してプレーティングされた細胞型(複数含む)のin vivo環境において存在するコラーゲンの型が好ましい。
【0144】
細胞外マトリクス成分は、細胞培養容器内の面にプレーティングされた線維芽細胞、軟骨細胞、または骨芽細胞から分泌されても良い。
【0145】
細胞外マトリクス成分は、肝臓に関与する、本発明の方法での使用に特に適している。
【0146】
薬物または化合物
薬物または化合物は、抗炎症剤、抗新生物剤、抗糖尿病剤、タンパク質キナーゼ阻害物質、抗血栓剤、血栓溶解剤、抗血小板剤、抗凝固物質、カルシウムチャンネルブロッカー、キレート剤、rhoキナーゼ阻害物質、抗高脂血剤、HDL上昇剤、抗再狭窄剤、抗生物質、免疫抑制物質、抗高血圧剤、利尿薬、食欲抑制物質、食欲抑制剤、抗うつ剤、抗精神病剤、避妊薬、カルシウム受容体刺激物質、生物学的医薬品、多発性硬化症治療、鎮痛剤、ホルモン補充療法、抗痙攣薬、またはそれらの組み合わせであっても良い。
【0147】
薬物が抗炎症剤である場合、当該抗炎症剤には、ステロイド(たとえば、プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、またはデキサメタゾン)、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)(たとえばアセチルサリチル酸等のサリチル酸、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、またはジクロフェナク)、選択性シクロオキシゲナーゼ阻害剤(たとえば、セレコキシブ、ロフェコキシブ、またはバルデコキシブ)、非選択性シクロオキシゲナーゼ阻害剤、免疫選択性抗炎症剤(たとえば、フェニルアラニン−グルタミン−グリシントリペプチド)、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0148】
薬物が抗新生物剤を含む場合、当該抗新生物剤には、アルキル化剤(たとえば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシド、またはイフォスファミド)、抗代謝物質(たとえば、アザチオプリンまたはメルカプトプリン)、植物アルカロイド(たとえば、パクリタキセルもしくはドセタキセル等のタキサン、たとえばビンクリスチン、ビンブラスチンもしくはビンデシン等のビンカアルカロイド、または、たとえばエトポシドもしくはテニポシド等のポドフィロトキシン)、トポイソメラーゼ阻害物質(たとえば、イリノテカン、トポテカン、またはアムサクリン)、細胞毒性抗生物質(たとえば、アクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、ミトマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、バルルビシン、イダルビシン、エピルビシン、またはリファンピシン)、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0149】
薬物が抗糖尿病剤である場合、当該抗糖尿病剤には、ビグアニド(たとえば、メトフォルミン)、チアゾリジンジオン(たとえば、ロシグリタゾン、トログリタゾン、またはピオグリタゾン)、スルホニルウレア(たとえば、トルブタミン、アセトへキサミド、トルアザミド、クロロプロパミド、グリパジド、グリブリド、グリメピリド、グリクラジド、グリコピラミド、またはグリキドン)、インクレチン模倣物(たとえば、エクセナチド、リラグルチド、またはタスポグルチド)、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害物質(たとえば、ビルダグリプチン、シタグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、アログリプチンまたはセプタグリプチン)、ナトリウム−グルコース共トランスポーター2阻害物質(たとえば、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、レモグリフロジン、またはセルグリフロジン(sergliflozin))、グルコキナーゼ活性化物質(たとえば、ピラグリアチン(piragliatin))、メグリチニド(たとえば、レパグリニド)、GPR40アゴニスト(たとえば、TAK−875)、またはグルカゴン受容体アンタゴニストが含まれても良い。
【0150】
また、抗糖尿病剤には、2以上の薬物の組み合わせが含まれても良い。たとえば、抗糖尿病剤には、チアゾリジンジオン(たとえば、ピオグリタゾン)およびメトフォルミンの組み合わせ;チアゾリジンジオン(たとえば、ピオグリタゾン)およびグリメピリドの組み合わせ;ジペプチジルペプチダーゼIV阻害物質(たとえば、シタグリプチン)およびスタチン(たとえば、シンバスタチン)の組み合わせ;または、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害物質(たとえば、シタグリプチン)およびメトフォルミンの組み合わせが含まれても良い。さらなる例として、抗糖尿病剤には、ダパグリフロジンおよびメトフォルミンの組み合わせ、または、ダパグリフロジンおよびサキサグリプチンの組み合わせが含まれても良い。
【0151】
薬物がタンパク質キナーゼ阻害物質を含む場合、当該タンパク質キナーゼ阻害物質には、セリン/スレオニン特異的キナーゼ阻害物質、チロシン特異的キナーゼ阻害物質(たとえば、イマチニブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、アキシチニブ、ラパチニブ、ルクソリチニブ、ソラフェニブ、フォスチマチニブ、バリシチニブ、またはトファシチニブ)、上皮細胞増殖因子(EGF)受容体阻害物質、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体阻害物質、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体阻害物質、または、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)受容体阻害物質が含まれても良い。
【0152】
薬物に抗血栓剤が含まれる場合、当該抗血栓剤には、ジピリダモール、ウロキナーゼ、r−ウロキナーゼ、r−プロウロキナーゼ、レテプラーゼ、アルテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、rt−PA、TNK−rt−PA、モンテプラーゼ、スタフィロキナーゼ、パミテプラーゼ、未分画ヘパリン、またはAPSACが含まれても良い。
【0153】
薬物に血栓溶解剤が含まれる場合、当該血栓溶解剤には、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、または組織プラスミノーゲン活性化物質が含まれても良い。
【0154】
薬物が抗血小板剤を含む場合、当該抗血小板剤には、糖タンパク質IIb/IIIa阻害物質、トロンボキサン阻害物質、アデノシン二リン酸塩受容体阻害物質、プロスタグランジンアナログ、またはホスホジエステラーゼ阻害物質が含まれても良い。たとえば、抗血小板剤には、クロピドグレル、アブシキシマブ、チロフィバン、オルボフィバン(orbofiban)、ゼミロフィバン、シブラフィバン、ロキシフィバン、またはチクロピニン(ticlopinin)が含まれても良い。
【0155】
薬物が抗凝固物質を含む場合、当該抗凝固物質には、ビタミンKアンタゴニスト(たとえば、ワーファリン)、第Xa因子阻害物質(たとえば、アピキサバン、ベトリキサバン、エドキサバン、オタミキサバン、リバロキサバン、フォンダパリヌクス、またはイドラパリヌクス)、または直接的トロンビン阻害物質(たとえば、ヒルジン、ビバリルジン、レピルジン、デシルジン、ダビガトラン、キシメラガトラン、メラガトラン、またはアルガトロバン)が含まれても良い。
【0156】
薬物にカルシウムチャンネルブロッカーが含まれる場合、当該カルシウムチャンネルブロッカーには、ベラパミル、ジルチアゼム、アムロジピン、アラニヂピン、アゼルニジピン、バルニジピン、ベニジピン、シルニジピン、クレビジピン、イスラジピン、エホニジピン、フェロジピン、ラシジピン、レルカニジピン、マニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、またはプラニヂピンが含まれても良い。
【0157】
薬物にキレート剤が含まれる場合、当該キレート剤には、ペニシラミン、トリエチレンテトラミンジヒドロクロリド、EDTA、DMSA、デフェロキサミンメシレート、またはバチマスタットが含まれても良い。
【0158】
薬物にrhoキナーゼ阻害物質が含まれる場合、当該rhoキナーゼ阻害物質には、Y27632が含まれても良い。
【0159】
薬物に抗高脂血剤が含まれる場合、当該抗高脂血剤には、スタチン(たとえば、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、またはシムバスタチン)、フィブレート(たとえば、ベザフィブレート、ベンザフィブリン酸、シプロフィブレート、シプロフィブリン酸、クロフィブレート、クロフィブリン酸、ゲムフィブロジル、フェノフィブレート、またはフェノフィブリン酸)、食事性コレステロール吸収の選択的阻害物質(たとえば、エゼチミベ)、コレステリルエステル転移タンパク質阻害物質(たとえば、アナセトラピブ、ダルセトラピブ、トルセトラピブ、またはエバセトラピブ)、プロスタグランジンD2受容体アンタゴニスト(たとえば、ラロピプラント)、オメガ−3−脂肪酸(たとえば、エイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA))、またはコレステロール降下剤(たとえば、ナイアシン)が含まれても良い。
【0160】
抗高脂血剤にはまた、2以上の薬物の組み合わせが含まれても良い。たとえば、当該抗高脂血剤には、ナイアシンおよびラロピプラントの組み合わせ、またはエゼチミベおよびシムバスタチンの組み合わせが含まれても良い。
【0161】
薬物にHDL上昇剤が含まれる場合、当該HDL上昇剤には、たとえばAMG145等のプロプロテインコンベルターゼサブチリジン/ケキシン9型(PCSK9)の阻害物質が含まれても良い。
【0162】
薬物に抗再狭窄剤が含まれる場合、当該抗再狭窄剤には、デキサメタゾンチクロピジン、クロピドグレル、シロリムス、パクリタキセル、ゾタロリムス、エベロリムス、またはウミロリムスが含まれても良い。
【0163】
薬物が抗生物質を含む場合、当該抗生物質にはアクチノマイシンDが含まれても良い。
【0164】
薬物が免疫抑制物質を含む場合、当該免疫抑制物質には、グルココルチコイド、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、ダクチノマイシン、ミトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、インターフェロン、インフリキシマブ、エタネルセプト、またはアダリムマブが含まれても良い。
【0165】
薬物に抗高血圧剤が含まれる場合、当該抗高血圧剤には、βアドレナリン受容体アンタゴニスト(たとえば、アルプレノロール、ブシンドロール、カルテオロール、カルベジロール、ラベタロール、ナドロール、オキスプレノロール、ペンブタロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、メトプロロールまたはネビボロール)、アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト(たとえば、ロサルタン、オルメサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、またはアジルサルタン)、またはアンギオテンシン転換酵素阻害物質(たとえば、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、キナプリル、ゾフェノプリル、イミダプリル、ベナゼプリル、トランドラプリル、またはラミプリル)が含まれても良い。
【0166】
薬物に利尿剤が含まれる場合、当該利尿剤には、フロセアミド、アミロリド、スピロノラクトン、またはヒドロクロロチアジドが含まれても良い。
【0167】
薬物に食欲抑制物質が含まれる場合、当該食欲抑制物質には、フェンテルミン、フェンフルラミン、デクスフェンフルラミン、シブトラミン、ロルカセリン、トピラメートまたはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0168】
薬物に抗うつ剤が含まれる場合、当該抗うつ剤には、イミプラミン、デシプラミン、アミトリプチリン(amitryptiline)、パロキセチン、シタロプラム、フルオキセチン、またはエスシタロプラムが含まれても良い。
【0169】
薬物に抗精神病薬が含まれる場合、当該抗精神病薬には、アリピプラゾール、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、カリプラジン、ルラシドン、またはアセナピンが含まれても良い。
【0170】
薬物に避妊薬が含まれる場合、当該避妊薬には、βエストラジオール、エチニルエストラジオール、プロゲステロン、レボノルゲストレル、またはドロスピレノンが含まれても良い。たとえば、当該避妊薬には、ドロスピレノンおよびエチニルエストラジオールの組み合わせが含まれても良い。
【0171】
薬物にカルシウムチャンネル刺激物質が含まれる場合、当該カルシウムチャンネル刺激物質には、シナカルセトが含まれても良い。
【0172】
薬物に生物学的医薬品が含まれる場合、当該生物学的医薬品には、合成多糖類、合成の、部分合成の、もしくはヒト化されたイムノグロブリン、または、組換え治療用タンパク質が含まれても良い。
【0173】
薬物に多発性硬化症治療が含まれる場合、当該多発性硬化症治療には、多発性硬化症に対する経口治療が含まれても良い。たとえば、当該多発性硬化症治療には、フマル酸のメチルエステル(たとえば、モノメチルフマル酸またはジメチルフマル酸)、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)受容体アゴニスト(たとえば、フィンゴリモド)、または免疫調節物質(たとえば、テリフルノミドまたはラキニモド(laquinimod))が含まれても良い。
【0174】
薬物に鎮痛剤が含まれる場合、当該鎮痛剤には、麻薬性鎮痛剤(たとえば、プロポキシフェン、フェンタニル、モルヒネ、またはモルヒネ代謝物(たとえば、3−グルクロニドまたはモルヒネ6−グルクロニド))またはオピオイドペプチド(たとえば、ダイノルフィンA)が含まれても良い。
【0175】
薬物にホルモン補充療法が含まれる場合、当該ホルモン補充療法には、結合型エストロゲン、βエストラジオール、エチニルエストラジオール、プロゲステロン、レボノルゲストレル、ドロスピレノン、またはテストステロンが含まれても良い。
【0176】
薬物に抗痙攣薬が含まれる場合、当該抗痙攣薬には、フェノバルビタールが含まれても良い。
【0177】
薬物にはまた、2以上の薬物の組み合わせが含まれても良い。たとえば、薬物には、利尿剤およびカルシウムチャンネルブロッカー(たとえば、ヒドロクロロチアジドおよびアムロジピンの組み合わせ)の組み合わせ;利尿剤およびアンギオテンシン受容体IIアンタゴニストの組み合わせ(たとえば、ヒドロクロロチアジドおよびロサルタンの組み合わせ);利尿剤およびβアドレナリン受容体アンタゴニストの組み合わせ(たとえば、ヒドロクロロチアジドおよびプロプラノロールの組み合わせ);または、利尿剤およびアンギオテンシン転換酵素阻害物質の組み合わせ(たとえば、ヒドロクロロチアジドおよびカプトプリルの組み合わせ)が含まれても良い。さらなる例として、薬物は、抗高脂血剤、抗高血圧剤、利尿剤、およびカルシウムチャンネルブロッカーの組み合わせ(たとえば、シムバスタチン、ロサルタン、ヒドロクロロチアジドおよびアムロジピンの組み合わせ)が含まれても良い。
【0178】
薬物または化合物には、造影剤、放射性同位体、プロドラッグ、抗体断片、抗体、生細胞、治療薬デリバリーミクロスフィア、マイクロビーズ、ナノ粒子、ゲルもしくは細胞含浸ゲル、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。
【0179】
化合物、少なくとも1つの細胞型でタンパク質または遺伝子の機能を阻害、活性化、または変化させることができるものであっても良い。
【0180】
薬物または化合物が、血管ステント物質からの溶出について評価されるものである場合、当該方法にはさらに、少なくとも1つの細胞型を、当該血管ステント物質との適合性、前記血管ステント物質への細胞接着、または前記血管ステント物質による表現型の変化に対して検証することが含まれても良い。
【0181】
薬物または化合物を検証することを含む任意の方法において、培養培地中の薬物または化合物の濃度は、適切に、in vivo効果が得られる薬物化合物の濃度範囲内にある。たとえば、培養培地中の薬物または化合物の濃度は、適切に、当該薬物または化合物に対するin vivo治療C
maxの濃度範囲内にある。
【0182】
血清
培養培地に因子を添加すること、または培養培地に薬物または化合物を添加することを含む、本明細書に記述される任意の方法において、当該培養培地に因子を添加する工程、または当該培養培地に薬物または化合物を添加する工程は、培養培地に対象由来の血清を添加する工程を含むことができ、ここで、当該血清は、因子、薬物、または化合物を含有する。
【0183】
当該対象は動物(たとえば、遺伝子改変した動物)またはヒトであっても良い。好ましくは、当該血清は、ヒト対象由来である。
【0184】
当該血清は、病理学的状態を有する対象、または生理学的状態を有する対象由来であっても良い。たとえば、血清が、病理学的状態を有する対象由来である場合、当該病理学的状態には、進行性炎症、アテローム性動脈硬化、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、高血圧、高血圧性脳障害、高血圧性網膜症、脂肪性肝疾患、高血圧、心不全、脳卒中、マルファン症候群、頸動脈内膜中膜肥厚、心房細動、腎疾患、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、高脂血症、高コレステロール血症、糖尿病、アテローム性粥腫崩壊、アテローム性粥腫浸食、胸部大動脈瘤、脳動脈瘤、腹部大動脈瘤、脳動脈瘤、肺動脈疾患、肺高血圧症、末梢動脈疾患、動脈血栓症、静脈血栓症(たとえば、深部静脈血栓症)、血管再狭窄、血管石灰化、心筋梗塞、肥満、高中性脂肪血症、低αリポ蛋白血症、C型肝炎、B型肝炎、肝線維症、細菌感染、ウイルス感染、肝硬変、肝線維症、およびアルコール誘導性肝疾患が含まれても良い。
【0185】
生理学的状態に対する効果、または病理学的状態に対する効果
効果について薬物または化合物を検証する方法において、当該効果には、生理学的状態または病理学的状態に対する効果が含まれても良い。たとえば、生理学的状態または病理学的状態に対する効果は、毒性効果、防御的効果、病理的効果、疾患促進効果、炎症効果、酸化効果、小胞体ストレス効果、ミトコンドリアストレス効果、アポトーシス効果、ネクローシス効果、組織修復効果、増殖効果、タンパク質活性に対する効果(たとえば、タンパク質の阻害またはタンパク質の活性化等)、または遺伝子発現に対する効果(たとえば、遺伝子発現の増加または遺伝子発現の減少)であっても良い。
【0186】
フローデバイスに対する、複合的な細胞型構成
本発明の方法にはさらに、培養培地、因子、薬物または化合物を細胞容器の内外に灌流することが含まれても良い。
【0187】
細胞培養容器内の面に、当該細胞培養容器に吊るされた多孔膜が含まれる場合、当該方法にはさらに、当該細胞培養容器内の面に少なくとも1つの細胞型をプレーティングする工程(多孔膜の第一の面に第一の細胞型をプレーティングし、任意選択的に、多孔膜の第二の面に第二の細胞型をプレーティングすることを含む)を含んでも良く、ここで、当該多孔膜は、当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には第一の細胞型が含まれ、上層には任意の第二の細胞型が含まれるよう規定される。多孔膜は、細胞培養培地の液体連結、ならびに、当該第一の細胞型の細胞と当該任意の第二の細胞型の細胞の間の物理的相互作用およびコミュニケーションが可能となるように適合されてもよい。せん断力は、上層の多孔膜の第二の面、または第二の細胞型に適用される。当該方法にはさらに、上層の内外に培養培地が灌流し、および、下層の内外に培養培地が灌流することが含まれても良い。当該方法にはさらに、上層および下層のうちの少なくとも1つへ薬物または化合物を灌流することを含んでも良い。
【0188】
細胞培養容器内の面に、当該細胞培養容器に吊るされた多孔膜が含まれる場合、当該方法にはさらに、当該細胞培養容器内の面に少なくとも1つの細胞型をプレーティングする工程(任意選択的に多孔膜の第一の面に第一の細胞型をプレーティングし、および、多孔膜の第二の面に第二の細胞型をプレーティングすることを含む)を含んでも良く、ここで、当該多孔膜は、当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には任意の第一の細胞型が含まれ、上層には第二の細胞型が含まれるよう規定される。多孔膜は、細胞培養培地の液体連結、ならびに、当該任意の第一の細胞型の細胞と当該第二の細胞型の細胞の間の物理的相互作用およびコミュニケーションが可能となるように適合されてもよい。せん断力は、上層の第二の細胞型に適用される。当該方法にはさらに、上層の内外に培養培地が灌流し、および、下層の内外に培養培地が灌流することが含まれても良い。当該方法にはさらに、上層および下層のうちの少なくとも1つへ薬物または化合物を灌流することを含んでも良い。
【0189】
細胞培養容器の入口および出口は、当該細胞培養容器の一部の内にあっても良く、それにより、上層および下層が定義される。
【0190】
本項に記述される方法にはさらに、第一の細胞型および第二の細胞型の内の少なくとも1つを、薬物または化合物からもたらされる、毒性、炎症、浸透性、適合性、細胞接着、細胞再構成、細胞移動、または表現型変化に対して分析することを含んでも良い。
【0191】
これらの方法にはさらに、容器の面、または多孔膜の第一の面もしくは第二の面に、第三の細胞型をプレーティングすること、上層内の培地に第三の細胞型を懸濁すること、または、下層内の培地に第三の細胞型を懸濁すること、を含んでも良い。
【0192】
これらの方法にはさらに、容器の面、または多孔膜の第一の面もしくは第二の面に、第四の細胞型をプレーティングすること、上層内の培地に第四の細胞型を懸濁すること、または、下層内の培地に第四の細胞型を懸濁すること、を含んでも良い。
【0193】
これらの方法にはさらに、容器の面、または多孔膜の第一の面もしくは第二の面に、第五の細胞型をプレーティングすること、上層内の培地に第五の細胞型を懸濁すること、または、下層内の培地に第五の細胞型を懸濁すること、を含んでも良い。
【0194】
当該第一、第二、第三、第四、および第五の細胞型は、細胞型に関する上記の項で記述される様々な初代細胞型または不死化細胞型であっても良い。
【0195】
これらの組み合わせのそれぞれにおいて、第三の細胞型の細胞、第四の細胞型の細胞、または第五の細胞型の細胞は、容器の底面に接着することができる。
【0196】
定義
本明細書に記述される本発明の目的に対し、「疾患促進状態」という用語は、疾患状態に寄与しうる、異常な身体的状態(すなわち、医学的に受容できる正常な生体構造から明らかに外れている脈管系の構造)を意味する。
【0197】
「因子」という用語は、病理学的な状態または生理学的な状態の発現に寄与する生物学的な物質を意味する。好ましくは、因子は、せん断力の適用が無い状態での培養培地中の、または少なくとも1つのプレーティングされた細胞型のマーカーのレベルと比較して、せん断力の適用で、培養培地中の、もしくは、少なくとも1つのプレーティングされた細胞型の、病理学的または生理学的状態のマーカーのレベルにおける変化をもたらすものである。
【0198】
「血流力学」という用語は、対象の組織におけるin vivoの血液の流れを模倣する血液の流れを意味する。たとえば、動脈の血液の流れが対象である場合、加速率/減速率、逆流、前向き基礎流等が、動脈の血流力学流を特徴付ける一部のパラメーターである。他の組織において(たとえば、肝臓)、一定の血液の流れを用いて、in vivo血流力学を特徴付けても良い。
【0199】
「病理学的状態」という用語は、異常な身体的または生理学的状態を意味し、疾患の客観的な症状または主観的な症状を含む。
【0200】
「生理学的状態」という用語は、病的ではない、正常な医学的状態を意味し、身体もしくは組織または器官の正常な機能または状態と一致する医学的な状態、または、身体もしくは組織または器官の正常な機能または状態の特徴である医学的な状態であっても良い。
【0201】
「対象」という用語は、動物(たとえば、遺伝子改変動物またはヒト)を意味する。当該動物には、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、霊長類、または医学研究で通常に用いられている任意の動物を含むことができる。
【0202】
特定のin vitroモデルに対し本発明の方法を使用した例を以下に記述する。
【0203】
血栓症
本発明の方法を用いて、in vitroで血栓症をモデル化することができる。凝固カスケードにおいて、トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンへと転換し、それは血管の表面に沈着して、血栓形成が開始される(血栓症)。TNFαは、強力な炎症性サイトカインである。TNFαおよび他のサイトカインは、in vitroで内皮細胞および平滑筋細胞由来組織因子の強力なメディエーターであることが示されており、それらは、血管壁へのフィブリンの沈着を調節する。心血管系疾患を有するヒトで検出される循環TNFαのレベルは、約0.01ng/ml〜約0.1ng/mlである。健常な個人では、循環TNFαのレベルはずっと低いか、検出限界以下である(たとえば、約0ng/ml〜約0.001ng/ml)。
【0204】
in vitroで血栓症をモデル化する方法において、内皮細胞は、細胞培養容器内の面にプレーティングされる。細胞培養容器内の面は、多孔膜の面であっても良く、および、当該多孔膜は、当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には多孔膜の第一の面が含まれ、上層には多孔膜の第二の面および内皮細胞が含まれるよう規定される。あるいは、内皮細胞がプレーティングされる面は細胞培養容器の底である。
【0205】
1以上の追加の細胞型が、細胞培養容器内の面にプレーティングされても良く、または、細胞培養容器内の培地に吊るされても良い。たとえば、平滑筋細胞を、細胞培養容器内の多孔膜の第一の面にプレーティングし、内皮細胞を多孔膜の第二の面に置いても良い。多孔膜は、当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には多孔膜の第一の面および平滑筋細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面および内皮細胞が含まれるよう規定される。
【0206】
単球、マクロファージ、好中球、内皮前駆細胞、循環幹細胞、循環造血細胞、または白血球を、任意選択的に上層または下層内の細胞培養培地に懸濁しても良い。
【0207】
せん断力を、プレーティングされた内皮細胞に適用し、ここで、当該せん断力は血流力学フローデバイスにより生じた培養培地の流れから得られたものである。当該流れは、血栓症が発生する可能性がある脈管構造の領域で、in vivoで内皮細胞が曝される流れを模倣する。たとえば、当該流れは、アテローム易発性(atheroprone)な血流力学的な流れである。
【0208】
培養培地に1以上の因子を添加する前に、せん断力を、一定期間、プレーティングされた内皮細胞に適用しても良い。たとえば、培養培地に1以上の因子を添加する前に、約12〜約48時間、約12〜約36時間、約16〜約32時間、または、約18〜約28時間、せん断力を内皮細胞に適用しても良い。たとえば、せん断力を、1以上の因子を添加する前に、約24時間、プレーティングされた内皮細胞に適用しても良い。あるいは、培養培地に1以上の因子を添加するのと同時に、せん断力をプレーティングされた内皮細胞に適用しても良い。
【0209】
1以上の因子を培養培地に添加しても良い。たとえば、培養培地に添加された1以上の因子は、血栓症の発現または進行に関与する因子でであっても良い。因子(複数含む)は、血管系疾患を有する対象において見られる因子のin vivo濃度範囲内である濃度で、培地に添加される。たとえば、TNFαは、血管系疾患を有する個人で見られるTNFαのin vivo濃度範囲内である濃度で、培養培地に添加されても良い。たとえば、TNFαは、約0.005ng/ml〜約0.2ng/ml、約0.01ng/ml〜約0.1ng/ml、約0.03ng/ml〜約0.07ng/ml、または、約0.04ng/ml〜約0.06ng/mlの濃度で培養培地に添加されても良い。TNFαは、約0.05ng/mlまたは約0.1ng/mlの濃度で培養培地に添加されても良い。
【0210】
他の因子もまた、TNFαに加えて培養培地に添加されても良い。たとえば、酸化LDL(oxLDL)、グルコース、またはoxLDLおよびグルコースの両方が、TNFαと組み合わせて、培養培地に添加されても良い。そのような因子は、血管系疾患を有する対象で見られる因子のin vivo濃度範囲内である濃度で、培養培地に添加される。健常な個人においては、oxLDLの血漿濃度は、多くの場合、約25μg/ml未満であり、一方、血管系疾患を有する患者においては、oxLDLの血漿濃度は、約25μg〜約100μg/ml超である。ゆえに、たとえば、oxLDLを,培養培地に約25μg〜約120μg/ml、約30μg〜約100μg/ml、約40μg〜約80μg/ml、または、約25μg〜約50μg/mlの濃度で添加しても良い。たとえば、oxLDLを、約25μg/ml、または約50μg/mlの濃度で培養培地に添加しても良い。
【0211】
グルコースもまた、培養培地に添加されても良い。糖尿病および関連グルコースレベルの増加は、血栓症のリスク因子である。健常な個人では、血中グルコース濃度は、約5mM〜約10mMである一方、糖尿病の個人では、血中グルコース濃度は、約10mM〜約20mM超の範囲にある。ゆえに、たとえば、グルコースを、約10mM〜約25mM、約12mM〜約20mM、または約14mM〜約18mMの濃度で培養培地に添加しても良い。たとえば、グルコースを、約15mM、または約17.5mMの量で培養培地に添加しても良い。
【0212】
プレーティングされた内皮細胞へのせん断力の適用は、細胞培養培地への1以上の因子の添加の後に、一定期間、適切に継続される。
【0213】
せん断力の適用は継続されてもよく、たとえば、約12時間〜約48時間、約18時間〜約36時間、または約20時間〜約30時間、約18時間〜約72時間、または約24時間〜約72時間、継続されても良い。たとえば、細胞培養培地に1以上の因子を添加した後、せん断応力を、約24時間、継続しても良い。
【0214】
次いで、内皮細胞を、血小板フリー血漿(PLP)、カルシウムおよびフィブリノーゲンとインキュベートすることにより、血栓形成が誘導されても良い。このインキュベーションは、静的な状態で実施することができる。あるいは、このインキュベーションの間に、内皮細胞へのせん断力の適用を継続しても良い。細胞培養培地を上層から除去し、次いで、内皮細胞へのせん断力の継続適用の有無にかかわらず、内皮細胞を、PLP、カルシウム、フィブリノーゲンと共にインキュベートしても良い。あるいは、せん断力の継続適用の有無にかかわらず、PLP、カルシウムおよびフィブリノーゲンを、上層の細胞培養培地に添加しても良い。
【0215】
血栓症の模倣は、任意の多くの方法により評価することができる。一般的には、せん断力を適用していない内皮細胞もしくは平滑筋細胞または培養培地におけるマーカーレベルと比較した、せん断力を適用した内皮細胞もしくは平滑筋細胞または培養培地における血栓症マーカーレベルの変化により、血栓症の模倣が裏付けられる。たとえば、血栓症の模倣は、フィブリン沈着の分析、遺伝子もしくはタンパク質および/または分泌微粒子または血栓症に関連したタンパク質の発現の分析、または、血栓症に関連したタンパク質の活性を分析することにより、評価することができる。
【0216】
アテローム性動脈硬化症
また、本発明を用いて、in vitroでアテローム性動脈硬化症をモデル化することができる。アテローム性動脈硬化症は、低く、振動性のせん断応力(アテローム易発性のせん断応力)が内皮細胞に炎症性応答を「プライムする(prime)」、血管系領域内での炎症性シグナル伝達により特徴付けられる局所性の炎症性疾患である。炎症性応答の重要なメディエーターは、転写因子NFκBであり、in vitroおよびin vivoで、アテローム易発性のせん断応力により活性化される。酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)は、進行性アテローム動脈硬化症の特徴であり、アテローム動脈硬化症の病変部位で見いだされ、心血管系の合併症を有する患者の循環血液中で増加する。oxLDLの主要成分である、酸化1−パルミトイル−2−アラキドノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(oxPAPC)は、標準的なNFκB経路を介して作用することは示されておらず、そして、oxLDLはin vitroの静的な単一培養においてNFκB依存性遺伝子の発現を増加させることができるが、多くの場合、これには、心血管系疾患を有する個人においてin vivoで観察されるよりも高い濃度のoxLDL(>100μg/ml)が必要となる。健常な患者においては、oxLDLの血漿濃度は、平均7μg/mlである一方で、心筋梗塞を有する患者の平均血漿濃度は、約28〜約34μg/mlであり、一部の患者は約60μg/mlのレベルである。TNFαもまた、進行性アテローム性動脈硬化症の病変部位で分泌されており、心筋梗塞を経験したことのある患者の循環血液中で上昇している。TNFαは強力な、炎症促進性サイトカインであり、高濃度(>1ng/ml)でNFκBのシグナル伝達を活性化することができる。
【0217】
従前のin vitro研究は、内皮細胞の静的な単一培養ですべて行われていた。本方法においては、対称的に、アテローム易発性の血流力学的せん断力が、NFκBシグナル伝達を活性化させることにより、内皮細胞の単一培養、または内皮細胞と平滑筋細胞の共培養を「プライム(prime)させ」、そして、oxLDLおよび/またはTNFα、ならびに任意選択的に他のある因子を、脈管系疾患を有する患者において見られる当該因子のin vivo濃度範囲内の濃度で添加することによって、さらにNFκB活性および下流の炎症性シグナル伝達を増強させる。
【0218】
in vitroでアテローム性動脈硬化症をモデル化する本方法において、内皮細胞は細胞培養容器内の面にプレーティングされる。細胞培養容器内の面は、多孔膜の面であっても良く、当該多孔膜は、当該多孔膜の当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされてもよく、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には多孔膜の第一の面が含まれ、上層には多孔膜の第二の面および内皮細胞が含まれるよう規定される。あるいは、内皮細胞がプレーティングされる面は、細胞培養容器の底である。
【0219】
1以上の追加の細胞型を、細胞培養容器内の面に置いても良く、または、細胞培養容器内の培地に懸濁しても良い。たとえば、平滑筋細胞を、細胞培養容器内の多孔膜の第一の面に置いても良く、および、内皮細胞を、当該多孔膜の第二の面に置いても良い。多孔膜は、当該多孔膜の当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には多孔膜の第一の面および平滑筋細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面および内皮細胞が含まれるよう規定される。
【0220】
単球、マクロファージ、好中球、内皮前駆細胞、循環幹細胞、循環造血細胞、または白血球を任意選択的に、上層または下層内の細胞培養培地内に懸濁しても良い。
【0221】
せん断力はプレーティングされた内皮細胞に適用され、ここで、当該せん断力は、血流力学的フローデバイスにより生じた培養培地の流れから生じるものである。当該流れは、アテローム性動脈硬化症が発生する可能性のある脈管系の領域で、in vivoで内皮細胞が曝される流れを模倣する。たとえは、当該流れは、アテローム易発性の血流力学的な流れである。
【0222】
1以上の因子が培養培地に添加される前に、一定期間、せん断力をプレーティングされた内皮細胞に適用しても良い。たとえば、1以上の因子を培養培地に添加する前に、約12時間〜約48時間、約12時間〜約36時間、約16時間〜約32時間、または約18時間〜約28時間、せん断力を内皮細胞に適用しても良い。たとえば、1以上の因子の添加の前に、約24時間、プレーティングされた内皮細胞にせん断力を適用しても良い。あるいは、1以上の因子を培養培地に添加すると同時に、プレーティングされた内皮細胞にせん断力を適用しても良い。
【0223】
1以上の因子を培養培地に添加しても良い。たとえば、培養培地に添加される1以上の因子は、アテローム性動脈硬化症の発現または進行に関与する因子であっても良い。そのような因子(複数含む)は、脈管系疾患を有する個人に置いて見られる因子のin vivo濃度範囲内の濃度で、培地に添加される。
【0224】
oxLDLを、脈管系疾患を有する個人に置いて見られるoxLDLのin vivo濃度範囲内の濃度で培養培地に添加しても良い。ゆえに、たとえば、oxLDLを,培養培地に、約25μg〜約120μg/ml、約30μg〜約100μg/ml、約40μg〜約80μg/ml、または、約25μg〜約50μg/mlの濃度で添加しても良い。たとえば、oxLDLを、約25μg/ml、または約50μg/mlの濃度で培養培地に添加しても良い。
【0225】
oxLDLの代わりに、またはoxLDLと併せて、のいずれかで、他の因子をまた、培養培地に添加しても良い。限定されないが、因子としては、TNFα、高密度リポタンパク質(HDL)、トリグリセリド、トリグリセリド富化リポタンパク質(極低密度リポタンパク質(vLDL)、vLDL残余物、カイロミクロン、および/またはカイロミクロン残余物を含む)、低密度リポタンパク質(LDL)、グルコース、インスリン、脂肪酸、TGFβ、または、それらの組み合わせが挙げられる。たとえば、TNFαを、oxLDLの代わりに培地に添加しても良い。あるいは、oxLDLおよびTNFαの両方を培地に添加しても良い。HDLをまた、任意選択的に培地に添加しても良い。たとえば、HDLを培地に単独で添加しても良く、または、たとえばTNFαおよびoxLDL等の他の因子と併せて添加しても良い。トリグリセリド、またはトリグリセリド富化リポタンパク質(vLDL、vLDL残余物、カイロミクロン、および/またはカイロミクロン残余物を含む)をまた、単独、または、1以上の他の因子と併せてのいずれかで、任意選択的に培地に添加しても良い。グルコースをまた、培地に任意選択的に添加しても良い。たとえば、グルコースを、単独、または、たとえばTNFα等の他の因子と併せて培地に添加しても良い。LDLまたはTGFβをまた、単独、または他の因子と併せてのいずれかで、培地に添加しても良い。
【0226】
因子は、脈管系疾患を有する個人に置いて見られる因子のin vivo濃度範囲内の濃度で培地に添加される。ゆえに、たとえば、TNFαは、約0.005ng/ml〜約0.2ng/ml、約0.01ng/ml〜約0.1ng/ml、約0.03ng/ml〜約0.07ng/ml、または、約0.04ng/ml〜約0.06ng/mlの濃度で培養培地に添加されても良い。たとえば、TNFαは、約0.05ng/mlまたは約0.1ng/mlの濃度で培養培地に添加されても良い。
【0227】
oxLDLを、約50μg/mlの濃度で培地に添加しても良い。
【0228】
TNFαを、約0.05ng/mlの濃度で培養培地に添加しても良い。
【0229】
HDLを、脈管系疾患を有する個人、または脈管系疾患のリスクがある個人に置いて見られるHDLのin vivo濃度範囲内の濃度で、培養培地に添加しても良い。脈管系疾患のリスクがある個人におけるHDLの濃度は、多くの場合、約300μg/ml未満である一方、健常な個人におけるHDL濃度は、約300μg/ml超〜約2,000μg/ml(健常な、運動をしている患者)の範囲である。ゆえに、たとえば、HDLを、約1μg/ml〜300μg/ml、約10μg/ml〜250μg/ml、約45μg/ml〜200μg/ml、または、約90μg/ml〜150μg/mlの濃度で培養培地に添加しても良い。たとえば、HDLを、約45μg/ml、または約90μg/mlの濃度で培養培地に添加しても良い。
【0230】
HDLは、TNFαおよびoxLDLと併せて、培養培地に適切に添加されても良い。HDL、TNFαおよびoxLDLは、それぞれが、脈管系疾患を有する個人に置いて見られる、これら因子のin vivo濃度範囲(たとえば、これらの成分のそれぞれについて上記の濃度範囲)内の濃度で適切に存在する。たとえば、HDLは、約45μg/ml、または約90μg/mlの濃度で培養培地に添加され、TNFαは、約0.05ng/mlの濃度で培養培地に添加され、および、oxLDLは、約50μg/mlの濃度で培養培地に添加される。
【0231】
トリグリセリドまたはトリグリセリド富化リポタンパク質(極低密度リポタンパク質(vLDL)、vLDL残余物、カイロミクロン、および/またはカイロミクロン残余物を含む)を、脈管系疾患を有する個人に置いて見られる、これら因子のin vivo濃度範囲内の濃度で、培養培地に添加しても良い。健常な患者におけるトリグリセリドのレベルは、約40mg/dL〜約150mg/dLの範囲である。高トリグリセリド血症を有する患者においては、トリグリセリドのレベルは、約200mg/dL〜約1500mg/dL超の範囲である。ゆえに、たとえば、トリグリセリドは、約175mg/dL〜約1600mg/dL、約200mg/dL〜約1500mg/dL、約400mg/dL〜約1200mg/dL、約600mg/dL〜約1000mg/dLの濃度で培養培地に適切に添加される。
【0232】
糖尿病および関連血中グルコースレベルの増加は、アテローム性動脈硬化症のリスク因子である。それゆえ、グルコースもまた、in vitroでアテローム性動脈硬化症をモデル化する本方法において、培地に適切に添加されても良い。グルコースは、糖尿病を有する個人において見られるグルコースのin vivo濃度範囲内の濃度で培養培地に添加される。健常な個人において、血中グルコース濃度は、約5〜約10mMである一方、糖尿病の個人においては、血中グルコース濃度は、約10mM〜約20mM超の範囲にある。ゆえに、たとえば、グルコースは、約10mM〜約25mM、約12mM〜約20mM、または、約14mM〜約18mMの濃度で培養培地に適切に添加される。たとえば、グルコースは、約15mM、または約17.5mMの量で培養培地に添加されても良い。
【0233】
グルコースは、TNFαと共に培養培地に添加されても良い。グルコースおよびTNFαは、糖尿病または脈管系疾患を有する個人に置いて見られるグルコースおよびTNFαのin vivo濃度範囲(たとえば、これらの成分のそれぞれに対する上記の濃度範囲)内の濃度で培養培地に添加される。たとえば、グルコースは、約15mMの濃度で培地に適切に添加され、TNFαは0.05ng/mlの濃度で培養培地に適切に添加される。
【0234】
グルコースおよびTNFαの両方が培養培地に添加される場合、グルコースを培養培地に添加し、細胞を、せん断力の適用の前に、一定期間、グルコースの存在下で培養しても良い。たとえば、細胞は、せん断力の適用の前に、約1〜約7日間(たとえば、約3〜約5日、または約4日)グルコースの存在下で適切に培養される。次いで、TNFαを培養培地に添加する前に、一定期間、せん断力をプレーティングされた内皮細胞に適用しても良い。たとえば、TNFαを培養培地に添加する前に、せん断力を、約12時間〜約48時間、約12時間〜約36時間、約16時間〜約32時間、約18時間〜約28時間、または約24時間、内皮細胞に適用しても良い。
【0235】
LDLおよび/またはTGFβは、脈管系疾患を有する個人に置いて見られるLDLまたはTGFβのin vivo濃度範囲内の濃度で培地に添加されても良い。健常な個人において、LDLのレベルは通常、約50mg/dL〜約100mg/dLの範囲にある一方、アテローム性動脈硬化症の個人においては、LDLのレベルは通常、約100mg/dL超である。ゆえに、たとえば、LDLは、約100mg/dL〜約500mg/dL、約100mg/dL〜約300mg/dL、または約100mg/dLの濃度で培養培地に適切に添加される。
【0236】
健常な個人におけるTGFβのレベルは通常、約30ng/ml未満である一方、脈管系疾患を有する個人のレベルは約30ng/ml〜約100ng/mlである。ゆえに、TGFβは、約30ng/ml〜約150ng/ml、約30ng/ml〜約100ng/ml、約50ng/ml〜約100ng/ml、または約60ng/ml〜約90ng/mlの範囲で培養培地に適切に添加される。
【0237】
1以上の因子が細胞培養培地に添加された後、プレーティングされた内皮細胞へのせん断応力の適用が、一定期間、適切に継続される。たとえば、約12時間〜約48時間、約18時間〜約36時間、約20時間〜約30時間、約18時間〜約72時間、または約24時間〜訳72時間、せん断応力の適用が継続されてもよい。たとえば、1以上の因子が細胞培養培地に添加された後、約24時間、せん断応力が継続されてもよい。
【0238】
アテローム性動脈硬化症の模倣は、多くの方法により評価することができる。一般的には、せん断力を適用していない内皮細胞もしくは平滑筋細胞または培養培地におけるマーカーレベルと比較した、せん断力を適用した内皮細胞もしくは平滑筋細胞または培養培地におけるアテローム性動脈硬化症のマーカーレベルの変化により、アテローム性動脈硬化症の模倣が裏付けられる。たとえば、アテローム性動脈硬化症の模倣は、アテローム性動脈硬化症に関連したタンパク質または遺伝子の発現の分析、アテローム性動脈硬化症に関連したタンパク質の活性の分析、または分泌されたサイトカインレベルを分析することにより、評価することができる。
【0239】
高血圧
本発明の方法はまた、in vitroで高血圧をモデル化するために用いることができる。アンギオテンシンII(ANG2)のレベルは、心血管系の合併症(たとえば、アテローム性動脈硬化症、糖尿病または高血圧)を有する患者において増加している。健常な患者において、標準的なANG2の濃度は、約1nM〜約5nMの範囲であり、高血圧の患者においては、約6nM〜約20nM超の範囲である。さらに、アルドステロンは、レニン−アンギオテンシン系における下流の、ANG2の重要なシグナル伝達ホルモンである。そのレベルは、多くの病態(アテローム性動脈硬化症、糖尿病および高血圧を含む)の下で変化しうる。健常な個人におけるアルドステロンの濃度は、約0.3mMである。高アルドステロン症を有する個人におけるアルドステロンの濃度は、約0.8mM〜約1mMの範囲である。
【0240】
in vitroで高血圧をモデル化する方法においては、内皮細胞は細胞培養容器内の面にプレーティングされる。当該細胞培養容器内の面は、多孔膜の面であっても良く、当該多孔膜は、当該多孔膜の当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされても良く、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には多孔膜の第一の面が含まれ、上層には多孔膜の第二の面および内皮細胞が含まれるよう規定される。あるいは、内皮細胞がプレーティングされる面は、細胞培養容器の底であっても良い。
【0241】
1以上の追加の細胞型を、細胞培養容器内の面に置いても良く、または、細胞培養容器内の培地に懸濁しても良い。たとえば、平滑筋細胞を、細胞培養容器内の多孔膜の第一の面に置いても良く、および、内皮細胞を、当該多孔膜の第二の面に置いても良い。多孔膜は、当該多孔膜の当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には多孔膜の第一の面および平滑筋細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面および内皮細胞が含まれるよう規定される。
【0242】
単球、マクロファージ、好中球、内皮前駆細胞、循環幹細胞、循環造血細胞、または白血球を任意選択的に、上層または下層内の細胞培養培地内に懸濁しても良い。
【0243】
せん断力はプレーティングされた内皮細胞に適用され、ここで、当該せん断力は、血流力学的フローデバイスにより生じた培養培地の流れから生じるものである。当該流れは、高血圧において、in vivoで内皮細胞が曝される流れを模倣する。
【0244】
1以上の因子が培養培地に添加される前に、一定期間、せん断力をプレーティングされた内皮細胞に適用しても良い。たとえば、1以上の因子を培養培地に添加する前に、約12時間〜約48時間、約12時間〜約36時間、約16時間〜約32時間、または約18時間〜約28時間、せん断力を内皮細胞に適用しても良い。たとえば、1以上の因子の添加の前に、約24時間、プレーティングされた内皮細胞にせん断力を適用しても良い。あるいは、1以上の因子を培養培地に添加すると同時に、プレーティングされた内皮細胞にせん断力を適用しても良い。
【0245】
1以上の因子が培養培地に添加されても良い。たとえば、培養培地に添加される1以上の因子は、高血圧の発現または進行に関与する因子であっても良い。因子(複数含む)は、脈管系疾患を有する対象に置いて見られる因子のin vivo濃度範囲内の濃度で培地に添加される。たとえば、アンギオテンシンは、約5.5nM〜約25nM、約6nM〜約20nM、約8nM〜約15nM、または約9nM〜約12nM(たとえば、10nMの濃度)の濃度で培養培地に適切に添加される。
【0246】
アンギオテンシンは、他の因子(たとえば、アルドステロン)と組み合わせて、または単独でのいずれかで、培養培地に添加されても良い。あるいは、アルドステロンは、アンギオテンシン以外の因子と組み合わせて、または単独で、培養培地に添加されても良い。アルドステロンが培養培地に添加される場合、約0.5mM〜約1.5mM、または約0.8mM〜約1mM(たとえば、約1mMの濃度)の濃度で適切に存在する。
【0247】
1以上の因子が細胞培養培地に添加された後、プレーティングされた内皮細胞へのせん断応力の適用が、一定期間、適切に継続される。たとえば、約12時間〜約48時間、約18時間〜約36時間、約20時間〜約30時間、約18時間〜約72時間、または約24時間〜訳72時間、せん断応力の適用が継続されてもよい。たとえば、1以上の因子が細胞培養培地に添加された後、約24時間、せん断応力が継続されてもよい。
【0248】
アテローム性動脈硬化症の模倣は、多くの方法により評価することができる。一般的には、せん断力を適用していない内皮細胞もしくは平滑筋細胞または培養培地におけるマーカーレベルと比較した、せん断力を適用した内皮細胞もしくは平滑筋細胞または培養培地におけるアテローム性動脈硬化症のマーカーレベルの変化により、アテローム性動脈硬化症の模倣が裏付けられる。たとえば、アテローム性動脈硬化症の模倣は、遺伝子またはタンパク質および/もしくは分泌微粒子、またはアテローム性動脈硬化症に関連したタンパク質の発現の分析、アテローム性動脈硬化症に関連したタンパク質の活性の分析、または分泌されたサイトカイン、ケモカイン、増殖因子のレベルを分析することにより、評価することができる。
【0249】
生理学的な肝臓モデル
本発明はまた、肝臓の生理学的なin vitroモデルを作製するために用いることができる。そのような方法において、幹細胞は細胞培養容器内の面にプレーティングされ、せん断力は、当該プレーティングされた肝細胞に間接的に適用される。たとえば、幹細胞は、多孔膜の第一の面に適切にプレーティングされ、ここで、当該多孔膜は、当該第一の面が、当該細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、当該細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養培地内で、下層には肝細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれるよう規定される。せん断力は、当該容器の上層の多孔膜の第二の面に適用される。ゆえに、デバイス内の細胞の構成(
図15C)は、肝小葉のin vivo微細構造に基づいている(
図15A)。
【0250】
図15Aに示されるように、in vivoの肝小葉において、肝細胞索100は、類洞内皮細胞の層110および細胞外マトリクスの層140をろ過することにより、類洞血流150から分離される。細胞外マトリクスの層140は、肝細胞の拠り所をもたらし、シグナル伝達に関与し、そして、サイトカインおよび増殖因子のレゼルボアとなる。肝細胞110は、分極形態を有し、毛細胆管120は、肝細胞層に存在する。類洞血流150および間質血流130により、酸素および栄養素の輸送がもたらされる。
【0251】
図15Bおよび15Cにおいて、本発明のin vitro肝モデルに置いて用いられている例示的な構成を示す。
図15Bおよび15Cの挿入図に示されるように、肝細胞260は、細胞培養容器240に吊るされた多孔膜250にプレーティングされ、せん断力アプリケーター(
図15Bおよび15Cにおいてコーン230として示されている)を用いて、多孔膜の反対側にせん断力を適用する。せん断力は細胞培養容器の培養培地の流れから生じる。多孔膜は、肝臓に存在する類洞内皮細胞層のろ過に類似的な役割を果たす。肝細胞は、流れの直接的な影響から保護されている(in vivoでそうであるように)。細胞培養容器内の上層および下層の入口ならびに出口270により、培養培地の継続的な灌流、および細胞培養培地の内外への薬物または化合物の灌流が可能となる。せん断力の適用により、多孔膜を通る間質の流れおよび溶質の移動を制御する、管理された血流力学的状態が生み出される。本発明のin vitroのモデルにおいて、肝細胞は、その分極形態および毛細胆管を維持する。
【0252】
図15Cに図示されるように、1以上の細胞外マトリクス成分280(たとえば、コラーゲンゲル)の少なくとも1つの層を、多孔膜の第一の面に適切に沈着させても良い。次いで、肝細胞260が、当該細胞外マトリクス成分(複数含む)にプレーティングされる。次いで、当該肝細胞が当該細胞外マトリクス成分(複数含む)に十分に囲まれるように、当該細胞外マトリクス成分(複数含む)の1以上の追加の層を、当該肝細胞の最上部に沈着させても良い。当該細胞外マトリクス成分は、硫酸ヘパラン、硫酸コンドロイチン、硫酸ケラタン、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、またはそれらの組み合わせを適切に含む。たとえば、当該細胞外マトリクス成分はコラーゲンを含んでも良い。
【0253】
1以上の追加の細胞型を、細胞培養容器内の面に置いても良く、または、培養培地に懸濁しても良い。たとえば、非実質性肝臓細胞を、多孔膜の第二の面に適切にプレーティングし、せん断力を、プレーティングされた非実質性細胞に適用する。非実質性細胞には、肝臓星細胞、類洞内皮細胞、クッパー細胞またはそれらの組み合わせが含まれても良い。肝細胞および非実質性肝臓細胞は、動物の肝臓(たとえば、ヒトの肝臓)から単離された適切な初代細胞である。あるいは、肝細胞および/または非実質性肝臓細胞は、不死化細胞である。
【0254】
培地は、多孔膜の両側に継続的に適切に灌流され、一方、生理学的な血流値の範囲から生じたせん断力は、多孔膜の第二の面、またはプレーティングされた非実質性肝臓細胞に継続的に適用される。多孔膜の第二の面に適用されるせん断力は、in vivoで発生する肝類洞を通る流れを模倣する。せん断率は、適切に、約0.1ダイン/cm
2〜約3.0ダイン/cm
2、約0.2ダイン/cm
2〜約2.5ダイン/cm
2、約0.3ダイン/cm
2〜約1.0ダイン/cm
2、または、約0.4ダイン/cm
2〜約0.8ダイン/cm
2である。たとえば、せん断率は、約0.6ダイン/cm
2であっても良い。あるいは、せん断率は、約2.0ダイン/cm
2であっても良い。
【0255】
生理学的なin vitro肝臓モデルにおいて、1以上の因子が培養培地に存在する。これらの1以上の因子は、せん断力の下で、一定期間、in vitroで肝臓の生理学的状態の模倣を維持することができる濃度で培地に添加されても良い(これら因子の同濃度は、せん断力が無い場合には、当該期間、in vitroで肝臓の生理学的状態の模倣を維持することができない)。たとえば、因子は、インスリン、グルコース、またはインスリンとグルコースの組み合わせを含んでも良い。グルコースおよびインスリンは、静的な培養において一般的に用いられている濃度(グルコースは約17.5mM、インスリンは約2μM)と比較して、低い濃度で適切に存在する。たとえば、グルコースは、約5mM〜約10mMの濃度で、または約5.5〜約7mMの濃度で(たとえば、約5.5mMの濃度で)、培養培地に存在しても良い。インスリンは、約0.05nM〜約5nM(たとえば、約0.1nM〜約3nM、または約0.5〜約2.5nM,たとえば、約2nMの濃度)で、培養培地に存在しても良い。1以上の因子は、せん断力の適用の前に、またはせん断力の適用と同時に、培養培地に適切に添加される。
【0256】
1以上の因子の濃度は、少なくとも約7日間、少なくとも約14日間、少なくとも約21日間、少なくとも約30日間またはそれ以上、in vitroで肝臓の生理学的状態の模倣を適切に維持することができるものである。
【0257】
肝臓の生理学的状態の模倣は、多くの方法により評価することができる。一般的には、せん断力を適用していない肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞または培養培地におけるマーカーレベルと比較した、せん断力を適用した肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞または培養培地における肝臓の生理学的状態のマーカーレベルの変化により、肝臓の生理学的状態の模倣が裏付けられる。たとえば、肝臓の生理学的状態の模倣は、肝臓の生理学的状態の維持に関与する遺伝子またはタンパク質の発現について、肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞における、代謝およびインスリン/グルコース/脂質の経路遺伝子);脂質の蓄積について肝細胞を分析することにより;分化機能における変化について肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞において、尿素およびアルブミン分泌を測定);代謝活性における変化について肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞において、チトクロームp450アッセイを用いて)またはトランスポーター活性について肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞を分析することにより;または、形態変化について、肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞を分析することにより、評価することができる。肝臓の生理学的状態はまた、肝細胞または非実質性肝臓細胞の、生体異物、栄養素、増殖因子、またはサイトカインへの反応を、同じ生体異物、栄養素、増殖因子またはサイトカインへのin vivoの肝臓の反応と比較することにより、評価することができる。
【0258】
以下の実施例4にさらに記述されるように、静的状態の下で培養される肝細胞とは異なり、本発明の生理学的なin vitro肝臓モデルにおいて培養された肝細胞は、グルカゴン、インスリンおよびグルコース基質への反応性を維持している。ゆえに、グルカゴン、インスリンまたは1以上のグルコース基質に対する反応性を用いて、生理学的な肝臓の状態の模倣を評価することもできる(たとえば、糖新生アッセイを用いて)。適切なグルコース基質としては、グリセロール、乳酸塩、ピルビン酸塩、またはそれらの組み合わせ(たとえば、乳酸塩とピルビン酸塩の組み合わせ)が挙げられる。さらに、肝細胞がグルカゴンに対する反応性を維持していることから、本発明の生理学的なin vitro肝臓モデルは、グルカゴン受容体と相互作用する薬物(たとえば、グルカゴン受容体アンタゴニスト)のin vitroの検証に用いることができる。
【0259】
さらに、本発明の生理学的なin vitroの肝臓モデルで培養された肝細胞は、静的な培養システムよりもずっとin vivoに近い濃度および臨床C
maxレベルで、薬物に対する誘導および毒性反応を示す。ゆえに、本モデルを用いて、in vivoで効果を得られる薬物または化合物の濃度範囲内の濃度で、薬物および化合物をin vitroで検証することができる。
【0260】
脂肪性肝
本明細書に記述される方法を用いて、脂肪性肝疾患のin vitroモデルを作製することもできる。肝細胞内の脂質制御は、複雑で、ダイナミックなプロセスである。トリグリセリドの蓄積は、高脂肪食からの脂肪酸取込の増加、末梢での脂肪分解の増加、またはde novoの脂質生成の増加の結果として発生しうる。インスリンおよびグルコースは、de novoの脂質生成の重要なレギュレーターであり、トリグリセリド合成の刺激ならびにβ酸化による脂肪酸代謝の阻害による、肝細胞内のトリグリセリド含量の増加に寄与する。
【0261】
非アルコール誘導性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肥満、II型糖尿病、およびインスリン抵抗性が存在する場合のメタボリックシンドロームに関連している。NAFLDは、肝臓の脂肪症(肝臓における過剰な脂質の蓄積)により特徴付けられ、もし治療しないままにすると、炎症性変化(脂肪性肝炎)および肝硬変へと進行する。多くの動物モデルが、高血糖性−高インスリン環境を介して脂肪症を誘導する(たとえば、脂質生成を刺激するための、低脂質/高炭水化物食の使用を介して)。しかしながら、おそらくは静的な状態下の培養で肝細胞を維持するのに必要とされる、超生理的レベルのインスリン/グルコースが理由で、現在のin vitro肝細胞モデルには、同様のことを誘導するための適切なインスリン−グルコース応答が欠落している。おそらく、静的な培養下では肝細胞のインスリン応答性が損なわれていること、および、in vitroでの肝細胞の急速な脱分化のために、そのようなin vitroモデルは、インスリンおよびグルコースを介した肝細胞の脂肪変化を誘導することができない。
【0262】
対称的に、生理学的肝臓モデルに関する上述のように、管理された肝誘導性血流力学および輸送の存在下で培養された肝細胞は、分化機能、形態、ならびに、グルコースおよびインスリンの生理学的レベルでの反応性を保持している。このシステムにおいて、高濃度のインスリンおよびグルコースの導入(病的な状態)により、肝細胞に脂肪変化を誘導する。ゆえに、管理された血流力学的状態および輸送により、肝細胞におけるインスリンおよびグルコースに対する生理学的な反応がより引き起こされ、それにより、高インスリン、高血糖性の環境における脂肪症と関連した脂肪変化(糖尿病のインスリン抵抗性状態において、通常、最初に見られる)を誘導することができる。さらに、管理された血流力学的状態および輸送の存在下で培養された肝細胞は、静的な培養システムよりもずっとin vivoに近い濃度および臨床C
maxレベルで、薬物に対する誘導および毒性反応を示す。ゆえに、本システムは、脂肪性肝疾患のin vitroモデルを提供する。
【0263】
本モデルにおいて、肝細胞は通常、上述の生理学的肝臓モデルに対するものと同様の様式でプレーティングされる。肝細胞は、細胞培養容器内の面にプレーティングされ、せん断力は、プレーティングされた肝細胞に間接的に適用される。たとえば、肝細胞は、多孔膜の第一の面に適切にプレーティングされ、多孔膜は、第一の面が、細胞培養容器の底面に対し近位および空間的な関係となるように、細胞培養容器内に吊るされ、それにより、当該細胞培養容器内で、下層には肝細胞が含まれ、上層には多孔膜の第二の面が含まれるよう規定される。せん断力は、容器の上層の多孔膜の第二の面に適用される。
【0264】
1以上の細胞外マトリクス成分の少なくとも1つの層を、多孔膜の第一の面に適切に沈着させても良い。次いで、肝細胞を、当該細胞外マトリクス成分(複数含む)にプレーティングする。次いで、細胞外マトリクス成分(複数含む)の1以上の追加の層を、肝細胞が細胞外マトリクス成分(複数含む)に十分に囲まれるように、肝細胞の最上部に沈着させても良い。細胞外マトリクス成分は、硫酸ヘパラン、硫酸コンドロイチン、硫酸ケラタン、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、またはそれらの組み合わせを適切に含む。たとえば、当該細胞外マトリクス成分はコラーゲンを含んでも良い。
【0265】
1以上の追加の細胞型を細胞培養容器内の面に置いても良く、または、培養培地に懸濁しても良い。たとえば、非実質性肝臓細胞を、多孔膜の第二の面に適切にプレーティングし、せん断力を、当該プレーティングされた非実質性細胞に適用する。非実質性細胞には、肝臓星細胞、類洞内皮細胞、クッパー細胞、またはそれらの組み合わせが含まれても良い。肝細胞および非実質性肝臓細胞は、動物の肝臓(たとえば、ヒトの肝臓)から適切に単離された初代細胞である。あるいは、肝細胞および/または非実質性肝臓細胞は、不死化細胞である。
【0266】
培地は、多孔膜の両側に継続的に適切に灌流され、一方、生理学的な血流値の範囲から生じたせん断力は、多孔膜の第二の面、またはプレーティングされた非実質性肝臓細胞に継続的に適用される。多孔膜の第二の面に適用されるせん断力は、in vivoで発生する肝類洞を通る流れを模倣する。せん断率は、適切に、約0.1ダイン/cm
2〜約3.0ダイン/cm
2、約0.2ダイン/cm
2〜約2.5ダイン/cm
2、約0.3ダイン/cm
2〜約1.0ダイン/cm
2、または、約0.4ダイン/cm
2〜約0.8ダイン/cm
2である。たとえば、せん断率は、約0.6ダイン/cm
2であっても良い。あるいは、せん断率は、約2.0ダイン/cm
2であっても良い。
【0267】
in vitroの脂肪性肝モデルにおいて、1以上の因子が培養培地に存在する。これらの1以上の因子は、せん断力の下で、一定期間、in vitroで脂肪性肝の模倣を維持することができる濃度で培地に添加されても良い(因子の同濃度は、せん断力が無い場合には、当該期間、脂肪性肝疾患の模倣を維持することができない)。たとえば、因子は、インスリン、グルコース、またはそれらの組み合わせを含んでも良い。グルコースは、約10mM〜約25mMの濃度で、約12mM〜約20mMの濃度で、または約14mM〜約18mMの濃度で(たとえば、約17.5mMの濃度で)、培養培地に適切に存在する。インスリンは、約1μM〜約3μM、約1.5μM〜約2.5μM、または約1.8μM〜約2.2μM(たとえば、約2μM)で、培養培地に適切に存在する。1以上の因子は、せん断力の適用の前に、またはせん断力の適用と同時に、培養培地に適切に添加される。
【0268】
1以上の因子の濃度は、少なくとも約7日間、少なくとも約14日間、少なくとも約21日間、少なくとも約30日間またはそれ以上、in vitroで脂肪性肝疾患の状態の模倣を適切に維持することができるものである。
【0269】
脂肪性肝疾患の模倣は、多くの方法により評価することができる。一般的には、せん断力を適用していない肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞または培養培地におけるマーカーレベルと比較した、せん断力を適用した肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞または培養培地における脂肪性肝疾患マーカーレベルの変化により、脂肪性肝疾患の模倣が裏付けられる。たとえば、脂肪性肝疾患の模倣は、脂肪性肝疾患状態に関与する遺伝子またはタンパク質の発現について肝細胞または非実質性肝臓細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞において、代謝およびインスリン/グルコース/脂質の経路遺伝子);脂質の蓄積について肝細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞において、トリグリセリドレベルを測定または脂質滴の可視化);分化機能における変化について肝細胞または非実質性肝臓細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞において、尿素およびアルブミン分泌を測定);代謝活性における変化について肝細胞または非実質性肝臓細胞を分析することにより(たとえば、肝細胞において、チトクロームp450アッセイを用いて)またはトランスポーター活性について肝細胞または非実質性肝臓細胞を分析することにより;または、形態変化について、肝細胞もしくは非実質性肝臓細胞を分析することにより、評価することができる。脂肪性肝変化への続発症を、肝細胞の酸化状態における変化、および周囲の細胞外マトリクス組成および量における変化を測定することにより、評価しても良い。
【0270】
本発明の詳述により、添付のクレームに定義される本発明の範囲から逸脱することなく、改変および変更が可能であることが、明らかであろう。
【実施例】
【0271】
実施例1:動脈血栓症および静脈血栓症に対するIn vitroモデル
凝固カスケードにおいて、トロンビンは、フィブリノーゲンをフィブリンへと転換し、血管の表面に沈着して、血栓の形成が開始される(血栓症)。TNFαは、強力な炎症性サイトカインである。TNFαおよび他のサイトカインは、in vitroで内皮および平滑筋誘導性組織因子の強力なメディエーター(血管壁におけるフィブリン沈着を調節する)であることが示されている。心血管系疾患を有するヒトで検出されるTNFαの循環レベルは、約0.01ng/ml〜約0.1ng/mlである。健常な個人においては、TNFαの循環レベルはずっと低いか検出限界以下であり、たとえば、約0ng/ml〜約0.001ng/mlである。
【0272】
方法:
ヒト内皮細胞を、ヒト由来の、領域特異的な血流力学の存在下、または非存在下で、平滑筋細胞と共に、または平滑筋細胞は伴わずに、共培養した。内皮細胞を、様々な濃度のTNFαに曝露させ、ヒト血小板フリーの血漿(ALEXA FLUOR 488(A488、蛍光色素)標識化フィブリノーゲンを補充)中でインキュベートした。A488フィブリノーゲンの、A488への転換、および内皮への沈着は、共焦点顕微鏡で定量化した。
【0273】
(i)静的な単一培養の血小板アッセイ
内皮細胞の静的な単一培養のために、内皮細胞を、100,000細胞/cm
2でカバースリップにプレーティングし、24時間、接着させた。24時間後、培地を、0ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、または20ng/mlのTNFαを含有する培地と交換した。細胞を、4時間、37℃でインキュベートした。インキュベートの後、培地を除去し、細胞を、PBSで2回洗浄した。次いで、細胞をさらに15分間、37℃で、ヒト血小板フリー血漿(PFP)(37.5μg/mL ALEXA−488ヒトフィブリノーゲン、20μg/mLコーン(corn)トリプシン阻害物質、および10mMカルシウムを補充)と共にインキュベートした。このプロトコールを、
図1Aに示す。15分後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、10mM Tris、1mM EDTA緩衝液に溶解した0.5nM SYTO83(蛍光核酸染色)で、45分間、染色した。カバースリップを、FLUOROMOUNT−G(封入剤)を用いてカバーグラスに乗せ、画像撮影した。
【0274】
(ii)せん断力を伴う、単一培養の血栓症アッセイ
内皮細胞を、TRANSWELL(ポリカーボネート、10μmの厚さ、および、0.4μmの孔直径、no.3419、Corning)の多孔膜に100,000細胞/cm
2の密度でプレーティングし、コーンアンドプレート(cone−and−plate)デバイスを用いて、アテローム易発性(atheroprone)またはアテローム保護的(atheroprotective)な血流力学的パターンに供した。
【0275】
せん断力(アテローム易発性またはアテローム保護的)を適用して24時間後、培地に、0.05ng/mLまたは0.10ng/mLの濃度でTNFαを補充し、さらに24時間、せん断力を継続させた(
図3Aに示す)。次いで、上のチャンバーおよび下のチャンバーの両方から培地を除去し、内皮細胞を、PBSで2回洗浄した。次いで、内皮細胞を37℃で15分間、PFP(37.5μg/mLのALEXA−488ヒトフィブリノーゲン、20μg/mLのコーントリプシン阻害物質、および10mMカルシウムを補充)でインキュベートした。15分後、4%PFAで細胞を固定し、10mM Tris、1mM EDTA緩衝液に溶解した0.5nM SYTO83で45分間、染色した。多孔膜のごく一部を、FLUOROMOUNT−Gを用いてカバーグラスに乗せ、画像撮影した。
【0276】
(iii)せん断力を伴う、共培養の血栓症アッセイ(プロトコールA)
平滑筋細胞を、20,000細胞/cm
2の密度で、TRANSWELLの多孔膜の第一の面にプレーティングし、2時間、膜に接着させた。次いで、TRANSWELLを反転させ、細胞を、血清を減らした増殖培地(2%のFBS、2mMのL−グルタミンおよび、100U/mlのペニシリン−ストレプトマイシンを補充したM199)中で48時間、インキュベートした。次いで、内皮細胞を、同じ培地条件の下、100,000細胞/cm
2の密度で、TRANSWELL多孔膜の第二の面にプレーティングし、せん断力を適用する前に、さらに24時間、インキュベートした。
【0277】
せん断力(アテローム易発性またはアテローム保護的)適用の24時間後、培地に、0.05ng/mLまたは0.10ng/mLの濃度でTNFαを補充し、さらに24時間、せん断力を継続させた(
図3Aに示す)。次いで、上のチャンバーおよび下のチャンバーの両方から培地を除去し、内皮細胞および平滑筋細胞の両方を、PBSで2回洗浄した。次いで、内皮細胞を37℃で15分間、PFP(37.5μg/mLのALEXA−488ヒトフィブリノーゲン、20μg/mLのコーントリプシン阻害物質、および10mMカルシウムを補充)でインキュベートし、単一培養についての上述のように固定および画像撮影を行った。
【0278】
(iv)せん断力を伴う共培養の血栓症アッセイ−プロトコールB
平滑筋細胞および内皮細胞をプレーティングし、アテローム易発性またはアテローム保護的なせん断力に供し、プロトコールAについての上述のようにTNFαで処置した。PFP(37.5μg/mLのALEXA−488ヒトフィブリノーゲン、20μg/mLのコーントリプシン阻害物質を補充)を、上層に添加して、およそ27%の最終濃度のPFPを作製した。PFP/培地の組み合わせ中、最終濃度が10mMのカルシウムとなるよう、PFPにカルシウムをさらに補充した。次いで、内皮細胞をさらに15分間、37℃でインキュベートし、上述のように固定および画像撮影した。
【0279】
(v)せん断力を伴う共培養の血栓症アッセイ−プロトコールC
平滑筋細胞および内皮細胞をプレーティングし、アテローム易発性またはアテローム保護的なせん断力に供し、プロトコールAについての上述のようにTNFαで処置した。次いで、コーンアンドプレートデバイスのコーンを、約2mmまで上げて、流入/流出クリップを除去した。次いで、コーンを元の操作する高さまで下げた。PFP(37.5μg/mLのALEXA−488ヒトフィブリノーゲン、20μg/mLのコーントリプシン阻害物質を補充)を、上層に添加し、およそ27%の最終濃度のPFPを作製した。PFP/培地の組み合わせ中、最終濃度が10mMのカルシウムとなるよう、PFPにカルシウムをさらに補充した。次いで、アテローム易発性またはアテローム保護的なせん断力を適用させ、さらに30分間、共培養物をインキュベートした(
図4Aに示す)。30分後、細胞培養ディッシュをデバイスから取り除き、培地を低層から取り除いた。次いで、内皮細胞を上述のように固定し、画像撮影を行った。
【0280】
結果:
(i)静的な内皮細胞の単一培養
静的な状態の下で24時間培養し、4時間、TNFαで処理した内皮細胞の培養物において、1ng/mlのTNFαで処理された試料は、最小のフィブリン沈着を示した一方、10ngまたは20ng/mlで処理された試料は、濃いフィブリンネットワークを示した(1.17e5 対 2.69e7 対 3.61e7 各々、平均蛍光強度)(
図1B、流入口はカラー画像)。血栓の断面図(左から右に向かう「x軸」および、上下に向かう「z軸」)は、面の上にある血栓の高さ(z軸)を測定するために、積み重ねた状態でイメージ化された(
図1Bの下の真ん中のパネルに示される)。平均グレー値は、細胞表面の上の、指定された高さでの積み重ねの各画像の蛍光強度である(
図1Bの下にある一番右のパネル)。
【0281】
フィブリン沈着は、組織因子依存性であり、抗CD142抗体によりブロックされた。
図1Cの上のパネルは、組織因子に対する抗体の存在下でのフィブリン沈着(CD142、左)、または対照抗体の存在下でのフィブリン沈着(IgG1K、右)を示す。下のパネルは、同じフィールド内での核の染色を示し、このことから、細胞の存在が確認される。
【0282】
ゆえに、静的な状態の下では、内皮細胞は、凝固カスケードの開始に、TNFαによる活性化を必要とする。この活性化は、組織因子の活性化、および生理学的なレベルよりもおよそ200倍高い濃度のTNFαに依存している。
【0283】
(ii)せん断に供される、内皮細胞/平滑筋細胞の共培養
図2Bにおいて、血栓症に関連したいくつかの遺伝子の、内皮細胞および平滑筋細胞(アテローム易発性またはアテローム保護的な状態で増殖された)における相対遺伝子発現のヒートマップを示す(
図2A)。組織因子(F3)およびトロンボモジュリン(THBD)の遺伝子発現における相対変化を、ヒートマップの下に示す。アテローム易発性の血流力学は、アテローム保護的なせん断力と比較して、組織因子(F3)をアップレギュレートする。さらに、トロンビンに結合し、凝固カスケードを阻害するトロンボモジュリンは、ダウンレギュレートされた。さらに、TNFα刺激により、内皮細胞および平滑筋細胞の両方における、組織因子経路阻害物質(TFPI)が減少する。
【0284】
内頸動脈洞から誘導された炎症易発性血流力学的状態でプライムされ、0.05ng/mlのTNFαで処置された内皮/平滑筋細胞の共培養は、濃いフィブリンネットワークを沈着させた(1.9e7 平均蛍光強度)(
図3B;上述のプロトコールAを用いて作成されたデータ)。ゆえに、アテローム易発性の血流力学的状態は、サイトカイン活性化に対して内皮層をさらに応答性とするようにプライムし、静的な培養と比較して、100〜200倍低いレベルのTNFαで、フィブリン沈着を誘導することができるようになる。
【0285】
内皮細胞のみを培養した同一の実験でも類似の結果が得られたことから(データは示さず)、この結果は血流力学的状態に特異的であり、平滑筋細胞の存在の結果ではないことが示された。
【0286】
図4Bにおいて、上述のプロトコールC(血栓形成の間、せん断力が維持され、生理学的状態により近く模倣されている)に従い実施された実験から得られた結果を示す。
図4Bの上の2つのパネルにおいて、各状態に対する、積みかさねられた画像を示す(血栓のトポグラフィーを示すために、やや角度をつけている)。
図4Bの棒グラフは、指定された細胞表面の上への距離での、これら各画像の蛍光強度を示す。細胞表面の上、6μmおよび21μmでの代表的な画像を、
図4Bの下の右側のパネルに示す。
【0287】
結論:
内皮細胞の静的な単一細胞には、フィブリン沈着を誘導するために、ヒト循環血液濃度とは関連しない、著しく高いレベルのTNFαが必要とされる。アテローム易発性の血流力学的状態は、アテローム保護的な血流力学的状態と比較して、凝固因子をアップレギュレートし、凝固阻害物質をダウンレギュレートする。in vitroにおける内皮細胞の血流力学的状態によるプライミングによって、TNFαに応答する用量依存性のフィブリン沈着を、心血管系疾患を有するヒトにおいて見られるTNFαの循環レベルに類似した範囲の濃度へと変換する(静的な内皮細胞培養でフィブリン沈着を誘導するために必要とされるものよりも2桁分低い)。
【0288】
実施例2:アテローム性動脈硬化に対する、In vitroモデル
(i)血流力学環境における、oxLDLの効果
(a)方法
LDLを酸化するために、天然型LDL(nLDL)を、24時間、PBSで透析して、EDTAを取り除いた。次いで、LDLを、13.8μMのCuSO
4を含有数PBS中で、3日間、透析した。次いで、LDLを、50μM EDTAを含有するPBSで、さらに24時間、透析した。相対電気泳動数を用いて、各バッチの酸化レベルを確認した。酸化が完了した時点で、oxLDLを、使用するときまで、4℃、窒素雰囲気下で保存した。
【0289】
平滑筋細胞を、TRANSWELLの多孔膜(ポリカーボネート、10μmの厚さ、0.4μmの孔直径、no.3419、Corning)の第一の面に、20,000細胞/cm
2の密度でプレーティングし、2時間、膜に接着させた。次いで、TRANSWELLを反転させ、細胞を、血清を減らした増殖培地(2%のFBS、2mMのL−グルタミンおよび、100U/mlのペニシリン−ストレプトマイシンを補充したM199)中で48時間、インキュベートした。次いで、内皮細胞を、同じ培地条件の下、100,000細胞/cm
2の密度で、TRANSWELL多孔膜の第二の面にプレーティングし、せん断応力を適用する前に、さらに24時間、インキュベートした。
【0290】
アテローム保護的、またはアテローム易発性の血流力でのせん断応力で、16〜24時間、前調整した後、oxLDLを10〜50μg/mlの濃度で上層(内皮細胞を含有)に加えた(
図5)。oxLDLを加えなかったデバイスには、同じ濃度でnLDLを上層に加え、ビヒクル対照として用いた。oxLDLのこの濃度は、心血管系疾患を有する患者に見られるoxLDLの血漿濃度に類似している。せん断応力の適用は、oxLDLの存在下、さらに24時間継続された。
【0291】
5つの異なるドナーのペアを用いて、内皮細胞および平滑筋細胞における、アテローム易発性の血流力学環境内での、oxLDL(50μg/ml)応答を、nLDL(50μg/ml)と比較して分析した。実験が完了した時点で、遺伝子アレイ分析のためにRNAを採取した。0.01のFDRを用いて、重要な遺伝子とみなされた。遺伝子発現の結果は、β−2マイクログロブリン(B2M)の発現と比較した、相対遺伝子発現として表す。タンパク質発現の結果は、アクチンの発現と比較した、相対タンパク質発現として表す。NFκBの活性は、ECおよびSMCに感染させた、アデノウイルスNFκB−ルシフェラーゼ(Ad−NFκB−luc)レポーターを用いて分析された。
【0292】
(b)結果
図6に示されるように、遺伝子発現に対する異なる濃度のoxLDLの効果を、アテローム易発性の血流環境と、従来的な静的培養の間で比較した。これらのデータをさらに、oxLDLを伴わない「健常な」血流力学状態と比較した。(
図6において、「健常な」とは、アテローム保護的な血流力学の適用を示し、「アテローム易発性」とは、アテローム易発性の血流力学の適用を示す;「従来的な」とは、静的な培養条件の適用を示す。平均±SE,n=4、
*p<0.05、t検定)。血流力学的環境は明らかに多くの炎症促進性遺伝子および抗炎症性遺伝子(IL8、E−セレクチン(SELE)、KLF2、eNOS)を制御していた。nLDLと比較して、oxLDLの添加に対する反応によって、血流力学的な環境に依存した、遺伝子発現における用量依存性の変化が生じた。
【0293】
特に、従来的な静的培養での、従前に公表された研究において、HO−1およびATF3が、「古典的な」oxLDL感受性遺伝子であることが示されてきた。
図6Aおよび6Bに示されるように、oxLDLは、従来的な静的条件と比較し、アテローム易発性の状態の下、より高いレベルでこれらの遺伝子を活性化している。
【0294】
アテローム易発性の状態に特有のこととして、oxLDLは、たとえばIL8およびE−セレクチン(SELE)等の炎症性遺伝子を活性化することも判明した(従来的な静的培養では、これら遺伝子は影響を受けない)(
図6Cおよび6D)。驚くべきことに、oxLDLは、アテローム保護的なシグナル伝達(eNOSおよびKLF2)を減少させていた(
図6Eおよび6F)。
【0295】
図7において、アテローム易発性の血流力学環境でのoxLDL処置に反応したタンパク質発現における変化を示す。遺伝子発現と一致して、oxLDL処置により、VCAM−1タンパク質発現の上昇(炎症促進性;
図7A)、およびアテローム保護的なeNOSシグナル伝達のリン酸化の減少(
図7B)がもたらされた。さらに、oxLDL処置により、分泌サイトカイン(たとえば、IL6、IL8およびMCP−1、
図7C〜7E)のレベル増加がもたらされた。
図7において、平均±SE、n=4、
*p<0.05、t検定。
【0296】
oxLDLにより影響を受けた遺伝子およびタンパク質の多くがNFκB依存性であるため、NFκBの活性を、内皮細胞および平滑筋細胞において、ルシフェラーゼレポーターを用いて分析した。
図8に、内皮細胞(
図8A)において、健常な状態と比較して、アテローム易発性の血流力学的状態が、NFκBの活性を増加させるように細胞を「プライムする(prime)」ことを示す。この反応は、oxLDLの処置でさらに高まる。同様に、平滑筋細胞(
図8B)において、oxLDLの処置で、NFκBシグナル伝達が上昇したことが示された(oxLDLは、内皮細胞のみを含有する上層に添加されたのではあるが)。
図8において、平均±SE、n=4、
*p<0.05、t検定。
【0297】
フルゲノムアレイを用いて、50μg/ml nLDLと50μg/ml oxLDLの間の、アテローム易発性の状態の下、ECおよびSMCにおける遺伝子発現の差異を調査した。
図9において、5人のドナー(内皮細胞)または4人のドナー(平滑筋細胞)に対する、2つの異なる状態からの、遺伝子発現に対するヒートマップを示す。ストリンジェントな統計的カットオフ基準を用いたところ(SAMおよびwLPE法)、nLDLで処置された細胞と比較し、688の遺伝子が内皮細胞において制御され、304の遺伝子が平滑筋細胞において制御されていた。これらの遺伝子パネルは、せん断応力で制御された、炎症促進性遺伝子(VCAM、Eセレクチン)および抗炎症性遺伝子(KLF2、eNOS)で富化されていた。
【0298】
要約すると、oxLDLは、従来的な静的培養においては、一部の経路(HO−1、ATF3)を活性化することが知られているが、他(E−セレクチン、IL6)は知られていない。本明細書において、アテローム易発性の血流力学環境下においてoxLDLを添加することにより、内皮の「アテローム保護的な」シグナル伝達(KLF2、eNOS発現およびリン酸化)を優先的に減少させ、さらに、炎症促進性シグナル伝達(接着分子発現およびサイトカイン分泌を含む)を活性化させることが判明した。アテローム易発性のせん断応力またはLDLのいずれかに直接的に曝されたわけではないが、本共培養システムの下層のSMCのこれらの状態により多くの遺伝子(炎症性遺伝子を含む)が制御された。生理学的なせん断応力との関連におけるoxLDLの役割を調査することにより、さらに炎症促進性の表現型へと向かう、アテローム易発性に制御された遺伝子プロファイルの増強が判明した。これらの状態は、ヒト動脈における血管壁の炎症を模倣し、進行性アテローム性動脈硬化症の治療を目的とする薬物の検証に理想的な環境を提供する。
【0299】
(ii)血流力学的環境におけるTNFαの効果
(a)方法
TNFαは強力な炎症性サイトカインである。TNFαの濃度は、慢性心疾患を有する患者の重篤度により、約0.02ng/mlのレベルまで調節される一方、健常な個人においては、TNFαは通常、もっと低いか、または検出限界以下である。上記のように、心血管系疾患を有するヒトにおいて検出される循環TNFαレベルは、約0.01ng/ml〜約0.1ng/mlである。健常な個人において、循環TNFαのレベルはもっと低いか、または検出限界以下であり、たとえば、約0ng/ml〜約0.001ng/mlである。比較すると、静的なin vitro実験では通常、1〜10ng/mlの濃度のTNFαを用いる。
【0300】
平滑筋細胞および内皮細胞を、oxLDL実験に対する上述と同じ様式で、TRANSWELLの多孔膜の第一の面および第二の面においた。
【0301】
アテローム易発性またはアテローム保護的な血流力での、せん断応力の前調整の24時間後、TNFαを、上層(内皮細胞を含有)に、0.05〜1ng/mlの濃度で添加した(
図5を参照のこと)このTNFαの濃度は、心血管系疾患を有する患者に置いて見られるTNFαの血漿濃度と類似している。せん断応力適用は、TNFαの存在下でさらに24時間、継続させた。
【0302】
(b)結果
図10に示すように、18〜24時間の血流力学的プライミングにより、従来の静的培養と比較して、内皮細胞および平滑筋細胞がより低いレベルのTNFαに対し感受性となることが判明した。内皮細胞を0.1〜1ng/mlのTNFαで処置することにより、アテローム易発性の血流力学的応力を適用した培養において、E−セレクチン、ICAM、VCAM、およびIL8の発現が増加したことにより示されるように、炎症反応を誘導した。(静的培養では同レベルで炎症反応は見られない)。
図10において、「従来法」とは、細胞が静的培養の下で培養されたことを示し、「病的」とは、細胞に、アテローム易発性の血流力学的応力を適用したことを示す。
図10において、データは、平均±SE、n=4、
*p<0.05、t検定として示されている。
【0303】
(iii)血流力学的環境における、oxLDLおよびTNFαの効果
(a)方法
アテローム性動脈硬化症の炎症ステージをより模倣するためには、複数の循環因子を組み合わせ、ヒト血管内に存在する複雑性をより良く模倣することが望ましい。これらの実験のために、内皮細胞および平滑筋細胞を、上述と同じ様式でプレーティングし、18〜24時間、アテローム易発性のせん断応力の前調整を行った。次いで、上層の培地を、0.05ng/ml TNFαおよび、50μg/mlのoxLDLを含有する培地と交換した。50μg/mlのnLDLのみを含有する培地を、対照として使用した。
【0304】
アテローム防御性またはアテローム易発性の血流力でのせん断応力の前調整を24時間行った後、50μg/mlのoxLDLおよび0.05ng/mlのTNFαを上層(内皮細胞を含有)に添加した。このTNFαの濃度は、心血管系疾患を有する患者に見られる血漿TNFα濃度に類似している。oxLDLを加えなかったデバイスには、同じ濃度でnLDLを上層に加え、ビヒクル対照として用いた。せん断応力の適用は、TNFαおよびoxLDLの存在下、さらに24時間継続された(
図5を参照のこと)。遺伝子発現分析を、RT−PCRを用いて行った。
【0305】
(b)結果
これらの因子(oxLDLおよびTNFα)の組み合わせは、遺伝子およびタンパク質発現の両方の相乗的増加を示し、また、oxLDLまたはTNFα単独のいずれかよりも、広くシグナル伝達の活性化をもたらした。
図11Aにおいて、炎症促進性接着分子であるE−セレクチン(SELE)が、oxLDL単独と比較して、遺伝子発現が増加したことを示す。ゆえに、
図6に示す結果と同様、oxLDLは、nLDLで処置した対照よりも、高いレベルのE−セレクチン遺伝子発現をもたらした。oxLDLとTNFαの添加により、さらに高いレベルの炎症性遺伝子発現がもたらされた。
【0306】
さらに、eNOS転写(NOS3)を介したアテローム防御性シグナル伝達は、炎症状態においては強く抑制されている。この反応は、アテローム易発性せん断応力+oxLDL+TNFαの組み合わせで増幅された(
図11B)。ゆえに、eNOS遺伝子発現(NOS3)は、oxLDLにより抑制されるが、TNFαおよびoxLDLの組み合わせでは、アテローム易発性シグナル伝達はさらに抑制される。最終産物は、アテローム易発性状態の単独と比較して、より高い基礎レベルの炎症性シグナル伝達を有するシステムとなる。
【0307】
(iv)血流力学的環境における、高密度リポタンパク質(HDL)の効果
(a)方法
nLDLまたはoxLDLとは明確に異なる血漿コレステロールの追加成分は、HDLである。血流力学的環境における、HDLの効果を分析するために、内皮細胞および平滑筋細胞を上述のようにプレーティングし、24時間、アテローム易発性のせん断応力の前調整を行った。次いで、上層に45〜1,000μg/mlの濃度でHDLを添加した。この広範な範囲は、ヒト患者内に存在しうるHDL濃度の広範な範囲を反映している。血管系疾患に対するリスクがある個人におけるHDLの濃度は、通常、約300μg/ml未満である一方、健常な個人におけるHDL濃度は、約300μg/ml〜約2,000μg/ml超(健常な運動をしている患者)の範囲にある。
【0308】
上述のようにプレーティングされた追加の実験において、内皮細胞/平滑筋細胞の共培養を、血流力学的せん断応力で16時間、前調整した。16時〜24時に、細胞をさらに、上層において、0.05ng/mlのTNFαおよび50μg/mlのoxLDLでプライムした(50μg/mlのnLDLを含有するビヒクル対照と比較)。24時間で、45μg/mlまたは90μg/mlのHDLを上層の培地に添加し、さらに24時間(24時〜48時)、血流力学的せん断応力を継続した。
【0309】
(b)結果
45μg/mlまたは90μg/mlでHDLを添加することにより、多くのアテローム防御性の遺伝子が活性化される一方、炎症促進性遺伝子およびタンパク質の活性化が阻害される。
【0310】
(v)血流力学的環境における、トリグリセリド含有リポタンパク質の効果
トリグリセリド(TG)は、心血管系疾患の重要なバイオマーカーである。極低密度リポタンパク質(vLDL)およびvLDL残余物、ならびにカイロミクロン(CM)残余物を含有する、いくつかの種のトリグリセリド富化リポタンパク質(TRL)は、LDLとは無関係にアテローム発生を促進するようである。健常な患者におけるTGレベルは、約40〜約150mg/dLの範囲である。高トリグリセリド血症を有する患者においては、TGレベルは、約200mg/dL〜約1,500mg/dL超の範囲にある。
【0311】
内皮細胞/平滑筋細胞の共培養を、上述のようにプレーティングし、アテローム易発性のせん断応力で、24時間、前調整しても良い。極低密度リポタンパク質(vLDL)、カイロミクロン(CM)、ならびにvLDLおよびCMの残余物粒子を含有するTG含有リポタンパク質を、500mg/dL(高トリグリセリド血漿を有する患者において見られる代表的なレベルの濃度)で当該システムに添加しても良い。各成分の処置濃度はTGの割合に基づいており、これら成分の各々は以下に相当する:vLDLは、TGの約53%を構成し、ゆえに、0.53x500mg/dL=265mg/dL;CMは、TGの約38%を構成し、ゆえに、0.38x500mg/dL=190mg/dLである(高トリグリセリド血症の状態)。これを、80mg/dLのvLDL、および57mg/dLのCMの、150mg/dLの循環トリグリセリドのレベル(健常な患者に置いて見られる代表的なレベル)に基づく、対照条件と比較しても良い。血流力学的な前調整の24時間後、vLDL、CM、またはvLDL+CMを、実験の残りの24時間に、加えても良い。vLDLおよびCM残余物様タンパク質(RLP)は、リポタンパク質リパーゼ(LPL)で、上述の同濃度物を処理することにより作製することができる。RLPを、個々に、またはvLDLおよび/またはCMと組み合わせて添加しても良い。
【0312】
(vi)血流力学的な環境における、TNFαと組み合わせたグルコースの効果
(a)方法
糖尿病は、インスリンおよびグルコースのホメオスタシスが変化した特徴を有する疾患である。健常人においては、血中グルコース濃度は約5〜10mMである一方、糖尿病の場合には、血中グルコース濃度は、約10mM〜約20mM超の範囲にある。糖尿病および関連グルコースレベルの上昇は、アテローム性動脈硬化症のリスク因子である。
【0313】
内皮細胞および平滑筋を上述のように置いた。せん断応力の適用の前に、4日間、内皮細胞および平滑筋細胞を、増加グルコース条件(15mM)または基準グルコース条件(5mM、ほとんどの培地組成において見られる濃度)の存在下で培養した(浸透圧における変化の可能性を証明するための、グルコースに対するビヒクル対照として、マンノースを補充)。次いで、培養物を24時間、アテローム易発性の血流力学下で前調整し、次いで、0.05ng/ml TNFα(心血管系疾患を有する患者に見られる循環レベルに類似の濃度)にさらに24時間、曝した。実験の終了時に、RT−PCRを用いた遺伝子発現分析のためにRNAを回収した。一部の実験において、ルシフェラーゼアッセイを用いたNFκBの測定を行うために、NFκB−ルシフェラーゼ構築物を有するアデノウイルスに内皮細胞を感染させた。NFκB活性、ならびに炎症促進性遺伝子(E−セレクチンおよびICAM)および抗炎症性遺伝子(KLF2およびeNOS)を分析した。
【0314】
(b)結果
血流力学実験に供する前に、細胞を、増加したレベルのグルコースに慢性的に曝した。
図12に示される実験について、内皮細胞は、残りの実験に対し、増加グルコースの存在下で、アテローム易発性の血流力を用いて前調整した。実験の最後で、遺伝子発現およびNFκB活性を、TNFαと組み合わせたグルコース処置の作用として分析した。
【0315】
基準レベルの遺伝子(未処置)に対し、増加グルコースは何も効果が無かった一方で、アテローム易発性せん断応力およびTNFαで処置した試料は、増加グルコースで前処置した際、炎症性シグナル伝達が、マンノース対照と比較し、高レベルであった。
図12Aおよび12Bにおいて、増加グルコースが、炎症性シグナル伝達の活性化(NFκB活性を含む、
図12A)、ならびに、接着分子E−セレクチンおよびICAMの下流遺伝子活性化(
図12B)を上昇させたことを示す。増加グルコースはまた、マンノース処置対照と比較して、アテローム保護的なシグナル伝達(eNOS、KLF2)を大幅に減少させた(
図12C)。
図12の結果は、平均±SE、n=4、
*p<0.05、t検定として表されている。
【0316】
実施例3:高血圧に対するIn vitroモデル
(i)アンギオテンシンII(ANG2)
アンギオテンシンII(ANG2)レベルは、心血管系合併症(たとえば、アテローム性動脈硬化症、糖尿病または高血圧)を有する患者において増加している。典型的なANG2の濃度は、健常な患者において約1nM〜約5nMの範囲であり、高血圧患者においては、約6nM〜約20nM超である。
【0317】
血流力学的環境下でのANG2の効果を分析するために、内皮細胞および平滑筋細胞を上述のようにプレーティングし、健常な、およびアテローム易発性の血流力でのせん断応力前調整を24時間行った。10nM(10.46ng/ml)の濃度のANG2、またはDMSOビヒクル対照(VEH)を、上層に添加し、遺伝子アレイ分析のためにRNAを回収した。
【0318】
DMSOビヒクル対照と比較した、この条件での遺伝子アレイ分析により、ANG2によりアップレギュレートされた多くの重要な炎症性遺伝子が明らかとなった。
図13において、健常およびアテローム易発性(病的)状態の両方で、ANG2処理した内皮細胞(
図13A)および平滑筋細胞(
図13B)の両方に対する遺伝子発現ヒートマップを示す。
図13に示されるように、多くの遺伝子がANG2によって明らかに制御されており、不偏的な方法でANG2条件は共に分類された。
【0319】
(ii)アルドステロン
アルドステロンはレニン−アンギオテンシン型において、ANG2の下流にある重要なシグナル伝達ホルモンである。そのレベルは多くの病状(アテローム性動脈硬化症、糖尿病および高血圧を含む)の存在の下で変化しうる。健常な個人におけるアルドステロンの濃度は約0.3mMである。高アルドステロン症を有する個人におけるアルドステロンの濃度は、約0.8mM〜約1mMの範囲である。
【0320】
血流力学的環境におけるアルドステロンの効果を分析するために、内皮細胞および平滑筋細胞を上述のようにプレーティングし、健常およびアテローム易発性の血流力でせん断応力前調整を24時間行った。1mMの濃度のアルドステロンまたはビヒクル対照(VEH)を上層に添加し、遺伝子アレイ分析のためにRNAを回収した。
【0321】
DMSOビヒクル対照と比較した、この条件での遺伝子アレイ分析により、アルドステロンによりアップレギュレートされた多くの重要な炎症性遺伝子が明らかとなった。
図14において、健常およびアテローム易発性(病的)状態の両方で、アルドステロン(Aldo)処理した内皮細胞および平滑筋細胞に対する遺伝子発現ヒートマップを示す。多くの重要な遺伝子がこれら条件により制御されており、制御された遺伝子の多くは、アテローム易発性の血流力学的環境内において見出された。
【0322】
実施例4:生理学的なIn Vitro肝臓モデル
一つには、長い間、in vivoで代謝表現型を維持する生理学的なパラメーターが無いために、静的肝細胞培養法では、in vitroとin vivoの間にはほとんど相関関係が無い。発明者らは、生理学的な血流力学的状態および輸送を復活させることにより、標準的な静的肝細胞コラーゲンゲル構造と比較して、肝細胞の表現型および機能をin vitroで維持できることを発見した。
【0323】
in vivoの肝臓血液循環と類似した流体力学および輸送を有する細胞性の肝細胞システムを再現するために、in vitroで、血管内皮細胞のヒト由来血流力学的血流力への暴露を再現することによる、in vivo血管細胞表現型の再構築に広く用いられている、コーンアンドプレートデバイスを元にした技術を用いた。この技術は米国特許第7,811,782号に記述されている(参照により、その内容は本明細書に援用される)。当該技術(
図15B)を、in vivoの肝臓循環値を反映する、血流力学的流れ、および輸送条件を適用するラット肝臓単一培養システムに適合させ、改変した。当該デバイスの細胞構造(
図15C)は、肝細胞索が、内皮細胞層のろ過により類洞血流から分離される、肝小葉のin vivo微細構造(
図15Aを参照のこと)に基づいている。このデザインは、細胞培養容器に吊るされている多孔ポリカーボネートと、当該多孔膜の片側がコラーゲンゲルでサンドイッチされている初代ラット肝細胞を使用する。多孔膜は、肝臓に存在する類洞内皮細胞の濾過層に似た作用を有する。培地は、多孔膜の両側で継続的に灌流され、生理学的血流値の範囲由来の血流力は多孔膜の非細胞側に継続的に適用される。セットアップ全体は、5%CO
2および37℃に制御された環境中に収納される。流れをベースにした培養システムにおいて、in vivoでそうであるように、肝細胞は直接的な流れの効果から保護される場所が実用的に作られた。血行状態を再現することで、肝類洞の微細構造と類似するよう設計されたシステムにおいて、in vivoの肝臓に似た分化した肝臓の表現型および代謝表現型の安定した保持がもたらされる。
【0324】
方法
(i)動物の外科的手術および肝細胞単離
本実験に用いられた全ての動物は、HemoShear’s Animal Care & Use Committeeにより承認されたプロトコールに従って処置された。肝細胞は、20mL/分の流速を用いたSeglenの2ステップコラゲナーゼ灌流法(Seglen, Hepatocyte Suspensions and Cultures as Tools in Experimental Carcinogegnesis, J. Toxicology & Environmental Health, 5(2-3): 551-560 (1979)(参照によりその内容は本明細書に援用される)の改変法により、オスのFischerラット(250〜350g)から単離された。簡潔に述べると、ラットをイソフルランで麻酔し、その後、腹腔を切開し、流出肝門脈を切除しながら、下大静脈にカニューレ挿管した。肝臓を2ステップで潅流した(最初は血液をフラッシュアウトし細胞間結合を破壊するためのCa
++フリー緩衝液、次いで、細胞外コラーゲンマトリクスを消化するためのCa
++含有緩衝液に溶解したコラゲナーゼ)。肝臓を適切に灌流した後、摘出し、滅菌フード下で、ペトリディッシュのカプセルから解放させた。富化された肝細胞群(約95%の純度)を、2つの連続的な65gの遠心および10分間の洗浄サイクル(各々は、その後、90%PERCOLL(ポリビニルピロリドン(PVP)でコートされた直径15〜30nmのコロイドシリカ粒子(水中23重量%)。細胞単離に用いられる密度勾配を作製するために用いられた)での10分のスピンが続く)により得た。肝細胞の活性は、トリパンブルー排出テストにより測定され、85%を超える活性を有する細胞を用いた。
【0325】
(ii)細胞培養およびデバイス操作条件
肝細胞培養培地:
図16〜20に示されるデータについて、高グルコース(17.5mM)を含有し、ウシ胎児血清(細胞をプレーティングする際には10%、24時間後の維持の際には2%まで減少)を補充したDMEM/F12の基準培地が、ラット肝細胞培養培地に含まれた。また、当該培地には、ゲンタマイシン(50μg/ml)、ITS(インスリン濃度 2μMol)、1% NEAA、1% GLUTAMAX、およびデキサメタゾン(細胞をプレーティングする際には1μM、24時間後の維持の際には250nM)が含有された。
【0326】
表4および
図36、37のデータについては、低グルコース(5.5mM)を含有し、HEPES(3% vol/vol)およびウシ胎児血清(細胞をプレーティングする際には10% vol/vol、24時間後の維持の際には2%まで減少)を補充したDMEM/F12の基準培地がラット肝細胞培養培地に含まれた。また、当該培地には、ゲンタマイシン(50μg/ml)、ITS(インスリン濃度 2nMol)、1% NEAA、1% GLUTAMAX、およびデキサメタゾン(細胞をプレーティングする際には1μM、24時間後の維持の際には100nM)が含有された。
【0327】
ヒトまたはイヌの幹細胞の培養については、低グルコース(5.5mM)を含有し、HEPES(3% vol/vol)およびウシ胎児血清(細胞をプレーティングする際には10% vol/vol、24時間後の維持の際には2%まで減少)を補充したDMEM/F12の基準培地が、培養培地に含まれた。また、当該培地には、ゲンタマイシン(50μg/ml)、ITS(インスリン濃度 2nMol)、およびデキサメタゾン(細胞をプレーティングする際には1μM、24時間後の維持の際には100nM)が含有された。
【0328】
コラーゲンコーティングおよび配置:コラーゲン溶液は、滅菌蒸留水に溶解したI型ラット尾コラーゲン、10Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)および0.2Nの水酸化ナトリウムを規定の比率(1mlの作成に対し、各成分それぞれ、440μl、375μl、100μlおよび、85μl)で混合することにより作製した。
【0329】
静的状態での培養については、100mm組織培養滅菌処置細胞培養ディッシュを、コラーゲン溶液を7μl/cm
2でコートした。管理された血流力学状態での培養については、75mmTRANSWELLS(ポリカーボネート、10μmの厚さ、および0.4μmの孔直径、no.3419、Corning)の多孔膜の底面を、コラーゲン溶液を7μl/cm
2でコートした。溶液を1時間、ゲル化させた後、表面をDPBSで洗浄し、肝細胞を、125,000生細胞/cm
2の播種密度でプレーティングし、4時間後、コラーゲンゲルの第二層を加えた。1時間後、TRANSWELLSを反転させ、細胞培養ディッシュへとプレーティングし、培地を加えた(下層には9ml、および上層には6ml)。7mlの培地を組織培養ディッシュに加え、静的培養に用いた。24時間後、培地を維持培地(2%FBS含有)へと変え、TRANSWELLSを含有する細胞培養ディッシュをコーンアンドプレートデバイス内へと置いた。管理された血流力学を、上層のTRANSWELLの多孔膜の面に適用した。
【0330】
凍結保存したヒト肝細胞を業者(Kaly−Cell、France)から入手し、業者の指示したプロトコールに従って溶解させた。ヒト肝細胞の播種について、我々はラット肝細胞についての上述の類似手順に従ったが、限局された領域に細胞を播種した。コラーゲンの第二層は、上述のように適用した。
【0331】
ビーグル犬から単離されたばかりのイヌ肝細胞を、業者(Triangle Research Laboratories、Research Triangle Park、North Carolina)から入手し、業者の指示したプロトコールに従って処理した。イヌ肝細胞の播種について、我々はラット肝細胞についての上述の類似手順に従ったが、限局された領域に細胞を播種した。コラーゲンの第二層は上述のように適用した。
【0332】
操作条件:文献から、類洞(ΔP)、類洞の半径(r)および類洞の長さ(l)を横切る圧力勾配に対する基準値を用いて、せん断応力(ダイン/cm
2(τ))は、シリンダーを通るニュートン流体の圧力駆動流に対する式に基づいた、典型的な肝類洞に対して算出された。
【数1】
【0333】
最初の最適化プロセスの一部として、文献から予測される値の桁内の比率をもたらす、培地粘度およびコーンスピードを改変することにより得られた、適用されたせん断応力条件の範囲は、膜全体にわたるセイヨウワサビペルオキシダーゼ色素の異なる輸送プロファイルと関連しているように思われた。これらを、培養への7日間、培養肝細胞の遺伝子発現プロファイルに対して検証した(データは示さず)。静的培養と、せん断力を適用せずに単純に灌流を行ったものの間に差異は見られず、遺伝子発現プロファイルに基づき、本実施例に記述される全ての実験に対し、0.6ダイン/cm
2の操作せん断率を選択した。
【0334】
(iii)表現型、機能、代謝および毒性のパラメーターの評価
RT−PCR:代謝、毒性およびインスリン/グルコース/脂質経路の遺伝子における変化を、培養期間(7または14日)の最後で、健常状態および脂質浸潤状態下で稼働されたデバイス由来の肝細胞からRNAを抽出し、このRNAでRT−PCRを実施することにより評価した。TRANSWELLSをデバイスから取り出し、細胞を多孔膜からはがし取る前に、PBSで洗浄した。総RNAをPURELINK RNA Mini Kit(細胞からの総RNA精製のためのキット)を用いて単離し、ISCRIPT cDNA Synthesis Kit(cDNA合成キット)を用いてcDNAへ逆転写した。プライマーは、代謝遺伝子CYP1A1、CYP1A2、CYP3A2、MDRおよびGST、ならびに、インスリン/グルコース/脂質経路遺伝子GPAT、ACC1、IRS−2、PPAR−γ、SREBP、ChREBP、LXR、CD1、CPT1に対して設計した。プライマー配列を以下の表1に示す。
表1:ラットプライマー配列
【表1】
【0335】
RNA発現を、IQ SYBR Green Supermix(RT−PCRのためのPCR試薬混合物)およびC1000 Thermal Cyclerを備えたCFX96 Real−Time System(RT−PCR検出システムおよびサーマルサイクラ―)を用いて、リアルタイムRT−PCRにより分析した。RNAデータはβ2−マイクログロブリンの内因性発現に対して正規化され、健常培養物と比較した相対量として報告された。
【0336】
代謝および毒性実験のために分析されたヒト遺伝子には、CYP1A1、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2D6、CYP3A4、CYP3A5、GSTA1、UGT1A1、GSR、SORD、TXNRD1、およびAPEX1が含まれた。これらに対するプライマー配列を、表2に示す。代謝に対して分析されたイヌ遺伝子には、CYP1A1およびCYP3A12が含まれた(プライマー配列は表3に示す)。
表2:ヒトプライマー配列
【表2】
【0337】
表3:イヌプライマー配列
【表3】
【0338】
尿素およびアルブミンアッセイ:様々な時点での静的培養およびデバイスから採取された培地を、ラット特異的ELISAベースのキット(Bethyl Laboratories)を用いて、メーカーのプロトコールに従い、アルブミンに対して分析した。尿素は、標準比色アッセイ(QUANTICHROM Urea Assay Kit、DIUR−500、Gentaur)を用いて培地試料から推定した。システム間の全ての計測は、灌流された培地の体積および、最初にプレーティングされた細胞数に基づく比較のために、百万個の細胞/日の比率ごとに対して正規化された。
【0339】
ウェスタンブロット:管理された血流力学の適用の後、TRANSWELLの多孔膜の配置面の1/3(約180万個の細胞)は、新鮮な150mM DTTおよびプロテアーゼ阻害物質(HALT Protease Inhibitor Cocktail(Pierce)+1mM PMSF+200mM DTT)を含有する1X RIPA緩衝液150μlのタンパク質のために採取された。試料を氷上で、5x1秒パルスでソニケートし、氷上に30分置き、冷却された微小遠心管で10分間、17,000xgで遠心した。タンパク質測定は、A660nm Protein Reagent(Pierce)を用いて行った。試料を10分間、70℃で煮て、次いで、7.5% TGXゲル(プレキャストポリアクリルアミドゲル、BioRad)で泳動させ、0.2μmのPVDF膜にウェットトランスファーを行い、室温で10分間、5%の脱脂粉乳中でブロッキングした。膜をウサギ抗UGT抗体(Cell Signaling、1:500希釈)中で、4℃、一晩、インキュベートした。二次抗体(Santa Cruz、ヤギ抗ウサギHRP、1:5000希釈)インキュベーションは、室温で1時間行った。化学発光シグナルは、SUPERSIGNAL WEST PICO(セイヨウワサビペルオキシダーゼの化学発光基質、Pierce)試薬を用いて発色させ、Innotech ALPHAEASEイメージングシステムを用いて捕捉した。正規化については、ゲルを、マウス抗βアクチン(Sigma A1978、1:2000希釈)でプローブし、次いで、ヤギ抗マウスHRP二次抗体(Santa Cruz sc−2005、1:10,000希釈)を用いた。
【0340】
免疫染色および胆管活性染色:使用抗体:Hnf4a(Santa Cruz sc−8987)、E−カドヘリン(Santa Cruz sc−71009)および、抗MRP2(Abcam ab3373)。実験設計において選択された時点で、静的な培養物および管理された血流力学状態に供された培養物は、1xPBSで穏やかに洗浄され、その後、4%パラホルムアルデヒドで30分間、固定された。試料は、免疫染色されるまで、4℃、PBS中で保存された。免疫染色については、最初に0.1%のTRITON X(非イオン界面活性剤)で20分間、試料を透過処理し、次いで、PBSで洗浄し、5%ヤギ血清でブロッキングした。一次抗体とのインキュベーションは、1:100希釈で1時間、行われた。1%BSA含有PBSで3回洗浄した後、二次抗体を1:500希釈でさらに1時間添加した。次いで、試料を1%BSA添加PBSで洗浄し、次いで、共焦点イメージングのために標本化した。
【0341】
毛細胆管ジャンクションでの胆管活性のイメージングについては、TRANSWELLの多孔膜切片をPBSで洗浄し、10μMのカルボキシ−2,7−ジクロロフルオレセインジアセテート(CDFDA)を含有する培地で10分間、インキュベートした。次いで、試料をPBSで洗浄し、共焦点イメージングのためにガラススライド上に置いた。
【0342】
透過電子顕微鏡:透過電子顕微鏡を、以下の実施例5に記述するように実施した。
【0343】
チトクローム活性アッセイ:肝細胞を、静的状態または管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で5日間、培養し、次いで、0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)または公知のチトクローム酵素誘導物質(3−メチルコラントレンおよびデキサメタゾン)で48時間処置した。およそ2cm
2の面積の多孔膜断片を切除し、標準的な24ウェルプレートへ、対応する静的培養物と同時に移送した。細胞を、メーカー推奨の濃度で市販のp450−GLOキット(発光性チトクロームp450アッセイのためのキット)基質を含有する肝細胞培地500μlとインキュベートした。4時間後、培地を96ウェルプレートに移し、メーカーのプロトコールに従い、チトクロームp450活性を反映する発光代謝物を分析した。次いで、同じ多孔膜断片または静的培養のウェルの細胞のATP含量を、CELLTITER−GLOアッセイ(発光性細胞活性アッセイ)によりメーカーのプロトコールを用いて推定し、チトクロームの値をATP含量に対して正規化した。
【0344】
CYP活性およびヒト肝細胞の誘導応答を分析するために、細胞をプレーティングし、コーンアンドプレートデバイス内で培養し、上述の操作条件の下、管理された血流力学的状態に供し、または、静的状態(対照)の下で、7日間培養し、0.1%DMSO、または公知のCYP誘導剤であるフェノバルビタール(静的状態に対しては500μM、デバイスに対しては50μM)、またはリファンピシン(静的状態に対しては25μM、デバイスに対しては2.5μM)のいずれかに72時間、曝した。次いで、肝細胞を、CYP基質のカクテル[(エトキシ レゾルフィン(10μM)、ミダゾラム(3μM)、塩酸ブフラロール(10μM)、(S)−メフェニトイン(50μM)、塩酸ブプロピオン(100μM)、およびジクロフェナクナトリウム(10μM)]を含有する培地で4時間インキュベートした。次いで、培養上清を回収し、特定のCYP酵素の特異的活性を評価するために、代謝物の形成についてHPLCにより分析した。
【0345】
糖新生アッセイ:上述のように単離され、プレーティングされた初代ラット肝細胞を、管理された血流力学的状態の下、7日間、コーンアンドプレートデバイス中で培養した。肝細胞をPBSで洗浄し、基質グリセロール(2mM)または乳酸塩(20mM)およびピルビン酸塩(2mM)を添加したグルコースフリー培地で、制御ホルモンであるインスリン(2nM)またはグルカゴン(100nM)の存在下、または非存在下で、インキュベートした。4時間後、上清を回収し、比色AMPLEX REDキット(グルコース/グルコース オキシダーゼアッセイキット、Life Technologies)を用いて、メーカーの説明書に従い、グルコース含量について分析した。グルコース値は、細胞溶解物のタンパク質含量に対して正規化された。
【0346】
MTTアッセイ:ヒト肝細胞の毒性応答を分析するために、細胞をプレーティングし、管理された血流力学的状態の下、上述の操作条件を用いて、コーンアンドプレートデバイス中で、または、静的条件の下(対照)で、7日間培養し、0.1%DMSO、または公知の毒物クロルプロマジン(0.1μM、1μMおよび10μM)のいずれかに、72時間、曝した。次いで、肝細胞を、1mg/mlのMTT試薬(チアゾリルブルー テトラゾリウムブロミド)を含有する培地で1時間インキュベートし、その後、細胞をDMSOで溶解させて、形成されたホルマザンブルー色素を放出させた。溶液を96ウェルプレートに移し、吸光度を595nmで読み取った。
【0347】
生−死染色:ヒト肝細胞における毒性応答を分析するために、細胞をプレーティングし、血流力学的状態の下、上述の操作条件の下、コーンアンドプレートデバイス中で7日間培養し、または、静的条件の下(対照)で培養し、0.1%DMSO、または公知の毒物クロルプロマジン(0.1μM、1μMおよび10μM)のいずれかに、72時間、曝した。処置の最後に、肝細胞をPBSで洗浄し、次いで、LIVE/DEAD活性/細胞毒性試薬(Invitrogen)中で、2μMカルセインAMおよび4μMのエチジウム ホモ二量体−1(EthD−1)の濃度で、30分間、インキュベートした。次いで、細胞をガラスカバースリップの間で標本化し、共焦点顕微鏡を用いて画像撮影した。
【0348】
miRNA122アッセイ:ラット肝細胞をプレーティングし、上述の操作条件を用いて、7日間、コーンアンドプレートデバイスにおいて管理された血流力学的状態の下、または静的状態の下(対照)、培養した。次いで、肝細胞をPBSで洗浄し、公知の毒物であるクロルプロマジン(CPZ)(2つの異なる濃度(1μMおよび10μM))を添加し、または添加せずに、血清フリー肝細胞培地で4時間、インキュベートした。細胞由来の上清を回収し、マイクロRNA抽出は、MIRNEASY血清/血漿キット(マイクロRNA抽出のためのキット、Qiagen)を用いて行った。cDNAは、メーカーの説明書に従い、MISCRIPTII RTキット(cDNA調整のためのキット、Qiagen)を用いることにより調整し、試料は、MISCRIPT SYBR GREEN PCRキット(cDNA定量のためのキット、Qiagen)を用いることにより定量した。
【0349】
結果
(i)管理された血流力学的状態により、従来の静的単一培養の状態と比較して、肝細胞の表現型、分極形態、および輸送局在性が維持される。
単離されたばかりのラット初代肝細胞を得て、多孔膜上のコラーゲンゲルサンドイッチ内に置いた。1日後、CO
2インキュベーター、37℃で標準的な静的状態の下で培養が継続されるか、または血流力学的な流れ技術を導入して、あらかじめ決められた間接的なせん断率(0.6ダイン/cm
2)で管理された血流力学的な状態の下のいずれかで培養が維持された。静的な培養状態においては、培地は48時間毎に変え、デバイスにおいては、継続的に灌流した。7日後、培養物を取り出し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、肝細胞分化マーカー(E−カドヘリンおよびHNF−4α)に対する抗体で免疫染色し、共焦点顕微鏡で可視化した。コラーゲンゲルサンドイッチ静的培養におけるE−カドヘリン染色パターン(
図16A)は、形態学的分析により、高レベルの細胞質E−カドヘリンが確認および定量され(隣接したグラフ)、および、周辺膜分布を妨害した。管理された血流力学的状態の下では(
図16B)、肝細胞は、E−カドヘリンのはっきりとした周辺膜局在およびより低レベルの細胞質E−カドヘリンにより特徴付けられる、より分化した形態を示した。HNF4αの染色パターンは、局在性のパターンにおいて明白な差を示し、静的培養状態におかれた細胞は7日目まで散漫な染色パターン(
図16C)であった一方、管理された血流力学的状態におかれた細胞は、核に限定された染色を維持していた(
図16D)(in vivoにおいて見られるものと類似)。分極形態および、コラーゲンゲルサンドイッチ培養の5〜7日後に現れるtransporter multi drug resistant protein−2(MRP−2)の毛細胆管局在は、静的培養では14日までに消失した(
図16E)が、管理された血流力学的状態の下では毛細胆管ネットワークパターンは安定し、広範囲にわたっている(
図16F)。管理された血流力学的状態の下で維持された14日目の培養を、MRP−2およびHNF−4αで共染色(
図17A)し、それと同時に、ラットのin vivo肝臓由来の切片も共染色した(
図17B)ところ、非常に類似した染色パターンを示した。管理された血流力学的状態の下での7日目の培養物の透過型電子顕微鏡画像(
図17C)では、たとえば滑面小胞体および粗面小胞体、並びにミトコンドリア等の細胞内成分の保持が示され、加えて、毛細胆管およびタイトジャンクションの存在も確認された。
【0350】
(ii)14日間にわたり、静的な培養と比較し、管理された血流力学的状態によって、コラーゲンゲル構造中のラット肝細胞の肝細胞特異的機能が維持された。
肝細胞を静的または管理された血流力学的状態(0.6ダイン/cm
2)の下で2週間培養し、4、7、11、および14日目で培地から試料採取した。尿素およびアルブミンに対するアッセイを培地に対して行い、値は、最初にプレーティングされた細胞数に基づき、100万細胞毎に、24時間の産生率に対して正規化された。肝細胞機能は、14日間の様々な時点での培地試料から推定される分泌アルブミンにより示され、μg/プレーティングされた肝細胞数10
6/日として表されている(
図18A)。静的な培養(点線)と比較して、管理された血流力学的状態の下(実線)では、有意に高いレベル(3〜4倍)が示された(7日目:97.96±11.34対25.84±8.22、p=0.00001;14日目:87.80±8.62対33.93±4.39、p=0.0001)。肝細胞による尿素分泌(
図18B)は、μg/プレーティングされた肝細胞数10
6/日として表され、管理された血流力学的状態の下(実線)では、静的な培養(点線)よりも4〜5倍高いレベルであり、2週間にわたる培養において一定していたことが判明した(7日目:622.78±33.96対139.76±13.37、p=2.7x10
−9;14日目:667.71±84.37対178.68±6.13、p=1x10
−6)。
【0351】
(iii)管理された血流力学的状態において、フェーズIおよびフェーズIIの代謝遺伝子およびタンパク質の発現は、静的培養と比較し、特異的に制御された。
肝細胞を、静的または管理された血流力学的状態(0.6ダイン/cm
2)の下で7日間培養した。これらの条件からの7日目のRNA試料に対して、QRT−PCRを選択された代謝遺伝子(表1)に対して行った。全ての値は、7日目の静的培養に対して正規化された。管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞は、静的培養よりも一定して高い遺伝子発現レベルであり(n=11、静的培養と比較した倍数変化:Cyp1A1〜54、p=0.0003;Cyp1A2〜64、p=0.005、Cyp2B1〜15、p=0.001:
図19A、Cyp2B2〜2.7、p=0.09およびCyp3A2〜4、p=0.075:
図19B)、in vivoレベルに近いものであった。興味深いことに、フェーズII酵素GSTのPiサブユニットの遺伝子(静的培養において時間と共に増加することが知られている)の発現レベルは、in vivoの肝臓(−4.9倍、p=0.152)および管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞(−2.3倍、p=0.025)の両方において、静的培養と比較し、低かった(
図19C)。
【0352】
肝細胞を、静的または管理された血流力学的状態(0.6ダイン/cm
2)の下で培養した。細胞培養物を4、7、11および14日で取り出し、細胞溶解物を方法の項で記述したように得て、総タンパク質に対して正規化し、等量の試料をSDSページゲル上にロードして泳動し、フェーズII酵素UGT1 A1 およびβアクチン(正規化のため)に対する抗体でプローブした。ウェスタンブロット(
図19D)により、UGT1 A1は、2週にわたる培養の全ての時点で、静的な培養状態と比較し、管理された血流力学的状態の下でアップレギュレートされていた。同様の実験において、管理された血流力学的状態の下での14日の培養から採取したTRANSWELLの多孔膜の一部を、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、HNF−4a、および毛細胆管輸送タンパク質MRP−2に対して染色したところ、肝細胞の間の毛細胆管ジャンクションに沿ったMRP−2の維持および局在が示された(
図17A)。残りの膜は、デバイスから取り出した後にとりだし、ただちに基質カルボキシ−2,7−ジクロロフルオレセイン ジアセテート(CDFDA)とインキュベートした。細胞を共焦点顕微鏡により、20分のタイムウィンドウで撮影し、基質がカルボキシ−2,7−ジクロロフルオレセイン(CDF)へと分解され、毛細胆管構造へと能動分泌されていることが観察された(
図17Cに示す)。そのパターンは、MRP−2抗体およびHNF−4a抗体で免疫染色したin vivoの肝臓の切片試料と非常に類似していた(
図17B)。
【0353】
(iv)管理された血流力学的状態の下で培養されたラット肝細胞は、静的な培養よりも、よりin vivo様の濃度で、高いレベルの基準チトクロームp450、および誘導可能なチトクロームp450を示す。
代謝活性における変化に対して翻訳される代謝遺伝子およびタンパク質の増加を立証するために、初代ラット肝細胞を、管理された血流力学的状態の下(0.6ダイン/cm
2)でのコーンアンドプレートデバイスにおいて、または静的なコラーゲンゲル培養でのいずれかで、上述のように培養した。5日後、0.1%DMSO、1A/1B誘導物質3−メチルコラントレン(3−MC、静的状態では1μM、管理された血流力学的状態の下では0.1μM)、または3A誘導物質デキサメタゾン(静的状態では50μM、管理された血流力学的状態の下では02.5μM)でそれらを処置し、または処置せずにおいた。48時間後、7日目に、管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞を含むデバイス由来の多孔膜(およそ2.0cm
2の面積)の断片を摘出し、標準的な24ウェルのプレートに移し、対応する静的培養(異なる剤で処置)と並行して、Cyp p450酵素に対する基質で処置した。チトクロームp450アッセイを、市販のp450−GLOキットを用いて7日目に行った。4時間後、培地を96ウェルプレートに移し、チトクロームp450活性を反映する発光性代謝物を分析した。値は、CELLTITER−GLOにより分析された細胞のATP含量に対して正規化され、生細胞の正確な提示を得て、総タンパク質計測に対するコラーゲンゲルの交絡効果を回避した。
【0354】
未処置培養における、チトクロームp450酵素の基準活性レベル(
図20A)は、静的状態と比較し、管理された血流力学的状態によりアップレギュレートされていた(1Aは約15倍、1Bは約9倍、および3Aは約5倍)。高レベルの基準活性にもかかわらず、管理された血流力学的状態の下での、古典的誘導剤への応答(
図20B)は、良く維持されていた(DMSOに対する1A/1B 対 3−MC、−4.87対133.06;DMSOに対する3A応答 対 デキサメタゾン、−11.64対57.53))。
【0355】
管理された流れの下で着目した高い遺伝子発現を確認するための、Cyp活性の測定を最初に行ったものの、静的培養を誘導するための推奨濃度である50μMのデキサメタゾンは、このシステムにおいては毒性であった。結果として、デキサメタゾンの濃度を1μg/mlにまで下げ、ラットでin vivoにおいて見られる血漿濃度と良く相関するレベルの、誘導可能な応答を得た。同様に、3−MCに対する誘導応答は、管理された血流力学的状態の下では、10倍低いレベルで見られた。
【0356】
管理された血流力学的状態の下でのトランスポーター活性の存在を確認するために、デバイス由来のTRANSWELLフィルター断片を、基質カルボキシ−2,7−ジクロロフルオレセイン ジアセテート(CDFDA)とインキュベートした。化合物は、蛍光形態のCDFカルボキシ−2,7−ジクロロフルオレセインへと分解され、毛細胆管へと能動的に分泌され、能動毛細胆管輸送を実証する(
図20C)。
【0357】
上述のデータは、管理された血流力学的状態に曝された肝細胞の影響を評価するために行われた実験の結果であり、in vivoで観察される表現型により似せて再現するためである。これらの実験においては、静的培養において日常的に用いられている標準的な培地組成を使用して、静的なコラーゲンゲル培養と並行して比較することを可能にし、管理された血流力学的状態の選択的利点を特定した。これらの実験の過程において、これら管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞は、in vivo様の表現型および機能の増強を示し、たとえばデキサメタゾンおよび3−MC等の誘導剤に対してより反応性を示した。しかしながら、静的システムにおけるアッセイで日常的に用いられているグルコース(17.5mM)およびインスリン(2μMol)の濃度で培養された肝細胞において、いくらかの脂質の蓄積もまた観察された。本明細書に記述される管理された血流力学的状態の下で肝細胞が培養される場合、ずっと低い濃度のグルコースおよびインスリン(健康な個人に置いて見られる濃度と類似)を用いることができることが明らかとなった。本データから、これら低い濃度のグルコース(5.5mM)およびインスリン(2nM)は、肝細胞の機能および代謝活性をさらに強化することが示される。さらに、以下の実施例にさらに説明されるように、脂肪性肝疾患のモデルを作製するために、より高い濃度のグルコースおよびインスリンを含有する培地中で、管理された血流力学的状態の下、肝細胞を培養することもできる。
【0358】
(v)管理された血流力学的状態の下で培養された初代ラット肝細胞は、インスリンおよびグルコースに対し反応性を示す。
上述のように単離され、プレーティングされた初代ラット肝細胞を、管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイスで7日間、培養し、その後、PBSで洗浄し、制御ホルモンであるインスリン(2nM)またはグルカゴン(100nM)の存在下、または非存在下で、基質のグリセロール(2mM)または乳酸塩(20mM)およびピルビン酸塩(2mM)と共にインキュベートした。AMPLEX REDアッセイにより測定された、4時間後の上清中のグルコースレベルから、基質の非存在下では、インスリンはグルコースレベルを27%まで減少させた一方、グルカゴンは51%まで上昇させたことが示された。基質のグリセロールの存在下では、肝細胞により産生されたグルコースは、67%まで増加した。グルカゴンの添加により、グルコースレベルはさらに15%まで上昇した一方、インスリンはグルコースレベルを38%まで減少させた。乳酸塩およびピルビン酸塩を基質として使用した場合には、肝細胞から産生されたグルコースは、グルカゴンの存在下で80%まで増加した一方、インスリンは25%までグルコースレベルを減少させた。これらのデータを表4にまとめる。
【表4】
【0359】
(vi)管理された血流力学的状態の下で培養された凍結保存ヒト肝細胞は、in vivoレベルの濃度で、フェノバルビタールおよびリファンピシンに対し誘導反応を示す。
ヒト肝細胞を、7日間、上述の操作条件の下、管理された血流力学的状態の下で、コーンアンドプレートデバイス中で培養し、または、静的な状態(対照)の下で培養し、公知のCYP誘導剤であるフェノバルビタール(静的状態に対しては500μM、管理された血流力学的状態に対しては50μM)またはリファンピシン(静的状態に対しては25μM、管理された血流力学的状態に対しては2.5μM)に72時間、曝した。次いで、肝細胞をPBSで洗浄し、CYP基質(上述)のカクテルを含有する培地で4時間、インキュベートした。次いで、培養上清を回収し、代謝物形成を分析して、特定のCYP酵素の特異的活性を評価した。結果は、細胞のタンパク質含量に対して正規化され、pmol/分/タンパク質mgとして表した。DMSO0.1%でビヒクル処理された対照は、静的な状態と比較し、管理された血流力学的状態の下で、高レベルのCYP2B6、CYP2C9およびCYP3A4を示した(それぞれ、7.7対4.6、4.6対0.5、および7.6対0.7pmol/分/タンパク質mg)。また、管理された血流力学的状態の下での低い濃度(50uM)でのフェノバルビタール処理は、静的な状態での高い濃度(500μM)と比較して、同等な、または高いレベルのCYP2B6、CYP2C9およびCYP3A4の酵素活性をもたらした(それぞれ、45.9対34.3、16.3対0.9および、16.3対3.8pmol/分/タンパク質mg)。同様に、管理された血流力学的状態の下での低い濃度(2.5μM)でのリファンピシン処理は、静的な状態での高い濃度(25μM)と比較して、同等の、または高いレベルのCYP2B6、CYP2C9および、CYP3A4の酵素活性をもたらした(それぞれ、87.3対131.1、1.4対16.0、および11.5対23.1pmol/分/タンパク質mg)。これらの結果を
図33に図示する。
【0360】
(vii)管理された血流力学的状態の下で培養された凍結保存ヒト肝細胞は、in vivoレベルの濃度でクロルプロマジンに対して毒性応答を示す。
凍結保存された初代ヒト肝細胞を溶解し、上述のようにプレーティングし、そして管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で、または、静的な状態の下(対照)で、7日間培養し、異なる濃度のクロルプロマジン(0.1μM、1μM、および10μM)、またはビヒクル対照に、72時間曝した。生死染色は、肝細胞に対しエチジウム−カルセイン染色で実施した。また肝細胞を、MTT試薬と1時間インキュベートし、活性を分析した。RNAを追加断片から抽出し、RT−PCRを行って、選択毒性および代謝遺伝子を分析した。静的状態の下での肝細胞培養は、検証された全ての濃度で何の毒性も示さなかった。しかし、管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞は用量依存性の毒性を示した(1μMで30.3%の毒性、10μMで46.4%の毒性)(
図34の右パネル)。1μMでは、管理された血流力学的状態のデバイスで培養された肝細胞に対する毒性は、生死染色でも検出された(
図34の左パネル)。
【0361】
RT−PCRは、静的対照と比較し、管理された血流力学的状態の下では、1μMのクロルプロマジンで、様々な酸化ストレス関連毒性遺伝子のアップレギュレーションが示された。(グルタチオン還元酵素(GSR)に対しては8.3倍。チオレドキシン還元酵素(TXNRD1)に対しては5.5倍、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(SORD)に対しては6.9倍および、APEXヌクレアーゼ(多機能性DNA修復酵素)に対しては2.8倍)。同時に、ある代謝遺伝子もまた、静的対照と比較して、管理された血流力学的状態の下はアップレギュレートされていた(チトクロームp450ファミリー1のメンバーであるA2(CYP1A2)に対しては17.8倍、チトクロームp450ファミリー1のメンバーであるA1(CYP1A1)に対しては8.4倍、チトクロームp450ファミリー2のメンバーであるB6(CYP2B6)に対しては5.6倍)。これらの結果は
図35に示す。
図35に示される結果において、KalyCellドナー#B0403VT由来の初代ヒト肝細胞を用いた。
【0362】
これらのデータから、初代ヒト肝細胞は、管理された血流力学的状態の下、臨床的な血漿C
max濃度でクロルプロマジンに対する毒性応答を示すことが示された。これらの毒性応答は、酸化ストレス関連遺伝子およびある代謝遺伝子のアップレギュレーションと関連している。
【0363】
(viii)管理された血流力学的状態の下で培養された初代ラット肝細胞は、in vivoレベルの濃度でのクロルプロマジン曝露に応答し、急性毒性およびmiRNA122の放出を示す。
上述のように単離およびプレーティングされた初代ラット肝細胞を、管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で、または静的状態(対照)の下、7日間、培養した。肝細胞をPBSで洗浄し、ただちにビヒクル(蒸留水)またはクロルプロマジン(1μM)のいずれかと4時間、インキュベートした。上清を回収し、miRNA122のレベルを上述のように測定した。静的状態の下では、1μMのクロルプロマジンは、ビヒクル対照と比較し、上清におけるmiRNA122のレベルには何の変化も起こらなかった。対照的に、管理された血流力学的状態の下で培養され、クロルプロマジン(1μM)と4時間インキュベートされた肝細胞は、有意に高いレベルでmiRNAを放出した(ビヒクル対照と比較して6倍)。これらの結果を
図36に示す。
【0364】
(ix)管理された血流力学的状態の下で培養された初代ラット肝細胞は、in vivo濃度でのトログリタゾン曝露に反応して、亜致死的な毒性を示し、胆汁鬱滞の変化を表す。
上述のように単離およびプレーティングされた初代ラット肝細胞を、管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で5日間、培養し、4μM〜40μMのトログリタゾンに48時間、曝露した。肝細胞をPBSで洗浄し、ただちに基質の10uM カルボキシ−2,7−ジクロロフルオロセリン ジアセテート(CDFDA)とインキュベートした。細胞を、非蛍光性の基質CDFDAに曝露させ、基質が高度に蛍光性のMrp−2基質カルボキシ−2,7−ジクロロフルオレセイン(CDF)へと加水分解され、毛細胆管構造内へと能動分泌される20分間の間、共焦点顕微鏡により画像撮影した。4uMでは、トリグリタゾンは、毛細胆管パターンに、明白な毛細胆管構造の拡張を伴う変化を引き起こすことが判明した。これらの変化は、40uMのトログリタゾンで、より顕著で広範囲にわたっていた(
図37)。管理された血流力学的状態の下で培養された際の、in vivo/臨床血漿C
max濃度での、ラット肝細胞のトログリタゾンへの毒性応答は、酸化ストレス関連遺伝子のアップレギュレーション、およびMRP3およびMRP4遺伝子の代償性アップレギュレーションと関連していた(
図38)。
【0365】
(x)管理された血流力学的状態の下で培養された初代イヌ肝細胞は、静的状態での培養と比較し、分極形態の保持を示し、重要な代謝遺伝子の高い発現を示す。
単離されたばかりのイヌ肝細胞を、ヒト肝細胞に対する上述の方法と類似の操作条件で、管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で培養し、または、静的状態(対照)の下で培養した。7日後、培養物を固定し、ファロイジンおよびDraq5(それぞれ、アクチン細胞骨格および核に対する)で染色した。RNAを細胞から採取し、RT−PCRを、特定の代謝遺伝子に対して実施した。イヌ肝細胞は、7日目で、多角形の分極形態を保持し、そして、静的状態の対照よりも有意に高くCYP1A1およびCYP3A12を発現していることが確認された(それぞれ6.7倍および7.4倍)。これらの結果を
図39に示す。
【0366】
実施例5:脂肪性肝疾患に対するIn vitroモデル
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝機能障害のもっとも多い原因であり、肥満、インスリン抵抗性および2型糖尿病と関連している。脂肪性肝における変化は、肝細胞内の脂肪小胞の早期の蓄積(肝脂質浸潤(steatosis))から、それに引き続き肝臓の代謝機能の消失、炎症性変化、最終的には線維症および肝硬変へと進行する。脂肪性肝疾患の動物in vivoモデルは、トリグリセリドの集積を誘導する糖尿病性環境の反映である、高血糖症および高インスリン血症を誘導する、高脂肪食または低脂肪・高炭水化物食のいずれかをうまく用いている。しかしながら、in vitroモデルは多くの場合、脂質変化を誘導するために遊離脂肪酸(オレイン酸、パルミチン酸またはリノール酸)の過負荷のみを用いており、おそらく疾患の発症機序において重要な役割を果たしうる高レベルのグルコースおよびインスリンに対するde novoの肝細胞応答を捉えていない。静的な肝細胞培養もまた、インスリン応答が著しく減少することが知られており、通常、必要最小限の肝細胞の生存および機能のために、生理学的なレベルではない高レベルのホルモンが、標準的な培養培地に必要となる。対照的に、本明細書に記述されるモデルは、薬物およびホルモンに対する生理学的な肝細胞応答をより保持しており、in vivoレベルにより近いグルコースおよびインスリンの濃度で、基本的な肝臓の機能を維持することができ(実施例4に上述)、さらに、高グルコースおよびインスリンレベルにより特徴付けられる糖尿病様環境を作り出すことにより、脂肪性肝において見られる病的な応答を引き起こすこともできる。
【0367】
方法:
(i)動物の外科手術および肝細胞の単離
動物の外科手術および肝細胞の単離は実施例4に上述のように行った。
【0368】
(ii)細胞培養およびデバイス操作条件
健常な肝細胞培養培地:健常な肝細胞培養培地は、ウシ胎児血清(プレーティングする際には10%、24時間後の維持に対しては2%まで減少)を補充した、低グルコース(5.5mM)を含有するDMEM/F12基礎培地を含有した。さらに培地にはゲンタマイシン(50μg/ml)、ITS(インスリン、トランスフェリン、およびセレニウム;インスリン濃度は2nM)、1%非必須アミノ酸(NEAA)、1%GLUTAMAX(L−アラニル−L−グルタミン含有培地補充剤)、およびデキサメタゾン(
図21および22に示すデータに対しては、プレーティングする際には1μM、24時間後の維持の際には250nM;
図25〜32に示すデータに対しては、実験を通して100nM)を含有した。
【0369】
脂肪性肝変化を誘導するための培地(脂肪性肝培地):脂肪性肝変化を誘導するために用いられた培養培地には、ウシ胎児血清(プレーティングする際には10%、24時間後の維持の際には2%まで減少)を補充した、高グルコース(17.5mM)を含有するDMEM/F12基礎培地を含有した。また、培地には、ゲンタマイシン(50μg/ml)、ITS(インスリン濃度は2μMol)、1%NEAA、1%GLUTAMAX、およびデキサメタゾン(
図21および22に示すデータに対しては、プレーティングする際には1μM、24時間後の維持の際には250nM;
図25〜32に示すデータに対しては、実験を通して100nM)を含有した。
【0370】
コラーゲンコーティングおよび配置:コラーゲン溶液は実施例4に記述されるように作製した。75mmのTRANSWELLSの多孔膜(ポリカーボネート、10μmの厚さ、0.4μmの孔直径、no.3419、Corning)の低面を、300μlのコラーゲン溶液でコートした。1時間、ゲルに溶液を接触させた後、表面をDPBSで洗浄し、肝細胞を125,000生細胞/cm
2の播種密度でプレーティングし、4時間後にコラーゲンゲルの第二層を加えた。1時間後、TRANSWELLSを反転させ、細胞培養ディッシュ内にプレーティングし、培地を加えた(下層に9ml、上層に6ml)。24時間後(すなわち、実験の2日目)、培地を維持培地(上述の脂肪性肝培地または健常培地)に変え、ペトリディッシュをコーンアンドプレートの血流力学的フローデバイスに置き、管理された血流力学的状態を上層のTRANSWELLの多孔膜の面に適用した。一部の例において、維持培地には0.1%DMSOビヒクルに溶解した1.5μMピオグリタゾンを含有し、または、0.1%DMSOビヒクルのみを含有した。管理された血流力学的状態の下、7日まで細胞を培養し、以下に記述されるアッセイを用いて肝細胞を検証した。
【0371】
操作条件:せん断応力は、上述の実施例4のように算出した。培地粘度およびコーンスピードを変え、文献から予測される値の桁内の比率とすることにより作製された適用されたせん断応力条件の範囲(0.1〜6ダイン/cm
2)を用いた。これらは、膜を横切る基準色素であるセイヨウワサビペルオキシダーゼ色素の異なる輸送プロファイルと相関していた。培養は7日間行われ、脂肪性肝の変化に対して分析された。
【0372】
(iii)脂肪性肝変化の測定:
健常な対照と比較し、脂肪性肝モデルにおいて発生する変化を検証するために、以下を評価した:
(a)代謝遺伝子およびインスリン/グルコース脂質経路遺伝子における変化(RT−PCR)
(b)オイルレッドOアッセイ、ナイルレッド染色、および総トリグリセリド測定による、肝細胞内の細胞内脂質の蓄積、
(c)肝細胞の分化した機能における変化(尿素およびアルブミン分泌)
(d)代謝活性における変化(チトクロームp450アッセイ);および、
(e)透過型電子顕微鏡(TEM)による肝細胞内の形態変化
【0373】
RT−PCRならびに、尿素およびアルブミンアッセイは、上述の実施例4のように実施した。
【0374】
染色方法:肝細胞TRANSWELL膜断片は、PBSに希釈した0.1%Triton−X中で20分間、透過処理し、PBSで3度、洗浄した(各5分)。次いで、試料を、PBSに溶解した5%ヤギ血清、0.2%ブロッティンググレードの脱脂粉乳ブロッカー、および1%BSAで45分間、ブロッキングした。次いで、試料をPBSに溶解した0.1%BSAで3度洗浄し、1:5000希釈のナイルレッド(1mMストック)、1:1000希釈のDRAQ5(蛍光DNA色素;Cell Signalling)、1:500希釈のファロイジン接合ALEXA FLUOR 488(Life Technologies)、およびPBSに溶解した1%BSAと30分間、インキュベートし、遮光した。試料を、PBSに溶解した0.1%BSAで3度、各5分間洗浄し、PROLONG GOLD抗減色封入培地(抗減色試薬;Invitrogen)を用いてガラスカバースリップに乗せた。試料をNikon C1+共焦点システム顕微鏡で画像撮影した。
【0375】
透過イメージング顕微鏡(TEM):健常、または脂質浸潤状態の下で7日間培養された肝細胞を含有するTRANSWELLS由来の多孔膜断片を、PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドおよび2%グルタルアルデヒドを含有する溶液中で1時間固定した。次いで、試料を、University of Virginia imaging centerでのTEM処理のために送付した。TEM画像は肝細胞内の脂質の蓄積、細胞内器官(たとえばミトコンドリアならびに滑面小胞体および粗面小胞体等)の出現、分極形態の維持、および毛細胆管に対して評価された。
【0376】
オイルレッドOアッセイ:肝細胞内の細胞内脂質の蓄積を、市販のSteatosis Colorimetric Assay Kit(Cayman Chemical)を改変および適合させることにより分析した。培養期間の最後に、健常および脂質浸潤状態の下でのデバイスからの肝細胞を含有する2cm
2の大きさの多孔膜断片を、PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで30分間固定した。次いで、これら多孔膜断片をPBSで洗浄し、完全に乾燥させ、300μlのオイルレッドOの希釈標準液と20分間、24ウェルプレート中でインキュベートした。次いで、多孔膜断片を蒸留水で7〜8回繰り返し洗浄し、その後、Steatosis Colorometric Assay Kitに入っていた洗浄溶液で2回、5分間洗浄した。色素抽出溶液(300μl)を各ウェルに添加し、プレートを、軌道攪拌機上で15〜30分間、一定の攪拌でインキュベートした。次いで、溶液を正常な96ウェルプレートに移し、分光光度計で吸光度を490〜520nmで読み取った。
【0377】
総トリグリセリドの測定:トリグリセリド含量は、市販の比色アッセイキット(Cayman Triglyceride Colorimetric Assay Kit、Cat # 10010303)を用いて分析した。処置期間の最後で、ラバーポリスマンとPBSでかき集めることにより、多孔膜から細胞を回収し、その後、遠心した(2,000x g、10分間、4℃)。細胞ペレットは、トリグリセリドアッセイキットに含まれていた、冷却、希釈された標準希釈剤中(100μl)に再懸濁し、1秒バーストで20回、ソニケートした。次いで、細胞懸濁液を4℃で10分間、10,000x gで遠心した。上清を取り出し、メーカーのプロトコールに従いアッセイに用いて、同試料のタンパク質含量に対して正規化した。
【0378】
チトクローム化アッセイの分析:肝細胞を、健常および脂質浸潤状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で7日間培養した。およそ2cm
2の面積の多孔膜断片を取り出し、対応する静的培養物と並行して標準的な24ウェルのプレートに移した。市販のP450−GLOキットに入っていた基質を含有する健常肝細胞培地500μl(メーカーの推奨濃度)と細胞をインキュベートした。4時間後、培地を96ウェルプレートに移し、メーカーのプロトコールに従い、チトクロームp450の活性を反映する発光性代謝物を分析した。次いで、同多孔膜断片の細胞のATP含量、または静的培養ウェル中の細胞のATP含量を、メーカーのプロトコールを用いて、CELLTITER−GLOアッセイにより推定し、チトクローム値をATP含量に対して正規化した。
【0379】
結果:
ナイルレッド染色:
図25AおよびBにおいて、健常培地(
図25A)または脂質性肝培地(
図25B)中でナイルレッド、ファロイジンおよびDRAQ5と共に培養した肝細胞の染色を示す。
図25Bに見られるように、脂肪性肝培地(高濃度のグルコースおよびインスリンを含有)中で培養した肝細胞は多量の脂質滴を蓄積している。
【0380】
透過型電子顕微鏡:脂質性肝培地中で培養した肝細胞を透過型電子顕微鏡でも検証した。
図26に示すように、これらの条件下で培養した肝細胞は脂質を蓄積している。大きな脂質滴は、画像の左側の肝細胞中に示されている。2つの肝細胞の間のギャップジャンクションもまた示され、このことから、分極形態が示唆される。
【0381】
総脂質および総トリグリセリド:
図27に示されるように、総脂質(
図27A)および総トリグリセリド(
図27B)は、両方とも、高グルコース/抗インスリンの脂質性肝状態の下、肝臓由来血流力学的状態の存在下で培養された肝細胞中で有意に増加していた。オイルレッドOの定量から、総脂質は、健常状態の培養と比較し、病的状態の培養で約3倍まで上昇したことが示された。
【0382】
遺伝子発現:グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)は、トリグリセリド合成に関与する重要な酵素であり、脂質浸潤および脂肪性肝でアップレギュレートされ、一因となることが知られている。
図21に示されるように、管理された血流力学的状態の下、デバイス中で培養された初代ラット肝細胞は、病的な高インスリン(2μMol)状態および高グルコース(17.5mMol)な状態に曝された場合(n=9)、培地中に健常な生理学的レベルのインスリン(2nMol)およびグルコース(5.5mMol)を含有する状態で培養された場合(n=6)と比較して、有意に高いGPAT遺伝子の発現(p=0.04)を示す。結果は、標準的な静的培養と比較した、コラーゲンゲルサンドイッチ(2μMolインスリンおよび17.5mMolグルコース)における、倍数増加として表されている。
【0383】
低濃度のデキサメタゾンを含有する脂肪性肝培地または健常培地中での、管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞に対する、類似の結果を
図28Bに示す。抗インスリン/高グルコース(脂肪性肝)培地中で培養された肝細胞は、低レベルのインスリンおよびグルコースを含有する健常培地中で培養された肝細胞と比較して、有意に高いレベルのGPAT発現を示した。また、
図28Aに示されるように、高インスリン/高グルコース培地中で、管理された血流力学的状態の下で培養された肝細胞において、健常培地中で培養された肝細胞と比較し、脂質生成に関与する他の重要な遺伝子である、ステロール制御エレメント結合タンパク質(sterol regulatory element−binding protein(SREBP))は、有意に高いレベルの発現を示した。
【0384】
これらの脂質浸潤変化は、付随する代謝変化と同時に発生した。すべての重要な代謝酵素のうち、チトクロームp450 3Aファミリーは、薬物の大部分の代謝に関与する。
図22に示されるように、健常な生理学的レベルのインスリン(2nMol)およびグルコース(5.5mMol)を培地中に含むデバイス中で、管理された血流力学的状態の下で培養された初代ラット肝細胞(n=6)は、高レベルのインスリン(2μMol)および高レベルのグルコース(17.5mMol)と共に、病的な状態の下で培養されたもの(n=9)と比較して、重要な代謝酵素であるチトクロームp450 3a2が有意に高いレベルの発現を示している(Cyp3A2;p=0.03)。管理された流れの下での、健常および病的な脂肪性肝レベルの両方が、コラーゲンゲルサンドイッチ(2μMインスリンおよび17.5mMolグルコース)における静的培養よりも、高い倍数である。
【0385】
同様に、
図29Aに示されるように、薬物代謝に関与する多くのフェーズI酵素の発現は、低および高グルコース/インスリン状態の下で差次的に制御されている。血流力学的流れの下では、健常培地条件の肝細胞は、Cyp1a1、Cyp 2b1、2b2、Cyp3a2のmRNA発現は高いレベルを維持していた一方(それぞれ、従来的な静的培養よりも20、90、30および40倍高い)、脂肪性肝培地中で培養された肝細胞におけるCyp 2b2およびCyp 3a2のレベルは、健常なものと比較して、9倍および12倍、低かった。
【0386】
Cyp活性:
図29Bに示されるように、CYP3A2およびCYP1A1の活性もまた、健常と比較し、高インスリン/グルコースの脂肪性肝状態の下で3〜6倍減少していた(p45gloアッセイにより測定)。
【0387】
ピオグリタゾン処置:脂質浸潤処置のために用いられる薬物であるピオグリタゾンを、脂肪性肝モデルで検証し、高インスリン/グルコース脂肪性肝培地により誘導された脂質蓄積および代謝変化を変えることが出来るかどうかを測定した。ピオグリタゾンを、1.5μMの濃度(in vivoで見られたピオグリタゾンの治療C
maxに基づき選択された濃度)で培地に添加した。ピオグリタゾンは、疾患状態の下で代謝遺伝子発現を回復させると同時に、脂質蓄積およびトリグリセリド含量の減少に有効であった。
図30に示されるように、ナイルレッド染色から、in vivo治療濃度でのピオグリタゾン処置は、脂質浸潤状態の下での脂質滴形成を減少させることが示唆される。ピオグリタゾンはまた、高インスリン/グルコース培地中で培養された肝細胞の総トリグリセリド含量を、健常状態で培養された肝細胞に見られるレベルと似たレベルまで、減少させた(
図31)。さらに
図32に示されるように、ピオグリタゾンは、高インスリン/グルコース疾患状態により低下させられるCyp3A2等の代謝遺伝子の発現を回復させた。
【0388】
結論:
要約すると、高グルコース/インスリン環境の存在下で、病的な脂質浸潤変化を誘導することにより、肝脂質浸潤のモデルを作製するための、in vivo様の肝臓の表現型および応答を保存するシステムが開発された。管理された血流力学的状態の下でのラット肝細胞は、インスリンおよびグルコースに対する応答を保持しており、管理された流れの下で培養された肝細胞は、高グルコースおよびインスリン(病的)状態で培養された際に脂質浸潤変化を発現する。脂質浸潤は、2つの重要な遺伝子(SREBPおよびGPAT)のアップレギュレーションを伴うde novo脂質生成を介して介在され、脂質蓄積およびトリグリセリド含量の増加は、代謝遺伝子の発現および活性の減少が付随して同時に発生する。PPAR−γアゴニストのピオグリタゾンの処置により、高グルコースおよびインスリン状態下での脂質蓄積の阻害および代謝活性消失の阻害が促進される。これらのデータにより、現時点では存在していない、新規で、食事誘導性非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の重要な新しいin vitroモデルが示される。
【0389】
実施例6:人工多分化能性幹細胞(iPSC)由来ヒト肝細胞システム
人工多分化能性幹細胞(iPSC)由来の肝細胞は、変動を排除し、薬物応答における遺伝子変異を研究するための有望な解決策を提示するが、標準的な、静的培養システムにおいてそれらが示す、胎児性の表現型および不十分な代謝プロファイルのために、広く受け入れられてはいない。上述の実施例4に記述されるデータから、静的培養状態の下では急速に脱分化することが知られている初代ラット肝細胞および初代ヒト肝細胞が、管理された血流力学的状態の下で培養された場合には、成熟した分化表現型を安定的に維持し、より生理学的な薬物応答およびホルモン応答を生じさせることが示される。本発明者らは、たとえば流れ、血流力学的状態および輸送等の生理学的特性が維持される場合、iPSCは同様に応答し、分化した肝臓の表現型、および、in vivoで示す薬物応答を示すことを見出した。
【0390】
方法
(i)iPSC由来肝細胞
iPSC由来肝細胞を、Cellular Dynamics Internationalから購入した。
【0391】
(ii)iPSC由来肝細胞培養培地
静的培養に対しては、iPSC由来肝細胞培地は、ベンダーの推奨に従った。コーンアンドプレートデバイス中で管理された血流力学的状態の下で培養された細胞に対しては、ウシ胎児血清(10%)およびデキサメタゾン(1μM)を細胞をプレーティングする際に補充したWilliams E培地の基礎培地を使用した。維持培地は24時間後から使用し、FBSを含まないが、ウシ血清アルブミン(0.125%)を補充した。また培地は、ゲンタマイシン(25μg/ml)、ITS(インスリン濃度2nMol)、1% NEAA、1% GLUTAMAX、HEPES(30mM)およびデキサメタゾン(100nM)を含有した。
【0392】
(iii)コラーゲンコーティングおよび配置
コラーゲンコーティングおよび配置条件は、初代ヒト肝細胞に対する実施例4に記述されたものと同一であった。iPSC由来肝細胞を解離させ、ベンダーのプロトコールに従い、推奨培地を用いて置いた。iPSC由来肝細胞を静的状態の下で培養し、または24時間後に、管理された血流力学的状態の下でさらに培養するためにコーンアンドプレートデバイスに移した。
【0393】
結果
(i)管理された血流力学的状態の下で培養された人工多分化能性幹細胞(iPSC)由来肝細胞は、分極形態を維持し、静的培養と比較し、重要な代謝遺伝子は高いレベルの発現を示した。
管理された血流力学的状態の下、コーンアンドプレートデバイス中で10日間培養されたiPSC由来肝細胞は、分極形態を維持し(
図40)、静的培養と比較し、重要な代謝遺伝子は高いレベルの発現を示す(CYP1A1に対しては104倍、CYP1A2に対しては91倍、CYP3A4に対しては8.8倍、CYP2B6に対しては8.2倍、CYP2C9に対しては2.3倍、CYP2D6に対しては2.3倍)。構成的アンドロスタン受容体CARの発現は、静的状態の下で培養された細胞よりも6.0倍高く、肝臓特異的タンパク質であるアルブミンは、静的状態の下で培養された細胞よりも2.2倍高いレベルであった。これらの結果を
図41に示す。
【0394】
本発明の構成要素またはその好ましい実施態様(複数含む)を提示する場合、「一つの」(a、an)、「当該」(the)、および「前記」(said)という冠詞は、1以上の要素があることを意味することが意図される。「含有する」(comprising)、「含む」(including)および「有する」(having)という用語は、包括的であることが意図され、リストアップされた要素以外の付加的な要素がありうることを意味する。
【0395】
上述の点を考慮し、本発明のいくつかの目的が達せられ、他の有益な結果も成し得ることが理解されるであろう。
【0396】
本発明の範囲から逸脱することなく、上述の方法に様々な変更が可能であり、上述に含有され、添付の図面(複数含む)に示される全ての内容は、示されるように解釈されるべきであり、限定の意図は無い。