【文献】
EROGBOBGO Folarin et al.,Nano Letters,米国,2013年,13,451-456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0020】
1.水素製造方法
<第1の実施形態>
本実施形態の水素製造方法は、半導体製品の生産過程におけるシリコンの切削加工において通常は廃棄物とされるシリコンの切粉又はシリコンの研磨屑(以下、「シリコン廃材」とも称する。)を出発材料の一例とした、各種の工程を備える。また、シリコン廃材には、廃棄ウェハを粉砕した微細な屑も含まれる。
図1は、本実施形態の水素製造方法の各工程を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の水素製造方法は、以下の(1)乃至(3)の工程を含む。
(1)洗浄工程(S1)
(2)粉砕工程(S2)
(3)水素発生工程(S3)
【0021】
(1)洗浄工程
本実施形態の洗浄工程(S1)では、例えば、単結晶又は多結晶のシリコンのインゴットの切削過程において生成されるシリコン廃材を洗浄する。この洗浄工程(S1)は、主として、シリコン廃材に付着する有機物、代表的には、切削過程で使用する切削油及び添加剤等の有機物の除去を目的とする。まず、洗浄の対象となるシリコン廃材を秤量した後、所定の第1液体を添加し、ボールミル機によりシリコン廃材を前記液体中に分散させる。ここで、本実施形態のボールミル機は、鋼球、磁性ボール、玉石及びその類似物を粉砕媒体とする粉砕機である。また、前述の本実施形態の第1液体の例は、アセトンである。
【0022】
その後、洗浄工程を経たシリコン廃材をフィルターに通し、上述の第1液体を吸引ろ過により除去する。この除去された第1液体は廃液として処分する。そして、ろ過したシリコン廃材は、乾燥機を用いて乾燥処理する。なお、本実施形態における乾燥温度は、例えば40℃以上60℃以下である。また、本実施形態の洗浄工程においては、ボールミル機を使用しているため、単に第1液体に浸漬するだけの処理よりも、洗浄効率を格段に向上させることが可能となる。
【0023】
(2)粉砕工程
その後、粉砕工程(S2)では、洗浄されたシリコンスラッジを粉砕することにより、結晶子径が100nm以下のシリコン微細粒子を形成する。なお、シリコン微細粒子の結晶子径が100nm以下であれば、シリコン微細粒子の凝集粒度分布が100nm以上5μm以下の範囲内であっても良好な効果、すなわち本実施形態の効果と同等の効果を得ることが可能である。その後、洗浄後のシリコンスラッジに、所定の第2液体を添加する。第2液体の例は、プロパノールである。さらにその後、ボールミル機を用いて粗粉砕処理を行う。粗粉砕処理されたシリコン廃材を、フィルターに通して比較的粗い粒子を取り除いた後、残ったシリコン廃材を、ビーズミル機を用いて微粉砕処理する。その後、ロータリーエバポレータを用いて第2液体を除去することによって、微粉砕処理された結果物としてシリコン微細粒子が得られる。
【0024】
本実施形態の粉砕工程(S2)によって、形状が不定形であるとともに、結晶子径の分布が100nmの範囲であり、かつ表面が親水性であるシリコン微細粒子を形成することが可能となる。なお、この粉砕工程(S2)では、ビーズミル機、ボールミル機、ジェットミル機、衝撃波粉砕機の群からなる粉砕機のいずれか、又はそれらを組み合わせて用いることにより粉砕処理を行うことができる。
【0025】
(3)水素発生工程
その後の水素発生工程(S3)では、粉砕工程(S2)により得られたシリコン微細粒子を水又は水溶液に接触及び/又は水又は水溶液中に分散させることにより水素を発生させる。この水素発生工程で使用する水は、必ずしも純水である必要はなく、一般の水道水や工業用水等の電解質や有機物を含んだ水でもよい。また、本実施形態の水溶液の種類も、特に限定されない。また、該水溶液の水素イオン濃度指数(pH値)は特に限定されないが、pH値は10以上であることがより好ましい。これは、発明者らの分析結果によれば、pH値が高いほど水素の生成速度が速くなり、より短時間で水素生成反応が終了する傾向が確認されているためである。従って、長期間にわたって少量の水素を供給し続けたい場合には、意図的に上述の水溶液のpH値を低くすることが好適な一態様である。一方、一時的に大量の水素を供給したい場合には、上述の水溶液のpH値を高く設定することによって、各産業界あるいは各種のデバイスの利用者の要求に応じた水素の製造を行うことが可能である。
【0026】
また、水素発生工程において使用する水の水温も、所望の水素の生成速度を得るために任意に設定することが可能である。また、シリコン微細粒子を水又は水溶液に接触及び/又は水又は水溶液中に分散させる手段においては、必要に応じて、撹拌、水流、振とう等を採用することができる。なお、撹拌等を行うことによって、水素の生成反応が促進されるため、水素を製造する速度を速めることができる。
【0027】
上述のとおり、本実施形態の水素製造方法によれば、例えば半導体製品の生産過程におけるシリコンの切削加工によって通常は廃棄物とされるシリコンの切粉又はシリコンの研磨屑を出発材料とすることにより、実用に耐え得る量の水素を確度高く製造することが可能となる。したがって、廃棄物といえるシリコンの切粉又はシリコンの研磨屑の有効活用による環境保護への貢献と、次世代のエネルギー資源として活用される水素の製造コストの大幅削減に貢献する。さらに、本実施形態によれば、複雑な工程を経ずに実用化レベルの大量の水素を製造することが可能となる点は特筆に値する。
【0028】
<第2の実施形態>
本実施形態では、第1実施形態における粉砕工程後にシリコン微細粒子表面の酸化膜を除去する表面酸化膜除去工程を追加した点を除いて、第1実施形態と同じである。
【0029】
図2は、本実施形態の水素製造方法の各工程を示す図である。
図2に示すように、本実施形態の水素製造方法は、以下の(1)乃至(4)の工程を含む。
(1)洗浄工程(T1)
(2)粉砕工程(T2)
(3)表面酸化膜除去工程(T3)
(4)水素発生工程(T4)
【0030】
上述のとおり、第1実施形態の水素製造方法における洗浄工程(S1)、粉砕工程(S2)、及び水素発生工程(S3)と、本実施形態の洗浄工程(T1)、粉砕工程(T2)、及び水素発生工程(T4)とは内容が重複する。従って、表面酸化膜除去工程(T3)以外の各工程の説明は省略され得る。
【0031】
以下に、表面酸化膜除去工程(T3)について説明する。
【0032】
表面酸化膜除去工程(T3)では、上述の粉砕工程(T2)で得られたシリコン微細粒子を、フッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液に接触させる処理を行う。本実施形態においては、粉砕工程(T2)で得られた、結晶子径分布が100nm以下の範囲のシリコン微細粒子を、フッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液中に浸漬する。これにより、フッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液に、シリコン微細粒子を接触及び/又は前述の各水溶液中に分散させる。その後、遠心分離機によって、シリコン微細粒子とフッ化水素酸水溶液とを分離する。そして、シリコン微細粒子をエタノール溶液等の第3液体中に浸漬する。そして、第3液体を除去することにより、水素製造用のシリコン微細粒子が得られる。
【0033】
なお、本実施形態の表面酸化膜除去工程においては、シリコン微細粒子をフッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液に浸漬することによってシリコン微細粒子にフッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液を接触させている。しかしながら、本実施形態に表面酸化膜除去工程はこれらの態様に限定されない。例えば、その他の方法によってシリコン微細粒子にフッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液を接触させる工程も採用し得る。例えば、いわゆるシャワーのようにフッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液をシリコン微細粒子に対して散布することも採用し得る他の一態様である。
【0034】
その後の水素発生工程(T4)においては、表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子を水又は水溶液に接触及び/又は前述の各水溶液中に分散させることにより水素を発生させる。
【0035】
本実施形態の水素製造方法によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、シリコン微細粒子表面の酸化膜を除去することによって、水素の製造量の増加を向上させることができる。
【0036】
<第3の実施形態>
本実施形態では、第2の実施形態における表面酸化膜除去工程の後に、シリコン微細粒子表面を親水化する親水化処理工程を追加した点を除いて、第2の実施形態と同じである。
【0037】
図3は、本実施形態の水素製造方法の各工程を示す図である。
図3に示すように、本実施形態の水素製造方法は、以下の(1)乃至(5)の工程を含む。
(1)洗浄工程(U1)
(2)粉砕工程(U2)
(3)表面酸化膜除去工程(U3)
(4)親水化処理工程(U4)
(5)水素発生工程(U5)
【0038】
上述のとおり、第2の実施形態の水素製造方法における洗浄工程(T1)、粉砕工程(T2)、表面酸化膜除去工程(T3)、及び水素発生工程(T4)と、本実施形態の洗浄工程(U1)、粉砕工程(U2)、表面酸化膜除去工程(U3)、及び水素発生工程(U5)とは内容が重複する。従って、親水化処理工程(U4)以外の各工程の説明は省略され得る。
【0039】
以下に、親水化処理工程(U4)について説明する。
本実施形態における親水化処理工程(U4)では、表面酸化膜除去工程の後に、シリコン微細粒子の表面を界面活性剤又は硝酸で処理する。界面活性剤を用いて処理する場合、界面活性剤の代表例は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤の群から選択される少なくとも1種である。本実施形態では、例えば、プロパノール等の第4液体にシリコン微細粒子を接触及び/又は第4液体内に分散させ、界面活性剤又は硝酸を添加した後、撹拌を行う。また、本実施形態では、撹拌した後、第4溶液をロータリーエバポレータにより除去する。
【0040】
その後の水素発生工程(U5)においては、親水化処理後のシリコン微細粒子を水又は水溶液に接触及び/又は前述の各水溶液中に分散させることにより水素を発生させる。
【0041】
本実施形態の水素製造方法によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、親水化処理工程によって、シリコン微細粒子の表面張力を下げて、微粒子特有の現象であるシリコン微細粒子の水面への浮上を確度高く抑制することができる。その結果、シリコン微細粒子と水又は水溶液との馴染みが良くなるため、シリコン微細粒子と水又は水溶液との接触面積が大きくなるため、水素の生成反応を促進させることができる。従って、水素の製造量を格段に増加させることが可能となる。
【0042】
なお、上述のとおり、シリコンの切粉又はシリコンの研磨屑が粉砕されることによって形成されるシリコン微細粒子の中でも、化学的処理(代表的には、第2の実施形態における、フッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液による酸化膜の除去処理、あるいは第3の実施形態における第4液体による親水化処理)されたシリコン微細粒子は、上述の各実施形態における水素製造用としてのシリコン微細粒子の好適な一例である。従って、上述の各実施形態において、シリコン微細粒子を前述のような化学的処理をする化学的処理工程を含むことは、水素の発生を更に促進させる観点から、好適な一態様である。
【0043】
2.水素製造装置
<第4の実施形態>
以下に、本実施形態の水素製造装置100について説明する。
図4は、本実施形態における水素製造装置100の構成を概略的に示す説明図である。
図4に示すように、本実施形態の水素製造装置100は、主として、粉砕機10、乾燥室30、ロータリーエバポレータ40、表面酸化膜除去槽50、遠心分離機58、親水化処理槽60、水素発生部70、及び水素貯蔵容器90とを備える。なお、本実施形態における水素製造装置100は、後述する複数の工程を行う各装置(処理部)の集合体ともいえるため、この水素製造装置100は、水素製造システムと呼びかえても良い。
【0044】
本実施形態の粉砕機10は、被処理物を液体とともに受け入れ、被処理物を液体中で粉砕処理、分散処理等を行う湿式粉砕機である。また、粉砕機10は、投入された被処理物及び液体に対して、分散、混合、粉砕等の工程を行うことが可能である。さらに、粉砕機10は、ビーズミル機、ボールミル機、ジェットミル機、衝撃波粉砕機の群からなる粉砕機のいずれか、又はそれらを組み合わせて用いることが可能である。本実施形態の水素製造装置100においては、粉砕機10が、例えばシリコンの切削過程で生成されるシリコンの切粉又はシリコンの研磨屑等のシリコン廃材を洗浄する洗浄部と、洗浄されたシリコン廃材を粉砕して、結晶子径が100nm以下のシリコン微細粒子とする粉砕部とを兼ね備えている。
【0045】
粉砕機10では、まず、被処理物であるシリコン廃材1と第1の実施形態の第2液体とが投入口11から粉砕機10内に投入され、シリコン廃材1を洗浄する。そして、洗浄されたシリコン廃材1は、第2液体とともに排出口14付近に設けられたフィルター15に通され、第2液体が吸引ろ過にて除去されて廃液となる。次に、残渣(シリコン廃材1)が乾燥室30で乾燥され、第2液体とともに再び投入口11から投入されて、粉砕機10で粉砕処理が行われる。具体的には、ボールミル機等で粗粉砕が行われた後、粉砕物を第2液体とともにフィルター15に通して粗粒子が除去される。次に、ビーズミル機等で微粉砕が行われる。次に、微粉砕したものを回収し、減圧蒸留を自動で行うロータリーエバポレータ40を用いて第2液体を除去することによって、シリコン微細粒子2を得る。
【0046】
本実施形態の表面酸化膜除去部の一例である表面酸化膜除去槽50は、撹拌器57を備え、粉砕機10から得られたシリコン微細粒子2を、フッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液55で処理する。その後、遠心分離機58によって、表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子3とフッ化水素酸水溶液とが分離される。なお、シリコン微細粒子2に表面酸化膜の除去を行わない場合は、シリコン微細粒子2は、後述する水素発生部70に送られる。
【0047】
本実施形態の親水化処理部の一例である親水化処理槽60は、撹拌器67を備え、表面酸化膜除去前又は表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子3を、界面活性剤又は硝酸を添加した第4液体65に接触及び/又は第4液体65中に分散させる。なお、シリコン微細粒子2に親水化処理を行わない場合は、表面酸化膜除去前又は表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子は、後述する水素発生部70に送られる。なお、本実施形態の親水化処理においては、表面酸化膜除去前の状態のシリコン微細粒子を親水化処理の対象とすることも可能であるが、より確度高くシリコン微細粒子の親水化を実現する観点から言えば、表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子に対して親水化処理を施すことが好ましい。
【0048】
本実施形態の水素発生部70は、撹拌器77が設けられた反応槽72、水槽80、水素捕集器87、移送管79,水素管89を備える。反応槽72では、シリコン微細粒子2、表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子3、及び親水化処理後のシリコン微細粒子4の群から選択される少なくとも1種を、水又は水溶液75に接触及び/又は水又は水溶液75中に分散させることによって水素5を発生させる。発生した水素5は、移送管79を経由して水槽80の水85の中に送り込まれる。そして、一例としての水上置換法によって水素捕集器87で捕集された水素5は、水素管89を経由して、水素貯蔵容器90に集められる。
【0049】
本実施形態の水素製造装置100によれば、例えば半導体製品の生産過程におけるシリコンの切削加工によって通常は廃棄物とされるシリコンの切粉又はシリコンの研磨屑を出発材料として、実用に耐え得る量の水素を比較的高速に製造することが可能となる。
【0050】
<実施例>
以下、上述の実施形態をより詳細に説明するために、実施例をあげて説明するが、上述の実施形態はこれらの例によって限定されるものではない。以下の実施例1乃至5については、水素製造装置100を用いて水素製造試験を行った結果を示す。
【0051】
(実施例1)
実施例1においては、水素製造装置100によって、第1実施形態の水素製造方法に基づき、水素を製造した。具体的には、洗浄工程及び粉砕工程の後、水素発生工程を実施した。
【0052】
(1)洗浄工程
シリコンの切粉200g(グラム)にアセトン200mL(ミリリットル,「ml」とも表記する)を添加し、ボールミル機で1時間分散させた。ボールミルは、MASUDA社製Universal
BALL MILLを使用した。使用ボールは、粒径φ10mm(ミリメートル)とφ20mmのアルミナビーズを使用した。その後、液体を吸引ろ過によって除去し、残渣を40℃設定の乾燥機で乾燥させた。
【0053】
(2)粉砕工程
次に、洗浄したシリコンスラッジ15gをポリ容器に秤量し、2−プロパノール285gを添加する。次に、ボールミル機にアルミナボールを入れ、周速80rpmで2時間粗粉砕を行う。本実施例で使用するボールミルは、MASUDA社製Universal
BALL MILLである。また、本実施例で使用するボールは、粒径φ10mmとφ20mmのアルミナボールである。粉砕工程によって得られた結果物を、180μmメッシュフィルターに通すことにより粗い粒子を除去した。
【0054】
次に、ビーズミル機にアルミナボールを入れ、周速2908rpmで4時間微粉砕を行った。本実施例で使用するビーズミルは、アシザワ・ファインティング社製スターミルLMZ015である。また、本実施例で使用するビーズは、粒径φ0.5mmのジルコニアビーズを456g使用した。次に、微粉砕したものを回収し、ロータリーエバポレータを用いて2−プロパノールを除去し、シリコン微細粒子を得た。
【0055】
(3)水素発生工程
超純水50.21g中に水素製造用のシリコン微細粒子0.86gを浸漬した。なお、本実施例では、常温(約25℃)下で実験を実施した。
【0056】
(実施例2)
実施例2においては、水素製造装置100によって、第2の実施形態の水素製造方法に基づき、水素を製造した。従って、第1実施例における粉砕工程後に表面酸化膜除去工程を追加した点を除いて、実施例1と同じ工程で行った。具体的には、洗浄工程、粉砕工程、表面酸化膜除去工程、水素発生工程の順で製造した。表面酸化膜除去工程は、以下の通りである。
【0057】
表面酸化膜除去工程では、本実施例の粉砕工程で得られたシリコン微細粒子を、フッ化水素酸50%水溶液中に分散させた後、遠心分離機によって、シリコン微細粒子とフッ化水素酸水溶液とを分離する。その後、得られたシリコン微細粒子をエタノール溶液に浸漬した。後に、エタノール溶液を除去して水素製造用のシリコン微細粒子とした。
【0058】
(実施例3)
実施例3においては、水素製造装置100によって、第3の実施形態の水素製造方法に基づき、水素を製造した。従って、実施例2に表面酸化膜除去工程後に親水化処理工程として界面活性剤を用いた処理を追加した点を除いて、実施例2と同じ工程で行った。
【0059】
具体的には、洗浄工程、粉砕工程、及び表面酸化膜除去工程を、実施例2と同様の条件で実施した。また、親水化処理工程における界面活性剤を用いた処理では、第3の実施形態における第4液体である2−プロパノール中にシリコン微細粒子の濃度が5wt%となるように調製した。そして、この液体に対し、非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンノニフェニルエーテル(日本油脂(株)製「ノニオンNS206」)を0.05%添加して、攪拌を1時間行った。その後、2−プロパノールをロータリーエバポレータによって除去した。
【0060】
更に、水素発生工程で、水素製造用のシリコン微細粒子0.86gに超純水50.21gを加え、常温下で浸漬した。
【0061】
(実施例4)
実施例4においては、水素製造装置100によって、第2の実施形態の水素製造方法において、水素発生工程の水溶液として、0.1mol/Lの炭酸水素ナトリウム及び0.1mol/Lの炭酸ナトリウムからなる緩衝液を用いて、水溶液のpH値を10に調整した以外は、実施例2と同様の方法で行った。
【0062】
(実施例5)
実施例5においては、水素製造装置100によって、第2の実施形態の水素製造方法において、水素発生工程の水溶液として、0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて、水溶液のpH値を13に調整した以外は、実施例2と同様の方法で行った。
【0063】
<実施例の分析結果>
1.断面TEM写真による結晶構造解析
図5は、実施例1における粉砕工程後におけるシリコン微細粒子の結晶構造を示す断面TEM(透過型電子顕微鏡)写真である。
図5(a)は、シリコン微細粒子が一部凝集して、不定形のやや大きな微粒子が形成されている状態を示している。一方、
図5(b)は、個別のシリコン微細粒子に着目したTEM写真である。
図5(b)中の中央部の丸囲いで示すように、約5nm以下の大きさのシリコン微細粒子が確認された。また、このシリコン微細粒子が、結晶性を有していることが確認された。
【0064】
2.X線回折法によるシリコン微細粒子の結晶子径分布
図6は、粉砕工程後におけるシリコン微細粒子の結晶子径分布をX線回折法によって、解析した結果を示す図である。
図6に示すグラフは、横軸が結晶子径(nm)を表し、縦軸は、頻度を表している。また、実線は個数分布基準の結晶子径分布を示し、破線は体積分布基準の結晶子径分布を示している。個数分布においては、モード径が1.97nm、メジアン径(50%結晶子径)が3.70nm、平均径が5.1nmであった。また、体積分布においては、モード径が13.1nm、メジアン径が24.6nm、平均径が33.7nmであった。これらの結果により、粉砕工程後に得られるシリコン微細粒子は、ビーズミル法での処理で結晶子径が、100nm以下の範囲で、特に50nm以下に分布しているいわゆるシリコンナノ粒子物であることが確認された。
【0065】
3.水素製造量
図7は、実施例1、実施例2、及び実施例3について、水素発生量を測定した結果を示すグラフである。
図7中の横軸は、浸漬時間(分)を示し、
図7中の縦軸は、水素製造用のシリコン微細粒子1g当りの水素発生量(mL/g)を示している。
【0066】
図7に示すように、表面酸化膜除去工程を行っていない実施例1においては、浸漬時間7905分において、10.7mLの水素を得ることができた。
【0067】
また、
図7に示すように、上述の水素製造装置100によって第2の実施形態の水素製造方法を用いて、水素を製造した実施例2においては、浸漬時間5700分(つまり、95時間)後に平衡状態に達し、約54.1mLの水素が得られた。実施例1では、最終的に水素製造用のシリコン微細粒子1g当り50mL〜60mLの大量の水素が製造され、特筆すべき極めて良好な結果が得られた。
【0068】
さらに、実施例3においては、9805分(つまり、約163時間)間の浸漬により、116.7mLの水素が得られ、実施例2よりもさらに良好な結果が得られた。特に、当初から500分、あるいは当初から1000分が経過するまでの実施例2及び実施例3の水素の発生量は、実施例1の水素の発生量よりも極めて多量であることが分かる。換言すれば、当初から500分、あるいは当初から1000分が経過するまでの実施例2及び実施例3の水素の発生速度が極めて速いことが分かる。従って、
図7により、表面酸化膜除去工程又は表面酸化膜除去部の顕著な効果が示された。
【0069】
次に、水素発生工程において、シリコン微細粒子とpH値が高い水溶液とを反応させた実施例4及び実施例5の結果について検討した。
図8は、実施例4及び実施例5についての、水素発生量を測定した結果を示すグラフである。
図9は、実施例4及び実施例5の反応開始から、60分経過するまでの水素発生量を示すグラフである。
図8及び
図9の横軸は、浸漬時間(分)を示し、
図8及び
図9の縦軸は、水素製造用のシリコン微細粒子1g当りの水素発生量(mL/g)を示している。
【0070】
図8に示すように、水素発生工程の水溶液のpH値が10である実施例4においては、5000分(約80時間)後にほぼ平衡状態に達し、水素製造用のシリコン微細粒子1g当り約720mlの水素が得られた。一方、水素発生工程の水溶液のpH値が13である実施例5においては、6254分(約104時間)後にほぼ平衡状態に達し、水素製造用のシリコン微細粒子1g当り約942.1mlの水素が得られた。このように、pH値を10又は13となるまでアルカリ性にした場合においては、実施例1乃至実施例3と比べて、数倍から十数倍の大量の水素を得ることができた。
【0071】
さらに、
図9の実施例5の結果に示すように、水素発生工程の水溶液のpH値を13にすると、シリコン微細粒子と水溶液とを反応させた直後から水素発生量は急速に増加した。より具体的には、10分後に、水素製造用のシリコン微細粒子1g当り約470mlの水素が発生し、30分後には、水素製造用のシリコン微細粒子1g当り約590mlの水素が発生した。また、水素発生工程の水溶液のpH値が10である実施例4では、13分後に、水素製造用のシリコン微細粒子1g当り約3.5mlの水素が発生し、30分後には、水素製造用のシリコン微細粒子1g当り約15mlの水素が発生した。実施例4は、実施例5に比べると反応は緩やかであるが、実施例1乃至実施例3と比べると、より短時間により多量の水素を得ることができた。
【0072】
このように、
図8及び
図9から、実施例4及び実施例5の水素の生成速度も、実施例1乃至実施例3と比べて格段に速くなることが確認できた。従って、水素発生工程において、水溶液のpH値を高くする(すなわち、pH値を10以上にする)ことによって、実施例1乃至実施例3に示すような長時間におけるゆるやかな水素生成反応ではなく、短時間で急激に水素の生成を促進させる反応であることが分かった。従って、水素発生工程の水溶液のpH値を10以上(14以下)にすることは、より早く、より多量の水素を得る観点から非常に好適な一態様である。
【0073】
上述の各実施形態において開示する水素製造方法及び水素製造装置は、例えば、燃料電池等の水素を必要とする技術分野への利用が大きく期待できる。また、上述の各実施形態の水素製造方法及び水素製造装置の興味深い点は、例えば半導体製品の生産過程におけるシリコンの切削加工によって通常は廃棄物とされるシリコンの切粉又はシリコンの研磨屑を出発材料として活用していることである。従って、製造された水素の単位グラム当りのコストは、従来の水素製造方法で得られる水素と比べて非常に安価となるため、廃棄物の有効利用による環境保護への寄与を図るのみならず、水素製造における経済性を格段に向上させることができる。さらに、複雑な装置、設備、又はシステム、あるいは複雑な工程を要しない上述の各実施形態の水素製造方法及び水素製造装置は、工業生産性を高めることに大きく貢献し得る。
【0074】
<その他の実施形態>
ところで、上述の第4の実施形態においては、水素発生部70の反応槽72において、シリコン微細粒子2、表面酸化膜除去後のシリコン微細粒子3、及び親水化処理後のシリコン微細粒子4の群から選択される少なくとも1種を、水又は水溶液75に接触及び/又は水又は水溶液75中に分散して水素を発生させている。しかしながら、時間の経過とともに反応が平衡状態に至り、その結果として水素の発生量又は発生速度が飽和する可能性がある。そこで、そのような問題を解決するための第4の実施形態の変形例として、
図10に示す水素製造装置200の構成を開示するとともに、実施例6を開示する。
【0075】
図10は、第4の実施形態の変形例における水素製造装置200の構成を概略的に示す説明図である。本実施形態の水素製造装置200は、
図10中の(R)に示すように、水素発生量又は水素発生速度が一旦飽和した、又は飽和しそうな反応槽72中のシリコン微細粒子が反応槽72から取り出された後、水素製造装置200における追加的表面酸化膜除去部の少なくとも一部を構成する追加的表面酸化膜除去槽250内に導入されることによってシリコン微細粒子表面の酸化膜を除去する工程(追加的表面酸化膜除去工程)と、その後、酸化膜が除去されたシリコン微細粒子を再度、反応槽72に送ることによって水素を発生させる工程(追加的水素発生工程)が行われる追加的水素発生部270とが設けられている点を除いて、第4の実施形態の水素製造装置100と同様である。従って、重複する説明は省略され得る。
【0076】
図10に示す水素製造装置200が採用された場合は、一旦、反応槽72における反応が平衡状態に至るために水素の発生量又は発生速度が飽和する、又は飽和しそうになったとしても、その後の追加的表面酸化膜除去工程が行われることによって、再度、シリコン微細粒子は水素発生を生じさせる能力を備えることになる。すなわち、上述の各実施形態における水素発生工程の途中、又はその後に、シリコン微細粒子にフッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液を再度接触させる追加的表面酸化膜除去工程を行うことが、シリコン微細粒子の水素の発生能力をいわば再生ないし回復させることになる。従って、水素発生のためのシリコン微細粒子の利用効率が格段に高まるとともに、水素の製造コストの低減にも大きく寄与し得る。
【0077】
なお、水素製造装置200とは異なり、反応槽72の中のシリコン微細粒子がフィルターによって水又は水溶液75と分別された後、反応槽72から表面酸化膜除去槽50に連通する流路を経由してシリコン微細粒子を表面酸化膜除去槽50に送給する手段を設けることも採用し得る他の一態様である。このような態様において表面酸化膜除去槽50に導入されるシリコン微細粒子も、本願においては、「水素発生部から出されたシリコン微細粒子」に含まれる。加えて、第4の実施形態と同様に、追加的表面酸化膜除去工程の後に、親水化処理工程(追加的親水化処理工程)が行われることも、採用し得る他の一態様である。
【0078】
加えて、上述の態様においては、表面酸化膜除去工程と追加的表面酸化膜除去工程とが同じ表面酸化膜除去槽を用いて行われており、水素発生工程と追加的水素発生工程とが同じ反応槽72を用いて行われているが、上述の態様はこの態様に限定されない。従って、表面酸化膜除去工程と追加的表面酸化膜除去工程とが別々の槽によって行われてもよく、水素発生工程と追加的水素発生工程とが別々の槽によって行われても良い。
【0079】
(実施例6)
実施例6の水素発生工程においては、p型のシリコンの切粉をZiO
2製のビーズを用いて、上述の実施例5と同様にビーズミル機によって粉砕して形成したシリコン微細粒子0.86gを、水溶液(0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液)75中に浸漬した。なお、実施例6の水溶液は、水酸化カリウム(KOH)を添加する量を変えることにより、pH値が12.1、12.9、13.4、及び13.9の4種類に調製された各水溶液75が準備された。
【0080】
常温下において各水溶液中に一定量(0.86g)のシリコン微細粒子を浸漬した結果、
図11に示すように、反応時間に対する各水素発生量のグラフが得られた。例えば、pH値13.9の場合には、極めて短時間(反応開始から約15分以内)に、シリコン微細粒子1g(グラム)当りの水素発生量が約1100mL以上(つまり、約1100mL/g以上)に達していることが分かった。特筆すべきは、pH値13.9の場合の水素発生量が、約10分という短時間で、シリコン微細粒子1g当り1000mLを超える量の水素を発生させたことである。なお、この段階においては、上述の追加的表面酸化膜除去工程及び追加的水素発生工程は行われていない。
【0081】
次に、
図12は、実施例6におけるpH値の違いによる最大水素発生速度の違いを示すグラフである。
図12に示す各数値は、
図11に示したpH値を変えた場合の上述の4種の水溶液における、1分当りで、且つ1g当りの最大水素発生速度を示している。
図12に示す結果から、1分当りで、且つ1g当りの最大水素発生速度が明確にpH値に依存しており、且つpH値が大きいほど、最大水素発生速度が増大していることが分かった。また、水素発生速度が溶液のpH値に依存することを用いることにより、水素発生速度の制御が可能になる。なお、この段階においても、上述の追加的表面酸化膜除去工程及び追加的水素発生工程は行われていない。
【0082】
ここで、pH値13.9の場合において反応が平衡状態に至り、その結果として水素の発生量又は発生速度が飽和した状態のシリコン微細粒子について、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析装置を用いて測定及び解析を行った。
図13は、実施例6における水素の発生量又は発生速度が飽和した後のシリコン微細粒子のXPSスペクトル図である。
【0083】
その結果、
図13に示すように、シリコン(Si)と二酸化ケイ素(SiO
2)に帰属する複数のSi
2pピークが観測された。従って、反応が平衡状態に至った又はほぼ至っているシリコン微細粒子の表面には、二酸化ケイ素(SiO
2)膜が形成されていることが明らかになった。また、
図13に示す(Si)と(SiO
2)とのピーク強度比から、このシリコン微細粒子の表面には、厚さ約5nmのSiO
2膜が形成されていると結論づけた。
【0084】
そこで、実施例6においては、この反応が平衡状態に至った又はほぼ至っているシリコン微細粒子を、濃度5%のHF水溶液に接触させることによってSiO
2膜を除去する工程(追加的表面酸化膜除去工程)を行った。その後、再び、上述のpH値13.9の水溶液75中に浸漬した。その結果、そのシリコン微細粒子から、さらに470ml/g(当初の1g当り)の水素が再び発生した(追加的水素発生工程)。
【0085】
上述の結果、実施例6における、当初の(飽和状態までの)水素ガス発生量と、追加的表面酸化膜除去工程及び追加的水素発生工程を行ったことによる水素ガス発生量との総量は、シリコン微細粒子1g当り約1570mLとなった。これは、水溶液75中での反応における、シリコン1gから生成可能とされる水素発生量最大値の1600mL(理論値)に近い発生量である。従って、追加的表面酸化膜除去工程及び追加的水素発生工程を行うことは、極めて多量の水素発生量を実現し得る手段として非常に有用であることが分かった。
【0086】
(実施例7)
次に、水素製造装置100を用いて水素製造試験を行った他の結果について説明する。実施例7の水素発生工程においては、水溶液75が、水酸化ナトリウム水溶液又はアンモニアを含む水溶液である。水溶液75に、シリコン微細粒子0.86gを接触及び/又は水溶液75中に分散して常温下で反応させた。
【0087】
図14は、実施例7における反応時間に対する1g当りの水素発生量を示すグラフである。なお、実験値(a)は、水酸化ナトリウム(NaOH,苛性ソーダともいう)を添加したpH値13.4の水溶液20mLを用いた場合の結果である。ここで、実験値(b)は、アンモニア(NH
3)を添加したpH値11.9の水溶液20mLを用いた場合の結果である。また、
図14中の横軸は、浸漬時間(分)を示している。そして、
図14中の縦軸は水素製造用のシリコン微細粒子1g当りの水素発生量(mL/g)を示している。
【0088】
なお、アンモニアを添加した上述の水溶液75中にシリコン微細粒子を浸漬する際、特に何も事前の処理を施さなければ水溶液面にシリコン微細粒子が浮く場合がある。そのため、実施例7においては、エタノールを該水溶液75に滴下することによって、シリコン微細粒子を反応槽72の底に沈降させる方法を用いて、アンモニアを添加した水溶液75にシリコン微細粒子を接触させた。他方、水酸化ナトリウムを添加した水溶液75については、水酸化カリウムの場合と同様に接触及び/又は水溶液75中に分散させることにより実験が行われた。
【0089】
図14に示すように、水溶液の種類又はpH値を変動させることによって、水素発生量又は水素発生速度を制御することが可能であることが確認された。従って、例えば、上述の各実施形態における水素発生工程において、水又は水溶液75のpH値を変化させることにより水素発生速度及び/又は水素発生量を調整することは、採用し得る非常に好適な一態様である。同様に、水素製造装置100又は水素製造装置200における水素発生部70又は追加的水素発生部270において、水又は水溶液75のpH値を変化させることにより水素発生速度及び/又は水素発生量を調整する調整部をさらに備えることは、採用し得る非常に好適な一態様である。
【0090】
例えば、上述の調整部においては、pH値を変更することができる上述の水又は各水溶液(NaOHを添加した水溶液,KOHを添加した水溶液,NH
3を添加した水溶液など)を、所望の時間、所望の量となるように滴下する手段及びpH値を制御する制御手段を備えた装置が採用され得る。より具体的には、水又は各水溶液75のpH値を測定する測定部からの測定結果のフォードバックを受けた滴下手段が、所望のpH値となるように、所望の時間、所望の量のNaOH、KOH、又はNH
3等のpH値を調整する化学物質を滴下する構成が採用され得る。
【0091】
他方、pH値について言えば、上述の各実施例の結果を踏まえれば、pH値を10以上、より好ましくは11.9以上にすることが、より早く、より多量の水素を得る観点から好ましい。
【0092】
また、上述の各実施例の表面酸化膜除去工程においては、フッ化水素酸水溶液を用いて処理を実施したが、フッ化水素酸水溶液の代わりに、又はフッ化水素酸水溶液とともにフッ化アンモニウム水溶液を用いた処理を実施しても、上述の各実施例と同様に良好な結果を得ることが可能である。
【0093】
また、上記実施例の親水化処理工程においては、界面活性剤を用いた処理が行われたが、界面活性剤の代わりに、又は界面活性剤とともに硝酸を用いた処理が行われても、上記実施例とほぼ同様に良好な結果を得ることが可能である。
【0094】
また、上述の各実施形態において、界面活性剤又は硝酸を用いた処理は、親水化処理工程として独立の工程として実施せずに、水素発生工程における水又は水溶液に界面活性剤又は硝酸を添加することによって、水素発生工程中に実施することも可能である。
【0095】
また、上述の実施例6で説明したとおり、水素発生工程において、水又は水溶液中にシリコン微細粒子を加えて分散させると、水又は水溶液中で溶解し、シリコン微細粒子の表面にケイ酸が生成される。さらにその後、ケイ酸が酸化されることによって二酸化ケイ素(SiO
2)となるため、時間の経過とともに水素の生成反応が弱まるか又は終了する。従って、シリコン微細粒子の表面の二酸化ケイ素(SiO
2)の形成を抑制して水素の生成反応を継続させるために、水素発生工程の水又は水溶液中に少量のフッ化水素酸を加えることによって、水又は水溶液との接触による水素の生成反応を持続させることは、採用し得る他の好適な一態様である。
【0096】
また、上述の各実施形態においては、形成されたシリコン微細粒子(又はその凝集体)の場所を固定することなく水又は水溶液75に接触及び/又は水溶液75中に分散させることにより水素を発生させる水素発生部70又は追加的水素発生部270を採用している。しかしながら、シリコン微細粒子の水又は水溶液75への接触方法は上述の方法に限定されない。例えば、形成されたシリコン微細粒子を、固体(例えば、スポンジ体)の表面上に固着した状態で水又は水溶液75に接触させることによって水素を発生させることも、採用し得る他の一態様である。例えば、スポンジ体のように液体をある程度吸収し、保持し得る材質によってその固体が形成されている場合は、その固体にフッ化水素酸水溶液又はフッ化アンモニウム水溶液を染み込ませておくことによって、シリコン微細粒子上の二酸化ケイ素(SiO
2)の生成を抑制する可能性が高まる。
【0097】
上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組み合わせを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。