特許第6971357号(P6971357)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6971357
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】金属製品の再加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 6/04 20060101AFI20211111BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20211111BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20211111BHJP
   B23P 23/02 20060101ALI20211111BHJP
   B23B 23/00 20060101ALI20211111BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20211111BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20211111BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20211111BHJP
   F01D 5/12 20060101ALI20211111BHJP
   F01D 9/02 20060101ALI20211111BHJP
   F02K 9/97 20060101ALI20211111BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20211111BHJP
【FI】
   B23P6/04
   B22F3/105
   B22F3/16
   B23P23/02 Z
   B23B23/00 Z
   B23K26/342
   F01D25/00 X
   F01D25/00 L
   F02C7/00 D
   F02C7/00 C
   F01D5/12
   F01D9/02 101
   F02K9/97
   B23K26/21 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-97193(P2020-97193)
(22)【出願日】2020年6月3日
【審査請求日】2020年12月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗谷 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】廣野 陽子
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−018979(JP,A)
【文献】 特開2004−050303(JP,A)
【文献】 特開平03−026453(JP,A)
【文献】 特開2020−037122(JP,A)
【文献】 特開2011−073018(JP,A)
【文献】 特開2004−144091(JP,A)
【文献】 特開2002−004883(JP,A)
【文献】 特開2013−035075(JP,A)
【文献】 米国特許第04128929(US,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02962357(FR,A1)
【文献】 実開昭56−132001(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 6/04
B22F 3/105
B22F 3/16
B23P 23/02
B23B 23/00
B23K 26/342
F01D 25/00
F02C 7/00
F01D 5/12
F01D 9/02
F02K 9/97
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品を再加工する方法であって、
前記金属製品にダミー部材を溶接する溶接工程と、
前記金属製品が第1支持部で支持され、かつ前記ダミー部材が第2支持部で支持された状態で前記金属製品を再加工する再加工工程と、
前記再加工工程の後、前記金属製品から前記ダミー部材を除去する除去工程と、
を有し、
前記溶接工程が、
前記金属製品に削り代を肉盛りすること、および
前記削り代に前記ダミー部材を溶接すること、を含む、金属製品の再加工方法。
【請求項2】
前記溶接工程が、DED方式の金属積層造形により行われる、請求項1に記載の金属製品の再加工方法。
【請求項3】
前記金属製品がロケットノズルまたはタービンブレードである、請求項1または2に記載の金属製品の再加工方法。
【請求項4】
前記溶接工程と前記再加工工程とが、前記溶接工程に用いる溶接トーチと前記再加工工程に用いる工具主軸とを具備する工作機械の加工空間内で行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属製品の再加工方法。
【請求項5】
前記溶接工程が、
前記金属製品を前記加工空間内の前記第1支持部で支持すること、
前記ダミー部材を前記加工空間内の前記第2支持部で支持すること、および
前記第1支持部で支持された前記金属製品に肉盛りされた前記削り代と前記第2支持部で支持された前記ダミー部材とを溶接すること、を含む、請求項に記載の金属製品の再加工方法。
【請求項6】
前記工作機械が、複合旋盤を具備し、
前記第1支持部および前記第2支持部のうちの一方が、主軸が具備するチャック機構であり、
前記第1支持部および前記第2支持部のうちの他方が、ワークサポート、芯押し台、振れ止め、または、前記主軸とは異なる主軸が具備するチャック機構である、請求項4または5に記載の金属製品の再加工方法。
【請求項7】
前記再加工工程の前に、前記金属製品を収容する仮想最小直方体の最大主面と鉛直方向とが30°以下の鋭角を成すように前記金属製品の姿勢を調整する工程、を更に含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属製品の再加工方法。
【請求項8】
前記金属製品がチタン基合金、コバルト基合金およびニッケル基合金からなる群より選択される少なくとも1種で形成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属製品の再加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械を利用する金属製品の再加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光と金属粉末とを供給しながら被加工物の表面に造形物を形成するレーザ積層造形方法(アディティブマニュファクチャリング)が普及しはじめている。例えば、特許文献1は、レーザ光を照射領域に照射する照射部及び前記照射領域に金属粉末を供給する供給部を有するヘッドと、前記ヘッド及び被加工物を相対的に移動させる移動機構と、を備えたレーザ積層造形装置を用いて、被加工物の表面に造形物を形成する方法であって、レーザ光の照射及び金属粉末の供給を行う状態で、前記ヘッドを前記被加工物に対して移動させて積層する処理を複数回行って、前記被加工物の上に複数層からなる積層物を形成する積層工程と、前記積層工程の後、レーザ光の照射を行い金属粉末の供給を行なわない状態で、前記ヘッドを前記被加工物に対して移動させて、前記積層物の表面にレーザ光を照射して再溶融させる再溶融工程と、を含む積層、再溶融プロセスを少なくとも1回実施して前記造形物を形成することを特徴とするレーザ積層造形方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−157149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定の機能を有する形状に加工された金属部品(既製品)を修復したいという要望がある。例えば、ロケットノズル、タービンブレードのような大型の金属部品は、使い捨てではなく、複数回にわたって再加工もしくはリペア(repair)されて使用される。
【0005】
しかし、既に所定の機能を有する形状に加工された金属部品を工作機械で再加工する際には、工作機械が具備する所定の支持部で金属部品を支持することが困難な場合がある。例えば、工作機械には被加工物を固定するチャック機構を有する支持部が備えられている。このような支持部では、既に所定の機能を有する形状に加工された金属部品をチャックすることができず、安定して金属部品を固定することが困難な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、金属製品を再加工する方法であって、前記金属製品にダミー部材を溶接する溶接工程と、前記金属製品が第1支持部で支持され、かつ前記ダミー部材が第2支持部で支持された状態で前記金属製品を再加工する再加工工程と、前記再加工工程の後、前記金属製品から前記ダミー部材を除去する除去工程と、を有する、金属製品の再加工方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
金属製品の形状に制限されることなく、金属製品を固定して再加工することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態で用いる工作機械の一例の内部の概要を示す正面図である。
図2】工作機械によるAM加工時の加工空間内の様子を示す斜視図である。
図3】パウダーフィーダとレーザ光発振装置の構成の一例を示す図である。
図4A】第1支持部で支持された金属製品と第2支持部を示す図である。
図4B】第1支持部で支持された金属製品に削り代を形成する様子を示す図である。
図4C】第1支持部で支持された金属製品と第2支持部で支持されたダミー部材とを溶接する様子を示す図である。
図4D】金属製品が第1支持部で支持され、かつダミー部材が第2支持部で支持された状態で金属製品を再加工する様子を示す図である。
図4E】金属製品からダミー部材を切除する様子を示す図である。
図4F】ダミー部材が切除された金属製品を示す図である。
図5】金属製品の再加工方法の別の実施形態の一場面を示す図である。
図6】別の金属製品の再加工方法の実施形態の一場面を示す図である。
図7】別の金属製品の再加工方法の別の実施形態の一場面を示す図である。
図8】金属製品を収容する仮想最小直方体を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る金属製品を再加工する方法は、(i)金属製品にダミー部材を溶接する溶接工程と、(ii)金属製品が第1支持部で支持され、かつダミー部材が第2支持部で支持された状態で金属製品を再加工する再加工工程と、(iii)再加工工程の後、金属製品からダミー部材を除去する除去工程とを有する。
【0010】
ここで、「支持」とは、固定、保持などを含む概念であり、金属製品(もしくはダミー部材)と接触して金属製品の振動、揺動、ビビリなどの動きを抑制することを広く意味する。
【0011】
また、「金属製品」とは、少なくとも一部が金属で構成された金属部品等の既製品であればよい。既製品とは、所定の機能を有する形状に加工された構造体である。すなわち、本実施形態に係る再加工方法において、再加工の対象となる金属製品は、ダミー部材を溶接する前において、既に所定の機能を有している。ただし、再加工(もしくはリペア(repair))を要する金属製品である。
【0012】
金属製品は、既製品に既にダミー部材が溶接により接続された構造体であってもよい。すなわち、本実施形態に係る方法において、再加工の対象となる金属製品は、ダミー部材を溶接する前において、既に所定の機能を有する形状に加工された構造体と別のダミー部材との結合体であってもよい。この場合、再加工時の金属製品には溶接により少なくとも2つのダミー部材が接続されている。
【0013】
金属製品の具体例としては、例えば、ロケットノズル、タービンブレードなどの航空産業、宇宙産業、エネルギー産業で利用される比較的大型の金属製品が挙げられるが、特に限定されるものではない。比較的大型の金属製品は、工作機械が通常有する支持部でしっかりと支持もしくは固定することが困難な形状であることが多い。
【0014】
金属製品の材質は、例えば、チタン基合金、コバルト基合金およびニッケル基合金からなる群より選択される少なくとも1種であり得るが、これらに限定されない。
【0015】
一方、金属製品を再加工する場合、再加工の精度を高めるには、その金属製品をしっかりと支持もしくは固定することが要される。そうでなければ、金属製品に再加工を施している最中に金属製品が振動し、再加工の精度が低下する。
【0016】
金属製品になる前のワーク(すなわち金属製品の原料)を加工する場合、ワークは工作機械が具備する支持部で支持しやすい形状に成形されている。工作機械が具備する支持部としては、例えば、主軸が具備するチャック機構、ワークサポート、振れ止め、芯押し台などがある。しかし、既に所定の機能を有する形状に加工された金属製品は、そのような支持部で支持することが困難な場合がある。
【0017】
これに対し、支持部による支持が容易な形状のダミー部材を金属製品に予め溶接することで、支持部による金属製品の支持を容易にすることができる。例えば、金属製品を第1支持部で支持し、かつ金属製品に溶接されたダミー部材を第2支持部で支持することで、金属製品をしっかりと固定した状態で再加工することが可能になる。ダミー部材は、金属部品が所定の機能を発揮する上では不要な素材であるから、再加工の終了後、金属製品から除去すればよい。
【0018】
溶接工程と再加工工程とが、溶接工程に用いる溶接トーチと再加工工程に用いる工具主軸とを具備する工作機械の加工空間内で行われてもよい。溶接方法は、特に限定されないが、例えばレーザ溶接、電子ビーム溶接、アーク溶接などが挙げられる。この場合、工作機械とは、ワークもしくは金属製品の付加加工(Additive manufacturing)(以下、AM加工と称する。)と、ワークもしくは金属製品の除去加工(Subtractive manufacturing)(以下、SM加工と称する。)が可能なハイブリッド加工機である。工作機械は、SM加工の機能として、例えば、固定工具を用いた旋削機能と、回転工具を用いたミーリング機能とを有する。
【0019】
工作機械が、複合旋盤を具備する場合、第1支持部および第2支持部のうちの一方は、主軸(第1主軸)が具備するチャック機構であり得る。また、第1支持部および第2支持部のうちの他方は、ワークサポート、芯押し台、振れ止め、または、第1主軸とは異なる主軸(第2主軸)が具備するチャック機構であってもよい。
【0020】
AM加工機能を有するハイブリッド加工機においては、溶接工程をDED(Directed Energy Deposition)方式、すなわち、指向性エネルギー堆積法を利用した金属積層造形により行うことが効率的である。DED方式のAM加工機能を備えるハイブリッド加工機によれば、例えば金属粉末を金属製品の所望の箇所に選択的に肉盛りすることが可能であり、かつ様々な形状の金属製品にダミー部材を容易に溶接することが可能である。
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る金属製品の再加工方法で用い得る工作機械の一例について説明する。各実施形態の説明において、方向を表す用語(例えば「上下」、「左右」、および「X軸、Y軸、Z軸」等)を適宜用いるが、これらの用語は説明のためのものであって本発明を限定するものではない。また、各図面において、工作機械の各構成部品の形状または寸法は必ずしも同一の縮尺比で表したものではない。また、各図面において同一の構成部品には同一の符号を用いて示す。
【0022】
図1は、本実施形態で用いる工作機械の一例の内部の概要を示す正面図である。図2は、工作機械100によるAM加工時の加工空間200内の様子を示す斜視図である。工作機械100は、ワークWのAM加工機能と、ワークWのSM加工機能とを具備するハイブリッド加工機である。ハイブリッド加工機は、例えば、旋盤、立形もしくは横形のマシニングセンタ、固定工具を用いた旋削機能と回転工具を用いたミーリング機能とを有する複合加工機、X軸、Y軸、Z軸に加え、2つ以上の旋回軸により制御される5軸加工機などに、更にAM加工機能が付与された工作機械である。ただし、工作機械はこれらに限定されるものではない。
【0023】
最初に工作機械100の全体構造について説明する。工作機械100は、第1主軸台110、第2主軸台120、工具主軸(第1刃物台)130、第2刃物台140、付加加工用ヘッド150およびベッド160を有する。
【0024】
ベッド160は、第1主軸台110、第2主軸台120、工具主軸130および第2刃物台140を支持するベース部材である。工作機械100は、ベッド160を介して工場のフロアなどに据え置かれる。第1主軸台110、第2主軸台120、工具主軸130および第2刃物台140は、スプラッシュガードと称されるカバー体210で囲われた加工空間200に設けられている。
【0025】
図1中、第1主軸台110と第2主軸台120とがZ軸方向において対向するように配置されている。第1主軸台110および第2主軸台120は、それぞれ、固定工具を用いた旋削加工時にワークWを回転させるための第1主軸111および第2主軸121を有する。第1主軸111および第2主軸121は、それぞれ、Z軸と平行な回転軸を中心に回転可能である。第2主軸台120は、Z軸方向に移動可能である。第1主軸111および第2主軸121には、ワークWを着脱可能に保持する第1チャック機構111aおよび第2チャック機構121bが設けられている。チャック機構を有する主軸は、金属製品Wを支持する第1支持部、ダミー部材Dを支持する第2支持部として利用できる。
【0026】
工具主軸130は、ミーリング加工時に回転工具を回転させる。工具主軸130は、鉛直方向に延びるX軸と平行な回転軸を中心に回転可能である。工具主軸130には、回転工具を着脱可能に保持する着脱機構が設けられている。工具主軸130は、Z軸方向に直交し、かつ水平方向に延びるY軸方向に移動可能である。また、工具主軸130は、Y軸と平行な回転軸を中心に旋回可能である。
【0027】
工具主軸130は、図示しないコラム等によりベッド160上に支持されている。工具主軸130は、コラムに沿ってX軸方向に移動可能である。コラムは、Z軸方向に移動可能である。
【0028】
図1に示す第2刃物台140は、旋削加工のための複数の固定工具を装備したタレット形である。タレット形刃物台の周面には、複数の固定工具が、工具ホルダを介して放射状に取り付けられている。第2刃物台140は、旋回部142を介して、Z軸と平行な回転軸を中心に旋回可能である。旋回部142が旋回することで所望の固定工具がワークWの加工位置に配置される。第2刃物台140は、X軸方向およびZ軸方向に移動可能である。
【0029】
工作機械100は、DED方式のAM加工ヘッド150を有する。AM加工ヘッド150は、溶接トーチの機能を有し、付加用金属材料とレーザビームを導くケーブル230に接続されている。AM加工ヘッド150は、ケーブル230から供給される金属材料をワークWに対して供給するとともに金属材料とワークWにレーザビームを照射するノズルを有する。例えば、レーザビームの熱でワークWが局所的に溶融し、溶融部分に金属粉末が供給されて共に溶融し、その後、凝固することで金属積層造形が進行する。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル基合金、チタン基合金などの粉末やワイヤを利用することができる。
【0030】
AM加工ヘッド150は、工具主軸130に着脱可能である。AM加工ヘッド150はAM加工時に工具主軸130に装着される。工具主軸130は、既述した各移動機構によりX、YおよびZ軸方向に移動可能である。工具主軸130の移動と同様にAM加工ヘッド150もX、YおよびZ軸方向に移動可能である。SM加工時には、AM加工ヘッド150を工具主軸130から分離することができる。
【0031】
図3は、ケーブル230に金属粉末とレーザビームを導入するパウダーフィーダ300とレーザ光発振装置400の構成の一例を示している。ケーブル230の内部には、金属粉末とキャリアガスをAM加工ヘッド150まで移送する配管と、レーザビームをAM加工ヘッド150まで導くための光ファイバーとが収容されている。パウダーフィーダ300は、ケーブル230に金属粉末を供給する。レーザ光発振装置400は、レーザ光を発振する。発振されたレーザ光はケーブル230に導かれ、ビーム形成された後、AM加工ヘッド150のノズルから出射される。
【0032】
パウダーフィーダ300は、メインタンク310、バッファタンク330、粉末供給ユニット340および不活性ガス供給部350を具備する。メインタンク310は、金属粉末をストックし、適時のタイミングで下方の出口から金属粉末を送り出す。送り出された金属粉末は、キャリアガスとともにバッファタンク330に送られ、バッファタンク330に一時的に収容された後、粉末供給ユニット340に送られる。粉末供給ユニット340では、金属粉末がキャリアガスと混合され、ケーブル230に導かれる。キャリアガスには、不活性ガス供給部350から供給される不活性ガスが用いられる。
【0033】
(第1実施形態)
次に、図4A〜4Fを参照して、上記工作機械を用いた場合の金属製品の再加工方法について更に説明する。
【0034】
まず、金属製品にダミー部材を溶接する溶接工程(i)について説明する。溶接工程は、(a)金属製品を加工空間内の第1支持部で支持すること、(b)ダミー部材を加工空間内の第2支持部で支持すること、および(c)第1支持部で支持された金属製品と第2支持部で支持されたダミー部材とを溶接することを含む。
【0035】
また、溶接工程は、(A)金属製品に削り代を肉盛りすること、および、(B)削り代にダミー部材を溶接することを含み得る。この場合、削り代を有効利用することで、金属製品の寸法の減少を抑制することができる。
【0036】
具体的には、工程(a)では、図4Aに示されるように、再加工対象の金属製品W1の所定の端部(以下、第1端部)が、第1支持部としての第1主軸111の第1チャック機構111aにより把持され、固定される。第1チャック機構111aで把持する第1端部は、金属製品W1に応じて最も把持しやすい形状の部位を選択すればよい。また、金属製品W1に第1チャック機構111aで把持し得る箇所が無い場合には、予め金属製品W1に第1チャック機構111aで把持しやすい形状のダミー部材を溶接し、その後、ダミー部材を第1端部として第1チャック機構111aで把持すればよい。すなわち、金属製品W1は、既に所定の機能を有する形状に加工された金属製品W1とダミー部材との結合体であってもよい。なお、図示例の金属製品W1は、例えばロケットノズルであるが、これに限定されるものではない。
【0037】
図4Bは、金属製品W1の第1端部とは反対側の第2端部に削り代Waが肉盛りされた状態を示している。図示例では、金属製品W1の第2端部である円形のエッジの全周に削り代Waが形成されている。なお、削り代Waの位置やサイズは特に限定されない。削り代Waの肉盛りは、AM加工ヘッド150を用いてDED方式で行われる。AM加工ヘッド150のノズルからは、金属粉末が噴射されるとともにレーザビームが出射される。レーザビームの熱で金属粉末と金属製品W1の第2端部が溶融することで金属積層造形による肉盛りが進行する。
【0038】
なお、削り代Waの形成は、必要に応じて行えばよく省略してもよい。
【0039】
図4Cは、金属製品W1に肉盛りされた削り代Waにダミー部材D1が溶接される様子を示している。ダミー部材の形状は、特に限定されないが、図示例のダミー部材D1は、円盤状部材と、その中央の一方の面から突出する円柱状部材とで構成されている。円盤状部材は、金属製品W1の第2端部に形成された削り代Waと溶接可能なサイズである。円柱状部材は、第2支持部としての第2主軸121の第2チャック機構121aにより把持され、固定されている。削り代Waとダミー部材D1との溶接は、両者の位置を第2主軸121のZ軸方向およびX軸方向の位置を調整して両者を突き合わせて行われる。溶接の際、AM加工ヘッド150のノズルからはレーザビームだけを出射させてもよく、DED方式で金属粉末を削り代とダミー部材D1との境界に供給してもよい。削り代Waとダミー部材D1とが溶接されることで結合部分Wbが形成される。
【0040】
図4Dは、ダミー部材D1が溶接された金属製品W1が第1支持部(第1主軸111)で支持され、かつダミー部材D1が第2支持部(第2主軸121)で支持された状態で金属製品W1を再加工する再加工工程(ii)が行われる様子を示している。第1主軸111と第2主軸121の2点で金属製品W1が支持されていることで、金属製品W1の振動が防止され、再加工の精度が向上する。金属製品W1の再加工工程では、例えば、ミーリングなどの機械加工が工具主軸130を用いて行われ、再加工部Wcが形成される。なお、再加工工程では、付加加工が行われてもよく、除去加工と付加加工の両方が行われてもよい。
【0041】
図4Eは、再加工工程の後、金属製品W1からダミー部材D1を除去する除去工程(iii)がAM加工ヘッド150を用いて行われる様子を示している。ただし、除去工程では、工具主軸130を用いてもよく、工具主軸130とAM加工ヘッド150の両方を用いてもよい。図示例のようにAM加工ヘッド150を用いる場合、ノズルからはレーザビームだけを出射させ、結合部分Wbに照射して結合部分Wbを溶融させればよい。溶融金属は表面張力で金属製品W1側とダミー部材D1側とに分断され、金属製品W1とダミー部材D1とが物理的に分離される。
【0042】
図4Fは、ダミー部材D1が除去された後の金属製品W1を示している。金属製品W1の第2端部である円形のエッジには削り代Waの残渣部Wdが残存し得る。残渣部Wdは、工具主軸130を用いて除去してもよく、第2端部の形状が整うように成形してもよい。残渣部Wdが金属製品W1の機能に影響しないようであれば放置してもよい。
【0043】
(第2実施形態)
図5は、金属製品W1の再加工方法の別の実施形態の一場面を示している。金属製品W1は第1実施形態と同様の形状を有する。金属製品W1の第1端部は、第1実施形態と同様に第1支持部である第1主軸111で支持されている。ダミー部材D2は、金属製品W1の第2端部である円形のエッジが形成する円よりも大きい直径を有する円盤状である。金属製品W1の第2端部である円形のエッジとダミー部材D2との境界には溶接による結合部分Wbが形成されている。ここでは、金属製品W1の第2端部は、第2端部に結合するダミー部材D2の一方の面の中央に第2支持部である芯押し台170を押し当てることで支持されている。このような状態でも、金属製品Wを機械加工する再加工工程における振動を抑制することができる。
【0044】
(第3実施形態)
図6は、金属製品W1とは形状の異なる金属製品W2の再加工方法の実施形態の一場面を示している。図示例の金属製品W2は、タービンブレードであるが、これに限定されるものではない。金属製品W2の第1端部は、ブレードの根本であり、第1実施形態と同様に第1支持部である第1主軸111で支持されている。ダミー部材D3は、X軸方向を中心軸とする円柱状である。第1端部とは反対側の第2端部であるブレード先端部は、円柱状のダミー部材D3の周面の一部と溶接されている。金属製品W2の第2端部であるブレード先端部とダミー部材D3との境界には溶接による結合部分Wbが形成されている。ここでは、金属製品W2の第2端部は、第2端部に結合するダミー部材D3の下面(円柱の一方の底面)の中央に第2支持部であるワークサポート180を押し当てることで支持されている。このような状態でも、金属製品W2を機械加工する再加工工程における振動を抑制することができる。
【0045】
(第4実施形態)
図7は、金属製品W2の再加工方法の別の実施形態の一場面を示している。金属製品W2は第3実施形態と同様の形状を有する。金属製品W2の第1端部は、第1実施形態と同様に第1支持部である第1主軸111で支持されている。ダミー部材D4は、Z軸方向を中心軸とする円柱状である。金属製品W2の第2端部は、円柱状のダミー部材D4の一方の底面と溶接されており、金属製品W2の第2端部とダミー部材D4との境界には溶接による結合部分Wbが形成されている。ここでは、金属製品W2の第2端部は、第2端部に結合する円柱状のダミー部材D4の周面の一部を第2支持部である振れ止め190で囲って挟み込むことで支持されている。このような状態でも、金属製品W2を機械加工する再加工工程における振動を抑制することができる。
【0046】
なお、タービンブレードのような非対称形状を有する金属製品の再加工を行う場合、再加工工程の前に、金属製品を収容する仮想最小直方体の最大主面と鉛直方向とが30°以下(望ましくは10°以下)の鋭角を成すように、金属製品の姿勢を調整する工程を行うことが望ましい。これにより、再加工工程において、金属製品の機械加工を更に精度よく行うことができる。
【0047】
図8に金属製品W2であるタービンブレードの一例と、これを収容する仮想最小直方体Bとを概念図で示す。仮想最小直方体Bの最大主面Sの一つには斜線でハッチングを施している。最大主面Sと鉛直方向(すなわちX軸方向)とが上記鋭角を成すように、金属製品W2の姿勢が調整される。仮想最小直方体Bの最大主面Sと鉛直方向とが成す角度は0°(すなわち両者が平行)であることが最も望ましい。
【0048】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えばニッケル基合金やチタン基合金のような高価な金属素材で形成されている大型の金属製品の再加工もしくはリペアに適している。
【符号の説明】
【0050】
100:工作機械
110:第1主軸台
111:第1主軸
111a:第1チャック機構
120:第2主軸台
121:第2主軸
121a、b:第2チャック機構
130:工具主軸(第1刃物台)
140:第2刃物台
142:旋回部
150:AM加工ヘッド
160:ベッド
170:芯押し台
180:ワークサポート
190:振れ止め
200:加工空間
210:カバー体(スプラッシュガード)
230:ケーブル
300:パウダーフィーダ
310:メインタンク
330:バッファタンク
340:粉末供給ユニット
350:不活性ガス供給部
400:レーザ光発振装置
W:ワーク
W1、W2:金属製品
Wa:削り代
Wb:結合部分
Wc:再加工部
Wd:残渣部
D、D1、D2、D3、D4:ダミー部材

【要約】
【課題】金属製品の形状に制限されることなく、金属製品を固定して再加工することができる再加工方法を提供する。
【解決手段】金属製品を再加工する方法であって、金属製品にダミー部材を溶接する溶接工程と、金属製品が第1支持部で支持され、かつダミー部材が第2支持部で支持された状態で金属製品を再加工する再加工工程と、再加工工程の後、金属製品からダミー部材を除去する除去工程と、を有する、金属製品の再加工方法。
【選択図】図4D
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7
図8