(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0005】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、フラン樹脂と、水と、加水分解澱粉とを含有し、前記フラン樹脂と前記加水分解澱粉との質量比(前記フラン樹脂の質量/前記加水分解澱粉の質量)が20〜95であり、前記加水分解澱粉のデキストロース当量が60以上である。
【0006】
糖類はフラン樹脂への溶解性が悪いため、これまで、フラン樹脂と反応させるなど、変性させてフラン樹脂への溶解性を高める必要があった。しかし、当該変性には煩雑な工程が必要であり、経済的コスト及びエネルギーコストを要していた。
【0007】
本発明は、糖類を用いながら変性工程が不要で経済的コスト及びエネルギーコストを抑制できる鋳型造型用粘結剤組成物を提供する。
【0008】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、フラン樹脂と、水と、加水分解澱粉とを含有し、前記フラン樹脂と前記加水分解澱粉との質量比(前記フラン樹脂の質量/前記加水分解澱粉の質量)が20〜95であり、前記加水分解澱粉のデキストロース当量が60以上である。
【0009】
本発明によれば、糖類を用いながら変性工程が不要で経済的コスト及びエネルギーコストを抑制できる鋳型造型用粘結剤組成物を提供することができる。
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
<鋳型造型用粘結剤組成物>
本実施形態の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に粘結剤組成物ともいう)は、フラン樹脂と、水と、加水分解澱粉とを含有し、前記フラン樹脂と前記加水分解澱粉との質量比(前記フラン樹脂の質量/前記加水分解澱粉の質量)が20〜95であり、前記加水分解澱粉のデキストロース当量が60以上である。
【0012】
本実施形態の粘結剤組成物によれば、糖類を用いながら変性工程が不要で経済的コスト及びエネルギーコストを抑制できる。本実施形態の粘結剤組成物がこのような効果を奏する理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0013】
澱粉はフラン樹脂に対する溶解性が悪い傾向があるが、特定のデキストロース等量(DE等量)をもつ加水分解澱粉を用いて、フラン樹脂と加水分解澱粉との質量比(前記フラン樹脂の質量/前記加水分解澱粉の質量)を特定の範囲にすることによって水及びフラン樹脂両方に対する一定以上の溶解性を得ることができることを見出した。そのため、フラン樹脂と加水分解澱粉との質量比を特定の範囲にすれば、フラン樹脂への溶解性を高めるためにあえて糖類を変性させる必要がなく、粘結剤組成物を調整後、長期間放置しても糖類がフラン樹脂成分などと相分離することなく均一な状態を保持できる。したがって、本実施形態の粘結剤組成物によれば、糖類を用いながら変性工程が不要で経済的コスト及びエネルギーコストを抑制できると考えられる。さらに、前記粘結剤組成物は、硬化剤組成物や耐火性粒子との混練工程においても相分離することなく、均一な接着層を形成できるため、鋳型強度を維持することができると考えられる。
【0014】
〔フラン樹脂〕
前記フラン樹脂は、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物(尿素変性フラン樹脂)、尿素とエチレン尿素とアルデヒド類の縮合物(尿素・エチレン尿素共縮合樹脂)、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが例示できる。また、これらの群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものも使用できる。このうち、鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物から選ばれる1種以上、並びにこれらの共縮合物を使用するのが好ましい。
【0015】
前記フラン樹脂の合成に用いられるモノマー組成物は、フルフリルアルコールを含有し、目的の縮合物に応じて、例えば、アルデヒド類、尿素、フェノール類、及びメラミンから選ばれる1種以上のモノマーが選択され、使用できる。
【0016】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド、ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度向上の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒド、ヒドロキシメチルフルフラールを用いるのが好ましい。
【0017】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0018】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.01〜1モル使用することが好ましい。また、フルフリルアルコールとアルデヒド類と尿素の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.05〜3モル、尿素を0.03〜1.5モル使用することが好ましい。
【0019】
フラン樹脂を合成する際の反応温度は、使用する原料により異なり、得られる粘結剤組成物の粘度、アルデヒドの残留量、製造時間短縮、フラン樹脂の暴走反応の防止や、原料の蒸発防止の観点から、50〜150℃が好ましく、70〜130℃がより好ましく、80〜130℃が更に好ましい。同様の観点から、フラン樹脂を合成する際の反応時間は、0.5〜12時間が好ましく、1〜10時間がより好ましく、3〜8時間が更に好ましい。
【0020】
フラン樹脂を製造する際、フラン樹脂、原料のフルフリルアルコール、原料に含まれる水、反応中に生成する水等が含まれるが、経済性の観点から除去しなくてもよい。フラン樹脂組成物は、フラン樹脂、フルフリルアルコール及びフラン樹脂以外の成分、例えば水等を含有する。
【0021】
前記粘結剤組成物におけるフラン樹脂の含有量は、鋳型強度向上の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましい。前記粘結剤組成物におけるフラン樹脂の含有量は、粘度低減の観点から、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。また、本実施形態の粘結剤組成物におけるフラン樹脂の含有量は、鋳型強度向上の観点及び粘度低減の観点から、50〜98質量%が好ましく、60〜95質量%がより好ましく、65〜95質量%が更に好ましい。
【0022】
〔水〕
前記粘結剤組成物の水の含有量は0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。ただし、硬化反応速度を維持する観点から、粘結剤組成物の水の含有量は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。また、粘結剤組成物の水の含有量は、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する観点、及び硬化反応速度を維持する観点から、0.5〜30質量%が好ましく、1〜25質量%がより好ましく、3〜25質量%が更に好ましい。
【0023】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水との混合物の形態で得られる。このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、水は必要に応じて、トッピング等で除去しても構わないが、硬化反応速度を維持できる限り、製造の際にあえて除去する必要はない。
【0024】
〔加水分解澱粉〕
前記加水分解澱粉は、酸や酵素等によって澱粉を加水分解したものである。当該加水分解澱粉のデキストロース当量は、前記加水分解澱粉と前記フラン樹脂の相溶性の観点から60以上であり、70以上が好ましい。当該加水分解澱粉のデキストロース当量は、経済性の観点から99以下が好ましく、80以下がより好ましい。ここでデキストロース等量とは、デキストロース当量値(Dextrose Equivalent値)ともいい、 還元糖をグルコースとして測定し、その還元糖の全固形分に対する割合を示すものであり、 デンプン分解物の分解度の一指標として用いられるものである。本明細書において、デキストロース当量は実施例に記載の方法により測定する。
【0025】
前記加水分解澱粉としては、例えば、フジシラップ(加藤化学)等が市販品として得られる。
【0026】
前記フラン樹脂と前記加水分解澱粉との質量比(前記フラン樹脂の質量/前記加水分解澱粉の質量)は、前記加水分解澱粉と前記フラン樹脂の相溶性の観点から20〜95であり、70〜90が好ましい。
【0027】
水と前記加水分解澱粉との質量比(水の質量/前記加水分解澱粉の質量)は、前記加水分解澱粉と水の相溶性の観点から水との相溶性の観点から1〜30であり、2〜20が好ましい。
【0028】
前記加水分解澱粉の含有量は、経済性の観点から、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。前記加水分解澱粉の含有量は、前記加水分解澱粉と前記フラン樹脂の相溶性の観点、及び鋳型強度の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。前記加水分解澱粉の含有量は、経済性の観点、前記加水分解澱粉と前記フラン樹脂の相溶性の観点、及び鋳型強度の観点から、1〜20質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0029】
〔硬化促進剤〕
本実施形態の粘結剤組成物中には、鋳型の割れを防ぐ観点、及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、フェノール誘導体、芳香族ジアルデヒド、及びタンニン類からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0030】
【化1】
〔式中、X
1及びX
2は、それぞれ水素原子、CH
3又はC
2H
5の何れかを表す。〕
【0031】
前記粘結剤組成物中の硬化促進剤の含有量は、鋳型の最終強度を向上させる観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1.8質量%以上であることがより好ましく、2.5質量%以上であることが更に好ましく、3.0質量%以上であることがより更に好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤の含有量は、硬化促進剤のフラン樹脂への溶解性の観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、63質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
【0032】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。なかでも、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。
【0033】
フェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、鋳型の深部硬化性の観点及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、レゾルシンが好ましい。粘結剤組成物中の前記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体のフラン樹脂への溶解性の観点及び、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、1〜25質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることが更に好ましい。なかでも、レゾルシンを用いる場合は、粘結剤組成物中のレゾルシンの含有量は、レゾルシンのフラン樹脂への溶解性の観点、及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、1〜10質量%であることが好ましく、2〜7質量%であることがより好ましく、3〜6質量%であることが更に好ましい。
【0034】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。鋳型の割れを防ぐ観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドをフラン樹脂に十分に溶解させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%であり、更に好ましくは1〜5質量%である。
【0035】
タンニン類としては、縮合タンニンや加水分解型タンニンが挙げられる。これら縮合タンニンや加水分解型タンニンの例としては、ピロガロール骨格やレゾルシン骨格を持つタンニンが挙げられる。また、これらタンニン類を含有する樹皮抽出物や植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物からの抽出物を添加しても構わない。
【0036】
〔その他の添加剤〕
前記粘結剤組成物中には、更にシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えば、粘結剤組成物中にシランカップリング剤が含まれていると、得られる鋳型の最終強度をより向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。より好ましくはアミノシラン、エポキシシランであり、更に好ましくはアミノシランである。アミノシランの中でも、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型の最終強度を向上させる観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、同様の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0037】
前記粘結剤組成物中には、経済的コストを抑制する観点から、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選ばれる1種以上のアルコールが含まれていてもよい。当該アルコールの含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。前記アルコールの含有量は、鋳型の強度低下を抑制する観点から、10質量%以下が好ましい。また、前記アルコールの含有量は、低温環境下での凍結を防止する観点、及び鋳型の強度低下を抑制する観点から、1〜10質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0038】
前記粘結剤組成物中には、鋳型強度向上の観点から、尿素が含まれていてもよい。前記尿素とは、ホルムアルデヒドやフルフリルアルコール等と縮合反応していない尿素であり、未反応分として残存したものでも、別途添加されたものでも何れでも良い。前記粘結剤組成物中の前記尿素の含有量は、鋳型強度向上の観点、ホルムアルデヒド濃度を低減させる観点から、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましい。前記粘結剤組成物中の前記尿素の含有量は、硬化速度を向上させる観点、粘結剤組成物の保存安定性の観点から、10質量%以下が好ましく、6.0質量%以下がより好ましく4.5質量%以下が更に好ましい。
【0039】
なお、粘結剤組成物中の尿素は、以下のようなLC/MS分析操作により測定することができる。サンプルの調製は、アセトン/水=50/50の混合溶液で100倍希釈し、さらに移動相で100倍希釈する。
(LC/MS分析条件)
カラム:Unison UK−Amino HT
移動相:0.1% TFA アセトニトリル/水=95/5
流量:0.2mL/min
カラム温度:40℃
MS:SIM m/z:61.0 [M+H]+
【0040】
〔フェノール樹脂〕
前記粘結剤組成物は、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、フェノール樹脂を含有してもよい。フェノール樹脂としては、重量平均分子量が1000以上5000以下のものが挙げられる。
【0041】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、1000以上が好ましく、1400以上がより好ましい。同様の観点から、5000以下が好ましく、2500以下がより好ましい。よって、1000〜5000が好ましく、1400〜2500がより好ましい。
【0042】
前記フェノール樹脂の分散度(重量平均分子量/数平均分子量の比)は、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、1.2以上が好ましく、1.8以上がより好ましい。前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、粘結剤組成物の保存安定性を向上させる観点、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、5.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。よって、1.2〜5.0が好ましく、1.8〜3.5がより好ましい。
【0043】
前記フェノール樹脂としては、従来公知のものが使用でき、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、及び特願2009―292862号公報に記載されているような構造を有するフェノール樹脂からなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。
【0044】
なお、一般に、レゾール型フェノール樹脂を得るために用いるフェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等が挙げられるが、これらの中でも鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点からフェノールが好ましい。レゾール型フェノール樹脂を得るために用いるアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、パラホルムアルデヒド、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられるが、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点からパラホルムアルデヒドが好ましい。レゾール型フェノール樹脂を得るために用いる塩基性触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0045】
また、一般に、ノボラック型フェノール樹脂を得るために用いるフェノール類及びアルデヒド類としては、レゾール型フェノール樹脂と同様のものが挙げられる。
【0046】
フェノール樹脂組成物を製造する際、フェノール樹脂以外に原料、原料に含まれる水、反応中に生成する水が含まれるが、経済性の観点から除去しなくても良い。
【0047】
前記フェノール樹脂の中でも、溶解性の観点、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、レゾール型フェノール樹脂を使用するのが好ましい。
【0048】
前記粘結剤組成物における前記フェノール樹脂の含有量は、溶解性の観点、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、2質量%以上35質量%以下である。
【0049】
前記粘結剤組成物における前記フェノール樹脂の含有量は、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、8質量%以上がより好ましい。前記粘結剤組成物における前記フェノール樹脂の含有量は、溶解性の観点、鋳型の可とう性を向上させる観点及び鋳型の最終強度を向上させる観点から、20質量%以下がより好ましい。よって、8〜20質量%がより好ましい。
【0050】
前記粘結剤組成物中の前記フラン樹脂と前記フェノール樹脂の合計含有量は、鋳型の最終強度を向上させる観点から、50質量%以上が好ましい。前記粘結剤組成物中の前記フラン樹脂と前記フェノール樹脂の合計含有量は、鋳型の最終強度を向上させる観点から、95質量%以下が好ましい。よって、50〜95質量%が好ましい。
【0051】
前記粘結剤組成物は自硬性鋳型の造型に好適に用いられる。ここで自硬性鋳型とは、砂に粘結剤組成物と硬化剤組成物を混合すると、時間の経過と共に重合反応が進行し、鋳型が硬化する鋳型である。その際に用いられる砂の温度としては、−20℃〜50℃の範囲であり、好ましくは0℃〜40℃である。このような温度の砂に対して、それに適した量の硬化剤を選択し砂に添加する事で、鋳型を適切に硬化できる。
【0052】
<鋳型用組成物>
前記粘結剤組成物は、耐火性粒子及び硬化剤組成物と混合して鋳型用組成物とすることができる。本実施形態の鋳型用組成物は、前記粘結剤組成物、耐火性粒子及び硬化剤組成物を含有する。
【0053】
〔耐火性粒子〕
前記耐火性粒子としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0054】
〔硬化剤組成物〕
前記硬化剤組成物は、前記粘結剤組成物を硬化させる硬化剤を含有するものであれば特に限定なく用いることができる。当該硬化剤としては酸系硬化剤が例示でき、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)、メタンスルホン酸等のスルホン酸系化合物、リン酸、酸性リン酸エステル等のリン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液など、従来公知のものを1種以上が使用できる。これらの化合物は、取り扱い性の観点から水溶液であることが好ましい。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。
【0055】
前記硬化剤組成物中の硬化剤の含有量は、最終的な鋳型強度向上の観点から、5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
【0056】
前記鋳型用組成物において、耐火性粒子100質量部に対して、前記粘結剤組成物0.5〜3.0質量部、前記硬化剤組成物0.07〜2.0質量部含有することが好ましい。
【0057】
また、鋳型用組成物中の硬化剤組成物の含有量は、鋳型強度向上の観点から粘結剤組成物1.0質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.14質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、好ましくは0.8質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下、更により好ましくは0.4質量部以下である。以上を総合すると、鋳型用組成物中の硬化剤組成物の含有量は、鋳型強度向上の観点から粘結剤組成物1.0質量部に対して、好ましくは0.1〜0.8質量部、より好ましくは0.14〜0.6質量部、より更に好ましくは0.2〜0.4質量部である。
【0058】
<鋳型の製造方法>
前記鋳型用組成物を硬化させることによって鋳型を製造することができる。本実施形態の鋳型の製造方法において、従来の鋳型の製造プロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。好ましい鋳型の製造方法として、耐火性粒子と前記鋳型造型用粘結剤組成物と、前記鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤組成物とを混合して鋳型用組成物を得る混合工程、及び前記鋳型用組成物を型枠に詰め、当該鋳型用組成物を硬化する硬化工程を有する鋳型の製造方法が挙げられる。
【0059】
前記混合工程は、耐火性粒子と硬化剤組成物を含有する鋳型造型用硬化剤組成物とを混合する第1混合工程、及び第1混合工程後に得られた混合物に鋳型造型用粘結剤組成物を混合する第2混合工程を有するのが好ましい。
【0060】
前記混合工程では、本実施形態の効果を阻害しない程度に酸硬化性樹脂、硬化促進剤、水、シランカップリング剤等の添加剤、酸性物質、及び溶剤等を添加してもよい。
【0061】
前記混合工程において、各原料を混合する方法としては、公知一般の手法を用いることが出来、例えば、バッチミキサーにより各原料を添加して混練する方法や、連続ミキサーに各原料を供給して混練する方法が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0063】
<実施例1〜9、比較例1〜4>
〔フラン樹脂組成物の調製〕
三ツ口フラスコにフルフリルアルコール100質量部とパラホルムアルデヒド35質量部と尿素13質量部を混合し25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH9に調整した。反応混合物を100℃に昇温後、同温度で1時間反応させた。37質量%塩酸でpH4.5に調整し、更に100℃で1時間反応させた。その後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整し、尿素5質量部を添加して、100℃で30分反応させ、フラン樹脂組成物を得た。フラン樹脂組成物の組成は、尿素変性フラン樹脂71.7質量%、フルフリルアルコール19.5質量%、水8.8質量%であった。
【0064】
〔デキストロース当量〕
試料2.5gを正確に量り、水に溶かして200mLとする。この液10mLを正確に量り、0.04mol/Lヨウ素溶液10mLと、0.04mol/L水酸化ナトリウム溶液15mLを加えて20分間暗所に放置した。次に、2mol/L塩酸を5mL加えて混和した後、0.04mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、でんぷん指示薬2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とした。これとは別に空試験を行い、次式によりデキストロース当量(DE)を求めた。
DE=(b−a)×f×3.602/(1/1000)/(200/10)/[A×(100−B)×100]×100
〔式中、aは滴定値(mL)を示し、bはブランク値(mL)を示し、fはチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター値を示し、Aは試料の秤取量(mg)を示し、Bは試料の水分値(%)を示す。〕
【0065】
〔加水分解澱粉の溶解性〕
表1に記載の各粘結剤組成物を入れたガラス製スクリュー管に下記1〜4の操作を順番に実施して、粘結剤組成物を溶解させた。数字が小さい操作で溶解したものほど溶解性が高いとした。ここで、溶解したとは各操作を実施したあとにガラス製スクリュー管を目視観察し、粘結剤組成物が均一透明液体になった状態を言う。結果を表1に示す。
1:25℃の水中で1Hr超音波処理(37kHz)
2:50℃の水中で1Hr超音波処理(37kHz)
3:50℃の水中で2Hr超音波処理(37kHz)
4:50℃の水中で4Hr超音波処理(37kHz)
5:不溶(粘結剤組成物中で加水分解澱粉が相分離)
【0066】
〔粘結剤組成物の保存安定性〕
上記操作で加水分解澱粉を溶解させた各粘結剤組成物を常温(25℃)で1週間放置し、下記基準で目視評価した。
○:粘結剤組成物中に加水分解澱粉が均一に溶解
×:粘結剤組成物中で加水分解澱粉が相分離
【0067】
〔鋳型強度〕
25℃、55%RHの条件下で、フラン再生珪砂100質量部に対し、硬化剤組成物(カオーライトナーC−17:花王クエーカー社製)0.40質量部を添加し、次いで表1に示した成分を予め所定量加えて混合して得られた粘結剤組成物0.8質量部を添加し、これらを混合して各実施例及び比較例に係る鋳型用組成物を得た。得られた鋳型用組成物を直径50mm、高さ50mmの円柱状のテストピース枠にそれぞれ充填し、2時間後に抜型を行い、充填から24時間後に、JISZ 2604−1976に記載された方法で圧縮強度(MPa)を測定した。尚、圧縮強度を比較するにあたり、鋳型用組成物を調製する際に用いた粘結剤組成物は、常温で1週間保存したものを振とうした後に使用した。結果を表1に示す。実施例1〜9は、4.7MPa以上であった。一方、比較例1〜4は、4.4MPa以下であり圧縮強度は低かった。これは、比較例では粘結剤組成物中で加水分解澱粉が相分離しており、鋳型用組成物中で加水分解澱粉が凝集を起こしていたことが影響したと考えられる。
【0068】
【表1】