(54)【発明の名称】レドックスフロー電池用隔膜、レドックスフロー電池用隔膜の製造方法、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体、レドックスフロー電池用セル、及びレドックスフロー電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、前記正極セル室と前記負極セル室とを隔離分離させる隔膜と、を含む電解槽を備え、
前記正極セル室が、活物質を含む正極電解液を含み、
前記負極セル室が、活物質を含む負極電解液を含み、
前記隔膜が、請求項1〜6のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池用隔膜である、レドックスフロー電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レドックスフロー電池においては、電流効率改善のための隔膜への加工により、プロトン導電性が損なわれ、電圧効率が悪化する懸念がある。特許文献1の加工では、膜抵抗の増加により、電力効率の改善に課題が残る。
【0008】
また、陽イオン交換層に陰イオン交換層を積層させた場合、陽イオン交換層と陰イオン交換層の膨潤度の違いにより、膜がカールする懸念がある。レドックスフロー電池の評価時には、膜を硫酸や電解液中に浸漬させてから電池用のセルに組み込むが、カールしやすい膜は、セルに組み込む際に空間が生じ、液漏れの原因となりうる。例えば、特許文献2では、陽イオン交換層と陰イオン交換層とを交互に積層させることによる電池特性の向上に関しての開示はなされているが、膜のカールに対する記載はない。
【0009】
本発明の課題は、カールが抑制され、且つ、高い電力効率を示す、レドックスフロー電池用隔膜、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体、レドックスフロー電池用セル、及びレドックスフロー電池を提供することに関する。
【0010】
また、本発明の別の課題は、高い電力効率を長期間持続する、レドックスフロー電池用隔膜、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体、レドックスフロー電池用セル、及びレドックスフロー電池を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、アニオン交換性化合物を含むアニオン交換性樹脂層を挟み込むようにイオン交換樹脂層を形成することにより、カールを抑制しながら高い電力効率が得られることを見出した。さらに、このようなアニオン交換性樹脂層を、イオン交換樹脂層で挟み込むように配置することにより、電解質イオンの透過を抑制しつつ、電解質イオンからの直接の酸化を受けにくくすることができ、更に長期耐久性が高いことを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の実施形態は以下のとおりである。
[1]
第1のイオン交換樹脂層と、
アニオン交換性化合物を含むアニオン交換性樹脂層と、
第2のイオン交換樹脂層と、
をこの順で備える、レドックスフロー電池用隔膜であって、
第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値が、0.7以上1.3以下であり、
前記アニオン交換性樹脂層の厚さが、0.02μm以上3μm以下である、
レドックスフロー電池用隔膜。
[2]
前記第1のイオン交換樹脂層及び第2のイオン交換樹脂層の厚さが、それぞれ5μm以上50μm以下である、
[1]に記載のレドックスフロー電池用隔膜。
[3]
前記第1のイオン交換樹脂層が、陽イオン交換樹脂を含有する第1のイオン交換樹脂層である、
[1]又は[2]に記載のレドックスフロー電池用隔膜。
[4]
前記第2のイオン交換樹脂層が、陽イオン交換樹脂を含有する第2のイオン交換樹脂層である、
[1]〜[3]のいずれかに記載のレドックスフロー電池用隔膜。
[5]
前記陽イオン交換樹脂が、フッ素系高分子電解質重合体を含む、
[3]又は[4]に記載のレドックスフロー電池用隔膜。
[6]
前記アニオン交換性化合物が、三級アミノ基又は四級アンモニウム基を有する、
[1]〜[5]のいずれかに記載のレドックスフロー電池用隔膜。
[7]
第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層とをこの順で備えるレドックスフロー電池用隔膜の製造方法であり、
第1のイオン交換樹脂層の上にアニオン交換性樹脂層を形成し、第1のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体を得る工程、
前記構成体のアニオン交換性樹脂層の上に第2のイオン交換樹脂層を形成する工程を含む、
レドックスフロー電池用隔膜の製造方法。
[8]
第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層とをこの順で備えるレドックスフロー電池用隔膜の製造方法であり、
第1のイオン交換樹脂層の上にアニオン交換性樹脂層を形成し、第1のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体を得る工程、
第2のイオン交換樹脂層の上にアニオン交換性樹脂層を形成し、第2のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体を得る工程、
前記第1のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体と、前記第2のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体とを、それぞれのアニオン交換性樹脂層の面同士で貼り合わせ熱プレスにより接着する工程を含む、
レドックスフロー電池用隔膜の製造方法。
[9]
[1]〜[6]のいずれかに記載のレドックスフロー電池用隔膜と、
前記レドックスフロー電池用隔膜と接合する炭素電極と、
を備える、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体。
[10]
[9]に記載の隔膜電極接合体を備える、レドックスフロー電池用セル。
[11]
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、前記正極セル室と前記負極セル室とを隔離分離させる隔膜と、を含む電解槽を備え、
前記正極セル室が、活物質を含む正極電解液を含み、
前記負極セル室が、活物質を含む負極電解液を含み、
前記隔膜が、[1]〜[6]のいずれかに記載のレドックスフロー電池用隔膜である、レドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カールが抑制され、且つ、高い電力効率を示す、レドックスフロー電池用隔膜、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体、レドックスフロー電池用セル、及びレドックスフロー電池を提供することができる。
また、本発明によれば、高い電力効率を長期間持続する、レドックスフロー電池用隔膜、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体、レドックスフロー電池用セル、及びレドックスフロー電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
[レドックスフロー電池用隔膜]
本実施形態のレドックスフロー電池用隔膜(以下、単に「隔膜」ともいう。)は、第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性化合物を含むアニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層と、をこの順で備える。第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値は、0.7以上1.3以下である。上記アニオン交換性樹脂層の厚さが、0.02μm以上3μm以下である。
アニオン交換性樹脂層の厚さを上記の範囲に制御することによって、正負極間におけるプロトンの移動を大きく損なうことなく、活物質(例えばバナジウムイオン)の移動を大幅に抑制できる。結果として、電圧効率を維持したまま、電流効率を高くできるため、高い電力効率を得ることができる。また、アニオン交換性樹脂層を第1および第2のイオン交換樹脂層によって挟んだ3層構造とすることによって、アニオン交換性樹脂層と腐食性の高い電解液との直接的な接触を避けることができる。結果的に、長期稼働においてもアニオン交換性樹脂層の劣化を抑え、高い電力効率を維持することができる。加えて、第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値を上記の範囲に制御することによって、隔膜内に生じる内部応力の厚さ方向の分布を小さくすることができる。その結果、隔膜のカールを抑制することができる。
【0017】
第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値は、好ましくは0.8以上1.2以下であり、より好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.9以上1.1以下である。
第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値を0.7以上1.3以下とする方法としては、例えば、製膜する際の塗工量を調整する方法等が挙げられる。
本実施形態の隔膜における各層の厚さ、及び、隔膜の厚さは、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0018】
本実施形態におけるイオン交換樹脂層とは、活物質イオンの通過を抑制しながら、プロトンやアニオンを通過させる機能を有する層を指す。
【0019】
本実施形態の隔膜は、上述の層とは異なる他の層を有していてもよい。他の層としては、特に限定されないが、例えば、隔膜の強度を補強する多孔質層等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の隔膜は、第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層と、を少なくとも備える。一実施形態に係る隔膜は、第1のイオン交換樹脂層と、第1のアニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層と、第2のアニオン交換性樹脂層と、第3のイオン交換樹脂層とを、この順に備えていてもよい。
【0021】
<第1のイオン交換樹脂層>
第1のイオン交換樹脂層としては、特に限定されないが、例えば、陽イオン交換樹脂が挙げられる。
陽イオン交換樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フッ素系高分子電解質重合体が挙げられる。フッ素系高分子電解質重合体としては、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を含有する。
【0022】
イオン交換基としては、特に限定されないが、例えば、−COOH基、−SO
3H基、−PO
3H
2基又はこれらの塩が挙げられる。塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン類塩が挙げられる。
【0023】
パーフルオロカーボン重合体は、好ましくは、下記式(1)で表される構造を含む。
−[CF
2−CX
1X
2]
a−[CF
2−CF(−O−(CF
2−CF(CF
2X
3))
b−O
c−(CFR
1)
d−(CFR
2)
e−(CF
2)
f−X
4)]
g− (1)
【0024】
式(1)中におけるX
1、X
2、X
3、X
4、R
1、R
2及びa〜gは、それぞれ、次のように定義される。
【0025】
X
1、X
2及びX
3は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基である。
【0026】
上記ハロゲン原子としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。上記炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロn−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基が挙げられる。
【0027】
X
1、X
2及びX
3は、ポリマーの耐酸化劣化性等の化学的安定性の観点から、好ましくは、それぞれ独立して、フッ素原子、又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはフッ素原子である。
【0028】
X
4は、−COOZ基、−SO
3Z基、−PO
3Z
2基又は−PO
3HZ基である。
【0029】
Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、NH
4、NH
3R
11、NH
2R
11R
12、NHR
11R
12R
13、NR
11R
12R
13R
14である。
【0030】
ここで、R
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基である。R
11、R
12、R
13及びR
14のアルキル基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、又はn−ヘキシル基である。アリール基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0031】
なお、X
4が、−PO
3Z
2基である場合、Zは、同じでも異なっていてもよい。上記アルカリ金属原子としては、特に限定されないが、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子が挙げられる。アルカリ土類金属原子としては、特に限定されないが、例えば、カルシウム原子、マグネシウム原子が挙げられる。X
4としては、ポリマーの耐酸化劣化性等の化学的安定性の観点から、SO
3Zが好ましい。
【0032】
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基である。ここで、R
1及びR
2のハロゲン原子としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子が好ましい。
a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、及びa+g=1を満たす数である。bは、0〜8の整数である。cは、0又は1である。d、e及びfは、それぞれ独立して、0〜6の整数である。ただし、d、e及びfは同時に0ではない。
なお、[CF
2−CX
1X
2]の構造単位と、[CF
2−CF(−O−(CF
2−CF(CF
2X
3))
b−O
c−(CFR
1)
d−(CFR
2)
e−(CF
2)
f−X
4)]の構造単位とは、その配列順序は、特に限定されず、ランダムであっても、ブロック体であってもよい。
【0033】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体としては、本実施形態の効果がより顕著となる傾向にあるため、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(以下、「PFSA樹脂」ともいう。)であることが好ましい。本実施形態におけるPFSA樹脂は、PTFE骨格連鎖からなる主鎖に、側鎖としてパーフルオロカーボンと、それぞれの側鎖に1個ないし2個以上のスルホン酸基(場合により一部が塩の形になっていてもよい)が結合した樹脂である。
【0034】
PFSA樹脂は、−[CF
2CF
2]−で表される繰り返し単位と、下記式(3)、(4−1)又は(4−2)で表される化合物から誘導される繰り返し単位を含有することが好ましい。
CF
2=CF(−O−(CF
2CFXO)
n−[A]) (3)
(式(3)中、Xは、F又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、nは0〜5の整数である。[A]は(CF
2)
m−SO
3Hであり、mは0〜6の整数を示す。ただし、nとmは同時に0にならない。)
【0035】
CF
2=CF−O−(CF
2)
P−CFX(−O−(CF
2)
K−SO
3H) (4−1)
CF
2=CF−O−(CF
2)
P−CFX(−(CF
2)
L−O−(CF
2)
m−SO
3H) (4−2)
(式(4−1)及び(4−2)中、Xは、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、Pは0〜12の整数であり、Kは1〜5の整数であり、Lは1〜5の整数であり、mは0〜6の整数である。ただし、KとLは同じでも、異なっていてもよく、P、K、Lは同時に0とはならない。)
【0036】
また、PFSA樹脂は、−[CF
2CF
2]−で表される繰り返し単位と、−[CF
2−CF(−O−(CF
2CFXO)
n−(CF
2)
m−SO
3H)]−(当該式中、Xは、F又はCF
3であり、nは0〜5の整数であり、mは0〜12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない。)で表される繰り返し単位と、を含む共重合体であって、−[CF
2−CF(−O−(CF
2CFXO)
n−(CF
2)
m−SO
3H)]−(当該式中、Xは、CF
3であり、nは0又は1であり、mは0〜12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない。)で表される繰り返し単位を少なくとも1つ含む共重合体であることがより好ましい。PFSA樹脂が上記構造を有する共重合体であり、且つ所定の当量質量EWを有する場合、得られる隔膜は十分な親水性を有し、且つ電解液活物質、例えば5価のバナジウムへの耐性が強くなる傾向にある。
【0037】
さらに、PFSA樹脂の前記−[CF
2−CF(−O−(CF
2CFXO)
n−(CF
2)
m−SO
3H)]−(当該式中、XがCF
3であり、nが0であり、mが1〜6の整数である)で表される繰り返し単位、又は式(4−1)で表される化合物及び式(4−2)で表される化合物からそれぞれ誘導される−[CF
2−CF(−O−(CF
2)
P−CFX(−O−(CF
2)
K−SO
3H))]−及び−[CF
2−CFX(−O−(CF
2)
P−CFX(−(CF
2)
L−O−(CF
2)
m−SO
3H))]−の両方の繰り返し単位を含む場合、当量質量(EW)が低くなり、得られる隔膜の親水性が高くなる傾向にある。
【0038】
本実施形態における式(1)で表されるパーフルオロカーボン重合体は、本実施形態の効果がより顕著となる傾向にあるため、下記式(2)で表される構造を有することがより好ましい。
−[CF
2CF
2]
a−[CF
2−CF(−O−(CF
2)
m−SO
3H)]
g− (2)
式(2)中、a及びgは、0≦a<1、及び0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、mは、1〜6の整数である。
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体は、式(1)又は式(2)で表される構造を有するものであれば、特に限定されず、他の構造を含むものであってもよい。
【0039】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体は、溶解性又は膨潤性を制御する観点から、イオン交換基で直接的に又は間接的に分子間を部分架橋反応させたものであってもよい。部分架橋を行うことにより、例えば、パーフルオロカーボン重合体の当量質量EWが500g/eq程度であっても、パーフルオロカーボン重合体の水溶解性を低下(耐水性が向上)させることができる。
また、パーフルオロカーボン重合体が低いメルトフロー値を有する場合(高い分子量を有する場合)にも、前記部分架橋により、分子間の絡みを増加し、溶解性や過剰膨潤性を低下できる。
前記部分架橋反応としては、例えば、イオン交換基と他分子の官能基又は主鎖との反応、又はイオン交換基同士の反応、耐酸化性の低分子化合物、オリゴマー又は高分子物質等を介しての架橋反応(共有結合)等が挙げられ、場合により、塩(−SO
3H基とのイオン結合を含む)形成物質との反応であってもよい。耐酸化性の低分子化合物、オリゴマー又は高分子物質としては、例えば、多価アルコール類、有機ジアミン類が挙げられる。
【0040】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体の分子量は、特に限定されないが、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されるメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以上20g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0041】
(当量質量EW)
陽イオン交換樹脂は、活物質イオンの透過を抑制し電力効率を向上する観点から、プロトン伝導性を向上し、抵抗を低減させる観点から、好ましくは、450g/eq以上2000g/eq以下のイオン交換基の当量質量EWを有する。
本実施形態で用いる陽イオン交換樹脂の当量質量EWは、活物質イオンの透過を抑制し電力効率を向上する観点から、より好ましくは500g/eq以上であり、さらに好ましくは600g/eq以上であり、よりさらに好ましくは700g/eq以上である。本実施形態で用いる陽イオン交換樹脂の当量質量EWは、プロトン伝導性を向上し、抵抗を低減させる観点から、より好ましくは1700g/eq以下であり、さらに好ましくは1500g/eq以下であり、よりさらに好ましくは1200g/eq以下である。
上記陽イオン交換樹脂の当量質量EWは、好ましくは450g/eq以上2000g/eq以下であり、より好ましくは500g/eq以上1700g/eq以下であり、さらに好ましくは600g/eq以上1500g/eq以下であり、よりさらに好ましくは700g/eq以上1200g/eq以下である。
なお、当量質量EWは、イオン交換基1当量あたりの陽イオン交換樹脂の乾燥質量(g)を意味する。
陽イオン交換樹脂の当量質量EWは、パーフルオロカーボン重合体を塩置換し、その溶液をアルカリ溶液で逆滴定することにより測定することができる。
当量質量EWは、陽イオン交換樹脂の原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
【0042】
第1のイオン交換樹脂層の、下記2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、100%以上であることが好ましい。
<2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率>
前記第1のイオン交換樹脂層と同組成を有し、且つ、含水率1%以下の試験用膜を調製し、前記試験用膜を2M硫酸水溶液に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用膜の面上のX方向及び前記X方向に直交するY方向の寸法変化率を下記式にて算出する。
寸法変化率(%)={(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)}×100
【0043】
第1のイオン交換樹脂層の、下記蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率が、100%以上であり、Z方向の寸法変化率が115%未満であることが好ましい。
<蒸留水浸漬による寸法変化率>
前記第1のイオン交換樹脂層と同組成を有し、且つ、含水率1%以下の試験用膜を調製し、前記試験用膜を蒸留水に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向、前記X方向に直交するY方向、並びに、X方向及びY方向に直交するZ方向の寸法変化率を算出する。
寸法変化率(%)={(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)}×100
【0044】
(陽イオン交換樹脂の製造方法)
本実施形態における陽イオン交換樹脂は、特に限定されないが、例えば、イオン交換基を有する陽イオン交換樹脂の前駆体(以下、「樹脂前駆体」ともいう。)を製造した後、それを加水分解処理することにより得ることができる。
PFSA樹脂の場合、例えば、下記式(6)又は式(7)で表されるフッ化ビニルエーテル化合物と、下記式(8)で表されるフッ化オレフィンモノマーとの共重合体からなるPFSA樹脂前駆体を加水分解することにより得られる。
【0045】
CF
2=CF−O−(CF
2CFXO)
n−A (6)
(式(6)中、Xは、F又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、nは、0〜5の整数であり、Aは(CF
2)
m−Wであり、ここで、mは、0〜6の整数であり、nとmは同時に0にならず、Wは加水分解により−SO
3H基に転換し得る官能基である。)
【0046】
CF
2=CF−O−(CF
2)
P−CFX(−O−(CF
2)
K−W)又はCF
2=CF−O−(CF
2)
P−CFX(−(CF
2)
L−O−(CF
2)
m−W) (7)
(式(7)中、Xは、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、Pは、0〜12の整数であり、Kは、1〜5の整数であり、Lは、1〜5の整数であり、ここで、L、K及びmは同時に0とならず、mは0〜6の整数であり、Wは加水分解により−SO
3H基に転換し得る官能基である。)
【0047】
CF
2=CFZ (8)
(式(8)中、Zは、H、Cl、F、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、又は環構成原子として酸素を含んでいてもよい環状パーフルオロアルキル基である。)
式(6)及び式(7)中のWとしては、特に限定されないが、例えば、−SO
2F基、−SO
2Cl基、−SO
2Br基が挙げられる。また、上記式(6)及び式(7)において、Xは、CF
3であり、Wは、−SO
2F基であり、上記式(8)において、Zは、Fであることが好ましい。中でも、n=0、m=1〜6の整数であり、XがCF
3であり、Wが、−SO
2F基、Zが、Fであることが、高い親水性及び高い樹脂濃度の溶液が得られる傾向にあるため、より好ましい。
【0048】
本実施形態における樹脂前駆体は、公知の手段により合成することができる。例えば、過酸化物等のラジカル発生剤等の存在下、加水分解等によりイオン交換基(式(1)におけるX
4)に転換し得る基(イオン交換基前駆体基)を有するフッ化ビニル化合物とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう)等のフッ化オレフィンを重合することにより製造できる。前記重合方法は、特に限定されないが、例えば、前記フッ化ビニル化合物等とフッ化オレフィンのガスを含フッ素炭化水素等の重合溶剤に充填溶解して反応させることにより重合する方法(溶液重合)、含フッ素炭化水素等の溶媒を使用せずフッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として重合する方法(塊状重合)、界面活性剤の水溶液を媒体として、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填して反応させることにより重合する方法(乳化重合)、界面活性剤及びアルコール等の助乳化剤の水溶液に、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填、乳化して反応させることにより重合する方法(エマルジョン重合)、及び懸濁安定剤の水溶液にフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填懸濁して反応させることにより重合する方法(懸濁重合)等を用いることができる。
【0049】
本実施形態における樹脂前駆体は、上述したいずれの重合方法で調製されたものでも使用することができる。また、TFEガスの供給量等の重合条件を調整することにより得られる、ブロック状やテーパー状の重合体を樹脂前駆体としてもよい。
【0050】
樹脂前駆体は、重合反応中に樹脂分子構造中に生成した不純末端や、構造上酸化されやすい部分(CO基、H結合部分等)を、公知の方法によりフッ素ガス下で処理し、該部分をフッ化したものでもよい。
樹脂前駆体は、イオン交換基前駆体基(例えば、−SO
2F基)の一部が、部分的(分子間を含む)にイミド化(アルキルイミド化等)されていてよい。
【0051】
樹脂前駆体の分子量は、特に限定されないが、該前駆体を、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されたメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以上20g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0052】
樹脂前駆体の形状は、特に限定されないが、後述の加水分解処理及び酸処理における処理速度を速める観点から、例えば、0.5cm
3以下のペレット状であるか、分散液状、粉末粒子状であることが好ましい。中でも、重合後の粉末状体のものを用いることがより好ましい。コストの観点からは、押し出し成型した膜状の樹脂前駆体を用いてもよい。
【0053】
樹脂前駆体から本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂前駆体を、押出機を用いてノズル又はダイ等で押し出し成型した後、加水分解処理を行うか、重合した時の産出物のまま、即ち分散液状、又は沈殿、ろ過させた粉末状の物とした後、加水分解処理を行う方法がある。
【0054】
具体的には、上記のようにして得られ、必要に応じて成型された樹脂前駆体は、引き続き塩基性反応液体中に浸漬し、加水分解処理に供することができる。加水分解処理に使用する塩基性反応液としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、モノメチルアミン及びモノエチルアミン等のアミン化合物の水溶液、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液が好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を用いる場合、その含有量は特に限定されないが、反応液全体に対して10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記反応液は、さらにメチルアルコール、エチルアルコール、アセトン及びジメチルスルホキシド(DMSO)等の膨潤性有機化合物を含有することがより好ましい。膨潤性の有機化合物の含有量は、反応液全体に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0055】
樹脂前駆体は、塩基性反応液体中で加水分解処理された後、温水等で十分に水洗し、その後、酸処理が行なわれる。酸処理に使用する酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸類が挙げられる。これらの酸と水との混合物が好ましい。また、上記酸類は単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、加水分解処理で用いた塩基性反応液は、カチオン交換樹脂で処理すること等により、酸処理の前に予め除去してもよい。
【0056】
酸処理によって樹脂前駆体のイオン交換基前駆体基がプロトン化されてイオン交換基が生成する。例えば、前記式(6)を用いて製造される樹脂前駆体の場合、式(6)のWは酸処理によってプロトン化され、−SO
3H基となる。加水分解及び酸処理することによって得られたパーフルオロカーボン重合体は、プロトン性有機溶媒、水、又は両者の混合溶媒に分散又は溶解することが可能となり、懸濁液又は溶液とすることができる。
【0057】
パーフルオロカーボン重合体は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他、ラジカル分解性の遷移金属(Ce化合物、Mn化合物等)を、これらとの部分塩(全イオン交換基当量の0.01〜5当量%程度)の形で、あるいは、単独で又は後述する塩基性重合体と併用する形で、含有してもよい。
【0058】
本実施形態の隔膜は、電気抵抗及び機械的強度をより良好なものとする観点から、イオン交換基を有し、且つ、単量体の構造が異なる、2種類以上のパーフルオロカーボン重合体の混合物を含むことが好ましい。
2種類以上のパーフルオロカーボン重合体を混合させることで、お互いの機能を融合させた優れた特性を示すことが可能となる。
また、機械的強度をより良好なものとする観点から、2種類以上のパーフルオロカーボン重合体を混合させる際、より高い当量質量EWを有する重合体の比率を50質量%より大きくすることが好ましく、55質量%より大きくすることがより好ましく、60質量%より大きくすることがさらに好ましい。高い当量質量EWを有する重合体は、結晶性が高くなる傾向にあるため、上記比率とする場合、より高い機械的強度が発現される傾向にある。
【0059】
(パーフルオロカーボン重合体の原料膜の製造方法)
本実施形態の隔膜の製造に用いられる原料膜は、公知の方法で、前駆体樹脂又はパーフルオロカーボン重合体をフィルム状に加工することで得られる。例えば、前述のパーフルオロカーボン重合体の前駆体を、溶融混練後、押し出し機を用いてフィルムを形成した後、加水分解しイオン交換基を形成する方法を用いることができる。また、一度パーフルオロカーボン重合体を溶媒に分散させた後、基材上にキャスト製膜することでフィルムを形成してもよい。
【0060】
陽イオン交換樹脂の含有量は、第1のイオン交換樹脂層中、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。陽イオン交換樹脂の含有量は、第1のイオン交換樹脂層中、例えば、100質量%以下である。
【0061】
第1のイオン交換樹脂層の厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは8μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。第1のイオン交換樹脂層の厚さが5μm以上であることで、高いプロトン伝導性を保持でき、高い電力効率を発現することができる。加えて、電極の突き刺さりによる短絡を防ぐことができる。当該厚さは、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。第1のイオン交換樹脂層の厚さが50μm以下であることで、隔膜をより薄く構成することができるため、装置の大きさを小さくすることができる。上記第1のイオン交換樹脂層の厚さは、好ましくは5μm以上50μm以下であり、より好ましくは8μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上20μm以下である。
【0062】
<アニオン交換性樹脂層>
本実施形態の隔膜は、アニオン交換性化合物を含むアニオン交換性樹脂層を有する。アニオン交換性樹脂層を有することで、初期の電力効率を向上させることができる等、電池としての性能を向上させることができる。ここで言うアニオン交換性化合物とは、1〜3級アミノ基や4級アンモニウム基等の塩基性官能基を分子構造中に有し、少なくともpH=1の酸性条件下で正に帯電する化合物である。
アニオン交換性樹脂層を有することで、隔膜内で電解質イオンに対する静電反発力を付与し、電荷密度の高い金属イオンを隔膜外に排除しつつ、電荷密度の低いプロトンを選択的に膜内透過させることができ、電力効率を向上させることができる。
【0063】
アニオン交換性化合物は、高い電力効率を維持させる観点から、三級アミノ基又は四級アンモニウム基を有することが好ましい。
【0064】
アニオン交換性化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルピリジン重合体又はその塩、ビニルピリジン/ジビニルベンゼン共重合体又はその塩、ビニルピリジン/スチレン共重合体又はその塩、ポリエチレンイミン又はその塩、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド重合体、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド/ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド/スチレン共重合体、ポリベンゾイミダゾール又はその塩、ベンゾイミダゾール構造を有する重合体又はその塩、ポリピロール又はその塩等のアニオン交換性重合体、テトラブチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、ブチルピリジニウム、ドデシルピリジニウム、セチルピリジニウム、トリメチルアミン又はその塩、トリエチルアミン又はその塩、トリプロピルアミン又はその塩、トリオクチルアミン又はその塩、トリエタノールアミン又はその塩、N,N,N',N'−テトラメチルブタンジアミン又はその塩が挙げられる。なお、アニオン交換性重合体は、ピロール等のモノマーを第1のイオン交換樹脂層に塗布し、熱処理等により重合させたものであってもよい。なお、アニオン交換性化合物としては、アニオン交換性重合体が好ましく、スルホン酸基、カルボン酸基等の陽イオン交換基を有さないものが好ましい。
【0065】
アニオン交換性重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、さらに好ましくは30,000以上である。アニオン交換性重合体の重量平均分子量は、好ましくは300,000以下であり、より好ましくは200,000以下であり、さらに好ましくは100,000以下である。上記アニオン交換性重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上300,000以下であり、より好ましくは20,000以上200,000以下であり、さらに好ましくは30,000以上100,000以下である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した値である。
【0066】
(アニオン交換性樹脂層の形成方法)
アニオン交換性樹脂層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、アニオン交換性化合物、若しくはアニオン性重合体を形成するモノマーが溶解又は溶融した液体を第1のイオン交換樹脂層に塗工する方法、又は、アニオン交換性化合物を含むアニオン交換性樹脂膜を、第1のイオン交換樹脂層に熱圧着する方法等があげられる。
【0067】
アニオン交換性化合物の含有量は、アニオン交換性樹脂層中、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。アニオン交換性化合物の含有量は、アニオン交換性樹脂層中、例えば、100質量%以下である。
【0068】
アニオン交換性樹脂層の厚さは、0.02μm以上であり、好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上である。アニオン交換性樹脂層の厚さが0.02μm以上であることで、活物質(例えばバナジウムイオン)の透過を抑制することができ、初期における電力効率を向上させることができ、その結果、電力効率が向上する。アニオン交換性樹脂層の厚さが0.05μm以上であることで、長期稼働における電力効率をより向上させることができる。アニオン交換性樹脂層の厚さは、3.0μm以下であり、好ましくは2.5μm以下であり、より好ましくは2.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以下である。アニオン交換性樹脂層の厚さが3.0μm以下であることで、高い電力効率が得られる。また、アニオン交換性樹脂層の厚さが3.0μm以下であることで、プロトン伝導性を大幅に損なうことなく、長期稼働において高い電力効率を維持することができる。アニオン交換性樹脂層の厚さが2.5μm以下であることで、プロトン伝導性を損なうことなく活物質(例えばバナジウムイオン)の透過を抑制できる。また、アニオン交換性樹脂層の厚さが0.02μm以上3.0μm以下であることにより、膜のカールを抑制できる傾向にある。上記アニオン交換性樹脂層の厚さは、0.02μm以上3.0μm以下であり、好ましくは0.05μm以上2.5μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上2.0μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm以下である。
【0069】
<第2のイオン交換樹脂層>
第2のイオン交換樹脂層としては、特に限定されないが、陽イオン交換樹脂が挙げられる。
第2のイオン交換樹脂層に含まれる陽イオン交換樹脂の種類及びその含有量は、第1のイオン交換樹脂層における例示及びその好適な態様と同様である。また、第2のイオン交換樹脂層の厚さは、第1のイオン交換樹脂層における好適範囲と同様である。
【0070】
本実施形態の隔膜の厚さは、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。隔膜の厚さが10μm以上であることで、電解質による隔膜の腐食を抑制することができ、長期稼働における電力効率をより向上させることができる。加えて、電極の突き刺さりによる短絡を防ぐことができる。隔膜の厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは60μm以下であり、さらに好ましくは40μm以下である。隔膜の厚さが100μm以下であることで、隔膜をより薄く構成することができるため、装置の大きさを小さくすることができる。上記隔膜の厚さは、好ましくは10μm以上100μm以下であり、より好ましくは15μm以上60μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上40μm以下である。
【0071】
本実施形態の隔膜は、第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層とをこの順で備え、この順となるように各層を積層することにより製造することができる。本実施形態の一つは、第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層とをこの順で備えるレドックスフロー電池用隔膜の製造方法であり、当該製造方法は、第1のイオン交換樹脂層の上にアニオン交換性樹脂層を形成し、第1のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体を得る工程、前記構成体のアニオン交換性樹脂層の上に第2のイオン交換樹脂層を形成する工程を含む。
【0072】
本実施形態の隔膜は、上記のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体2つを重ね合わせることによって製造することもできる。したがって、本実施形態の一つは、第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層とをこの順で備えるレドックスフロー電池用隔膜の製造方法であり、当該製造方法は、第1のイオン交換樹脂層の上にアニオン交換性樹脂層を形成し、第1のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体を得る工程、第2のイオン交換樹脂層の上にアニオン交換性樹脂層を形成し、第2のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体を得る工程、前記第1のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体と、前記第2のイオン交換樹脂層/アニオン交換性樹脂層の構成体とを、それぞれのアニオン交換性樹脂層の面同士で貼り合わせ熱プレスにより接着する工程を含む。
【0073】
本実施形態の隔膜は、レドックスフロー電池に用いられる。
特に、本実施形態の隔膜は、乾燥した隔膜をセルに組み込む使用法で優れた電池性能を示す。
【0074】
[レドックスフロー電池]
図1は、本実施形態のレドックスフロー電池用隔膜を用いたレドックスフロー電池の概要図の一例を示す。本実施形態のレドックスフロー電池10は、炭素電極からなる正極1を含む正極セル室2と、炭素電極からなる負極3を含む負極セル室4と、前記正極セル室2と、前記負極セル室4とを隔離分離させる、隔膜としての隔膜5と、を含む電解槽6を有する。前記正極セル室2は、活物質を含む正極電解液を含む。前記負極セル室4は、活物質を含む負極電解液を含む。活物質を含む正極電解液及び負極電解液は、例えば、正極電解液タンク7及び負極電解液タンク8によって貯蔵され、ポンプ等によって各セル室に供給される。また、レドックスフロー電池によって生じた電流は、交直変換装置9を介して、直流から交流に変換されてもよい。本実施形態のレドックスフロー電池は、レドックスフロー二次電池であることが好ましい。
【0075】
本実施形態のレドックスフロー電池用隔膜を用いたレドックスフロー電池は、液透過性で多孔質の集電体電極(負極用、正極用)を隔膜の両側にそれぞれ配置し、押圧でそれらを挟み、隔膜で仕切られた一方を正極セル室、他方を負極セル室とし、スペーサーで両セル室の厚みを確保した構造を有する。
バナジウム系レドックスフロー二次電池の場合、正極セル室には、バナジウム4価(V
4+)及び同5価(V
5+)を含む硫酸電解液からなる正極電解液を、負極セル室には、バナジウム3価(V
3+)及び同2価(V
2+)を含む負極電解液を流通させることにより、電池の充電及び放電が行われる。このとき、充電時には、正極セル室においては、バナジウムイオンが電子を放出するためV
4+がV
5+に酸化され、負極セル室では外路を通じて戻って来た電子によりV
3+がV
2+に還元される。この酸化還元反応では、正極セル室ではプロトン(H
+)が過剰になり、一方負極セル室では、プロトン(H
+)が不足する。隔膜は正極セル室の過剰なプロトンを選択的に負極室に移動させ電気的中性が保たれる。放電時には、この逆の反応が進む。この時の電力効率(%)は、放電電力量を充電電力量で除した比率(%)で表され、両電力量は、電池セルの内部抵抗と隔膜のイオン選択性及びその他電流損失に依存する。内部抵抗の減少は電圧効率を向上させ、イオン選択性の向上及びその他電流損失の低減は、電力効率を向上させるので、レドックスフロー電池においては、重要な指標となる。
【0076】
<炭素電極>
レドックスフロー電池に用いられる炭素電極は、特に限定されないが、電解液を通過させるため、連続空隙を有することが好ましく、連続空隙を有する多孔質体であることがより好ましい。連続空隙を有する炭素電極としては、特に限定されないが、例えば、炭素フェルト、炭素ペーパー、炭素フォームが挙げられる。これらの中でも、柔軟性が高く、表面積が大きく抵抗を低減させることが出来る観点から、炭素フォームがより好ましい。炭素フォームは、炭素部分が三次元的に連続した構造を有することが好ましい。炭素フォームは、線状部と、前記線状部を結合する結合部とを有することが好ましい。この構造を有することで、柔軟性と高表面積の電極とすることができ、レドックスフロー電池の隔膜により薄い膜を使用しても電力効率の低下をさせることなく、良好な電池を得ることができる。
【0077】
炭素フォームは、公知の方法、特に国際公開第2002/062879号に記載の方法で圧縮し、空隙率を調整して用いることもできる。圧縮することで、空隙率を調整し、単位体積あたりの炭素表面積を増大できるため、レドックスフロー電池の抵抗を低減させることが出来る。
【0078】
[レドックスフロー電池用隔膜電極接合体]
本実施形態のレドックスフロー電池用隔膜電極接合体(以下、単に「隔膜電極接合体」ともいう。)は、本実施形態の隔膜と、当該隔膜と接合する炭素電極と、を備える。炭素電極は、当該隔膜の少なくとも片面に形成されていればよいが、両面に形成されていてもよい。当該隔膜電極接合体は、隔膜の片面に炭素電極が形成されている場合、例えば、上述のレドックスフロー電池10における正極1及び隔膜5、又は、負極3及び隔膜5として用いられる。当該隔膜電極接合体は、隔膜の両面に炭素電極が形成されている場合、例えば、上述のレドックスフロー電池10における正極1、隔膜5、及び負極3として用いられる。
【0079】
[レドックスフロー電池用セル]
本実施形態のレドックスフロー電池用セル(以下、単に「セル」ともいう。)は、本実施形態の隔膜電極接合体を備える。本実施形態のセルは、例えば、本実施形態の隔膜電極接合体と、隔膜電極接合体における炭素電極と接触する非含浸性の集電板を備える。集電板としては、レドックスフロー電池に用いられる公知の集電板が使用できる。
【実施例】
【0080】
以下、本実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施形態に用いられる評価方法及び測定方法は以下のとおりである。
【0081】
<膜厚>
(塗工膜及び積層膜)
塗工によって作製したイオン交換樹脂層の膜厚や最終的な隔膜(積層膜)の膜厚は、膜厚計「543−551−1/215−151」(Mitutoyo社製)を用いて評価した。
【0082】
(アニオン交換性樹脂層)
アニオン交換性樹脂層の厚さは、膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって評価した。用いたSEMは「SU8010」(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で、2万倍での観察像において膜厚を評価した。膜の断面出しは、ミクロトーム「EM UC7」(ライカ社製)を用いて行った。
【0083】
<カール評価>
カールの評価は、5cm角に切り出した膜を蒸留水に5分浸漬、取り出した直後の反りの度合いを定規で測定することにより評価した。カールの評価方法の模式図を
図2に示す。反りの度合いとは、膜を平たんな場所に置き、接地面から反った膜の端面までの距離(高さ)のことである(
図2のaの部分)。反りは、膜の4辺のうち最も大きい値で評価を行う。
A:0mm以上5mm未満
B:5mm以上10mm未満
C:10mm以上(丸まってしまったものも含む)
【0084】
<レドックスフロー電池評価>
レドックスフロー電池評価には、バイトンゴム製ガスケット、テフロン(登録商標)製流路枠、黒鉛製セパレータ、ステンレス製エンドプレートから構成されるセルを用いた。隔膜は、実施例、及び比較例で作製した隔膜を、40×150mmに切り出して用いた。ガスケットは電極の圧縮率(圧縮前後の厚さの比)が62%になるように膜厚を調節した。電極は、炭素繊維不織布「AAF304ZF」(製品名、東洋紡株式会社製)を、10×50mmに切り出して使用した。
【0085】
2枚の電極、隔膜、及びセル構成部材を所定の順番に従って組み合わせ、ステンレス製ボルトを用いて締結した。組み立てたセルを、電解液タンクと送液ポンプから構成される電解液循装置に接続した。電解液タンクにバナジウムイオン濃度1.5M、バナジウムイオン価数3.5価、硫酸イオン濃度4.5Mのバナジウム硫酸溶液を30mL加え、流速7.5mL/minにて循環した。充放電試験は充放電電源装置「PFX2011」(製品名、菊水電子工業株式会社製)、コントロールユニット「PFX2121」(製品名、菊水電子工業株式会社製)を用いて、定電流法にて行った。電圧範囲は1.00〜1.55V、電流密度は80mA/cm
2とした。
【0086】
(電力効率)
電力効率は充放電2サイクル、100サイクル時の放電電力量を充電電力量によって除して求めた。評価基準は以下のとおりである。
評価基準
A:電力効率が88%以上
B:電力効率が87%以上88%未満
C:電力効率が87%未満
【0087】
[合成例1:PBI−Oの合成]
グローブボックス内でセパラブルフラスコにポリリン酸(H
3PO
4換算115%、アルドリッチ社製)250gを投入し、密閉してグローブボックスから取り出した。オイルバスで90℃に昇温、100rpmで4時間攪拌後、3,3'−ジアミノベンジジン(アルドリッチ社製)を6.43g投入、内温を120℃に昇温した。その後、4,4'−ジカルボキシエーテル(アルドリッチ社製)7.75gを投入し、内温を200℃に昇温、200℃昇温後から24時間反応を行った。24時間後にポリリン酸(H
3PO
4換算105%,ナカライテスク社製)192g(100mL)を投入し、内温を100℃まで冷却し、茶褐色のポリマー溶液を得た。反応は、アルゴン雰囲気で実施した。
得られたポリマー溶液は、イオン交換水4Lで再沈殿、ろ過を行い、糸状の固体(糸状固体1)を得た。得られた糸状固体1は裁断し、イオン交換水4L中で8時間、メタノール(富士フイルム和光純薬社製)3L中で1時間攪拌洗浄を行った後、ろ過をして100℃で4時間減圧乾燥を実施し、黒色固体を得た(乾燥固体1)。
乾燥固体1をメタンスルホン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)1110g(750mL)中に投入し、100℃で加熱攪拌し溶解させ、イオン交換水7.5Lで再沈殿、ろ過をして、再度糸状固体(糸状固体2)を得た。得られた糸状固体2は、0.1Mのアンモニア水(関東化学工業社製)2L中で8時間,イオン交換水5L中で8時間、N,N―ジメチルアセトアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)4L中で1時間、メタノール4L中で1時間、攪拌洗浄を行った。洗浄後、ろ過、100℃で24時間減圧乾燥を実施、茶褐色の固体(PBI−O)を10.88g得た。
【0088】
[実施例1〜17]
表1に示すアニオン交換性化合物を1質量%になるようにアニオン交換性化合物溶液を作製した。表1に示す、20質量%の陽イオン交換樹脂分散液を、ポリイミド(PI)フィルム上にブレードコーターを用いて、キャスト製膜し、表1に示す温度及び時間で、乾燥及びアニールすることで、表1に示す乾燥後の厚みを有する陽イオン交換樹脂膜(第1のイオン交換樹脂層)を作製した。
【0089】
作製した陽イオン交換樹脂膜を、スプレー塗布装置「PCS2020」(製品名、旭サナック株式会社製)の温度50℃に加温したステージに貼り付け、真空チャック内で、温度50℃の条件下で、アニオン交換性化合物溶液をスプレー噴霧した。その後、表1に示す条件下で乾燥させることでアニオン交換性樹脂層を形成した。
【0090】
形成したアニオン交換性樹脂層の上に、表1に示す形成方法のとおり、以下に示す「プレス」又は「塗工」の条件により、第2のイオン交換樹脂層を形成し、レドックスフロー電池用隔膜を得た。
【0091】
<プレス>
上述の第1のイオン交換樹脂層と同様の条件で、陽イオン交換樹脂膜(第2のイオン交換樹脂層)を作製した。作製した陽イオン交換樹脂膜を上述のアニオン交換性樹脂層に重ねて、表1に示す条件で熱プレスを行った。
【0092】
<塗工>
アニオン交換性樹脂層上に、ブレードコーターを用いて、キャスト製膜し、表1に示す温度及び時間で、乾燥及びアニールすることで、表1に示す乾燥後の厚みを有する陽イオン交換樹脂膜(第2のイオン交換樹脂層)を形製した。
【0093】
[比較例1]
アニオン交換性樹脂層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、レドックスフロー電池用隔膜を得た。
【0094】
[比較例2]
第2のイオン交換樹脂層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、レドックスフロー電池用隔膜を得た。
【0095】
[比較例3]
アニオン交換性樹脂層の厚みを5.0μmになるようにスプレー噴霧の量を調整したこと以外は、実施例2と同様にして、レドックスフロー電池用隔膜を得た。
【0096】
[比較例4及び5]
陽イオン交換樹脂膜(第1及び第2のイオン交換樹脂層)の厚みを調整して第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値を変更したこと以外は、実施例2と同様にして、レドックスフロー電池用隔膜を得た。
【0097】
【表1】
【0098】
表1中、各種略語等の意味は以下のとおりである。
【0099】
C−1:Nafion分散液(EW1100g/mol, 固形分20wt%, アルドリッチ社製)
C−2:Aquivion分散液 D72-25BS(EW720g/mol, 固形分25wt%, アルドリッチ社製)
C−3:Aquivion分散液 D98-25BS(EW980g/mol, 固形分25wt%, アルドリッチ社製)
【0100】
P4VP:ポリビニルピリジン(重量平均分子量Mw:60,000、アルドリッチ社製)
VBTMA/DVB:ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBDMA)/ジビニルベンゼン(DVB)共重合体
PBI:ポリベンゾイミダゾール「MRS0810H」(重量平均分子量Mw:55,000,佐藤ライト工業株式会社製、下記式(A)で示される重合体)
PBI−O:合成例1にて製造した、ポリベンゾイミダゾール(重量平均分子量Mw60,000、下記式(A)で示される重合体)
【0101】
【化1】
【0102】
EtOH:エタノール
DMAc:ジメチルアセトアミド
【0103】
上述の実施例及び比較例により得られた隔膜を用いて、上述の評価を行い、その結果を表2に示した。
【0104】
【表2】
本発明は、カールが抑制され、且つ、高い電力効率を示す、レドックスフロー電池用隔膜、レドックスフロー電池用隔膜電極接合体、レドックスフロー電池用セル、及びレドックスフロー電池を提供することを課題とする。前記課題は、第1のイオン交換樹脂層と、アニオン交換性化合物を含むアニオン交換性樹脂層と、第2のイオン交換樹脂層とをこの順で備える、レドックスフロー電池用隔膜であって、第1のイオン交換樹脂層の厚さを第2のイオン交換樹脂層の厚さで除した値が、0.7以上1.3以下であり、前記アニオン交換性樹脂層の厚さが、0.02μm以上3μm以下である、レドックスフロー電池用隔膜によって解決することができる。