(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
紙基材の上に少なくとも着色層とアンダー層とトップコート層を順次積層し、アンダー層が少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂とシリカ微粒子を含有し、トップコート層が少なくとも熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂と架橋ポリウレタン樹脂ビーズを含有している塗工紙。
トップコート層が熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂を30質量%以上80質量%以下の範囲で含有し、且つ架橋ポリウレタン樹脂ビーズを20質量%以上70質量%以下の範囲で含有している請求項1又は請求項2に記載の塗工紙。
高化式フローテスターによる昇温法で、昇温速度3℃/分、荷重98N、ダイの内孔の直径1mm、ダイの内孔の長さ2mmの条件で測定したアンダー層の熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が150℃以上である請求項1〜5のいずれかにに記載の塗工紙。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塗工紙1は、基本的に
図1に示すように紙基材2の一方の面に少なくとも着色層3とアンダー層4とトップコート層5を順次積層した構造をしている。また
図2に示すように、柄や文字などのデザインをグラビア印刷・スクリーン印刷・オフセット印刷・フレキソ印刷などの各種公知の印刷方法によって着色層3の上に印刷して印刷画像7を設けたり、
図3に示すようにアンダー層4の上に印刷して印刷画像7を設けたり、さらに着色層3とアンダー層4の両方の層の上に印刷を行って印刷画像7を設けても良い。
【0020】
<<本発明の塗工紙の各構成体の詳細について>>
次に本発明の塗工紙の各構成体についての詳細を下記に示す。
【0021】
<紙基材>
本発明の塗工紙に使用される紙基材は特に限定されず、坪量が60g/m
2以上330g/m
2以下の範囲の各種化学パルプや各種機械パルプ等を原料としたサイズ紙やノーサイズ紙やクラフト紙などから適宜選択して紙基材として用いる事が出来る。紙基材の選択は、塗工紙の使用用途における要求品質に応じて適宜選択され、例えば紙基材の厚みが出来るだけ薄く且つ隠蔽性が必要であるパッケージの表装として塗工紙が用いられる場合には紙基材にクラフト紙が用いられたりする事が多く、また別の例としては紙基材自体の強度や耐水性が必要な手帳の表紙として塗工紙が用いられる場合には、厚みのあるサイズ紙を紙基材として使用したり、ノーサイズ紙に各種強度や耐水性等を向上させる為の含浸液を含浸させた物を紙基材として使用したりする事が多い。
【0022】
本発明の塗工紙に使用される紙基材は、前述したように塗工紙の使用用途における要求品質に応じて各種紙基材から適宜選択して使用されるが、その多くは要求品質が多岐に渡る為に、実際には適切な坪量と厚みのノーサイズ紙を選択した上で、最終的な塗工紙の耐折強度や引き裂き強度などの各種強度や、耐水・耐油性や、しなやかさといった要求品質に細かく対応する為に、ノーサイズ紙に含浸させる含浸液の配合を細かく調整する事によって各種要求品質に対応している事が多い。
【0023】
本発明においてノーサイズ紙に使用される含浸液のバインダー成分は特に限定はされないが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、アクリルニトリル系共重合体樹脂、スチレン系共重合体樹脂などの樹脂を単独又は混合した物を要求品質に応じて適宜選択して使用する事が好ましい。本発明で使用する含浸液は紙へ含浸され易いように、エマルジョンや水分散体などの原料を使用した水性塗料を使用する事が好ましい。含浸液には、さらに必要に応じて、架橋剤、可塑剤、無機・有機フィラー、帯電防止剤、保湿剤、界面活性剤、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤などの各種添加剤を必要に応じて適宜添加しても良い。ノーサイズ紙に対する含浸液の含浸加工の方法は特には限定されず各種公知の含浸加工方法によって含浸加工すればよい。また含浸液の含浸量は特に限定はされないが、含浸液の乾燥後の含浸量が含浸塗工前の原紙であるノーサイズ紙の坪量の10%以上30%以下の範囲の質量である事が好ましい。
【0024】
<着色層>
本発明の塗工紙に使用される着色層は、紙基材の上に設けられ、塗工紙のベースとなる色彩を発現させる為の基本的な役割があるだけでなく、塗工紙の耐水性や耐油性を向上させたり、耐折強度や引き裂き強度や引張り強度などを向上させたりする事が可能である。また必要に応じて着色層の上に各種印刷方法によって印刷画像を設けるために、着色層の原料配合を調整したり表面処理を施したりして印刷適性を向上させる事も可能である。
【0025】
着色層の主原料は特に限定はされないが、デンプンやカゼインなどの天然原料や(メタ)アクリル酸エステル系共重合体樹脂やスチレン系共重合体樹脂やポリエステル系樹脂やポリウレタン系樹脂やニトロセルロース系樹脂などの合成樹脂原料を単独又は混合したものからなるバインダー成分と、酸化チタン等の白色顔料や各種色顔料等からなる着色顔料とから少なくとも構成される。さらに必要に応じて、着色顔料の分散性や発色を向上させたりする為の界面活性剤を添加したり、着色層の塗膜の強度や耐油性・耐水性をさらに向上させるために架橋剤や触媒を添加したり、着色層表面の印刷適性を向上するためにタルク・クレー・カオリン・炭酸カルシウム・硫酸バリウム・水酸化アルミニウム・シリカなどの体質顔料を添加したりしても良いが、これらに限定されない。
【0026】
着色層の形成方法は特に限定はされず、例えばビーズミル等の各種公知の分散機でバインダー成分に着色顔料を分散及び発色させて作成した油性又は水性の着色層用塗料を例えばバーコート法等の各種公知の塗工方法によって紙基材の上に塗工した後にドライヤーで乾燥する事によって着色層の塗膜が形成される。着色層の塗布量は特に限定されないが、乾燥後の着色層の塗布量が2.0g/m
2以上40.0g/m
2以下の範囲であることが好ましく、5.0g/m
2以上20.0g/m
2以下の範囲である事がより好ましい。また適宜必要に応じて、着色層に対して例えばカレンダーロールなどの熱ロールプレス加工等によって着色層の表面を平滑化するなどの表面処理を行って、着色層の各種印刷適性を向上させても構わない。
【0027】
<アンダー層>
本発明の塗工紙に使用されるアンダー層は、紙基材の上に設けられた着色層の上に設けられ、トップコート層の塗膜の剥離やトップコート層に添加されている架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落を防止する事によって塗工紙表面の耐久性を向上させたり、塗工紙にエンボス加工を施した際に塗工紙表面に発生する艶ムラの発生を防止したりするという基本的な役割があるだけでなく、着色層を保護する事によって塗工紙の耐水性や耐油性をさらに向上させたり、耐折強度や引き裂き強度や引張り強度などをさらに向上させたりする事が可能である。本発明のアンダー層は着色層の色彩を損なわない為に、アンダー層の塗膜は非着色で透明又は半透明である事が好ましく、さらにアンダー層の上には各種印刷方法によって印刷画像を設ける事が可能であり、着色層の色彩と印刷画像を重ねる事によって非常に優れたデザイン性を塗工紙に付与する事も可能である。
【0028】
本発明のアンダー層は少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂とシリカ微粒子を含有している事が必要である。アンダー層に熱可塑性ポリウレタン樹脂を添加する事によって、着色層とトップコート層の密着性が格段に向上するだけでなくアンダー層の塗膜の柔軟性や弾力性も向上する事によって、塗工紙を折り曲げたり成形加工したりした時や塗工紙表面を擦った時などに、トップコート層の塗膜の剥離やトップコート層に添加されている架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落の発生を格段に抑制する事が可能となる。またアンダー層に弾力性と柔軟性のある熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用する事によって、トップコート層のスエード調の触感をさらに向上させる相乗効果もある。またアンダー層にシリカ微粒子を添加する事によって、塗工紙にエンボス加工を行った際や、アンダー層の上に印刷画像を設けた際などに発生する塗工紙表面の艶ムラの発生を防止すると同時に、アンダー層自体の印刷適性を向上させることも可能となる。
【0029】
アンダー層には熱可塑性のポリウレタン樹脂を使用する事が必要である。アンダー層に架橋されたポリウレタン樹脂を使用せずに、熱可塑性のポリウレタン樹脂を使用することによって、アンダー層の塗膜の適度な柔軟性や弾力性が失われないだけでなく、エンボス加工などの熱成形加工を行った際に型が入り易く、さらにはアンダー層表面の印刷適性も比較的良好である。
【0030】
アンダー層に使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂の種類は特に限定はされないが、アンダー層には着色層の色彩を損なわないように非着色で透明もしくは半透明の樹脂を使用する事が好ましく、さらに紫外線などによる黄変の影響などを抑制する為に熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料の一つであるイソシアネートにヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)やジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)などの脂肪族、脂環族イソシアネートを使用した無黄変型ポリウレタン樹脂を使用する事がより好ましい。
【0031】
アンダー層に使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は特に限定はされないが、−30℃以上60℃以下の範囲である事が好ましく、−20℃以上40℃以下の範囲である事がより好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂のTgが前記範囲であれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂が適切な耐熱性と強度と伸びを有する傾向があり、その結果として、トップコート層の耐久性が向上し、塗工紙の表面のスエード調の触感が向上し、エンボス加工などの熱プレス加工を適切に行う事が可能となる。熱可塑性ポリウレタン樹脂のTgが前記範囲の下限を下回ると熱可塑性ポリウレタン樹脂の耐熱性や強度が乏しくなる傾向があり、前記範囲の上限を上回ると熱可塑性ポリウレタン樹脂の伸びが乏しくなる傾向がある。
【0032】
アンダー層に使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂のその他の熱特性としては、高化式フローテスター(島津製作所製CFD−500D)による昇温法で、昇温速度3℃/分、荷重98N、ダイの内孔の直径1mm、ダイの内孔の長さ2mmの条件で測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が少なくとも150℃以上である事が好ましく、さらには180℃以上である事がより好ましい。なお熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度の上限は特に限定されないが樹脂成分の熱分解の影響などを考慮して250℃以下である事が好ましい。塗工紙にエンボス加工を行う際にはトップコート層側に熱せられたエンボスロールが押し当てられ塗工紙に100〜140℃の範囲の熱が加えられる為、この時にアンダー層に使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が150℃以上であれば、エンボス加工時に熱可塑性ポリウレタン樹脂が激しく変形することなく適切なエンボス加工が行われるが、逆にアンダー層に使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が150℃未満になると、エンボス加工を行った際に過熱された熱可塑性ポリウレタン樹脂の粘度が急激に低下することによって、アンダー層の塗膜が大きく変形したりアンダー層とトップコート層の塗膜が溶融混合したりすることなどによって、アンダー層やトップコート層の本来の機能が損なわれたり、塗工紙表面のスエード調の外観や触感の発現が損なわれたりする可能性がある。
【0033】
また折り曲げ加工・エンボス加工・成形加工といった塗工紙に対する後加工の際の塗工紙の変形や、塗工紙の製造過程における塗工紙の収縮や膨張による変形などによって、アンダー層の塗膜に亀裂が生じたり、アンダー層と他の層との間で層間剥離が発生したりしないようにする為に、アンダー層に添加する熱可塑性ポリウレタン樹脂にはある程度の伸縮性がある事が好ましく、特に限定はされないがアンダー層に添加する熱可塑性ポリウレタン樹脂の伸び(JIS K7311)が少なくとも100%以上である事が好ましく、さらには200%以上である事がより好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂の伸びの上限に関しては特に限定されないが、1500%以下である事が好ましい。
【0034】
アンダー層に添加する熱可塑性ポリウレタン樹脂の量は特に限定はされないが、少なくともアンダー層全体の20質量%以上添加する事が好ましく、さらに40質量%以上添加する事がより好ましく、その上限は特に限定されないが最大で100質量%添加しても良い。アンダー層に添加する熱可塑性樹脂の量が前記範囲であれば、着色層とトップコート層との密着性が充分に向上し且つアンダー層自体の柔軟性や弾力性が増す為に、トップコート層の塗膜剥離や架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落を大幅に抑制する事が可能となる。
【0035】
アンダー層には、熱可塑性ポリウレタン樹脂以外にバインダー成分として必要に応じて他の機能性を有した熱可塑性の合成樹脂をさらに添加しても良く、特に限定はされないが例えば(メタ)アクリル酸エステル系共重合体樹脂やスチレン系共重合体樹脂やポリエステル系樹脂などの合成樹脂を添加する事が好ましく、スチレンアクリル共重合体樹脂を添加する事が特に好ましい。スチレンアクリル共重合体樹脂は、塗膜の透明性が高く、耐擦過性、耐水性、耐油性に優れており、特に耐擦過性と耐水性を向上させることに優れているが、単体使用では塗膜の柔軟性や伸縮性や本発明のトップコート層との密着性に乏しい為に、要求品質に応じて熱可塑性ポリウレタン樹脂との混合比を調整して添加するなどして使用すればよい。
【0036】
本発明のアンダー層に使用するシリカ微粒子は、一般的にシリカゲルと呼ばれる非結晶性の合成二酸化ケイ素を微粉末状に加工した非結晶性シリカの微粒子や、非結晶性シリカの表面を有機ケイ素化合物等によって処理して疎水性を付与した疎水性シリカの微粒子を使用する事が好ましい。
【0037】
アンダー層に添加するシリカ微粒子の粒子径は特に限定されないが、共にレーザー回折散乱法によって測定した体積平均径(MV)で1.0μm以上15.0μm以下の範囲であることが好ましく、さらには1.0μm以上8.0μm以下の範囲であることがより好ましい。シリカ微粒子の体積平均径(MV)が前記範囲内であれば、塗工紙表面における艶ムラ発生を抑制すると同時に印刷適性を良好に維持する事が可能となる。なおシリカ微粒子の体積平均径(MV)が大きければ大きいほど艶ムラの抑制効果は大きくなる傾向があるが、反対に印刷画像の鮮明性が損なわれる傾向がある。
【0038】
アンダー層に添加するシリカ微粒子の添加量は特に限定はされないが、1.0質量%以上20.0質量%以下の範囲であれば好ましく、さらに5.0質量%以上15.0質量%以下の範囲である事が好ましい。アンダー層へのシリカ微粒子の添加量が前記範囲であれば、印刷適性と艶ムラ防止適性の双方が良好となる。
【0039】
アンダー層にはその他に塗膜の透明性を失わない程度の量の各種体質顔料や各種有機・無機フィラーや界面活性剤や帯電防止剤などの各種添加剤を添加しても良いがこれらに限定されない。
【0040】
アンダー層の形成方法は特に限定されないが、容器に各原料を計量後に投入して攪拌混合したり、必要に応じてビーズミルなどで塗料を均一分散したりするなどして作成した油性又は水性のアンダー層用塗料をバーコート法やグラビアコート法などの各種公知の塗工方法によって着色層の上に塗工した後にドライヤーによって乾燥することによってアンダー層の塗膜が形成される。
【0041】
アンダー層の塗布量は特に限定されないが、乾燥後のアンダー層の塗布量が1.0g/m
2以上15.0g/m
2以下の範囲であることが好ましく、2.0g/m
2以上10.0g/m
2以下の範囲である事がより好ましい。また適宜必要に応じて、アンダー層に対して例えばカレンダーロールなどの熱ロールプレス加工等によってアンダー層の表面を平滑化するなどの表面処理を行って、アンダー層の各種印刷適性を向上させても構わない。
【0042】
<トップコート層>
本発明の塗工紙に使用されるトップコート層は、アンダー層の上に設けられ、塗工紙にスエード調の外観や触感を発現させるという大きな役割があるだけでなく、その他に着色層や印刷画像等を保護する役割もある。また本発明の塗工紙に使用されるトップコート層は、着色層や印刷画像の色彩等を損なわない為に、トップコート層の塗膜は非着色で透明又は半透明である事が好ましい。
【0043】
本発明の塗工紙に使用されるトップコート層は、スエード調の外観や触感を発現させる為に、少なくとも熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂からなるバインダー成分と架橋ポリウレタン樹脂からなるビーズ成分を含有している事が必要である。
【0044】
本発明の塗工紙において、塗工紙の表面を触った時にスエード調の触感を感じる事は重要な要求品質の一つであるが、発明者が検討した結果、スエード調の触感をさらに細分化した官能値表現として表すと「起毛感」「弾力感」「しっとり感」「なめらかさ」のように分ける事が出来ると考え、これらの官能表現の評価を数値化した官能値が全て一定以上になるようにトップコート層の原料配合を発明者は検討した。
【0045】
本発明者がスエード調の外観や触感を発現させる為に、トップコート層に添加する原料を検討した結果、トップコート層に架橋ポリウレタン樹脂ビーズを添加する事によって塗工紙表面がスエード調の外観をしっかり発現することが分かった。さらに塗工紙表面の触感に関して評価を行うと、「起毛感」という官能値は大きく向上したものの、「弾力感」「しっとり感」「なめらかさ」という官能値に関してはあまり向上しなかった。
【0046】
本発明者らが、さらに塗工紙のスエード調の触感を向上させるためにさらにトップコート層に添加する原料をさらに検討した結果、バインダー成分として熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用する事によって、「弾力感」「しっとり感」という官能値が向上する事が分かったが、さらに検討を加えた結果、シロキサン変性された熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用する事によって、「弾力感」「しっとり感」「なめらかさ」の全ての官能値が大きく向上し、塗工紙表面のスエード調の触感を大きく向上させることが可能である事が分かった。
【0047】
以上のような理由から、本発明の塗工紙のトップコート層に少なくとも熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂と架橋ポリウレタン樹脂ビーズの両方を添加する事によって、塗工紙表面にスエード調の外観とスエード調の非常に優れた触感を付与する事が可能となった。
【0048】
本発明のトップコート層に熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂をバインダー成分として添加すると、前述したように塗工紙の最表層であるトップコート層の塗膜にポリウレタン樹脂特有の柔らかで弾力感があり且つしっとりした触感を付与する事が出来るだけでなく、さらにポリウレタン樹脂がシロキサン変性されているので塗工紙表面を触った際にさらさらと滑りやすくなめらかに感じる為、トップコート層に添加された架橋ポリウレタン樹脂ビーズによって発現された起毛感があるにもかかわらず、それに相反するなめらかな触感をさらに付与する事が可能となり、その結果として本物のスエードの触感に非常に類似した優れたスエード調の触感を塗工紙表面に発現させる事が可能となった。
【0049】
さらに熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂をトップコート層のバインダー成分として添加する事によって、塗工紙表面の耐水性、耐油性、耐擦過性などが向上するだけでなく、シロキサン変性されていることにより塗工紙表面に汚れが付着し難く、されにはエンボス加工などを行った時の版離れに優れているといった優れた性能を付与する事が可能となる。また同じポリウレタン樹脂を使用しているアンダー層や架橋ポリウレタン樹脂ビーズとの密着性が向上し且つトップコート層塗膜の柔軟性や伸びが向上する事などから、トップコート層の塗膜剥離や架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落の発生を大きく抑制する事が可能となった。これは言い換えると架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層への添加量を他のバインダー成分の時に比べて多くする事が可能である事を示している。
【0050】
トップコート層に添加されるシロキサン変性ポリウレタン樹脂は熱可塑性である事が必要であり、熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂を使用することによって、トップコート層の塗膜の適度な伸縮性や柔軟性や弾力性が失われない為にスエード調の触感を損なう事が無いだけでなく、エンボス加工などの熱成形加工を行った際などにエンボス柄などが入り易いという利点がある。
【0051】
トップコート層に使用する熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の種類に関しては特に限定はされないが、アンダー層と同様に着色層や印刷画像などの色彩やデザインを損なわないように非着色で透明もしくは半透明の樹脂を使用する事が好ましく、さらに紫外線などによる黄変の影響などを抑制する為にポリウレタン樹脂の原料の一つであるイソシアネートにヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)やジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)などの脂肪族、脂環族イソシアネートを使用した無黄変型ポリウレタン樹脂をさらにシロキサン変性したものを使用する事がより好ましい。
【0052】
トップコート層に使用される熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は特に限定はされないが、−50℃以上20℃以下の範囲である事が好ましく、さらに−40℃以上10℃以下の範囲である事がより好ましく、−40℃以上5℃以下の範囲である事が最も好ましい。熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が前記範囲であれば、常温で熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂がエラストマーの挙動をする為にトップコート層の塗膜の伸縮性や柔軟性や弾力性が向上する為に、トップコート層の塗膜強度が良好で、塗工紙のスエード調の触感が最も良好になる傾向がある。ガラス転移点が前記範囲の下限を下回ると熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の耐熱性や強度が低下したりする為に、トップコート層塗膜の耐熱性や強度が低下したり、トップコート層塗膜表面にべた付きが発生したりする傾向があり、逆に前記範囲の上限を上回ると熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の伸縮性や柔軟性や弾力性が次第に失われていく傾向があり、結果として塗工紙表面の耐久性が低下したり、スエード調の触感が損なわれていく傾向がある。
【0053】
トップコート層に使用する熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂のその他の熱特性としては、特に限定はされないが高化式フローテスター(島津製作所製CFD−500D)による昇温法で、昇温速度3℃/分、荷重98N、ダイの内孔の直径1mm、ダイの内孔の長さ2mmの条件で測定した熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が少なくとも100℃以上180℃以下の範囲である事が好ましく、さらには110℃以上160℃以下である事がより好ましい。本発明者が検討した結果、トップコート層に使用する熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が前記範囲であれば、エンボス加工した際に、エンボスロールの熱によってトップコート層の塗膜が適度に軟化する事によってエンボス柄が非常に入り易く版離れも良好である事が分かった。
【0054】
また折り曲げ加工・エンボス加工・成形加工といった塗工紙に対する後加工の際の塗工紙の変形や、塗工紙の製造過程における塗工紙の収縮や膨張による変形などによって、トップコート層の塗膜に亀裂が生じたり、トップコート層とアンダー層の間で層間剥離が発生したり、架橋ポリウレタン樹脂ビーズがトップコート層から脱落しないようにする為に、トップコート層に添加する熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂にはある程度の伸縮性があることが好ましく、特に限定はされないがトップコート層に添加する熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の伸び(JIS K7311)が少なくとも200%以上あることが好ましく、さらには300%以上であることが好ましい。熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の伸びの上限に関しては特に限定はされないが、1500%以下である事が好ましい。
【0055】
トップコート層に添加する熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の添加量は特に限定はされないが少なくともトップコート層の30質量%以上である事が好ましく、さらに40質量%以上である事が好ましい。また熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂のトップコートのへの添加量の上限は特に限定はされないが、後述する架橋ポリウレタン樹脂ビーズの添加量とのバランスから80質量%以下である事が好ましい。熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の添加量が前記範囲であればトップコート層の塗膜が適度な強度を有し、且つ塗工紙表面にスエード調の触感を発現するのに好ましく、さらには架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落を充分に防ぐ事が可能となる。熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の添加量が前記下限を下回ると、トップコート層の塗膜強度が低下し、塗工紙表面のスエード調の触感の発現が弱くなり、さらには架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落が増加する傾向がある。
【0056】
本発明の塗工紙のトップコート層には、バインダー成分としての熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂の他に、塗工紙表面にスエード調のマットな外観を与え、さらに熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂との相乗効果で塗工紙表面のスエード調の触感の発現をより優れたものにする為に架橋ポリウレタン樹脂ビーズを添加することが必要である。
【0057】
トップコート層に使用される架橋ポリウレタン樹脂ビーズは、塗工紙表面を触ったときに起毛感を感じさせると同時になめらかさも発現させなければならない為にその形状は球状である事が好ましく、その粒子径は特に限定はされないが、レーザー回折散乱法によって測定した体積平均粒子径(MV)が4.0μm以上16.0μm以下である事が好ましく、さらには6.0μm以上14.0μm以下である事がより好ましい。架橋ポリウレタン樹脂ビーズの体積平均径(MV)が前記範囲内であれば優れたスエード調の触感を発現させる事が可能であるが、前記範囲の下限を下回ると塗工紙表面の起毛感や弾力感を感じ難くなる傾向があり、前記範囲の上限を上回ると塗工紙表面のなめらかさを感じ難くなり、逆にザラツキ感を感じるようになる傾向がある。
【0058】
トップコート層に使用される架橋ポリウレタン樹脂ビーズは、着色層等の色彩を阻害しないように透明又は半透明である事が好ましい。また紫外線などによる黄変の影響などを抑制する為に架橋ポリウレタン樹脂ビーズは、その原料の一つであるイソシアネートにヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)やジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)などの脂肪族、脂環族イソシアネートを使用した無黄変型ポリウレタン樹脂で構成されている事がより好ましい。
【0059】
トップコート層に使用する樹脂ビーズとして、架橋されたポリウレタン樹脂を使用する理由は、トップコート層に熱可塑性のポリウレタン樹脂ビーズ等を使用すると、エンボス加工の際などにエンボスロールの熱などによって樹脂ビーズが変形もしくは溶融してしまって、塗工紙表面のスエード調の外観や触感が損なわれてしまう為であり、本発明のように架橋ポリウレタン樹脂ビーズをトップコート層に使用すればその様な問題が発生しなくなる為である。
【0060】
トップコート層に添加される架橋ポリウレタン樹脂ビーズの量は特に限定はされないが、トップコート層の20質量%以上70質量%以下の範囲で添加する事が好ましく、さらに40質量%以上60質量%以下の範囲で添加する事がより好ましい。架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層への添加量が前記範囲であれば、塗工紙表面にスエード調の優れた外観と触感を発現する事が可能である。架橋ポリウレタン樹脂ビーズの添加量が多くなればなるほどスエード調の触感が向上する傾向があるが、添加量が前記範囲の上限を超えると次第に塗工紙表面にザラツキ感が発現し、架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層の脱落が増えていく傾向がある。
【0061】
前述したように、本発明の塗工紙のトップコート層には、熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂と架橋ポリウレタン樹脂ビーズを添加することが必要であり、それぞれの最も適切な添加量は双方のバランスを取って決定する事が好ましい。前述した各原料のトップコート層への最適な添加量をまとめると、本発明のトップコート層は熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂を30質量%以上80質量%以下の範囲で含有し、且つ架橋ポリウレタン樹脂ビーズを20質量%以上70質量%以下の範囲で含有している事が好ましく、さらに熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂を40質量%以上60質量%以下の範囲で含有し、且つ架橋ポリウレタン樹脂ビーズを40質量%以上60質量%以下の範囲で含有している事が最も好ましい。
【0062】
トップコート層には、その他の副原料として、トップコート層の塗膜の透明性やスエード調の外観や質感を失わない程度の量の各種体質顔料や各種有機・無機フィラーや各種滑剤や界面活性剤や帯電防止剤やなどの各種添加剤を必要に応じて適宜添加しても良いがこれらに限定されない。本発明のトップコート層にはトップコート層自体の艶ムラの防止やブロッキング防止の為に少量のシリカをトップコート層に添加することが好ましい。トップコート層に添加するシリカ微粒子の添加量は特に限定はされないが、トップコート層の0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲である事が好ましい。
【0063】
トップコート層の形成方法は特に限定されないが、容器に各原料を計量後に投入して攪拌混合したり、必要に応じてビーズミルなどで塗料を均一分散したりするなどして作成した油性又は水性のトップコート層用塗料をバーコート法やグラビアコート法などの各種公知の塗工方法によってアンダー層の上に塗工した後にドライヤーによって乾燥することによってトップコート層の塗膜が形成される。
【0064】
トップコート層の塗布量は特に限定されないが、乾燥後のトップコート層の塗布量が1.0g/m
2以上10.0g/m
2以下の範囲であることが好ましく、1.0g/m
2以上5.0g/m
2以下の範囲である事がより好ましい。トップコート層の厚みが厚ければ厚いほど、塗工紙表面の弾力性は強く感じるようになるが、トップコート層に添加した架橋ポリウレタン樹脂ビーズの体積平均径(MV)よりもトップ層の塗膜が厚くなると、架橋ポリウレタン樹脂ビーズによって発現される起毛感などの触感の発現が低下する傾向がある。
【実施例】
【0065】
次に実施例を挙げて本発明について具体的に説明する。
【0066】
<紙基材の作成方法>
坪量100g/m
2のノーサイズ紙に、下記に示す含浸液を乾燥後の含浸液の含浸量が10g/m
2になるように含浸させた後、ドライヤーで乾燥する事によって坪量110g/m
2の紙基材を作成した。本発明の実施例及び比較例の塗工紙には全てこの紙基材を用いた。
(含浸液配合)
原料成分 質量%
・自己架橋型アクリルニトリル系共重合体エマルジョン(固形分40%) 25.0
・水 75.0
上記含浸液は、容器にそれぞれの原料を上記配合に従って計量投入し、ディゾルバー等で攪拌混合する事によって作成される。上述した含浸液の作成方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。
【0067】
<着色層の形成方法>
前述した方法によって作成した紙基材の上に、下記に示す着色層用塗料をバーコート法によって着色層の乾燥後の塗布量が15g/m
2になるように塗工した後、ドライヤーで乾燥する事によって着色層を形成した。本発明の実施例及び比較例の塗工紙には全てこの着色層を用いた。
(着色層用塗料配合)
原料成分 質量%
・顔料(カーボンブラック) 25.0
・自己架橋型スチレンアクリル共重合体エマルジョン(固形分44%) 24.5
・界面活性剤 5.0
・水 45.5
上記着色層用塗料は、容器にそれぞれの原料を上記配合に従って計量投入し、ディゾルバー等で攪拌混合した後にビーズミルを用いて顔料を分散発色させる事によって作成される。上述した着色層用塗料の作成方法や塗工方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。
【0068】
<アンダー層の形成方法>
本発明の実施例・比較例のアンダー層を形成する為のアンダー層用塗料に使用する各種バインダー樹脂エマルジョンの性状の詳細を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
着色層の上に下記に示す実施例1で使用するアンダー層用塗料をバーコート法によって乾燥後のアンダー層の乾燥後の塗布量が5.0g/m
2になるように塗工した後、ドライヤーで乾燥する事によってアンダー層を形成した。
【0071】
(アンダー層用塗料配合(実施例1に使用))
成分 質量%
・熱可塑性ポリウレタン樹脂1エマルジョン 16.8
・スチレンアクリル共重合体樹脂エマルジョン 30.8
・非結晶性シリカ微粒子(体積平均径(MV)1.8μm) 1.6
・水 50.8
上記アンダー層用塗料は、容器にそれぞれの原料を上記配合に従って計量投入し、ディゾルバー等で攪拌混合する事によって作成される。上述したアンダー層用塗料の作成方法や塗工方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。なお実施例1以外の実施例及び比較例のアンダー層の各原料の配合比率に関しては、アンダー層中の各原料の固形分比率を示す形で後述する表3及び表4にその詳細を示す。
【0072】
<トップコート層の形成方法>
本発明の実施例・比較例のトップコート層のバインダー成分として使用する樹脂の性状の詳細を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
アンダー層の上に下記に示す実施例1で使用するトップコート層用塗料をグラビアコート法によって乾燥後のトップコート層の乾燥後の塗布量が2.0g/m
2になるように塗工した後、ドライヤーで乾燥する事によってトップコート層を形成した。
【0075】
(トップコート層用塗料配合(実施例1に使用))
成分 質量%
・熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂 6.2
・架橋ポリウレタン樹脂ビーズ(体積平均径(MV)7.5μm) 6.6
・疎水性シリカ微粒子(体積平均径(MV)2.7μm) 0.1
・DMF 14.3
・MEK 72.8
上記トップコート層用塗料は、最初に容器に溶媒と熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂を計量投入した後に攪拌して熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂溶解液を作成する。次に同じ容器に残りの原料を上記配合に従って計量投入し、ディゾルバー等で攪拌混合した後にホモミキサー等で簡易分散する事によって作成される。上述したトップコート層用塗料の作成方法や塗工方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。なお実施例1以外の実施例及び比較例のトップコート層の各原料の配合比率に関しては、トップコート層中の各原料の固形分比率を示す形で後述する表3及び表4にその詳細を示す。
【0076】
<エンボス加工>
最後に前述したトップコート層まで塗工した各実施例及び比較例の全ての塗工紙に対して、温度130℃、圧力5.88MPaの条件で塗工紙表面にエンボス加工を施した。
【0077】
<スエード調の外観の評価>
実施例及び比較例のエンボス加工前の塗工紙とエンボス加工後の塗工紙に関して、それぞれの塗工紙のスエード調の外観について、塗工紙の外観を目視で確認する事により下記に示す評価基準に従って評価を行った。
(評価基準)
A・・・塗工紙の外観が本物のスエードのような外観を有している。
B・・・塗工紙の外観がスエード調のマットな外観を有している。
C・・・塗工紙の外観に光沢や艶ムラが散見されスエード調の外観に乏しい。
D・・・塗工紙の外観全面に光沢がありスエード調の外観が全く見られない。
【0078】
<スエード調の触感の評価>
実施例及び比較例のエンボス加工前の塗工紙とエンボス加工後の塗工紙に関して、それぞれの塗工紙のスエード調の触感について、塗工紙表面を指で触る事により下記に示す評価基準に従って評価を行った。
(評価基準)
A・・・塗工紙表面が本物のスエードのような触感を有している。
B・・・塗工紙表面がスエード調の触感を有している。
C・・・塗工紙表面がスエード調の触感に乏しい。
D・・・塗工紙表面がスエード調の触感を全く有していない。
【0079】
<耐久性の評価>
実施例及び比較例のエンボス加工後の塗工紙表面の耐久性を評価する為に、下記の試験条件によって試験を行い、その結果について下記の評価基準に従って塗工紙表面の耐久性の評価を行った。
(試験条件)
室温25℃の環境下において、学振型試験機(JIS L0849の摩擦試験機II型)を用いて、塗工紙表面を綿布(金巾3号)によって荷重500gで50往復摩擦試験を行った後の塗工紙表面を実体顕微鏡で観察して下記に示す評価基準によって評価を行った。
(評価基準)
A・・・トップコート層の剥離も無く、ビーズのトップコート層からの脱落も無い。
B・・・トップコート層の剥離とビーズのトップコート層からの脱落が僅かに見られる。
C・・・トップコート層の剥離とビーズのトップコート層からの脱落が明確に見られる。
D・・・トップコート層の剥離とビーズのトップコート層からの脱落がとても酷い。
【0080】
下記の表3及び表4に示す原料配合の固形分比の構成によって各実施例及び比較例のアンダー層とトップコート層を順次前述した実施例1と同じ着色層の上に塗布積層させることによって各実施例及び比較例の塗工紙を作成し、さらにそれらの塗工紙に対して前述した各種評価を行った結果を表3及び表4に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
表3の結果より、実施例1〜実施例9の塗工紙のように、紙基材の上に少なくとも着色層とアンダー層とトップコート層を順次積層し、アンダー層が少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂とシリカ微粒子を含有し、トップコート層が少なくとも熱可塑性シロキサン変性ポリウレタン樹脂と架橋ポリウレタン樹脂ビーズを含有している塗工紙であれば、塗工紙表面がスエード調の外観と触感を有していて、塗工紙表面の耐久性に優れていて、さらにエンボス加工を行っても塗工紙表面のスエード調の外観と触感が失われない。
【0084】
一方で表4の結果より、比較例1のようにアンダー層が熱可塑性ポリウレタン樹脂を全く含まないと、トップコート層とアンダー層の間の密着性が悪くなりトップコート層の塗膜剥離や架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落などの問題が発生するようになった。また比較例2のようにアンダー層にシリカ微粒子を全く添加しないと、エンボス加工を行った後にアンダー層が原因の艶ムラが塗工紙外観に発生してしまうという問題が発生した。また比較例3のようにトップコート層のバインダー成分に熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用すると、シロキサン変性されていない為に塗工紙表面に「なめらかさ」が失われて「ザラツキ感」が強くなる為に塗工紙表面のスエード調の触感が損なわれた。また比較例4のようにトップコート層のバインダー成分に熱可塑性ポリエステル樹脂を使用すると、比較例3のように「なめらかさ」が失われるだけでなく、さらにポリウレタン樹脂の有している触感である「弾力感」「しっとり感」も乏しくなる為に塗工紙表面のスエード調の触感が大きく損なわれた。また比較例5のようにトップコート層のビーズ成分を透明な架橋アクリル樹脂からなるビーズにすると、架橋ポリウレタン樹脂ビーズの有している「起毛感」や「弾力感」などが乏しくなり、塗工紙表面のスエード調の触感が損なわれる傾向があった。また比較例6のようにトップコート層のビーズ成分として熱可塑性ポリウレタン樹脂ビーズを添加したところ、エンボス加工前においては塗工紙表面のスエード調の外観と触感はある程度発現しているが、塗工紙にエンボス加工を行うとエンボス加工時の熱によって熱可塑性ポリウレタンビーズが溶融してしまい、塗工紙表面のスエード調の外観と触感の両方の評価が悪くなってしまった。また比較例7のようにトップコート層に全くビーズ成分を添加しないとスエード調の外観と触感の両方を損なう傾向があった。また比較例8のように着色層の上にアンダー層を設けずに直接トップコート層を設けると、塗工紙表面の外観に艶ムラが発生しやすく塗工紙表面のスエード調の外観が損なわれる傾向があった。さらに着色層とトップコート層の密着性が乏しい為にトップコート層の剥離や架橋ポリウレタン樹脂ビーズのトップコート層からの脱落が頻繁に見られた。