特許第6971447号(P6971447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6971447
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】指標算出システム及び指標算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/14 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   G01N33/14
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2021-103096(P2021-103096)
(22)【出願日】2021年6月22日
【審査請求日】2021年6月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596082677
【氏名又は名称】秋田酒類製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(74)【代理人】
【識別番号】100155882
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154678
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 博子
(72)【発明者】
【氏名】倍賞 弘平
(72)【発明者】
【氏名】古木 吉孝
(72)【発明者】
【氏名】丹 健二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】大竹 匡
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−274004(JP,A)
【文献】 特開昭60−149374(JP,A)
【文献】 特開昭60−236064(JP,A)
【文献】 杉本 芳範ほか,パイロットスケールにおける清酒醪の計算機制御,日本醸造協会雑誌,1987年,82(3),205-210
【文献】 鹿又 親ほか,比重及屈折率に依る清酒中の酒精及エキス分定量法に就て(その一),日本醸造協会雑誌,1935年,30(1),28-35
【文献】 柴田 正人ほか,ガスメーターを利用したアルコール発酵管理,発酵工学,1979年,57(6),445-452
【文献】 国税庁,国税庁所定分析法,国税庁訓令第1号,2007年,1-15
【文献】 永谷 正治ほか,酵素剤による蒸米の糖化溶解機構,発酵工学雑誌,1973年,51(1),35-40
【文献】 杉本 芳範ほか,清酒醪のプロセス制御,発酵工学,1987年,65(3),199-215
【文献】 増田 達也ほか,醸造におけるポータブル旋光計の活用について,日本醸造協会誌,2016年,111(11),701-711
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/46
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、
前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、
前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、
前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出する演算装置と、
を備え
前記演算装置は、予め正常値の範囲を決めておき、正常値の範囲内のデータに統計処理を加えた値を前記第2測定値として取得する
ことを特徴とする指標算出システム。
【請求項2】
清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、
前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、
前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、
前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出する演算装置と、
を備え
前記第2測定装置の測定部は、前記醪に浸された状態で、所定の測定間隔ごとに前記第2測定値を測定する
ことを特徴とする指標算出システム。
【請求項3】
清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、
前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、
前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、
前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分及び日本酒度を算出する演算装置と、
を備え
前記演算装置は、前記炭酸ガスの生成量と等量のエタノールが生成するものとして前記第1測定値から前記エタノールの体積を算出し、前記エタノールの体積及び前記醪に含まれる水分の体積を、所定のエタノール及び水分の体積比とアルコール分との関係式に代入することによって、前記醪のアルコール分を算出し、前記醪のアルコール分及び前記第2測定値を、所定の第2測定値とアルコール分とエキス分との関係式に代入することによって、前記醪のエキス分を算出し、前記醪のアルコール分及び前記醪のエキス分を、所定の日本酒度とアルコール分とエキス分との関係式に代入することによって、前記醪の日本酒度を算出し、
前記第1測定装置は、所定の第1測定間隔ごとに前記第1測定値を測定し、前記演算装置に前記第1測定値を送信し、
前記第2測定装置は、所定の第2測定間隔ごとに前記第2測定値を測定し、前記演算装置に前記第2測定値を送信し、
前記演算装置は、所定の算出間隔ごとに前記醪のエキス分及び日本酒度の算出を繰り返すものであり、前回算出された前記醪のエキス分を用いて、前記醪に含まれる水分の体積を補正する
ことを特徴とする指標算出システム。
【請求項4】
清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、
前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、
前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、
前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出する演算装置と、
を備え
前記第1測定装置は、前記醪の重量減少量を測定し、
前記演算装置は、前記醪の重量減少量に統計処理を加えた値を前記第1測定値として取得し、前記醪の重量減少量が閾値以上のデータについては、前記統計処理の対象から除外する
ことを特徴とする指標算出システム。
【請求項5】
清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出方法であって、
前記清酒の醸造タンクに設置される第1測定装置が、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定するステップと、
前記醸造タンクに設置される第2測定装置が、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定するステップと、
演算装置が、前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出するステップと、
を実行し、
前記演算装置は、予め正常値の範囲を決めておき、正常値の範囲内のデータに統計処理を加えた値を前記第2測定値として取得する
ことを特徴とする指標算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システム等に関し、特に、醸造タンク内の醪の日本酒度又はエキス分を算出する指標算出システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、清酒の醸造工程における品質管理は、杜氏の勘や経験によるところが大きく、技術の伝承に課題があった。また、醪の発酵中は、休日や深夜早朝を問わず、醪の状態を把握し、管理しなければならず、労働環境の改善が求められていた。そこで、発明者らは、IoT(Internet of Things)技術を活用し、醪の発酵温度を遠隔でリアルタイムに監視可能なシステムを構築した(非特許文献1参照)。このシステムによって、技術の伝承に必要な情報を可視化できるとともに、休日や深夜早朝の出勤を極力減らし、労働環境を改善できる。
【0003】
現在は、更に、このシステムを利用して清酒の醸造工程における品質管理の指標を計測し、品質管理の精度を向上させることが望まれている。清酒の醸造工程における品質管理の指標としては、非特許文献2に計測方法が定められている日本酒度又はエキス分が挙げられる。これらの数値を醪の発酵中に経時的に知ることができれば、品質管理の精度を向上できる。
【0004】
特許文献1には、果実を原料としてアルコール発酵過程を経て製造されたアルコール飲料の糖分濃度を測定する糖分濃度測定装置が開示されている。特許文献1によれば、所定の製造方法によって製造されたアルコール飲料について、そのアルコール、総酸、及び糖分以外の成分に由来するブリックス値を一旦算出しておき、その後、同様の製造方法によって製造されたアルコール飲料については、そのアルコール度数、総酸濃度、及びブリックス値を測定することによって、糖分濃度を導き出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5921389号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】秋田県産業技術センター 電子光応用開発部 丹 健二、佐々木 信也、伊藤 亮、大竹 匡、“IoT技術の開発と活用について”、[online],2020年10月1日,秋田県産業技術センター,[2021年5月27日検索],インターネット <URL:https://www.aitc.pref.akita.jp/2019_annual_report/2019_ar13/>
【非特許文献2】国税庁長官 福田 進、“国税庁所定分析法 昭和36年1月11日 国税庁訓令第1号 改正平19国税庁訓令第6号”、[online],2007年(平成19年)6月22日,国税庁,[2021年5月27日検索],インターネット <URL:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/kaisei070622/01.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2によれば、国税庁所定分析法の計測方法によって発酵中の醪の日本酒度又はエキス分の数値を得るためには、試料の採取が必須となり、その採取量は1回当たり約600mlとされている。そうすると、手間がかかる上に、最終的に製品化される清酒の量が減少することになり、頻繁に日本酒度又はエキス分の数値を得ることができない。また、特許文献1に記載の技術を含む他の従来技術においても、発酵中の醪から試料を採取することなく、日本酒度又はエキス分を経時的に計測することはできていない。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能な指標算出システム等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出する演算装置と、を備え、前記演算装置は、予め正常値の範囲を決めておき、正常値の範囲内のデータに統計処理を加えた値を前記第2測定値として取得することを特徴とする指標算出システムである。第1の発明によって、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能となる。
【0010】
第2の発明は、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出する演算装置と、を備え、前記第2測定装置の測定部は、前記醪に浸された状態で、所定の測定間隔ごとに前記第2測定値を測定することを特徴とする指標算出システムである。第2の発明によって、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能となる。
【0011】
第3の発明は、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分及び日本酒度を算出する演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記炭酸ガスの生成量と等量のエタノールが生成するものとして前記第1測定値から前記エタノールの体積を算出し、前記エタノールの体積及び前記醪に含まれる水分の体積を、所定のエタノール及び水分の体積比とアルコール分との関係式に代入することによって、前記醪のアルコール分を算出し、前記醪のアルコール分及び前記第2測定値を、所定の第2測定値とアルコール分とエキス分との関係式に代入することによって、前記醪のエキス分を算出し、前記醪のアルコール分及び前記醪のエキス分を、所定の日本酒度とアルコール分とエキス分との関係式に代入することによって、前記醪の日本酒度を算出し、前記第1測定装置は、所定の第1測定間隔ごとに前記第1測定値を測定し、前記演算装置に前記第1測定値を送信し、前記第2測定装置は、所定の第2測定間隔ごとに前記第2測定値を測定し、前記演算装置に前記第2測定値を送信し、前記演算装置は、所定の算出間隔ごとに前記醪のエキス分及び日本酒度の算出を繰り返すものであり、前回算出された前記醪のエキス分を用いて、前記醪に含まれる水分の体積を補正することを特徴とする指標算出システムである。第3の発明によって、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能となる。
【0012】
第4の発明は、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出システムであって、前記清酒の醸造タンクに設置され、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置と、前記醸造タンクに設置され、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定する第2測定装置と、前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出する演算装置と、を備え、前記第1測定装置は、前記醪の重量減少量を測定し、前記演算装置は、前記醪の重量減少量に統計処理を加えた値を前記第1測定値として取得し、前記醪の重量減少量が閾値以上のデータについては、前記統計処理の対象から除外することを特徴とする指標算出システムである。第4の発明によって、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能となる。
【0013】
の発明は、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出する指標算出方法であって、前記清酒の醸造タンクに設置される第1測定装置が、前記醸造タンク内の醪から発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定するステップと、前記醸造タンクに設置される第2測定装置が、前記醪のブリックス値である第2測定値を測定するステップと、演算装置が、前記第1測定値及び前記第2測定値に基づいて、前記醪のエキス分又は日本酒度の少なくとも一つを算出するステップと、を実行し、前記演算装置は、予め正常値の範囲を決めておき、正常値の範囲内のデータに統計処理を加えた値を前記第2測定値として取得することを特徴とする指標算出方法である。第の発明によって、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能な指標算出システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】指標算出システムの概要を示す図
図2】サーバの演算処理の流れを示すフローチャート
図3】エタノール及び水分の体積比とアルコール分との関係を示す図
図4】屈折率とブリックス値との関係を示す図
図5】比重Aと範囲が0〜25%のアルコール分ALとの関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の指標算出システムは、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出するシステムである。特に、発酵中の醪に関する品質管理の指標の算出に好適である。本発明の実施の形態では、品質管理の指標として醪のアルコール分、日本酒度及びエキス分を算出する。
【0017】
「アルコール分」とは、酒税法において、温度十五度の時において原容量百分中に含有するエチルアルコールの容量と定義されている。醸造工程においては、アルコール分が目標の数値になるように発酵温度の調節などを行う必要がある。
【0018】
非特許文献2の国税庁所定分析法には、アルコール分の分析法として、(ア)蒸留−密度(比重)法(具体的には、浮ひょう法や振動式密度計法)、(イ)ガスクロマトグラフ分析法(具体的には、キャピラリーカラムを用いる方法や充てんカラムを用いる方法)、(ウ)酸化法、が記載されており、いずれも試料の採取が必須である。
【0019】
「日本酒度」とは、清酒の比重を換算した値である。日本酒度をN、比重をSとすると、両者の関係は次式で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
比重Sは、S=15℃の検体の密度÷4℃の水の密度、である。15℃で4℃の純粋な水と同じ重さのもの、即ち比重Sが1のものは、日本酒度Nが0となり、それより軽いものはプラスの値、重いものはマイナスの値となる。糖分が多ければ甘く感じ、糖分が少なければ辛く感じるので、甘口のお酒は比重が大きく、日本酒度がマイナスの値に傾き、辛口のお酒は比重が小さく、日本酒度Nがプラスの値に傾く。
【0022】
非特許文献2の国税庁所定分析法によれば、日本酒度の分析法は、(ア)検体をシリンダーにとり、比重(日本酒度)浮ひょう(=日本酒度計)を用いて15℃における示度を読み、検体の比重(日本酒度)とする「浮ひょう法」、(イ)振動式密度計を用いて15℃における検体の密度を測定し、0.99997で除して比重S(15/4℃)とし、式(1)により換算して検体の日本酒度とする「振動式密度計法」の2つの方法があり、いずれも試料の採取が必須である。
【0023】
また、「エキス分」とは、酒税法において、温度十五度の時において原容量百立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数と定義されている。エキス分は、そのほとんどが糖分であり、清酒の甘味を評価できる。
【0024】
非特許文献2の国税庁所定分析法によれば、次式によって検体のエキス分を算出可能である。
【0025】
【数2】
【0026】
但し、Exはエキス分[g/100ml]である。Sは比重(15/4℃)であり、式(1)を変形して得られる、S=1443/(1443+日本酒度N)、によって算出したものである。Aは、アルコール分(度)を国税庁所定分析法の第2表「アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」により比重(15/15℃)に換算したものである。
【0027】
アルコール分、日本酒度及びエキス分は、清酒の品質評価の重要な指標となるため、醪の発酵中に経時的に数値を知ることができれば、品質管理の精度を向上できる。しかしながら、前述の通り、非特許文献2の国税庁所定分析法によれば、発酵中の醪のアルコール分や日本酒度の数値を得るためには、試料の採取が必須となり、その採取量は1回当たり約600mlとされている。そうすると、手間がかかる上に、最終的に製品化される清酒の量が減少することになり、頻繁に日本酒度やアルコール分の数値を知ることができない。エキス分についても、式(2)に従って日本酒度を用いて算出されることから、日本酒度の測定が前提となり、同様である。そこで、本発明の実施の形態では、発酵中の醪から試料を採取しなくても測定可能な測定値に基づいて、醪のアルコール分、日本酒度及びエキス分を経時的に算出する。
【0028】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、指標算出システムの概要を示す図である。図1に示すように、指標算出システム1は、清酒の醸造タンク10に設置され、醸造タンク10内の醪Mから発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置2と、醸造タンク10に設置され、醪Mの屈折率に変換可能な第2測定値を測定する第2測定装置3と、第1測定値及び第2測定値に基づいて、醪Mのアルコール分、日本酒度及びエキス分を算出する演算装置4と、を備える。
【0029】
(醸造タンク10)
本発明の実施の形態では、醸造タンク10は、円筒形であり、底部及び上部が略円形である。底部は、複数の脚部11によって支持される。上部は、蓋をせず、開口した状態であり、取付部12を介して第2測定装置3が取り付けられる。取付部12は、棒状を呈しており、上部の略中心を通るとともにその両端がそれぞれ上部の縁に固定される。
【0030】
(第1測定装置2)
本発明の実施の形態では、第1測定装置2は、醸造タンク10の総重量を測定するロードセル20である。ロードセル20は、脚部11に設置され、醸造タンク10の重量を測定する複数の測定部21と、測定部21によって測定されるデータを結合する結合部22と、結合部22で結合した測定データを表示する表示部23と、表示部23で表示されるデータをネットワーク5を介して演算装置4に送信する送信部24と、を備える。但し、醸造タンク10は、図1に示す例に限定されず、どのような種類のタンクでも良く、例えば、吊り下げ式タンクでも良い。吊り下げ式タンクの場合、ロードセル20の設置場所は、図1に示す例と異なり、天井からタンクを支持する部位に設置される。
【0031】
本発明の実施の形態では、醪Mから発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値は、ロードセル20によって測定される醸造タンク10の総重量減少量、即ち醪Mの重量減少量である。但し、炭酸ガスの生成量は、醪Mの重量減少量から直接的に変換するだけでなく、別途、水の重量変化を計測し、水の重量変化に基づいて補正しても良い。所定の測定間隔は、例えば数秒から数十秒であるが、特に限定されるものではない。
【0032】
後述する演算装置4による演算処理では、醪Mの発酵によるエタノール生成量の数値が必要になる。アルコールの発酵は、次式に示すように、グルコース1分子から、それぞれ2分子の二酸化炭素とエタノールが生成される。
【0033】
【化1】
【0034】
二酸化炭素、すなわち炭酸ガスは大気中に放出されるため、醪Mの重量減少量を醪Mから発生する炭酸ガスの生成量とし、等量のエタノールが生成されるものとする。醪Mの重量減少量をΔW[kg]、エタノール生成量をVEtOH[L]とすると、次式によって変換できる。
【0035】
【数3】
【0036】
EtOHはエタノールの分子量[g/mol]、MCO2は二酸化炭素の分子量[g/mol]、ρEtOHはエタノールの密度[kg/L]である。
【0037】
ロードセル20の測定部21は、所定の時間間隔ごとに醪Mの重量減少量ΔWを測定し、送信部24は、ネットワーク5を介してサーバ41に送信する。サーバ41の制御部は、ロードセル20の送信部24からデータを受信すると、記憶部に記憶する。
【0038】
前述の説明では、第1測定装置2は、ロードセル20としたが、これに限定されない。第1測定装置2は、醪Mから発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な数値を測定できれば良く、例えば、ガス流量計でも良い。ガス流量計を用いる場合、醸造タンク10の上部に蓋をして密閉状態とし、ガス流量計は炭酸ガスを外部に排出する流路に設置される。この場合、第1測定値は、ガス流量計によって測定される炭酸ガスの流量である。
【0039】
(第2測定装置3)
本発明の実施の形態では、第2測定装置3は、醪Mのブリックス値を測定する液浸濃度計30である。液浸濃度計30は、醪Mに浸され、醪Mのブリックス値を測定する測定部31と、測定部31で測定したブリックス値を表示する表示部32と、測定部31及び表示部32を連結する棒状の連結部33と、表示部32で表示されるデータをネットワーク5を介して演算装置4に送信する送信部34と、を備える。液浸濃度計30は、測定部31が醸造タンク10の中央部に位置するように取付部12に固定されることによって、醸造タンク10に設置される。液浸濃度計30は、例えば、株式会社アタゴの液浸濃度計PAN−1シリーズの中で通信機能を有するものを用いることができる。但し、第2測定装置3は、これに限定されものではなく、醪Mの屈折率に変換可能な数値を測定できれば良い。
【0040】
ブリックス値は、濃度計、屈折計、屈折率計、ブリックス計、糖度計等と呼ばれる測定機器において、屈折率を「20℃のショ糖液100g中に含まれるショ糖のグラム数」に換算した目盛りである。本発明の実施の形態では、醪Mの屈折率に変換可能な第2測定値は、液浸濃度計30によって測定される醪Mのブリックス値である。所定の測定間隔は、例えば数秒から数十秒であるが、特に限定されるものではない。
【0041】
(演算装置4)
本発明の実施の形態では、演算装置4は、ネットワーク5を介して第1測定装置2及び第2測定装置3と接続されるサーバ41である。また、演算装置4は、サーバ41と、サーバ41とネットワーク5を介して接続される端末42と、によって構成されても良い。
【0042】
サーバ41及び端末42は、それぞれ、制御部としてのCPU(「Central Processing Unit」の略)、主記憶部としてのメモリ、補助記憶部としてのHDD(「Hard Disk Drive」の略)やフラッシュメモリ、表示部としての液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ、入力部としてのキーボードやマウス、タッチパネルディスプレイ、有線通信部としてのLAN(Local Area Network)ケーブル又は無線通信部としての無線モジュール等を備える。補助記憶部には、OS(「Operating System」の略)、アプリケーションプログラム、処理に必要なデータ等が記憶されている。制御部は、補助記憶部からOSやアプリケーションプログラムを読み出して主記憶部に格納し、主記憶部にアクセスしながら、その他の機器を制御し、後述する処理を実行する。
【0043】
サーバ41の制御部は、第1測定装置2及び第2測定装置3によって測定されるデータや、端末42の入力部を介して入力されるデータを受信し、補助記憶部に記憶する。また、サーバ41の制御部は、適宜のタイミングで補助記憶部に記憶されるデータを主記憶部に読み出し、後述する図2に示す処理によって、醪Mのアルコール分、日本酒度及びエキス分を算出する。または、端末42の制御部が、適宜のタイミングでサーバ41にデータを要求し、醪Mのアルコール分、日本酒度及びエキス分を算出しても良い。以下では、混乱を避けるため、サーバ41が演算処理を実行するものとして説明する。
【0044】
図2は、サーバの演算処理の流れを示すフローチャートである。指標算出システム1の利用者は、図2の演算処理の前処理として、仕込時の醪Mに含まれる酒母のアルコール分や水分の体積を計測する。そして、利用者は、端末42の入力部を介して実測値を入力し、端末42の制御部は、実測値をサーバ41に送信し、サーバ41の制御部は、端末42から送信される実測値を記憶部に記憶する。
【0045】
ここで、仕込時の醪Mに含まれる酒母のアルコール分や水分の体積の計測方法について説明する。醪Mには、酒母、仕込水、蒸米、米麹を仕込む。酒母は、酵母を純粋培養するための醪Mの前工程であり、白米重量で醪Mの約7%を占める。酒母のアルコール分については、例えば、非特許文献2の国税庁所定分析法に記載の測定方法によって測定する。水分の体積については、測定と計算によって計測する。仕込時の醪Mに含まれる水分量をV0H2O[L]とすると、V0H2O[L]は次式によって求まる。
【0046】
【数4】
【0047】
shuboは酒母の仕込量[kg]、Vshubo_water_allは作成した酒母の水分の総量[L]、Wshubo_allは作成した酒母の総重量[kg]、Vmoromi_waterは醪Mの仕込水量[L]、Wkakeは掛米(蒸米)の重量[kg]、mkakeは掛米(蒸米)の水分率[wt%]、ρwaterは水の密度[kg/L]、Wkojiは米麹の重量[kg]、mkojiは米麹の水分率[wt%]を表す。
【0048】
酒母の仕込量Wshubo[kg]、仕込水量Vwater[L]、掛米(蒸米)の重量Wkake[kg]及び米麹の重量Wkoji[kg]については、仕込時に各種の測定機器によって測定する。掛米(蒸米)の水分率mkake[wt%]及び米麹の水分率mkoji[wt%]については、仕込直前に掛米(蒸米)及び米麹の試料を採取し、加熱式水分計によって測定する。
【0049】
一方、作成した酒母の水分の総量Vshubo_water_all[L]及び作成した酒母の総重量Wshubo_all[kg]については、直接測定するのではなく、他の実測値を用いて計算する。作成した酒母の水分の総量Vshubo_water_all[L]については、次式によって計算できる。
【0050】
【数5】
【0051】
shubo_waterは酒母の仕込水量[L]を表す。白米水分率mhaku[wt%]については、前述の掛米(蒸米)の水分率mkake[wt%]及び米麹の水分率mkoji[wt%]と同様、白米の試料を採取し、加熱式水分計によって測定する。
【0052】
「増補改訂 清酒製造技術」(日本醸造協会編集,第2版,2016年7月)によれば、酒粕は密度を1.1[kg/L]として計算されている。そこで、本発明の実施の形態では、簡易的に酒母や醪Mの密度を、例えば1.05[kg/L]とする。また、酒母や醪Mには熟成歩合があり、次式で表される。
【0053】
【数6】
【0054】
酒母の密度を1.05[kg/L]とし、式(7)を変形して利用すると、作成した酒母の総重量Wshubo_all[kg]については、次式によって計算できる。
【0055】
【数7】
【0056】
式(8)における熟成歩合[L/kg]については、仕込時における目標値を代入する。また、白米重量[kg]及び仕込水量Vwater[L]については、それぞれ、仕込時における白米予定量及び仕込水予定量を代入する。
【0057】
図2の説明に戻る。図2の演算処理の前処理及び並行処理として、第1測定装置2は、所定の第1測定間隔ごとに第1測定値を測定し、演算装置4に第1測定値を送信し、第2測定装置3は、所定の第2測定間隔ごとに第2測定値を測定し、演算装置4(=サーバ41)に第2測定値を送信する。そして、演算装置4(=サーバ41)は、第1測定値及び第2測定値を受信し、記憶部に記憶する。更に、演算装置4は、図2に示すフローチャートに従い、所定の算出間隔ごとに醪Mのアルコール分、日本酒度及びエキス分の算出を繰り返す。所定の算出間隔は、例えば1時間であるが、所定の第1測定間隔及び所定の第2測定間隔よりも長ければ、特に限定されるものではない。
【0058】
図2に示すように、サーバ41の制御部は、仕込時の醪Mに含まれる水分に関する実測値を記憶部から取得する(ステップS1)。次に、サーバ41の制御部は、現在の醪Mに含まれる水分の体積VH2O[L]を算出する(ステップS2)。本発明の実施の形態では、サーバ41の制御部は、糖分の溶解による水分量の体積増加の補正を行う。
【0059】
「酵素剤による蒸米の糖化溶解機構」(永谷正治他、醗酵工学雑誌、第51巻第1号、p35−40、1973年)によれば、米の溶解に伴う液量増加率Kは、次式の通り定義される。
【0060】
【数8】
【0061】
そこで、サーバ41の制御部は、現在の醪Mに含まれる水分の体積VH2O[L]を、エキス分Ex[g/100ml]を用いて、次式によって算出する。
【0062】
【数9】
【0063】
サーバ41の制御部は、ステップS2〜ステップS8を繰り返す中で、前回算出された醪Mのエキス分Ex[g/100ml](=後述するステップS6において前回算出された値)を用いて、現在の醪Mに含まれる水分の体積VH2O[L]を補正する。
【0064】
次に、サーバ41の制御部は、第1測定値(=醪Mの重量減少量)及び第2測定値(=醪Mのブリックス値)を取得する(ステップS3)。ここで取得される第1測定値及び第2測定値は、第1測定装置2及び第2測定装置3から送信されるデータに統計処理を加えたものであっても良い。
【0065】
例えば、第1測定値である醪Mの重量減少量は、本発明とは別の目的で行う試料の採取や冷凍機の運転等によってノイズが入るため、サーバ41の制御部は、移動平均等の統計処理を加えた値を取得しても良い。また、単位時間当たりの重量減少量が閾値以上のデータについては、試料の採取等による外乱とみなし、サーバ41の制御部は、統計処理の対象から除外しても良い。第2測定値である醪Mのブリックス値についても、予め正常値の範囲を決めておき、サーバ41の制御部は、正常値の範囲内のデータに統計処理を加えた値を取得しても良い。
【0066】
次に、サーバ41の制御部は、ステップS3において取得される第1測定値に基づいて、醪Mから生成されるエタノールの体積を算出する(ステップS4)。
【0067】
ここで、醪Mから生成されるエタノールの体積の算出方法について説明する。エタノールと水を混合すると、体積が減少するため、アルコール分AL[vol%]の分母にエタノールの体積VEtOHと水分の体積VH2Oとの和をそのまま置くことができない。そこで、エタノール水溶液の密度から、アルコール分に対するエタノールと水分の体積比を求める。
【0068】
図3は、エタノール及び水分の体積比とアルコール分との関係を示す図である。図3に示す2次の回帰式から、アルコール分AL[vol%]は、エタノールの体積VEtOHと水分の体積VH2Oの比を用いて、次式のように表すことができる。
【0069】
【数10】
【0070】
また、図3のx軸とy軸を逆転し、エタノールと水分の体積比に対するアルコール分を求め、回帰式を算出することによって、エタノールの体積VEtOHと水分の体積VH2Oとの比は、アルコール分AL[vol%]を用いて、次式のように表すことができる。
【0071】
【数11】
【0072】
酒母の仕込時のエタノールの体積V0EtOHについては、サーバ41の制御部は、式(12)から得られる次式に、演算処理の前処理として測定される、仕込時の醪Mに含まれる酒母のアルコール分AL0[vol%]を代入することによって算出し、記憶部に記憶しておく。
【0073】
【数12】
【0074】
サーバ41の制御部は、直前に取得された第1測定値(=醪Mの重量減少量)を式(4)に代入し、その算出値に酒母の仕込時のエタノールの体積V0EtOH[L]を加算し、現在の醪Mに含まれるエタノールの体積VEtOH[L]とする。
【0075】
次に、サーバ41の制御部は、ステップS2において算出される水分の体積及びステップS4において算出されるエタノールの体積に基づいて、醪Mのアルコール分を算出する(ステップS5)。
【0076】
サーバ41の制御部は、直前に算出されたエタノールの体積VEtOH[L]及び醪Mに含まれる水分の体積VH2O[L]を式(11)に代入し、醪Mのアルコール分を算出する。すなわち、サーバ41の制御部は、エタノールの体積及び醪Mに含まれる水分の体積を、所定のエタノール及び水分の体積比とアルコール分との関係式(=本発明の実施の形態では式(11))に代入することによって、醪Mのアルコール分を算出する。
【0077】
次に、サーバ41の制御部は、ステップS5において算出される醪Mのアルコール分及びステップS3において取得される第2測定値に基づいて、醪Mのエキス分を算出する(ステップS6)。
【0078】
「比重及屈折率に依る清酒中の酒精及エキス分定量法に就て (その一)」(鹿又親及び杉山晋朔、日本釀造協會雜誌、第30巻第1号、a28−a35、1935年)によれば、15℃の清酒の屈折率とアルコール分ALとエキス分Exとの関係を次式の通り表している。
【0079】
【数13】
【0080】
図4は、屈折率とブリックス値との関係を示す図である。ブリックス値brix=0のときの屈折率は水の屈折率を表すことから、式(14)及び図4から、次式を得る。
【0081】
【数14】
【0082】
更に、範囲が0〜25%のアルコール分ALは、ブリックス値brixに対して1次で近似でき、エキス分Exは、ブリックス値brixに対して2次で近似できるため、式(15)を次式のように表現できる。但し、エキス分Exは、ブリックス値brixに対して1次で近似しても良い。
【0083】
【数15】
【0084】
指標算出システム1の利用者は、予め国税庁所定分析法及び屈折旋光計によってアルコール分AL、エキス分Ex、ブリックス値brixを測定し、式(16)の定数a、b、cを算出し、サーバ41の記憶部に記憶させておく。そして、サーバ41の制御部は、ステップS5において算出される醪Mのアルコール分AL及びステップS3において算出される第2測定値である醪Mのブリックス値brixを式(16)に代入し、醪Mのエキス分Exを算出する。すなわち、サーバ41の制御部は、醪Mのアルコール分及び第2測定値を、所定の第2測定値とアルコール分とエキス分との関係式(=本発明の実施の形態では式(16))に代入することによって、醪Mのエキス分を算出する。
【0085】
次に、サーバ41の制御部は、ステップS5において算出される醪Mのアルコール分及びステップS6において算出される醪Mのエキス分に基づいて、醪Mの日本酒度を算出する(ステップS7)。
【0086】
日本酒度の算出式である式(1)は、式(2)を変形して代入すると、次式の通りになる。
【0087】
【数16】
【0088】
ここで、Aは検体がアルコール分のみの場合の比重を表し、A=15℃の検体のアルコール分のみが含まれる場合の密度/15℃の水の密度である。図5は、比重Aと範囲が0〜25%のアルコール分ALとの関係を示す図である。図5の元データは、国立研究開発法人産業技術総合研究所 軽量総合標準センターの「エタノール水溶液の濃度と密度の対照表(旧表)及び指示値の読み替え表」([online]、[2021年5月27日検索]、インターネット、<URL:https://unit.aist.go.jp/nmij/library/alcohol/alchol120530.pdf>)である。図5に示す3次の回帰式から、検体がアルコール分のみの場合の比重Aは、アルコール分ALを用いて、次式のように表すことができる。
【0089】
【数17】
【0090】
サーバ41の制御部は、ステップS5において算出される醪Mのアルコール分ALを式(18)に代入し、比重Aを算出する。そして、サーバ41の制御部は、算出される比重A及びステップS6において算出される醪Mのエキス分Exを式(17)に代入し、日本酒度Nを算出する。すなわち、サーバ41の制御部は、醪Mのアルコール分及びエキス分を、所定の日本酒度とアルコール分とエキス分との関係式(=本発明の実施の形態では式(17)及び(18))に代入することによって、醪Mの日本酒度を算出する。
【0091】
次に、サーバ41の制御部は、処理を終了するかどうか確認する(ステップS8)。処理を終了しない場合(ステップS8のNo)、サーバ41の制御部は、所定の算出間隔を経過するまで待機し(ステップS9)、ステップS2から処理を繰り返す。処理を終了する場合(ステップS8のYes)、サーバ41の制御部は、演算処理を終了する。
【実施例】
【0092】
表1乃至表3は、本発明の実施の形態における指標算出システムの算出値と、試料の採取を伴う非特許文献2の国税庁所定分析法による測定値を比較したものである。本実施例は、R2BY(醸造年度が令和2年度)の仕込試験を分析した結果である。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
表1乃至表3に示す通り、算出値と測定値との誤差は小さく、本発明の実施の形態における指標算出システムによって、精度良く日本酒度及びエキス分を算出できていることが分かる。本発明の実施の形態によれば、発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度及びエキス分を経時的に算出することが可能である。従って、人的負荷をかけることなく、かつ最終的に製品化される清酒の量を減らすことなく、品質管理の精度を向上できる。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る指標算出システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0098】
1………指標算出システム
2………第1測定装置
3………第2測定装置
4………演算装置
5………ネットワーク
10………醸造タンク
11………脚部
12………取付部
20………ロードセル
21………測定部
22………結合部
23………表示部
24………送信部
30………液浸濃度計
31………測定部
32………表示部
33………連結部
34………送信部
41………サーバ
42………端末
M………醪
【要約】
【課題】発酵中の醪から試料を採取することなく、醪の日本酒度又はエキス分を経時的に算出することが可能な指標算出システム等を提供する。
【解決手段】指標算出システム1は、清酒の醸造タンク10に設置され、醸造タンク10内の醪Mから発生する炭酸ガスの生成量に変換可能な第1測定値を測定する第1測定装置2と、醸造タンク10に設置され、醪Mの屈折率に変換可能な第2測定値を測定する第2測定装置3と、第1測定値及び第2測定値に基づいて、醪Mのエキス分又は日本酒度を算出する演算装置4と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5