【実施例】
【0048】
I.トマト加工品の垂直滑落性
《ケチャップの垂直滑落性》
下記のようにして実施例1及び2、比較例1〜5のフィルムを作製した。その後、下記のようにして作製した各フィルムに対するケチャップの垂直滑落性を評価した。
【0049】
〈実施例1〉
1.基材の作製
15μmの厚さを有するナイロンと、30μmの厚さを有する直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、タマポリUB−1)をドライラミネートにより張り合わせて積層体を作製した。この積層体に、50μmの厚さを有する直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、ユメリット021GT)を押出ラミネートして基材を作製した。作製された基材は、ナイロン層、LLDPE(タマポリU−30)層、及びLLDPE(ユメリット021GT)層を、この順番で有していた。
【0050】
2.共重合体の作製
(1)第1段階
溶媒としての酢酸ブチル10.0g及び第1のモノマーとしてのステアリルアクリレート(STA)10.0gを三口フラスコに入れた。
【0051】
開始剤としてのBlocBuilder(登録商標)MA(ARKEMA社製より入手可能(3,7−ジオキサ−4−アザ−6−フォスファノナノ酸,4,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−エトキシ−2,2−ジメチル−,6−オキシド))を三口フラスコに0.762g入れ、温度を105〜110℃に設定し、6時間重合を行った。
【0052】
(2)第2段階
重合開始から6時間後、酢酸ブチル10.0g及び第2のモノマーとしてのジエチレングリコールエチルエーテルアクリレート(DEEA)10.0gを三口フラスコに添加、投入し、21時間重合した。その後温度を下げ、重合を終了した。
【0053】
上記工程により、重量平均分子量6800g/molのSTAの重合ブロックと、重量平均分子量4700g/molのDEEAの重合ブロックとから成る側鎖結晶性ブロック共重合体(SCCBC)を得ることができた。
【0054】
3.共重合体コーティングの作製
SCCBCを1.0wt%、酢酸エチルに40℃で溶解させることにより、SCCBC酢酸エチル溶液(共重合体コーティング用組成物)を作製した。
【0055】
その後、1.0wt%SCCBC酢酸エチル溶液を、上記1.により得られた基材のLLDPE(ユメリット021GT)層側に1回塗工した。塗工は、バーコーター((株)井元製作所製塗工機7000型)、バーコーターバー(10番手)を用いて行った。その後、基材を80℃のオーブンに30秒入れて乾燥させることにより、表面に共重合体コーティングを有するフィルムを作製した。
【0056】
4.垂直滑落性の評価
0.2mlのケチャップを、水平に保持したフィルムに滴下した。その後、フィルムを垂直、即ち地面に対して90°に立てて、3分間放置した。3分経過後、ケチャップが滴下された点からケチャップが滑落した点までの距離を測定し、1分間にケチャップが滑落した長さを算出した。さらに、ケチャップが滴下された点の3分経過後におけるケチャップの付着の度合いを、目視で観察した。なお、この評価には、市販されている一般的なケチャップを用いた。
【0057】
〈実施例2〉
第1のモノマーをヘキサデシルアクリレート(HDA)に変えたことを除いて、実施例1と同様にして実施例2のフィルムを作製・評価した。なお、共重合体の具体的な製造条件は、下記の表1に記載のとおりである。
【0058】
〈比較例1〉
作製した基材に対して共重合体コーティングを施さなかったことを除いて、実施例1と同様にして比較例1のフィルムを作製・評価した。
【0059】
〈比較例2〉
第2のモノマーをノルマルブチルアクリレート(nBA)に変えたこと、及び共重合体コーティングの作製において0.5wt%SCCBC酢酸エチル溶液を用いたことを除いて、実施例1と同様にして比較例2のフィルムを作製・評価した。なお、共重合体の具体的な製造条件は、下記の表1に記載のとおりである。
【0060】
〈比較例3〉
第2のモノマーをノルマル−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)に変えたこと、及び共重合体コーティングの作製においてバーコーター(7番手)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして比較例3のフィルムを作製・評価した。なお、共重合体の具体的な製造条件は、下記の表1に記載のとおりである。
【0061】
〈比較例4及び5〉
第1のモノマーをベヘニルアクリレート(BHA)に変えたこと、かつ第2のモノマーをそれぞれ2−(エチルアミノ)エチルアクリレート(DEAEA)及びトリメトキシ(7−オクタン−1−イル)シランに変えたこと、並びに共重合体コーティングの作製において0.5wt%SCCBC酢酸エチル溶液を用いたこと、及びバーコーター(10番手)による塗工の代わりにディッピングを2秒行ったことを除いて、実施例1と同様にして比較例4及び5のフィルムを作製・評価した。なお、共重合体の具体的な製造条件は、下記の表1に記載のとおりである。
【0062】
【表1】
【0063】
《結果》
ケチャップの垂直滑落性の評価の結果を、表2に示す。なお、表2において、「良」は、ケチャップが滴下された点において、ケチャップがやや付着する程度であったことを示している。また、表2において、「否」は、ケチャップが滴下された点において、ケチャップがかなり付着していたことを示している。
【0064】
表2において、「STA」はステアリルアクリレートを、「HDA」はヘキサデシルアクリレートを、「BHA」はベヘニルアクリレートを、「DEEA」はジエチレングリコールエチルエーテルアクリレートを、「n−BA」はノルマルブチルアクリレートを、「NIPAM」はノルマル−イソプロピルアクリルアミドを、「DEAEA」は2−(エチルアミノ)エチルアクリレートを、「TOS」はトリメトキシ(7−オクタン−1−イル)シランを、それぞれ表している。
【0065】
「第1のモノマー」及び「第2のモノマー」の「分子量」とは、ブロック共重合体全体の分子量のうち、第1のモノマーの重合ブロック及び第2のモノマーの重合ブロックに相当する値である。また、「全体の分子量」とは、ブロック共重合体の分子量である。
【0066】
第1モノマーの重合ブロックの分子量及び第2モノマーの重合ブロックの分子量は、それぞれ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。重合の第1段階終了後にサンプリングした試料のGPC測定から第1モノマーの重合ブロックの分子量を求め、第2段階終了後の試料のGPC測定からブロック共重合体全体の分子量を求め、両者の差分を第2モノマーの重合ブロックの分子量とした。分子量の測定方法は、以下の実施例等についてもこれと同様に行った。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示されるように、実施例1及び2のフィルム(第2のモノマー部分がオキシエチレン構造を有している共重合体を使用しているフィルム)は、比較例1〜5のフィルム(共重合体コーティングを有さないフィルム)よりも、ケチャップの滑落速度が大きく、かつケチャップの付着量が少なかった。
【0069】
《トマトピューレの垂直滑落性》
〈実施例3及び4、並びに比較例6〉
ケチャップの代わりにトマトピューレを用いたことを除いて、それぞれ実施例1及び2、並びに比較例1と同様にして、実施例3及び4、並びに比較例6のフィルムを作製・評価した。なお、フィルムの評価には、市販されている一般的なトマトピューレを用いた。
【0070】
《結果》
トマトピューレの垂直滑落性の評価の結果を、表3に示す。なお、表3における記載の方法は、表2と同様である。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示されるように、実施例3及び4のフィルム(第2のモノマー部分がオキシエチレン構造を有する共重合体を使用しているフィルム)は、比較例6のフィルム(共重合体コーティングを有さないフィルム)よりも、トマトピューレの滑落速度が大きく、かつトマトピューレの付着量が少なかった。
【0073】
《トマトソースの垂直滑落性》
〈実施例5及び6、並びに比較例7〉
ケチャップの代わりにトマトソースを用いたことを除いて、それぞれ実施例1及び2、並びに比較例1と同様にして、実施例5及び6、並びに比較例7のフィルムを作製・評価した。なお、フィルムの評価には、市販されている一般的なトマトソースを用いた。
【0074】
《結果》
トマトソースの垂直滑落性の評価の結果を、表4に示す。なお、表4における記載の方法は、表2と同様である。
【0075】
表4において、実施例5及び6、並びに比較例7の「滑落速度」は、「測定不能」と記載されている。これは、フィルムを垂直に立て始めると同時にトマトソースがフィルムから流れ始めたため、滑落速度を測定していないことを示している。
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示されるように、実施例5及び6のフィルム(第2のモノマー部分がオキシエチレン構造を有する共重合体を使用しているフィルム)は、比較例7のフィルム(共重合体コーティングを有さないフィルム)よりもトマトソースの付着量が少なかった。
【0078】
《トマトジュースの垂直滑落性》
〈実施例7及び8、並びに比較例8〉
ケチャップの代わりにトマトジュースを用いたことを除いて、それぞれ実施例1及び2、並びに比較例1と同様にして、実施例7及び8、並びに比較例8のフィルムを作製・評価した。なお、フィルムの評価には、市販されている一般的なトマトジュースを用いた。
【0079】
《結果》
トマトジュースの垂直滑落性の評価の結果を、表5に示す。なお、表5における記載の方法は、表4と同様である。
【0080】
【表5】
【0081】
表5に示されるように、実施例7及び8のフィルム(第2のモノマー部分がオキシエチレン構造を有しない共重合体を使用しているフィルム)は、比較例8のフィルム(共重合体コーティングを有するフィルム)よりもトマトジュースの付着量が少なかった。
【0082】
《マヨネーズの垂直滑落性》
〈参考例及び比較参考例〉
ケチャップの代わりにマヨネーズを用いたことを除いて、それぞれ実施例2及び比較例1と同様にして参考例及び比較参考例のフィルムを作製・評価した。なお、フィルムの評価には、市販されている一般的なマヨネーズを用いた。
【0083】
《結果》
マヨネーズの垂直滑落性の評価の結果を、表6に示す。なお、表5における記載の方法は、表2と同様である。
【0084】
【表6】
【0085】
参考例のフィルム(第2のモノマー部分がオキシエチレン構造を有する共重合体を使用しているフィルム)では、比較参考例のフィルム(共重合体コーティングを有さないフィルム)よりも滴下したマヨネーズの滑落速度が小さかった。また、参考例、比較参考例いずれにおいてもマヨネーズがかなり付着していた。
【0086】
II.トマト加工品のピロー袋耐付着性
下記のようにして実施例9及び10、参考例1、並びに比較例9のフィルムを作製した。その後、下記のようにして作製した各フィルムに対するトマト加工品のピロー袋耐付着性を評価した。
【0087】
〈実施例9〉
1.基材の作製
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、ペトロセン70、東ソー(株)製、MFR:1.0g/10min(JIS K 7210、190℃、2.16kg)、水接触角:90°)を原料樹脂として用い、インフレーション法によって厚さ70μmのポリエチレンフィルム基材「P170」を得た。
【0088】
2.共重合体の作製
共重合体の製造条件を表7に記載のとおりに変えたことを除いて、実施例1と同様にしてブロック共重合体を得た。
【0089】
3.共重合体コーティングの作製
上記で得られたブロック共重合体及び上記で作製した基材を用い、更に塗工条件を表8に記載のとおりに変えたことを除いて、実施例1と同様にして実施例9のフィルムを作製した。
【0090】
4.ピロー袋耐付着性の評価
上記フィルムを用いて幅115mm×長さ170mmのピロー袋を作製し、この中に所定量のトマト加工品を充填し、常温で1日保存した。1日後にピロー袋の袋上部を幅方向にカットして開封した。次いで、開封後のピロー袋を逆さに吊るし、所定時間そのまま静置した後、ピロー袋中に残ったトマト加工品を秤量し、その残存割合を付着残存率として評価した。トマト加工品としては、一般的なトマトケチャップ、トマトソース、及びトマトピューレを使用した。各食品についての充填量は300gとし、開封後の逆さ吊り静置時間は、それぞれ以下のとおりとした。
トマトケチャップ:静置時間1分
トマトソース:静置時間20秒
トマトピューレ:静置時間30秒
【0091】
(参考例1)
共重合体製造時のモノマー及び製造条件をそれぞれ表7に記載のとおりに変えたことを除いて、実施例1と同様にしてブロック共重合体を得た。このブロック共重合体を用い、塗工条件を表8に記載のとおりに変えたことを除いて、実施例9と同様にして参考例1のフィルムを作製し、各トマト加工品のピロー袋耐付着性の評価を行った。
【0092】
(比較例9)
実施例9と同様に作製したポリエチレンフィルム基材を用いてピロー袋を作製し、各トマト加工品のピロー袋耐付着性の評価を行った。比較例9のピロー袋は、重合体コーティングを有さないポリエチレンフィルム基材からなる。
【0093】
《結果》
各トマト加工品のピロー袋耐付着性の評価の結果を、表8に示す。
【0094】
表7〜表8におけるモノマー等の略称は、表1及び表2と同じであり、「Vac」は酢酸ビニルを示す。
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
本発明のポリエチレン積層体のトマト加工品の付着性を上記のように調べたところ、本発明のポリエチレン積層体は、トマトケチャップ、トマトピューレ、トマトソース、及びトマトジュースのすべてのトマト加工品に対して優れた垂直滑落性を示した。特に、トマト加工品がトマトピューレである場合には、垂直滑落性及びピロー袋耐付着性の双方に優れていた。
【0098】
従って、本発明のポリエチレン積層体は、トマト加工品の包装容器の材料として好適であり、トマトピューレの包装容器材料として使用したときに、極めて優れた付着防止性能を示すことができる。