(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の触媒材料を含有する触媒層が多孔体構造または空隙層を含む積層構造を有する複数の触媒ユニットによって構成された触媒層と、前記触媒層に隣接する電解質膜と、を具備する膜電極複合体において、前記触媒ユニットが、前記電解質膜に食い込んでおり、前記触媒層と前記電解質膜との界面は凹凸構造であり、かつ平均食い込み割合が前記触媒層の厚みの10%以上、80%以下である膜電極複合体。
前記所定の触媒材料は、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、PdおよびAuからなる貴金属元素の群から選択される少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の膜電極複合体。
アノードとして動作可能な第1電極と、前記第1電極に隣接して配置された電解質膜と、この電解質膜に隣接して配置されたカソードとして動作可能な第2電極と、を具備する電気化学セルにおいて、前記第1及び第2電極の少なくとも一方は、所定の触媒を含有する触媒層が多孔体構造または空隙層を含む積層構造を有する複数の触媒ユニットによって構成され、前記触媒ユニットが、前記電解質膜に食い込んでおり、前記触媒層と前記電解質膜との界面は凹凸構造であり、かつ平均食い込み割合が前記触媒層の厚みの10%以上、80%以下である電気化学セル。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一部材等には同一の符号を付し、一度説明した部材等については適宜その説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る膜電極複合体(MEA)の断面図である。MEA1は、第1の電極2および第2の電極3と、これらの間に配置された電解質膜4により構成される。第1の電極2は、電解質膜4に接する第1の触媒層5と、この上に積層された第1のガス拡散層6とを含み、第2の電極3は、電解質膜4に接する第2の触媒層7と、この上に積層された第2のガス拡散層8とを含む。
【0011】
MEA1に含まれる触媒層5または触媒層7の少なくとも一方、それと電解質膜4との界面は、以下に詳述する本実施形態の触媒層、触媒層―電解質膜界面を形成する。特に、第1の触媒層5および第2の触媒層7の両方が本実施形態の触媒層、触媒層―電解質膜界面を形成することが好ましい。
【0012】
以下に、本実施形態の触媒層、触媒層と電解質膜との界面を詳細に説明する。
【0013】
本実施形態にかかる触媒層は、担体レスは多孔質触媒層である。電気化学セルに使用される触媒層は高いセル特性を得るため、カーボンなど材料を担体としてその表面に触媒を担持させた、担持触媒によって一般的に構成される。担体材料は主要な電極触媒反応に殆ど寄与しないが、触媒材料の反応面積の向上など触媒材料を制御できるほか、電気化学セルによって空孔構造、電気伝導性、イオン伝導性などを改善できると報告されている。担体レスとは、触媒層を構成する触媒には担体を使用しないことである。この触媒層は多孔体構造、または空隙層を含む積層構造を持つ触媒ユニットから構成することが特徴である。貴金属触媒を使用した場合は少ない使用量においても、電気化学セルの高い特性と高い耐久性を保つことが可能である。
図2(a)と
図2(b)に多孔体構造を持つ触媒ユニットと空隙層を含む積層構造を持つ触媒ユニットをそれぞれ示す。
図2(a)は多孔体構造の触媒ユニットであり、
図2(b)は空隙層を含む積層構造を持つ触媒ユニットをそれぞれ示した。触媒材料が担体に担持された場合は、触媒は一般的にナノサイズの粒子状であるが、多孔体構造を持つ触媒ユニットの場合は触媒自体がスポンジ状である。空隙層を含む積層構造を持つ触媒ユニットの場合は、触媒はナノシート状(ナノシート触媒55)になる。スポンジ状またはナノシート状の触媒を用いることによって電気化学セルの特性を向上させることが可能である。電極触媒反応は触媒の表面において生じるため、触媒の形状は触媒表面の原子配列、電子状態に影響を及ぼす。空隙層を含む積層構造を持つ触媒ユニットの場合は、隣接のナノシート同士は部分的に一体化することが望ましい。メカニズムはまだ完全に解明されていないが、電極反応のためのプロトン伝導または水素原子伝導をよりスムーズに達成できると考えられるためである。また、
図2(c)に示したように積層構造内部のナノシートを多孔質化することによってより高い特性が得られる。ガス拡散と水管理を向上できるためである。積層構造内部のナノシートの間に繊維状カーボンを含む多孔質ナノカーボン層54(
図2(d))またはナノセラミックス材料層を配置した方が、耐久性、ロバスト性をより向上できる。主要な電極反応を寄与する触媒は多孔質ナノカーボン層に含有される繊維状カーボンに殆ど担持されていないため多孔質ナノカーボン層を含む積層構造ユニットは担体レスと考えている。ここで、水分の排出など物質の移動がよりスムーズになるため、触媒層の空孔率は、50〜90Vol.%であることが好ましい。また、触媒層の空孔率がこの範囲内であれば、貴金属の利用効率を低下させることなく、物質を十分に移動させることができる。
【0014】
本実施形態に係る膜電極複合体の特徴は担体レス触媒層と電解質膜との界面である。
図3には、電解質膜4と触媒層5の界面近傍を中心に、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による2000倍の観察像を示す。作製プロセスおよび組成によって触媒層の構造は若干異なるものの、基本的には、
図3に示されるように、触媒層5は、基板50上に形成され、多孔体構造または空隙層を含む積層構造を持つ複数の触媒ユニット51によって構成される。触媒ユニット51が隣接する電解質膜4に食い込み52が形成されており、触媒層5―電解質膜4の界面は凹凸構造になっている。
図4は
図3のさらなる高倍率写真を示す。触媒ユニット51の食い込み52をより明確に観測できる。尚、
図4中では、触媒ユニット51を明確にする為に電解質膜4は取り除いた状態を示している。
【0015】
触媒ユニット51が電解質膜4に食い込み52を形成することで、電解質膜4―触媒層5界面が凹凸形状になり、これは膜電極複合体、電気化学セルの湿度ロバスト性の大幅向上を可能とした。詳細なメカニズムについてまだ十分に解明されていないが、担体レスの多孔質触媒層内部の含水量、及び水の分布状態が触媒ユニット51周辺の電解質膜4によって調整され、触媒層5の水管理能力が改善され、電極反応に不可欠な気体拡散が促進されたためと考えられる。燃料電池カソードの場合は、触媒層5表面の酸素還元反応によって水が生成され、生成水の量が電流密度に比例するため、高電流密度発電の際に水生成量が特に多い。本実施形態に係る食い込み52による凹凸界面によってフラディングのような水詰まり現象が抑制され、反応サイトへの空気供給がスムーズになり、供給空気の湿度が高くても燃料電池特性の低下が少ない。
本発明、以下の項目についてMEAを評価した。
【0016】
<担体レス触媒層の厚み>
「触媒層厚み」の測定方法は次の通りである。
【0017】
まず、MEAから9スポットのサンプルを切り出した。
図8に9スポットの位置が示される。次に9スポットのサンプルの中心からサンプルを切断し、TEM観察用サンプルを作製した。電解質膜と触媒との界面を観察しやすくため、0.1M〜1MのRuイオン溶液などにサンプルを浸漬し、前処理を行った。
【0018】
次いで、各MEAの各9スポットにつき3箇所/スポットTEMにより観察した。2000〜80万倍のTEM像を得て、コントラストから、触媒材料、電解質膜、アイオノマーと細孔とを区別した。
【0019】
最後に、各視野の触媒層厚みを計測した。ここで、「触媒層厚み」とは、上記各サンプルの全視野の計測値の平均値をこのMEAの触媒層厚みと定義した。こうして得た触媒層厚みを元に、触媒層の空孔率を(1−白金量相当厚み/触媒層厚み)として求めた。
【0020】
<触媒層の食い込み割合>
触媒層の平均食い込み割合については、何点か測定して平均を取ることで得られる。本実施形態では、一個触媒ユニットはTEM観察では二つ側面が存在するため、触媒ユニットの食い込み深さは二側面の平均値をとした。
図3にも示されるように、複数の触媒ユニットが連続し(触媒ユニット集団)、TEM観察では集団内部の触媒ユニットの食い込みを特定できない場合が良くある。この場合は集団外側の触媒ユニットの食い込み深さを集団全ユニットの代表値として採用した。
【0021】
まず各視野の各触媒ユニットの食い込み深さを計測し、食い込み割合(=食い込み深さ/触媒層の厚み)を算出した。各視野について、食い込み割合が10〜80%における触媒ユニットの割合を求め、食い込みの分布とした。各スポットの3視野の平均値を算出し、当スポットの触媒層食い込み平均割合、食い込み分布として算出した。各サンプルの全スポットの計測値の平均値をこのMEAの触媒層食い込み平均割合、食い込み分布とし、表1にまとめた。
【0022】
各MEAの9スポットの中の触媒層食い込み平均割合の最高値(HH)と最低値(LL)との比率とは、当MEAにおける「触媒層の食い込みの均等度(=HH/LL)」として算出される値である。この比率が低いほうが電極全体の触媒層食い込みが均一であることを示す指標となり、5倍以内であることが好ましく、更に3倍以内であることがより望ましい。接合プロセスによる界面制御のパラメータとしても使える。
【0023】
触媒層5が前記電解質膜4への食い込み52の平均深さは、触媒層5厚みの10%以上80%以下であることが望ましい。10%以下であれば水管理が不十分で、80%を超えるとガス拡散層から触媒ユニット51への空気拡散が阻止され、電気化学セルのロバスト性が低い。食い込み52の平均深さは、触媒層厚みの20%以上80%以下であることがより望ましい。
【0024】
本発明では、この食い込み52における食い込み深さの定義は、種々の形状の異なる触媒ユニット51に対しては、
図6で説明する様に、SEM写真上触媒ユニット51と電解質膜4との交差点の連線を基準線62とし、触媒ユニット51と電解質膜4との界面の各点から基準線62までの距離の中の最大距離61を食い込み深さと定義する。
【0025】
本発明の触媒ユニット51は、ユニットの外周面に薄いアイオノマー層56を形成することができる。
図5に示されるように、触媒ユニット51の側面に厚みが約10nmのアイオノマー層56が存在することがわかる。これによって電気化学セルのプロトン伝導または水管理を改善し、ロバスト性をより向上させることをできる。
【0026】
触媒層5に数多くの触媒ユニット51が存在するため、電解質膜への食い込み52は触媒層5全体にてできるだけ均一に保つことが好ましい。触媒層5における触媒ユニット全体の50%以上の食い込み52の割合が触媒層5厚みの10〜80%以内であることが望ましい。更に、電極の面積が10cm
2以上と広い場合はMEAの作製プロセスによって電解質膜4への触媒ユニット51の食い込み52が触媒層5内部の場所によって乖離することがあるため、プロセスの管理が重要である。本発明は触媒ユニット51の食い込み52の均等度を定量的に評価するため、上述の「触媒層の食い込み均等度」を用いることができる。また、電極長さ80と電極幅82はLとWをそれぞれとした場合、距離81は W/10 、距離83はL/10とした。なお、燃料電池の場合はセルの回路電位またはリーク電流によって均等度をモニターすることができる。例えば、均等度が良い場合は80℃のセル温度においても0.9V以上の開路電位が観測されることが多い。
【0027】
本実施形態に係る担体レスの触媒層に採用される所定の触媒材料は、例えば、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、PdおよびAuなどの貴金属元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む。このような触媒材料は、触媒活性、導電性および安定性に優れている。前述の金属は、酸化物として用いることもでき、2種以上の金属を含む複合酸化物または混合酸化物であってもよい。
【0028】
最適な貴金属元素は、MEAが使用される反応に応じて適宜選択することができる。例えば、燃料電池のカソードとして酸素還元反応が必要である場合、Pt
uM
1-uで示される組成を有する触媒が望ましい。ここで、uは、0<u≦1であり、元素Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Ta、W、Hf、Si、Mo、Ti、Zr、Nb、V、Cr、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種である。この触媒は、0原子%より多く90原子%以下のPt、および10原子%以上100原子%未満の元素Mを含んでいる。
【0029】
電解質膜は、イオン伝導性が要求されることが多い。プロトン伝導性を有する電解質としては、例えばスルホン酸基を有するフッ素樹脂(例えば、ナフィオン(商標、デュポン社製)、フレミオン(商標、旭化成社製)、およびアシブレック(商標、旭硝子社製)など)や、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物を使用することができる。
【0030】
電解質膜の厚さは、MEAの特性を考慮して適宜決定することができる。強度、耐溶解性およびMEAの出力特性の観点から、電解質膜の厚さは、好ましくは5μm以上300μm以下、より好ましくは5μm以上200μm以下である。
【0031】
MEAが燃料電池に使用される場合、両側の電極は、それぞれアノードおよびカソードである。アノードには水素が供給され、カソードには空気が供給される。
【0032】
ガス拡散層は、多孔質と導電性が一般的に要求される。水詰まり、いわゆるフラッディング現象が起こるのを防ぐため、撥水剤を含むことが多い。撥水剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系高分子材料である。
【0033】
本実施形態にかかる膜電極複合体は、
図7で説明する如く、担体レス多孔質触媒層を持つ前駆体を形成する第1工程70、担体レス触媒層を形成する電極を洗浄処理によって形成する第2工程71、電解質膜を複合させ凹凸界面を有する膜電極複合体を得る第3工程72、を具備する方法によって製造することができる。
【0034】
まず、本実施形態にかかる担体レスの多孔質触媒層の製造方法を簡単に説明する。
【0035】
まず、触媒ユニットも有する触媒層を製造する場合は触媒材料と造孔剤材料を同時にスパッタリングまたは蒸着によって触媒層前駆体を基板上に形成する。次に、造孔剤を除去し、電極を得る。空隙層を含む積層構造を持つユニットを持つ触媒層を製造する場合は触媒材料を含む材料と造孔剤材料を交互にスパッタリングまたは蒸着によって触媒層前駆体を基板上に形成する。次いで、造孔剤を除去し、電極を得る。
【0036】
実施形態に係るMEAは、第1および第2の触媒層5,7の少なくとも一方として前述の触媒層を用いて、電解質膜と結合させることで作製する。本実施形態のMEAの触媒層と電解質膜との間の凹凸界面の形成は触媒層と電解質膜との接合プロセスが重要である。この接合プロセスによって電解質膜への触媒ユニットの食い込み量、触媒層全体各触媒ユニットの食い込み分布、均等度を制御できる。
【0037】
一般的に加熱・加圧して触媒層と電解質膜を接合させる。この場合は触媒層の形成基板がガス拡散層の場合は触媒層5と触媒層7を含む基板で電解質膜4を挟んで
図1に示すように積層し、接合することによりMEA1が得られる。触媒層の形成基板が転写用基板の場合は、まず、転写用基板から触媒層5をガス拡散層6に転写し、触媒層7をガス拡散層8に転写する。2つの触媒層で電解質膜4を挟んで
図1に示すように積層し、加熱・加圧して接合することによりMEA1が得られる。あるいは、触媒層5および7の少なくとも一方を、電解質膜4に転写した後、触媒層の上にガス拡散層を配置してもよい。これらを
図1に示すように積層し、加熱および加圧して接合してMEA1が得られる。
【0038】
上記のような各部材の接合は、一般的には、ホットプレス機を使用して行われる。プレス温度は、電極2、3および電解質膜4において結着剤として使用される高分子電解質のガラス転移温度より高い温度であり、一般的には、100℃以上400℃以下である。プレス圧は、電極2、3の硬さに依存するが、一般的には、5kg/cm
2以上200kg/cm
2以下である。触媒ユニットの食い込み量、分布と均等度を精密に制御するため、ホットプレス機のパラメータ調整が重要である。本発明は最適な食い込み量、分布と均等度を得るため、触媒層付き基板の物性と平たん度に合わせてホットプレス機の加熱温度、圧着方式、圧力または圧着幅を制御している。
【0039】
なお、触媒層と電解質膜との接合は以下のようなプロセスを採用しても良い。触媒層付き基板の上にイオン伝導膜を形成し、その上に対極の触媒層を付ける。基板はガス拡散層であればそのままMEA1として使用できる。基板は転写用基板である場合はガス拡散層を入れ替えてからMEA1として使用する。この場合は触媒ユニットの食い込みはイオン伝導膜形成用の溶媒の濃度、構成と形成温度、時間などによって制御できる。
【0040】
上述したように、一実施形態にかかるMEA1は、最適な触媒層―電解質膜界面が用いられるので、高いロバスト性を有する。
【0041】
本実施形態における電気化学セルは、電解セルまたはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型電気化学セルとすることもできる。例えば電解セルは、第1の電極2としてアノードの代わりに酸素発生触媒電極を含む以外は、上述の燃料電池と同様の構成とすることができる。
【0042】
なお、セルの組立、例えばMEAと垂直方向の締め付け圧力などによって電解質膜への触媒ユニット食い込みを制御することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を説明する。
【0044】
表1には、実施例1〜4、比較例1〜2の触媒層、電極、触媒層―電解質膜界面の観測結果、および電気化学セルの評価結果等をまとめる。なお、触媒層は担体レスのため、触媒の白金ローディング量の相当厚さと触媒層厚さの比から触媒層の空孔率を求めた。
【表1】
【0045】
<担体レス触媒層を有する電極及び膜電極複合体の作製>
(燃料電池標準アノードの電極作製)
基板として、厚みが1μm以上、50μm以下の炭素層を有するカーボンペーパーToray060(東レ社製)を用意した。この基板上に、Pt触媒のローディング密度0.05mg/cm
2になるように、スパッタリング法により多孔体構造を持つユニットから構成する触媒層を形成し、担体レスの多孔質触媒層を有する電極を得た。この電極を7.07cm×7.07cmの正方形にし、実施例1〜4、比較例1〜2の標準アノードとして使用した。
【0046】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
基板として、表面に厚さ1〜50μmの炭素層を有するカーボンペーパーToray060(東レ社製)を用意した。この基板上に、スパッタリング法により多孔体構造または空隙層を含む積層構造を持つユニットから構成する白金触媒層を形成し、担体レスの多孔質触媒層を有する電極を得た(白金ローディング量が0.1mg/cm
2)。スパッタリングにあたっては、触媒層ユニットの形態、触媒層の厚さが上記表1に示す値となるように、プロセスを調整した。これら電極を7.07cm×7.07cmの正方形にし、燃料電池のカソードとして準備した。
【0047】
ナフィオン211(デュポン社製)を電解質膜として用い、上記燃料電池カソードと前記標準アノードと合わせて、熱圧着して接合することにより燃料電池用MEAを得た(電極面積は約50cm
2である)。表1に示される食い込み量を得られるように、熱圧着用ホットプレス機のパラメータを制御した(触媒層の温度幅:125℃〜160℃、圧力10〜50kg/cm
2で、1分〜5分間)。
水電解の場合は水素発生極である水電解用カソードが燃料電池用アノードと逆の電極反応を発生するため上記燃料電池用の標準アノードと同様に作製することができる。一方、酸素発生極である水電解用アノードは電極電位が高く、燃料電池より高い耐久性が求められるため、チタン基板が一般的に用いられている。上記実施例1〜4の基板をチタンメッシュに変更した以外同様な製法で水電解用アノードを作製することができる。尚、白金よりIrを含む酸化物を触媒として用いたほうがより高い活性と耐久性が得られる。
【0048】
<電気化学セルの一例として燃料電池の単セルの作製>
得られた燃料電池用MEAを流路が設けられている二枚のセパレータの間にセッティングし、高分子電解質型燃料電池の単セル(電気化学セル)を作製した。
【0049】
作製した単セルを用いて、以下の項目について各MEAをそれぞれ評価した。
【0050】
(2)セル電流およびロバスト性の評価
得られた単セルに対して、一日コンディショニングを行った。その後、80℃に維持し、アノードに燃料として水素を供給するとともにカソードに空気を供給した。水素の流量は1L/minとし、空気の流量は4L/minとした。水素および空気の相対湿度は、いずれも65%であった。水素および空気の供給とともに、セル電圧を0.6Vに一定にして放電させ、10分後のセル電流(I
C)を測定し、電流密度i
C(i
C=I
C/50cm
2)を求めた。
【0051】
この結果を、セル電流密度として下記表1にまとめる。水素および空気の湿度をいずれも100%に変更する以外は上述と同様な測定を行ない、電流密度i
wを求めた。ロバスト性の指標としてWR(WR=i
w/i
C)を用い、各MEAのWRを計算し、表1にまとめた。
【0052】
上記表1に示されるように、実施例1〜4のMEAは、触媒ユニットの平均食い込み割合が10〜80%である。実施例の各セルは、発電特性が1.5〜1.8A/cm2、活性電流比が0.72〜0.85と、ロバスト性は良好であった。比較例1のMEAは、触媒ユニットの平均食い込み割合が低いために、湿度依存が大きく、ロバスト性が劣っている。比較例2のMEAは、平均食い込み割合が高すぎために、セル電流密度i
Cが低い。また、表1に記入していないが、比較例2のMEAの特性は不安定な場合があった。
【0053】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、担体レス触媒層を有する膜電極複合体の触媒層―電解質膜層の界面制御により、少ない量の貴金属で高いセル電圧、高いロバスト性、耐久性を有する膜電極複合体を提供できる。同時に、この膜電極複合体を採用した電気化学セルは、高いロバスト性を発揮することができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。電気化学セルとして、水素燃料を持つ高分子電解質型燃料電池の単セルを挙げたが、これ以外の電気化学セル、例えばメタノール型燃料電池、高分子電解質型水電解など電解質膜または隔膜を通してイオン移動または水など物質移動がある電気化学セルでも、同様に本発明を適用できる。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。