(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971548
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】乳含有飲食品におけるミルク風味の向上方法及びミルク風味増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20211111BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20211111BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20211111BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20211111BHJP
A23C 9/00 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
A23L27/00 C
A23L33/125
A23L2/00 B
!A23L2/38 P
!A23C9/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-190312(P2016-190312)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2018-38377(P2018-38377A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年9月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】下田 芙雪
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健介
【審査官】
田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−128433(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/198480(WO,A1)
【文献】
特開平07−264978(JP,A)
【文献】
特公昭51−012707(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40
A23L 27/60
A23L 31/00−33/29
A23L 2/00−2/84
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品に、マルチトールを含有させることによる、砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品のミルク風味向上方法であって、マルチトールの含量を砂糖および/または異性化糖100重量部に対して、5〜50重量部とする、ミルク風味向上方法
【請求項2】
砂糖および/または異性化糖100重量部に対して、5〜50重量部のマルチトールを有効成分とする、砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品におけるミルク風味増強剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品のミルク風味の向上、増強に関する。
【背景技術】
【0002】
乳含有飲食品は、乳製品や乳入り飲料など、古くから親しまれているものであるが、乳成分の高騰や低カロリー志向などに伴い、乳成分や砂糖を減量した商品が登場している。乳成分や砂糖を減量した商品では、濃厚感が薄れてしまい、物足りなさを感じることがある。特にミルクの風味は、乳含有飲食品として乳らしさを表現しうる重要な風味であることから、ミルク風味を増強させることに課題があった。
【0003】
乳成分を含む飲食品における、風味増強としては、次のような先行技術があった。
特許文献1では、マルトトリオース高含有の糖組成物を用いた、乳類加工食品の呈味改善に関する開示がある。この技術では、クリーム類においてコクとキレの両特性を持ちあわせるような効果を、プリン類では、ソフトでクリーミーな食感を得られると記載されているが、マルトトリオース高含有の糖組成物は市販されておらず、入手が困難である。
【0004】
また、特許文献2では糖類5%以下の乳入りコーヒー飲料において、乳清ミネラルとアセスルファムカリウムを添加することにより、乳清ミネラルの渋味、収斂味を解消し、乳成分に由来する飲み心地、ボディ感を損なうことなく、乳のコクを維持した飲料を提供できることが開示されている。しかし、乳清ミネラルの渋味、収斂味のみならず、甘味料としてアセスルファムカリウム自体にも異味があり、完全に異味が払しょくされているとは言い切れなかった。
【0005】
さらに、特許文献3は、ゼロカロリーのミルク入り飲料において、糖アルコールを添加することで、フルカロリー飲料と同等の風味、乳感、甘味感のバランスをもった飲料が提供できることが、開示されている。しかしながら、これはゼロカロリーにするために制限された原料を用いた場合の飲料においてのみの効果で、砂糖や異性化糖を用いた、もともとボディ感のある甘味を用いた飲料については記載されていなかった。
【0006】
特許文献4では、キシリトールと還元デキストリンを低カロリーの乳入り飲料に添加することで、ミルク感を向上することができることが開示されている。しかしながら、この文献においては、ミルク感の向上とは、ミルク感の良さが向上することで、ミルク感の強さが向上することではないとされており、「ミルクの良さ」の意味するところは明らかではない。さらに、この文献におけるミルク感はキシリトール以外の糖アルコールでは得られないものであるとされているので、ここでいう「ミルクの良さ」とは低カロリー飲料における特殊なミルク感を示しており、砂糖や異性化糖を用いた場合の飲料での乳らしさとは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−187592号公報
【特許文献2】特開2010−200618号公報
【特許文献3】特開2013−039068号公報
【特許文献4】特開2013−094131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、本発明は、乳含有飲食品において、入手が容易な食品で、簡便にミルク風味を増強させる手段を提供する。詳細には、ミルクの風味を素早く感じることで、ミルクらしさを感じやすくし、さらに後味でもミルクの風味を感じることが出来る方法及び、ミルク風味の増強剤の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、予想外に、砂糖および/または異性化糖を添加した乳含有飲食品に、マルチトールを少量含有させることで、ミルク風味を向上、増強できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の解決手段は下記の通りである。
第一に、砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品に、マルチトールを含有させることによる、砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品のミルク風味向上方法である。
第二に、マルチトールの含有量を、砂糖および/または異性化糖100重量部に対して、1〜90重量部とすることを特徴とする上記第一のミルク風味向上方法である。
第三に、マルチトールを有効成分とする、砂糖および/または異性化糖を使用した乳含有飲食品におけるミルク風味増強剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、砂糖および/または異性化糖を添加した乳含有飲食品のミルク風味を、簡便に向上できる方法、またはミルク風味増強剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の詳細を説明する。
本発明の乳含有飲食品における乳とは、牛の乳由来の、生乳や加工乳、乳製品と呼ばれるクリーム、濃縮乳、粉乳など、乳の成分であればよく、これらのいずれかを含む場合を乳含有飲食品とするものとする。つまり、本発明における乳含有飲食品は、生乳や調整乳、加工乳、クリーム、発酵乳、乳酸菌飲料といった乳および乳製品並びにこれらを主要原料とする食品のみならず、食品表示上は清涼飲料水やコーヒー飲料とあらわされるような、乳等を成分として含む、乳成分含有量としては低濃度の飲料なども含まれるものである。
【0013】
また、本発明におけるミルク風味の増強は、有効成分であるマルチトールの甘味の発現や消失といった味質パターンと密接な関係がある。つまり、乳飲食品の味を構成すると考えられる乳脂肪、乳タンパク、乳糖などの乳の主要成分や、ビタミン、ミネラル、カゼイン化合物、遊離脂肪酸と言った乳の微量成分などが口中で感じられる際、マルチトールが共存することで、その甘味発現、すなわち甘味タチが速いこと、により乳成分も口中で早く感じられるようになり、乳の風味全体を早く認識できたように感じられる。また、マルチトールの甘味消失、すなわち甘味キレの早さにより、乳成分の味や香りが口中で長く続いているように感じられ、乳の風味全体を長く・強く認識でき、乳の後味をより感じやすくなると考えられる。そして、この効果は、ベースとなる甘味、つまり砂糖および/または異性化糖が存在するときに顕著に感じることが出来る。
【0014】
すなわち、本発明におけるミルク風味の増強とは、砂糖および/または異性化糖を用いた乳含有飲食品において、マルチトールの甘味タチによるミルク風味のタチの早さの感じやすさ、およびマルチトールの甘味キレによるミルク風味の後味の感じやすさの両面を指すものである。
【0015】
本発明の効果を表す限り、本願発明の方法のマルチトールおよびマルチトールを有効成分とするミルク風味増強剤は、ソルビトールや還元澱粉糖化物、エリスリトール、キシリトールなどの他の糖アルコールや糖類や高甘味度甘味料を含んでも良いし、また飲食品中で共存する状態で配合されていても良い。その場合マルチトールの含有量は、砂糖および/または異性化糖100重量部に対して、マルチトールが1〜90重量部となればミルク風味向上の観点から好ましい。さらにマルチトールが5〜50重量部となれば、より好ましい。
【0016】
飲食品にマルチトールを含有させる方法としては、飲食品の製造原料の一つとしてマルチトールを使用する方法、飲食品製造後に、マルチトールを添加する方法等があげられる。
【0017】
なお、ここで砂糖、異性化糖および、マルチトールについては、固体状でも液体状・シロップ状でもよいが、液体状・シロップ状の場合は、上記の好ましい範囲は、含まれる固形分について計算される。
【0018】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
[試験1]
市販のストレート紅茶(キリンビバレッジ社製午後の紅茶ストレート)74重量部に、牛乳20重量部、砂糖6重量部を混合して砂糖使用ミルクティを試作した。この砂糖使用ミルクティにマルチトール(三菱商事フードテック社製レシス)または、ソルビトール(三菱商事フードテック社製ソルビット)または還元パラチノース(三井製糖社製パラチニット)を0.3重量部添加するまたは、0.6重量部添加する、もしくは何も添加しない無添加の試験区を用意した。なお、使用したマルチトール、ソルビトール、還元パラチノースはいずれも、純度99%以上であるから、添加量としては、純度100%として計算した。
【0020】
用意した糖アルコール添加または無添加の砂糖使用ミルクティの官能検査を行い、ミルク風味増強の効果について点数付けをした。点数は0点:効果なし、1点:わずかに効果あり、2点:やや効果あり、3点:明らかな効果ありとした。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
[試験2]
試験1同様、市販のストレートの紅茶72.43重量部に、牛乳19.57重量部、異性化糖(日本食品化工社製H‐100)8重量部の異性化糖使用ミルクティを試作した。なお、異性化糖が固形含有75%のシロップ状であったため、添加量は、固形分として試験1の砂糖と同じ6重量部になるよう、設定した。この異性化糖使用ミルクティにマルチトールまたはソルビトールを0.3重量部添加する、または0.6重量部添加する、または0.9重量部添加する、もしくは何も添加しない無添加の試験区を用意した。
用意した糖アルコール添加または無添加の異性化糖使用ミルクティの官能検査を行い、試験1同様、ミルク風味増強の効果について点数付けをした。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
[試験3]
試験1同様、砂糖使用ミルクティを試作し、このミルクティにマルチトールを、含有量が異なるように添加した試験区を用意した。用意したマルチトール添加の砂糖使用ミルクティの官能検査を行い、試験1同様、ミルク風味増強の効果について点数付けをした。添加量及び結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
[試験4]
試験1同様、砂糖使用ミルクティを試作し、このミルクティにマルチトールを含む還元水飴(三菱商事フードテック社製PO−60)を添加した試験区を用意した。用意した糖アルコール添加の砂糖使用ミルクティの官能検査を行い、試験1同様、ミルク風味増強の効果について点数付けをした。なお、添加した還元水飴は、固形分70%のシロップ状、固形分中のマルチトール含量66.8%であり、その他成分として、ソルビトール、マルトトリイトール、還元澱粉糖化物を含む。添加した還元水飴の添加量及び結果を表4に示す。また、還元水飴に含まれるマルチトールの量(計算値)を表4にあわせて示す。
【0027】
【表4】
【0028】
[試験5]
牛乳に水を加え、希釈濃度を変えた牛乳溶液94重量部に、砂糖6重量部の砂糖入り牛乳溶液を試作した。この砂糖入り牛乳溶液にマルチトールを0.6重量部添加した試験区を用意した。用意した糖アルコール添加の砂糖入り牛乳溶液の官能検査を行い、試験1同様、ミルク風味増強の効果について点数付けをした。牛乳の希釈配合及び結果を表5に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
[試験6]
砂糖入りの果汁混合乳含有飲料として、アサイートマトラテ(実施例6−1、実施例6−2)およびメロン風味乳性飲料(実施例7)を、表6および表7の配合で試作した。これらの飲料にマルチトールを添加した試験区を用意し、官能検査によって、試験1同様、ミルク風味増強の効果について点数付けをした。それぞれの結果を表6、表7の点数欄に示す。
【0031】
【表6】
【0032】
【表7】
【0033】
以上のとおり、簡便に入手できる食品であるマルチトールを含有させることにより、砂糖および/または異性化糖を添加した様々な乳含有飲食品のミルク風味を向上、増強させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、砂糖および/または異性化糖を添加した乳含有飲食品のミルク風味を、簡便に向上できる方法、またはミルク風味の増強剤を提供することができる。