(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971571
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】梅酒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
C12G3/06
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-251685(P2016-251685)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-102184(P2018-102184A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(72)【発明者】
【氏名】占 部 恵 理
(72)【発明者】
【氏名】山 崎 哲 弘
【審査官】
澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−115118(JP,A)
【文献】
特開2005−015686(JP,A)
【文献】
特開平10−087604(JP,A)
【文献】
特開2008−094742(JP,A)
【文献】
株式会社篠崎のウェブサイトにおける「リキュール」のページ,「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」、[Online],2016年9月,[令和2年9月17日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20160926110015/http://www.shinozaki-shochu.co.jp/category/LIQUEUR/>
【文献】
ふくはら酒店のウェブサイトにおける「取扱商品 > 梅酒・果実酒」のページ,「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」、[Online],2016年11月,[令和2年9月17日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20161107212311/http://fukuharasaketen.com/0100/0130/>
【文献】
日本食品工業学会誌,1994年,41(2),pp.129-134
【文献】
Food Chemistry,2004年,87(4),pp.627-636
【文献】
Food and Fermentation Industries,2004年,30(6),pp.22-27
【文献】
Brazilian Archives of Biology and Technology,2004年,47(2),pp. 233-245
【文献】
繊細化工,2011年,28(10),pp.997-990
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B1/00−15/00,C11C1/00−5/02,
C12G1/00−3/08,C12H6/00−6/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサン酸ヘキシルを0.4ppb以上1000ppb未満の濃度で含んでなる梅酒であって、梅以外の果実または果汁を含まない、梅酒。
【請求項2】
ヘキサン酸ヘキシルとγ−デカラクトンとの質量比(ヘキサン酸ヘキシル:γ−デカラクトン)が1:0.1〜1:10000である、請求項1に記載の梅酒。
【請求項3】
梅酒を製造する方法であって、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.4ppb以上1000ppb未満に調整することを含み、前記梅酒が梅以外の果実または果汁を含まない、方法。
【請求項4】
梅酒の味の厚みを増強する方法であって、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.4ppb以上1000ppb未満に調整することを含み、前記梅酒が梅以外の果実または果汁を含まない、方法。
【請求項5】
梅酒の苦味を低減する方法であって、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.4ppb以上1000ppb未満に調整することを含み、前記梅酒が梅以外の果実または果汁を含まない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅酒およびその製造方法に関し、さらに詳細には、苦味が低減され、かつ/または味の厚みが増強された風味の良い梅酒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅酒は、古くから家庭で作られており、一般的には、梅と、焼酎のような高アルコール度数の蒸留酒と砂糖とをそれぞれ所定分量密閉容器に入れ、1年程度漬け込んで製造されている。また、近年では、醸造メーカーによっても手軽に飲める梅酒が開発および生産されている。
【0003】
梅酒の原料としては青梅から完熟梅までの段階の梅を用いることができる。近年、完熟梅を用いた梅酒にも人気があり、完熟梅に特有の香気成分が存在する。そこで、完熟香気成分を有するかまたは強化した梅酒が望まれており、完熟梅に特有の完熟香気成分の探索に力が注がれている。
【0004】
また、梅酒には主に種子由来と思われる苦味が存在する。この苦味は、これまで梅酒らしさとされてきたが、必ずしも好意的には受け入れられてはいなかった。したがって、完熟香気成分を強化しつつ、苦味を効果的に低減させることが望ましい。
【0005】
一方、ヘキサン酸ヘキシル等の脂肪族エステル化合物に関し以下の知見が知られている。特許文献1には、内服液剤組成物において、機能性物質の苦味を抑制するために、脂肪族エステル化合物を用いることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、フルーツ様香料組成物としてヘキサン酸ヘキシルが例示されている。
【0007】
特許文献3には、桂皮酸、精油および低温殺菌添加剤を含有する防腐剤系により防腐される茶系飲料が記載されており、上記低温殺菌添加剤としてヘキサン酸ヘキシルが記載されている。
【0008】
非特許文献1には、アンズにヘキサン酸ヘキシルが含まれていることが記載されている。
【0009】
しかしながら、ヘキサン酸ヘキシルと、梅酒の苦味低減および/または味の厚みの増強との関係については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−094742号公報
【特許文献2】特開2005−015686号公報
【特許文献3】特表2003−533196号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Gokbulut et al., SPME-GC-MS detection of volatile compounds in apricot varieties., Food Chemistry 132 (2012) pp.1098-1102
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、今般、完熟梅に特有の香気成分について検討した結果、その成分としてヘキサン酸ヘキシルを見出した。さらに、梅酒にヘキサン酸ヘキシルを含有させることにより、梅酒の苦味を低減し、味の厚みが増強され、完熟香が強化されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0013】
したがって、本発明は、苦味が低減され、かつ/または味の厚みが増強された梅酒の提供をその目的としている。
【0014】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)ヘキサン酸ヘキシルを0.2〜1500ppbの濃度で含んでなる、梅酒。
(2)ヘキサン酸ヘキシルの濃度が0.4〜1000ppbである、(1)に記載の梅酒。
(3)ヘキサン酸ヘキシルとγ−デカラクトンとの質量比(ヘキサン酸ヘキシル:γ−デカラクトン)が1:0.1〜1:10000である、(1)または(2)に記載の梅酒。
(4)原料として梅以外の果実または果汁を実質的に使用しない、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の梅酒。
(5)梅酒を製造する方法であって、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.2〜1500ppbに調整することを含んでなる、方法。
(6)梅酒の味の厚みを増強する方法であって、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.2〜1500ppbに調整することを含んでなる、方法。
(7)梅酒の苦味を低減する方法であって、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.2〜1500ppbに調整することを含んでなる、方法。
【0015】
本発明によれば、上記のようにヘキサン酸ヘキシルを含んでなる梅酒とすることにより、梅酒の苦味が低減され、かつ/または味の厚み(特に後味の厚み)を増強することができる。味の厚み、特に後味の厚みは完熟梅を原料とする梅酒に特有の香味であり、本発明によりそのような香味を増強することができるため、本発明は梅酒の嗜好性を向上させる上で有利である。本発明の梅酒は、梅酒らしい香りを有する。
【0016】
本発明の梅酒はヘキサン酸ヘキシルを含有するものである。本発明では、梅酒中のヘキサン酸ヘキシルの濃度を所定の範囲に調整することにより、梅酒の苦味が低減される、および/または味の厚みを増強することができる。このような梅酒は、ヘキサン酸ヘキシルを含有する梅酒の製造過程において、ヘキサン酸ヘキシルの濃度を調整することにより製造することができる。ヘキサン酸ヘキシルの濃度調整は、ヘキサン酸ヘキシルを添加することにより行ってもよいし、あるいは、ヘキサン酸ヘキシルを含有する原料を配合すること、またはその配合量を増減させることによって行ってもよい。
【0017】
本発明の梅酒中のヘキサン酸ヘキシル濃度は、0.2〜1500ppb、好ましくは0.4〜1000ppbとされる。ここで、「ppb」とは、十億分率を示し、1ppbは1μg/Lに相当する。本発明の梅酒におけるヘキサン酸ヘキシル濃度の好ましい下限値は、0.4ppb、より好ましくは0.6ppbであり、好ましい上限値は、1000ppb、より好ましくは500ppb、さらに好ましくは300ppbである。梅酒中のヘキサン酸ヘキシル濃度は、ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)により測定することができる。このような測定は、市販のガスクロマトグラフ/質量分析装置(例えばAgilent Technologies株式会社製)を用いることにより、簡便に行うことができる。その際に、より正確な濃度測定のためには、既知の濃度を有する幾つかの標準液または対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線を用いることが望ましい。
【0018】
また、完熟梅の梅酒中には、その完熟香成分の一つとしてγ−デカラクトンが存在することが知られている。したがって、本発明の梅酒にもγ−デカラクトンが含まれていることがある。本発明の梅酒では、ヘキサン酸ヘキシルとγ−デカラクトンとの質量比(ヘキサン酸ヘキシル:γ−デカラクトン)は1:0.001〜1:10000であってもよく、好ましくは1:0.01〜1:6000、より好ましくは1:0.04〜1:5000である。梅酒中のγ−デカラクトン濃度は、ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)により測定することができる。このような測定は、市販のガスクロマトグラフ/質量分析装置(例えばAgilent Technologies株式会社製)を用いることにより、簡便に行うことができる。その際に、より正確な濃度測定のためには、既知の濃度を有する幾つかの標準液または対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線を用いることが望ましい。
【0019】
本発明の梅酒とは、酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第21号に規定するリキュールのうち、酒類に梅を浸漬し、梅の成分を浸出させたものを含んだ酒類をいう。また、運用上の取り扱いにおいて、酒類に梅を浸漬し、梅の成分を浸出させたものを含んだ酒類とは、梅を浸漬し、梅の成分を浸出させた酒類、およびこれに糖類、酸味料、着色料、香料、他の酒類等を混和したものをいう(発泡性を有するものを含む。)。さらに、梅酒は、「本格梅酒」と「非本格梅酒」に分類される。ここで、「本格梅酒」とは、梅、糖類および酒類のみを使用して造った梅酒をいう。一方、「非本格梅酒」とは、「本格梅酒」ではない梅酒、すなわち、酸味料、着色料、香料、他の酒類等を混和した梅酒をいう。
【0020】
本発明の一態様である非本格梅酒は、例えば、りんご、もも、バナナ、パッションフルーツ等梅以外の果汁や果汁由来の香気成分を含んでいても良い。これらの果汁や香気成分は、添加量により梅以外の風味を感じる場合もあるが、苦味低減または厚みの増強に関して一定の効果を有することもある。これらの果汁や香気成分を含まないまたは含量の少ない非本格梅酒では、ヘキサン酸ヘキシルを一定量含有することにより、苦味低減または厚み増強の効果をよりはっきりと感じることができる。ここで、含量が少ないとは、例えば、梅酒の香りに影響を与えない程度の含量をいう。
【0021】
本発明の別の実施態様としては、本発明の梅酒は原料として梅以外の果実または果汁を実質的に使用しないものとされる。ここで、「実質的に使用しない」とは、梅以外の果実または果汁を使用したとしても、その量が梅酒の香りに影響を与えない程度の量であることを意味する。本発明の好ましい実施態様としては、本発明の梅酒は、原料として梅以外の果実または果汁を使用しないものとされる。
【0022】
上記梅酒に使用する梅は、青梅、追熟梅、完熟梅等の梅酒に使用できる梅であれば、いずれも問題なく使用することができる。味の厚み等風味の点から、完熟梅または追熟梅が好ましい。
【0023】
本発明の梅酒におけるアルコールは、エタノール含有材料の配合により与えることができる。エタノール含有材料としては、原料用アルコールや蒸留酒(スピリッツ)を用いることができ、好ましい蒸留酒の例としては、ウオッカ、ジン、焼酎、テキーラ、ラム、ブランデー、ウィスキー等が挙げられる。本発明の好ましい実施態様によれば、アルコール供給源は、原料用アルコール、焼酎、ブランデー、またはジンとされ、より好ましくは原料用アルコール、焼酎、またはブランデーとされる。
【0024】
本発明の梅酒における糖類としては、特に限定されるものではなく、適宜の糖、例えば、単糖類(例えば、果糖、ブドウ糖)、二糖類(例えば、ショ糖、乳糖)、オリゴ糖、多糖類を用いることができ、具体的には、氷砂糖、砂糖、異性化糖、液糖、三温糖、黒糖等であってもよい。
【0025】
本発明の梅酒は、梅酒の製造に用いられる他の成分を含んでもよい。このような他の成分としては、例えば、甘味料(例えば、糖アルコール、高甘味度甘味料、ハチミツ等)、酸味料(例えば、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸またはこれらの塩類等)、着色料、香料、食品添加剤(例えば、起泡・泡持ち向上剤、苦味料、保存料、酸化防止剤、増粘安定剤、乳化剤、食物繊維、pH調整剤等)等を適宜添加することができる。
【0026】
本発明の梅酒は、ヘキサン酸ヘキシルの濃度調整以外は、通常の梅酒の製造方法に従って製造することができる。例えば、梅、糖類等を酒類(エタノール含有材料)に浸漬することにより、梅酒を製造することができる。ここで、エタノール含有材料への糖類の添加は、梅の浸漬前、梅の浸漬と同時、または、梅の浸漬後のいずれであってもよい。また、エタノール含有材料に浸漬する梅の保存条件に特に限定はないが、そのまま(例えば、常温または低温)あるいは凍結した梅を使用することができる。本発明の梅酒は、このような製造過程のいずれかの段階で、ヘキサン酸ヘキシルまたはヘキサン酸ヘキシルを含有する原料を適宜加えることによって製造することができる。
【0027】
本発明では、ヘキサン酸ヘキシルの濃度を一定の範囲内に調整することにより、梅酒の味の厚み、特に後味の厚みが増強される。したがって、本発明の別の態様によれば、梅酒の味の厚み、例えば後味の厚み、を増強する方法が提供され、該方法は、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.2〜1500ppbに調整することを含んでなる。
【0028】
さらに、本発明では、ヘキサン酸ヘキシルの濃度を一定の範囲内に調整することにより、梅酒の苦味が低減される。したがって、本発明のさらに別の態様によれば、梅酒の苦味を低減する方法が提供され、該方法は、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシルの濃度を0.2〜1500ppbに調整することを含んでなる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において、「%」とは、特に記載のない限り「質量%」を意味する。各試験の評価は試験ごとに独立して評価した。また、本発明の単位および測定方法は、特段の記載のない限り、JISの規定に従う。
【0030】
試験例1:梅酒製品中のヘキサン酸ヘキシルの含有量の測定
1.試料
試料としては、市販の梅酒を用い、サンプルB〜Eとした。ここで、サンプルB〜Dは非本格梅酒、サンプルEは本格梅酒である。さらに、サンプルBにヘキサン酸ヘキシルを添加し、サンプルAとした。
【0031】
2.測定方法
梅酒中のヘキサン酸ヘキシルを定量するため、ツイスター(GERSTEL社製)にて抽出した後、ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)にて測定を行った。測定は標準添加法により行った。
(1)試料の前処理
(i)6本の20mLスクリュー管に試料を各10mL秤量した。
(ii)上記試料に、添加のヘキサン酸ヘキシルが以下の濃度となるように、段階的にヘキサン酸ヘキシル標準液(ヘキサン酸ヘキシル(純度>98.0%)(東京化成工業株式会社)を含む溶液)を添加した。
0、0.2、0.5、1.0、2.0μg/L
(なお、変動係数を算出するため、標準液を添加しない試料は2本作成した。)
(iii)ツイスター(長さ10mm、膜厚0.5mm)を用いて、室温で2時間撹拌し、抽出を行った。
(iv)抽出後ツイスターを取り出し、水洗し水分を拭き取った。
(v)加熱脱着−GC/MSにて測定を行った。
【0032】
(2)GC/MSの測定は、次の装置を用いて、以下の条件で行った。
分析装置
・サンプラ : GERSTEL MPS
・ガスクロマトグラフ : Agilent Technologies 6890
・質量分析計 : Agilent Technologies 5975C MSD
分析条件
・C I S : 10℃ (0.5min)-12℃ /s-300℃ (5min)
・T D U : 40℃ (0.5min)-720℃ /min-300℃ (3min)
・T D Uトランスファライン : 300℃
・カラム : DB-5 (60m、Φ 0.25mm、膜厚0.25μ m) (Agilent J&W)
・オーブン温度 : 40℃ (5min)-10℃ /min-300℃ (5min)
・MSDトランスファライン : 300℃
・キャリアガス : ヘリウム、2.11 mL/min
・イオン化法 : EI(電子イオン化)法
・イオン化電圧 : 70eV
・イオン源温度 : 230℃
・四重極温度 : 150℃
【0033】
3.結果
試験例1の試験結果を、表1に示す。
【表1】
サンプルDおよびサンプルEは定量下限未満であるため変動係数の算出を行っていない。
【0034】
試験例2:梅酒製品中のγ−デカラクトンの含有量の測定
1.試料
試料としては、試験例1のサンプルA〜Eを使用した。
【0035】
2.測定方法
梅酒中のγ−デカラクトンの定量は、γ-Decanolactone(純度>96.0%)(東京化成工業株式会社)を用いて絶対検量線法により定量を行う以外は、試験例1の測定方法と同様に行った。
【0036】
3.結果
試験例2の試験結果を、表2に示す。
【表2】
サンプルDおよびサンプルEはヘキサン酸ヘキシル濃度が定量下限未満であるため質量比の算出を行っていない。
【0037】
試験例3:梅酒製品の官能評価
1.試料
試料としては、試験例1のサンプルA〜Eを使用した。
【0038】
2.評価方法
官能評価は、専門パネル3名により、(1)フルーティーな香り、(2)口に残る苦味、(3)後味の厚み、(4)総合評価に関して5点法で評価を行った。
(1)フルーティーな香り、(2)口に残る苦味、(3)後味の厚みについては、それぞれ、1(弱い)〜5(強い)と段階的に評価した。ここで、(1)フルーティーな香りとは、果実を連想させる香りを指し、このフルーティーな香り成分は、主にエステル類やラクトン類が関与していると考えられている。サンプルA〜Eは市販されている梅酒または該梅酒にヘキサン酸ヘキシルを添加したものである。そのため、サンプルA〜Eでは梅酒らしい香りを有することを前提としてフルーティーな香りが強いかどうかを評価している。
(4)総合評価(嗜好性)に関しては、1(劣る)〜5(優れている)と段階的に評価した。
(1)、(3)、(4)の評価は、専門パネルの点数を平均し、平均点が3点を超えるものを好適、4点を超えるものを特に好適であると判定した。(2)の評価は、専門パネルの点数を平均し、平均点が3点未満のものを好適、2点未満のものを特に好適であると判定した。
(1)〜(3)の各評価に基づき、最終的に(4)総合評価にて判断した。
【0039】
3.結果
試験例3の官能評価結果を表3に示す。
【表3】
【0040】
試験例4:ヘキサン酸ヘキシルを添加した梅酒製品(サンプルB)の官能評価
1.試料
ヘキサン酸ヘキシルを添加したサンプルBを試料として用いた。ヘキサン酸ヘキシルを添加した後のサンプルBにおけるヘキサン酸ヘキシルの濃度は0.2、0.4、0.6、1.1、5.1、10.1、50.1、100.1、279.1、478.1、955.1、1479.1、1626.1、1941.1ppbであった。なお、表4中の0.1ppbは、ヘキサン酸ヘキシルを添加していないサンプルBを示す。
【0041】
2.評価方法
官能評価は、専門パネル4名により、(1)梅酒らしい香り、(2)口に残る苦味、(3)後味の厚み、(4)総合評価に関して5点法で評価を行った。なお、本試験例では、「梅酒らしさ」はベンスアルデヒド等の主要な香気成分を含む香りである。
(1)梅酒らしい香り、(2)口に残る苦味、(3)後味の厚みについては、それぞれ、1(弱い)〜5(強い)と段階的に評価し、ヘキサン酸ヘキシル0.1ppbを含むサンプルの評価を3とした。
(4)総合評価(嗜好性)に関しては、1(劣る)〜5(優れている)と段階的に評価し、ヘキサン酸ヘキシル0.1ppbを含むサンプルの評価を3とした。
(1)、(3)、(4)の評価は、専門パネルの点数を平均し、平均点が3点を超えるものを好適、4点以上のものを特に好適であると判定した。(2)の評価は、専門パネルの点数を平均し、平均点が3点未満のものを好適、2点未満のものを特に好適であると判定した。
(1)〜(3)の各評価に基づいて、最終的に(4)総合評価にて判断した。
【0042】
3.結果
試験例4の官能評価結果を表4に示す。
【表4】
【0043】
ヘキサン酸ヘキシル濃度が0.2ppb以上のサンプルでは、0.2ppb未満のサンプルと比較して、梅酒らしい香り、口に残る苦味、後味の厚みの全ての項目において良い成績が得られ、高い嗜好性が示された。ただし、梅酒らしい香りの強さについては、ヘキサン酸ヘキシル濃度を1500ppb以下とすることが好ましいものと考えられた。つまり、梅酒らしい香り、口に残る苦味、および後味の厚み、そして総合評価としての嗜好性の観点から、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシル濃度は0.2ppb〜1500ppbとすることが望ましいものと考えられる。また、表4に示す結果から、梅酒におけるヘキサン酸ヘキシル濃度の好ましい下限値は、0.4ppb、より好ましくは0.6ppbであり、好ましい上限値は、1000ppb、より好ましくは500ppb、さらに好ましくは300ppbであると考えられる。
【0044】
試験例5:ヘキサン酸ヘキシルを添加した梅酒製品(サンプルB)の官能評価
1.試料
ヘキサン酸ヘキシルを添加したサンプルBを試料として用いた。ヘキサン酸ヘキシルを添加し、梅酒中のヘキサン酸ヘキシルの濃度を5.1、10.1、20.1ppbに調整した。なお、ヘキサン酸ヘキシルを添加していないサンプルBは、最終濃度0.1ppbであった。
【0045】
2.評価方法
専門パネル4名により官能評価を行った。
【0046】
3.結果
専門パネルによる官能評価の結果を以下に示す。
0.1ppb:フルーティーな香りを有するものの、後味に種由来と思われる苦味が残った。
5.1ppb:全体の味の厚みが増え、バランスが良くなった。
10.1ppb:中盤から後半にかけて味の厚み(後味の厚み)が増え、苦味は和らいだ。
20.1ppb:味に甘味料のような厚みが増すと共に、後味の苦味は殆ど感じなくなった。
【0047】
試験例6:ヘキサン酸ヘキシルを添加した梅酒製品(サンプルE)の官能評価
1.試料
試料としては、ヘキサン酸ヘキシルを添加し、最終濃度を0、10、25、50、100、200ppbに調整したサンプルEを用いた。
【0048】
2.評価方法
専門パネル4名により官能評価を行った。
【0049】
3.結果
専門パネルによる官能評価の結果を以下に示す。
0ppb:浸漬した種や皮由来の苦味が感じられた。全体的に味わいが少なかった。
10〜200ppb:苦味がマスキングされ、全体的に味わいに厚みが増した。添加濃度が高くなるにしたがって、鼻でかいだ香り(立ち香)がフルーティーに感じられた。