(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
mRNAを使用して非ヒト由来の細胞の再プログラム化を成功させることは捉え所のないことであり、それは、RNA分子が細胞、特に哺乳動物細胞にトランスフェクトされると、そのRNA分子によって細胞性免疫応答が誘導される可能性があるためである。ヒト線維芽細胞の再プログラム化において、一般的な慣例は、ウイルスタンパク質を、トランスフェクトされたmRNA分子によって誘導されるインターフェロンを鈍らせるためのデコイ受容体として使用することである。しかし、デコイ受容体を使用するこのような戦略または他の類似の戦略は、ヒヒ、ウマ、およびイヌを含む非ヒト種からの線維芽細胞の再プログラム化を成功させていない。
【0007】
したがって、これらの問題点に取り組むために、本開示は、体のあらゆる異なる組織を産生することのできる幹細胞を作製するための方法および組成物を提供する。ある特定の態様において、メッセンジャーRNA分子を使用して、ウイルスベクターまたはフィーダー細胞を必要とせず、本明細書に開示されている方法を使用して、非ヒト線維芽細胞を人工多能性幹細胞(iPSC)に再プログラム化することができる。この例示的な方法および組成物の使用は、以前に報告された細胞再プログラム化方法論に優る驚くべき予想外の効率改善をもたらし、非ヒト哺乳動物細胞において細胞性免疫応答を抑制するという、以前に解決されなかった課題を克服した。
【0008】
したがって、特に、VP16およびMyoD等、公知の強力な転写因子のトランス活性化ドメインを組み入れた、Oct4(Oct3/4とも称される)、Sox2等、従来の再プログラム化因子の操作されたバリアントの適用により再プログラム化因子(RF)カクテルを改善することにより、mRNA媒介性再プログラム化を加速させるのに有用な方法、薬剤および/または組成物が提供される。本明細書に開示されている方法および組成物は、mRNAに基づく再プログラム化に関与する時間、費用および労力を劇的に低下させるフィーダーフリープロトコールをもたらす。
【0009】
一態様において、本開示は、体細胞を脱分化または再プログラム化するための方法であって、a)Oct4、Sox2、Klf4、cMyc、NanogおよびLin28から選択される合成mRNA再プログラム化因子のうちいずれか1種または複数とトランス活性化ドメインとの融合産物を有効量含む組成物を、単離された体細胞にトランスフェクトし、これにより体細胞を再プログラム化または脱分化するステップを含む方法を提供する。
【0010】
一実施形態において、組成物が、N末端MyoDトランス活性化ドメインと融合したOct4を含む、請求項1に記載の方法が提供される。一実施形態において、Oct4は、タンデムに3連でN末端MyoDトランス活性化ドメインと融合している。
【0011】
一態様において、請求項1に記載の再プログラム化因子の合成mRNAのうちいずれか1種または複数を使用することにより哺乳動物細胞を再プログラム化するための方法であって、a)フィーダーフリー表面において標準6ウェルプレートのウェルあたり細胞15k〜500kの密度で標的細胞を成長させるステップと、b)再プログラム化の間に各回50ng〜800ng/mlで変動する用量のmRNAを細胞にトランスフェクトするステップとを含む方法が提供される。
【0012】
一実施形態において、標的細胞を、フィーダーフリー表面において標準6ウェルプレートのウェルあたり細胞30k、75k、100kまたは150kの密度で成長させ、b)再プログラム化の間に各回50ng〜800ng/mlで変動する用量のmRNAを細胞にトランスフェクトするステップであるが、より初期の時点においてより後期の時点よりも低い用量を使用するステップと、c)継代せずにiPSCを獲得するステップとを含む方法が提供される。
【0013】
一実施形態において、標的細胞を、フィーダーフリー表面において標準6ウェルプレートのウェルあたり細胞15k、75k、100kまたは150kの密度で成長させるが、各ウェルの容量を、0.5ml〜5mlの適切な培地となるよう調整し;再プログラム化の間に各回50ng〜800ng/mlで変動する用量のmRNAを細胞にトランスフェクトするステップであるが、より初期の時点においてより後期の時点よりも低い用量を使用するステップと;継代せずにiPSCを獲得するステップとを含む方法が提供される。
【0014】
ある特定の実施形態では、再プログラム化プロセスの全体を通してより低い用量を使用することによって、細胞性免疫応答が低下し、iPSCの成功率の改善がもたらされた。他の実施形態では、より高い純度のmRNA分子、すなわち、in vitroでの転写からの汚染異常転写産物を有さないmRNA分子を使用することによって、細胞がより低い密度で播種され、反復的トランスフェクションを生き残ること、およびより高いiPSC収量が可能になった。
【0015】
一実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。一実施形態において、その方法は異種フリーである。一実施形態では、哺乳動物細胞は非ヒト霊長類細胞である。一実施形態では、非ヒト霊長類細胞はカニクイザル細胞である。
【0016】
一実施形態において、1種または複数の因子は、mRNA、制御性RNA、siRNA、miRNAおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0017】
一実施形態において、体細胞に、少なくとも2種の異なるRNAをトランスフェクトする。一実施形態において、体細胞は、単能性、複能性(multipotent)、多能性および分化細胞からなる群から選択される。一実施形態において、1種または複数のRNAは、体細胞から単能性、複能性または多能性細胞への脱分化を誘導する。
【0018】
一実施形態において、その因子のうち少なくとも1種は、OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、KLF4およびMYC mRNAからなる群から選択される。一実施形態において、OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28 mRNAを組み合わせて投与する。一実施形態において、OCT4、SOX2、KLF4およびMYC mRNAを組み合わせて投与する。
【0019】
一実施形態において、トランスフェクトされた細胞は、培養において人工多能性幹(iPS)細胞として維持される。一実施形態において、トランスフェクトされた細胞が、人工多能性幹細胞を形成し、分化細胞を形成するようにiPS細胞を誘導するステップをさらに含む方法が提供される。
【0020】
一態様において、患者における疾患または障害の1種または複数の症状を処置または阻害するための方法であって、細胞をin vitroで脱分化させるステップと、細胞を患者に投与するステップとを含む方法が提供される。一実施形態において、組成物は、RargおよびLrH−1トランス活性化ドメインをさらに含む。一実施形態において、組成物は、VP16トランス活性化ドメインと融合したOCT4を含む。
【0021】
一実施形態では、本開示は非ヒト霊長類細胞に由来するiPSCを提供し、これを、他の動物性製品を伴わない組み込みフリー、フィーダーフリーの検査環境をもたらし得るため、疾患モデル系の確立に使用した。したがって、本明細書に記載されている非ヒトiPSCは、前臨床検査に有用である。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
体細胞を脱分化または再プログラム化するための方法であって、
Oct4、Sox2、Klf4、cMyc、NanogおよびLin28から選択される合成mRNA再プログラム化因子のうちいずれか1種または複数とトランス活性化ドメインとの融合産物を有効量含む組成物を、単離された体細胞にトランスフェクトし、これにより前記体細胞を再プログラム化または脱分化するステップ
を含む、方法。
(項目2)
前記合成mRNAが、転写からのいかなる汚染非mRNA種も除去するために精製される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細胞が、ウェル内から密度勾配で播種される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記細胞が非ヒト霊長類細胞である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記細胞がカニクイザル細胞である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記細胞がアカゲザル細胞である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記細胞がヒヒ細胞である、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記細胞がイヌ細胞である、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記細胞がウマ細胞である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記細胞がウシ細胞である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記細胞がブタ細胞である、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記細胞がヒツジ細胞である、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記組成物が、N末端MyoDトランス活性化ドメインと融合したOct4を含む、項目1に記載の方法。
(項目14)
Oct4が、タンデムに3連でN末端MyoDトランス活性化ドメインと融合している、項目2に記載の方法。
(項目15)
哺乳動物細胞を再プログラム化するための方法であって、
フィーダーフリー表面上で標準6ウェルプレート内でウェルあたり細胞25k〜250kの密度で、標的細胞を成長させるステップと、
約50ng〜約800ng/mlにわたる用量の、項目1に記載の再プログラム化因子の合成mRNAのうちいずれか1種または複数を前記細胞にトランスフェクトするステップと
を含む、方法。
(項目16)
標的細胞を、フィーダーフリー表面上で標準6ウェルプレート内でウェルあたり細胞50k、75k、100kまたは150kの密度で成長させるステップと、
1mlのmRNAあたり約50ng〜約800ngにわたる用量の、項目1に記載の再プログラム化因子の合成mRNAのうちいずれか1種または複数を前記細胞にトランスフェクトするステップであって、より初期の時点においてより後期の時点よりも低い用量を使用する、ステップと、
継代せずにiPSCを獲得するステップと
を含む、項目4に記載の方法。
(項目17)
標的細胞を、フィーダーフリー表面において標準6ウェルプレート内でウェルあたり細胞15k、30k、50k、75k、100k、150k、250K、500Kのうち選択されたいずれか1種の密度で成長させるステップであって、各ウェルの容量を、0.5ml〜5mlの適切な培地となるよう調整する、ステップと、
1mlのmRNAあたり約50ng〜800ngにわたる用量の、項目1に記載の再プログラム化因子の合成mRNAのうちいずれか1種または複数を細胞にトランスフェクトするステップであって、より初期の時点においてより後期の時点よりも低い用量を使用する、ステップと、
前記細胞を継代せずにiPSCを獲得するステップと
を含む、項目4に記載の方法。
(項目18)
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞である、項目4に記載の方法。
(項目19)
異種フリーである、項目4に記載の方法。
(項目20)
前記1種または複数の因子が、mRNA、制御性RNA、siRNA、miRNAおよびこれらの組合せからなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記体細胞に、少なくとも2種の異なるRNAをトランスフェクトする、項目1に記載の方法。
(項目22)
前記体細胞が、単能性細胞、複能性細胞、多能性細胞および分化細胞からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目23)
前記1種または複数のRNAが、前記体細胞から単能性細胞、複能性細胞または多能性細胞への脱分化を誘導する、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記因子のうち少なくとも1種が、OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、KLF4およびMYC mRNAからなる群から選択される、項目4に記載の方法。
(項目25)
OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28 mRNAを組み合わせて投与する、項目4に記載の方法。
(項目26)
OCT4、SOX2、KLF4およびMYC mRNAを組み合わせて投与する、項目4に記載の方法。
(項目27)
前記トランスフェクトされた細胞が、培養において人工多能性幹(iPS)細胞として維持される、項目1に記載の方法。
(項目28)
前記トランスフェクトされた細胞が、人工多能性幹細胞を形成し、分化細胞を形成するように前記iPS細胞を誘導するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目29)
患者における疾患または障害の1種または複数の症状を処置または阻害するための方法であって、項目1に記載の方法に従って細胞をin vitroで脱分化させる、ステップと、前記細胞を前記患者に投与するステップとを含む、方法。
(項目30)
前記組成物が、RargおよびLrH−1トランス活性化ドメインをさらに含む、項目2に記載の方法。
(項目31)
前記組成物が、VP16トランス活性化ドメインと融合したOct4を含む、項目1に記載の方法。
【0022】
本明細書に記載および特許請求されている発明は、本概要に表記または記載または参照されている特質および実施形態等を含むがこれらに限定されない、多くの特質および実施形態を有する。これは包括的であるようには企図されておらず、本明細書に記載および特許請求されている発明は、本概要に同定されている特色または実施形態に(よって)限定されず、これら特色または実施形態は、制限目的ではなく単なる説明目的で含まれている。後述する詳細な説明において、追加的な実施形態を開示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】
図1は、M
3Oに基づくmRNA再プログラム化カクテルによって派生したiPSCコロニーを示す図である。(A)第1のM
3Oに基づくBJ再プログラム化試行に由来する増大化したiPSCクローンのうち2種の10×明視野像。(B)多能性マーカーに対する増大化したクローンの免疫染色。
【
図1B】
図1は、M
3Oに基づくmRNA再プログラム化カクテルによって派生したiPSCコロニーを示す図である。(A)第1のM
3Oに基づくBJ再プログラム化試行に由来する増大化したiPSCクローンのうち2種の10×明視野像。(B)多能性マーカーに対する増大化したクローンの免疫染色。
【0024】
【
図2A】
図2は、M
3Oに基づくカクテルを使用したフィーダーフリー再プログラム化を示す図である。(A)c−MycおよびL−Mycに基づくカクテルならびに4時間および24時間トランスフェクションレジメンを比較する、50K XFF線維芽細胞におけるフィーダーフリー誘導由来のTRA−1−60
+コロニー収量を示す免疫蛍光イメージング。全ウェルを9日間トランスフェクトした。染色のために実験15日目に4時間トランスフェクション培養物を固定し、11日目に24時間トランスフェクション培養を固定した。(B)誘導9日目にこの培養物を追い越すほとんどコンフルエントなhESC様コロニーを示す、同じ実験由来の400ng/ml Stemfectウェルの10×明視野イメージング。(C)400ng/ml Stemfectレジメンを使用して100K XFFを9日間再度トランスフェクトした追跡調査試行における、マークした視野の10×明視野の時間経過であり、上皮化と、その後のhESC様コロニーの出現を示す。
【
図2B】
図2は、M
3Oに基づくカクテルを使用したフィーダーフリー再プログラム化を示す図である。(A)c−MycおよびL−Mycに基づくカクテルならびに4時間および24時間トランスフェクションレジメンを比較する、50K XFF線維芽細胞におけるフィーダーフリー誘導由来のTRA−1−60
+コロニー収量を示す免疫蛍光イメージング。全ウェルを9日間トランスフェクトした。染色のために実験15日目に4時間トランスフェクション培養物を固定し、11日目に24時間トランスフェクション培養を固定した。(B)誘導9日目にこの培養物を追い越すほとんどコンフルエントなhESC様コロニーを示す、同じ実験由来の400ng/ml Stemfectウェルの10×明視野イメージング。(C)400ng/ml Stemfectレジメンを使用して100K XFFを9日間再度トランスフェクトした追跡調査試行における、マークした視野の10×明視野の時間経過であり、上皮化と、その後のhESC様コロニーの出現を示す。
【
図2C】
図2は、M
3Oに基づくカクテルを使用したフィーダーフリー再プログラム化を示す図である。(A)c−MycおよびL−Mycに基づくカクテルならびに4時間および24時間トランスフェクションレジメンを比較する、50K XFF線維芽細胞におけるフィーダーフリー誘導由来のTRA−1−60
+コロニー収量を示す免疫蛍光イメージング。全ウェルを9日間トランスフェクトした。染色のために実験15日目に4時間トランスフェクション培養物を固定し、11日目に24時間トランスフェクション培養を固定した。(B)誘導9日目にこの培養物を追い越すほとんどコンフルエントなhESC様コロニーを示す、同じ実験由来の400ng/ml Stemfectウェルの10×明視野イメージング。(C)400ng/ml Stemfectレジメンを使用して100K XFFを9日間再度トランスフェクトした追跡調査試行における、マークした視野の10×明視野の時間経過であり、上皮化と、その後のhESC様コロニーの出現を示す。
【0025】
【
図3】
図3は、4種の異なるmRNAカクテルを使用した再プログラム化効率の比較を示す図である。4カクテル比較実験をまとめるフローチャート。
【0026】
【
図4】
図4は、HDF−aフィーダーフリー再プログラム化培養物におけるhESC様コロニーを示す図である。Stemfectトランスフェクション試薬を使用して培地サプリメントとして送達した400ng/ml mRNAカクテル(M
3O+c−Myc
+Nanog
+)で9日間処理した、75K HDF−a成体線維芽細胞からのフィーダーフリー誘導9日目に出現したhESC様コロニーの10×明視野像。
【0027】
【
図5A】
図5は、合成mRNAカクテルの作製を示す図である。(A)mRNA再プログラム化カクテルを作製するための手順をまとめた模式図。(B)SYBR E−ゲルにおける、多数のRFおよび蛍光レポーターをコードする合成mRNA。1レーン当たり500ngのRNAをロードした。
【
図5B】
図5は、合成mRNAカクテルの作製を示す図である。(A)mRNA再プログラム化カクテルを作製するための手順をまとめた模式図。(B)SYBR E−ゲルにおける、多数のRFおよび蛍光レポーターをコードする合成mRNA。1レーン当たり500ngのRNAをロードした。
【0028】
【
図6】
図6は、カクテルの再プログラム化に2−チオウラシルを使用する、合成mRNAカクテルの作製を示す図である。SYBR E−ゲルにおける、多数のRFをコードする合成mRNA。mRNAは、それらのウラシル塩基の10%が2−チオウラシルで置き換えられている。1レーン当たり100ngのRNAをロードした。
【0029】
【
図7A】
図7は、mRNAが2−チオウラシルで修飾されたmRNAカクテルを使用して作製されたヒトiPSCを示す図である。Pluriton(A)またはAllele Reprogramming培地(B)における異なる再プログラム化実行の間の再プログラム化の(A)7日後または(B)11日後のヒトiPSC集団。
【
図7B】
図7は、mRNAが2−チオウラシルで修飾されたmRNAカクテルを使用して作製されたヒトiPSCを示す図である。Pluriton(A)またはAllele Reprogramming培地(B)における異なる再プログラム化実行の間の再プログラム化の(A)7日後または(B)11日後のヒトiPSC集団。
【0030】
【
図8】
図8は、フィーダーフリー再プログラム化培養においてmRNAカクテルを使用して作製されたカニクイザルiPSCコロニーを示す図である。10日目および13日目に出現したhESC様コロニーの10×明視野像が図において示される。10日目のパネルにおいて、中央に近い細胞は、線維芽細胞から幹細胞への形態変化を示す。13日目のパネルにおいて、細胞は、完全に形質転換されたサルiPSCの大きなコロニーを形成した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の記載において、本明細書において定義されていないあらゆる用語は、本技術分野において認識されているその一般的な意義を有する。次の記載が本発明の特異的な実施形態または特定の使用の記載である程度まで、これは、単なる説明のために企図されており、特許請求されている発明を限定するためのものではない。次の記載は、本発明の精神および範囲に含まれているあらゆる代替物、修正および均等物を網羅するよう企図されている。
【0032】
分化細胞は、転写因子の選択群の発現により多能性状態に復帰することができ、この事実は、患者特異的な細胞を使用して、in vitroにおける遺伝性疾患の研究のために、そして最終的には細胞補充療法のために、いかなる所望の種類の細胞も生成することができるという見通しを切り開いた。再プログラム化因子の発現は、ゲノム組み込み型ウイルスベクターの適用により達成することができ、iPSC誘導は、通常、依然として組み込み型レトロウイルスまたはレンチウイルスにより行われる。付随するゲノム改変は、iPSCの治療応用に対する重要なハードルを表し、一方、組み込まれたウイルスカセットからの発現再活性化の可能性は、in vitro研究であっても懸念となる。近年、ゲノム改変問題を軽減またはなくす新規発現ベクターの適用において相当な進歩が為された。現在、lox組換え部位に隣接した単一のポリシストロニックカセットにおいてiPSC誘導に要求される複数の因子をコードするレンチウイルスベクターを利用することができ、この構成により、このベクターは、Creリコンビナーゼの一過性発現により、再プログラム化後に導入遺伝子をほぼシームレスに切除することができる。導入遺伝子挿入とその後の切除は、トランスポゾンベクターを使用し、続いてトランスポサーゼを短時間発現することにより達成することもできる。アデノウイルス、プラスミドおよびエピソームDNAを含む、再プログラム化因子を十分な時間一過性発現して多能性を誘導することのできる数種の異なる種類の非組み込み型DNAベクターが用いられてきた。低効率ではあるが、細胞透過性ペプチドを組み入れる組換えRFタンパク質による細胞の反復的形質導入によりiPSCを生成することが可能であることも判明した。現在、相対的に効率的なiPSC転換は、完全にRNAに基づく生殖周期を有するセンダイウイルスを使用して、また、山中(Yamanaka)因子をコードする合成mRNA転写物の持続的トランスフェクションにより達成することができる。
【0033】
再プログラム化(ならびに潜在的には、定方向分化および分化転換)へのmRNAトランスフェクションの適用は魅力的であるが、その理由として、この系は、再プログラム化カクテルおよびさらには個々の構成成分因子の発現を、どの転写物を細胞培養培地に加えるか単純に変化させることにより日々モジュレートできることが挙げられる。特定の因子のトランスフェクションが終了すると、細胞質におけるmRNAの急速な崩壊により、標的細胞内の異所性発現が迅速に終わる。非組み込み型DNAベクターまたはRNAウイルスとは対照的に、mRNAトランスフェクションに浄化は要求されず、ランダムゲノム組み込みまたは持続性のウイルス感染のいかなるリスクもない。最終的に複数ラウンドの異所性RF発現を用いて、患者生検から、iPSC中間体を経て所望の種類の特殊化した細胞を得ることができると想定する場合、これらの利点は、より大きな重要性を仮定する。にもかかわらず、現在実施されているmRNAに基づく再プログラム化には弱点が存在する。RFの発現は、典型的には、mRNAがトランスフェクトされてからおおよそ24時間は頑強であるが、ヒト細胞において多能性を誘導するためには約2週間の因子発現を要し、そのため、この技法による細胞の再プログラム化に要求される実践時間は、相対的に長い。あらゆる細胞型および培養培地が、効率的なmRNA送達に等しく貢献するとは限らず、これは現在、血液細胞を含む対象とするある特定の細胞型の、mRNAに基づく再プログラム化に対する妨害となっている。また、現在のところ、mRNA方法を使用してiPSCへの細胞の再プログラム化を成功させるために、有糸分裂停止した線維芽細胞のフィーダー層を用いることが必要であると判明した。標的細胞は、iPSC誘導に要求される延長された時間経過にわたって低い出発密度から成長させるため、このようなフィーダー細胞は、培養物の集団密度を緩衝し、RNAおよびトランスフェクション試薬(両方とも関連毒性を有する)の送達される用量を一定にし、再プログラム化プロセスによって生み出されるアポトーシス促進性および細胞増殖抑制性の力を前にして標的細胞の生存率を支持する。この要件は、手順に複雑さおよび実践時間を加え、特に、フィーダーそれ自体がトランスフェクションに付される場合、技術的可変性の重要な発生源を導入する。フィーダー層の存在はまた、再プログラム化プロセスのモニターおよび解析を妨げる。最後に、ヒトフィーダー細胞は現在、mRNA再プログラム化の標準であるが、その誘導および増大化において非ヒト動物性製品が使用されている場合、係る細胞は、潜在的な異種生物学的汚染源でもある。
【0034】
したがって、以前より公知の手順に伴う課題に鑑みて、再プログラム化の効率が改善され、その結果得られる細胞の品質が改善された、iPSCを産生するための新規方法、材料およびプロトコールが本明細書に提供されている。本発明の実施形態を首尾よく使用して、細胞に送達されるRFカクテルの増強により、著しい驚くべき予想外の改善を達成した。本発明の実施形態はまた、mRNA再プログラム化プロセスを圧縮および合理化し、フィーダー細胞または他のいかなる潜在的に異種汚染された試薬も使用せずにヒト線維芽細胞からフットプリントフリーiPSCの産生を支持する新規プロトコール(複数可)を提供する。本明細書に提供されている新規方法および組成物は、以前から公知のmRNA方法の利益を拡大させ、iPSC技術の治療応用に対する残りの障害物を乗り越えるのに役立つであろう。
【0035】
本開示は、全般的には、動態的に調節されたプロセスによる人工多能性幹細胞(iPSC)の作製に、操作された再プログラム化因子(複数可)を使用する方法に関する。より具体的には、本発明は、異なる種類の細胞の再プログラム化に最適化された、従来の再プログラム化因子とトランス活性化ドメインの融合体を含む、再プログラム化因子の組合せを確立するステップと、適切なレベルの導入遺伝子発現をもたらす方法により、これらの因子を合成メッセンジャーRNA(mRNA)として好ましい密度の培養哺乳動物細胞に導入するステップと、規定の条件下で細胞を維持して、以前には達成不可能な効率で再プログラム化をもたらすステップとに関する。本技術分野において公知の他の方法と比較すると、本発明は、再プログラム化に関与する時間、費用および労力を劇的に低下させ、完全にフィーダーフリーおよび異種フリーであり継代を伴わない選択肢を有する。本明細書に開示されている材料および手順は、ヒト線維芽細胞を含む異なる種類の哺乳動物細胞からの人工多能性幹細胞の作製に有用である。
【0036】
本開示の態様はまた、ウイルスベクター、動物性製品またはフィーダー細胞を必要としない、メッセンジャーRNA分子を使用することによる、人体の種々の異なる組織を産生することのできる幹細胞を生成するための方法を提供する。本明細書に開示されている新規方法を使用して、最適条件下において驚くべき予想外の効率で、ヒト線維芽細胞を人工多能性幹細胞(iPSC)へと再プログラム化することができる。
【0037】
本開示は、本明細書に記載されている例示的な再プログラム化因子をコードする「クリーンアップされた」mRNAのカクテルを用いる、非ヒト哺乳動物細胞(例えば線維芽細胞)を処置するための有用なプロセスおよび組成物を提供する。mRNA組成物は、処置した細胞をmRNA分子の導入に関連する細胞死に至らせることなく、使用され得る。一実施形態では、非ヒト哺乳動物細胞は、カニクイザル細胞である。別の実施形態では、カニクイザル細胞は、細胞が様々な局所密度で成長するように、ウェル内で勾配で播種される。
【0038】
定義
本明細書において、本方法による使用に適した細胞として、初代細胞および樹立細胞株、胚性細胞、免疫細胞、幹細胞および分化細胞が挙げられるがこれらに限定されず、その例として、線維芽細胞、実質細胞、造血細胞および上皮細胞を含む、外胚葉、内胚葉および中胚葉に由来する細胞等が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書において、幹細胞は、造血幹細胞、間葉系幹細胞、上皮幹細胞および筋サテライト細胞等、単能性細胞、複能性細胞および多能性細胞;胚性幹細胞および成体幹細胞を含む。一実施形態において、体細胞は、脱分化または再プログラム化される。いかなる適した体細胞を使用してもよい。代表的な体細胞として、線維芽細胞、ケラチノサイト、含脂肪細胞(adipocyte)、筋細胞、臓器および組織細胞、ならびに造血幹細胞を含む造血細胞および短期または長期造血生着をもたらす細胞等が挙げられるがこれらに限定されない様々な血液細胞が挙げられる。最も好ましい細胞型として、ヒト線維芽細胞、ケラチノサイトおよび造血幹細胞が挙げられるがこれらに限定されない。本方法は、脱分化および任意選択で再分化細胞に特に有用であり、細胞ゲノムに永続的な変更を生じない。
【0039】
開示されている方法において有用なRNAは、mRNA、制御性RNAまたはsiRNAもしくはmiRNA等の低分子RNAを含み、1種または複数のmRNAは、細胞を脱分化または再プログラム化するよう機能するポリペプチドをコードする。トランスフェクションの効率は高い。典型的には、トランスフェクトされた細胞集団の90%超が、導入されたRNAを発現するであろう。したがって、細胞に1種または複数の別個のRNAをトランスフェクトすることが可能である。例えば、細胞の集団に、1種もしくは複数の別個のmRNA、1種もしくは複数の別個のsiRNA、1種もしくは複数の別個のmiRNAまたはこれらの組合せをトランスフェクトすることができる。細胞の集団に、複数のRNAを単一の投与において同時にトランスフェクトすることができ、あるいは複数の投与を、数分間、数時間、数日間または数週間置いて交互に行うことができる。複数の別個のRNAのトランスフェクションを交互に行うことができる。例えば、1種または複数の追加的なRNAの発現に先立ち、第1のRNAが発現されることが望ましい場合に。
【0040】
インプットRNAの量を変化させて、各トランスフェクトされたRNAの発現レベルを個々に制御できるようにすることにより、トランスフェクトされたRNAの発現のレベルを広範囲にわたって操作することができる。インプットRNAの有効量は、所望の結果に基づき決定される。さらに、PCRに基づくmRNA産生技法は、異なる構造およびドメイン組合せを有するmRNAの設計を容易にする。開示されている方法において有用なRNAは、本技術分野において公知のものであり、標的宿主細胞型と、操作しようとする経路もしくは細胞活性、または治療応用に基づき選択されるであろう。細胞の脱分化、例えば、成体の分化した体細胞を幹細胞へと転換するのに有用な構築物は、公知の遺伝子、mRNAまたは他のヌクレオチドもしくはタンパク質配列に基づき構築することができる。
【0041】
本明細書において互換的に使用されている用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかである、いずれかの長さのポリマー型のヌクレオチドを指す。よって、この用語は、一本、二本または複数鎖DNAまたはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA−RNAハイブリッド、あるいはプリンおよびピリミジン塩基または他の天然、化学もしくは生化学的に修飾された非天然または誘導体化ヌクレオチド塩基を含むポリマーを含むがこれらに限定されない。「オリゴヌクレオチド」は一般に、一本または二本鎖DNAである約5〜約100ヌクレオチドの間のポリヌクレオチドを指す。しかし、本開示の目的において、オリゴヌクレオチドの長さに上限は存在しない。オリゴヌクレオチドは、オリゴマーまたはオリゴとしても公知のものであり、遺伝子から単離することができ、あるいは本技術分野において公知の方法により化学合成することができる。
【0042】
本明細書において、用語「マイクロRNA」は、いずれかの種類の干渉RNAを指し、例として、内在性マイクロRNAおよび人工マイクロRNA(例えば、合成miRNA)等が挙げられるがこれらに限定されない。内在性マイクロRNAは、mRNAの生産的利用をモジュレートすることのできる、ゲノムにおいて天然にコードされている低分子RNAである。人工マイクロRNAは、mRNAの活性をモジュレートすることのできる、内在性マイクロRNAを除くいかなる種類のRNA配列であってもよい。マイクロRNA配列は、これらの配列のうちいずれか1種または複数で構成されたRNA分子となり得る。
【0043】
「マイクロRNA前駆体」(または「プレmiRNA」)は、マイクロRNA配列が組み入れられたステム・ループ構造を有する核酸を指す。「成熟マイクロRNA」(または「成熟miRNA」)は、マイクロRNA前駆体(「プレmiRNA」)から切断された、あるいは合成された(例えば、無細胞合成により研究室において合成された)マイクロRNAを含み、約19ヌクレオチド〜約27ヌクレオチドの長さを有する、例えば、成熟マイクロRNAは、19nt、20nt、21nt、22nt、23nt、24nt、25nt、26ntまたは27ntの長さを有し得る。成熟マイクロRNAは、標的mRNAに結合し、標的mRNAの翻訳を阻害することができる。
【0044】
OCT4の例示的なゲノム、mRNA(cDNA)およびタンパク質配列は、本技術分野において公知のものであり、例えば、(OCT4)POU5F1 POUクラス5ホメオボックス[Homo sapiens]遺伝子ID:5460を参照されたい。これは、mRNA(cDNA)配列Genbank受託番号NM_001173531.1、標題Homo sapiens POUクラス5ホメオボックス1(POU5F1)、転写物バリアント3、mRNA;Genbank受託番号NM_002701.4、標題Homo sapiens POUクラス5ホメオボックス1(POU5F1)転写物バリアント1、mRNA;およびGenbank受託番号NM_203289.4、標題Homo sapiens POUクラス5ホメオボックス1(POU5F1)、転写物バリアント2、mRNAを提示する。SOX2の例示的なゲノム、mRNA(cDNA)およびタンパク質配列もまた、本技術分野において公知のものであり、例えば、SOX2 SRY(性決定領域Y)−box2[Homo sapiens]、遺伝子ID:6657を参照されたい。これは、mRNA(cDNA)配列Genbank受託番号NM_003106.2、標題mRNA配列Homo sapiens SRY(性決定領域Y)−box2(SOX2)、mRNAを提示する。NANOGの例示的なゲノム、mRNA(cDNA)およびタンパク質配列もまた、本技術分野において公知のものであり、例えば、NANOG Nanogホメオボックス[Homo sapiens]、遺伝子ID:79923を参照されたい。これは、mRNA(cDNA)配列Genbank受託番号NM_024865.2、標題Homo sapiens Nanogホメオボックス(NANOG)、mRNAを提示する。LIN28の例示的なゲノム、mRNA(cDNA)およびタンパク質配列もまた、本技術分野において公知のものであり、例えば、LIN28AホモログA(C.elegans)[Homo sapiens]、遺伝子ID:79727を参照されたい。これは、mRNA(cDNA)配列Genbank受託番号NM_024674.4、標題Homo sapiens lin−28ホモログA(C.elegans)(LIN28A)、mRNAを提示する。KLF4の例示的なゲノム、mRNA(cDNA)およびタンパク質配列は、本技術分野において公知のものであり、例えば、KLF4クルッペル様因子4(腸)[Homo sapiens]、遺伝子ID:9314を参照されたい。これは、mRNA(cDNA)配列Genbank受託番号NM_004235.4、標題Homo sapiensクルッペル様因子4(腸)(KLF4)、mRNAを提示する。MYCのmRNA配列もまた、本技術分野において公知のものであり、例えば、MYC v−myc骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子ホモログ(トリ)[Homo sapiens]、遺伝子ID:4609を参照されたい。これは、mRNA(cDNA)配列Genbank受託番号NM_002467.4、標題Homo sapiens v−myc骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子ホモログトリ)(MYC)、mRNAを提示する。
【0045】
「ステム・ループ構造」は、主として一本鎖ヌクレオチド(ループ部分)の領域により一側面において連結された二本鎖(ステム部分)を形成することが公知または予測されるヌクレオチドの領域を含む、二次構造を有する核酸を指す。用語「ヘアピン」および「折り畳み」構造もまた、ステム・ループ構造を指すように本明細書において使用されている。係る構造は、本技術分野において周知のものであり、これらの用語は、本技術分野におけるその公知の意義と一貫して使用されている。二次構造が存在するのであれば、ステム・ループ構造内のヌクレオチドの実際の一次配列は、本発明の実施に決定的ではない。本技術分野において公知の通り、二次構造は、正確な塩基対形成を要求しない。よって、ステムは、1個または複数の塩基ミスマッチを含むことができる。あるいは、塩基対形成は、正確であってもよい、即ち、いかなるミスマッチも含まない。
【0046】
本明細書において、用語「幹細胞」は、増殖するよう誘導することのできる未分化細胞を指す。幹細胞は、自己保全を行うことができ、これは、各細胞分裂により、一方の娘細胞も幹細胞となることができることを意味する。幹細胞は、胚性、胎児、出生後、若年期または成体組織から得ることができる。用語「先駆細胞」は、本明細書において、幹細胞に由来する未分化細胞を指し、これ自体は幹細胞ではない。一部の先駆細胞は、2種以上の細胞型に分化することができる後代を産生することができる。
【0047】
用語「人工多能性幹細胞」(または「iPS細胞」)は、本明細書において、体細胞、例えば、分化した体細胞から誘導された幹細胞を指し、前記体細胞よりも高い潜在能力を有する。iPS細胞は、自己再生し、成熟細胞、例えば、平滑筋細胞へと分化することができる。iPSは、平滑筋先駆細胞へと分化することもできる。
【0048】
本明細書において、細胞に関する用語「単離された」は、細胞が天然に発生する環境とは異なる環境に存在する細胞を指し、例えば、細胞が多細胞生物において天然に発生し、細胞がこの多細胞生物から取り出される場合、細胞は「単離された」。単離された遺伝子改変宿主細胞は、遺伝子改変宿主細胞の混合集団、または遺伝子改変宿主細胞および遺伝子改変されていない宿主細胞を含む混合集団に存在し得る。例えば、単離された遺伝子改変宿主細胞は、in vitroにおける遺伝子改変宿主細胞の混合集団、または遺伝子改変宿主細胞および遺伝子改変されていない宿主細胞を含む混合in vitro集団に存在し得る。
【0049】
「宿主細胞」は、本明細書において、in vivoまたはin vitro細胞(例えば、単細胞実体として培養された真核細胞)を表示し、このような真核細胞は、核酸(例えば、外来性核酸)のレシピエントとして使用することができ、あるいは使用されたことがあり、核酸により遺伝子改変された本来の細胞の後代を含む。単一の細胞の後代は、天然、偶発的または計画的な突然変異によって、本来の親と形態またはゲノムまたは総DNA相補体が必ずしも完全に同一でなくてもよいことが理解される。
【0050】
用語「遺伝的改変」は、新たな核酸(即ち、細胞にとって外来性の核酸)の導入後に細胞において誘導された、永続的なまたは一過性の遺伝的変化を指す。遺伝的変化(「改変」)は、新たな核酸を宿主細胞のゲノムへと組み入れることにより、あるいは新たな核酸を染色体外エレメントとして一過的または安定的に維持することにより達成することができる。細胞が真核細胞である場合、永続的な遺伝的変化は、細胞のゲノムへの核酸の導入により達成することができる。遺伝的改変の適した方法として、ウイルス感染、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接的マイクロインジェクションその他が挙げられる。
【0051】
本明細書において、用語「外来性核酸」は、自然状態の細胞に正常にはまたは天然には存在しないおよび/もしくは産生されない、ならびに/または細胞に導入される(例えば、エレクトロポレーション、トランスフェクション、感染、リポフェクションまたは細胞へと核酸を導入するその他の手段による)核酸を指す。
【0052】
本明細書において、用語「処置」、「処置する」その他は、所望の薬理学および/または生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患またはその症状の完全または部分的防止の観点から予防的であっても、ならびに/または疾患および/もしくは疾患に起因し得る有害な影響の部分的または完全治癒の観点から治療的であってもよい。
【0053】
「処置」は、本明細書において、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のいかなる処置も網羅し、(a)疾患の素因を有する可能性があるが、そうであるとは未だ診断されていない対象における疾患発生の防止;(b)疾患の阻害、即ち、その発症の停止;および(c)疾患の緩和、即ち、疾患を退行させることを含む。
【0054】
本明細書において互換的に使用されている用語「個体」、「対象」、「宿主」および「患者」は、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類(例えば、マウス、ラット等)、有蹄動物、イヌ、ウサギ類、ネコ等が挙げられるがこれらに限定されない哺乳動物を指す。一部の実施形態において、対象とする対象はヒトである。一部の実施形態において、対象は、サル、齧歯類またはウサギ類等、非ヒト動物である。
【0055】
「治療有効量」または「効果的な量」は、疾患を処置するために対象に投与されると、疾患の係る処置をもたらすのに十分な化合物、核酸または多数の細胞の量を意味する。「治療有効量」は、化合物または細胞、疾患およびその重症度、ならびに処置しようとする対象の年齢、体重等に応じて変動するであろう。
【0056】
本発明をさらに説明する前に、当然ながらこれは変動し得るため、本発明は、記載されている特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書に使用されている用語法は、単に特定の実施形態を説明することを目的とし、限定を企図していないことも理解されたい。
【0057】
値の範囲が提示されている場合、文脈がそれ以外を明らかに指示しない限り、下限の単位の10分の1までの該範囲の上限および下限の間の各介在値、ならびに該規定範囲におけるその他の規定値または介在値は、本発明の範囲内に包含されることが理解される。このようなより小さい範囲の上限および下限は、より小さい範囲に独立的に含まれることができ、これもまた本発明の範囲内に包含され、規定範囲におけるいずれかの特に除外された限界の対象となる。規定範囲が、限界の一方または両方を含む場合、含まれている限界のいずれか一方または両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれている。
【0058】
他に定めがなければ、本明細書に使用されているあらゆる技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意義を有する。本発明の実施または検査において、本明細書に記載されているものと類似または均等のいかなる方法および材料を使用してもよいが、好ましい方法および材料は、本明細書に記載されている。刊行物の引用に関連する方法および/または材料を開示および記載するために、本明細書に言及されているあらゆる刊行物を、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用する。
【0059】
本開示の一態様において、mRNAに基づく再プログラム化は、N末端MyoDトランス活性化ドメイン(Hiraiら、Stem Cells、2011年)またはVP16トランス活性化ドメインのC末端三重反復(Wangら、EMBO Reports、2011年;この場合、VP16トランス活性化ドメインをOCT4(Pou5f1としても公知)、NANOGおよびSOX2それぞれに融合することにより合成再プログラム化因子を調製し、これら合成因子は、強化された効率かつ加速された動態でマウスおよびヒト線維芽細胞の両方を再プログラム化することができた)を組み入れたOct4またはSox2の操作されたバリアントの使用により、あるいは2種の追加的な因子、RargおよびLrh−1による「標準」RFカクテルの増大化(Wangら、PNAS、2011年)により強化することができる。これら文献それぞれの内容を、これによりここに本明細書の一部を構成するものとして援用する。強力な転写活性化因子は、DNAの特異的部位に結合すると、複数のクロマチンリモデリング複合体を有効に動員することができる。良い一例として、分化細胞の運命をスイッチすることができる骨格筋形成のマスター転写因子であるMyoDが挙げられる。Hiraiらは、MyoDは、このように強力な転写因子であるため、一体に融合させた場合にiPS因子のクロマチン到達性を増加させることができると推察した。Sox2およびKlf4と共にOct−MyoD TAD融合遺伝子を保有するレトロウイルスベクターによりマウスまたはヒト細胞を形質導入すると、正準iPS因子と比較してiPSCコロニー数がほぼ50倍増加された。同様に、頑強な転写活性化因子であると広く公知のVP16は、異なるiPS因子に融合すると、再プログラム化において強力な刺激効果を提示することができる。
【0060】
ヒトiPSCの例示的な調製
本方法を細胞の再分化または再プログラム化に広く使用して、例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞、上皮幹細胞および筋サテライト細胞、または赤血球細胞、リンパ球を含む白血球細胞、血小板、ストローマ細胞、脂肪細胞、破骨細胞を含む骨細胞、皮膚細胞を含む上皮組織、平滑筋、骨格筋および心筋を含む筋組織、内皮細胞を含む血管組織、肝細胞を含む肝臓組織ならびにニューロンを含む神経組織等が挙げられるがこれらに限定されないヒト組織の分化細胞を形成するようさらにモジュレートすることのできるiPS細胞を産生することもできる。心筋細胞、造血幹細胞、破骨細胞等の骨細胞、肝細胞、網膜細胞およびニューロン等が挙げられるがこれらに限定されない様々な分化細胞型へとiPS細胞の分化を誘導する方法。単離された胚性幹細胞、造血幹細胞および人工多能性幹細胞等が挙げられるがこれらに限定されない幹細胞は、分化を誘導するRNAの一過性トランスフェクションにより、分化するよう誘導することができる。その上またはその代わりに、細胞型特異的条件下で細胞を培養することにより、細胞を再分化させることができる。例えば、iPS細胞は、CF−1フィーダーにおいて維持し、その後フィーダーフリー条件に適応させることができる。ノギン、Dkk−1およびIGF−1の存在下で細胞を培養することにより、iPS細胞を誘導して分化した網膜細胞を形成させることができる。
【0061】
以前に報告された方法論は、改変された因子を運ぶために、組み込み型ベクター、即ち、ウイルスまたはプラスミドに利用していた。一実施形態において、mRNA再プログラム化のための5種の因子(Oct4、Sox2、Klf4、cMyc−T58AおよびLin28)の転写物を含む6種の異なるmRNA組合せカクテル、またはRargおよびLrh−1を含む7再プログラム化因子RFカクテルの性能を比較しつつ、再プログラム化試行を行い、野生型Oct4ならびにMyoD−およびVP16−Oct4融合構築物(それぞれM
3OおよびVPx3と命名)に基づく3種の変種において各組合せを検査した。フィーダーに基づく再プログラム化培養において11日間BJ線維芽細胞をトランスフェクトし、この時点までに、ウェルのいくつかにおいて進行した形態が明らかとなった。続く数日間にわたって、野生型Oct4およびM
3Oに基づくカクテルをトランスフェクトしたウェルにおいて、特徴的なhESC形態を有するコロニーが出現した。VPx3トランスフェクト培養における標的細胞は、加速的な成長およびフォーカスに凝集する一部の傾向およびコロニー出現なしを示してはいたが、線維芽細胞の形態を保持していた。野生型Oct4およびM
3Oに基づくカクテルの5因子および7因子の実施形態は、同様のコロニー生産性を示し、したがって、カクテルにおけるRargおよびLrh−1の包含による利点は生じなかった。しかし、M
3Oカクテルは、野生型Oct4により産生されたコロニーの数倍の数を生じた。この結果を踏まえ、増大化およびさらなる解析のために、M
3O 5因子ウェルからコロニーを採取した(
図1)。核および細胞表面マーカーの免疫染色により、また、3種の一次胚葉へのin vitro分化により、M
3O由来コロニーの多能性を確認した。6種の増大化させたiPSCクローンを、核型解析およびDNAフィンガープリント法に付したところ、全事例において細胞の核型の正常性およびBJ系列が確認された。
【0062】
本方法を細胞の再分化または再プログラム化に広く使用して、例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞、上皮幹細胞および筋サテライト細胞、または赤血球細胞、リンパ球を含む白血球細胞、血小板、ストローマ細胞、脂肪細胞、破骨細胞を含む骨細胞、皮膚細胞を含む上皮組織、平滑筋、骨格筋および心筋を含む筋組織、内皮細胞を含む血管組織、肝細胞を含む肝臓組織ならびにニューロンを含む神経組織等が挙げられるがこれらに限定されないヒト組織の分化細胞を形成するようさらにモジュレートすることができるiPS細胞を産生することもできる。心筋細胞、造血幹細胞、破骨細胞等の骨細胞、肝細胞、網膜細胞およびニューロン等が挙げられるがこれらに限定されない様々な分化細胞型へとiPS細胞の分化を誘導する方法は、本技術分野において公知のものである(Songら、Cell Res.、19巻(11号):1233〜42頁(2009年)、Lambaら、PLoS One、5巻(1号):e8763頁(2010年)、Gaiら、Cell Biol Int.200933巻(11号):1184〜93頁(2009年)、Grigoriadisら、Blood、115巻(14号):2769〜76頁(2010年))。単離された胚性幹細胞、造血幹細胞および人工多能性幹細胞等が挙げられるがこれらに限定されない幹細胞は、分化を誘導するRNAの一過性トランスフェクションにより、分化するよう誘導することができる。その上またはその代わりに、細胞型特異的条件下で細胞を培養することにより、細胞を再分化させることができる。例えば、iPS細胞は、CF−1フィーダーにおいて維持し、その後フィーダーフリー条件に適応させることができる。ノギン、Dkk−1およびIGF−1の存在下で細胞を培養することにより、iPS細胞を誘導して分化した網膜細胞を形成させることができる。別の態様において、mRNAカクテルの効力は、Nanog転写物の包含によりさらに強化させることができる。本実施形態において、フィーダーにおいて50K BJ線維芽細胞を含有する4個のウェルに、野生型Oct4またはM
3Oに基づく5因子または6因子カクテルを6日間トランスフェクトし、次に、各培養物を新鮮なフィーダーにおいて1:6継代して、6ウェルプレート(4)に定着させた。各プレート内でさらに0〜5日間トランスフェクションを継続した。iPSC生産性における異なるカクテルおよびトランスフェクション時間経過の影響を評価するために、18日目に(0日目は、第1のトランスフェクションに相当する)培養物を固定し、TRA−1−60抗体で染色した。結果は、カクテルへのNanogの追加が、用いたOct4バリアントに関係なく非常に有益であり、一方、M
3OおよびNanogを共に使用した場合に最大の転換効率が獲得されたことを示した。
【0063】
一実施形態において、3種の追加的なヒト線維芽細胞株(HDF−f、HDF−nおよびXFF)を使用した追加的なフィーダーに基づく実験において、M
3Oに基づく5因子または6因子カクテルの有効性を確認した。再プログラム化動態および効率は、正常増大化培養においてBJよりも速い自然集団倍加時間を呈したこれら低継代系統の全3種により、顕著に改善された。一部の事例において、本出願人らは、早くもトランスフェクション6日間からhESC様コロニーを得たが、収量は、さらに数日間トランスフェクションを継続した実験においてはるかに高かった。新鮮な細胞の添加によるフィーダー層の定期的補強に関与する実験は、この戦略はいくらかの利益をもたらし得るが、得られたプロトコールの複雑さにより相殺されるであろうことを示唆した。したがって、本出願人らは、合理化されたフィーダーフリープロトコールの開発へと、より強力なカクテルを適用することに集中すると決断した。
【0064】
本開示は、フィーダーフリーiPSCの作製に関する。フィーダー非依存的iPSC誘導は、一般に、用いられている再プログラム化技術に関係なく幾分厄介であるが、持続的トランスフェクションレジメの文脈において特殊な困難を生じることが判明した。細胞生存率および増殖活性を損なうことなく線維芽細胞を蒔くことのできる密度には下限が存在する。低密度培養において有糸分裂停止またはアポトーシスを行うという細胞の性向は、再プログラム化因子のトランスフェクションおよび異所性発現により細胞にストレスを与えると増悪される。さらに、フィーダーに基づく再プログラム化に特徴的な高い細胞密度において優れた耐容性を示すRNA用量は、より少ない細胞の間に分布させるとより過酷な細胞毒性効果を生じる。同時に、mRNAトランスフェクションにより達成することができる発現の浸透率は、線維芽細胞がコンフルエンスに達した後に激しく減退するが、これはおそらく、接触阻害およびG1停止に伴うエンドサイトーシスの下方制御のためであろう。込み入った培養におけるトランスフェクションに対する寛容性のこのような低下は、細胞が間葉系−上皮移行(MET)を行った後の再プログラム化において軽減されると考えられる。しかし、本mRNAカクテルを使用した場合にヒト線維芽細胞がMETに達するにはほぼ7日間が典型的に必要とされることは、細胞を最低生存可能な初期密度で蒔いたとしても、線維芽細胞過成長の問題の阻止を困難にする。継代することにより細胞を疎らにして、この運命を先延ばしにすることができるが、非常にストレスを与えられた再プログラム化中間体のプレーティング効率は予測が難しく、いずれの場合においても、継代に基づく誘導プロトコールは、簡便さを犠牲にし、ハイスループット適用にはスケールを不十分にするであろう。ある特定の実施形態では、細胞はまた、異なる局所細胞密度が反復的トランスフェクションを容易にし得るように、ウェル内で勾配で播種され得る。
【0065】
本開示は、METの表現型指標に関する(線維芽細胞プロセスの退行ならびにフォーカスおよび玉石形態の出現)。一実施形態において、METは、強化されたカクテルを使用した本出願人らの発明により加速され、これは、6因子M
3Oカクテルを使用し、継代なしで、標的細胞を種々の低密度(ウェル当たり50K対100K対150K)で播種して、フィーダーフリー再プログラム化を可能にした。別の実施形態では、細胞は、ウェル当たり約15Kから500K細胞にわたる全細胞数の密度勾配で播種される。
【0066】
本発明の一態様は、播種密度に対する高度な感受性が判明した再プログラム化培養物の運命に関し、これはおそらく、過剰な細胞毒性および線維芽細胞過成長の効果の両方が、トランスフェクションレジメの過程にわたって自己補強しているためである。「標準」RNA投薬(ウェル当たり1200ng)を使用する実験において、ウェル当たり100Kで蒔いたHDF−nおよびXFF線維芽細胞から、数十個のhESC様コロニーを得たが、相当する50Kおよび150K培養物は、それぞれ集団衝突および線維芽細胞過成長に陥った後に、数個のコロニーのみを生じた。2種の他の線維芽細胞株BJおよびHDF−aを用いて試みた誘導において、最も有望な(150K)培養物であっても、コンフルエンスに達した直後に実質的に静止状態となり、その後、遅延した動態で孤発性コロニーのみを生じた。
【0067】
本発明の一態様は、in vitroで転写されたmRNAをサイズ排除クロマトグラフィーを介して精製して、それら自体でまたはmRNAと共にdsRNA構造を形成し得る異常なRNA種を除去し、細胞性免疫応答を引き起こすことに関する。このような「クリーンアップされた」mRNA、すなわち、細胞免疫原性が低下したmRNAを使用することで、勾配密度で成長した非ヒト霊長類細胞を有効に再プログラム化できた。
【0068】
本発明の特異的な一実施形態において、本出願人らは、ストレス誘導性細胞老化を最小化する試みにおいて、外界から5%酸素培養へとスイッチし、トランスフェクションの最初の4日間をかけて4分の1用量から完全RNA投薬へと徐々に増やした。
【0069】
これら新たな条件を使用した本発明の一例において、本発明者らは、c−MycをL−Mycに置換することにより再プログラム化カクテルをさらに改善することができるか検査した。
【0070】
別の実施形態において、本出願人らは、別々のステップにおいて4時間早く送達するのではなく、毎日の培地交換により細胞にRNAを添加する、単純化されたトランスフェクションスキームを評定した。「24時間トランスフェクション」ウェルにおいてRNA投薬をスケールダウンして、予想される細胞毒性増加を代償し、2種の異なるトランスフェクション試薬を検査した(RNAiMAXおよびStemfect)。ウェル当たり50KでXFF細胞を蒔き、9日間トランスフェクトした。従来の「4時間トランスフェクション」レジメは、c−Mycに基づくカクテルにより、ウェル当たりおおよそ百個のTRA−1−60
+コロニーを生じたが、一方、L−Mycカクテルの結果は比較的不十分であった(
図2)。「24時間トランスフェクション」培養の結果は、さらにまた印象的であった。これらのウェルのうち最も生産的なウェルにおいて(c−Myc 400ng/ml Stemfect条件に相当する)、9日目、最後のトランスフェクションの24時間後に、培養物はほぼ過成長となり、hESC様細胞を有した。「24時間トランスフェクション」のより優れた性能の機構的基盤は、細胞により放出される拡散性因子を濃縮することにより、疎らな培養の有効密度増加の効果を有したものと思われる。このような好ましいプロトコール条件を別の実例的実験において適用した場合、ウェル当たり75K細胞で播種した培養におけるHDF−a線維芽細胞を使用した誘導において、生産性は、高度に増殖性のXFF細胞により達成されるものよりも注目に値しなかったが、早くもプロトコール9日目までに多数のhESC様コロニーが再度出現した(
図4)。
【0071】
特定の一実施形態において、一般に使用される容量よりも少ない培地容量で、例えば、1ml、0.75ml、0.5mlまたは細胞培養を持続することができる最小量の培地で細胞を播種した場合、上に開示されている条件を使用した再プログラム化の効率は明らかに改善される。これにより、再プログラム化における係る少容量条件を本発明に組み入れる。
【0072】
本明細書に記載してきた実施形態は、決して本発明の適用のみではない。当業者であれば、本開示が、やや可変的な条件下における、または再プログラム化、定方向分化もしくは分化転換のための従来のもしくは操作された因子の同様の組合せによる、他の細胞の再プログラム化にも有用であることを認識するであろう。
【0073】
他の実施形態において、因子化学量論の最適化も、再プログラム化のペースを強化することができる。mRNA方法は、独立的にipPSC誘導の初期および後期に取り組むカクテルを定義する機会を与える。M3Oの使用から得られる利益は、iPSC生成への新規の操作された再プログラム化因子の最近の適用に関する検証をもたらす。係る操作された再プログラム化因子は、SOX2、KLF4、CMYC、LMYC、LIN28、NANOG等と、GAL4、GATA1、P53等、VP16またはMYOD以外の因子由来のトランス活性化ドメインの融合を含む。mRNAの送達に使用される試薬および方法論は、siRNAおよびmiRNAを同時トランスフェクトするのに使用することもでき、これは、iPSC作製に有益であることが既に判明した。にもかかわらず、本明細書に開示されているフィーダーフリープロトコールは、現在のプロトコールを上回る相当な進歩を表し、再プログラム化に要求される時間を半分にまで低下させ、同等またはこれを超える労力および材料費の低下をもたらし、手順から手間のかかるステップを取り除き、増殖因子またはサイトカインとほぼ同じ容易さで、即ち、培地サプリメントとしてmRNAを細胞に送達する。
【0074】
一部の実施形態において、細胞は、免疫応答をモジュレートするよう再プログラム化される。例えば、リンパ球は、再プログラム化されて制御性T細胞となり、それを必要とする患者にこれを投与して、免疫寛容、特に自己寛容を増加または移植することができる。Foxp3陽性T細胞の誘導または投与は、移植片拒絶等、自己免疫応答の低下において、および/または糖尿病、多発性硬化症、喘息、炎症性腸疾患、甲状腺炎、腎臓疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円形脱毛症(alopecia greata)、強直性脊椎炎(anklosing spondylitis)、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ球増殖性症候群(ALPS)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー・皮膚炎、慢性疲労症候群・免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、デゴス病、皮膚筋炎、皮膚筋炎−若年性、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症−線維筋炎、グレーブス病、ギラン・バレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病(I型)、若年性関節炎、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性(polyglancular)症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎・皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、血管炎、白斑およびウェゲナー肉芽腫症等、自己免疫性疾患もしくは障害の1種もしくは複数の症状の低下、阻害もしくは抑制において有用となり得る。
【0075】
本方法を使用して、パーキンソン、アルツハイマー病、創傷治癒および多発性硬化症等の疾患等が挙げられるがこれらに限定されない、種々の疾患および障害の処置において有用となり得る細胞を生成することができる。本方法は、臓器再生および免疫系の回復または補給にも有用である。例えば、iPS細胞、造血幹細胞、複能性細胞または前駆体細胞等の単能性細胞、例えば、上皮前駆体細胞その他等、異なる分化ステージの細胞は、静脈内投与または局所的外科手術により投与することができる。本方法は、処方薬レジメ、外科手術、ホルモン療法、化学療法および/または放射線療法等、他の従来方法と組み合わせて使用することができる。
【0076】
一実施形態において、キットは、RNA、細胞、およびRNAを細胞にトランスフェクトするための手段を含む。RNAは、凍結乾燥させても、溶液中に溶解されてもよい。キットは、細胞培養試薬等、他の材料を任意選択で含むことができる。代替的な実施形態において、キットは、開示されている方法に従って調製され、後の使用のために冷蔵または冷凍されて貯蔵および/または輸送された、再分化、脱分化または再プログラム化された細胞を提供する。細胞は典型的に、溶液中に貯蔵されて、生存率を維持する。細胞を含有するキットは、細胞が4℃より低く、好ましくは−20℃より低く維持されるように、ドライアイスを含有する冷却器内等、生存率に相応の方法を使用して貯蔵または輸送するべきである。
【0077】
本キットは、次のうち1種または複数を任意選択で含む:生物活性剤、培地、賦形剤および次のうち1種または複数:シリンジ、針、糸、ガーゼ、包帯、消毒薬、抗生物質、局所麻酔薬、鎮痛剤、外科用の糸、ハサミ、外科用のメス、無菌液および無菌容器。キットの構成成分は、個々に包装することができ、無菌となり得る。キットは一般に、商業販売に適した器、例えば、プラスチック、ボール紙または金属の器の中に提供される。キットのいずれかは、使用説明書を含むことができる。本方法は、パーキンソン、アルツハイマー病および多発性硬化症等、神経変性疾患等が挙げられるがこれらに限定されない、種々の疾患および障害の処置において有用となり得る細胞の生成に使用することができる。本明細書に開示されている方法は、臓器再生および免疫系の回復または補給にも有用である。例えば、iPS細胞、造血幹細胞、複能性細胞または前駆体細胞等の単能性細胞、例えば、上皮前駆体細胞その他等、異なる分化ステージの細胞は、静脈内投与または局所的外科手術により投与することができる。本方法は、処方薬レジメ、外科手術、ホルモン療法、化学療法および/または放射線療法等、他の従来方法と組み合わせて使用することができる。
【0078】
本開示の態様は、幹細胞の培養系、創傷処置のための皮膚組織細胞を産生するための分化方法、ならびに関節炎、ループスおよび他の自己免疫関連疾患の処置のための幹細胞療法を提供する。
【実施例】
【0079】
次に、以下の実施例を参照しつつ本発明を説明する。これらの実施例は、単なる説明目的のために示されており、本発明は、これら実施例に限定されないが、それどころか、本明細書に提示されている教示の結果明らかなあらゆる変種を包含する。
【0080】
(実施例1)
IVT鋳型の作製
ライゲーション非依存性クローニング(Ligation Independent Cloning)(LIC)を使用して、直鎖状PCR産物in vitro転写(IVT)鋳型を生成するためのプラスミド構築物を構築した。本出願人らは先ず、対象とするタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)インサートを受け入れるよう設計された挿入部位に隣接する5’および3’非翻訳領域(UTR)を組み入れた、親プラスミド(pIVT)を構築した。ORF隣接配列は、Warrenら、Cell Stem Cell、2010年に記載されている通りのものであり、低二次構造リーダーおよび強力なコザック(Kozak)部位(5’UTR)ならびにマウスα−グロビン3’UTRを含む。テイルド(tailed)プライマーを使用してプラスミドから増幅された2種のPCR産物の再アニーリングにより、5’オーバーハングを有する直鎖化バージョンのPIVTベクターを産生した。相補的オーバーハングを有するORF PCR産物を類似の手順により産生し、ベクターPCR産物と共にプールし、熱ショックによりDH5α細菌に形質転換して、遺伝子特異的構築物(pIVT−KLF4等)をクローニングした。得られたプラスミドを鋳型PCR反応に使用して、Warrenら、Cell Stem Cell、2010年に記載されている通り、T7プロモーター、UTR隣接ORF、およびポリAテイルの付加を駆動するためのT120テイル
(配列番号1)を組み入れた直鎖状IVT鋳型を作製した。テイルドリバースプライマー(T120CTTCCTACTCAGGCTTTATTCAAAGACCA
(配列番号2))の使用により、T120テイル
(配列番号1)領域を導入した。M
3OおよびVPx3融合構築物に関して、トランス活性化ドメインをコードする配列を、テイルドプライマーを使用したPCRによりORFに付け加えた。PCR産物鋳型ストックをほぼ100ng/uLの濃度で維持した。
【0081】
(実施例2)
mRNAカクテルの産生
mRNA合成プロセスを
図5にまとめる。4:1比のARCAキャップアナログ対GTPを使用したIVT反応において合成mRNAを生成して、高いパーセンテージのキャッピングされた転写物を生成した。CTPを5m−CTPで、UTPをシュード(Pseudo)−UTPで完全置換したヌクレオチド三リン酸(NTP)ミックスを用いて、RNA産物の免疫原性を低下させた。キャップアナログおよび修飾NTPは、Trilink Biotechnologiesから購入した。2.5×NTPミックスを調製して(ARCA:ATP:5m−CTP:GTP:シュード−UTP、15:15:3.75:3.75:3.75mM)、IVT反応の実施に使用されるMEGAscript T7キット(Ambion)により提供された標準NTPを置き換えた。各40uLのIVT反応液は、16uLのNTPミックス、4uLの10×T7バッファー、16uLのDNA鋳型および4uLのT7酵素を含んだ。反応液を37℃で4〜6時間インキュベートし、次に2uLのTURBO DNaseでさらに37℃で15分間処理し、その後、MEGAclear(Ambion)スピンカラムにおいて精製し、100uLの容量においてRNA産物を溶出した。キャッピングしていない転写物から免疫原性5’三リン酸部分を除去するため、10uLのAntarcticホスファターゼ反応バッファーおよび3uLのAntarcticホスファターゼ(NEB)を各プレップに加えた。ホスファターゼ反応液を37℃で30分間インキュベートし、IVT産物を再精製した。Nanodrop(Thermo Scientific)によりRNA収量を定量化し、その結果、TE pH7.0(Ambion)の添加によりプレップを標準化作業濃度100ng/uLに調整した。所望の化学量論比において様々なRFを表すプレップをプールすることにより、RNAカクテルを集合させた。使用した各RFの分率は、それぞれの転写物の予測される分子量を考慮し、3×モル濃度で含まれたOct4およびその誘導体以外の全RFは、等モルであった。短命の核化(nuclearized)単量体LanYFP蛍光タンパク質をコードするmRNAの10%スパイクをカクテルに加えて、再プログラム化試行におけるトランスフェクション効力のモニターを容易にした。他の実施形態では、mRNAは、全ウラシルの25%または10%の2−チオウラシルを使用することによっても産生された(
図6を参照されたい)。
【0082】
(実施例3)
細胞および培養培地
再プログラム化に標的化された細胞は、BJ新生児線維芽細胞(ATCC)、HDF−f胎児線維芽細胞、HDF−n新生児線維芽細胞およびHDF−a成体線維芽細胞(ScienCell)およびXFF異種フリー新生児線維芽細胞(Millipore)を含んだ。それぞれBJ、HDFおよびXFF細胞のために、BJ培地(DMEM+10%FBS)、ScienCell線維芽細胞培地およびFibroGRO異種フリーヒト線維芽細胞増大化培地(Millipore)において増大化培養を行った。使用したフィーダー細胞は、3001G放射線照射新生児ヒト包皮線維芽細胞(GlobalStem)およびFibroGROマイトマイシンC不活性化異種フリーヒト新生児線維芽細胞(Millipore)であった。異種フリーフィーダーに基づくおよびフィーダーフリー再プログラム化試行に該当する細胞継代ステップは、TrypLE Select(Gibco)、動物性製品フリー細胞解離試薬を使用して行った。
【0083】
(実施例4)
ヒト線維芽細胞の再プログラム化
メーカーの指示書に従って、CELLstart(Gibco)異種フリー基質でコーティングされた6ウェル組織培養プレートにおいて、記載されている全再プログラム化実験を行った。最初のBJ再プログラム化実験において、FBS含有BJ培地を使用して、GlobalStemフィーダーをウェル当たり250Kで蒔いた。後のフィーダーに基づく試行の一部において、播種密度を増加させ、新規RFカクテルを使用して直面する高い損耗率に応じてほとんどコンフルエントなフィーダー層を持続する試みにおいて、培地交換の際に臨機応変にフィーダーを補充した。異種フリーフィーダーは、使用するのであれば、血清を含まないPluritonに基づく再プログラム化培地に蒔いた。Pluriton無血清培地(Stemgent)プラス抗生物質、Pluritonサプリメントおよび200ng/ml B18Rインターフェロン阻害剤(eBioscience)に標的細胞を蒔いた。再プログラム化の間とその後に、培地を毎日交換し、最終トランスフェクション翌日にB18R補給を中断した。再プログラム化の間に新鮮なフィーダーにおいて細胞を分割した実験において、再プレーティングに使用される培地に10uM Y27632(Stemgent)を含めた。標的細胞播種の翌日にトランスフェクションを開始し、これを本文に示す持続時間において24時間間隔で反復した。他に注記されている場合を除き、毎日の培地交換の4時間前にRNAiMAX(Invitrogen)を使用して、1200ngのRNA用量を各ウェルに送達した。100ng/uLのRNAをカルシウム/マグネシウム不含DPBSに5×希釈し、1ugのRNA当たり5uLのRNAiMAXを同じ希釈液に10×希釈し、これらをプールして10ng/uLのRNA/媒体懸濁液を産生し、15分間の室温インキュベーション後に培養培地に分注することにより、RNAiMAXに基づくトランスフェクションカクテルを作製した。Stemfect試薬(Stemgent)を使用するトランスフェクションに関して、RNAおよびStemfect(1ugのRNA当たり4uL)をStemfectバッファーにおいて混合して、10ng/uLのRNA濃度を得た。混合物を15分間インキュベートし、次に培養培地に送達した、あるいは後の使用のために冷蔵した。
【0084】
他の実施形態では、ヒト線維芽細胞の再プログラム化を、pluriton以外の培地、例えば、Allle’s Reprogramming培地内でも行った(
図7を参照されたい)。一部の実験ではB18Rを全く使用せず、他の実験では、B18Rを一部のトランスフェクションにおいてのみ使用した。
【0085】
(実施例5)
iPSCコロニーの特徴付け
iPSCコロニー生産性を評価するために、DPBS(カルシウム/マグネシウム含有)中4%パラホルムアルデヒドを使用して再プログラム化培養物を固定し、DPBS(カルシウム/マグネシウム含有)に100×希釈したStainAlive TRA−1−60 Alexa488抗体(Stemgent)で免疫染色した。コロニーを採取し、増大化し、その後に免疫染色して多能性の分子および機能検証のための三血球系分化アッセイを行った。DNAフィンガープリント法および核型解析を行った。奇形腫形成を行い、2セット以上のマウスモデルにおいて確認した。これにより、幹細胞の多能性を実証した。
【0086】
約9日間、場合によっては6日もの短さで、あるいはさらには5日間でiPSCが産生され得るような仕方で、操作された再プログラム化因子および操作されていない再プログラム化因子の組合せと標的細胞とを接触させることによる、非幹細胞を多能性幹細胞へと高度に効率的に再プログラム化するための新規方法を開示する。このようなiPS細胞は、フィーダーフリー、異種フリーおよびフットプリントフリーのiPSCとして産生することができる。考案されたプロセスによる再プログラム化の劇的な効率増加に加えて、新規技術はまた、このように作製されたiPSCが、いかなるウイルスまたはベクターとも接触されていないことから「クリーン」であるという点において、あらゆる以前に公知の技術とは異なる。本発明の有用性は、幹細胞樹立、分化、細胞および発生研究における有用性ならびに臨床応用に関与する実質的にあらゆる分野において見出すことができる。同様の手順は、定方向分化または分化転換において有用となることもできる。
【0087】
(実施例6)
カニクイザル線維芽細胞の再プログラム化
メーカーの指示書に従って、CELLstart(Gibco)基質でコーティングされた6ウェル組織培養プレートにおいて、カニクイザル線維芽細胞を使用する再プログラム化実験を行った。Allele Biotechの無血清培地プラス抗生物質に標的細胞を蒔いた。再プログラム化の間とその後に、B18Rを使用してまたは使用せずに、12日間連続して、新鮮な培地と共に送達される2−チオ修飾型mRNA/トランスフェクション試薬ミックスで、培地を毎日交換した(
図8)。サルiPSCのコロニーは9日目に現れ始め、12日目に、成熟段階、すなわちコンパクトコロニー段階に達した。