(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971577
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】走行経路生成装置及び走行経路生成プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20211111BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
G05D1/02 H
A01B69/00 303G
A01B69/00 303M
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-8344(P2017-8344)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-116608(P2018-116608A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年6月26日
【審判番号】不服2020-17620(P2020-17620/J1)
【審判請求日】2020年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】魚谷 安久
(72)【発明者】
【氏名】島本 出
(72)【発明者】
【氏名】玉谷 健二
(72)【発明者】
【氏名】鈴川 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】新海 敦
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和央
【合議体】
【審判長】
河端 賢
【審判官】
貞光 大樹
【審判官】
見目 省二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−156690(JP,A)
【文献】
特開2013−101573(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/119263(WO,A1)
【文献】
特開平7−281742(JP,A)
【文献】
特開2004−8053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D1/00-1/12
A01B69/00-69/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
境界によって区画された作業地を、出入口通路を通じて出入する作業車のための走行経路生成装置であって、
前記出入口通路の前記境界側の第1端点を始点として位置登録する始点登録部と、
前記作業地の形状を規定する形状特徴点を経過点として位置登録する経過点登録部と、
前記出入口通路の前記境界側の、前記第1端点と対向する第2端点を終点として位置登録する終点登録部と、
前記始点の位置と前記経過点の位置と前記終点の位置とを結ぶことで前記作業地の基本形状を算出する基本形状算出部と、
前記始点と前記終点とを対頂点とするとともに前記基本形状の外形延長線に沿った2辺を有する四角形を前記出入口通路の形状として出入口通路情報を生成する出入口通路情報生成部と、
前記作業地の前記出入口通路以外の領域を作業対象領域とし、当該作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する走行経路生成部と、を備え、
前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置は、前記作業車に搭載された衛星測位モジュールからの測位データに基づく自車位置を利用して算出され、
前記出入口通路情報生成部は、前記出入口通路の形状を表す四角形の前記始点及び前記終点以外の頂点を、前記作業対象領域に接する内点と前記作業対象領域から離れた外点と定義し、前記外点と前記終点とを結ぶ辺から前記始点と前記内点とを結ぶ辺に向かう方向が前記作業車の前記作業対象領域への進入方向とする走行経路生成装置。
【請求項2】
前記内点を登録する内点登録部が備えられている請求項1に記載の走行経路生成装置。
【請求項3】
前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置登録は、前記作業車の前記境界に沿った走行を通じて行われる請求項1又は2に記載の走行経路生成装置。
【請求項4】
前記作業車のコーナ部には、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置に対応付けられる1つ以上の照準点が規定されており、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置は、前記自車位置から前記照準点までの距離によって前記自車位置を修正することで算出される請求項3に記載の走行経路生成装置。
【請求項5】
前記照準点が複数規定されており、前記複数の照準点のうちから有効な照準点が選択可
能である請求項4に記載の走行経路生成装置。
【請求項6】
境界によって区画された作業地を、出入口通路を通じて出入する作業車のための走行経路生成プログラムであって、
前記出入口通路の前記境界側の第1端点を始点として位置登録する始点登録機能と、
前記作業地の形状を規定する形状特徴点を経過点として位置登録する経過点登録機能と、
前記出入口通路の前記境界側の、前記第1端点と対向する第2端点を終点として位置登録する終点登録機能と、
前記始点の位置と前記経過点の位置と前記終点の位置とを結ぶことで前記作業地の基本形状を算出する基本形状算出機能と、
前記始点と前記終点とを対頂点とするとともに前記基本形状の外形延長線に沿った2辺を有する四角形を前記出入口通路の形状として出入口通路情報を生成する出入口通路情報生成機能と、
前記作業地の前記出入口通路以外の領域を作業対象領域とし、当該作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する走行経路生成機能と、
前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置を、前記作業車に搭載された衛星測位モジュールからの測位データに基づく自車位置を利用して算出する機能と、
前記出入口通路の形状を表す四角形の前記始点及び前記終点以外の頂点を、前記作業対象領域に接する内点と前記作業対象領域から離れた外点と定義し、前記外点と前記終点とを結ぶ辺から前記始点と前記内点とを結ぶ辺に向かう方向が前記作業車の前記作業対象領域への進入方向とする機能と、をコンピュータに実現させる走行経路生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業地を自動走行する作業車のための走行経路を生成する走行経路生成装置及び走行経路生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、作業地を自動走行しながら作業を行う作業車が提案されている。このように作業車を自動走行させるためには、走行目標となる走行経路を生成する必要がある。作業地を網羅する走行経路を生成するためには、作業地の形状を正確に把握していることが前提条件となる。圃場などの作業地は、私的な農道などによって区画されているので、一般的な地図から正確な作業地の形状を求めることは困難である。
【0003】
このため、特許文献1には、手動運転されたトラクタが圃場内を走行し、その走行軌跡によって圃場の外形データを取得するティーチング走行が開示されている。そのティーチング走行の手順は、以下のとおりである。
(1)トラクタに運転者が乗り込んで、人為操縦で、圃場に入る。
(2)トラクタのティーチングプログラムを起動させる。
(3)トラクタを圃場の最寄りのコーナに移動させ、枕地耕耘の開始点にトラクタを移動し、耕耘装置を下す。作業地形状算定モジュールは、耕耘装置を下す操作を通じて、その地点を圃場外形のコーナ点とみなす。
(4)一度耕耘装置を上げて、耕耘作業をイメージしながら次のコーナまで進む。
(5)切り返し走行の後、耕耘作業走行開始点に子トラクタを移動し、耕耘装置を下す。
この作業を繰り返して、圃場外形の各コーナ点を入力する。
(6)圃場外形のコーナ点及び圃場出入り口と出入り方向を入力パラメータとして、作業地形状が算定される。
このようにして算定された作業地形状を用いて、枕地の内側に位置する中央作業地をトラクタが自動走行するための走行経路が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−31649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圃場などの作業地では、作業地が畦などの境界によって区画されており、作業車が作業地に出入りするための出入口通路が作業地毎に決まっている。この出入口通路は、傾斜通路であったり、硬く固められた通路であったりして、作業車による作業対象にはならない領域である。しかしながら、特許文献1におけるティーチング走行を通じての作業地形状の算出においては、この出入口通路の存在が無視されている。このため、算出された作業地形状に対して生成された自動走行のための走行経路は、出入口通路に重なる可能性がある。また、走行経路と出入口通路との重なりを避けるため、走行経路が出入口通路から遠く離れた位置に設定されることで、走行経路によってカバーされない作業領域が残されるという問題も生じる。
【0006】
このような実情から、本発明の課題は、作業地における自動走行するための作業対象領域を、簡単かつ正確に算出することが可能な走行経路生成装置及び走行経路生成プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による走行経路生成装置は、境界によって区画された作業地を、出入口通路を通じて出入する作業車のための装置であり、前記出入口通路の前記境界側の第1端点を始点として位置登録する始点登録部と、前記作業地の形状を規定する形状特徴点を経過点として位置登録する経過点登録部と、前記出入口通路の前記境界側の、前記第1端点と対向する第2端点を終点として位置登録する終点登録部と、前記始点の位置と前記経過点の位置と前記終点の位置とを結ぶことで前記作業地の基本形状を算出する基本形状算出部と、前記始点と前記終点とを対頂点とするとともに前記基本形状の外形延長線に沿った2辺を有する四角形を前記出入口通路の形状として出入口通路情報を生成する出入口通路情報生成部と、前記作業地の前記出入口通路以外の領域を作業対象領域とし、当該作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する走行経路生成部とを備え、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置は、前記作業車に搭載された衛星測位モジュールからの測位データに基づく自車位置を利用して算出され
、前記出入口通路情報生成部は、前記出入口通路の形状を表す四角形の前記始点及び前記終点以外の頂点を、前記作業対象領域に接する内点と前記作業対象領域から離れた外点と定義し、前記外点と前記終点とを結ぶ辺から前記始点と前記内点とを結ぶ辺に向かう方向が前記作業車の前記作業対象領域への進入方向とする。
なお、この発明において用いられている幾何形状体を示す用語、例えば、三角形、四角形、長方形、多角形などは、幾何学的に厳密な形状を特定するために用いられているのではなく、ほぼ全体としてのそのような形状であることを言い表すために用いられている。
したがって、多角形の各辺が直線とは限らず、やや曲がっている場合も、凸凹となっている場合もある。
【0008】
この構成によれば、出入口通路の一端を出発して、出入口通路の他端に戻ってくる作業地の境界に沿った移動において取得される始点の位置と経過点の位置と終点の位置とを結ぶことで、作業地の基本形状が算出される。経過点は、作業地を多角形と見なして、その形状特徴点である多角形の頂点に対応させているので、経過点の数は作業地が三角形なら1つ、四角形なら2つ、五角形なら3つとなる。出入口通路は、実質的には長方形である四角形とみなことができ、始点と終点がその長方形の対頂点に対応していることから、出入口通路を示す長方形の形状が算出できる。このことから、作業地の基本形状は、出入口通路対応する箇所に小さな長方形(四角形)が挟み込まれた多角形である。したがって、算出された作業地の形状から出入口通路を示す長方形を取り除くことで、作業車が作業しなければならない作業対象領域が得られる。走行経路生成部がこの作業対象領域を網羅する走行経路を生成することで、走行経路と出入口通路とが重なってしまう問題や走行経路が出入口通路から遠く離れてしまう問題が生じない走行経路が得られる。さらに、この構成では、作業車自体が、位置測定器として利用されるので、作業地が広大であっても、作業地形状測定のための移動が容易である。作業車に搭載されている衛星測位モジュールを用いた位置検出システムが流用されるので、コスト的にも有利である。
【0009】
圃場などの作業地では、出入口通路は傾斜しているので、出入口通路から作業対象領域へ進入していく作業車の走行は直進であること、及び作業対象領域から出入口通路に退出する直前の作業車の走行は直進であることが、重要である。このことから、走行経路の生成にあたって、出入口通路での作業車の走行方向を走行経路生成の条件の1つとすることが重要である。このため、出入口通路の形状を算出するとともに、その走行方向も求められると、好都合である。この目的のた
め、前記出入口通路情報生成部は、前記出入口通路の形状を表す四角形の前記始点及び前記終点以外の頂点を、前記作業対象領域に接する内点と前記作業対象領域から離れた外点と定義し、前記外点と前記終点とを結ぶ辺から前記始点と前記内点とを結ぶ辺に向かう方向が前記作業車の前記作業対象領域への進入方向とするように構成されている。
【0010】
出入口通路の形状を四角形と仮定する場合には、四角形の対頂点である始点と終点の位置から内点や外点を算出することができる。内点の位置は、出入口通路と作業対象領域との境界を決定するものとなるので、できるだけ実際の位置を検出したほうがよい。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記出入口通路の形状を表す四角形の前記始点及び前記終点以外の頂点を、前記作業対象領域に接する内点と前記作業対象領域から離れた外点と定義し、前記内点を登録する内点登録部が備えられている。実際の位置として登録された内点を採用することで、出入口通路の形状がより正確に算出することができる。
【0011】
始点、経過点、及び終点の位置登録に必要となる位置座標は、作業地座標系であってもいいし、緯度経度系であってもよいが、自動走行する作業車には、衛星測位モジュールが搭載されているので、これを利用するのが好都合である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置登録は、前記作業車の前記境界に沿った走行を通じて行われる。
【0012】
作業車自体を位置測定器として用いる場合、作業車が作業地の形状特徴点(多角形の頂点)に接近しても、通常自動走行のために設定されている自車位置と、当該形状特徴点の位置との間に距離がある。この距離による位置誤差を解消するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業車のコーナ部には、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置に対応付けられる1つ以上の照準点が規定されており、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置は、前記自車位置から前記照準点までの距離によって前記自車位置を修正することで算出されるように構成されている。これにより、作業車の適当なコーナ部(照準点)を作業地の形状特徴点に接近させるだけで、作業車による正確な位置測定が可能となる。好ましくは、このような照準点を、作業車の右前端部、左前端部、右後端部、左後端部に設定して、そのうちのいずれかを選択されるように構成すれば、スムーズに照準点を作業地の形状特徴点に合わせることができる。
【0013】
本発明は、出入口とは無関係に、作業地における任意の領域の形状を作業対象領域として算出し、走行経路を生成する走行経路生成装置にも適用される。そのような作業車のための走行経路生成装置では、作業走行するための作業対象領域の第1端点を始点として位置登録する始点登録部と、前記作業対象領域の形状を規定する形状特徴点を経過点として位置登録する経過点登録部と、前記第1端点または前記第1端点に隣接する第2端点を終点として位置登録する終点登録部と、前記始点の位置と前記経過点の位置と前記終点の位置とを結ぶことで前記作業対象領域の基本形状を算出する基本形状算出部と、前記作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する走行経路生成部とが備えられ、前記作業車または前記作業対象領域を走行可能な車両のコーナ部には、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置に対応付けられる1つ以上の照準点が規定されており、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置は、前記作業車に搭載された衛星測位モジュールからの測位データに基づいて算出される自車位置から前記照準点までの距離によって前記自車位置を修正することで算出される。この走行経路生成装置は作業車あるは前記作業対象領域を走行可能な車両を位置測定器として用いるので、広大な作業対象領域であってもスムーズに形状算出を行うことができる。
【0014】
上述した走行経路生成装置の機能は、実質的には、コンピュータにインストールされたコンピュータプログラムの実行によって実現することができる。このため、本発明は、そのようなコンピュータプログラムも権利対象としている。本発明による走行経路生成プログラムは、境界によって区画された作業地を、出入口通路を通じて出入する作業車のためのプログラムであり、前記出入口通路の前記境界側の第1端点を始点として位置登録する始点登録機能と、前記作業地の形状を規定する形状特徴点を経過点として位置登録する経過点登録機能と、前記出入口通路の前記境界側の、前記第1端点と対向する第2端点を終点として位置登録する終点登録機能と、前記始点の位置と前記経過点の位置と前記終点の位置とを結ぶことで前記作業地の基本形状を算出する基本形状算出機能と、前記始点と前記終点とを対頂点とするとともに前記基本形状の外形延長線に沿った2辺を有する四角形を前記出入口通路の形状として出入口通路情報を生成する出入口通路情報生成機能と、前記作業地の前記出入口通路以外の領域を作業対象領域とし、当該作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する走行経路生成機能と、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置を、前記作業車に搭載された衛星測位モジュールからの測位データに基づく自車位置を利用して算出する機能と
、前記出入口通路の形状を表す四角形の前記始点及び前記終点以外の頂点を、前記作業対象領域に接する内点と前記作業対象領域から離れた外点と定義し、前記外点と前記終点とを結ぶ辺から前記始点と前記内点とを結ぶ辺に向かう方向が前記作業車の前記作業対象領域への進入方向とする機能と、をコンピュータに実現させる。この走行経路生成プログラムの作用効果は、上述した走行経路生成装置の作用効果と同じである。また、上述した走行経路生成装置の好適な実施形態も、この走行経路生成プログラムに適用可能である。
【0015】
同様に、本発明は、出入口とは無関係に、作業地における任意の領域の形状を作業対象領域として算出し、走行経路を生成する走行経路生成プログラムにも適用される。この作業車のための走行経路生成プログラムは、作業走行するための作業対象領域の第1端点を始点として位置登録する始点登録機能と、前記作業対象領域の形状を規定する形状特徴点を経過点として位置登録する経過点登録機能と、前記第1端点または前記第1端点に隣接する第2端点を終点として位置登録する終点登録機能と、前記始点の位置と前記経過点の位置と前記終点の位置とを結ぶことで前記作業対象領域の基本形状を算出する基本形状算出機能と、前記作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する走行経路生成機能と、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置に対応付けられる1つ以上の、前記作業車または前記作業対象領域を走行可能な車両のコーナ部に規定される照準点と、前記作業車に搭載された衛星測位モジュールからの測位データに基づいて算出される自車位置との間の距離によって前記自車位置を修正することで、前記始点、前記経過点、及び前記終点の位置を算出する機能とをコンピュータに実現させる。この走行経路生成プログラムの作用効果も、上述した走行経路生成装置の作用効果と同じである。また、上述した走行経路生成装置の好適な実施形態も、この走行経路生成プログラムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】出入口通路を通って、畦によって区画された作業地に侵入して、作業地の形状測定する作業車の様子を示す模式図である。
【
図2】作業車の一例であるトラクタの側面図である。
【
図3】走行経路生成装置として機能する制御機能部を示す機能ブロック図である。
【
図4】走行経路生成装置における、作業地及び出入口通路の形状を算出する過程を示す流れ図である。
【
図5】トラクタに設定された照準点と、タッチパネルに表示された照準点選択ボタンとの関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を用いて、本発明による走行経路生成装置を搭載した作業車の実施形態の1つを説明する。この実施形態では、作業車は、車体1に作業装置30を装備したトラクタである。最初に、トラクタはユーザによって運転され、圃場形状を算出するためのティーチング走行を行う。このティーチング走行では、トラクタは、農道から下向きに傾斜した出入口通路を通って、圃場内に進入し、畦によって区画された圃場の境界に沿って周回走行する。その際、後で詳しく説明するが、出入口通路の畦側の第1端点が始点Psとして位置登録され、圃場の形状を規定する形状特徴点が経過点P1、P2、P3として位置登録され、出入口通路の畦側の、第1端点と対向する第2端点が終点Peとして位置登録される。始点Psと経過点P1、P2、P3と終点Peとを結ぶ線によって圃場の基本形状が算出される。この圃場の基本形状から出入口通路を除外した領域が、作業対象領域と称せられる。さらに、出入口通路の形状を四角形と見なし、始点Psと終点Pe以外の頂点内作業対象領域に接する頂点を内点Paと定義し、作業対象領域から離れた頂点を外点Pbと定義する。
【0018】
図2に示されているように、このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体1の中央部に運転室20が設けられている。車体1の後部には油圧式の昇降機構31を介してロータリ耕耘装置である作業装置30が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、その操舵角を変更することでトラクタの走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は運転室20に配置されているステアリングホイール22の操作によって行われる。運転室20には、ユーザによる指令を受け付けるとともにユーザに情報を提供する汎用端末4が装備されている。トラクタのキャビン21には、衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GNSS(global navigation satellite system)信号(GPS信号を含む)を受信するための衛星用アンテナがキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、この衛星測位モジュール80に、衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを組み合わせることも可能である。もちろん、慣性航法モジュールは、衛星測位モジュール80とは別の場所に設けてもよい。
【0019】
図3には、このトラクタに構築されている制御系が示されている。この実施形態の制御系は、グラフィカルユーザインターフェースを備えた汎用端末4である第1制御ユニットと、トラクタの車体1や作業装置30の制御を行う制御ユニット5と、トラクタの走行開始と走行停止とを外部から無線で制御するためのリモコン84とを備えている。本発明による走行経路生成装置は経路生成モジュール6としてモジュール化され、汎用端末4に組み込まれている。
【0020】
汎用端末4は、経路生成モジュール6以外に、通信制御部40、タッチパネル60、タッチパネル60に対する入力操作やタッチパネル60での情報表示を管理する入出力管理部61など、一般的なコンピュータシステムの諸機能を備えている。汎用端末4は、車載LAN、無線通信、有線通信などによって、制御ユニット5とデータ交換可能に接続されている。さらに、汎用端末4は、遠隔地の管理センタKSに構築された管理コンピュータ100とも、無線回線やインターネットを通じて、データ交換可能である。また、汎用端末4をタブレットコンピュータや携帯電話などで構成し、トラクタの制御系とデータ交換可能に接続すれば、汎用端末4をトラクタの外に持ち出して、使用することも可能である。
【0021】
この実施形態では、圃場の地図上の位置や圃場を取り巻く農道等の配置などを含む圃場情報が、管理コンピュータ100の圃場情報格納部101に格納されており、この圃場情報は、作業すべき圃場を見つけ出すために必要となる。管理コンピュータ100は、指定された圃場での作業内容を記述した作業計画書を管理している作業計画管理部102も備えている。汎用端末4は、管理コンピュータ100にアクセスし、圃場情報格納部101から圃場情報を、そして作業計画管理部102から作業計画書をダウンロードすることができる。あるいは、汎用端末4は、USBメモリなどの記録媒体を通じて圃場情報や作業計画書を入力することも可能である。
【0022】
経路生成モジュール6は、ティーチング走行を通じて、圃場の作業有効領域である作業対象領域の形状を算出する作業地形状算出サブモジュール62と、当該作業対象領域をトラクタが走行するための走行経路を生成する走行経路生成部63とを備えている。作業地形状算出サブモジュール62には、始点登録部621、経過点登録部622、終点登録部623、基本形状算出部624、出入口通路情報生成部625、形状編集部626が含まれている。さらに、オプションとして内点登録部627も用意されている。
【0023】
次に、
図4に示されている、圃場形状算出処理及び走行経路生成処理の流れ図を用いて、経路生成モジュール6の各機能部の基本的な役割を説明する。
図4では、圃場の形状は台形で、上辺右端に下向き傾斜した出入口通路が設けられている。さらに、
図5で示すように、トラクタの4つのコーナ部に照準点T1、T2、T3,T4が規定されており、これらの照準点T1、T2、T3,T4と、衛星測位モジュール80からの測位データに基づく自車位置(
図5では、車体中央の黒丸で示されている)との間の距離が予め設定されており、各照準点T1、T2、T3,T4の位置座標が、自車位置から算出可能である。タッチパネル60には、照準点選択ボタンB1、B2、B3,B4が表示され、押された照準点選択ボタンB1、B2、B3,B4に対応する照準点が、以下の圃場形状算出処理で有効となる。
【0024】
農道を通って、目的の圃場に到着したトラクタは、当該圃場の形状を算出するために、ティーチング走行を行う。ここでは、照準点選択ボタンB1が押され、照準点T1を有効となっている。
【0025】
まず、運転者は、出入口通路を通り、出入口通路を下った右側の端部(第1端点)に照準点T1がくるようにトラクタを操縦し、タッチパネル60に表示された登録ボタンRB(
図5参照)を押す。これにより、始点登録部621は、第1端点を始点(
図4で黒丸とPsで示されている)として登録する。
【0026】
次に、運転者は、圃場の形状特徴点(幾何形状体、ここでは台形の頂点)である上辺左端に照準点T1がくるようにトラクタを進め、登録ボタンRBを押す。これにより、経過点登録部622は、上辺左端を第1経過点(
図4で黒丸とP1で示されている)として登録する。さらに、下辺左端に照準点T1がくるようにトラクタを進め、登録ボタンRBを押す。これにより、経過点登録部622は、下辺左端を第2経過点(
図4で黒丸とP2で示されている)として登録する。さらに、下辺右端に照準点T1がくるようにトラクタを進め、登録ボタンRBを押す。これにより、経過点登録部622は、下辺右端を第3経過点(
図4で黒丸とP3で示されている)として登録する。
【0027】
次に、運転者は、第3経過点を設定した圃場の下辺右端から畦(境界)に沿ってトラクタを進め、出入口通路と境界との交点となる端点に照準点T1がくる位置でトラクタを停止させ、登録ボタンRBを押す。終点登録部623は、登録ボタンRBが押された位置が始点と近接しているので、この位置を終点(
図4で黒丸とPeで示されている)とみなして登録する。あるいは、運転者が終点を示す指示操作を行った後に登録ボタンRBを押すことで、登録位置が終点であることを終点登録部623に指令してもよい。
【0028】
これにより、始点と3つの経過点と終点との位置座標が得られたので、基本形状算出部624はこれらの点を結ぶことで、作業地の基本形状を算出する。
【0029】
続いて、出入口通路情報生成部625は、出入口通路の形状寸法や出入口通路の走行方向などの出入口通路情報を生成する。
図4に示されているように、出入口通路は、部分的な通路であるので、実質的には四角形とみなして差し支えない。この出入口通路を示す四角形の2つの対頂点は、始点と終点である(
図4で黒丸とPs、Peで示されている)。したがって、あと2つの頂点を求めることで出入口通路の形状寸法が得られる。そこで、この出入口通路を示す四角形が隣接する圃場の境界線の延長線(作業地基本形状の外形延長線)を2辺とする平行四辺形(長方形や正方形を含む)とみなすと、圃場内側の頂点(外点と称する)と圃場外側の頂点(内点と称する)の位置座標は、幾何学的な演算で簡単に求めることができる。
図4では、内点は白丸とPaで示され、外点は白丸とPbで示されている。さらに、外点と終点とを結ぶ辺から始点と内点とを結ぶ辺に向かう方向がトラクタの圃場内部への進入方向(走行方向)であると見なすことができる。
【0030】
始点と3つの経過点と終点と内点とを結ぶことで得られる輪郭線によって、圃場における出入口通路以外の領域、つまり有効作業領域である作業対象領域が規定される。この輪郭線は、実質的には、トラクタの走行によって得られているので、必ずしも正確ではない。例えば、トラクタが走行できないような凹部や凸部があれば、そのような凹部や凸部は無視される。このため、始点と3つの経過点と終点と内点とを結ぶことで得られる輪郭線を修正する形状編集部626が備えられている。この形状編集部626は、タッチパネル60に表示された輪郭線を、例えばペジェ曲線の編集のような要領でユーザが編集することを可能にする。
【0031】
なお、オプションである内点登録部627が利用可能な場合、終点の登録後に、さらに、運転者は、トラクタを、出入口通路と作業対象領域との境界線の内側の端点に出入口通路を下った右側の端部(第1端点)に照準点T1がくるようにトラクタを操縦し、照準点T1がくる位置でトラクタを停止させ、登録ボタンRBを押す。これにより内点登録部627は、当該位置を内点(
図4で白丸とPaで示されている)として登録する。
【0032】
これまでの説明で、照準点T1だけが利用されていたが、その他の照準点T2、T3,T4の方が、目的の位置に接近しやすい場合がある。特に後進で接近する場合には、照準点T3,T4が好都合である。そのような場合には、照準点選択ボタンB1、B2、B3,B4から所望の照準点に対応するボタンを選んで押すことで、有効となる照準点が変更される。
【0033】
作業対象領域が決定されると、走行経路生成部63が、当該作業対象領域を前記作業車が自動走行するための走行経路を生成する。生成される走行経路は、
図4では、直進経路と各直進経路同士をつなぐUターン経路とからなる内側走行経路と、圃場の外周領域を周回走行するための周回走行経路とから構成されている。もちろん、これに代えて、圃場を渦巻き状に走行する渦巻き走行経路やその他の走行経路が生成されるアルゴリズムを採用してもよい。
【0034】
図3に示すように、トラクタの制御系の中核要素である制御ユニット5には、入出力インタフェースとして機能する、出力処理部7、入力処理部8、通信処理部70が備えられている。出力処理部7は、トラクタに装備されている、車両走行機器群71、作業装置機器群72、報知デバイス73などと接続している。車両走行機器群71には、操舵モータ14や、図示されていないが変速機構やエンジンユニットなど車両走行のために制御される機器が含まれている。作業装置機器群72には、作業装置30の駆動機構や、作業装置30を昇降させる昇降機構31などが含まれている。報知デバイス73には、ディスプレイやランプやスピーカが含まれている。報知デバイス73は、走行注意事項や自動操舵走行での目標走行経路からの外れなど、注意情報や警告情報を運転者や監視者に報知するために用いられる。通信処理部70は、制御ユニット5で処理されたデータを管理コンピュータ100に送信するとともに、管理コンピュータ100から種々のデータを受信する機能を有する。さらに、通信処理部70は、リモコン84からのリモコン指令を入力する。
【0035】
入力処理部8は、衛星測位モジュール80、走行系検出センサ群81、作業系検出センサ群82、自動/手動切替操作具83などと接続している。走行系検出センサ群81には、エンジン回転数や変速状態などの走行状態を検出するセンサが含まれている。作業系検出センサ群82には、作業装置30の位置や傾きを検出するセンサ、作業負荷などを検出するセンサなどが含まれている。自動/手動切替操作具83は、自動操舵で走行する自動走行モードと手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。
【0036】
さらに、制御ユニット5には、走行制御部50、作業制御部54、自車位置算出部53、走行経路設定部55、報知部56が備えられている。自車位置算出部53は、衛星測位モジュール80から送られてくる測位データに基づいて、自車位置を算出する。上述したティーチング走行の実行中は、算出された自車位置は、作業地形状算出サブモジュールに与えられる。車両走行機器群71を制御する走行制御部50には、このトラクタが自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、手動走行制御部51と自動走行制御部52とが含まれている。手動走行制御部51は、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71を制御する。自動走行制御部52は、走行経路設定部55で設定された走行経路と自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、自動操舵指令を生成する。この自動操舵指令は、出力処理部7を介して操舵モータ14に出力される。自動走行制御部52は、リモコン84からの停止指令に基づいてトラクタを停止させるとともに、リモコン84からの開始指令に基づいてトラクタの走行を開始させる。作業制御部54は、作業装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に制御信号を与える。報知部56は、運転者や監視者に必要な情報を報知するための報知信号(表示データや音声データ)を生成して、計器パネルに組み込まれた報知デバイス73に与える。
【0037】
走行経路設定部55は、経路生成モジュール6によって生成された走行経路を汎用端末4の走行経路生成部63から通信処理部70を介して受け取り、トラクタの目標走行経路として設定する。
【0038】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、作業地の出入口の位置形状を算出し、作業地から出入口を除外した領域である作業対象領域を算出し、当該作業対象領域を自動走行するための走行経路を生成している。この実施形態に代えて、出入口とは無関係に、作業地における任意の領域の形状を作業対象領域として算出し、走行経路を生成する実施形態を採用してもよい。そのような走行経路生成装置では、経路生成モジュール6の作業地形状算出サブモジュール62において、出入口通路情報生成部625や内点登録部627が不要となる。
(2)上述した実施形態では、経路生成モジュール6は、実際の作業に用いられるトラクタに装備されており、照準点T1、T2、T3,T4も当該トラクタのコーナ部に規定されていた。これに代えて、トラクタ以外の別な車両、例えば、作業地(圃場)をより速い速度で走行可能で、衛星測位機能を備えた多目的車両に、経路生成モジュール6、または、作業地形状算出サブモジュール62を装備し、作業地(圃場)の形状を算出させてもよい。
(3)
図3で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。例えば、経路生成モジュール6を、特に走行経路生成部63を作業車の制御ユニット5内に構築してもよい。
(4)上述した実施形態では、作業車として、ロータリ耕耘機を作業装置30として装備したトラクタを、作業車として取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、施肥機、コンバインなどの農作業車にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明による走行経路生成装置は、設定された走行経路に沿って作業地を作業する作業車のために適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
5 :制御ユニット
50 :走行制御部
53 :自車位置算出部
55 :走行経路設定部
80 :衛星測位モジュール
6 :経路生成モジュール
60 :タッチパネル
61 :入出力管理部
62 :作業地形状算出サブモジュール
621 :始点登録部
622 :経過点登録部
623 :終点登録部
624 :基本形状算出部
625 :出入口通路情報生成部
626 :形状編集部
627 :内点登録部
63 :走行経路生成部
Ps :始点
P1 :経過点
P2 :経過点
P3 :経過点
Pe :終点
Pa :内点
Pb :外点