(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971579
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】コンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20211111BHJP
B41F 15/08 20060101ALI20211111BHJP
B41F 15/34 20060101ALI20211111BHJP
B41F 15/36 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
B41N1/24
B41F15/08 302B
B41F15/08 303E
B41F15/34
B41F15/36 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-12644(P2017-12644)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-118480(P2018-118480A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年8月6日
【審判番号】不服2020-7242(P2020-7242/J1)
【審判請求日】2020年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085497
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】高木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】山名 毅
【合議体】
【審判長】
藤本 義仁
【審判官】
吉村 尚
【審判官】
古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−62973(JP,A)
【文献】
特開2012−111195(JP,A)
【文献】
特開平8−112891(JP,A)
【文献】
特開2015−131426(JP,A)
【文献】
特開2005−138487(JP,A)
【文献】
特開2009−101514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N1/24
B41F15/08
B41F15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠と、印刷用スクリーンと、前記印刷用スクリーンを前記枠に固定するための支持体と、を備えるコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版において、
前記印刷用スクリーンは金属繊維を編み込んだ金属メッシュであり、
前記支持体は、中央に開口部を有し、前記印刷用スクリーンに比べて、スキージング時における平面方向の伸びが小さく、かつ厚み方向の変位量が小さい高強度の1枚の金属板で形成されており、
前記印刷用スクリーンの外周部全周が前記開口部を取り囲む前記支持体の内周部に接合されており、
前記印刷用スクリーンは所定の張力を付与した状態で前記支持体に接合されており、
前記支持体は、前記印刷用スクリーンの張力に対して非変形状態を保持できる厚みの金属板であり、
前記支持体の外周部が前記枠に固定されている、
コンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版。
【請求項2】
前記支持体は、ヤング率が70GPa以上、640GPa以下であり、厚みが0.1mm以上、3mm以下の金属板である、請求項1に記載のコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版。
【請求項3】
前記支持体は、厚み0.1mm以上、1mm以下の金属板である、請求項2に記載のコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版。
【請求項4】
前記支持体は、熱膨張係数1×10-6/℃以上、23×10-6/℃以下の金属板である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版。
【請求項5】
前記印刷用スクリーンは、前記支持体の印刷ステージ側に接合されていることを特徴とした請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版と、
前記コンビネーションスクリーン版の印刷用スクリーン上に供給されたペーストを押圧しながら水平移動するスキージと、
断面円弧状の外周面を有し、前記外周面上に吸着した被印刷物の表面を前記印刷用スクリーンの裏面の前記スキージの先端位置と対応する位置に接触させながら前記スキージの移動と同期して回転する印刷用ステージと、を備えた印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクト方式のスクリーン印刷に使用されるコンビネーションスクリーン版に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷では、ファインライン印刷に対応するためスクリーンの細線化が進んでおり、強度が低く高価なスクリーンを使用するために、印刷用スクリーンを枠に直接貼り付けた直貼り構造と比べ、コンビネーション構造のスクリーン版が主流になっている。コンビネーションスクリーン版とは、印刷用スクリーンの周囲を支持体を介して枠に固定したものである。
【0003】
コンビネーションスクリーン版の場合、印刷時の印圧による印刷用スクリーンへの荷重を支持体によって吸収するため、支持体として印刷用スクリーンより弾力性のある合成繊維スクリーンが一般に使用されている(例えば特許文献1)。
【0004】
しかしながら、近年の電子部品の微細化・多機能化によって、回路の線幅が微細化し、更に高い印刷座標精度でスクリーン印刷する要求が高まっている。例えば積層セラミックコンデンサなどの多層製品では、±20μm以下の印刷精度が求められる。このため、従来の合成繊維スクリーンからなる支持体を用いたコンビネーションスクリーン版では、目標とする印刷精度を達成できないという問題があった。
【0005】
特許文献2には、印刷用スクリーンとしてステンレススチール繊維を編組したスクリーンメッシュの編組部表面にメッキ被膜を被覆したリジダイズドスクリーンを使用し、支持体スクリーンとして印刷用スクリーンよりも粗く、且つ線径の太いステンレススチール繊維を編組したスクリーンメッシュの編組部表面にメッキ被膜を被覆したリジダイズドスクリーンを使用した、コンビネーションスクリーン版が開示されている。この場合には、支持体スクリーンが合成繊維スクリーンより伸びが小さいので、印刷精度の向上が図られる。
【0006】
しかし、支持体としてステンレススチールメッシュを使用しているため、スキージの印圧によって変形した後の位置座標の復元性があまり良くなく、印刷図形が歪みやすい。その結果、所望の印刷精度を得ることが難しい。さらに、支持体が印刷用スクリーンと同じくメッシュ構造であり、しかもメッキ処理を施す必要があるため、高価である。加えて、ペースト(印刷用インク)の一部が支持体スクリーンの目地に入り込み、このペーストが印刷品質に悪影響を及ぼす可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5529395号公報
【特許文献2】特開2007−62225号公報
【特許文献3】特開平8−112891号公報
【特許文献4】特開平5−254087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、コンタクト印刷に適した、高精度印刷が可能で、耐久性の高いコンビネーションスクリーン版を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の意義について説明する前に、まずコンタクト印刷について説明する。スクリーン印刷には大別してオフコンタクト方式とコンタクト方式とがある。オフコンタクト方式とは、水平に支持された印刷ステージ上に被印刷物を載置し、この被印刷物の表面との間に隙間を空けた状態でスクリーン版の印刷用スクリーンを保持し、印刷用スクリーン上にペーストを供給し、スキージを印刷用スクリーンに押し当てながら水平移動させることによって、印刷用スクリーンを撓ませて、印刷用スクリーンに形成されたパターンを被印刷物に対して転写するものである。
【0010】
しかし、オフコンタクト方式による印刷方法では、1回のスキージング毎に印刷用スクリーンが下方へ引き伸ばされ、同時に、スキージとの摩擦抵抗によって平面方向にも引き伸ばされる。その結果、被印刷物の表面上に形成されたパターンの印刷ずれが大きくなりやすく、また印刷用スクリーンの耐久性も低下しやすいという問題がある。
【0011】
一方、コンタクト方式は、被印刷物の表面と印刷用スクリーンとをほぼ接触状態(但し、印刷用スクリーンと被印刷物間の距離は0とは限らない)で保持しておき、スキージを水平移動させることによって、印刷用スクリーンを厚み方向に殆ど撓ませることなく、印刷用スクリーンに形成されたパターンを被印刷物に転写することができる。このようなコンタクト方式の印刷方法では、オフコンタクト方式に比べて印刷用スクリーンの厚み方向の伸びが少ないので、印刷ずれや形状劣化が小さくなるという利点がある。
【0012】
特許文献3、4に記載のように、断面円弧状の外周面を有する印刷ステージを使用し、この外周面上に吸着した被印刷物の表面を印刷用スクリーンの裏面のスキージの先端位置と対応する位置に接触させながら、スキージの移動と同期して印刷ステージを回転させる、コンタクト方式の印刷方法も開発されている。このような円弧状外周面を持つ印刷ステージを使用すると、スキージの移動と同期して印刷用スクリーンとステージとが部分的に接触するので、平面状の印刷ステージに比べて、印刷用スクリーンを印刷ステージから剥離する際の印刷用スクリーンの伸びを抑制でき、印刷精度及び印刷用スクリーンの耐久性が向上する利点がある。
【0013】
しかしながら、円弧状外周面を持つ印刷ステージを用いたコンタクト方式の印刷方法であっても、スキージとの摩擦抵抗による印刷用スクリーンの平面方向の伸びは抑制できない。
【0014】
そこで、本発明のコンビネーションスクリーン版は、印刷用スクリーンとして金属製スクリーンを使用し、支持体として印刷用スクリーンより高強度の金属板を使用し、この金属板で印刷用スクリーンの周囲を保持した点を特徴としている。支持体の補強効果により、スキージとの摩擦による印刷用スクリーンの平面方向の伸びを抑制でき、従来のコンビネーションスクリーン版に比べて位置の座標再現性がよく、高精度の印刷が可能になる。支持体が金属板であるから、厚み方向には殆ど変形できないが、コンタクト印刷のため、支持体が厚み方向に変形する必要はない。スクリーンとステージとの剥離時にスクリーンが厚み方向に伸びることがあるが、スクリーンの周囲を高強度の金属板で支持しているため、印刷用スクリーンの厚み方向の伸びを抑制できる。その結果、高精度の印刷が可能で、耐久性のよいコンビネーションスクリーン版を提供できる。
【0015】
印刷用スクリーンとしては、金属製スクリーンが使用されるが、例えばSUSスクリーン、タングステンスクリーンなど公知のスクリーンを使用できる。印刷用スクリーンは金属繊維からなる織物構造体(メッシュ)に限らず、メタルマスクでもよい。特に、ハイメッシュと呼ばれる、金属線が細くより細かく編まれた高精度なスクリーンが好ましい。
【0016】
支持体としての「金属板」とは、メタルマスクやメッシュのような網目状又は繊維状の構造体ではなく、平板のことである。必ずしも一定厚みである必要はないが、一定厚みの平板であれば、強度が一定しており、加工が容易で安価である。支持体の金属材料としては、ヤング率が70GPa以上、640GPa以下が好ましく、ヤング率150GPa以上、430GPa以下がさらに好ましい。印刷用スクリーンを支持体の下面側に固定した場合、支持体と印刷用スクリーンとの段差での空間を小さくするため、支持体の厚みは3mm以下、特に1mm以下が望ましい。また、スキージとの摩擦による変形を抑制できるように、厚みは0.1mm以上であるのが望ましい。このような薄肉で高強度の支持体を使用して金属製の印刷用スクリーンを支持することで、印刷作業性に優れ、かつ高印刷精度(例えば±20μm以下)のスクリーン印刷版を実現できる。印刷用スクリーンとしてハイメッシュのような強度の低いスクリーンを使用しても、印刷図形の座標再現性が高い。
【0017】
支持体の熱膨張係数は1×10
-6/℃以上、23×10
-6/℃以下が好ましく、4×10
-6/℃以上、11×10
-6/℃以下がさらに好ましい。熱膨張係数が小さいことで、温度変化による印刷精度のばらつきを抑制できる。印刷用スクリーン及び支持体が共に金属であるため、湿度変化による影響、ペーストに含まれる溶剤による膨潤や化学変化による影響を受けにくい。そのため、合成繊維スクリーンからなる印刷用スクリーン及び支持体に比べて、耐久性に優れている。このような高強度・低熱膨張・非吸湿単板として、例えばステンレス板、アルミニウム板、スーパーインバー、超硬合金、銅板、高強度鋼板などを一般的に使用できる。
【0018】
支持体がスクリーンではなく金属製平板であるから、安価である。多数回の使用により支持体が変形した場合、必要であれば支持体だけを取り替えることもできる。さらに、支持体がメッシュ構造ではなく金属平板であるから、特許文献2のように、ペーストの一部が支持体の目地に入り込むこともない。
【0019】
印刷用スクリーンは支持体に所定の張力を持って接合されており、支持体は、印刷用スクリーンの張力に対して非変形状態を保持できる厚みの金属板であるのが望ましい。金属板には種々のヤング率を持つ材料があるが、ヤング率が高くても極薄肉な板材であれば、撓みを抑制できないことがある。したがって、支持体として印刷用スクリーンの張力に対して非変形状態(平板状態)を保持できる厚みの金属板を用いるのがよい。
【0020】
印刷用スクリーンは、支持体の印刷ステージ側に接合されているのが望ましい。スクリーン印刷では、コンビネーションスクリーン版の裏面側がステージ(又はステージに保持された被印刷物)と接触することになる。印刷用スクリーンが支持体の上面側に接合されている場合には、剛性のある支持体の裏面側がステージと干渉し、ステージを損傷させる可能性がある。また、支持体の厚み分の印刷用スクリーンの伸びが発生し、座標歪みが発生することがある。そこで、印刷用スクリーンが支持体の裏面側、つまり印刷ステージ側に接合されていることで、支持体とステージとの干渉を防止でき、支持体の厚みによる印刷用スクリーンの伸びを抑制できる。
【0021】
本発明にかかるコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版を、特許文献3のような円弧状外周面を持つ印刷ステージを用いた印刷装置に適用するのが望ましい。この場合には、コンタクト方式であるために印刷用スクリーンの厚み方向の変位を抑制でき、しかも支持体の補強効果により印刷用スクリーンが平面方向にも変位しにくいので、高い印刷精度を達成できる。さらに、スキージの移動と同期して印刷用スクリーンとステージとが部分的に接触するので、印刷用スクリーンを印刷ステージから剥離する際の印刷用スクリーンの伸びを抑制でき、印刷精度及び印刷用スクリーンの耐久性が一層向上する。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、印刷用スクリーンとして金属製スクリーンを使用し、支持体として印刷用スクリーンより高強度の金属板を使用し、この金属板で印刷用スクリーンの周囲を保持したので、支持体の補強効果により、スキージとの摩擦による印刷用スクリーンの平面方向の伸びを抑制でき、従来のコンビネーションスクリーン版に比べて位置の座標再現性がよく、高精度の印刷が可能になる。さらに、金属板はスクリーンに比べて多数回の使用に対する劣化が低いので、耐久性に優れたコンビネーションスクリーン版を実現できる。なお、金属板からなる支持体の場合、オフコンタクト印刷では支持体の伸びが無く、印刷用スクリーンが被印刷物と接触できないためペースト転写ができず、うまく印刷ができないが、コンタクト印刷と組み合わせることで高精細な印刷ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版の第1実施形態を示す平面図及びA−A線断面図である。
【
図2】SUS430板、 ステンレススクリーン、ポリエステルスクリーンのS−Sカーブである。
【
図3】支持体としてポリエステルスクリーンを使用した従来例と、SUS430板を使用した本発明との、印刷前後の座標復元性を比較した図である。
【
図4】支持体としてポリエステルスクリーンを使用した従来例と、SUS430板を使用した本発明との、温湿度変化を比較した図である。
【
図5】
図1に示すコンビネーションスクリーン版を適用したコンタクト方式の印刷装置の断面図である。
【
図6】本発明に係るコンビネーションスクリーン版の印刷精度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明に係るコンタクト印刷用コンビネーションスクリーン版の第1実施形態を示す。このコンビネーションスクリーン版1は、枠2と、印刷用スクリーン3と、内周部が印刷用スクリーン3の外周部と接合され、外周部が枠2に固定された支持体4と、を備える。
【0025】
枠2は厚みのある部材によって四角形枠状に形成されており、その内側をスキージが移動できるような大きさに形成されている。枠2の材質は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金などの金属材料で形成されている。従来のスクリーン印刷版では、枠2が印刷用スクリーン3の張力を保持する役割を有していたが、この実施形態では印刷用スクリーン3の張力を支持体4が保持する。そのため、支持体4は印刷用スクリーン3を枠2に強固に支持する役割を有する。
【0026】
印刷用スクリーン3としては、金属製メッシュ又は金属製マスクが使用される。金属製メッシュは細い金属繊維を編み込んだものであり、例えばSUSメッシュ、タングステンメッシュ、高強度鋼メッシュなどが使用される。この金属製メッシュに例えば感光性樹脂で印刷図形(図示せず)をパターニングしたものが使用される。金属製メッシュとして、特にハイメッシュと呼ばれる、金属線が細くより細かく編まれた高精度なスクリーンが好ましい。金属製マスクとは、金属箔や金属プレートに対し、例えばエッチング、レーザー加工、電鋳などにより印刷パターンを形成した多孔性のメタルマスクのことである。
【0027】
支持体4は印刷用スクリーン3より高強度の金属製単板からなり、その外周部が枠2の下面に接着等によって固定されている。支持体4の中心部には四角形状の開口部4aが形成されており、この開口部4aの周囲に印刷用スクリーン3の外周部が所定の張力を付与した状態で固定されている。特に、印刷用スクリーン3は支持体4の下面側、つまりステージ側に固定されているのが望ましい。その理由は、スクリーン版が印刷用ステージと接触した際、ステージ上の被印刷物が支持板4との干渉による損傷を受けるのを防止するためである。支持体4と枠2との固定方法、及び支持体4と印刷用スクリーン3との固定方法は、接着以外の接合方法も可能である。
【0028】
支持体4の大きさは、次のような条件を満足するのが望ましい。すなわち、バラつきなく印刷するためにはスキージの助走距離が必要であり、支持体4のスキージ移動方向前側の幅W1は、ペーストのローリングが安定するまでの距離を確保できる寸法が望ましい。また、ペースト溜まりが印刷部に掛かるとニジミの原因になるので、支持体4のスキージ移動方向後側の幅W2は、ペースト溜まりの余白部を確保できる寸法とするのが望ましい。さらに、スキージ端部は負荷が掛かるので印刷部から離す必要があり、スキージの幅方向にも余白部を確保するため、支持体4の開口部4aのスキージ移動方向と直交方向の幅Dは、スキージの全長よりも短い寸法とするのが望ましい。
【0029】
支持体4は、印刷用スクリーン3に比べて、スキージング時における平面方向の伸びが小さく、かつ厚み方向の変位量が小さい高強度の金属板で形成されている。特に、印刷用スクリーン3の張力に対して非変形状態を保持できる厚みの金属板を使用するのがよい。支持体4の材質及び厚みは、ヤング率が70GPa以上、640GPa以下で、厚みが0.1mm以上、3mm以下が好ましく、ヤング率150GPa以上、430GPa以下で、厚み0.1mm以上、1mm以下がさらに好ましい。支持体4の熱膨張係数は1×10
-6/℃以上、23×10
-6/℃以下が好ましく、4×10
-6/℃以上、11×10
-6/℃以下がさらに好ましい。このような高強度・低熱膨張の金属板として、例えばステンレス板、銅板、アルミニウム板、スーパーインバー、超硬合金、高強度鋼板などを一般的に使用できる。
【0030】
従来のコンビネーションスクリーン版における支持体の機能は、印刷時に生じる版の変形を、自身の伸びによって負担することにより、印刷用スクリーンの変形を極力小さくすることである。一方、本発明のコンビネーションスクリーン版における支持体の機能は、印刷時の変形を自身の伸びによって負担することではなく、印刷用スクリーンの周囲を補強して、印刷用スクリーンの変形を極力小さくすることである。そのため、支持体4には高強度の金属板が使用されている。支持体4の厚みは任意であるが、スキージの端部が支持体4上を摺動するよう設計されている場合には、支持体4と印刷用スクリーン3との段差での空間を小さくし、スキージの損傷を抑制するため、支持体4の厚みは3mm以下、特に1mm以下が望ましい。また、スキージとの摺動摩擦による変形を抑制できるように、厚みは0.1mm以上であるのが望ましい。なお、段差部に接着剤などを充填することで、スキージの損傷を抑制することも可能である。
【0031】
表1は、支持体4の例としてSUS430板、Al、インバー材、超硬合金を使用した場合と、従来の一般的支持体であるポリエステルスクリーンを使用した場合との、各材料特性の比較表である。ポリエステルスクリーンの場合、形状が網状であり、ヤング率が低く、熱膨張係数及び湿度膨張係数が大きいので、座標再現性が低く、荷重変形、温度及び湿度変化に対する抑制効果が低い。これに対し、支持体の材質がSUS430板、Al、インバー材、超硬合金の場合、いずれもヤング率がポリエステルスクリーンの数十倍以上であり、熱膨張係数及び湿度膨張係数が小さく、しかも形状が板状であるから、座標再現性が高く、荷重変形、温度変化及び湿度変化に対する抑制効果が高い。その結果、印刷精度が高くなるという効果がある。
【0033】
図2は、SUS430板(厚み0.4mm)、ステンレススクリーン(#150−61:線径61μmメッシュ数150本/inch)、樹脂スクリーン(ポリエステルスクリーン#230−48:線径48μmメッシュ数230本/inch)のS−Sカーブである。
図2から明らかなように、SUS430板の強度は、樹脂スクリーンは勿論、材質は同等のステンレススクリーンと比較しても、圧倒的に高いことがわかる。そのため、印刷中の支持体の変形、ひいては印刷用スクリーンの変形を効果的に抑制できる。
【0034】
図3は、印刷前後の座標復元性を、従来構造と本発明構造とで比較したものである。従来構造では、支持体として外寸320mm□、内寸210mm□、#230−48のポリエステルスクリーンを使用し、印刷用スクリーンとしてタングステンスクリーンを使用した。本発明構造では、支持体として外寸320mm□、内寸210mm□、厚み0.4mmのSUS430板を使用し、印刷用スクリーンとして従来例と同じタングステンスクリーンを使用した。印刷方法はコンタクト方式であり、条件は同じとした。座標ずれは印刷前後の各座標の差である。
【0035】
図3から明らかなように、印刷前後の座標ずれは、従来構造では±5μmであり、ずれの傾向も全周にわたってバラバラであった。これに対し、本発明構造の座標ずれは±2μmであり、座標位置も初期位置に近かった。その結果、SUS430板を支持体として使用した場合に、従来に比べて印刷前後の座標復元性が向上したことがわかる。
【0036】
図4は、温湿度変化による座標復元性を、従来構造と本発明構造とで比較したものである。使用したスクリーン版は
図3と同様である。従来構造の場合、温度変化による変形は1.4μm/℃・68mmであり、湿度変化による変形は−2.1μm/10%・68mmであり、変形は非直線形であるのに対し、本発明構造では、温度変化による変形は1.2μm/℃・68mmであり、湿度変化による変形は−1.2μm/10%・68mmであり、変形も直線形であった。よって、支持体をポリエステルスクリーンからSUS430板にすることで、支持体が低熱膨張・非吸湿材になり、温湿度変化に対する歪みを抑制できた。
【0037】
図5は、本発明にかかる印刷装置の一例を示す。この例は、
図1に記載のコンビネーションスクリーン版1をコンタクト方式の印刷装置に適用したものである。コンビネーションスクリーン版1の上側には、印刷用スクリーン3及び支持体4上を摺動するスキージ10が、水平方向に移動する移動機構11に取り付けられている。スキージ10は所定の印圧をもって印刷用スクリーン3及び支持体4に斜めに圧接している。スキージ10の全長(紙面と垂直方向の長さ)は、支持体4の開口部4aの幅(
図1のD)より大きくするのが望ましい。この場合、最も負荷がかかるスキージ10の端部は支持体4上を摺動するため、印刷用スクリーン3にかかる負荷を軽減できる。さらに、支持体4のスキージ移動方向前側の幅(
図1のW1)は、ペーストのローリングが安定するまでのスキージの助走距離であり、支持体4のスキージ移動方向後側の幅(
図1のW2)は、ペースト溜まりの余白部である。
【0038】
コンビネーションスクリーン版1の下側には、断面円弧状の外周面12aを有する印刷用ステージ12が配置されている。印刷用ステージ12の幅方向寸法(紙面と垂直方向の寸法)は、支持板4の開口部4aの幅Dより大きい。このステージ12の外周面上には、セラミックグリーンシートなどの被印刷物(図示せず)が吸着保持されている。ステージ12は、被印刷物の表面を印刷用スクリーン3の裏面のスキージ10の先端位置と対応する位置に接触させながら、スキージ10の移動と同期して矢印方向に回転するよう、図示しない回転機構に取り付けられている。なお、断面円弧状の外周面は、楕円の円弧状の外周面であってもよい。詳しい構成は特許文献4に記載の通りであるため、ここでは省略する。
【0039】
図5において、二点鎖線は印刷の開始状態、一点鎖線は中間状態、実線は終了状態を示す。スキージ10はペースト(印刷用インク)Pを印刷用スクリーン3に押しつけながら、矢印方向へ水平移動する。ステージ12の円弧状外周面12aの頂部が、印刷用スクリーン3の裏面のスキージ10の先端位置と対応する位置に部分的に接触するため、ペーストPの粘性に起因するステージ10との剥離時の印刷用スクリーン3の伸びを抑制できる。また、印刷用スクリーン3の周囲が高強度の支持体4によって支持されているので、スキージ10との摩擦による印刷用スクリーン3の平面方向の伸びも抑制又は防止できる。
【0040】
このように、ステージ12は印刷用スクリーン3の裏面のスキージ10の先端位置と対応する位置に部分的に接触しながら回転するので、印刷用スクリーン3とステージ12との剥離時の印刷用スクリーン3の変形を、効果的に抑制することができる。また、印刷用スクリーン3の周囲が高強度の金属板である支持体4によって保持されているので、スキージ10との摩擦による印刷用スクリーン3の平面方向の伸びを抑制できる。さらに、さらに、コンタクト印刷の特徴である印刷用スクリーン3の厚み方向の伸びも抑制できる。
【0041】
図5に示す印刷装置を用い、以下の条件でスクリーン印刷を行った結果を
図6に示す。版構造及び印刷条件は以下の通りである。
枠:外寸364mm、内寸320mm□、厚み16.5mmのアルミニウム枠
支持体:外寸364mm□、内寸210mm□、厚み0.4mmのSUS430板
印刷用スクリーン:ハイメッシュのタングステンスクリーン(#430-13:線径13μmメッシュ数430本/inch)
【0042】
上記条件で、断面円弧状のステ―ジを用いてコンタクト方式のスクリーン印刷を行ったところ、多層製品で必要な印刷精度±15μmを安定して達成することができた。よって、本発明に係るコンビネーションスクリーン版の効果が証明された。このような高精度のコンビネーションスクリーン版を使用することによって、高密度印刷が可能になり、高機能の多層商品を製造することができる。
【0043】
上記実施例は、本発明のほんの数例を示すに過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。上記実施形態では、支持体の材質としてSUS430を使用したが、それ以外のステンレス板を使用してもよく、さらには高強度鋼板、アルミニウム板、銅板、その他の合金などの他の金属板を使用することもできる。ヤング率に応じて、支持体の厚みを設定するのがよい。
【0044】
図5の印刷装置では、ステージとして断面扇形のステージを使用したが、蒲鉾形状や円筒状ステージであってもよく、凸曲面を有するステージであればよい。さらに、本発明のコンビネーションスクリーン版は、
図5のような凸曲面を有するステージを使用したコンタクト方式の印刷方法に限らず、線剥離印刷、さらには平板状ステージを用いたコンタクト方式の印刷方法にも適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 コンビネーションスクリーン版
2 枠
3 印刷用スクリーン
4 支持体
4a 開口部
10 スキージ
12 ステージ
12a 円弧状外周面
P ペースト