(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。ただし、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
また、図面において、大きさ、層の厚さ、又は領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。なお図面は、理想的な例を模式的に示したものであり、図面に示す形状又は値などに限定されない。
【0028】
また、本明細書にて用いる「第1」、「第2」、「第3」という序数詞は、構成要素の混同を避けるために付したものであり、数的に限定するものではないことを付記する。
【0029】
また、本明細書において、「上に」、「下に」などの配置を示す語句は、構成同士の位置関係を、図面を参照して説明するために、便宜上用いている。また、構成同士の位置関係は、各構成を描写する方向に応じて適宜変化するものである。従って、明細書で説明した語句に限定されず、状況に応じて適切に言い換えることができる。
【0030】
また、本明細書等において、トランジスタとは、ゲートと、ドレインと、ソースとを含む少なくとも三つの端子を有する素子である。そして、ドレイン(ドレイン端子、ドレイン領域またはドレイン電極)とソース(ソース端子、ソース領域またはソース電極)の間にチャネル領域を有しており、チャネル形成領域を介して、ソースとドレインとの間に電流を流すことができるものである。なお、本明細書等において、チャネル領域とは、電流が主として流れる領域をいう。
【0031】
また、ソースやドレインの機能は、異なる極性のトランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合などには入れ替わることがある。このため、本明細書等においては、ソースやドレインの用語は、入れ替えて用いることができるものとする。
【0032】
また、本明細書等において、「電気的に接続」には、「何らかの電気的作用を有するもの」を介して接続されている場合が含まれる。ここで、「何らかの電気的作用を有するもの」は、接続対象間での電気信号の授受を可能とするものであれば、特に制限を受けない。例えば、「何らかの電気的作用を有するもの」には、電極や配線をはじめ、トランジスタなどのスイッチング素子、抵抗素子、インダクタ、キャパシタ、その他の各種機能を有する素子などが含まれる。
【0033】
また、本明細書等において、「平行」とは、二つの直線が−10°以上10°以下の角度で配置されている状態をいう。したがって、−5°以上5°以下の場合も含まれる。また、「垂直」とは、二つの直線が80°以上100°以下の角度で配置されている状態をいう。したがって、85°以上95°以下の場合も含まれる。
【0034】
また、本明細書等において、「膜」という用語と、「層」という用語とは、互いに入れ替えることが可能である。例えば、「導電層」という用語を、「導電膜」という用語に変更することが可能な場合がある。または、例えば、「絶縁膜」という用語を、「絶縁層」という用語に変更することが可能な場合がある。
【0035】
また、本明細書等において、特に断りがない場合、オフ電流とは、トランジスタがオフ状態(非導通状態、遮断状態、ともいう)にあるときのドレイン電流をいう。オフ状態とは、特に断りがない場合、nチャネル型トランジスタでは、ゲートとソースの間の電圧Vgsがしきい値電圧Vthよりも低い状態、pチャネル型トランジスタでは、ゲートとソースの間の電圧Vgsがしきい値電圧Vthよりも高い状態をいう。例えば、nチャネル型のトランジスタのオフ電流とは、ゲートとソースの間の電圧Vgsがしきい値電圧Vthよりも低いときのドレイン電流を言う場合がある。
【0036】
トランジスタのオフ電流は、Vgsに依存する場合がある。従って、トランジスタのオフ電流がI以下である、とは、トランジスタのオフ電流がI以下となるVgsの値が存在することを言う場合がある。トランジスタのオフ電流は、所定のVgsにおけるオフ状態、所定の範囲内のVgsにおけるオフ状態、または、十分に低減されたオフ電流が得られるVgsにおけるオフ状態、等におけるオフ電流を指す場合がある。
【0037】
一例として、しきい値電圧Vthが0.5Vであり、Vgsが0.5Vにおけるドレイン電流が1×10
−9Aであり、Vgsが0.1Vにおけるドレイン電流が1×10
−13Aであり、Vgsが−0.5Vにおけるドレイン電流が1×10
−19Aであり、Vgsが−0.8Vにおけるドレイン電流が1×10
−22Aであるようなnチャネル型トランジスタを想定する。当該トランジスタのドレイン電流は、Vgsが−0.5Vにおいて、または、Vgsが−0.5V乃至−0.8Vの範囲において、1×10
−19A以下であるから、当該トランジスタのオフ電流は1×10
−19A以下である、と言う場合がある。当該トランジスタのドレイン電流が1×10
−22A以下となるVgsが存在するため、当該トランジスタのオフ電流は1×10
−22A以下である、と言う場合がある。
【0038】
また、本明細書等では、チャネル幅Wを有するトランジスタのオフ電流を、チャネル幅Wあたりを流れる電流値で表す場合がある。また、所定のチャネル幅(例えば1μm)あたりを流れる電流値で表す場合がある。後者の場合、オフ電流の単位は、電流/長さの次元を持つ単位(例えば、A/μm)で表される場合がある。
【0039】
トランジスタのオフ電流は、温度に依存する場合がある。本明細書において、オフ電流は、特に記載がない場合、室温、60℃、85℃、95℃、または125℃におけるオフ電流を表す場合がある。または、当該トランジスタが含まれる半導体装置等の信頼性が保証される温度、または、当該トランジスタが含まれる半導体装置等が使用される温度(例えば、5℃乃至35℃のいずれか一の温度)におけるオフ電流、を表す場合がある。トランジスタのオフ電流がI以下である、とは、室温、60℃、85℃、95℃、125℃、当該トランジスタが含まれる半導体装置の信頼性が保証される温度、または、当該トランジスタが含まれる半導体装置等が使用される温度(例えば、5℃乃至35℃のいずれか一の温度)、におけるトランジスタのオフ電流がI以下となるVgsの値が存在することを指す場合がある。
【0040】
トランジスタのオフ電流は、ドレインとソースの間の電圧Vdsに依存する場合がある。本明細書において、オフ電流は、特に記載がない場合、Vdsが0.1V、0.8V、1V、1.2V、1.8V、2.5V,3V、3.3V、10V、12V、16V、または20Vにおけるオフ電流を表す場合がある。または、当該トランジスタが含まれる半導体装置等の信頼性が保証されるVds、または、当該トランジスタが含まれる半導体装置等において使用されるVdsにおけるオフ電流、を表す場合がある。トランジスタのオフ電流がI以下である、とは、Vdsが0.1V、0.8V、1V、1.2V、1.8V、2.5V,3V、3.3V、10V、12V、16V、20V、当該トランジスタが含まれる半導体装置の信頼性が保証されるVds、または、当該トランジスタが含まれる半導体装置等において使用されるVds、におけるトランジスタのオフ電流がI以下となるVgsの値が存在することを指す場合がある。
【0041】
上記オフ電流の説明において、ドレインをソースと読み替えてもよい。つまり、オフ電流は、トランジスタがオフ状態にあるときのソースを流れる電流を言う場合もある。
【0042】
また、本明細書等では、オフ電流と同じ意味で、リーク電流と記載する場合がある。また、本明細書等において、オフ電流とは、例えば、トランジスタがオフ状態にあるときに、ソースとドレインとの間に流れる電流を指す場合がある。
【0043】
また、本明細書等において、トランジスタのしきい値電圧とは、トランジスタにチャネルが形成されたときのゲート電圧(Vg)を指す。具体的には、トランジスタのしきい値電圧とは、ゲート電圧(Vg)を横軸に、ドレイン電流(Id)の平方根を縦軸にプロットした曲線(Vg−√Id特性)において、最大傾きである接線を外挿したときの直線と、ドレイン電流(Id)の平方根が0(Idが0A)との交点におけるゲート電圧(Vg)を指す場合がある。あるいは、トランジスタのしきい値電圧とは、チャネル長をL、チャネル幅をWとし、Id[A]×L[μm]/W[μm]の値が1×10
−9[A]となるゲート電圧(Vg)を指す場合がある。
【0044】
また、本明細書等において、「半導体」と表記した場合であっても、例えば、導電性が十分に低い場合は、「絶縁体」としての特性を有する場合がある。また、「半導体」と「絶縁体」とは境界が曖昧であり、厳密に区別できない場合がある。したがって、本明細書等に記載の「半導体」は、「絶縁体」に言い換えることが可能な場合がある。同様に、本明細書等に記載の「絶縁体」は、「半導体」に言い換えることが可能な場合がある。または、本明細書等に記載の「絶縁体」を「半絶縁体」に言い換えることが可能な場合がある。
【0045】
また、本明細書等において、「半導体」と表記した場合であっても、例えば、導電性が十分に高い場合は、「導電体」としての特性を有する場合がある。また、「半導体」と「導電体」とは境界が曖昧であり、厳密に区別できない場合がある。したがって、本明細書等に記載の「半導体」は、「導電体」に言い換えることが可能な場合がある。同様に、本明細書等に記載の「導電体」は、「半導体」に言い換えることが可能な場合がある。
【0046】
また、本明細書等において、半導体の不純物とは、半導体膜を構成する主成分以外をいう。例えば、濃度が0.1原子%未満の元素は不純物である。不純物が含まれることにより、半導体にDOS(Density of States)が形成されることや、キャリア移動度が低下することや、結晶性が低下することなどが起こる場合がある。半導体が酸化物半導体を有する場合、半導体の特性を変化させる不純物としては、例えば、第1族元素、第2族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素、主成分以外の遷移金属などがあり、特に、水素(水にも含まれる)、リチウム、ナトリウム、シリコン、ホウ素、リン、炭素、窒素などがある。酸化物半導体の場合、例えば水素などの不純物の混入によって酸素欠損を形成する場合がある。また、半導体がシリコンを有する場合、半導体の特性を変化させる不純物としては、例えば、酸素、水素を除く第1族元素、第2族元素、第13族元素、第15族元素などがある。
【0047】
本明細書等において、金属酸化物(metal oxide)とは、広い表現での金属の酸化物である。金属酸化物は、酸化物絶縁体、酸化物導電体(透明酸化物導電体を含む)、酸化物半導体(Oxide Semiconductorまたは単にOSともいう)などに分類される。例えば、トランジスタの活性層に金属酸化物を用いた場合、当該金属酸化物を酸化物半導体と呼称する場合がある。つまり、OS FETと記載する場合においては、金属酸化物または酸化物半導体を有するトランジスタと換言することができる。
【0048】
また、本明細書等において、窒素を有する金属酸化物も金属酸化物(metal oxide)と総称する場合がある。また、窒素を有する金属酸化物を、金属酸窒化物(metal oxynitride)と呼称してもよい。
【0049】
また、本明細書等において、CAAC(c−axis aligned crystal)、及びCAC(Cloud−Aligned Composite)と記載する場合がある。なお、CAACは結晶構造の一例を表し、CACは機能、または材料の構成の一例を表す。
【0050】
酸化物半導体または金属酸化物の結晶構造の一例について説明する。なお、以下では、In−Ga−Zn酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比])を用いて、スパッタリング法にて成膜された酸化物半導体を一例として説明する。上記ターゲットを用いて、基板温度を100℃以上130℃以下として、スパッタリング法により形成した酸化物半導体をsIGZOと呼称し、上記ターゲットを用いて、基板温度を室温(R.T.)として、スパッタリング法により形成した酸化物半導体をtIGZOと呼称する。例えば、sIGZOは、nc(nano crystal)及びCAACのいずれか一方または双方の結晶構造を有する。また、tIGZOは、ncの結晶構造を有する。なお、ここでいう室温(R.T.)とは、基板を意図的に加熱しない場合の温度を含む。
【0051】
また、本明細書等において、CAC−OSまたはCAC−metal oxideとは、材料の一部では導電体の機能と、材料の一部では誘電体(または絶縁体)の機能とを有し、材料の全体では半導体としての機能を有する。なお、CAC−OSまたはCAC−metal oxideを、トランジスタの活性層に用いる場合、導電体は、キャリアとなる電子(またはホール)を流す機能を有し、誘電体は、キャリアとなる電子を流さない機能を有する。導電体としての機能と、誘電体としての機能とを、それぞれ相補的に作用させることで、スイッチングさせる機能(On/Offさせる機能)をCAC−OSまたはCAC−metal oxideに付与することができる。CAC−OSまたはCAC−metal oxideにおいて、それぞれの機能を分離させることで、双方の機能を最大限に高めることができる。
【0052】
また、本明細書等において、CAC−OSまたはCAC−metal oxideは、導電体領域、及び誘電体領域を有する。導電体領域は、上述の導電体の機能を有し、誘電体領域は、上述の誘電体の機能を有する。また、材料中において、導電体領域と、誘電体領域とは、ナノ粒子レベルで分離している場合がある。また、導電体領域と、誘電体領域とは、それぞれ材料中に偏在する場合がある。また、導電体領域は、周辺がぼけてクラウド状に連結して観察される場合がある。
【0053】
すなわち、CAC−OSまたはCAC−metal oxideは、マトリックス複合材(matrix composite)、または金属マトリックス複合材(metal matrix composite)と呼称することもできる。
【0054】
また、CAC−OSまたはCAC−metal oxideにおいて、導電体領域と、誘電体領域とは、それぞれ0.5nm以上10nm以下、好ましくは0.5nm以上3nm以下のサイズで材料中に分散している場合がある。
【0055】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の半導体装置及び半導体装置の作製方法について、
図1乃至
図12を参照して説明する。
【0056】
<1−1.半導体装置の構成例1>
図1(A)は、本発明の一態様の半導体装置であるトランジスタ100の上面図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示す一点鎖線X1−X2間における切断面の断面図に相当し、
図1(C)は、
図1(A)に示す一点鎖線Y1−Y2間における切断面の断面図に相当する。なお、
図1(A)において、煩雑になることを避けるため、トランジスタ100の構成要素の一部(ゲート絶縁膜として機能する絶縁膜等)を省略して図示している。また、一点鎖線X1−X2方向をチャネル長方向、一点鎖線Y1−Y2方向をチャネル幅方向と呼称する場合がある。なお、トランジスタの上面図においては、以降の図面においても
図1(A)と同様に、構成要素の一部を省略して図示する場合がある。
【0057】
図1(A)(B)(C)に示すトランジスタ100は、所謂トップゲート構造のトランジスタである。
【0058】
トランジスタ100は、基板102上の絶縁膜104と、絶縁膜104上の酸化物半導体膜108と、酸化物半導体膜108上の絶縁膜110と、絶縁膜110上の導電膜112と、絶縁膜104、酸化物半導体膜108、及び導電膜112上の絶縁膜116と、を有する。
【0059】
また、酸化物半導体膜108は、導電膜112が重畳する領域において、絶縁膜104上の酸化物半導体膜108_1と、酸化物半導体膜108_1上の酸化物半導体膜108_2と、酸化物半導体膜108_2上の酸化物半導体膜108_3と、を有する。なお、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3は、それぞれ同じ元素を有する。例えば、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3は、それぞれ独立に、Inと、M(MはAl、Ga、Y、またはSn)と、Znと、を有すると好ましい。
【0060】
また、酸化物半導体膜108は、導電膜112が重畳せずに、且つ絶縁膜116が接する領域において、領域108nを有する。領域108nは、先に説明した酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3が、それぞれn型化した領域である。なお、領域108nは、絶縁膜116と接し、絶縁膜116は、窒素または水素を有する。そのため、絶縁膜116中の窒素または水素が領域108nに添加されることで、キャリア密度が高くなりn型となる。
【0061】
また、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3は、それぞれ独立に、Inの原子数比がMの原子数比より多い領域を有すると好ましい。一例としては、酸化物半導体膜108_1のIn、M、及びZnの原子数の比を、In:M:Zn=4:2:3またはその近傍とすると好ましい。また、酸化物半導体膜108_2のIn、M、及びZnの原子数の比を、In:M:Zn=4:2:3またはその近傍とすると好ましい。また、酸化物半導体膜108_3のIn、M、及びZnの原子数の比を、In:M:Zn=4:2:3またはその近傍とすると好ましい。ここで近傍とは、Inが4の場合、Mが1.5以上2.5以下であり、且つZnが2以上4以下を含む。このように、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3を概略同じ組成とすることで、同じスパッタリングターゲットを用いて形成できるため、製造コストを抑制することが可能である。
【0062】
なお、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3は、上記の組成に限定されない。例えば、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3のIn、M、及びZnの原子数の比を、In:M:Zn=5:1:6またはその近傍としてもよい。ここで近傍とは、Inが5の場合、Mが0.5以上1.5以下であり、且つZnが5以上7以下を含む。
【0063】
酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3が、それぞれ独立に、Inの原子数比がMの原子数比より多い領域を有することで、トランジスタ100の電界効果移動度を高くすることができる。具体的には、トランジスタ100の電界効果移動度が10cm
2/Vsを超える、さらに好ましくはトランジスタ100の電界効果移動度が30cm
2/Vsを超えることが可能となる。
【0064】
例えば、上記の電界効果移動度が高いトランジスタを、ゲート信号を生成するゲートドライバに用いることで、額縁幅の狭い(狭額縁ともいう)表示装置を提供することができる。また、上記の電界効果移動度が高いトランジスタを、表示装置が有する信号線からの信号の供給を行うソースドライバ(とくに、ソースドライバが有するシフトレジスタの出力端子に接続されるデマルチプレクサ)に用いることで、表示装置に接続される配線数が少ない表示装置を提供することができる。
【0065】
一方で、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3が、それぞれ独立に、Inの原子数比がMの原子数比より多い領域を有していても、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3それぞれの結晶性が高い場合、電界効果移動度が低くなる場合がある。
【0066】
しかしながら、本発明の一態様の半導体装置においては、酸化物半導体膜108_2は、酸化物半導体膜108_1、及び酸化物半導体膜108_3のいずれか一方または双方よりも結晶性が低い領域を有する。なお、酸化物半導体膜108の結晶性としては、例えば、X線回折(XRD:X−Ray Diffraction)を用いて分析する、あるいは、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて分析することで解析できる。
【0067】
酸化物半導体膜108_2が結晶性の低い領域を有する場合、以下の優れた効果を有する。
【0068】
まず、酸化物半導体膜108中に形成されうる酸素欠損について説明を行う。
【0069】
酸化物半導体膜108に形成される酸素欠損は、トランジスタ特性に影響を与えるため問題となる。例えば、酸化物半導体膜108中に酸素欠損が形成されると、該酸素欠損に水素がトラップされ、キャリア供給源となる。酸化物半導体膜108中にキャリア供給源が生成されると、酸化物半導体膜108を有するトランジスタ100の電気特性の変動、代表的にはしきい値電圧のシフトが生じる。したがって、酸化物半導体膜108においては、酸素欠損が少ないほど好ましい。
【0070】
そこで、本発明の一態様においては、酸化物半導体膜108近傍の絶縁膜、具体的には、酸化物半導体膜108の上方に形成される絶縁膜110及び酸化物半導体膜108の下方に形成される絶縁膜104のいずれか一方または双方が、過剰酸素を含有する構成である。絶縁膜104及び絶縁膜110のいずれか一方または双方から酸化物半導体膜108へ酸素または過剰酸素を移動させることで、酸化物半導体膜中の酸素欠損を低減することが可能となる。
【0071】
ここで、
図12(A)(B)を用いて、酸化物半導体膜108中に拡散する酸素または過剰酸素の経路について説明する。
図12(A)(B)は、酸化物半導体膜108中に拡散する酸素または過剰酸素の拡散経路を表す概念図であり、
図12(A)はチャネル長方向の概念図であり、
図12(B)はチャネル幅方向の概念図である。
【0072】
絶縁膜110が有する酸素または過剰酸素は、上方側から、すなわち酸化物半導体膜108_3を通過して、酸化物半導体膜108_2と、酸化物半導体膜108_1とに拡散する(
図12(A)(B)に示すRoute 1)。
【0073】
あるいは、絶縁膜110が有する酸素または過剰酸素は、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3それぞれの側面から酸化物半導体膜108中に拡散する(
図12(B)に示すRoute 2)。
【0074】
例えば、
図12(A)(B)に示すRoute 1の場合、酸化物半導体膜108_3の結晶性が高い場合、酸素または過剰酸素の拡散を阻害する場合がある。一方で、
図12(B)に示すRoute 2の場合、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3それぞれの側面から、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3に酸素または過剰酸素を拡散させることが可能となる。
【0075】
また、
図12(B)に示すRoute 2の場合、酸化物半導体膜108_2の結晶性が、酸化物半導体膜108_1及び酸化物半導体膜108_3の結晶性よりも低い領域を有するため、当該領域が過剰酸素の拡散経路となり、酸化物半導体膜108_2よりも結晶性の高い酸化物半導体膜108_1及び酸化物半導体膜108_3にも過剰酸素を拡散させることができる。よって、酸化物半導体膜108_2の厚さは、酸化物半導体膜108_1及び酸化物半導体膜108_3よりも厚い方が、酸素の拡散経路が大きくなるため好ましい。なお、
図12(A)(B)中には、図示しないが、絶縁膜104が酸素または過剰酸素を有する場合、絶縁膜104からも酸化物半導体膜108中に酸素または過剰酸素が拡散しうる。
【0076】
このように、本発明の一態様の半導体装置においては、結晶構造が異なる酸化物半導体膜の積層構造とし、結晶性の低い領域を過剰酸素の拡散経路とすることで、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0077】
なお、酸化物半導体膜108を結晶性が低い酸化物半導体膜のみで構成すると、酸化物半導体膜108中に不純物(例えば、水素または水分など)が混入する、または酸化物半導体膜108にダメージが入る場合がある。酸化物半導体膜108に混入する水素または水分などの不純物は、トランジスタ特性に影響を与えるため問題となる。したがって、酸化物半導体膜108においては、水素または水分などの不純物が少ないほど好ましい。
【0078】
そこで、本発明の一態様において、酸化物半導体膜の下層(ここでは、酸化物半導体膜108_1)及び上層の酸化物半導体膜(ここでは、酸化物半導体膜108_3)の結晶性を高めることで、酸化物半導体膜108_2に混入しうる不純物を抑制することができる。特に、酸化物半導体膜108_3の結晶性を高めることで、絶縁膜110を形成する際のダメージを抑制することができる。酸化物半導体膜108の表面、すなわち酸化物半導体膜108_3の表面は、絶縁膜110を形成する際の被形成面となるため、ダメージが入りやすい。しかしながら、酸化物半導体膜108_3は、結晶性が高い領域を有するため、絶縁膜110を形成する際のダメージを抑制することができる。
【0079】
なお、酸化物半導体膜108としては、不純物濃度が低く、欠陥準位密度の低い酸化物半導体膜を用いることで、優れた電気特性を有するトランジスタを作製することができ好ましい。ここでは、不純物濃度が低く、欠陥準位密度の低い(酸素欠損の少ない)ことを高純度真性または実質的に高純度真性とよぶ。高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜は、キャリア発生源が少ないため、キャリア密度を低くすることができる。従って、該酸化物半導体膜にチャネル領域が形成されるトランジスタは、しきい値電圧がマイナスとなる電気特性(ノーマリーオンともいう。)になることが少ない。また、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜は、欠陥準位密度が低いため、トラップ準位密度も低くなる場合がある。また、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜は、オフ電流が著しく小さく、チャネル幅が1×10
6μmでチャネル長が10μmの素子であっても、ソース電極とドレイン電極間の電圧(ドレイン電圧)が1Vから10Vの範囲において、オフ電流が、半導体パラメータアナライザの測定限界以下、すなわち1×10
−13A以下という特性を得ることができる。
【0080】
また、酸化物半導体膜108_2は、酸化物半導体膜108_1及び酸化物半導体膜108_3よりも結晶性が低い領域を有することで、キャリア密度が高くなる場合がある。
【0081】
また、酸化物半導体膜108_2のキャリア密度が高くなると、酸化物半導体膜108_2の伝導帯に対してフェルミ準位が相対的に高くなる場合がある。これにより、酸化物半導体膜108_2の伝導帯の下端が低くなり、酸化物半導体膜108_2の伝導帯下端と、ゲート絶縁膜(ここでは、絶縁膜110)中に形成されうるトラップ準位とのエネルギー差が大きくなる場合がある。該エネルギー差が大きくなることにより、ゲート絶縁膜中にトラップされる電荷が少なくなり、トランジスタのしきい値電圧の変動を小さくできる場合がある。また、酸化物半導体膜108_2のキャリア密度が高くなると、酸化物半導体膜108の電界効果移動度を高めることができる。
【0082】
また、酸化物半導体膜108_2は、In
aM
bZn
cO
d(MはAl、Ga、Y、またはSnを表し、a、b、c、及びdは任意数を表す)を有する第1の領域と、In
xZn
yO
z(x、y、及びzは任意数を表す)を有する第2の領域とを有する、複合酸化物半導体であると好適である。当該複合酸化物半導体膜については、実施の形態2にて詳細に説明する。
【0083】
また、
図1(A)(B)(C)に示すように、トランジスタ100は、絶縁膜116上の絶縁膜118と、絶縁膜116、118に設けられた開口部141aを介して、領域108nに電気的に接続される導電膜120aと、絶縁膜116、118に設けられた開口部141bを介して、領域108nに電気的に接続される導電膜120bと、を有していてもよい。
【0084】
なお、本明細書等において、絶縁膜104を第1の絶縁膜と、絶縁膜110を第2の絶縁膜と、絶縁膜116を第3の絶縁膜と、絶縁膜118を第4の絶縁膜と、それぞれ呼称する場合がある。また、導電膜112は、ゲート電極としての機能を有し、導電膜120aは、ソース電極としての機能を有し、導電膜120bは、ドレイン電極としての機能を有する。
【0085】
また、絶縁膜110は、ゲート絶縁膜としての機能を有する。また、絶縁膜110は、過剰酸素領域を有する。絶縁膜110が過剰酸素領域を有することで、酸化物半導体膜108中に過剰酸素を供給することができる。よって、酸化物半導体膜108中に形成されうる酸素欠損を過剰酸素により補填することができるため、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0086】
なお、酸化物半導体膜108中に過剰酸素を供給させるためには、酸化物半導体膜108の下方に形成される絶縁膜104に過剰酸素を供給してもよい。この場合、絶縁膜104中に含まれる過剰酸素は、領域108nにも供給されうる。領域108n中に過剰酸素が供給されると、領域108n中の抵抗が高くなり、好ましくない。一方で、酸化物半導体膜108の上方に形成される絶縁膜110に過剰酸素を有する構成とすることで、導電膜112と重畳する領域にのみ選択的に過剰酸素を供給させることが可能となる。
【0087】
<1−2.半導体装置の構成要素>
次に、本実施の形態の半導体装置に含まれる構成要素について、詳細に説明する。
【0088】
[基板]
基板102の材質などに大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有している必要がある。例えば、ガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板等を、基板102として用いてもよい。また、シリコンや炭化シリコンを材料とした単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウム等の化合物半導体基板、SOI基板等を適用することも可能であり、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板102として用いてもよい。なお、基板102として、ガラス基板を用いる場合、第6世代(1500mm×1850mm)、第7世代(1870mm×2200mm)、第8世代(2200mm×2400mm)、第9世代(2400mm×2800mm)、第10世代(2950mm×3400mm)等の大面積基板を用いることで、大型の表示装置を作製することができる。
【0089】
また、基板102として、可撓性基板を用い、可撓性基板上に直接、トランジスタ100を形成してもよい。または、基板102とトランジスタ100の間に剥離層を設けてもよい。剥離層は、その上に半導体装置を一部あるいは全部完成させた後、基板102より分離し、他の基板に転載するのに用いることができる。その際、トランジスタ100は耐熱性の劣る基板や可撓性の基板にも転載できる。
【0090】
[第1の絶縁膜]
絶縁膜104としては、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法、印刷法、塗布法等を適宜用いて形成することができる。また、絶縁膜104としては、例えば、酸化物絶縁膜または窒化物絶縁膜を単層または積層して形成することができる。なお、酸化物半導体膜108との界面特性を向上させるため、絶縁膜104において少なくとも酸化物半導体膜108と接する領域は酸化物絶縁膜で形成することが好ましい。また、絶縁膜104として加熱により酸素を放出する酸化物絶縁膜を用いることで、加熱処理により絶縁膜104に含まれる酸素を、酸化物半導体膜108に移動させることが可能である。
【0091】
絶縁膜104の厚さは、50nm以上、または100nm以上3000nm以下、または200nm以上1000nm以下とすることができる。絶縁膜104を厚くすることで、絶縁膜104の酸素放出量を増加させることができると共に、絶縁膜104と酸化物半導体膜108との界面における界面準位、並びに酸化物半導体膜108に含まれる酸素欠損を低減することが可能である。
【0092】
絶縁膜104として、例えば酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ガリウムまたはGa−Zn酸化物などを用いればよく、単層または積層で設けることができる。本実施の形態では、絶縁膜104として、窒化シリコン膜と、酸化窒化シリコン膜との積層構造を用いる。このように、絶縁膜104を積層構造として、下層側に窒化シリコン膜を用い、上層側に酸化窒化シリコン膜を用いることで、酸化物半導体膜108中に効率よく酸素を導入することができる。
【0093】
[導電膜]
ゲート電極として機能する導電膜112、ソース電極として機能する導電膜120a、ドレイン電極として機能する導電膜120bとしては、クロム(Cr)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)から選ばれた金属元素、または上述した金属元素を成分とする合金か、上述した金属元素を組み合わせた合金等を用いてそれぞれ形成することができる。
【0094】
また、導電膜112、120a、120bには、インジウムと錫とを有する酸化物(In−Sn酸化物)、インジウムとタングステンとを有する酸化物(In−W酸化物)、インジウムとタングステンと亜鉛とを有する酸化物(In−W−Zn酸化物)、インジウムとチタンとを有する酸化物(In−Ti酸化物)、インジウムとチタンと錫とを有する酸化物(In−Ti−Sn酸化物)、インジウムと亜鉛とを有する酸化物(In−Zn酸化物)、インジウムと錫とシリコンとを有する酸化物(In−Sn−Si酸化物)、インジウムとガリウムと亜鉛とを有する酸化物(In−Ga−Zn酸化物)等の酸化物導電体または酸化物半導体を適用することもできる。
【0095】
ここで、酸化物導電体について説明を行う。本明細書等において、酸化物導電体をOC(Oxide Conductor)と呼称してもよい。例えば、酸化物半導体に酸素欠損を形成し、該酸素欠損に水素を添加すると、伝導帯近傍にドナー準位が形成される。この結果、酸化物半導体は、導電性が高くなり導電体化する。導電体化された酸化物半導体を、酸化物導電体ということができる。一般に、酸化物半導体は、エネルギーギャップが大きいため、可視光に対して透光性を有する。一方、酸化物導電体は、伝導帯近傍にドナー準位を有する酸化物半導体である。したがって、酸化物導電体は、ドナー準位による吸収の影響は小さく、可視光に対して酸化物半導体と同程度の透光性を有する。
【0096】
特に、導電膜112に上述の酸化物導電体を用いると、絶縁膜110中に過剰酸素を添加することができるので好適である。
【0097】
また、導電膜112、120a、120bには、Cu−X合金膜(Xは、Mn、Ni、Cr、Fe、Co、Mo、Ta、またはTi)を適用してもよい。Cu−X合金膜を用いることで、ウエットエッチングプロセスで加工できるため、製造コストを抑制することが可能となる。
【0098】
また、導電膜112、120a、120bには、上述の金属元素の中でも、特にチタン、タングステン、タンタル、及びモリブデンの中から選ばれるいずれか一つまたは複数を有すると好適である。特に、導電膜112、120a、120bとしては、窒化タンタル膜を用いると好適である。当該窒化タンタル膜は、導電性を有し、且つ、銅または水素に対して、高いバリア性を有する。また、窒化タンタル膜は、さらに自身からの水素の放出が少ないため、酸化物半導体膜108と接する導電膜、または酸化物半導体膜108の近傍の導電膜として、好適に用いることができる。
【0099】
また、導電膜112、120a、120bを、無電解めっき法により形成することができる。当該無電解めっき法により形成できる材料としては、例えば、Cu、Ni、Al、Au、Sn、Co、Ag、及びPdの中から選ばれるいずれか一つまたは複数を用いることが可能である。特に、CuまたはAgを用いると、導電膜の抵抗を低くすることができるため、好適である。
【0100】
[第2の絶縁膜]
トランジスタ100のゲート絶縁膜として機能する絶縁膜110としては、プラズマ化学気相堆積(PECVD:(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition))法、スパッタリング法等により、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化イットリウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ガリウム膜、酸化タンタル膜、酸化マグネシウム膜、酸化ランタン膜、酸化セリウム膜および酸化ネオジム膜を一種以上含む絶縁層を用いることができる。なお、絶縁膜110を、2層以上の積層構造としてもよい。
【0101】
また、トランジスタ100のチャネル領域として機能する酸化物半導体膜108と接する絶縁膜110は、酸化物絶縁膜であることが好ましく、化学量論的組成よりも過剰に酸素を含有する領域(過剰酸素領域)を有することがより好ましい。別言すると、絶縁膜110は、酸素を放出することが可能な絶縁膜である。なお、絶縁膜110に過剰酸素領域を設けるには、例えば、酸素雰囲気下にて絶縁膜110を形成する、もしくは成膜後の絶縁膜110を酸素雰囲気下で熱処理すればよい。
【0102】
また、絶縁膜110として、酸化ハフニウムを用いる場合、以下の効果を奏する。酸化ハフニウムは、酸化シリコンや酸化窒化シリコンと比べて比誘電率が高い。したがって、酸化シリコンを用いた場合と比べて、絶縁膜110の膜厚を大きくできるため、トンネル電流によるリーク電流を小さくすることができる。すなわち、オフ電流の小さいトランジスタを実現することができる。さらに、結晶構造を有する酸化ハフニウムは、非晶質構造を有する酸化ハフニウムと比べて高い比誘電率を備える。したがって、オフ電流の小さいトランジスタとするためには、結晶構造を有する酸化ハフニウムを用いることが好ましい。結晶構造の例としては、単斜晶系や立方晶系などが挙げられる。ただし、本発明の一態様は、これらに限定されない。
【0103】
また、絶縁膜110は、欠陥が少ないことが好ましく、代表的には、電子スピン共鳴法(ESR:Electron Spin Resonance)で観察されるシグナルが少ない方が好ましい。例えば、上述のシグナルとしては、g値が2.001に観察されるE’センターが挙げられる。なお、E’センターは、シリコンのダングリングボンドに起因する。絶縁膜110としては、E’センター起因のスピン密度が、3×10
17spins/cm
3以下、好ましくは5×10
16spins/cm
3以下である酸化シリコン膜、または酸化窒化シリコン膜を用いればよい。
【0104】
また、絶縁膜110には、上述のシグナル以外に二酸化窒素(NO
2)に起因するシグナルが観察される場合がある。当該シグナルは、Nの核スピンにより3つのシグナルに分裂しており、それぞれのg値が2.037以上2.039以下(第1のシグナルとする)、g値が2.001以上2.003以下(第2のシグナルとする)、及びg値が1.964以上1.966以下(第3のシグナルとする)に観察される。
【0105】
例えば、絶縁膜110として、二酸化窒素(NO
2)起因のスピン密度が、1×10
17spins/cm
3以上1×10
18spins/cm
3未満である絶縁膜を用いると好適である。
【0106】
なお、二酸化窒素(NO
2)を含む窒素酸化物(NO
x)は、絶縁膜110中に準位を形成する。当該準位は、酸化物半導体膜108のエネルギーギャップ内に位置する。そのため、窒素酸化物(NOx)が、絶縁膜110及び酸化物半導体膜108の界面に拡散すると、当該準位が絶縁膜110側において電子をトラップする場合がある。この結果、トラップされた電子が、絶縁膜110及び酸化物半導体膜108界面近傍に留まるため、トランジスタのしきい値電圧をプラス方向にシフトさせてしまう。したがって、絶縁膜110としては、窒素酸化物の含有量が少ない膜を用いると、トランジスタのしきい値電圧のシフトを低減することができる。
【0107】
窒素酸化物(NO
x)の放出量が少ない絶縁膜としては、例えば、酸化窒化シリコン膜を用いることができる。当該酸化窒化シリコン膜は、昇温脱離ガス分析法(TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)において、窒素酸化物(NO
x)の放出量よりアンモニアの放出量が多い膜であり、代表的にはアンモニアの放出量が1×10
18cm
−3以上5×10
19cm
−3以下である。なお、上記のアンモニアの放出量は、TDSにおける加熱処理の温度が50℃以上650℃以下、または50℃以上550℃以下の範囲での総量である。
【0108】
窒素酸化物(NO
x)は、加熱処理においてアンモニア及び酸素と反応するため、アンモニアの放出量が多い絶縁膜を用いることで窒素酸化物(NO
x)が低減される。
【0109】
なお、絶縁膜110をSIMSで分析した場合、膜中の窒素濃度が6×10
20atoms/cm
3以下であると好ましい。
【0110】
[酸化物半導体膜]
酸化物半導体膜108としては、先に示す材料を用いることができる。
【0111】
酸化物半導体膜108がIn−M−Zn酸化物の場合、In−M−Zn酸化物を成膜するために用いるスパッタリングターゲットの金属元素の原子数比は、In>Mを満たすことが好ましい。このようなスパッタリングターゲットの金属元素の原子数比として、In:M:Zn=2:1:3、In:M:Zn=3:1:2、In:M:Zn=4:2:4.1、In:M:Zn=5:1:7等が挙げられる。
【0112】
また、酸化物半導体膜108が、In−M−Zn酸化物の場合、スパッタリングターゲットとしては、多結晶のIn−M−Zn酸化物を含むターゲットを用いると好ましい。多結晶のIn−M−Zn酸化物を含むターゲットを用いることで、結晶性を有する酸化物半導体膜108を形成しやすくなる。なお、成膜される酸化物半導体膜108の原子数比は、上記のスパッタリングターゲットに含まれる金属元素の原子数比のプラスマイナス40%の変動を含む。例えば、酸化物半導体膜108に用いるスパッタリングターゲットの組成がIn:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比]の場合、成膜される酸化物半導体膜108の組成は、In:Ga:Zn=4:2:3[原子数比]またはその近傍となる場合がある。また、酸化物半導体膜108に用いるスパッタリングターゲットの組成がIn:Ga:Zn=5:1:7[原子数比]の場合、成膜される酸化物半導体膜108の組成は、In:Ga:Zn=5:1:6[原子数比]またはその近傍となる場合がある。
【0113】
また、酸化物半導体膜108は、エネルギーギャップが2eV以上、好ましくは2.5eV以上である。このように、エネルギーギャップの広い酸化物半導体を用いることで、トランジスタ100のオフ電流を低減することができる。
【0114】
また、酸化物半導体膜108は、非単結晶構造であると好ましい。非単結晶構造は、例えば、後述するCAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)、多結晶構造、微結晶構造、または非晶質構造を含む。非単結晶構造において、非晶質構造は最も欠陥準位密度が高く、CAAC−OSは最も欠陥準位密度が低い。
【0115】
[第3の絶縁膜]
絶縁膜116は、窒素または水素を有する。絶縁膜116としては、例えば、窒化物絶縁膜が挙げられる。該窒化物絶縁膜としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化窒化シリコン等を用いて形成することができる。絶縁膜116に含まれる水素濃度は、1×10
22atoms/cm
3以上であると好ましい。また、絶縁膜116は、酸化物半導体膜108の領域108nと接する。したがって、絶縁膜116と接する領域108n中の不純物(窒素または水素)濃度が高くなり、領域108nのキャリア密度を高めることができる。
【0116】
[第4の絶縁膜]
絶縁膜118としては、酸化物絶縁膜を用いることができる。また、絶縁膜118としては、酸化物絶縁膜と、窒化物絶縁膜との積層膜を用いることができる。絶縁膜118として、例えば酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ガリウムまたはGa−Zn酸化物などを用いればよい。
【0117】
また、絶縁膜118としては、外部からの水素、水等のバリア膜として機能する膜であることが好ましい。
【0118】
絶縁膜118の厚さは、30nm以上500nm以下、または100nm以上400nm以下とすることができる。
【0119】
<1−3.トランジスタの構成例2>
次に、
図1(A)(B)(C)に示すトランジスタと異なる構成について、
図2(A)(B)(C)を用いて説明する。
【0120】
図2(A)は、トランジスタ150の上面図であり、
図2(B)は
図2(A)の一点鎖線X1−X2間の断面図であり、
図2(C)は
図2(A)の一点鎖線Y1−Y2間の断面図である。
【0121】
図2(A)(B)(C)に示すトランジスタ150は、基板102上の導電膜106と、導電膜106上の絶縁膜104と、絶縁膜104上の酸化物半導体膜108と、酸化物半導体膜108上の絶縁膜110と、絶縁膜110上の導電膜112と、絶縁膜104、酸化物半導体膜108、及び導電膜112上の絶縁膜116と、を有する。
【0122】
なお、酸化物半導体膜108は、
図1(A)(B)(C)に示すトランジスタ100と同様の構成である。
図2(A)(B)(C)に示す、トランジスタ150は、先に示すトランジスタ100の構成に加え、導電膜106と、開口部143と、を有する。
【0123】
開口部143は、絶縁膜104、110に設けられる。また、導電膜106は、開口部143を介して、導電膜112と、電気的に接続される。よって、導電膜106と導電膜112には、同じ電位が与えられる。なお、開口部143を設けずに、導電膜106と、導電膜112と、に異なる電位を与えてもよい。または、開口部143を設けずに、導電膜106を遮光膜として用いてもよい。例えば、導電膜106を遮光性の材料により形成することで、チャネル領域が形成される酸化物半導体膜108に照射される下方からの光を抑制することができる。
【0124】
また、トランジスタ150の構成とする場合、導電膜106は、第1のゲート電極(ボトムゲート電極ともいう)としての機能を有し、導電膜112は、第2のゲート電極(トップゲート電極ともいう)としての機能を有する。また、絶縁膜104は、第1のゲート絶縁膜としての機能を有し、絶縁膜110は、第2のゲート絶縁膜としての機能を有する。
【0125】
導電膜106としては、先に記載の導電膜112、120a、120bと同様の材料を用いることができる。特に導電膜106として、銅を含む材料により形成することで抵抗を低くすることができるため好適である。例えば、導電膜106を窒化チタン膜、窒化タンタル膜、またはタングステン膜上に銅膜を設ける積層構造とし、導電膜120a、120bを窒化チタン膜、窒化タンタル膜、またはタングステン膜上に銅膜を設ける積層構造とすると好適である。この場合、トランジスタ150を表示装置の画素トランジスタ及び駆動トランジスタのいずれか一方または双方に用いることで、導電膜106と導電膜120aとの間に生じる寄生容量、及び導電膜106と導電膜120bとの間に生じる寄生容量を低くすることができる。したがって、導電膜106、導電膜120a、及び導電膜120bを、トランジスタ150の第1のゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極として用いるのみならず、表示装置の電源供給用の配線、信号供給用の配線、または接続用の配線等に用いる事も可能となる。
【0126】
このように、
図2(A)(B)(C)に示すトランジスタ150は、先に説明したトランジスタ100と異なり、酸化物半導体膜108の上下にゲート電極として機能する導電膜を有する構造である。トランジスタ150に示すように、本発明の一態様の半導体装置には、複数のゲート電極を設けてもよい。
【0127】
また、
図2(B)(C)に示すように、酸化物半導体膜108は、第1のゲート電極として機能する導電膜106と、第2のゲート電極として機能する導電膜112のそれぞれと対向するように位置し、2つのゲート電極として機能する導電膜に挟まれている。
【0128】
また、導電膜112のチャネル幅方向の長さは、酸化物半導体膜108のチャネル幅方向の長さよりも長く、酸化物半導体膜108のチャネル幅方向全体は、絶縁膜110を間に挟んで導電膜112に覆われている。また、導電膜112と導電膜106とは、絶縁膜104、及び絶縁膜110に設けられる開口部143において接続されるため、酸化物半導体膜108のチャネル幅方向の側面の一方は、絶縁膜110を間に挟んで導電膜112と対向している。
【0129】
別言すると、導電膜106及び導電膜112は、絶縁膜104、110に設けられる開口部143において接続され、且つ酸化物半導体膜108の側端部よりも外側に位置する領域を有する。
【0130】
このような構成を有することで、トランジスタ150に含まれる酸化物半導体膜108を、第1のゲート電極として機能する導電膜106及び第2のゲート電極として機能する導電膜112の電界によって電気的に取り囲むことができる。トランジスタ150のように、第1のゲート電極及び第2のゲート電極の電界によって、チャネル領域が形成される酸化物半導体膜108を電気的に取り囲むトランジスタのデバイス構造をSurrounded channel(S−channel)構造と呼ぶことができる。
【0131】
トランジスタ150は、S−channel構造を有するため、導電膜106または導電膜112によってチャネルを誘起させるための電界を効果的に酸化物半導体膜108に印加することができるため、トランジスタ150の電流駆動能力が向上し、高いオン電流特性を得ることが可能となる。また、オン電流を高くすることが可能であるため、トランジスタ150を微細化することが可能となる。また、トランジスタ150は、酸化物半導体膜108が、導電膜106、及び導電膜112によって取り囲まれた構造を有するため、トランジスタ150の機械的強度を高めることができる。
【0132】
なお、トランジスタ150のチャネル幅方向において、酸化物半導体膜108の開口部143が形成されていない側に、開口部143と異なる開口部を形成してもよい。
【0133】
また、トランジスタ150に示すように、トランジスタが、半導体膜を間に挟んで存在する一対のゲート電極を有している場合、一方のゲート電極には信号Aが、他方のゲート電極には固定電位Vbが与えられてもよい。また、一方のゲート電極には信号Aが、他方のゲート電極には信号Bが与えられてもよい。また、一方のゲート電極には固定電位Vaが、他方のゲート電極には固定電位Vbが与えられてもよい。
【0134】
信号Aは、例えば、導通状態または非導通状態を制御するための信号である。信号Aは、電位V1、または電位V2(V1>V2とする)の2種類の電位をとるデジタル信号であってもよい。例えば、電位V1を高電源電位とし、電位V2を低電源電位とすることができる。信号Aは、アナログ信号であってもよい。
【0135】
固定電位Vbは、例えば、トランジスタのしきい値電圧VthAを制御するための電位である。固定電位Vbは、電位V1、または電位V2であってもよい。この場合、固定電位Vbを生成するための電位発生回路を、別途設ける必要がなく好ましい。固定電位Vbは、電位V1、または電位V2と異なる電位であってもよい。固定電位Vbを低くすることで、しきい値電圧VthAを高くできる場合がある。その結果、ゲートーソース間電圧Vgsが0Vのときのドレイン電流を低減し、トランジスタを有する回路のリーク電流を低減できる場合がある。例えば、固定電位Vbを低電源電位よりも低くしてもよい。一方で、固定電位Vbを高くすることで、しきい値電圧VthAを低くできる場合がある。その結果、ゲート−ソース間電圧Vgsが高電源電位のときのドレイン電流を向上させ、トランジスタを有する回路の動作速度を向上できる場合がある。例えば、固定電位Vbを低電源電位よりも高くしてもよい。
【0136】
信号Bは、例えば、導通状態または非導通状態を制御するための信号である。信号Bは、電位V3、または電位V4(V3>V4とする)の2種類の電位をとるデジタル信号であってもよい。例えば、電位V3を高電源電位とし、電位V4を低電源電位とすることができる。信号Bは、アナログ信号であってもよい。
【0137】
信号Aと信号Bが共にデジタル信号である場合、信号Bは、信号Aと同じデジタル値を持つ信号であってもよい。この場合、トランジスタのオン電流を向上し、トランジスタを有する回路の動作速度を向上できる場合がある。このとき、信号Aにおける電位V1及び電位V2は、信号Bにおける電位V3及び電位V4と、異なっていても良い。例えば、信号Bが入力されるゲートに対応するゲート絶縁膜が、信号Aが入力されるゲートに対応するゲート絶縁膜よりも厚い場合、信号Bの電位振幅(V3−V4)を、信号Aの電位振幅(V1−V2)より大きくしても良い。そうすることで、トランジスタの導通状態または非導通状態に対して、信号Aが与える影響と、信号Bが与える影響と、を同程度とすることができる場合がある。
【0138】
信号Aと信号Bが共にデジタル信号である場合、信号Bは、信号Aと異なるデジタル値を持つ信号であってもよい。この場合、トランジスタの制御を信号Aと信号Bによって別々に行うことができ、より高い機能を実現できる場合がある。例えば、トランジスタがnチャネル型である場合、信号Aが電位V1であり、かつ、信号Bが電位V3である場合のみ導通状態となる場合や、信号Aが電位V2であり、かつ、信号Bが電位V4である場合のみ非導通状態となる場合には、一つのトランジスタでNAND回路やNOR回路等の機能を実現できる場合がある。また、信号Bは、しきい値電圧VthAを制御するための信号であってもよい。例えば、信号Bは、トランジスタを有する回路が動作している期間と、当該回路が動作していない期間と、で電位が異なる信号であっても良い。信号Bは、回路の動作モードに合わせて電位が異なる信号であってもよい。この場合、信号Bは信号Aほど頻繁には電位が切り替わらない場合がある。
【0139】
信号Aと信号Bが共にアナログ信号である場合、信号Bは、信号Aと同じ電位のアナログ信号、信号Aの電位を定数倍したアナログ信号、または、信号Aの電位を定数だけ加算もしくは減算したアナログ信号等であってもよい。この場合、トランジスタのオン電流が向上し、トランジスタを有する回路の動作速度を向上できる場合がある。信号Bは、信号Aと異なるアナログ信号であってもよい。この場合、トランジスタの制御を信号Aと信号Bによって別々に行うことができ、より高い機能を実現できる場合がある。
【0140】
信号Aがデジタル信号であり、信号Bがアナログ信号であってもよい。または信号Aがアナログ信号であり、信号Bがデジタル信号であってもよい。
【0141】
トランジスタの両方のゲート電極に固定電位を与える場合、トランジスタを、抵抗素子と同等の素子として機能させることができる場合がある。例えば、トランジスタがnチャネル型である場合、固定電位Vaまたは固定電位Vbを高く(低く)することで、トランジスタの実効抵抗を低く(高く)することができる場合がある。固定電位Va及び固定電位Vbを共に高く(低く)することで、一つのゲートしか有さないトランジスタによって得られる実効抵抗よりも低い(高い)実効抵抗が得られる場合がある。
【0142】
なお、トランジスタ150のその他の構成は、先に示すトランジスタ100と同様であり、同様の効果を奏する。
【0143】
また、トランジスタ150上にさらに、絶縁膜を形成してもよい。その場合の一例を
図3(A)(B)に示す。
図3(A)(B)は、トランジスタ160の断面図である。トランジスタ160の上面図としては、
図2(A)に示すトランジスタ150と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0144】
図3(A)(B)に示すトランジスタ160は、導電膜120a、120b、及び絶縁膜118上に絶縁膜122を有する。それ以外の構成については、トランジスタ150と同様であり、同様の効果を奏する。
【0145】
絶縁膜122は、トランジスタ等に起因する凹凸等を平坦化させる機能を有する。絶縁膜122としては、絶縁性であればよく、無機材料または有機材料を用いて形成される。該無機材料としては、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜等が挙げられる。該有機材料としては、例えば、アクリル樹脂、またはポリイミド樹脂等の感光性の樹脂材料が挙げられる。
【0146】
<1−4.トランジスタの構成例3>
次に、
図2(A)(B)(C)に示すトランジスタ150と異なる構成について、
図4を用いて説明する。
【0147】
図4(A)(B)は、トランジスタ170の断面図である。なお、トランジスタ170の上面図としては、
図2(A)に示すトランジスタ150と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0148】
図4(A)(B)に示すトランジスタ170は、導電膜112の積層構造、導電膜112の形状、及び絶縁膜110の形状がトランジスタ150と異なる。
【0149】
トランジスタ170の導電膜112は、絶縁膜110上の導電膜112_1と、導電膜112_1上の導電膜112_2と、を有する。例えば、導電膜112_1として、酸化物導電膜を用いることにより、絶縁膜110に過剰酸素を添加することができる。上記酸化物導電膜としては、スパッタリング法を用い、酸素ガスを含む雰囲気にて形成すればよい。また、上記酸化物導電膜としては、例えば、インジウムと錫とを有する酸化物、タングステンとインジウムとを有する酸化物、タングステンとインジウムと亜鉛とを有する酸化物、チタンとインジウムとを有する酸化物、チタンとインジウムと錫とを有する酸化物、インジウムと亜鉛とを有する酸化物、シリコンとインジウムと錫とを有する酸化物、インジウムとガリウムと亜鉛とを有する酸化物等が挙げられる。
【0150】
また、
図4(B)に示すように、開口部143において、導電膜112_2と、導電膜106とが接続される。開口部143を形成する際に、導電膜112_1となる導電膜を形成した後、開口部143を形成することで、
図4(B)に示す形状とすることができる。導電膜112_1に酸化物導電膜を適用した場合、導電膜112_2と、導電膜106とが接続される構成とすることで、導電膜112と導電膜106との接触抵抗を低くすることができる。
【0151】
また、トランジスタ170の導電膜112及び絶縁膜110は、テーパー形状である。より具体的には、導電膜112の下端部は、導電膜112の上端部よりも外側に形成される。また、絶縁膜110の下端部は、絶縁膜110の上端部よりも外側に形成される。また、導電膜112の下端部は、絶縁膜110の上端部と概略同じ位置に形成される。
【0152】
トランジスタ170の導電膜112及び絶縁膜110をテーパー形状とすることで、トランジスタ170の導電膜112及び絶縁膜110が矩形の場合と比較し、絶縁膜116の被覆性を高めることができるため好適である。
【0153】
なお、トランジスタ170のその他の構成は、先に示すトランジスタ150と同様であり、同様の効果を奏する。
【0154】
<1−5.トランジスタの構成例4>
次に、
図1乃至
図4に示す各トランジスタの変形例について説明する。
【0155】
図1乃至
図4に示すトランジスタ100、トランジスタ150、トランジスタ160、及びトランジスタ170においては、酸化物半導体膜108が酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3を有する3層の積層構造について例示したが、これに限定されない。例えば、酸化物半導体膜108を酸化物半導体膜108_2と、酸化物半導体膜108_3との2層の積層構造としてもよい。その場合の一例を
図5乃至
図8に示す。
【0156】
図5(A)(B)は、トランジスタ100Aの断面図である。
図5(A)は、チャネル長方向の断面図であり、
図5(B)はチャネル幅方向の断面図である。なお、トランジスタ100Aは、トランジスタ100が有する酸化物半導体膜108を2層の積層構造とし、それ以外の構成については同じである。
【0157】
図6(A)(B)は、トランジスタ150Aの断面図である。
図6(A)は、チャネル長方向の断面図であり、
図6(B)はチャネル幅方向の断面図である。なお、トランジスタ150Aは、トランジスタ150が有する酸化物半導体膜108を2層の積層構造とし、それ以外の構成については同じである。
【0158】
図7(A)(B)は、トランジスタ160Aの断面図である。
図7(A)は、チャネル長方向の断面図であり、
図7(B)はチャネル幅方向の断面図である。なお、トランジスタ160Aは、トランジスタ160が有する酸化物半導体膜108を2層の積層構造とし、それ以外の構成については同じである。
【0159】
図8(A)(B)は、トランジスタ170Aの断面図である。
図8(A)は、チャネル長方向の断面図であり、
図8(B)はチャネル幅方向の断面図である。なお、トランジスタ170Aは、トランジスタ170が有する酸化物半導体膜108を2層の積層構造とし、それ以外の構成については同じである。
【0160】
このように、本発明の一態様の半導体装置においては、結晶性が異なる酸化物半導体膜の2層の積層構造としても、
図1乃至
図4に示す半導体装置と同等の特性を得ることができる。したがって、本発明の一態様の半導体装置においては、トランジスタの電界効果移動度を向上させると共に信頼性を向上させることが実現できる。
【0161】
<1−6.半導体装置の作製方法>
次に、
図2(A)(B)(C)に示すトランジスタ150の作製方法の一例について、
図9乃至
図11を用いて説明する。なお、
図9乃至
図11は、トランジスタ150の作製方法を説明するチャネル長方向、及びチャネル幅方向の断面図である。
【0162】
まず、基板102上に導電膜106を形成する。次に、基板102、及び導電膜106上に絶縁膜104を形成し、絶縁膜104上に第1の酸化物半導体膜と、第2の酸化物半導体膜と、第3の酸化物半導体膜とを形成する。その後、第1の酸化物半導体膜、第2の酸化物半導体膜、及び第3の酸化物半導体膜を島状に加工することで、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aを形成する(
図9(A)参照)。
【0163】
導電膜106としては、先に記載の材料を選択することで形成できる。本実施の形態においては、導電膜106として、スパッタリング装置を用い、厚さ50nmのタングステン膜と、厚さ400nmの銅膜との積層膜を形成する。
【0164】
なお、導電膜106となる導電膜の加工方法としては、ウエットエッチング法及びドライエッチング法のいずれか一方または双方を用いればよい。本実施の形態では、ウエットエッチング法にて銅膜をエッチングしたのち、ドライエッチング法にてタングステン膜をエッチングすることで導電膜を加工し、導電膜106を形成する。
【0165】
絶縁膜104としては、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法、印刷法、塗布法等を適宜用いて形成することができる。本実施の形態においては、絶縁膜104として、PECVD装置を用い、厚さ400nmの窒化シリコン膜と、厚さ50nmの酸化窒化シリコン膜とを形成する。
【0166】
また、絶縁膜104を形成した後、絶縁膜104に酸素を添加してもよい。絶縁膜104に添加する酸素としては、酸素ラジカル、酸素原子、酸素原子イオン、酸素分子イオン等がある。また、添加方法としては、イオンドーピング法、イオン注入法、プラズマ処理法等がある。また、絶縁膜上に酸素の脱離を抑制する膜を形成した後、該膜を介して絶縁膜104に酸素を添加してもよい。
【0167】
上述の酸素の脱離を抑制する膜として、インジウム、亜鉛、ガリウム、錫、アルミニウム、クロム、タンタル、チタン、モリブデン、ニッケル、鉄、コバルト、またはタングステンの1以上を有する導電膜あるいは半導体膜を用いて形成することができる。
【0168】
また、プラズマ処理で酸素の添加を行う場合、マイクロ波で酸素を励起し、高密度な酸素プラズマを発生させることで、絶縁膜104への酸素添加量を増加させることができる。
【0169】
酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aは、スパッタリング装置を用いて真空中で連続して形成されると好ましい。酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aを、スパッタリング装置を用いて真空中で連続して形成することで、各界面に付着しうる不純物(例えば、水素、水など)を抑制することができる。
【0170】
また、酸化物半導体膜108_2aの形成条件としては、酸化物半導体膜108_1a及び酸化物半導体膜108_3aのいずれか一方または双方よりも、低い酸素分圧で形成されると好ましい。
【0171】
また、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aを形成する際に、酸素ガスの他に、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガスなど)を混合させてもよい。なお、酸化物半導体膜108_1aを形成する際の成膜ガス全体に占める酸素ガスの割合(以下、酸素流量比ともいう)としては、70%以上100%以下、好ましくは80%以上100%以下、さらに好ましくは90%以上100%以下である。また、酸化物半導体膜108_2aを形成する際の酸素流量比としては、0%より大きく20%以下、好ましくは5%以上15%以下である。また、酸化物半導体膜108_3aを形成する際の酸素流量比としては、70%以上100%以下、好ましくは80%以上100%以下、さらに好ましくは90%以上100%以下である。
【0172】
なお、酸化物半導体膜108_2aの形成条件としては、酸化物半導体膜108_1a及び酸化物半導体膜108_3aのいずれか一方または双方よりも、低い基板温度で形成してもよい。
【0173】
具体的には、酸化物半導体膜108_2aの形成条件としては、基板温度を室温以上150℃未満、好ましくは室温以上140℃以下とすればよい。また、酸化物半導体膜108_1a及び酸化物半導体膜108_3aの形成条件としては、基板温度を室温以上300℃以下、好ましくは基板温度を室温以上200℃以下とすればよい。ただし、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aの形成時の基板温度を同一(例えば、室温以上150℃未満)とした方が、生産性が高くなり好ましい。
【0174】
上記のような形成条件とすることで、酸化物半導体膜108_2aを、酸化物半導体膜108_1a及び酸化物半導体膜108_3aよりも結晶性が低い領域を有する構成とすることができる。
【0175】
また、酸化物半導体膜108_1aの厚さとしては、1nm以上20nm未満、好ましくは5nm以上10nm以下とすればよい。また、酸化物半導体膜108_2aの厚さとしては、20nm以上100nm以下、好ましくは20nm以上50nm以下とすればよい。また、酸化物半導体膜108_3aの厚さとしては、1nm以上20nm未満、好ましくは5nm以上15nm以下とすればよい。
【0176】
なお、酸化物半導体膜108を加熱して成膜することで、酸化物半導体膜108の結晶性を高めることができる。一方で、基板102として、大型のガラス基板(例えば、第6世代乃至第10世代)を用いる場合、酸化物半導体膜108を成膜する際の基板温度を200℃以上300℃以下とした場合、基板102が変形する(歪むまたは反る)場合がある。よって、大型のガラス基板を用いる場合においては、酸化物半導体膜108の成膜する際の基板温度を100℃以上200℃未満とすることで、ガラス基板の変形を抑制することができる。
【0177】
また、スパッタリングガスの高純度化も必要である。例えば、スパッタリングガスとして用いる酸素ガスやアルゴンガスは、露点が−40℃以下、好ましくは−80℃以下、より好ましくは−100℃以下、より好ましくは−120℃以下にまで高純度化したガスを用いることで酸化物半導体膜に水分等が取り込まれることを可能な限り防ぐことができる。
【0178】
また、スパッタリング法で酸化物半導体膜を成膜する場合、スパッタリング装置におけるチャンバーは、酸化物半導体膜にとって不純物となる水等を可能な限り除去すべくクライオポンプのような吸着式の真空排気ポンプを用いて、高真空(5×10
−7Paから1×10
−4Pa程度まで)に排気することが好ましい。特に、スパッタリング装置の待機時における、チャンバー内のH
2Oに相当するガス分子(m/z=18に相当するガス分子)の分圧を1×10
−4Pa以下、好ましく5×10
−5Pa以下とすることが好ましい。
【0179】
本実施の形態においては、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aの形成条件を以下とする。
【0180】
酸化物半導体膜108_1aの形成条件を、In−Ga−Zn金属酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比])を用いて、スパッタリング法により形成する。また、酸化物半導体膜108_1aの形成時の基板温度を室温とし、成膜ガスとして流量200sccmの酸素ガスを用いる(酸素流量比100%)。
【0181】
酸化物半導体膜108_2aの形成条件を、In−Ga−Zn金属酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比])を用いて、スパッタリング法により形成する。また、酸化物半導体膜108_2aの形成時の基板温度を室温とし、成膜ガスとして流量20sccmの酸素ガスと、流量180sccmのアルゴンガスとを用いる(酸素流量比10%)。
【0182】
酸化物半導体膜108_3aの形成条件を、In−Ga−Zn金属酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比])を用いて、スパッタリング法により形成する。また、酸化物半導体膜108_3aの形成時の基板温度を室温とし、成膜ガスとして流量200sccmの酸素ガスを用いる(酸素流量比100%)。
【0183】
なお、第1の酸化物半導体膜、第2の酸化物半導体膜、及び第3の酸化物半導体膜を、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aに加工するには、ウエットエッチング法及びドライエッチング法のいずれか一方または双方を用いればよい。
【0184】
また、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aを形成した後、加熱処理を行い、酸化物半導体膜108_1a、酸化物半導体膜108_2a、及び酸化物半導体膜108_3aの脱水素化または脱水化をしてもよい。加熱処理の温度は、代表的には、150℃以上基板の歪み点未満、または250℃以上450℃以下、または300℃以上450℃以下である。
【0185】
加熱処理は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン等の希ガス、または窒素を含む不活性ガス雰囲気で行うことができる。または、不活性ガス雰囲気で加熱した後、酸素雰囲気で加熱してもよい。なお、上記不活性雰囲気及び酸素雰囲気に水素、水などが含まれないことが好ましい。処理時間は3分以上24時間以下とすればよい。
【0186】
該加熱処理は、電気炉、RTA装置等を用いることができる。RTA装置を用いることで、短時間に限り、基板の歪み点以上の温度で熱処理を行うことができる。そのため加熱処理時間を短縮することができる。
【0187】
酸化物半導体膜を加熱しながら成膜する、または酸化物半導体膜を形成した後、加熱処理を行うことで、酸化物半導体膜において、SIMSにより得られる水素濃度を5×10
19atoms/cm
3以下、または1×10
19atoms/cm
3以下、5×10
18atoms/cm
3以下、または1×10
18atoms/cm
3以下、または5×10
17atoms/cm
3以下、または1×10
16atoms/cm
3以下とすることができる。
【0188】
次に、絶縁膜104及び酸化物半導体膜108上に絶縁膜110_0を形成する。(
図9(B)参照)。
【0189】
絶縁膜110_0としては、酸化シリコン膜または酸化窒化シリコン膜を、プラズマ化学気相堆積装置(PECVD装置、または単にプラズマCVD装置という)を用いて形成することができる。この場合、原料ガスとしては、シリコンを含む堆積性気体及び酸化性気体を用いることが好ましい。シリコンを含む堆積性気体の代表例としては、シラン、ジシラン、トリシラン、フッ化シラン等がある。酸化性気体としては、酸素、オゾン、一酸化二窒素、二酸化窒素等がある。
【0190】
また、絶縁膜110_0として、堆積性気体の流量に対する酸化性気体の流量を20倍より大きく100倍未満、または40倍以上80倍以下とし、処理室内の圧力を100Pa未満、または50Pa以下とするPECVD装置を用いることで、欠陥量の少ない酸化窒化シリコン膜を形成することができる。
【0191】
また、絶縁膜110_0として、PECVD装置の真空排気された処理室内に載置された基板を280℃以上400℃以下に保持し、処理室に原料ガスを導入して処理室内における圧力を20Pa以上250Pa以下、さらに好ましくは100Pa以上250Pa以下とし、処理室内に設けられる電極に高周波電力を供給する条件により、絶縁膜110_0として、緻密である酸化シリコン膜または酸化窒化シリコン膜を形成することができる。
【0192】
また、絶縁膜110_0を、マイクロ波を用いたPECVD法を用いて形成してもよい。マイクロ波とは300MHzから300GHzの周波数域を指す。マイクロ波は、電子温度が低く、電子エネルギーが小さい。また、供給された電力において、電子の加速に用いられる割合が少なく、より多くの分子の解離及び電離に用いられることが可能であり、密度の高いプラズマ(高密度プラズマ)を励起することができる。このため、被成膜面及び堆積物へのプラズマダメージが少なく、欠陥の少ない絶縁膜110_0を形成することができる。
【0193】
また、絶縁膜110_0を、有機シランガスを用いたCVD法を用いて形成することができる。有機シランガスとしては、珪酸エチル(TEOS:化学式Si(OC
2H
5)
4)、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH
3)
4)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC
2H
5)
3)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH
3)
2)
3)などのシリコン含有化合物を用いることができる。有機シランガスを用いたCVD法を用いることで、被覆性の高い絶縁膜110_0を形成することができる。
【0194】
本実施の形態では絶縁膜110_0として、PECVD装置を用い、厚さ100nmの酸化窒化シリコン膜を形成する。
【0195】
次に、絶縁膜110_0上の所望の位置に、リソグラフィによりマスクを形成した後、絶縁膜110_0、及び絶縁膜104の一部をエッチングすることで、導電膜106に達する開口部143を形成する(
図9(C)参照)。
【0196】
開口部143の形成方法としては、ウエットエッチング法及びドライエッチング法のいずれか一方または双方を用いればよい。本実施の形態においては、ドライエッチング法を用い、開口部143を形成する。
【0197】
次に、開口部143を覆うように、導電膜106及び絶縁膜110_0上に導電膜112_0を形成する。また、導電膜112_0として、例えば金属酸化膜を用いる場合、導電膜112_0の形成時に絶縁膜110_0中に酸素が添加される場合がある(
図9(D)参照)。
【0198】
なお、
図9(D)において、絶縁膜110_0中に添加される酸素を矢印で模式的に表している。また、開口部143を覆うように、導電膜112_0を形成することで、導電膜106と、導電膜112_0とが電気的に接続される。
【0199】
導電膜112_0として、金属酸化膜を用いる場合、導電膜112_0の形成方法としては、スパッタリング法を用い、形成時に酸素ガスを含む雰囲気で形成することが好ましい。形成時に酸素ガスを含む雰囲気で導電膜112_0を形成することで、絶縁膜110_0中に酸素を好適に添加することができる。なお、導電膜112_0の形成方法としては、スパッタリング法に限定されず、その他の方法、例えばALD法を用いてもよい。
【0200】
本実施の形態においては、導電膜112_0として、スパッタリング法を用いて、膜厚が100nmのIn−Ga−Zn酸化物であるIGZO膜(In:Ga:Zn=4:2:4.1(原子数比)を成膜する。また、導電膜112_0の形成前、または導電膜112_0の形成後に、絶縁膜110_0中に酸素添加処理を行ってもよい。当該酸素添加処理の方法としては、絶縁膜104の形成後に行うことのできる酸素の添加処理と同様とすればよい。
【0201】
次に、導電膜112_0上の所望の位置に、リソグラフィ工程によりマスク140を形成する(
図10(A)参照)。
【0202】
次に、マスク140上から、エッチングを行い、導電膜112_0、及び絶縁膜110_0を加工する。また、導電膜112_0及び絶縁膜110_0の加工後に、マスク140を除去する。導電膜112_0、及び絶縁膜110_0を加工することで、島状の導電膜112、及び島状の絶縁膜110が形成される(
図10(B)参照)。
【0203】
本実施の形態においては、ドライエッチング法を用い、導電膜112_0、及び絶縁膜110_0を加工する。
【0204】
なお、導電膜112、及び絶縁膜110の加工の際に、導電膜112が重畳しない領域の酸化物半導体膜108の膜厚が薄くなる場合がある。または、導電膜112、及び絶縁膜110の加工の際に、酸化物半導体膜108が重畳しない領域の絶縁膜104の膜厚が薄くなる場合がある。また、導電膜112_0、及び絶縁膜110_0の加工の際に、エッチャントまたはエッチングガス(例えば、塩素など)が酸化物半導体膜108中に添加される、あるいは導電膜112_0、または絶縁膜110_0の構成元素が酸化物半導体膜108中に添加される場合がある。
【0205】
次に、絶縁膜104、酸化物半導体膜108、及び導電膜112上に絶縁膜116を形成する。なお、絶縁膜116を形成することで、絶縁膜116と接する酸化物半導体膜108は、領域108nとなる。また、導電膜112と重畳する酸化物半導体膜108中には、酸化物半導体膜108_1、酸化物半導体膜108_2、及び酸化物半導体膜108_3となる。(
図10(C)参照)。
【0206】
絶縁膜116としては、先に記載の材料を選択することで形成できる。本実施の形態においては、絶縁膜116として、PECVD装置を用い、厚さ100nmの窒化酸化シリコン膜を形成する。また、当該窒化酸化シリコン膜の形成時において、プラズマ処理と、成膜処理との2つのステップを220℃の温度で行う。当該プラズマ処理としては、成膜前に流量100sccmのアルゴンガスと、流量1000sccmの窒素ガスとを、チャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を40Paとし、RF電源(27.12MHz)に1000Wの電力を供給する。また、成膜処理としては、流量50sccmのシランガスと、流量5000sccmの窒素ガスと、流量100sccmのアンモニアガスとを、チャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を100Paとし、RF電源(27.12MHz)に1000Wの電力を供給する。
【0207】
絶縁膜116として、窒化酸化シリコン膜を用いることで、絶縁膜116に接する領域108nに窒化酸化シリコン膜中の窒素または水素を供給することができる。また、絶縁膜116の形成時の温度を上述の温度とすることで、絶縁膜110に含まれる過剰酸素が外部に放出されるのを抑制することができる。
【0208】
次に、絶縁膜116上に絶縁膜118を形成する(
図11(A)参照)。
【0209】
絶縁膜118としては、先に記載の材料を選択することで形成できる。本実施の形態においては、絶縁膜118として、PECVD装置を用い、厚さ300nmの酸化窒化シリコン膜を形成する。
【0210】
次に、絶縁膜118の所望の位置に、リソグラフィによりマスクを形成した後、絶縁膜118及び絶縁膜116の一部をエッチングすることで、領域108nに達する開口部141a、141bを形成する(
図11(B)参照)。
【0211】
絶縁膜118及び絶縁膜116をエッチングする方法としては、ウエットエッチング法及びドライエッチング法のいずれか一方または双方を用いればよい。本実施の形態においては、ドライエッチング法を用い、絶縁膜118、及び絶縁膜116を加工する。
【0212】
次に、開口部141a、141bを覆うように、領域108n及び絶縁膜118上に導電膜を形成し、当該導電膜を所望の形状に加工することで導電膜120a、120bを形成する(
図11(C)参照)。
【0213】
導電膜120a、120bとしては、先に記載の材料を選択することで形成できる。本実施の形態においては、導電膜120a、120bとして、スパッタリング装置を用い、厚さ50nmのタングステン膜と、厚さ400nmの銅膜との積層膜を形成する。
【0214】
なお、導電膜120a、120bとなる導電膜の加工方法としては、ウエットエッチング法及びドライエッチング法のいずれか一方または双方を用いればよい。本実施の形態では、ウエットエッチング法にて銅膜をエッチングしたのち、ドライエッチング法にてタングステン膜をエッチングすることで導電膜を加工し、導電膜120a、120bを形成する。
【0215】
以上の工程により、
図2(A)(B)(C)に示すトランジスタ150を作製することができる。
【0216】
なお、トランジスタ150を構成する膜(絶縁膜、金属酸化膜、酸化物半導体膜、導電膜等)としては、上述の形成方法の他、スパッタリング法、化学気相堆積(CVD)法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法、ALD法を用いて形成することができる。あるいは、塗布法や印刷法で形成することができる。成膜方法としては、スパッタリング法、プラズマ化学気相堆積(PECVD)法が代表的であるが、熱CVD法でもよい。熱CVD法の例として、有機金属気相堆積(MOCVD)法が挙げられる。
【0217】
熱CVD法は、チャンバー内を大気圧または減圧下とし、原料ガスと酸化剤を同時にチャンバー内に送り、基板近傍または基板上で反応させて基板上に堆積させることで成膜を行う。このように、熱CVD法は、プラズマを発生させない成膜方法であるため、プラズマダメージにより欠陥が生成されることが無いという利点を有する。
【0218】
MOCVD法などの熱CVD法は、上記記載の導電膜、絶縁膜、酸化物半導体膜、金属酸化膜などの膜を形成することができ、例えば、In−Ga−Zn−O膜を成膜する場合には、トリメチルインジウム(In(CH
3)
3)、トリメチルガリウム(Ga(CH
3)
3)、及びジメチル亜鉛を用いる(Zn(CH
3)
2)。これらの組み合わせに限定されず、トリメチルガリウムに代えてトリエチルガリウム(Ga(C
2H
5)
3)を用いることもでき、ジメチル亜鉛に代えてジエチル亜鉛(Zn(C
2H
5)
2)を用いることもできる。
【0219】
また、ALDを利用する成膜装置により酸化ハフニウム膜を形成する場合には、溶媒とハフニウム前駆体を含む液体(ハフニウムアルコキシドや、テトラキスジメチルアミドハフニウム(TDMAH、Hf[N(CH
3)
2]
4)やテトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウムなどのハフニウムアミド)を気化させた原料ガスと、酸化剤としてオゾン(O
3)の2種類のガスを用いる。
【0220】
また、ALDを利用する成膜装置により酸化アルミニウム膜を形成する場合には、溶媒とアルミニウム前駆体を含む液体(トリメチルアルミニウム(TMA、Al(CH
3)
3)など)を気化させた原料ガスと、酸化剤としてH
2Oの2種類のガスを用いる。他の材料としては、トリス(ジメチルアミド)アルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、アルミニウムトリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)などがある。
【0221】
また、ALDを利用する成膜装置により酸化シリコン膜を形成する場合には、ヘキサクロロジシランを被成膜面に吸着させ、酸化性ガス(O
2、一酸化二窒素)のラジカルを供給して吸着物と反応させる。
【0222】
また、ALDを利用する成膜装置によりタングステン膜を成膜する場合には、WF
6ガスとB
2H
6ガスを順次導入して初期タングステン膜を形成し、その後、WF
6ガスとH
2ガスとを用いてタングステン膜を形成する。なお、B
2H
6ガスに代えてSiH
4ガスを用いてもよい。
【0223】
また、ALDを利用する成膜装置により酸化物半導体膜、例えばIn−Ga−Zn−O膜を成膜する場合には、In(CH
3)
3ガスとO
3ガスを用いてIn−O層を形成し、その後、Ga(CH
3)
3ガスとO
3ガスとを用いてGaO層を形成し、更にその後Zn(CH
3)
2ガスとO
3ガスとを用いてZnO層を形成する。なお、これらの層の順番はこの例に限らない。また、これらのガスを用いてIn−Ga−O層やIn−Zn−O層、Ga−Zn−O層などの混合化合物層を形成しても良い。なお、O
3ガスに代えてAr等の不活性ガスで水をバブリングして得られたH
2Oガスを用いても良いが、Hを含まないO
3ガスを用いる方が好ましい。
【0224】
また、本実施の形態において、トランジスタが酸化物半導体膜を有する場合の例を示したが、本発明の一態様は、これに限定されない。本発明の一態様では、トランジスタが酸化物半導体膜を有さなくてもよい。一例としては、トランジスタのチャネル領域、チャネル領域の近傍、ソース領域、またはドレイン領域において、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、GaAs(ガリウムヒ素)、などを有する材料で形成してもよい。
【0225】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0226】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様である酸化物半導体膜について、
図13乃至
図32を用いて説明を行う。
【0227】
本発明の一態様の酸化物半導体膜は、少なくともインジウム及び亜鉛を含むことが好ましい。また、それらに加えて、アルミニウム、ガリウム、イットリウムまたはスズなどが含まれていることが好ましい。また、ホウ素、シリコン、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、またはマグネシウムなどから選ばれた一種、または複数種が含まれていてもよい。
【0228】
ここで、酸化物半導体膜が、インジウム、元素M及び亜鉛を有する場合を考える。なお、元素Mは、アルミニウム、ガリウム、イットリウムまたはスズなどとする。そのほかの元素Mに適用可能な元素としては、ホウ素、シリコン、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、マグネシウムなどがある。ただし、元素Mとして、前述の元素を複数組み合わせても構わない場合がある。
【0229】
<2−1.酸化物半導体膜の上面及び断面を表す概念図>
本発明の一態様の酸化物半導体膜の概念図を
図13乃至
図16に示す。なお、
図13(A)、
図14(A)、
図15(A)、及び
図16(A)は、酸化物半導体膜の上面(a−b面方向)の概念図であり、
図13(B)、
図14(B)、
図15(B)、及び
図16(B)は、基板(Sub.)上に酸化物半導体膜が形成された断面(c軸方向)の概念図である。
【0230】
まず、
図13(A)(B)を用いて説明を行う。
【0231】
図13(A)(B)に示すように、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、領域Aと、領域Bと、を有する。すなわち、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、領域Aと、領域Bとが混合している複合酸化物半導体である。なお、領域Aは、In
xZn
yO
z(x、y、及びzは任意数を表す)で表され、領域Bは、In
aM
bZn
cO
d(MはAl、Ga、Y、またはSnを表し、a、b、c、及びdは任意数を表す)で表される。ただし、領域AがMを含んでいても良い。
【0232】
なお、領域Aは、領域BよりもInが高濃度に存在する。別言すると、領域Aは、In−richであり、領域BはIn−poorであるとも言える。例えば、領域Aは、領域BよりもInの濃度が1.1倍以上、好ましくは2倍以上10倍以下であると良い。
【0233】
なお、
図13(A)に示すように、領域Aは、a−b面方向において、基本的には、円に近い形状で形成される。また、
図13(B)に示すように、領域Aは、c軸方向において、基本的には楕円に近い形状で形成される。つまり、領域Aは、アイランド状であり、領域Bに囲まれている。また、
図13(A)(B)に示すように、領域Aは、領域B中に不規則に偏在している。そのため、領域Aは複数が連結し、円または楕円がつながった形状となる場合がある。ただし、全ての領域Aがc軸方向に連結した場合、トランジスタのスイッチング特性が悪くなる、例えばトランジスタのオフ電流が上昇するため、
図13(A)(B)に示すように、領域Aは点在していた方が好ましい。
【0234】
なお、領域Aが点在する割合は、複合酸化物半導体の作製条件、または組成等により調整することができる。例えば、
図14(A)(B)に示すように、領域Aの割合が少ない複合酸化物半導体、または
図15(A)(B)に示す様に、領域Aの割合が多い複合酸化物半導体を形成することができる。また、複合酸化物半導体は、領域Bに対し、領域Aの割合が小さいとは限らない。領域Aの割合が非常に大きい複合酸化物半導体では、観察する範囲により、領域A内に領域Bが形成されている場合もある。
【0235】
また、例えば、領域Aが形成するアイランド状のサイズは、複合酸化物半導体の作製条件、または組成等により、調整することができる。
図13(A)(B)、
図14(A)(B)、及び
図15(A)(B)では、様々なサイズのアイランド状の領域が形成されている概念図を示したが、
図16(A)(B)に示すように、概略大きさが等しい領域Aが点在する場合もある。
【0236】
また、
図13(A)(B)に示すように、領域Aと領域Bとの境界は明確ではない、または領域Aと領域Bとの境界は観察できない場合がある。また、領域A及び領域Bの厚さは、断面写真のEDXマッピングで評価することができる。なお、領域Aは、断面写真のEDXマッピングにおいて、0.1nm以上5nm以下または0.3nm以上3nm以下で観察される場合がある。
【0237】
領域Aは、In−richであるため、キャリア移動度を高める機能を有する。したがって、領域Aを有する酸化物半導体膜を用いたトランジスタのオン電流及び電界効果移動度を高めることができる。一方で、領域Bは、In−poorであるため、キャリア移動度を低くする機能を有する。したがって、領域Bを有する酸化物半導体膜を用いたトランジスタのオフ電流を低くすることができる。すなわち、領域Aがトランジスタのオン電流及び電界効果移動度に寄与し、領域Bがトランジスタのスイッチング特性に寄与する。
【0238】
このように、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、領域Aと領域Bとが混合している複合酸化物半導体であり、且つ領域Aの機能と領域Bの機能とがそれぞれ異なり、領域Aと領域Bとが、相補的に機能している。例えば、元素MをGaとしたIn−Ga−Zn酸化物(以下、IGZOとする)の場合、本発明の一態様の酸化物半導体膜を、Complementary IGZO(略称:C/IGZO)と呼称することができる。
【0239】
一方で、例えば、領域Aと領域Bとが層状で積層された構成の場合、領域Aと領域Bとの間には相互作用がない、または相互作用が起きにくいため、領域Aの機能と領域Bの機能とが、それぞれ独立に機能する場合がある。この場合、領域Aによって、電界効果移動度を高くすることが出来たとしても、トランジスタのオフ電流が高くなる場合がある。したがって、本発明の一態様の酸化物半導体膜を、上述した複合酸化物半導体、またはC/IGZOとすることで、電界効果移動度が高い機能と、スイッチング特性が良好である機能と、を同時に兼ね備えることが出来る。これは、本発明の一態様の酸化物半導体膜で得られる優れた効果である。
【0240】
なお、
図13(A)(B)においては、基板上に酸化物半導体膜が形成される場合について例示したが、これに限定されず、基板と酸化物半導体膜との間に下地膜または層間膜などの絶縁膜、あるいは酸化物半導体膜などの他の半導体膜が形成されていてもよい。
【0241】
<2−2.酸化物半導体膜の原子数比>
次に、本発明の一態様の酸化物半導体膜の原子数比について、
図17を用いて説明する。
【0242】
ある物質が元素X、元素Y、および元素Zを有する場合に、各元素の原子数比は
図17に示す相図を用いて示すことができる。元素X、元素Y、および元素Zの原子数比を、x、y、およびzを用いて、x:y:zと表す。ここで原子数比は座標(x:y:z)として図中に表すことができる。なお、
図17には、酸素の原子数比については記載しない。
【0243】
図17において、破線は、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):1の原子数比(−1≦α≦1)となるライン、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):2の原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):3の原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):4の原子数比となるライン、および[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):5の原子数比となるラインを表す。
【0244】
また、一点鎖線は、[In]:[M]:[Zn]=1:1:βの原子数比(β≧0)となるライン、[In]:[M]:[Zn]=1:2:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=1:3:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=1:4:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=2:1:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=5:1:βの原子数比となるライン、及び[In]:[M]:[Zn]=1:7:βの原子数比となるラインを表す。
【0245】
また、
図17に示す、[In]:[M]:[Zn]=0:2:1の原子数比またはその近傍値の酸化物半導体膜は、スピネル型の結晶構造となる傾向がある。
【0246】
また、
図17に示す領域Aは、Inが多い領域([In]:[M]:[Zn]=x:y:z(x>0、y≧0、z≧0)となる領域)が有するIn、M、及びZnの原子数比の好ましい範囲の一例について示している。なお、領域Aは、[In]:[M]:[Zn]=(1+γ):0:(1−γ)の原子数比(−1<γ≦1)となるライン上も含むものとする。
【0247】
また、
図17に示す領域Bは、領域AよりもInが少ない領域([In]:[M]:[Zn]=m:n:l(m>0、n≧0、l≧0))が有する、In、M、及びZnの原子数比の好ましい範囲の一例について示している。なお、領域Bは、[In]:[M]:[Zn]=4:2:3から4.1、およびその近傍値を含む。近傍値には、例えば、原子数比が[In]:[M]:[Zn]=5:3:4が含まれる。また、領域Bは、[In]:[M]:[Zn]=5:1:6、およびその近傍値を含む。領域Bで示される原子数比を有する酸化物半導体膜は、特に、結晶性が良好な酸化物半導体膜である。
【0248】
なお、酸化物半導体膜をスパッタリング装置にて成膜する場合、ターゲットの原子数比と異なる原子数比の膜が形成される場合がある。特に、成膜時の基板温度によっては、ターゲットの原子数比よりも膜の[Zn]の原子数比が小さくなる場合がある。
【0249】
<2−3.スパッタリング装置>
ここで、スパッタリング装置の一例について、
図18(A)(B)を用いて説明を行う。
【0250】
図18(A)は、スパッタリング装置が有する成膜室2501を説明する断面図であり、
図18(B)は、スパッタリング装置が有するマグネットユニット2530a、及びマグネットユニット2530bの平面図である。
【0251】
図18(A)に示す成膜室2501は、ターゲットホルダ2520aと、ターゲットホルダ2520bと、バッキングプレート2510aと、バッキングプレート2510bと、ターゲット2500aと、ターゲット2500bと、部材2542と、基板ホルダ2570と、を有する。なお、ターゲット2500aは、バッキングプレート2510a上に配置される。また、バッキングプレート2510aは、ターゲットホルダ2520a上に配置される。また、マグネットユニット2530aは、バッキングプレート2510aを介してターゲット2500a下に配置される。また、ターゲット2500bは、バッキングプレート2510b上に配置される。また、バッキングプレート2510bは、ターゲットホルダ2520b上に配置される。また、マグネットユニット2530bは、バッキングプレート2510bを介してターゲット2500b下に配置される。
【0252】
図18(A)(B)に示すように、マグネットユニット2530aは、マグネット2530N1と、マグネット2530N2と、マグネット2530Sと、マグネットホルダ2532と、を有する。なお、マグネットユニット2530aにおいて、マグネット2530N1、マグネット2530N2及びマグネット2530Sは、マグネットホルダ2532上に配置される。また、マグネット2530N1及びマグネット2530N2は、マグネット2530Sと間隔を空けて配置される。なお、マグネットユニット2530bは、マグネットユニット2530aと同様の構造を有する。なお、成膜室2501に基板2560を搬入する場合、基板2560は基板ホルダ2570に接して配置される。
【0253】
ターゲット2500a、バッキングプレート2510a及びターゲットホルダ2520aと、ターゲット2500b、バッキングプレート2510b及びターゲットホルダ2520bと、は部材2542によって離間されている。なお、部材2542は絶縁体であることが好ましい。ただし、部材2542が導電体または半導体であっても構わない。また、部材2542が、導電体または半導体の表面を絶縁体で覆ったものであっても構わない。
【0254】
ターゲットホルダ2520aとバッキングプレート2510aとは、ネジ(ボルトなど)を用いて固定されており、等電位となる。また、ターゲットホルダ2520aは、バッキングプレート2510aを介してターゲット2500aを支持する機能を有する。また、ターゲットホルダ2520bとバッキングプレート2510bとは、ネジ(ボルトなど)を用いて固定されており、等電位となる。また、ターゲットホルダ2520bは、バッキングプレート2510bを介してターゲット2500bを支持する機能を有する。
【0255】
バッキングプレート2510aは、ターゲット2500aを固定する機能を有する。また、バッキングプレート2510bは、ターゲット2500bを固定する機能を有する。
【0256】
なお、
図18(A)には、マグネットユニット2530aによって形成される磁力線2580a、2580bが明示されている。
【0257】
また、
図18(B)に示すように、マグネットユニット2530aは、長方形または略長方形のマグネット2530N1と、長方形または略長方形のマグネット2530N2と、長方形または略長方形のマグネット2530Sと、がマグネットホルダ2532に固定されている構成を有する。そして、マグネットユニット2530aを、
図18(B)に示す矢印のように左右に揺動させることができる。例えば、マグネットユニット2530aを、0.1Hz以上1kHz以下のビートで揺動させればよい。
【0258】
ターゲット2500a上の磁場は、マグネットユニット2530aの揺動とともに変化する。磁場の強い領域は高密度プラズマ領域となるため、その近傍においてターゲット2500aのスパッタリング現象が起こりやすい。これは、マグネットユニット2530bについても同様である。
【0259】
ここで、ターゲット2500a及びターゲット2500bが、In−Ga−Zn酸化物ターゲットである場合を考える。例えば、ターゲット2500a及びターゲット2500bが、In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比]の組成とする。上記ターゲットを有するスパッタリング装置の場合、本発明の一態様の酸化物半導体膜の成膜モデルを以下のように考えることができる。
【0260】
なお、スパッタリング装置に導入されるガスとしては、アルゴンガスと、酸素ガスとを用いることとする。また、ターゲットホルダ2520aに接続する端子V1に印加される電位は、基板ホルダ2570に接続する端子V2に印加される電位よりも低い電位とする。また、ターゲットホルダ2520bに接続する端子V4に印加される電位は、基板ホルダ2570に接続する端子V2よりも低い電位とする。また、基板ホルダ2570に接続する端子V2に印加される電位は、接地電位とする。また、マグネットホルダ2532に接続する端子V3に印加される電位は、接地電位とする。
【0261】
なお、端子V1、端子V2、端子V3、及び端子V4に印加される電位は上記の電位に限定されない。また、ターゲットホルダ2520、基板ホルダ2570、マグネットホルダ2532の全てに電位が印加されなくても構わない。例えば、基板ホルダ2570が電気的にフローティング状態であってもよい。なお、端子V1には、印加する電位の制御が可能な電源が電気的に接続されているものとする。電源には、DC電源、AC電源、またはRF電源を用いればよい。
【0262】
まず、アルゴンガスまたは酸素ガスが成膜室2501中で電離し、陽イオンと電子とに分かれてプラズマを形成する。プラズマ中の陽イオンは、ターゲットホルダ2520aに印加された電位V1、及びターゲットホルダ2520bに印加された電位V4によって、ターゲット2500a、2500bに向けて加速される。陽イオンがターゲット2500a、2500bに衝突することで、スパッタ粒子が生成され、基板2560にスパッタ粒子が堆積する。
【0263】
なお、ターゲット2500a、2500bがIn−Ga−Zn酸化物ターゲットである場合、陽イオンがターゲット2500a、2500bに衝突することで、相対原子質量がInよりも軽いGa及びZnがターゲット2500a、2500bから優先的に弾き出され基板2560に堆積する。この時、ターゲット2500a、2500bの表面には、Ga及びZnが脱離したためInが偏析した状態となる。その後、ターゲット2500a、2500bの表面に偏析したInがターゲット2500a、2500bから弾き出され基板2560に堆積する。
【0264】
上記のようの成膜モデルを経ることによって、
図13乃至
図16に示すような、領域Aと領域Bとが混合している複合酸化物半導体が形成されると考えられる。
【0265】
<2−4.酸化物半導体膜のキャリア密度>
次に、酸化物半導体膜のキャリア密度について、以下に説明を行う。
【0266】
酸化物半導体膜のキャリア密度に影響を与える因子としては、酸化物半導体膜中の酸素欠損(Vo)、または酸化物半導体膜中の不純物などが挙げられる。
【0267】
酸化物半導体膜中の酸素欠損が多くなると、該酸素欠損に水素が結合(この状態をVoHともいう)した際に、欠陥準位密度が高くなる。または、酸化物半導体膜中の不純物が多くなると、該不純物に起因し欠陥準位密度が高くなる。したがって、酸化物半導体膜中の欠陥準位密度を制御することで、酸化物半導体膜のキャリア密度を制御することができる。
【0268】
ここで、酸化物半導体膜をチャネル領域に用いるトランジスタを考える。
【0269】
トランジスタのしきい値電圧のマイナスシフトの抑制、またはトランジスタのオフ電流の低減を目的とする場合においては、酸化物半導体膜のキャリア密度を低くする方が好ましい。酸化物半導体膜のキャリア密度を低くする場合においては、酸化物半導体膜中の不純物濃度を低くし、欠陥準位密度を低くすればよい。本明細書等において、不純物濃度が低く、欠陥準位密度の低いことを高純度真性または実質的に高純度真性と言う。高純度真性の酸化物半導体膜のキャリア密度としては、8×10
15cm
−3未満、好ましくは1×10
11cm
−3未満、さらに好ましくは1×10
10cm
−3未満であり、1×10
−9cm
−3以上とすればよい。
【0270】
一方で、トランジスタのオン電流の向上、またはトランジスタの電界効果移動度の向上を目的とする場合においては、酸化物半導体膜のキャリア密度を高くする方が好ましい。酸化物半導体膜のキャリア密度を高くする場合においては、酸化物半導体膜の不純物濃度をわずかに高める、または酸化物半導体膜の欠陥準位密度をわずかに高めればよい。あるいは、酸化物半導体膜のバンドギャップをより小さくするとよい。例えば、トランジスタのId−Vg特性のオン/オフ比が取れる範囲において、不純物濃度がわずかに高い、または欠陥準位密度がわずかに高い酸化物半導体膜は、実質的に真性とみなせる。また、電子親和力が大きく、それにともなってバンドギャップが小さくなり、その結果、熱励起された電子(キャリア)の密度が増加した酸化物半導体膜は、実質的に真性とみなせる。なお、より電子親和力が大きな酸化物半導体膜を用いた場合には、トランジスタのしきい値電圧がより低くなる。
【0271】
実質的に真性の酸化物半導体膜のキャリア密度は、1×10
5cm
−3以上1×10
18cm
−3未満が好ましく、1×10
7cm
−3以上1×10
17cm
−3以下がより好ましく、1×10
9cm
−3以上5×10
16cm
−3以下がさらに好ましく、1×10
10cm
−3以上1×10
16cm
−3以下がさらに好ましく、1×10
11cm
−3以上1×10
15cm
−3以下がさらに好ましい。
【0272】
また、上述の実質的に真性の酸化物半導体膜を用いることで、トランジスタの信頼性が向上する場合がある。ここで、
図19を用いて、酸化物半導体膜をチャネル領域に用いるトランジスタの信頼性が向上する理由について説明する。
図19は、酸化物半導体膜をチャネル領域に用いるトランジスタにおけるエネルギーバンドを説明する図である。
【0273】
図19において、GEはゲート電極を、GIはゲート絶縁膜を、OSは酸化物半導体膜を、SDはソース電極またはドレイン電極を、それぞれ表す。すなわち、
図19は、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜に接するソース電極またはドレイン電極のエネルギーバンドの一例である。
【0274】
また、
図19において、ゲート絶縁膜としては、酸化シリコン膜を用い、酸化物半導体膜にIn−Ga−Zn酸化物を用いる構成である。また、酸化シリコン膜中に形成されうる欠陥の遷移レベル(εf)はゲート絶縁膜の伝導帯下端から約3.1eV離れた位置に形成されるものとし、ゲート電圧(Vg)が30Vの場合の酸化物半導体膜と酸化シリコン膜との界面における酸化シリコン膜のフェルミ準位(Ef)はゲート絶縁膜の伝導帯下端から約3.6eV離れた位置に形成されるものとする。なお、酸化シリコン膜のフェルミ準位は、ゲート電圧に依存し変動する。例えば、ゲート電圧を大きくすることで、酸化物半導体膜と、酸化シリコン膜との界面における酸化シリコン膜のフェルミ準位(Ef)は低くなる。また、
図19中の白丸は電子(キャリア)を表し、
図19中のXは酸化シリコン膜中の欠陥準位を表す。
【0275】
図19に示すように、ゲート電圧が印加された状態で、例えばキャリアが熱励起されると、欠陥準位(図中X)にキャリアがトラップされ、プラス(“+”)からニュートラル(“0”)に欠陥準位の荷電状態が変化する。すなわち、酸化シリコン膜のフェルミ準位(Ef)に上述の熱励起のエネルギーを足した値が欠陥の遷移レベル(εf)よりも高くなる場合、酸化シリコン膜中の欠陥準位の荷電状態は正の状態から中性となり、トランジスタのしきい値電圧がプラス方向に変動することになる。
【0276】
また、電子親和力が異なる酸化物半導体膜を用いると、ゲート絶縁膜と酸化物半導体膜との界面のフェルミ準位が形成される深さが異なることがある。電子親和力の大きな酸化物半導体膜を用いると、ゲート絶縁膜と酸化物半導体膜との界面近傍において、ゲート絶縁膜の伝導帯下端が相対的に高くなる。この場合、ゲート絶縁膜中に形成されうる欠陥準位(
図19中X)も相対的に高くなるため、ゲート絶縁膜のフェルミ準位と酸化物半導体膜との界面のフェルミ準位とのエネルギー差が大きくなる。該エネルギー差が大きくなることにより、ゲート絶縁膜中にトラップされる電荷が少なくなる、例えば、上述の酸化シリコン膜中に形成されうる欠陥準位の荷電状態の変化が少なくなり、ゲートバイアス熱(Gate Bias Temperature:GBTともいう)ストレスにおける、トランジスタのしきい値電圧の変動を小さくできる。
【0277】
また、酸化物半導体膜をチャネル領域に用いるトランジスタは、粒界におけるキャリア散乱等を減少させることができるため、高い電界効果移動度のトランジスタを実現することができる。また、信頼性の高いトランジスタを実現することができる。
【0278】
また、酸化物半導体膜の欠陥準位に捕獲された電荷は、消失するまでに要する時間が長く、あたかも固定電荷のように振る舞うことがある。そのため、欠陥準位密度の高い酸化物半導体膜にチャネル領域が形成されるトランジスタは、電気特性が不安定となる場合がある。
【0279】
従って、トランジスタの電気特性を安定にするためには、酸化物半導体膜中の不純物濃度を低減することが有効である。また、酸化物半導体膜中の不純物濃度を低減するためには、近接する膜中の不純物濃度も低減することが好ましい。不純物としては、水素、窒素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、ニッケル、シリコン等がある。
【0280】
ここで、酸化物半導体膜中における各不純物の影響について説明する。
【0281】
酸化物半導体膜において、第14族元素の一つであるシリコンや炭素が含まれると、酸化物半導体膜において欠陥準位が形成される。このため、酸化物半導体膜におけるシリコンや炭素の濃度と、酸化物半導体膜との界面近傍のシリコンや炭素の濃度(二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により得られる濃度)を、2×10
18atoms/cm
3以下、好ましくは2×10
17atoms/cm
3以下とする。
【0282】
また、酸化物半導体膜にアルカリ金属またはアルカリ土類金属が含まれると、欠陥準位を形成し、キャリアを生成する場合がある。従って、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が含まれている酸化物半導体膜を用いたトランジスタはノーマリーオン特性となりやすい。このため、酸化物半導体膜中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の濃度を低減することが好ましい。具体的には、SIMSにより得られる酸化物半導体膜中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の濃度を、1×10
18atoms/cm
3以下、好ましくは2×10
16atoms/cm
3以下にする。
【0283】
また、酸化物半導体膜に含まれる水素は、金属原子と結合する酸素と反応して水になるため、酸素欠損を形成する場合がある。該酸素欠損に水素が入ることで、キャリアである電子が生成される場合がある。また、水素の一部が金属原子と結合する酸素と結合して、キャリアである電子を生成することがある。従って、水素が含まれている酸化物半導体膜を用いたトランジスタはノーマリーオン特性となりやすい。このため、酸化物半導体膜中の水素はできる限り低減されていることが好ましい。具体的には、酸化物半導体膜において、SIMSにより得られる水素濃度を、1×10
20atoms/cm
3未満、好ましくは1×10
19atoms/cm
3未満、より好ましくは5×10
18atoms/cm
3未満、さらに好ましくは1×10
18atoms/cm
3未満とする。
【0284】
不純物が十分に低減された酸化物半導体膜をトランジスタのチャネル形成領域に用いることで、安定した電気特性を付与することができる。
【0285】
また、酸化物半導体膜は、エネルギーギャップが2eV以上、または2.5eV以上であると好ましい。
【0286】
<2−5.酸化物半導体膜の構造>
次に、酸化物半導体膜の構造について説明する。
【0287】
酸化物半導体膜は、単結晶酸化物半導体膜と、それ以外の非単結晶酸化物半導体膜と、に分けられる。非単結晶酸化物半導体膜としては、CAAC−OS(c−axis−aligned crystalline oxide semiconductor)、多結晶酸化物半導体、nc−OS(nanocrystalline oxide semiconductor)、擬似非晶質酸化物半導体(a−like OS:amorphous−like oxide semiconductor)、及び非晶質酸化物半導体などがある。
【0288】
また別の観点では、酸化物半導体膜は、非晶質酸化物半導体膜と、それ以外の結晶性酸化物半導体膜と、に分けられる。結晶性酸化物半導体膜としては、単結晶酸化物半導体膜、CAAC−OS、多結晶酸化物半導体膜、及びnc−OSなどがある。
【0289】
非晶質構造は、一般に、等方的であって不均質構造を持たない、準安定状態で原子の配置が固定化していない、結合角度が柔軟である、短距離秩序は有するが長距離秩序を有さない、などといわれている。
【0290】
すなわち、安定な酸化物半導体膜を完全な非晶質(completely amorphous)酸化物半導体膜とは呼べない。また、等方的でない(例えば、微小な領域において周期構造を有する)酸化物半導体膜を、完全な非晶質酸化物半導体膜とは呼べない。一方、a−like OSは、等方的でないが、鬆(ボイドともいう。)を有する不安定な構造である。不安定であるという点では、a−like OSは、物性的に非晶質酸化物半導体膜に近い。
【0291】
[CAAC−OS]
まずは、CAAC−OSについて説明する。
【0292】
CAAC−OSは、c軸配向した複数の結晶部(ペレットともいう。)を有する酸化物半導体膜の一種である。
【0293】
CAAC−OSは結晶性の高い酸化物半導体膜である。酸化物半導体膜の結晶性は不純物の混入や欠陥の生成などによって低下する場合があるため、CAAC−OSは不純物や欠陥(酸素欠損など)の少ない酸化物半導体膜ともいえる。
【0294】
なお、不純物は、酸化物半導体膜の主成分以外の元素で、水素、炭素、シリコン、遷移金属元素などがある。例えば、シリコンなどの、酸化物半導体膜を構成する金属元素よりも酸素との結合力の強い元素は、酸化物半導体膜から酸素を奪うことで酸化物半導体膜の原子配列を乱し、結晶性を低下させる要因となる。また、鉄やニッケルなどの重金属、アルゴン、二酸化炭素などは、原子半径(または分子半径)が大きいため、酸化物半導体膜の原子配列を乱し、結晶性を低下させる要因となる。
【0295】
[nc−OS]
次に、nc−OSについて説明する。
【0296】
nc−OSをXRDによって解析した場合について説明する。例えば、nc−OSに対し、out−of−plane法による構造解析を行うと、配向性を示すピークが現れない。即ち、nc−OSの結晶は配向性を有さない。
【0297】
nc−OSは、非晶質酸化物半導体膜よりも規則性の高い酸化物半導体膜である。そのため、nc−OSは、a−like OSや非晶質酸化物半導体膜よりも欠陥準位密度が低くなる。ただし、nc−OSは、異なるペレット間で結晶方位に規則性が見られない。そのため、nc−OSは、CAAC−OSと比べて欠陥準位密度が高くなる場合がある。
【0298】
[a−like OS]
a−like OSは、nc−OSと非晶質酸化物半導体膜との間の構造を有する酸化物半導体膜である。
【0299】
a−like OSは、鬆または低密度領域を有する。a−like OSは、鬆を有するため、不安定な構造である。
【0300】
また、a−like OSは、鬆を有するため、nc−OS及びCAAC−OSと比べて密度の低い構造である。具体的には、a−like OSの密度は、同じ組成の単結晶の密度の78.6%以上92.3%未満である。また、nc−OSの密度及びCAAC−OSの密度は、同じ組成の単結晶の密度の92.3%以上100%未満である。単結晶の密度の78%未満である酸化物半導体は、成膜すること自体が困難である。
【0301】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]を満たす酸化物半導体膜において、菱面体晶構造を有する単結晶InGaZnO
4の密度は6.357g/cm
3である。よって、例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]を満たす酸化物半導体膜において、a−like OSの密度は5.0g/cm
3以上5.9g/cm
3未満である。また、例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]を満たす酸化物半導体膜において、nc−OSの密度及びCAAC−OSの密度は5.9g/cm
3以上6.3g/cm
3未満である。
【0302】
なお、同じ組成の単結晶が存在しない場合、任意の割合で組成の異なる単結晶を組み合わせることにより、所望の組成における単結晶に相当する密度を見積もることができる。所望の組成の単結晶に相当する密度は、組成の異なる単結晶を組み合わせる割合に対して、加重平均を用いて見積もればよい。ただし、密度は、可能な限り少ない種類の単結晶を組み合わせて見積もることが好ましい。
【0303】
以上のように、酸化物半導体膜は、様々な構造をとり、それぞれが様々な特性を有する。なお、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、非晶質酸化物半導体膜、a−like OS、nc−OS、CAAC−OSのうち、二種以上が混在していてもよい。その場合の一例を以下に示す。
【0304】
本発明の一態様の酸化物半導体膜を、2種類の結晶部を含む酸化物半導体膜とすることができる。すなわち、2種類の結晶部が混在している酸化物半導体膜である。結晶部の一(第1の結晶部ともいう)は、膜の厚さ方向(膜面方向、膜の被形成面、または膜の表面に垂直な方向ともいう)に配向性を有する、すなわちc軸配向性を有する結晶部である。結晶部の他の一(第2の結晶部ともいう)は、c軸配向性を有さずに様々な向きに配向する結晶部である。
【0305】
なお、以下では説明を容易にするために、c軸配向性を有する結晶部を第1の結晶部、c軸配向性を有さない結晶部を第2の結晶部と分けて説明しているが、これらは結晶性や結晶の大きさなどに違いがなく区別できない場合がある。すなわち、本発明の一態様の酸化物半導体膜はこれらを区別せずに表現することもできる。
【0306】
例えば、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、複数の結晶部を有し、膜中に存在する結晶部のうち、少なくとも一の結晶部がc軸配向性を有していればよい。また、膜中に存在する結晶部のうち、c軸配向性を有さない結晶部が、c軸配向性を有する結晶部よりも存在割合を多くしてもよい。一例としては、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、その膜厚方向の断面における透過型電子顕微鏡による観察像において、複数の結晶部が観察され、当該複数の結晶部のうちc軸配向性を有さない第2の結晶部が、c軸配向性を有する第1の結晶部よりも多く観察される場合がある。別言すると、本発明の一態様の酸化物半導体膜は、c軸配向性を有さない第2の結晶部の存在割合が多い。
【0307】
酸化物半導体膜中にc軸配向性を有さない第2の結晶部の存在割合を多くすることで、以下の優れた効果を奏する。
【0308】
酸化物半導体膜の近傍に十分な酸素供給源がある場合において、c軸配向性を有さない第2の結晶部は、酸素の拡散経路になりうる。よって、酸化物半導体膜の近傍に十分な酸素供給源がある場合に、c軸配向性を有さない第2の結晶部を介して、c軸配向性を有する第1の結晶部に酸素を供給することができる。よって、酸化物半導体膜の膜中の酸素欠損量を低減することができる。このような酸化物半導体膜をトランジスタの半導体膜に適用することで、高い信頼性を有し、且つ高い電界効果移動度を得ることが可能となる。
【0309】
また、第1の結晶部は、特定の結晶面が膜の厚さ方向に対して配向性を有する。そのため、第1の結晶部を含む酸化物半導体膜について、膜の上面に概略垂直な方向に対するX線回折(XRD:X−ray Diffraction)測定を行うと、所定の回折角(2θ)に当該第1の結晶部に由来する回折ピークが確認される。一方で酸化物半導体膜が第1の結晶部を有していても、支持基板によるX線の散乱、またはバックグラウンドの上昇により、回折ピークが十分に確認されないこともある。なお、回折ピークの高さ(強度)は、酸化物半導体膜中に含まれる第1の結晶部の存在割合に応じてして大きくなり、酸化物半導体膜の結晶性を推し量る指標にもなりえる。
【0310】
また、酸化物半導体膜の結晶性の評価方法の一つとして、電子線回折が挙げられる。例えば、断面に対する電子線回折測定を行い、本発明の一態様の酸化物半導体膜の電子線回折パターンを観測した場合、第1の結晶部に起因する回折スポットを有する第1の領域と、第2の結晶部に起因する回折スポットを有する第2の領域とが観測される。
【0311】
第1の結晶部に起因する回折スポットを有する第1の領域は、c軸配向性を有する結晶部に由来する。一方で第2の結晶部に起因する回折スポットを有する第2の領域は、配向性を有さない結晶部、または、あらゆる向きに無秩序に配向する結晶部に由来する。そのため電子線回折に用いる電子線のビーム径、すなわち観察する領域の面積によって、異なるパターンが確認される場合がある。なお、本明細書等において、電子線のビーム径を1nmΦ以上100nmΦ以下で測定する電子線回折を、ナノビーム電子線回折(NBED:Nano Beam Electron Diffraction)と呼ぶ。
【0312】
ただし、本発明の一態様の酸化物半導体膜の結晶性を、NBEDと異なる方法で評価してもよい。酸化物半導体膜の結晶性の評価方法の一例としては、電子回折、X線回折、中性子回折などが挙げられる。電子回折の中でも、先に示すNBEDの他に、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)、収束電子回折(CBED:Convergent Beam Electron Diffraction)、制限視野電子回折(SAED:Selected Area Electron Diffraction)などを好適に用いることができる。
【0313】
また、NBEDにおいて、電子線のビーム径を大きくした条件(例えば、25nmΦ以上100nmΦ以下、または50nmΦ以上100nmΦ以下)のナノビーム電子線回折パターンでは、リング状のパターンが確認される。また当該リング状のパターンは、動径方向に輝度の分布を有する場合がある。一方、NBEDにおいて、電子線のビーム径を十分に小さくした条件(例えば1nmΦ以上10nmΦ以下)の電子線回折パターンでは、上記リング状のパターンの位置に、円周方向(θ方向ともいう)に分布した複数のスポットが確認される場合がある。すなわち、電子線のビーム径を大きくした条件でみられるリング状のパターンは、上記の複数のスポットの集合体により形成される。
【0314】
<2−6.酸化物半導体膜の結晶性の評価>
以下では、条件の異なる3つの酸化物半導体膜が形成された試料(試料X1乃至試料X3)を作製し結晶性の評価を行った。まず、試料X1乃至試料X3の作製方法について、説明する。
【0315】
[試料X1]
試料X1は、ガラス基板上に厚さ約100nmの酸化物半導体膜が形成された試料である。当該酸化物半導体膜は、インジウムと、ガリウムと、亜鉛とを有する。試料X1の酸化物半導体膜の形成条件としては、基板を170℃に加熱し、流量140sccmのアルゴンガスと流量60sccmの酸素ガスとをスパッタリング装置のチャンバー内に導入し、圧力を0.6Paとし、インジウムと、ガリウムと、亜鉛とを有する金属酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比])に、2.5kwの交流電力を印加することで形成した。なお、試料X1の作製条件における酸素流量比は30%である。
【0316】
[試料X2]
試料X2は、ガラス基板上に厚さ約100nmの酸化物半導体膜が成膜された試料である。試料X2の酸化物半導体膜の形成条件としては、基板を130℃に加熱し、流量180sccmのアルゴンガスと、流量20sccmの酸素ガスとをスパッタリング装置のチャンバー内に導入して形成した。試料X2の作製条件における酸素流量比は10%である。なお、基板温度、及び酸素流量比以外の条件としては、先に示す試料X1と同様の条件とした。
【0317】
[試料X3]
試料X3は、ガラス基板上に厚さ約100nmの酸化物半導体膜が成膜された試料である。試料X3の酸化物半導体膜の形成条件としては、基板を室温とし、流量180sccmのアルゴンガスと、流量20sccmの酸素ガスとをスパッタリング装置のチャンバー内に導入して形成した。試料X3の作製条件における酸素流量比は10%である。なお、基板温度、及び酸素流量比以外の条件としては、先に示す試料X1と同様の条件とした。
【0318】
試料X1乃至試料X3の形成条件を表1に示す。
【0320】
次に、上記作製した試料X1乃至試料X3の結晶性の評価を行った。本実施の形態においては、結晶性の評価として、断面TEM観察、XRD測定、及び電子線回折を行った。
【0321】
[断面TEM観察]
図20乃至
図22に、試料X1乃至試料X3の断面TEM観察結果を示す。なお、
図20(A)(B)は試料X1の断面TEM像であり、
図21(A)(B)は試料X2の断面TEM像であり、
図22(A)(B)は試料X3の断面TEM像である。
【0322】
また、
図20(C)は試料X1の断面の高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM:High Resolution−TEM)像であり、
図21(C)は試料X2の断面HR−TEM像であり、
図22(C)は試料X3の断面HR−TEM像である。なお、断面HR−TEM像の観察には、球面収差補正(Spherical Aberration Corrector)機能を用いてもよい。球面収差補正機能を用いた高分解能TEM像を、特にCs補正高分解能TEM像と呼ぶ。Cs補正高分解能TEM像は、例えば、日本電子株式会社製原子分解能分析電子顕微鏡JEM−ARM200Fなどによって観察することができる。
【0323】
図20及び
図21に示すように、試料X1及び試料X2では、原子が膜厚方向に層状に配列している結晶部が観察される。特に、HR−TEM像において、層状に配列している結晶部が観察されやすい。また、
図22に示すように、試料X3では原子が膜厚方向に層状に配列している様子が確認され難い。
【0324】
[XRD測定]
次に、各試料のXRD測定結果について説明する。
【0325】
図23(A)に試料X1のXRD測定結果を、
図24(A)に試料X2のXRD測定結果を、
図25(A)に試料X3のXRD測定結果を、それぞれ示す。
【0326】
XRD測定では、out−of−plane法の一種である粉末法(θ−2θ法ともいう。)を用いた。θ−2θ法は、X線の入射角を変化させるとともに、X線源に対向して設けられる検出器の角度を入射角と同じにしてX線回折強度を測定する方法である。なお、X線を膜表面から約0.40°の角度から入射し、検出器の角度を変化させてX線回折強度を測定するout−of−plane法の一種であるGIXRD(Grazing−Incidence XRD)法(薄膜法またはSeemann−Bohlin法ともいう。)を用いてもよい。
図23(A)、
図24(A)、及び
図25(A)における縦軸は回折強度を任意単位で示し、横軸は角度2θを示している。
【0327】
図23(A)及び
図24(A)に示すように、試料X1及び試料X2においては、2θ=31°付近に回折強度のピークが確認される。一方で、
図25(A)に示すように、試料X3においては、2θ=31°付近の回折強度のピークが確認され難い、または2θ=31°付近の回折強度のピークが極めて小さい、あるいは2θ=31°付近の回折強度のピークが無い。
【0328】
なお、回折強度のピークがみられた回折角(2θ=31°付近)は、単結晶InGaZnO
4の構造モデルにおける(009)面の回折角と一致する。したがって、試料X1及び試料X2において、上記ピークが観測されることから、c軸が膜厚方向に配向する結晶部(以下、c軸配向性を有する結晶部、または第1の結晶部ともいう)が含まれていることが確認できる。なお、試料X3については、XRD測定からでは、c軸配向性を有する結晶部が含まれているかを判断するのが困難である。
【0329】
[電子線回折]
次に、試料X1乃至試料X3について、電子線回折測定を行った結果について説明する。電子線回折測定では、各試料の断面に対して電子線を垂直に入射したときの電子線回折パターンを取得する。また電子線のビーム径を、1nmΦ及び100nmΦの2つとした。
【0330】
なお、電子線回折において、入射する電子線のビーム径だけでなく、試料の厚さが厚いほど、電子線回折パターンには、その奥行き方向の情報が現れることとなる。そのため、電子線のビーム径を小さくするだけでなく、試料の奥行方向の厚さを薄くすることで、より局所的な領域の情報を得ることができる。一方で、試料の奥行き方向の厚さが薄すぎる場合(例えば試料の奥行き方向の厚さが5nm以下の場合)、極微細な領域の情報しか得られない。そのため、極微細な領域に結晶が存在していた場合には、得られる電子線回折パターンは、単結晶のものと同様のパターンとなる場合がある。極微細な領域を解析する目的でない場合には、試料の奥行き方向の厚さを、例えば10nm以上100nm以下、代表的には10nm以上50nm以下とすることが好ましい。
【0331】
図23(B)(C)に試料X1の電子線回折パターンを、
図24(B)(C)に試料X2の電子線回折パターンを、
図25(B)(C)に試料X3の電子線回折パターンを、それぞれ示す。
【0332】
なお、
図23(B)(C)、
図24(B)(C)、及び
図25(B)(C)に示す電子線回折パターンは、電子線回折パターンが明瞭になるようにコントラストが調整された画像データである。また、
図23(B)(C)、
図24(B)(C)、及び
図25(B)(C)において、中央の最も明るい輝点は入射される電子線ビームによるものであり、電子線回折パターンの中心(ダイレクトスポットまたは透過波ともいう)である。
【0333】
また、
図23(B)に示すように、入射する電子線のビーム径を1nmΦとした場合に、円周状に分布した複数のスポットがみられることから、酸化物半導体膜は、極めて微小で且つ面方位があらゆる向きに配向した複数の結晶部が混在していることが分かる。また、
図23(C)に示すように、入射する電子線のビーム径を100nmΦとした場合に、この複数の結晶部からの回折スポットが連なり、輝度が平均化されてリング状の回折パターンとなることが確認できる。また、
図23(C)では、半径の異なる2つのリング状の回折パターンが確認できる。ここで、径の小さいほうから第1のリング、第2のリングと呼ぶこととする。第2のリングに比べて、第1のリングの方が輝度が高いことが確認できる。また、第1のリングと重なる位置に、輝度の高い2つのスポット(第1の領域)が確認される。
【0334】
第1のリングの中心からの動径方向の距離は、単結晶InGaZnO
4の構造モデルにおける(009)面の回折スポットの中心からの動径方向の距離とほぼ一致する。また、第1の領域は、c軸配向性に起因する回折スポットである。
【0335】
また、
図23(C)に示すように、リング状の回折パターンが見られていることから、酸化物半導体膜中には、あらゆる向きに配向している結晶部(以下、c軸配向性を有さない結晶部、または第2の結晶部ともいう)が存在するとも言い換えることもできる。
【0336】
また、2つの第1の領域は、電子線回折パターンの中心点に対して対称に配置され、輝度が同程度であることから、2回対称性を有することが推察される。また上述のように、2つの第1の領域はc軸配向性に起因する回折スポットであることから、2つの第1の領域と中心を通る線を結ぶ直線の方向が、結晶部のc軸の向きと一致する。
図23(C)において上下方向が膜厚方向であることから、酸化物半導体膜中には、c軸が膜厚方向に配向する結晶部が存在していることが分かる。
【0337】
このように、試料X1の酸化物半導体膜は、c軸配向性を有する結晶部と、c軸配向性を有さない結晶部とが混在している膜であることが確認できる。
【0338】
図24(B)(C)及び
図25(B)(C)に示す電子線回折パターンにおいても、
図23(B)(C)に示す電子線回折パターンと概ね同じ結果である。ただし、c軸配向性に起因する2つのスポット(第1の領域)の輝度は、試料X1、試料X2、試料X3の順で明るく、c軸配向性を有する結晶部の存在割合が、この順で高いことが示唆される。
【0339】
[酸化物半導体膜の結晶性の定量化方法]
次に、
図26乃至
図28を用いて、酸化物半導体膜の結晶性の定量化方法の一例について説明する。
【0340】
まず、電子線回折パターンを用意する(
図26(A)参照)。
【0341】
なお、
図26(A)は、膜厚100nmの酸化物半導体膜に対して、ビーム径100nmで測定した電子線回折パターンであり、
図26(B)は、
図26(A)に示す電子線回折パターンを、コントラスト調整した後の電子線回折パターンである。
【0342】
図26(B)において、ダイレクトスポットの上下に2つの明瞭なスポット(第1の領域)が観察されている。この2つのスポット(第1の領域)はInGaZnO
4の構造モデルにおける(00l)に対応する回折スポット、すなわちc軸配向性を有する結晶部に起因する。一方で、上記第1の領域とは別に、第1の領域とおおよそ同心円上に輝度の低いリング状のパターン(第2の領域)が重なって見える。これは電子ビーム径を100nmΦとしたことによって、c軸配向性を有さない結晶部(第2の結晶部)の構造に起因したスポットの輝度が平均化され、リング状になったものである。
【0343】
ここで、電子線回折パターンは、c軸配向性を有する結晶部に起因する回折スポットを有する第1の領域と、第2の結晶部に起因する回折スポットを有する第2の領域とが、重なって観察される。よって、第1の領域を含むラインプロファイルと、第2の領域を含むラインプロファイルとを取得し比較することで、酸化物半導体膜の結晶性の定量化が可能となる。
【0344】
まず、第1の領域を含むラインプロファイル及び第2の領域を含むラインプロファイルについて、
図27を用いて説明する。
【0345】
図27は、InGaZnO
4の構造モデルに対して、(100)面より電子ビームを照射した際に得られる電子線回折のシミュレーションパターンに、領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’の補助線を付した図である。
【0346】
図27に示す領域A−A’は、c軸配向性を有する第1の結晶部に起因する2つの回折スポットと、ダイレクトスポットとを通る直線を含む。また、
図27に示す領域B−B’及び領域C−C’は、c軸配向性を有する第1の結晶部に起因する回折スポットが観察されない領域と、ダイレクトスポットとを通る直線を含む。なお、領域A−A’と領域B−B’または領域C−C’とが交わる角度は、34°近傍、具体的には、30°以上38°以下、好ましくは32°以上36°以下、さらに好ましくは33°以上35°以下とすればよい。
【0347】
なお、ラインプロファイルは、酸化物半導体膜の構造に応じて、
図28に示すような傾向を有する。
図28は、各構造に対するラインプロファイルの図、相対輝度R、及びラインプロファイルの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を説明する図である。
【0348】
なお、
図28に示す相対輝度Rとは、領域A−A’における輝度の積分強度を、領域B−B’における輝度の積分強度または領域C−C’における輝度の積分強度で割った値である。なお、領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’における輝度の積分強度としては、中央に位置に現れるダイレクトスポットに起因するバックグラウンドとを除去したものである。
【0349】
相対輝度Rを計算することによって、c軸配向性の強さを定量的に規定することができる。例えば、
図28に示すように、単結晶の酸化物半導体膜では、領域A−A’のc軸配向性を有する第1の結晶部に起因する回折スポットのピーク強度が高く、領域B−B’及び領域C−C’にはc軸配向性を有する第1の結晶部に起因する回折スポットが見られないため、相対輝度Rは、1を超えて極めて大きくなる。また、相対輝度Rは、単結晶、CAAC(CAACの詳細については後述する)のみ、CAAC+Nanocrystal、Nanocrystal、Amorphousの順で低くなる。特に、特定の配向性を有さないNanocrystal、及びamorphousでは、相対輝度Rは1となる。
【0350】
また、結晶の周期性の高い構造ほど、c軸配向性を有する第1の結晶部に起因するスペクトルの強度は高くなり、当該スペクトルの半値幅も小さくなる。そのため、単結晶の半値幅が最も小さく、CAACのみ、CAAC+Nanocrystal、Nanocrystalの順に半値幅が大きくなり、amorphousでは、半値幅が非常に大きく、ハローと呼ばれるプロファイルになる。
【0351】
[ラインプロファイルによる解析]
上述のように、第1の領域における輝度の積分強度と、第2の領域における輝度の積分強度との強度比は、配向性を有する結晶部の存在割合を推し量る点で重要な情報である。
【0352】
そこで、先に示す試料X1乃至試料X3の電子線回折パターンから、ラインプロファイルによる解析を行った。
【0353】
試料X1のラインプロファイルによる解析結果を
図29(A1)(A2)に、試料X2のラインプロファイルによる解析結果を
図29(B1)(B2)に、試料X3のラインプロファイルによる解析結果を
図29(C1)(C2)に、それぞれ示す。
【0354】
なお、
図29(A1)は、
図23(C)に示す電子線回折パターンに領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’を記載した電子線回折パターンであり、
図29(B1)は、
図24(C)に示す電子線回折パターンに領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’を記載した電子線回折パターンであり、
図29(C1)は、
図25(C)に示す電子線回折パターンに領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’を記載した電子線回折パターンである。
【0355】
また、領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’としては、電子線回折パターンの中心位置に現れるダイレクトスポットの輝度で規格化することにより求めることができる。またこれにより、各試料間での相対的な比較を行うことができる。
【0356】
また、輝度のプロファイルを算出する際に、試料からの非弾性散乱等に起因する輝度の成分を、バックグラウンドとして差し引くと、より精度の高い比較を行うことができる。ここで非弾性散乱に起因する輝度の成分は、動径方向において極めてブロードなプロファイルを取るため、バックグラウンドの輝度を直線近似で算出してもよい。例えば、対象となるピークの両側の裾に沿って直線を引き、その直線よりも低輝度側に位置する領域をバックグラウンドとして差し引くことができる。
【0357】
ここでは、上述の方法によりバックグラウンドを差し引いたデータから、領域A−A’、領域B−B’、及び領域C−C’における輝度の積分強度を算出した。そして、領域A−A’における輝度の積分強度を、領域B−B’における輝度の積分強度、または領域C−C’における輝度の積分強度で割った値を、相対輝度Rとして求めた。
【0358】
図30に試料X1乃至試料X3の相対輝度Rを示す。なお、
図30においては、
図29(A2)、
図29(B2)、及び
図29(C2)に示す輝度のプロファイル中のダイレクトスポットの左右に位置するスペクトルにおいて、領域A−A’における輝度の積分強度を領域B−B’における輝度の積分強度で割った値、及び領域A−A’における輝度の積分強度を領域C−C’における輝度の積分強度で割った値をそれぞれ求めた。
【0359】
図30に示すように、試料X1乃至試料X3の相対輝度は以下に示す通りである。
・試料X1の相対輝度R=25.00
・試料X2の相対輝度R=3.04
・試料X3の相対輝度R=1.05
なお、上述の相対輝度Rは、4つの位置での平均値とした。このように、相対輝度Rは、試料X1、試料X2、試料X3の順で高い。
【0360】
本発明の一態様の酸化物半導体膜をトランジスタのチャネルが形成される半導体膜に用いる場合には、相対輝度Rが1を超えて40以下、好ましくは1を超えて10以下、さらに好ましくは1を超えて3以下の強度比となる酸化物半導体膜を用いると好適である。このような酸化物半導体膜を半導体膜に用いることで、電気特性の高い安定性と、ゲート電圧が低い領域での高い電界効果移動度を両立することができる。
【0361】
<2−7.結晶部の存在割合>
酸化物半導体膜中の結晶部の存在割合は、断面TEM像を解析することで見積もることができる。
【0362】
まず、画像解析の方法について説明する。画像解析の方法としては、高分解能で撮像されたTEM像に対して2次元高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理し、FFT像を取得する。得られたFFT像に対し、周期性を有する範囲を残し、それ以外を除去するマスク処理を施す。そしてマスク処理したFFT像を、2次元逆フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)処理し、FFTフィルタリング像を取得する。
【0363】
これにより、結晶部のみを抽出した実空間像を得ることができる。ここで、残存した像の面積の割合から、結晶部の存在割合を見積もることができる。また、計算に用いた領域(元の像の面積ともいう)の面積から、残存した面積を差し引くことにより、結晶部以外の部分の存在割合を見積もることができる。
【0364】
図31(A1)に試料X1の断面TEM像を、
図31(A2)に試料X1の断面TEM像を画像解析した後に得られた像を、それぞれ示す。また、
図31(B1)に試料X2の断面TEM像を、
図31(B2)に試料X2の断面TEM像を画像解析した後に得られた像を、それぞれ示す。また、
図31(C1)に試料X3の断面TEM像を、
図31(C2)に試料X3の断面TEM像を画像解析した後に得られた像を、それぞれ示す。
【0365】
画像解析後に得られた像において、酸化物半導体膜中の白く表示されている領域が、配向性を有する結晶部を含む領域に対応し、黒く表示されている領域が、配向性を有さない結晶部、または様々な向きに配向する結晶部を含む領域に対応する。
【0366】
図31(A2)に示す結果より、試料X1における配向性を有する結晶部を含む領域を除く面積の割合は約43.1%であった。また、
図31(B2)に示す結果より、試料X2における配向性を有する結晶部を含む領域を除く面積の割合は約61.7%であった。また、
図31(C2)に示す結果より、試料X3における配向性を有する結晶部を含む領域を除く面積の割合は約89.5%であった。
【0367】
このように見積もられた、酸化物半導体膜中の配向性を有する結晶部を除く部分の割合が、5%以上40%未満である場合、その酸化物半導体膜は極めて結晶性の高い膜であり、酸素欠損を作り難く、電気特性が非常に安定であるため好ましい。一方で、酸化物半導体膜中の配向性を有する結晶部を除く部分の割合が、40%以上100%未満、好ましくは60%以上90%以下である場合、その酸化物半導体膜は配向性を有する結晶部と配向性を有さない結晶部が適度な割合で混在し、電気特性の安定性と高移動度化を両立させることができる。
【0368】
ここで、断面TEM像により、または断面TEM像の画像解析等により明瞭に確認できる結晶部を除く領域のことを、Lateral Growth Buffer Region(LGBR)と呼称することもできる。
【0369】
<2−8.酸化物半導体膜への酸素拡散について>
次に、酸化物半導体膜への酸素の拡散のしやすさを評価した結果について説明する。
【0370】
ここでは、以下に示す3つの試料(試料Y1乃至試料Y3)を作製した。
【0371】
[試料Y1]
まず、ガラス基板上に、先に示す試料X1と同様の方法により、厚さ約50nmの酸化物半導体膜を成膜した。続いて、酸化物半導体膜上に、厚さ約30nmの酸化窒化シリコン膜、厚さ約100nmの酸化窒化シリコン膜、厚さ約20nmの酸化窒化シリコン膜を、PECVD法により積層して形成した。なお、以下の説明において、酸化物半導体膜をOSと、酸化窒化シリコン膜をGIとしてそれぞれ記載する場合がある。
【0372】
次に、窒素雰囲気下で350℃、1時間の熱処理を行った。
【0373】
続いて、厚さ5nmのIn−Sn−Si酸化物膜をスパッタリング法により成膜した。
【0374】
続いて、酸化窒化シリコン膜中に酸素添加処理を行った。当該酸素添加条件としては、アッシング装置を用い、基板温度を40℃とし、流量150sccmの酸素ガス(
16O)と、流量100sccmの酸素ガス(
18O)とをチャンバー内に導入し、圧力を15Paとし、基板側にバイアスが印加されるように、アッシング装置内に設置された平行平板の電極間に4500WのRF電力を600sec供給して行った。なお、酸素ガス(
18O)を用いた理由としては、酸化窒化シリコン膜中に酸素(
16O)が主成分レベルで含有されているため、酸素添加処理によって、添加される酸素を正確に測定するためである。
【0375】
続いて、厚さ約100nmの窒化シリコン膜をPECVD法により成膜した。
【0376】
[試料Y2]
試料Y2は、試料Y1の酸化物半導体膜の成膜条件を異ならせた試料である。試料Y2は、先に示す試料X2と同様の方法により、厚さ約50nmの酸化物半導体膜を成膜した。
【0377】
[試料Y3]
試料Y3は、試料Y1の酸化物半導体膜の成膜条件を異ならせた試料である。試料Y3は、先に示す試料X3と同様の方法により、厚さ約50nmの酸化物半導体膜を成膜した。
【0378】
以上の工程により試料Y1乃至試料Y3を作製した。
【0379】
[SIMS分析]
試料Y1乃至試料Y3について、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析により、
18Oの濃度を測定した。なお、SIMS分析においては、上記作製した試料Y1乃至試料Y3を、熱処理を行わず評価する条件と、試料Y1乃至試料Y3を窒素雰囲気下にて350℃ 1時間の熱処理を行う条件と、試料Y1乃至試料Y3を窒素雰囲気下にて450℃、1時間の熱処理を行う条件と、の3つの条件とした。
【0380】
図32(A)(B)(C)に、SIMS測定結果を示す。なお、
図32(A)が試料Y1のSIMS測定結果であり、
図32(B)が試料Y2のSIMS測定結果であり、
図32(C)が試料Y3のSIMS測定結果である。
【0381】
また、
図32(A)(B)(C)においては、GI及びOSを含む領域の分析結果を示している。なお、
図32(A)(B)(C)は、基板側からSIMS分析(SSDP(Substrate Side Depth Profile)−SIMSともいう)した結果である。
【0382】
また、
図32(A)(B)(C)において、灰色の破線が熱処理を行っていない試料のプロファイルであり、黒色の破線が350℃の熱処理を行った試料のプロファイルであり、黒色の実線が450℃の熱処理を行った試料のプロファイルである。
【0383】
試料Y1乃至試料Y3のそれぞれにおいて、GI中に
18Oが拡散していること、及びOS中に
18Oが拡散していることが確認できる。また、試料Y1、試料Y2、試料Y3の順に、より深い位置まで
18Oが拡散していることが確認できる。また、350℃及び450℃の熱処理を行うことで、さらに深い位置まで
18Oが拡散していることが確認できる。
【0384】
以上の結果から、配向性を有する結晶部と配向性を有さない結晶部が混在し、且つ配向性を有する結晶部の存在割合が低い酸化物半導体膜は、酸素が透過しやすい膜、言い換えると酸素が拡散しやすい膜であることが確認できる。また、350℃及び450℃の熱処理を行うことで、GI膜中の酸素がOS中に拡散することが確認できる。
【0385】
以上の結果は、配向性を有する結晶部の存在割合(密度)が高いほど、厚さ方向へ酸素が拡散しにくく、当該密度が低いほど厚さ方向へ酸素が拡散しやすいことを示している。酸化物半導体膜における酸素の拡散のしやすさについて、以下のように考察することができる。
【0386】
配向性を有する結晶部と、配向性を有さない極微細な結晶部が混在している酸化物半導体膜において、断面観察像で明瞭に観察できる結晶部以外の領域(LGBR)は、酸素が拡散しやすい領域、すなわち酸素の拡散経路になりうる。したがって、酸化物半導体膜の近傍に十分な酸素供給源がある場合において、LGBRを介して配向性を有する結晶部にも、酸素が供給されやすくなるため、膜中の酸素欠損量を低減することができると考えられる。
【0387】
例えば、酸化物半導体膜に接して酸素を放出しやすい酸化膜を設け、加熱処理を施すことにより、当該酸化膜から放出される酸素は、LGBRにより酸化物半導体膜の膜厚方向に拡散する。そして、LGBRを経由して、配向性を有する結晶部に横方向から酸素が供給されうる。これにより、酸化物半導体膜の配向性を有する結晶部、及びこれ以外の領域に、十分に酸素が行き渡り、膜中の酸素欠損を効果的に低減することができる。
【0388】
例えば、酸化物半導体膜中に、金属原子と結合していない水素原子が存在すると、これと酸素原子が結合し、OHが形成され、固定化してしまう場合がある。そこで、成膜時に低温で成膜することで酸化物半導体膜中に酸素欠損(Vo)に水素原子がトラップされた状態(VoHと呼ぶ)を一定量(例えば1×10
17cm
−3程度)形成することで、OHが生成されることを抑制する。またVoHは、キャリアを生成するため、酸化物半導体膜中にキャリアが一定量存在する状態となる。これにより、キャリア密度が高められた酸化物半導体膜を形成できる。また成膜時には、酸素欠損も同時に形成されるが、当該酸素欠損は、上述のようにLGBRを介して酸素を導入することにより低減することができる。このような方法により、キャリア密度が比較的高く、且つ酸素欠損が十分に低減された酸化物半導体膜を形成することができる。
【0389】
また、配向性を有する結晶部以外の領域は、成膜時に配向性を有さない極めて微細な結晶部を構成するため、酸化物半導体膜には明瞭な結晶粒界は確認できない。また当該微細な結晶部は、配向性を有する複数の結晶部の間に位置する。当該微細な結晶部は、成膜時の熱により横方向に成長することで、隣接する配向性を有する結晶部と結合する。また当該微細な結晶部はキャリアを発生する領域としても機能する。これにより、このような構成を有する酸化物半導体膜は、トランジスタに適用することでその電界効果移動度を著しく向上させることができると考えられる。
【0390】
また酸化物半導体膜を形成し、その上に酸化シリコン膜などの酸化物絶縁膜を成膜した後に、酸素雰囲気でのプラズマ処理を行うことが好ましい。このような処理により、膜中に酸素を供給すること以外に、水素濃度を低減することができる。例えば、プラズマ処理中に、同時にチャンバー内に残存するフッ素も酸化物半導体膜中にドープされる場合がある。フッ素はマイナスの電荷を帯びたフッ素原子として存在し、プラスの電荷を帯びた水素原子とクーロン力により結合し、HFが生成される。HFは当該プラズマ処理中に酸化物半導体膜外へ放出され、その結果として、酸化物半導体膜中の水素濃度を低減することができる。また、プラズマ処理において、酸素原子と水素原子とが結合してH
2Oとして膜外へ放出される場合もある。
【0391】
また、酸化物半導体膜に酸化シリコン膜(または酸化窒化シリコン膜)が積層された構成を考える。酸化シリコン膜中のフッ素は、膜中の水素と結合し、電気的に中性であるHFとして存在しうるため、酸化物半導体膜の電気特性に影響を与えない。なお、Si−F結合が生じる場合もあるがこれも電気的に中性となる。また酸化シリコン膜中のHFは、酸素の拡散に対して影響しないと考えられる。
【0392】
以上のようなメカニズムにより、酸化物半導体膜中の酸素欠損が低減され、且つ膜中の金属原子と結合していない水素が低減されることにより、信頼性を高めることができると考えられる。また酸化物半導体膜のキャリア密度が一定以上であることで、電気特性が向上すると考えられる。
【0393】
<2−9.酸化物半導体膜の成膜方法>
次に、本発明の一態様の酸化物半導体膜の成膜方法について説明する。
【0394】
本発明の一態様の酸化物半導体膜は、酸素を含む雰囲気下にてスパッタリング法によって成膜することができる。
【0395】
酸化物半導体膜の成膜に用いることの可能な酸化物ターゲットとしては、In−Ga−Zn系酸化物に限られず、例えば、In−M−Zn系酸化物(Mは、Al、Ga、Y、またはSn)を適用することができる。
【0396】
また、複数の結晶粒を有する多結晶酸化物を含むスパッタリングターゲットを用いて、酸化物半導体膜である結晶部を含む酸化物半導体膜を成膜すると、多結晶酸化物を含まないスパッタリングターゲットを用いた場合に比べて、結晶性を有する酸化物半導体膜が得られやすい。
【0397】
以下に、酸化物半導体膜の成膜メカニズムにおける一考察について説明する。
【0398】
スパッタリング用ターゲットが複数の結晶粒を有し、且つ、その結晶粒が層状構造を有しており、当該結晶粒に劈開しやすい界面が存在する場合、当該スパッタリング用ターゲットにイオンを衝突させることで、結晶粒が劈開して、平板状又はペレット状のスパッタリング粒子が得られることがある。該得られた平板状又はペレット状のスパッタリング粒子が、基板上に堆積することでナノ結晶を含む酸化物半導体膜が成膜されると考えられる。また、基板を加熱することにより、基板表面において当該ナノ結晶同士の結合、または再配列が進むことにより、配向性を有する結晶部を含む酸化物半導体膜が形成されやすくなると考えられる。
【0399】
なお、ここではスパッタリング法により形成する方法について説明したが、特にスパッタリング法を用いることで、結晶性の制御が容易であるため好ましい。なお、スパッタリング法以外に、例えばパルスレーザー堆積(PLD)法、プラズマ化学気相堆積(PECVD)法、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、真空蒸着法などを用いてもよい。熱CVD法の例としては、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。
【0400】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0401】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、先の実施の形態で例示した半導体装置を有する表示装置の一例について、
図33乃至
図40を用いて以下説明を行う。
【0402】
図33は、表示装置の一例を示す上面図である。
図33に示す表示装置700は、第1の基板701上に設けられた画素部702と、第1の基板701に設けられたソースドライバ回路部704及びゲートドライバ回路部706と、画素部702、ソースドライバ回路部704、及びゲートドライバ回路部706を囲むように配置されるシール材712と、第1の基板701に対向するように設けられる第2の基板705と、を有する。なお、第1の基板701と第2の基板705は、シール材712によって封止されている。すなわち、画素部702、ソースドライバ回路部704、及びゲートドライバ回路部706は、第1の基板701とシール材712と第2の基板705によって封止されている。なお、
図33には図示しないが、第1の基板701と第2の基板705の間には表示素子が設けられる。
【0403】
また、表示装置700は、第1の基板701上のシール材712によって囲まれている領域とは異なる領域に、画素部702、ソースドライバ回路部704、及びゲートドライバ回路部706と、それぞれ電気的に接続されるFPC端子部708(FPC:Flexible printed circuit)が設けられる。また、FPC端子部708には、FPC716が接続され、FPC716によって画素部702、ソースドライバ回路部704、及びゲートドライバ回路部706に各種信号等が供給される。また、画素部702、ソースドライバ回路部704、ゲートドライバ回路部706、及びFPC端子部708には、信号線710が各々接続されている。FPC716により供給される各種信号等は、信号線710を介して、画素部702、ソースドライバ回路部704、ゲートドライバ回路部706、及びFPC端子部708に与えられる。
【0404】
また、表示装置700にゲートドライバ回路部706を複数設けてもよい。また、表示装置700としては、ソースドライバ回路部704、及びゲートドライバ回路部706を画素部702と同じ第1の基板701に形成している例を示しているが、この構成に限定されない。例えば、ゲートドライバ回路部706のみを第1の基板701に形成しても良い、またはソースドライバ回路部704のみを第1の基板701に形成しても良い。この場合、ソースドライバ回路またはゲートドライバ回路等が形成された基板(例えば、単結晶半導体膜、多結晶半導体膜で形成された駆動回路基板)を、第1の基板701に形成する構成としても良い。なお、別途形成した駆動回路基板の接続方法は、特に限定されるものではなく、COG(Chip On Glass)方法、ワイヤボンディング方法などを用いることができる。
【0405】
また、表示装置700が有する画素部702、ソースドライバ回路部704及びゲートドライバ回路部706は、複数のトランジスタを有している。
【0406】
また、表示装置700は、様々な素子を有することが出来る。該素子の一例としては、例えば、エレクトロルミネッセンス(EL)素子(有機物及び無機物を含むEL素子、有機EL素子、無機EL素子、LEDなど)、発光トランジスタ素子(電流に応じて発光するトランジスタ)、電子放出素子、液晶素子、電子インク素子、電気泳動素子、エレクトロウェッティング素子、プラズマディスプレイパネル(PDP)、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)ディスプレイ(例えば、グレーティングライトバルブ(GLV)、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、デジタル・マイクロ・シャッター(DMS)素子、インターフェロメトリック・モジュレーション(IMOD)素子など)、圧電セラミックディスプレイなどが挙げられる。
【0407】
また、EL素子を用いた表示装置の一例としては、ELディスプレイなどがある。電子放出素子を用いた表示装置の一例としては、フィールドエミッションディスプレイ(FED)又はSED方式平面型ディスプレイ(SED:Surface−conduction Electron−emitter Display)などがある。液晶素子を用いた表示装置の一例としては、液晶ディスプレイ(透過型液晶ディスプレイ、半透過型液晶ディスプレイ、反射型液晶ディスプレイ、直視型液晶ディスプレイ、投射型液晶ディスプレイ)などがある。電子インク素子又は電気泳動素子を用いた表示装置の一例としては、電子ペーパーなどがある。なお、半透過型液晶ディスプレイや反射型液晶ディスプレイを実現する場合には、画素電極の一部、または、全部が、反射電極としての機能を有するようにすればよい。例えば、画素電極の一部、または、全部が、アルミニウム、銀、などを有するようにすればよい。さらに、その場合、反射電極の下に、SRAMなどの記憶回路を設けることも可能である。これにより、さらに、消費電力を低減することができる。
【0408】
なお、表示装置700における表示方式は、プログレッシブ方式やインターレース方式等を用いることができる。また、カラー表示する際に画素で制御する色要素としては、RGB(Rは赤、Gは緑、Bは青を表す)の三色に限定されない。例えば、Rの画素とGの画素とBの画素とW(白)の画素の四画素から構成されてもよい。または、ペンタイル配列のように、RGBのうちの2色分で一つの色要素を構成し、色要素によって、異なる2色を選択して構成してもよい。またはRGBに、イエロー、シアン、マゼンタ等を一色以上追加してもよい。なお、色要素のドット毎にその表示領域の大きさが異なっていてもよい。ただし、開示する発明はカラー表示の表示装置に限定されるものではなく、モノクロ表示の表示装置に適用することもできる。
【0409】
また、バックライト(有機EL素子、無機EL素子、LED、蛍光灯など)に白色発光(W)を用いて表示装置をフルカラー表示させるために、着色層(カラーフィルタともいう。)を用いてもよい。着色層は、例えば、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、イエロー(Y)などを適宜組み合わせて用いることができる。着色層を用いることで、着色層を用いない場合と比べて色の再現性を高くすることができる。このとき、着色層を有する領域と、着色層を有さない領域と、を配置することによって、着色層を有さない領域における白色光を直接表示に利用しても構わない。一部に着色層を有さない領域を配置することで、明るい表示の際に、着色層による輝度の低下を少なくでき、消費電力を2割から3割程度低減できる場合がある。ただし、有機EL素子や無機EL素子などの自発光素子を用いてフルカラー表示する場合、R、G、B、Y、Wを、それぞれの発光色を有する素子から発光させても構わない。自発光素子を用いることで、着色層を用いた場合よりも、さらに消費電力を低減できる場合がある。
【0410】
また、カラー化方式としては、上述の白色発光からの発光の一部をカラーフィルタを通すことで赤色、緑色、青色に変換する方式(カラーフィルタ方式)の他、赤色、緑色、青色の発光をそれぞれ用いる方式(3色方式)、または青色発光からの発光の一部を赤色や緑色に変換する方式(色変換方式、量子ドット方式)を適用してもよい。
【0411】
本実施の形態においては、表示素子として液晶素子及びEL素子を用いる構成について、
図34乃至
図36を用いて説明する。なお、
図34及び
図35は、
図33に示す一点鎖線Q−Rにおける断面図であり、表示素子として液晶素子を用いた構成である。また、
図36は、
図33に示す一点鎖線Q−Rにおける断面図であり、表示素子としてEL素子を用いた構成である。
【0412】
まず、
図34乃至
図36に示す共通部分について最初に説明し、次に異なる部分について以下説明する。
【0413】
<3−1.表示装置の共通部分に関する説明>
図34乃至
図36に示す表示装置700は、引き回し配線部711と、画素部702と、ソースドライバ回路部704と、FPC端子部708と、を有する。また、引き回し配線部711は、信号線710を有する。また、画素部702は、トランジスタ750及び容量素子790を有する。また、ソースドライバ回路部704は、トランジスタ752を有する。
【0414】
トランジスタ750及びトランジスタ752は、先に示すトランジスタ150Aと同様の構成である。なお、トランジスタ750及びトランジスタ752の構成については、先の実施の形態に示す、その他のトランジスタを用いてもよい。
【0415】
本実施の形態で用いるトランジスタは、高純度化し、酸素欠損の形成を抑制した酸化物半導体膜を有する。該トランジスタは、オフ電流を低くすることができる。よって、画像信号等の電気信号の保持時間を長くすることができ、電源オン状態では書き込み間隔も長く設定できる。よって、リフレッシュ動作の頻度を少なくすることができるため、消費電力を抑制する効果を奏する。
【0416】
また、本実施の形態で用いるトランジスタは、比較的高い電界効果移動度が得られるため、高速駆動が可能である。例えば、このような高速駆動が可能なトランジスタを液晶表示装置に用いることで、画素部のスイッチングトランジスタと、駆動回路部に使用するドライバトランジスタを同一基板上に形成することができる。すなわち、別途駆動回路として、シリコンウェハ等により形成された半導体装置を用いる必要がないため、半導体装置の部品点数を削減することができる。また、画素部においても、高速駆動が可能なトランジスタを用いることで、高画質な画像を提供することができる。
【0417】
容量素子790は、トランジスタ750が有する第1のゲート電極として機能する導電膜と同一の導電膜を加工する工程を経て形成される下部電極と、トランジスタ750が有するソース電極及びドレイン電極として機能する導電膜、または第2のゲート電極として機能する導電膜と同一の導電膜を加工する工程を経て形成される上部電極と、を有する。また、下部電極と上部電極との間には、トランジスタ750が有する第1のゲート絶縁膜として機能する絶縁膜と同一の絶縁膜を形成する工程を経て形成される絶縁膜、及びトランジスタ750上の保護絶縁膜として機能する絶縁膜と同一の絶縁膜を形成する工程を経て形成される絶縁膜が設けられる。すなわち、容量素子790は、一対の電極間に誘電体膜として機能する絶縁膜が挟持された積層型の構造である。
【0418】
また、
図34乃至
図36において、トランジスタ750、トランジスタ752、及び容量素子790上に平坦化絶縁膜770が設けられている。
【0419】
また、
図34乃至
図36においては、画素部702が有するトランジスタ750と、ソースドライバ回路部704が有するトランジスタ752と、を同じ構造のトランジスタを用いる構成について例示したが、これに限定されない。例えば、画素部702と、ソースドライバ回路部704とは、異なるトランジスタを用いてもよい。具体的には、画素部702にトップゲート型のトランジスタを用い、ソースドライバ回路部704にボトムゲート型のトランジスタを用いる構成、あるいは画素部702にボトムゲート型のトランジスタを用い、ソースドライバ回路部704にトップゲート型のトランジスタを用いる構成などが挙げられる。なお、上記のソースドライバ回路部704を、ゲートドライバ回路部と読み替えてもよい。
【0420】
また、信号線710は、トランジスタ750、752のソース電極及びドレイン電極として機能する導電膜と同じ工程を経て形成される。信号線710として、例えば、銅元素を含む材料を用いた場合、配線抵抗に起因する信号遅延等が少なく、大画面での表示が可能となる。
【0421】
また、FPC端子部708は、接続電極760、異方性導電膜780、及びFPC716を有する。なお、接続電極760は、トランジスタ750、752のソース電極及びドレイン電極として機能する導電膜と同じ工程を経て形成される。また、接続電極760は、FPC716が有する端子と異方性導電膜780を介して、電気的に接続される。
【0422】
また、第1の基板701及び第2の基板705としては、例えばガラス基板を用いることができる。また、第1の基板701及び第2の基板705として、可撓性を有する基板を用いてもよい。該可撓性を有する基板としては、例えばプラスチック基板等が挙げられる。
【0423】
また、第1の基板701と第2の基板705の間には、構造体778が設けられる。構造体778は、絶縁膜を選択的にエッチングすることで得られる柱状のスペーサであり、第1の基板701と第2の基板705の間の距離(セルギャップ)を制御するために設けられる。なお、構造体778として、球状のスペーサを用いていても良い。
【0424】
また、第2の基板705側には、ブラックマトリクスとして機能する遮光膜738と、カラーフィルタとして機能する着色膜736と、遮光膜738及び着色膜736に接する絶縁膜734が設けられる。
【0425】
<3−2.液晶素子を用いる表示装置の構成例>
図34に示す表示装置700は、液晶素子775を有する。液晶素子775は、導電膜772、導電膜774、及び液晶層776を有する。導電膜774は、第2の基板705側に設けられ、対向電極としての機能を有する。
図34に示す表示装置700は、導電膜772と導電膜774に印加される電圧によって、液晶層776の配向状態が変わることによって光の透過、非透過が制御され画像を表示することができる。
【0426】
また、導電膜772は、トランジスタ750が有するソース電極及びドレイン電極として機能する導電膜と電気的に接続される。導電膜772は、平坦化絶縁膜770上に形成され画素電極、すなわち表示素子の一方の電極として機能する。
【0427】
導電膜772としては、可視光において透光性のある導電膜、または可視光において反射性のある導電膜を用いることができる。可視光において透光性のある導電膜としては、例えば、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)の中から選ばれた一種を含む材料を用いるとよい。可視光において反射性のある導電膜としては、例えば、アルミニウム、または銀を含む材料を用いるとよい。
【0428】
導電膜772に可視光において反射性のある導電膜を用いる場合、表示装置700は、反射型の液晶表示装置となる。また、導電膜772に可視光において透光性のある導電膜を用いる場合、表示装置700は、透過型の液晶表示装置となる。
【0429】
また、導電膜772上の構成を変えることで、液晶素子の駆動方式を変えることができる。この場合の一例を
図35に示す。また、
図35に示す表示装置700は、液晶素子の駆動方式として横電界方式(例えば、FFSモード)を用いる構成の一例である。
図35に示す構成の場合、導電膜772上に絶縁膜773が設けられ、絶縁膜773上に導電膜774が設けられる。この場合、導電膜774は、共通電極(コモン電極ともいう)としての機能を有し、絶縁膜773を介して、導電膜772と導電膜774との間に生じる電界によって、液晶層776の配向状態を制御することができる。
【0430】
また、
図34及び
図35において図示しないが、導電膜772または導電膜774のいずれか一方または双方に、液晶層776と接する側に、それぞれ配向膜を設ける構成としてもよい。また、
図34及び
図35において図示しないが、偏光部材、位相差部材、反射防止部材などの光学部材(光学基板)などは適宜設けてもよい。例えば、偏光基板及び位相差基板による円偏光を用いてもよい。また、光源としてバックライト、サイドライトなどを用いてもよい。
【0431】
表示素子として液晶素子を用いる場合、サーモトロピック液晶、低分子液晶、高分子液晶、高分子分散型液晶、強誘電性液晶、反強誘電性液晶等を用いることができる。これらの液晶材料は、条件により、コレステリック相、スメクチック相、キュービック相、カイラルネマチック相、等方相等を示す。
【0432】
また、横電界方式を採用する場合、配向膜を用いないブルー相を示す液晶を用いてもよい。ブルー相は液晶相の一つであり、コレステリック液晶を昇温していくと、コレステリック相から等方相へ転移する直前に発現する相である。ブルー相は狭い温度範囲でしか発現しないため、温度範囲を改善するために数重量%以上のカイラル剤を混合させた液晶組成物を液晶層に用いる。ブルー相を示す液晶とカイラル剤とを含む液晶組成物は、応答速度が短く、光学的等方性であるため配向処理が不要である。また配向膜を設けなくてもよいのでラビング処理も不要となるため、ラビング処理によって引き起こされる静電破壊を防止することができ、作製工程中の液晶表示装置の不良や破損を軽減することができる。また、ブルー相を示す液晶材料は、視野角依存性が小さい。
【0433】
また、表示素子として液晶素子を用いる場合、TN(Twisted Nematic)モード、IPS(In−Plane−Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード、ASM(Axially Symmetric aligned Micro−cell)モード、OCB(Optical Compensated Birefringence)モード、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)モード、AFLC(AntiFerroelectric Liquid Crystal)モードなどを用いることができる。
【0434】
また、ノーマリーブラック型の液晶表示装置、例えば垂直配向(VA)モードを採用した透過型の液晶表示装置としてもよい。垂直配向モードとしては、いくつか挙げられるが、例えば、MVA(Multi−Domain Vertical Alignment)モード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、ASVモードなどを用いることができる。
【0435】
<3−3.発光素子を用いる表示装置>
図36に示す表示装置700は、発光素子782を有する。発光素子782は、導電膜772、EL層786、及び導電膜788を有する。
図36に示す表示装置700は、発光素子782が有するEL層786が発光することによって、画像を表示することができる。なお、EL層786は、有機化合物、または量子ドットなどの無機化合物を有する。
【0436】
有機化合物に用いることのできる材料としては、蛍光性材料または燐光性材料などが挙げられる。また、量子ドットに用いることのできる材料としては、コロイド状量子ドット材料、合金型量子ドット材料、コア・シェル型量子ドット材料、コア型量子ドット材料、などが挙げられる。また、12族と16族、13族と15族、または14族と16族の元素グループを含む材料を用いてもよい。または、カドミウム(Cd)、セレン(Se)、亜鉛(Zn)、硫黄(S)、リン(P)、インジウム(In)、テルル(Te)、鉛(Pb)、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)、アルミニウム(Al)、等の元素を有する量子ドット材料を用いてもよい。
【0437】
また、上述の有機化合物、及び無機化合物としては、例えば、蒸着法(真空蒸着法を含む)、液滴吐出法(インクジェット法ともいう)、塗布法、グラビア印刷法等の方法を用いて形成することができる。また、EL層786としては、低分子材料、中分子材料(オリゴマー、デンドリマーを含む)、または高分子材料を含んでも良い。
【0438】
ここで、液滴吐出法を用いてEL層786を形成する方法について、
図39を用いて説明する。
図39(A)乃至
図39(D)は、EL層786の作製方法を説明する断面図である。
【0439】
まず、平坦化絶縁膜770上に導電膜772が形成され、導電膜772の一部を覆うように絶縁膜730が形成される(
図39(A)参照)。
【0440】
次に、絶縁膜730の開口である導電膜772の露出部に、液滴吐出装置783より液滴784を吐出し、組成物を含む層785を形成する。液滴784は、溶媒を含む組成物であり、導電膜772上に付着する(
図39(B)参照)。
【0441】
なお、液滴784を吐出する工程を減圧下で行ってもよい。
【0442】
次に、組成物を含む層785より溶媒を除去し、固化することによってEL層786を形成する(
図39(C)参照)。
【0443】
なお、溶媒の除去方法としては、乾燥工程または加熱工程を行えばよい。
【0444】
次に、EL層786上に導電膜788を形成し、発光素子782を形成する(
図39(D)参照)。
【0445】
このようにEL層786を液滴吐出法で行うと、選択的に組成物を吐出することができるため、材料のロスを削減することができる。また、形状を加工するためのリソグラフィ工程なども必要ないために工程も簡略化することができ、低コスト化が達成できる。
【0446】
なお、上記説明した液滴吐出法とは、組成物の吐出口を有するノズル、あるいは1つ又は複数のノズルを有するヘッド等の液滴を吐出する手段を有するものの総称とする。
【0447】
次に、液滴吐出法に用いる液滴吐出装置について、
図40を用いて説明する。
図40は、液滴吐出装置1400を説明する概念図である。
【0448】
液滴吐出装置1400は、液滴吐出手段1403を有する。また、液滴吐出手段1403は、ヘッド1405と、ヘッド1412とを有する。
【0449】
ヘッド1405、及びヘッド1412は制御手段1407に接続され、それがコンピュータ1410で制御することにより予めプログラミングされたパターンに描画することができる。
【0450】
また、描画するタイミングとしては、例えば、基板1402上に形成されたマーカー1411を基準に行えば良い。あるいは、基板1402の外縁を基準にして基準点を確定させても良い。ここでは、マーカー1411を撮像手段1404で検出し、画像処理手段1409にてデジタル信号に変換したものをコンピュータ1410で認識して制御信号を発生させて制御手段1407に送る。
【0451】
撮像手段1404としては、電荷結合素子(CCD)や相補型金属酸化物半導体(CMOS)を利用したイメージセンサなどを用いることができる。なお、基板1402上に形成されるべきパターンの情報は記憶媒体1408に格納されたものであり、この情報を基にして制御手段1407に制御信号を送り、液滴吐出手段1403の個々のヘッド1405、ヘッド1412を個別に制御することができる。吐出する材料は、材料供給源1413、材料供給源1414より配管を通してヘッド1405、ヘッド1412にそれぞれ供給される。
【0452】
ヘッド1405の内部は、点線1406が示すように液状の材料を充填する空間と、吐出口であるノズルを有する構造となっている。図示しないが、ヘッド1412もヘッド1405と同様な内部構造を有する。ヘッド1405とヘッド1412のノズルを異なるサイズで設けると、異なる材料を異なる幅で同時に描画することができる。一つのヘッドで、複数種の発光材料などをそれぞれ吐出し、描画することができ、広領域に描画する場合は、スループットを向上させるため複数のノズルより同材料を同時に吐出し、描画することができる。大型基板を用いる場合、ヘッド1405、ヘッド1412は基板上を、
図40中に示すX、Y、Zの矢印の方向に自在に走査し、描画する領域を自由に設定することができ、同じパターンを一枚の基板に複数描画することができる。
【0453】
また、組成物を吐出する工程は、減圧下で行ってもよい。吐出時に基板を加熱しておいてもよい。組成物を吐出後、乾燥と焼成の一方又は両方の工程を行う。乾燥と焼成の工程は、両工程とも加熱処理の工程であるが、その目的、温度と時間が異なるものである。乾燥の工程、焼成の工程は、常圧下又は減圧下で、レーザ光の照射や瞬間熱アニール、加熱炉などにより行う。なお、この加熱処理を行うタイミング、加熱処理の回数は特に限定されない。乾燥と焼成の工程を良好に行うためには、そのときの温度は、基板の材質及び組成物の性質に依存する。
【0454】
以上のように、液滴吐出装置を用いてEL層786を作製することができる。
【0455】
再び、
図36に示す表示装置700の説明に戻る。
【0456】
図36に示す表示装置700には、平坦化絶縁膜770及び導電膜772上に絶縁膜730が設けられる。絶縁膜730は、導電膜772の一部を覆う。なお、発光素子782はトップエミッション構造である。したがって、導電膜788は透光性を有し、EL層786が発する光を透過する。なお、本実施の形態においては、トップエミッション構造について、例示するが、これに限定されない。例えば、導電膜772側に光を射出するボトムエミッション構造や、導電膜772及び導電膜788の双方に光を射出するデュアルエミッション構造にも適用することができる。
【0457】
また、発光素子782と重なる位置に、着色膜736が設けられ、絶縁膜730と重なる位置、引き回し配線部711、及びソースドライバ回路部704に遮光膜738が設けられている。また、着色膜736及び遮光膜738は、絶縁膜734で覆われている。また、発光素子782と絶縁膜734の間は封止膜732で充填されている。なお、
図36に示す表示装置700においては、着色膜736を設ける構成について例示したが、これに限定されない。例えば、EL層786を塗り分けにより形成する場合においては、着色膜736を設けない構成としてもよい。
【0458】
<3−4.表示装置に入出力装置を設ける構成例>
また、
図35及び
図36に示す表示装置700に入出力装置を設けてもよい。当該入出力装置としては、例えば、タッチパネル等が挙げられる。
【0459】
図35に示す表示装置700にタッチパネル791を設ける構成を
図37に、
図36に示す表示装置700にタッチパネル791を設ける構成を
図38に、それぞれ示す。
【0460】
図37は
図35に示す表示装置700にタッチパネル791を設ける構成の断面図であり、
図38は
図36に示す表示装置700にタッチパネル791を設ける構成の断面図である。
【0461】
まず、
図37及び
図38に示すタッチパネル791について、以下説明を行う。
【0462】
図37及び
図38に示すタッチパネル791は、第2の基板705と着色膜736との間に設けられる、所謂インセル型のタッチパネルである。タッチパネル791は、着色膜736を形成する前に、第2の基板705側に形成すればよい。
【0463】
なお、タッチパネル791は、遮光膜738と、絶縁膜792と、電極793と、電極794と、絶縁膜795と、電極796と、絶縁膜797と、を有する。例えば、指やスタイラスなどの被検知体が近接することで、電極793と、電極794との相互容量の変化を検知することができる。
【0464】
また、
図37及び
図38に示すトランジスタ750の上方においては、電極793と、電極794との交差部を明示している。電極796は、絶縁膜795に設けられた開口部を介して、電極794を挟む2つの電極793と電気的に接続されている。なお、
図37及び
図38においては、電極796が設けられる領域を画素部702に設ける構成を例示したが、これに限定されず、例えば、ソースドライバ回路部704に形成してもよい。
【0465】
電極793及び電極794は、遮光膜738と重なる領域に設けられる。また、
図37に示すように、電極793は、発光素子782と重ならないように設けられると好ましい。また、
図38に示すように、電極793は、液晶素子775と重ならないように設けられると好ましい。別言すると、電極793は、発光素子782及び液晶素子775と重なる領域に開口部を有する。すなわち、電極793はメッシュ形状を有する。このような構成とすることで、電極793は、発光素子782が射出する光を遮らない構成とすることができる。または、電極793は、液晶素子775を透過する光を遮らない構成とすることができる。したがって、タッチパネル791を配置することによる輝度の低下が極めて少ないため、視認性が高く、且つ消費電力が低減された表示装置を実現できる。なお、電極794も同様の構成とすればよい。
【0466】
また、電極793及び電極794が発光素子782と重ならないため、電極793及び電極794には、可視光の透過率が低い金属材料を用いることができる。または、電極793及び電極794が液晶素子775と重ならないため、電極793及び電極794には、可視光の透過率が低い金属材料を用いることができる。
【0467】
そのため、可視光の透過率が高い酸化物材料を用いた電極と比較して、電極793及び電極794の抵抗を低くすることが可能となり、タッチパネルのセンサ感度を向上させることができる。
【0468】
例えば、電極793、794、796には、導電性のナノワイヤを用いてもよい。当該ナノワイヤは、直径の平均値が1nm以上100nm以下、好ましくは5nm以上50nm以下、より好ましくは5nm以上25nm以下の大きさとすればよい。また、上記ナノワイヤとしては、Agナノワイヤ、Cuナノワイヤ、またはAlナノワイヤ等の金属ナノワイヤ、あるいは、カーボンナノチューブなどを用いればよい。例えば、電極664、665、667のいずれか一つあるいは全部にAgナノワイヤを用いる場合、可視光における光透過率を89%以上、シート抵抗値を40Ω/□以上100Ω/□以下とすることができる。
【0469】
また、
図37及び
図38においては、インセル型のタッチパネルの構成について例示したが、これに限定されない。例えば、表示装置700上に形成する、所謂オンセル型のタッチパネルや、表示装置700に貼り合わせて用いる、所謂アウトセル型のタッチパネルとしてもよい。
【0470】
このように、本発明の一態様の表示装置は、様々な形態のタッチパネルと組み合わせて用いることができる。
【0471】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0472】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様の半導体装置を有する表示装置について、
図41を用いて説明を行う。
【0473】
<4.表示装置の回路構成>
図41(A)に示す表示装置は、表示素子の画素を有する領域(以下、画素部502という)と、画素部502の外側に配置され、画素を駆動するための回路を有する回路部(以下、駆動回路部504という)と、素子の保護機能を有する回路(以下、保護回路506という)と、端子部507と、を有する。なお、保護回路506は、設けない構成としてもよい。
【0474】
駆動回路部504の一部、または全部は、画素部502と同一基板上に形成されていることが望ましい。これにより、部品数や端子数を減らすことが出来る。駆動回路部504の一部、または全部が、画素部502と同一基板上に形成されていない場合には、駆動回路部504の一部、または全部は、COGやTAB(Tape Automated Bonding)によって、実装することができる。
【0475】
画素部502は、X行(Xは2以上の自然数)Y列(Yは2以上の自然数)に配置された複数の表示素子を駆動するための回路(以下、画素回路501という)を有し、駆動回路部504は、画素を選択する信号(走査信号)を出力する回路(以下、ゲートドライバ504aという)、画素の表示素子を駆動するための信号(データ信号)を供給するための回路(以下、ソースドライバ504b)などの駆動回路を有する。
【0476】
ゲートドライバ504aは、シフトレジスタ等を有する。ゲートドライバ504aは、端子部507を介して、シフトレジスタを駆動するための信号が入力され、信号を出力する。例えば、ゲートドライバ504aは、スタートパルス信号、クロック信号等が入力され、パルス信号を出力する。ゲートドライバ504aは、走査信号が与えられる配線(以下、走査線GL_1乃至GL_Xという)の電位を制御する機能を有する。なお、ゲートドライバ504aを複数設け、複数のゲートドライバ504aにより、走査線GL_1乃至GL_Xを分割して制御してもよい。または、ゲートドライバ504aは、初期化信号を供給することができる機能を有する。ただし、これに限定されず、ゲートドライバ504aは、別の信号を供給することも可能である。
【0477】
ソースドライバ504bは、シフトレジスタ等を有する。ソースドライバ504bは、端子部507を介して、シフトレジスタを駆動するための信号の他、データ信号の元となる信号(画像信号)が入力される。ソースドライバ504bは、画像信号を元に画素回路501に書き込むデータ信号を生成する機能を有する。また、ソースドライバ504bは、スタートパルス、クロック信号等が入力されて得られるパルス信号に従って、データ信号の出力を制御する機能を有する。また、ソースドライバ504bは、データ信号が与えられる配線(以下、データ線DL_1乃至DL_Yという)の電位を制御する機能を有する。または、ソースドライバ504bは、初期化信号を供給することができる機能を有する。ただし、これに限定されず、ソースドライバ504bは、別の信号を供給することも可能である。
【0478】
ソースドライバ504bは、例えば複数のアナログスイッチなどを用いて構成される。ソースドライバ504bは、複数のアナログスイッチを順次オン状態にすることにより、画像信号を時分割した信号をデータ信号として出力できる。また、シフトレジスタなどを用いてソースドライバ504bを構成してもよい。
【0479】
複数の画素回路501のそれぞれは、走査信号が与えられる複数の走査線GLの一つを介してパルス信号が入力され、データ信号が与えられる複数のデータ線DLの一つを介してデータ信号が入力される。また、複数の画素回路501のそれぞれは、ゲートドライバ504aによりデータ信号のデータの書き込み及び保持が制御される。例えば、m行n列目の画素回路501は、走査線GL_m(mはX以下の自然数)を介してゲートドライバ504aからパルス信号が入力され、走査線GL_mの電位に応じてデータ線DL_n(nはY以下の自然数)を介してソースドライバ504bからデータ信号が入力される。
【0480】
図41(A)に示す保護回路506は、例えば、ゲートドライバ504aと画素回路501の間の配線である走査線GLに接続される。または、保護回路506は、ソースドライバ504bと画素回路501の間の配線であるデータ線DLに接続される。または、保護回路506は、ゲートドライバ504aと端子部507との間の配線に接続することができる。または、保護回路506は、ソースドライバ504bと端子部507との間の配線に接続することができる。なお、端子部507は、外部の回路から表示装置に電源及び制御信号、及び画像信号を入力するための端子が設けられた部分をいう。
【0481】
保護回路506は、自身が接続する配線に一定の範囲外の電位が与えられたときに、該配線と別の配線とを導通状態にする回路である。
【0482】
図41(A)に示すように、画素部502と駆動回路部504にそれぞれ保護回路506を設けることにより、ESD(Electro Static Discharge:静電気放電)などにより発生する過電流に対する表示装置の耐性を高めることができる。ただし、保護回路506の構成はこれに限定されず、例えば、ゲートドライバ504aに保護回路506を接続した構成、またはソースドライバ504bに保護回路506を接続した構成とすることもできる。あるいは、端子部507に保護回路506を接続した構成とすることもできる。
【0483】
また、
図41(A)においては、ゲートドライバ504aとソースドライバ504bによって駆動回路部504を形成している例を示しているが、この構成に限定されない。例えば、ゲートドライバ504aのみを形成し、別途用意されたソースドライバ回路が形成された基板(例えば、単結晶半導体膜、多結晶半導体膜で形成された駆動回路基板)を実装する構成としても良い。
【0484】
また、
図41(A)に示す複数の画素回路501は、例えば、
図41(B)に示す構成とすることができる。
【0485】
図41(B)に示す画素回路501は、液晶素子570と、トランジスタ550と、容量素子560と、を有する。トランジスタ550に先の実施の形態に示すトランジスタを適用することができる。
【0486】
液晶素子570の一対の電極の一方の電位は、画素回路501の仕様に応じて適宜設定される。液晶素子570は、書き込まれるデータにより配向状態が設定される。なお、複数の画素回路501のそれぞれが有する液晶素子570の一対の電極の一方に共通の電位(コモン電位)を与えてもよい。また、各行の画素回路501の液晶素子570の一対の電極の一方に異なる電位を与えてもよい。
【0487】
例えば、液晶素子570を備える表示装置の駆動方法としては、TNモード、STNモード、VAモード、ASM(Axially Symmetric Aligned Micro−cell)モード、OCB(Optically Compensated Birefringence)モード、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)モード、AFLC(AntiFerroelectric Liquid Crystal)モード、MVAモード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、IPSモード、FFSモード、又はTBA(Transverse Bend Alignment)モードなどを用いてもよい。また、表示装置の駆動方法としては、上述した駆動方法の他、ECB(Electrically Controlled Birefringence)モード、PDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)モード、PNLC(Polymer Network Liquid Crystal)モード、ゲストホストモードなどがある。ただし、これに限定されず、液晶素子及びその駆動方式として様々なものを用いることができる。
【0488】
m行n列目の画素回路501において、トランジスタ550のソース電極またはドレイン電極の一方は、データ線DL_nに電気的に接続され、他方は液晶素子570の一対の電極の他方に電気的に接続される。また、トランジスタ550のゲート電極は、走査線GL_mに電気的に接続される。トランジスタ550は、オン状態またはオフ状態になることにより、データ信号のデータの書き込みを制御する機能を有する。
【0489】
容量素子560の一対の電極の一方は、電位が供給される配線(以下、電位供給線VL)に電気的に接続され、他方は、液晶素子570の一対の電極の他方に電気的に接続される。なお、電位供給線VLの電位の値は、画素回路501の仕様に応じて適宜設定される。容量素子560は、書き込まれたデータを保持する保持容量としての機能を有する。
【0490】
例えば、
図41(B)の画素回路501を有する表示装置では、例えば、
図41(A)に示すゲートドライバ504aにより各行の画素回路501を順次選択し、トランジスタ550をオン状態にしてデータ信号のデータを書き込む。
【0491】
データが書き込まれた画素回路501は、トランジスタ550がオフ状態になることで保持状態になる。これを行毎に順次行うことにより、画像を表示できる。
【0492】
また、
図41(A)に示す複数の画素回路501は、例えば、
図41(C)に示す構成とすることができる。
【0493】
また、
図41(C)に示す画素回路501は、トランジスタ552、554と、容量素子562と、発光素子572と、を有する。トランジスタ552及びトランジスタ554のいずれか一方または双方に先の実施の形態に示すトランジスタを適用することができる。
【0494】
トランジスタ552のソース電極及びドレイン電極の一方は、データ信号が与えられる配線(以下、データ線DL_nという)に電気的に接続される。さらに、トランジスタ552のゲート電極は、ゲート信号が与えられる配線(以下、走査線GL_mという)に電気的に接続される。
【0495】
トランジスタ552は、オン状態またはオフ状態になることにより、データ信号のデータの書き込みを制御する機能を有する。
【0496】
容量素子562の一対の電極の一方は、電位が与えられる配線(以下、電位供給線VL_aという)に電気的に接続され、他方は、トランジスタ552のソース電極及びドレイン電極の他方に電気的に接続される。
【0497】
容量素子562は、書き込まれたデータを保持する保持容量としての機能を有する。
【0498】
トランジスタ554のソース電極及びドレイン電極の一方は、電位供給線VL_aに電気的に接続される。さらに、トランジスタ554のゲート電極は、トランジスタ552のソース電極及びドレイン電極の他方に電気的に接続される。
【0499】
発光素子572のアノード及びカソードの一方は、電位供給線VL_bに電気的に接続され、他方は、トランジスタ554のソース電極及びドレイン電極の他方に電気的に接続される。
【0500】
発光素子572としては、例えば有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子ともいう)などを用いることができる。ただし、発光素子572としては、これに限定されず、無機材料からなる無機EL素子を用いても良い。
【0501】
なお、電位供給線VL_a及び電位供給線VL_bの一方には、高電源電位VDDが与えられ、他方には、低電源電位VSSが与えられる。
【0502】
図41(C)の画素回路501を有する表示装置では、例えば、
図41(A)に示すゲートドライバ504aにより各行の画素回路501を順次選択し、トランジスタ552をオン状態にしてデータ信号のデータを書き込む。
【0503】
データが書き込まれた画素回路501は、トランジスタ552がオフ状態になることで保持状態になる。さらに、書き込まれたデータ信号の電位に応じてトランジスタ554のソース電極とドレイン電極の間に流れる電流量が制御され、発光素子572は、流れる電流量に応じた輝度で発光する。これを行毎に順次行うことにより、画像を表示できる。
【0504】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0505】
(実施の形態5)
本実施の形態では、本発明の一態様の半導体装置を有する表示モジュール及び電子機器について、
図42乃至
図45を用いて説明を行う。
【0506】
<5−1.表示モジュール>
図42に示す表示モジュール7000は、上部カバー7001と下部カバー7002との間に、FPC7003に接続されたタッチパネル7004、FPC7005に接続された表示パネル7006、バックライト7007、フレーム7009、プリント基板7010、バッテリ7011を有する。
【0507】
本発明の一態様の半導体装置は、例えば、表示パネル7006に用いることができる。
【0508】
上部カバー7001及び下部カバー7002は、タッチパネル7004及び表示パネル7006のサイズに合わせて、形状や寸法を適宜変更することができる。
【0509】
タッチパネル7004は、抵抗膜方式または静電容量方式のタッチパネルを表示パネル7006に重畳して用いることができる。また、表示パネル7006の対向基板(封止基板)に、タッチパネル機能を持たせるようにすることも可能である。また、表示パネル7006の各画素内に光センサを設け、光学式のタッチパネルとすることも可能である。
【0510】
バックライト7007は、光源7008を有する。なお、
図42において、バックライト7007上に光源7008を配置する構成について例示したが、これに限定さない。例えば、バックライト7007の端部に光源7008を配置し、さらに光拡散板を用いる構成としてもよい。なお、有機EL素子等の自発光型の発光素子を用いる場合、または反射型パネル等の場合においては、バックライト7007を設けない構成としてもよい。
【0511】
フレーム7009は、表示パネル7006の保護機能の他、プリント基板7010の動作により発生する電磁波を遮断するための電磁シールドとしての機能を有する。またフレーム7009は、放熱板としての機能を有していてもよい。
【0512】
プリント基板7010は、電源回路、ビデオ信号及びクロック信号を出力するための信号処理回路を有する。電源回路に電力を供給する電源としては、外部の商用電源であっても良いし、別途設けたバッテリ7011による電源であってもよい。バッテリ7011は、商用電源を用いる場合には、省略可能である。
【0513】
また、表示モジュール7000は、偏光板、位相差板、プリズムシートなどの部材を追加して設けてもよい。
【0514】
<5−2.電子機器1>
次に、
図43(A)乃至
図43(E)に電子機器の一例を示す。
【0515】
図43(A)は、ファインダー8100を取り付けた状態のカメラ8000の外観を示す図である。
【0516】
カメラ8000は、筐体8001、表示部8002、操作ボタン8003、シャッターボタン8004等を有する。またカメラ8000には、着脱可能なレンズ8006が取り付けられている。
【0517】
ここではカメラ8000として、レンズ8006を筐体8001から取り外して交換することが可能な構成としたが、レンズ8006と筐体が一体となっていてもよい。
【0518】
カメラ8000は、シャッターボタン8004を押すことにより、撮像することができる。また、表示部8002はタッチパネルとしての機能を有し、表示部8002をタッチすることにより撮像することも可能である。
【0519】
カメラ8000の筐体8001は、電極を有するマウントを有し、ファインダー8100のほか、ストロボ装置等を接続することができる。
【0520】
ファインダー8100は、筐体8101、表示部8102、ボタン8103等を有する。
【0521】
筐体8101は、カメラ8000のマウントと係合するマウントを有しており、ファインダー8100をカメラ8000に取り付けることができる。また当該マウントには電極を有し、当該電極を介してカメラ8000から受信した映像等を表示部8102に表示させることができる。
【0522】
ボタン8103は、電源ボタンとしての機能を有する。ボタン8103により、表示部8102の表示のオン・オフを切り替えることができる。
【0523】
カメラ8000の表示部8002、及びファインダー8100の表示部8102に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。
【0524】
なお、
図43(A)では、カメラ8000とファインダー8100とを別の電子機器とし、これらを脱着可能な構成としたが、カメラ8000の筐体8001に、表示装置を備えるファインダーが内蔵されていてもよい。
【0525】
図43(B)は、ヘッドマウントディスプレイ8200の外観を示す図である。
【0526】
ヘッドマウントディスプレイ8200は、装着部8201、レンズ8202、本体8203、表示部8204、ケーブル8205等を有している。また装着部8201には、バッテリ8206が内蔵されている。
【0527】
ケーブル8205は、バッテリ8206から本体8203に電力を供給する。本体8203は無線受信機等を備え、受信した画像データ等の映像情報を表示部8204に表示させることができる。また、本体8203に設けられたカメラで使用者の眼球やまぶたの動きを捉え、その情報をもとに使用者の視点の座標を算出することにより、使用者の視点を入力手段として用いることができる。
【0528】
また、装着部8201には、使用者に触れる位置に複数の電極が設けられていてもよい。本体8203は使用者の眼球の動きに伴って電極に流れる電流を検知することにより、使用者の視点を認識する機能を有していてもよい。また、当該電極に流れる電流を検知することにより、使用者の脈拍をモニタする機能を有していてもよい。また、装着部8201には、温度センサ、圧力センサ、加速度センサ等の各種センサを有していてもよく、使用者の生体情報を表示部8204に表示する機能を有していてもよい。また、使用者の頭部の動きなどを検出し、表示部8204に表示する映像をその動きに合わせて変化させてもよい。
【0529】
表示部8204に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。
【0530】
図43(C)(D)(E)は、ヘッドマウントディスプレイ8300の外観を示す図である。ヘッドマウントディスプレイ8300は、筐体8301と、表示部8302と、バンド状の固定具8304と、一対のレンズ8305と、を有する。
【0531】
使用者は、レンズ8305を通して、表示部8302の表示を視認することができる。なお、表示部8302を湾曲して配置させる好適である。表示部8302を湾曲して配置することで、使用者が高い臨場感を感じることができる。なお、本実施の形態においては、表示部8302を1つ設ける構成について例示したが、これに限定されず、例えば、表示部8302を2つ設ける構成としてもよい。この場合、使用者の片方の目に1つの表示部が配置されるような構成とすると、視差を用いた3次元表示等を行うことも可能となる。
【0532】
なお、表示部8302に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。本発明の一態様の半導体装置を有する表示装置は、極めて精細度が高いため、
図43(E)のようにレンズ8305を用いて拡大したとしても、使用者に画素が視認されることなく、より現実感の高い映像を表示することができる。
【0533】
<5−3.電子機器2>
次に、
図43(A)乃至
図43(E)に示す電子機器と、異なる電子機器の一例を
図44(A)乃至
図44(G)に示す。
【0534】
図44(A)乃至
図44(G)に示す電子機器は、筐体9000、表示部9001、スピーカ9003、操作キー9005(電源スイッチ、又は操作スイッチを含む)、接続端子9006、センサ9007(力、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい又は赤外線を測定する機能を含むもの)、マイクロフォン9008、等を有する。
【0535】
図44(A)乃至
図44(G)に示す電子機器は、様々な機能を有する。例えば、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示部に表示する機能、タッチパネル機能、カレンダー、日付または時刻などを表示する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、無線通信機能、無線通信機能を用いて様々なコンピュータネットワークに接続する機能、無線通信機能を用いて様々なデータの送信または受信を行う機能、記録媒体に記録されているプログラムまたはデータを読み出して表示部に表示する機能、等を有することができる。なお、
図44(A)乃至
図44(G)に示す電子機器が有することのできる機能はこれらに限定されず、様々な機能を有することができる。また、
図44(A)乃至
図44(G)には図示していないが、電子機器には、複数の表示部を有する構成としてもよい。また、該電子機器にカメラ等を設け、静止画を撮影する機能、動画を撮影する機能、撮影した画像を記録媒体(外部またはカメラに内蔵)に保存する機能、撮影した画像を表示部に表示する機能、等を有していてもよい。
【0536】
図44(A)乃至
図44(G)に示す電子機器の詳細について、以下説明を行う。
【0537】
図44(A)は、テレビジョン装置9100を示す斜視図である。テレビジョン装置9100は、表示部9001を大画面、例えば、50インチ以上、または100インチ以上の表示部9001を組み込むことが可能である。
【0538】
図44(B)は、携帯情報端末9101を示す斜視図である。携帯情報端末9101は、例えば電話機、手帳又は情報閲覧装置等から選ばれた一つ又は複数の機能を有する。具体的には、スマートフォンとして用いることができる。なお、携帯情報端末9101は、スピーカ、接続端子、センサ等を設けてもよい。また、携帯情報端末9101は、文字や画像情報をその複数の面に表示することができる。例えば、3つの操作ボタン9050(操作アイコンまたは単にアイコンともいう)を表示部9001の一の面に表示することができる。また、破線の矩形で示す情報9051を表示部9001の他の面に表示することができる。なお、情報9051の一例としては、電子メールやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や電話などの着信を知らせる表示、電子メールやSNSなどの題名、電子メールやSNSなどの送信者名、日時、時刻、バッテリの残量、アンテナ受信の強度などがある。または、情報9051が表示されている位置に、情報9051の代わりに、操作ボタン9050などを表示してもよい。
【0539】
図44(C)は、携帯情報端末9102を示す斜視図である。携帯情報端末9102は、表示部9001の3面以上に情報を表示する機能を有する。ここでは、情報9052、情報9053、情報9054がそれぞれ異なる面に表示されている例を示す。例えば、携帯情報端末9102の使用者は、洋服の胸ポケットに携帯情報端末9102を収納した状態で、その表示(ここでは情報9053)を確認することができる。具体的には、着信した電話の発信者の電話番号又は氏名等を、携帯情報端末9102の上方から観察できる位置に表示する。使用者は、携帯情報端末9102をポケットから取り出すことなく、表示を確認し、電話を受けるか否かを判断できる。
【0540】
図44(D)は、腕時計型の携帯情報端末9200を示す斜視図である。携帯情報端末9200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。また、表示部9001はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、携帯情報端末9200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。また、携帯情報端末9200は、接続端子9006を有し、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また接続端子9006を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は接続端子9006を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0541】
図44(E)(F)(G)は、折り畳み可能な携帯情報端末9201を示す斜視図である。また、
図44(E)が携帯情報端末9201を展開した状態の斜視図であり、
図44(F)が携帯情報端末9201を展開した状態または折り畳んだ状態の一方から他方に変化する途中の状態の斜視図であり、
図44(G)が携帯情報端末9201を折り畳んだ状態の斜視図である。携帯情報端末9201は、折り畳んだ状態では可搬性に優れ、展開した状態では、継ぎ目のない広い表示領域により表示の一覧性に優れる。携帯情報端末9201が有する表示部9001は、ヒンジ9055によって連結された3つの筐体9000に支持されている。ヒンジ9055を介して2つの筐体9000間を屈曲させることにより、携帯情報端末9201を展開した状態から折りたたんだ状態に可逆的に変形させることができる。例えば、携帯情報端末9201は、曲率半径1mm以上150mm以下で曲げることができる。
【0542】
次に、
図43(A)乃至
図43(E)に示す電子機器、及び
図44(A)乃至
図44(G)に示す電子機器と異なる電子機器の一例を
図45(A)(B)に示す。
図45(A)(B)は、複数の表示パネルを有する表示装置の斜視図である。なお、
図45(A)は、複数の表示パネルが巻き取られた形態の斜視図であり、
図45(B)は、複数の表示パネルが展開された状態の斜視図である。
【0543】
図45(A)(B)に示す表示装置9500は、複数の表示パネル9501と、軸部9511と、軸受部9512と、を有する。また、複数の表示パネル9501は、表示領域9502と、透光性を有する領域9503と、を有する。
【0544】
また、複数の表示パネル9501は、可撓性を有する。また、隣接する2つの表示パネル9501は、それらの一部が互いに重なるように設けられる。例えば、隣接する2つの表示パネル9501の透光性を有する領域9503を重ね合わせることができる。複数の表示パネル9501を用いることで、大画面の表示装置とすることができる。また、使用状況に応じて、表示パネル9501を巻き取ることが可能であるため、汎用性に優れた表示装置とすることができる。
【0545】
また、
図45(A)(B)においては、表示領域9502が隣接する表示パネル9501で離間する状態を図示しているが、これに限定されず、例えば、隣接する表示パネル9501の表示領域9502を隙間なく重ねあわせることで、連続した表示領域9502としてもよい。
【0546】
本実施の形態において述べた電子機器は、何らかの情報を表示するための表示部を有することを特徴とする。ただし、本発明の一態様の半導体装置は、表示部を有さない電子機器にも適用することができる。
【0547】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例】
【0548】
本実施例では、上記実施の形態に示す方法を用いて成膜したIn−Ga−Zn酸化物膜(以下、IGZO膜と呼ぶ。)の元素分析及び結晶性の評価を行った結果について説明する。
【0549】
本実施例に係る試料A1では、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=4:2:4.1)ターゲットを用いたスパッタリング法により、膜厚100nmを狙ってガラス基板上にIGZO膜を成膜した。IGZO膜の成膜は、アルゴンガス180sccmおよび酸素ガス20sccmを含む雰囲気で圧力を0.6Paに制御し、基板温度を室温とし、2.5kWの交流電力を印加して行った。
【0550】
作製した試料A1のIGZO膜の断面について、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)を用いて測定を行った。EDX測定は、日本電子株式会社製原子分解能分析電子顕微鏡JEM−ARM200Fを用いて、加速電圧200kV、ビーム径約0.1nmφの電子線を照射して行った。元素分析装置としてエネルギー分散型X線分析装置JED−2300Tを用いた。なお、試料A1から放出されたX線の検出にはSiドリフト検出器を用いた。
【0551】
EDX測定では、試料A1の分析対象領域の各点に電子線照射を行い、これにより発生する試料A1の特性X線のエネルギーと発生回数を測定し、各点に対応するEDXスペクトルを得る。本実施例では、各点のEDXスペクトルのピークを、In原子、Ga原子、Zn原子及びO原子中の電子の遷移に帰属させ、各点におけるそれぞれの原子の比率を算出した。これを試料A1の分析対象領域について行うことにより、各原子の比率の分布が示されたEDXマッピングを得ることができる。
【0552】
試料A1のIGZO膜断面におけるIn原子のEDXマッピングを
図46に示す。
図46に示すEDXマッピングは、IGZO膜の各点におけるIn原子の比率[atomic%]を示している。
図46中の比較的色が濃い領域はIn原子の比率が低く、最低で10.85atomic%となり、
図46中の比較的色が薄い領域はIn原子の比率が高く、最高で25.21atomic%となる。
【0553】
図46に示すEDXマッピングでは、画像に濃淡の分布が見られ、IGZO膜の断面においてIn原子が偏析していることが分かる。ここで、EDXマッピング中の比較的色が淡い領域は、概略円形または概略楕円形の領域が多い。また、複数の概略円形または概略楕円形の領域が連結して形成される領域も見られる。別言すると、概略円形または概略楕円形の領域が網目状に形成されているとも言える。上記の通り、比較的色が淡い領域は、Inが高濃度に存在する領域であり、上記実施の形態に示す領域Aに対応する。ただし、領域Aは分析対象領域を横断または縦断するほど大きくはなく、周囲を比較的色の濃い領域(上記実施の形態に示す領域Bに対応。)に囲まれてアイランド状に形成されている。また、領域Aと領域Bの間には、色の濃さが中間程度の領域も形成されており、領域Aと領域Bの境界が不明確な部分もある。また、概略円形または概略楕円形の領域Aの径は、0.1nm以上5nm以下の範囲程度になる部分が多い。
【0554】
このように、試料A1のIGZO膜は、In−richな領域AとIn−poorな領域Bとが形成された、複合酸化物半導体である。領域Aがトランジスタのオン電流及び電界効果移動度に寄与し、領域Bがトランジスタのスイッチング特性に寄与するため、当該複合酸化物半導体を用いることで良好な電気特性を有するトランジスタを作製することができる。
【0555】
また、領域Aが領域Bに囲まれるようにアイランド状に形成されることで、トランジスタのソース−ドレイン間が領域Aを介して接続され、オフ電流が上昇することを抑制できる。
【0556】
次に、試料A1とは異なり、アルゴンガス140sccmおよび酸素ガス60sccmを含む雰囲気で、基板温度を170℃として、IGZO膜を成膜して試料B1を作製した。なお、試料B1のIGZO膜の他の成膜条件は試料A1と同様である。
【0557】
試料A1と試料B1の断面のBF−STEM(Bright Field − Scanning Transmission Electron Microscopy)像を倍率2,000,000倍で撮影した。試料A1のBF−STEM像を
図47(A)に、試料B1のBF−STEM像を
図47(B)に示す。
【0558】
図47(A)に示すように、試料A1のIGZO膜では、面積は狭いが、層状の結晶部が形成されており、c軸配向性を有する結晶部も見られる。これに対して、
図47(B)に示す試料B1のIGZO膜では、試料A1と比較して広い面積の、層状の結晶部が形成されている。このように、In原子の偏析が見られる試料A1のIGZO膜中にも、層状の結晶部が確認された。また、IGZO成膜時の酸素流量比を大きくし、基板温度を高くすることにより、IGZO膜の結晶性の向上を図ることができる可能性が示唆された。
【0559】
さらに多くの条件で酸素流量比と基板温度を設定してIGZO膜を成膜した試料を作製し、結晶性の評価を行った。試料のIGZO膜の成膜条件は、酸素流量比をそれぞれ、10%(酸素ガス20sccm、アルゴンガス180sccm)、30%(酸素ガス60sccm、アルゴンガス140sccm)、50%(酸素ガス100sccm、アルゴンガス100sccm)、70%(酸素ガス140sccm、アルゴンガス60sccm)、または100%(酸素ガス200sccm)とした。また、基板温度を室温、130℃、または170℃とした。なお、各試料のIGZO膜の他の成膜条件は試料A1と同様である。
【0560】
各試料のIGZO膜の結晶性の評価には、XRD測定を用いた。XRD測定では、out−of−plane法の一種である粉末法(θ−2θ法ともいう。)を用いた。θ−2θ法は、X線の入射角を変化させるとともに、X線源に対向して設けられる検出器の角度を入射角と同じにしてX線回折強度を測定する方法である。
【0561】
図48(A)に各試料のXRD測定結果を示す。
図48(B)に示すように、各試料のガラス基板中の3つのポイントについて測定を行った。
【0562】
図48(A)において、縦軸が回折強度を任意単位で示し、横軸が角度2θを示している。また、
図48(A)において、
図48(B)の3つのポイントに対応する、3つのXRDのプロファイルを並べて示している。
【0563】
図48(A)に示すように、試料A1と同様の成膜条件のIGZO膜においては、2θ=31°付近の回折強度のピークが確認され難い、または2θ=31°付近の回折強度のピークが極めて小さい、あるいは2θ=31°付近の回折強度のピークが無い。一方で、試料Bと同様の成膜条件のIGZO膜においては、2θ=31°付近に回折強度のピークが明確に確認される。
【0564】
なお、回折強度のピークがみられた回折角(2θ=31°付近)は、単結晶InGaZnO
4の構造モデルにおける(009)面の回折角と一致する。したがって、試料B1と同様の成膜条件のIGZO膜において、上記ピークが観測されることから、c軸配向性を有する結晶部が含まれていることが確認できる。
【0565】
一方で、試料A1と同様の成膜条件のIGZO膜については、XRD測定からでは、c軸配向性を有する結晶部が含まれているかを判断するのが困難である。しかしながら、
図47(A)に示したように、BF−STEM像などを撮影することにより、微小な領域でc軸配向性を有する結晶部を確認することができる。
【0566】
また、
図48(A)に示すように、IGZO膜の成膜時の酸素流量比が大きいほど、または基板温度が高いほど、XRDのプロファイルのピークが鋭くなっている。よって、IGZO膜の成膜時の酸素流量比が大きいほど、または基板温度が高いほど、結晶性の高いIGZO膜が作製できると示唆される。
【0567】
なお、本実施例に示す構成は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。