特許第6971607号(P6971607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971607
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】脂質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20211111BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20211111BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
   C12P7/64ZNA
   A01H5/00 A
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】13
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2017-73518(P2017-73518)
(22)【出願日】2017年4月3日
(65)【公開番号】特開2018-99107(P2018-99107A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2020年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-245617(P2016-245617)
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】東條 卓人
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−515761(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/021481(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/133305(WO,A1)
【文献】 特開2009−045074(JP,A)
【文献】 特表2011−505838(JP,A)
【文献】 特開2016−214183(JP,A)
【文献】 特表2015−521033(JP,A)
【文献】 特表2009−542847(JP,A)
【文献】 The Plant Journal,1998年,Vol.13, No.5,p.621-628
【文献】 Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A.,2007年,Vol.104, No.11,p.4742-4747
【文献】 Journal of Experimental Botany,2015年,Vol.66, No.14,p.4251-4265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/64
C12N 15/09
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ケトアシル-ACPシンターゼである下記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子、及び炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するアシル-ACPチオエステラーゼである下記タンパク質(S)〜(V)のいずれか1つをコードする遺伝子を導入した形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
(A)配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(E)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(G)配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(I)配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(K)配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(M)配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(O)配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(S)配列番号69で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(T)前記タンパク質(S)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(S)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
(U)配列番号73で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(V)前記タンパク質(U)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(U)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
β-ケトアシル-ACPシンターゼである下記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子、及び炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するアシル-ACPチオエステラーゼである下記タンパク質(S)〜(V)のいずれか1つをコードする遺伝子を導入した形質転換体を培養し、生産される中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法。
(A)配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(E)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(G)配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(I)配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(K)配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(M)配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(O)配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(S)配列番号69で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(T)前記タンパク質(S)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(S)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
(U)配列番号73で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(V)前記タンパク質(U)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(U)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
β-ケトアシル-ACPシンターゼである下記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子、及び炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するアシル-ACPチオエステラーゼである下記タンパク質(S)〜(V)のいずれか1つをコードする遺伝子を導入した形質転換体を培養し、生産される全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合を増加させる、脂肪酸組成を改変する方法。
(A)配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(E)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(G)配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(I)配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(K)配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(M)配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(O)配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(S)配列番号69で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(T)前記タンパク質(S)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(S)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
(U)配列番号73で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(V)前記タンパク質(U)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(U)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
前記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号51で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号52で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号53で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号54で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(i)配列番号55で表される塩基配列からなるDNA。
(j)前記DNA(i)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号56で表される塩基配列からなるDNA。
(l)前記DNA(k)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(m)配列番号57で表される塩基配列からなるDNA。
(n)前記DNA(m)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号58で表される塩基配列からなるDNA。
(p)前記DNA(o)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(q)配列番号59で表される塩基配列からなるDNA。
(r)前記DNA(q)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
シル-ACPチオエステラーゼである前記タンパク質(S)〜(V)のいずれか1つをコードする遺伝子が、配列番号70若しくは配列番号74で表される塩基配列からなるDNA、当該DNAのいずれか1つの塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は当該DNAのいずれか1つの塩基配列に1個以上90個以下の塩基配列が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、からなる遺伝子である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記形質転換体が植物の形質転換体である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記植物がシロイヌナズナである、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記脂質が遊離中鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物を含む、請求項1、2及び4〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
β-ケトアシル-ACPシンターゼである下記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子、及び炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するアシル-ACPチオエステラーゼである下記タンパク質(S)〜(V)のいずれか1つをコードする遺伝子を含んでなる、形質転換体。
(A)配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(E)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(G)配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(I)配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(K)配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(M)配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(O)配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質。
(S)配列番号69で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(T)前記タンパク質(S)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(S)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
(U)配列番号73で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(V)前記タンパク質(U)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、又は前記タンパク質(U)のアミノ酸配列に1個以上30個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
前記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子である、請求項記載の形質転換体。
(a)配列番号51で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号52で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号53で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号54で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(i)配列番号55で表される塩基配列からなるDNA。
(j)前記DNA(i)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号56で表される塩基配列からなるDNA。
(l)前記DNA(k)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(m)配列番号57で表される塩基配列からなるDNA。
(n)前記DNA(m)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号58で表される塩基配列からなるDNA。
(p)前記DNA(o)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(q)配列番号59で表される塩基配列からなるDNA。
(r)前記DNA(q)の塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項11】
シル-ACPチオエステラーゼである前記タンパク質(S)〜(V)のいずれか1つをコードする遺伝子が、配列番号70若しくは配列番号74で表される塩基配列からなるDNA、当該DNAのいずれか1つの塩基配列と同一性が90%以上の塩基配列からなり、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は当該DNAのいずれか1つの塩基配列に1個以上90個以下の塩基配列が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ炭素原子数が6以上14以下の中鎖アシル-ACPに対するアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、からなる遺伝子である、請求項9又は10記載の形質転換体。
【請求項12】
植物の形質転換体である、請求項9〜11のいずれか1項記載の形質転換体。
【請求項13】
前記植物がシロイヌナズナである、請求項12記載の形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の製造方法、及びこれに用いる形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は脂質の主要構成成分の1種であり、生体内においてグリセリンとのエステル結合により生成するトリアシルグリセロール等の脂質を構成する。また、多くの動植物において脂肪酸はエネルギー源として貯蔵され利用される物質でもある。動植物内に蓄えられた脂肪酸や脂質は、食用又は工業用として広く利用されている。
例えば、炭素原子数12〜18前後の高級脂肪酸を還元して得られる高級アルコールの誘導体は、界面活性剤として用いられている。アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等は陰イオン性界面活性剤として利用されている。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやアルキルポリグリコシド等は非イオン性界面活性剤として利用されている。そしてこれらの界面活性剤は、いずれも洗浄剤又は殺菌剤に利用されている。同じく高級アルコールの誘導体としてアルキルアミン塩やモノ又はジアルキル4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤は、繊維処理剤や毛髪リンス剤又は殺菌剤に日常的に利用されている。また、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩は殺菌剤や防腐剤に日常的に利用されている。さらに、植物由来の油脂はバイオディーゼル燃料の原料としても利用されている。
このように脂肪酸や脂質の利用は多岐にわたる。そのため、植物等において生体内での脂肪酸や脂質の生産性を向上させる試みが行われている。さらに、脂肪酸の用途や有用性はその炭素原子数に依存するため、脂肪酸の炭素原子数、即ち鎖長を制御する試みも行われている。
【0003】
一般に、植物の脂肪酸合成経路は葉緑体に局在する。葉緑体ではアセチル−アシルキャリアープロテイン(acyl carrier protein、以下「ACP」ともいう)を出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACP(脂肪酸残基であるアシル基とACPとからなる複合体。ここで炭素原子数はアシル基の炭素数を示し、以下同様に示す場合がある。)が合成される。次いで、アシル-ACPチオエステラーゼ(以下、単に「TE」ともいう)の作用によってアシル-ACPのチオエステル結合が加水分解され、遊離の脂肪酸が生成する。
この脂肪酸合成経路に関与する酵素のうち、β-ケトアシル-ACPシンターゼ(β-ketoacyl-acyl carrier protein synthase、以下「KAS」ともいう)はアシル基の鎖長制御に関与する酵素である。植物では、KAS I、KAS II、KAS III、KAS IV、のそれぞれ機能が異なる4種のKASが存在することが知られている。このうち、KAS IIIは鎖長伸長反応の開始段階で働き、炭素原子数2のアセチル-ACPを炭素原子数4のアシル-ACPに伸長する。それ以降の伸長反応には、KAS I、KAS II、及びKAS IVが関与する。KAS Iは主に炭素原子数16のパルミトイル-ACPまでの伸長反応に関与し、KAS IIは主に炭素原子数18のステアロイル-ACPまでの伸長反応に関与する。一方、KAS IVは炭素原子数6〜14の中鎖アシル-ACPまでの伸長反応に関与するといわれている。
【0004】
中鎖アシル-ACPまでの伸長反応に関与するKAS IVについては、植物でもあまり知見が得られておらず、クフェア(Cuphea)などの中鎖脂肪酸を蓄積する植物に特有のKASとされている(特許文献1、及び非特許文献1及び2参照)。
これに対して、長鎖脂肪酸を蓄積し、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物において、中鎖脂肪酸の生産性を向上させる方法、及びこのような植物に由来の、中鎖脂肪酸の合成に関与するKASについて、何ら知見は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/46776号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Plant Journal, 1998, vol. 15(3), p. 383-390
【非特許文献2】The Plant Journal, 1998, vol. 13(5), p. 621-628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法の提供を課題とする。
また本発明は、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させた形質転換体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物から、炭素原子数18のステアロイル-ACPまでの伸長反応に関与するKAS IIとアノテーションされるタンパク質の情報を取得した。そして、これをコードする遺伝子と、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子の発現を促進させると、形質転換体では中鎖脂肪酸の生産性が向上することを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明は、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKASをコードする遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子の発現を促進させた形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法に関する。
また本発明は、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKASをコードする遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子を含んでなる、形質転換体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脂質の製造方法によれば、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させることができる。
また本発明の形質転換体は、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書における「脂質」は、中性脂質(トリアシルグリセロール等)、ろう、セラミド等の単純脂質;リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質;及びこれらの脂質から誘導される、脂肪酸(遊離脂肪酸)、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質を包含するものである。
一般に誘導脂質に分類される脂肪酸は、脂肪酸そのものを指し、「遊離脂肪酸」を意味する。本発明では単純脂質及び複合脂質分子中の脂肪酸部分又はアシル基の部分を「脂肪酸残基」と表記する。そして、特に断りのない限り、「脂肪酸」は「遊離脂肪酸」と「脂肪酸残基」の総称として用いる。
また本明細書において、「脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質」は、「遊離脂肪酸」と「当該脂肪酸残基を有する脂質」を総称して用いる。更に本明細書において、「脂肪酸組成」とは、前記遊離脂肪酸と脂肪酸残基を脂肪酸と見做して合計した全脂肪酸(総脂肪酸)の重量に対する各脂肪酸の重量割合を意味する。脂肪酸の重量(生産量)や脂肪酸組成は、実施例で用いた方法により測定できる。
【0012】
本明細書において、脂肪酸や、脂肪酸残基を構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数xで二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数xの脂肪酸やアシル基を表す。
さらに本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに本明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
【0013】
本発明の脂質の製造方法は、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKASをコードする遺伝子と、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子の発現を促進させた形質転換体を用いる。
前述のように、中鎖アシル-ACPまでの伸長反応に関与するKASは、中鎖脂肪酸を蓄積する植物に特有のKASであると考えられていた(特許文献1、及び非特許文献1及び2参照)。そして、中鎖脂肪酸を蓄積する植物に特有のKASをコードする遺伝子と、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子を導入して作製した形質転換体は、中鎖脂肪酸の生産性が向上することも知られている(特許文献1及び非特許文献2参照)。
これに対して、本発明者らは、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物から見出したKASが、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEとの併用により、形質転換体の中鎖脂肪酸の生産性が向上することを見い出した。
【0014】
本明細書において「中鎖」とは、炭素原子数が6以上14以下、好ましくは炭素原子数が8以上14以下、より好ましくは炭素原子数が10以上14以下、よりさらに好ましくは炭素原子数が10、12、又は14の鎖式炭化水素基を言う。ここで、脂肪酸又は脂肪酸残基の場合は、前記鎖式炭化水素基の炭素原子数には、カルボニル炭素も含むものとする。そして「長鎖」とは、炭素原子数が15以上、好ましくは16以上、より好ましくは16以上24以下の鎖状炭化水素基を言う。ここで、脂肪酸又は脂肪酸残基の場合においても、前記鎖式炭化水素基の炭素原子数には、カルボニル炭素も含むものとする。
ところで前記したように本明細書では、脂肪酸は「遊離脂肪酸」と「脂肪酸残基」の総称である。また「中鎖」についても先に規定しているが、本明細書において、「中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物」とは、炭素原子数8以上14以下の遊離脂肪酸と脂肪酸残基からみなされる脂肪酸との脂肪酸量の割合の合計が、種子又は果肉の脂質中に含まれる全脂肪酸量、すなわち全遊離脂肪酸と全脂肪酸残基からみなされる脂肪酸との脂肪酸量の合計の10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、である植物をいう。中鎖脂肪酸の主たる化合物としては、ラウリン酸(C12:0)、ミリスチン酸(C14:0)が挙げられる。
更には本明細書における「中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物」は、長鎖脂肪酸量の割合によって定義してもよい。すなわち長鎖脂肪酸を種子又は果肉の脂質中に一定量蓄積する植物、具体的には、種子又は果肉中の脂質のうち、炭素原子数16以上22以下の遊離脂肪酸と脂肪酸残基からみなされる脂肪酸との脂肪酸量の割合の合計が、全脂肪酸の総量に対して60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である植物であってもよい。なお、長鎖脂肪酸を種子又は果肉の脂質中に一定量蓄積する植物としては、一般的な油糧植物が挙げられる(例えば、「http://pci.kaneda.co.jp/contents/introduce/composition/list01.html」参照)。
本発明のいう「中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物」は、前記した中鎖脂肪酸量の規定及び長鎖脂肪酸量の規定のいずれかにより説明することができる。
【0015】
本明細書で規定する「中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物」は、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない通常の油糧植物から適宜選択することができる。例えば、トウダイグサ(Euphorbiaceae)科の植物、アブラナ(Brassicaceae)科の植物、マメ(Fabaceae)科の植物、イネ(Poaceae)科の植物、ブドウ(Vitaceae)科の植物、キク(Asteraceae)科の植物、アマ(Linaceae)科の植物、アオイ(Malvaceae)科の植物、ゴマ(Pedaliaceae)科の植物、及びモクセイ(Oleaceae)科の植物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物が挙げられる。好ましい具体例としては、ヤトロファ(Jatropha curcas)、ヒマ(Ricinus communis)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa)、ダイズ(Glycine max)、トウモロコシ(Zea mays)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、カメリナ(Camelina sativa)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、アマ(Linum usitatissimum)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ワタ属(Gossypium spp.)、ゴマ(Sesamum indicum)、イネ(Oryza sativa)、オリーブ(Olea europaea)などが挙げられる。
以下、前述の油糧植物の種子又は果肉に含まれる油脂中の脂肪酸組成を下記表1に示す。また、参考として、ココヤシ由来の油脂中の脂肪酸組成も表1に示す。表1に示すように、ココヤシ以外の油糧植物は、炭素原子数が16〜18の長鎖脂肪酸が主に蓄積されている。しかし、ココヤシ以外の油糧植物において、炭素原子数が10〜14の中鎖脂肪酸の蓄積は認められていない。
【0016】
【表1】
【0017】
本発明で使用するKASは、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS IIであることが好ましい。
前述のように、KAS IIは主に炭素原子数18のステアロイル-ACPまでの伸長反応に関与する。そのため通常であれば、中鎖脂肪酸の生産性のためにKAS IIを使用されることはない。そして、後述の実施例でも示すように、KAS IIをコードする遺伝子のみの発現を促進させても、中鎖脂肪酸の生産性は向上しない。しかし、KAS IIを後述のTEと併用することで、形質転換体における中鎖脂肪酸の生産性が向上する。
【0018】
本発明で使用するKASは、前述の中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKASより適宜選択することができる。具体例としては、下記タンパク質(A)〜(R)が挙げられる。下記タンパク質(A)〜(R)は、BLASTプログラムによるホモロジーサーチ、及びデータベースへの登録名から、KAS IIとしてアノテーションされている。

(A)配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル-ACPシンターゼ活性(以下、「KAS活性」ともいう)を有するタンパク質。
(C)配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(G)配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(I)配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(K)配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(M)配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(O)配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が85%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
【0019】
配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(A)は、ヤトロファ由来のKAS IIである(Jatropha Genome Database(http://www.kazusa.or.jp/jatropha/), Jcr4S04655.30参照)。ヤトロファは、トウダイグサ科ナンヨウアブラギリ(Jatropha)属の落葉低木であり、バイオディーゼルの原料として用いられる。本明細書において、前記タンパク質(A)及び(B)をまとめて、「JcKASII」ともいう。
配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(C)は、ヒマ由来のKAS IIである(Genbank, XP_002516228参照)。ヒマは、トウダイグサ科トウゴマ(Ricinus)属の多年草であり、その種子は植物油の原料として用いられる。本明細書において、前記タンパク質(C)及び(D)をまとめて、「RiKASII」ともいう。
配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(E)は、シロイヌナズナ由来のKAS IIである(TAIR(www.arabidopsis.org), AT1G74960参照)。シロイヌナズナは、アブラナ科シロイヌナズナ(Arabidopsis)属の一年草であり、モデル生物として広く利用されている。本明細書において、前記タンパク質(E)及び(F)をまとめて、「AtKASII」ともいう。
配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(G)は、アブラナ由来のKAS IIである(Genbank, XP_009104733参照)。アブラナは、アブラナ科アブラナ(Brassica)属の二年生植物であり、植物油の原料として用いられる。本明細書において、前記タンパク質(G)及び(H)をまとめて、「BrKASII」ともいう。
配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(I)は、ダイズ由来のKAS IIである(Genbank, AAW88763参照)。ダイズは、マメ科ダイズ(Glycine)属の一年草であり、その種子は食用とされる。本明細書において、前記タンパク質(I)及び(J)をまとめて、「GmKASII」ともいう。
配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(K)は、トウモロコシ由来のKAS IIである(Genbank, NM_001148515参照)。トウモロコシは、イネ科トウモロコシ(Zea)属の一年生植物であり、穀物として人間の食料や家畜の飼料とされている。本明細書において、前記タンパク質(K)及び(L)をまとめて、「ZmKASII」ともいう。
配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(M)は、ヨーロッパブドウ由来のKAS IIである(Genbank, XP_002276214参照)。ヨーロッパブドウは、生食の他、ワインやレーズンなどの加工食品の原料とされている、ブドウ科ブドウ(Vitis)属の植物である。本明細書において、前記タンパク質(M)及び(N)をまとめて、「VvKASII」ともいう。
配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(O)は、カメリナ由来のKAS IIである(Genbank, XP_010498338参照)。カメリナは、アブラナ科アマナズナ(Camelina)属の一年草であり、小麦の輪作作物として広く栽培されている。本明細書において、前記タンパク質(O)及び(P)をまとめて、「CsKASII」ともいう。
配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(Q)は、ヒマワリ由来のKAS IIである(Genbank, DQ835562参照)。ヒマワリはキク科ヒマワリ(Helianthus)属の一年草であり、食用、植物油の原料、観賞用に栽培されている。本明細書において、前記タンパク質(Q)及び(R)をまとめて、「HaKASII」ともいう。
【0020】
KASは、脂肪酸合成経路においてアシル基の鎖長制御に関与する酵素である。植物の脂肪酸合成経路は一般的に葉緑体に局在する。葉緑体では、アセチル-ACP(又はアセチル-CoA)を出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。次いで、アシル-ACPチオエステラーゼ(以下、単に「TE」ともいう)の作用によってアシル-ACPのチオエステル結合が加水分解され、遊離の脂肪酸が生成する。
脂肪酸合成の第一段階では、アセチル-ACP(又はアセチル-CoA)とマロニルACPとの縮合反応により、アセトアセチルACPが生成する。この反応をKASが触媒する。次いで、β-ケトアシル-ACPレダクターゼによりアセトアセチルACPのケト基が還元されてヒドロキシブチリルACPが生成する。続いて、β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼによりヒドロキシブチリルACPが脱水され、クロトニルACPが生成する。最後に、エノイル-ACPレダクターゼによりクロトニルACPが還元されて、ブチリルACPが生成する。これら一連の反応により、アセチル-ACPからアシル基の炭素鎖が2個伸長されたブチリルACPが生成する。以下、同様の反応を繰り返すことで、アシル-ACPの炭素鎖が伸長し、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。
【0021】
前記タンパク質(A)〜(R)はいずれも、KAS活性を有する。本明細書において「KAS活性」とは、アセチル-ACP(又はアセチル-CoA)やアシル-ACPと、マロニルACPとの縮合反応を触媒する活性を意味する。
タンパク質がKAS活性を有することは、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、各種アシル-ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
【0022】
KASはその基質特異性によってKAS I、KAS II、KAS III、又はKAS IVに分類される。KAS IIIは、炭素原子数2のアセチル-ACP(又はアセチル-CoA)を基質とし、炭素原子数2から4の伸長反応を触媒する。KAS Iは、主に炭素原子数4から16の伸長反応を触媒し、炭素原子数16のパルミトイル-ACPを合成する。KAS IIは、主に炭素原子数18以上の長鎖アシル基への伸長反応を触媒し、長鎖アシル-ACPを合成する。KAS IVは主に炭素原子数6から14の伸長反応を触媒し、中鎖アシル-ACPを合成する。
アミノ酸配列及び塩基配列のBlastの結果から、前記タンパク質(A)〜(R)はKAS IIであると考えられる。しかし、後述の実施例で示すように、、KAS IIが長鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するにもかかわらず、前記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つをコードする遺伝子と、後述のTEをコードする遺伝子の発現を促進した形質転換体では、炭素原子数が10〜14の中鎖脂肪酸の生産性が向上する。
【0023】
KASの基質特異性については、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。また、上記の系に後述するTEを共発現させ、TE単独を発現させた場合の脂肪酸組成と比較することにより確認できる。また、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
【0024】
前記タンパク質(B)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上60個以下、好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上8個以下、より好ましくは1個以上4個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(B)として、前記タンパク質(A)又は(B)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0025】
前記タンパク質(D)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上84個以下、好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上39個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0026】
前記タンパク質(F)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(F)として、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上82個以下、好ましくは1個以上55個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(F)として、前記タンパク質(E)又は(F)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0027】
前記タンパク質(H)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(H)として、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上82個以下、好ましくは1個以上55個以下、より好ましくは1個以上39個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(H)として、前記タンパク質(G)又は(H)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0028】
前記タンパク質(J)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(I)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(J)として、前記タンパク質(I)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上74個以下、好ましくは1個以上49個以下、より好ましくは1個以上35個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上15個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(J)として、前記タンパク質(I)又は(J)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0029】
前記タンパク質(L)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(K)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(L)として、前記タンパク質(K)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上70個以下、好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(L)として、前記タンパク質(K)又は(L)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0030】
前記タンパク質(N)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(M)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(N)として、前記タンパク質(M)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上84個以下、好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上39個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(N)として、前記タンパク質(M)又は(N)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0031】
前記タンパク質(P)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(O)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(P)として、前記タンパク質(O)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上80個以下、好ましくは1個以上54個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上27個以下、より好ましくは1個以上16個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(P)として、前記タンパク質(O)又は(P)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0032】
前記タンパク質(R)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また、前記タンパク質(R)として、前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上74個以下、好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上35個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上15個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(R)として、前記タンパク質(Q)又は(R)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0033】
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにKAS活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0034】
本発明で使用することができるKASとして列挙した前述の各種植物由来のKAS II間のアミノ酸配列の同一性を、表2にまとめて示す。
【0035】
【表2】
【0036】
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、SOE-PCRを利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
【0037】
前記タンパク質(A)〜(R)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物から単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号60〜68のいずれか1つで表されるアミノ酸配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(A)〜(R)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(A)〜(R)を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述するKAS遺伝子を用いることができる。
また本発明で用いるKASは、1種でもよいし、2種以上のKASを組合せて用いてもよい。
【0038】
中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS、好ましくは前記タンパク質(A)〜(R)、をコードする遺伝子(以下、「KAS遺伝子」又は「KASII遺伝子」ともいう)の一例として、下記DNA(a)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子が挙げられる。

(a)配列番号51で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号52で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号53で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号54で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(i)配列番号55で表される塩基配列からなるDNA。
(j)前記DNA(i)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号56で表される塩基配列からなるDNA。
(l)前記DNA(k)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(m)配列番号57で表される塩基配列からなるDNA。
(n)前記DNA(m)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号58で表される塩基配列からなるDNA。
(p)前記DNA(o)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(q)配列番号59で表される塩基配列からなるDNA。
(r)前記DNA(q)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0039】
前記DNA(a)及び(b)における配列番号51の塩基配列は、配列番号60で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(A)をコードする遺伝子の塩基配列である。本明細書において、前記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子を「JcKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(c)及び(d)における配列番号52の塩基配列は、配列番号61で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(C)をコードする遺伝子の塩基配列(GenBank accession number:XP002516228)である。本明細書において、前記DNA(c)又は(d)からなる遺伝子を「RiKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(e)及び(f)における配列番号53の塩基配列は、配列番号62で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(E)をコードする遺伝子の塩基配列である。本明細書において、前記DNA(e)又は(f)からなる遺伝子を「AtKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(g)及び(h)における配列番号54の塩基配列は、配列番号63で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(G)をコードする遺伝子の塩基配列である。本明細書において、前記DNA(g)又は(h)からなる遺伝子を「BrKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(i)及び(j)における配列番号55の塩基配列は、配列番号64で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(I)をコードする遺伝子の塩基配列である。本明細書において、前記DNA(i)又は(j)からなる遺伝子を「GmKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(k)及び(l)における配列番号56の塩基配列は、配列番号65で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(K)をコードする遺伝子の塩基配列である。なお配列番号56の塩基配列からなるDNAは、後述の実施例で使用した宿主に応じて、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用し、ZmKASII(NM_001148515)のDNA配列の一部を最適化している。本明細書において、前記DNA(k)又は(l)からなる遺伝子を「ZmKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(m)及び(n)における配列番号57の塩基配列は、配列番号66で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(M)をコードする遺伝子の塩基配列(GenBank accession number:XP002276214)である。本明細書において、前記DNA(m)又は(n)からなる遺伝子を「VvKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(o)及び(p)における配列番号58の塩基配列は、配列番号67で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(O)をコードする遺伝子の塩基配列(GenBank accession number:XP010498338)である。本明細書において、前記DNA(o)及び(p)からなる遺伝子を「CsKASII遺伝子」ともいう。
前記DNA(q)及び(r)における配列番号59の塩基配列は、配列番号68で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(Q)をコードする遺伝子の塩基配列(GenBank accession number:DQ835562)である。本明細書において、前記DNA(q)及び(r)からなる遺伝子を「HaKASII遺伝子」ともいう。
【0040】
前記DNA(b)において、KAS活性の点から、前記DNA(a)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(b)として、配列番号51で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上250個以下、好ましくは1個以上181個以下、より好ましくは1個以上121個以下、好ましくは1個以上85個以下、より好ましくは1個以上61個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上13個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(b)として、前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(b)として、前記DNA(a)又は(b)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0041】
前記DNA(d)において、KAS活性の点から、前記DNA(c)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(d)として、配列番号52で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上333個以下、好ましくは1個以上250個以下、より好ましくは1個以上167個以下、好ましくは1個以上117個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上17個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(d)として、前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(d)として、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0042】
前記DNA(f)において、KAS活性の点から、前記DNA(e)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(f)として、配列番号53で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上326個以下、好ましくは1個以上244個以下、より好ましくは1個以上163個以下、好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上82個以下、より好ましくは1個以上49個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上17個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(f)として、前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(f)として、前記DNA(e)又は(f)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0043】
前記DNA(h)において、KAS活性の点から、前記DNA(g)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(h)として、配列番号54で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上329個以下、好ましくは1個以上247個以下、より好ましくは1個以上165個以下、好ましくは1個以上115個以下、より好ましくは1個以上83個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上17個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(h)として、前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(h)として、前記DNA(g)又は(h)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0044】
前記DNA(j)において、KAS活性の点から、前記DNA(i)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(j)として、配列番号55で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上294個以下、好ましくは1個以上221個以下、より好ましくは1個以上147個以下、好ましくは1個以上103個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(I)又は(J)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(j)として、前記DNA(i)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(I)又は(J)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(j)として、前記DNA(i)又は(j)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0045】
前記DNA(l)において、KAS活性の点から、前記DNA(k)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(l)として、配列番号56で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上278個以下、好ましくは1個以上208個以下、より好ましくは1個以上139個以下、好ましくは1個以上98個以下、より好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(K)又は(L)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(l)として、前記DNA(k)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(K)又は(L)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(l)として、前記DNA(k)又は(l)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0046】
前記DNA(n)において、KAS活性の点から、前記DNA(m)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(n)として、配列番号57で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上334個以下、好ましくは1個以上251個以下、より好ましくは1個以上167個以下、好ましくは1個以上117個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上17個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(M)又は(N)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(n)として、前記DNA(m)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(M)又は(N)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(n)として、前記DNA(m)又は(n)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0047】
前記DNA(p)において、KAS活性の点から、前記DNA(o)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(p)として、配列番号58で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上320個以下、好ましくは1個以上240個以下、より好ましくは1個以上160個以下、好ましくは1個以上112個以下、より好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上48個以下、より好ましくは1個以上32個以下、より好ましくは1個以上16個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(O)又は(P)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(p)として、前記DNA(o)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(O)又は(P)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(p)として、前記DNA(o)又は(p)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0048】
前記DNA(r)において、KAS活性の点から、前記DNA(q)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がより好ましい。また前記DNA(r)として、配列番号59で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上296個以下、好ましくは1個以上222個以下、より好ましくは1個以上148個以下、好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(Q)又は(R)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(r)として、前記DNA(q)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(Q)又は(R)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(r)として、前記DNA(q)又は(r)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0049】
本発明で使用することができるKAS遺伝子として列挙した前述の各種植物由来のKAS II遺伝子間の塩基配列の同一性を、表3にまとめて示す。
【0050】
【表3】
【0051】
KAS遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号60〜68のいずれか1つで表されるアミノ酸配列又は配列番号51〜59のいずれか1つで表される塩基配列に基づいて、KAS遺伝子を人工的に合成できる。KAS遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物のゲノムからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、配列番号51〜59のいずれか1つで表される塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。
また本発明で用いるKAS遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のKAS遺伝子を組合せて用いてもよい。
【0052】
本発明の形質転換体は、中鎖脂肪酸を蓄積しない植物由来のKAS遺伝子に加えて、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子(以下、「TE遺伝子」ともいう)の発現も促進されている。
TEは、KAS等の脂肪酸合成酵素によって合成されたアシル-ACPのチオエステル結合を加水分解し、遊離の脂肪酸を生成する酵素である。TEの作用によってACP上での脂肪酸合成が終了し、切り出された脂肪酸はトリアシルグリセロール等の合成に供される。
本発明で用いることができるTEは、アシル-ACPチオエステラーゼ活性(以下、「TE活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「TE活性」とは、アシル-ACPのチオエステル結合を加水分解する活性をいう。
【0053】
TEは、基質であるアシル-ACPを構成するアシル基(脂肪酸残基)の炭素原子数や不飽和結合数によって異なる反応特異性を示す複数のTEが存在していることが知られている。よってTEは、生体内での脂肪酸組成を決定する重要なファクターであると考えられている。また、TEをコードする遺伝子を元来有していない宿主を用いる場合、TEをコードする遺伝子の発現の促進が必要となる。また、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子の発現を促進させることにより、中鎖脂肪酸の生産性が向上する。
【0054】
本発明で用いる、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEは、通常のTEや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。
例えば、Cuphea calophylla subsp. mesostemon由来のTE(GenBank ABB71581);Cinnamomum camphora由来のTE(GenBank AAC49151.1);Myristica fragrans由来のTE(GenBank AAB71729);Myristica fragrans由来のTE(GenBank AAB71730);Cuphea lanceolata由来のTE(GenBank CAA54060);Cuphea hookeriana由来のTE(GenBank Q39513);Ulumus americana由来のTE(GenBank AAB71731);Sorghum bicolor由来のTE(GenBank EER87824);Sorghum bicolor由来のTE(GenBank EER88593);Cocos nucifera由来のTE(CnFatB1:BMC Biochemistry 2011, 12:44参照);Cocos nucifera由来のTE(CnFatB2:BMC Biochemistry, 2011, 12:44参照);Cuphea viscosissima由来のTE(CvFatB1:BMC Biochemistry, 2011, 12:44参照);Cuphea viscosissima由来のTE(CvFatB2:BMC Biochemistry 2011, 12:44参照);Cuphea viscosissima由来のTE(CvFatB3:BMC Biochemistry 2011, 12:44参照);Elaeis guineensis由来のTE(GenBank AAD42220);Desulfovibrio vulgaris由来のTE(GenBank ACL08376);Bacteriodes fragilis由来のTE(GenBank CAH09236);Parabacteriodes distasonis由来のTE(GenBank ABR43801);Bacteroides thetaiotaomicron由来のTE(GenBank AAO77182);Clostridium asparagiforme由来のTE(GenBank EEG55387);Bryanthella formatexigens由来のTE(GenBank EET61113);Geobacillus sp.由来のTE(GenBank EDV77528);Streptococcus dysgalactiae由来のTE(GenBank BAH81730);Lactobacillus brevis由来のTE(GenBank ABJ63754);Lactobacillus plantarum由来のTE(GenBank CAD63310);Anaerococcus tetradius由来のTE(GenBank EEI82564);Bdellovibrio bacteriovorus由来のTE(GenBank CAE80300);Clostridium thermocellum由来のTE(GenBank ABN54268);ココヤシ(Cocos nucifera)由来のTE(以下、「CTE」ともいう)(配列番号69、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号70);ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)由来のTE(以下、「NoTE」ともいう)(配列番号71、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号72);カリフォルニア・ベイ(Umbellularia californica)由来のTE(以下、「BTE」ともいう)(配列番号73、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号74);ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)由来のTE(以下、「NgaTE」ともいう)(配列番号75、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号76);ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)由来のTE(以下、「NgrTE」ともいう)(配列番号77、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号78);シンビオディニウム・ミクロアドリアチカム(Symbiodinium microadriaticum)由来のTE(以下、「SmTE」ともいう)(配列番号79、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号80)、等が挙げられる。
また、これらと機能的に均等なタンパク質として、上述したいずれか1つのTEのアミノ酸配列と同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)のアミノ酸配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質も用いることができる。あるいは、上述したいずれかの1つのTEのアミノ酸配列に1又は数個(例えば1個以上149個以下、好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質も用いることができる。
【0055】
上述したTEの中でも、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性の観点から、CTE(配列番号69)、NoTE(配列番号71)、BTE(配列番号73)、NgaTE(配列番号75)、NgrTE(配列番号77)、若しくはSmTE(配列番号79)、これらTEのいずれか1つのアミノ酸配列と同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)のアミノ酸配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質、又はこれらTEのいずれか1つのアミノ酸配列に1若しくは数個(例えば1個以上149個以下、好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質が好ましい。植物細胞を宿主とする場合には、CTE(配列番号69)若しくはBTE(配列番号73)、これらTEのいずれか1つのアミノ酸配列と同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)のアミノ酸配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質、又はこれらTEのいずれか1つのアミノ酸配列に1若しくは数個(例えば1個以上149個以下、好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質がより好ましい。
【0056】
本発明で用いるTE遺伝子としては、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性の観点から、CTE遺伝子(配列番号70)、NoTE遺伝子(配列番号72)、BTE遺伝子(配列番号74)、NgaTE遺伝子(配列番号76)、NgrTE遺伝子(配列番号78)、若しくはSmTE遺伝子(配列番号80)、これらTE遺伝子のいずれか1つの塩基配列と同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)の塩基配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、これらTE遺伝子のいずれか1つの塩基配列に1若しくは数個(例えば1個以上447個以下、好ましくは1個以上358個以下、より好ましくは1個以上313個以下、より好ましくは1個以上268個以下、より好ましくは1個以上224個以下、より好ましくは1個以上179個以下、より好ましくは1個以上134個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上45個以下)の塩基配列が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、又はこれらTE遺伝子のいずれか1つの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、が好ましい。植物細胞を宿主とする場合には、CTE遺伝子(配列番号70)若しくはBTE遺伝子(配列番号74)、これらTE遺伝子のいずれか1つの塩基配列と同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)の塩基配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、これらTE遺伝子のいずれか1つの塩基配列に1又は数個(例えば1個以上447個以下、好ましくは1個以上358個以下、より好ましくは1個以上313個以下、より好ましくは1個以上268個以下、より好ましくは1個以上224個以下、より好ましくは1個以上179個以下、より好ましくは1個以上134個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上45個以下)の塩基配列が欠失、置換、挿入又は付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、又はこれらTE遺伝子のいずれか1つの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、がより好ましい。
【0057】
前記TE及びそれをコードする遺伝子の配列情報等は、例えば、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)などから入手することができる。
【0058】
タンパク質がTE活性を有することは、例えば、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結したDNAを脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件で培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化をガスクロマトグラフィー解析等の方法を用いて分析することにより、確認することができる。
また、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、Yuanらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995, vol. 92(23), p. 10639-10643)によって調製した各種アシル-ACPを基質とした反応を行うことにより、TE活性を測定することができる。
【0059】
前記KAS遺伝子及びTE遺伝子の発現を促進させる方法としては、常法より適宜選択することができる。例えば、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子を宿主に導入する方法、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域(プロモーター、ターミネーター等)を改変する方法、などが挙げられる。なかでも、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子をそれぞれ宿主に導入し、KAS遺伝子及びTE遺伝子の発現を促進させる方法が好ましい。
以下本明細書において、宿主に前記処理を施すことによって、目的のタンパク質(KAS及びTE)それぞれをコードする遺伝子(KAS遺伝子及びTE遺伝子)の発現を促進させたものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
本発明の形質転換体は、宿主又は野生株自体に比べ、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性、特に、生産される全脂肪酸又は全脂質に占める中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の割合が有意に向上する。またその結果、当該形質転換体では、脂質中の脂肪酸組成が改変される。そのため、当該形質転換体を用いた本発明は、特定の炭素原子数の脂質、特に中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質、好ましくは炭素原子数6以上14以下の脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数8以上14以下の脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数が10以上14以下の脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数が10、12、若しくは14の脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数が10、12、若しくは14の飽和脂肪酸(カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)又はこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数が12若しくは14の飽和脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸)又はこれを構成成分とする脂質、より好ましくはラウリン酸又はこれを構成成分とする脂質、の生産に好適に用いることができる。
なお、宿主や形質転換体の脂肪酸及び脂質の生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
【0060】
本発明の形質転換体は、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子を常法により前記宿主に導入することで得られる。具体的には、前記遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる組換えベクターや遺伝子発現カセットを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製できる。
【0061】
形質転換体の宿主としては通常用いられるものより適宜選択することができる。本発明で用いることができる宿主としては、微生物(藻類や微細藻類を含む)、植物細胞、及び動物細胞が挙げられる。製造効率及び得られた脂質の利用性の点から、宿主は微生物又は植物細胞であることが好ましく、植物細胞であることがより好ましい。
前記微生物は原核生物、真核生物のいずれであってもよく、エシェリキア(Escherichia)属の微生物やバシラス(Bacillus)属の微生物、シネコシスティス(Synechocystis)属の微生物、シネココッカス(Synechococcus)属の微生物等の原核生物、又は酵母や糸状菌等の真核微生物を用いることができる。なかでも、脂質生産性の観点から、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、赤色酵母(Rhodosporidium toruloides)、又はモルチエレラ・エスピー(Mortierella sp.)が好ましく、大腸菌がより好ましい。
前記藻類や微細藻類としては、遺伝子組換え手法が確立している観点から、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類、クロレラ(Chlorella)属の藻類、ファエオダクティラム(Phaeodactylum)属の藻類、又はナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の藻類が好ましく、ナンノクロロプシス属の藻類がより好ましい。
前記植物体としては、種子に脂質を高含有する観点から、シロイヌナズナ、西洋アブラナ(Brassica napus)、アブラナ、ココヤシ、パーム(Elaeis guineensis)、クフェア、ダイズ、トウモロコシ、イネ、ヒマワリ、クスノキ(Cinnamomum camphora)、又はヤトロファが好ましく、シロイヌナズナがより好ましい。
【0062】
遺伝子発現用プラスミド又は遺伝子発現用カセットの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で目的の遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、使用する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
本発明で好ましく用いることができる発現用ベクターとしては、微生物を宿主とする場合には、例えば、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pUC系ベクター(宝酒造社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(1986, Plasmid 15(2), p. 93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、及びpMW218/219(ニッポンジーン社製)が挙げられる。特に、宿主が大腸菌の場合は、pBluescript II SK(-)、又はpMW218/219が好ましく用いられる。
藻類又は微細藻類を宿主とする場合には、例えば、pUC19(タカラバイオ社製)、P66(Chlamydomonas Center)、P-322(Chlamydomonas Center)、pPha-T1(Journal of Basic Microbiology, 2011, vol. 51, p. 666-672参照)、又はpJET1(コスモ・バイオ社製)が挙げられる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合は、pUC19、pPha-T1、又はpJET1が好ましく用いられる。また、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合には、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52)の記載の方法を参考にして、目的の遺伝子、プロモーター及びターミネーターからなるDNA断片(遺伝子発現カセット)を用いて宿主を形質転換することもできる。
植物細胞を宿主とする場合には、例えば、pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、及びIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。特に、宿主がシロイヌナズナなどの植物細胞の場合は、pRI系ベクター又はpBI系ベクターが好ましく用いられる。
【0063】
また、前記発現ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、Rubiscoオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質(psaAB)、PSIIのD1タンパク質(psbA)、c-phycocyanin βサブユニット(cpcB)、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター(例えば、チューブリンプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター等)、西洋アブラナ又はアブラナ由来Napin遺伝子プロモーター、植物由来Rubiscoプロモーター、ナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52))、及びナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP(lipid droplet surface protein)遺伝子のプロモーター(PLOS Genetics, 2012; 8(11): e1003064. doi: 10. 1371)が挙げられる。本発明で宿主としてシロイヌナズナなどの植物細胞を用いる場合、西洋アブラナ又はアブラナ由来Napin遺伝子プロモーターを好ましく用いることができる。
また、目的のタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。
【0064】
目的のタンパク質をコードする遺伝子の前記ベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
また、形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。例えば、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法等が挙げられる。
【0065】
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
【0066】
前記KAS遺伝子及びTE遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域を改変して、前記遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
「発現調節領域」とは、プロモーターやターミネーターを示し、これらの配列は一般に隣接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に前記KAS遺伝子又はTE遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して前記KAS遺伝子及びTE遺伝子それぞれの発現を促進させることで、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させることができる。
【0067】
発現調節領域の改変方法としては、例えばプロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に前記KAS遺伝子及びTE遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子それぞれの発現を促進させることができる。
プロモーターの入れ替えに用いるプロモーターとしては特に限定されず、KAS遺伝子及びTE遺伝子のプロモーターよりも転写活性が高く、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産に適したものから適宜選択することができる。
【0068】
前述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの常法に従い行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片と置換され、プロモーターを改変することができる。
このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Methods in molecular biology,1995, vol. 47, p. 291-302等の文献を参考に行うことができる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52)等の文献を参考にして、相同組換え法によりゲノム中の特定の領域を改変することができる。
【0069】
本発明の形質転換体は、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子に加えて、アシル−CoAシンテターゼ(以下、単に「ACS」ともいう)、ACP、アシル基転移酵素(以下、単に「AT」ともいう)などの脂肪酸合成関連タンパク質をコードする遺伝子の発現も促進されていることが好ましい。
脂肪酸合成関連タンパク質のうち、ACSは、生合成された脂肪酸(遊離脂肪酸)にCoAを付加し、アシル−CoAの生成に関与するタンパク質である。ACPは脂肪酸の生合成反応(脂肪酸の伸長反応)の足場(担体)として機能する。脂肪酸のアシル基は、ACPのセリン残基に結合したホスホパンテテイン基とチオエステル結合を形成する。この状態で脂肪酸が伸長される。ATは、グリセロール3リン酸、リゾホスファチジン酸、ジアシルグリセロールなどのグリセロール化合物のアシル化を触媒するタンパク質である。遊離脂肪酸にCoAが結合した脂肪酸アシルCoA、又はアシルACPは、各種ATによってグリセロール骨格へと取り込まれ、グリセロール1分子に対して脂肪酸3分子がエステル結合してなるトリアシルグリセロールとして蓄積される。
そのため、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子に加えて、ACP、AT、ACS(好ましくは、中鎖脂肪酸に対する特異性を有するACP、AT、ACS)などの脂肪酸合成関連タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進することで、脂質の製造に用いる形質転換体の脂質の生産性、特に脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
【0070】
前述の脂肪酸合成関連タンパク質のアミノ酸配列情報、並びにこれらをコードする遺伝子の配列情報等は、例えば、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)などから入手することができる。
また、脂肪酸合成関連タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、常法により作製できる。例えば、前述のKAS遺伝子及びTE遺伝子の発現を促進させる方法と同様、前記各種遺伝子を宿主に導入する方法、前記各種遺伝子をゲノム上に有する宿主において当該遺伝子の発現調節領域を改変する方法、などにより形質転換体を作製することができる。
【0071】
本発明の形質転換体は、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性が、前記KAS遺伝子及びTE遺伝子の発現が促進されていない宿主と比較して向上している。したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養又は栽培し、次いで得られた培養物又は生育物から中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を回収すれば、中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を効率よく製造することができる。
ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいい、「生育物」とは生育した後の形質転換体をいう。
【0072】
本発明の形質転換体の培養条件は、形質転換体の宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培養条件を使用できる。また脂肪酸の生産効率の点から、培地中に、例えば脂肪酸生合成系に関与する前駆物質としてグリセロール、酢酸、又はマロン酸等を添加してもよい。
大腸菌を宿主として用いる場合、形質転換体の培養は、例えば、LB培地又はOvernight Express Instant TB Medium(Novagen社)で、30〜37℃、0.5〜1日間培養することができる。
また、シロイヌナズナを宿主として用いる場合、形質転換体の培養は、例えば、土壌で温度条件20〜25℃、白色光を連続照射又は明期16時間・暗期8時間等の光条件下で1〜2か月間栽培することができる。
藻類を宿主として用いる場合、培地は天然海水又は人工海水をベースにしたものを使用してもよいし、市販の培養培地を使用してもよい。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上のため、培地に、窒素源、リン源、金属塩、ビタミン類、微量金属等を適宜添加することができる。培地に接種する形質転換体の量は適宜選択することができ、生育性の点から培地当り1〜50%(vol/vol)が好ましい。培養温度は、藻類の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、通常、5〜40℃の範囲である。また藻類の培養は、光合成ができるよう光照射下で行うことが好ましい。また藻類の培養は、光合成ができるように二酸化炭素を含む気体の存在下、又は炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を含む培地で行うことが好ましい。なお形質転換体の培養は、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養のいずれでもよく、通気性の向上の観点から、通気撹拌培養又は振とう培養が好ましく、通気撹拌培養がより好ましい。
【0073】
培養物又は生育物から脂質を採取する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前述の培養物、生育物又は形質転換体から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、又はエタノール抽出法等により脂質成分を単離、回収することができる。より大規模な培養を行った場合は、培養物、生育物又は形質転換体より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、脂質を得ることができる。このように脂質成分を単離した後、単離した脂質を加水分解することで脂肪酸を得ることができる。脂質成分から脂肪酸を単離する方法としては、例えば、アルカリ溶液中で70℃程度の高温で処理をする方法、リパーゼ処理をする方法、又は高圧熱水を用いて分解する方法等が挙げられる。
【0074】
本発明の製造方法において製造される脂質は、その利用性の点から、遊離脂肪酸、又は脂肪酸残基を有する単純脂質若しくは複合脂質を含んでいることが好ましく、遊離脂肪酸、又はエステル結合を介した脂肪酸残基を有する単純脂質若しくは複合脂質(以下、脂肪酸エステル化合物という場合がある)を含んでいることがさらに好ましい。
脂質中に含まれる遊離脂肪酸又は脂肪酸エステル化合物は、界面活性剤等への利用性の観点から、遊離中鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物が好ましく、炭素原子数が6以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数が8以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数が10以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数が10、12、若しくは14の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数が10、12、若しくは14の遊離飽和脂肪酸(カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数が12若しくは14の遊離飽和脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、ラウリン酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましい。
脂肪酸エステル化合物は、生産性の点から、単純脂質がさらに好ましく、トリアシルグリセロールがさらにより好ましい。
【0075】
本発明の製造方法により得られる脂質は、食用として用いる他、可塑剤、化粧品等の乳化剤、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、毛髪リンス剤、又は殺菌剤や防腐剤として利用することができる。
【0076】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の脂質の製造方法、生産される脂肪酸の組成を改変する方法、形質転換体、形質転換体の作製方法、タンパク質、遺伝子、及び組換えベクターを開示する。
【0077】
<1>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子の発現を促進させた形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
<2>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子の発現を促進させ、形質転換体の細胞内で生産される中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法。
<3>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子の発現を促進させて、形質転換体の細胞内で生産される全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合を増加させる、脂肪酸組成を改変する方法。
<4>前記KAS遺伝子及び前記TE遺伝子を宿主に導入して前記遺伝子の発現を促進させる、前記<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法。
【0078】
<5>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子を導入した形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
<6>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子を導入した形質転換体を培養し、生産される中鎖脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法。
<7>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子を導入した形質転換体を培養し、生産される全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合を増加させる、脂肪酸組成を改変する方法。
【0079】
<8>前記植物が、炭素原子数8以上14以下の遊離脂肪酸及び脂肪酸残基からみなされる脂肪酸、の脂肪酸量の割合の合計が、種子又は果肉脂質中に含まれる全脂肪酸量の10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、である植物である、前記<1>〜<7>項記載の方法。
<9>前記植物が、炭素原子数16以上24以下の遊離脂肪酸、及びその脂肪酸残基からみなされる脂肪酸の脂肪酸量の割合の合計が、種子又は果肉脂質中に含まれる全脂肪酸量の60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、である植物である、前記<1>〜<8>項記載の方法。
<10>前記植物が、トウダイグサ科の植物、アブラナ科の植物、マメ科の植物、イネ科の植物、ブドウ科の植物、キク科の植物、アマ科の植物、アオイ科の植物、ゴマ科の植物、及びモクセイ科の植物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物、好ましくはヤトロファ、ヒマ、シロイヌナズナ、アブラナ、ダイズ、トウモロコシ、ヨーロッパブドウ、カメリナ、ヒマワリ、アマ、ベニバナ、ラッカセイ、ワタ属、ゴマ、イネ、及びオリーブからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物、より好ましくはヤトロファ、ヒマ、シロイヌナズナ、アブラナ、ダイズ、トウモロコシ、ヨーロッパブドウ、カメリナ、及びヒマワリからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物、である、前記<1>〜<9>項記載の方法。
【0080】
<11>前記KASがKAS IIである、前記<1>〜<10>のいずれか1項記載の方法。
<12>前記KASが、下記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つである、前記<1>〜<11>項のいずれか1項記載の方法。
(A)配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(C)配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(G)配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(I)配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(K)配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(M)配列番号66で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(O)配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号68で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
【0081】
<13>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上8個以下、より好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<14>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上39個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<15>前記タンパク質(F)が、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上82個以下、より好ましくは1個以上55個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<16>前記タンパク質(H)が、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上82個以下、より好ましくは1個以上55個以下、より好ましくは1個以上39個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<17>前記タンパク質(J)が、前記タンパク質(I)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上49個以下、より好ましくは1個以上35個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上15個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<18>前記タンパク質(L)が、前記タンパク質(K)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<19>前記タンパク質(N)が、前記タンパク質(M)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上39個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<20>前記タンパク質(P)が、前記タンパク質(O)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上54個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上27個以下、より好ましくは1個以上16個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<21>前記タンパク質(R)が、前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上35個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上15個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
【0082】
<22>前記KAS、好ましくは前記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子である、前記<1>〜<21>のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号51で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号52で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号53で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号54で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(i)配列番号55で表される塩基配列からなるDNA。
(j)前記DNA(i)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号56で表される塩基配列からなるDNA。
(l)前記DNA(k)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(m)配列番号57で表される塩基配列からなるDNA。
(n)前記DNA(m)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号58で表される塩基配列からなるDNA。
(p)前記DNA(o)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(q)配列番号59で表される塩基配列からなるDNA。
(r)前記DNA(q)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0083】
<23>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上250個以下、より好ましくは1個以上181個以下、より好ましくは1個以上121個以下、好ましくは1個以上85個以下、より好ましくは1個以上61個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上13個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードするDNA、又は前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)若しくは(B)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<24>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上333個以下、より好ましくは1個以上250個以下、より好ましくは1個以上167個以下、好ましくは1個以上117個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上17個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)若しくは(D)をコードするDNA、又は前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)若しくは(D)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<25>前記DNA(f)が、前記DNA(e)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上326個以下、より好ましくは1個以上244個以下、より好ましくは1個以上163個以下、好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上82個以下、より好ましくは1個以上49個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上17個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)若しくは(F)をコードするDNA、又は前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)若しくは(F)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<26>前記DNA(h)が、前記DNA(g)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上329個以下、より好ましくは1個以上247個以下、より好ましくは1個以上165個以下、好ましくは1個以上115個以下、より好ましくは1個以上83個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上17個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)若しくは(H)をコードするDNA、又は前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)若しくは(H)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<27>前記DNA(j)が、前記DNA(i)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上294個以下、より好ましくは1個以上221個以下、より好ましくは1個以上147個以下、好ましくは1個以上103個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(I)若しくは(J)をコードするDNA、又は前記DNA(i)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(I)若しくは(J)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<28>前記DNA(l)が、前記DNA(k)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上278個以下、より好ましくは1個以上208個以下、より好ましくは1個以上139個以下、好ましくは1個以上98個以下、より好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(K)若しくは(L)をコードするDNA、又は前記DNA(k)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(K)若しくは(L)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<29>前記DNA(n)が、前記DNA(m)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上334個以下、より好ましくは1個以上251個以下、より好ましくは1個以上167個以下、好ましくは1個以上117個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上17個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(M)若しくは(N)をコードするDNA、又は前記DNA(m)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(M)若しくは(N)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<30>前記DNA(p)が、前記DNA(o)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上320個以下、より好ましくは1個以上240個以下、より好ましくは1個以上160個以下、好ましくは1個以上112個以下、より好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上48個以下、より好ましくは1個以上32個以下、より好ましくは1個以上16個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(O)若しくは(P)をコードするDNA、又は前記DNA(o)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(O)若しくは(P)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
<31>前記DNA(r)が、前記DNA(q)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上296個以下、より好ましくは1個以上222個以下、より好ましくは1個以上148個以下、好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(Q)若しくは(R)をコードするDNA、又は前記DNA(q)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(Q)若しくは(R)をコードするDNA、である、前記<22>項記載の方法。
【0084】
<32>前記TEが、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEである、前記<1>〜<31>のいずれか1項記載の方法。
<33>前記TEが、配列番号69、配列番号71、配列番号73、配列番号75、配列番号77若しくは配列番号79(好ましくは、配列番号69若しくは配列番号73)で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、当該タンパク質のアミノ酸配列との同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)のアミノ酸配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質、又は、当該タンパク質のアミノ酸配列に1若しくは数個(好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質、である、前記<1>〜<32>のいずれか1項記載の方法。
<34>前記TEをコードする遺伝子が、配列番号70、配列番号72、配列番号74、配列番号76、配列番号78若しくは配列番号80(好ましくは配列番号70若しくは配列番号74)で表される塩基配列からなるDNA、当該DNAのいずれか1つの塩基配列と同一性が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)の塩基配列からなり、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNA、当該DNAのいずれか1つの塩基配列に1若しくは数個(好ましくは1個以上447個以下、より好ましくは1個以上358個以下、より好ましくは1個以上313個以下、より好ましくは1個以上268個以下、より好ましくは1個以上224個以下、より好ましくは1個以上179個以下、より好ましくは1個以上134個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上45個以下)の塩基配列が欠失、置換、挿入若しくは付加され、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は当該DNAのいずれか1つの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ中鎖アシル-ACPに対するTE活性を有するタンパク質をコードするDNA、からなる遺伝子である、前記<1>〜<33>のいずれか1項記載の方法。
【0085】
<35>前記形質転換体が、微生物又は植物の形質転換体、好ましくは植物の形質転換体、である、前記<1>〜<34>のいずれか1項記載の方法。
<36>前記形質転換植物が、シロイヌナズナ、西洋アブラナ、アブラナ、ココヤシ、パーム、クフェア、ダイズ、トウモロコシ、イネ、ヒマワリ、クスノキ、又はヤトロファ、好ましくはシロイヌナズナ、である、前記<35>項記載の方法。
<37>アグロバクテリウムを用いて前記KASをコードする遺伝子を宿主としてのシロイヌナズナに導入し、前記形質転換体を作製した、前記<36>項記載の方法。
<38>形質転換体が生産した脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を前記植物の種子から採取する、前記<36>又は<37>項記載の方法。
<39>前記脂質が、遊離中鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、好ましくは炭素原子数が6以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が8以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が10以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が10、12、若しくは14の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が10、12、若しくは14の遊離飽和脂肪酸(カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が12若しくは14の遊離飽和脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくはラウリン酸又はその脂肪酸エステル化合物、を含む、前記<1>〜<38>のいずれか1項記載の方法。
【0086】
<40>前記タンパク質(A)〜(R)。
<41>前記<40>項記載のタンパク質をコードする遺伝子。
<42>前記DNA(a)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子。
<43>前記<41>又は<42>項記載の遺伝子を含有する、組換えベクター又はDNAカセット。
【0087】
<44>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子を含んでなる、形質転換体。
<45>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子の発現が促進している、形質転換体。
<46>中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS遺伝子、及び中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子を導入する、形質転換体の作製方法。
<47>前記植物が、炭素原子数8以上14以下の遊離脂肪酸及び脂肪酸残基からみなされる脂肪酸、の脂肪酸量の割合の合計が、種子又は果肉脂質中に含まれる全脂肪酸量の10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、である植物である、前記<44>〜<46>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<48>前記植物が、炭素原子数16以上24以下の遊離脂肪酸、及びその脂肪酸残基からみなされる脂肪酸の脂肪酸量の割合の合計が、種子又は果肉脂質中に含まれる全脂肪酸量の60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、である植物である、前記<44>〜<47>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<49>前記植物が、トウダイグサ科の植物、アブラナ科の植物、マメ科の植物、イネ科の植物、ブドウ科の植物、キク科の植物、アマ科の植物、アオイ科の植物、ゴマ科の植物、及びモクセイ科の植物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物、好ましくはヤトロファ、ヒマ、シロイヌナズナ、アブラナ、ダイズ、トウモロコシ、ヨーロッパブドウ、カメリナ、ヒマワリ、アマ、ベニバナ、ラッカセイ、ワタ属、ゴマ、イネ、及びオリーブからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物、より好ましくはヤトロファ、ヒマ、シロイヌナズナ、アブラナ、ダイズ、トウモロコシ、ヨーロッパブドウ、カメリナ、及びヒマワリからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物、である、前記<44>〜<48>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<50>前記KASがKAS IIである、前記<44>〜<49>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<51>前記KASが、前記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つである、前記<44>〜<50>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<52>前記KAS、好ましくは前記タンパク質(A)〜(R)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、前記DNA(a)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子である、前記<44>〜<51>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<53>前記TEが、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEである、前記<44>〜<52>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<54>前記TEが、前記<33>項で規定するタンパク質である、前記<44>〜<53>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<55>前記TEをコードする遺伝子が、前記<34>項で規定する遺伝子である、前記<44>〜<54>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<56>微生物又は植物の形質転換体、好ましくは植物の形質転換体、である、前記<44>〜<55>のいずれか1項記載の形質転換体又はその作製方法。
<57>前記形質転換植物が、シロイヌナズナ、西洋アブラナ、アブラナ、ココヤシ、パーム、クフェア、ダイズ、トウモロコシ、イネ、ヒマワリ、クスノキ、又はヤトロファ、好ましくはシロイヌナズナ、である、前記<56>項記載の形質転換体又はその作製方法。
【0088】
<58>脂質を製造するための、前記<40>〜<57>のいずれか1項記載のタンパク質、遺伝子、組換えベクター若しくはDNAカセット、形質転換体、又は形質転換体の作製方法により作製した形質転換体の使用。
<59>前記脂質が、遊離中鎖脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、好ましくは炭素原子数が6以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が8以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が10以上14以下の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が10、12、若しくは14の遊離脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が10、12、若しくは14の遊離飽和脂肪酸(カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が12若しくは14の遊離飽和脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくはラウリン酸又はその脂肪酸エステル化合物、を含む、前記<58>項記載の使用。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ここで、本実施例で用いるプライマーの塩基配列を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
(調製例1)植物組織からのRNA抽出とcDNAの合成
シロイヌナズナ及びアブラナの各植物組織を液体窒素で凍結し、乳鉢と乳棒を用いて破砕した。破砕した組織に対してFruit Mate(タカラバイオ)とRNAiso plus(タカラバイオ)を適用し、RNAを精製した。PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ社製)を用いて、得られたRNAからcDNAを調製した。
【0092】
(調製例2)ココヤシ由来のTE遺伝子発現用プラスミドの構築
アブラナ由来のNapin遺伝子プロモーター(配列番号46)を茨城県潮来市で採取した野生のアブラナ様植物より取得した。さらに、アブラナ由来のNapin遺伝子ターミネーター(配列番号47)を栃木県益子町より採取した野生のアブラナ様植物より取得した。
野生のアブラナ様植物よりPowerPlant DNA Isolation Kit(商品名、MO BIO Laboratories, USA)を用いてゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAをテンプレートとし、PrimeSTAR(商品名、タカラバイオ社製)を用いてPCRを行い、Napin遺伝子のプロモーターとターミネーターをそれぞれ増幅した。具体的には、表1に示すプライマー番号1及びプライマー番号2を用いてPCRを行い、Napin遺伝子のプロモーターを増幅した。また、表1に示すプライマー番号3及びプライマー番号4を用いてPCRを行い、Napin遺伝子のターミネーターを増幅した。
増幅を確認したPCR産物をテンプレートとし、Napin遺伝子プロモーターは表1に示すプライマー番号5及びプライマー番号6を、Napin遺伝子ターミネーターは表1に示すプライマー番号3及びプライマー番号7を用いて、それぞれ再度 PCRを行った。このようにして、Napin遺伝子のプロモーター配列の断片(Pnapin、配列番号46)と、Napin遺伝子のターミネーター配列の断片(Tnapin、配列番号47)をそれぞれ作製した。
増幅した遺伝子断片(Pnapin、Tnapin)をそれぞれMighty TA-cloning Kit(商品名、タカラバイオ社製)で処理した後、pMD20-T vector(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入した。このようにして、Napin遺伝子のプロモーターを含むプラスミドpPNapin1、及びNapin遺伝子ターミネーターを含むプラスミドpTNapin1をそれぞれ構築した。
【0093】
前記プラスミドpPNapin1をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマー番号8及びプライマー番号9を用いてPCR を行い、両末端に制限酵素認識配列を付加した遺伝子断片を増幅した。また、前記プラスミドpTNapin1をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマー番号10及びプライマー番号11を用いてPCRを行い、両末端に制限酵素認識配列を付加した遺伝子断片を増幅した。
増幅した遺伝子断片は、Mighty TA-cloning Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて処理した後、pMD20-T vectorにライゲーション反応により挿入し、プラスミド pPNapin2及びpTNapin2をそれぞれ構築した。プラスミドpPNapin2を制限酵素SalIとNotIで、pTNapin2を制限酵素SmaIとNotIでそれぞれ処理し、SalIとSmaIで処理したpRI909ベクター(タカラバイオ社製)にライゲーション反応で連結し、プラスミドp909PTnapin を構築した。
【0094】
BTE(配列番号73)の葉緑体移行シグナルペプチド(配列番号73の1〜85位)をコードする遺伝子(配列番号74の1〜255位)を、Invitrogen(Carlsbad, California)の提供する受託合成サービスを利用して取得した。取得した配列を含むプラスミドをテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマー番号12及びプライマー番号13を用いてPCRを行い、シグナルペプチドをコードする遺伝子断片を増幅した。Mighty TA-cloning Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて増幅した遺伝子断片の両末端にデオキシアデニン(dA)を付加した後、pMD20-T vector(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入し、プラスミドpSignalを構築した。構築したpSignalを制限酵素NotIで処理し、プラスミドp909PTnapinのNotIサイトとライゲーション反応で連結し、プラスミドp909PTnapin-Sを得た。
【0095】
ココヤシ胚乳由来のRNAより作製したcDNAをテンプレートとし、PrimeSTAR MAX(商品名、タカラバイオ社製)、並びに表1に示すプライマー番号14及びプライマー番号15を用いてPCRを行い、CTE遺伝子断片を増幅した。
また、前記p909PTnapin-Sをテンプレートとし、表1に示すプライマー番号16及びプライマー番号17を用いてPCRを行い、p909PTnapin-Sを直鎖状断片として増幅した。
【0096】
前記CTE遺伝子断片と直鎖状のp909PTnapin-S断片とを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(商品名、クロンテック社製)を用いてIn-fusion反応により連結し、プラスミドp909CTEを構築した。
このプラスミドは、アブラナ由来のNapin遺伝子プロモーターにより発現が制御され、BTE由来の葉緑体移行シグナルペプチドによって葉緑体へと移行するCTEをコードする遺伝子の塩基配列(以下、「BTEsignal-CTE」とも略記する、配列番号48)が、植物導入用プラスミドp909CTEに導入されている。
【0097】
(調製例3)各種KAS遺伝子発現用プラスミドの構築
NCBIのGene Bankで開示された形質転換用ベクターpYW310(ACCESSION NO. DQ469641)の配列を参考に、ストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)由来のホスフィノトリシンアセチル転移酵素をコードするビアラフォス耐性遺伝子(以下、「Bar遺伝子」ともいう、配列番号49)をGene Script社の提供する受託合成サービスを利用して取得した。
合成したBar遺伝子をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマー番号18及びプライマー番号19を用いてPCRを行い、Bar遺伝子断片を増幅した。一方pRI909をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマー番号20及びプライマー番号21を用いてPCRを行い、pRI909ベクターからカナマイシン耐性遺伝子を除いた領域を増幅した。
増幅したこれらの遺伝子断片をNdeI及びSpeIで処理し、ライゲーション反応で連結して、ベクターpRI909が本来保持するカナマイシン耐性遺伝子をBar遺伝子に置換したプラスミドpRI909Barを構築した。
【0098】
NCBIのGene Bankで開示された西洋アブラナのNapin遺伝子のプロモーター(ACCESSION NO. EU416279)の配列を参考に、西洋アブラナの種子で発現する強力なプロモーター(以下、「西洋アブラナのNapin Promoter」ともいう、配列番号50)遺伝子をGene Script社の提供する受託合成サービスを利用して取得した。合成した西洋アブラナのNapin Promoter遺伝子をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号22及びプライマー番号23を用いてPCRを行い、西洋アブラナのNapin Promoterを増幅した。
また、pRI909Barをテンプレートとし、表1に示すプライマー番号24及びプライマー番号25を用いてPCRを行い、pRI909Bar断片を増幅した。
さらに、プラスミドp909CTEをテンプレートとし、表1に示すプライマー番号26及びプライマー番号27を用いてPCRを行い、CTE-Tnapin配列を増幅した。
これらをIn-fusion反応により連結し、プラスミドp909Pnapus-CTE-Tnapinを構築した。
【0099】
プラスミドp909Pnapus-CTE-Tnapinをテンプレートとし、表1に示すプライマー番号28及びプライマー番号29を用いてPCRを行い、遺伝子断片を増幅した。
増幅した遺伝子断片を用いて、下記に示す方法に従い、In-fusion反応で各種植物由来のKASのPCR断片を連結させたプラスミドを作製した。
【0100】
(1)ヤトロファ由来KAS(JcKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、ヤトロファ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号81及びプライマー番号82を用いてPCRを行い、JcKASII遺伝子断片(配列番号51)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-JcKASII-Tnapinを構築した。
【0101】
(2)ヒマ由来KAS(RiKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、ヒマ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号44及びプライマー番号45を用いてPCRを行い、RiKASII遺伝子断片(配列番号52)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-RiKASII-Tnapinを構築した。
【0102】
(3)シロイヌナズナ由来KAS(AtKASII)
調製例1で作製したシロイヌナズナ由来のcDNAをテンプレートとし、表1に示すプライマー番号30及びプライマー番号31を用いてPCRを行い、AtKASII遺伝子断片(配列番号53)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-AtKASSII-Tnapinを構築した。
【0103】
(4)アブラナ由来KAS(BrKASII)
調製例1で作製したアブラナ由来cDNAをテンプレートとし、表1に示すプライマー番号32及びプライマー番号33を用いてPCRを行い、BrKASII遺伝子断片(配列番号54)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-BrKASII-Tnapinを構築した。
【0104】
(5)ダイズ由来KAS(GmKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、ダイズ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号34及びプライマー番号35を用いてPCRを行い、GmKASII遺伝子断片(配列番号55)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-GmKASII-Tnapinを構築した。
【0105】
(6)トウモロコシ由来KAS(ZmKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、トウモロコシ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号36及びプライマー番号37を用いてPCRを行い、ZmKASII遺伝子断片(配列番号56)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-ZmKASII-Tnapinを構築した。
【0106】
(7)ヨーロッパブドウ由来KAS(VvKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、ヨーロッパブドウ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号38及びプライマー番号39を用いてPCRを行い、VvKASII遺伝子断片(配列番号57)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-VvKASII-Tnapinを構築した。
【0107】
(8)カメリナ由来KAS(CsKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、カメリナ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号40及びプライマー番号41を用いてPCRを行い、CsKASII遺伝子断片(配列番号58)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-CsKASII-Tnapinを構築した。
【0108】
(9)ヒマワリ由来KAS(HaKASII)
オペロンバイオテクノロジー社又はサーモフィッシャーサイエンティフック社の提供する受託合成サービスを利用し、ヒマワリ由来KAS遺伝子のDNA配列を得た。得られたDNA配列をテンプレートとし、表1に示すプライマー番号42及びプライマー番号43を用いてPCRを行い、HaKASII遺伝子断片(配列番号59)を増幅した。得られた増幅断片を用いて、プラスミドp909Pnapus-HaKASII-Tnapinを構築した。
【0109】
(調製例4)形質転換体の作製
インプランタイノベーションズ社によるシロイヌナズナの形質転換受託サービスにより、前記プラスミドp909CTEを用いて、CTE遺伝子を導入したシロイヌナズナ(Colombia株)の形質転換体を得た。
得られたシロイヌナズナの形質転換体(WT::CTE)、及び野生型シロイヌナズナ(WT)を、室温22℃、蛍光灯照明を用いて明期24時間(約4,000ルクス)の条件で育成した。約2ヶ月の栽培の後、種子を収穫した。
【0110】
このようにして得られたプラスミドp909CTEを導入したシロイヌナズナの形質転換体(WT::CTE)、又は野生型シロイヌナズナ(WT)を親株として、下記に示す形質転換を行った。
前記プラスミドp909Pnapus-RiKASII-Tnapin、p909Pnapus-AtKASSII-Tnapin、p909Pnapus-BrKASII-Tnapin、p909Pnapus-GmKASII-Tnapin、p909Pnapus-ZmKASII-Tnapin、p909Pnapus-VvKASII-Tnapin、p909Pnapus-CsKASII-Tnapin、又はp909Pnapus-HaKASII-Tnapinを導入したアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)GV3101株を用い、プラスミドp909CTEを導入したシロイヌナズナ(WT::CTE)の形質転換を行った。播種後1.5ヶ月程度育成したシロイヌナズナの花序を切除し、さらに6〜7日間育成して再形成された花序に各プラスミドを導入したアグロバクテリウムを感染させた。
アグロバクテリウム感染処理後育成して得られた種子を、MS寒天培地(100μg/mLクラフォラン、7μg/mLビアラフォスを含む)に播種し、形質転換体を選抜した。
野生型シロイヌナズナ(WT)、プラスミドp909CTEを導入したシロイヌナズナ(WT::CTE)、及び選抜した形質転換体をそれぞれ室温22℃、蛍光灯照明を用いて明期24時間の条件で育成し、約2ヶ月の栽培の後、種子を収穫した。
【0111】
(試験例1)シロイヌナズナの種子からの脂質の抽出、及び脂質のメチルエステル化
得られた各シロイヌナズナ種子を、マルチビーズショッカー(安井器械社製)で粉砕した。この粉砕物に、7-ペンタデカノン(0.5mg/mLメタノール)20μL(内部標準)と酢酸20μLを添加したクロロホルム0.25mL、及びメタノール0.5mlを加え、十分に攪拌し、15分間静置した。室温、1500rpmで5分間遠心分離を行った後、下層部分を採取し、窒素ガスで乾燥した。
乾燥したサンプルに、0.5N水酸化カリウム-メタノール溶液100μLを加え、70℃で30分間恒温し、トリアシルグリセロールを加水分解した。さらに、3-フッ化ホウ素メタノール錯体溶液0.3mLを添加して乾燥物を溶解し、80℃で10分間恒温することにより脂肪酸のメチルエステル化処理を行った。その後、飽和食塩水0.2mLとヘキサン0.3mLを添加して十分に攪拌し、30分間静置した。脂肪酸のメチルエステルが含まれるヘキサン層(上層部分)を採取し、下記条件のガスクロマトグラフィ(GC)分析に供した。
【0112】
<ガスクロマトグラフィ(GC)条件>
カラム:DB1-MS(J&W Scientific,Folsom,California)
分析装置:6890(Agilent technology,Santa Clara,California)
カラムオーブン温度:150℃保持0.5分→150〜320℃(20℃/分昇温)→320℃保持2分
注入口検出器温度:300℃
注入法:スプリットモード(スプリット比=75:1)
サンプル注入量:5μL
カラム流速:0.3mL/min コンスタント
検出器:FID
キャリアガス:水素
メイクアップガス:ヘリウム
【0113】
GC解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。なお、種子中の各脂質に対応するGCのピークは、各脂肪酸の標準品のメチルエステルの保持時間により同定した。また、各ピーク面積を内部標準である7-ペンタデカノンのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、解析に供した全種子中に含まれる全脂肪酸量に対する各脂肪酸量の割合を算出した。その結果を表5及び表6に示す。
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【0116】
表5に示すように、本発明で規定するKASII遺伝子を野生型シロイヌナズナに導入して作製した形質転換体の種子では、中鎖脂肪酸量の増加は確認できない。
これに対して、表6に示すように、CTE遺伝子をシロイヌナズナに導入して作製した形質転換体の種子では、野生型シロイヌナズナに比べて、C12:0量の割合は約3%、C14:0量の割合は約13%、C16:0量の割合は約15%増加する。そして、CTE遺伝子を導入した形質転換体に、さらに各種植物由来のKAS遺伝子を導入することで、C12:0量の割合が、CTE遺伝子を導入したシロイヌナズナ(WT::CTE)と比較して、さらに増加した。さらに、本発明の形質転換体の一部については、C10:0脂肪酸の蓄積も確認された(CTE+RiKASII、CTE+BrKASII、CTE+VvKASII、及びCTE+CsKASII)。
【0117】
一般的にKAS IIは、炭素原子数16のアシル-ACPから炭素原子数18のアシル-ACPへの鎖長伸長反応を触媒することが知られている。しかしこの知見は、上記試験例で確認された、TE遺伝子導入株に対する、KAS II遺伝子の導入効果とは一致していない。このことから、中鎖脂肪酸を主たる蓄積脂質として含有しない植物由来のKAS II遺伝子は、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTEと併用することで、形質転換体における中鎖脂肪酸の蓄積量が増加させる効果があることが示唆された。
【0118】
以上のように、本発明で規定するKAS遺伝子とTE遺伝子を宿主に導入することで、中鎖脂肪酸の生産性を向上させた形質転換体を作製することができる。そしてこの形質転換体を培養することで、中鎖脂肪酸の生産性を向上させることができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]