(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理は、シリコン酸化膜を形成したSiC製ボートに前記半導体ウェハを支持させた状態で行い、前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理後に、前記半導体ウェハ及びそれを支持する前記SiC製ボートを取り巻く雰囲気を、前記SiC製ボートの表面の前記シリコン酸化膜を維持するように、前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気から酸素ガスを含んだ雰囲気へと切り替えることを更に含んだ請求項1乃至3の何れか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明を限定することを意図しない。
【0020】
<熱処理装置>
本発明の一実施形態に係る製造方法に使用可能な熱処理装置を、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法に使用可能な熱処理装置を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1に示す熱処理装置が含むボートを概略的に示す斜視図である。
【0022】
図1に示す熱処理装置1は、装置本体10と、ボート20と、排気装置30と、ガス供給装置40と、図示しない搬送装置とを含んでいる。
【0023】
装置本体10は、石英炉芯管11と、SiC均熱管12と、加熱装置13と、ヒートチューブ14と、遮熱板15と、シール部材16と、蓋17と、保温装置18と、支持体19とを含んでいる。
【0024】
石英炉芯管11は、石英炉芯管本体111とフランジ部112とを含んでいる。
石英炉芯管本体111は、一方の開口が塞がれ、他方の開口が下方を向いた筒形状を有している。石英炉芯管本体111の頂部の壁には、後述するガス供給管41が挿入される貫通孔が設けられている。
【0025】
フランジ部112は、中央に円形の貫通孔113が設けられた板である。フランジ部112は、石英炉芯管本体111と、その下方の開口部で接合されている。
【0026】
SiC均熱管12は、一方の開口が塞がれ、他方の開口が下方を向いた筒形状を有している。SiC均熱管12は、石英炉芯管本体111を取り囲むように設置されている。SiC均熱管12は、例えば、グラファイトなどの誘導加熱が可能な材料からなる本体の表面にSiC層を設けた構造を有している。
【0027】
加熱装置13は、SiC均熱管12を取り囲むように設置されたコイルと、コイルに高周波電流を流す電源装置とを含んでいる。加熱装置13は、SiC均熱管12の本体において渦電流を生じさせ、これにより、その内部を加熱する。
【0028】
ヒートチューブ14は、一方の開口が塞がれ、他方の開口が下方を向いた筒形状を有している。ヒートチューブ14は、SiC均熱管12及びコイルを取り囲むように設置されている。ヒートチューブ14の側壁は、下方の開口近傍で縮径している。ヒートチューブ14は、電磁波及び熱が装置本体10の外部へと漏洩するのを防止する。
【0029】
遮熱板15は、SiC均熱管12及びヒートチューブ14の下方に設置されている。遮熱板15は貫通孔を有しており、この貫通孔には、石英炉芯管本体111が挿通されている。遮熱板15は、その下方に設置された要素を熱から保護する。
【0030】
シール部材16は、石英炉芯管11の下方に設置されている。シール部材16は、本体161と、Oリング162及び163とを含んでいる。
【0031】
本体161は、一方の主面に、フランジ部112の外径とほぼ等しい径の凹部を有している板状体である。この凹部の底部には、溝が環状に設けられており、この溝にOリング162が設置されている。本体161は、凹部が設けられた主面が上方を向くように設置されており、この凹部には、フランジ部112が嵌め込まれている。Oリング162は、本体161とフランジ部112との間の隙間を通じたガスの流通を防止する。
【0032】
本体161は、その凹部の中央に、貫通孔113とほぼ等しい径の貫通孔164を有している。貫通孔164は、貫通孔113とともに、ボート20等の石英炉芯管11内への搬入及び石英炉芯管11からの搬出に利用する搬出入口を構成している。また、本体161には、その外周面から貫通孔113へ通じる貫通孔が設けられている。
【0033】
本体161の他方の主面には、環状の溝が、貫通孔164の開口を取り囲むように設けられており、この溝にOリング163が設置されている。Oリング163は、蓋17が本体161の下面に当接したときに、本体161と蓋17との間の隙間を通じたガスの流通を防止する。
【0034】
蓋17は、シール部材16の下方に設置されている。蓋17は、Oリング163の外径よりも大きな径を有している板状体である。蓋17は、図示しない搬送装置により、上下方向へ可動である。
【0035】
保温装置18は、支持体181と複数の石英反射板182とを含んでいる。支持体181は、石英反射板182を、それらの主面が水平になり且つ互いから離間して上下方向に配列するように支持している。保温装置18は、石英反射板182が石英炉芯管本体111内の熱を反射することにより、石英炉芯管11から下方への熱の漏洩を抑制する。保温装置18は、図示しない搬送装置により、蓋17と一体に上下方向へ可動である。
【0036】
支持体19は、保温装置18の上方に設置されている。支持体19は、ボート20を着脱可能に支持する。支持体19は、図示しない搬送装置により、蓋17及び保温装置18と一体に上下方向へ可動である。なお、支持体19は、ボート20を、その高さ方向に平行な軸の周りで回転させる回転機構を含んでいてもよい。
【0037】
ボート20は、多数の半導体ウェハ50を、それらの主面が水平になり且つ互いから離間して上下方向に配列するように支持する。ボート20としては、例えば、SiC製又はSi製のボートを使用することができる。以下、一例として、SiCからなり、表面にシリコン酸化膜を有しているボートを使用することとする。
【0038】
ここでは、ボート20は、
図2に示すように、ベース21と、4本の支柱22と、天板23と、複数の保持部24とを含んでいる。
【0039】
ベース21及び天板23は円盤状である。ベース21及び天板23は、それらの主面を正対させている。
【0040】
支柱22は、各々の一端がベース21に固定され、各々の他端が天板23に固定されている。これら支柱22の長さ方向は、ベース21及び天板23の上記主面に対して垂直である。また、ベース21又は天板23の上記主面に対する支柱22の正射影は、略半円の弧上でほぼ等間隔に配列している。
【0041】
保持部24は、棒状である。保持部24は、各々の一端が支柱22の何れかに支持されている。保持部24は、各支柱22上で、上下方向に略等間隔に配列している。保持部24の長さ方向は、支柱22の長さ方向に対して略垂直である。保持部24は、各支柱22から内向きに延びている。なお、保持部24は、湾曲部又は屈曲部を有していてもよい。
【0042】
ボート20は、個々の半導体ウェハ50を、4本の支柱22からそれぞれ延在している4つの保持部24上に載置させることにより、半導体ウェハ50を保持する。ボート20は、
図1に示すように、ベース21が下方に位置し、天板23が上方に位置するように、支持体19によって着脱可能に支持される。
【0043】
排気装置30は、1以上の真空ポンプと圧力調整弁とを含んでいる。排気装置30には、ガス排出管31の一端が接続されている。ガス排出管31の他端は、本体161の外周面から貫通孔113へ通じる貫通孔へ挿入されている。排気装置30は、石英炉芯管11内のガスを排気する。
【0044】
ガス供給装置40は、不活性ガス、炭素含有ガス、水素ガス、及び酸素ガスなどのガスを収容したタンクと、排出するガスを切り替えるバルブと、ガスの流量を調整するガス流量調整装置とを含んでいる。ガス供給装置40には、ガス供給管41の一端が接続されている。ガス供給管41の他端は、石英炉芯管本体111の頂部の壁に設けられた貫通孔に挿入されている。ガス供給装置40は、不活性ガス、又は、炭素含有ガス、水素ガス、酸素ガス、若しくはそれらを不活性ガスで希釈した混合ガスを、所望の流量で石英炉芯管11内へ供給する。
【0045】
図示しない搬送装置は、蓋17の下方に設置されている。搬送装置は、蓋17と保温装置18と支持体19とボート20とを一体に上下動させる。搬送装置は、これにより、支持体19へのボート20の着脱を可能とするとともに、蓋17とシール部材16とによる石英炉芯管11の密閉及び開放を可能とする。
【0046】
<半導体ウェハの製造方法>
本発明の一実施形態に係る半導体ウェハの製造方法を説明する。ここでは、一例として、
図1及び
図2を用いて説明した熱処理装置1を使用することとする。
【0047】
(熱処理前の半導体ウェハの準備)
まず、熱処理前の半導体ウェハ50を準備する。半導体ウェハ50としては、例えば、チョクラルスキー法で製造したシリコン単結晶インゴットから切り出したものを使用する。このようにして得られる半導体ウェハ50は、通常、デバイス形成領域にボイド欠陥を有している。なお、「デバイス形成領域」は、例えば、半導体ウェハ50のうち、その一方の主面からの距離が0μm乃至10μmの範囲内にある表面領域である。
【0048】
次に、これら半導体ウェハ50をボート20に支持させ、これを、
図1に示す支持体19に支持させる。続いて、図示しない搬送装置を駆動して、ボート20を、支持体19及び保温装置18とともに石英炉芯管11の内部へと搬送するとともに、蓋17をシール部材16の本体161の下面に当接させて、石英炉芯管11を密閉する。
【0049】
(第1熱処理工程)
次に、半導体ウェハ50を不活性雰囲気又は還元性雰囲気中で熱処理する(第1熱処理工程)。ここでは、一例として、第1熱処理工程は、
図3に示す熱処理シーケンスに沿って実施することとする。
【0050】
図3は、一実施形態に係る半導体ウェハの製造方法において行う第1及び第2熱処理工程に採用可能な熱処理シーケンスの一例を示すグラフである。
図3において、縦軸は半導体ウェハ50の温度を示し、横軸は時間を示している。
【0051】
図3に示す熱処理シーケンスは、第1期間S1と、第2期間S2と、第3期間S3と、第4期間S4と、第5期間S5と、第6期間S6と、第7期間S7とを含んでいる。第1期間S1乃至第3期間S3では、第1熱処理工程を行う。また、第4期間S4乃至第7期間S7では、後述する第2熱処理工程を行う。
【0052】
第1期間S1に先立つ予備動作期間では、排気装置30を駆動して石英炉芯管11の内部空間のガスを排除する。これとともに、ガス供給装置40を駆動して、石英炉芯管11の内部に不活性ガス又は還元性ガスを導入する。予備動作期間は、石英炉芯管11の内部空間のガスが不活性ガス又は還元性ガスに置換された時点で終了する。
【0053】
不活性ガスとしては、例えば、Arガスを使用することができる。また、還元性ガスとしては、例えば、水素ガス、又は、これを不活性ガスで希釈した混合ガスを使用することができる。特に、ボート20としてSiC製のボートを使用する場合は、Arガスを使用することが好ましい。
【0054】
不活性ガス又は還元性ガスは、例えば、ボート20の天板23の上方における流速が33.5m/s以下となるように石英炉芯管11内へ導入することが好ましい。この流速が大きすぎる場合、ボート20の表面に設けられた酸化膜のガスによるエッチングが顕著になる。
【0055】
予備動作期間に続く第1期間S1では、加熱装置13を駆動して、半導体ウェハ50を昇温させる。この加熱は、磁場コイルに高周波電力(例えば、10乃至100kHz、10乃至200kW)を印加し、SiC均熱管12に渦電流を発生させ、これにより生じたジュール熱を利用して行う。第1期間S1は、半導体ウェハ50の温度が所定の温度に、具体的には、第2期間S2において維持する範囲内の温度に到達した時点で終了する。
【0056】
第1期間S1に続く第2期間S2では、半導体ウェハ50の温度を、予め定められている範囲内に維持する。第2期間S2では、半導体ウェハ50が1130乃至1220℃の範囲内の温度に維持されるように加熱を行うことが好ましく、1150乃至1200℃の範囲内の温度に維持されるように加熱を行うことがより好ましい。この温度が低すぎる場合、長い熱処理時間が必要となり、生産効率が悪くなる虞がある。また、この温度が高すぎる場合、半導体ウェハ50への汚染及びスリップ転位の発生が起こりやすくなる虞がある。
【0057】
第2期間S2では、半導体ウェハ50の温度を上記の範囲内の温度に、例えば、60乃至120分間維持する。熱処理時間が短すぎる場合、ボイド欠陥の消滅が不十分となる虞がある。また、熱処理時間が長すぎる場合、半導体ウェハ50にスリップ転位が生じ易くなる虞がある。
【0058】
第2期間S2に続く第3期間S3では、半導体ウェハ50を降温させる。第3期間S3では、石英炉芯管11の内部の雰囲気を不活性雰囲気又は還元性雰囲気に維持したまま、半導体ウェハ50を700乃至850℃の範囲内の温度まで降温させることが好ましく、700乃至800℃の範囲内の温度まで降温させることがより好ましい。なお、第3期間S3乃至第5期間S5を省略して、第6期間S6を第2期間S2に続けることも可能である。ただし、上記の温度まで降温させることにより、半導体ウェハ50の表面荒れを防ぐことができる。
【0059】
上述した第1熱処理工程は省略することも可能である。ただし、この第1熱処理工程を行うことで、デバイス形成領域のボイド欠陥を低減させることができる。
【0060】
(第2熱処理工程)
第2熱処理工程では、以下に説明するように、炭素含有ガスを含んだ雰囲気中で半導体ウェハ50を、その表面から深さ方向への距離が5μm以下の何れかの位置における炭素濃度が飽和に達するように熱処理する。
【0061】
まず、第3期間S3に続く第4期間S4において、石英炉芯管11の内部の排気を継続したまま、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へと導入するガスを、不活性ガス又は還元性ガスから、炭素含有ガス又はこれを不活性ガスで希釈した混合ガスへと切り替える。これにより、半導体ウェハ50を取り巻く雰囲気を不活性雰囲気又は還元性雰囲気から炭素含有ガスを含んだ雰囲気へと切り替える。
【0062】
炭素含有ガスは、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、及び炭化水素の少なくとも1つを含んだガスである。炭素含有ガスは、一酸化炭素及び二酸化炭素の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。また、炭素含有ガスとして炭化水素を単独で使用する場合には、後述する第3熱処理工程を行うことが好ましい。
【0063】
炭素含有ガスは、例えば、不活性ガスで希釈してなる混合ガスとして、石英炉芯管11の内部へと導入することが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、Arガスを使用することができる。
【0064】
この混合ガスに占める炭素含有ガスの割合は、1乃至20体積%の範囲内にあることが好ましく、1乃至15体積%の範囲内にあることがより好ましい。この割合が小さすぎると、半導体ウェハ50に導入される炭素濃度が飽和濃度に達しない虞がある。また、この割合が大きすぎると、半導体ウェハ50の表面にSiOC膜が形成されることにより炭素濃度が飽和濃度に達しない虞があるのに加え、熱処理後の洗浄でSiOC膜を除去することが困難となり、製造プロセスが煩雑となる可能性がある。
【0065】
混合ガス又は炭素含有ガスは、例えば、ボート20の天板23の上方における流速が2.2m/s以上となるように石英炉芯管11内へ導入することが好ましい。流速が小さすぎる場合、石英炉芯管11の内部空間でガスが停滞しやすくなり、半導体ウェハ50に導入される炭素濃度の均一性が低下する可能性がある。
【0066】
また、ガス供給装置40による混合ガス又は炭素含有ガスの石英炉芯管11の内部への導入及び排気装置30による石英炉芯管11の内部の排気は、石英炉芯管11の内部における炭素含有ガスの分圧が、例えば、1.0×10
3乃至2.0×10
4Paの範囲内になるように行うことが好ましく、1.0×10
3乃至1.5×10
4Paの範囲内になるように行うことがより好ましい。この分圧が低すぎる場合、炭素濃度が飽和濃度に達しない虞がある。分圧が高すぎる場合、半導体ウェハ50の表面にSiOC膜が形成されることにより炭素濃度が飽和濃度に達しない虞があるのに加え、熱処理後の洗浄でSiOC膜を除去することが困難となり、製造プロセスが煩雑となる可能性がある。
【0067】
第4期間S4に続く第5期間S5では、加熱装置13を駆動して、半導体ウェハ50を昇温させる。この加熱は、磁場コイルに高周波電力(例えば、10乃至100kHz、10乃至200kW)を印加し、SiC均熱管12に渦電流を発生させ、これにより生じたジュール熱を利用して行う。第5期間S5は、半導体ウェハ50の温度が所定の温度に、具体的には、第6期間S6において維持する範囲内の温度に到達した時点で終了する。
【0068】
第5期間S5に続く第6期間S6では、半導体ウェハ50の温度を、予め定められている範囲内に維持する。第6期間S6では、半導体ウェハ50のうち、その表面からの距離が5μm以下の何れかの位置における炭素濃度が飽和に達するように、半導体ウェハ50を、1080乃至1220℃の範囲内の温度に、好ましくは1100乃至1200℃の範囲内の温度に加熱する。温度が低すぎる場合、上述した理由により、炭素の飽和濃度が低くなるため、炭素濃度の均一性が低くなる虞がある。また、温度が高すぎる場合、半導体ウェハ50への汚染及びスリップ転位の発生が起こり易くなる虞がある。
【0069】
半導体ウェハの表面から厚さ方向への距離が5μm以下の何れかの位置における炭素濃度が熱処理温度での飽和に到達していたか否かは、例えば、以下の方法によって確認することができる。まず、熱処理で得られた半導体ウェハの炭素濃度を二次イオン質量分析(SIMS)法で測定して、半導体ウェハの厚さ方向における炭素濃度分布を得る。次に、その結果をもとにシミュレーションを行い、炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理(最高温度到達時)における炭素濃度分布を推定する。そして、最高温度における炭素の既知の飽和濃度と、シミュレーションによって得られた炭素濃度分布との対比を行うことで、炭素濃度が熱処理温度での飽和に到達していたか否かを確認する。
なお、最高温度における炭素の既知の飽和濃度は、半導体ウェハ50を構成している材料の種類と加熱温度とによって変化する。例えば、シリコンからなる半導体ウェハ50を1100℃、1150℃、及び1200℃で加熱した場合の炭素の飽和濃度は、それぞれ、4×10
16atoms/cm
3、7×10
16atoms/cm
3、及び11×10
16atoms/cm
3である。
【0070】
第6期間S6では、半導体ウェハ50の温度を上記の範囲内の温度に、例えば、10乃至120分間維持する。熱処理時間が短すぎる場合、炭素濃度が飽和濃度に達しない虞がある。また、熱処理時間が長すぎる場合、半導体ウェハ50にスリップ転位が生じ易くなる虞がある。
【0071】
第6期間S6に続く第7期間S7では、半導体ウェハ50を降温させる。第7期間S7における半導体ウェハ50の降温速度は、例えば4℃/分とする。
【0072】
第7期間S7では、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスは、炭素含有ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスとしたままでもよく、不活性ガスへ切り替えてもよく、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスへ切り替えてもよい。但し、特にボート20がSiC製である場合には、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスは、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスであることが好ましい。
【0073】
ボート20の表面に設けた酸化膜の膜厚は、第1及び第2熱処理工程などを経ることにより減少する。特に、表面に酸化膜を有するSiC製のボート20は、シリコンからなる半導体ウェハ50との接触部で、以下に示すエッチング反応を生じるため、この接触部における膜厚の減少が速く進行する。
【0074】
Si(S)+SiO
2(S)→2SiO(V)
SiC製のボート20の表面に設けた酸化膜の膜厚が減少すると、ボート20が含んでいる炭素が半導体ウェハ50を汚染し、半導体ウェハ50における炭素濃度の均一性を低下させる可能性がある。また、SiC製のボート20の表面に設けた酸化膜の膜厚が減少すると、ボート20が含んでいる炭素が雰囲気中へと拡散し、雰囲気中の炭素濃度が過剰に高くなる可能性がある。
【0075】
酸素を含んだ雰囲気中で半導体ウェハ50の降温を行うと、ボート20の表面に設けた酸化膜の膜厚が増加し、その結果、その減少を抑制することができる。例えば、第7期間S7において、上記酸化膜の膜厚を10nm以上増加させることにより、この膜厚の減少を防止することができる。従って、上記問題を回避することができる。
【0076】
第7期間S7において、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスに占める酸素ガスの割合は、50体積%以上であることが好ましく、100体積%であることがより好ましい。なお、酸素ガスを不活性ガスで希釈する場合、この不活性ガスとしては、例えば、Arガスを使用することができる。この割合が小さすぎる場合、ボート20の表面に設けた酸化膜の膜厚の減少を十分に抑制することが難しい。
【0077】
ガス供給装置40による酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスの石英炉芯管11の内部へ導入及び排気装置30による石英炉芯管11の内部の排気は、石英炉芯管11の内部における酸素ガスの分圧が、例えば、5.0×10
4乃至1.0×10
5Paの範囲内になるように行うことが好ましい。
【0078】
ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスの、炭素含有ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスから、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスへの切り替えは、半導体ウェハ50が1100℃未満の温度となった後に行うことが好ましい。温度が高すぎる場合、半導体ウェハ50の表面に面荒れが生じる虞がある。また、この切り替えは、炉内の温度が1000℃以下になる前に行うことが好ましい。この温度が低すぎる場合、ボート20の表面に設けた酸化膜の膜厚を増加させることが難しい。そして、石英炉芯管11の内部への酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスの導入は、炉内の温度が800℃以下に低下するまで継続することが好ましい。
【0079】
半導体ウェハ50の温度が十分に低下した後、排気装置30及びガス供給装置40の動作を停止する。その後、図示しない搬送装置を駆動して、ボート20を、支持体19及び保温装置18とともに下方へ移動させて、石英炉芯管11の外部へと搬出する。更に、ボート20を支持体19から取り外し、各半導体ウェハ50をボート20から回収する。以上のようにして、半導体ウェハの製造を終了する。
【0080】
<半導体ウェハ>
以上の熱処理を施した半導体ウェハ50は、以下のような特徴を有する。即ち、半導体ウェハ50は、表面から深さ方向への距離Dが5μmの位置におけるLSTD(Laser Scattering Tomography Defect)密度が0.1個/cm
2以下である。ここで、LSTDとは、赤外レーザー光線を半導体ウェハ50の表面から入射し、その散乱光を検出する赤外散乱トモグラフ(LST:Laser Scattering Tomography)によって観察されるボイド欠陥である。LSTDの検出には、例えば、LSTDスキャナ(レイテックス社製MO601)を使用することができる。
なお、第1熱処理工程を省略した場合、表面から深さ方向への距離Dが5μmの位置におけるLSTD密度は、通常、上述した上限値を超える。
【0081】
また、以上の熱処理を施した半導体ウェハ50は、BMD密度が1×10
9個/cm
3以上である。ここで、BMD密度の測定には、例えば、IRトモグラフィー(レイテックス社製MO−441)を使用することができる。
なお、第1熱処理工程を省略した場合、BMD密度は、通常、上述した下限値を下回る。
【0082】
また、以上の熱処理を施した半導体ウェハ50は、厚さ方向における炭素濃度の分布について、以下に説明する特徴を有している。即ち、以上の熱処理を施した半導体ウェハ50は、表面から深さ方向への距離Dが5μmの位置におけるLSTD密度が0.1個/cm
2以下であり、距離Dが2μmより小さい何れかの位置における炭素濃度が1×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが2乃至30μmの範囲内の何れかの位置における炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが30μmより大きい何れかの位置における炭素濃度が1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。
【0083】
一例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至30μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、2×10
16乃至5×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は1×10
16乃至4×10
16atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定であるか又は単調減少している。
【0084】
他の例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至30μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、2×10
16乃至8×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は1×10
16乃至5×10
16atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定である。
【0085】
更に他の例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至30μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、4×10
16乃至9×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は2×10
16乃至7×10
16atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定であるか又は単調減少している。
【0086】
更に他の例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至30μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、4×10
16乃至10×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は2×10
16乃至8×10
16atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定である。
【0087】
<効果>
上述した製造方法では、第2熱処理工程において、半導体ウェハ50のデバイス形成領域に炭素をその飽和濃度に到達するまで導入している。それ故、熱処理前の半導体ウェハ50における炭素濃度が面内で又はウェハ間でばらついていたとしても、そのばらつきは、第2熱処理工程によってキャンセルすることができる。従って、この方法によると、例えば、面内方向における炭素濃度のばらつきが小さく、デバイス形成領域における厚さ方向の炭素濃度分布のウェハ間でのばらつきが小さな半導体ウェハを製造することができる。即ち、この方法によると、炭素濃度の均一性に優れた半導体ウェハを製造することが可能となる。
【0088】
また、上述した製造方法では、半導体ウェハ50を降温させる第7期間S7において、石英炉芯管11の内部へ、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスを導入すると、SiC製のボート20の表面に設けられた酸化膜の厚さが不十分になるのを抑制できる。この場合、例えば、ボート20が含んでいる炭素による半導体ウェハ50の局所的な汚染を防ぐことができる。また、この場合、ボート20が含んでいる炭素が雰囲気中の炭素濃度に及ぼす影響を小さくするか又は排除することができる。従って、この場合、炭素濃度の均一性により優れた半導体ウェハを製造することが可能となる。
【0089】
なお、酸化膜の膜厚の減少を防止する効果は、ボート20から半導体ウェハ50を取り出した後に、ボート20を熱処理炉に搬入して、酸素を含んだ雰囲気中で熱処理を行なうことによっても達成される。ただし、半導体ウェハの降温時に酸化膜の形成工程を行うことは、製造効率を高める上で有効である。
また、ボート20としてSi製のボートを使用する場合、ボート表面からの炭素汚染が生じないため、酸化膜の形成工程は不要である。
【0090】
以上のように、この製造方法によれば、炭素濃度の均一性に優れた半導体ウェハが製造される。即ち、半導体ウェハのデバイス形成領域に、管理した濃度で炭素を導入することが可能となる。そのため、炭素濃度のばらつきに起因して、半導体デバイスのVth(threshold voltage)シフト等のデバイス動作不良が発生することを防ぐことが可能である。
【0091】
また、この製造方法では、第1熱処理工程において不活性雰囲気中での熱処理を行う。そのため、ボイド欠陥が低減され、BMDが十分に成長した半導体ウェハを得ることができる。
【0092】
<製造方法の変形例>
上述した方法には、様々な変形が可能である。
例えば、上述した製造方法では、
図1に示す縦型の熱処理装置1を使用しているが、ここで説明した技術は、RTP(Rapid Thermal Process)などの短時間高温熱処理への応用が可能である。
また、上述した製造方法は、以下に説明する第3熱処理工程を更に含んでいてもよい。
【0093】
(第3熱処理工程)
第3熱処理工程では、以下に説明するように、水素ガスを含んだ還元性雰囲気中で半導体ウェハ50を熱処理する。第3熱処理工程を行うことで、半導体ウェハ50の表面領域に存在する炭素を半導体ウェハ50の外部へ拡散させる、即ち、外方拡散させることができる。第3熱処理工程は、省略することも可能である。ただし、半導体ウェハ50のデバイス形成領域における炭素濃度は低いことが望まれる用途では、第3熱処理工程を行うことは有利である。
【0094】
図4は、一実施形態に係る半導体ウェハの製造方法において行う第1乃至第3熱処理工程に採用可能な熱処理シーケンスの一例を示すグラフである。
図4において、縦軸は半導体ウェハ50の温度を示し、横軸は時間を示している。
【0095】
図4に示す熱処理シーケンスは、第1期間S1と、第2期間S2と、第3期間S3と、第4期間S4と、第5期間S5と、第6期間S6と、第7期間S7と、第8期間S8と、第9期間S9と、第10期間S10と、第11期間S11とを含んでいる。第1期間S1乃至第3期間S3では、上述した第1熱処理工程を行い、第4期間S4乃至第7期間S7では、上述した第2熱処理工程を行う。また、第8期間S8乃至第11期間S11では、以下に詳述する第3熱処理工程を行う。
【0096】
まず、第7期間S7に続く第8期間S8において、石英炉芯管11の内部の排気を継続したまま、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へと導入するガスを、炭素含有ガス又はこれを不活性ガスで希釈した混合ガスから、水素ガス又はこれを不活性ガスで希釈した混合ガスへと切り替える。これにより、半導体ウェハ50を取り巻く雰囲気を、炭素含有ガスを含んだ雰囲気から、水素ガスを含んだ還元性雰囲気へと切り替える。
【0097】
第8期間S8において、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスに占める水素ガスの割合は、20体積%以上であることが好ましく、100体積%であることがより好ましい。なお、水素ガスを不活性ガスで希釈する場合、この不活性ガスとしては、例えば、Arガスを使用することができる。この割合が小さすぎる場合、半導体ウェハ50の表面から炭素を十分に外方拡散させることが難しい。
【0098】
ガス供給装置40による水素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスの石英炉芯管11の内部へ導入及び排気装置30による石英炉芯管11の内部の排気は、石英炉芯管11の内部における水素ガスの分圧が、2.0×10
4乃至1.0×10
5Paの範囲内になるように行うことが好ましい。
【0099】
ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスの、炭素含有ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスから、水素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスへの切り替えは、半導体ウェハ50が700乃至850℃の範囲内の温度で、又は、それよりも低い温度で行うことが好ましい。このような温度で上記の切り替えを行うことにより、半導体ウェハ50の表面荒れを防ぐことができる。
【0100】
第8期間S8に続く第9期間S9では加熱装置13を駆動して、半導体ウェハを昇温させる。この加熱は、例えば、上述した第5期間S5における加熱と同様に行う。
【0101】
第9期間S9に続く第10期間S10では、半導体ウェハ50の温度を、予め定められている範囲内に維持する。第10期間S10では、半導体ウェハ50の温度を、好ましくは1080乃至1220℃の範囲内の温度に、より好ましくは1100乃至1200℃の範囲内の温度に維持する。温度が低すぎる場合、半導体ウェハ50の表面から炭素を十分に外方拡散させることが難しい。温度が高すぎる場合、半導体ウェハ50への汚染及びスリップ転位の発生が起こりやすくなる虞がある。
【0102】
第10期間S10では、半導体ウェハ50の温度を上記の範囲内の温度に、例えば、1分乃至2時間維持する。熱処理時間が短すぎる場合、半導体ウェハ50の表面に存在する炭素を十分に外方拡散させることが困難となる虞がある。また、熱処理時間が長すぎる場合、第2の熱処理工程で供給した炭素が必要以上に外方拡散してしまい、炭素濃度のウェハ間ばらつきの影響が再び現れる虞がある。。
【0103】
第10期間S10に続く第11期間では、半導体ウェハを降温させる。第11期間S11における半導体ウェハ50の降温速度は、例えば、4℃/分とする。
【0104】
第11期間S11では、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスは、水素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスとしたままでもよく、不活性ガスへ切り替えてもよく、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスへ切り替えてもよい。但し、特にボート20がSiC製である場合には、ガス供給装置40が石英炉芯管11の内部へ導入するガスは、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスであることが好ましい。なお、酸素ガス又はこれを不活性ガスで希釈してなる混合ガスとしては、第7期間S7を参照して説明したものを使用することができる。
【0105】
<半導体ウェハの変形例>
図4を参照しながら説明した熱処理を施した半導体ウェハ50は、厚さ方向における炭素濃度の分布について、以下に説明する特徴を有している。即ち、半導体ウェハ50は、表面領域における炭素濃度が1×10
15atoms/cm
3未満であり、表面から深さ方向への距離Dが2乃至30μmの範囲内にある何れかの位置における炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが30μmより大きい何れかの位置における炭素濃度が1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。
【0106】
一例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至30μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、2×10
16乃至2×10
17atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は1×10
14乃至1×10
15atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定であるか又は単調減少している。
【0107】
他の例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至30μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、2×10
16乃至2×10
17atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は1×10
14乃至1×10
15atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定である。
【0108】
更に他の例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至15μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、4×10
16乃至2×10
17atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は3×10
14乃至1×10
15atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定であるか又は単調減少している。
【0109】
更に他の例によれば、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に、距離Dと炭素濃度との関係を描いた場合、この関係を表す線は上に凸の曲線となる。この場合、例えば、炭素濃度が極大を示す距離Dは2乃至15μmの範囲内にあり、炭素濃度の極大値は、4×10
16乃至2×10
17atoms/cm
3の範囲内にある。また、この場合、例えば、距離Dがゼロにおける炭素濃度は3×10
14乃至1×10
15atoms/cm
3の範囲内にあり、距離Dが30μmを超える範囲内では、炭素濃度は、1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内でほぼ一定である。
【0110】
以上の熱処理を施した半導体ウェハ50は、炭素を上述した分布で有している。即ち、上述した方法によれば、第2熱処理工程において、半導体ウェハ50のデバイス形成領域に炭素をその飽和濃度に到達するまで導入し、第3熱処理工程において半導体ウェハ50の表面から炭素を外方拡散するため、半導体ウェハ50の表面に含まれる炭素濃度が均一であり且つ過度に高くない半導体ウェハを得ることが可能となる。
【0111】
なお、変形例に係る半導体ウェハ50に対して、第1熱処理を更に施した場合には、LSTD密度及びBMD密度は、上述した範囲内になる。
【0112】
<変形例の効果>
変形例に係る方法によれば、
図1乃至
図3を参照しながら説明した方法と同様の効果を得ることができる。加えて、この方法では、第3熱処理工程を行うため、デバイス形成領域における炭素濃度を低減することができる。従って、この方法により得られる半導体ウェハは、デバイス形成領域における炭素濃度は低いことが望まれる用途に適している。
【実施例】
【0113】
次に、本発明の具体例について説明する。
≪試験例1≫
(例1)
<半導体ウェハの準備>
チョクラルスキー法で製造したφ300mmのシリコン単結晶インゴットから、炭素濃度が等しい複数の半導体ウェハから各々がなり、互いに炭素濃度が異なる二組のウェハ群を準備した。炭素濃度の測定は、SIMS法によって行った。
【0114】
具体的には、炭素濃度が5×10
15atoms/cm
3である20枚の半導体ウェハからなる第1ウェハ群と、炭素濃度が1×10
16atoms/cm
3である20枚の半導体ウェハからなる第2ウェハ群とを準備した。
【0115】
<半導体ウェハの熱処理>
第1ウェハ群及び第2ウェハ群の各々から10枚の半導体ウェハを抜き取り、それらを
図2に示すボート20に載置した。ここで、ボート20としては、表面に50nmの厚さの酸化膜を設けたSiC製のボートを使用した。このボート20を、
図1に示す熱処理装置1の石英炉芯管11の内部へ搬送し、上述した第2熱処理工程を行った。
【0116】
具体的には、炭素含有ガスを含んだ雰囲気中で半導体ウェハを1200℃まで昇温し、この温度に60分間維持した。ここで、炭素含有ガスとしてはCO
2を使用し、これをArガスで希釈した。この雰囲気中のCO
2含有量は1体積%であった。
【0117】
その後、半導体ウェハを600℃まで降温させ、それらを熱処理装置1の外部へと取り出した。得られた半導体ウェハを第1ロットとした。
【0118】
同様の熱処理を、第1及び第2ウェハ群の各々の残りの10枚の半導体ウェハについても行った。得られた半導体ウェハを第2ロットとした。
【0119】
(例2)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から10体積%に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0120】
(例3)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から20体積%に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0121】
(例4)
第2熱処理工程の熱処理温度を1200℃から1100℃に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0122】
(例5)
第2熱処理工程の熱処理温度を1200℃から1100℃に変更したこと以外は、例2と同様の方法で熱処理を行った。
【0123】
(例6)
第2熱処理工程の熱処理温度を1200℃から1100℃に変更したこと以外は、例3と同様の方法で熱処理を行った。
【0124】
(比較例1)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から0体積%に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0125】
(比較例2)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から0.5体積%に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0126】
(比較例3)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から30体積%に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0127】
(比較例4)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から100体積%に変更したこと以外は、例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0128】
(比較例5)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から0.5体積%に変更したこと以外は、例4と同様の方法で熱処理を行った。
【0129】
(比較例6)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から30体積%に変更したこと以外は、例4と同様の方法で熱処理を行った。
【0130】
(比較例7)
雰囲気中のCO
2含有量を1体積%から100体積%に変更したこと以外は、例4と同様の方法で熱処理を行った。
【0131】
(比較例8)
第2熱処理工程の熱処理温度を1200℃から1250℃に変更したこと以外は、例2と同様の方法で熱処理を行った。
【0132】
(比較例9)
第2熱処理工程の熱処理温度を1200℃から1050℃に変更したこと以外は、例2と同様の方法で熱処理を行った。
【0133】
<評価>
例1乃至6及び比較例1乃至9によって得られた半導体ウェハの炭素濃度の測定と、スリップ転位の確認とを行った。結果を表1に示す。
【0134】
【表1】
【0135】
(炭素濃度の測定と評価)
炭素濃度の測定は、半導体ウェハの表面から深さ方向への距離Dが15μm以下の各位置における炭素濃度をSIMS法により測定することにより行った。そして、これらの測定結果を、ウェハ群毎に平均した。なお、第1ロットと第2ロットとの測定結果は、まとめて平均した。半導体ウェハの炭素濃度の測定結果を
図5及び
図6に示す。
【0136】
図5は、例1で得られた半導体ウェハの炭素濃度の測定結果を示すグラフである。
図6は、比較例1で得られた半導体ウェハの炭素濃度の測定結果を示すグラフである。
【0137】
図5及び
図6に示すグラフは、縦軸に炭素濃度を示し、横軸に半導体ウェハの表面から深さ方向への距離Dを示している。また、各プロットは、各ウェハ群に含まれる半導体ウェハの特定の距離Dにおける炭素濃度の平均値を表している。
【0138】
この結果に基づき、炭素が熱処理温度での飽和濃度に到達していたか否かを以下の方法によって評価した。まず、熱処理で得られた半導体ウェハの炭素濃度をSIMS法で測定して、半導体ウェハの厚さ方向における炭素濃度分布を得た。次に、その結果をもとにシミュレーションを行い、炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理時(最高温度到達時)における炭素濃度分布を推定した。そして、上記最高温度における炭素の既知の飽和濃度と、シミュレーションによって得られた炭素濃度分布との対比を行うことで、半導体ウェハの表面から厚さ方向への距離が5μm以下の何れかの位置における炭素濃度が飽和に到達していたか否かを評価した。表1では、飽和濃度に到達していた半導体ウェハが得られた熱処理条件を「○」、飽和濃度に到達していた半導体ウェハが得られなかった熱処理条件を「×」で表している。なお、炭素の飽和濃度は、例えば、シリコンウェハを1200℃で加熱した場合では、11×10
16atoms/cm
3である。また、シリコンウェハを1100℃で加熱した場合における炭素の飽和濃度は、4×10
16atoms/cm
3である。
【0139】
図6から明らかなように、比較例1に係る半導体ウェハには、熱処理前に第1ウェハ群と第2ウェハ群との間で生じていた炭素濃度の差、即ち、炭素濃度のばらつきが距離Dが如何様であろうと生じている。一方で、
図5から明らかなように、例1に係る半導体ウェハは、距離Dが5μm以下の範囲内で、第1ウェハ群と第2ウェハ群との間に炭素濃度のばらつきは殆ど認められない。
【0140】
そこで、距離Dが5μmである場合に第1ウェハ群と第2ウェハ群との間に生じている炭素濃度のばらつきを、変動係数として求めた。ここでは、以下の等式から算出した。
変動係数=標準偏差/平均値
表1に示すように、炭素が飽和濃度に到達しない加熱条件で得られた半導体ウェハの変動係数は0.5以上であるのに対し、炭素が飽和濃度に到達している加熱条件で得られた半導体ウェハの変動係数は0.5より小さかった。即ち、熱処理前に有していた炭素濃度のばらつきが解消されていることが示された。
【0141】
なお、比較例9に係る半導体ウェハは、炭素が飽和濃度に到達しているにも関わらず、比較的大きな変動係数を示した。これは、第2熱処理工程の加熱温度が低すぎたことに起因すると考えられる。即ち、熱処理により導入された炭素濃度よりも、半導体ウェハに熱処理前から含まれていた炭素濃度が大きかったため、ばらつきが解消されなかったものと考えられる。
【0142】
図7に、例1で得られた半導体ウェハに生じた炭素濃度のばらつきと比較例1で得られた半導体ウェハに生じた炭素濃度のばらつきとを、15μm以下の範囲内にある距離Dにおいて算出して比較した結果を示す。
【0143】
図7は、例1及び比較例1に係る半導体ウェハに生じる炭素濃度のばらつきを示すグラフである。
図7に示すグラフは、縦軸に第1ウェハ群と第2ウェハ群との間に生じた炭素濃度のばらつき(変動係数)を示し、横軸に距離Dを示している。
【0144】
図7に示すように、例1に係る半導体ウェハは、距離Dが5μm以下の範囲内で変動係数が小さい。これに対し、比較例1に係る半導体ウェハは、距離Dが如何様であろうと比較的大きな変動係数を示している。
【0145】
(スリップ転位の確認と評価)
半導体ウェハの表面へレーザー光を照射し、反射光の強度から画像データを作成し、スリップ転位の長さを測定した。表1では、各加熱条件で得られた半導体ウェハのうち、10mm以上の長さを有するスリップ転位が検出された半導体ウェハを含んでいた加熱条件を「有り」、検出されなかった加熱条件を「−」で表している。
【0146】
表1に示すように、比較例8に係る半導体ウェハでのみ、10mm以上の長さを有するスリップ転位が検出された。これは、加熱温度が高すぎたことに起因すると考えられる。
【0147】
以上の結果より、例1乃至6の製造方法で得られた半導体ウェハは、そのデバイス形成領域において特に優れた炭素濃度の均一性を有していることが示された。
【0148】
≪試験例2≫
試験例1と同様の方法により準備した半導体ウェハに、第1及び第2熱処理工程を施した。具体的には、以下のように行った。
【0149】
(例7)
以下のことを除いて、例3と同様の方法で熱処理を行った。即ち、第2熱処理工程に先立ち、第1熱処理工程を行った。第1熱処理工程としては、具体的には、不活性雰囲気で半導体ウェハを1200℃まで昇温し、この温度に60分間維持した。ここで、不活性ガスとしてはArガスを使用した。その後、半導体ウェハを800℃まで降温させ、この状態で、半導体ウェハを取り巻く雰囲気を、不活性雰囲気から、炭素含有ガスを含んだ雰囲気へと切り替えた。
【0150】
(例8)
第2熱処理工程後の降温を行う雰囲気を、炭素含有ガス雰囲気から酸素ガスを含んだ雰囲気に変更したこと以外は、例7と同様の方法で熱処理を行った。なお、雰囲気中の酸素の含有量は100体積%であった。
【0151】
(例9)
試験例1と同様の方法により半導体ウェハを準備し、以下のことを除いて、例6と同様の方法で熱処理を行った。即ち、第2熱処理工程に先立ち、第1熱処理工程を行った。第1熱処理工程としては、具体的には、不活性雰囲気で半導体ウェハを1200℃まで昇温し、この温度に60分間維持した。ここで、不活性ガスとしてはArガスを使用した。その後、半導体ウェハを800℃まで降温させ、この状態で、半導体ウェハを取り巻く雰囲気を、不活性雰囲気から、炭素含有ガスを含んだ雰囲気へと切り替えた。
【0152】
(例10)
第2熱処理工程後の降温を行う雰囲気を、炭素含有ガス雰囲気から酸素ガスを含んだ雰囲気に変更したこと以外は、例9と同様の方法で熱処理を行った。なお、雰囲気中の酸素ガスの含有量は100体積%であった。
【0153】
<評価>
(結晶欠陥密度の測定)
例7乃至10で得られた半導体ウェハについて、距離Dが5μmであるときのLSTD密度を測定した。ここで、LSTD密度の測定には、LSTDスキャナ(レイテックス社製MO601)を使用した。その結果、例7乃至10で得られた半導体ウェハのLSTD密度は、いずれも0.1個/cm
2以下であった。
【0154】
(BMD密度の測定)
更に、例7乃至10で得られた半導体ウェハのBMD密度を測定した。ここで、BMD密度の測定には、IRトモグラフィー(レイテックス社製MO−441)を使用した。その結果、例7乃至10で得られた半導体ウェハのBMD密度は、いずれも1×10
9個/cm
3以上であった。
【0155】
これらの結果から、第2熱処理工程の実施に先立ち、第1熱処理を行うことで、半導体ウェハのデバイス形成領域におけるボイド欠陥の低減とBMDの成長とを達成できることが示された。
【0156】
(降温時の雰囲気が品質に及ぼす影響の確認)
上記の例7乃至10と同様の各条件下で、同一の熱処理装置を用いて熱処理を繰り返し行った。そして、第1回目の熱処理後に、各ボートの酸化膜の厚さを測定した。具体的には、半導体ウェハと接触する保持部の表面における酸化膜の膜厚を測定した。その結果を表2に示す。なお、第1回目の熱処理前における酸化膜の膜厚は50nmであった。
【0157】
【表2】
【0158】
表2に示すように、例8及び例10で使用したボートの酸化膜は、10nm以上の厚さを維持していた。これに対し、例7及び例9で使用したボートの酸化膜は、熱処理前と比較して大幅に減少していた。なお、第2回目以降の熱処理後における酸化膜の膜厚は、第1回目の熱処理後における酸化膜の膜厚と同程度であった。
また、第2回目の熱処理に供したロットが含んでいる半導体ウェハについて、それらの炭素が飽和濃度に到達していたか否かを試験例1と同様の方法によって確認した。そして、SiC製ボート表面からの炭素汚染があった熱処理条件を「有り」、なかった熱処理条件を「−」と評価した。
【0159】
例7及び9と同様の条件下で熱処理を繰り返した場合、半導体ウェハの炭素濃度は飽和に到達せず、例8及び10と同様の条件下で熱処理を繰り返した場合と比較して、炭素濃度の均一性が低かった。これは、以下の理由によると考えられる。
即ち、例7及び9と同様の条件下では、SiC製ボートを被覆している酸化膜の厚さが、第1及び第2熱処理工程を経ることによって薄くなったまま回復しない。それ故、第2回目以降の熱処理では、表2に示すように、SiC製ボート表面からの炭素汚染を生じる。即ち、ボートが含んでいる炭素が気相へと拡散して、雰囲気中の炭素濃度が高くなる。その結果、半導体ウェハの表面にSiOC膜が形成される。このSiOC膜は、半導体ウェハ中への炭素の拡散を妨げる。従って、例7及び9と同様の条件下では、熱処理を繰り返した場合に、半導体ウェハの炭素濃度が飽和に到達しなくなる。
【0160】
これに対し、例8と同様の条件下では、SiC製ボートを被覆している酸化膜は、第2回目の熱処理を終えた時点で、第1回目の熱処理を開始する前の時点よりも厚くなっている。また、例10と同様の条件下では、SiC製ボートを被覆している酸化膜は、第2回目の熱処理を終えた時点であっても、10nm以上の膜厚を維持している。それ故、ボートが含んでいる炭素の気相への拡散は抑制され、雰囲気中の炭素濃度が高くなることはない。その結果、熱処理を繰り返した場合であっても、半導体ウェハの表面にSiOC膜は形成されない。従って、熱処理を何回繰り返しても、半導体ウェハの炭素濃度は飽和に到達し、炭素濃度の均一性が低下することはない。
【0161】
以上の結果より、第2熱処理工程の実施に先立ち、第1熱処理を行うことで、ボイド欠陥の低減及びBMDの成長を達成することができ、さらに、第2熱処理後の降温を酸素含有雰囲気で行うことにより、より均一性に優れた半導体ウェハの製造を達成できることが示された。
【0162】
≪試験例3≫
<半導体ウェハの準備>
(例11)
以下のことを除いて試験例1と同様の方法により準備した半導体ウェハについて、第2及び第3熱処理工程を行った場合のシミュレーションを行った。
【0163】
ここでは、炭素濃度が互いに異なる四組のウェハ群を準備した。具体的には、炭素濃度が5×10
15atoms/cm
3である第1ウェハ群と、1×10
16atoms/cm
3である第2ウェハ群と、1×10
15atoms/cm
3である第3ウェハ群と、5×10
16atoms/cm
3である第4ウェハ群とを準備した。
これら第1乃至第4ウェハ群について、以下の条件で熱処理を行った。
【0164】
<半導体ウェハの熱処理>
以下のことを除いて、例1と同様の方法で熱処理を行った。即ち、炭素含有ガスをCO
2からCOに変更した。その後、半導体ウェハを800℃まで降温させ、この状態で水素ガスを含んだ還元性雰囲気への切替を行った後に、第3熱処理工程を実施した。
【0165】
第3熱処理としては、具体的には、水素ガスを含んだ還元性雰囲気で半導体ウェハを1200℃まで昇温し、この温度に60分維持した。その後、半導体ウェハを600℃まで降温させ、それらを熱処理装置1の外部へと取り出した。なお、雰囲気中の水素の含有量は100体積%であった。
【0166】
<評価>
以上の熱処理を施した半導体ウェハにおける炭素濃度の分布を計算したシミュレーション結果を
図8に示す。
【0167】
図8は、試験例3で得られた半導体ウェハの炭素濃度のシミュレーション結果を示すグラフである。
図8に示すグラフは、縦軸に炭素濃度を示し、横軸に距離Dを示している。また、各プロットは、各ウェハ群に含まれる半導体ウェハの特定の距離Dにおける炭素濃度の平均値を表している。
【0168】
図8に示すとおり、水素ガスを含んだ還元性雰囲気中で熱処理を行なって得られる半導体ウェハは、半導体ウェハの表面領域における炭素濃度が減少している。このシミュレーションによれば、得られた半導体ウェハの表面領域における炭素濃度は1×10
15atoms/cm
3未満となる。加えて、距離Dが2乃至30μmの範囲内にある位置における炭素濃度は2×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが30μmより大きい何れかの位置における炭素濃度が1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内にある。
【0169】
≪半導体ウェハの炭素濃度の分布≫
以上の方法で得られた半導体ウェハの特徴及び他の方法で得られた半導体ウェハの特徴について表3を参照しながら説明する。ここで、半導体ウェハA乃至Cは、炭素濃度が1×10
16atoms/cm
3の半導体ウェハに上述した熱処理を施したものであり、半導体ウェハDは、炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3の半導体ウェハにイオン注入で炭素を注入したものである。
【0170】
【表3】
【0171】
半導体ウェハAは、第2熱処理工程のみを施した半導体ウェハである。表3に示すように、半導体ウェハAは、以下のような特徴を有していた。即ち、半導体ウェハAは、距離Dが2μmより小さい何れかの位置における炭素濃度が1×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが2乃至30μmの範囲内の何れかの位置における炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが30μmより大きい位置における炭素濃度が1×10
14atoms/cm
3乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内にあった。
【0172】
半導体ウェハAの表面から深さ方向への距離Dと炭素濃度との関係を、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に描いた結果、この関係を表す線は上に凸の曲線となった。0≦D<2における炭素濃度は、距離Dの増加に伴って、単調増加していた。そして、2≦D≦30における炭素濃度は、距離Dの増加に伴って単調増加し、極大値まで到達した後に単調減少していた。また、30<Dにおける炭素濃度は、距離Dの増加に伴ってほぼ一定の値を維持していた。なお、30<Dにおける炭素濃度は、0≦D<2における炭素濃度よりも小さい濃度であった。
【0173】
また、この半導体ウェハAは、
図5を参照しながら説明したように、第2熱処理工程において、炭素が飽和濃度に達するまで半導体ウェハへ導入されていることにより、距離Dが5μm以下の位置における炭素濃度のばらつきは解消されていた。
【0174】
半導体ウェハBは、第2熱処理工程の後に、第3熱処理を施した半導体ウェハである。半導体ウェハBは、以下のような特徴を有していた。即ち、半導体ウェハBは、表面領域における炭素濃度が1×10
15atoms/cm
3未満であり、表面から深さ方向への距離Dが2乃至30μmの範囲内の何れかの位置における炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3以上であり、距離Dが30μmより大きい位置における炭素濃度が1×10
14乃至2×10
16atoms/cm
3の範囲内にあった。
【0175】
半導体ウェハBの表面から深さ方向への距離Dと炭素濃度との関係を横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に描いた結果、この関係を表す線は、D=0において極小値を示す上に凸の曲線となった。0≦D<2における炭素濃度は、距離Dの減少に伴って、急峻に減少していた。そして、2≦D≦30における炭素濃度は、距離Dの増加に伴って極大値まで単調増加し、その後単調減少していた。また、30<Dにおける炭素濃度は、距離Dの増加に伴ってほぼ一定の値を維持していた。なお、30<Dにおける炭素濃度は、D=0における炭素濃度よりも大きく且つ2≦D≦30における炭素濃度よりも小さい濃度であった。
【0176】
上述した特徴を有する半導体ウェハA及びBは、他の方法で得られる半導体ウェハC及びDとは以下の点で異なる。
【0177】
半導体ウェハCは、第1熱処理工程のみを施した半導体ウェハである。半導体ウェハCの0≦D<2における炭素濃度は、距離Dの減少に伴って単調減少し、約1×10
15atoms/cm
3に収束していた。そして、2≦D≦30及び、30<Dにおける炭素濃度は、ほぼ一定の値を維持していた。
【0178】
半導体ウェハDは、炭素のイオン注入を施した半導体ウェハである。半導体ウェハDの炭素濃度の分布を
図9に示す。
図9は、炭素のイオン注入を施した半導体ウェハの炭素濃度の分布を示すグラフである。
図9に示すように、半導体ウェハDの表面から深さ方向への距離Dと炭素濃度との関係を、横軸を距離Dとし、縦軸を炭素濃度としたデカルト座標に描いた結果、この関係を表す線は0≦D≦0.35の範囲内で急峻に上に凸となる曲線であった。具体的には、0≦D<2における炭素濃度は、距離Dの増加に伴って極大値まで単調増加し、その後単調減少していた。そして、2≦D<30及び30≦Dにおける炭素濃度は、ほぼ一定の値を維持していた。なお、2≦D<30及び30≦Dにおける炭素濃度は、D=0における炭素濃度よりも小さい濃度であった。
【0179】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
半導体ウェハを、その表面から深さ方向への距離が5μm以下の何れかの位置における炭素濃度が飽和に達するように、炭素含有ガスを含んだ雰囲気中で熱処理することを含み、
前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理は1080乃至1220℃の範囲内の温度で行う半導体ウェハの製造方法。
[2]
前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中の前記炭素含有ガスの含有量は1乃至20体積%の範囲内にある項1に記載の製造方法。
[3]
前記炭素含有ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素及び炭化水素の何れかを少なくとも含んだ項1又は2に記載の製造方法。
[4]
前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理は、シリコン酸化膜を形成したSiC製ボートに前記半導体ウェハを支持させた状態で行い、前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理後に、前記半導体ウェハ及びそれを支持する前記SiC製ボートを取り巻く雰囲気を、前記SiC製ボートの表面の前記シリコン酸化膜を維持するように、前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気から酸素ガスを含んだ雰囲気へと切り替えることを更に含んだ項1乃至3の何れか1項に記載の製造方法。
[5]
前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理に先立ち、前記半導体ウェハを不活性雰囲気又は還元性雰囲気中で熱処理することを更に含んだ項1乃至4の何れか1項に記載の製造方法。
[6]
前記不活性雰囲気又は還元性雰囲気中での熱処理は1130乃至1220℃の範囲内の温度で行う項5に記載の製造方法。
[7]
前記炭素含有ガスを含んだ雰囲気中での熱処理の後に、水素ガスを含んだ還元性雰囲気中で前記半導体ウェハを熱処理することを更に含んだ項1乃至6の何れか1項に記載の製造方法。
[8]
表面から深さ方向への距離が5μmの位置におけるLSTD密度が0.1個/cm2以下であり、
前記距離が2μmより小さい何れかの位置における炭素濃度が1×1016atoms/cm3以上であり、
前記距離が2乃至30μmの範囲内にある何れかの位置における炭素濃度が2×1016atoms/cm3以上であり、
前記距離が30μmより大きい何れかの位置における炭素濃度が1×1014atoms/cm3乃至2×1016atoms/cm3の範囲内にある半導体ウェハ。
[9]
表面領域における炭素濃度が1×1015atoms/cm3未満であり、
表面から深さ方向への距離が2乃至30μmの範囲内にある何れかの位置における炭素濃度が2×1016atoms/cm3以上であり、
前記距離が30μmより大きい何れかの位置における炭素濃度が1×1014atoms/cm3乃至2×1016atoms/cm3の範囲内にある半導体ウェハ。