(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971634
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/229 20060101AFI20211111BHJP
F16D 3/227 20060101ALI20211111BHJP
F16D 3/2237 20110101ALI20211111BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
F16D3/229 R
F16D3/227 G
F16D3/2237
F16D3/20 K
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-106485(P2017-106485)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-204616(P2018-204616A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】武川 康昭
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭51−077445(JP,U)
【文献】
特開2010−121740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁から中心軸部を突出させることによって一端が開口する環状空間を形成し、その環状空間の外壁面と内壁面のそれぞれに軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、その外輪の前記環状空間内に端部が組込まれ、前記トラック溝のそれぞれと対応する位置にポケットが形成されたトルクチューブと、このトルクチューブのポケット内に組込まれて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備えた等速自在継手であって、
作動角を取った際において、前記中心軸部と前記トルクチューブとが接触するまでの範囲を増大させて、許容作動角の増大を図る範囲増大構造を備え、この範囲増大構造は前記外輪とトルクチューブとの間に設けるものであり、
前記中心軸部は、継手奥側の小径軸部と、この小径軸部の継手開口側に連設されて継手開口側に向かって拡径する奥側テーパ部と、この奥側テーパ部の継手開口側に連設される大径軸部と、この大径軸部の継手開口側に連設されて継手開口側に向かって縮径する開口側テーパ部とを有し、この開口側テーパ部と前記奥側テーパ部とで前記範囲増大構造を構成し、
前記中心軸部の継手開口側の先端部を凸曲面とするとともに、前記トルクチューブは、前記中心軸部が嵌入される孔部を備え、かつ、この孔部は、底面と、この底面から立ち上がる凹球面と、本体円筒面とを有し、前記中心軸部の凸曲面が前記孔部の底面に対向可能とされ、前記トルクチューブの孔部の凹球面の曲率半径を前記中心軸部の凸曲面の曲率半径よりも大きく設定したことを特徴とすることを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記トルクチューブは、前記ポケットが形成される円環部と、円環部よりも継手奥側に外径が継手奥側に向かって縮径する第1テーパ部と、円環部よりも継手開口側に外径が継手開口側に向かって縮小する第2テーパ部と、この第2テーパ部から継手開口側へ延びる連結軸部と、この連結軸部から反円環部側に連結されるボス部とを備え、前記連結軸部を、外輪の開口端部との接触を回避するためのぬすみ部とするとともに、前記中心軸部の小径軸部を、トルクチューブの開口端部の接触を回避するぬすみ部とし、各ぬすみ部の外径寸法を、許容作動角が20degである継手の各ぬすみ部の外径寸法の1/1.5倍とし、かつ、前記外輪のトラック溝の軸方向長さを、許容作動角が20degである継手の外輪のトラック溝の軸方向長さの1.2倍〜1.3倍としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手に関し、特にトリボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手として、特許文献1及び特許文献2等に示されるように「トリボールジョイント」と称されるものがある。トリボールジョイントは、
図6〜
図8に示すように、中心軸部1と一体となった外輪2と、3個のボール穴(ポケット)3が形成されたトルクチューブ4が、3個のボール5を介して伝達力を伝えるようになっている。
【0003】
すなわち、外輪2は、外周壁2aと、底壁2bと、底壁2bから突設される前記中心軸部1とを備え、これらによって、一端が開口する環状空間6が形成される。環状空間6の外壁面9aと内壁面9bに軸方向に延びる3本のトラック溝7,8が周方向に120°の間隔をおいて形成される。なお、底壁2bには、孔部10aが形成された短筒形状のボス部10が設けられている。
【0004】
また、中心軸部1は、継手奥側、つまり底壁2b側の小径軸部1aと、この小径軸部1aの先端に連設される大径部1bと、この大径部1bの先端面から突設される膨出部1cとからなる。そして、小径軸部1aの一部から大径部1bに渡って軸方向に延びるトラック溝8が、周方向に沿って120°ピッチで3個形成されている。膨出部1cの端面は、凸曲面11とされている。
【0005】
トルクチューブ4は、周方向に沿って120°ピッチで、3個のポケット3を有する円環部13と、円環部13よりも継手奥側に外径が継手奥側に向かって縮径する第1テーパ部14と、円環部13よりも継手開口側に外径が継手開口側に向かって縮小する第2テーパ部15と、この第2テーパ部15から継手開口側へ延びる連結軸部16と、この連結軸部16から反円環部側に連結されるボス部17とを備える。トルクチューブ4の内径面(中心軸部1が嵌入する孔部20の内径面)の端縁に継手奥側に向かって拡径する端縁テーパ部22が形成されている。なお、ボス部17には、貫通孔17aが設けられている。
【0006】
トルクチューブ4の孔部20は、底面20aと、この底面20aから立ち上がる凹球面20bと、本体円筒面部20cとを備え、本体円筒面部20cの開口縁部に前記端縁テーパ部22が形成される。そして、トルクチューブ4の孔部20の凹球面20bの曲率半径K1を膨出部1cの凸曲面11の曲率半径よりも大きく設定している。
【0007】
また、外輪2の開口側の外周壁内径面に、ボール抜け止め用にストップリング30が配設され、外輪2の開口部はブーツ31にて密封されている。すなわち、ブーツ31は、大径部31aと、小径部31bと、大径部31aと小径部31bとを連結する蛇腹部31cとからなる。そして、大径部31aを外輪2の開口端部に外嵌してブーツバンド32で締め付け、小径部31bをトルクチューブ4の所定位置に外嵌してブーツバンド32で締め付ける。なお、ストップリング30は、外輪2の開口側の外周壁内径面に設けられた周方向溝29に嵌合している。また、外輪2の外周壁2aの外径面の開口側に設けられた周方向凹溝33にブーツ31の大径部31aの内径面に形成された凸隆部31a1が嵌合するとともに、ボス部17の外径面に設けられた周方向凹溝34にブーツ31の小径部31bの内径面に形成された凸隆部31b1が嵌合している。
【0008】
ところで、
図8(a)に示す状態から作動角をとった場合、トルクチューブ4は偏心することになる。すなわち、
図8(b)に示すように、トラック溝7を有さない部位(周方向に隣り合うトラック溝7,7間)側に傾斜させた場合、トルクチューブ4の軸心が、矢印X1側(トラック溝7,7間に対して180°反対方向のトラック溝側)に偏心する。この偏心量は次の数1で表すことができる。なお、
図8においては、ブーツ31およびブーツバンド32の記載を省略している。
【数1】
【0009】
また、
図8(c)に示すように、一つのトラック7側に傾斜させた場合、トルクチューブ4の軸心が、矢印X2側(トラック溝に対して180°反対方向のトラック溝7を有さない部位)に偏心する。この場合の偏心量も前述の数1で表すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−44349号公報
【特許文献2】特開2014−25486公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
トリボールジョイントにおいては、作動角を付与することによって、偏心して等速性を保つ機構となっている。しかしながら、外輪2とトルクチューブ4の形状から最大許容角度が制限され、高角度化は難しく許容作動角が20degが標準となっていた。許容作動角は、
図8(b)(c)に示すように、トルクチューブ4のテーパ面14、15の外輪2の環状空間6の外壁面9aへの接触、トルクチューブ4のテーパ面22と外輪2の小径軸部1aとの接触、および、トルクチューブ4の孔部20の開口端部の中心軸部1への接触等によって決定される。このため、外輪2の中心軸部1とトルクチューブ4の内径面との干渉を避ける必要があるとともに、強度面を考慮すると、許容作動角が20degとなる設計が限度であった。一方、強度面を落としても、等速自在継手の高角度化の要求も多い。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、コンパクト性を維持しつつ必要強度を確保でき、しかも、許容作動角を20degよりも大きくとることができる高角度トリボールジョイントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手は、底壁から中心軸部を突出させることによって一端が開口する環状空間を形成し、その環状空間の外壁面と内壁面のそれぞれに軸方向に延びる3本のトラック溝が周方向に120°の間隔をおいて形成された外輪と、その外輪の前記環状空間内に端部が組込まれ、前記トラック溝のそれぞれと対応する位置にポケットが形成されたトルクチューブと、このトルクチューブのポケット内に組込まれて前記トラック溝に沿って転動可能なボールとを備えた等速自在継手であって、作動角を取った際において、前記中心軸部と前記トルクチューブとが接触するまでの範囲を増大させて、許容作動角の増大を図る範囲増大構造を備え、この範囲増大構造は前記外輪とトルクチューブとの間に設けるものであり、前記中心軸部は、継手奥側の小径軸部と、この小径軸部の継手開口側に連設されて継手開口側に向かって拡径する奥側テーパ部と、この奥側テーパ部の継手開口側に連設される大径軸部と、この大径軸部の継手開口側に連設されて継手開口側に向かって縮径する開口側テーパ部とを有し、この開口側テーパ部と前記奥側テーパ部とで前記範囲増大構造を構成し、前記中心軸部の継手開口側の先端部を凸曲面とするとともに、前記トルクチューブは、前記中心軸部が嵌入される孔部を備え、かつ、この孔部は、底面と、この底面から立ち上がる凹球面と、本体円筒面とを有し、前記中心軸部の凸曲面が前記孔部の底面に
対向可能とされ、前記トルクチューブの孔部の凹球面の曲率半径を前記中心軸部の凸曲面の曲率半径よりも大きく設定したものである。ここで、干渉範囲を増大させるとは、作動角と取った際に中心軸部とトルクチューブとが接触するまでの範囲を増大させることであり、許容作動角の増大を図るものである。
【0014】
本発明の等速自在継手によれば、範囲増大構造を設けたことによって、許容作動角を大きくとることができる。しかも、外輪の中心軸部は、範囲増大構造以外の部位を、少なくとも、従来のこの種のトリボールジョイントの中心軸部と同程度とすることができ、強度面でも安定することになる。
【0015】
前記中心軸部は、継手奥側の小径軸部と、この小径軸部の継手開口側に連設されて継手開口側に向かって拡径する奥側テーパ部と、この奥側テーパ部の継手開口側に連設される大径軸部と、この大径軸部の継手開口側に連設されて継手開口側に向かって縮径する開口側テーパ部とを有し、この開口側テーパ部と前記奥側テーパ部とで前記範囲増大構造を構成することができる。このため、奥側テーパ部と開口側テーパ部とで、中心軸部とトルクチューブとの接触余裕を増やす構造となる。
【0016】
トルクチューブは、前記ポケットが形成される円環部と、円環部よりも継手奥側に外径が継手奥側に向かって縮径する第1テーパ部と、円環部よりも継手開口側に外径が継手開口側に向かって縮小する第2テーパ部と、この第2テーパ部から継手開口側へ突出する連結軸部と、この連結軸部から反円環部側に連結されるボス部とを備え、前記連結軸部を、外輪の開口端部との接触を回避するための連結軸側ぬすみ部とするとともに、前記中心軸部の小径軸部を、トルクチューブの開口端部の接触を回避する小径軸部側ぬすみ部とし、各ぬすみ部の外径寸法を、許容作動角が20degである継手の各ぬすみ部の外径寸法の1/1.5倍とし、かつ、前記外輪のトラック溝の軸方向長さを、許容作動角が20degである継手の外輪のトラック溝の軸方向長さの1.2倍〜1.3倍とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、コンパクト性を維持しつつ必要強度を確保でき、しかも、許容作動角を大きくとることができるトリボールジョイントの等速自在継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の等速自在継手(トリボールジョイント)の断面図である。
【
図2】
図1のトリボールジョイントの要部拡大図である。
【
図3】
図1のトリボールジョイントの外輪を示し、(a)は断面図であり、(b)が正面図である。
【
図4】
図1のトリボールジョイントのトルクチューブの断面図である。
【
図5】
図1のトリボールジョイントを示し、(a)は作動角をとっていない状態の断面図であり、(b)は許容作動角をとった状態の断面図であり、(c)は(b)と相違する方向の許容作動角をとった状態の断面図である。
【
図6】従来のトリボールジョイントの断面図である。
【
図7】従来のトリボールジョイントの一部断面で示す斜視図である。
【
図8】従来のトリボールジョイントを示し、(a)は作動角をとっていない状態の断面図であり、(b)は許容作動角をとった状態の断面図であり、(c)は(b)と相違する方向の許容作動角をとった状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態を
図1〜
図5に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る等速自在継手(トリボールジョイント)を示す。この等速自在継手は、中心軸部51と一体となった外輪52と、3個のボール穴(ポケット)53が形成されたトルクチューブ54が、3個のボール55を介して伝達力を伝えるようになっている。
【0020】
すなわち、外輪52は、
図3(a)(b)に示すように、外周壁52aと、底壁52bと、底壁52bから突設される前記中心軸部51とを備え、これらによって、一端が開口する環状空間56が形成される。環状空間56の外壁面59aと内壁面59bに軸方向に延びる3本のトラック溝57,58が周方向に120°の間隔をおいて形成される。なお、底壁52bには、孔部60aが形成された短筒形状のボス部60が設けられている。
【0021】
また、中心軸部51は、継手奥側、つまり底壁52b側の小径軸部51aと、この小径軸部51aの継手開口側に連設される奥側テーパ部51bと、この奥側テーパ部51bの継手開口側に連設される大径軸部51cと、この大径軸部51cの継手開口側に連設される開口側テーパ部51dとを有する。奥側テーパ部51bは、小径軸部51a側から継手開口側に向かって拡径するテーパ部であり、開口側テーパ部51dは、大径軸部51c側から継手開口側に向かって縮径するテーパ部である。そして、奥側テーパ部51bから開口側テーパ部51dに渡って軸方向に延びるトラック溝58が、周方向に沿って120°ピッチで3個形成されている。
【0022】
トルクチューブ54は、
図4に示すように、周方向に沿って120°ピッチで、3個のポケット53を有する円環部63と、円環部63よりも継手奥側に外径が継手奥側に向かって縮径する第1テーパ部64と、円環部63よりも継手開口側に外径が継手開口側に向かって縮小する第2テーパ部65と、この第2テーパ部65から継手開口側から突出する連結軸部66と、この連結軸部66から反円環部側に連結されるボス部67とを備える。なお、ボス部67には、貫通孔67aが設けられている。トルクチューブ54は、外輪52の中心軸部51が嵌入される孔部70が形成される。
【0023】
トルクチューブ54の孔部70は、底面70aと、この底面70aから立ち上がる凹球面70bと、本体円筒面部70cとを備え、本体円筒面部70cの開口縁部に前記端縁テーパ部72が形成される。また、
図3に示すように、中心軸部51の先端部が凸曲面51eとされる。そして、トルクチューブ54の孔部70の凹球面70bの曲率半径K(
図2参照)を凸曲面51eの曲率半径よりも大きく設定している。
【0024】
この場合、小径軸部51aは、
図5(b)(c)に示すように、この等速自在継手が作動角をとった際に、中心軸部51が嵌入されるトルクチューブ54の孔部70における開口端部を接触させない小径軸側ぬすみ部を構成する。また、トルクチューブ54の内径面(孔部70の内径面)の端縁に端縁テーパ部72は継手奥側に向かって拡径するように形成されている。
【0025】
図1及び
図2に示すように、外輪52の開口側の外周壁内径面に、ボール抜け止め用のストップリング80が配設され、外輪52の開口部はブーツ81にて密封されている。すなわち、ブーツ81は、大径部81aと、小径部81bと、大径部81aと小径部81bとを連結する蛇腹部81cとからなる。そして、大径部81aを外輪52の開口端部に外嵌してブーツバンド82で締め付け、小径部81bをトルクチューブ54の所定位置に外嵌してブーツバンド82で締め付ける。なお、ストップリング80は、外輪52の開口側の外周壁内径面に設けられた周方向溝79に嵌合している。また、外輪52の外周壁52aの開口側の外径面に設けられた周方向凹溝83にブーツ81の大径部81aの内径面に形成された凸隆部81a1が嵌合するとともに、トルクチューブ54のボス部67の外径面に設けられた周方向凹溝84にブーツ81の小径部81bの内径面に形成された凸隆部81b1が嵌合している。
【0026】
ところで、前記のように構成された等速自在継手が、
図5(a)に示す作動角をとっていない状態から
図5(b)(c)に示す作動角をとった場合、トルクチューブ54は偏心することになる。すなわち、
図5(b)に示すように、トラック溝57、58を有さない部位(周方向に隣り合うトラック溝57,57間)側に傾斜させた場合、トルクチューブ54の軸心が、矢印X1側(トラック溝57,57間に対して180°反対方向のトラック溝57側)に偏心する。この偏心量は前述の数1で表すことができきる。なお、
図5においては、ブーツ81およびブーツバンド82の記載を省略している。
【0027】
また、
図5(c)に示すように、一つのトラック57側に傾斜させた場合、トルクチューブ54の軸心が、矢印X2側(トラック溝に対して180°反対方向のトラック溝57を有さない部位)に偏心する。この場合の偏心量も前述の数1で表すことができる。
【0028】
このように、前記のように構成された等速自在継手は、許容作動角が30degになっている。このため、許容作動角が20degである
図6に示すトリボールジョイントと比較する。
図6の外輪2において、外輪2のトラック溝7の有効長さをA1とし、中心軸部1の付け根部の外径寸法をB1とし、
図2に示す等速自在継手において、外輪52のトラック溝57の有効長さをAとし、中心軸部51の付け根部、つまり小径軸部51aの外径寸法をBとしたときに、AをA1の約1.2倍から約1.3倍程度とし、BをB1の1/1.5倍程度としている。
【0029】
また、
図6のトルクチューブ4において、連結軸部16の外径寸法をD1とし、
図2のトルクチューブ54において、連結軸部66の外径寸法をDとしたときに、DをD1の1/1.5倍程度としている。
図6のトルクチューブ4において、テーパ部14の傾斜角度をE1とし、端縁テーパ部22の傾斜角度をF1とし、テーパ部15の傾斜角度をG1としたとき、各E,F,Gを20degとしている。これに対して、
図2のトルクチューブ54において、テーパ部64の傾斜角度をEとし、端縁テーパ部72の傾斜角度をFとし、テーパ部65の傾斜角度をGとしたときに、E,F,GをE1,F1,G1よりも大きい30degとしている。
【0030】
図6の中心軸部1の膨出部1cの凸曲面11の曲率中心の継手中心からのずれ量をL1とし、
図2の中心軸部51の先端部が凸曲面51eの曲率中心の継手中心からのずれ量をLとしたときに、LをL1よりも例えば、2倍程度に大きくしている。
【0031】
ところで、本発明に係る等速自在継手の外輪52の中心軸部51においては、
図2に示すように従来の等速自在継手の外輪の中心軸部に設けられていない奥側テーパ部51bおよび開口側テーパ部51dが設けられている。この場合、奥側テーパ部51bの傾斜角度をHとし、開口側テーパ部51dの傾斜角度をJとした場合、HおよびJを30deg程度としている。
【0032】
このため、
図5(a)に示す状態から、
図5(b)(c)に示すように作動角をとった場合、許容作動角が30degとなる。すなわち、中心軸部51の付け根部である小径軸部51aの外径寸法を小さくすることによって、トルクチューブ54の開口端部の接触を回避することができ小径軸側ぬすみ部N2を構成することができる。また、トルクチューブ54の連結軸部66の外径寸法を小さくすることによって、外輪の開口端部との接触を回避するための連結軸側ぬすみ部N1を構成することができる。
【0033】
さらには、中心軸部51に、傾斜角度が30degの奥側テーパ部51bおよび開口側テーパ部51dを設けているので、中心軸部51とトルクチューブ54との干渉範囲を増大させる範囲増大構造M、Mを、外輪52とトルクチューブ54との間に設けることになる。すなわち、この範囲増大構造M、Mは、奥側テーパ部51bおよび開口側テーパ部51dにて構成することになる。このため、奥側テーパ部51b及び開口側テーパ部51dが、
図5(b)(c)に示すように、外輪52の環状空間56の外壁面59aに平行になるまで、作動角をとることができ、これが30degである。このように、干渉範囲を増大させるとは、作動角と取った際に中心軸部51とトルクチューブ54とが接触するまでの範囲を増大させることであり、許容作動角の増大を図るものである。
【0034】
本発明では、範囲増大構造Mを設けたことによって、許容作動角を大きくとることができる。しかも、中心軸部51は、範囲増大構造M以外の部位を、少なくとも、従来のこの種のトリボールジョイントの中心軸部と同程度とすることができ、強度面でも安定することになる。このため、許容作動角を大きくとることができ、しかも、強度面でも安定したトリボールジョイントの等速自在継手を提供できる。
【0035】
寸法A,B,D、L、及び、角度E,F,G,H,Jを前記のように設定することによって、30degの許容作動角をとるまで、外輪52とトルクチューブ54との接触を安定して回避でき、しかも、外輪52およびトルクチューブ54の強度においても、安定させることができる。
【0036】
ところで、作動角付与状態での偏心量γ(
図5及び
図8参照)は、計算上、ボールPCRおよび作動角が大きくなるほど大きくなる。このため、
図5に示すように許容作動角が30degのものを設計しようとすれば、偏心量γが大きくなる。そこで、この偏心量を許容作動角時の外輪52とトルクチューブ54との接触(干渉)を考慮して、前記寸法A,B,D、L、及び、角度E,F,G,H,Jを設定することになる。また、
図6に示す従来品と同様の強度を有し、かつ許容作動角が30degのものを設計しようとすれば、外輪の外径寸法は、従来品の1.5倍程度となる。
【0037】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、実施形態では、等速自在継手として、フランジ部を有さないいわゆるボス形であったが、フランジ部を有するいわゆるフランジ形であっても、半成フランジ付きであってもよい。なお、許容作動角を変更する場合、その作動角に応じて、寸法A,B,D、L、及び、角度E,F,G,H,J等を変更すればよい。
【符号の説明】
【0038】
51 中心軸部
51a 小径軸部
51b 奥側テーパ部
51c 大径軸部
51d 開口側テーパ部
52 外輪
52b 底壁
53 ポケット
54 トルクチューブ
55 ボール
56 環状空間
57,58 トラック溝
59a 外壁面
59b 内壁面
63 円環部
64 第1テーパ部
65 第2テーパ部
66 連結軸部
67 ボス部
72 端縁テーパ部
N1 連結軸側ぬすみ部
N2 小径軸側ぬすみ部
M 範囲増大構造