(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)微生物菌体粉末と、(B)HLBが6〜17のショ糖ステアリン酸エステル、HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステル、HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステル、およびHLBが14〜17のショ糖パルミチン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のショ糖脂肪酸エステルとを含有することを特徴とする、微生物菌体含有炭酸飲料。
前記ショ糖脂肪酸エステル(B)が、HLBが15.5〜16.5のショ糖ステアリン酸エステル、HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステル、HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステル、およびHLBが14〜17のショ糖パルミチン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の微生物菌体含有炭酸飲料。
前記ショ糖脂肪酸エステル(B)が、HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステル、HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステル、およびHLBが14.5〜15.5のショ糖パルミチン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の微生物菌体含有炭酸飲料。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向などを背景に、健康上有益な生理活性を有する機能性成分として、乳酸菌が注目されている。乳酸菌は、これまでに整腸作用、抗アレルギー作用、コレステロール低減作用、血圧降下作用、美肌作用、安眠作用など、菌株により様々な生理活性を有することが知られている。また、新規な生理活性を有する乳酸菌株の研究が進められており、例えば、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorous)CP1563株は、脂質代謝及び/又は糖代謝の改善に有効であることや(特許文献1)、当該菌株を破壊することによって脂質代謝改善効果が向上することが報告されている(特許文献2)。このような乳酸菌を簡便に日常的に摂取できる点において、乳酸菌含有飲料は、消費者の健康志向に合致し、今後ますますニーズが高まることが予想される。
【0003】
乳酸菌含有飲料の製造方法としては、例えば、原料乳に乳酸菌を加えて発酵させて得られる発酵乳を配合する方法や、乳酸菌の菌体を凍結乾燥等により乾燥させた菌体粉末を配合する方法などがある。しかしながら、このような方法で製造された乳酸菌含有飲料は、保存中に発酵乳中の乳蛋白質または菌体粉末の凝集や沈澱が発生したり、発酵乳による白濁が起こるなどの問題があった。
【0004】
これまで、乳酸菌含有飲料において乳蛋白質などの沈殿の発生を抑制し、保存安定性を向上させるために、ペクチン、ガム類、大豆多糖類などの安定剤を添加する方法(特許文献3、4)、発酵セルロース及び大豆多糖類を添加する方法(特許文献5)などが報告されている。
【0005】
また、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤は、食品加工の際に乳化、分散、浸透、洗浄、起泡、消泡、離型等の目的で使用され、飲料においては、保存中の油脂分の分離を防止する目的で使用されることが多い。例えば、特許文献6には、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを併用することによって、乳化状態が良好で保存安定性に優れる乳飲料が得られることが開示されている。特許文献7には、(A)平均HLBが14以下であるショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤、(B)結晶セルロース、(C)キサンタンガム、(D)ジェランガム、および(E)単糖類等、の5成分を必須成分として含有し、そのうち(A)〜(D)の4成分を特定の比率で含有する、蛋白飲料用の沈澱防止剤を配合することによって、その蛋白飲料が高塩分飲料や低粘度飲料であっても分散安定性を向上させることができることが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3〜7に記載された発明はいずれも乳蛋白質の凝集の抑制や乳脂肪分の分散の促進により安定化を図るものであり、乳酸菌などの微生物菌体の沈殿物や凝集物の分散性を向上させるものではない。
【0007】
一方、特許文献8には、「免疫賦活作用を有する乳酸菌及び多価アルコールと飽和脂肪酸のエステル結合物を有効成分として含む乳酸菌免疫賦活作用増強組成物を含む組成物」が記載されており、前記「組成物」としては「飲食品」が例示されており、前記「多価アルコールと飽和脂肪酸のエステル結合物」としては「ショ糖脂肪酸エステル」が例示されている。しかしながら、特許文献8に記載の発明において、多価アルコールと飽和脂肪酸エステル結合物は、乳酸菌の免疫賦活作用を高めるための成分として用いられているにすぎず、「飲食品」が「飲料」であるかその他のもの(固形物等)であるかは当該効果との関係で特に区別されていない。換言すれば、特許文献8には、多価アルコールと飽和脂肪酸エステル結合物、中でも特定の範囲のHLBを有するショ糖脂肪酸エステルを「飲料」(例えば乳酸菌飲料)に配合したときに、乳酸菌(粉末)の分散安定性を向上させるという効果を有することは、そのようなことが具体的に認識できるようには開示されていない。特許文献8の実施例3および
図3には、ショ糖脂肪酸エステルとして、ショ糖パルミチン酸エステル(リョートーシュガーエステルP-1570, P-1670)、ショ糖ステアリン酸エステル(リョートーシュガーエステルS-1570, S-1670)またはショ糖オレイン酸エステル(リョートーシュガーエステルO-1570)を用いることが開示されているが、当該実施例で調製されている「乳酸菌(JCM5805株)と
図3に記載のサンプルの混合物」は、免疫賦活作用を検証するための脾臓細胞の細胞懸濁液(実施例1)に添加するためのものであって、「飲料」ではない。上記ショ糖脂肪酸エステルの各製品は、細胞に添加したときの免疫賦活作用についてのみ検証されており、飲料に添加したときに分散安定性の向上に実際的な効果を発揮するかという観点からの検証はなされていない。
【0008】
特許文献9には、ラクトバチルス・クンキーに属する乳酸菌またはその菌体処理物を含有する食品組成物が記載されており、食品組成物としては飲料類も例示されているが、当該食品組成物に特定の範囲のHLBを有するショ糖脂肪酸エステルをさらに配合することは開示されていない。特許文献9の実施例には、特定の乳酸菌粉末と、ショ糖脂肪酸エステル(通常は粉末状またはペースト状)との混合物をハードカプセルに充填して「乳酸菌カプセル」を得たことが記載されているが、当該組成物は「飲料」ではなく、ショ糖脂肪酸エステルのHLBおよび脂肪酸(残基)の化合物名も不明である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.微生物菌体含有炭酸飲料
本発明の炭酸飲料は、微生物菌体粉末(A)と、製造時及び保存中に発生する該微生物菌体粉末の沈澱物や凝集物の分散性および/または崩壊性を向上させるための成分としての、特定のHLBを有する特定のショ糖脂肪酸エステル(B)(本明細書において、単に「ショ糖脂肪酸エステル(B)」と記載することがある。)とを含有する、炭酸飲料である。
【0018】
炭酸飲料の種類は、乳酸菌や酵母などの微生物菌体を配合しうる限り特に限定されるものではないが、例えば、乳性飲料、果汁・野菜汁飲料、茶飲料、コーヒー飲料、機能性飲料、スポーツ飲料などが挙げられる。
【0019】
ここで、「炭酸飲料」は、一般的な食品に該当する炭酸飲料のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、または特別用途食品に該当する炭酸飲料を包含する用語として用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法または健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに、食品表示法により定義され、科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。
【0020】
[微生物菌体粉末]
本発明の炭酸飲料が含有する、微生物菌体粉末の調製に用いる微生物菌体は、代表的には乳酸菌の菌体をいうが、これに限定はされず、例えば、酵母の菌体であってもよい。また、乳酸菌には、乳酸桿菌、乳酸球菌のほか、広義の乳酸菌としてビフィズス菌をも包含するものとする。乳酸菌の菌体としては、飲食品に一般的に使用されるものであれば限定はされないが、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ワイセラ(Weissella)属などに属する乳酸菌の菌体が挙げられ、なかでもラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体が好ましい。これらの乳酸菌の菌体は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・プレビス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・デルプリュッキイ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ケフィア、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナルム等が挙げられる。
【0022】
ビフィドバクテリウム属は、ビフィズス菌とも称され、このような乳酸菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・プレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、及びビフィドバクテリウム・マグナム等が挙げられる。
【0023】
ロイコノストック属に属する乳酸菌としては、例えば、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクティス等が挙げられる。
【0024】
ラクトコッカス属に属する乳酸菌としては、例えば、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・クレモリス等が挙げられる。
【0025】
ペディオコッカス属に属する乳酸菌としては、例えば、ペディオコッカス・ペントサセウス、及びペディオコッカス・ダムノサス等が挙げられる。
【0026】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌としては、例えば、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ヒラエ、及びエンテロコッカス・フェシウム等が挙げられる。
【0027】
ストレプトコッカス属に属する乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ダイアセチラクチス、ストレプトコッカス・フェカリス等が挙げられる。
【0028】
ワイセラ属に属する乳酸菌としては、ワイセラ・チバリア、ワイセラ・コンフューザ、ワイセラ・ハロトレランス、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・キムチイ、ワイセラ・コレエンシス、ワイセラ・ミノール、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ソリ、ワイセラ・タイランデンシス、ワイセラ・ビリデスセンス等が挙げられる。
【0029】
本発明の炭酸飲料において使用する上記の乳酸菌種に属する菌株は、天然からの単離株、寄託株、保存株、市販株などのいずれであってもよい。
【0030】
本発明の炭酸飲料に使用する微生物菌体、好ましくはラクトバチルス属に属する乳酸菌から選択される菌体は、微生物菌体の培養に通常用いられる培地を使用して、通常使用される条件下で培養することにより増殖し回収することができる。
【0031】
培養培地は、通常、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、上記の菌種の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、例えばラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、廃糖蜜などを使用することができ、窒素源としては、例えばカゼイン加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物、酵母エキス、肉エキス等の有機窒素含有物を使用することができる。また無機塩類としては、例えばリン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛などを用いることができる。乳酸菌の培養に適した培地としては、例えばMRS液体培地、GAM培地、BL培地、Briggs Liver Broth、獣乳、脱脂乳、乳性ホエーなどが挙げられる。好ましくは、滅菌されたMRS培地を使用することができる。また食品用途で用いる場合には食品素材ならびに食品添加物のみで構成した培地も使用可能である。天然培地としては、トマトジュース、ニンジンジュース、その他野菜ジュース、あるいはリンゴ、パイナップル、ブドウ果汁なども使用することができる。
【0032】
培養は、20〜50℃、好ましくは25〜42℃、より好ましくは約37℃において、嫌気条件下で行う。温度条件は、恒温槽、マントルヒーター、ジャケットなどにより調整することができる。また、嫌気条件下とは、菌が増殖可能な程度の低酸素環境下のことであり、例えば嫌気チャンバー、嫌気ボックスまたは脱酸素剤を入れた密閉容器もしくは袋などを使用することにより、あるいは単に培養容器を密閉することにより、嫌気条件とすることができる。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養などである。また、培養時間は、特に制限されないが、例えば3時間〜96時間とすることができる。培養開始時の培地のpHは、例えば4.0〜8.0に維持することが好ましい。
【0033】
例えば、微生物菌体として乳酸菌、ラクトバチルス・アミロボラスCP1563株(受託番号FERM BP−11255)を用いる場合には、食品グレードの乳酸菌用培地に当該乳酸菌を植菌し、約37℃で一晩(約18時間)かけて培養を行うことができる。
【0034】
本発明の炭酸飲料に用いる「微生物菌体粉末」は、微生物菌体の培養液を、当技術分野で公知の方法及び機器を使用して乾燥して、粉状物とすることにより得ることができる。具体的な乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、これらの乾燥手段を単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0035】
微生物菌体粉末は、微生物菌体の細胞構造を破壊することによって菌体を損傷させ、単に凍結乾燥などの手法で乾燥した微生物菌体粉末よりもさらに微細な粉末にした「破壊処理微生物菌体粉末」であってもよい。破壊処理微生物菌体粉末は、破壊された微生物菌体全体(すなわち、細胞を構成する本質的にすべての成分)をそのまま回収することによって得られる。
【0036】
微生物菌体の破壊処理は、当技術分野で公知の方法及び機器を使用して、例えば物理的破砕、磨砕処理、酵素溶解処理、薬品処理、または自己溶解処理などによって行うことができる。
【0037】
物理的破砕は、湿式(微生物菌体を懸濁液の状態で処理)または乾式(微生物菌体粉末の状態で処理)のいずれで行ってもよく、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、遊星ミル等を使用した撹拌により、ジェットミル、フレンチプレス、細胞破砕機等を使用した圧力により、あるいはフィルター濾過により、微生物菌体を損傷させることができる。
【0038】
酵素溶解処理は、例えばリゾチームなどの酵素を用いて、微生物菌体の細胞壁を破壊することによって行われる。
【0039】
薬品処理は、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ダイズリン脂質などの界面活性剤を使用して、微生物菌体の細胞構造を破壊することによって行われる。
【0040】
自己溶解処理は、微生物自身の酵素により微生物菌体を溶解することによって行われる。
【0041】
上記の各処理のなかでも、他の試薬または成分を添加する必要がないため物理的破砕が好ましく、乾式による物理的破砕がより好ましい。
【0042】
物理的破砕は、より具体的には、公知の乾式遊星ミル細胞破砕機(GOT5 ギャラクシー5など)において、微生物菌体粉末を各種ボール(例えばジルコニア製10mmボール、ジルコニア製5mmボール、アルミナ製1mmボール)共存下で、回転数50〜10,000rpm(例えば190rpm)で30分〜20時間(例えば5時間)処理する方法、微生物菌体粉末を公知の乾式ジェットミル細胞破砕機(ジェットOマイザーなど)において、供給速度0.01〜10,000g/min(例えば0.5g/min)、吐出圧力1〜1,000kg/cm
2(例えば6kg/cm
2)の圧力にて、1〜10回(例えば1回)処理する方法などによって行うことができる。また、微生物菌体懸濁液を公知のダイノミル細胞破砕機(DYNO−MILL破砕装置など)において、ガラスピーズを使用して、周速10.0〜20.0m/s(例えば約14.0m/s)、処理流速0.1〜10L/10min(例えば約1L/10min)にて、破砕槽温度10〜30℃(例えば約15℃)で1〜7回(例えば3〜5回)処理する方法、微生物菌体懸濁液を、公知の湿式ジェットミル細胞破砕機(JN20 ナノジェットパルなど)において、吐出圧力50〜1,000Mpa(例えば270MPa)、処理流速50〜1,000ml/min(例えば300ml/min)にて、1〜30回(例えば10回)処理する方法などによっても行うことができる。
【0043】
上記の方法より得られた破壊処理微生物菌体は、乾式の場合はそのまま、また、湿式の場合は、乾燥して粉状物とすることができる。具体的な乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、これらの乾燥手段を単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0044】
本発明の炭酸飲料における、微生物菌体粉末(A)の含有量は、特に限定されないが、生理活性(例えば脂質代謝及び/又は糖代謝の改善効果)を期待し得る量であることが好ましく、例えば、0.001〜1.0質量%であり、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。
【0045】
[ショ糖脂肪酸エステル]
本発明の炭酸飲料には、微生物菌体粉末とともに、特定のHLBを有するショ糖脂肪酸エステル、すなわちHLBが6〜17のショ糖ステアリン酸エステル、HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステル、HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステル、またはHLBが14〜17のショ糖パルミチン酸エステルを配合する。これらのショ糖脂肪酸エステルは、いずれか1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
微生物菌体粉末の沈澱物および凝集物の分散性および/または崩壊性に対する作用効果の観点からは、ショ糖脂肪酸エステルとして、HLBが15.5〜16.5のショ糖ステアリン酸エステル、HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステル、HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステル、またはHLBが14〜17のショ糖パルミチン酸エステルを用いることが好ましい。これらのショ糖脂肪酸エステルは、いずれか1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
さらに、微生物菌体粉末の沈澱物および凝集物の分散性および/または崩壊性に対する作用効果だけでなく、開栓時噴きこぼれおよび充填時噴きこぼれに対する作用効果も加えた観点からは、ショ糖脂肪酸エステルとして、HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステル、HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステル、またはHLBが14.5〜15.5のショ糖パルミチン酸エステルを用いることが好ましい。これらのショ糖脂肪酸エステルは、いずれか1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
ショ糖脂肪酸エステルは、食品衛生法において食品添加物(食品用乳化剤)として許可されている化合物であり、ショ糖を親水基、エステル結合した脂肪酸を親油基とする、非イオン界面活性剤である。ショ糖1分子には8個の水酸基があり、この水酸基に1個以上の脂肪酸がエステル結合することで、モノエステルからオクタエステルまで存在する。ショ糖グリセリン酸エステルは通常、モノエステルからオクタエステルまでの化合物のうち複数種を含有する組成物として製造、販売されている。脂肪酸の種類と、含有されるエステル化合物それぞれの割合(エステル化合物の配合組成)によってHLBは変動し、一般的に、脂肪酸の結合数が少ないエステル化合物を多く含有するほど、組成物としてのショ糖脂肪酸エステルのHLBは大きくなり(親水性であり)、脂肪酸の結合数が多いエステル化合物を多く含有するほど、組成物としてのショ糖脂肪酸エステルのHLBは小さくなる(親油性である)。別の言い方をすれば、ショ糖1分子あたりの脂肪酸の結合数の平均値(平均結合数)が小さいほどショ糖脂肪酸エステルのHLBは大きくなり、脂肪酸の平均結合数が大きいほどショ糖脂肪酸エステルのHLBは小さくなる。
【0049】
所望のHLBを有するショ糖脂肪酸エステルは、公知の方法(例えば、ショ糖と脂肪酸の高級アルコールエステルとのエステル交換反応)により製造することが可能であり、また市販品として入手することもできる。HLBが6〜17のショ糖ステアリン酸エステルとしては、例えば、三菱ケミカルフーズ株式会社製「リョートー(登録商標)シュガーエステル」、銘柄「S−770」(HLB=約7)、「S−970」(HLB=約9)、「S−1170」(HLB=約11);HLBが14〜16のショ糖オレイン酸エステルとしては、同じく「O−1570」(HLB=約15);HLBが15〜17のショ糖ラウリン酸エステルとしては、同じく「L−1695」(HLB=約16);HLBが14〜17のショ糖パルミチン酸エステルとしては、同じく「P−1570」(HLB=約15)、「P−1670」(HLB=約16)が挙げられる。
【0050】
なお、上記製品のHLBはカタログ(三菱ケミカルフーズ株式会社のホームページ、http://www.mfc.co.jp/product/nyuuka/ryoto_syuga/list.html)では概略である旨(「約」と)記載されているが、小数点以下の四捨五入により上記の整数が概略値として表されており、例えばHLBが「約9」であれば「8.5以上9.5未満」であるものと推定する。その他の製品を用いる場合も、HLBはカタログ値を参照することができる。カタログ値が不明である場合、あるいはショ糖脂肪酸エステルを自ら調製して用いる場合、HLBは公知の方法に従って決定することができる。HLBの算出方法にはアトラス法、グリフィン法、デイビス法、川上法などがあり、高速液体クロマトグラフィーでの保持時間から決定する方法もある。本発明においては、(i)ショ糖脂肪酸エステル(混合物)の組成が分かる場合には、各化合物のHLBをグリフィン法で算出した後、その加重平均をショ糖脂肪酸エステルのHLBとすることとし、(ii)ショ糖脂肪酸エステル(混合物)の組成が分からない場合には、HLBが既知のショ糖脂肪酸エステルのサンプルとの対比により、高速液体クロマトグラフィーでの保持時間からショ糖脂肪酸エステルのHLBを求めることとする。
【0051】
本発明の炭酸飲料における、特定のHLBを有する特定のショ糖脂肪酸エステル(B)の含有量は、微生物菌体粉末(A)の分散性改善効果などを考慮しながら適宜調整することができる。炭酸飲料における、ショ糖脂肪酸エステル(B)の含有量の下限は0.001質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましく、0.02質量%がさらに好ましく、0.04質量%が特に好ましく、0.05質量%が最も好ましい。また、炭酸飲料における、ショ糖脂肪酸エステル(B)の含有量の上限は0.2質量%が好ましく、0.15質量%がより好ましく、0.11質量%がさらに好ましい。下限がこれより低いと分散性の効果が期待できず、上限がこれより高いと風味やコスト、液色の濁りの観点から望ましくない。
【0052】
[他の成分など]
本発明の炭酸飲料は、上述したような必須成分、微生物菌体粉末(A)およびショ糖脂肪酸エステル(B)のほかに水分を含み、さらに本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分(任意成分)を含んでいてもよい。任意成分は、一般的な飲料に通常用いられる他の原材料の中から適宜選択することができ、例えば、乳、果汁・野菜汁、増粘安定剤(乳蛋白質安定化剤)、酸味料、甘味料、香料、消泡剤、色素、その他の添加剤等を挙げられる。
【0053】
水分としては、例えば、イオン交換水を用いることができる。また、乳、果汁・野菜汁等の原料に含まれる水分も、非炭酸液状飲食品中の水分とすることができる。本発明の炭酸飲料における水分の含有量は、他の成分の含有量などを考慮しながら、特に微生物菌体粉末(A)およびショ糖脂肪酸エステル(B)の含有量が適切な範囲ないし前述したような好ましい範囲に収まるよう、適宜調整することができる。
【0054】
乳は、動物または植物由来のいずれの乳であってもよい。例えば、牛乳、山羊乳、羊乳、馬乳等の獣乳、豆乳等の植物乳を用いることができ、牛乳が一般的である。これらの乳は、単独でまたは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0055】
乳の形態は特に限定されず、全脂乳、脱脂乳、乳清及びこれらの粉乳、乳蛋白濃縮物、濃縮乳からの還元乳等のいずれであってもよい。また、乳として、乳酸菌やビフィズス菌等の微生物を用いて発酵させた発酵乳を用いることもできる。これらの乳は、単独でまたは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0056】
本発明の炭酸飲料において乳を配合する場合、該炭酸飲料に含まれる無脂乳固形分(SNF)量は特に限定されないが、風味と保存安定性の観点から0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜4質量%がより好ましく、0.1〜2質量%がさらに好ましく、0.2〜1.2質量%が最も好ましい。ここで、無脂乳固形分(SNF)とは、乳を構成する成分のうち、水分および脂肪分を除いた成分であり、主にタンパク質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどを含む。
【0057】
本発明の炭酸飲料が含有する炭酸ガスのガスボリュームは、特に限定されないが、1.0以上5.0以下が好ましく、2.0以上4.0以下がより好ましい。なお、ガスボリュームとは、1気圧、20℃において、炭酸飲料に溶解している炭酸ガスの体積を炭酸飲料の体積で割った値をいう。
【0058】
本発明の炭酸飲料のpHは酸性であれば特に限定がされないが、6.5未満が好ましく、6.0未満がより好ましく、4.5未満がさらに好ましく、4.2未満がさらにより好ましく、4.0未満が特に好ましい。なお、炭酸飲料におけるpHは、ガスを常法によって(スターラーなどを用いて)抜いた後に測定される。
【0059】
本発明の炭酸飲料を製造する場合、用いる原材料によって、例えば任意成分として発酵乳、果汁などを用いる場合、pHが上記の範囲となればpH調整は必要としないが、上記の範囲でない場合は、pH調整剤を用いてpH調整を行う。pH調整剤としては、酸味料として一般的に使用される有機もしくは無機の食用酸またはそれらの塩を用いればよく、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、フィチン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、またはこれらのナトリウム塩、カルシウム塩もしくはカリウム塩等が挙げられる。pH調整剤の使用量は、所望のpHとすることができ、かつ飲料の風味に影響がない範囲であれば特に限定されない。
【0060】
本発明の炭酸飲料の糖度(Brix値)は特に限定されないが、風味やカロリーの観点から、0.1〜16が好ましく、0.1〜11がより好ましく、0.1〜5がさらに好ましい。Brix値(単位:Bx)とは、20℃における糖用屈折計の示度であり、例えばデジタル屈折計「Rx−5000」(アタゴ社製)を使用して20℃で測定した、可溶性固形分量をいう。
【0061】
本発明の炭酸飲料に、甘みを付与し、かつ糖度(Brix値)を上記範囲に調整するための甘味料(糖度調整剤)としては、例えば、単糖(ブドウ糖、果糖、キシロース、ガラクトース等)、二糖(ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、イソマルツロース等)、オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、ニゲロオリゴ糖等)、糖アルコール(エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、還元イソマルツロース、還元水飴等)、果糖ぶどう糖液糖等の異性化糖などが挙げられる。また、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、サッカリンナトリウム、グリチルリチン、グリチルリチン酸ジカリウム、ソーマチン、ネオテーム等の高甘味度甘味料を用いることもできる。
【0062】
果汁としては、例えば、リンゴ、オレンジ、ミカン、レモン、グレープフルーツ、メロン、ブドウ、バナナ、モモ、イチゴ、ブルーベリー、マンゴーなどの果汁が挙げられる。また、野菜汁としては、例えば、トマト、ニンジン、カボチャ、ピーマン、キャベツ、ブロッコリー、セロリ、ホウレンソウ、ケール、モロヘイヤなどの野菜汁が挙げられる。果汁や野菜汁は果物や野菜の絞り汁そのままでもよく、濃縮されていてもよい。また、不溶性固形物を含む混濁果汁または野菜汁であっても、精密濾過や酵素処理、限外濾過等の処理により不溶性固形物を除去した透明果汁または野菜汁であってもよい。
【0063】
炭酸飲料に許容される添加剤としては、例えば、増粘安定剤(大豆多糖類、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム等)、消泡剤(グリセリン脂肪酸エステル、シリコン製剤等)、酸化防止剤(トコフェロール、アスコルビン酸、塩酸システイン等)、香料(レモンフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフレーバー、ピーチフレーバー、アップルフレーバー等)、色素(カロチノイド色素、アントシアニン色素、ベニバナ色素、クチナシ色素、カラメル色素、各種合成着色料等)などが挙げられる。また、健康機能の増強を期待して、ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD等)、ミネラル類(カルシウム、カリウム、マグネシウム等)、食物繊維等の各種機能成分を用いることもできる。
【0064】
[製造方法]
本発明の炭酸飲料は、微生物菌体粉末(A)を含有する溶液ないし分散液(本明細書において「微生物菌体粉末溶液」と呼ぶことがある。)と、ショ糖脂肪酸エステル(B)を含有する溶液ないし分散液(本明細書において「ショ糖脂肪酸エステル溶液」と呼ぶことがある。)とを混合した後、均質化処理する工程、および炭酸ガスを溶解させる工程を含む製造方法により得られる。
【0065】
ショ糖脂肪酸エステル溶液は、例えば、ショ糖脂肪酸エステルを冷水に分散させた後、加温して70℃以上にして溶解させるようにして、調製することができる。
【0066】
均質化処理は、食品加工用に一般に用いられるホモジナイザーを用いて常法により行えばよく、その圧力は、ホモジナイザーで10〜30MPa程度が好ましい。また、均質化時の温度は任意の温度(例えば5〜25℃)でよく、一般的な加熱条件下(例えば50〜90℃)での均質化も可能である。均質化処理工程では、微生物菌体粉末溶液と、ショ糖脂肪酸エステル溶液とを混合する際に、必要に応じて配合されるその他の成分(例えば乳、増粘安定剤、酸味料および消泡剤)を、上記いずれかの溶液に予め添加し、または上記溶液の混合液に添加し、微生物菌体粉末およびショ糖脂肪酸エステルと一緒に混合することにより、本発明の炭酸飲料に配合することができる。
【0067】
本発明の炭酸飲料の製造方法において、上述した微生物菌体粉末溶液およびショ糖脂肪酸エステル溶液を用いる均質化処理工程以外の工程は、炭酸飲料の通常の製造方法に準じたものとすることができる。例えば、本発明の炭酸飲料の製造方法は、さらに炭酸ガス溶解工程、濾過処理工程、充填工程、殺菌処理工程などを含むことができる。
【0068】
炭酸ガス溶解工程は、例えば、上述したようにして調合したシロップ液と処理水とを脱気した後に連続的に定量混合し、炭酸ガス溶解に適した温度まで冷却した後に、所定の炭酸ガスボリュームになるように炭酸ガスを圧入することにより行うことができる。
【0069】
容器への充填工程は、例えば、容器充填に適した温度まで炭酸飲料を冷却して、予め洗浄殺菌した容器に無菌充填する方法により行うことができる。
【0070】
殺菌処理工程は、例えば、65℃で10分間と同等以上の殺菌価を有する加熱殺菌処理により行うことができる。殺菌処理は、通常、容器への充填工程の後にレトルト殺菌あるいはパストライザーなどの温水シャワー殺菌にて行う。必要に応じて1回だけでなく、均質化工程の前後や充填工程の前など複数の時点での殺菌処理を追加してもよい。その際の殺菌処理の方法は特に制限されず、通常のバッチ殺菌、オートクレーブ殺菌、プレート式殺菌、チューブラー式殺菌などの方法を採用することができる。
【0071】
本発明の炭酸飲料を充填する容器の種類は、特に限定されるものではないが、ガラス、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、金属、紙製の容器を使用することができる。また、容量についても特に限定はされず、例えば100〜2,000mlが挙げられ、微生物菌体量等を考慮して適宜選択することができる。
【0072】
2.炭酸飲料における微生物菌体粉末の沈澱物または凝集物の分散性および/または崩壊性向上方法
本発明による、炭酸飲料における微生物菌体粉末の沈澱物または凝集物の分散性および/または崩壊性向上方法(本明細書において単に「本発明の分散性および/または崩壊性向上方法」と呼ぶことがある。)は、溶液中ないし分散液中で、微生物菌体粉末(A)と、ショ糖脂肪酸エステル(B)とを共存させることを含む。
【0073】
本発明において「分散性向上」は、微生物菌体粉末(A)を含有するがショ糖脂肪酸エステル(B)を含有しない微生物菌体粉末含有溶液(炭酸飲料を含む)と比較して、微生物菌体粉末(A)およびショ糖脂肪酸エステル(B)の両方を含有する混合液(炭酸飲料を含む)の方が、静置後に生じる微生物菌体粉末の沈澱物または凝集物が容易に溶液中に分散し、例えば、容器の底面に付着している微生物菌体粉末であって、容器を転倒混和しても底面に付着したまま残存している、沈澱物又は凝集物の量が少ないことをもって確認することができる効果を指す。
【0074】
本発明において「崩壊性向上」は、微生物菌体粉末(A)を含有するがショ糖脂肪酸エステル(B)を含有しない微生物菌体粉末含有溶液(炭酸飲料を含む)と比較して、微生物菌体粉末(A)およびショ糖脂肪酸エステル(B)の両方を含有する混合液(炭酸飲料を含む)の方が、静置後に形成された微生物菌体粉末の沈澱物または凝集物の崩壊性に優れていること、例えば、容器を転倒混和することにより、容器の底面から剥離した微生物菌体粉末の凝集塊が溶液中で崩壊し、微生物菌体粉末の凝集塊の直径が小さくなることをもって確認することができる効果を指す。
【0075】
本発明の分散性および/または崩壊性向上方法は、製造時の(製造途中の中間産物ともいえる)炭酸飲料、及び保存中の炭酸飲料の、いずれに対しても適用できる。また、本発明の分散性向上方法は、微生物菌体粉末(A)が均一に分散している状態にある、つまりまだ沈殿物または凝集物が形成されていない状態にあるにある、製造時または保管中の飲食品において、その状態を保持するために利用することができる。
【0076】
本明細書に記載した本発明の炭酸飲料およびその製造方法に関する事項、特に微生物菌体粉末(A)、ショ糖脂肪酸エステル(B)、均質化処理に関する事項は、本発明の分散性および/または崩壊性向上方法に適宜準用することができる。例えば、本発明の分散性および/または崩壊性向上方法において、沈澱物または凝集物の分散性および/または崩壊性向上の対象としての微生物菌体粉末は、前述した破壊処理微生物菌体粉末であってもよい。
【0077】
本発明における分散性および/または崩壊性の向上に係る作用効果は、さらに、開栓時および/または充填時の噴きこぼれの抑制に係る作用効果を伴うものであってもよい。本発明において「開栓時の噴きこぼれの抑制」は、充填後の飲料を開栓した際に、飲料が容器外に噴きこぼれることを抑制することを指す。また、本発明において「充填時の噴きこぼれの抑制」は、飲料を充填した際に生じる気泡によって飲料が押し上げられ、飲料の容器口部まで飲料が到達することを抑制することを指す。例えば、飲料が容器からこぼれだすことだけでなく、飲料が完全にこぼれださないまでも、容器口部の上部に飲料が表面張力によって保持されているに過ぎない状態となることを抑制することをも含む。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0079】
[調製例1]破壊処理乳酸菌菌体粉末の調製
Lactobacillus amylovorus CP1563株(受託番号FERMBP-11255)を自家処方による食品グレードの乳酸菌培地を用いて、37℃、18時間培養し、フィルター濃縮により集菌した。濃縮液を90℃達温殺菌し、凍結乾燥により乳酸菌凍結乾燥粉末を得た。得られた乳酸菌凍結乾燥粉末を、乾式ジェットミル(FS-4、株式会社セイシン企業)を使用して破砕し、菌体の平均長径が処理前の70%以下に縮小した(例:2.77μm→1.30μm)破壊処理乳酸菌菌体粉末を得た。
【0080】
[調製例2]乳酸菌菌体粉末(非破壊処理物)の調製
Lactobacillus gasseri CP2305株(受託番号FERMBP-11331)を、自家処方による食品グレードの乳酸菌培地を用いて、37℃、18時間培養し、フィルター濃縮により集菌した。濃縮液を90℃達温殺菌し、凍結乾燥により乳酸菌菌体粉末を得た。
【0081】
[試験例1]炭酸飲料における、破壊処理乳酸菌菌体粉末の分散性等に対するショ糖脂肪酸エステルの添加効果試験(実施例1〜10、比較例1〜4、参考例1〜2)
(1)飲料サンプルの調製
下記表1に示す配合組成を有する乳性炭酸飲料のサンプルを、以下の手順により調製した。
【0082】
【表1】
【0083】
濃度20質量%の還元脱脂乳250gと濃度3質量%の大豆多糖類溶液(商品名:SM-1200、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)400gを混合し、そこに濃度10質量%のクエン酸水溶液240gを添加し、十分に攪拌して、原料溶液(I)を調製した。
【0084】
別途調製した濃度10質量%のクエン酸三ナトリウム水溶液85gを原料溶液(I)に添加後、食品用乳化剤として市販されている下記のショ糖脂肪酸エステルまたは対照化合物を表2に示す配合量で添加した。これらの食品用乳化剤は、あらかじめ、濃度2質量%となるように常温の水に分散させ、70℃程度まで昇温して溶解させた後、常温まで冷却することにより溶液を調合しておき、それを用いて添加するようにした。その後、1質量%の破壊処理乳酸菌菌体粉末(参考例1で調製)の希釈液400gを添加して、均一になるように撹拌して、別途調製した濃度10質量%のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:アワブレークG-109(A)、太陽化学(株)製)を4.1g添加し、さらに別途調製した濃度10質量%のシリコン製剤(商品名:KM-72、信越化学工業(株)製)を0.45g添加して、原料溶液(II)を調製した。ただし、水準14のコハク酸モノステアリン酸グリセリンについては、濃度2質量%となるように濃度10質量%のクエン酸三ナトリウム水溶液85gに分散させた溶液を調合しておき、それを用いて添するようにした。さらに、水準15においては、ショ糖脂肪酸エステルまたは対照化合物を添加せず、代わりに同量の水を増量して、得られた溶液を原料溶液(II)とした。
【0085】
表2に示したショ糖ステアリン酸エステルおよび対照化合物の商品名等の情報は下記の通りである。なお、下記商品13)「ショ糖脂肪酸エステルA」は、先行発明の比較例(比較例2等)において乳化剤fとして使用されたショ糖ステアリン酸エステルであり、下記商品13)「サンソフトA−121E」は、先行発明の実施例(実施例7,8等)において乳化剤cとして使用されたポリグリセリン脂肪酸エステル(モノラウリン酸ペンタグリセリン)であり、下記商品14)「サンソフトNo.681SPV」は、先行発明の実施例(実施例7等)において乳化剤dとして使用された(乳化剤cと併用された)有機酸モノグリセリド(コハク酸モノステアリン酸グリセリン)である。
【0086】
1)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB=5:商品名「リョートーシュガーエステル S−570」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
2)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB=7:商品名「リョートーシュガーエステル S−770」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
3)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB=9:商品名「リョートーシュガーエステル S−970」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
4)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB=11:商品名「リョートーシュガーエステル S−1170」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
5)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB=15:商品名「リョートーシュガーエステル S−1570」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
6)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB=16:商品名「リョートーシュガーエステル S−1670」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
7)ショ糖パルミチン酸エステル/HLB=15:商品名「リョートーシュガーエステル P−1570」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
8)ショ糖パルミチン酸エステル/HLB=16:商品名「リョートーシュガーエステル P−1670」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
9)ショ糖ミリスチン酸エステル/HLB=16:商品名「リョートーシュガーエステル M−1695」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
10)ショ糖オレイン酸エステル/HLB=15:商品名「リョートーシュガーエステル O−1570」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
11)ショ糖ラウリン酸エステル/HLB=16:商品名「リョートーシュガーエステル L−1695」(三菱ケミカルフーズ株式会社)
12)ショ糖ステアリン酸エステル/HLB不明:商品名「ショ糖脂肪酸エステルA(SE−A)」(太陽化学株式会社)
13)モノラウリン酸ペンタグリセリン/HLB14:商品名「サンソフトA−121E」(太陽化学株式会社)
14)コハク酸モノステアリン酸グリセリン/HLB8.5:商品名「サンソフトNo.681SPV」(太陽化学株式会社)
【0087】
前記原料溶液(II)を均質化処理し、飲料原液を得た。均質化処理は、試験室用ホモゲナイザー(型式15MR、APVゴーリン社製)を用いて、処理温度20℃、処理圧15MPaで行なった。
【0088】
得られた飲料原液に対して、炭酸ガスボリュームが2.4となるよう、イオン交換水と無添加炭酸ガスとによって規定量(10000g)にメスアップした後、耐熱圧ペットボトルに充填した。その後、コールドスポットで65℃、10分間が確保できる殺菌を行い、容器詰めした乳性炭酸飲料(以下、「飲料サンプル」という)を得た。なお、飲料の糖度(Bx)は1.1、酸度は0.24、pHは3.5、SNFは0.5、炭酸ガスボリュームは上記の通り2.4であった。
【0089】
【表2】
【0090】
(2)飲料サンプルの評価試験
(2−1)保存時分散性
(1)で調製した飲料サンプルを、5℃に設定したインキュベータに7日間静置した。静置後のサンプルを1秒間に1回程度の速度で4回転倒混和した後、開栓し、内容液を排出後、容器底面を観察した。評価は4段階で行い、乳酸菌菌体粉末が底面のほぼ全体に残存しているものを×、ペタロイドのすべての先端部にやや残存しているものを△、ペタロイドの一部の先端部に残存しているものを○、ほとんど残存しないものを◎とした。
図1に保存時分散性の評価基準となる容器の底面の外観の写真を示す。保存時分散性の評価結果を表2に示す。
【0091】
(2−2)沈澱塊崩壊性
(1)で調製した飲料サンプルを、5℃に設定したインキュベータに7日間静置した。静置後のサンプルを15回転倒混和し、底面に沈澱し固着した凝集塊(沈澱塊)を底面から完全に剥離させた(一部の水準では剥離しなかった)。10分間縦置きで静置した後、容器底面を観察した。評価は3段階で行い、沈澱塊が完全には剥離せずペタロイドの先端部に残存しているものを×、沈澱塊は底面から剥離するが未崩壊の塊が一部底部に沈澱したものを△、沈澱塊が完全に剥離、崩壊し、底部に沈澱が見られないものを○とした。
図2に沈澱塊崩壊性の評価基準となる容器の底面の外観の写真を示す。沈澱塊崩壊性評価結果を表2にあわせて示す。
【0092】
保存時分散性(2−1)および沈澱塊崩壊性(2−2)のどちらかの評価が○以上、かつ×が付いていない水準を合格とし、それ以外を不合格とした。合格の飲料サンプルのうち、所定のショ糖脂肪酸エステルを含有するものを「実施例」、それ以外の対象化合物(先行発明で用いられているもの)を含有するものを「参考例」とした。不合格の飲料サンプルは「比較例」とした。
【0093】
表2に示すように、特定のHLBを有する特定の種類のショ糖脂肪酸エステルを含有する飲料サンプル(実施例1〜11)は、それ以外のショ糖脂肪酸エステルを含有する飲料サンプル(比較例1)、HLBが不明のショ糖脂肪酸エステルを含有する飲料サンプル(参考例1)、ならびに先行発明において効果があると評価されたポリグリセリン脂肪酸エステル(モノラウリン酸ペンタグリセリン)を含有する飲料サンプル(比較例2)及びショ糖脂肪酸エステル等を含有しない飲料サンプル(比較例3)よりも、破壊処理された乳酸菌菌体粉末の静置時分散性および/または沈澱塊崩壊性を向上させる効果に優れており、先行発明に開示されている、ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノラウリン酸ペンタグリセリン)と有機酸モノグリセリド(コハク酸モノステアリン酸グリセリン)との組み合わせを含有する飲料サンプル(参考例2)と同等以上の効果を有する。
【0094】
(2−3)開栓時の噴きこぼれ
(1)で調製した飲料サンプルを、5℃に設定したインキュベータに7日間静置した。静置後のサンプルを4回転倒混和した後、開栓し、噴きこぼれの様子を観察した。評価は3段階で行い、容器口部から飲料が噴きこぼれたものを×、噴きこぼれないものの飲料の容器口部付近まで泡によって液面が上昇したものを△、多少の液面上昇はあるものの実使用上問題ないレベルあるいは液面上昇がほとんど見られなかったものを○とした。結果を表3に示す。
【0095】
(2−4)充填時の噴きこぼれ
(1)において、飲料原液に対して、イオン交換水と無添加炭酸ガスとによって規定量にメスアップした飲料サンプルを調製した際の、充填時の噴きこぼれの様子を観察した。評価は3段階で行い、容器口部から飲料が噴きこぼれたものを×、やや噴きこぼれたものを△、液面上昇はあるものの噴きこぼれなかったものを○とした。結果を表3に示す。
【0096】
まず、保存時分散性(2−1)および沈澱塊崩壊性(2−2)の評価に基づき、本発明の作用効果である沈澱塊崩壊性および保存時分散性の少なくとも一方が○であるものを実施例(ランクE以上)とし、どちらも△または×であるものを比較例(ランクF)とした。その上で、沈澱塊崩壊性よりも保存時分散性の方がより重要であり、後者の評価が高い方がより高いランクとするという視点に立って、総合ランクを算定した。ただし、分散性が◎で沈澱塊崩壊性が△の場合よりも、両者ともに○の方が総合的な見た目がより好ましいと考え、より高いランク(Bランク)とした。結果を表3にあわせて示す。
【0097】
【表3】
【0098】
上記実施例のうち、実施例5,6,7,8および9は、他の実施例よりも総合ランクの高い好ましい実施形態となっている。さらに実施例6,8および9は、保存時分散性および沈澱塊崩壊性の総合ランクに加えて、開栓時噴きこぼれおよび充填時噴きこぼれの両方の評価が高い、より好ましい実施形態となっている。
【0099】
[試験例2]炭酸飲料における、乳酸菌菌体粉末(非破壊処理物)の分散性に対するショ糖脂肪酸エステルの添加効果(実施例10〜11、比較例5〜6)
破壊処理乳酸菌菌体粉末(調製例1)の代わりに、破壊処理されていない乳酸菌菌体粉末(調製例2)を用いたこと以外は、水準10(実施例8)、水準11(実施例9)、水準13(比較例3)および水準15(比較例4)と同様にして飲料サンプル(水準16〜19)を調製し、それを用いて保存時分散性の評価試験を行った。
【0100】
評価結果を下記表4に示す。所定のショ糖脂肪酸エステルは、破壊処理の有無にかかわらず、また微生物(乳酸菌)の菌種にかかわらず、微生物(乳酸菌)菌体粉末の分散性向上効果を有することが確認された。
【0101】
【表4】