特許第6971655号(P6971655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971655
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】水性組成物、及び臨界防止方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20211111BHJP
   G21F 1/10 20060101ALI20211111BHJP
   G21C 19/40 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G21F3/00 N
   G21F3/00 F
   G21F1/10
   G21C19/40
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-122244(P2017-122244)
(22)【出願日】2017年6月22日
(65)【公開番号】特開2019-7789(P2019-7789A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 典明
(72)【発明者】
【氏名】小柳 幸司
【審査官】 中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−168951(JP,A)
【文献】 特開2005−076013(JP,A)
【文献】 特開2009−227659(JP,A)
【文献】 特開2009−161373(JP,A)
【文献】 特開2011−235632(JP,A)
【文献】 特開2015−064316(JP,A)
【文献】 特開2015−179072(JP,A)
【文献】 特開2015−212670(JP,A)
【文献】 特開2016−166739(JP,A)
【文献】 渡辺 寛子,電子型反ニュートリノの方向検出に向けたリチウム含有液体シンチレータの開発,東北大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士論文,日本,東北大学理学系研究科物理学専攻,2008年,表紙, 目次, 第68-73頁, 第90-91頁,https://www.awa.tohoku.ac.jp/Thesis/ThesisFile/watanabe_hiroko_m.pdf
【文献】 三浦俊正、平尾好弘,高分子系高性能遮蔽材の開発と応用に関する研究,船舶技術研究所報告,第36巻 第3号,日本,運輸省船舶技術研究所,1999年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 3/00
G21F 1/10
G21C 19/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び水を含有する、核分裂性物質を含有するデブリ被覆用の水性組成物。
(A)成分:水中でひも状ミセルを形成する、分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤
(B)成分:中性子吸収材
(C)成分:酸化防止剤
【請求項2】
前記水性組成物が、ひも状ミセルを含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
(A)成分が、(A1)カチオン性界面活性剤(以下、(A1)成分という)、(A2)アニオン性芳香族化合物(以下、(A2)成分という)、(A3)アニオン性界面活性剤(以下、(A3)成分という)、(A4)両性界面活性剤(以下、(A4)成分という)、及び(A5)ノニオン性界面活性剤(以下、(A5)成分という)から選ばれる1種以上の水性ゲル形成剤である、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
(A)成分が、(A1)成分と(A2)成分である、請求項3に記載の水性組成物。
【請求項5】
(A1)成分が、炭素数16以上22以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上である、請求項3又は4に記載の水性組成物。
【請求項6】
(A1)成分が、炭素数16以上18以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤と炭素数22の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤である、請求項3〜5の何れか1項に記載の水性組成物。
【請求項7】
(A)成分が、(A4)成分と(A2)成分である、請求項3に記載の水性組成物。
【請求項8】
(A2)成分が、サリチル酸又はその塩である、請求項3〜7の何れか1項に記載の水性組成物。
【請求項9】
(A)成分が、(A3)成分と(A5)成分である、請求項3に記載の水性組成物。
【請求項10】
(B)成分が、炭化ホウ素、及び酸化ガドリニウムから選ばれる1種以上である、請求項1〜9の何れか1項に記載の水性組成物。
【請求項11】
(C)成分が、水溶性の酸化防止剤である、請求項1〜10の何れか1項に記載の水性組成物。
【請求項12】
(C)成分が、硫黄原子を含む酸化防止剤である、請求項1〜11の何れか1項に記載の水性組成物。
【請求項13】
(A)成分の含有量が0.25質量%以上20質量%以下、(B)成分の含有量が30質量%以上80質量%以下、(C)成分の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である、請求項1〜12の何れか1項に記載の水性組成物。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか1項に記載の水性組成物で、核分裂性物質を含有するデブリを被覆する、臨界防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性組成物、及び臨界防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉事故の中でも炉心溶融は重大である。何故ならば、放射性物質の外部への大規模な漏出を引き起こし、その原子炉を中心とする広範囲の地域に放射能汚染をもたらして大きな環境問題を生じるからである。
【0003】
炉心溶融事故が発生し、核燃料棒が溶融して原子炉の圧力容器もしくは格納容器の底部に留まるときには、原子炉圧力容器もしくは格納容器内に大量の水を貯留して核燃料から発生する崩壊熱を除去するとともに、原子炉圧力容器もしくは格納容器の底部に滞留する核分裂性物質を回収することが必要である。
【0004】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内に貯留された水の中で圧力容器もしくは格納容器の底部に存在する核分裂性物質は、非常に細かな物質粒子と表面が粗い性状になった大きな塊状物と火山岩のように固い壁状の塊とが入り混じった状態中に存在すると推定される。このような性状になっている核分裂性物質を含有するものが、デブリと称される。
【0005】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内に貯留する大量の水中の底に沈む核分裂性物質は、大量の放射線を発しているので、人間が直接にこれを回収する作業をすることができない。
【0006】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内の水中に核分裂性物質が臨界に達することがないように保たれている場合においても、核分裂性物質を何らかの方法で移動させたり、ひびや亀裂を生じさせたりすることで、水と核分裂性物質との比が変化することにより定常状態から非定常状態に変化し、結果的に再臨界を引き起こす可能性がある。
【0007】
また、格納容器内で水没している核分裂性物質含有のデブリを首尾よく格納容器外に取り出すことができたとしても、そのデブリを単純に集積して保管することができない。なぜなら、格納容器外に取り出されたデブリを集積することにより核分裂性物質の単位容積あたりの量が臨界量を超えて再臨界を発生させることがあるからである。
【0008】
したがって、格納容器外に取り出された核分裂性物質含有のデブリの集積により再臨界が発生しないようにする方策も目下のところ強く要請される。
【0009】
特許文献1には、核分裂性物質を含有するデブリに生じている隙間に容易に浸入することができてデブリ中に含有される核分裂性物質による再臨界を防止することのできる粒子状中性子吸収材が開示されている。
【0010】
特許文献2には、原子炉における圧力容器もしくは格納容器内に存在する、核分裂性物質を含有するデブリを、再臨界を発生させずに回収することのできる中性子吸収部材、及びこの中性子吸収部材を使用して前記デブリを原子炉圧力容器もしくは格納容器内から回収する方法が開示されている。
【0011】
特許文献3には、熱中性子吸収断面積が100バーン以上の元素を含む熱中性子吸収物質とゲル状物質とが複合されて構成されたゲル状の複合物であって、放射化した物質の表面に塗布された被膜を形成可能に構成されたことを特徴とするゲル状中性子吸収材が開示されている。
【0012】
特許文献4には、湿潤時に粘性と可塑性を有し、固化すると弾力性を有し任意の形状に成型可能な、放射線の遮蔽や吸収が可能な放射線遮蔽剤が開示されている。
【0013】
特許文献5には、第1の水溶性低分子化合物(A)と、該化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(B)とを含有し、スラリーに優れたレオロジー特性、例えば粘性や材料分離抵抗性を付与できるスラリーレオロジー改質剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2014−109485号公報
【特許文献2】特開2014−92530号公報
【特許文献3】特開2013−205359号公報
【特許文献4】国際公開2014/119743号公報
【特許文献5】特開2003−313536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、核分裂性物質を含有するデブリのような放射線を発生する固体形状物の放射線拡散を抑制でき、且つ、放射線に対する耐性を有し当該固体固形物の周囲において長時間流動性のあるゲル形状を保つことができる水性組成物及びこれを用いた臨界防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び水を含有する水性組成物に関する。
(A)成分:分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤
(B)成分:中性子吸収材
(C)成分:酸化防止剤
【0017】
また本発明は、前記水性組成物で、核分裂性物質を含有するデブリを被覆する、臨界防止方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、核分裂性物質を含有するデブリのような放射線を発生する固体形状物に接触することで放射線拡散を抑制でき、且つ、放射線に対する耐性を有し当該固体形状物の周囲において長時間流動性のあるゲル形状を保つことができる水性組成物及びこれを用いた臨界防止方法が提供される。以下、核分裂性物質を含有するデブリを、単にデブリという場合もある。
本発明の水性組成物は、水中で放射線に暴露された状況でも長時間流動性のあるゲル形状を保持できることから、例えば、デブリの水中での動きに追従してデブリを覆い隠すことができるため、デブリを破壊し、回収する際などデブリからの放射線拡散を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<水性組成物>
本発明の水性組成物は、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び水を含有する。
(A)成分:分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤
(B)成分:中性子吸収材
(C)成分:酸化防止剤
【0020】
〔(A)成分〕
本発明の(A)成分は、分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤である。(A)成分は、水中でゲルを形成する成分が挙げられる。
(A)成分により、本発明の水性組成物は、放射線を発生する固体形状物の水中での移動に際し、該固体形状物の動きに追従して、該固体形状物の表面を覆い隠すことができる。なお、ここで定義するゲルとは、水などの分散媒において、界面活性剤のような分散質がネットワークを形成することにより、適度な弾性と高い粘性を持つもののほか、適度な流動性をもった状態の高粘性の流体も含むものと定義する。また水性ゲルとは、分散媒が水を含むゲルであると定義する。(A)成分が形成するゲルは、20℃以上、50℃以上、或いは80℃以上といった温度でもある程度の粘度を有するゲルを形成することが好ましい。デブリ周辺の冷却水は、デブリにより発せられる熱により、高温になっている可能性があり、このような条件下で、ある程度の粘度があることが好ましい。
【0021】
(A)成分は、水中でゲルを形成する分子量1000以下の化合物であればよいが、放射線を発生する固体形状物の水中での移動に追従して、該固体形状物の表面を覆い隠す観点から、20℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上の水中でひも状ミセルを形成する成分であることが好ましい。本発明の水性組成物は、20℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上において、ひも状ミセルを含有することが好ましい。ひも状ミセルは、(A)成分により形成されることが好ましい。
【0022】
ここで、ひも状ミセルとは、水中で、ミセル同士のからみ合いによって弾性的なゲルのような力学特性を示す円筒状(棒状)のミセルである。
界面活性剤を水に溶解させると球状ミセルを形成し、その溶液の粘度は低く水の値とほとんど変らない。しかし、ある種の界面活性剤、あるいは界面活性剤と塩を形成する成分、更には、界面活性剤と塩を含むような系では、溶液中のミセルの形態が棒状や長いひも状を形成することが知られている。そのようなひも状ミセルを含む水溶液は、ミセル同士のからみ合いによって弾性的なゲルのような力学特性を示すことができる。
また界面活性剤が形成する会合体の構造を考察するのに、Israelachviliらにより提案された臨界充填因子(critical packing parameter;P)の値がしばしば用いられる。一般に、1/3<P<1/2を満たすような極性基が小さい1本鎖の界面活性剤(たとえばノニオン性界面活性剤など)は,円筒状(棒状)のミセルを形成することが知られている。従って、単独の界面活性剤、あるいは、ある種イオンと塩を形成する界面活性剤、特定の界面活性剤と特定の成分との関係等から界面活性剤の臨界充填因子Pが上記範囲付近にすることで、ひも状ミセルを形成させることが可能となる。
【0023】
(A)成分は、放射線を発生する固体形状物の水中での移動に追従して、該固体形状物の表面を覆い隠す観点から、(A1)カチオン性界面活性剤(以下、(A1)成分という)、(A2)アニオン性芳香族化合物(以下、(A2)成分という)、(A3)アニオン性界面活性剤(以下、(A3)成分という)、(A4)両性界面活性剤(以下、(A4)成分という)、及び(A5)ノニオン性界面活性剤(以下、(A5)成分という)から選ばれる1種以上の水性ゲル形成剤であることが好ましい。
【0024】
(A)成分は、これら(A1)成分〜(A5)成分の中でも、ひも状ミセルを形成する観点から、(A1)成分と(A2)成分の組み合わせ、(A2)成分と(A4)成分の組み合わせ、(A3)成分と(A5)成分の組み合わせ、(A3)成分と(A4)成分の組み合わせ、(A1)成分の単独使用、及び(A5)成分の単独使用が好ましく、(A1)成分と(A2)成分の組み合わせ、(A2)成分と(A4)成分の組み合わせ、及び(A3)成分と(A5)成分の組み合わせがより好ましく、(A1)成分と(A2)成分の組み合わせ、及び(A2)成分と(A4)成分の組み合わせが更に好ましい。
【0025】
(A1)成分のカチオン界面活性剤としては、4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましい。4級塩型のカチオン性界面活性剤としては、構造中に、炭素数10以上、好ましくは16以上、そして、26以下、好ましくは24以下の炭化水素基を、少なくとも1つ有している4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上がより好ましい。炭化水素基は、アルキル基、又はアルケニル基が挙げられる。
(A1)成分は、ひも状ミセルを形成させる観点から、炭素数16以上22以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましく、更に高温(80℃)でひも状ミセルを形成させる観点から、炭素数16以上18以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤と炭素数22の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤であることがより好ましい。
【0026】
(A1)成分は、例えば、炭素数10以上26以下のアルキル基又はアルケニル基を1つ有するアルキル又はアルケニルトリメチルアンモニウム塩、炭素数10以上26以下のアルキル基又はアルケニル基を1つ有するアルキル又はアルケニルピリジニウム塩、炭素数10以上26以下のアルキル基又はアルケニル基を1つ有するアルキル又はアルケニルイミダゾリニウム塩、炭素数10以上26以下のアルキル基又はアルケニル基を1つ有するアルキル又はアルケニルジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。塩を形成する対イオンは、ハロゲンイオン、アルキル硫酸イオンなどが挙げられ、ハロゲンイオンが好ましい。より具体的には、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、タロートリメチルアンモニウムクロライド、タロートリメチルアンモニウムブロマイド、水素化タロートリメチルアンモニウムクロライド、水素化タロートリメチルアンモニウムブロマイド、エルシルビスヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルプロピルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。
【0027】
(A2)成分のアニオン性芳香族化合物としては、芳香環を有するカルボン酸、芳香環を有するホスホン酸、芳香環を有するスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。芳香環は、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられ、ベンゼン環が好ましい。(A)成分としては、具体的には、サリチル酸、トルイル酸、p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m−スルホ安息香酸、p−スルホ安息香酸、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、p−フェノールスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸、フェノキシ酢酸、フェノキシプロピオン酸、フェノキシ酪酸等であり、これらは塩を形成していていも良く、これらを2種以上併用してもよい。
(A2)成分は、(A1)と塩を形成し、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、芳香環を有するカルボン酸、芳香環を有するスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、放射線に対する耐久性の観点から、芳香環を有するカルボン酸及びその塩から選ばれる1種以上がより好ましく、サリチル酸、トルイル酸、メチルサリチル酸、安息香酸、フェノキシ酪酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が更に好ましく、サリチル酸、フェノキシ酪酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上がより更に好ましく、サリチル酸又はその塩がより更に好ましい。
【0028】
(A3)成分のアニオン性界面活性剤としては、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するものが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、ひも状ミセルを形成させる観点から、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有し、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0以上25以下である、硫酸エステル又はその塩が好ましい。
【0029】
(A3)成分の炭化水素基は、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルケニル基である。
炭化水素基の炭素数は、現実的な使用に適した濃度で適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、更に好ましくは18以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。
【0030】
(A3)成分の炭化水素基は、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、オレイル基、ステアリル基及びドコシル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはミリスチル基、パルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1以上であり、より好ましくはパルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはオレイル基である。
【0031】
前記硫酸エステル又はその塩のアルキレンオキサイドの平均付加モル数は0以上25以下である。アルキレンオキサイドは、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドはエチレンオキサイドが好ましい。
前記硫酸エステル又はその塩は、アルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドを含むことが好ましい。
アルキレンオキサイドの平均付加モル数は、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、そして、現実的な使用に適した濃度でひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは9以下である。
【0032】
前記硫酸エステルの塩としては、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等から選ばれる無機塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、モルホリニウム塩等から選ばれる有機アンモニウム塩が好適である。
【0033】
(A3)成分としては、具体的には、アルキルサルフェート、アルケニルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、アルケニルフェニルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテルサルフェートが挙げられ、価格の点で調達しやすい観点から、アルケニルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルサルフェートから選ばれる1種以上が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルサルフェートから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0034】
(A4)成分の両性界面活性剤としては、アミンオキシド型両性界面活性剤及びベタイン型両性界面活性剤から選ばれる1種以上が挙げられ、アミンオキシド型両性界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましい。
【0035】
アミンオキシド型両性界面活性剤としては、炭素数12以上、好ましくは14以上、そして、22以下、好ましくは18以下の炭化水素基を有するものが好ましく、具体的にはオレイル−N,N−ジメチルアミンオキシド、セチル−N,N−ジメチルアミンオキシド、ラウロイルアミノプロピル−N,N−ジメチルアミンオキシド等が挙げられ、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、オレイル−N,N−ジメチルアミンオキシド、及びセチル−N,N−ジメチルアミンオキシドから選ばれる1種以上が好ましく、オレイル−N,N−ジメチルアミンオキシドより好ましい。
【0036】
ベタイン型両性界面活性剤としては、炭素数12以上、好ましくは14以上、そして、22以下、好ましくは18以下の炭化水素基を有するものが好ましく、具体的にはドデカン酸アミドプロピルベタイン、オクタデカン酸アミドプロピルベタイン、ドデシルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられ、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、オクタデカン酸アミドプロピルベタインが好ましい。
【0037】
(A5)成分のノニオン性界面活性剤としては、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸エステルアルキル三級アミン、脂肪酸アミドアルキル三級アミン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ポリオキシアルキレンソルビタンエステル、脂肪酸サッカライドエステル、アルキルポリサッカライド、及びアルキルグリセリルエーテルから選ばれる1種以上が挙げられる。
これらのノニオン性界面活性剤は、構造中に、炭素数10以上、好ましくは14以上、そして、26以下、好ましくは22以下の炭化水素基を、少なくとも1つ有している化合物が好ましく、1つ有している化合物がより好ましい。
【0038】
(A5)成分は、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸エステルアルキル三級アミン、及び脂肪酸アミドアルキル三級アミンから選ばれる1種以上が好ましく、脂肪酸アルカノールアミド及び脂肪酸アミドアルキル三級アミンから選ばれる1種以上がより好ましく、脂肪酸アルカノールアミドが更に好ましい。
【0039】
脂肪酸アルカノールアミドとしては、脂肪酸モノアルカノールアミド、脂肪酸ジアルカノールアミドが挙げられ、脂肪酸ジアルカノールアミドが好ましく、脂肪酸ジエタノールアミドがより好ましい。脂肪酸の炭素数は、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、そして、好ましくは26以下、より好ましくは18以下である。
【0040】
脂肪族エステルアルキル三級アミンとしては、パルミテートエステルプロピルジメチルアミン、ステアレートエステルプロピルジメチルアミン等の炭素数10以上26以下の脂肪酸エステルプロピルジメチルアミンが挙げられる。
脂肪酸アミドアルキル三級アミンとしては、ラウリルアミドプロピルジメチルアミン、ミリスチルアミドプロピルジメチルアミン、パルミチルアミドプロピルジメチルアミン、ステアリルアミドプロピルジメチルアミン、ベヘニルアミドプロピルジメチルアミン、オレイルアミドプロピルジメチルアミン、パルミチルアミドプロピルジエタノールアミン、ステアリルアミドプロピルジエタノールアミン等の炭素数10以上26以下の脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンが挙げられる。これら化合物の脂肪酸の炭素数は、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、そして、好ましくは26以下、より好ましくは22以下である。
これらの中でも脂肪族アミドプロピルジメチルアミンが好ましく、ベヘニルアミドプロピルジメチルアミン、オレイルアミドプロピルジメチルアミン、ステアリルアミドプロピルジメチルアミン、及びパルミチルアミドプロピルジメチルアミンから選ばれる1種以上が好ましく、特にはべへニルアミドプロピルジメチルアミンが好ましい。
【0041】
〔(B)成分〕
本発明の(B)成分は、中性子吸収材である。中性子と原子核との核反応によりその中性子が原子核に吸収される場合を、中性子の吸収反応という。中性子吸収材とは、このように中性子の吸収反応により、中性子を吸収する物質をいう。本発明の水性組成物は、(B)成分を含有することにより、デブリ中に存在する核分裂性物質から放射される中性子を吸収して臨界状態を防止することができる。
【0042】
(B)成分としては、中性子を吸収する物質であればよく、具体的には、硼砂、ポリホウ酸ナトリウム、ホウ酸、窒化ホウ素、炭化ホウ素、無水ホウ酸(酸化ホウ素)、ホウ素鉄、灰ホウ石、正ホウ石、メタホウ酸、硝酸ガドリニウム、ガドリニウム酸化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また水と反応しない条件下であれば、ロジウム、カドミウム、インジウム、サマリウム、ユーロピウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、ハフニウム、水銀等の元素単体、又はこれら元素の化合物等を使用することができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
(B)成分としては、入手の容易さの観点から、炭化ホウ素、及び酸化ガドニウムから選ばれる1種以上がより好ましく、炭化ホウ素が更に好ましい。
【0044】
(B)成分は固体粒子の形状であってよい。(B)成分が固体粒子である場合、(B)成分の粒径は、取り扱いの容易性、及びデブリ表面にできた亀裂による隙間からデブリ内部に容易に侵入でき、デブリ内部での再臨界を起こりにくくする観点から、好ましくは0.001mm以上、より好ましくは0.002mm以上、そして、好ましくは0.1mm以下、より好ましくは0.05mm以下である。
【0045】
本発明の水性組成物において、(B)成分が固体粒子である場合、(B)成分の密度は、水中の底に沈んだデブリの表面を被覆するために水中に沈降可能にする観点から、好ましくは1.5g/cm以上、より好ましくは2.0g/cm以上、そして、好ましくは8.0g/cm以下、より好ましくは7.5g/cm以下である。
【0046】
〔(C)成分〕
本発明の(C)成分は、酸化防止剤である。デブリ中に存在する核分裂性物質から放射される放射線により、(A)成分は分解し、また分解によりラジカルを生成するため更なる分解を増長し、(A)成分の水性ゲル形成力が低減するが、本発明の水性組成物は、(C)成分である酸化防止剤を含有するため、(C)成分がラジカルを捕捉することにより、(A)成分の分解を防止することができ、水性ゲル形成を維持することができる。
【0047】
(C)成分の酸化防止剤としては、(A)成分の安定化の観点から、水溶性の酸化防止剤が好ましい。本発明の酸化防止剤について水溶性とは、20℃の水100gに0.01g以上溶解することをいう。
酸化防止剤としては、アスコルビン酸及びその構造を有する化合物、ヒドロキノン及びその構造を有する化合物、チオグリセロール、アミノエタンチオール等のチオール基を有する化合物が挙げられる。
【0048】
(C)成分は、水溶性及び/又は硫黄原子を含む酸化防止剤が好ましく、(A)成分の放射線耐性を向上させる観点から、水溶性であり且つ硫黄原子を含む酸化防止剤であることがより好ましい。
(C)成分は、(A)成分の放射線耐性を向上させる観点から、チオグリセロール、アミノエタンチオール、チオグリコール酸、チオ酢酸、チオ乳酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、グルタチオン、システイン、N−アセチル−L−システイン、システアミン、アスコルビン酸、ヒドロキノン、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、チオグリセロール、アミノエタンチオール、グルタチオン、システイン及びこれらの塩から選ばれる1種以上がより好ましく、チオグリセロール、アミノエタンチオール、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が更に好ましく、アミノエタンチオール又はその塩がより更に好ましい。
【0049】
〔組成等〕
本発明の水性組成物は、(A)成分を、中性子吸収材の分散状態を均一に保つ観点から、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.75質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、そして、組成物のハンドリングの観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、含有する。
【0050】
本発明の水性組成物において、(A)成分が、(A1)成分と(A2)成分である場合、(A1)成分の含有量と(A2)成分の含有量とのモル比(A1)/(A2)は、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/5以上、更に好ましくは1/3以上、そして、ひも状ミセルの粘弾性の観点から、好ましくは10/1以下、より好ましくは5/1以下、更に好ましくは3/1以下である。
【0051】
本発明の水性組成物において、(A)成分が、(A1)成分と(A2)成分であり、且つ(A1)成分が、炭素数16以上18以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤(以下、(A1−1)成分ともいう)と炭素数22の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤(以下、(A1−2)成分ともいう)である場合、(A1−1)成分の含有量と(A1−2)成分の含有量との質量比(A1−2)/(A1−1)は、広い温度領域で適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/8以上、更に好ましくは1/5以上、そして、より高い温度(50℃、又は80℃)での粘性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは10/1以下、より好ましくは5/1以下、更に好ましくは2/1以下である。
【0052】
本発明の水性組成物において、(A)成分が、(A2)成分と(A4)成分である場合、(A4)成分の含有量と(A2)成分の含有量とのモル比(A4)/(A2)は、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/5以上、更に好ましくは1/3以上、そして、ひも状ミセルの粘弾性の観点から、好ましくは10/1以下、より好ましくは5/1以下、更に好ましくは3/1以下である。
【0053】
本発明の水性組成物において、(A)成分が、(A3)成分と(A5)成分である場合、(A3)成分の含有量と(A5)成分の含有量とのモル比(A3)/(A5)は、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/5以上、更に好ましくは1/3以上、そして、ひも状ミセルの粘弾性の観点から、好ましくは10/1以下、より好ましくは5/1以下、更に好ましくは3/1以下である。
【0054】
本発明の水性組成物は、(B)成分を、中性子吸収効率の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、そして、粘弾性の発現の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下含有する。
【0055】
本発明の水性組成物において、(B)成分の含有量と(A)成分の含有量との質量比(B)/(A)は、ゲル形成の維持と(A)成分の安定性を維持し、中性子吸収効率を高める観点から、好ましくは5/1以上、より好ましくは10/1以上、更に好ましくは15/1以上、そして、粘弾性の発現の観点から、好ましくは100/1以下、より好ましくは60/1以下、更に好ましくは40/1以下である。
【0056】
本発明の水性組成物は、(C)成分を、(A)成分の安定性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、そして、組成物の分離の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下含有する。
【0057】
本発明の水性組成物において、(C)成分の含有量と(A)成分の含有量との質量比(C)/(A)は、ゲル形成性と(A)成分の安定性を維持する観点から、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/5以上、更に好ましくは1/4以上、そして、組成物の分離の観点から、好ましくは3/1以下、より好ましくは2/1以下、更に好ましくは1.5/1以下である。
【0058】
本発明の水性組成物は、前記(A)〜(C)成分以外に、分散剤、pH緩衝剤、防錆剤、防腐剤、無機塩類、有機溶剤、増粘剤、増量材、フィラーを任意に配合することができる。
【0059】
本発明の水性組成物は、水を含有する。すなわち、前記(A)〜(C)成分及び任意成分以外の残部が水である。本発明の水性組成物は、水を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下含有する。水は、イオン交換水、滅菌イオン交換水等を使用することが好ましい。
【0060】
本発明の水性組成物は、好ましくはスラリー、すなわち水を含む水系スラリーである。
【0061】
本発明の水性組成物の25℃における粘度は、デブリの動きに追従して、デブリの表面を被覆する観点から、好ましくは0.5Pa・s以上、より好ましくは1Pa・s以上、更に好ましくは5Pa・s以上、そして、ハンドリングの観点から、好ましくは500Pa・s以下、より好ましくは200Pa・s以下、更に好ましくは100Pa・s以下である。
本発明の水性組成物における粘度は、B型回転粘度計で、ローターNo.3を用い、1.5〜30rpm、1分後の値として測定されたものであり、必要により、粘度の測定範囲に入るようにローターNo.2又は1を用いる。
【0062】
本発明の水性組成物は、(C)成分を水に溶解した後、(B)成分を分散させ、(A)成分を添加混合することで製造できる。場合によっては、(A)成分添加時に60℃に加温して混合し、均一にした後、室温まで冷却してもよい。
【0063】
本発明の水性組成物は、放射線を発生する固体形状物被覆用、すなわち核分裂性物質を含有するデブリ被覆用に好適であり、核分裂性物質を含有するデブリの水中での被覆用により好適である。
本発明の水性組成物は、放射線を発生する固体形状物(すなわち、核分裂性物質含有のデブリ)の水中での移動に際し、(A)成分により、該固体形状物の動きに追従して、該固体形状物の表面を覆い隠すことができ、隙間なく該デブリを中性子吸収材である(B)成分で覆うことができるため、該デブリの放射線拡散を抑制することができる。また本発明の水性組成物は、酸化防止剤である(C)成分を含有するため、放射線による(A)成分の分解を抑制し、長時間流動性のあるゲル形状を保つことができるため、該デブリを長時間覆い隠し、該デブリの放射線拡散を抑制することができる。また、本発明の水性組成物は、組成を調整することにより、高温でも高い粘度と流動性を維持できるため、高温になった水温でも上記効果を維持することができる。
【0064】
<臨界防止方法>
本発明の臨界防止方法は、本発明の水性組成物で、核分裂性物質を含有するデブリを被覆する臨界防止方法である。
本発明は、水性組成物を用いた該デブリの再臨界を防止することのできる臨界防止方法に関する。
本発明の臨界防止方法には、本発明の水性組成物で述べた事項を適宜用いることができる。
【0065】
本発明の臨界防止方法は、本発明の水性組成物を、核分裂性物質を含有するデブリに投与し、デブリ表面を本発明の水性組成物で被覆する。デブリは圧力容器又は格納容器の底に存在し、水で覆われたデブリであっても、原子炉から取り出されて屋内外に貯蔵されているデブリであっても良い。
【実施例】
【0066】
[水性組成物の調製]
下記配合成分を用いて、表1に示す水性組成物を調製し、以下の項目について評価を行った。結果を表1に示す。表1の水性組成物は、適量のイオン交換水に(C)成分を溶解した後、(B)成分を添加してプロペラ型撹拌羽で撹拌(300rpm)し、(A)成分を添加して、3分間混錬することでスラリー形態の水性組成物を調製した。なお、表1中の配合成分の質量%は、全て有効分に基づく数値である。実施例中の組成物は、放射線照射前の25℃における粘度が0.5Pa・s以上であり、弾力のある性状から、ひも状ミセルが形成されているものと考えられる。
【0067】
(A)成分
・ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド:(A1)成分((A1−2)成分)、コータミン2285E(有効分58質量%)、花王(株)製
・ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド:(A1)成分((A1−1)成分)、コータミン86W(有効分29質量%)、花王(株)製
・エルシルビスヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロライド:(A1)成分((A1−2)成分)、(有効分25質量%)、アクゾノーベル(株)製
・サリチル酸ナトリウム:(A2)成分(有効分100質量%)、和光純薬工業(株)製
・ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル硫酸ナトリウム:(A3)成分、下記合成例1により得られる化合物
・オレイルジメチルアミンオキシド:(A4)成分、ユニセーフA−OM(有効分29質量%)、日油(株)製
・ベヘニルアミドプロピルジメチルアミン:(A5)成分、アミデットAPA−22(有効分100質量%)、花王(株)製
・オレイン酸ジエタノールアミド:(A5)成分(有効分100質量%)、和光純薬工業(株)製
【0068】
合成例1
ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル硫酸ナトリウムの合成
エマルゲン409PV(花王(株)製)と硫酸ガス用い、40℃で硫酸化反応を行った。反応後、水酸化ナトリウム水溶液とイオン交換水で中和を行った。
更に水酸化ナトリウム水溶液、リン酸及びイオン交換水を用いて濃度とpHの調整を行い、ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル硫酸ナトリウム25重量%水溶液を得た。なお( )はオキシエチレン基の平均付加モル数を示す。
【0069】
(B)成分
・炭化ホウ素:F−500、ESK Ceramics GmbH & Co.製
(C)成分
・チオグリセロール:東京化成工業(株)製、水溶性酸化防止剤
・アミノエタンチオール塩酸塩:和光純薬工業(株)製、水溶性酸化防止剤
【0070】
[粘度測定]
調製した各水性組成物を、25℃又は80℃に調整し、粘度を測定した。粘度測定は、B型回転粘度計で、ローターNo.3を用い、30rpm、1分後の値として測定されたものを表1に示した。なお、上記方法で振り切れた場合は、回転数を30rpmから順次10rpm、6rpm、1.5rpmまで下げて、振り切れなくなったところの値を表1に示した。
【0071】
[放射線照射後の粘度評価]
調製した各水性組成物を、スクリュー管No.7((株)マルエム製)にスラリー40g添加してアルミ箔で軽く封じ、ステンレス保存容器(φ57×81)に入れてγ線照射試験を行った。γ線照射は、大気中、室温(25℃)下においてコバルト60を線源として10kGy/hの照射強度で90時間照射した。γ線照射後の各水性組成物を、25℃に調整し、粘度を測定した。粘度測定は、B型回転粘度計で、ローターNo.3を用い、30rpm、1分後の値として測定されたものを表1に示した。なお、上記方法で振り切れた場合は、回転数を30rpmから順次10rpm、6rpm、1.5rpmまで下げて、振り切れなくなったところの値を表1に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
(C)成分を含有しない比較例1〜3の水性組成物に対して、実施例1〜6の水性組成物は、γ線照射前後で高粘度を維持することができ、放射線に対する耐性を有し、長時間流動性のあるゲル形状を保つことができることが分かる。そのため、本発明の水性組成物は、核分裂性物質含有のデブリの水中での移動に際し、該固体形状物の動きに追従して、該固体形状物の表面を覆い隠し、長時間の放射線に対する耐性を有するため、該固体形状物の放射線拡散を長時間抑制し、該固体形状物の再臨界を防止することができる。更に、実施例の中でも、実施例1〜3の水性組成物は、他の実施例に比べ、高温でも高い粘度を有することができるため、デブリ周辺が高い水温になっていても、デブリ表面を覆い隠すことが可能となり、より優れた効果を有する。