特許第6971743号(P6971743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971743
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   C08J9/18CET
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-185349(P2017-185349)
(22)【出願日】2017年9月26日
(65)【公開番号】特開2019-59843(P2019-59843A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】落越 忍
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】大原 洋一
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−225104(JP,A)
【文献】 特表2015−537090(JP,A)
【文献】 特開2014−080514(JP,A)
【文献】 特開2004−292654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00−9/42
B29B7/00−11/14;13/00−15/06
B29C31/00−31/10; 37/00−37/04; 71/00−71/02
B29C48/00−48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂100重量部に対して、水0.01〜5重量部、熱安定剤0.05〜0.6重量部を押出機で溶融混練した後、揮発性有機成分を押出機内から真空度−0.08MPaG以下、溶融部のシリンダ温度200℃〜250℃の条件で吸引処理し、小孔を有するダイスを通じて押出した後カッターで切断してスチレン系樹脂粒子を製造する工程と、
前記工程により得られたスチレン系樹脂粒子を水中に懸濁させ、温度100℃〜120℃で、発泡剤を、該スチレン系樹脂粒子に含浸させて製造する工程と、
を備える発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂粒子を製造する工程において製造されたスチレン系樹脂粒子の揮発性有機成分量(スチレンモノマーとエチルベンゼンの合計量)が200ppm未満である、
請求項1項の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂粒子を製造する工程において、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上3重量部の水を添加する、
請求項1又は2に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記熱安定剤が、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物およびエポキシ系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記熱安定剤は、リン系安定剤及びヒンダードアミン系安定剤であり、
スチレン系樹脂100重量部に対して、リン系安定剤を0.025〜0.3重量部、かつ、ヒンダードアミン系安定剤を0.025〜0.3重量部、添加することを特徴とする、
請求項1〜4のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
前記発泡剤が、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンおよびネオペンタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、
請求項1〜5のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかで記載された製造方法で製造した発泡性スチレン系樹脂粒子を加熱して予備発泡させて予備発泡粒子を得る工程と、
前記工程で得た予備発泡粒子を成型キャビティ内に充填して型内発泡成形する工程と、
を備える発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型内発泡成形に使用される発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法に関するものである。詳しくは、揮発性有機成分の含有量を低減することのできる発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法として、市販のスチレンモノマー(以下、単にスチレンと記載することもある)を水系懸濁系で重合して樹脂粒子を作成後、発泡剤を含浸する方法や、市販のスチレン系樹脂を押出機で溶融混練して樹脂粒子を作製後、発泡剤を含浸する方法等々が知られている。かかる方法により製造された発泡性スチレン系樹脂粒子を型内発泡成形することで得られる発泡体(以下、発泡成形体と記載することもある)は、軽量であり、かつ断熱材として優れた素材であることから、建築物の壁、床、屋根等の断熱材や畳の芯材、自動車部材等として広く使用されてきた。
【0003】
ところで、発泡性スチレン系樹脂粒子は、一般に、エチルベンゼン、スチレンモノマー等の揮発性有機成分(以下、VOCと記載することもある)を含んでいる。これらの有機揮発性成分は、発泡性スチレン系樹脂粒子の予備発泡粒子の作製時に、大気中に排出され、その臭気が作業環境の悪化につながる場合がある。又、型内発泡成形で得られた発泡成形体中に揮発性有機成分が残留している場合には、揮発性有機成分が大気中に排出されることで、その発泡成形体の養生、保管中の倉庫内において臭気が発生することがある。
近年、住宅、自動車の高気密化高断熱化が進む中で、様々な揮発性有機成分による室内空気汚染、即ちシックハウスが重要な問題となっている。このシックハウスを解決するために、室内における空気中の有機成分の量を規制する動きがある。従って、発泡性スチレン系樹脂粒子から放出される揮発性有機成分はできるだけ少なくすることが望ましい。このため、VOC量の少ない発泡性スチレン系樹脂粒子が望まれている。
【0004】
ここで、発泡性スチレン系樹脂粒子中の主な揮発性有機成分は、スチレンとエチルベンゼンである。スチレンは、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造工程に含まれる重合反応における重合条件、重合開始剤の選択により、低減することができるが、エチルベンゼンは、重合反応に寄与しないために、スチレン樹脂中のエチルベンゼン量が、そのまま、発泡性スチレン系樹脂粒子に残存してしまう。このように、発泡性スチレン系樹脂粒子中のエチルベンゼン量は、スチレン樹脂中のエチルベンゼン量に依存する傾向にあり、重合法により、VOC成分量(特に、スチレン量)の低減した発泡性スチレン系樹脂粒子を得ることは難しい。
【0005】
また、スチレン系樹脂を用いる発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法として、例えば、特許文献1には、スチレン系樹脂を押出機で溶融混練し、小孔を有するダイスを通じて押出した後カッターで切断することによりスチレン系樹脂粒子を得た後、該スチレン系樹脂粒子を水中に懸濁させ、発泡剤を含有させて得る製造方法が開示されている。また、特許文献3には、スチレン系樹脂を押出機で溶融混練して製造した短ストランド状のシード粒子に、スチレン系単量体を吸収重合させて得られたスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では使用するスチレン系樹脂に含まれるVOCを減少させることはできず、また、特許文献3の方法では使用するスチレン系樹脂やスチレン系単量体中のエチルベンゼンは重合で消費されることなく、低VOC化が達成されていない。
【0006】
VOC量を低減させる方法として、例えば、特許文献2,4には、スチレン系樹脂を水と押出機で溶融混練し、脱気吸引後、発泡剤を圧入した低VOC化したポリスチレン系押出発泡断熱材の製造方法が開示されているが、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法に関して記載されていない。
【特許文献1】特開2014−80514号公報
【特許文献2】特開2002−225104号公報
【特許文献3】特開2006−036993号公報
【特許文献4】WO2002/022723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような状況に鑑み、揮発性有機成分の含有量を低減することのできる発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)スチレン系樹脂100重量部に対して、水0.01〜5重量部、熱安定剤0.05〜0.6重量部を押出機で溶融混練した後、揮発性有機成分を押出機内から真空度−0.08MPaG以下、溶融部のシリンダ温度200℃〜250℃の条件で吸引処理し、小孔を有するダイスを通じて押出した後カッターで切断してスチレン系樹脂粒子を製造する工程と、前記工程により得られたスチレン系樹脂粒子を水中に懸濁させ、温度100℃〜120℃で、発泡剤を、該スチレン系樹脂粒子に含浸させて製造する工程と、を備える発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
(2)スチレン系樹脂粒子を製造する工程において製造されたスチレン系樹脂粒子の揮発性有機成分量(スチレンモノマーとエチルベンゼンの合計量)が200ppm未満である、(1)の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
(3)スチレン系樹脂粒子を製造する工程において、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上3重量部の水を添加する、(1)又は(2)に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
(4)熱安定剤が、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物およびエポキシ系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(1)〜(3
)のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
(5)熱安定剤は、リン系安定剤及びヒンダードアミン系安定剤であり、スチレン系樹脂100重量部に対して、リン系安定剤を0.025〜0.3重量部、かつ、ヒンダードアミン系安定剤を0.025〜0.3重量部、添加することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
(6)発泡剤が、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンおよびネオペンタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかで記載された製造方法で製造した発泡性スチレン系樹脂粒子を加熱して予備発泡させて予備発泡粒子を得る工程と、前記工程で得た予備発泡粒子を成型キャビティ内に充填して型内発泡成形する工程と、を備える発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、揮発性有機成分の含有量が低減された発泡性スチレン系樹脂粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子は、スチレン系樹脂100重量部に対して、水0.01〜5重量部、熱安定剤0.05〜0.6重量部を押出機で溶融混練した後、揮発性有機成分を押出機内から真空度−0.08MPaG以下、溶融部のシリンダ温度200℃〜250℃の条件で吸引処理し、小孔を有するダイスを通じて押出した後カッターで切断して製造したスチレン系樹脂粒子を、水中に懸濁させ、温度100℃〜120℃で、発泡剤を、該スチレン系樹脂粒子に含浸させて製造することを特徴とする発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法である。
【0011】
ここで、発泡性スチレン系樹脂粒子中の主な揮発性有機成分は、スチレンとエチルベンゼンである。スチレンは、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造工程に含まれる重合反応における重合条件、重合開始剤の選択により、低減することができるが、エチルベンゼンは、重合反応に寄与しないために、スチレン樹脂中のエチルベンゼン量が、そのまま、発泡性スチレン系樹脂粒子に残存してしまう。このように、発泡性スチレン系樹脂粒子中のエチルベンゼン量は、スチレン樹脂中のエチルベンゼン量に依存する傾向にあり、重合法により、VOC成分量(特に、スチレン量)の低減した発泡性スチレン系樹脂粒子を得ることは難しい。又、市販されているスチレン系樹脂中には、エチルベンゼンとスチレンの合計量が200ppmを超えるものが多く、エチルベンゼンとスチレンを200ppm以下に低減することは難しい。
【0012】
このように、エチルベンゼンとスチレンの揮発性有機成分量が200ppm以下になるような発泡性スチレン系樹脂粒子が得られていないのが現状である。
本発明で用いられるスチレン系樹脂はスチレン単独重合体(ポリスチレンホモポリマー)のみならず、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレンと共重合可能な他の単量体またはその誘導体が共重合されていてもよい。一般に、これらのスチレン系樹脂中のVOC成分(スチレン+エチルベンゼン)量は、200ppmを超えている。
【0013】
スチレンと共重合可能な他の単量体またはその誘導体としては、例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのスチレン誘導体;ジビニルベンゼンなどの多官能性ビニル化合物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物;ブダジエンなどのジエン系化合物またはその誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−4−ジフェニルマレイミド、N−2−クロロフェニルマレイミド、N−4−ブロモフェニルマレイミド、N−1−ナフチルマレイミドなどのN−アルキル置換マレイミド化合物、などがあげられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0014】
本発明で用いられるスチレン系樹脂は、前記スチレン単独重合体、および/または、スチレンと共重合可能な他の単量体またはその誘導体との共重合体に限らず、本発明の効果を損なわない範囲で、前記他の単量体又は誘導体の単独重合体又は共重合体とのブレンド物であってもよく、例えば、ジエン系ゴム強化ポリスチレン、アクリル系ゴム強化ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル系樹脂、等をブレンドすることもできる。
【0015】
本発明で用いられるスチレン系樹脂の中では、比較的安価で、特殊な方法を用いずに低圧の水蒸気等で発泡成形ができ、断熱性、難燃性、緩衝性のバランスに優れることから、ポリスチレンホモポリマー、スチレンーアクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
【0016】
本発明で用いられる水は、押出機内で溶融されたスチレン系樹脂と混練することで、有機揮発性成分を、効率よく押出機内から吸引除去することができる。水の働きは、VOC成分(エチルベンゼン、スチレン)と水との混合によって、極小共沸点を有し水の沸点(100℃)より低い温度で沸騰するため、溶融したスチレン系樹脂中のVOC成分を効率よく除去することができる。
【0017】
本発明における水の添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上3重量部以下であることがより好ましい。水の添加量が0.01重量部未満の場合、共沸の効果が少なく、VOC成分量を低減することができなく、水の添加量が5重量部を超えると、押出機の圧力変動が大きくなり、小孔を有するダイスを通じて押出したストランドが不安定となり、ストランド切れの多発、樹脂粒子の重量バラツキが大きくなる。
【0018】
本発明で用いられる熱安定剤(以下、安定剤と記載することもある)は、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤,ラクトン系安定剤、ベンゾトリアゾール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、などである。
【0019】
具体的な安定剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)−ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系安定剤、
デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4− ピペリジニル)、デカン二酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ−4−ピペリジニル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートなどの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、または4−ヒドロキシ−1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピレリジンの脂肪族または芳香族カルボン酸エステルであるヒンダードアミン系安定剤、
エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系安定剤、などが挙げられる。
【0020】
これらは、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。これらのうちでも、特に、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)−ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系安定剤および、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4− ピペリジニル)、デカン二酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ−4−ピペリジニル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートなどのヒンダードアミン系安定剤を併用することが、発泡体の難燃性能を低下させることなく、且つ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好ましい。
【0021】
本発明における上記安定剤の含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、リン系安定剤では、0.025〜0.3重量部が好ましく、かつ、ヒンダードアミン系安定剤では、0.025〜0.3重量部が好ましく、併用する場合は安定剤量の総量が、0.05重量部〜0.6重量部が好ましい。
【0022】
熱安定剤の総量が0.05重量部未満の場合、押出機中でスチレン系樹脂の分解が起こり、スチレン量が増加し好ましくなく、熱安定剤が0.6重量部を超えると、スチレン系樹脂の分解を抑制することができるが、高コストになることに加え、安定剤によるポリスチレン系樹脂の可塑化効果により、発泡成形体の強度が弱くなる傾向がある。
【0023】
本発明では、必要に応じて、難燃剤、加工助剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有させることができる。特に、建材や自動車市場においては、難燃性は、重要な特性である。
【0024】
難燃剤の具体的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、クロロペンタブロモシクロヘキサンなどのハロゲン化脂環化合物;ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、2,3−ジブロモプロピルペンタブロモフェニルエーテル、ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ペンタブロモベンジルアクリレート、トリブロモフェニルアリルエーテルなどのハロゲン化芳香族化合物あるいはその誘導体;テトラブロモビスフェノール−A、テトラブロモビスフェノール−S、テトラブロモビスフェノール−F、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ジアリルエーテル、テトラブロモビスフェノール−S−ジアリルエーテル、テトラブロモビスフェノール−F−ジアリルエーテル、などの臭素化ビスフェノール類およびその誘導体、臭素化スチレン、臭素化ブタジエン・ビニル芳香族共重合体、臭素化ノボラック樹脂アリルエーテル、臭素化ポリ(1,3−シクロアルカジエン)及び臭素化ポリ(4−ビニルフェノールアリルエーテル)等の臭素化ポリマーがあげられる。これらの物質は、単体で用いても、2種以上の混合物として用いても良い。
【0025】
加工助剤の具体例として、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、流動パラフィンなどがあげられる。
【0026】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法は、(1)吸引脱気口を付帯している押出機を用いて、スチレン系樹脂と前記の配合剤とを溶融混練したのち粒子状に切断して樹脂粒子を得る押出工程と、(2)押出工程で得られた樹脂粒子を、水中に懸濁させ、温度100℃〜120℃で、発泡剤を、該スチレン系樹脂粒子に含浸する発泡性スチレン性樹脂粒子を得る発泡剤含浸工程に、区別することができる。
【0027】
(1)押出工程
本発明の製造方法で用いられる吸引脱気口を付帯している押出機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。
本発明の製造方法における押出機の溶融部でのシリンダ温度は、スチレン系樹脂が溶融する温度であればよく、200℃以上250℃以下であることが好ましい。スチレン系樹脂および各種配合物を供給してから溶融混錬終了までの押出機内滞留時間が7分以下であることが好ましい。200℃より低い場合は、押出機の負荷が大きくなって押出が不安定になったり、添加する材料の分散性が悪化したりする場合がある。一方、250℃を越える場合、および/または、融混錬終了までの押出機内滞留時間が7分より長い場合には、スチレン系樹脂自体の分解、あるいは難燃剤自体の分解が起こる場合がある。
【0028】
水の添加は、単軸あるいは二軸スクリューを有する押出機の原料フィード部以降のシリンダよりダイス側の箇所より、圧入ポンプを用いて圧入することが、所定量が添加されることから好ましい。スチレン系樹脂に水をブレンダーで予め混合した樹脂組成物を、押出機へ投入すると、押出機の原料供給が不安定となり、ストランド切れ等が発生し、粒重量がそろったスチレン系樹脂粒子が得られない傾向がある。
【0029】
吸引脱気口は、水の圧入部分よりダイス側の箇所に設け、押出機中に1ヶ所以上が設けることが好ましい。更に、スチレン系樹脂が溶融混練している箇所に、吸引脱気口を設置することが好ましい。溶融混練していない箇所に吸引口を設けると、配合剤の粉末が吸引脱気口から、飛散してしまうことがある。
【0030】
吸引脱気する真空度は、低いほどVOC成分を除去することができるが、―0.08MPaG以下が好ましく、VOC成分を効率よく、吸引除去される。下限値を記載するなら、−1.0MPaGである。−1.0MPaGより低くなると、装置負荷の観点から好ましくない。すなわち、−1.0MPaから―0.08MPaGの範囲が好ましい。―0.08MPaGより高いと、VOC成分量の吸引除去量が少なくなる。
【0031】
本発明の製造方法においては、押出機内で溶融混練された溶融樹脂を、押出機先端に取り付けたダイスを通じて得られるストランドを10℃以上40℃以下の水槽にて冷却し、回転カッターによりストランドを切断し、粒重量0.3mg〜1.0mgのスチレン系樹脂粒子を得る。ダイスにおける小孔の直径は、0.2mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。又、アンダーウォーターカットのように、スチレン系樹脂粒子を造粒する方法も差し支えない。
【0032】
(2)発泡剤含浸工程
攪拌翼付き耐圧容器を用いて、押出工程で得られたスチレン系樹脂粒子を、分散剤とともに水中に懸濁させる。分散剤としては、一般的に用いられている分散剤、例えば、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウムなどの難水溶性無機塩が挙げられる。これら、難水溶性無機塩を用いる場合には、α−オレフィンスルフォン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダなどのアニオン性界面活性剤を併用すると、分散安定性が増すので効果的である。
【0033】
次いで、懸濁液中に、発泡剤を添加する。本発明で使用する発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、ネオペンタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上が使用される。使用量としてはスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、好ましくは2重量部以上10重量部以下、更に好ましくは4重量部以上8重量部以下である。
【0034】
発泡剤を添加した後、重合系内の温度を100℃以上120℃以下、好ましくは、110℃以上120℃以下に上昇させ、一定時間、発泡剤を樹脂粒子中に含浸させる。含浸温度100℃未満の場合、樹脂粒子への発泡剤の含浸度合が悪く、発泡粒子のセル構造が不均一となり、得られる発泡成形体表面にクボミ等の外観を損ねることになる。一方、120℃を超えると、発泡剤の含浸は良くなるが、重合機の内圧が高くなり、重装備の耐圧を有する重合機仕様が必要となる場合がある。発泡剤含浸の所定時間が終了したら、重合温度を冷却、乾燥を経て、発泡性スチレン系樹脂粒子が得られる。
【0035】
発泡性スチレン系樹脂粒子中のVOC量(スチレンとエチルベンゼンの合計)の上限値は、200ppm以下である。下限は、実用的には0ppmになり難いので敢えて表示するなら1ppm以上である。
【0036】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子は、一般的な予備発泡方法によって、予備発泡粒子とすることができる。具体的には攪拌機を具備した容器内に入れ水蒸気等の熱源により加熱することで、所望の発泡倍率までに予備発泡を行う。
【0037】
更に予備発泡粒子は、一般的な型内成形方法によって成形し、発泡成形体にすることができる。具体的には、閉鎖し得るが密閉しえない金型内に充填し、水蒸気により加熱融着することで発泡成形体とする。
発泡成形体中のVOC量は、発泡性スチレン系樹脂粒子中のVOC量より多くなることはないため、VOC含有量が200ppm以下の発泡性スチレン系樹脂粒子を用いることで、200ppm以下の低VOCが要求される建材や自動車内装材等の発泡成形体を製造することができる。但し、当該発泡成形体を、VOC量が多い発泡成形体と混在して保管していると、放散したVOCを当該発泡成形体中に吸収し、200ppmを超えることがあるので、注意が必要である。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例の評価は下記の方法で行なった。
【0039】
(スチレン、エチルベンゼンの測定)
サンプルを、塩化メチレン(内部標準シクロペンタノール)に溶解し、(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−2014(キャピラリーカラム:GLサイエンス製Rtx−1、カラム温度条件:50→80℃(3℃/min)後、80→180℃昇温(10℃/min)、キャリアガス:ヘリウム)を用いて、スチレン系樹脂粒子、発泡性スチレン系樹脂粒子、発泡成形体中に含まれるスチレンとエチルベンゼン量(ppm)を定量した。
【0040】
(押出安定性)
押出工程において、押出時の圧力変動なく、ダイスを通じて得られるストランドを安定的に引き取れたものについては○、そうでないものについては×とした。
【0041】
(揮発分)
発泡性スチレン系樹脂粒子を、オーブン150℃、30分間で熱処理し、減量分を測定した。
【0042】
(発泡粒子のセルの均一性)
発泡粒子をカッターで切断し、発泡粒子の表層部と中央部のセル構造を観察した。表層部と中央部のセル弦長がほぼ同じであれば、均一とみなし○とし、セル弦長が異なる場合は、不均一とし、×とした。
【0043】
実施例および比較例においては、以下の原材料を用いた。
<スチレン系樹脂>
(A1)スチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]
(A2)スチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G0002]
(A3)スチレン系樹脂[東洋スチレン(株)製、HRM52N]
スチレン系樹脂中のVOC量を、表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
<熱安定剤>
(B1)ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)−ペンタエリスリトールジホスファイト[(株)ADEKA製、アデカスタブPEP−36]
(B2)テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート[(株)ADEKA製、アデカスタブLA−57]
<難燃剤>
(C1)テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル[第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−130]
<発泡剤>
(D1)ブタン[ノルマル/イソ=70/30比率の混合ブタン 岩谷産業(株)製]
【0046】
(実施例1)
[スチレン系樹脂粒子の作製]
スチレン系樹脂(A1)100重量部に対して、熱安定剤(B1)を0.15重量部、難燃剤(C1)4重量部をブレンダーに投入して、10分間ブレンドして、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、二軸押出機(TEM−26SX、東芝(株)製)へ供給し、押出機内で、溶融部のシリンダ温度240℃で、溶融混錬し、圧入ポンプで、水0.5重量部を圧入し、真空ポンプ(SW−25S、神港精機(株)製)を用いて、脱気吸引口より、真空度―0.09MPaGで、脱気した。押出機先端に取り付けられた直径1.4mmの小穴が20個設けられたダイスを通して吐出200kg/時間で押出されたストランド状の樹脂を20℃の水槽で冷却固化させた後、ストランドカッターで、粒重量1.0mgのスチレン系樹脂粒子を得た。このとき押出機先端部での樹脂の温度が248℃、押出機内滞留時間3分であった。
スチレン系樹脂粒子中のVOC量を、表2に示す。
【0047】
[発泡性スチレン系樹脂粒子の作製]
次いで, 容積が6L の撹拌装置付きオートクレーブに, 得られたスチレン系樹脂粒子100重量部に対して脱イオン水200重量部、リン酸三カルシウム1重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.03重量部、塩化ナトリウム1重量部 を投入し圧力容器を密閉した。その後、発泡剤としてブタン( ノルマルブタン70 % とイソブタン30 % の混合物)8重量部 を30分かけて圧力容器内に添加した後、120 ℃まで30分かけて昇温し、そのまま5時間保持した。保持後室温まで冷却し、オートクレーブから発泡剤の含浸された樹脂粒子を取り出し、塩酸での酸洗、水洗し、遠心分離機で脱水後、気流乾燥機で樹脂粒子表面に付着している水分を乾燥させ、発泡性スチレン系樹脂粒子を得た。発泡性スチレン系樹脂粒子中のVOC量を、表2に示す。
【0048】
[予備発泡粒子の作製]
得られた発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対してステアリン酸亜鉛0.1重量部をドライブレンドした後、予備発泡機[大開工業(株)製、BHP−300]に投入し、0.08MPaの水蒸気を予備発泡機に導入して発泡させ、発泡倍率40倍の予備発泡粒子を得た。
【0049】
[発泡成形体の作製]
得られた予備発泡粒子を、発泡スチロール用成形機[ダイセン工業(株)製、KR−57]に取り付けた型内成形用金型(400mm×300mm×厚み25mm)内に充填して、0.06MPaの水蒸気を導入し、直方体状のスチレン系発泡成形体を得、温度40℃の乾燥室で、1時間放置し、室温に取り出した。乾燥機から取り出した発泡成形体は、他の発泡体から放出されるVOCの吸収を防止するために、測定までの期間は、発泡成形体をアルミ箔、さらに、旭化成(株)製のサランラップ(登録商標)で包み、室温にて保管した。発泡成形体中のVOC量を、表2に示す。
(実施例2)
水量を1.0重量に変更した以外は、実施例1と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例3)
水量を2.0重量に変更した以外は、実施例1と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例4)
スチレン系樹脂を、(A2)に変更した以外は、実施例3同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例5)
スチレン系樹脂を、(A3)に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例6)
熱安定剤を、熱安定剤(B1)0.15重量部、(B2)0.05重量部の併用系とした以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例7)
熱安定剤を、熱安定剤(B1)0.3重量部、(B2)0.1重量部の併用系とした以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例8)
熱安定剤(B1)を、熱安定剤(B1)0.4重量部、(B2)0.2重量部の併用系とした以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例9)
難燃剤(C1)を無添加にした以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例10)
溶融部のシリンダ温度を、220℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例11)
発泡剤含浸温度を、115℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例12)
発泡剤含浸温度を、105℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(実施例13)
実施例1で作製した樹脂粒子を、実施例1の押出条件で、更に2回押出機に通し、樹脂粒子を作製した。その後、実施例1と同様の操作で、発泡性樹脂粒子を得た。表2に、評価結果を示す。
【0050】
(比較例1)
水無添加以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例2)
水無添加以外は、実施例4と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例3)
水無添加以外は、実施例5と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例4)
水量を6.0重量に変更した以外は、実施例1と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例5)
押出時の真空度を0MPaG(大気圧)に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例6)
押出時の真空度をー0.04MPaGに変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例7)
熱安定剤を無添加にした以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例8)
水無添加以外は、実施例9と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例9)
溶融部のシリンダ温度を、260℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例10)
発泡剤含浸温度を、98℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作をした。表2に、評価結果を示す。
(比較例11)
市販されているスチレン系発泡性樹脂粒子((株)カネカ製、LVF)を評価した。表2に、評価結果を示す。
【0051】
【表2】