特許第6971746号(P6971746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971746遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971746
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/10 20060101AFI20211111BHJP
   F01L 3/02 20060101ALI20211111BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20211111BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20211111BHJP
   F02B 77/11 20060101ALI20211111BHJP
   F16J 1/00 20060101ALI20211111BHJP
   F16J 10/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   F02F3/10 Z
   F01L3/02 J
   F02F1/24 M
   F02F1/00 F
   F02B77/11 A
   F02B77/11 D
   F16J1/00
   F16J10/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-187472(P2017-187472)
(22)【出願日】2017年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-60319(P2019-60319A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】津田 雄史
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 容始久
【審査官】 菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−175285(JP,A)
【文献】 特開2017−141716(JP,A)
【文献】 特開2013−087719(JP,A)
【文献】 再公表特許第2015/076317(JP,A1)
【文献】 実開昭60−075462(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0234216(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00,3/00
F01L 3/00
F02B 77/00
F16J 1/00,10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材において、
前記遮熱膜は、前記エンジン構成部材の粗面化された壁面の内部にシリコン系の無機中空微粒子が埋設された空気含有層からなり、
前記空気含有層において、前記壁面は多数の凹部を有し、前記凹部の内部に前記無機中空微粒子が埋め込まれていることを特徴とするエンジン構成部材。
【請求項2】
エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材の製造方法であって、
前記エンジン構成部材の壁面に対して粗面処理を施して該壁面に多数の凹部を形成する粗面処理工程と、
粗面化された前記エンジン構成部材の壁面にシリコン系の無機中空微粒子を衝突させて、該壁面の前記凹部の内部前記無機中空微粒子を埋め込む埋込工程と、
を含むことを特徴とするエンジン構成部材の製造方法。
【請求項3】
前記粗面処理において、前記エンジン構成部材は、壁面に機械的に力を加えることにより粗面化されることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記粗面処理は、前記エンジン構成部材に対する陽極酸化処理であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両のエンジンで、燃料が発生させる熱エネルギーによる仕事効率を向上させるために、エンジンにおける冷却損失を改善する対策がなされている。
【0003】
冷却損失を改善するための対策の一つとして、エンジンの燃焼室の壁面に、セラミックスからなる遮熱膜を形成するものが知られている。セラミックスは、一般に車両部材として用いられるアルミニウム等に比べて熱伝導率が低く、耐熱性を有することから、燃焼室の壁面を遮熱化する効果がある。
【0004】
しかしながら、セラミックスは一般に単位質量あたりの熱容量が高い(すなわち、高比熱である)ことから、セラミックスの遮熱膜を有するエンジンにおいては、エンジンの継続稼働により、定常的に燃焼室の壁面温度が上昇する。その結果、エンジンの吸気効率が低下したり、燃料室内の温度上昇による異常燃焼によりノッキングが発生したりするという問題がある。
【0005】
この問題を解消するために、遮熱膜は、耐熱性があり、低熱伝導率であって、さらに単位質量あたりの熱容量が低い(すなわち、低比熱である)ことを要する。低熱伝導率かつ低比熱である最適な材料としては空気を挙げることができる。空気を遮熱膜に取り込む構造として、例えば、特許文献1には、エンジン燃焼室を構成するエンジン構成部品の壁面に、遮熱膜として、アルミニウムから成長する陽極酸化被膜であるアルマイト皮膜を形成したものが記載されている。
【0006】
アルマイト皮膜は、膜厚方向に延びる多数の孔を有しており、特許文献1に記載のエンジン構成部品は、アルマイト皮膜と、アルマイト皮膜に積層されてアルマイト皮膜の孔の上面を封止する封孔材層とからなる遮熱膜を有している。また、封孔材として、耐熱性を有するシリカを主成分とするポリシラザンやポリシロキサンを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−96634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の遮熱膜においては、アルマイト皮膜に形成された孔の内部に保有された空気により、低熱伝導率かつ低比熱を実現できるとともに、封孔材層によって、平均温度が最大で300℃近くなる高温のエンジン燃焼室に対し、耐熱性を確保することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の遮熱膜では、アルマイト皮膜に形成された多数の孔によって、遮熱膜の機械的な強度が低下してしまうという問題がある。
【0010】
エンジンの燃焼室内は、高温かつ高圧になることから、高圧状態に耐え得る高い機械的強度が必要となる。しかしながら、アルマイト皮膜は、膜厚方向に柱状に延びる多数の孔により機械的強度が脆いものとなり、シリカからなる封止材層による補強のみでは、長期使用においても十分に耐え得る程の高い機械的強度を確保することは困難であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低熱伝導率かつ低比熱であるとともに、耐熱性と機械的強度に優れた遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材において、前記遮熱膜は、前記エンジン構成部材の粗面化された壁面の内部にシリコン系の無機中空微粒子が埋設された空気含有層からなり、前記空気含有層において、前記壁面は多数の凹部を有し、前記凹部の内部に前記無機中空微粒子が埋め込まれていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、遮熱膜を構成している無機中空微粒子が内部に保有する空気により、熱伝導率が低く、かつ熱容量が低い遮熱膜とすることができる。また、無機中空微粒子は、エンジン構成部材の粗面化された壁面の内部に埋設された状態であるので、遮熱膜の機械的強度が保持される。また、空気を保有する中空微粒子は、高い耐熱性を有するシリコン系の無機材料で構成されているので、高温のエンジン燃焼室に対して耐熱性に優れている。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材の製造方法であって、前記エンジン構成部材の壁面に対して粗面処理を施して該壁面に多数の凹部を形成する粗面処理工程と、粗面化された前記エンジン構成部材の壁面にシリコン系の無機中空微粒子を衝突させて、該壁面の前記凹部の内部前記無機中空微粒子を埋め込む埋込工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、粗面処理工程において、エンジン構成部材の壁面は粗面化されて凹凸状となっているので、この粗面化された壁面に無機中空微粒子を衝突させることで、無機中空微粒子がエンジン構成部材の壁面の凹部に入り込みやすい。これにより、エンジン構成部材の壁面にシリコン系の無機中空微粒子が埋設された遮熱膜を形成することができる。この遮熱膜は、無機中空微粒子が内部に保有する空気により、熱伝導率が低く、かつ熱容量が低いものとなるので、エンジンの冷却損失を低減することができる。
【0016】
また、無機中空微粒子は、エンジン構成部材の壁面内部に埋設された状態であるので、遮熱膜の機械的強度が保持される。また、空気を保有する中空微粒子は、高い耐熱性を有するシリコン系の無機材料で構成されているので、高温のエンジン燃焼室に対して耐熱性に優れた遮熱膜とすることができる。
【0017】
また、本発明の一実施形態は、前記製造方法において、前記粗面処理において、前記エンジン構成部材は、壁面に機械的に力を加えることにより粗面化されることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、エンジン構成部材そのものの壁面に機械的な力を加えて粗面化しているので、エンジン構成部材が有する高い機械的強度及び耐熱性によって、遮熱膜の機械的強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の一実施形態は、前記製造方法において、前記粗面処理は、前記エンジン構成部材に対する陽極酸化処理であることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、エンジン構成部材に対して陽極酸化処理を施すことにより、多数の孔を有する陽極酸化皮膜をエンジン構成部材の表面に形成することができるので、埋込処理において、この陽極酸化皮膜の孔の内部に無機中空微粒子を埋め込むことにより、無機中空微粒子をエンジン構成部材の表面に保持させることができる。また、埋め込まれた無機中空微粒子により、遮熱膜を構成する陽極酸化皮膜の機械的強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコン系の無機中空微粒子がエンジン構成部材の壁面に埋設された遮熱膜を有しているので、遮熱膜の耐熱性と機械的強度とを確保しながら、無機中級粒子が保有する空気によって遮熱膜を低熱伝導率かつ低比熱とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材を用いたエンジン燃焼室構造を示す模式図。
図2】ピストンの壁面に形成された遮熱膜を示す断面図。
図3】遮熱膜の形成方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材について詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材を用いたエンジン燃焼室構造1を示す模式図である。図1のエンジン燃焼室構造1は、自動車等の車両のエンジンに適用される。
【0024】
エンジン燃焼室構造1は、エンジン燃焼室2を構成するエンジン構成部材である、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、ピストン14、点火プラグ16、吸気バルブ17、及び排気バルブ18を備える。
【0025】
シリンダブロック12は、エンジン燃焼室2を形成する円筒状のシリンダ11を有する。ピストン14は、略円柱状であって、シリンダ12の内部を摺動して往復移動可能に構成されている。
【0026】
シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上面を覆っており、シリンダ11の上面を覆う燃焼室天井部13aを有する。点火プラグ16、吸気バルブ17及び排気バルブ18は、シリンダヘッド13に取り付けられる。
【0027】
点火プラグ16は、端部に着火部となる電極部を有しており、この端部が燃焼室天井部13aからエンジン燃焼室2内へ突出するように取り付けられる。吸気バルブ17は、シリンダヘッド13に形成された吸気路13bを開閉可能に構成され、排気バルブ18は、シリンダヘッド13に形成された排気路13cを開閉可能に構成される。
【0028】
このエンジン燃焼室構造1では、シリンダ11、シリンダヘッド13の燃焼室天井部13a、ピストン14によって囲まれたエンジン燃焼室2に、吸気バルブ17の開弁により燃料が混合された混合ガスが供給され、点火プラグ16によって点火されることにより、燃焼される。この燃焼により、ピストン14が押し下げられる。燃焼により発生した排気ガスは、排気バルブ18が開弁されることによりエンジン燃焼室2外へ排気される。
【0029】
本実施の形態において、ピストン14、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ17及び排気バルブ18には、エンジン燃焼室2を構成する壁面に、断熱性の遮熱膜30を有している。具体的には、ピストン14の上面14aと、シリンダヘッド13の燃焼室天井部13aと、吸気バルブ17及び排気バルブ18のバルブヘッド17a,18aのエンジン燃焼室2側の表面とに、遮熱膜30が形成されている。なお、図示していないが、さらに、シリンダ11の内壁面11aに遮熱膜30を形成してもよい。
【0030】
図2は、ピストン14の壁面である上面14aに形成された遮熱膜30を示す断面図である。この遮熱膜30は、粗面化された上面14aの内部にシリコン系の無機中空微粒子が埋設された空気含有層からなる。
【0031】
エンジン構成部材であるピストン14は、金属材料で形成されており、本実施の形態では、アルミニウム合金で形成されている。
【0032】
ピストン上面14aに形成された遮熱膜30の膜厚は、約20〜200μmであって、好ましくは約50〜100μmである。遮熱膜30の気孔率は、多量の空気を保有しつつ強度を維持する観点から、約20〜90%の範囲であることが好ましく、より好ましくは約30〜80%である。
【0033】
無機中空微粒子40は、マイクロレベルの大きさを有し、シリコン系の無機材料(例えば、シリカ等のガラス材料)によって構成されている。無機中空微粒子40の大きさは、好ましくは直径が約5〜40μmであり、より好ましくは直径が約16〜20μmであって殻厚が約0.5〜2μmである。この無機中空微粒子40は、ピストンを構成する金属材料よりも高い耐熱性を有する。
【0034】
なお、図示例では、無機中空微粒子40が球状のものを示しているが、形状はこれに限られず、中空であって内部に空気を保有できる形状であればよい。また、大きさの異なる無機中空微粒子40が混在した構造であってもよい。
【0035】
無機中空微粒子40は、形状変化を生じる軟化温度が、エンジン構成部材を構成する金属材料の融点と同等かそれよりも高いものを用いることが好ましい。本実施の形態の無機中空微粒子40は、軟化温度がピストン14を構成するアルミニウム合金の融点(660℃)と同等のガラス材料により構成されている。
【0036】
次に、上述した遮熱膜30を有するエンジン構成部材の製造方法について説明する。ここでは、製造方法の一例として、エンジン構成部材であるピストン14の上面14aに遮熱膜30を形成する方法を説明する。なお、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ17及び排気バルブ18についても、以下に説明する方法と同様の方法により壁面に遮熱膜30を形成することができる。
【0037】
まず、図3(a)及び(b)に示すように、平坦なピストン14の上面14aに対して粗面処理を施し、上面14aにマイクロレベルの凹凸を形成する(粗面処理工程)。粗面処理としては、例えば、上面14aに対して研磨材を吹き付けるサンドブラスト等のブラスト加工、機械加工、レーザ照射などによって上面14aに対して機械的に力を加えて粗面化させることができる。また、他の粗面処理として、化学薬品を用いたエッチングや上面14aに対してアルマイト処理(陽極酸化処理)を施したりすることで粗面化させることができる。本実施の形態では、機械的な力により上面14aを粗面化している。
【0038】
この粗面処理により、ピストン上面14aに多数の凹部32が形成される。凹部32は、無機中空微粒子40の埋込みが許容されるように、無機中空微粒子40の大きさと同程度の内部空間を有する。図3(b)に示す例では、無機中空微粒子40の直径と同程度の深さを有する凹部32を形成しており、凹部32の口径は無機中空微粒子40の直径よりも僅かに小さく、最大穴径は無機中空微粒子40の直径よりも僅かに大きくなっている。いる。
【0039】
次に、図3(c)に示すように、粗面化されたピストン上面14aに無機中空微粒子40を衝突させて、上面14aに形成された凹部32の内部に無機中空微粒子40を埋め込む(埋込工程)。
【0040】
無機中空微粒子40の上面14aに対する衝突・埋込は、例えば、粒状物からなる無数の投射材を高速で金属表面に投射するショットピーニング装置を用いて行うことができる。このショットピーニング装置において、無機中空微粒子40は投射材として用いられ、上面14aに高速で投射されることにより、一部が凹部32に入り込んで埋設状態となる。また、凹部32の深さが無機中空微粒子40の大きさと同程度であるため、一つの凹部32に一つの無機中空微粒子40が入り込めるようになっている。
【0041】
本実施の形態の埋込工程では、無機中空微粒子40がピストン上面14aに衝突した際に、衝突エネルギーにより上昇した上面14aの温度が、ピストン14を構成するアルミニウム合金の融点を超える投射速度で、無機中空微粒子40を衝突させている。これにより、無機劉空微粒子40が衝突した際にピストン上面14aが溶けて、無機中空微粒子40の表面に付着させることができ、その結果、無機中空微粒子40がピストン上面14aの内部に強固に保持される。なお、投射速度は、これに限られず、衝突の際に上面14aの温度が融点以下となるような速度であってもよく、無機中空微粒子40が高い投射速度で衝突することにより凹部32に埋め込み可能であればよい。
【0042】
なお、埋設された無機中空微粒子40は、表面の一部がピストン上面14aから露出した状態であってもよいが、衝突時に溶けたアルミニウム合金によって表面がコーティングされることが好ましい。
【0043】
このように、粗面処理工程、埋込工程を経て無機中空微粒子40をピストン上面14aに埋設することにより、ピストン14の上面14aには、空気含有層である遮熱膜30が形成される。
【0044】
上述した製造方法では、エンジン構成部材であるピストン14の上面14aに粗面処理を行って上面14aに多数の凹部32を形成しているので、埋込工程において、この粗面化された壁面に無機中空微粒子40を衝突させることにより、無機中空微粒子40を凹部32に埋め込むことができる。また、無機中空微粒子40が高速で壁面に衝突させて、この上面14aを変形させることにより、無機中空微粒子40はピストン上面14aの内部に強固に保持されることになる。また、無機中空微粒子40を衝突させた際のエネルギーにより粗面化されたピストン上面14aを溶融させて、無機中空微粒子40を埋め込むことで、無機中空微粒子40の保持強度がより高いものとなる。
【0045】
また、上述した遮熱膜を有するピストン14は、上面14aに埋設された無機中空微粒子40が保有する空気により、熱伝導率が低く、かつ熱容量が低い遮熱膜30を有するものとなる。また、無機中空微粒子40は、高い耐熱性を有するシリコン系の無機材料で構成されているので、高温になるエンジン燃焼室2に対して耐熱性に優れた遮熱膜30とすることができる。また、無機中空微粒子40は、ピストン14の上面14aの内部に埋設された状態にあるので、遮熱膜30の機械的強度を保持することができる。
【0046】
なお、粗面処理工程において、穴径や深さが異なる複数の凹部32を設け、埋込工程において、直径の異なる多数の無機中空微粒子40を投射する構成としてもよい。これにより、直径の小さい無機中空微粒子40を内部空間の小さい凹部32に埋め込み、直径の大きい無機中空微粒子40を内部空間の大きい凹部32に埋め込むことが可能となり、粗面処理における凹部32の形成精度の許容範囲を緩めながら、無機中空微粒子40を確実に凹部32に埋め込むことができる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、エンジン構成部材であるピストン14の上面14aの全域に遮熱膜30を形成しているが、遮熱膜30は上面14aの一部領域にのみ形成されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン燃焼室構造
11 シリンダ
12 シリンダブロック
13 シリンダヘッド
14 ピストン
14a ピストン上面
17 吸気バルブ
18 排気バルブ
30 遮熱膜
32 凹部
40 無機中空微粒子
図1
図2
図3